2016年11月27日

日本でいちばん大切にしたい会社2 今度は亀田総合病院など



全部で5巻発行されている「日本でいちばん大切にしたい会社」シリーズの第2巻。

第1巻では、このブログで紹介した知的障がい者が社員の7割を占め、ホタテ貝殻を使って粉の出ないチョークをつくっている日本理化学工業などが紹介されている。



今度は次の8社が紹介されている。

1.株式会社富士メガネ(北海道)
「困っている人を助けたい」―世界の難民や中国残留孤児に「視力」を贈る感動のメガネ店

松下幸之助や司馬遼太郎が愛用したメガネをつくったことでも有名な株式会社富士メガネは、世界の難民や残留孤児にメガネを贈る活動をしている

日本で初めてUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)より「ナンセン難民賞」も受賞している。

2.医療法人鉄蕉会亀田総合病院(千葉県)
「もう一度入院したい」と患者が言う病院のモットーは「Always say YES!」

先祖は江戸時代に長崎でシーボルトに西洋医学を学んだという亀田家が運営する総合病院

浅田次郎の「天国までの100マイル」のモデルにもなっている。




千葉県の鴨川市にある亀田総合病院は、最先端の設備と優秀かつ熱心なスタッフによるサービスだ。

その象徴がホテルのような病院・Kタワーで、この最上階に霊安室があるという。

1280px-Kameda_Medical_Center_01






















出典:Wikipedia

このカラフルで奇抜なつくりの建物は、鴨川に行くと遠くからもよく見える。

亀田総合病院のモットーは、"Always say YES!"だという。このブログで紹介したリッツ・カールトンのサービスのようだ。


3.株式会社埼玉種畜牧場「サイボクハム」(埼玉県)
「日本人の食糧不足をなんとかしよう」―使命感に燃えて牧場を経営、「農業のディズニーランド」を実現する

元陸軍・獣医の笹崎龍雄さんが埼玉県で1946年に創業したサイボクハムは、日本の食糧自給率を上げることを使命としていた。

サイボクハムのウェブサイトには、創業者の笹崎さんの「求道豚心」という小冊子がeブック形式で読めるようになっている

本社・工場には、ミニゴルフ場、アスレティック、レストラン、売店、温泉館、子豚とふれあえるトントンハウスなどが併設されていて、買い物とレジャーが同時に楽しめるような施設となっている。


4.株式会社アールエフ(長野県)
「小さな命をもっと救いたい」―世界が驚くカプセル内視鏡を開発。「人間の幸せ」を追い求める中小企業

小型のCTや、バッテリー不要のカプセル内視鏡を開発・販売している会社。

カプセル内視鏡は、社員の投票で、「Sayaka」という名前にしたという。初代の製品名は「Norika」だった。

社員食堂では、昼食は「くじ引きランチ」という形にして、くじ引きで昼食の時に座る席を決定し、社員同士のコミュニケーションを促進している。

女性活用にも積極的で、社員175名のうち、女性は1/3だが、部長職は2/3が女性で、課長以上の管理職は半分が女性だ。

病院向けの営業は訪問営業せずに、東京、名古屋、大阪、福岡に巨大なショールームのような店舗を置いて、ソファーやゆったりできる応接セット、子供の遊び場も用意されており、医師が子供連れでも、自由に訪問できるように配慮されている。

店舗にはアールエフの商品が展示してあり、実際に動かすことができるようになっている。

5.株式会社樹研工業(愛知県)
社員は先着順で採用。給料は「年齢序列」の不思議な会社

プラスティックの射出成形の会社。自社の技術力の高さを示すために、世界一小さな歯車などマイクロ成形品を製造している。

この会社には出勤簿もタイムレコーダーもなく、社員の採用は先着順だという。給料は「年齢序列」、最高齢の社員が最高給だという。

定年はなく、辞めたい時が定年の時としている。社員からは、「私が定年になったときは、子供を入れてほしい」と言われているという。


6.未来工業株式会社(岐阜県)
「日本でいちばん休みの多い会社」だから、不況知らずの会社になれる

この会社は現在採用募集はしていないようだが、会社のウェブサイトの採用ページに「社員への考え方」が述べられている。

「『社員への考え方』

 当社は、社員の「やる木」を育てることを経営の柱にしています。

 一日の大半を過ごす会社で、何から何までがんじがらめでは、社員はそんな会社のために努力しようという気が起きてくるはずもありません。

 そのため、当社は、外せる制約はできるだけ外そうと考えています。

 具体的には、作業服は自由にしました。1日の労働時間は7時間15分、年間休日日数は約140日という日本有数の休みが多い会社です。

 ところで、個人の能力はまちまちです。個々人の能力に差があるのは仕方ないことですが、各々が持っている能力を100%発揮して、皆が力を合わせていくことが大切だと考えています。

 また、社員はプラス思考をすることが大切だと考えています。経験則もないのに「もしも?・・・」というマイナス思考は禁句です。先ず、実行し、その先で万一問題点が発生した時にはその改善をする考え方が、会社発展の基本線です。

 そして、何よりも、社員の自主性を尊重します。」

という具合だ。この会社では残業すると、罰金を徴収するという。


7.ネッツトヨタ南国株式会社(高知県)
全盲の方と行く四国巡礼の旅で、人の本当のやさしさを学んでもらう

トヨタディーラーの顧客満足度で全国NO.1を続ける高知県にあるトヨタ車ディーラー。ショールームはホテルのラウンジのような雰囲気だという。

全車種試乗可能で、試乗期間は、2日間48時間だ。

2回目に訪問したお客は、入口の出迎えスタッフから「〇〇様、こんにちは」と名前を呼びかけられるという。

店の外にいるスタッフが入店してくる車のナンバーを読み上げ、それを別のスタッフがパソコン画面に入力すると、顧客の情報がわかるシステムを全社員が活用しているからだ。

まるで、このブログで紹介した「リッツ・カールトンで学んだ仕事でいちばん大事なこと」のリッツ・カールトンのドアマンとフロントの連携サービスのようだ。



顧客の名前や住所のほか、何回目の来社か、前回は誰と来たのか、どこへ座ったか、どんな飲み物を注文したのか、コーヒーに砂糖を何個入れたか、ミルクを入れたか、どんな新聞や雑誌を読んだかなどを、詳細に記録するという。


8.株式会社沖縄教育出版(沖縄県)
本当に世の中に役立つ事業をしたい。一人ひとりの命が輝く会社になりたい

「障がい者を受給者から納税者へ」、というモットーで、障がい者を積極的に活用している沖縄の会社。教育出版という社名だが、物品販売なども手掛けている。


第1巻は、感動を呼ぶストーリーが多かったが、この第2巻は、どちらかというとサービスが優れた会社や、社員扱いが優れた会社を取り上げている。第1巻を読んでから、次に進むとよいだろう。


参考になったら、投票ボタンをクリック願いたい。


  

Posted by yaori at 20:17Comments(0)TrackBack(0)趣味・生活に役立つ情報 | ビジネス

2016年11月20日

日本核武装計画 トランプ発言で勢いを得るか?田母神さんの日本核武装20年計画



トランプ次期米大統領が選挙運動期間中に、北朝鮮の核に対抗するために、日本も韓国も核武装したらよいという発言をしていることが、マスコミでも取り上げられている。



「富士山噴火」などのクライシス小説を得意とする高嶋哲夫さんの「日本核武装」という小説も売れている。

日本核武装
高嶋 哲夫
幻冬舎
2016-09-23


同じような題名だが、元自衛隊幕僚長の田母神さんの「日本核武装論」を読んでみた。

田母神さんの本は、以前「座して平和は守れず」という本のあらすじを紹介している



この本ではあまり参考になるデータ等は紹介されていない。

たとえば、世界の核保有国のリストはあるが、保有核弾頭数は記載なく、どこがどれだけ核弾頭をもっているのかわからないので、この辺りはこのブログで紹介している元陸将補の矢野義昭さんの「核の脅威と無防備国家日本」という本のあらすじもあわせて参照願いたい。



田母神さんは日本の工業技術をもってすれば、核爆弾製造など簡単にできるだろうという前提でこの本を書いているので、本当に日本でも核爆弾ができるのかどうかは、このブログで紹介している「日本は原子爆弾をつくれるのか」のあらすじも参照願いたい。



筆者はこの本を読んで、田母神さんは、太平洋戦争に突入していった旧陸軍軍部のような発想の人だと感じた。

すべてが楽観的な見通しに基づいて議論しており、特に日本がNPT(核拡散防止条約)から撤退して核爆弾を製造し始めたら、当然予想される世界中からの制裁(当然エネルギーと食料の供給がストップすることだってありうる)にどのようにして耐えていくのかというロジスティックスを全く考えていない。

上記で紹介した「核の脅威と無防備国家日本」も同様の内容の本で、どちらもスキだらけで、突っ込みどころがありすぎる。

田母神さんの主張は、この本の「はじめに」で明らかにされている。要約すると:

「バブル崩壊以降の日本経済はひどいものだった。アメリカがもくろんだ通り、日本は弱体化し、世界一と言われた日本経済は海の底に沈んだ。

こんなことになった根本的原因は、日本がアメリカに守ってもらい、アメリカに依存して生きてきたからということに行きつく。

日本の政治家に日本派はほとんどいない。いるのはアメリカ派と中国派だけだ。しかし、日本人もバカではない。数少ない日本派の政治家の安倍晋三を総理に据え、ようやく踏ん張りを見せ始めた。

その一歩がアベノミクスだが、これだけでは不十分だ。憲法改正、自衛隊の国防軍化、自主防衛体制の確立が不可欠だ。

そもそも自分の国を自分で守れない国は、世界では独立国の扱いをされない。いくら経済が強くても、一流国とは絶対に認められない。だから、まずは自主防衛。そして核武装なのだ。

『世界中の国が願わくば核武装したいと思っている』『核武装をすれば国はより安全になる』と言っても、ピンとこない人が多いのがこの日本である。」


というぐあいだ。

「なんちゃってなか見!検索」で、目次を紹介しておく。目次を読むだけで、この本の内容が推測できるだろう。

はじめに 今こそ「核武装」の議論を

第1章 力なき正義は無能である

・アメリカの「正義」とはアメリカの「国益」である
・敗戦で吹っ飛んだ日本の正義
・領土問題でも無視される日本の正義
・力があるから正義が通る
・国連が国のエゴを抑え込めない理由
・国連常任理事国だけが持つ核の特権
・イスラエルとイランへの対応はなぜ違う?
・核廃絶を訴える人が核保有国を喜ばせている
・国際政治は子供の世界と同じである

第2章 抑止力としての「核武装」を日本に
・核武装で日本は安全になる
・広島・長崎から始まった核兵器の時代
・広島・長崎以降、核は一度も使われていない
・北朝鮮やイランが持っても核は二度と使われない
・核兵器は戦力の均衡を必要としない
・核の登場で世界は安全になった
・「核兵器が亡くなれば平和になる」の嘘

第3章 核武装国が言う「核廃絶」に騙されるな
・核武装国の本音
・日本のリーダーたちはなぜ騙されるのか
・発言力は軍事力と経済力で決まる
・憲法改正がなぜ必要なのか
・冷戦終結後、アメリカの日本弱体化計画が始まった
・アメリカに守ってもらっている限り、経済も良くならない

第4章 「核武装」の言論統制に怯むな
・核武装を考えていた日本の首相たち
・非核武装には外務省も反対だった
・「核の傘」と引き換えに宣言された「非核三原則」
・そして核武装論は復活した
・唯一の被爆国には核武装する権利がある
・「核武装で日本は孤立する」の嘘
・できない理由ばかり並べる人たち
・核アレルギー拡大に利用された原発事故
・「日本も核を持て」とアメリカが言っても反対するのか?

第5章 日本が核武装国なら「尖閣問題」は起こらなかった
・国際法で中国船を排除できない日本
・「太平洋をアメリカと2分したい」と言った中国
・「アメリカが永久に日本を守ってくれる」という幻想
・アメリカの「核の傘」がなくなったら…
・核武装すれば中国は尖閣に近寄れない
・現在でも「日本は核を絶対に使いません」とは言えない

第6章 世界平和は「核武装」によって保たれる
・「生活が豊かになれば戦争はなくなる」の嘘
・軍事バランスの均衡が戦争を抑止してきた
・経済力に見合った軍事力を持たないとその地域は不安定になる
・日本が核武装していれば拉致問題も起こらなかった

第7章 核武装国にならなければ一流国になれない
・アンバランスな日本の経済力と発言力
・自分の国を自分で守れない国は常任理事国になれない
・核武装は一流国の条件である
・相手の嫌がることをするのが外交である
・核武装国となれば日本と仲良くなろうとする国が増える

第8章 日本核武装20年計画 前編 武器輸出解禁〜非核三原則見直し
・核武装20年計画で日本に鉄壁の守りを
・核武装20年計画その1−武器輸出の解禁 ひそかに武器をつくって国産体制に切り替えよ
・核武装20年計画その2−国民の意識改革
・核武装20年計画その3−憲法改正
・核武装20年計画その4−非核三原則の見直し

第9章 日本核武装20年計画 後編 レンタル核〜核実験
・核武装20年計画その5−核兵器の貸与を要求
・核武装20年計画その6−ニュークリア・シェアリングの実施
・核武装20年計画その7−核開発の意思表明
・核武装20年計画その8−NPT脱退
・核武装20年計画その9−核開発の実行
・核武装20年計画その10−核実験

筆者が冒頭に書いたNPT条約から脱退した場合の制裁については、田母神さんは次のように述べている。

「インドやパキスタンの場合はアメリカが制裁を呼びかけ、日本などが同調したが、それはあくまでもインド、パキスタンの場合だ。日本とアメリカは同盟国であり、日本はアメリカに黙っていきなり脱退をするわけではないのだ。

核武装の意思をアメリカに話した段階で、もしアメリカが絶対反対と言い、それでも日本が核武装を行う場合は、その時点で日米安保を破棄するなりして同盟関係も壊れる可能性が高い。そうなったらアメリカも日本いじめに走るかもしれないが、そうならないように事前の説得を行うわけである。

そして、インドやパキスタンの例を見ればわかるように、たとえアメリカを中心とした国際社会の非難を浴びたとしても、それは核を保有するまでの話で、持ってしまったらその国を無視することなど結局はできないのだ。

アメリカは中国と組んで日本の孤立化を匂わせながら、日本が核保有を断念するように仕組んでくるかもしれない。こうなると国内でも、アメリカに見捨てられて日本は生きていけるのか」といった弱気な世論が出始め、政府もおろおろするというのがよくあるパターンだ。だが、核武装に踏み切る以上、アメリカの意地悪というのは初めから織り込み済みにしておかなければだめだ。

そうなってもいいように自主防衛の体制を築いておくわけで、そもそも核武装するのはアメリカに依存しない本当の意味での独立国の体制をつくるためなのだから、「アメリカに見捨てられては困る」というのは本末転倒なのである。

だいたい、インドやパキスタンを見捨てなかったアメリカが、「核武装するなら日本とは縁を切る」などと脅しで言うことはあっても、本気でいうことはないはずだ。

中略

アメリカは日本に防波堤の役割を担ってもらわなければ困るはずなのである。

つまり、核兵器を持つまでは、アメリカからの意地悪もある程度は覚悟しなければならない。しかし、(中略)核保有にまでたどりつけばそこでおしまい。向こうが勝手に「ハイ、それまでよ」と挙げたこぶしを下してくれるのである。」


超楽観論である。これが筆者が田母神さんを「太平洋戦争に突入していった旧陸軍軍部のような発想の人」と評する理由だ。

さらに、

「近年南シナ海で中国に脅かされてきたASEANの国々や日本の原発を買おうとしているインドは、日本の核武装を支持し、応援してくれる可能性が高いのである。

いずれにしても日本の技術力をもってすれば、核開発に入ってから核兵器を作り上げるまでに「持っているぞ」を見せるだけのものなら1年以内、きちんとつくっても2、3年あれば核兵器は完成することだろう。」


と言い切っている。

ASEANとインドについては、田母神さんが出席した米国が毎年主催している世界の空軍の参謀長会議での、インドの空軍参謀長やインドネシアの参謀総長との会話を根拠としている。しかし、この程度の立ち話?で、ASEANとインドは応援してくれる可能性が高いと断言できるのか、全く疑問である。

また日本の技術力については、冒頭に記した通り、全くの思い込みで、なんの根拠もない。

筆者の大学の先輩も含めて、日本の原子力技術者は、研究の際の被ばくに備えて、精液を保存している(正確には、していたというべきかもしれない。現在はどうしているのかわからないが、たぶん同様だと思う)。

原子力の平和的利用の場合でも、被ばくのリスクがあるのに、「日本は原子爆弾をつくれるのか」で紹介したような、複雑な構造の原子爆弾をつくる際の被ばくのリスクを考えると、原子爆弾開発には、良心的就労拒否の研究者も多数でてくることが予想される。

Implosion_bomb_animated








出展:Wikipedia

田母神さんは、この本を「日本国の平和と安全のため、豊かな未来のために、我々は核武装を目指すべきである」という言葉で結んでいる。

トランプ次期大統領の発言で、半信半疑の人も含めて、やや勢いを得ている日本核武装論だが、依然として日本国民の少数意見であることは間違いない。

トランプ外交の展開によっては、検討すべき課題となるかもしれないが、もしNPT条約を脱退し、核武装を進めるなら、世界中から制裁を受ける前提で全てを考える必要があるだろう。

筆者は日本核武装論は日本の国益にも国民感情にも反すると思うが、興味のある人は、今回紹介した三冊のあらすじを参考にして、さらに自分で研究願いたい。


参考になったら、投票ボタンをクリック願いたい。






  

Posted by yaori at 02:16Comments(0)TrackBack(0)自衛隊・安全保障 | 田母神俊雄

2016年11月13日

【再掲】トランプ 次期アメリカ大統領に! やはり米国民はチェンジを選んだ

トランプが大統領に当選した。獲得票数ではヒラリーが上回っていたが、米国の選挙制度は州の選挙人総取り制度なので、トランプが過半数を上回る選挙人数を獲得して当選した。

筆者の本件に関する見方は選挙前と変わっていない。

やはり米国民は”チェンジ”を選んだ。民主党でなく、共和党を選んだ。その共和党の代表がトランプだったということだ。

トランプがこの本で公約したことが、すべてそのまま実現するとは思わないが、再度トランプの言っていたことを紹介するために、このあらすじを再掲する




米国大統領選挙が11月8日(火)にせまっている。民主党のヒラリー・クリントン、共和党のドナルド・トランプ、いずれが大統領になっても、史上最低の大統領となるのではないかという気がする。

バラク・オバマも、大統領になる前に筆者は期待を込めて、オバマの「マイ・ドリーム」「合衆国再生」の2冊のあらすじを紹介している。

この本の帯に、トランプは「次期アメリカ大統領に最も近い男」として、紹介されている。たしかに、相手のヒラリー・クリントンは女性なので、トランプが”もっとも近い男”であることは間違いない。

だから、トランプには期待していないが、トランプの自伝のあらすじを紹介する。

同じく本の帯に、”救世主か”、”詐欺師!か”、”日本の敵か”、”味方か”という文句も載っている。

日経新聞では「もしトラ」という、もしトランプが大統領になったらというシリーズを立ち上げて、半信半疑で予行演習している。みんなトランプが大統領になったら…という一抹の不安を持っているからだ。

この本は、図書館の新刊書コーナーに置いてあったので、読んでみた。米国大統領の座を争っている候補者の本が新刊書コーナーに置いてあっても、誰も手を出さないということは、トランプが大統領になんてならないと、みんな思っているからだろう。

しかし、この本を読んで、”ひょっとして”ということもあるかもしれないと思えてきた。というのは、トランプが言っていることは、オバマが8年前に言っていたことと同じだからだ。

”チェンジ”である。

トランプは”チェンジ”という言葉は使わないが、オバマがこの8年間で、失政を積み重ねて、米国を現在のような状態にまで追い込んだ。自分は「オバマケア」など、オバマのやった多くのことをすぐに廃止する。私は、米国が再び偉大な国になるまで、祖国のために戦い続けるのだと主張している。

この本の原題は、"Crippled America"(訳すと”障害者アメリカ”となる)だ。原著は、わざと怒っているトランプの写真を表紙にしている。



オバマ政権に対する民衆の失望を自分の力にしようというトランプの作戦だ。

外交政策

この本でトランプは、メキシコとの国境に壁を作って、不法移民をシャットアウトするという政策を繰り返している。国境の地形から、壁が必要なのはせいぜい1,600キロで、すでにアリゾナのユマにモデルとなる長さ192キロの壁ができているという。

ユマ・セクターと呼ばれる壁ができてからは、不法入国を試みて逮捕された人の数は72%減少したという。

「建設資金はメキシコに絶対に払わせる。」

「国境に関する様々な費用を値上げしたり、ビザ手数料を値上げしたり、関税を変えたり、メキシコへの海外支援を打ち切ってもよい。」

「私は移民を愛している。移民受け入れには積極的だが、不法移民はお断りだ。」

「米国は法治国家かそうでないかをはっきりさせる。口先だけで行動を起こさない政治家にはうんざりだ」。

トランプは、生得市民権にも反対だ。「なぜ米国で生まれたからといって、不法移民の子供にまで自動的に市民権を付与しなければならないのか。」

「もともと合衆国憲法修正第14条は、南北戦争後に解放された奴隷に市民権を付与することが目的だったのだ」。

防衛政策

トランプは、米軍を強化する。

「中東その他における米軍の軍事政策があまりに弱腰なために、誰も我々を信じようとしない。」

「はっきり言っておこう、米国は今後、米国史上最強の存在となる。兵士たちは最高の武器と防御装備を供与される。兵士たちは米国の英雄だ。だが現政権はそのことをすっかり忘れている。」

「サウジアラビアにも、ドイツにも、日本も韓国にもイギリスでも米軍はただ働きで安全を守っている。」

「米国に守られている国々は、正当な金額を我々に支払うべきだ。私に舵取りをさせれば、彼らに必ず払わせる!」

トランプは、ニューヨークの学校でトラブルメーカーだったので、ニューヨーク・ミリタリー・アカデミーに送られ、そこを卒業している。最終的にはペンシルベニア大学MBAコースのウォートン・スクールを卒業している。

「オバマ大統領のイランとの交渉は、私が知る限り最悪のものだ。あれ以上まずいやり方は不可能だろう。
どんな犠牲を払おうと、どんな手段を用いようと、イランに核兵器を作らせてはならない。」

「私は以前から、ユダヤ人を愛し、尊敬し、イスラエルと特別な関係を結ぶことに賛成してきた。米国の次期大統領は、伝統的に強固なイスラエルとのパートナーシップを再建しなければならない。」

「中国は敵以外の何者でもない。彼らは低賃金労働者を利用して我々の産業を破壊し、数万人の仕事を奪い、我々のビジネスをスパイし、テクノロジーを盗み、自国の通貨を操作し、切り下げることによって中国市場での米国製品の価格をつり上げ、時には販売不能に追い込んだ。」

内政について

トランプは再生可能エネルギー開発に反対だ。

「そもそも再生可能エネルギーの開発は、地球の気象変化は二酸化炭素の排出が原因だとする誤った動機から始まっていた。ソーラーパネルは確かに効果はあるが、経済的には無価値だ。」

トランプはオバマケアは即刻廃止すべきだと主張する。

「疑問の余地はない。オバマケアは大災害だ。」

「民主党が『オバマケア』を無理やり成立させたやり方を思い出すと私は今でも怒りに震える。」

「私ほどビジネスというものを理解している人間はいない。より良い保険により安く加入したいのなら、消費者のために保険会社を競合させることだ。私の理屈通りに事を運べば、我が国の医療制度も、そして経済もすぐに上向くだろう。」

経済政策

経済政策については、トランプは「経済こそが大事なのだ。愚か者め」という題の章を設けているが、内容は抽象的で、具体策はない。

「私は金持ちだ。半端でない金持ちだ」、と言い出したかと思うと。

(本の最後にトランプのバランスシートが掲載されている。それによると総資産が92億ドル、負債5億ドル、純資産87億ドルとなっている。トランプは過去5年間で、1億ドル以上寄付したという)

「社会保障に手を付けるべきではない。議論の余地は全くない。」

と高齢者にリップサービスをして。

「米国に仕事がない。仕事が消え去ってしまったのだ。だから、中国、日本、メキシコといった国々から雇用を取り戻さなければならない。」

この章の最後はこんな終わり方だ。

「そして今、私は米国のために戦う。私は米国に再び勝利して欲しいと願っている。そしてそれは可能なのだ。
我々がすべきことは、勝利のために専心し、かつて『メイド・イン・アメリカ』が持っていた名誉を取り戻すことだ。」

(筆者コメント:具体策はなにもない。米国企業が外国に生産を移しているのは、経済合理性のためであり、外国製品を買っているのは、ほかならぬ米国民だ。これでは何をすればいいのかわからない、と言っているのと同じことだろう)。

「ナイスガイは一番になれる」

「ナイスガイは一番になれる」という章もある。

断っておくが私は「ナイスガイ」だ。本当だ。」

この章で出てくる例は、メイシーズのCEOと長年良い関係を結んできたが、トランプのメキシコに関する発言で、メイシーズはトランプとの関係を断つとプレスリリースした、とか、NBCはトランプの関係するミスユニバースなどのショーのオンエアを拒否したので、トランプが訴えた、とかいった話だ。

おまけに、

「言っておくが私の髪はすべて自毛である。」

武器を持つ権利

トランプは武装する権利を擁護する。

合衆国憲法修正第2条は、市民が武器を保有し、携帯する権利を保障している。トランプ自身も武器を持っており、銃の「コンシールド・キャリー」(外から見えないようにしていれば銃を持ち歩ける)の許可証も持っていると。

(筆者コメント:これで一定のNRA票は確保できるだろう)。

メディアやロビイストを相手にしない

トランプは、メディアとは常に敵対している。また、選挙運動はすべて自分の金で運営しているので、ロビイストの入り込む余地はないと。

「メディアというものは恥ずかしげもなく嘘をつき、ニュースを捻じ曲げてしまうのだ。あらゆる世論調査が、人々がもはやメディアを信用していないことを示している。」

税制

トランプは、「私ほど税法を理解している政治家は他にいない。米国の税制はすべての米国人にとってフェアで、もっとシンプルな制度に変えなければならない」という。

トランプの税制改革案は、0%、19%、20%、25%の4つの税率にする。さらに。相続税をなくす、というものだ。金を稼いだのは故人で、税金はすでに支払われているからだ。

大金持ちの控除の多くは廃止するというが、相続税をなくすことは、大金持ち優遇とみられても仕方がないだろう。

しかし、減税につながる税制改革案は一定の支持が得られるだろう。

過去のセクハラ

ヒラリー陣営から過去のセクハラを攻撃されている。これについては、トランプ自身は次のように言っている。

「私は、自分の今までの女性への接し方を、これ以上ないほど誇りに思っている。」

この件に関してもっとも的確な意見を行けるのは、娘のイヴァンカだろう。私の子供たちは私のために働いているだけでなく、私が批判された時には真っ先に弁護してくれる。このことも私にとって大きな誇りだ。


この本で、あきらかに、トランプは保守派、中産階級、労働者階級、高齢者の票にターゲットを絞って、これらの人へのリップサービスに努めている。オバマ=民主党より、ましではないかと思わせたいのだろう。

今回の大統領選挙の結果は、まともにいけばヒラリーの勝ちだろうが、議会でも少数派となっている民主党から米国民の支持が離れている傾向があるので、民主党から再び大統領がでるかどうか予断は禁物である。

大統領選挙が終わるまでの賞味期限の本かもしれないが、トランプの主張はよく理解できた。

とりあえずは、あまり積極的に読む必要はない本なので、上記あらすじを参考にしてほしい。


参考になったら、投票ボタンをクリック願いたい。



  

Posted by yaori at 22:38Comments(0)TrackBack(0)自叙伝・人物伝 | 政治・外交

2016年11月09日

職業としての小説家 村上春樹の自伝的エッセイ



2015年9月に出版された村上春樹さんの「職業としての小説家」が、もう文庫化された。ノーベル賞受賞を見込んでいたと思われる、本屋の村上春樹コーナーに平積みになっているので、すぐわかると思う。

この本は、筆者が読む前に買った数少ない本だ。

単行本はスイッチ・パブリッシングという雑誌「MONKEY」を出している出版社から出したものだが、単行本は新潮文庫から出している。「MONKEY]は、翻訳家として有名な東大名誉教授の柴田元幸さんが責任編集している主にアメリカ現代小説を紹介する雑誌だ。



この本は、もともと「MONKEY」に連載したシリーズに加筆したもので、次のような構成になっている。

第1回 小説家は寛容な人種なのか
第2回 小説家になった頃
第3回 文学賞について
第4回 オリジナリティーについて
第5回 さて、何を書けばいいのか?
第6回 時間を味方につけるー長編小説を書くこと
第7回 どこまでも個人的でフィジカルな営み
第8回 学校について
第9回 どんな人物を登場させようか?
第10回 誰のために書くのか?
第11回 海外に出て行く。新しいフロンティア
第12回 物語のあるところ・河合隼雄先生の思い出

この本を読んで驚くのは、村上さんは、筆者の持っている小説家のイメージとだいぶ違うということだ。

そもそも村上さんは、注文を受けて小説を書くということをしない。だから、いつまでに仕上げなければならないという締め切りもないし、いわゆる「ライターズ・ブロック」(小説が書けなくなるスランプの状態)とは無縁だ。小説を書きたければ書くし、書けなければ、翻訳などほかの仕事をして、小説を書きたいという気持ちが盛り上がってくるまで待つ。

そして小説を書きたいという気持ちが盛り上がってきたら、小説書きに取り掛かる。

村上さんが長編小説を書く場合、毎日朝早く起きて4〜5時間机に向かい、400字詰原稿用紙で10枚程度の原稿を書くことをルールとしており、もっと書きたくても10枚でやめておき、いまひとつ気分が乗らないという時もなんとか10枚書くという。

筆者の持つ小説家のイメージは、場合によってはホテルに缶詰めになり、夜に執筆し、興が乗ればそのまま何十枚も書き続けて朝まで徹夜するというものだったので、興が乗っても、乗らなくても毎日10枚をルールにするというのは驚きだ。

村上さんは翻訳家としても多くの仕事をしているので、毎日何枚か決めて、すこしずつ書く(あるいは翻訳する)という翻訳の様な仕事の進め方になったのではないかと思う。

それと村上さんの特徴は、何度も何度も原稿を見直して修正することだ。

いったん長編小説の原稿を書きあげると、1週間くらい休んで、第1回目の書き直しに入る。

村上さんは最初にプランを立てることなく、展開も終末もわからないまま、いきあたりばったり、思いつくままどんどん即興的に物語を進めていく。そのほうが書いていて面白いからだ。

たしかに作者にも結末がわからないまま書き続けるという手法は、うまくいけば読者を息もつかさぬ展開に引き込んで離さない魅力がある。村上アディクト(中毒)患者を量産できる可能性がある。一方のリスクは、平凡な結末に終わると、読者に飽きられることだろう。

これと対照的なのが、朝井リョウさんだ。最近のインタビューで朝井さんは、AIと一緒に仕事をしたいと語っている。というのは、朝井さんの場合、書きたいテーマが最も輝く結末を決めて、それに至る道筋を書くという手法なので、さまざまな道筋を考えるのにAIを使いたいという。

村上さんのような書き方だと、矛盾する箇所や、筋の通らない箇所、登場人物の設定が変わったり、時間の設定が前後したりするので、かなりの分量をそっくり削ったり、膨らませたりで、新しいエピソードをあちこちに付け加える。

この第1回目の書き直しに1〜2カ月かかる。それが終わるとまた、1週間ほどおいて、2回めの書き直しに入る。

今度は細かいところに目をやって、風景描写を細かく書き込んだり、会話の調子を整えたりする。一読してわかりにくい部分をわかりやすくし、話の流れをより円滑で自然なものにする。大手術ではなく、細かい手術の積み重ねだ。

それが終わると、また一服してから、3回目の書き直しに入る。今度は手術というよりは、修正に近い作業で、小説の展開のなかで、どの部分のねじを締めるのか、どの部分を少し緩ませておくのかを見定める。

長編小説は、隅々までねじを締めてしまったら、読者の息が詰まるので、ところどころで文章を緩ませることも大事なのだと。全体と細部のバランスをよくする。そういう観点から文章の細かい調整をする。

次に、半月から1カ月くらい長い休みを取り、旅行をしたり、翻訳の仕事をして作品のことを忘れる。これを村上さんは「養生」という。小説も「寝かせる」と、前とはかなり違った印象を与え、前に見えなかった欠点もくっきり見えてきて、奥行きのあるなしが見極められる。

「養生」後に、再度細かい部分の徹底的な書き直しに入る。

そして作品としてのかたちがついたところで、奥さんに原稿を読んでもらう。これは「定点観測」で、村上さんの作家としての最初の段階から一貫して続けていることだ(ちなみに、村上さん夫妻に子供はいない)。

時には村上さんも感情的になることがあるが、奥さんの批評でけちをつけられた部分は、ルールとして書き直す。そしてまた読んでもらい、まだ不満があれば書き直す。そして、批評が片が付いたら、再度また頭から見直して、全体の流れを確認し、調整する。

これを経て、できた原稿を編集者に読んでもらう。

中には合わない編集者もいるが、お互い仕事なので、うまくやりくりしていくしかないので、編集者からの指摘も、ともかく直す。編集者の指摘とは逆の方向に直すこともあるが、書き直すという行為そのものが大事なのだ。

あまり合わない編集者の一人と思われる見城徹さんが、村上さんのことを、「たった一人の熱狂」に書いているので、このブログのあらすじを参照してほしい



編集者とのゲラの見直し作業も、ゲラを真っ黒にして送り返し、新しく送られてきたゲラをまた真っ黒にするという繰り返しだ。言葉の順序を入れ替えたり、些細な表現を変更したりで、根気のいる作業だが、村上さんはそういう「とんかち作業」が好きなのだと。

机に並べた10本のHBの鉛筆がどんどん短くなっていくのを目にすることに、大きな喜びを感じる。いつまでやっていてもちっとも飽きない、面白くてしょうがないのだと。

そこまでして完成した作品については、たとえ出版後、厳しい批判を受けても、やるべきことはやったので、後は時間が証明してくれるはずだと考えることにしているのだと。

日本を離れて、海外で執筆することが多いのが、村上さんの特徴だ。

昔の小説家(文士)は、鎌倉に住み、作品を書くときは御茶ノ水の「山の上ホテル」あたりに缶詰めになって、原稿書きに取り組むというパターンがあったが、村上さんは、米国のプリンストン(ニュージャージー)やボストン、ヨーロッパでもいろいろな場所に住んで、そこで小説を書いている。
 
この本の半分ほどは、村上さんがどうして小説家となったのかを自伝的に語っている。(ウィキペディアでも結構詳しく紹介されている

簡単に紹介しておくと、村上さんは両親が教師の家庭に生まれ、阪神間で育ち、一学年が600人という県立神戸高校から早稲田大学に進学し、映画演劇科に進んだ。7年かかって卒業する前に学生結婚して、就職せずに、奥さんと一緒にお金を貯めてジャズ喫茶を国分寺に開く。

その後、店を千駄ヶ谷に移し、キッチンテーブルで書いた「風の歌を聴け」が「群像」新人文学賞を受賞し、小説家としての「入場券」を得る。

風の歌を聴け (講談社文庫)
村上 春樹
講談社
2004-09-15


ヤクルトファンの村上さんが、神宮球場で、ヤクルトの試合を芝生に寝転んで応援しているとき、一番バッターのデイブ・ヒルトンの打席で、突然「小説を書こう」とひらめいた(エピファニー=顕現、ある日突然何かが現れて、様相が一変してしまうこと)という。

芥川賞の候補に2回なったが、受賞せず、芥川賞はアガリとなった。小説の賞について、村上さんの持論を展開している。村上さんは、賞の選考委員にはならない。あまりに自分本位で、個人的な人間でありすぎるからだという。

芥川賞は年に2回表彰しているが、新人作家の作品で、本当に刮目すべきものは5年に一度くらいではないかと。

村上さんは、日本の読者人口を人口の5%、約600万人と推定している。このブログで紹介した「華氏451度」のように、本を読むなと言われても、隠れて読み続ける人たちだ。



華氏451度〔新訳版〕 (ハヤカワ文庫SF)
レイ・ブラッドベリ
早川書房
2014-04-24


村上さんが真剣に考えているのは、その600万人の人にどのような作品を提供できるかだ。村上さんは、読者とのつながりを非常に大切にしている。

試みとして、インターネットでサイトを短期間開設して、そこにコメントを載せた読者には、自らメールで返信したという(投稿者はまさか村上さん本人から回答があったとは思っていなかったようだが)。

いずれは、スティーブン・キングの様に、電子ブック向けに直接配信することにも挑戦するのだろうと思う。

村上さんは小説は誰でも書ける。しかし、ちょうどプロレスのリングのように、誰にでも上がれるが、リングにとどまるのは大変だと語る。

小説家になろうと思う人は、1冊でも多くの本を読むべきだと。

このあたりは、このブログで紹介した大沢在昌さんが「売れる作家の全技術」で語っているのとまったく同じだ。

小説講座 売れる作家の全技術 デビューだけで満足してはいけない
大沢 在昌
角川書店(角川グループパブリッシング)
2012-08-01


小説を書くためには、ある事実の興味深い細部を記憶にとどめ、頭の引き出しに突っ込んで置く。

そして、実際に書くときに、「ET方式」で、ガラクタをいっぱいつなぎ合わせて遠い星との通信設備を作り上げるように、小説をマジックでポンと作り上げてしまうのだと。マテリアルは身の回りにいくらでも転がっている。

作家は体力も必要なので、村上さんは「羊をめぐる冒険」を書いていたころから、30年間にわたって、ほぼ毎日1時間ランニングか、水泳をやっている。



ちょうどこの「羊をめぐる冒険」を書いた頃、村上さんは経営していた千駄ヶ谷のジャズ喫茶を売り払い、橋を焼いて、作家一本に集中することにした。(筆者注:この”橋を焼く”という表現は、英語の"burn the bridge"という「背水の陣」を意味する言葉の翻訳だが、日本語として定着していない。友人の指摘により筆者も気が付いた。この辺が村上さんの文章が”翻訳調”だといわれるところかもしれない)

村上さん自身は”自分本位で個人的”という言葉で表現するが、長期ビジョンを持ち、先を見据えて、作家として、また、翻訳者として創作活動していることがよくわかる。

海外進出についても、自分で気に入った翻訳者を何人か揃えて、英訳した作品を海外の辣腕エージェントを使って、売り込むという手法を身につけている。

単に外国に住むだけでなく、プリンストン大学の客員研究員など、海外での仕事もこなした村上さんだからこそできるわざだと思う。

作家であり、アントレプルナーである村上さんの考えがダイレクトにわかって、大変面白い本だ。

文庫になって買いやすくなったので、ぜひ一読をおすすめする。


参考になったら、投票ボタンをクリック願いたい。

  

Posted by yaori at 00:19Comments(0)TrackBack(0)エッセー | 村上春樹

2016年11月06日

何者 朝井リョウの直木賞受賞作が映画化された

朝井リョウの「何者」が映画化されたので、あらすじ(小説はネタバレを防ぐため、ごく簡単なあらすじだが)を再掲する。



ウェブサイトも非常に凝っていて、楽しめる。

何者サイト





















一度映画も見ようと思う。

何者何者 [単行本]
著者:朝井 リョウ
出版:新潮社
(2012-11-30)

このブログで「桐島、部活やめるってよ」を紹介した朝井リョウの直木賞受賞作。



桐島、部活やめるってよ (集英社文庫)桐島、部活やめるってよ (集英社文庫) [文庫]
著者:朝井 リョウ
出版:集英社
(2012-04-20)

朝井リョウは、1989年生まれ。早稲田大学文化構想学部を卒業し、現在はたしか出版社に勤める兼業作家だ。

池井戸潤さんの「オレたち花のバブル組」のあらすじを紹介したが、朝井さんは「バブル期就職組」ではなく、なんと「バブル期誕生組」である。平成元年生まれだから、筆者の長男と同じ年齢だ。

オレたち花のバブル組 (文春文庫)オレたち花のバブル組 (文春文庫) [文庫]
著者:池井戸 潤
出版:文藝春秋
(2010-12-03)

「何者」には専用サイトが開設されている。

バイト先で一緒になったり、演劇などの活動で一緒になった御山大学の6人の男女就活生(留学や就職浪人などでみんな5年生)が、様々な人間関係を描く。

時折ツイッターのメッセージを挟んで、”今風”のテイストを出している。

主人公たちの会話を軸に話が展開する「どうってことないストーリー」ではあるが、大沢在昌の「売れる作家の全技術」で紹介されていた”小説のトゲ”(読み終えたあと、読者の心の中にさざ波を起こすような何か)がそこかしこに仕込んである。

小説講座 売れる作家の全技術  デビューだけで満足してはいけない小説講座 売れる作家の全技術 デビューだけで満足してはいけない [単行本]
著者:大沢 在昌
出版:角川書店(角川グループパブリッシング)
(2012-08-01)


「プライベートのメールアドレスがわかれば、それでアカウントが検索できたりするから。」

ツイッターの話だ。

「何者」という言葉も、いろいろな形であらわれる。

「桐島、部活辞めるってよ」で、新鮮な驚きを与えていたオノマトペの使い方も見事だ。

「ヴ、ヴ、ヴ、ヴ」

携帯電話のバイブの音だ。

広告会社のクリエイティブ試験のところがいかにもありそうで、リアルだ。

一番の歌詞が書いてあり、「二番の歌詞を考えろ」という問題と、物語の冒頭のみが書いてあり、「これは起承転結の起です。承、転、結それぞれを書いてください」という問題が出たという。

朝井さん自身の経験に基づく就活の分析もなるほどと思う。

「ESや筆記試験で落ちるのと、面接で落ちるのではダメージの種類が違う。決定的な理由があるはずなのに、それが何なのかわからないのだ。」

「就職活動において怖いのは、そこだと思う。(中略)自分がいま、集団の中でどれくらいの位置にいるかがわからない。…」

おっさんの筆者は、高校生の話である「桐島、部活やめるってよ」では全然感情移入できなかったが、「何者」では感情移入できる部分もあった。

就活の毎日を描いた作品なので、ストーリーの変化があまりないが、「売れる作家の全技術」を読んだ後に読んでみると、朝井さんのいろいろな工夫がわかる。

上記で紹介したYouTubeのインタビューでも、朝井さんは、じっくり構想を練って、話の構造を決めてから書くタイプだと語っている。


筆者のような「就活したのは、はるか昔」の人も楽しめる作品である。


参考になったら、投票ボタンをクリック願いたい。



  

Posted by yaori at 01:09Comments(0)TrackBack(0)小説 | 朝井リョウ

2016年11月04日

天才は努力を続けられる人のことであり、それには方法論がある



東大法学部を首席で卒業、財務省勤務を経て、現在は弁護士として活躍するという山口真由さんの本。

山口さんは「東大首席弁護士」ということで、この本を出版した後、同じような本を違う出版社から数カ月おきに何冊も出している。










以前、「ビジネス書の9割はゴーストライター」という本のあらすじで紹介した通り、出版不況の折、ちょっとでも売れる著者がいれば、様々な出版社がゴーストライターを用意して群がってくる。それの典型のような出版ぶりに思える。



東大法学部出身で、成績抜群というと、現在はライフネット生命保険の社長となっている岩瀬大輔さんを思いおこさせる。

入社1年目の教科書
岩瀬 大輔
ダイヤモンド社
2011-05-20


このブログでも岩瀬さんの「入社一年目の教科書」「超凡思考」を紹介しているので、参照願いたいが、岩瀬さんは在学中に司法試験に合格したところは山口さんと同じだが、首席卒業とは言っていない。

どちらも秀才であることは間違いないが、山口さんは平成17年に法学部における成績優秀者として「東大総長賞」を受賞している

しかし、当たり前のことだが、よしんば東大法学部での成績が全優であっても、それが社会での成功を約束するものではない。

山口さんは財務省に入省後、2年間で財務省を辞めて、弁護士になっている。

最近読んだ「東大VS京大」という橘木俊詔(たちばなき・としあき)京都大学名誉教授の本では、次のように弁護士と学歴について次のように語っている。

「弁護士を自営業稼業と理解すると、学歴(特に学校名)の果たす役割はかなり小さくなることは明らかである。

どれだけ顧客をとるかとか、裁判で勝者になるといったことは、その弁護士のコミュニケーション能力や人柄などにかなり依存するからである。

もとより法律や過去の判例の知識、あるいは論理的な思考力や洞察力も無視はできないので優秀な大学を出た人が多少は有利だろうが、その弁護士の個性と仕事ぶりが決め手になる世界である。

学歴がほとんど無用な世界が弁護士であるといっても誇張ではない。」(「東大VS京大」P194)



最近は東大法学部出身者がほとんどを占めるということはなくなってきたが、官僚、特に財務省こそ東大法学部卒というブランドが、いまだに生きている職場ではないかと思う。

それを2年で辞めて、裁判官になるというなら、まだわかるが、上記の橘木さんのいうような学歴無用の弁護士になるとは、正直何を考えているのだろうというのが筆者の印象だ。

山口さんは現在は、勤めていた弁護士事務所を辞めて、ハーバードのロースクールに留学中ということで、今度は米国のどこかの州の弁護士資格を取って、いずれは国際弁護士として活躍すべく勉強しているようだ。

しかし、コミュニケーション能力が問われる弁護士の世界では、ハーバードビジネススクールを出たとしても、弁論で勝てなければクライアントもついてこないだろう。

テレビタレントとしては、これだけハクがある弁護士は他にいないので、強みとなるだろうが、当意即妙、その場にあった受け答えができることが、タレントとしての価値であり、それには学歴や留学歴は関係ないだろう。

ともあれ、山口さんが努力の人で、大変な勉強家であることは間違いない。試験前は睡眠時間も3時間にしたり、眠らないように足を水に漬けたりしたという。

この本で紹介されている方法論をいくつか紹介しておく。

まずは素通しで7回読むというのが紹介されている。

7回も繰り返し読むよりは、もっと効率的な読書法があるのではないかと思うが、単にページをめくるだけだったら、苦痛ではないので、読むことへの負担を軽くするのだと。

7回も読めば、見慣れた記述にどんどん親近感が涌いてきて、読書が楽なものになっていくという。

スケジュールは外圧で管理するという方法が紹介されている。

何かの資格を取るための勉強をする際には、手帳でこまめにスケジュールを決めて勉強するよりは、勉強する前に受けられる模試をすべて申し込む。

模試を受けて、結果を見て、欠点を補強、再度また模試を受けて、欠点を補強という具合に外圧の模試でスケジュールを管理するのだと。

努力をする際にもっともやってはいけないことは、「自分との戦い」にもっていくことだ。

普通の人は、「自分との戦い」に持っていくと、たいていはうまくいかない。孤独な戦いに挑むよりも、ライバルと一緒に頑張るほうが続けることができる。

ダイエットでも、ランニングでもライバルを見つけ「まわりの人より頑張ろう」で続くのだと。

山口さんは、大変頭の良い人であることは間違いない。

しかし、取れる資格はいくつでも取ってハクをつけても、ビジネスではコミュニケーション能力が重要で、それは資格を取ったり、本を読んでも身につくものではない。

思うようにいかないから転職を繰り返しているのか、それともある目指す姿に向かってキャリアを積み上げているのかよくわからないが、タレントとしてではなく、本業でぜひ成功してほしいものである。


参考になったら、投票ボタンをクリック願いたい。

  

Posted by yaori at 22:52Comments(0)TrackBack(0)趣味・生活に役立つ情報 | 勉強法

2016年10月30日

なぜ国際教養大学はすごいのか 大学の国際化とは?



就職率100%を誇り、すべての授業を英語で行い、新入生全員に1年間の寮生活、すべての学生に1年間の海外留学を義務付けるリベラルアーツ大学、国際教養大学学長の鈴木典比古さんの本。

日本語の大学名は国際教養大学だが、英語ではAkita International Universityと秋田の名前が入っている。

この本はアマゾンの「なか見!検索」に対応していないので、「なんちゃってなか見!検索」で目次を紹介しておく。その章の目次のあとに、内容を簡単に紹介する。

第1章 世界の大学で何が起きているのか

・教育鎖国をやめて世界基準を導入するしかない
・優秀な学生を集めるべく世界中で青田刈りする海外の大学
・ブランチキャンパスという名の直接投資を行う海外の大学
・「教育財」の輸出入があればこそグローバル化は成り立つ
・真のグローバル教育ができないと世界では通用しない
・世界最先端の講義をどこにいても無料で受けられる時代
・自宅で基礎知識を身につけ大学で応用問題に取り組む「反転授業」
・日本の組織は「閉鎖型」から「浸透膜型」に構造をシフトせよ
・学生は勉強しない、教員は密度の濃い教育をしない…
・「大学レポート」で外国人に向けても情報公開

この章では、世界の大学の動きを紹介している。

世界の有名大学は海外で優秀な高校生を青田刈りしている。

たとえば、シンガポール国立大学は日本人も積極的にスカウトしていて、学費も家賃も無料、引っ越し代や渡航費も出し、さらに毎月10万円支給します、というような条件でスカウトしているという。

有名大学のブランチキャンパスは、現在は中国が27校、UAEが24校、シンガポールが13校、カタール11校、マレーシア9校という具合だ。

日本には地方自治体が積極的に勧誘して、一時は37校も海外の大学の分校があった。しかし、当時の文部省が大学として認めなかったので、どんどん減っていった。

現在は筆者のシンガポール人の友人の娘さんが行っているテンプル大学レイクランド大学、ボストン大学国際ビジネスマン養成プログラムの3校のみだ。

国際教養大学の場所も、もともとはミネソタ州立大学機構秋田校の跡地だったという。

インターネットによる大学教育も盛んで、Courseraというスタンフォード大学、イェール大学、プリンストン大学などが参加する米国発のプラットフォームの学習者は1,579万人、参加大学・機関数133、1,467コースがあるという。

講義内容は、教師がビデオに向かってしゃべる講義形式だけでなく、1回につき10分くらいの講義の動画を見た後、小テストが提示され、それに回答して1セットとなり、一つの講座につき週5〜10セットの学習をした後で、課題が出され、期限内に回答するという形式で、これを繰り返して、最後に総合課題を提出して、それが合格レベルであれば、修了証書をもらえるという形だ。

日本もJMOOC(日本オープンオンライン教育推進協議会)というのをつくって、gaccoなどのオンライン教育をスタートさせている。

学習意欲があれば、世界どこでも年齢に関係なく世界最先端の講座が受講できる時代なのだ。

日本の大学は入学するのは難しく、卒業するのは簡単な傾向があり、日本の大学生が米国の大学生に比べて勉強時間が短いことが統計で紹介されている。

サンプル44、905人の東大大学経営・政策研究センターが2007年に行った調査では、日本の大学生1年生は、1週間に全く勉強しない人が9.7%、1〜5時間勉強する人が57.1%で、一週間に5時間以下しか勉強しない学生が7割という結果が出ている。

それに対して米国では、全く勉強しないのは0.3%、ほとんどなく、最も多かったのが11時間以上勉強する58.4%だった。約6割の学生が授業の予習や復習で週11時間以上勉強している。

これは米国ではGPA(Grade Point Average)という全科目の成績の平均点が一定水準以上でないと、進級や卒業を認めないという制度だからだろうと。どの教科も手を抜けないのだ。

日本は不可にさえならなければ、出席数やテストの点数がギリギリでも卒業はできる。

第2章 リベラルアーツと日本のエリート

・東大も世界から見れば「ワンオブゼム」の大学にすぎない
・将来のエリートを目指す学生たちはリベラルアーツを学ぶ
・いまの日本のエリートに欠けているのは「全人力」
・「人工植林型」から「雑木林型」へ日本の人材育成は転換を
・「個」と「個性」との違いは何か
・「竹のようなしなやかさ」がリーダーに求められる時代

この章では、インダルトリアル(大量生産)の時代と、ポストインダルトリアル(大量生産以降)の時代に求められる能力が異なることを説明している。

インダストリアル時代は、ピラミッド構造の組織で、トップが計画を立案し設計するトップダウンとなっていたが、ポストインダルトリアル時代は組織はフラットとなり、現場がクライアントの意見を聞いて計画を立案し、設計するようになってきた。

これに伴い、インダルトリアルの時代では、仕事が分割されて一人の人間が同じ仕事をずっとやるという形だったのが、ポストインダルトリアル時代には、トータルソリューションが求められ、コミュニケーション能力、チームワーク、問題解決力、リスクテイキングといった能力が求められてきた。

それらの素養を身につけるにはリベラルアーツ教育しかないとの東京工業大学の木村孟(つとむ)学長の言葉を紹介している。

国際教養大学は、著者の鈴木さんが以前勤務していたICUのようなリベラルアーツ専門大学のように、少人数制の授業を重視し、教員と学生が対話をしながら授業を行っているという。


第3章 ”秋田発”グローバルスタンダード大学

・入試によっては偏差値は東大並み、就職率は100%
・新入生はすべて1年間の寮生活を体験
・ルームメイトとのトラブルや議論が語学上達の近道
・「英語を学ぶ」のではなく「英語で学ぶ」ことが狙い
・世界的ヴァイオリニストが演奏しながら授業を行うことも
・少人数制の授業で、教員と学生双方の「逃げ場」をなくす
・24時間、365日、いつでも使える図書館
・すべての学生に1年間の海外留学を義務化
・「ギャップイヤー」制度で、入学前に自分探しや目標探し
・なぜ新渡戸稲造の「武士道」を読むべきなのか
・世界トップクラスのリベラルアーツカレッジになるために
・「生活寮」に「教育寮」も兼ね備えたテーマ別ハウス群
・「英語で英語を学ぶ」教育法を広めたい

この章で、鈴木さんは、国際教養大学の特徴を次のように整理している。

1.国際教養教育を学ぶ、リベラルアーツカレッジ
2.授業はすべて英語で行う
3.新入生は、学生寮で留学生と共同生活
4.在学中、1年間の留学が義務
5.24時間365日、勉強に集中できる学習環境
6.春と秋に入学できる

学生はこのような大学生活を通して、世界で活躍できるグローバル人材として成長していく。その結果が就職率100%だと。

開学してここまでの実績を築けたのは、故・中嶋嶺雄前学長や教員が企業に売り込んだ成果だと。

その教育内容を上記のような項目で紹介している。

卒業生の声

・現状に満足せずに探求心を持ち、新しいことにチャレンジする
・リベラルアーツ教育とは何か、思い悩み続けてほしい
・幅広い視野と好奇心があれば、人生は大きく変わります
・専門性は追及しなくても、「学び続ける」姿勢を身につけてほしい

この章では、卒業生の経験談を紹介している。そのうちの一人は、国際教養大学で初代主将として野球部を発足させた人で、筆者が駐在していたピッツバーグ郊外のWashington & Jefferson Collegeに1年間留学して、米国でもトライアウトを経て野球部に入部し、60人ほどの部員の中でプレイしていたという。

ペンシルベニア州ワシントンは、筆者が住んでいたピッツバーグ南部のアッパーセントクレアという町から車で15分くらいの市だ。こんなところの大学に日本人が留学していたとは知らなかった。

第4章 いま、日本の教育革命が始まる

・強制的に勉強せざるを得ない環境をつくるしかない
・学生たちが能動的に学ぶ環境は、教員がつくりあげるもの
・教え方を知らない教員に教わる学生たちは不幸
・教員の真剣さが伝われば、学生も真剣に学ぶ気になる
・教育者と研究者を二分することはできない
・大学のグローバル化を促す「世界標準カリキュラム」
・意義ある留学を実現するための「コースナンバリング制度」
・大学間の密な連携で、EU諸国では学生たちが複数の大学に在籍
・「文系学部の廃止」がもたらすもの
・受験の段階で専攻を決める必要はない

この章では、大学間の単位取得の世界標準システムを紹介している。コースナンバリングとは、国際標準の科目ごとの番号であり、次のように割り振られている。

100番台:初年次教育、一般教育
200番台:専門基礎教育
300番台:専門(上級)教育
400番台:卒業研究、卒業論文

EUでは大学間の連携が密になっていて、学生がEU諸国の大学を移動して、「学生渡り鳥」となり、複数の大学に在籍し、それぞれの大学で得た単位を蓄積している。

日本でも私立大学団体連合会が、「学生渡り鳥」制度を提言しているが、実践には結びついていない。日本では、依然として、どこの大学を出たかを重視するからだ。

しかし、教育のグローバル化を目指すなら、世界標準カリキュラムに統一し、学生渡り鳥が自由に行き来できる環境を整えるしかないと鈴木さんは語る。


第5章 世界標準の人材をつくるために

・優秀な人材が海外に流出しても、日本の価値は変わらない
・日本でも進む「ウィンブルドナイゼーション」
・年間4〜5万人、グローバル人材を育てたい
・「どこにいるか」ではなく「何をするか」が問われる時代
・これからの時代は、机上の知識だけでは決して乗り切れない
・日本語と英語に加え、もう一つの外国語を学べ
・日本は将来的に、モノづくりの国から知識で勝負する国へ
・本当のキャリアデザインは、一生を賭けてつくりあげていくもの

どこの大学の何学部を卒業したかを重視する日本の慣行はそう簡単には変わらないと思うが、たしかに日本への留学生が増えてくれば、世界標準カリキュラム化は必須となり、それが日本人の学生の海外留学が増えることにもつながると思う。

現在は海外留学すると、日本の単位が足りなくなるために、1年留年するパターンが多いが、こういったことはなくなるだろう。

大学は旧態依然として変わらない部分もあるが、ICUや国際教養大学のようなリベラルーツを重視して、世界標準カリキュラムを導入する大学が増えれば、だんだんに変わっていくだろう。

東大の濱田純一前総長が提唱した9月入学制度は、結局多くの大学の賛同が得られずに、実現しなかったが、これからも国際化にともない、大学の自己変革が進んでいくことだろう。

大学の国際化の動きがわかって参考になる本である。


参考になったら、投票ボタンをクリック願いたい。




  

Posted by yaori at 02:47Comments(0)TrackBack(0)趣味・生活に役立つ情報 | 教育論

2016年10月15日

「0から1」の発想術 大前研一のアイデア発想法

「0から1」の発想術
大前 研一
小学館
2016-04-06


常に考えるヒントを提供してくれる大前研一さんの近著。

この本では、基礎編として次の11の発想法を紹介している。

1.SDF(Strategic Degrees of Freedom)戦略的自由度 消費者の求めているものは何か?

2.アービトラージ 情報格差

3.ニュー・コンビネーション 組み合わせで成功する

4.固定費に対する貢献 稼働率は利益率と直結

5.デジタル大陸時代の発想 5年後の生活を予想する 

6.早送りの発想 グーグルの動きを「ヒント」にする 孫正義氏の”時間差攻撃”

7.あいているものを有効利用する発想 UBERAirbnb

8.中間地点の発想 「業界のスタンダード」を捨てる 4枚増えて値段は同じ。どっちが得か(富士フィルムの24枚撮り)

9.RTOCS(Real Time On-line Case Study)/他人の立場に立つ発想 2つ上の立場で考える

10.すべてが意味することは何? "森全体”を見る視点にジャンプする

11.構想 ウォルト・デイズニー X ワニのいる湿地

そして実践編として、次の4つの「新たな市場」を作り出す発想法を紹介している。

1.感情移入 ナイキ創業者は大学生のウッズに興奮した

2.どんぶりとセグメンテーション セグメンテーションで生まれるビジネスチャンス

3.時間軸をずらす 手元に資金がなくてもビジネス開発は可能

4.横展開 アパレル企業がトヨタに学んで急成長

おわりに 「0から1」の次は「1から100」を目指せ

読みながら自然と考えるので、大変参考になる。

たとえば、ニューコンビネーションで紹介されているコンビニの話。

日本のコンビニ業界の中で、セブンーイレブンは突出している。一店舗当たりの平均日版がセブンは67万円に対し、ローソンは55万円、ファミマは52万円である。

コンビニの売り上げは基本的には立地で決まるが、セブンに客が集まるのは、企画力、商品開発力に差があるからだ。

たとえば「セブンカフェ」は2013年にスタートし、今では7億杯飲まれているという。マクドナルドから客を奪い、客数は増え、調理パンの売り上げは3割増、スイーツは2割増になったという。

プライベートブランドの「セブンプレミアム」も成功しており、イオンの「トップバリュ」を上回り、ほぼ1兆円の規模となっている。

大前さんは近所の各コンビニを定期的にチェックし、気になった商品は実際に購入して試している。セブンには他のコンビニにはないユニークな商品、少し値段は高くても、つい買いたくなるような商品が並んでいるという。

この本の中で、「あなたがローソンの社長だったら」というケーススタディを出している。

この本が出た後、三菱商事がローソンを子会社化すると発表した。

1,500億円程度の投資で、ローソンの収益を連結でき、大きなリターンを上げられるので、三菱商事の資本政策上は得策であることは間違いない。しかし、肝心のローソンにとっては、三菱商事の子会社になることはプラスとなるのか不明だ。

セブンやユニー(サークルKサンクス)と経営統合してローソンを売り上げ規模で抜いたファミマとの競争上、商品企画力がカギとなると大前さんはいう。

筆者の考えでは、ローソンは商品開発力もさることながら、売り上げ予測に基づく在庫管理に難があるように思える。

筆者はローソンのツナ&タナゴサンドは、わざわざローソンまで買いに行くほど気に入っているが、品切れとなっていることが多く、ローソンに行っても何も買わないで出てくることがよくある。

サンドイッチがなければ、おにぎりを買うという気にはならない。ローソンのおにぎりはおいしいと思うが、筆者は定番のツナ&タマゴサンドが好きなのだ。ローソンになければ、仕方ないので他のコンビニで買う。

売り上げ機会の喪失は、データには出てこないので、ローソンは実態をつかめていないのではないかと思う。セブンは売り上げ機会の喪失を一番に考えて、英語にまでそのまま取り入れられている「単品管理」という考えを導入した。

このあたりのことは、このブログで紹介している「鈴木敏文の『本当のようなウソを見抜く』」に詳しいので、参照してほしい。



いくつか印象に残った話を紹介しておく。

熊本県の黒川温泉の話。

熊本県の黒川温泉は、温泉のウェブサイトにも「黒川温泉は九州の北部中心くらいにあります。山間部の為公共交通機関ご利用はご不自由をお掛けいたします。できればお車かレンタカーのご利用がよろしいかと思います。」と書いてあるような不便な場所にある。

それでも黒川温泉は全国の人気温泉地トップクラスにある。「黒川温泉一旅館」というコンセプトのもとに、乱立していた旅館の看板200本をすべて撤去するなどで景観を統一し、風情ある街並みを完成させ、一つのブランドとしたのだ。

そして、3か所の旅館の露天風呂に入れる「入湯手形」を販売した。そうすると、全部で24か所の露天風呂があるので、全部制覇しようというリピーターが現れて人気を呼んだ。

黒川温泉のウェブサイトを見ると、全旅館の空室状況が一覧でわかるようになっている。温泉旅館全部が協力して、みんなで消費者の利便性を高めようとしていることがわかる。

今年は熊本地震があり、最近阿蘇山が噴火した。旅館の予約状況を見ると、黒川温泉はあまり影響がないように思えるが、ぜひみんなで力を合わせて苦境を乗り越えてほしいものである。

「構想」の事例として挙げられているシティグループの”10億人の口座”という構想も面白い。

1984年に45歳の若さでシティバンクの会長兼CEOに就任したジョン・リードは、これからの銀行のあり方を構想し、「これからは10億人の口座がないと、銀行はリテール部門で生き残れない。だから10億口座はなんとしてでも必ず達成しろ」と指示したという。

この構想から生まれたのが「電子ウォレット」という携帯電話のサービスだ。

シティバンクは現在160カ国以上の国と地域に2億人の口座を持っている。インドのバンガロールでは、最低預入額を25ドルとしたバンキングサービスを始めて、大ヒットしたという。10億人に向けて突き進んでいる。

今はマイクロソフトの傘下に入ったが、フィンランドのノキアのヨルマ・オリラ元会長兼CEOの構想力も優れている。

ノキアは元々はゴムの長靴やタイヤ、紙、電子部品を製造する小さな会社だったが、オリラ氏は「携帯電話を誰もが持つ時代がやってくる」という構想のもと、1988年には当時のCEOが自殺し、倒産寸前だったノキアを携帯電話会社として転換し、一時は世界一の携帯電話メーカーに変貌させた。

「感情移入」に関しては、ナイキの元CEOフィル・ナイト氏やアップルの故・スティーブ・ジョッブス氏の話を紹介している。

大前さんはナイキの社外取締役を務めていた関係で、ナイキの元CEO、ナイト氏をよく知っている。

ナイト氏はいろいろな業界からマネージメントを依頼されるが、「23時間働く覚悟」を持てる仕事でないと、断ってしまう。たとえば、感情移入できないから「電気は苦手」だという。

「やることすべて成功する必要はない。何回失敗しようが、最後の1回で成功すれば、あなたは成功者と呼ばれる」

とよく口にしていたという。

このブログで紹介しているヴァージン・アトランティックのリチャード・ブランソンも、すぐれた構想力が成功の要因だ。



最後の「手元に資金がなくてもビジネス開発は可能」は、発想の転換の一例で、参考になる。

大前さんがマッキンゼー時代に手掛けた案件で、香港の新空港を香港政庁の資金を使わずに建設したNPV(Net Present Value)という考え方だ。

まず新空港ができると、収益が見込めるものをすべて書き出してみる。

・航空機着陸料
・ホテル事業
・エンジン整備などのメンテナンス事業
・免税店の出店料
・レストランなどのテナント料
・荷物のハンドリング

こうした収益事業を権利化して、金融機関に抵当に入れて、建設資金を調達する。問題点は、空港が開港すると、収益を先取りしてしまったために、全く収益が見込めないことで、NPV化した事業とは別の付加価値の高いサービスを考え出していく必要がある。

大前さんは今年73歳になったと思うが、何歳になっても大前さんの本は、フレッシュな話題で参考になる事例が満載である。

具体的事例が多く、簡単に読めるので、一読をお勧めする。


参考になったら、投票ボタンをクリック願いたい。


  

Posted by yaori at 23:23Comments(0)TrackBack(0)ビジネス | 大前研一

2016年10月09日

アドテクノロジーの教科書 専門書だが役にたつベストセラー



電通の昨年入社の女性新入社員が、昨年末自殺し、彼女の自殺が労災=過労死に認定された。自殺直前の彼女の残業は105時間に達し、うつ病も発症していたという。小さい時に両親が離婚し、お母さんに育てられて東大の文学部を卒業し、昨年電通に入社したという。

残されたお母さんが記者会見しているのを、ニュースで見るのがつらい

ネットで彼女のツイッター書き込みなどにより、勤務実態や周りの上司・同僚の扱いが紹介されている。

悲劇はまた繰り返されたか!という感じだ。

もっとも、この話は電通だけの話ではない。他の会社でもある話だ。

自殺までには至らないにしろ、社員がメンタルダウンになる事例が続出して、どの会社でも社員の健康管理と残業の規制を厳しくしている。

2015年12月から一事業場で50人以上社員がいる会社には、ストレスチェックという定期的ストレス検査が法律で義務付けられている。

筆者の会社も昔は36協定違反の残業は、翌月に始末書を事務的に出せば済んだが、今は36協定違反が発生するとコンプライアンス違反として社長報告が必要になっている。

広告業界は残業が恒常化しているのかもしれないが、電通も36協定違反は、コンプライアンス違反なので、撲滅が必要だという意識を持つ必要があるだろう。

彼女は電通のダイレクトマーケティング・ビジネス局デジタル・アカウント部で、インターネット広告を担当していたという。

この業界特有の事情も自殺の要因になった可能性もあると思う。

アドテクノロジーが日進月歩で進化していて、まわりが何を話しているのか、わからないことがあったのではないか?

だからせっかく作った提案が、ポイントを押さえておらず、使い物にならないので、ボロクソに言われたのではないか?

IT業界のように、アドテクノロジー業界も三文字略語が氾濫している。

たとえば、DSP、SSP、DMP、PMPはインターネット広告を担当していれば、最低限知っておかなければならない業界用語だが、なんの略かお分かりだろうか?

DSPはDemand Side Platform、SSPはSupply SIde PlatformDMPはData Management PlatformPMPはPrivate Market Placeだ。

これがやたらに話に出てくる。

現在のネット広告業界の業界地図は次のカオスマップの通りだ。


出典:カオスマップ2015−2016

これを理解するために絶対必要なのが、この「アドテクノロジーの教科書」だ。この本の著者は株式会社マクロミルの広瀬信輔氏で、マクロミルのDijital Marketing Labの責任者だ。

もっとも、広告代理店で働いていても、この本を一読しただけではわからない。

アマゾンのカスタマー・レビューに投稿している広告代理店勤務の人のコメントのように、5度くらい読み返す必要があるだろう。

筆者は10年ほど前までは、ネット企業の経営に携わっていたので、広告業界の事情には詳しいと思っていたが、この本を読んで過去の経験が全く陳腐化して役に立たないことを痛感させられた。

筆者がネット業界を離れたのは2007年だったが、2008年から日本でもアドネットワークという「広告配信ネットワーク」が登場した。

アドネットワークに入札・入稿することで、広告主は多数のウェブサイトに広告を配信できるようになったのだ。それからは、急速に時代は変化しており、現在の業界図は上記のカオスマップのように入り組んでいる。

この本はアマゾンのなか見!検索に対応していないので、なんちゃってなか見!検索で、目次を紹介しておく。

Chapter 1.History & Technology

01 アドテク登場以前のインターネット広告
02 アドネットワーク 〜 第三者配信のはじまり
03 BTA(Behavioral Targeting Advertising)
04 アドエクスチェンジ 〜 広告枠の取引市場化
05 オーディエンスデータ/オーディエンスターゲティング
06 DSP/SSP
07 3PAS(第三者配信アドサーバー)
08 アトリビューション分析
09 アトリビューション分析 〜 MIHモデルの概要と事例
10 アトリビューションマネジメント 〜 広告弾力性の問題
11 アドベリフィケーション
12 アドベリフィケーション 〜 調査結果:DSP配信枠の品質
13 DMP(データマネジメントプラットフォーム)
14 DMP 〜 活用事例
15 PMP(プライベートマーケットプレイス)
16 【チェック】 GDN(Google Display Network)のターゲティングの種類と活用方法

Chapter 2. Creative

01 動画広告
02 インストリーム広告の配信事例
03 動画広告の課題とこれから
04 リワード広告/アフィリエイト広告/ブースト広告
05 インフィード広告(イン〇〇広告)
06 ネイティブアドと記事広告の違い(ネイティブアドの解説)
07 ソーシャルメディアマーケティングの成功企業と失敗企業

Chapter 3. Measurement

01 ディスプレイ広告の2つの役割と効果測定方法
02 インバナーサーベイとリードバナーアンケート、ブランドリフト調査の新手法の解説
03 リサーチと購買データを活用した効果測定の事例 〜 株式会社マクロミル
04 クロスメディア効果測定の事例 〜 株式会社インテージ
05 【チェック】スマートフォン対応によって、ウェブサイトのアクセス数は増加するのか?

Chapter 4. Player

01 海外プレーヤー Criteo
02 海外プレーヤー Rocket Fuel
03 海外プレーヤー Rubicon Project
04 海外プレーヤー TubeMogul
05 国内プレーヤー FreakOut
06 国内プレーヤー サイバーエージェント
07 国内プレーヤー VOYAGE GROUP
08 国内DMPパッケージの位置づけ
09 株式会社オムニバス(DMPサービス解説 Pandora)
10 株式会社PLANーB(DMPサービス解説 Juicer β版)
11 最近の買収情報まとめ
12 新規参入について筆者が思うこと

Chapter 5. Market

01 カオスマップのカテゴリ解説
02 市場規模
03 PMPがもたらす広告取引市場の変化
04 DMPと3PASは今後どうなるの?Googleサードパーティポリシー変更の背景考察
05 DMPの市場と課題とマーケティングオートメーション
06 マーケティングオートメーション X DMPの事例
07 動画広告の市場と課題と未来
08 新たな市場を作れるか?CMP(コンテンツマーケットプレイス)

Special Contents

01 DSPを語る 〜 ヤフー株式会社 高田 徹氏
02 DMPを語る 〜 日本オラクル株式会社 福田 晃仁氏
03 動画広告を語る 〜 株式会社オムニバス 山本 章悟氏
04 ネイティブアドを語る 〜 株式会社グラーダーアソシエイツ 荒川 徹氏
05 アトリビューションを語る 〜 アタラ合同会社 岡田 吉弘氏
06 タグマネジメントを語る 〜 Fringe81株式会社 佐藤 洋介氏
07 アドテク業界を語る 〜 株式会社Legoliss 酒井 克明氏

筆者のいた時代のネット広告は、サイトの広告枠を期間単位で広告代理店経由広告主に販売し、クリエイティブは広告主が制作したものを掲載するか、あるいは自社で広告主から提供された素材を使って製作するかというものだった。

1対1の取引だ。

現在は、ネット広告が進化し、RTB(リアルタイムビッデイング)で、表示された広告枠に広告主がリアルタイムで入札して、最も条件のよい広告主の広告を掲載するというのが現在のバナー広告表示のやり方だ。

広告の表示にゼロコンマ数秒間があくのは、その間に自動的に入札して、最も条件のよい広告主の広告を選択しているからだ。

もっとも、こんな時代になっても、優良広告枠は入札では販売されず、相対取引で販売されている。広告を掲載するメディア側が、優良広告枠を入札で販売すると、自社のブランドイメージを損なう広告が入ってくることを懸念しているためだ。

その意味では、優良広告枠については、依然として昔からの相対取引が生き残っている。すべて自動入札で販売されているわけではないのだ。

冒頭に紹介した電通の新入社員の過労死の例もあるように、広告配信技術は進歩したが、広告営業は人間系のソリューションが必要である。

そのことを知って、ちょっとほっとした。

専門書なので、広告業界に携わったことがない人には、ちょっと難しいかもしれない。

著者の広瀬さんが主宰しているDigital Marketing Labのウェブサイトにアドテクに関する説明がある

また、以前「渋谷ではたらく社長の告白」のあらすじを紹介した藤田晋さんのサイバーエージェントが、積極的に宣伝しているので、サイバーエージェントの「日本一やさしいアドテク教室」も参考になる。



時間があれば、サイバーエージェントのアドテクノロジー説明会が同社のウェブサイトに掲載されているので、これを見ることをお勧めする。



筆者の率直な感想は、いつまでもあの業界に働いていなくてよかった、というものだ。日進月歩のアドテクの進化には到底ついていけない。


参考になったら、投票ボタンをクリック願いたい。

  

Posted by yaori at 03:18Comments(0)TrackBack(0)インターネット | 顧客分析

2016年10月05日

あの日 小保方晴子さんの逆襲始まる しかし…

あの日
小保方 晴子
講談社
2016-01-29


STAP細胞騒動で、名前を知らない人はいなくなった小保方晴子さんの逆襲本。

Amazonのカスタマー・レビューでは賛否両論で、800以上ものカスタマー・レビューが投稿されている。

さらにそれぞれのカスタマー・レビューにも、時には数百のコメントが寄せられている(相当なコメントがアマゾンによって削除されているので、攻撃コメントだと思われる)。

中には科学誌への論文投稿に詳しい専門家や自殺した笹井副センター長の後輩と称する人も投稿している。

カスタマー・レビューだけを読んでも、この本の内容が大体わかるような分量だ。

小保方さんは、最近、婦人公論に登場している。この本を2016年1月に出版して、逆襲を始めたようだ。



また、STAP HOPE PAGEという英文サイトを立ち上げている。

このサイトは2016年3月に開設されて、4月に数件の追加がなされた後は、そのままとなっている。このタイミングで海外でのSTAP細胞研究のニュースがあって、サイトを開設したのではないかと思う。

STAP HOPE PAGE






















出典: STAP HOPE PAGE

STAP HOPE PAGEにはSTAP研究の概要STAP細胞製作のプロトコルSTAP細胞検証実験の結果などが紹介されている。

この本を読んでの筆者の小保方さんに対する評価は、到底一流の研究者とは言えないレベルにあるということだ。

ケアレスミスが多すぎる。さらに、ミスをそのまま放置しているので、これは人をミスリードすることと結果的に同じだ。

筆者も仕事柄、多くの人の報告書をチェックする立場にある。

筆者自身も自分が書いた文章の読み返しはあまり好きではなかった。しかし、他人の報告書をチェックする立場になったら、どれだけ"Proofreading"(日本語の「校正」とは、ちょっとニュアンスが違うので、"Proofreading"という言葉を用いる。徹底的な読み返しのこと)が重要なのか、よくわかった。

スペルミス、タイプミスなどのケアレスミスが多いと、報告書の信用度を大きく棄損する。

報告書作成者が”Proofreading"をしていなければ、報告書の品質は保てず、そんな人が実施した調査や実験はミスがあるのではないかという印象を与える。

また、筆者の経験からいうと、読み返しの習慣は簡単なものなので、他の人に一度注意されたら、ほとんどの人が実行するようになり、次回からはミスは相当減る。

それでもミスが減少しないということは、本人がやる気がないということだと思う。

もともとSTAP細胞の真偽についての論争は、STAP細胞実験がなかなか再現できないというところから出たものではなく、小保方さんの過去の論文の発表資料の使い回しがあったり、早稲田大学での英文の博士論文の序論の部分の大半が、米国国立衛生研究所のサイトのES細胞に関する説明コピーだったということに端を発した。

これはネットのブロガーなどが見つけた不備で、STAP細胞の発表から1週間も経っていなかったので「クラウド査読」として話題になった。

製本して国会図書館に収められた博士論文が草稿段階のものだった。だから、相当な部分がコピペだった?

小保方さんだけの責任ではないかもしれないが、あり得ない言い訳だ。

この件に関しては、アマゾンのカスタマー・レビューで同じ意見を書いている人もあり、これまた賛否両論のコメントが寄せられている。


ともあれ、この本のあらすじを紹介する。

小保方さんは、高校受験に失敗し、大学はAO入試で入れる早稲田大学を選択した。早稲田では体育会のラクロス部で活躍し、理工学部の応用化学科に進学した。応用化学科に進学したのは、組織工学による再生医療に強い興味を持っていたからだ。

組織工学は、細胞と足場になる材料を用いて、生体外で移植可能な組織を作りだすものだ。

この分野が注目を集めるきっかけとなったのは、のちに小保方さんが留学するハーバード大学のチャールズ・バカンティ教授が人工的に作られたヒトの耳をマウスに移植した「バカンティ・マウス」を発表したからだった。

Vacanti_mouse















出典:Wikipedia英語版

組織工学を研究するために、早稲田大学が提携していた東京女子医大先端生命医科学研究所で、大和雅之教授の指導を受けて細胞シートを用いた再生医療技術を研究し、それが縁でハーバード大学に留学する。

ハーバード大学ノバカンティ研では、東京女子医大に比べると設備が揃っていなかったという。バカンティ教授は、麻酔学教室の教授であり、組織工学の第一人者ではあるが、ハーバード学内外で、あまり支援を受けていなかったようだ。

この本の最初の部分は、小保方さんが行った実験に関する技術的な説明で、脚注もないので、あまり一般読者を意識したものになっていない。

覚えておくべきなのは、もともと単一細胞の受精卵から細胞分裂を繰り返して体の各組織が形成されていくなかで、エピジェネティクスと呼ばれる、いわば鍵がかけられ、分化した細胞には多能性は失われるということだ。

そのエピジェネティクスを解除する方法が、iPS細胞では、4つの遺伝子で、STAP細胞は弱酸性の環境である。

STAP細胞の発表の際に、発表の司会を務めていた亡くなった笹井副センター長が、得意顔で「これでiPS細胞が時代遅れとなったとは、決して考えてほしくない」(正確な表現は思い出せないので、筆者の記憶)というようなコメントをしていたことを思い出す。

その時にマスコミに示され、あとで回収されたSTAP細胞とiPS細胞の間違った比較図は、いまだにネットで検索すると手に入る。

STAPiPS比較






























出典:インターネット検索

小保方さんは、バカンティ研所属の研究員として、理研の若山研で、バラバラのリンパ球にストレスを与え、Oct4陽性細胞に変化していくことを確かめる実験を行っていた。これが次のビデオにある実験の第一段階で、STAP細胞研究の発表の際に、公表されたスライドの緑に光る細胞だ。

その次の段階として、Oct4陽性細胞という多能性を示す細胞を使ってキメラマウスをつくる実験は、若山教授が担当していた。これはSTAP幹細胞への変化を立証するものだ。

最初は失敗の連続だったが、Oct4陽性細胞をマイクロナイフで切って小さくした細胞塊を初期胚に注入してキメラマウスができたという連絡があった。

しかし、これはゴッドハンドの若山教授しか成功していないもので、若山教授自身も「特殊な手技を使って作製しているから、僕がいなければなかなか再現がとれないよ。世界はなかなか追いついてこれないはず」と話していたという。

この作製方法は、結局小保方さんには明かされなかった。「小保方さんが自分でできるようになっちゃったら、もう僕のことを必要としてくれなくなって、どこかに行っちゃうかもしれないから、ヤダ」と言われたという。

キメラマウス作製のデータを作る際には、つじつまの合うデータを仮置きして、ストーリーにあわせたデータを作っていくという若山研での方法に従って行われた。

特許申請の手続きも開始され、若山教授は幹細胞株化は若山研の研究成果であり、特許配分も若山教授51%、小保方さん39%、バカンティ教授と部下の小島教授に5%ずつという特許配分を理研の特許部門に提案していた。

このころ、先輩研究員から、「若山先生の様子がおかしい」と言われたという(このあたりが伏線となる)。

小保方さんは、理研のユニットリーダーに応募して合格し、英語の論文をまとめるための指導教官として笹井芳樹副センター長が加わってきた。

STAP=Stimulus-Triggered Acquisition of Pluripotencyという名前を考えたのも笹井教授だ。

STAP論文は5ページくらいのアーティクルと3ページくらいのレターとして、ネイチャーに投稿していた。何度かのやりとりを経て、2013年12月にネイチャーからアクセプトの連絡があり、2014年1月28日に記者会見を開催した。



このときに使われた上記のiPS細胞との比較図に京大の山中教授が抗議して、理研はあとで配布資料を回収し、笹井教授は山中教授に謝罪している。

論文発表から1週間で、前述の通り、論文の写真の使いまわしの疑義があるという話が分子生物学会から理研に持ち込まれた。あとはご存知の通りの顛末だ。



この本で小保方さんは誰かがES細胞を混入させた可能性があるという状況証拠をいくつも上げて、その立場にいたのは研究室の責任者の若山教授ではないかと思わせるような発言を繰り返している。

さらに、若山教授は、論文撤回の際にも、他の著者たちに知らせずに単独で撤回理由書の修正を依頼していたという。

論文撤回の部分はともかく、誰かがES細胞を混入させたなどという証拠もない話を信じるほど世の中は甘くない。

若山教授もいい迷惑だと思う。

小保方さんは、NHKにも、また毎日新聞の須田桃子記者にも逆襲している。

「特に毎日新聞の須田桃子記者からの取材攻勢は殺意すら感じさせられるものがあった。」

須田さんは、先日読んだ「捏造の科学者」という本を書いている。須田さんは小保方さんの早稲田大学理工学部の先輩だ。

捏造の科学者 STAP細胞事件
須田 桃子
文藝春秋
2015-01-07



一方、今年に入って、ドイツのハイデルベルグ大学の研究チームが、小保方さんの作成手順を一部変更する形で細胞に刺激を与える実験を行い、多能性を意味するAP染色要請細胞の割合が増加することを確認したとする論文を発表している。

STAP細胞が再現できる可能性も出てきた。

筆者も、STAP細胞が再現できることはありうると思う。しかし、問題は、それが酸に浸されて死にゆく細胞の最後の光なのか、それともその後STAP幹細胞となる細胞分裂の始まりなのかという点だ。

ドイツでもキメラマウスはできていない。

結局、STAP細胞は単なる捏造騒動に終わるのではないかと思う。

最後に、アマゾンのカスタマー・レビューで、小保方さんの文章力をほめるレビューが結構ある。しかし、筆者はこの本は小保方さんの話をゴーストライターがまとめたものだと思う。

あのメモ程度の文章力しかない人が書ける文章ではない。

obokatamemo

























出典:”小保方メモ”ネット検索

この関係では「ビジネス書の9割はゴーストライター」という本のあらすじを紹介しているので、業界事情を参考にしてほしい。




これからも小保方さんは逆襲に転じるのだろうと思う。これは共同研究者同士のいわゆる「内ゲバ」に近い。STAP細胞というアイデアが実用化できない以上、無益な戦いに思えるのだが…。


参考になったら、投票ボタンをクリック願いたい。


  

Posted by yaori at 00:36Comments(0)TrackBack(0)自叙伝・人物伝 | 医療

2016年09月24日

神の雫作者のノムリエ日記 さすがプロ?のワイン通



ワインマンガ「神の雫」の原作者・亜樹直(あぎ・ただし)さん(実は姉弟の二人)が、asahi.comに2007年4月から毎週連載していたワイン日記の2008年4月までのものを集めたもの。ワイン日記自体は、それ以降も続き、2010年後半からは間隔が開いて1カ月ごととなった。2011年3月11日の東日本大震災後の4月5日付の「いまこそ飲もう! 東北&北関東のワイン」という回で終了している。

「神の雫作者のノムリエ日記」は今でもバックナンバーを閲覧できるので、興味のある人はクリックしてみてほしい。

神の雫はテレビドラマにもなっている。

神の雫 DVD-BOX
亀梨和也
VAP,INC(VAP)(D)
2009-06-24



マンガの方は全44巻で完結している。



世界的なワイン評論家神咲豊多香(かんざきゆたか)が亡くなり、時価20億円のワインコレクションが残された。彼の遺言は、このコレクションの頂点に立つ1本=神の雫と、12本のワイン=12人の使徒の銘柄と生産年を1年以内に言い当てた者が、遺産を手に入れることができるというものだった。

豊多香の息子で仲たがいしていた神咲雫(かんざきしずく)と、豊多香死の直前に養子縁組をした天才ワイン評論家の遠峰一青(とおみねいっせい、実は豊多香の私生児)が、遺言の謎解きをめぐって争う。

という、いかにもマンガらしい荒唐無稽なストーリーだ。

テレビドラマでは、亀梨和也が神咲雫を演じた。このマンガは、韓国でも大ヒットし、遠峰一青のモデルといわれるペ・ヨンジュンが韓国でのドラマの版権を買い取って、テレビドラマ化を目指していたが、韓国ではドラマの中で特定の商品を宣伝するプロダクトプレイスメントを禁止しており、実現できなかったという。

神の雫は、ワインを紹介するというストーリー展開なので、この漫画で取り上げられたワインは一躍有名になった。

その一例が、シャトー・モン・ペラだ。

シャトー・モン・ペラ ルージュ 2012年 フランス ボルドー 赤ワイン フルボディ 750ml 【YDKG-t】【12本単位のご購入で送料無料/ギフト・プレゼント対応可】【ギフト ワイン】【ソムリエ】【楽ギフ_のし】【あす楽_土曜営業】【あす楽_日曜営業】
シャトー・モン・ペラ ルージュ 2012年 フランス ボルドー 赤ワイン フルボディ 750ml

シャトー・モン・ペラは、人気になっても価格は安いままなのはすばらしい。作者の亜樹直さんも、ノムリエ日記で生産者のティボー氏の良心的な姿勢をほめている。

亜樹直さんが、ワインにのめりこむようになったきっかけは、DRCエシェゾーの1985年物を飲んだからだという。

[1985] エシェゾー 【ラベル汚れ】 Echezeaux ドメーヌ・ド・ラ・ロマネ・コンティ DRC
[1985] エシェゾー 【ラベル汚れ】 Echezeaux ドメーヌ・ド・ラ・ロマネ・コンティ DRC

今は到底高くて買えないが、10年ほど前までは、3万円程度ではなかったかと思う。当時はロマネコンティが、20万円弱だった。今はロマネコンティは、200万円以上する。

[1995] ロマネコンティ 【ラベル不良】Romanee Contiドメーヌ・ド・ラ・ロマネ・コンティ DRC[自社輸入]
[1995] ロマネコンティ 【ラベル不良】Romanee Contiドメーヌ・ド・ラ・ロマネ・コンティ DRC[自社輸入]

中国と東南アジアの経済成長により、成金が増えて、金に糸目をつけずにワインを買いあさっているから、高級ワインの値段は10年ほど前の10倍となっていると言われている。

ちなみに、「神の雫」で第一の使徒とされたのは、シャンボール・ミュジニーのレ・ザムルーズ(2001年)だ。 

ジョルジュ・ルーミエシャンボール・ミュジニー・プルミエ・クリュ・レ・ザムルーズ[2001] 赤 [750ml]
ジョルジュ・ルーミエシャンボール・ミュジニー・プルミエ・クリュ・レ・ザムルーズ[2001] 赤 [750ml]

ちなみにシャンボール・ミュジニー村は人口わずか300人余りの小さな村だ。

普通の年の同じワインが2〜3万円程度なのに、この2001年だけは10倍の24万円もする。「神の雫」効果がいまだにあるのか、わからないところだ。

シャンボール・ミュジニー[2013]ジョルジュ・ルーミエ(赤ワイン)[Y][A][P][S]
シャンボール・ミュジニー[2013]ジョルジュ・ルーミエ(赤ワイン)[Y][A][P][S]

まずは、ネットでバックナンバーを見て、興味のあるタイトルを読むことをお勧めする。

筆者も見た「モンドヴィーノ」のジョナサン・ノシター監督との対談も面白い。

「モンドヴィーノ」では、ロバート・パーカーの100点満点評価と、空飛ぶワインメーカーと呼ばれ世界中で同じタイプのワインをつくるワインコンサルタント・ミッシェル・ロランが暗に批判されている。

ノシター監督は1時間半遅れて、雪駄姿で現れたという。

モンドヴィーノ [DVD]
ドキュメンタリー映画
東北新社
2006-04-21



どのワイン日記も本にすると4ページ程度で、簡単に読める。気軽に読めるワイン読本である。


参考になったら、投票ボタンをクリック願いたい。



  

Posted by yaori at 22:57Comments(0)TrackBack(0)趣味・生活に役立つ情報 | ワイン

2016年09月21日

碧素・日本ぺニシリシン物語 戦時下の日本の抗生物質生産



以前紹介した畑村洋太郎さんの「技術大国幻想の終わり」に、畑村さんが学究の道に入るきっかけとなった本として紹介されていたので読んでみた。



この物語の中心人物、陸軍軍医少佐稲垣克彦は、東京大学医学部在学中に陸軍の依託学生となり、軍医任官後は、旧満州などの勤務を経て、昭和17年に陸軍軍医学校の教官となった。

稲垣軍医少佐は、太平洋戦争の始まる前の昭和16年4月に設立された総力戦研究所に在籍していたこともあり、その関係で、各省庁に知人がいた。総力戦研究所は、日本のトップ頭脳を集めた研究所で、第1期生35名が太平洋戦争が始まる前に、「総力戦机上演習」で日本必敗という結論を出し、時の東条英機首相が激怒して、一切極秘を厳命したという経緯がある。この話は、猪瀬直樹さんの本に詳しい。

昭和16年夏の敗戦 (中公文庫)
猪瀬 直樹
中央公論新社
2010-06-25


稲垣少佐は、米国から交換船で帰国した人が持ち帰った「フォーチュン」の記事で、当時治療薬として広く用いられていたサルファー剤(当時はドイツ語読みで「ズルフォン剤」と言われていた)が効かない病気にもペニシリンが奇跡的に効くと知った。

さらに情報を求めて、文部省の知己を訪問すると、ドイツから潜水艦で運ばれてきたばかりの医学雑誌を手渡された。この雑誌は英米のペニシリン研究に関するドイツの医学論文が掲載されていた。それにはカビから得られた抗菌性物質のペニシリンは、肺炎、膿胸、敗血症などを引き起こす肺炎双球菌、ブドウ球菌、連鎖球菌や、破傷風、ガス壊疽を起こすグラム陽性嫌気性細菌などの発育を阻止する力を持つと書かれていた。

ガス壊疽、破傷風、敗血症はいずれも軍陣医学にとって重要な感染症だ。

ドイツからの潜水艦による輸送については、このブログで紹介した「深海の使者」に詳しく紹介されている。この本では、様々な情報を総合して、ドイツの医学雑誌は、伊ー8号によって運ばれ、途中のシンガポールからは空輸されたのではないかという推測をしている。

深海の使者 (文春文庫)
吉村 昭
文藝春秋
2011-03-10


ペニシリンはよく知られているとおり、英国のアレクサンダー・フレミングが、生育していたブドウ球菌のシャーレに青カビが発生していることを発見し、それから細菌を殺す効果のあるペニシリウムというカビを見つけたことから発明された。ペニシリンは最初の抗生物質だ。

アレクサンダー・フレミング(切手になっている)

Faroe_stamp_079_europe_(fleming)



















出典:Wikipedia

当初、ペニシリンはカビから得られる量が少ないことから注目されていなかったが、オックスフォード大学のフローリーチェインがペニシリンに再注目し、米国のロックフェラー財団の支援を得て研究を続け、臨床試験で非常な効果があることがわかった。

第二次世界大戦がはじまると、傷病兵の治療用に大量のペニシリンが必要となったので、1943年の後半から米英で大量生産された。

実用化されたペニシリンQ176株は、米国の北部農業研究所があったイリノイ州ピオリアに住む主婦が、研究所がカビを探していることを新聞で読み、カビの生えたメロンを届け、このメロンから採取されたカビにX線を照射し、さらに紫外線を照射して生き残ったカビから生育されたものだ。

戦争が終わった1945年12月にフレミング、フローリー、チェインの3人はノーベル医学賞を受賞している。

稲垣少佐の文献研究とちょうどタイミングを同じくして、当時中立国だったアルゼンチンの朝日新聞ブエノスアイレス支局から、「敵米英最近の医学界 チャーチル命拾い ズルホン剤を補ふペニシリン」という特派員報告が昭和19年1月27日の朝日新聞に掲載された。

これに衝撃を受けた陸軍省は、その日のうちに「ペニシリン類化学療法剤の研究」を昭和19年8月までにという期限付きで、陸軍医学校に命じた。

第1回ペニシリン会議が昭和19年2月1日に開催され、七三一部隊で有名な石井四郎軍医少将も出席して、積極的に質問していたという。石井中将(その後昇格)は戦後、戦犯とならず(米国に細菌戦の情報を提供したためといわれている)、米国に招かれ朝鮮戦争時に米国がひそかに行った細菌戦を指揮したという噂がある。

陸軍医学校では勤労奉仕の一高生を30名ほど受け入れ、一高生は翻訳などに取り組んだ。日本各地の大学、研究所、製薬メーカーではペニシリン培養用に最適な培地とカビを探すために、様々な努力をしていた。そのうちこんにゃくの培地に蛹の煮汁を加えたものが良好な成果を示したが、当時はこんにゃくは秘密兵器風船爆弾の糊に使われるために入手困難だった。

東北帝大では、試作ペニシリンのマウス実験に成功し、発見菌株は「ペニシリウム・ノターツム・クロヤ・コンドウ」株と名づけられ、次第に力価を高めていった。東北帝大では臨床試験も実施し、9月には新聞にも報道され、特効薬・ペニシリンを求める人が東北帝大に殺到したという。

当時のペニシリンは純度が低かったが、不思議とよく効いた。純度が低いため、体内にとどまっている時間が長かったので、よく効いたのではないかといわれている。

昭和19年10月にはドイツからペニシリン菌株と資料が中立国とシベリア鉄道経由届いたが、ドイツの研究は遅れており、日本の菌より力が弱かった。昭和19年の初めに、ヒトラーは自分の主治医をペニシリンの発見者として第一級鉄十字勲章を与えていた。しかし、この発表はねつ造であることが戦後発覚した。ヒトラーのあせりがうかがわれる。

日本のペニシリンの初期投与者には、南京に新日傀儡政権を樹立した後、日本に亡命していた汪兆銘がいる。汪兆銘は、名古屋帝大の附属病院に入院していた。骨髄腫だったので、ペニシリンの薬効はなく、昭和19年11月に死亡している。

この本では、東大医学部、東大農学部、伝染病研究所、東京女高師、海軍が依託した小林研究所(ライオン歯磨)、慈恵医大、慶応大学など、日本各地の研究機関で物資が乏しい中、一斉に研究が進められていた様子を描いている。

昭和19年11月には朝日新聞はじめ各紙が、「短期間に見事完成 世界一ペニシリン わが軍陣医学に凱歌」という題で大々的に研究成果を報じている。

しかし、物資不足に悩む日本では量産化できる工場はほとんどなかく、万有製薬、宇治化学、三共、帝国臓器などのメーカーが関心を示していたが、最終的に森永乳業の三島工場(当時は森永食糧工業の三島食品工場)で、試験生産が始まることになった。

牛乳からバターなどを取った残りのホエイを培地にして、森永ではペニシリンの生産が続けられ、陸軍病院や大学病院に送られた。当時の生産量の記録は残っていない。

戦時中のことでもあり、ペニシリンという名前は敵性語だということで、「碧素」という日本名がつけられた。この本では、昭和19年11月末にはB29による東京空襲が始まり、日本各地が爆撃を受ける中でのペニシリン生産と、負傷者に適用されたペニシリンの高い薬能を紹介している。

軍医学校も昭和20年5月に焼け落ち、疎開資料は東京帝大と山形県に送られた。東京帝大の寄託資料は、東大紛争の時に、学生が衛生学教室に乱入し、資料を焼いてしまった。もう一つの山形県に送られた資料は、戦後エーザイの創業者の内藤記念くすり資料館(岐阜県)に移され、日本のペニシリン研究資料として展示されている。

Naito_Museum_of_Pharmaceutical_Science_and_Industry01






















出典:Wikipedia

この本の最後の方に、終戦直前の昭和20年7月に稲垣少佐が家族を疎開させていた沼津市近郊の志下(しげ)に行くために沼津駅から江梨行きの木炭バスを待っていた時のエピソードが載っている。稲垣少佐の軍服につけた軍医の胸章に気付いた客から、甥が敗血症で死にかかっており、どうしても碧素を手に入れたいという相談を受け、持っていたペニシリンを渡し、あとは森永の工場からもらうように伝えたという。

戦後30年経って、昭和50年に放送されたNHKのスポットライトという番組の「碧素誕生」という回に、稲垣さんが出演し、依頼を受けた大谷実雄さんと30年ぶりに再会し、ペニシリンで救われた川口隆次とも会っている。

ちなみに、この沼津駅発江梨行きのバスは今でも運行しており、筆者も西伊豆の戸田に行くときに利用している。山本コータローの「岬めぐり」のバスのような、海と山の間を走るバスだ。



戦後は「ペニシリンは儲かる」という話が広まり、昭和22年にペニシリン協会に加盟していた会社は80社を超え、製薬メーカーはもちろん、台糖、菓子メーカー、合繊メーカー(東洋レーヨン(東レ))まで種々雑多な業種が参入していた。

昭和21年1月にGHQは突然日本のペニシリンの販売を禁止した。そして5月に突然販売禁止が解除された。なんの理由も発表されなかったが、日本のペニシリンは世界の水準に達していないというのが理由だったという。

GHQは昭和21年8月にペニシリン研究の権威、テキサス大学のJ.W.フォスター教授を招いて、日本各地でペニシリン生産上の秘訣を公開講演し、日本各地の工場を積極的にまわって指導した。フォスターは「日本ペニシリンの恩人」と感謝されている。

日本のペニシリン生産は、昭和21年3万単位、1万1千本が、昭和22年10万単位、6万5千本、昭和23年には10万単位、25万6千本と加速度的に増加し、昭和23年からペニシリンが広く一般に使われるようになった。日本で広く使われたのが前述のピオリア市の主婦が届けてきたメロンから採集したQ176株だ。

昭和24年には国内需要を満たし、昭和25年には朝鮮戦争が起こったために、米軍が買い上げて、日本の薬品が外貨を獲得した最初となり、ペニシリン生産額はさらに増大した。

昭和10年の日本人の平均寿命は50歳で、明治20年ころからほとんど変わっていなかったが、ペニシリンが広く使われるようになった昭和23年から日本人の平均寿命は急に延びはじめ、昭和26年からはストレプトマイシンが使われるようになって日本人の結核による死亡者は激減し、昭和30年に65歳に達した。

今や様々な抗生物質が市場に出ている。

この本にも登場する稲垣さんの東大医学部の同窓で、東大伝染病研究所に勤務していた梅沢浜夫さんが書いている「抗生物質の話」も読んだので、今度あらすじを紹介する。

1962年の発刊だが、日本の抗生物質研究の第一人者が書いた本なので、抗生物質の基本がわかり参考になる。



筆者自身も5歳の時に骨髄炎にかかり、たしかアクロマイシンという抗生物質で完治した。左腕に手術跡があるが、今はなんともない。

そんな体験があるので、興味深く読めた。

古い本だが、大きな図書館なら置いているところがあると思うので(筆者も港区図書館から借りて読み、大変気に入ったのでアマゾンのマーケットプレースで買った)、最寄りの図書館をチェックしてみてほしい。


参考になったら、投票ボタンをクリック願いたい。


  

Posted by yaori at 07:38Comments(0)TrackBack(0)歴史 | 医療

2016年09月10日

パワーリフティングはパラリンピックの正式種目

パワーリフティング(通常はベンチプレス、スクワット、デッドリフトの三種目)はオリンピックの正式種目とはなっていないが、パラリンピックでは正式種目として採用されている。

大会前の東京の都営大江戸線の地下鉄の各駅に、パラリンピック種目が紹介されていた。

20160829_190714





















筆者の利用する麻布十番駅ではパワーリフティングを紹介していた。

20160829_190658























20160829_190740







































オリンピックでは足の不自由な選手向けにベンチプレスのみの記録で競う形となっている。

上記の写真はパワーリフティング88キロ級に出場する大堂秀樹選手のものだ。

すでにリオ・パラリンピックの競技ははじまっており、54キロ級に出場した西崎選手は、試技を3回とも失敗して、残念ながら記録なしにおわってしまった。

テレビで見た限りでは、3回目は成功しているように思えたが、失敗の理由がよくわからない。あるいは審判の指示が出る前に、バーベルをラックに戻すとかいったことなのかもしれない。

筆者もここ数年、年に1回、大学の現役の記録会にOBも参加する形で、ベンチプレスのみ参加しているが、直近の記録会では、3回失敗して記録なしに終わってしまった。

練習では一度も失敗したことのない重量だったが、どういうわけか腕が伸びきらなかった。

筆者は40年ほど前は学生のパワーリフティング大会にも出場していた。

学生大会では一度も3回連続失敗というのはなかっただけに、ショックだったが、来年の記録会で雪辱をすべく今はトレーニングの種目構成を変えて、ウェイトトレーニングに励んでいる。

ベンチプレスではパラリンピアンのほうが、健常者より重い重量を挙げるということが起きる。

西崎選手も、東京パラリンピックまでにさらに記録を上げて、ぜひ雪辱をしてほしいものである。

次は88キロ級の大堂秀樹選手の活躍も期待したい(大堂選手の結果はこちら。東京大会を期してまたトレーニングに励んでほしい)。


参考になったら、投票ボタンをクリック願いたい。


  

Posted by yaori at 22:06Comments(0)TrackBack(0)スポーツ 

2016年08月30日

iPS細胞が医療をここまで変える iPS細胞研究の最新情報

iPS細胞が医療をここまで変える (PHP新書)
京都大学iPS細胞研究所
PHP研究所
2016-07-16


2006年に発表されたiPS細胞の発見から10年経って、現在のiPS細胞研究の現状をまとめた本。

京都大学iPS細胞研究所所長の山中伸弥教授が監修している。

iPS細胞の基本的なことについては、以前山中教授と益川教授の対談「『大発見』の思考法」のあらすじで紹介しているので、こちらを参照願いたい。

「大発見」の思考法 (文春新書)
山中 伸弥
文藝春秋
2011-01-19


iPS細胞は、細胞に3〜4の遺伝子を加えると、体のどんな細胞にも変化できる幹細胞となるというものだ。

iPS細胞はほぼ無限に増やせ、ほぼすべての細胞になることができる。

用途としては、本人の細胞から網膜や臓器など、いろいろな部位を拒否反応なしでつくる再生医療と、マウスなどの動物を使用せず、直接ヒトの細胞をつかって薬のテストや病気になるメカニズムを解明する病気や薬の研究だ。

これらの研究には従来ES細胞という受精卵を用いた細胞が使われてきたが、受精卵という将来人間に成長する可能性のある細胞を研究に使うことに倫理的な問題があり、米国のブッシュ政権はES細胞の研究に公的研究費の支給を禁止した。

iPS細胞は、ES細胞と同様の初期化された細胞でありながら、倫理問題がなく、しかも本人の細胞を使えるということで、画期的な発明である。

さて、最初のiPS細胞発見の発表から10年経って、この本では日本や世界の次のような研究機関でのiPS細胞研究や支援の現状をリポートしている。

日本
・京都大学CiRA(iPS細胞研究所、サイラ)
CiRA、理化学研究所、大阪大学、神戸市立医療センターの共同による加齢黄斑変性の患者に対する他人のiPS細胞からつくった網膜の細胞移植成功

米国:
UCSF(カリフォルニア大学サンフランシスコ分校)の山中教授が兼任しているグラッドストーン研究所
・スタンフォード大学
・カリフォルニア再生医療機構
・ニューヨーク幹細胞財団
・ハーバード幹細胞研究所

ヨーロッパ・アジア:
・カロリンスカ研究所(スウェーデン)
・ユーロ・ステム・セル
・ケンブリッジ大学
・シンガポール科学技術研究庁(A*STAR)
韓国・CHAヘルスシステムズ

残念ながらここで特筆するような研究成果はなく、発見から10年たっても、基礎研究の段階のところが多い。

ただ、再生医療の分野では、数万あるといわれている細胞のHLA型のなかで、父からも母からも同じHLA型を受け継いだHLAホモ接合体の人の細胞を使ってiPS細胞をつくると、拒絶反応が少なく移植できるという話はグッドニュースだ。

再生医療では、次が5年以内に臨床応用が見込まれている。

・ドーパミン算生神経細胞(パーキンソン病治療)
・角膜
・血小板
・心筋
・軟骨
・神経幹細胞

筆者の亡くなった母もパーキンソン病を患っていた。

この本では、娘と息子が先天性糖尿病なので、糖尿病の治療法を研究している米国の学者など、医学の発展のために日夜努力している研究者が多く紹介されている。

時間はかかるだろうが、少しずつは進歩している。ぜひ早急に実用化につなげてほしいものである。


参考になったら、投票ボタンをクリック願いたい。


  

Posted by yaori at 07:53Comments(0)TrackBack(0)趣味・生活に役立つ情報 | 医療

2016年08月14日

柔道ニッポン復活に貢献した石井教授の愛弟子・岡田隆日体大准教授

NHKの「クローズアップ現代」が久々にクリーンヒットを飛ばした。柔道ニッポン復活をオリンピック直前の番組で予言したのだ。

NHKクローズアップ現代






















リオオリンピック直前の8月4日に放映した「リオ五輪“最強伝説”への道 柔道・井上康生監督 再び頂点へ」がそれだ。
NHKのサイトで、番組の内容が詳しく紹介されているので、上記リンクをクリックしてみていただきたい。

井上康生監督のもと、新たな戦略で4年間取り組んだ成果が、リオオリンピックの男子全階級メダル獲得という輝かしい結果だ。その結果を予測させるような優れた構成のオリンピック直前番組だ。

井上康生監督は、「世界の柔道に対応していくためには、そのルーツから勉強しないと対応できない。」との考えで、ブラジリアン柔術や沖縄角力のトレーニングを取り入れた。

そして、もう一つ強化したのが筋力トレーニングだ。東大の石井教授の愛弟子の岡田隆日体大准教授をトレーナーに採用して、選手の筋力の強化に努めた。

ラグビージャパンのエディ・ジョーンズヘッドコーチのフィジカル強化を思いださせる手法だ。

岡田隆准教授は、現役のボディビルダーで、2014年の東京オープンボディビル選手権大会の70キロ級で優勝している。

今回のリオオリンピックのテレビ中継でも、常に井上康生監督の横に座っていたインテルの長友選手に似た人なので、気付いた人もいると思う。

筆者が岡田准教授の存在に気付いたのは、井上康生監督が出席した、東大スポーツ先端科学研究拠点の発足セミナーだった。石井教授が、東大スポーツ先端科学研究拠点の拠点長に就任したお披露目のセミナーで、このときも岡田准教授は井上康生監督と一緒に行動していた。

テレビの映像ではあまりわからないが、半そでシャツからのぞく腕の太さは相当なものだ。

その岡田准教授が書いたトレーニングの本がいくつかあるので、紹介しておく。

筋力トレーニングだと。



体脂肪減少だと。



筆者も筋力アップをめざしているので、「筋肥大メソッド」は参考になりそうだ。さっそく読んでみる。


参考になったら、投票ボタンをクリック願いたい。



  

Posted by yaori at 23:45Comments(0)TrackBack(0)スポーツ | 石井直方

2016年08月07日

影響力の武器 カーネギーとは比較にならないと思うけど

影響力の武器[第三版]: なぜ、人は動かされるのか
ロバート・B・チャルディーニ
誠信書房
2014-07-10


現在アマゾンの本の売り上げランキングで205位につけているベストセラーだ。

京大客員准教授の瀧本哲史さんの「読書は格闘技」に、カーネギーの「人を動かす」と対比して紹介されていたので読んでみた。



瀧本さんによるとカーネギーの「人を動かす」は、「他者を味方につける」分野のチャンピオンだが、致命的な弱点があるという。

それは読みやすさを作り出しているエピソード中心の構成は、科学的な実証性に欠け、全部で30も原則があるというのは、体系性がないし、抽象度のレベルもそろっておらず、重なりもある。

チャレンジャーの「影響力の武器」はその弱点を正確についてきたという。著者は米国を代表する社会心理学者ロバート・B・チャルディーニで、この本で紹介されている人を動かすテクニックは、社会心理学上の実験によって証明されているものばかりで、実験には学術論文の出典が示されている。

とはいえ、筆者には「人を動かす」と「影響力の武器」は全く別物に思える。

「人を動かす」は科学的な実証性に欠けると瀧本さんは言うが、実証性があろうとなかろうと筆者には関係ない。自分で試してみて、それが役に立てば、それで良いのである。

多くの人が、カーネギーの本を推薦書に挙げるのは、その人に役に立ったからだろう。

第一、「人を動かす」は読んでいて、新たに感動を覚えることが毎回あるが、「影響力の武器」は、学術書であるからかもしれないが、感動が全くない。

ともあれ、「影響力の武器」は何かを他人に売ろうとするときには役立つ社会心理学の法則を集めた本なので、参考になる点も多い。法則のいくつかを紹介しておく。

1.カチッ・サー
この本で「カチッ・サー」という訳で紹介されている英語の"automaticity"とは、テープレコーダーに行動パターンが録音されているように、一定の条件で、スイッチが入って、同じ行動が現れることをいう。

実験として紹介されているのは、図書館のコピー機で、「すみません。5枚だけなんですが、先にコピー取らせてもらえませんか?」という実験だ。理由を言って頼む場合と、何も理由を言わずに頼む場合では、成功率が倍違ったという。

セールスに役立つ例としては、宝石店ですべての商品の値段を間違って倍にしたら、陳列ケースの商品がすべて売り切れたという。

「高価なもの=良いもの」というステレオタイプが、お客の心理にぴったり、はまったのだ。

2.コントラストの原理
洋品店では、客に高い商品を先に買わせるよう店員を指導しているという。(ちょっと半端な数字だが)275ドルのスーツを買った人には、75ドルのセーターは安く感じる。スーツと一緒に小物を買わせるのも同じだ。

車のディーラーも同じだ。数百万円の車を買った後は、数万円のアクセサリーやオプションは取りに足らないものに見えるが、最終価格はオプションで跳ね上がってしまうことがしばしば起こる。

不動産のセールスマンは、最初に魅力のない物件を紹介するという。「セットアップ」物件と呼んで、これらは客に売るためではなく、ただ他の住宅を魅力的に見せるために入れられる。

3.返報性
ちょっとしたギフトやおまけを受け取ることで、客は買うつもりがなかったものも喜んで買うようになる。スーパーマーケットの無料試供品や試食品がいい例だ。

アムウェイ社は、家具用クリーナー、洗剤、防臭スプレー、殺虫剤、窓ふきクリーナーなどを無料試供品としてひとまとめにして、2〜3日置いていくという。数日後に取りにきて、気に入ったものだけを買うシステムだ。客は少しでも使ったものは、注文しなければ悪いという気持ちになってしまう。

この本にはアメリカ退役身障者軍人協会の住所ラベルシート付の寄付要請のことが書いてある。米国に住んでいた時に、よく受け取ったものだ。

単に寄付を要請すると、成功率は18%だが、自分の名前と住所を印刷したラベルシートを同封して寄付を要請すると、成功率は倍の35%に跳ね上がったという。

4.ドア・イン・ザ・フェイス・テクニック
最初に大きな要求を出して、それが拒否されたら小さい要求を出す。ボーイスカウトの大会チケットが例として挙げられている。まず、5ドルのチケットを買ってくれと頼み、それがダメなら1ドルのチョコバーを買ってくれと頼む。

5.コミットメントと一貫性
クリスマスシーズンには、決まってその時の人気ギフトが登場する。この本では、キャベッジバッチキッズ、ビニーベービーズなどが紹介されている。筆者が覚えているのは「たまごっち」、今だったらポケモンとかだろう。







クリスマス前に人気が沸騰して、手に入らなくなり、なんとか手に入れることができたのはクリスマスが終わってからというよくあるパターンだ。おもちゃメーカーは、クリスマスが過ぎても販売を持続することができる。

5.フット・イン・ゼ・ドア・テクニック
まず小さい要求で承諾をもらい、次に大きな要求を出す。この本の例は、最初に「安全運転」シールを貼ることをOKもらい、次に「安全運転をしよう」という大きな看板を設置することにOKをもらうというやりかただ。

看板を置くことを最初に要求された人は17%しか、看板設置にOKしなかったが、最初に「安全運転」シールを貼ることをOKしたグループは、実に74%が看板設置をOKした。シールを貼ることで、コミットメントが生まれ、看板設置までもOKしてしまうのだ。

筆者も最近この事例を経験した。

筆者の会社は普通の売り込みは一切シャットアウトだが、某生命会社のセールスレディはエレベーターホールまで行けるのだ。先日保険のセールスレディから、エレベーターホールでティッシュをもらったら、名前を聞かれたので、保険は間に合っていると言いながらも、名前を教えてしまった。

そうすると、次は生年月日を教えてくれという。これは拒否して、切り抜けたが、まさにフット・イン・ゼ・ドア・テクニックそのものだ。

6.ローボール・テクニック
最初にある条件で承諾を得て、あとからその条件をひっくり返して、もっと店に有利な条件で契約するやりかただ。

たとえば新車を500ドル安い値段を示して、客から買う約束を取り付けた後、ローン申し込み書などにサインしていると、計算上のミスとかが発見されたり、価格が安すぎてマネージャーのOKが取れないとかいった理由で、当初より高い値段で買わせる手口だ。

チャルディーニさんは、地元のシボレー販売店で、セール訓練生のふりをして紛れ込んでいた時に、この策略に接したという。

会員制リゾートで、アンケートと称して、旅好きだという証拠を挙げさせておいて一貫性に付け込んで、会員権を売り込むやり方は、一貫性を保ちたいという人の弱点を突いたやり方だ。

7.自殺報道は類似した人々の自殺を促してしまう
自殺報道は類似した人々の自殺を促してしまうという統計が示されている。

8.類似性を操作することによって、好意と承諾を得る
車のセールスマンは、類似点の手がかりを探すように訓練されている。旅行、ゴルフ、出身地、出身校など。

保険会社のセールス記録を調べたある研究者は、年齢、宗教、喫煙の習慣がセールスマンと似ている客は、保険契約をしやすいことがわかったという。

ギネスブックに載っている世界一の車のセールスマンは、毎月13,000人ものお客さんにメッセージを印刷したカードを送っていたという。あからさまな好意の表現が効果があったのだ。

9.希少性
不動産のセールスマンは、なかなか決断できない客に、別の買い手が現れたという話をでっちあげることがある。好んで用いられるのは、「税金対策として物件を物色している州外の投資家」や、「この町に移り住むことになった医者夫婦」だという。

チャルディーニさんの弟のリチャードの学生時代の金儲けの話が紹介されている。リチャードは週末に中古車を数台買っておいて、次の週の日曜版で広告を出す。広告を見て電話してきた見込み客にはすべて、車を下見する時間として、同じ時間を指定する。そうすると鉢合わせした客同士でライバル心から言い値で車が売れるのだという。

このような実際的なテクニックを紹介しているので、車や不動産、保険などを買おうとしている人は、セールスマンの手口に引っかからない様に読んでおくことをお勧めする。

もちろん自分がセールスを担当している人にも役に立つだろう。

参考になったら、投票ボタンをクリック願いたい。


  

Posted by yaori at 23:00Comments(0)TrackBack(0)趣味・生活に役立つ情報 | 成功哲学

2016年07月08日

無名碑 曽野綾子さんの名著 文庫で復刊され手に入りやすくなった





曽野綾子さんの1969年(昭和44年)出版の作品が復刊された。

筆者の学生時代からの友人がやっているラミーズ六本木の常連・講談社文芸第二出版部鈴木副部長から本を頂いた。

この本は、高度成長時代を迎える昭和30年代の日本の土木業界を取り上げた小説で、主人公は大手ゼネコン・作並建設の土木技術者、三雲竜起(みくもりゅうき)だ。

27歳の三雲は福井県の五条方水力発電所の工事に携わった後、東京の本社への転勤辞令を受けた。

三雲は転勤の際に、鶴来(福井県)の祖母を見舞ってから、東京に行くことにした。三雲の父は、鶴来から列車で30分の金沢に住んでいるが、三雲は父のところには顔を出さなかった。

三雲の父親は元裁判官で、三雲が8歳の時に、ある理由で三雲の実母を離縁した。母は離縁されて、ほどなく結核で亡くなった。三雲は、母を結果的に死に追いやった父をずっと許せないでいた。

石川から東京行きの車中で、三雲は二人の若い女性と知り合いになる。金沢大学生の徳永容子と、神奈川県の三崎にいる親類を訪ねるという颯田善江(さったよしえ)だ。

この二人が小説の展開の弾み車になっている。

容子は恋人と同棲していた過去があり、今風に言うと容子の「元カレ」がいきなり、三雲の会社に容子と付き合うなと忠告に来る。

三雲はほどなく只見川水系の田子倉ダムの建設現場に配属される。日本最大規模の水力発電所を建設するのだ。

曽野綾子さんの人物や風景の描写は、女性作家らしく非常にきめ細かくて感心する。しかし、この小説の最大の魅力は、使われている重機等の説明も含めて、土木工事現場が、読む人にわかりやすく、ビビッドかつダイナミックに表現されていることだ。

ダム現場で使うケーブルクレーン、それから三雲の次の現場の名神高速道路の茨木付近のサンド・パイル工事、ドイツ製のペコ・ビーム、アメリカ製の舗装機械・アスファルト・フィニッシャー、マカダム・ローラーなどなど。

三雲の三番目の現場は、タイのチェンマイ近くのアジア・ハイウェイにつながる道路工事現場だ。

アジア・ハイウェイは東京の日本橋からイスタンブールまで至る道で、アジア32カ国を横断する現代のシルクロードだ。

アジア・ハイウェイを通って、ロンドンからカルカッタに行く定期便のバスが3カ月に一度出ていると、紹介されている。本当にそんなサービスがあったのかどうかわからないが、3台編成で、1台は乗客用、1台は食料等の輸送用、1台は修理工具運搬用だという。

アジア・ハイウェイの現在の全体図は次の通りだ。

000022181





















出典:国土交通省ホームページ

アジア・ハイウェイのアフガニスタン部分では、米国がアスファルト工法、ソ連はコンクリート工法で競って舗装工事をやっており、工法が違うまま堂々たるハイウェイができあがりかけていたという。

1989年に出張で行ったロシアのウラル地方の、エカテリンブルグからセーロフ・クロム工場までのコンクリート舗装の道を思いだす。フラットではあるが、乗り心地の悪い道だった。

この本では、袖の下なしでは動かない当時のタイのビジネスの実態と、タイの田舎での生活を描いている。

三雲の私生活は波乱万丈だ。田子倉ダム工事の時代に、徳永容子と結婚するが、生まれた長女は心臓に欠陥があった。筆者の長男も大動脈縮窄症で、1歳の時に米国で手術して、今はなんともないが、他人事に思えない。

颯田善江も、数回の結婚で苦労しながら、ところどころで登場する。

三雲がタイに駐在してからも、工事は様々な困難に直面し遅れに遅れる。それでも完工を目指す作並の技術者たち…。

上下巻で、約950ページのこの本を読み終えた後、読者は読み終えたという達成感と同時に喪失感にとらわれるだろう。

曽野さんの文章は超一流で、生きざまを生き生きと描いている。文庫で復刊して手に入りやすくなったので、ぜひ一度手に取ってもらいたい名著である。

なお、冒頭で紹介した筆者の友人・ラミーズオーナーの内田さんの息子の内田朝陽君は、現在金曜日の10時からNHKで放映中の「水族館ガール」に出演している。面白いドラマなので、こちらも紹介しておく。

水族館ガール






















参考になったら、投票ボタンをクリック願いたい。








  

Posted by yaori at 12:40Comments(0)TrackBack(0)小説 

2016年06月26日

日本会議の研究 まるで謎解きのようなノンフィクション



大学の先輩から勧められて読んだ。

それまで日本会議なるものの存在すら知らなかったので、こんなに政治的にパワフルな右翼集団が、自民党を動かしているとは知らなかった。

日本の国会議員の4割が日本会議に参加しているという報道もある。

ちなみに、ともに就任直後に辞任した松島みどり元法相と小渕優子元経産相は日本会議議連のメンバーではなく、「みんなで靖国神社に参拝する国会議員の会」のメンバーでもなかった珍しい例だという

日本国憲法を改正しようという勢力は、2016年7月10日の参議院選挙で勝利して、参議院の2/3の議席を確保し、憲法改正ができる基盤を整備しようとしている。

それの中心が日本会議だ。

日本会議はホームページを開設している。日本会議のブログへのリンクなど、日本会議の現在の活動がわかるリンクもあるので、参照してほしい。

この本の著者の菅野完(すがのたもつ)さんは、サラリーマン時代にコツコツと日本会議の資料を集め、会社をやめて著述業に専念するようになったという経歴を持つ。Wikipediaでも菅野さんの経歴が紹介されているが、毀誉褒貶が多く、何が正しいのかよくわからない。

日本会議から出版元の扶桑社に対して、この本の出版停止要求が出されており、それもあってアマゾンでは本のベストセラーの17位(本稿執筆時点)となっている。

日本会議は、1960年代後半の長崎大学の学園紛争に勝利した椛島有三現日本会議事務総長らの右派学生を中心とした日本青年協議会が母体となっており、もともとは宗教団体の生長の家の信者の政治活動とも密接なつながりを持っていた。

安倍首相のブレーンの一人とされる日本政策研究センター所長の伊藤哲夫氏、政府の御用学者となっている百地章国士舘大学大学院客員教授などが日本会議の主要メンバーだ。

日本会議の動員力はすごい。現在も憲法改正を実現するために、1,000万人の署名を集めており、ホームページにも「憲法改正を実現する1,000万人ネットワーク」へのリンクが張ってある。菅野さんがこの本で紹介している「武道館1万人大会」の様子も紹介されている。

集客力こそ自民党が日本会議と切っても切れない絆を保っている理由だろう。

生長の家は、谷口雅春氏が創始者の宗教団体で、谷口氏の著書の「生命の実相」は全40巻で、通算1,900万部売れているという。

生命の実相―頭注版 (第1巻)
谷口 雅春
日本教文社
1962-05


生長の家は1980年代に政治活動をやめている。

生長の家の現総裁の谷口雅宣氏は、この本を推薦し、2016年7月10日の参議院選挙では、与党とその候補者を支持しないとブログで語っている

現在の生長の家は、元信者の多くがつくった日本会議を支持していないのだ。

この本は日本会議と主要な日本会議のメンバーの活動に関し謎解きのような展開で、大変興味深く読める。

詳しい内容については、ネタバレになるので詳しく紹介しないが、アマゾンで、なんと139件ものカスタマーレビューが寄せられており、カスタマーレビューをざっと見ただけでも大体の感じはわかると思う。

ベストセラーとなっているので、ぜひ本屋で手に取ってパラパラ見てほしい。新たな発見があるはずだ。


参考になったら、投票ボタンをクリック願いたい。



  

Posted by yaori at 01:10Comments(0)TrackBack(0)趣味・生活に役立つ情報 | ノンフィクション

2016年06月14日

技術大国幻想の終わり 日本産業界の生きる道は「価値」の追及



失敗学の権威・畑村洋太郎東大名誉教授の近著。

この本のカバーに結論が書いてある。

「技術では負けていない!」という思い込みを捨てよ。

「品質」、「機能」はもはや競争力にはならない。これからは人々の欲しがる「価値」を突き詰めろ。


まさにその通りだと思う。

畑村さんは、まずご自身が昔読んで感銘を受けたという「碧素(へきそ)・日本ペニシリン物語」を紹介する。



第2次世界大戦中にアメリカ・英国で実用化されて、多くの傷病兵を救うことになるペニシリンが開発されたという事実を、戦争中にドイツから戻った潜水艦が持ち帰った医学誌で知った日本の医学者が、非常な努力の末、10カ月という短期間で開発に成功する話だ。

戦後50年の日本は、次の絵のように、闇夜に光る灯台のように「答えは存在する」という事実があるだけで、人はその方向に向かって努力し続けられてきた。畑村さんは灯台に向けて和船で漕いでいる絵をシンボリックに掲載している。

ちなみに、この絵は西伊豆の戸田(へだ)で、和船を漕いだことがある人にはピンとくるはずだ。そう、戸田湾の湾口突破すると、左に灯台が見えるのだ。

畑村研究室(現在は中尾研究室)は、毎年研究室の夏合宿を戸田で行っているから、この和船の絵になったのだ。

img051





















出典:本書20ページ

しかし、それに次ぐ20年は、「答え」を自分で探さなくてはいけなくなって努力の方向を見失った20年間なのだと畑村さんは語る。

日本の産業界が行き詰っている原因は日本の製品の品質が世界一だという品質幻想だ。品質幻想には次の3つがある。

1.「日本人がつくるものが優れている」という幻想。
 たとえば、日本でつくる日本車のほうが、海外でつくる日本車よりも品質は優れているというような幻想だ。実際には、日系自動車会社ではブラジルで作っている日本車と日本でつくっている日本車の品質は変わらないという。むしろブラジルのほうが、生産性が高いので、日本より良いという。

2.「職人の技幻想」
 たとえばアップルのiPodのステンレスケースは、当初新潟県の燕の金属加工業者が加工していた。ところが、そのうち中国でもできるようになり、燕への注文は来なくなった。職人の技がデジタル制御の加工機械に置き換えられているのだ。

3.品質という言葉に対する間違った理解
 品質とは、あくまで消費者の要求に応えているかどうかで決まってくる。「品質の良いものをつくれば売れる」というのは誤解だ。消費者が求めているのは、良い品質だけではない。「適切な品質」、「適切な価格」、「デザイン」、「必要な機能」、「使いやすさ」、「楽しさ」、「サービス」といった要素すべてで、これらを満たす製品が良い製品なのだ。

もう一度消費者と向き合い、市場を観察しないと、まさに闇夜に海図も持たないで漕ぎ出すことになってしまう。

消費者の求めているものをつくるということを徹底しているのが、韓国のサムスンだ。

この違いは、「価値」を考えることの重要性を理解しているかどうかだ。

畑村さんは、インドに出張した時に、現地企業の社長から、「日本の企業はたしかにどうやってつくるかという構造を考えるのはうまい。でもその土地や土地に住んでいる人々が大切にしている文化のことはあまり考えていません。これは日本企業が価値について真剣に考えてこなかったからではないですか」と言われたことを紹介している。

たとえばインドで売れている電気冷蔵庫は、鍵がかけられ、停電しても何時間は持たすように冷気が上から降りてくる構造だ。サムスンやLGなどの製品がよく売れているという。

畑村さんは、サムスンの元常務だった吉川良三さんとHY研という研究会をつくっている。

以前あらすじを紹介した「『タレント』の時代」の著者の酒井崇男さんはHY研のメンバーだ。



畑村さんは、酒井さんの本から、ある大手通信系の研究所は優秀な若者たちの就職先として知られているが、実際には市場で通用する研究成果がほとんど出てこないまま、毎年数千億円規模の研究費を消化し続けていることを紹介している。

まさに「価値」を考えていない結果である。

サムスンは毎年何百人かの地域専門家を海外各地域に送り出している。

語学研修を終えた後、現地の人と同じように生活することで、その現地の人の習慣や欲求、考え方を吸収していく。現地の文化を身につけた人間を養成することで、はじめて現地の人の価値観にあった商品をつくりだすことができると考えているからだ。

サムスンが変わったのは、1997年の韓国における通貨危機がきっかけだという。このとき韓国は国家の存亡の危機にさらされたが、そんな状況の中で社員の多くが危機意識を持ったことが当時進めていた様々な改革につながったという。

この本では、畑村さんが見聞した世界各地の事例が紹介されていて参考になる。

・中国では自転車はほとんど姿を消し、いまでは見た目はスクーターと変わらない電気自転車が主流だ。年間3,000万台生産しているという。原理的には電気自転車を2台組み合わせれば、電気自動車ができる。

電気自動車が主流になると、電気製品のように組み合わせ技術でつくられるようになる。製品のデジタル化・モジュール化・コモディティ化が進めば、世界のどこで生産しても同じものができるようになる。

・スティーブ・ジョッブスは、いままで機能を中心に考えられていた電化製品の見た目の格好良さ、肌触りといった五感のイメージに徹底的にこだわった。たとえば、iPhoneが入っている紙箱のコストに、600円かかっているという試算があるという。筆者も、他の電気製品の箱はすぐにリサイクルに出してしますが、アップル製品の箱は取っている。なるほどと思う。

・インドの自動車産業は2020年には1,000万台を超えるという予測があり、これは現在の日本の自動車生産台数と同じだ。中国はすでに日本の生産台数の2倍を超えて、2014年では2,400万台を生産した。

中国の自動車生産能力はすでに5,000万台を超えているという見方もあり、いずれ輸出市場に出てくることが予想される。すでに南米ペルーでは、中国車が日本車の半分の価格で売られているという。

・中国で成功している日中合弁の自動車会社は、車体は日本で高級車の部類に入る2,000CCクラスのものを基本にして、そのシートをレザー製にして高級感を出すが、エンジンは1,500CCのものを使ってコストを抑えており、それが市場のニーズに見事に合っているという。

・ホンダベトナムは、密輸された劣悪な中国製コピーバイクに席巻された市場を、コピーバイク修理用にホンダの純正部品を売るという商売で業績を回復し、さらにベトナムで製造した部品をつかったバイクを中国製の倍の価格で売り出して、いまは市場の7割を抑えている。

・インドのニューデリーの地下鉄は日本のJICAの技術援助で建設された。非接触ICカードトークンなどの技術を導入しているが、日本から買った電車は、わずか一編成のみで、その後は自分たちでつくっている。これは中国が日本から新幹線を買ったときとまったく同じやり方だ。日本は単なる製品輸出より、その後のメンテナンスや運用も含めたビジネスを考える必要がある。


畑村さんが経験した具体例が紹介されていて参考になる本である。


参考になったら、投票ボタンをクリック願いたい。


  

Posted by yaori at 23:00Comments(0)TrackBack(0)ビジネス | 企業経営

2016年06月12日

読書は「アウトプット」が99% 週末起業の藤井孝一さんの読書活用術



リスクをミニマイズした「週末起業」で有名になった起業コンサルタント藤井孝一さんの読書活用術。

週末起業 (ちくま新書)
藤井 孝一
筑摩書房
2003-08-06



この本の要旨を簡単に紹介すると次の通りだ。筆者も、すべての論点に賛成である。

藤井さんのいう「アウトプット」とは「話す」、「書く」、「行動する」の3つだ。

「アウトプット」することによって、本がもっと役立ち、付加価値のあるものに変わる。つまり、「人に伝える」ことで、知識が知恵に変わるのだ。

できる人は例外なく「要約力」を備えている。

本を読んで、アウトプットすることで、要約力のトレーニングにもなる。筆者は大学一年の時のゼミで、自分の要約力の無さに気が付き、それ以来、要約力をつけるトレーニングをしてきた。このブログもその現れだ、

本で身につく「全体を俯瞰する力」。

筆者はネット企業の代表取締役副社長として会社を経営していたことがある。いまから思えば、ネット広告業界で生き抜くためには何が欠けているのか、会社の弱みをはっきり認識せず経営していた。全く汗顔の至りだ。

藤井さんは、「全体像を俯瞰する力は読書で養える」と語っている。その通りだと思う。

筆者がこのブログを書いているのは、ブログを「外部記憶媒体」として使っているからだ。藤井さんのいう「アウトプット」の一例だ。

筆者は大体週に3〜5冊程度本を読む。次から次へと新しい本を読むので、読んだという記憶があるが、内容が思い出せないことがよくある。その場合、ブログを「外部記録媒体」として使って、キーワードなどで検索して、あらすじを読み返すのだ。

この本で藤井さんが勧めている本のなかでは、次の本のあらすじをこのブログで紹介している。

「バビロンの大富豪」




「日本の国家破産に備える資産防衛マニュアル」人気ビジネス作家橘玲(たちばな・あきら)さんの本は、この本以外も10冊ほどあらすじを紹介している。




この本では「もしドラ」が、ドラッカー関連書として取り上げられている。

「もし高校野球のマネージャーがドラッカーを読んだら」ちなみに「もしドラ」は昨年文庫本となっている。




このブログでは、ユニクロの柳井さんの「わがドラッカー流経営論」のあらすじも紹介している。




「年収1500万円以上の人の愛読書」の中では、次のあらすじを紹介している。

「コトラーの戦略的マーケティング」




「イノベーションのジレンマ」




以前あらすじを紹介した本田直之さんの「レバレッジ・リーディング」と同じ路線だ。




簡単に読めるし、推薦図書のリストも参考になる。書店で見かけたら、一度手に取ってみることをお勧めする。


参考になったら、投票ボタンをクリック願いたい。


  

Posted by yaori at 02:31Comments(0)TrackBack(0)趣味・生活に役立つ情報 | 読書