2020年08月19日

ギリシャ人の真実 ギリシャは日本の先例となるのか?

ギリシャ人の真実
柳田 富美子
講談社
2013-11-06


日本の公的債務額はGDP比2倍を超え、先進国でもダントツのワーストだ。

日本債務残高の国際比較




















日本国債発行残高




















いずれも出典:財務省 財政に関する資料

そんな日本の国債がある日突然暴落して、IMFなどの支援を得て財政を立て直すというシナリオになった場合にどうなるのか。ギリシャの例を調べてみた。

ギリシャの歴史

まずは、ギリシャの歴史を簡単に紹介しておこう。

3,000年前からギリシャでは各都市国家がポリスとして独立し、ギリシャ文明を生んだ。「デモクラシー」の起源もギリシャ語だ。その伝統を引き継いで、ギリシャ人は政治参加の意識が高く、ギリシャの市議会議員は無報酬だが、選挙で選ばれている。

パルテノン神殿の歴史を描いた動画がYouTubeにアップされている。



これを見るとギリシャの歴史がわかる。

パルテノン神殿は2,400年前にアテネのアクロポリスの丘の上に、アテネ市の守護神を祀るために建てられたが、その後異民族の攻撃を何度も受けて、現在の遺跡となった。元々は、極彩色の彫刻やレリーフで飾られた美しい神殿だった。

ギリシャ文明の後は、ローマ帝国による支配、そしてローマ帝国がキリスト教を国教とすると、パルテノン神殿を飾っていた裸体彫刻はすべてキリスト教徒によって破壊された。パルテノン神殿は6世紀にはギリシャ正教の教会となった。

ローマ帝国が東西に分裂後、東ローマ帝国は1,000年以上続いた。13世紀には西ヨーロッパからやってきたフランク人に征服され、パルテノン神殿はカトリック教会となった。

東ローマ帝国の首都コンスタンチノープルがオスマン・トルコによって陥落したのは、1453年で、それからパルテノン神殿は、イスラム教のモスクに改修された。

17世紀末に、ベネチア軍がオスマン帝国を攻撃した時に、火薬庫として使われていたパルテノン神殿は砲撃を受け、大半が吹っ飛び、現在の姿になった。

そして19世紀初頭にイギリスが残っていた彫刻やレリーフを剥がし取って自国に持ち帰った。それが、ギリシャが返還を求めている大英博物館に展示されているパルテノンの遺跡の一部だ。

ギリシャの人口は1,100万人、国土の広さは日本の1/3だ。島の数は2,500で、そのうち200の島に人が住んでいる。

オスマン・トルコから独立して、ギリシャという国ができたのは1830年のことだ。

オスマン・トルコには400年の間支配されていたが、きつい制約があったわけではなく、ギリシャ正教の信仰も認められており、ギリシャ語も教会で教えられていたという。

近代になってもトルコとは何度も戦火を交えてきた。ギリシャは、途中で君主制から共和制になったり、君主制に戻ったりした。

第二次世界大戦では連合国側についたが、イタリアの侵攻を受け、それを跳ね返すと、ムッソリーニはナチスの援軍を頼んで、結局ギリシャは敗北、ギリシャは3分割されてしまう。

戦後は君主制が復活したが、1967年に軍事クーデターが起こり、1967年から1974年には軍事独裁政権下にあった。

1974年に軍事政権が崩壊し、国民投票で君主制が廃止され、共和制の国家となった。

1981年にEC(現在のEU。10番目の加盟国だった)に加盟し、ヨーロッパから各種の補助金や借入金が入る様になった。これで国営企業をつくったり、公務員数が膨大となり、労働組合の力も強大になった。

2001年には通貨ドラクマを廃止し、ユーロを導入した。これによりギリシャの信用力が増し、多くのお金を外国から借りることができるようになり、銀行も庶民や企業にどんどん貸し付け、借金は雪だるま式に増えていった。ギリシャ版バブルだ。

バブルの頂点が2004年のアテネオリンピックだ。2009年リーマンショック後に、世界的に貸付先絞り込みが起こり、ギリシャ経済がおかしくなった。

2009年秋に国政選挙で、野党(パソク。全ギリシャ社会主義運動)が大勝利して政権を奪取すると、前政権が財政赤字を隠蔽して、粉飾をしていたことをあばき、ギリシャがずっと財政赤字だったことが明るみにでて、EUの監視下に置かれた。

ギリシャは日本の先例となるのか?

日本とギリシャの公的債務の対GDP比の比較表は次の通りだ。

日本ギリシャ国債残高対GDP比推移


















出典:世界経済のネタ帳

日本はGDP比でギリシャを上回る公的債務を抱えている。そして、これからコロナ禍で、経済が落ち込み、税収減、コロナ対策費増で、日本の公的債務はさらに増加するだろう。

ギリシャは、2009年に政権交代が起こり、歴代の政権が実際には赤字だった国の財政状況を黒字と粉飾していたことが発覚し、それが発端でギリシャ危機が起こり、IMFとEUから支援を受けるために、2010年5月から強力な財政引き締め策を余儀なくされた。

この財政引き締め策は、次のような「外科手術」を伴うものだった。

2010年5月の第一次緊縮策
1.これまで年間2カ月分支給されていた公務員のボーナスを廃止
2.これまで年間2カ月分支給されていた年金受給者のボーナスを廃止
3.公務員手当を削減
4.付加価値税を最高額21%から23%に引き上げ
5.不動産、燃料、酒、たばこ、輸入自動車の課税強化
6.最低賃金引下げ

2012年2月の第二次緊縮策
1.最低賃金の22〜32%カット
2.15万人の公務員削減
3.電気料金の請求書に上乗せされる不動産特別税(支払わないと電気をすぐに止められる)
4.年金、手当、社会保障、国防、国家運営、選挙等の費用の削減
5.(汚職の温床となる)各種の営業許可制度を廃止
6.公共交通機関の乗車運賃25%引き上げ
7.公務員手当削減
8.民営化推進
9.200か所の税務署閉鎖。免税、各種減税の廃止。

これらの緊縮策は、ギリシャ人のこれまでの生活水準を劇的に下げた。収入が激減したので、ギリシャ人は今までの生活が維持できなくなった。

国民の猛反対でデモ、ゼネストが続発したが、EU、ECB(欧州中央銀行)、IMFの3者はギリシャ救済チームを作って、3ケ月毎に監視を続けた。

その後、ギリシャは中国に接近し、チャイナマネーによる経済復興を狙った。これが奏功し、「一帯一路」を狙う中国は、ギリシャのヨーロッパへのゲートウェイ機能に注目して、ピレウス港などに大規模投資している。

失業率は2013年の28%から、16%に低下した。若年層の失業率は一時の60%から38%に下がった。

ギリシャ人は、農業なども含め、長時間や3Kの低賃金労働などを好まないため、こういった低賃金の仕事は、アルバニアやブルガリアから流れ込んだ移民が埋めているという。

ともあれ、チャイナマネーにより、今や投資対象として、「成長期待が高まるギリシャ」などと持ち上げられるまでになってきており、ギリシャ再建策は、一応の成果を挙げたといえるだろう。

ちなみに英語で、"It's Greek to me"というのは、チンプンカンプンのことだ。

日本はギリシャの様にはならないというMMT理論

いくら公的債務が増大しても、国内から調達していれば、日本経済は破綻しないというMMT理論が出てきている。

たしかに、日銀が日本円をどんどん刷れば、日本はギリシャの様にIMFやEUの支援を受けるということにはならないだろうが、ハイパーインフレとなり、日本円の価値は下落し、将来の日本国民にツケが回る結果となる。

将来人口が漸減していく日本は、国民一人当たりの各経済指標など国際的地位も下落し、過去から積みあがった債務返済が大きな負担となってのしかかってきて、国家予算もほとんどが借金返済に充てられ、前向きの投資に回す金がないという状況になるだろう。

そんな日本を子孫に残していいのだろうか?

ギリシャはEU主導の緊縮策と、チャイナマネーで財政黒字化を達成した。日本もいずれ上記の様なギリシャ型「外科手術」が必要となってくるだろう。

特に、年金の引き下げ、あるいは年金支給先延ばし、増税は必至だと思う。こういった状況にどのように準備しておくのか、自分でも考えるきっかけになった。

著者の柳田 富美子さんは、ギリシャプラザ代表。ギリシャ語通訳・翻訳・語学講師だ。ギリシャ人の家計や生活実態まで踏み込んで紹介しており、ちょっと変わった観光ガイドブックのように簡単に読める。

日本の将来、そして自分の生き残り戦略を考える上で、参考になる本である。


参考になれば、次を応援クリックしていただければ、ありがたい。


書評・レビューランキング

  

Posted by yaori at 23:25Comments(0) 経済 | 政治・外交

2020年08月02日

パナマ文書 1150万件のタックスヘイブン文書が流出

パナマ文書 (角川ebook)
フレデリック・オーバーマイヤー
KADOKAWA
2017-09-05


中田敦彦さんのYouTube大学の「 税金を逃れる大企業」という講義で紹介されていたので読んでみた。



中田さんの講義では、ネタ本が今回紹介する「パナマ文書」ではなく、「脱税の世界史」という元国税調査官の大村大次郎さんが書いた本なので、プーチン大統領やイギリスのキャメロン元首相自身がタックスヘイブンの利用者に名を連ねていたと説明している。

しかし、実際はプーチン大統領自身が契約しているわけではなく、親しい友人のチェリストが契約者となっていたり、キャメロン首相は、お父さんがダミー会社を持っていたりするので(キャメロン元首相自身はその会社の取締役に名を連ねていた)、直接的にタックスヘイブンを利用しているわけではない。

それでもキャメロン元首相の場合は、キャメロン元首相自身がタックスヘイブン利用の脱税を強く批判していたこともあり、言行不一致として、英国民を裏切る結果となり、ブレクジット問題もからみ、パナマ文書公開後3ケ月で辞任につながった。

脱税の世界史
大村 大次郎
宝島社
2019-04-18



パナマ文書は、2016年4月に南ドイツ新聞を中心に、各国のメディアが協力して、パナマの法律事務所から週出したタックスヘイブンの会社を使った世界的なマネーロンダリング、資産隠しについて公開した秘密文書の総称だ。

南ドイツ新聞に協力したメディアは、国際調査報道ジャーナリスト連合 (ICIJ)をはじめ、このブログで紹介したスノーデン事件にかかわった英国ガーディアン紙、BBC放送、仏ル・モンド紙、ニューヨークタイムズ、アルゼンチンのラ・ナションなどだ。

パナマの法律事務所は、中国でも9カ所にオフィスを置いて、活発に商売をしていた。しかし、南ドイツ新聞は中国や香港のジャーナリストを誘わなかった。というのは、以前南ドイツ新聞と提携していた香港の「明報」が、前回のオフショア・リークス発表の時に、多くの中国の権力者の親族がタックスヘイブンにあるペーパーカンパニーでビジネスをやっていることを暴くと、数時間後には中国のほとんどの報道に検閲が入り、南ドイツ新聞とICIJパートナー各報道機関のサイトにもアクセスできなくなった。おまけに、「明報」主筆ケヴィン・ラウが公表直前にクビになり、何者かに路上でナイフで背中を6回刺されて重傷を負うということがあったからだ。

公開された秘密文書は、パナマに本拠を置いて、世界約50カ所に拠点を持っていたモサック・フォンセカという国際法律事務所の内部文書だった。モサック・フォンセカの2013年の売上は4260万ドルだったという。従業員数は588人、342人がパナマ、140人がアジア、40人が英領ヴァージン諸島。他に30カ国に50のオフィスがある。うち、9カ所が中国と香港のオフィスだ。

共同経営者のユルゲン・モサックはドイツ人で、父はナチス武装親衛隊にいたが、戦後米国に渡り、CIAの協力者だったらしい。

合計で2.6テラバイト、1,150万件、20万社以上のダミー会社の登録・運用関係の書類、連絡メール、ダミー会社購入者のパスポートコピーなどの本人確認書類が含まれていた。

過去、スノーデンファイルウィキリークスオフショア・リークスルクセンブルク・リークスなどの秘密文書流出事件があったが、それらはいずれもギガバイト台であり、パナマ文書の2.6テラバイトは桁が違う。

社内のメールなども含む秘密文書であり、厳重に管理されていたはずだが、小刻みに持ち出したとはいえ、これらだけのデータを持ち出せるのは、あきらかに管理者権限を持ったシステム関係者の仕業だと思う。実際、パナマ文書公開直後に、モサック・フォンセカのスイスジュネーブ事務所のシステム関係者がスイス検察当局に身柄を拘束されている。このシステム関係者が「ジョン・ドゥ(John Doe)」として、パナマ文書公開の中心となった南ドイツ新聞に持ち込んだ疑いが濃い。しかし、誰が持ち出したのかわからないまま、モサック・フォンセカは、2018年に廃業している。

モサック・フォンセカはペーパーカンパニーの名義上の取締役として、レティーシア・モントーヤというパナマ在住の女性を、なんと25,000社の取締役として登録していた。この本では、パナマ文書公開直前に、パナマを訪問した記者が彼女に会った時のことを書いている。彼女の報酬はわずか月400ドルで、パナマシティの郊外の貧民街に住んでいた。

巨大かつスペイン語など、複数の外国語で書かれているパナマ文書を解析するために、国際調査報道ジャーナリスト連合 (ICIJ)に参加する世界70カ国、約200人のジャーナリストが「プロジェクト・プロメテウス」と称して、総力を結集した。「プロメテウス」は、スタートレックシリーズに登場する宇宙船の名前にちなんでいる。

ICIJに参加するのは、推薦されるか、招待されないとメンバーにはなれない。世界で最も重要な調査報道ジャーナリスト集団で、ジョージ・ソロスが多額の寄付を寄せている。ちなみに、ICIJは、オフショア・リークス・データベースとして、パナマ文書とそれ以前のリークの情報をまとめたデータベースを公開していて、だれでも見られる。

この本には最後に池上彰さんの解説が付いていて、全440ページにもなる。

タックスヘイブンのペーパーカンパニーを使って、節税、脱税、マネーロンダリング、資産隠し等を行っている各国の権力者、資産家、企業経営者、スポーツ選手などの個別事例を紹介している。

ウィキペディアで「パナマ文書」で検索すると、タックスヘイブンのペーパーカンパニーを使っている各国の有名人の例が公開されているので、そちらも参照願いたい。

日本のセコム創業者の飯田さんや、楽天の三木谷会長、伊藤忠、丸紅などの例も含まれているが、日本の場合には、大きなスキャンダルにつながるようなケースはない

パナマ文書で明らかになった主なタックスヘイブン利用は次の様なものだ。

ロシア関係
・ロシアのプーチン大統領の友人のチェリスト・セルゲイ・ロルドゥキンが何百万ドルもの大金を「コンサルティング手数料」としてペーパーカンパニーからペーパーカンパニーに移転している。ロルドゥキンの隠し資産は5億ドル以上といわれている。ちなみに、プーチンは、パナマ文書は米国の陰謀だと語っている。

・プーチンの友人で、ロステック社のCEOのセルゲイ・チェメゾフ(KGB時代からの友人だという)。

・プーチンも参加しているサンクトペテルブルクに近い別荘所有者の集まりだったオゼロ・コオペラティブの仲間。そのうちの一人のニコライ・シャマロフの息子とプーチンの下の娘が結婚している。プーチンの義理息子は、結婚後数カ月しないうちに保有するロシア石油化学最大手シブールの持ち株が数%から21%に増えている。

・オゼロ・コオペラティブのメンバー、ユーリ・コヴァルチェクはロシア銀行の頭取兼最大株主だ。セルゲイ・ロルドゥキンもロシア銀行の株主だ。


マネーロンダリング関係
・メキシコの麻薬密売人カーロ・キンテーロのペーパーカンパニーを使った資産隠し。


アラブ関係
・シリアのアサド大統領の最も有名なスポンサー・ラミ・マフルーフの、いくつものペーパーカンパニーを使った取引。マフルールは、米国でもEUでも制裁対象になっている。

・リビアのカダフィーの友人で、行政センター開発機構元長官のアリ・ダバイバのペーパーカンパニー。

・ムバラク元エジプト大統領の息子のペーパーカンパニー。

アフリカ関係
・アフリカでは毎年500億ドル以上が多国籍企業の口座やエリートの金庫に消えてしまう。コンゴ民主共和国のカビラ大統領の姉妹、赤道ギニアの独裁者の息子、モザンビークの元大統領、マラウィの政府高官、コンゴ共和国の元エネルギー相、アンゴラの石油相などがペーパーカンパニーを持っている。

・コンゴの鉱山を所有するイスラエルの大富豪ダン・ガートラー。ギニアの鉄鉱山の開発権を大手鉱山会社から奪った富豪など。

・前国連事務総長のコフィ・アナンの息子の持つペーパーカンパニーを通してのコンサルタント報酬受取。

ウクライナ関係
・天然ガスで富を成したウクライナの元首相ユリア・ティモシェンコ、前任者のパーヴェル・ラザレンコの資産隠し。ウクライナのペトロ・ポロシェンコ大統領はチョコ―レート王と言われている。

サッカー関係
・FIFA、UEFAの幹部。FIFA役員は国際サッカーの汚職で1億5千万ドル以上のわいろを受け取ったという。いくつものペーパーカンパニーを通したテレビ放映権などの取引で、裏金を作っていた。

・リオネル・メッシと父親が脱税容疑でスペインで訴えられている(その後、スペイン最高裁で有罪が確定した)。パナマ文書のなかで、メッシの「メガスター・エンタープライズ」が肖像権の売買で税金逃れをしていたことが疑われている。

中国関係
習近平主席の義兄弟・家貴はペーパーカンパニーを少なくとも4社持っており、そのうちの一社は中国一の大富豪から購入したカンパニーだという。

元首相の李鵬の娘の所有する英領ヴァージン諸島のペーパーカンパニー

・中国では薄熙来と夫人の谷開来の汚職が、英国領ヴァージン諸島のペーパーカンパニーを通して、薄熙来のコネで財を成した中国の富豪から320万ドルを受け取っている。

太子党のメンバーの近親がいくつもの会社を持っていることが明らかにされている。たとえば、中国の高級時計の販売業者の実業家から、太子党の一人の元党中央政治局常務委員の18歳の孫娘・李紫丹にペーパーカンパニーが簿価1ドルで売却されている

繰り返される「シーメンス事件」
・中南米各地のシーメンス支社長を歴任し、バハマの口座に5億ドル相当の金を持つ元シーメンス役員。2006年に起こったシーメンス贈賄事件(米独当局より1200億円の罰金を科せられる)に関係した元シーメンス役員が、ペーパーカンパニーをいくつも通して自分たちでも会社の金を横領していた。この件に関しては、記者は元シーメンス役員に直接話を聞いている。

シーメンス事件というと、日本では山本権兵衛内閣が総辞職した戦前のシーメンス事件が有名だが、2006年にもシーメンスは、南米などの贈賄で米独当局から巨額の罰金を科せられている。

ドイツ税務当局も別ルートで情報を100万ユーロ払って購入
・ドイツでは、税務当局がモセック・フォンセカ関連のペーパーカンパニー600社の情報を、2013年ごろに情報提供者から100万ユーロで購入し、これに基づいてコメルツ銀行から1700万ユーロ、HSHノルト銀行は2200万ユーロの罰金・課徴金を取り立てている。

アルゼンチン関係
・アルゼンチン元大統領のキルチネル夫妻の6500万ドルといわれる資産の持ち出し。

マクリ現大統領の資産隠し疑惑

アイスランド関係
・パナマ文書が公表されて退陣したアイスランド首相・シグムンドゥル・グンラウグソン

その他
・パキスタンの現首相ナワーズ・シャリフは娘を通してロンドンなどに豪華な邸宅を購入している。

北朝鮮もタックスヘイブンを利用


その他の例は、ウィキペディアの表を参照願いたい

廃業した法律事務所も、まさか内部文書が漏れるとは予想していなかったのだろうが、こういった内部者の犯行による情報漏えいの善悪はともかく、「天網恢恢疎にして漏らさず」という言葉があてはまるケースだと思う。

これまで「パナマ文書」という言葉だけ知っていたが、内容は知らなかった。この本はリークを受けた記者本人が執筆しており、ドキュメンタリーとしても面白い。

筆者もそうだが、在宅勤務で時間ができた時に読むことをお勧めする。


参考になれば、次を応援クリックしていただければ、ありがたい。


書評・レビューランキング  

Posted by yaori at 22:51Comments(0) 経済 | 政治・外交

2020年07月30日

最高指導者の条件 李登輝さんの「政治家の品格」

2020年7月30日再掲:

台湾の元総統・李登輝さんが97歳で亡くなった。日本と台湾の関係が良好なのも、李登輝さんの力によるところが大きい。李登輝さんのご冥福をお祈りして、李登輝さんの著書のあらすじを再掲する。

たまたまではあるが、この本に現都知事の小池百合子さんの話も出てくる。

コロナ対策が後手後手に回っている印象のある小池さんだが、ぜひ都の「最高指導者」として、東大の児玉名誉教授が提唱するエピセンターを集中して検査し、感染者を隔離することで、実効再生産数(一人が何人に感染させるか)を下げて、コロナを抑え込んでもらいたい。

2008年6月11日初掲:

最高指導者の条件


台湾の元総統、日本でもファンの多い李登輝さんの近著。2008年3月の発売である。

李登輝さんの著作は、奥の細道を辿った「日本国へのメッセージ」を以前紹介したが、日本文化に対する深い教養と愛着がわかり、まさに戦前型日本人としか言えないという印象を強く持った。

この本は李登輝さんの政治リーダーとしての信念の源が何かを明らかにしており、いわば「政治家の品格」とも呼ぶべき本だ。


中華民族初の民選総統

李登輝さんは蒋介石の息子蒋経国総統が死去した後を継いで1988年に国民党総裁/台湾総統に就任した。

そして自ら公選制度をつくって史上初の台湾総統選挙で勝利し、1996年に初代民選台湾総統となる。

中華民族の歴史で初めて国民の選挙により選ばれた指導者の誕生だった。

李さんの総統就任前後、中国は台湾独立派の動きに神経をとがらせ、台湾海峡で軍事演習を行い、ミサイルを発射して台湾に圧力をかけようとしたので、米国が2隻の航空母艦を台湾海峡に派遣し、中国を威圧した経緯がある。

しかし李さんは中国の脅しに全く動揺せず、毅然とした態度を貫いた。

李さんは中国の演習は心理的な作戦であり、実際の武力侵攻はないという情報をつかんでいたから、軍をあわてて動かさないという選択肢を取れたのだという。

リーダーの決断力を裏打ちする情報力の発揮だ。

その後2000年の総統選挙には出馬せず、結果的に国民党は敗れ、民主進歩党の陳水扁氏が総統に就任した。

これも中華民族初の平和的政権交代だ。

陳水扁氏は2008年5月まで総統を務め、今年国民党のハーバードロースクール出身のハンサムガイ馬英九氏に代わり、国民党が政権の座に返り咲いたことは記憶に新しい。


李登輝さんと信仰

李登輝さんの政治的信念はキリスト教の信仰に裏打ちされている。李さんは日本時代は唯心論、戦後は唯物論でマルクス主義にのめり込んだ時期もあった。アメリカに留学して帰国してから台湾の教会をまわり、神が存在するのかを考え続けた。

「なぜマリアは処女にしてイエスを産んだのか?」
「なぜイエスは磔にされ、そして生き返ったのか?」
この2つの奇跡を信じろとキリスト教は言う。

李登輝さんは理屈っぽい人間なので、なかなか納得できず、聖書を隅から隅まで読んだという。

ヨハネによる福音書第20章に、使徒トマスは復活したイエスを信ぜず、イエスの手と脇に手を入れて初めて信じたという一節がある。

イエスの言葉として「なんじ我を見しによりて信じたり、見ずして信ずる者は幸いなり」という言葉が紹介されている。

つまり「見えないから信じない。見えるから信じる」では信仰を持つことができない。まず「信じること」から始まる、それが信仰の第一歩なのだと理解したという。


戦前日本のエリート教育

李登輝さんは日本の旧制中学、高校、帝国大学という戦前日本のエリート教育を受け、大量の東西の名作文学や哲学書に接した。

19世紀のイギリスの思想家カーライルの「衣裳哲学」や「英雄および英雄崇拝論」は李さんの大好きな作品だという。

古典を読むことで哲学が生まれると。ゲーテニーチェショーペンハウエルカントヘーゲルマルクスサルトル鈴木大拙の「禅と日本文化}、西田幾多郎などの作品を読んだという。

李登輝さんはいまでもカントの「純粋理性批判」と「実践理性批判」が判断の指針になっていると語る。まさに哲人政治家である。

筆者もカントの「純粋理性批判」や「実践理性批判」は学生の時に読んだが、単に字づらを追っただけで、全く頭に入っていない。いずれはこのあらすじブログでも挑戦しなければならない本である。

純粋理性批判 上 岩波文庫 青 625-3


実践理性批判 (岩波文庫)


筆者の学生の時は、マックス・ウェーバーをみんなが読んでいた。これもまた再読しなければならない名著だ。

ちなみにこの本はアマゾンでもベストセラー1,645位で、経済学分野でNo.1だ。やはり名著は時代を超えて読まれるものだ。

プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神 (岩波文庫)



緊急時のリーダーシップ

中国で四川大地震が起こったばかりだが、李登輝さんは1999年の台湾大地震時の非常事態に於ける総統の役割を語る。地震が起きたのが深夜2時頃、電話は通じなかったが軍に出動命令を1時間後に出し、朝6時にヘリコプターで現地入りした。

9時には指揮所が設置され、救援活動が始まっていたという。小池百合子議員から電話があり、「仮設住宅を1,500戸送りたいが、日本の仮設住宅は8坪しかないがいいか?」と聞いてきたので、即座に受け取ると返事したという。

李登輝さんは地震発生から1ヶ月のうち21日は現地にいて、対策を直接指揮したという。また軍の参謀総長と総督府の秘書長(官房長官)の2人をつれ、軍と政府がすぐに動ける様な体制をとった。

中国の温家宝首相も地震が起こったらすぐに現地入りして救援活動を陣頭指揮をした。胡錦濤主席もほどなく現地入りして救援活動を支援したのは、台湾大地震の時の李登輝さんの奮戦ぶりを参考にしたのかもしれない。


後藤新平の台湾近代化

強いリーダーシップ論では、台湾の発展に大きな足跡を残した後藤新平を高く評価している。後藤新平は、今年NHKで2年間のドラマとしてスタートする「坂の上の雲」で有名な児玉源太郎台湾提督に請われて、1898年に台湾民政長官となった。

坂の上の雲〈1〉 (文春文庫)


着任早々高等官吏1000人あまりのクビをすげ替え、人心を一新し、優秀な人材を登用した。「武士道」の著者、新渡戸稲造もこのときの一人だ。

武士道 (岩波文庫)


匪賊を撲滅し、保甲制度(隣組、自治組織)、疫病対策、教育振興、台湾事業公債による資金調達、鉄道建設、アヘンや塩、酒、タバコの専売制、台湾銀行設立、台湾銀行券発行など、8年7ヶ月の在任期間中に大きな業績を残した。


リーダーの行動原理

李さんは上に立つ者の行動原理として次を挙げている。主なサブタイトルも参考までに紹介しておく。

1.誠実に説く  指導者に不可欠な「お願い」の姿勢

2.忍耐力  民主主義は「回り道」(ターンパイク)を認める制度

3.惻隠(そくいん)の情  「仁政」に不可欠な「惻隠」の情

4.大局観を持つ  「知識」や「能力」を超えて求められるもの

5.構想力  コンセンサスを得たビジョンがもたらす力

6.発想の転換  最も貧しい県が見違えるほど発展 農村が観光地となるアイデア

7.行動力と強い意志  行政改革に必要な行動力 

8.未来への提言力  台湾の民主化と教育改革 台湾がめざすべき4つの分野(金融、衛星メディア、空港、港湾)


指導者の養成

世界中のどこの国でも困っているのは指導者の問題であり、アメリカ、イギリスはもとより多くの国で将来の指導者となるエリート層を養成している。

ところが戦後の日本はこれを怠っており、米国式教育に表面的に倣い、テクニカルなレベルで一生懸命になるばかりで、本当に必要な「指導者をつくりあげる教育」を全く実施していないと李登輝さんは語る。

それを象徴するのが、東京大学を筆頭に、旧帝国大学系の国立大学から総理大臣が出てこないことだと。

たしかに先日紹介した「歴代首相知れば知るほど」の最近の首相を見ると、私立大学出身が圧倒的だ。平成になってからだと、わずかに宮澤喜一さん一人が東大出身で、それ以外はすべて私立大学出身だ。

李登輝さんは手厳しく語る。

戦前は帝国大学が国を治める人材を輩出したのに、なぜ戦後は駄目なのか。法律に縛られて、法律上問題があるかないかという発想しかできず、政治の世界で使えない人が多いからだろう。

法律屋の秀才たちは役所に就職し、行政の担い手となるが、彼らはえてして精神の面で貧困である。相当数の官僚が第一に求めるのは自分の出世であり、頭の中に国家という存在が希薄なのだ。

目先のことしか見えない人は、政治家になっても自分の利益を漁りまくる。「何のための民主主義なのか」、「指導者は何をすべきなのか」がわかっていない。

さらにいえば、金銭や権力は一時的なものにすぎず、「品格」、「教養」、「愛国」、「愛民」などの精神的価値こそが生涯を通じて追求すべきものだということもわかっていない。このような政治家が指導する国家はきわめて危うい。


まさに現在の日本にとっての警鐘である。

筆者は思うのだが、最近の問題は日本の政治家は事実上世襲制となっていることだ。福田康夫、安倍晋三、小沢一郎、鳩山由紀夫、麻生太郎、すべてが二世三世議員だ。

筆者の友人の松島みどり議員の様に、新聞記者出身で、徒手空拳で政治家となった人は珍しい。

地盤と利権を引き継ぎ、地元の利益追求型の政治家ばかり増えて、日本という国のビジョンがなくなっているのではないだろうか。愛国心を持って日本をより良い国にしようという気概を持った政治家が出てきて欲しいものだ。


この本では戦前の日本の優れたエリート教育を受けた哲人政治家の考えが、わかりやすく説明されている。

李登輝さんは古き良き日の輝かしい日本の伝統に触れたことを感謝していると語っており、「台湾の今日あるのは日本のおかげ」と感謝している台湾人は多いと公言している。

ここ数年「××の品格」という本がいくつかベストセラーになっているが、そういう本を読んで満足せずに、自らが名著を読んで、品格を磨かなければならない。

昔の一高第二〇回記念祭寮歌(明治43年)「藝文の花」の「万巻の書は庫(くら)にあり」という一節を思い出す。

藝文の花





ちなみにこの寮歌が掲載されている第一高等学校ホームページというのは初めて知ったが、写真集や寮歌集も収録されていて興味深い。もちろん今は第一高等学校などないが、東大駒場の中に一高同窓会という団体があり、そこがこのホームページを運営している。

世の中には万巻どころか、世界全体なら数千万あるいは億の書物があり、グーグルが世界中の本をすべてスキャンして、人類の叡智のデータベースをつくろうとしている(グーグルブックサーチ)のは、「ウェブ進化論」などで紹介されている。

筆者ももっと名著を読んで教養を積み、品格を磨かなければならないという気になった。

たぶん本のタイトルも「政治家の品格」とかにしたら、もっと売れることだろう。最近の流行キーワードでもある「品格」に興味がある人には、是非一度手に取ってみて頂きたい本だ。

参考になれば、次を応援クリックしていただければ、ありがたい。


書評・レビューランキング
  

Posted by yaori at 22:33Comments(0) 李登輝 | 政治・外交

李登輝訪日 日本国へのメッセージ

2020年7月30日再掲:

台湾の元総統・李登輝さんが97歳で亡くなった。日本と台湾の関係が良好なのも、李登輝さんの力によるところが大きい。李登輝さんのご冥福をお祈りして、李登輝さんの著書のあらすじを再掲する。

2008年4月3日初掲:

李登輝訪日日本国へのメッセージ 完全保存版―2007旅と講演の全記録


3月22日(土)の選挙で馬英九氏が当選し、台湾で8年ぶりに国民党が政権を奪還した。

馬英九氏のまえに2000年まで国民党党首で台湾総統だったのが李登輝氏だ。

李登輝氏は台湾生まれ。日本の京都大学に学び、22歳までは日本人だったと公言してはばからないほどの日本好きの指導者だ。

2000年に国民党を離脱してからは台湾団結連盟に加わり、台湾独立を訴えている。

今まで小林よしのりの「台湾論」での対談などで李登輝氏のことを知ってはいたが、さらに深く知るためにこの本を読んでみた。

新・ゴーマニズム宣言SPECIAL 台湾論


李登輝氏は2007年に日本を訪問し、長年の希望だった奥の細道の行程をたどるとともに、1945年にフィリピンで日本軍人として戦死した兄李登欽氏(日本名岩里武則命)が祀られている靖国神社に参拝した。

台湾総統を退いてからの李登輝氏の訪日は、毎回中国から政治問題化され、心臓病の診察のため岡山のみを訪問するとか(2001年)、名古屋、京都、金沢のみとか限定されてビザが発給されていた。

2005年から観光目的の台湾人の訪日にはビザが廃止されたこともあり、2007年の訪日は大きな政治問題とはならず、中国政府は靖国神社訪問を非難しただけだった。

2007年の訪日では11日間かけて、夫人と2人で次のようなスケジュールをこなした。とても84歳とは思えないエネルギッシュな行動だ。

来日直後に国際研究交流大学村訪問

台東区の芭蕉庵あとの芭蕉記念館

岩崎小弥太記念ホールで台湾にゆかりのある後藤新平賞の授賞式出席

新幹線にて仙台から松島に出て奥の細道めぐり

山形立石寺

平泉中尊寺

岩手県水沢の後藤新平記念館

田沢湖

角館で武家屋敷

象潟蚶満寺

秋田市の国際教養大学で特別講義

帰京して靖国神社訪問

拓殖大学

歓迎レセプション

日光東照宮

有楽町の外国特派員クラブで記者会見

これらは主なものだけを抜き出したもので、この他にも各地で行われた歓迎会や県知事、市長をはじめ地元の人との交流会などが多く開催された。

李登輝氏の人気の高さがわかる。

筆者も実は東北はほんの数回しか行ったことがない。それも出張とスキーのみなので、場所も八戸、仙台と蔵王だけだ。上記の名所旧跡も奥の細道などのWikipediaのリンクをクリックして、今更ながら勉強し直しているところだ。

新潟は出張でよく行ったが、今回は奥の細道の前半部分ということなので、李登輝氏は新潟は訪問していない。

この本には各地での歓迎風景や名所旧跡を訪問する李登輝氏の写真が多く載せられており、写真紀行といっても良いくらいだ。

紀行記の他に、日本李登輝友の会のメンバーの塩川正十郎氏や前拓殖大学学長の小田村四郎氏、国際教養大学学長の中嶋嶺雄氏、作家で李登輝氏の靖国神社訪問に同行した曽野綾子氏、評論家の櫻井よしこ氏らが寄稿している。

李登輝氏自身の序文や講演も収録されている。

1.今回の訪日で叶えられたこと

2.後藤新平と私

3.日本の教育と台湾

4.2007年とその後の世界情勢

5.日本外国特派員協会における記者会見

靖国神社宮司南部利昭氏の寄稿文も掲載されている。李登輝氏は靖国神社に祀られている兄の遺影にも対面し、「祭神之記」をしっかりと胸に抱かれていたという。

李登輝氏の父親は兄李登欽氏の戦死を信じなかったため、台湾には墓も位牌もない。

祭神之記には次が記載されているという。筆者も2人のおじさんが戦死している。たぶんおじさん達の祭神之記も靖国神社にあるのだと思う。

・英霊の御名前
・階級
・所属部隊
・死歿年月日
・死歿場所
・死歿時本籍
・死歿時御遺族
・靖国神社合祀年月日

外国特派員協会での記者会見では、李登輝氏は日本政府の弱腰外交を批判し、「中国や韓国などが自国の問題を処理できないため(国民の関心をそらすために)、靖国問題を作り上げた」、「国家のために命を落とした若者を慰霊するのに、なぜ外国に批判されなければならないのか」と語ると、記者団から期せずして拍手がわいたという。

拓殖大学は明治33年日清戦争によって割譲された台湾の開拓植民にあたる若い人材を育成するために、桂太郎公によって設立された台湾協会学校が母体で、後藤新平は第三代学長で、新渡戸稲造も学監を勤めたという。

後藤新平は1898年から7年間児玉源太郎台湾総督の民政長官として働き、疫病・匪賊の未開発地だった台湾を、美しい豊かな蓬莱の地と生まれ変わらせたとして、台湾開発の基礎をつくったといわれている。

また新渡戸稲造も二年間台湾の民政局で働いている。

李登輝氏の国際教養大学で行われた「日本の教育と台湾 ー 私が歩んだ道」という講演も面白い。

李登輝氏は22歳までは日本の教育を受けた。

日本は台湾統治を教育から始めたほど教育に力を入れ、台湾総督府ができた1895年に早くも国語学校を開校し、公学校(小学校)を各地に開設し、台北高校、台北帝国大学が設立された。

植民地でありながら、内地と変わらない教育を与えられたが故に、それまで匪賊と疫病の地だった台湾に、非常に近代化した文明社会が作られたのだという。

李登輝少年も禅に魅せられ、岩波文庫などを通じて東洋・西洋の文学や哲学に接することができたという。

李登輝氏は新渡戸稲造の「武士道」を解題して書き直した「「武士道」解題ノーブレス・オブリージュとは」という本も書いているほどで、武士道精神、日本人本来の精神的価値感、伝統を再評価しようと呼びかけている。

武士道 (岩波文庫)


「武士道」解題―ノーブレス・オブリージュとは (小学館文庫)


「天賦の才に恵まれた日本人がそう簡単に『武士道の精神』や『大和魂』といった貴重な遺産や伝統を捨て去るはずはない、と私は固く信じています」と李登輝氏は語る。

「武士道」も「大和魂」も今やほとんど死語となったように思える筆者には、考えさせられてしまう李登輝氏の言葉だ。

李登輝氏を評して台湾大学の教授は「日本の大正時代に生まれ、徹底的に日本教育の薫陶を受け、忍耐、自制、秩序を重んじ、公のために奮闘、努力する精神を身につけた人である」と言っているそうだ。

李登輝氏は、この表現は不十分で、日本教育の長所である「実践躬行(じっせんきゅうこう)」を付け加えなければならないと語る。

「私は、すべての原点を哲学に置き、すなわち『人間とは何ぞや』というところから出発したのです」 

「この日本的教育によって得られた結論は『私は誰だ』という問いについて、『私は私でない私』なのです。」

「この答えは、私に正しい人生の価値観への理解を促してくれました。いろいろな問題に直面するときにも「自我」の思想を徹底的に排除して、客観的立場での正しい解決の方法を考えました。これが日本の教育を通して私に与えられた人生の結論でしょう。」

英語で言うと"Who am I?" "I am not that I am"となる。

李登輝氏は日本語が一番得意で、次に台湾語、英語、最後に北京語だと言われている。

何ヶ国語かできる人の場合、頭の中は何語で考えているかという質問がなされることがよくあるが、筆者の推測では李登輝氏は日本語で考えているのではないかと思う。

つまり自我は日本人、しかし肉体は台湾人という状態を表現したのが、「私は私でない私」という言葉ではないかと思う。

筆者の理解が正しいかどうかわからないが、いずれにしても李登輝氏の講演はとても外国の指導者が書いたものとは思えない。まさに文人政治家だ。日本の政治家でも、これだけ中身の濃い講演はできないのではないだろうか。

最後の2007年の世界情勢分析も面白い。

ロシアは旧ソ連地域の覇権を目指しており、野心は旧ソ連地域にとどまらないとか、中国経済は不良債権がGDPの4−6割に達しており、すでに崩壊寸前で、国内外の関心を経済問題からそらせるために、宇宙開発、北京オリンピック、日本との歴史問題などを使っているのだと語っている。

台湾の新総統にも中国からの圧力や挑発が寄せられ、台湾の安全保障問題が2008年から数年間は最重要事項になると予想している。

日本李登輝友の会が、(有)まどか出版という小さな出版社から出した本だが、内容はすばらしい。

日本の京都大学で学び、米国コーネル大学で農業の博士号をとった哲人政治家の李登輝氏。日本語で話してくれる数少ない世界的指導者でもある。

本屋や図書館で見つけたら、是非手にとって見て欲しい本である。


参考になれば、次を応援クリックしていただければ、ありがたい。


書評・レビューランキング

  

Posted by yaori at 22:31Comments(0) 自叙伝・人物伝 | 李登輝

2020年07月18日

断罪 村上誠一郎議員と古賀茂明さんの安倍政権批判対談



このブログで、著書の「日本中枢の崩壊」「信念をつらぬく」のあらすじを紹介した元経済産業省のエリート官僚の古賀茂明さんが、「自民党ひとり良識派」を自称する村上誠一郎議員と、2017年12月から2018年4月までの間で対談した内容をまとめた本。

以前、知人から借りて読んだが、集団的自衛権を考え直す上で、再度読んでみた。

日本中枢の崩壊
古賀 茂明
講談社
2011-05-20


信念をつらぬく (幻冬舎新書)
古賀 茂明
幻冬舎
2013-01-30



2018年5月に出版された本だが、いまでもこの本の議論は通用する。というか、安倍政権は、全く当時から変わっていないし、この2年間で何の問題も解決されていない。しいていえば、相手基地攻撃力をもつがゆえに、逆に相手からも最初の攻撃目標とされるイージス・アショア計画が撤回されたくらいだ。

さらに、2020年に入って、コロナウイルスとの戦いでは、だれが責任者なのかわからない衆愚政治により、コロナウイルスの日本全国への拡散を招いた(この文は7月18日にアップするが、残念ながら筆者は日本はコロナウイルス対策で失敗した唯一の東アジアの国になるのではないかと思う)ことで、安倍首相は一刻も早く退陣すべきだというこの本の主張に同意する。

村上誠一郎議員は、松島みどり議員のところでも触れたように、筆者の同級生で、みずから村上水軍の末裔と学生時代から言っており、愛媛2区から11期連続で衆議院議員に当選している。昔は普通の体形だったが、今は体重110キロあるという。

村上誠一郎議員は、自民党の中でも「ひとり良識派」として、安倍政権の政権運営について表立って反対するので、総裁選で安倍さんと戦って敗れた石破茂さんと一緒に、衆議院議員席の一番後ろの列で、「セントヘレナ島」のように、二人だけさらに飛び出て席があるという。
自民党ひとり良識派 (講談社現代新書)
村上 誠一郎
講談社
2016-06-15



村上誠一郎議員は、政治家4代目で、安定した選挙基盤を持っているからこそ、自民党執行部にもズバズバものがいえる恵まれた立場だ。

筆者自身も、当初は安倍政権に期待をしていて、株価上昇と「いざなぎ超え」の景気を結果として生んだアベノミクスを支持していた。しかし、首相在任期間が長くなるにつれて、どんどん欠点が見えてきて、あきらかな権力の濫用が目立ってきた。

モリカケ問題などの政治の私物化、安倍内閣に人事権を握られた官僚の劣化と、政権批判を忘れたマスコミの機能喪失、そして2020年に入ってからは、衆愚政治で結果的に日本を東アジアで唯一コロナウイルス対策で失敗した国へと導こうとしている。

この本の目次は次の通りだ。論点が整理されている。

はじめに 村上誠一郎議員
第1章 リベラル保守再生のためにー私たちの自民党改造論
第2章 国を亡ぼす忖度官僚は要らないー私たちの「霞が関:」改造論
第3章 破綻寸前の金融・財政をどう立て直すのかー私たちの日本再生論1
第4章 税と社会保障の一体改革を再びー私たちの日本再生論2
第5章 庶民を潤す真の成長戦略とはー私たちの日本再生論3
第6章 憲法改正をなぜ急ぐ?外交と安全保障をめぐるあやまちの糺す
第7章 日本を危うくする安倍政治に決別を
最終章 希望は教育の再生にあり
おわりに 古賀茂明さん

安倍政権の政権運営を考える上で、大変参考になった。

<官邸の官僚コントロール>

古賀さんは、官僚には3つのタイプがあるという。‥儀薪な出世を目指している人たち、官僚になれば食いっぱぐれがなく、勤めあげれば天下りして70歳まで生活が保障されるという「凡人型」、市民を助けるのが自分の仕事という「消防士型」。

村上さんは、このうち、今の霞が関を悪くしている元凶が一番目のタイプで、2014年の公務員法改正により、上級公務員の人事権を内閣人事局が握った。次官、局長、筆頭総務課長などの幹部職員だけでなく、候補者も入れた幹部候補名簿を作っているので、課長級まで内閣人事局が影響力を行使できるようになった。出世欲が強いエリート官僚ほど、官邸の鼻息を窺うようになったのだと。

たとえば、森友学園問題で、答弁した佐川元財務省理財局長。嘘で押し通し、証拠文書隠滅に携わった近畿財務局の部下を自殺にまで追い込み、安倍総理に恩を売り、最後は国税庁長官になった。

反対に、安倍政権に不利な真実を語った文科省元事務次官の前川喜平さんの場合、官邸が読売新聞に前川氏の出会い系バー利用などの個人情報をリークして、個人攻撃されて社会的に抹殺されそうになった。こんなことがあると、エリート官僚は、安倍官邸に少しでも逆らうと、個人攻撃までされると、びびって否が応でも「忖度」するようになるだろう。

<「安倍全体主義」の自民党>

村上さんは、第二次安倍政権となってから、かつての良き日の自民党の姿は急速に消え、党内の議論を許さない雰囲気が広がり、真剣な議論をする議員がいなくなりつつあると語る。自民党の税調も力を失っている。

象徴的なのは、集団自衛権の解釈変更の時に、弁護士出身の法律家や、東大法学部、筑波大付属高校の同窓議員は多くいたが、結局内閣案に反対したのは、村上さんと検事出身の若狭勝さんだけで、村上さんは衝撃を受けたという。

小選挙区制になったことから、執行部が選挙における公認・政治資金・比例の順位を一手に握ったために、下手に執行部に反対しようものなら、次の選挙で公認すら得られなくなってしまうからだ。それが自民党議員が勇気をなくした原因だ。

小選挙区制は、元々小沢一郎の党内支配のための道具で、それを完成形にしたのは小泉純一郎元総理だ。2005年の秋の郵政選挙で、小池百合子さんなどの刺客を対立候補として公認し、総理に盾突くと、公認まで外されるというトラウマを自民党議員に植え付けたのだ。

このことを如実に表すのが、河井夫妻の選挙違反事件だろう。河井夫妻は安倍首相と近いので、自民党は河井安里候補には1億5千万円の選挙資金を提供したが、現職でありながら落選した岸田派の溝手議員には、その十分の一の1千5百万円しか支援しなかった。

安倍官邸は、「官邸主導・政治主導」を大義名分にして、いつの間にか国会議員と官僚たちのアンダーコントロール化に成功した。これが政治や行政の混乱を招き、日本は滝つぼに向かっている。

事ここに至っては、安倍総理はいさぎよく武士(もののふ)として政治的及び道義的責任をとり、一刻も早く退陣すべきだ、日本を立て直すにはそれしかないと村上さんと古賀さんは完全に一致している。

<マスコミの安倍政権への屈服>

マスコミは政権に完全に抑え込まれていることが語られている。テレビ局は政権批判は怖くてできないし、新聞は親安倍と反安倍に二分されている。

古賀さんも、菅義偉官房長官と思いっきりけんかして、思いっきり干され、在京のテレビ局には出られず、関西の朝日放送のみ出演が可能なのだと。収入も激減したので、もう怖いものはないという。

<わが国の3大危機>

村上さんは、政治家は国民に対して責任をとらなければならない。安倍政権は国民をだましているとして、次のような「わが国の3大危機」という垂れ幕にして、このような問題先延ばしの政治をずっと続けていていいのかと、総選挙の時に街頭演説をした。

村上誠一郎選挙CP (2)



















出典:本書86ページ

財政再建のためには、増税が避けて通れないというのは共通認識だが、消費税を増税することは経済に悪影響があり、非常にパワーがいる。古賀さんは、いま一番早くやらなければならないのは、金融所得課税の総合課税化だという。格差是正にもつながる増税が今は大切なのだと。

<日本の安全保障>

村上さんは、日本では安全保障と防衛が同じような意味にとられていると指摘する。安全保障の要諦は、「敵を減らして、味方をふやす」ことなので、安倍さんのように敵ばかり増やしたら、いくら防衛予算を増やしても追いつかない。日中、日韓、日台、日露とどこもうまくいっていない。

これに対して、EUの安全保障政策には、見習うべきものがあると村上さんは語る。

EUができてから、ロシアから西側は戦争がないという前提が成り立つので、ヨーロッパの中では敵はいない。だから、それまで30万人いたドイツの陸軍はもう7万人くらいしかいない。これが安全保障なのだと。

安倍さんは戦後レジームからの脱却と言っているが、やっていることはその逆で、戦後レジーム(=「アメリカ追従」だと古賀さんは語る)にしがみついている。

<北朝鮮問題>

たとえば2017年7月の核兵器禁止条約も、唯一の被爆国でありながら、日本は締結していない。北朝鮮でさえ、2016年10月の核兵器禁止条約の制定交渉開始の決議では賛成したのに、トランプ大統領が出てきて、北朝鮮をやっつけるといったもんだから、途中で協議から抜けたのだと古賀さんは語る。

アメリカと北朝鮮が戦争になったとして、日本でどれだけの被害が出るのか聞いた日本のマスコミはいないという。アメリカではいくつかシミュレーションが出ていて、国防総省も議会に報告書を出している。アメリカの報道によると、核兵器を使わなくても最初の数日で最低でも3万人が死亡し、核兵器を使えば最大380万人が死亡する。

北朝鮮の核兵器は、いまやアメリカの脅威だ。北朝鮮を先制攻撃することは、アメリカのリスクを避けるための戦争なのだが、当然韓国と日本に甚大な被害が出る。しかし、その被害はアメリカが北朝鮮の核で狙われるリスクに比べれば小さいと報告書に書いてあったと古賀さんは語る。

古賀さんは、日本ではこういったシミュレーションが全く報道されないことを、旧知の東京新聞の望月衣塑子記者に伝え、望月さんは記者会見で菅官房長官に聞いたという。古賀さんが、望月さんが官邸から忌み嫌われる原因を作っていたのだ。ちなみに、望月さんは、「権力と新聞の大問題」という本を書いている。

権力と新聞の大問題 (集英社新書)
マーティン・ファクラー
集英社
2018-06-15



村上さんは、北朝鮮リスクに対して、次の3つの方策を考えているという。
1.圧力だけでは日本の安全保障に大きな危険を生じさせるから、今の安倍さんの圧力一辺倒をやめさせる。
2.日本が呼び掛けて、アメリカに対してアメリカが先に武力行使をしないと言わせる。
3.もし戦争が起きたら、日米間にどんな影響が出るのかをきちんと議論して、認識を正しく共有すること。

この3点が全くやられていないと指摘する。

<教育の再生>

最後に、村上さんの持論である、教育の再生について語っている。「教育は自己発見の旅である」というのが村上さんの人生のテーマだと。国際的に通用する人物を育てていく教育。留学も、卒業後も海外にとどまり、世界で通用するような人材となって帰ってこいと指導する。

村上さんの小学校の時の愛読書が、以前あらすじを紹介した「君たちはどう生きるか」だったと。

漫画 君たちはどう生きるか
羽賀翔一
マガジンハウス
2017-09-19



古賀さんは麻布高校のPTAで講演して、アジアの大学のランキングを示し、「優秀なお子さんだったら、シンガポール大学か清華大学か北京大学を目指してください」というのだと。

実際、古賀さんは30歳になる長男には、外資系の会社に勤めて、いずれ自費でアメリカでMBAを取り、そのままアメリカで就職しろと、ずっと言い続けているのだと。

村上さんは、日本には移民を増やすことが必要なことは、人口動態から明らかなので、アメリカの様な市民権を入口に問題を提起しようと思っていると語る。

古賀さんは、ドイツの例を紹介している。ドイツは移民を経済を支える人材とみなして、ドイツ語教育や職業訓練に力を入れ、フォルクスワーゲンなどの大企業も政府に移民受け入れを強く訴えた。だから、今や移民はドイツ経済の成長を支える重要な存在になってきている。

どちらも東大法学部出身、どちらも安倍政権から敵視されていることもあり、議論がかみあって面白い。

安倍政権を評価する上で参考になる本である。

参考になれば、次を応援クリックしていただければ、ありがたい。


書評・レビューランキング  

Posted by yaori at 00:00Comments(0) 政治・外交 | 古賀茂明

2020年07月17日

コロナウイルス対策 東大児玉龍彦名誉教授の参議院での緊急提案

2020年7月17日再掲:

コロナウイルス対策の関係で、筆者がこれまで注目してきた東大先端研の児玉龍彦名誉教授が、休会中の国会の参議院予算委員会で、東京でコロナウイルスの震源地(エピセンター)が発生しており、今すぐに対策を打たないと、東京はミラノやニューヨークと同じことになり、来月には目を覆う様な惨状になると声を震わせて訴えた。

そして新宿区を対象に20万人規模のPCR検査を、大学や研究機関も巻き込んで、すぐに実施して、現在の最大の問題である無症状の感染者を洗い出すことを予算見積もりも添付して、参議院予算委員会で提案した。



児玉名誉教授と金子勝さんの対談は、YouTubeの「デモクラシータイムズ」で2週間おきくらいに更新されており、毎回注目して見ている。



本当にすぐにエピセンターを抑え込まないと、日本が感染爆発を起こす。児玉名誉教授が言うように、リーダーを決めて、すぐに対策にあたる必要がある。そのための10兆円の予備費のはずだ。


2020年5月13日再掲:

5月13日現在のJohns Hopkins大学のコロナダッシュボードを追加しておく。なんと、たった1ヶ月間で、世界の患者数は2.2倍、死者数はほぼ2.4倍、米国での検査数は3.3倍になっている。

米国の検査数が月間670万件にも急上昇しているのは、経済再開のための準備だろうが、他の多くの国では、患者数が1ヶ月で倍以上に増えて医療崩壊が起こり、それが患者の増加率を上回る死者の増加につながっているのだろう。

JHU corona dashboard
















依然として、コロナウイルスの感染は収まっていない。日本では、緊急事態宣言の緩和が検討されているが、たとえ緩和されたにしても、不要不急の外出を控える「STAY HOME」、マスク着用、ソーシャルディスタンシングなどの各自の自分と回りの人を守る対策は継続が必要だ。



ロックダウンが緩和されたマレーシアの状況をGACKTがYouTubeにアップしている。日本も、いずれこの様に緩和されていくのだろう。

GACKTもマレーシア政府の対応が早かったことを語っている。人口3千万人強のマレーシアの患者数は7千人弱、一方、隣の人口6百万人弱、人口がマレーシアの1/5のシンガポールの患者数は、この1ヶ月で、外国人労働者を中心に急増して25,000人弱。あくまで現時点での評価だが、コロナ対策の成功と失敗がきわだつ結果となっている。




2020年4月14日再掲:

世界中が新型コロナウイルスのために、大変な事態になっている。世界の感染症研究のトップである米国のJohns Hopkins大学では、コロナウイルスダッシュボードとして、全世界の患者数、全世界のコロナウイルスによる死者数、全米の検査数を常時更新して公表している。

Johns Hopkins Univ Corona Dashboard

















出展:Johns Hopkins大学コロナダッシュボード

こんな中で、「コロナの女王」として毎日テレビに登場するのが白鴎大学教授の岡田晴恵さんだ。

スタイリストをつけているのだろうが、大学の研究者というよりは、だんだん芸能人の様な風貌に変わってきているので、「コロナの女王」と揶揄されているのだと思う。

コロナウイルス




















出展:Wikipedia

しかし、筆者も忘れていたが、2009年の新型インフルエンザ騒ぎの時も、第一線の研究者としてテレビ出演し、また、多くの本を出しており、感染症研究の第一人者であることは間違いない。

次は、2009年の新型インフルエンザの時の岡田さんのハンドブックだが、それがコロナウイルス対策でも当てはまる。筆者自身も再確認の意味で、2009年のあらすじを再掲する。薬のところで、タミフル、リレンザをアビガンと読み替えれば、ほぼそのままコロナウイルスにも適用できる内容である。


2009年9月13日初掲:
新型インフルエンザ完全予防ハンドブック (幻冬舎文庫)新型インフルエンザ完全予防ハンドブック (幻冬舎文庫)
著者:岡田晴恵
販売元:幻冬舎
発売日:2009-05-22
おすすめ度:4.5
クチコミを見る


会社で全社員に配布されたので読んでみた。


著者の岡田晴恵さんは新型インフルエンザの第一人者

著者の岡田晴恵さんは、感染免疫学の専門家で、ドイツマールブルク大学ウィルス学研究所客員研究員、2009年4月まで国立感染症研究所で研究員として勤務していた経歴を持つ。

新型インフルエンザについては岡田さんは多くの著書を出しており、日経BPがやっているSafety Japanというサイトに、インフルエンザについてのインタビューが掲載されている。

岡田さんは小説も含めてあまりにも多くの著作を短期間に出版し、テレビにも頻繁に登場したりして国民のインフルエンザに対する不安を煽って儲けている様な形となっているので、保健所の現役医師が書いているという新型インフルエンザ対策の達人というブログなどでは批判されている

しかしたとえ国立感染症研究所の新型インフルエンザ担当官ではなくても、新型インフルエンザについて医学的な見地から、素早くいろいろな著書を出して、警鐘を鳴らすという意味では注目されてしかるべき人だと思う。

この本では最も恐いH5N1型の強毒型鳥インフルエンザの潜在的危険や、今年4月に発生し、現在流行しているH1N1型弱毒性豚インフルエンザ(新型インフルエンザ)の特徴などをわかりやすく説明している。


すべては元々鳥インフルエンザ

新型インフルエンザは元々はすべて鳥インフルエンザで、ウィルスの変化により人に感染するようになったものが新型インフルエンザだ。

鳥インフルエンザは強毒型と弱毒型の2つあり、現在はやっているH1N1新型インフルエンザは豚インフルエンザから発生した弱毒型で、人の呼吸器にのみ感染する。しかし強毒型のH5N1鳥インフルエンザだと、罹った鳥は1〜2日でほぼ100%死に至るという恐ろしい毒性だ。


ウィルスの構造

ウィルスの構造について簡単に解説している生物史から、自然の摂理を読み解くというブログを見つけたので紹介しておく。

ウィルスの構造

インフルエンザウイルス構造






出典:生物史から、自然の摂理を読み解く

H1N1ウィルスの電子顕微鏡写真

M00197H1N1swl600dpi








出典:国立感染症研究所ホームページ

上記の図で、NA(ノイラミニダーゼ)という釘の頭のようになった突起と、HA(ヘマグルチニン)という針の先のような突起の2種類のタンパク質の違いによって、HAはH1〜H16の16種類、NAはN1〜N9の9種類あり、これらの組み合わせでウィルスの種類が144種類ある。


スペインかぜの大流行

過去最も流行した新型インフルエンザは1918〜1920年のスペインかぜで、当時の世界の人口18億人のうち、5〜10億人が感染し、死者は4,000〜8,000万人。日本の人口5,500万人のうち感染発症者は2,300万人、死者は38〜45万人と言われている。

今年流行している新型インフルエンザは、ほとんどの人が抗体を持っていないため、ウィルスにさらされれば感染しやすく、特に心臓、呼吸器、腎臓等に疾患を持っている人や、糖尿病や血液の持病のある人は重症化しやすいハイリスク者だとされている。

新型インフルエンザは一旦発生すると1〜2年間大流行して、ほとんどの人が免疫を持つようになると、次の新型インフルエンザが出てくるまで”季節性のインフルエンザ”になるというパターンが通常だ。

新型インフルエンザの症状は季節性のインフルエンザと同じく、発熱(38度以上)、筋肉痛、腹痛、咳、たんなどで、免疫がないので飛沫感染と接触感染による感染力が強く、潜伏期間からウィルスを外に出すので、自覚症状のないまま感染を広げてしまうという特徴がある。

通勤電車やバスなどで他人との近接は避けられないので、一旦流行すると感染拡大を防ぐことは不可能となる。

厚生労働省の発表した新型インフルエンザの流行予測では、ワクチンやタミフルを使用しないという条件では、国民の1/4、3,200万人が発症し、入院が53万人から200万人、死者が17万人から64万人となっているが、これだけの発症者がでると医療機関の現場がマヒし、多くの労働者が罹患することで社会インフラに影響が発生し、食料品などの流通にも影響が出る可能性がある。


新型インフルエンザ対策

新たにワクチンをつくるには半年から1年かかるといわれ、一旦広まったら急速に全国に拡大する。国立感染症研究所のサイトでは、パンデミック2009と題して新型インフルエンザの流行状況の地図などの情報を公開している。

9月11日現在の東京都の注意報レベルを越えている保健所数はゼロとなっている。

流行が起きたら、国、自治体、医療機関、企業・学校、家庭・個人がそれぞれの役割を果たし、流行のスピードを遅らせて社会機能を守ることが重要だと岡田さんは語る。

具体的には個人の対策は人と接触しないこと、人混みは避けること、国や企業などは外出を制限することだという。


外出制限が最も効果がある

次がこの本の50−51ページに掲載されている国立感染症研究所の資料から1918年のスペインかぜのフィラデルフィアとセントルイスの死亡率の推移だ。外出や集会の禁止、大規模施設の閉鎖をおこなったセントルイスと、対策が遅れたフィラデルフィアでは大きな差が出ており、外出の制限が被害拡大を防ぐ有効な手段であることが歴史的にも証明されているという。

scanner032






出典:本文50−51ページ


新型インフルエンザの予防

予防対策の決め手はワクチンだが、ワクチンの製造は時間が掛かるので、今年の新型インフルエンザについては最初は医療機関従事者などに優先して投与される見込みだ。

家庭で出来る対策としては、感染防止用品、日常品、薬、食料等の備蓄、たとえばいつもは10キロずつ買う米を20キロにして、10キロ常に備蓄することをすすめている。

この本では役割別に、父(会社員)、母(パート)、娘(中学生)、祖母(別居)という家族構成や、一人暮らしのサラリーマン、一人暮らしの老人(持病の薬は多めに貰っておく)などといった設定で、新型インフルエンザの発生の各段階での行動計画をまとめている。

個人としてできることは次の4点だ。

1.できるだけ外出しない。(通学しない、通勤しない、買い物をひかえる)

2.いきなり病院に駆け込まない(かかったかなと思ったら、病院で受診する前に保健所に電話して指示を受ける)

3.外出するときはマスク、ゴーグル、めがねなどを着用する。人混みを避ける。(電車・バスをやめて徒歩、自転車)

4.こまめに手洗い、うがい、洗顔をする。

この本では緊急時連絡用リストまで含まれており、こども用にひらがなで父母が寝ているというシーンを想定した電話のかけ方が掲載されている。


感染した場合

岡田さんはまずは家族全員の体温を毎日測ることをすすめる。感染すると3日ほどの潜伏期間の後に、38度以上の発熱から症状が出るのだと。

症状は38度以上の発熱、倦怠感、筋肉痛、腹痛、下痢、咳、たん等で、悪化すると呼吸困難などの肺炎の症状が出てくる。

そして感染の疑いがある場合にはいつもの病院に行くのではなく、保健所に連絡して指示を受け、家族の誰か一人が感染したら、家族全員が感染したものとして行動する必要がある。

新型インフルエンザに罹った後は、タミフルリレンザの抗インフルエンザ薬が有効だが、特効薬ではない。またタミフルは発症後早く使用するほど効果が高く、48時間以内に服用を開始しないと効果が低くなるという。

熱が出て我慢していると、悪化してからタミフルを飲んでも効果がない場合があるのだ。

家族の看病も通常のインフルエンザとは異なり、看病する人が感染しないようにマスク、ゴーグルを着用し、空気感染を避けるために部屋のウィルス濃度を下げるために換気や加湿器などが有効だ。

シャープやダイキンのウィルスを除去する空気清浄機も売り切れて予約販売となっているようだ。

■シャープ【大人気商品!】加湿空気清浄機 KC-W45★プラズマクラスター搭載【KCW45】
■シャープ【大人気商品!】加湿空気清浄機 KC-W45★プラズマクラスター搭載【KCW45】


DAIKIN 世界で唯一ストリーマ技術でウィルスを分解・除去する空気清浄機光クリエールACM75K-W(ホワイト)ダイキン
DAIKIN 世界で唯一ストリーマ技術でウィルスを分解・除去する空気清浄機光クリエールACM75K-W(ホワイト)ダイキン


daikin hikari





出典:ダイキンホームぺージ

関連リンクでは全国保健所長会の新型インフルエンザ対策ページなどが紹介されている。


最後に岡田さんは「知識のワクチン」ということで、新型インフルエンザの正しい知識を持つことが、自分や家族を守る事につながると語る。

煎じ詰めると、人混みを避ける、マスク、手洗い、うがいという当たり前の対策になるが、当たり前のことを当たり前にやることの重要性が理解できた。

100ページほどの本で、画も多く、簡単に読める。大流行が目前に迫っていることでもあり、是非一読をおすすめする。

参考になれば、次を応援クリックしていただければ、ありがたい。


書評・レビューランキング

  

Posted by yaori at 17:25Comments(0) 医療 | 趣味・生活に役立つ情報

2020年07月11日

東京ブラックアウト 原発ホワイトアウトの続編

東京ブラックアウト
若杉 冽
講談社
2014-12-05


2014年にあらすじを紹介した「原発ホワイトアウト」の続編。



小説のあらすじは詳しく紹介しない主義なので、前回のあらすじでは、はっきり書かなかったが、「原発ホワイトアウト」では、北朝鮮の秘密工作員と元関東電力社員の不満分子が、爆弾低気圧の猛吹雪の中で、「新崎県」にある「新崎原発」からの高圧送電線の鉄塔を爆破する。

新崎原発は緊急停止するが、福島第1原発の時と同様、非常用電源が吹雪のため稼働せず、バックアップ用の電源車も積雪と道が凍って動かせず、結局最新鋭の6号炉と7号炉が、メルトダウンを起こし、燃料プールの使用済み核燃料も巻き込んで爆発する。

フクシマ50の様に、爆発前に決死隊が冷却用電源を動かすべく現場に向かうが、爆発に巻き込まれてしまう。



格納容器爆発の結果、半径170キロ圏内は年間50ミリシーベルトの強制移住レベルとなり、関東を中心とした地域は人が住めなくなり、混乱で多くの人命が失われ、首都は京都へ移転するというストーリーだ。

この本の中心は、電力業界の団体がつくりあげた、電力業界が外部に発注する年間5兆円から、上前をはねて、年間2000億円という規模とした「電力モンスター・システム」だ。

「モンスター・システム」は、与党と野党の代議士、落選した代議士、地方の首長、地方議会議員、はては町の自治会長や町内会長に至るまで、電力業界が有利になるように、政治資金として幅広くばらまく。

さらに、テレビやマスコミでは電力業界に有利な広告を大量に流し、反原発のタレントは干し、多数の元検針員に「市民の声」としてネットやマスコミに投稿させ、電力業界が有利なように世論を誘導しているという構図だ。

国からも、原発歓迎の地元には、巨額の電源立地交付金も、新幹線も、高速道路も来るというのが日本の政治のお作法だという。

電力業界の目標は、仝業再稼働、∩配電網分離阻止、E杜肋売り自由化の骨抜きだ。そして、新崎原発爆発事故の後も、電力業界は次のメモの様な政策の実現を目指すというストーリーだ。

東京ブラックアウト










































出典:本書217ページ

最終的に、日本はゴーストタウン・無法地帯と化した関東地方で、世界の核廃棄物の中間貯蔵施設(50年間保存)をつくって外貨収入を獲得するのだと。

2度の原発事故を憂慮された天皇や安倍首相夫人と思われる人物、小泉元総理の反原発運動などもプロットとして描かれている。

山本太郎元議員が園遊会の時に、天皇に請願書を渡したことをふまえ、そんなことをしなくても、内閣官房宛に送れば、憲法16条に基づく天皇への正式な請願は可能だとして、今上天皇への請願の正式な送付先を、この本の最後に記載している。

〒100−8968 東京都千代田区永田町1−6−1 内閣官房内閣総務官室

筆者は、たまたま原子力規制委員会が入っている六本木ファーストビルで仕事をしている。そんなこともあって、この小説はフィクションではあるが、すごく現実に近いと感じた。

現在稼働中の原発は次の通りだ。

稼働中原発





















出典:ウェブ

この本を読む前に池上さんの、「池上彰が読む小泉元首相の『原発ゼロ』宣言」も読んで勉強した。




原発がなくても、日本はやっていけるということは、既に3.11以降の何年かで証明されている。現在は安全基準に達した9基(うち4基は裁判で停止中)の原発だけ動いている。原発を動かせば、電力会社には1000億円単位の利益が出るので、電力会社は原発稼働に積極的だが、この小説や、池上さんの本を読むと、本当に日本で原発が必要なのか考えさせられる。

この本の後半は、原発メルトダウン・爆発後の、人が住めなくなった関東での大混乱と多数の死者発生を描くホラーとなっている。現実に起こらないと言えないところが怖いところだ。

著者の若杉冽さんは、現役の官僚で、国会議員、高級官僚、電力業界の業界団体の代表など、登場人物は、いかにも本当にいそうなリアルなキャラクターに描かれている。

娯楽小説というわけではないが、もしフクシマ級の事故が再度起こったら日本はどうなるかをシミュレーションした小説として大変参考になった。

このブログで紹介した「原発ホワイトアウト」のあらすじも参考にして、原発問題を再度考えてみることをお勧めする。

参考になれば、次を応援クリックしていただければ、ありがたい。


書評・レビューランキング

  

Posted by yaori at 00:00Comments(0) 小説 | 原発問題

2020年07月09日

池上彰の世界の見方 朝鮮半島 朝鮮半島情勢を理解するために



+++今回のあらすじは長いです+++

池上彰さんの「世界の見方」シリーズの朝鮮半島編。中田敦彦さんのYouTube大学でも取り上げられていた(次の第1回講義の25:20頃に池上さんの本の紹介がある)。





「世界の見方」シリーズは、現役高校生に対する授業をまとめたもので、今回は都立西高の生徒への講義録だ。「内在的論理」として、その国について筆者もこれまで知らなかったドライビング・フォースが紹介されていて参考になる。

いくつか紹介すると。

★北朝鮮建国の父、「偉大な領袖・金日成同士」と呼ばれる金日成の実像と公式伝記の比較表が参考になる。本名・金成柱が、ソ連の後ろ盾もあり「抗日運動の英雄・金日成」を名乗る。

金日成実像














































出典:本書63ページ

★農業のことを知らない金日成は、毛沢東の大躍進政策と同じような大間違いの農業政策を指示する。それにより、トウモロコシ栽培用の段々畑をつくるために、北朝鮮の山の木は切り倒されて、はげ山となり、洪水が頻発した。栽培したトウモロコシは悪天候に弱く、収穫できず、飢饉が発生した。また、洪水により運ばれた土砂は、北朝鮮の良好な近海漁場を埋め、沿岸漁業も壊滅状態になるという最悪の結果をもたらした。

★韓国にも建国神話がある。1910年の日韓併合後、1919年3月1日に朝鮮半島で200万人が日本の支配に反対して暴動を起こしたが、朝鮮総督府に制圧される(「3.1独立運動」。その後、日本統治反対派が上海に逃げ、中華民国の支援を得て「大韓民国臨時政府」を組織する。この抗日運動で日本と戦った「大韓民国臨時政府」の正当な後継者が「大韓民国」なのだと。

★1965年朴正煕大統領との間で「日韓基本条約」と「日韓請求権並びに経済協力協定」が締結される。締結後、日本は3億ドルの無償供与と2億ドルの借款を実施した。これが「漢江の奇跡」と呼ばれる韓国の経済復興に役立った。日本と韓国は一度も戦争をしていない。だから賠償金ではなく、経済協力で支援するという建前をとったのだ。これにより日本側は請求権問題は、「完全かつ最終的に解決した」という立場を取っているが、請求権協定には、「この協定をめぐって何か意見の相違があった時には、再び交渉する」という項目も入っているという。

★韓国の憲法裁判所が、李明博大統領時代に、慰安婦問題で日本と交渉しないのは憲法違反であるという判断を出しているので、韓国の政治家としては、それに従わなければならないのだと。池上さんは、少し突っ込んで慰安婦問題はどの国の軍隊にもあったこと、ソ連はスターリンの指示で、慰安婦を用意しなかったので、ソ連兵は占領地すべてで強姦・略奪と狼藉の限りを尽くしたことなどを説明している。

★池上さんは、ナチスの被害にあった国とドイツとの間では、「許そう、しかし忘れない。」という関係があるのだと。かつて、シンガポールのリー・クアンユーも同じように語った。日本と韓国も、将来的にそう言ってもらえるような関係が望ましいのだろうと池上さんは語っている。

★1960年代のスターリン批判後の中ソ対立とキューバ危機により、北朝鮮は自国は自国で防衛するという決意を固め、核兵器とICBM開発を始める。キューバ危機で、ソ連はもし核戦争の危険が迫ると、自国が大切で、周りの国を見捨てるので、いざ核戦争になった時に守ってくれる保証はない。だから、自分で守るのだと。

★金日成死後、金正日が引き継いだ後は、「先軍政治」というスローガンを掲げ、すべてにおいて軍が優先し、北朝鮮はテロ国家そのものだった。この本では、「1968年の青瓦台襲撃未遂事件」、「1983年のラングーン事件」、「1987年の大韓航空機爆破事件」、「1996年の北朝鮮潜水艦座礁事件」、日本人拉致事件、「よど号ハイジャック事件」が紹介されている。

ちなみに、池上さんは言及していないが、青瓦台襲撃未遂事件に対する韓国の報復工作が映画「シルミド」で取り上げられている1971年の実話だ。

シルミド/SILMIDO [DVD]
ホ・ジュノ
アミューズソフト
2006-06-23


この時期、1970年には「金大中事件」も起こっている。韓国も無茶なことをしている時代なのだ。

★日本人拉致事件

この本では、日本政府認定の17人の拉致被害者リストを掲載している。北朝鮮が入国を認めていない人もいるし、横田めぐみさんなど、既に死去していると北朝鮮が主張している人もいるが、決して忘れてはならないリストだ。

日本人拉致被害者









































出典:本書142ページ

★韓国の若者が、腐敗した李承晩政府を倒した1960年の「4.19革命」が、歴史的な成功体験となっている。

不正選挙に怒った大学生・高校生数万人が大統領官邸を包囲、抗議のデモを行う。運動は全国に広がり、李承晩は警官隊を導入、4月19日だけで、全国で186人が射殺され、6000人を超える負傷者が出た。政府は戒厳令を発令、軍隊の出動を要請するが、軍隊は動かず、李承晩はハワイに亡命した。これが「4.19革命」だ。

この本では、韓国の歴代大統領のリストが掲載されている。李明博元大統領と、朴槿恵前大統領については、それぞれ著書や関連書のあらすじを紹介しているので、参照願いたい。

大統領退任後逮捕されたり、自殺したりと、受難者のリストの様だ。

歴代韓国大統領










































出典:本書188ページ

★テレビの取材で2回北朝鮮に行ったことがあるという池上さんの体験談が面白い。10年ほど前にピョンヤンに行き、6年ほど前には軍事境界線近くの開城(ケソン)まで行ったという。

北朝鮮は、基本的には旅行者にはピョンヤンしか見せない。ピョンヤンは、映画のセットの様な街だという。表向きは高層ビルが立ち並ぶ都会だが、裏に回ると壁もちゃんと塗ってなかったりする。

必ず2人の案内人がつき、25階建ての高層アパートに案内されたという。

ピョンヤン市内








出典:Wikipedia

★エレベーターは、外国人に見せるためだけに運転しており、住民は普段は階段で上り下りする。取材した高層アパートの住人に、テレビディレクターが「水道の水は出ますか」と失礼な質問をしたので、池上さんはドキッとしたが、奥さんは「水は出ますよ。一日2回」と答えたという。

外国人が宿泊できるホテルは2か所しかなく、部屋は壁の片方が全面鏡張りになっている。マジックミラーで常時監視されているのだ。

★北朝鮮では国民を階層分けしており、最上位は「核心階層」(25%)で、政権に対して忠実な人たち、「核心階層」だけがピョンヤンに住める。次は「動揺階層」(55%)で、インテリや日本からの帰国者など。体制に忠誠を誓っているが、必ずしも信用できないので、監視対象。

下位が「敵対階層」(20%)で、日本統治時代に日本に協力していた人たちとその子孫、元大地主などで、特別監視対象であり、僻地への強制移住、配給停止(ピョンヤン以外の地方には配給はない)などを強いられており、飢饉で餓死する人はこの階層が多い。現在は、これら3つの階層をそれぞれ、64以上にさらに細かく分けているという。

★朝鮮戦争が勃発し、北朝鮮が攻めてきて、一気にソウルを占領し、韓国軍・米軍が釜山付近に押し込まれた原因の一つは、北朝鮮軍はソ連から貸与された250両の戦車があったが、米軍は山の多い地形の韓国には不適だとして、戦車は一台も配備していなかったことだった。

朝鮮戦争に関しては、ドキュメンタリー映画がYouTubeで公開されている。前編後編で90分の映画だ。





★ソウルにある米軍基地は、北朝鮮に近いソウルの北側にあって、いわば防衛線のようになっていたが、ジョージ・W. ブッシュ大統領の時に、ソウルの南側に移転した。当初は、北朝鮮の攻撃があったら、まっさきに米軍に死者が出るので、それが国内世論を盛り上げて米軍が参戦しやすいという「トリガー理論」(たとえば「リメンバーパールハーバー」、「リメンバーアラモ」といったのが有名だ)に基づいていた。

★朝鮮半島の核危機

当時は筆者も全く知らなかったが、クリントン政権時代の北朝鮮の核施設への攻撃計画のことが明かされている。北朝鮮は、自国の電力供給不足解消のために原子力発電を導入するという名目で、1985年にソ連から黒鉛炉型原子炉を導入。購入の条件は「核拡散防止条約」(以下「NPT」=Non- Proliferation Treaty)への加盟だったが、北朝鮮はIAEAの査察を拒否、世界各国の圧力で、ようやく1992年にIAEAの査察を受けたところ、使用済み核燃料からプルトニウムを密かに精製していた痕跡が見つかった。

もとから、電力供給が目的ではなく、自国は自国で守るという方針のもと、核爆弾を作る目的だったのだ。北朝鮮は1993年に「NPT」からの脱退を表明。危機感を抱いたクリントン政権は、北朝鮮の核施設に対する限定的な攻撃を計画する。当然北朝鮮は反撃するので、ふたたび挑戦半島が戦場になる可能性があるので、このとき在韓米軍兵士の家族を避難させている。当時NHKにいた池上さんは、もしかしたら戦争が始まるかもしれないという危機感を持って米国の出方を注視していたという。

日本では、ちょうど1993年7月の総選挙で、自民党が過半数を割り、野党に転落、その後、細川護熙政権、羽田孜政権を経て、自社さ連立の村山富市政権となって、驚天動地のまっただ中だったので、朝鮮半島のことはほとんど報道されなかった。

北朝鮮からの反撃があった場合の損害を推定させたところ、戦争開始から3ケ月以内に、米軍兵士5万2千人、韓国軍兵士49万人が死傷するという報告が出され、加えて多数の民間人も犠牲になるので、クリントン大統領は頭を抱えた。

そこで、ジミー・カーター元大統領を大統領特使として、北朝鮮に派遣して、金日成主席との会談で、北朝鮮は、核開発中止、「NPT]復帰の約束をし、黒鉛炉を廃棄する見返りとして、軽水炉の提供や以後北朝鮮に毎年食料と、火力発電用の50万トンの重油を供与することを約束した。

金大中政権の韓国も「太陽政策」として多額の資金を援助した。

北朝鮮は、この合意に沿って、黒鉛炉を廃炉にして、プルトニウム型の原子爆弾を作ることはやめたが、もう一つの原子爆弾の作り方であるウラン濃縮型の核開発をパキスタンから技術を得てひそかに進める。インドに対抗して核兵器を持っているパキスタンに北朝鮮はミサイルを売っており、密接な関係があるのだ。

ウラン濃縮型だと、ウラン鉱石は北朝鮮にもある。原子力発電所の建設は不要で、地下にウラン濃縮工場をつくってそこで秘密裏に核兵器用のウランを製造すればよい。原子爆弾については、「日本は原子爆弾をつくれるのか」のあらすじを紹介しているので、参照して欲しい。



2002年になって米国がこのことを突き止め、ケリー特使を派遣すると、北朝鮮はウラン濃縮型の核開発を認め、翌2003年に「NPT]を脱退する。

米国、ロシア、中国、日本、韓国は北朝鮮を入れた6カ国協議を始めるが、それからは北朝鮮のやり放題だ。

2005年に核兵器保有を宣言。
2006年に初の地下核実験を実施。平行して長距離弾道ミサイルの発射に成功。
2009年に二度目の核実験を実施。
2013年に三度目の核実験を実施。
2016年に四度目(水爆実験に成功したと発表している)、五度目の核実験を実施。
2017年に六度目の核実験を実施。
2018年に最初の米朝首脳会談がシンガポールで開催される
2019年に二度目の米朝首脳会談がベトナムのハノイで開催される
2019年に板門店で、米、韓、北朝鮮の首脳が会談

世界をだまして結局核兵器を持った北朝鮮の金一族は、これで一族安泰とほくそ笑んでいることだろう。核兵器を持った北朝鮮の金正恩は、選挙対策で外交の実績を欲しがる米国のトランプ大統領を手玉に取り、自信をもって、強気で交渉していることがわかる。

池上さんは、金一族の家系図を掲載している。

金一族家系図
























出典:本書215ページ

驚くのは金正恩の冷血さだ。金正日葬儀の時に金正恩と一緒に棺を運んだ体制トップ7人のうち、5人が2年後には粛清または更迭されている。

特に、上記の家系図にもある張成沢の処刑には、池上さんも衝撃を受けたという。張成沢は金正恩の叔父さんで、実質No.2と見られていたが、あっさりと銃殺された。張成沢は、金正日体制に替わった時、秘密警察組織を指揮し、1万人を処刑し、2万5千人を強制収容所に送ったといわれている。

テレビで放映されたマレーシアのクアラルンプール空港でのVXガスによる異母兄金正男暗殺も衝撃的だった。

次が池上さんがまとめている世界の核保有国リストだ。

核保有国と弾頭数









































出典:本書226ページ

核保有国に仲間入りし、金一族の独裁政治を維持するためには、身内も殺すという冷血な指導者が支配している国。そんな北朝鮮にまともに付き合えるとは思えないが、池上さんは当事者同士の話し合いで、核兵器非保有に合意したブラジルとアルゼンチンや、南アフリカなどの例を出して、核兵器の拡散を止めることは無理だと考えないほうがいいと高校生たちに力説する。

最後に民族差別につながる「朝鮮人だから」とか「韓国人は」とか偏見を持たないよう生徒に注意して、池上さんの講義は終わる。

この本を読んでいると、池上さんの知識の広がりは、どれだけあるんだと驚かされる。世界各地に、たとえば北朝鮮には2度行っているという池上さんの実地体験も貴重だ。

高校生向けの講義なので、質疑応答形式で進めていてわかりやすい。他の「世界の見方」シリーズも読んでみようという気になる本である。


参考になれば、次を応援クリックしていただければ、ありがたい。


書評・レビューランキング  

Posted by yaori at 15:01Comments(0) 池上彰 | 韓国

2020年07月08日

超訳 日本国憲法 池上彰さんの憲法解説

2020年7月8日再掲:

以下で紹介した池上彰さんの「君たちの日本国憲法」という高校生への授業をまとめた本を使って、中田敦彦さんが、日本国憲法に関する講義をしていたYouTube大学の動画は現在「非公開」になっている。

そのため、以下のあらすじでもYouTubeのリンクを削除した。

チャンネル登録260万人を超えた中田さんのYouTube大学にも、池上さんが「これが日本の民主主義」で書いている様に、安倍政権のメディアコントロールの網がかかり、「ご説明に上がりたい」という連絡が来たのかもしれない。

以下で示す通り、アマゾンの「君たちの日本国憲法」のサムネイルの帯には、YouTube大学で取り上げられた旨が宣伝文句で載っており、これはどうするのかと思う。

ともあれ、何かが起こったことは間違いないので、YouTubeのリンクなしのあらすじを再掲する。


2020年7月2日初掲:

超訳 日本国憲法 (新潮新書)
池上 彰
新潮社
2015-04-17


池上彰さんの日本国憲法の逐条解説。

中田敦彦さんのYouTube大学で、同じ池上彰さんの「君たちの日本国憲法」という高校生への授業をまとめた本を使って、憲法改正についての講義をしていたので、同系列の本として読んでみた。(2020年7月8日追記:YouTube大学の動画は現在「非公開」になっている)。

君たちの日本国憲法
池上 彰
ホーム社
2019-02-26



筆者は、憲法はリベラル派の小林直樹先生の授業を受けた。このあらすじを書くに際して、小林直樹先生のことを検索したら、2020年2月に98歳で亡くなったことを知った。憲法の教科書の他に、岩波新書の「憲法第九条」や「憲法を読む」などの著書を残している。

憲法第九条 (岩波新書)
直樹, 小林
岩波書店
2002-09-20


学生の時に勉強したとはいえ、その後50年近く経っているので、うろおぼえで、再度勉強するのに憲法の全条文を細かく解説してくれるこの本は大変役にたった。

池上さんは、日本国憲法に関して何冊も本を書いているので、「池上彰の憲法入門」という本もあわせて読んでみた。「憲法入門」では、日本国憲法制定のいきさつや、「芦田修正」などを紹介している。




おさらいのために、経緯を見直しておくと、
・1945年8月15日に日本がポツダム宣言を受け入れて無条件降伏
・1945年10月にマッカーサーが日本の幣原喜重郎首相に憲法の自由主義化を要求
・1946年2月1日に日本側の「憲法改正政府試案」が毎日新聞にリーク。これは大日本帝国憲法と大して変わらず、国民主権、基本的人権、平和主義などの原則が入っていなかったので、マッカーサーが激怒。
・1946年2月3日にGHQ民政局のケーディス大佐以下25名に日本国憲法の草案作成を指示
・1946年2月10日に草案が完成し、マッカーサーが筆をいれ、12日に最終案が完成
・1946年2月13日に日本国憲法の草案が日本側に提示される
・1946年3月4日に日本側が手直しした草案を基に、日米合同委員会で検討し、3月5日に正式な日本国憲法草案が完成。この際、2院制となり、アメリカ側の「土地はすべて国のもの」という案は削除された
・1946年3月6日に憲法改正草案要綱が正式発表される
・1946年4月10日女性投票権も認められた戦後初めての衆議院選挙が行われる
・1946年6月20日帝国議会で「大日本帝国憲法改正案」が審議され、「芦田修正」が入る。衆議院で一部修正・可決、貴族院で一部修正・可決、枢密院で可決される
・1946年11月3日(旧明治節)に日本国憲法公布
・1947年5月3日 日本国憲法施行

芦田修正」とは、衆議院憲法改正案特別委員会で検討された際に、当時の自由党芦田均委員長によって、2か所が大きく修正された。その部分は次の赤字になっている部分だ。(語句の細かい修正は省略)

第9条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。

前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。

その後、1957年になって、芦田さんは、日本が自衛のための力を持つことができるように憲法を修正しておいたと説明した。

つまり、「前項の目的を達するため」という表現が入ったことで、無条件に武力を捨てるのではないことが明白になったのだと。

元々マッカーサーが指示した条件には、「自国を守るための戦争も放棄する」とあったのを、草案作成リーダーのケーディス大佐が、自衛の戦争まで放棄するのは非現実的と考えて削除したという経緯がある。

その後、朝鮮戦争が起こり、日本在留の米軍が国連軍として韓国に行き、その真空地帯を埋めるべく、警察予備隊が組織され、現在の自衛隊につながるのは周知の事実だ。

池上さんは、安倍内閣が内閣法制局長の首をすげかえるというやり方で、集団的自衛権についての解釈を変えたことについて、わざわざ「集団的自衛権と日本国憲法」という一章を設けて解説している。

集団的自衛権は国連憲章第51条で規定がある。「国連加盟国に対して武力攻撃が発生した場合には、安全保障理事会が国際の平和及び安全の維持に必要な措置をとるまでの間、個別的又は集団的自衛の固有の権利を害するものではない。(後略)」。

これについて、内閣の憲法解釈に責任を持つ内閣法制局は、「国家である以上、日本も自衛の権利は持っているし、集団的自衛の権利も保有している。しかし、集団的自衛権は行使できない」という判断をとってきた。いわば、「持っているが使えない」というものだ。

日本国憲法第9条は、「武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」としている。集団的自衛権は、自国が攻撃されていなくても仲間の国を助けることだから、「国際紛争を解決する手段」としての武力の行使に該当する。これは憲法違反の行動になってしまうから、「持っていても使えない」という論理だ。

これを安倍内閣は、「パワーバランスの変化や技術革新の急速な進展、大量破壊兵器などの脅威等により我が国を取り巻く安全保障環境が根本的に変容し、変化し続けている状況を踏まえれば、今後他国に対して発生する武力攻撃であったとしても、その目的、規模、態様等によっては、我が国の存立を脅かすことも現実に起こり得る。」

「こうした問題意識の下に、(中略)我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある場合において、これを排除し、我が国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がないときに、必要最小限度の実力を行使することは、従来の政府見解の基本的な論理に基づく自衛のための措置として憲法上許容されると考えるべきであると判断するに至った。」ということで、憲法解釈を変えた。

実質的な憲法の改正にあたる「解釈改憲」だという批判がおこったが、安倍首相は、「私が政治の最高責任者。私が決めることができる。反対なら、次の選挙で政権交代させればいい」と言ったと。

これが「民主主義のジレンマ」だと。2012年の衆議院選挙で、国民は民主党から自民党への政権交代を実現させた。安倍首相が開き直って言っているように、選挙で勝つことにより、政権政党がやりたいことをやる可能性もある。選挙はそんな性格を持っている。

当時のテレビで、安倍首相が集団的自衛権の必要性を強調する説明のなかで、「日本人母子を保護した米軍の艦船が攻撃された場合、自衛隊は米国の艦船を守ることをみとめるべきだ」と主張していたことを思い出す。

集団的自衛権の説明




















出典:Huffingtonpost

ところが、アメリカ国務省領事局のウェブサイトを見ると、「緊急時にアメリカが救出するのは米国籍の市民を最優先する」と書いてあり、さらに、「市民救出のために米軍が出動するというのは、ハリウッドの台本だ」とも書いてあると。だから、安倍首相の「米軍が日本人の母子を救出」というのは、二重にあり得ない設定なのだと。

感情論に訴えて自己の主張を通そうとする、よくある手法なのだと池上さんは語る。

池上さんは、「これが日本の民主主義」という本でも、安倍政権を批判している。特に安倍政権のメディアコントロールについては、池上さんが批判すると、ご説明に上がりたいという連絡が来るという。

これが「日本の民主主義」!
池上 彰
ホーム社
2016-10-26


安倍政権の締め付けで、メディアが骨抜きにされていることは、内閣から敵視されている東京新聞の望月衣塑子さんが「権力と新聞の大問題」で語っている。

権力と新聞の大問題 (集英社新書)
マーティン・ファクラー
集英社
2018-06-15


最後に池上さんは、北朝鮮の憲法、中国の憲法、米国の憲法も比較のために簡単に紹介している。

北朝鮮の憲法の前文で、「朝鮮民主主義人民共和国は、偉大な領袖金日成同士と偉大な指導者金正日同士の思想と指導を具現した主体(チュチェ)の社会主義祖国である。」としている。

北朝鮮はソビエトの支配下で独立を達成したが、北朝鮮の公式見解では。金日成率いるパルチザンが日本軍を敗北させ、独立を勝ち取ったことになっている。

北朝鮮では、朝鮮労働党が憲法より上位にある。

北朝鮮の憲法では、「全ての公民に真の民主主義的権利と自由、幸福な物質・文化生活を実質的に保障する。公民は、言論、出版、集会、示威と結社の自由を有する。国家は、民主的政党、大衆団体の自由な活動条件を保障する。」となっているが、憲法に書かれているからといって、それが実現しているわけではないと池上さんは語る。

中国の憲法も同様だ。中国共産党が憲法より上位にある。だから、憲法が、「中華人民共和国公民は、言論、出版、集会、結社、行進及び示威の自由を有する。」と書いていても、全く絵に描いた餅だ。

今香港で起こっている中国の「国家安全法」制定に反対して、1国2制度、言論の自由の維持を求めた抗議活動は、中国の憲法で認められている人民の権利だが、それが中国共産党の不利益になるものであれば、禁止され、反対者は牢獄にぶち込まれるのは、テレビで放送されている通りだ。

これは日本や米国など自由主義諸国の憲法とは異なる。香港返還時に、1国2制度を50年間維持することを中国は確約したので、筆者も香港市民への弾圧には断固反対する。しかし、社会主義国中国の憲法からすれば、当然の帰結なのだ。

チベットやウイグルの少数民族も同様だ。憲法では、「中華人民共和国の諸民族は、一律に平等である。国家はすべての少数民族の適法な権利及び利益を保障し、民族間の平等、団結及び相互援助の関係を維持し、発展させる。いずれの民族に対する差別及び抑圧も、これを禁止し、並びに民族の団結を破壊し、又は民族の分裂を引き起こす行為を禁止する。」となっているが、チベットや新疆ウイグル自治区での中国政府による弾圧、監視カメラによる監視はよく知られている。

中国の憲法では、信仰の自由を保障しているが、中国ではカトリックは抑圧されている。カトリック信者はローマ法王に従うので、外国勢力の支配なのだと。

池上さんは、アメリカ合衆国の憲法も簡単に紹介している。米国の憲法は、修正する場合には、前の条項を残したまま、付加された条項が前の条項を否定する形を取っているので、否定された奴隷制度、禁酒法などが、条文として残っている。

米国憲法の特徴は、銃を持つ権利を保障していることだ。「規律ある民兵団は、自由な国家の安全にとって必要であるから、国民が武器を保有し携行する権利は、侵してはならない。」としている。

池上さんは、いくつも憲法解説本を出している。どれを読んでも参考になると思う。興味がわいたら、まずは「超訳 日本国憲法」から始めることをお勧めする。


参考になれば、次を応援クリックしていただければ、ありがたい。


書評・レビューランキング  

Posted by yaori at 15:00Comments(0) 趣味・生活に役立つ情報 | 法律

2020年07月06日

スノーデンファイル スニッフィングは死語ではない

+++今回のあらすじは長いです+++



2013年に米国のNSA(国家安全保障局)の元システム管理者が、米国・英国は世界中のインターネット通信、電話、そして同盟国の首相の携帯電話まで盗聴していること示す記録を暴露したことから、世界中で大問題となったスノーデン事件を報道した英国「ガーディアン」紙のライターがまとめた事件の全貌。

本件の報道で、「ガーディアン」紙は、「ワシントンポスト」紙とともに、2014年のピューリッツァー賞を受賞している。

スノーデン事件に関しては、記録映画とオリバーストーン監督の2本の映画が製作されている。記録映画の方は、アカデミー賞の長編ドキュメンタリー賞を受賞している。





スノーデンはワシントンDCの近くのメリーランド州に育ち、病気のせいで高校は卒業できなかったが、コミュニティカレッジでコンピューターを学び、ハイスクールの卒業資格を得て、途中で両足を骨折してあきらめた米特殊部隊の採用訓練を経て、メリーランド大学先端言語研究所の「セキュリティスペシャリスト」として、2005年からNSA(国家安全保障局)の仕事を始めた。

NSA本部はメリーランド州のフォートミードにあり、スノーデンの実家の近くだった。「パズル・パレス」と呼ばれ、約4万人が働く米国最大の数学者の雇用者だという。

NSA HQ






















出典:本書

2006年にはCIAで職を得て、2007年から2009年にスイスのジュネーブで働く。2009年にCIAをやめ、在日米軍横田基地にあるNSAの施設で、NSAから受託しているデルの契約社員として働く。2012年に、NSAのハワイオアフ島にある「トンネル」と呼ばれる暗号解読センターに移る。中国のネットワーク研究の専門家になり、国防総省の幹部を相手に、サイバー防諜に関する講義もしていた。

「トンネル」時代は、憲法のコピーをデスクに置き、オリバー・ストーンの映画の予告編でも出てくるように、ルービックキューブを手に構内をうろついた変わり者だったという。

「トンネル」勤務の時に、古いデータの整理をしていたら、「ステラウィンド」というコードネームで、米国憲法修正第4条に違反して何百万人ものアメリカ人の交信内容やメタデータを許可なく集めていた(盗聴=スニッフィング)ことをNSA監察官が書いた2009年のレポートがあることを知り、スノーデンは義憤を覚えた。

合衆国憲法修正第4条は、国民に対する不当な捜索・押収を禁じており、捜索(通信傍受を含む)は、「相当な理由」があり、裁判所が礼状を発行した場合にのみ、特定の容疑者に対して合法的に実施できる。

ウォーターゲート事件で退任したニクソン大統領は、同じような盗聴事件の「ミナレット」事件を起こしており、ニクソン政権にとって要注意人物の何人かの上院議員、モハメド・アリマーティン・ルーサー・キング牧師、女優のジェーン・フォンダなどの電話の盗聴をNSAに命じた。

この反省もあって、1978年に成立した外国情報監視法(FISA)は、NSAは裁判所の令状がない限り、米国内の通信、米国人がかかわる通信を傍受できないことになっている。

ところが、状況が一変したのは、2001年の9.11以降だ。10月には「愛国者法」が圧倒的多数で可決され、FISAによって設置された特別裁判所は、情報収集に理解を示し、米国の大手通信会社やプロバイダーが欲しがっていた包括的な命令を下した。

さらにFISAは2008年に改正され、「情報収集の価値があると『合理的に』疑われる」アメリカ人と外国人との通信の傍受をすべて合法化し、大量監視に参加した通信会社を法的に免責した。改正FISA法は、すべての通信の傍受を合法化しているのではない。あくまで上記の制限があるのに、実際NSAがやっていたことは、すべての通信の監視だった。これは明らかなプライバシー侵害だ。

しかし、デルの契約社員という立場ではアクセス権限が限られていたので、2013年3月に契約先をデルからコンサル会社のブーズ・アレン・ハミルトンに変え、NSAnetにアクセスできるシステム管理者となる。NSAのシステム管理者は1,000名前後いたという。スノーデンは、何の痕跡も残さずファイルを開くことができる「ITの天才」だったという。

これから、スノーデンはNSAnetにある情報をせっせとUSBメモリー移していった。NSAは英国のGCHQ(政府通信本部)と極秘情報も共有しているので、英国の機密情報にもアクセスできた。その数は、英国GCHQ関連だけでも5〜6万にも上るという。

NSAは英語圏の英国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドと5カ国で「ファイブ・アイズ」を形成し、情報活動の成果を共有しているが、完全に情報共有しているのは米国と英国だけだ。

新しい仕事について4週間過ぎたころ、体調が悪いとして休暇を申請し、5月20日に姿を消す。向かったのは香港だ。

スノーデンは、2012年末からドキュメンタリー映画製作者、ブラジル在住の「ガーディアン」紙のコラムニストに連絡を取っており、香港のホテルで「ガーディアン」関係者と会って、情報提供者として、NSAとGCHQがやってきた違法行為すべてをぶちまける。

「表現のすべてが記録される世界になど住みたくない」とスノーデンは語ったという。

ダークウェブへのアクセスで使われていることで有名なTor匿名化ネットワークを使った、Tailsという通信方法を使った。

最初のミーティングの前に、Tailsで送ったスノーデンの「ウェルカムパッケージ」は、20前後のNSA内部文書で、大部分が「トップシークレット」で、その中には「PRISM」と呼ばれる米国の主要IT企業のサーバとつないだインターネットの監視システムの説明スライドもあった。

次が本書で紹介されているスノーデンファイルに含まれていた「PRISM」の構成図だ。「TOP SECRET」と表示されている。

PRISM




























出典:本書

図の上の方が、海底光ケーブル、ゲートウェイスイッチ、データネットワークのデータを入手するためのバイパスを設置している「UPSTREAM」と呼ばれる仕組み。全世界の通信の80%をハッキングすることができるという。NSAは100以上の米国企業と関係を結んでいるとNSA監察官の報告書には記載がある。

「UPSTREAM」が取りこぼしたデータを「PRISM」でカバーする。NSAはマイクロソフト、ヤフー、グーグル、フェイスブック、PalTalk、AOL、スカイプ、YouTube、Appleのサーバーから直接データを取得していると説明している。ドロップボックスも加わる予定だと。

スノーデンは、この「直接のアクセス」がPRISMの実態だと強調したという。

ちなみに、最初にデータ提供に協力したのはマイクロソフトで2007年9月のことだった。アップルは5年間抵抗し、スティーブ・ジョッブスが亡くなった1年後の2012年10月に同意している。

GAFAの中では、理由はわからないが、アマゾンだけが抜けている。それ以外はすべてデータ入手元として入っている。NSAがアマゾンのAWSを見逃すはずがないと思うので、現在は対象になっているのだと思うが、よくわからない。

2013年6月に「ガーディアン」米国の暴露記事が、次々と公開された。「NSAは4月に発行された秘密の裁判所命令に基づき、ベライゾンの何百万人もの顧客の通話記録を収集している」、そしてその次は「PRISM」だ。「NSAはグーグル、フェイスブック、アップルなどの米IT大手のシステムに直接アクセスできる」。

「ガーディアン」米国を選んだ理由は、英国のジャーナリストは、米国のジャーナリストの様に、憲法で言論の自由が守られているわけではない。また、米国では「ウォーターゲート事件」の様に、ジャーナリズムによる権力の監視に対する理解もある。ところが、英国では、ウォーターゲート事件と同じ時期に、GCHQを「盗聴者」と呼んだ記事を書いた記者が「国家機密法」違反で有罪を宣告されている。

この本では、その後「ガーディアン」本社で、スノーデンから預かったデータを入れたPCを、GCHQ職員の立会のもとに破壊したことを伝えている。GCHQは逮捕・押収という強硬手段を使わなかった。スノーデンが「保険」(ウィキリークスがやったように、機密文書が一つ残らずネットに流出すること)を掛けていることを恐れたのではないかと。

SnowdenPC parts




























出典:本書

記事が公表された時、スノーデンは香港のホテルで歓喜に浸っていたという。上記の記録映画の予告編にも含まれている通り、CNNなど大手メディアが大きく報道したからだ。そしてスノーデンは、みずからインタビューに応じる形で、「顔だし」し、米国「ガーディアン」を通じ、CNNなど各局で流された。

そして、スノーデンは香港から姿を消した。モスクワのシェレメチェボ空港に行き、1ヶ月間そこのトランジットエリアで過ごし、結局ロシアへの入国を認められた。スノーデンが緊密に連絡を取っているウィキリークスジュリアン・アサンジは、在ロンドンのエクアドル大使館に亡命していたが、奇行を理由にエクアドルからも見放され、現在は英国警察に逮捕されている。スノーデンも最終的に、エクアドルなどの国を目指して、これからも「逃亡者」としての人生を生きていくのだろう。

ちなみに、スノーデンは、当初1年間限りというロシア滞在許可だったが、何回か更新されて、今でもロシアにいる。池上彰さんと佐藤優さんが対談している「ロシアを知る」という本によると、プーチンは元KGB職員として国家を売るような行為は許せなかったが、国益のために情報を搾り取ることを優先したようだと。

上記で紹介したオリバーストーン監督の「スノーデン」は、米国企業から資金提供やスタジオ協力が得られず、資金は英独企業から得て、撮影はドイツで行われた。

ロシアを知る。
佐藤 優
東京堂出版
2019-06-11


スノーデンファイルで盗聴の事実が暴かれているので、いくつか紹介しておく。

2009年のロンドンG20サミットの際に、GCHQが諸外国の首脳を盗聴していたことが明かされている。GCHQはキーロギングソフトを仕込んだ偽のインターネットカフェを設置し、代表者たちのパスワードを盗み出し、彼らのブラックベリーに侵入して、メールや通話内容をモニターした。サミット開催中、45名の分析官がリアルタイムでモニターしたという。

NSAは米国内の外国公館も盗聴していた。通信機器やケーブルに盗聴器を仕掛け、特殊なアンテナを使って送信データを収集する。中国やロシアのみならず、友好国のEU代表部、フランス、イタリア、ギリシャ、日本、メキシコ、韓国、インド、トルコなどの大使館も標的になった。

ドイツの「シュピーゲル」紙が、スノーデンが暴露する前の2013年1月に、NSAは何百万人というドイツ人の通信データを日常的に収集しているという報道をした。通常の月で5億件の電話、メール、テキストメッセ―ジを収集する。ドイツ憲法はプライバシー権が組み込まれており、NSAは重大な侵害をしていたのだ。NSAはフランス、イタリアでも同様の通信傍受をしている。

メルケル首相は2013年9月の総選挙を控えて、この問題を重要視しないことを決めた。しかし、2013年10月に、「シュピーゲル」がスノーデンファイルの中からメルケル首相の私用携帯電話番号を見つけたのだ。NSAは10年間にわたってメルケル首相の私用携帯電話まで盗聴していたのだ。メルケル首相はカンカンになって、オバマ大統領を携帯電話で呼んで、いったいどうなっているのかと尋ねたという。オバマ大統領は、「米国はメルケル首相の盗聴はしていない。これからもしない」と法律家らしく答えたという。

外国の重要人物の電話盗聴は、最低でも35名に上り、ブラジル大統領、メキシコ大統領、私企業のペトロブラス、インドネシアのユドヨノ大統領と夫人、主要閣僚(これはオーストラリア国防省が出所)などがターゲットだった。

NSAでは「ブルラン」、GCHQでは「エッジヒル」というコードネームで、暗号化された電子データの解読プロジェクトが巨額の資金を投入して推進されている。「ブルラン」は年間2億5千万ドルかけて(2013年予算)いる。

「エッジヒル」プロジェクトでは、GCHQはインターネットプロバイダー3社、VPN30種への侵入に成功しており、2015年には、プロバイダー15社、VPN300への侵入を目標としている。

「ブルラン」の予算書によると、スーパーコンピューターを使って暗号化のアルゴリズムを解析する一方、開発業者・IT企業と協力して、何百万人もが使う暗号化ソフトのソフトウェアとハードウェアに、「バックドア」としてセキュリティホールを仕込んだ。必要があれば、暗号化キーが保管されているサーバに侵入するという。スノーデンファイルには協力した企業名は出てこないという。

「この10年間、NSAは幅広く普及したインターネット暗号化技術を破るため、各方面から積極的な努力を重ねてきた。暗号解読がいよいよ現実のものになった。これまで捨てていた大量の暗号化データを十二分に活用できるのだ」と。

このプログラムの良さは、暗号化されているはずの通信内容が、もはやハッキング可能なことを一般市民が知らない点にあるとNSA文書はいう。

NSAは4G携帯の暗号化システムを破っている他、HTTPS、SSLなどのセキュアプロトコルも標的にしている。しかし、これはNSAがシステムに侵入できるようになると同時に、暗号化キーを入手できたハッカーや敵国の諜報機関にも侵入の道をひらく。アメリカ人の安全を守ろうとして、アメリカ人の通信の安全性、インターネット全体の安全性を損なう行為だと、本書で非難している。

インターネットのセキュリティを担当するNISTにもNSAは痛手を与えた。2006年、NISTの主要な暗号化標準の一つにバックドアを設置、その上で別の国際標準機関にその採用を推奨した。「ついに我々は唯一無二のエディターになった」とNSAは豪語していると。

NSAは匿名化ツールTorの暗号解読にもエネルギーを注いでいるが、まだ解読できていない。代わりにファイアフォックスなどのウェブブラウザーを攻撃し、ターゲットの端末を支配してきたという。Torトラフィックに「印」をつける能力は開発している。

スノーデン事件の影響で、ロシアやインドなどの在外公館ではタイプライターが復活しているという。皮肉なものである。


情報セキュリティ、そして暗号化技術の脆弱性の面からも大変参考になった。盗聴されていることを前提に考え直す必要があると思う。


参考になれば、次を応援クリックしていただければ、ありがたい。


書評・レビューランキング  

Posted by yaori at 14:08Comments(0) インターネット | 個人情報保護

2020年07月04日

中田敦彦さんのYouTube大学の「お金の授業総まとめ」最終結論

2020年7月4日再掲:

中田さんの勧めに従い、「バンガード・S&P 500 ETF」を6月26日に買ったら、7月1日現在の株主への配当金が7月6日に入金するとの連絡があった。

年4回配当しているのだ。

今回の配当利回りは0.5%程度と大したことはないが、それでも年4回だと2%程度にはなる。

ETF自体も、この間に上下あり、2.5%程度値上がりしている。

もちろん、これは株価次第で、買った翌日に米国株は一旦下がったが、それ以降は上昇を続けている。米国のコロナ対策が再度強化されると、株価はまた下がるだろうが、長期保有するので、一喜一憂することではない。

全く意識していなかったが、配当基準日の直前に買うと余禄がある。

世界の投資信託の市場規模は米国が圧倒的に大きい。日本の12倍だ。だから世界中の資金が集まるし、競争も厳しいので、商品には魅力があり、投資家保護も行き届いている。

20Q1世界投資信託統計











出典:(一社)投資信託協会

米国株。面白い!


2020年6月26日初掲:





中田敦彦さんが「お金の授業総まとめ」として、バフェット太郎さんや、たぱぞうさんなど16冊のお金の本を読んだ最終結論として、お金持ちになる(自分が働くのではなく、お金を働かせる)ためには、余剰資金を長期の米国株インデックス積み立て投信に振り向けることを推奨している。

大手証券会社の窓口には行くな、日本株は買うななど、普通なら言えないことも言えるのは、「芸人だから」なのだと。テレビなどスポンサーがついている番組でも、そういったことは言えないだろう。芸人YouTuberだからこそ言える本当の話なのだ。

バカでも稼げる 「米国株」高配当投資
バフェット太郎
ぱる出版
2019-01-24









預金や国債でなく株式というのは違和感がないし、大半のファンドマネージャーが、株式市況に連動するインデックスファンドに結局勝てないことは知っていたが、日本株ではなく、米国株という結論に最初違和感を持った。しかし、考えてみると、やはりこれが間違いない財産形成の道だと筆者も同意する。

そのこともあって、なぜ日米株価でこれだけ差がついてしまったかを考えてみた。

まずは、事実の検証だ。過去35年のダウ平均株価の推移と、日経平均株価の推移を見ると、日本はバブルのピークをいまだに超えられないのに、米国株価はリーマンショックの時期を除いて順調に右肩上がりとなっている。

ダウ平均株価推移過去35年












日経平均株価推移過去35年












出典:三菱UFJモルガン・スタンレー証券

このグラフを見ただけでも、資産を増やしたいのなら日本株より米国株ということが言えるだろう。

次は前回紹介した村上世彰さんの「生涯投資家」に載っていた米国と日本の上場企業時価総額比較の表だ。

バブルの頃の一時期には日本が上回ったが、それを除いて、1995年頃までは日本と米国の株式市場の規模はほぼ同じだったが、現在日本は500兆円しかないのに、米国は2000兆円以上ある。

日米時価総額推移 (2)





















出典:「生涯投資家」200P

「生涯投資家」で村上さんは、米国の株式市場が成長し続け、日本よりはるかに高い価値を保っているのは、物言う株主がいて、株主の利益を守るコーポレートガバナンスが機能する環境を築いてきたからだと語る。

米国では1980年代のレーガン大統領の年金改革以来、確定拠出型年金の401Kが広まった。これによって年金資金の運用方法を自分で決めることができ、多くの一般市民が株式・投資信託による運用を始めて株式投資のすそ野が広がり、さらに各種ある年金基金も、大量の資金を投入して多くの企業の大株主となった。

このように一般市民、年金基金も加わって、米国の株式市場の拡大に貢献したことが、コーポレートガバナンスという、経営者行動の監視、企業活動への規律が定着した基盤となった。

中田さんは、株式は会社の区分所有権なので、インフレに強いという説明をしている。それはそれで正しいが、インフレ率でも日米に大変な差があり、日本の株価が上がらない理由の一つになっている。

次は過去30年間の日本と米国のCPI(消費者物価指数)の推移のグラフだ。

まずは、日本のCPI推移のグラフ。バブル崩壊後の1990年代前半を除いて、ゼロの線をはさんで上下している。日本はインフレは完全に抑えられているので、その意味では素晴らしいことだが、逆にデフレが日本経済拡大の足かせとなっている。
日本CPI上昇率

















次に米国のCPI推移のグラフ。あきらかに日本のグラフより2〜3%上を行っている。

米国CPI上昇率




















資料:GLOBAL NOTE 出典:IMF

グラフだけだと、どれだけの差となっているのか実感がわきにくいので、上記をエクセル表にして1990年1月1日を100とするCPI指数を計算してみた。その結果が次だ。

日本の過去30年間のCPI推移。30年前に100だったものは、日本では現在115だ。

日本CPI推移









































米国のCPI推移も同様に計算してみた。米国で30年前の100は、現在は206だ。つまり倍以上になっているのだ。日本では30年間で、15%しかCPIが上昇しなかったが、米国では30年間で倍以上になっている。物価だけでもこれだけの違いがあるのだ。ためしに中国も試算してみたら、中国は3倍以上の319だった。

これからもCPIは同様の傾向が続くだろう。そして米国の株価は常にCPIを上回るだろう。しかし、CPIのみが決定要素ではない。GDPだったり、他国と比較するには為替相場、経済全体の活力、社会・経済の透明性、そして個別企業の成長性などがコーポレートガバナンスが徹底した米国企業の株価を今後も支えていくのだ。

日米中GDP推移

















出典:世界経済のネタ帳

筆者自身は、米国株では苦い経験がある。米国に駐在していて、ちょうどインターネットバブルの頃にぶちあたり、その時にインターネット関連のファンド(投資信託)を買った。しかし、インターネットバブル崩壊で、結局投資した金額が1年で半分になってしまった。

この時は、いずれ日本に帰国するので、日本でも店がある新興ネット証券会社ということで、当時のDLJダイレクト証券(現在の楽天証券)に口座を開いた。2000年のことだ。

それ以来、米国株には投資していなかったが、当時と今とでは環境が異なり、中田さんイチ押しの「バンガード・S&P 500 ETF」や、「楽天・全米株式インデックス・ファンド」なら、少額から始められるので、早速やってみた。めちゃくちゃ簡単に米国株が買えるんだ!

筆者はこれまで日本の高配当株に長期安定投資してきており、最近も株価下落を好機に、持高を積み増している。

キャピタルゲイン狙いではないので、今年になって買い増しした部分は現株価が購入価格を下回っているものもあるが、売るつもりはないので株価が下がっても問題はない。むしろ株価が下がって5%以上という高率の配当利回りになっているので、予定通りの配当さえもらえれば別に構わない。

これからも日本の高配当株という基本線は維持するが、余裕がある軍資金は、米国株に振り向けようと思う。

中田さんは、「不都合な真実を言っちゃうのがエンターテイメント」であり、それがオモロイのだと語る。

筆者も、「不都合な真実を言っちゃう」ノリで付け加えると、年金はチョイスがあるのであれば、はやく日本型401Kの確定拠出型年金=iDeCoにした方がよい。

確定給付型の厚生年金だと、自分の積み立てた資金であっても、一定以上の収入が他にあれば、年金支給が停止される。具体的に言うと、「賃金+年金」の月額が65歳未満は28万円、65歳以上は47万円を超えた場合、金額によって一部〜全部支給停止となる。

人生100年時代とか言っていても、実際に長く働き続けて収入を維持すると、年金は国に没収される。まさに逆の政策を続けているのだ。

筆者の場合、毎年支給停止が続き、65歳を過ぎてこれで厚生年金が満額もらえると思ったら、まだ仕事をしているので、ほとんど支給停止となっている。

さらに、日本の「ねんきん定期便」が記載している保険料納付額は、自分の払った厚生年金のみで、雇用者が払った金額が全く表示されていない。

雇用者が同額払っていることを(注)に書くだけで、本当は、「ねんきん定期便」に書いてある倍の金額を国に納めていることを意図的に隠して、ネコババしようとしているとしか思えない。

米国のソーシャルセキュリティの「ねんきん定期便」にあたるステートメントでは、はっきり"You paid"と”Your employers paid"の金額が、両方明示されている。

米国のリーガンからの年金改革は、まさに先見性ある改革だったと今更ながらに思う。

この辺のことを詳しく知りたい人は、2011年の資料だが、金融審議会で、株式会社野村資本市場研究所の人が、「米国における市場型金融の進展」ということで詳しく分析しているので参考にするとよい。中田さんの米国株投信イチ押しという結論をサポートする事実が述べられている。

米国に倣った制度である確定拠出型年金が選べるのであれば、自分の老後資金は自分で守ったほうがよい。

大変参考になり、自分で考えるモチベーションがわく中田さんのYouTube大学講義だった。芸人だから当然だが、話術もうまく、テンポもいい。ぜひ一度視聴してみることをお勧めする。

参考になれば、次を応援クリックしていただければ、ありがたい。


書評・レビューランキング  

Posted by yaori at 12:02Comments(0) 投資 | 中田敦彦

2020年07月01日

大前研一の「経済を読む力」 新しい情報が満載で参考になる

2020年7月1日再掲:

大前さんが「大賛成」と、期待していたので、野村総研のエクゼクティブ・エコノミスト(役員待遇ということか?)で、日銀の政策委員会審議委員も務める木内登英(たかひで)さんのリブラに関する本を読んでみたので、追記する。



大前さんの本が出た当時は、リブラ協会は28の企業、団体が設立メンバーとして名を連ねていたが、2019年10月にペイパル、マスターカード、ビザ、e-Bay、メルカド・パゴ、ストライプ(決済端末サービス)が脱退し、2020年1月にはアフリカNo.1の携帯電話送金サービスのMペサを持つボーダフォンが脱退した

一方、電子商取引大手のShopifyと仮想通貨プライムブローカーTagomiの二社が今年新たにメンバーに加わっているが、脱退した企業に比べれば小粒を言わざるを得ない。

米国系企業がこぞって脱退した理由は、Yahoo!Newsに詳しく述べられているので参照願いたいが、米国議会からの警告状、フェイスブックの脆弱なセキュリティ、ガバナンスの問題などが指摘されている。

フェイスブックは2016年の米国大統領選挙の際に、イギリスのデータ分析・コンサルタント会社に8,700万人もの個人情報が流出して、そのデータがトランプ陣営に有利なニュースを流すことに使われたとして、米国FTCと50億ドル(5,400億円)という巨額で和解しており、同じ事件でSECからも1億ドルの罰金を科せられている。

2019年末にも2億6千万人分の個人情報が漏えいしており、これらの情報セキュリティ管理の甘さが、上記の一流企業がリブラ協会から脱退した主因であることは間違いない。

この漏えいは米国のユーザー情報の様だが、もしEUの人の個人情報が含まれていると、全世界の売上高の4%までというGDPR(欧州一般データ保護規則)による最高罰金が科せられる可能性もある。

また、フェイスブックは、米国で顔認証データを悪用したとして、総額350億ドルの賠償を求める集団訴訟も提訴されている。

そういうわけで、2020年にスタートする予定だったリブラも、コロナ禍もあるし、フェイスブック自体が踏んだり蹴ったりなので、そもそも本当にスタートできるのか不明だ。


2020年5月28日初掲:



大前研一さんの近著。2017年の「武器としての経済学」に加筆・修正して新書版にしたものだ。

武器としての経済学
大前研一
小学館
2017-09-29



「武器としての‥」というと、2019年8月に47歳で亡くなった京都大学准教授の瀧本 哲史さんを思い出す。

このブログでは瀧本さんの「武器としての決断思考」「僕は君たちに武器を配りたい」のあらすじを紹介しているので、参照して欲しい。

瀧本さんは東大法学部助手のあと、マッキンゼーに就職し、その後独立して「エンジェル投資家」としてスタートアップ企業に投資する傍ら、京都大学産官学連携センターの客員准教授として教鞭をとっていた。

武器としての決断思考 (星海社新書)
瀧本 哲史
講談社
2011-09-22



僕は君たちに武器を配りたい
瀧本哲史
講談社
2019-04-19



瀧本さんは、2019年8月に亡くなっているが、「2020年6月30日にまたここで会おう(瀧本哲史伝説の東大講義)」というタイトルの本が2020年4月に出版されたばかりだ。この本のあらすじは2020年6月30日にアップした




この本では、次のような質問に対するQ&Aという形で、ポイントをまとめているのでわかりやすい。これらに対する大前さんの答えももちろん書かれている。ネタバレになるので、各問の答えは紹介しないが、ところどころヒントや参考リンクをつけておく。

第1部 新聞ではわからない「株価と為替と景気」の新常識

Q 円安と円高、結局、どちらのほうが日本にとってよいのか?

Q 日本は将来、インフレになるのか? それにどう備えるべきか?


ヒント:「日本でハイパーインフレを望んでいる人がいるとしたら、それは財務省の役人だろう。」

Q なぜ日銀が株を”爆買い”にしているのに株価が上がらないのか?

参考:「日銀がETFを年間6兆円買うと、日経平均を2000円ほど押し上げる効果があるという試算がある。」

Q 「マイナス金利」を導入しても景気が良くならないのはなぜか?

ヒント:1,800兆円の個人金融資産を消費に向かわせる「心理経済学」

Q なぜ失業率が低いのに景気は回復しないのか?

Q 「GDPを引き上げる」ことがそんなに重要なことなのか?

ヒント:GDPを引き上げたいなら労働力人口を増やすこと(移民を増やす)と、政府が企業に補助金を出すことだ。しかし、企業が補助金を使って、設備投資や生産性を上げると、ホワイトカラー中心に失業者が増大する可能性がある。

Q 東京オリンピックを機に不動産価格が下がるという話は本当か?

ヒント:中国人の不動産投資は、中国国家外為管理局の海外不動産投資規制強化で先細りになっている。

Q 日本の「年金」は現実にはいつまで維持できるのか?

ヒント:人口ピラミッドで明らかなように、現役世代が退職者を支える賦課方式の日本の年金はすでに破綻している。米国のカリフォルニア州では移民を増やすことで年金問題を好転させた。移民受け入れは、反対意見も多く、一筋縄ではいかないだろう。

参考:レーガンは年金制度そのものを変えた。ー給開始年齢を67歳まで引き上げ、運用を自己責任(401K)とした。同時に大幅減税も実施したので、国民から反対の声は上がらなかった。日本でも受給開始を70歳、いずれは75歳まで伸ばす案が出されている。

2020年の人口動態

















出典:GDFreak!

Q 税金を上げたら景気悪化、下げたら財政危機‥‥どうすればいい?

第2章 新しい「世界経済」と「日本経済」への視点

参考:2019年9月に起きたサウジアラビアの石油施設への攻撃は、爆弾を抱えた18機の「カミカゼドローン」と7発の巡航ミサイルによるものとされている。この攻撃はどこが仕掛けたのかは不明だが、ドローンは1000KM飛んで、きわめて精密に目標を攻撃しているという。



ドローンは低空を飛んでくるので、レーダーに捕捉されにくく、イージス艦や迎撃ミサイルでは撃墜できない。ドローン技術は中国が圧倒的に進んでおり、今や1000機のドローンをプログラミングして、空中に文字を作ることもできるようになっているという。「カミカゼドローン」は、「貧者の戦略兵器」になる可能性があるのだ。

Q トランプ大統領がまき散らす世界的混乱をどう乗り越えるか?

ヒント:今、まさにフェイク情報発信源として問題となっているトランプ大統領の「ツイッター政治」だ。JPモルガンチェースによると、トランプのツイートは1日平均10回を超え、2017年1月の就任以来、1万4千回に達したという。

Q 「自国第一」の経済政策でアメリカの貧困層を救えるのか?

ヒント:世界の企業の時価総額ランキングによると、上位50社のうち、米国企業が32社を占めている。トランプ大統領がやるべきことは、これら巨大企業が全世界で創り出した莫大な利益をアメリカ本国に還元させることだ。

Q アメリカと中国の”報復合戦”に着地点はあるのか?

Q 韓国がいつまでも「経済先進国」になれないのはなぜか?


ヒント:イノベーション欠如、極端な学歴社会、ファミリー企業の「ガラスの天井」、頻繁なリストラ

Q ジョンソン首相「ブレグジット強行」で何が変わるのか?

ヒント:いずれ「イングランド・アローン」となるだろう。

Q フェイスブックの仮想通貨「リブラ」は世界をどう変えるのか?

大前さんはフェイスブックが提唱する「リブラ」に大賛成だという。「リブラ」は、グローバルな「リブラ協会」が管理する。大前さんが昔から主張している「ボーダレスエノコミー」に於ける仮想「グローバル政府」の通貨として「ユーロ」の様に管理すれば、基軸通貨ドルの国際決済システム(SWIFT)を握っている米国のトランプ大統領の「ツイッター政治」などに振り回されることはなくなる。

このままだと、中国共産党が監視している「アリペイ」や「ウィーチャットペイ」という中国発のデジタル通貨(いずれもユーザー数は既に10億人以上)が世界を席巻してしまう恐れがある。



Q これから成長するビジネスの「新たな潮流」は何か?

ヒント:シェアエコノミー、アイドルエコノミー、クラウド〇〇

Q 「フィンテック革命」をビジネスチャンスにつなげるには?

参考:スマホ決済はアフリカが一番進んでいるという。「バーティ・エアテル」という会社のモバイル決済サービスを使って、出稼ぎ労働者が、ある国の通貨を「エアテル・マネー」という仮想通貨に換えて送金すると、受取国の家族は自国の通貨で受け取れるのだ。

Q 日本の基幹産業「自動車」市場は今後どう変化していくのか?

ヒント:自動運転、トヨタモビリティ

第3部 「2020年代」のための成長戦略

Q 「高齢化」「少子化」社会でどんなビジネスチャンスがあるのか?

ヒント:具体例(今はコロナ禍で苦境に陥っているが)エアビーアンドビー軒先株式会社akippaビィ・フォワード

Q 外国人観光客「3000万人時代」に日本は何をすべきか?

Q 「月45時間」の残業規制は働き方・仕事をどう変えるか?

Q 日本人の生産性と給与を引き上げるカギ「RPA」とは何か?


ヒント:RPA(Robotic Process Automation)で、ホワイトカラーの間接業務の自動化。

Q 日本経済を支えるためのエネルギー政策はどうあるべきか?

ヒント:ロシアからの電力、ガス輸入を。

Q 増税せずに日本経済を再浮上させる成長戦略はあるか?

ヒント:「容積率」の拡大による建て替えブームと無電柱化

Q 日本の財政危機を乗り越える秘策はないか?

Q 企業の投資が低迷する中で「銀行」はどんな役割を果たすべきか?

Q 隣国ロシアとの関係改善が生む経済効果をどう最大化するか?


A(ここだけネタバレ) 北方領土交渉はなかなか進展しないが、この問題は、もっと大局的にな視点で考えるべき。ロシアとの関係強化により得られる経済的メリットは計り知れないほど大きい。

この本でも、大前さんはアベノミクスを厳しく批判している。

「20世紀に他国で展開された金利やマネーサプライ(マネタリーベース)をいじるマクロ経済政策をそのまま信じて展開するアベクロバズーカほど的外れなものはない。

7年目になっても成果がでていないのに、何の反省もない。こうした昔の学説を大胆に展開する”秀才”は、個々の日本人の生活や心理を全く理解していない。患者の診断をしないで旧式のテンプレートから処方箋を書くヤブ医者といっても過言ではないのだ。」


大前さんの提唱するのは、次のような政策だ。

 ―蠧誓如∨/誉任里茲Δ淵侫蹇爾紡个垢覯歙任鯒兒澆靴董◆峪饂裟如廚鯑各する。

日本の個人金融資産は1,800兆円あるので、これに1%課税して18兆円、不動産にも1%課税すると「資産税」合計で約30兆円になる。金持ちは課税されるくらいなら、投資してキャシュフローを稼ごうとするので、貯蓄から投資へという動きか加速する。

野村総合研究所が日本の富裕層は、127万世帯、純金融資産総額は299兆円と推計している。

◆〜蠡垣如贈与税を廃止する。これにより高齢者から資金ニーズのある若い世代に早めに資産が移っていくので、それが消費につながり、経済が活性化する。

 そして、死んでから資産に相続税を課すのではなく、生きているうちに資産の50%を国家に寄付してくれたら、残りの50%とその後稼いだ資産には相続税を掛けないという「資産寄付制度」をつくる。

資産を家族にではなく、国家に相続するという形で、富裕層の富の流動化を促し、それによって経済を活性化しようというアイデアだ。もし、寄付した人が、その後資産を失って、食うに困るような事態になったら、通常の2〜3倍の年金を保証するとかのセーフティネットを設ける。

ちなみに、相続税(税率10〜55%)基礎控除額が引き下げられたのは2013年で、それまでは5,000万円+1,000万円X相続人数だった。

遺族が配偶者+子ども2人なら、8,000万円まで課税無しだったのが、現在は3,000万円+600万円X相続人数となり、同じ遺族のケースだと、4,800万円以上だと相続税が課税される。

ぁ‐暖饑任蓮嵒娉嘆礎誉如廚謀彰垢靴董∪芭┐錬隠亜鵑箸垢襦F本のGDP550兆円の10%なので、約50兆円の税収となる。

これで「資産税」と「付加価値税」を合わせて80兆円の税収となる。

いつも通り、新しい情報が満載で、参考になる本である。


参考になれば、次を応援クリックしていただければ、ありがたい。


書評・レビューランキング
  

Posted by yaori at 00:23Comments(0) 経済 | 大前研一

2020年06月30日

2020年6月30日にまたここで会おう 瀧本哲史さんの東大講義録



これのブログで、「戦略がすべて」「僕は君たちに武器を配りたい」「武器としての決断思考」のあらすじを紹介してきた瀧本哲史さんの、2012年6月30日に東大の伊藤謝恩ホールで行われた講義録。

タイトルとなっている「2020年6月30日にまたここで会おう」は、2012年の講義の最後で瀧本さんが約束した言葉だ。残念なことに瀧本さん自身は2019年8月に病没している。まさか、自分がそれまで生きられないとは、瀧本さんは予想もしていなかっただろう。

瀧本さんのお父さん(心理学者で獨協大学名誉教授)が、この本の発刊に寄せて「瀧本哲史の業績と生涯」という一文を瀧本さんが共同で立ち上げた企業法務革新基盤株式会社のウェブサイトに載せている。

若手評論家の古市憲寿さんも、クイズ東大王で有名な鈴木光さんとの対談で、鈴木光さんのゼミの教官で、古市さんの友人だった瀧本さんについて語っている。

出版社の星海社新書の初代編集長が、瀧本さんの言葉通りに、同じ場所(伊藤謝恩ホール)で2012年の講義に参加した300人と、10代、20代の若者も集めてイベントを開催したいと「あとがきにかえて」に書いている。しかし、星海社のウェブサイトを見ても、伊藤謝恩ホールのカレンダーでも、何もアナウンスがないので、たぶんコロナウイルスの関係でイベントは開催できなかったのだろう。

その代わりに、というわけではないが、2020年6月30日にこの本のあらすじをアップする。

瀧本さんは、東大助手ーマッキンゼーーエンジェル投資家/京都大学客員准教授というキャリアを歩んだ。エンジェル投資家はあまり表に出ないほうがいいと思っていたが、考えを変えて、本をだしたり、メディアにも出るようになった。

一番の理由は、日本への危機感だという。

この国は構造的に衰退に向かっているのではないか、中央政府とかエスタブリッシュメントと言われている人たちが、機能していないんじゃないか。だから、裏方に逃げず、より積極的にひとを支援していかないとマズいと思ったのだ。

一度、日本を捨てて海外脱出するオプションも検討したが、「残存者利益がある」と思ってやめた。中国に抜かれたとはいえ、今もGDP3位だし、中国の統計も細かく見ると疑わしい、過去の伝統もあるし、基盤もあるから、むしろチャンスがあるのではないか。

それで、日本に残って、「武器モデル」を広めていくことで、日本を良くしていくことにした。

ワイマール前夜の様に、カリスマリーダーの出現に期待せず、みんなが自分で考え、自分で決めていく世界をつくっていくのが、国家の本来の姿だとして、仏教の「自燈明」を紹介している。仏陀が死ぬとき、弟子たちに「これからは自分で考えて自分で決めろ」、自ら明かりを燈せと言った。それが大事なのだと。

ハンガリー出身で、イングランド銀行をつぶした男といわれる天才投資家のジョージ・ソロスは、東欧の民主化を支援するためにいろいろなことをやったが、一番有効だったのは、コピー機をばらまくことだったという。共産圏ではコピー機や印刷機は全部国家管理だったが、ソロスのまいたコピー機を使って、活動家が自分のビラをばらまくようになって、民主化運動が盛り上がっていった。

瀧本さんは、ソロスの話から、若い人に「武器」を配って、支援するような活動をしたほうが、世の中を変えられる可能性は高いのではないかと考えた。それが「武器としての決断思考」や、「武器としての交渉思考」だ。

武器としての決断思考 (星海社新書)
瀧本 哲史
講談社
2011-09-22



武器としての交渉思考 (星海社新書)
瀧本 哲史
講談社
2012-06-26



残酷な高度資本主義社会の中でサバイブするために必要な思考と知識を詰め込んだ本が、「僕は君たちに武器を配りたい」だ。




今回の講義も、10代、20代(29歳までに制限)の人を300人全国から集めて、大アジテーション大会を開きたいのだと。

瀧本さんはアラン・ブルームという哲学者の言葉を引用して、「教養の役割とは、他の見方、考え方があり得ることを示すことである」と教養の大切さを説明している。学問や学びは、答えを知ることではなく、先人たちの思考や研究を通して、「新しい視点」を手に入れることだ。

「どこかに絶対的に正しい答えがあるんじゃないか」と考えること自体をやめること。バイブルとカリスマの否定が瀧本さんの基本的な世界観だ。

京大での「起業論」の講義は、東大での指導教官だった内田貴名誉教授の「ケースメソッド」を取り入れ、事例の選択から、資料収集、分析、調査、発表までを学生が主体となって行い、教官と学生が討議しながら進めていくやり方だ。

教養としてまず学ぶのは「レトリック」(言葉をいかに魅力的に伝えるか)と「ロジック」(誰もが納得できる理路を言葉にすること)だ。

自分の主張の正しさを的確に伝える行動がディベートで、それにはロジックが不可欠だ。

そして、「言葉の力」で動かすのがレトリックだ。明治維新は、人々が言葉の力で国を動かしたわかりやすい例だと。言葉によって相手の行動を変えていくのだ。

日本のデモグラフィックと、高齢者の選挙参加率の高さから言って、選挙では高齢者対若者が2:1で若者の意見が通らない。しかし、瀧本さんは、一人の若者が旧世代の人を一人説得すれば、1:2になると説く。

2020年の人口動態


















出典:GD Freak.com

だから、自分や家族の収入を上げて、将来に備えようと考えるよりも、今の不公平な社会保障制度を変えていく方が、労力的にもコスト的にもはるかに現実的なんだと語る。具体的に政策を実現するには、既存政党には頼れないので、霞が関の官僚に対抗できる「霞が関の競合」チームを若者でつくり、民間のシンクタンクをたくさんつくるのだと。

日本を変えていけるのは、若者しかいない。明治維新を推進した薩摩の大久保利通は35歳、長州の木戸孝允は32歳。幕府側の榎本武揚は29歳だった。日本も、若い人が政治や政策立案に積極的に関わって、30代のうちに国政の中心を担うようにならないといけない。元英国首相のキャメロンが党首になったのは、39歳だった。フランスのマクロン大統領も就任したのは39歳だった。

この本で紹介した李明博元大統領の逸話も紹介している。

天動説から地動説に変わったのも、旧世代が死んで、世代交代が起こったからなのだ。パラダイムシフトは、実のところ世代交代なのだ。

東大法学部でも同じことが起こったという。

刑法では、「行為無価値説」と「結果無価値説」が対立していた。行為無価値説は、犯罪を犯したとき、悪い動機があれば刑罰を重くすべきだという考え方で、結果無価値説は、動機とかは全く関係なく、悪いことをした結果のみで判断すべきだという考え方だ。

行為無価値説の代表が、後に最高裁判事になった団藤重光先生で、これに対し平野龍一先生は、結果無価値説で対立していた。しかし、団藤先生の後を継いだ藤木英雄先生が45歳で早死してしまったので、学説的には結果無価値説が勝利したのだと。団藤先生は筆者が大学入学した年に定年退官したので、筆者は3人の先生の講義を聞いた唯一の世代だが、こんな結末になっていたとは知らなかった。

交渉に関する講義では、それまで365日24時間出入りOKだった学生会館を、関西の某大学が平日の8時までしか使えなくしたという事例を題材にして、交渉の際の情報分析の重要性を説明している。

交渉の際の気を付けなければいけないテクニックとして、アンカリングを紹介している。この事例では大学側が8時でなく、10時までと譲歩してきたとき、2時間ゲットしたからOKと喜んではいけない。

もともと365日24時間使えていたのだから、8時から10時に妥協したと見せかけても、妥協でもなんでもなく、論点をずらしたアンカリングに騙されるなということだ。

実例では、大学側が土日も開けると譲歩を見せて決着したという。大学側のアンカリングの勝利だ。

大学側の戦略に乗らず、交渉していくには、まず大学側がなぜ8時閉館としたいのかを調査し、その理由を論理的につぶしていくことだと。講義の中で冗談交じりで「武器としての決断思考」の紹介や、隣の席の人と向き合って、何でもいいから自分の持ち物を売り込むという実験もしている。

福武ホールを寄付した某大手教育関連会社は、生徒募集のDMを打つタイミングを、テストの1週間前と、テストの結果がわかった時に決めているという。相手のニーズから逆算して考えているのだと。

グループウェアの「サイボウズ」が広く使われているは、ボタンがでかくて、ボタンに「印刷」など全部機能が書いてあって、使い慣れていない人でも一発で使い方がわかるから、システム部門の人間が問合せに煩わされなくて済むからだと。

交渉とは、「自分の都合」ではなく、「相手の都合」を分析する。そのためには、「話す」のではなく、「聞く」。そして、非合理な相手は「サル」だと思って、研究する(笑)だと。

瀧本さんは、「なぜ日本にはリーダーが育たないのか?」はカリスマリーダーを前提としている議論で、質問自体が間違っているという。「どうすれば日本に『小さなリーダー』たちが育っていくか?」を考えていくべきだと。

だから、ショボい場所から(クリントンは全米最貧州の知事、オバマはシカゴの市民運動家だった)、失敗を恐れず(「ベンチャーは3勝97敗」くらいだと)、仲間は必ずいるので、伊藤博文(44歳で総理大臣に就任)の記録を抜こう!と。

途中で質問の時間を取っている。質問を促す話術も感心する。

質問を促すクイズとして、「横軸に偏差値のような『賢さ具合』をとって、縦軸に『質問の数』をとるグラフがあるとしたら、それはどういう線を描くでしょう?」というものだ。

この会場も手を挙げにくいけど、質問してもリスクはない理由は、二つあると説明する。

一つは、「さっき言ったじゃん」という顔をしていても、他の人も本心では「じつは俺もよくわかっていなかった。グッジョブ!」と思っているものだと。

もう一つは、瀧本さんは討論系の授業をたくさんやっているので、テクニックがある。それは、どんなにヘボい質問がでても、何事もなかったように、その質問を善意に解釈して、「グッド・クエスチョンですね」みたいな感じに答えるというものだ。だから安心して質問してくれと。

これで20人くらいが手を挙げて、活発な質疑が繰り広げられた。

瀧本さんは、来世がある宗教を信じていないのだと。科学的に来世があることは証明されていないので、「来世がない」ことを前提に自分の時間を使った方が良いと思っている。

自分の時間とリソースを最大限活用するには、すごく困っているところが大逆転して一番よくなるようにすることが効果最大だ。だから、「日本はダメだ」みたいな本が出回っている現状、日本を良くしたいと思って活動しているのだと。

最後のスライドは「Do your homework」だ。

自分たちで考えて、行動に移せ。それが「homework」だ。

そして、2020年までには日本の将来はある程度見えていると思うので、8年後の2020年6月30日の火曜日にまたここに再び集まって、みんなで「homework」の答え合わせをしたいと、この本のタイトルになっている約束をする。

無茶なことでもやってみろと。

映画「七人の侍」制作での黒澤明監督のことを紹介している。



七人の侍 [DVD]
山形勲
東宝
2002-10-25


「七人の侍」は日本の時代劇のさきがけとなる映画で、それ以前は歌舞伎的なチャンバラ劇を映画にするものしかなかった。だから、映画会社の人に、今度こういうエキストラを何千人も使って、リアルな戦いシーンがある映画を作りますといっても、ピンとこなかったので、当初は予算も少ししかつかなかった。

そこで、黒澤明監督は、もらった予算を使って、クライマックスの前までつくって、そのフィルムを映画会社の重役たちに見せた。とてつもない迫力で重役たちは盛り上がったところで、「はい、終わり」。

「実は、予算がたりないので、ここまでしかつくりませんでした」、「追加のお金を出さないと全部ぽしゃりますけど、どうしますか?」と脅したのだと。

こんな映画が当たるなんて映画会社の人は理解できなかったので、であれば、とりあえずやってしまえということで行動に移して、歴史に残る名画が誕生したのだ。ちなみに、「七人の侍」が公開されたとき、黒澤明監督は44歳だった。

この講義の最後は「Bon voyage」(ボン・ヴォワージュ)でしめている。これは船長同士の挨拶で、自分でリスクを取っている人間同士、自立した人間同士の挨拶なのだと。

このあらすじは2020年6月30日0時0分にアップするように設定してある。瀧本さん亡き後、コロナ対策もあり、集会は行われないと思うが、集会が重要なのではない。行動を起こすことが重要なのだ。

世の中をよくするために、自分で何ができるのか。考えてみるきっかけとなる瀧本さんの「遺言・檄文」である。


参考になれば、次を応援クリックしていただければ、ありがたい。


書評・レビューランキング  

Posted by yaori at 00:00Comments(0) 瀧本哲史 | 人生設計

2020年06月28日

AI経営で会社は甦る 経営共創基盤CEO冨山さんの本

AI経営で会社は甦る
和彦, 冨山
文藝春秋
2017-03-29


このブログで、「会社は頭から腐る」を紹介した経営共創基盤CEOの冨山和彦さんの本。

中田敦彦さんのYouTube大学では、「コロナ後の経済」と題して、冨山さんの「コロナショック・サバイバル」という最近著が取り上げられている。







冨山さんは、企業の復活を支援してきた立場なので、「コロナショック・サバイバル」と同様に、この本でも、AI活用は日本企業、それも中小企業、地方企業にとって大きなチャンスだとエールを送っている。

AIを産業に応用しようとすると、欧米では必ず失業問題や移民問題にリンクする。AI革命は「大自動化革命」とも言い換えられるように、サービス産業や工場労働者などのローカル産業で働く人達を直撃する。

欧米ではこういったローカル産業は元々人手不足ではなかったうえに、移民がなだれこんでいるので、職を奪い合い、失業率が高止まりしている状態だ。そういった国民の不満に目を付け、政治問題としたのが、ジョンソン首相のブレグジットであり、トランプ政権だ。

これ以上ローカルの仕事を奪うAI革命は、欧米ではできない。一方、日本経済はグローバル化の負け組になっており、移民も制限しているため、少子高齢化もあり、サービス産業を中心とする労働集約的な地域密着型産業群は人手不足に陥っている。結果として、AI導入により生産性向上が生かせる環境なのだ。

AIが効果があるのは、対面型、リアル型のサービス産業で、たとえば医療、介護、交通・運輸・物流サービス、外食産業の厨房の仕事などだ。会計士、経理職などはAIによってなくなる業種とされているが、税理士、弁護士は残るだろう。法律や税法は人間の裁量の余地が広いからだ。

冨山さんは、AI革命を「カンブリア爆発」と同じインパクトを持つと語る。

今から5億年以上前、古生代カンブリア紀に生物の種類が爆発的に増え、現存する多くの生物の原型がこの時期に出そろった。これを「カンブリア爆発」と呼ぶ。その有力な原因説は、この時期に生物は「目」を獲得し、これが捕食方法の進歩と戦略性を高め、同時に捕食者からの回避能力を高めた。それが生物の高度化と多様化を一機に進めたと考えられている。

東大の松尾研究室の松尾教授は、ディープラーニング技術が急速に進歩したことは、いわばAIが「目」をもったのと同等の大きな意味を持ち、したがって「カンブリア爆発」並みのインパクトをいろいろな分野に及ぼし得ると指摘している。

実際、ディープラーニング技術を導入してからのグーグル翻訳の進化はすさまじいことは、筆者も体験している。

この千載一遇のチャンスをつかむには、働き方、生き方を大きく変革しなくてはならない。破壊的イノベーションが求められている。多少の痛みを伴っても、率先して子会社に出向して、マネジメントを実地で覚えるなど、やるべき自己改革を断行し、なんとしてもこのチャンスをものにしようと冨山さんは呼び掛ける。

この本では、東大の松尾研出身で、その後カーネギーメロン大学で修士を取り、オックスフォード大学の博士課程にいるディープラーニング研究者川上和也さんの日常的な研究活動を描いたレポートを紹介している。

概略は次の通りだ:

川上さんは、2014年にピッツバーグのカーネギーメロン大学に留学し、修士としてディープラーニング研究を始めた。研究を始めた時には、ディープラーニングは画像認識や、音声認識に使われる程度だったが、ほんの2年の間で、囲碁ではプロ棋士を破り、難しいと言われていた日英翻訳も進化し、ピッツバーグでウーバーを呼ぶと自動運転タクシーが迎えに来るまでになった。

カーネギーメロン大学では、指導教官がベンチャーを設立し、1年もしないうちに売却。大学から離れて、人口知能研究の最先端で、有名な「アルファ碁」をつくった英国のグーグル・ディープ・マインドに移籍。川上さんも一緒に英国に移って、オックスフォード大学の博士課程に入学した。

隣の研究室は、まるごとアマゾンに買収され、人材を補填するために引き抜いたはずの新しい教授は、着任後1ヶ月もたたないうちにアップルの人工知能研究所の所長に就任、ピッツバーグとシリコンバレーの両方に拠点を持っているという具合だ。

グーグルやフェイスブックでは、人工知能を使った検索や広告配信の性能が収益に直結するというビジネスモデルなので、人工知能技術とビジネスは近い。検索や広告のアルゴリズムは、いつでも切り替えられるので、新しいアルゴリズムをどんどん試して、うまくいくものはすぐに製品に投入される。

そんな素早いリターンの構造があるからこそ、ベンチャーの買収やアカデミアからの人材獲得もスピード感をもってできる。優秀なエンジニアを囲い込むための広告として、ディープ・マインドのような研究組織を持っていて、ひとり数千万円という年俸を払いながらも、ビジネスに直結しない研究でも許している。

多くの人工知能スタートアップは、どんどん大手企業に買収されていくが、それは人材目的で買収されている。

日本では、アカデミア中心に「アメリカに負けてはいけない」、「日本独自の人工知能を」ということで、ビジネスリターンを設計しない形で税金が投入され、人工知能研究センターを中心にアカデミアが業界を引っ張る体制となった。

しかし、日本企業の得意とする「ものづくり」や「すり合わせ」、熟練職人の技術を人工知能に学習させれば勝機があるというのでは、ビジネスは成功しない。コストと予想されるリターン、インパクトが計算できてはじめて勝機が生まれる。

たとえばAppleの「Siri」にはディープラーニングが使われているが、「Siri」全体ではなく、人間の声を文字にする音声認識のところにだけディープラーニングが使われている。

文字になったあとの質疑は、定型文で応答すればいいので、ルールベースの古い人工知能を使う。膨大な過去データがある音声認識は、ディープラーニングと相性がいいから、そこは使うといった、ビジネス適用の際の見極めが重要なのだ。

「人工知能のポテンシャルはまだまだこんなものではない。今後も大手テック企業がその可能性をひろげていくだろう。自分がその中心に飛び込むには、新しい技術の開発とそれにあったビジネスモデルをつくるしかない。まだまだ始まったばかりだ。」という言葉で、川上さんのレポートは終わっている。

筆者は、「Siri」を使っているが、このブログで紹介したGACKTの英語学習塾での、英語の発音チェックと、時々音声入力に使うのみだ。スマートスピーカーは持っていない。あまり必要性を感じないからだが、川上さんのレポートを読んで、技術は日進月歩で進化しているので、一度試してみようと思う。

その他、参考になったネタを紹介しておく。

日本の液晶産業のトップの発言

冨山さんが10年ほど前に某液晶メーカー(あとでシャープと明かしている)の経営者から言われた言葉を紹介している。

「冨山さんたちは技術の素人だからわからんだろうが、我々の技術は圧倒的に先行していて、韓国勢や台湾勢が追いつくのに最低10年、おそらく20年はかかる。だから今、慌てて再編する必要は感じない」と豪語していたという。

液晶のプレーヤーはめまぐるしく変わり、一時は勝ち組だった台湾のメーカーやサムスンまでがTV用液晶生産から撤退する時代だ。

液晶パネル生産推移


















出典:日経新聞

日本の自動車メーカーは生き残れるか

この本で、「スマイルカーブ」が紹介されている。川上(企画、設計、部品)と川下(販売、メンテナンス)側の利益が厚くなる一方、真ん中の製造工程(組み立て)はほとんど利幅が取れなく現象だ。パソコンが良い例で、自動車もEV普及、モジュラー化が進めばそうなる。

しかし、スイスの高級時計がいい例で、メカトロニクスがからむと話は異なる。

スイスの高級時計は、分解するとスイスの職人が組まないとあの精度は出せない。個々の部品にも材料レベルまで遡った職人的ノウハウが詰まっている。しかもこうした匠の技は個人技ではなく、その工房のなかで集合知的に蓄えられて伝承されている。

日本の製造業でも、メカトロニクスが絡む分野では競争力が生かせる可能性がある。

トヨタは、シリコンバレーに人工知能研究所トヨタ・リサーチ・インスティテュートを設立し、DARPA(米国国防高等研究計画局)のAIとロボティックス研究のスーパースターギル・プラットを迎えたり、サンフランシスコのカーシェアリングサービスゲットアラウンドに出資したりして、様々な可能性に必死になって対応しようとしている。

ソニーの幻の時価総額世界一

iPodが出る前に、アップルのスティーブ・ジョッブスからソニーに大規模な出資要請があったが、ソニーはそれを断ったという。買収して、スティーブ・ジョッブスに好きな様にやらせていたら、ソニーは今頃時価総額No.1になっていたかもしれない。

ソニーにはウォークマンがあり、アップルを買収しても技術的に得るものがないという技術部門からの反対で実現しなかったと冨山さんは聞いていると。

日本の著作権法がディープラーニングの足かせになる恐れがある

著作権法が日本のディープラーニング推進の足かせとなる可能性がある。英米法系の国、大陸法系の国でも、イスラエル、台湾、韓国などが、一定の条件で公正な目的のための複製行為は一般的に著作権法違反としない「フェアユース一般条項」というルールを導入している。

日本は権利団体や法律家の反対で、ポジティブリスト以外は違法としている。これでは、ある日突然、研究者が著作権法違反で逮捕されるということが起こりかねない。

産学連携

AIで米国が先行しているのは、圧倒的にアカデミズムの差である。米国ではカーネギーメロン大学、MIT、スタンフォード大学、カナダのトロント大学と東大、京大の力の差が、そのまま現在の差につながっている。

米国の基礎研究は、1980年代から90年代にかけて、AT&Tのベル研究所、ゼロックスのパロアルト研究所、IBMのワトソン研究所が縮小あるいは消えて行って、大学や公的研究機関に移った。

東大が日本の産学連携をけん引している。東大TLO(Technology Licensing Organizationー技術移転機関)が設立されたのは、20年近く前で、冨山さんも創業に関わった。

東大は日立NECKDDIなどとコラボレーションを進めており、東大初のベンチャーも、このブログで出雲充社長の著書を紹介しているミドリムシのユーグレナ、バイオ創薬のペプチドリーム、グーグル、その後ソフトバンクに買収されたロボットベンチャーのシャフトなど、200社を超える。

2015年には東大発のベンチャーの時価総額が1兆円を超えたと東大の産学連携本部が発表している。アルファベット(時価総額60兆円)を輩出したスタンフォード大学が世界一だろうが、東大の実績は、世界の大学でもトップ10に入っているのではないかと。

このブログでも簡単に紹介した、筆者が合計9年間住んでいたピッツバーグのカーネギーメロン大学は、昔からAIの前身の「人工知能」の活用で有名で、日本から留学生がたくさん来ていた。

いつかまた、留学生愛用のカーネギーメロン大学の近くのオリエンタル・キッチンに行きたいものだ。

参考になれば、次を応援クリックしていただければ、ありがたい。


書評・レビューランキング  

Posted by yaori at 12:55Comments(0) 企業経営 | インターネット

2020年06月27日

実録 アルコール白書 吾妻ひでおと西原理恵子のアル中談義

2020年6月27日再掲:

漫画家の吾妻ひでおが、2019年10月に亡くなっていた。次に掲載する瀧本哲史さんの著書のあらすじを書くために、出版社の星海社のホームページを見ていたら、吾妻さんの逝去の報告を見つけた。

以下のあらすじでも書いたように、吾妻ひでおは筆者の好きな漫画家なので残念だ。

このブログでも吾妻ひでおの本を何冊か紹介している。都心に向かう電車と逆方向の電車に、衝動的に乗って、人気漫画家という仕事から逃避した自分のことを書いた「失踪日記」や「逃亡日記」とかで、メルヘンチックな画風と違って、現実の生活はきびしいものがあったのだろう。

失踪日記【電子限定特典付き】
吾妻ひでお
イースト・プレス
2019-09-05


筆者が好きだったのは「ふたりと5人」というマンガだ。高校の体育祭では、自分で吾妻ひでおの漫画のキャラクターを背中に書いたTシャツを着ていた。もう50年近く前になるが…。




ご冥福をお祈りして、あらすじを再掲する。


2013年6月29日初掲:

実録! あるこーる白書実録! あるこーる白書 [単行本(ソフトカバー)]
著者:西原理恵子
出版:徳間書店
(2013-03-15)

人気絶頂の時にアルコール依存症のため仕事場へ向かう電車と反対方向の電車に乗って、失踪したロリコンマンガ家とアルコール依存症の戦場カメラマンの夫を持った女性マンガ家の対談。

もう一人アルコール依存症を克服した月乃光司さんという編集者が対談に参加している。

吾妻ひでおは筆者の好きなマンガ家なので、このブログでは失踪から復活第一弾の「失踪日記」「逃亡日記」のあらすじを紹介している。

失踪日記失踪日記 [コミック]
著者:吾妻 ひでお
出版:イースト・プレス
(2005-03-01)

逃亡日記逃亡日記 [単行本]
著者:吾妻 ひでお
出版:日本文芸社
(2007-01)

ちょっと長いが、YouTubeに「実録! あるこーる白書」の出版記念イベントで、西原(さいばら)理恵子さんと吾妻ひでお、月乃光司さんのトークショウが収録されている。



筆者は高校生の時に吾妻ひでおのマンガを初めて読んだが、吾妻ひでおの姿を見たのは、このYouTubeがはじめてだ。赤塚不二夫などと違って、あまりコミカルな感じがしない風貌で、ちょっとイメージが違う。

この本はアマゾンの「なか見!検索」に対応していないので、「なんちゃってなか見!検索」で、目次を紹介しておく。

第1章 依存前日譚 あなたにとってお酒とは

第2章 依存症体験録 やめられない とまらない

第3章 依存症風運記 なんと体は正直な!

第4章 依存体験見聞 優しいだけでは破滅する

第5章 病棟事情拾遺 認める決意がありますか

第6章 集団的治療圏 酔えない日々の過ごしかた

第7章 恒久依存対処法 すべらない話をしよう

第8章 依存談話結論 明日のために啓蒙を!

マンガ家二人の本なので、マンガもまじえた本だと思って読んでみたが、目次を見てもわかる通り、内容はアルコール依存症の体験談とアルコール依存症の夫(鴨志田穣=戦場カメラマン)に苦しめられた妻のシリアスな話だ。

筆者は今年2月から本格的ウェイトトレーニングを再開したが、それからウチで酒を飲む機会はめっきり減った。

もっぱらプロティンドリンク(筆者の場合には、紀文の調整豆乳にゴールズジムのホエィプロテイン・プレーンをシェイクして混ぜる)を一日2−3杯飲んでいる。

紀文 調整豆乳 1000ml  12本セット(6本×2) 常温保存可能紀文 調整豆乳 1000ml  12本セット(6本×2) 常温保存可能 [その他]
商標:紀文







GOLD'S GYM ホエイプロテイン プレーン(ノンフレーバー) 900gGOLD'S GYM ホエイプロテイン プレーン(ノンフレーバー) 900g [その他]
商標:GOLD'S GYM(ゴールドジム)







プロテインを飲んでいると、酒を飲もうという気にならない。

会社や仲間との飲み会では普通に飲んでいるが、ウチでは酒を飲もうという気にならない。

以前だと、夕食の際には、昔は赤ワイン、東日本大震災後は、東北支援の意味もあって日本酒を飲んでいたが、今は酒の代わりにプロテインドリンクを飲んでいる。

今までは、休肝日が週に1日か2日という生活だったが、今は酒を飲む日が週に1日か2日となっている。

嗜好というものは、生活習慣で変わるものだ。

アルコール依存症の人に、「酒を辞めるには、ウェイトトレーニングとプロテインドリンクがいいですよ」といっても、効果があるかどうかわからないが、シリアスなウェイトトレーニングをすれば、たぶん体質が変わって、効果は出ると思う。

閑話休題。

この本の話題はアルコール依存症からいかに脱却するかというものなので、アルコール依存症の専門病院の長谷川病院や、久里浜医療センターなどが紹介されている。

アルコール依存症の場合、禁断症状が出て苦しがっている本人を、家族が助けて飲ませてしまうと、家族が「イネーブラー」となって、問題が解決しない。だから「キーパーソン」となって、絶対に飲ませないようにして問題解決に当たって欲しいという。

西原理恵子は、夫の戦場カメラマンの鴨志田穣に、さんざんひどいことをされた思いでを書いている。鴨志田穣と離婚した後、鴨志田がガンとなって事実婚として復縁。

鴨志田が42歳で死ぬと、葬式では喪主となったが、鴨志田の墓を柄杓(ひしゃく)で殴りつけたり、子供たちも墓にパンチを食らわせたりしたという。聞くに堪えないような話を明かしている。


女性の感情はポイントカード

西原さんは、女性の感情はポイントカードなのだという。

日常の細かいことをポイントカードにハンコで押して、ポイントを貯めているので、ある一言で50ポイントに達して、ポイント還元キャンペーンが始まって、急に怒り出すのだと。

アルコール依存症の夫を持った奥さんたちは、ポイントカードがとっくに2,000ポイントくらい貯まっているので、些細なことでキャッシュバックキャンペーンが始まるのだと。

ちょっとやそっとじゃ消化しきれない。もうパンパンなのだと。

なるほどと思う。


自助グループのAA

アメリカには1930年代に誕生したAA(アルコホリック・アノニマス)という団体があり、日本でも「無名のアルコール依存者たち」という会がある。

あくまで「無名のアルコール飲酒者」の団体で、代表もいない。会員制もないので、誰にも本名を知らせずに匿名のまま参加できる。

現在日本のメンバーは数千人規模だという。

AAで特筆すべきは、スポンサーという制度で、メンバーひとりひとりが先輩メンバーをスポンサーに選び、その人から個人的な問題についてアドバイスをもらえるシステムを取っている。

吾妻ひでおは断酒して10年以上経っているという。今はほそぼそと時々作品を発表するくらいだが、もともと独特のユーモアのある作風のマンガ家なので、是非また活躍してほしいものだ。


参考になれば、次を応援クリックしていただければ、ありがたい。


書評・レビューランキング  

Posted by yaori at 01:30Comments(0) 趣味・生活に役立つ情報 | 吾妻ひでお

2020年06月25日

生涯投資家 村上ファンドの村上世彰さんの「最初で最後の告白」?

生涯投資家 (文春文庫)
村上 世彰
文藝春秋
2019-12-05


<今回のあらすじは長いです>

村上ファンドで、東京スタイル、ニッポン放送、フジテレビ・ライブドア事件、阪神鉄道などで、「もの言う投資家」として有名になったが、2006年インサイダー取引で逮捕、有罪となったことから、現在はシンガポールに住んで、自らの資金のみでアジアの不動産などの投資を行っているという村上世彰(よしあき)さんの本。

シンガポールには相続税がない。その対策もあって、シンガポールに居を移したのだろうと思う。

本の帯に「最初で最後の告白」となっている。

実は、最近全くの別件で、村上さんの村上財団などの援助で、東大、慶応大学、阪大、京大等でコロナウイルスの大規模かつ精密な抗体検査のネットワークが出てきているのを知り、中田敦彦さんのYouTube大学でも、以前取り上げられていたので読んでみた。



ちなみに、村上財団が支援しているコロナウイルスの精密抗体検査については、プロジェクトリーダーの東大の児玉龍彦名誉教授が出演している次のビデオが参考になる。



村上さんは台湾人の投資家のお父さんを持ち、お父さんと一緒に旅をすることで、小さいころから投資家として経験を積んできた。小学校3年生の時に、大学入学までのお小遣いとして、100万円もらい、すぐにお父さんの愛飲するサッポロビールの株を50万円買ったのが株式投資の始まりだ。

この本で、お父さんに連れられてアメリカザリガニの養殖をしている投資家と一緒に会食し、ザリガニは苦手だったと書いている。筆者はニューオーリンズのザリガニ料理(大きなロブスターではなく、こぶりのアメリカザリガニそのもの)は好きだが、当時の村上さんにはおいしくなかったという。

灘中ー灘高ー東大法学部と進学し、大学卒業後はお父さんの後を継いで投資家になろうと思ったら、お父さんから「国家というものを勉強するために、ぜひ官僚になれ」と言われ、当時の通産省に16年間務めた後、1999年に通産省をやめて、オリックスと共同でM&Aコンサルティングという投資コンサル会社を立上げ、それからファンドビジネスに展開した。

村上さんは数字に強く、通産省時代に経営者に会うときには、その会社の財務諸表を読み込んでから会っていた。しかし、その会社の財務状況をちゃんと把握している経営者は多くなかったことに驚いたという。

今では当たり前の「会社は株主のもの。経営者は株主から経営を委託されているにすぎない」という考えは、何を言っているんだと日本では全く通用しなかった。

米国では1980年代から、株主が経営者を監視するという「コーポレートガバナンス」の考えが広まり、会社を私物化していた経営者が株主によって追われるという事例も起こった。それが、1988年の投資会社KKRによるRJRナビスコのLBO(買収した会社の資産・キャシュフローを担保にして買収資金を調達する手法)だ。この案件は、「野蛮な来訪者」という本になっている。




筆者も当時米国に駐在していたので、MBO(経営陣による会社買収)、LBOが盛んにおこなわれていたことを思い出す。

RJRナビスコの社長は、社用ジェット機を10数機、会社の金を使って社外取締役まで手なずけていて、完全に会社を私物化していたという。

村上さんは、日本でも「コーポレートガバナンス」が徹底されるべきだという信念と、すごい資産や内部留保がありながら、株価が低迷しているお買い得の会社がゴロゴロあるという日本の現実を見て、大きく儲けるチャンスだと考えて、会社を立ち上げた。

この本では、村上さんが多くの財界人や著名人と知り合いなことが、散りばめられている。投資には情報が最重要なので、情報を入手するための人脈が不可欠なのだ。

いくつか紹介すると、お父さんの代から家族ぐるみのつきあいだというシンガポールで2番目に大きい豊隆財閥(ホンリョングループ)郭令明さん、(百度のネット辞典で中国語サイト)、KKRのパートナーのクラビス氏、アクティビストファンドのLENSファンドを率いるロバート・モンクス氏、人材派遣会社ザ・アールの奥谷禮子会長、オリックスの宮内義彦会長(村上さんが設立したM&Aコンサルティングに出資してくれた)、福井俊彦元日銀総裁(あとで村上さんのインサイダー事件の際に、村上ファンドに投資していたことが国会で問題となった)などだ。

これらの人から、さらに三井住友銀行の西川善文頭取、日本マクドナルドの藤田田社長、セゾングループの堤清二さん、リクルート創業者の江副さん、小泉純一郎元首相等々、どんどん芋づる式に人脈は広がる。もちろん、仲が悪くなった例もある。イトーヨーカ堂の伊藤雅俊会長には、東京スタイルにTOBを仕掛けた件で、激怒されたことがあるという。

小池百合子都知事(通産省時代に外務省に出向してエジプト関係のイベントをやったときに、カイロの和食レストラン「なにわ」のオーナーから、娘がアナウンサーをやっているということで紹介された)や、期待している経営者としてLIXILの瀬戸欣也社長が紹介されている。

このブログで紹介したITベンチャー企業の創業者たちとも村上さんは親しい。2000年にITバブルがはじけた後、ITベンチャーの株が割安になったので村上ファンドで買ったのだと。

いまは懐かしいクレイフィッシュ(NASDAQと東証マザーズ同時上場した)の松島さんサイバーエージェントの藤田さん(藤田さんとは同じマンションの隣人になったという)、USENの宇野さん楽天の三木谷さん、GMOの熊谷さん、そしてホリエモンだ。

村上さんが、彼らをどのように見ていたのかがわかる。

村上さんが、会社経営で最も重視する指標がROE(当期純利益/純資産)だ。日本の古い経営者は、会社を自分の家計と勘違いしており、借金を嫌い、現金に余裕があれば安心する。そんな余剰資金を、会社経営の血液として循環させるためにROEを重視するルールができたのだと。

アベノミクスでも、第3の矢の成長戦略として、一橋大学の伊藤邦雄教授を座長にした「伊藤レポート」で、「8%を上回るROEを達成することに各企業はコミットすべきである」としている。

米国の株式市場が成長し続け、日本よりはるかに高い価値を保っているのは、物言う株主がいて、株主の利益を守るコーポレートガバナンスが機能する環境を築いてきたからであり、だから日本企業のPBRは平均で1だが、米国企業のPBRは平均3なのだと。

次はこの本に載っている米国と日本の上場企業時価総額比較の表だ。バブルの頃の一時期には日本が上回ったが、それを除いて、1995年頃までは日本と米国の株式市場の規模はほぼ同じだったが、現在日本は500兆円しかないのに、米国は2000兆円以上ある。

日米時価総額推移 (2)





















出典:本書200P

ほぼ同じレベルの純資産を保有しながら、株価に3〜4倍もの差がでるのは、投資家の「期待値の差」であり、投資家への「リターンの差」を意味すると村上さんは語る。端的な例が、米国企業の総株主還元比率が90%を超えているのに対して、日本では50%前後にとどまっている。

過去35年のダウ平均株価の推移と、日経平均株価の推移を見ると、日本はバブルのピークをいまだに超えられないのに、米国株価はリーマンショックの時期を除いて順調に右肩上がりとなっている。

ダウ平均株価推移過去35年












日経平均株価推移過去35年












出典:三菱UFJモルガン・スタンレー証券

世界の投資家が指標として最も重視しているのがROEだが、日本ではROE中心の経営が行われてこず、成長性や投資家へのリターンよりも、財務の健全性が指標として重視されてきたことが影響している。

企業と投資家がWin-Winの関係ができている例として、Appleとマイクロソフトを紹介している。

Appleの2012年度と2016年度のバランスシート

AppleBS (2)






















出典:本書211ページ

Appleは2012年度まではほとんど借入金がなかった。しかし、利益剰余金として資金をため込んでいたAppleに対して、投資家たちから還元の強い圧力がかかった。

無借金だったAppleは社債発行や借入によって、レベレッジを効かせ、株主への超積極的な還元プログラムを導入し、4年で総資産は倍になっているが、純資産はほとんど増えていない。

超積極的な株主還元プログラムの結果、Appleの株価はPBR6倍、PER18倍程度の高い水準となっている。

マイクロソフトの2004年度と2016年度のバランスシート

MSBS (2)






















出典:本書213ページ

マイクロソフトは稼いだ金を事業拡大投資に使い、1975年に創業した後、初めて配当を払ったのは2003年だった。2004年から大規模な株主還元計画を発表し、負債・借入金を増やして総資産を12年間で倍以上にしているが、純資産は減少して、適度なレバレッジが効いた状態になっている。マイクロソフトの株価も右肩上がりだ。

投資家は、投資先から資金が戻ってきた場合、必ず次の投資先を探す。日本の上場企業の様に、何も生み出さないまま資金を寝かせてしまうと、そのまま塩漬けになり、成長のために積極的に資金を必要としている企業へ回っていかない。そして市場は停滞し、経済全体が沈滞してしまうのだと。

米国のS&P500企業の数値で見ると、傾向として毎年ほぼ利益の全部を株主還元に回し、新規の事業への投資は借入によって賄っている(米国には内部留保課税もある)。適度なレバレッジを掛け、自己資本を減らせば自社のROE向上のみならず、銀行に眠っている日本国民の巨額の資金も有効に利用されるというマクロの効果もある。

日米の株式に対する投資家の評価の差は、投資家と企業との間で「資金のキャッチボール」ができているかどうかの差だという。それはまさに、コーポレートガバナンスへの理解と対応の違いだと村上さんは語っている。

日本企業の良い例として村上さんが挙げているのはソフトバンクだ。日本一の借金企業だが、株主価値向上のため、自社株買いにも積極的だ。

Ulletという会社のサイトに、ソフトバンクの過去5年間のバランスシートが掲載されていて参考になる。これによると、過去5年間で、ソフトバンクは総資産をほぼ倍増させており、株価はほぼ5割アップしている。

この本では、村上さん自身がインサイダー取引で有罪となったニッポン放送株大量購入と、ホリエモンのライブドアによるニッポン放送(小さなニッポン放送が、大きなフジテレビの親会社だった)を踏み台としたフジテレビの経営権をめぐる争いについても、村上さん側のストーリーを書いている。

この事件は中田敦彦さんの YouTube大学で詳しく取り上げられているので、こちらを参照願いたい。





村上さんは、阪神鉄道を中心とした関西の私鉄大再編、阪神タイガース上場などのプランを持って、阪神鉄道などと交渉していた時に、インサイダーで逮捕された。長年の阪神ファンの村上さんは、当時阪神のシニアディレクターだった星野仙一さんと会ったあと、星野さんが「いずれ天罰が下る」とメディアに語ったことがショックだったという。

インサイダー裁判は最高裁までいって、罰金300万円、追徴金約11億5千万円、懲役2年、執行猶予3年で有罪が確定した。一審の裁判官には「ファンドなのだから、『安ければ買うし、高ければ売るのが当たり前』と言うが、このような徹底した利益至上主義には慄然とせざるを得ない」と言われたという。

村上さんは、いまもってインサイダーにあたるものだったかどうか違和感が残ると語っている。

この本の最後に、現在取り組んでいる各種の慈善活動、村上財団ピースウィンズジャパンや不動産投資、飲食業、介護事業などについて紹介している。

中田さんは、池上彰さんの「日本の戦後を知るための12人」に、村上さんが取り上げられていることも紹介しており、池上さんは、村上さんの自己弁護色が強いと語っているそうだ。




たしかに自己弁護の本かもしれないが、村上さんがコーポレートガバナンスについて言っていることは正しいと思う。ただ、あまりに金を儲けすぎたので、池上さんがいう「けしからん罪」の司法も含め、日本ではありがちな、金を儲ける人へのやっかみ半分の攻撃に、脇が甘かったところを付け込まれ、足をすくわれたというところかもしれない。

あらすじが長くなってしまったが、インサイダートレーディングで有罪となった「村上ファンド」の自己弁護本という色眼鏡で見ず、華僑にもネットワークを持つ稀代の日本人投資家の本として読むと大変参考になる本である。

参考になれば、次を応援クリックしていただければ、ありがたい。


書評・レビューランキング  

Posted by yaori at 17:07Comments(0) 中田敦彦 | 投資

2020年06月23日

ツチハンミョウのギャンブル 福岡伸一教授の文春コラム

ツチハンミョウのギャンブル
福岡 伸一
文藝春秋
2018-06-29


このブログでも「生命と無生命のあいだ」などの著書を紹介している青山学院大学教授であり、ベストセラー作家でもある福岡伸一さんが「文春砲」で有名な週刊文春に連載している「福岡ハカセのパンタレイ パングロス」を加筆修正したコラム集。

「パンタレイ」とは、哲学者ヘラクレイトスの「万物は流転する」という意味のギリシャ語で、福岡教授の「動的平衡」という理論を現したものだ。

一方、「パングロス」は、フランスの作家ヴォルテールの小説「カンディード、あるいは楽天主義説」の登場人物で、「天の采配説」ともいうべき、すべては宇宙の偉大なる設計者によってあらかじめ計画・配材されているという予定調和説を現したものだ。

カンディード (光文社古典新訳文庫)
ヴォルテール
光文社
2016-03-25


それぞれ相反する主義主張だが、それをバランスを取る意味で並べているのだと。

元々週刊誌のコラムだったので、1テーマにつき、それぞれ3ページほどで簡単に読める。

福岡教授は、専門の生物学以外にも、昆虫オタク、フェルメール大好き人間などの顔を持ち、幅広い交流関係からの話題もあり楽しめる。

ちなみにタイトルとなっている「ツチハンミョウのギャンブル」も3ページほどのコラムだ。

ファーブルも「昆虫記」で取り上げているツチハンミョウは、昆虫としては珍しく4,000個もの卵を産むが、その中から運よくヒメハナバチに乗り移れた個体のみが生き延びる。



この本の表紙絵を描いた舘野鴻さんが、やはり昆虫オタクで、「つちはんみょう」という科学絵本を出版している。

つちはんみょう
舘野 鴻
偕成社
2016-04-13



参考になった話を、いくつか紹介しておく。

マリーゴールド作戦

福岡教授が三浦半島に行った時に、ダイコン畑の畝にマリーゴールドが植えられていた。しかし、そのマリーゴールドは、花が咲く前に抜いてしまうという。これはダイコンの害虫・線虫をマリーゴールドの根のにおいでおびき寄せ、侵入した線虫を根に閉じ込めて死滅させる。これによってダイコン畑の線虫を大幅に減らして、きれいなダイコンができるのだと。農薬を使わず、生物学的天敵を使うことで、有機的でクリーンな防御が可能となるのだ。

Tip of the tongue

日本語の「のどまで出てきているのに思い出せない」という表現のこと。知らなかったが、いかにもそれらしい。

ベルの実験

電話の発明者のグラハム・ベルではなく、世界的バイオリニストのジョシュア・ベルが、ワシントン・ポスト紙と一緒に、ラッシュアワーの地下鉄の構内で、ストリートミュージシャンを装って、最高の演奏家が最高の楽器(ストラディバリウス)を使って演奏すると、どうなるかという実験をした。

その有様がダイジェスト版でYouTubeにアップされている。



数千人が通り過ぎて、ジョシュア・ベルに気が付いた人は一人だけだった。投げ銭もたった32ドルだったという。この実験をレポートしたワシントン・ポストの記者は、ピューリッツアー賞を受賞している。

すい臓の中のマリメッコ

福岡教授は、すい臓の顕微鏡写真を紹介する時に、「マリメッコみたいでしょう」と説明するそうだ。

すい臓 (2)


































出典:中外製薬HP

上記の写真の出典の中外製薬のすい臓の説明が分かりやすいので、参照して欲しい。

すい臓は、身体の臓器の中で、最も大量のタンパク質、つまり消化酵素を生み出す。すい臓のもう一つの役割は、血糖値を抑えるインスリンを分泌することだ。しかし、インスリンをつくる細胞はほんの数パーセント以下だという。

炭水化物を分解してブドウ糖にするアミラーゼ、タンパク質を分解してアミノ酸にするプロテアーゼ、脂質を脂肪酸とグリセリンに分解するリパーゼ核酸を分解して、ヌクレオチドにするDNアーゼRNアーゼなどだ。

これがすい臓から消化器に向けて滝の様に流れ出てきて、食べた物に混じり合い、ズタズタに分解する。消化は食物という高分子化合物を、低分子化合物に変えるプロセスだ。

食物はもともと、植物なり動物なりの身体の一部だったので、外部情報がそのまま体内に入ってくると免疫反応が起きてしまう。だから、いったん情報を解体する。それが消化の役割だ。

しかし、膵炎すい臓ガンになると、すい臓の細胞が破れて、消化酵素が漏れ出てしまい、自分自身を消化し始めてしまう。だから、膵炎は激痛を伴う上に、大変厄介な疾患となる。

話は変わるが、筆者と一緒にラグビーをやった同期の友人が、すい臓ガンで亡くなった。

最近亡くなったラグビーの仲間は、どういうわけか、すい臓ガンか平尾誠二さんの様に胆管ガンで亡くなっている。スティーブ・ジョブスも、すい臓がんで亡くなった。すい臓ガンと胆管ガンは、最も致死率が高いガンだ。

福岡教授が研究修行をしていたニューヨークのロックフェラー大学は、伝統的にすい臓研究が盛んで、福岡教授の大ボス、ボスの兄弟弟子などがノーベル賞を受賞しているという。ぜひ、すい臓ガンの治療薬を開発して欲しいものだ。


参考になれば、次を応援クリックしていただければ、ありがたい。


書評・レビューランキング
  

Posted by yaori at 20:11Comments(0) 自然科学 | 福岡伸一

2020年06月21日

サイバーアンダーグラウンド 犯罪者・警察OBを日経が直接取材



日経ビジネスや日経の記者として、いろいろなつてをたどり、犯罪者や警察OBなどに直接取材した本。もちろん登場人物は全員仮名で、元犯罪者が中心だが、現在も犯罪スレスレの「やらせレビュー」をやっている人もいる。

この本の登場人物がわかるので、目次を紹介しておく。

1.未成年ハッカーと捜査官 攻防の全記録
2.アマゾンの5つ星は嘘まみれ 中国の黒幕が手口大公開
3.16歳が老人を食い物に 鮮明、詐欺のエコシステム
4.ネットで女性とお色気話 200億円産業に育てた男の野望
5.金正恩のサイバー強盗団 脱北者が決死の爆弾証言
6.恐喝、見殺し、爆殺 英国人スパイの非情な戦争
7.信じたいから騙される 世論操るクレムリンの謀略
8.超監視国家、IT乱用で出現 ウイグルから響く悲鳴
証言集
警官の証言 「本物のワルはあなたの隣にいる」
スパイの証言 「この世界は汚れている」

いくつか事例を紹介しておく。

ハッカーの実話

不登校となり、引きこもってハッキングをはじめ、インターネットで見つけたツールを使ってランサムウェアなどをばらまいて、成果をツイッターで披露していた10代のハッカーが最初に登場する。

ダークウェブにアクセスしなくても、インターネットで次のようなハッキングツールが買えるのだ(もっぱら英語のサイトで、Googleの自動翻訳が役に立つと)。

ウェブサイトに寄生して、閲覧者のデータを盗み出すウイルス:1万6千円〜10万5千円
他人のパソコンを遠隔から操作できるウイルス:2万1千円
サイバー攻撃に使うサーバを貸し出す「防弾ホスティング」:1万6千円〜2万1千円/月
スマートフォンのマイク・カメラを乗っ取り、盗聴・盗撮するソフト:無料

金目当てではなく、ツイッターで成果を披露して、賞賛がうれしかったのだと。ある日、正体不明のハッカーから、ツイッターで手口を公開しないでくれとのチャットが送られてきた。若いハッカーはその人の弟子になり、ハッキングの手ほどきを受け、ランサムウェアによる身代金要求に手を出すようになる。

16歳になった時に、大阪のデータセンター会社の顧客リストと、その会社が使っている連絡用のメールをインターネットで手に入れ、この会社からの業務連絡メールを偽造して、顧客にログインを促し、IDとパスワードを窃取した。

あとは、これで入手したIDとパスワードを使って、顧客のサーバに入り、ウェブサイトを閲覧したネット利用者のパソコンにウイルスをばらまく不正プログラムを仕込んだ。これで利用者のパソコンは、遠隔操作で操れる。ランサムウェアを仕込んで、仮想通貨で支払わなければ、データは永遠に戻らないと脅して、身代金を巻き上げた。

ハッカーは、バレない様に通信経路を暗号化し、自宅近くの会社のWiFiの利用権限を不正に取得して、無断で使って、データはパソコンに一切残さず、すべてUSBメモリに保存した。

しかし、現実は甘くなく、ネットで購入したランサムウェアは不具合があり、身代金の回収に失敗、警察に自宅に踏み込まれ逮捕された。17歳だった。先輩ハッカーに手口披露の自粛を約束したにもかかわらず、ツイッターで手口・成果を投稿し続けたことから、足が付いたようだ。

京都府警の捜査員として、多くのサイバー犯罪者を摘発してきた元警官の話が紹介されている。なかには、踏み込まれたら、「古畑任三郎」ドラマばりに、「ふっふっふっ、よく私が真犯人であることが分かりましたね。京都府警の皆さん、さすがです」などと言っていた未成年も、いざ逮捕されることがわかるとポロポロ泣き出したという。



古畑任三郎 COMPLETE Blu-ray BOX
石井正則
ポニーキャニオン
2014-05-30



アマゾン・食べログのレビュー

アマゾンのやらせレビュー業者を使っている中国のネットショップ関係者にインタビューした時の話だ。日本の口コミ代行業者ならやらせレビュー1件当たり35元(525円)、欧州は50元(750円)、米国は70元(1050円)が相場だと語る。

ネット販売業界では、口コミ代行業者への依存度が増しているという。直接謝礼を出して、やらせを依頼することは消費者庁による行政処分の対象だし、炎上する恐れがある。簡単に店名を変えられるオンラインショップはともかく、実店舗の場合にはダメージが大きいので、第三者の口コミ業者を介すことでリスクを回避しているのだ。

日本の食べログなどの場合、口コミ業者には、実際に店に行かないでレビュー1件あたり2000〜3000円で請け負う筋の悪い業者と、レビューアーを派遣して真実味ある感想を書き込ませている1件あたり1万5千円〜2万円の良い業者がいるという。

この本にはこうした口コミ代行業者から出されたレビューアー募集メールのサンプルも掲載されている。飲食代無料、1回あたり1万円がこうしたレビューアー報酬の相場だ。

中国のネットショップでは、競合店を貶めるために、わざと★一つのレビューを書かせたり、アマゾンのベストレビューアーを1万5千円で買収したり、その他大勢のレビューアーには商品を無償提供してやらせレビューを書かせたりという手口が紹介されている。

やらせがバレない様に、初日は10件、二日目は15件、3日めは20件と増やし、4日目で10件に減らすという具合に調整しているという。

アマゾンは全世界で年間400億円を投じて不正対策を実施しているというが、それをくぐりぬける業者もいるのだ。

北朝鮮のサイバー部隊

北朝鮮のサイバー部隊がサイバー攻撃で、最大20億ドルを奪ったと国連の専門家パネルが推定している。主な事例は次の通りだ。

2016年2月 バングラデシュ中央銀行から81百万ドル(89億円)
2017年4月と12月 韓国の仮想通貨交換会社ヤピアンから23億円分の仮想通貨
2018年6月 韓国の仮想通貨交換会社ビッサムから34億円分の仮想通貨
2019年3月 クウェートの金融機関から49百万ドル(54億円)

北朝鮮では最も優秀な生徒をサイバー部隊に配置している。サイバー戦指導部の下に4つの部隊が存在し、もっとも規模の大きいのが人員4500人の121部隊で、インフラ破壊と情報窃取にあたる。上記の外貨獲得は人員500人の180部隊が担当だ。他に軍事・科学技術情報窃取の91号室部隊と、サイバー攻撃技術開発のラボ110部隊があるという。

北朝鮮のサイバー部隊は見えない形で、フロント企業のそのまた孫請けのような形で、ソフトウェア開発の受発注仲介サイトを通じて、日本からもソフトウェア開発を請け負っている。そういったソフトウェアは、情報を盗み出すプログラムが仕込まれている可能性があると脱北者の元大学教授は語っている。

英国諜報部のスマホウイルス

英国のGCHQはスマホ用のウイルスを開発し、通話していないときでも周囲の音を拾える盗聴器になるウイルスや、スマホの位置を1メートル単位で正確につかめるウイルスもある。

位置ウイルスを使って、シリア、アフガニスタン、リビアでは敵対勢力の要人がどこにいるかをスマホで特定して、上空の無人機からミサイルを撃ち込ん車もろとも吹き飛ばしたという。

007シリーズの”Q”の開発した秘密兵器の現代版だ。




ウイグルの超監視社会

ジョージ・オーウェルの「1984年」のあらすじで紹介した通りの超監視社会が、中国の新疆ウイグル自治区で現実に起こっている。

日本で働くウイグル人は故郷にいる両親と時々ビデオチャットしていたが、会話の際に母親が中国共産党を賞賛して様子がおかしいので、調べたところ、彼のせいで本国の両親が警察に呼び出され、息子はイスラム過激人物ではないかと疑いを掛けられているのだと。

ビデオチャットが盗聴されていることを心配して、彼の母親は中国共産党を賞賛したのだ。

新疆ウイグル自治区の1100万人のウイグル族は、監視カメラと顔認証システムで監視され、チャットの内容や写真などが当局に筒抜けとなる「スパイウェア」をスマホに入れることを強要され、街頭では警察官が禁止アプリをインストールしていないか通行人のスマホを調べている。

自動車にはすべて中国版のGPS「北斗」を装着させている。

さらに2017年からは、「無料健康診断」と称して、全住民からDNA,虹彩、指紋、血液を採取している。

極め付きは、2016年からスタートした危険分子の特定システム「IJOP」で、監視カメラの映像、検問所で収集した通行人や車両のデータ、銀行口座情報、宗教上の習慣など、あらゆる個人情報をビッグデータ解析にかけ、反体制的な人物を独自のアルゴリズムで自動的にリストアップして、警察が取り調べる。

警察も何を基準にIJOPが判断しているのかわからないまま、IJOPの判断に従う。不審人物と判定されれば、逮捕して収容所に送るのだ。

日本の小売業界での万引き犯やクレーマーなどの面倒な人検出の監視カメラと顔認証システムの導入や、ドライブレコーダー映像の犯罪捜査への利用、京都府警の犯罪予測システムが紹介されている。

NECが開発した犯罪予測システムは、「マイノリティレポート」の様に、犯罪を起こしそうな人を特定するのではない。過去の犯罪データを基に、犯罪の発生頻度が高い「ホットスポット分析」と、近接した場所と時間で犯罪が繰り返される傾向を理論化した「近接反復被害分析」を組み合わせている。



マイノリティレポートのストーリーの様に、犯人を予測するわけではなく、犯罪の起こりそうな時間と現場に警察官を配置して、犯罪の発生を未然に防ごうというのが目的だ。

犯罪インフラ企業は野放し

京都府警の元警官は、犯罪インフラ企業がサイバー犯罪組織を支援することによって金儲けしているが、直接サイバー犯罪にかかわっていないので、検挙できていない。その犯罪インフラ企業の一つがこのブログでも紹介している名簿屋だと語っている。

ネット詐欺や違法オンラインカジノのシステムを開発している犯罪インフラ企業もある。

国民を守らない自衛隊サイバー部隊

2005年に創設された自衛隊のサイバー部隊「システム防護隊」の初代隊長で、現在セキュリティ会社のファイア・アイの日本法人のCTOを務めている人によると、自衛隊は自衛隊法に規定されている任務しか遂行できず、「国民を守ること」はサイバー部隊の任務として法律に明記されていないという。

もし電力会社など民間のシステムを防衛するといった規定外の行動を取ろうとすると、現場は上層部にお伺いを立てなければならず、実際のサイバー戦になると、上層部からの返事を待っている間にやられてしまう。

150人だったサイバー部隊を500人に増やす計画だが、中国の13万人、北朝鮮の7千人に比べて圧倒的に少ない。元自衛官のサイバーセキュリティの専門家は「日本は耳目を持たないまま、筋肉だけをつけようとしている」と語っている。

日本にサイバー攻撃を掛けてくる国は、準備段階で時間をかけて日本の多数のパソコンやサーバを乗っ取り、踏み台として確保した上で攻撃を仕掛けてくる。こうした動きを察知できていれば、準備段階で相手国のサイバー部隊に攻撃を仕掛け、動きをけん制できる。

そのためには、日頃相手国のシステムに侵入して、弱点を把握しておくことが必要となるが、日本のサイバー部隊には耳目の機能がないのだと。


やはり直接ヒアリングした情報は説得力が違う。自衛するためには、べたではあるが、最低限こまめに別媒体にデータをバックアップすることは必須だと思う。そんなことを考えさせられた本である。


参考になれば、次を応援クリックしていただければ、ありがたい。


書評・レビューランキング
  

Posted by yaori at 12:28Comments(0) インターネット | 情報セキュリティ

2020年06月18日

サイバーセキュリティ― 防衛省出身の専門家による概説書



防衛省出身で、ジョンズ・ホプキンス大学の高等国際問題研究大学院で国際経済・国際関係のマスターを取り、米国や日本の研究所、企業を渡り歩き、現在はNTTのチーフ・サイバーセキュリティ・ストラテジストを務める松原実穂子さんの本。

この本で取り上げられているサイバー攻撃のリストが参考資料として添付されているので、まずは、これを紹介しておこう。

主要サイバー攻撃






















出典:本書参考資料

本文でそれぞれのサイバー攻撃について説明している。

2019年年末に出版された本なので、新たな情報が載せられていて参考になる。事例をいくつか紹介しておく。

ビジネスメール詐欺

英国のエネルギー会社のCEOが、ドイツの親会社のCEOの命令だと思って騙され、22万ユーロ詐取されたビジネスメール詐欺のケースでは、AIが本人の声をマネして、ドイツ語なまりの英語で本人そっくりだったという。

ビジネスメール詐欺を防ぐには、指示された電話番号にではなく、元から登録された電話番号に、こちらから電話するという手段が有効と言われているが、電話のかけなおしが重要なことがわかる事例である。

ダークウェブ

ダークウェブは、接続経路を匿名化する「Tor」などの特別なシステムでしかアクセスできないので、自社の情報が出ていないか調査するには、専門のサイバー脅威インテリジェンスサービスを使う必要がある。

2017年時点での、ダークウェブで取引されている個人情報の値段は次の通りだ:

米国のソーシャルセキュリティナンバー(社会保障番号):1ドル
クレジットカード情報(裏面のセキュリティコードや銀行情報の有無で上下):5〜110ドル
運転免許証:20ドル
卒業証書:100〜400ドル
医療情報: 1〜1,000ドル

カイロ大学の卒業証書も売られているのかもしれない。

医療情報が高値で取引される理由は、変えることができないため、恒久的に悪用できるからだ。

ダークウェブでは、数多くの違法なフォーラムがあり、情報や盗品などが売買され、武器、麻薬、サイバー攻撃のツール、ウイルス、サイバー攻撃を学べるチュートリアルビデオなども用意されている。

ランサムウェアも売買されており、「Ranion」というランサムウェアツールだと、120ドル/月の廉価版から、機能強化版は150ドル強/月で売られているという。

スタックスネット

米国とイスラエルがイランの核開発を送らせるために仕掛けた「スタックスネット」事件。2010年に明らかになった。

インターネットにつながっていないイランのウラン濃縮施設に、協力者を通じてUSBメモリを介して侵入、感染し、施設のモニターには正常値を表示させながら、遠心分離機の速度を上げて過度の負荷を掛け、遠心分離機を破壊させて、イランのウラン濃縮を遅らせたものだ。

エストニアへのサイバー攻撃

旧バルト三国のエストニアは世界で最もIT化が進んだ国と言われている。2007年にエストニア大統領府、議会、政府機関、政党、主要メディア、主要銀行、通信事業者に対してDDoS攻撃が仕掛けられた。ロシアとの関係が悪化していた時期でもあり、ロシアの関与が噂されたが、その後エストニア人の学生が逮捕された。

エストニアは2004年からNATOの加盟国になっていたので、この事態を重く見たNATOは、NATOサイバー防衛協力センターをエストニアのタリンに設立した。2018年からは日本も加わり、30カ国から、軍関係者や専門家1,000人が加わって、サイバー演習が行われている。

各国のサイバー部隊の陣容

中国 13万人
ロシア GRU 不明
北朝鮮 7000人
米国  6000人
イラン 不明
韓国  1000人
日本  500人(2023年までに)

日本のサイバーセキュリティ人材は不足しており、そのために「産業横断サイバーセキュリティ人材育成検討会」が組織され、44社が会員になっているという。

ソ連時代のサイバー攻撃による情報窃取

1986年に米国の「スターウォーズ計画」の情報をITネットワーク経由で盗もうとしている者がいることを察知、FBI、CIA、NSA(国家安全保障局)が協力して、「戦略防衛構想」と題した数千ページの偽文書を作成して、ハッカーがひっかるのを待った。

そして1989年に当時の西ドイツのハッカー5人を逮捕した。このうち3人はソ連のKGBに雇われ、現金とドラッグを引き換えに盗んだ情報をKGBの工作員に渡していた。


中国人民解放軍のサイバー部隊

2013年に米国のサイバーセキュリティ企業のファイア・アイ傘下のマンディアントが中国の上海にいるサイバー攻撃部隊(61398部隊)の実態について詳細に調査した報告書「ATP(Advanced Persistent Threat)1」を公表した。

詳細な報告書で、筆者もまだ読んでいないが、この報告書で中国の61398部隊の中心となる将校5名は、米国で指名手配されており、ウィキペディアの「中国サイバー軍」という項目に顔写真入りの手配書が掲載されている。

YouTubeにも米国の中国語放送局の新唐人TVが2011年頃の動画をアップしている。



「APT1」レポートが被害企業として取り上げ、知的財産を窃取された企業は、その後、倒産や株価低迷などの憂き目にあっている。

サイバーセキュリティに関して、基礎的な知識を得るには適当な本だと思う。ちなみに、ウィキペディアで「サイバーセキュリティ」で検索すると、非常に詳細な説明が出てくるので、ウィキペディアも参考にするとよいと思う。

参考になれば、次を応援クリックしていただければ、ありがたい。


書評・レビューランキング
  

Posted by yaori at 19:34Comments(0) インターネット | 個人情報保護

2020年06月16日

【再掲】ジム・ロジャースの中国の時代 20年先まで見据えた投資

2020年6月16日再掲:

中田敦彦さんのYouTube大学でジム・ロジャースの近著「危機の時代」を紹介していたので、2008年に出版された「ジム・ロジャーズ中国の時代」のあらすじを再掲する(リンクは見直して、ところどころに注をつけた)。








20年以上前に中国の時代が来ると予測し、シンガポールに移住したジム・ロジャース。2008年の本なので、予想が当たっていない部分もあるが、21世紀は中国の世紀だと、中国のポテンシャルを的確に見抜いた先見性に驚く。


2008年10月31日初掲:

ジム・ロジャーズ中国の時代ジム・ロジャーズ中国の時代
著者:ジム ロジャーズ
販売元:日本経済新聞出版社
発売日:2008-06-14
おすすめ度:4.0
クチコミを見る


前回紹介した橘玲さんの「黄金の扉を開ける賢者の海外投資術」でもしばしば登場したクオンタム・ファンドでジョージ・ソロスのパートナーだったジム・ロジャースの中国投資ガイドブック。「私は20年先まで見据えている」と本の帯に書いてある。

ジム・ロジャースは1988年にクオンタム・ファンドをやめ、バイクで世界一周しながら、自分の目で投資機会を見つけ、早くからいろいろな国で投資しているので、アドベンチャーキャピタリストと呼ばれている。

筆者が最初に中国に出張したのは1983年だが、ジム・ロジャースが中国に最初に行ったのは1984年とのことで、当時の状況を思い出させる。

ジム・ロジャースが最初にバイクで中国を横断したのは1988年だが、一番時間が掛かったのは、上海からカラコルム高速道路?まで3,000キロを走破することではなく、必要な許可を中国政府から取ることだったという。

筆者も記憶があるが、当時は完全な中央集権体制で、地方政府の高官は中央の官庁から派遣された役人ばかりだった。

お金も中国人が使う人民元と、外国人用の外貨兌換券の2種類があり、ホテルやレストランの料金はすべてダブルスタンダード、レストランは外国人とつきそいの中国人の食事場所が分かれていた。

中国人料金は大体外国人料金の1/10から1/30程度だったと思う。ホテルの電話はすべて盗聴されており、日本に電話して交渉戦略を打ち合わせしたりすると、すべて中国側につつ抜けになるということで、事前に暗号のような合言葉を決めて中国との交渉に臨んだものだ。

中国国内は大都市中心の外国人解放区と地方の非解放区とに分かれており、非解放区は基本的に外国人が入ることが禁止されていた。筆者は浙江省杭州から車で6時間程度の横山という場所にある工場を訪問したが、途中のいくつもの町で役場に立ち寄り、通行許可を取ってからでないと進めないという有様だった。

ちなみに杭州の近くには、揚子江が逆流するので有名な銭塘江がある。アマゾンのポロロッカと同じ現象だ。

浙江省には杭州の西湖はじめ観光名所・旧跡が多いので、いまは浙江省杭州市の日本語ホームページもあるが、1983年には杭州には外国人用のホテルが2軒しかなかったし、朝食にパンを頼んだらカステラのようなボロボロくずれるパンが出てきた。

ちなみに1983年はビジネスでの出張だが、中国側が気を使ってくれて西湖観光や、仏教の天台宗の総本山の天台山国清寺、高級ウーロン茶で有名な龍井茶の龍泉を訪問し、宴会は西湖のほとりの楼外楼(赤坂の本店は無くなり、今は新橋と新宿に店があるようだ)で「乞食鳥」を食べた。

初めて「乞食鳥」を食べたので、その調理法にびっくりした。

観光客などほとんどいなかった時代なので、当時出来たばかりの花園飯店(記憶不確か)の食堂で、中国側の通訳やホテルの従業員らと食事のあと一緒に歌を歌って宴会をした。「北国の春」が、中国ではやっていたのに驚かされた記憶がある。



話が横道にそれたが、いずれにせよジム・ロジャースが1988年から中国に注目して、実際に投資していたことには脱帽する。(1988年に中国の株を買ったことは、「商品の時代」に書いてあった)

大投資家ジム・ロジャーズが語る商品の時代大投資家ジム・ロジャーズが語る商品の時代
著者:ジム・ロジャーズ
販売元:日本経済新聞社
発売日:2005-06-23
おすすめ度:4.5
クチコミを見る


この本は23年間、24万キロを掛けて書いた本と言うこともできると、ジム・ロジャースは語る。まさに実践派投資家である。


21世紀は(またもや)中国の世紀

21世紀は中国が中心になって世界を牛耳るので、子どもや孫には中国語を習わせておきなさいとアドバイスしている。2003年に生まれた娘のハッピーには、中国人の乳母をつけたので、北京語がしゃべれるという。

1970年までは「メイドインジャパン」といえば、安っぽくて品質の悪いものだったが、日本が大きく変わったのは今日中国に見られるのと同じ勤労意欲と高い貯蓄率、大企業と政府の利害の一致、技術革新の組み合わせだ。中国は日本の国土の25倍で、日本がもう失ったかもしれないハングリー精神とやる気に満ちているという。

次代のGM,マイクロソフト、AT&Tが現れるかもしれないとジムは語る。

この本では注目される業界と代表銘柄が紹介されているが、ジム・ロジャース自身がどこに投資しているかは書いていない。

この本を書いている2007年の段階で、中国株が上昇していたので、ジムはソフトランディングを予想しているが、もしもバブルが膨れ上がったら、しばらくは注意したほうが良いと警鐘も鳴らしている。その場合には、市況が底入れした段階で動けるように準備しておこうと呼びかける。

現在の中国株の市況動向から言って、底値はまだ見えないと思うが、10年、20年後の世界を考えると中国は「買い」だろうと筆者も思う。ジムが言う様に、準備をして長期保有株を仕込むのには良いタイミングではないかと思う。

shanghai stockmarket







注:上記は2008年時点でのチャートだ。ここ10年の上海総合指数のチャートはこちら。もちろん株価が何百倍にもなった企業もあると思うが、上海総合指数としては低迷していると言った方が良いだろう。

原著はもちろん英語なので、この本でジムはアメリカなど世界の一般投資家に中国への投資を呼びかけており、中国株の歴史的背景や、中国のカントリーリスクなどにも触れている。




ちなみに上に挙げたペーパーバック版は2008年12月に発売予定なので、たぶん最近の状況を踏まえて改訂されるのだと思う。


中国のリスク

1.侵略者としての中国
中国はICBMを40発程度持っていると見られるが、それは米・ロの保有する核兵器の4%程度で、抑止力的なものだ。朝鮮戦争やベトナムとの中越紛争までは中国は拡張主義者と見られていたが、一人っ子政策で子どもが一人しかいない今、親が喜んで戦場に送るだろうかとジムは疑問視する。

台湾問題についても、ビッグマックを売っている国同士では戦争したことがないという「マクドナルド要因」を取り上げる。中国は軍事費に国家予算の7%(実際はその3倍と見られている)を使って、軍備の近代化を進めているが、台湾とは経済面で不可分の関係にあるので(大前研一氏は「霜降り状態」と表現している)、国民党政府となってむしろ両国は強固な結びつきになるのではないかと語っている。

2.環境問題
「僕たちは敵に出くわした。それは僕たちだった」という言葉をジムは紹介し、中国の深刻な環境汚染について説明している。

筆者は知らなかったが、石炭に多くを依存している中国の温暖化ガス排出量は今やアメリカを抜き、世界一にならんとしている。カリフォルニアの曇った空に舞う粒子の1/4は中国から飛んできたものだという。

中国と世界のエネルギーバランスを対比して紹介しておく。いかに中国が温暖化ガス排出量の多い石炭に依存しているかがよくわかる。

energy balance Chinaenergy balance world

注:上記は2008年当時のチャートだが、2018年のエネルギーバランスも依然として石炭(と石油)中心で変わっていない。この辺が弱点と言えば弱点だ。

ジム・ロジャースが懸念しているのは、中国が将来砂漠化してしまうのではないかということだ。インドも中国にも増して水不足はひどいという。ジムは両国をバイクで旅して、水不足のためかつては栄えた町がゴーストタウンと化しているのをいくつも見たという。

世界で最も汚染のひどい都市20のうち16は中国にある。化学汚染によって土壌の良い土地は減少し、森林は砂漠化し、工業地帯に住む子どもの8割は鉛中毒に冒されている。工場排水の80%は下水処理がされておらず、2012年には揚子江は生き物の住めない川になる恐れがある。中国は人口当たりの水の量が世界で下から13番目だといわれている。

ジムは中国の水問題を解決するために、ロシアのバイカル湖の水が使われることを予想している。バイカル湖の周辺をバイクで走ったときに、バイカル湖が米国の5大湖をあわせたよりも多くの水量を持ち、世界の淡水の20%を占める世界最大の淡水湖で、一時は中華帝国の領土の一部だったこともあるという。

次がロシアの極東の地図だ。バイカル湖と中国の間には山脈があり、モンゴルがある。距離も相当あるので、はたしてジムの言っているようになるかどうかは筆者は疑問に思う。

Russland





中国政府や民間企業が上水道・下水道・下水処理のために多くの投資をすることが見込まれ、この関連の業界もビジネスチャンスが増えるだろうと予想している。

バロンズ誌は、中国の問題点として、さらに人口の高齢化と蔓延する汚職をあげているが、ジムは何億といる地方の人が今後何十年も高齢化する人口を補っていき、汚職はいわゆるアジアンタイガーには共通する問題だと整理している。


業界寸評と銘柄紹介

ジムは中国の現状を様々な角度から分析し、関連する業界の中国あるいは台湾又は世界の主要企業のここ3年の業績、上場市場と株価コードを紹介している。紹介している業界の切り口は次のようなものだ。

1.戦時によし、平時によし − 航空宇宙産業と台湾プラステックなど台湾企業

2.流体利益 − 公害対策企業とシンガポール企業、欧米企業など

3.この世では誰もが知っている − 保険・年金、石炭、タイヤ、アルミ、通信

4.現代中国の5大革新者 − 分衆伝媒(デジタルサイネージ)、百度(検索エンジン)、中国徳信(通信)、無錫尚徳太陽能電力(サンテック、太陽電池。2013年に経営破綻し、2014年に順風光電に吸収された)、アリババ(BtoB電子商取引)

5.うまい汁を啜る − 電力会社、石炭会社、石炭掘削機

6.イケ株、石油 − ペトロチャイナなどの石油会社

7.中国の風に吹かれて − アレヴァ(フランス企業、中国発の原発を建設),ユーセック(ウラン生産)、BHP(鉱山会社)、再生可能エネルギー会社など

注:ユーセックは米国企業で、2014年に経営破綻している。

8.アスファルトの上に立つ − 高速道路会社、港湾運営会社、建設業者

9.自動操縦 − 自動車会社、自動車部品メーカー

10.出発進行 − 鉄道会社、鉄道建設、船会社

11.船乗り計画 − 携程旅行網(旅行会社)、芸龍旅行網、空港会社、航空会社

12.全室煌々と − 上海錦江国際酒店(ホテル150軒のチェーン。1983年には上海で唯一の高級ホテルだった)、地方の旅行会社

13.空の飛び方 − 航空会社、空港会社

14.人民公社よ、さようなら、コンバインよ、こんにちは。− 食品会社

15.ジューシーな果実を − 飲料メーカー

16.タネ銭 − 食肉加工、種メーカー、農業機械

17.ファーストフード − 砂糖メーカー、牛乳メーカー

18.人民のスピリッツ − ワインメーカー、ビールメーカー

19.緑の大地 − 有機野菜、肥料

20.金を生む処方箋 − 超音波検査機、バイオ、医療サービス

21.中国の未来を保障する − 保険会社

22.宿題を少々 − 新東方教育科技集団(外国大学の入試英語教育)、通信教育、職業学校

23.建設的批判 − 不動産開発会社

24.エマージング中国 − ハイテク、宇宙・航空、インターネット(2006年末で、中国のインターネット人口は1億4千万人(そのうち76%は高速回線)、ブロガーは8千万人、中国語ウェブサイトは84万)、映画、スポーツ、クレジットカード、携帯電話(利用者5億人!)、ケーブル・テレビ(利用者1億4千万人)、出版、小売・ファッション。

1999年に中国にはスーパーマーケットは1軒しかなかったが、2003年には6万軒に増えたという。


最後にジム・ロジャースは、人民元に対する投資も比較的優れた安全な方法であると語っている。今後20年の間に、ドルに対して300−500%上昇すると予測している。次は人民元の対ドル相場推移だ。

CNY_USD





注:最近の人民元の対ドル相場はこちら。人民元に関しては、ジム・ロジャースの予言は当たっていない。

筆者が現在も使っている米国のインターネット専門銀行everbank(注:現在はTIAABankとなっている。ネット専用銀行の老舗で、いまだに健在だ)の多通貨投資サービスの人民元口座開設を紹介している。ちなみに筆者は知らなかったが、everbankは人民元以外でもいろいろな国の通貨で預金ができる。


やはり足で稼いだ情報は貴重だ。BRICS、特に将来のソニー、ホンダをさがすべく中国株投資を考えている人には是非一読をおすすめする。


参考になれば、次を応援クリックしていただければ、ありがたい。


書評・レビューランキング


  

Posted by yaori at 22:02Comments(0) 中田敦彦 | 投資