2020年05月28日

大前研一の「経済を読む力」 新しい情報が満載で参考になる



大前研一さんの近著。2017年の「武器としての経済学」に加筆・修正して新書版にしたものだ。

武器としての経済学
大前研一
小学館
2017-09-29



「武器としての‥」というと、2019年8月に47歳で亡くなった京都大学准教授の瀧本 哲史さんを思い出す。

このブログでは瀧本さんの「武器としての決断思考」「僕は君たちに武器を配りたい」のあらすじを紹介しているので、参照して欲しい。

瀧本さんは東大法学部助手のあと、マッキンゼーに就職し、その後独立して「エンジェル投資家」としてスタートアップ企業に投資する傍ら、京都大学産官学連携センターの客員准教授として教鞭をとっていた。

武器としての決断思考 (星海社新書)
瀧本 哲史
講談社
2011-09-22



僕は君たちに武器を配りたい
瀧本哲史
講談社
2019-04-19



瀧本さんは、2019年8月に亡くなっているが、「2020年6月30日にまたここで会おう(瀧本哲史伝説の東大講義)」という謎めいたタイトルの本が2020年4月に出版されたばかりだ。




この本では、次のような質問に対するQ&Aという形で、ポイントをまとめているのでわかりやすい。これらに対する大前さんの答えももちろん書かれている。ネタバレになるので、各問の答えは紹介しないが、ところどころヒントや参考リンクをつけておく。

第1部 新聞ではわからない「株価と為替と景気」の新常識

Q 円安と円高、結局、どちらのほうが日本にとってよいのか?

Q 日本は将来、インフレになるのか? それにどう備えるべきか?


ヒント:「日本でハイパーインフレを望んでいる人がいるとしたら、それは財務省の役人だろう。」

Q なぜ日銀が株を”爆買い”にしているのに株価が上がらないのか?

参考:「日銀がETFを年間6兆円買うと、日経平均を2000円ほど押し上げる効果があるという試算がある。」

Q 「マイナス金利」を導入しても景気が良くならないのはなぜか?

ヒント:1,800兆円の個人金融資産を消費に向かわせる「心理経済学」

Q なぜ失業率が低いのに景気は回復しないのか?

Q 「GDPを引き上げる」ことがそんなに重要なことなのか?

ヒント:GDPを引き上げたいなら労働力人口を増やすこと(移民を増やす)と、政府が企業に補助金を出すことだ。しかし、企業が補助金を使って、設備投資や生産性を上げると、ホワイトカラー中心に失業者が増大する可能性がある。

Q 東京オリンピックを機に不動産価格が下がるという話は本当か?

ヒント:中国人の不動産投資は、中国国家外為管理局の海外不動産投資規制強化で先細りになっている。

Q 日本の「年金」は現実にはいつまで維持できるのか?

ヒント:人口ピラミッドで明らかなように、現役世代が退職者を支える賦課方式の日本の年金はすでに破綻している。米国のカリフォルニア州では移民を増やすことで年金問題を好転させた。移民受け入れは、反対意見も多く、一筋縄ではいかないだろう。

参考:レーガンは年金制度そのものを変えた。ー給開始年齢を67歳まで引き上げ、運用を自己責任(401K)とした。同時に大幅減税も実施したので、国民から反対の声は上がらなかった。日本でも受給開始を70歳、いずれは75歳まで伸ばす案が出されている。

2020年の人口動態

















出典:GDFreak!

Q 税金を上げたら景気悪化、下げたら財政危機‥‥どうすればいい?

第2章 新しい「世界経済」と「日本経済」への視点

参考:2019年9月に起きたサウジアラビアの石油施設への攻撃は、爆弾を抱えた18機の「カミカゼドローン」と7発の巡航ミサイルによるものとされている。この攻撃はどこが仕掛けたのかは不明だが、ドローンは1000KM飛んで、きわめて精密に目標を攻撃しているという。



ドローンは低空を飛んでくるので、レーダーに捕捉されにくく、イージス艦や迎撃ミサイルでは撃墜できない。ドローン技術は中国が圧倒的に進んでおり、今や1000機のドローンをプログラミングして、空中に文字を作ることもできるようになっているという。「カミカゼドローン」は、「貧者の戦略兵器」になる可能性があるのだ。

Q トランプ大統領がまき散らす世界的混乱をどう乗り越えるか?

ヒント:今、まさにフェイク情報発信源として問題となっているトランプ大統領の「ツイッター政治」だ。JPモルガンチェースによると、トランプのツイートは1日平均10回を超え、2017年1月の就任以来、1万4千回に達したという。

Q 「自国第一」の経済政策でアメリカの貧困層を救えるのか?

ヒント:世界の企業の時価総額ランキングによると、上位50社のうち、米国企業が32社を占めている。トランプ大統領がやるべきことは、これら巨大企業が全世界で創り出した莫大な利益をアメリカ本国に還元させることだ。

Q アメリカと中国の”報復合戦”に着地点はあるのか?

Q 韓国がいつまでも「経済先進国」になれないのはなぜか?


ヒント:イノベーション欠如、極端な学歴社会、ファミリー企業の「ガラスの天井」、頻繁なリストラ

Q ジョンソン首相「ブレグジット強行」で何が変わるのか?

ヒント:いずれ「イングランド・アローン」となるだろう。

Q フェイスブックの仮想通貨「リブラ」は世界をどう変えるのか?

大前さんはフェイスブックが提唱する「リブラ」に大賛成だという。「リブラ」は、グローバルな「リブラ協会」が管理する。大前さんが昔から主張している「ボーダレスエノコミー」に於ける仮想「グローバル政府」の通貨として「ユーロ」の様に管理すれば、基軸通貨ドルの国際決済システム(SWIFT)を握っている米国のトランプ大統領の「ツイッター政治」などに振り回されることはなくなる。

このままだと、中国共産党が監視している「アリペイ」や「ウィーチャットペイ」という中国発のデジタル通貨(いずれもユーザー数は既に10億人以上)が世界を席巻してしまう恐れがある。



Q これから成長するビジネスの「新たな潮流」は何か?

ヒント:シェアエコノミー、アイドルエコノミー、クラウド〇〇

Q 「フィンテック革命」をビジネスチャンスにつなげるには?

参考:スマホ決済はアフリカが一番進んでいるという。「バーティ・エアテル」という会社のモバイル決済サービスを使って、出稼ぎ労働者が、ある国の通貨を「エアテル・マネー」という仮想通貨に換えて送金すると、受取国の家族は自国の通貨で受け取れるのだ。

Q 日本の基幹産業「自動車」市場は今後どう変化していくのか?

ヒント:自動運転、トヨタモビリティ

第3部 「2020年代」のための成長戦略

Q 「高齢化」「少子化」社会でどんなビジネスチャンスがあるのか?

ヒント:具体例(今はコロナ禍で苦境に陥っているが)エアビーアンドビー軒先株式会社akippaビィ・フォワード

Q 外国人観光客「3000万人時代」に日本は何をすべきか?

Q 「月45時間」の残業規制は働き方・仕事をどう変えるか?

Q 日本人の生産性と給与を引き上げるカギ「RPA」とは何か?


ヒント:RPA(Robotic Process Automation)で、ホワイトカラーの間接業務の自動化。

Q 日本経済を支えるためのエネルギー政策はどうあるべきか?

ヒント:ロシアからの電力、ガス輸入を。

Q 増税せずに日本経済を再浮上させる成長戦略はあるか?

ヒント:「容積率」の拡大による建て替えブームと無電柱化

Q 日本の財政危機を乗り越える秘策はないか?

Q 企業の投資が低迷する中で「銀行」はどんな役割を果たすべきか?

Q 隣国ロシアとの関係改善が生む経済効果をどう最大化するか?


A(ここだけネタバレ) 北方領土交渉はなかなか進展しないが、この問題は、もっと大局的にな視点で考えるべき。ロシアとの関係強化により得られる経済的メリットは計り知れないほど大きい。

この本でも、大前さんはアベノミクスを厳しく批判している。

「20世紀に他国で展開された金利やマネーサプライ(マネタリーベース)をいじるマクロ経済政策をそのまま信じて展開するアベクロバズーカほど的外れなものはない。

7年目になっても成果がでていないのに、何の反省もない。こうした昔の学説を大胆に展開する”秀才”は、個々の日本人の生活や心理を全く理解していない。患者の診断をしないで旧式のテンプレートから処方箋を書くヤブ医者といっても過言ではないのだ。」


大前さんの提唱するのは、次のような政策だ。

 ―蠧誓如∨/誉任里茲Δ淵侫蹇爾紡个垢覯歙任鯒兒澆靴董◆峪饂裟如廚鯑各する。

日本の個人金融資産は1,800兆円あるので、これに1%課税して18兆円、不動産にも1%課税すると「資産税」合計で約30兆円になる。金持ちは課税されるくらいなら、投資してキャシュフローを稼ごうとするので、貯蓄から投資へという動きか加速する。

野村総合研究所が日本の富裕層は、127万世帯、純金融資産総額は299兆円と推計している。

◆〜蠡垣如贈与税を廃止する。これにより高齢者から資金ニーズのある若い世代に早めに資産が移っていくので、それが消費につながり、経済が活性化する。

 そして、死んでから資産に相続税を課すのではなく、生きているうちに資産の50%を国家に寄付してくれたら、残りの50%とその後稼いだ資産には相続税を掛けないという「資産寄付制度」をつくる。

資産を家族にではなく、国家に相続するという形で、富裕層の富の流動化を促し、それによって経済を活性化しようというアイデアだ。もし、寄付した人が、その後資産を失って、食うに困るような事態になったら、通常の2〜3倍の年金を保証するとかのセーフティネットを設ける。

ちなみに、相続税(税率10〜55%)基礎控除額が引き下げられたのは2013年で、それまでは5,000万円+1,000万円X相続人数だった。

遺族が配偶者+子ども2人なら、8,000万円まで課税無しだったのが、現在は3,000万円+600万円X相続人数となり、同じ遺族のケースだと、4,800万円以上だと相続税が課税される。

ぁ‐暖饑任蓮嵒娉嘆礎誉如廚謀彰垢靴董∪芭┐錬隠亜鵑箸垢襦F本のGDP550兆円の10%なので、約50兆円の税収となる。

これで「資産税」と「付加価値税」を合わせて80兆円の税収となる。

いつも通り、新しい情報が満載で、参考になる本である。


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Posted by yaori at 12:38Comments(0) 経済 | 大前研一

2020年05月25日

ロスチャイルド家と最高のワイン YouTube大学で取り上げられたので再掲

2020年5月25日再掲:

オリエンタルラジオの中田敦彦さんの「YouTube大学」で、最近ロスチャイルド家が取り上げられた。

中田さんの紹介したのは「富の王国ロスチャイルド」という本だ。

富の王国 ロスチャイルド
池内 紀
東洋経済新報社
2008-11-01



このブログでは、ロスチャイルドの3大ビジネスの一つのワインに絡めて紹介しているので、「ロスチャイルド家と最高のワイン」のあらすじを再掲する。

2009年時点での楽天市場のワインのリンクなどは設定しなおしてある。そういえば、今は10万円以上するラフィット・ロートシルトも、10年前は数万円で飲めた時代だったんだと、今になってなつかしく思い出す。


2009年11月9日初掲:

ロスチャイルド家と最高のワイン―名門金融一族の権力、富、歴史ロスチャイルド家と最高のワイン―名門金融一族の権力、富、歴史
著者:ヨアヒム クルツ
販売元:日本経済新聞出版社
発売日:2007-12
おすすめ度:4.5
クチコミを見る

フランスの5大シャトーのうち、2つを持つロスチャイルド家の歴史とワイナリー経営をつづった本。

これがロスチャイルド家の紋章だ。

250px-Great_coat_of_arms_of_Rothschild_family.svg















出典:別記ない限りWikipedia

前半はロスチャイルド家の歴史、後半はロンドンとパリのロスチャイルド分家が持つシャトー・ラフィット・ロートシルトと、シャトー・ムートン・ロートシルトの歴史を描いている。(ロートシルトはロスチャイルドのドイツ語読み)英語版Wikipediaが情報量が豊富なので、ところどころ英語リンクをいれた。

筆者はワイン好きなので、ほとんど毎日ワインをグラス半分くらい夕食の時に飲んでいるが、今まで漠然としか知らなかったロスチャイルド家の2大シャトー経営がわかって大変参考になった。

またロスチャイルド家をとりまく伝説の真偽のほどがわかった。

まずはロートシルトという名前だ。日本ではロートシルトを「赤い楯」と訳しているものが多いが、これは名詞の性を間違ったもので、男性名詞ならば「楯」だが、これは中性名詞なので「赤い表札」とでも訳すべきだと訳者は語る。

学生時代に第2外国語でドイツ語を習ったが、たしかに名詞には男性・女性・中性の三種類あったことを思い出した。

ロスチャイルド家の開祖は、18世紀半ばフランクフルトのユダヤ人街ゲットーに住んでいて、12歳で孤児となったマイヤー・アムシェルだ。マイヤー・アムシェルは商人となって頭角を現し、王侯貴族の御用商人として成功し、5人の息子を使ってビジネスをヨーロッパ規模に拡大する。

ロスチャイルド家の家系図(英文)

Rothschild_family_tree




















長男のアムシェル・マイヤーはフランクフルト本家、次男のサロモン・マイヤーはウィーンの分家、そして最も羽振りの良かった3男のネイサンはロンドン分家、4男のカールはナポリ、5男のジェームズはパリ分家の開祖だ。この5分家でロスチャイルド金融財閥をつくっていた。

「ロスチャイルド家の5人兄弟は、ワーテルローの戦いの結果をいち早く入手し、巨額の富を築いた」という伝説があるが、これは真偽のほどは疑わしいという。

戦いの結果はたしかにロスチャイルド家にいち早く届けられたが、ネイサンはその数日前に戦争の継続を見込んでイギリス政府に金を貸しており、予測が裏目に出たという。

ともあれ19世紀にはロスチャイルド家は「王たちに君臨するユダヤ人」と人々に呼ばれ、人々からねたまれる存在となっていた。

ロスチャイルド家の財力を各国の王家は頼りにし、ロスチャイルド家は産業資本家として製鉄所、汽船会社などを支援し、鉄道建設を推し進めたので「鉄道男爵」と人々は呼んだ。

ロスチャイルド家の分家は男子のみの相続と、分家間のいとこ同士での結婚を繰り返し、キリスト教徒との結婚は厳しく禁じられていたという。芸術のコレクションと育成に熱心で、各分家では当時の最高級の芸術品のコレクションを保有していた。

アメリカや新大陸、アジア、アフリカにも進出し、アメリカの鉄道建設の起債の引き受けでロスチャイルド家は事業を拡大し、1875年にはイギリス首相ディズレーリと組んでスエズ運河を買収した。

20世紀に入ると2度の世界大戦、特にナチスの迫害で財産は奪われ、芸術品はナチスが没収し、ノイシュヴァンシュタイン城に保管していた。

シャトー・ムートンのオーナーのフィリップはナチスの逮捕から逃れて、徒歩でスペイン国境を越えて脱出したが、妻のリリーはフランス貴族の出身でユダヤ人でないので安心していたところ、ナチスに捉えられて収容所で殺害された。

ロスチャイルド家は現在も活躍しており、2003年にはロンドンのロスチャイルド銀行と、パリのロスチャイルド銀行が合併し、LCFロスチャイルドが成立している。

1994年にはフランクフルトのユダヤ人墓地に80人もの一族があつまり、初代アムシェル・マイヤーの生誕250周年を祝ったという。


最初にワインに投資したのはロンドンロスチャイルド家

最初にフランスワインに投資したのは、ロンドンロスチャイルド家のネイサンの3男のナサニエルで、1853年にシャトー・ムートンを買収した。ちなみにボルドーでのワイン生産はローマ時代に始まったと言われる。

今も生きているボルドーワインの格付けが決まったのは1855年なので、その直前にムートンを買収したナサニエルは、ムートンを一級に格付けさせようと画策する。格付けは紆余曲折を経た後で、当時の仲買人の価格をよりどころにして決定され、ムートンは一級の取引価格であったにもかかわらず、二級となる。

ナサニエルは、「われ一級たり得ず、されど二級たることを潔しとせず。われムートンなり」とぶどう園に掲げたという。

ナサニエルはパリ分家のジェームズの娘婿で、甥にあたる関係だが、ロンドン分家のナサニエルに先を越されて、パリ分家の総領ジェームズは憤激したという。そして13世紀からワインを製造する一級のシャトー・ラフィットを1868年入札で獲得する。この時の入札の競争相手はナサニエルで、ロートシルト両分家はワイナリーを巡ってまさに骨肉の争いを繰り広げたのだ。

パリ分家がラフィットを手に入れてからも、両者の近くにあるカリュアド買収で火花をちらすこととなる。次がこの本に冒頭に掲載されているボルドー地区そしてムートンとラフィットがある場所の拡大図だ。隣接していることがよくわかる。

ボルドー







出典:本書冒頭の地図

19世紀後半にはフランスワインの伝統種をアメリカ在来のフィロキセラ虫が根絶やしにしてしまう大事件が起こり、フランスのぶどうはフィロキセラに強いアメリカの台木に接ぎ木することで生き延びる。


ムートンの中興の祖フィリップ

シャトー・ムートンを押しも押されもしない第一位ワインに押し上げたのはフィリップの努力だ。フィリップは20歳でムートンに着任し、不正追放、シャトー元詰め化、ラベルに一流画家の絵を利用、普及ワインのムートン・カデ販売、そして一級格付け獲得に専念する。

ワイン 赤ワイン 2017年ムートン・カデ・ルージュ / バロン・フィリップ・ド・ロスチャイルド フランス ボルドー / 750ml
ワイン 赤ワイン 2017年ムートン・カデ・ルージュ / バロン・フィリップ・ド・ロスチャイルド フランス ボルドー / 750ml

ムートンのラベル一覧

Mouton labels






出典:http://www.theartistlabels.com/

一流画家にラベルを書いて貰う条件は、そのラベルのヴィンテージ五箱と、好きな年のヴィンテージ五箱だという。たぶん多くの画家が20世紀最高のヴィンテージと言われる1945年のヴィンテージを選んだのだろう。

ナチス占領時代に難を逃れてカサブランカ経由脱出するが、奥さんのリリーはフランス貴族の出身にもかかわらずナチスに捕まり収容所で殺害されてしまう。戦争中のフランスワインのことは、「ワインと戦争のあらすじ」に詳しいので参照して欲しい。

他の四大シャトーとは五人クラブを結成し、協調関係を保ってきたが、1950年代に突如ムートンは仲間はずれにされる。一級でないからという理由だが、どうやらラフィットを持つパリロスチャイルド家の差し金のようだった。

フィリップは怒り心頭で、各方面に働きかけ、ムートンの格付け変更に力を注ぐが、格付け変更を勝ち取るためにはそれから20年の歳月を要し、1969年のポンピドー大統領就任で動きが出る。ポンピドーは以前ロスチャイルド家の会社の社長を務めていた。そして1973年当時農業相だったジャック・シラクよりついにムートンを一級に昇格させるという省令を受ける。

これでムートンのモットーは変わった。1973年のラベルに刻まれた新しいモットーは「われ一級なり、かつて二級なりき、されどムートンは変わらず」だ。

このブログでも紹介した1976年の「パリスの審判」のフランス人ワイン専門家9人によるブラインドテイスティングで、ムートンを含むフランスワインが、カリフォルニアワインに負けると、フィリップは審査員に電話して「私のワインになんて事をしたんだ。一級昇格に40年もかかったんだぞ」とどなったという。


ラフィットは管理人任せ

ロンドンロスチャイルド家出身のフィリップは、シャトームートンに住み、シャトーの経営を現地で手がけたが、ラフィットを持つパリロスチャイルド家はシャトーの経営は管理人に任せ、自ら経営に乗り出すことはなかった。

「ラフィット・ロートシルトは人頼み、ムートン・ロートシルトは俺頼み」と言われたという。

ラフィットは初めから一級、ムートンは実質一級と見なされていながらも二級というハンディがあったことが経営姿勢の差にも現れたのだろう。

ラフィットは1970年代になるとぶどう園に投資を強化する一方、貯蔵設備や醸造設備を近代化し、醸造マスターを代えた。1987年に建設したスペインの建築家リカルド・ボフィールの設計による回廊式貯蔵庫は、ワインセラー建築の傑作の一つとされている。


ムートンの系列ワイナリーと海外展開

ムートンとラフィットという同じロートシルトという名前がつく一級ワイナリーが二つあるので、系列がわかりにくいが、ムートンの系列のワイナリーは隣のダルマイヤック、シャトー・クレール・ミロン、エル・ダルジャン(白ワイン)とドメーヌ・バロン・ナーク、そしてフランスで最も売れている圧倒的な生産量のムートン・カデだ。

シャトー・ダルマイヤック [2016]年(750ml)【赤ワイン】【フルボディ】【ボルドー】【フランス】
シャトー・ダルマイヤック [2016]年(750ml)【赤ワイン】【フルボディ】【ボルドー】【フランス】

シャトー・クレ−ル・ミロン[2015]750mI 【結婚記念日】【赤ワイン 】【コク辛口】【お歳暮】【ワインギフト】
シャトー・クレ−ル・ミロン[2015]750mI 【結婚記念日】【赤ワイン 】【コク辛口】【お歳暮】【ワインギフト】

経営者はフィリップの娘のフィリピーヌで、会社名はバロン・フィリップ・ド・ロートシルト社、2004年には世界で約3億本のワインを売り、1億7千万ユーロの収益を上げた。

ムートンの海外展開はカリフォルニアワインのモンダヴィとのオーパス・ワン。1981年の最初の人箱はオークションで2万4千ドルで売れたという。モンダヴィは創業者ロバート・モンダヴィの死後、ティムとマイケルの兄弟の不和により2004年に世界最大のワインメーカー、コンステレーション・ブランズに13億6千万ドルという巨額で売却されている。

オーパス・ワン [2010] モンダヴィ&バロン・フィリップ <赤> <ワイン/アメリカ>
オーパス・ワン [2010] モンダヴィ&バロン・フィリップ <赤> <ワイン/アメリカ>

チリではコンチャ・イ・トロ社との合弁で1998年から生産しているアルマビーバが南米最高のワインの一つと評価されている。


ラフィットの系列のワイナリーと海外展開

ラフィットの会社はドメーヌ・バロン・ド・ロートシルト・ラフィット社(DBR社)で、系列はムートンと争って手に入れたカリュアドと1962年に手に入れた隣のデュアール・ミロン、そして1973年にエリー男爵の甥のエドモンが買収したシャトー・クレルクとその隣のシャトー・マルメゾンだ。

【送料無料】シャトー・デュアール・ミロン’14(ACポイヤック:第4級グラン・クリュ 赤・フルボディ)赤ワイン【7786886】
【送料無料】シャトー・デュアール・ミロン’14(ACポイヤック:第4級グラン・クリュ 赤・フルボディ)赤ワイン【7786886】

1990年にはポムロール地区のシャトー・レバンジルを買収し、隆盛著しい南フランスでもドメーヌ・ドーシェールと提携している。1995年からは「コレクション」と呼ばれる割安なボルドー産ブレンドワインを販売している。

エドモンはボルドー大学のエミール・ペイノーの指導で、シャトー・クレルクのブドウを植え替え、正確な温度調整のできる醸造設備に入れ替えたので、メドックでも一級シャトーのないリストラック地区のグラン・クリュではないブルジョワ級のワインながら、シャトー・クレルクはグラン・クリュなみの評価を受けることとなる。

エドモンはメドックの”アンファン・テリブル”(恐るべき子ども)と呼ばれ、エドモンが1997年に亡くなると、その息子のペンジャマンもシャトー・クレルクに力を入れ、2005年のヨーロッパ審査委員会の評価ではラフィットより上、ムートンより4位下の43位にランクされている。

ロスチャイルド家の新しい世代も父祖を同様に、ワイン作りに精力的に取り組んでいることがよくわかる事例だ。フィリピーヌは「家柄に頼らない一族が、成功する一族なのです」と語っている。

ラフィットの海外展開はチリのロス・バスコスの買収、カリフォルニアとワシントン州に10のぶどう園を持つシャロン・ワイン・グループとの経営参加、アルゼンチンのボデガス・カロと提携した「カロ」と「アマンカヤ」、ポルトガル、イタリアのワイン生産者との提携などだ。


フランスワイン業界の苦境

フランスの一人当たりのワイン消費は、かつての年間135リットルから68リットルに半減し、フランスのワイン業界はユーロ高による輸出不振もあって苦境にある。そんな中でフランスの保険会社AXAミレジムやルイ・ヴィトン、モエ・エ・シャンドンといった企業がワインに目を付けラトゥール始め数々の由緒あるシャトーを買収している。

1855年にグラン・クリュとして格付けされたワイナリーで、経営が変わらなかったのはわずか2社で、三級のシャトー・ランゴア・バルトンとムートンのみだ。ラフィットもロスチャイルド家が買収したのが1868年なので、同じように長年経営が変わらなかったと言えるだろう。

これからもロスチャイルド家はワインビジネスをファミリービジネスとして続けていくことだろう。

今まで断片的にしか知らなかったロスチャイルド家とワインのことがよくわかった。ロマネ・コンティは高すぎて無理する気にもならないが、ムートンやラフィットなら、ちょっと無理をすれば手が届く超高級ワインである。

エール・ダルジャン 2009 シャトー・ムートン・ロートシルト元詰 AILE D’ARGENT Chateau Mouton Rothschild
エール・ダルジャン 2009 シャトー・ムートン・ロートシルト元詰 AILE D’ARGENT Chateau Mouton Rothschild

シャトー・ラフィット・ロートシルト 2014 750ml フランス ボルドー ポイヤック 赤ワイン 第1級シャトー キャッシュレス 決済 5%還元
シャトー・ラフィット・ロートシルト 2014 750ml フランス ボルドー ポイヤック 赤ワイン 第1級シャトー キャッシュレス 決済 5%還元

ムートンやラフィットは今まで1−2度しか飲んだことがないが、次に飲める時のために予備知識として読んでおきたい本である。


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Posted by yaori at 21:57Comments(0) ビジネス | ワイン

2020年05月16日

老いと記憶 打つ手がないわけではない



神戸大学発達科学部の増本康平准教授の本。

筆者も記憶力の低下を年々感じている。そのため、その場で覚えようと努力しないで、メモに書くなり、ネット検索を使うなどの手段で、後から調べられるようにして、忘れても対応できるようにしているが、記憶力の低下に打つ手はないかと思い、読んでみた。

記憶力の低下は加齢によるもので、リバースはできない。しかし、記憶力低下のメカニズムを知ることで、生活上問題ないレベルに維持することはできる。

そもそも記憶は、脳の神経細胞が別の神経細胞と結合することで記録され、その神経結合はシナプスと呼ばれる。

電気信号が神経細胞の先端まで行くと、神経伝達物質のドーパミン、セロトニン、アセチルコリンなどの化学物質が放出され、別の神経細胞の受容体と接合して、細胞間での電気信号が伝達される。それが記憶のメカニズムだ。

新しい情報を記憶することは、新しい神経細胞間の結合のパターンが形成されたということだ。

neuron_synapse001-1



















出典:Wikipedia

脳は生まれた時は400グラムくらいで、成人になって1,200〜1,400グラムになり、20歳がピークで、それから90歳までに約10%重量が減少する。1秒に一つの脳細胞が失われていく。

シナプスの密度も低下し、神経伝達物質のドーパミンは成人期を過ぎると、10年ごとに4〜10%ずつ減少する。脳の生理学的変化が、記憶力にも影響しているのだ。

加齢による機能低下は、長期記憶(エピソード記憶、過去の出来事の記憶)、ワーキングメモリ(まさにPCのメモリ容量の様に、頭の中の作業スペース、それと考えるという作業そのもの)、情報処理スピードが顕著だ。

しかし知識の記憶(意味記憶)はむしろ年齢とともに向上するという。意味記憶というのは、たとえば九九や、歴史上の人物などの知識の記憶だ。

楽器の演奏、スポーツ全般、将棋や囲碁、あるいは車の運転、ブラインドタッチ、包丁さばきなど、技能学習の基盤となるハウツーの記憶は「手続き記憶」と呼ばれ、加齢の影響が小さい。

一般に熟練者とされるだけの技能の獲得には、1万時間の訓練が必要と言われているが、毎日3時間の練習を10年間行えば、熟練者になれる。定年退職後でも、たとえばピアノやギターなど、新しいことにチャレンジし、その分野の達人になることは可能なのだ。

この例で挙げたいのが、山下真司さんだ。筆者より年上の68歳でありながら、「東大王」というクイズ番組で難読漢字が読めず悔しい思いをすると、漢字の勉強を始め、いまでは「山下漢字」と言われるほど、博識の漢字博士になっている。



筆者は、クイズ番組ばかり見ているわけではないので、漢字を学びなおそうという気にはならないが、山下さんの場合は、このビデオの様に、漢字問題に正解できず、悔しい思いをしたことが、強いモチベーションになった。

この本では、「SOC理論」というライフマネジメント法を、ピアニストの故・ルービンシュタインの例を出して紹介している。ルービンシュタインは、89歳で目が悪くなって引退するまでコンサートを開いていた。



ルービンシュタインは、
(1)演奏のレパートリーを絞り(Select)
(2)それらを、これまでより集中的に練習し(Optimize)
(3)速い手の動きが求められる部分の前の演奏の速さを遅くすることで演奏にコントラストを生み出し、速い動きの部分の印象を高める(Compensate)
ことで、ピアノ演奏における年齢の影響をマネージしていたとインタビューで語っている。

これを「記憶力の衰え」という問題に当てはめてみると、
(S)覚えておく必要のある重要なことは記憶するのではなく、
(O)メモや手帳などの記憶補助ツールによって正確に記録し、
(C)記憶力の低下を補い、物忘れに対処する。
ということになる。

これがこの本の推薦する加齢による記憶力低下の対策だ。メモや手帳といったアナログなものだけでなく、スマホは有効な記憶補助ツールで、音声入力⇒リマインダ・アラーム機能がおススメだという。

筆者も最近、GACKTの「英語ガク習塾」で学んで、スマホの「メモ」に音声入力して、自分の英語の発音をiPhoneのSIRIが聞き取れるかチェックしている。

次のGACKTのレッスン2回目で(この回だけで1時間23分ある。GACKTのやる気が伝わってくる)、これの1時間20分過ぎからiPhoneの「メモ」機能を使って、SIRI(英語版)で自分の発音をSIRIに聞き取らせる手順を、自分のiPhoneを使って説明しているので、大変分かりやすい。



記憶力の低下程度なら、まだいいが、高齢になってくると、最も心配なのは認知症だ。この本では、高血圧、肥満、心疾患、糖尿病といった生活習慣病が、認知症の危険因子となるので、認知症予防の生活習慣として次を挙げている:
(1)豊富な社会的交流
(2)適度な運動
(3)魚の摂取
(4)ビタミンEやビタミンCの摂取

筆者は、4月7日の非常事態宣言以来、コロナ対策で、買い物を除いて外出を控え(この間、電車には一度も乗っていない)、自宅にいる生活を続けているので、上記(1)〜(4)の重要性を痛感している。

筆者は現役のビジネスマンなので、ウェブ会議で顧客と打ち合わせしたり、メール、電話等で、在宅でもそれなりの社会的交流を保っているが、週2〜3回行っていたゴールドジムは、当分行けないので、どうしても運動不足になりがちだ。

デスクで仕事しながら、簡単に前腕筋が鍛えられるパワーグリップを使ったり、スクワットしたりしているが、不足を感じている。




(3)、(4)については、サプリで補っている。筆者が使っているサプリは次のものだ。

ディアナチュラ DHA with イチョウ葉(240粒)【イチオシ】【Dear-Natura(ディアナチュラ)】
ディアナチュラ DHA with イチョウ葉(240粒)【イチオシ】【Dear-Natura(ディアナチュラ)】

小林製薬の栄養補助食品 マルチビタミン ミネラル コエンザイムQ10 約30日分(120粒入)【イチオシ】【小林製薬の栄養補助食品】
小林製薬の栄養補助食品 マルチビタミン ミネラル コエンザイムQ10 約30日分(120粒入)【イチオシ】【小林製薬の栄養補助食品】

自分が認知症にならずに、このまま行けるかどうかわからないが、認知症予防のためにも上記(1)〜(4)は絶対必須だ。そんなことを再認識できる本である。


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2020年05月14日

1984年 今日的意義があるジョージ・オーウェルの名作

2020年5月14日再掲:

4月7日の非常事態宣言以来、仕事では外出していないので、自宅でユーチューブを見る機会が増えた。多くのチャンネルをチェックしているわけではないが、最近のお気に入りは、オリエンタルラジオの中田敦彦さんの「YouTube大学」だ。

原稿も見ずに、ホワイトボードに書いた要点のみを頼りに、毎回1時間程度の講義を、2回から3回にわけて、素人にもわかりやすく解説してくれるのは、さすがに吉本で鍛えられた芸人だけある。しかも、その講義の内容が、現代社会の教養として役立つものばかりで、筆者も大変勉強になった。

その中田さんが、今回はジョージ・オーウェルの「1984年」を取り上げているので、筆者のあらすじを再掲して、紹介する。

筆者は、ノンフィクションもののあらすじは詳細に紹介するが、小説のあらすじは「ネタバレ」になってしまうので、詳しく紹介しない主義だ。しかし、中田さんの場合には、解説付きの完全な「ネタバレ」となっているので、筆者のやり方とは異なる。

これだと、紹介された本の内容は理解したので、本自体を「読まなくてもいいか」という気になってしまうと思うが、これはこれでためになるだろう。





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2013年10月9日初掲:

一九八四年[新訳版] (ハヤカワepi文庫)
ジョージ・オーウェル
早川書房
2009-07-18


ジョージ・オーウェルの「1984年」を読んだ。

今まで学生時代に読んだと思っていたが、今回読み直して、実は自分の読んだのは「動物農場」で、「1984年」は読んでいないことがわかった。勘違いしていた。

動物農場 (角川文庫)
ジョージ・オーウェル
角川書店
1995-05


「1984年」は村上春樹の「1Q84」にも影響を与えている。

1Q84 BOOK 1
村上 春樹
新潮社
2009-05-29


このブログで紹介したフランソワ・トリュフォー監督が映画化した「 華氏451度」や2018年のHBOのリメイクにも影響を与えている。





「ビッグ・ブラザー」とか、「テレスクリーン」とか、「1984年」に出てくる主要な題材は多くの人が知っていると思う。

アップルがマッキントシュ・コンピューターを販売した1984年のスーパーボウルでの伝説のコマーシャルは、「ビッグ・ブラザー」と「テレスクリーン」を登場させている。



今はアマゾンに抜かれたが、一時はアップルが時価総額で世界最大となったことは、1984年当時は全く想像すらできなかった。このCMは巨人マイクロソフトに立ち向かうアップルのマッキントッシュPCという設定だ。隔世の感がある。

自分でも今回読んだばかりなので、エラそうなことはいえないが、ばくぜんと知っていることと、解説も入れて文庫で約500ページのこの作品を読むこととは全く別物だ。

いつも通り小説のあらすじは簡単にだけ紹介しておく。

時は1984年。

世界は、第3次世界大戦の核戦争の後、南北アメリカと一部アフリカとオーストラリアの大部分と一緒になったイングランド(エアストリップ1=第一滑走路という地名に変わってる)が属するオセアニア、ヨーロッパとロシア、トルコなどが属するユーラシア、日本と中国を中心とするイースタシアの3国に分かれている。

北アフリカ、中東、インド、東南アジア、北オーストラリアの紛争地帯をめぐって、いつ終わるともない戦争が起こっていた。

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出典:Wikipedia

食料や物資は常に不足し、配給はどんどんカットされる。時折ロケット弾が爆発して、死人が出ている。人びとは人口の85%を占める無学な労働者階級のプロールと、15%の一般人に分かれ、イングソック(旧イギリス社会党)が国を支配していた。

プロールは、酒とギャンブルやポルノでその日暮らしをしていた。プロールは下層民=アンタッチャブルとして、一般人のルールには従わなくてよい。だからテレスクリーンもプロールの家にはない。イングソックはポルノ課でポルノを制作させてプロールに配布していた。

イングソックは「ビッグ・ブラザー」という黒い口ひげの男が指導しており、一般人の住んでいる家には双方向テレスクリーンがもれなく設置され、常時監視されていた。

主人公のウィンストン・スミスは、真理省で「ビッグ・ブラザー」の予言と異なる現実が生じるなど、不都合な事実が生じると、新聞や雑誌を含めて、過去の記録をすべて改ざんする作業に従事していた。

たとえば党は飛行機を発明したと党史には記されている。

人びとは相互に監視し、子供が親を告発すると親は蒸発する。蒸発した人は、死刑に処せられているのだ。親を告発した子供は英雄気取りだ。

ウィンストンの父は彼が2−3歳のころに 蒸発した。 ウィンストンが12歳の時に、母と妹も蒸発した。

ウィンストンは現在39歳。一度結婚したが、妻のキャサリンとは性格不一致で長いこと別居している。一般人には離婚が許されないのだ。

ウィンストンが真理省で働いていると、同僚の二人が気になり始める。

一人は上司のオブライエン。イングソックの中枢にいる党幹部で上流階級だが、どうやら党に叛旗を翻す方策についてウィンストンと秘密の話をしたいらしい。もう一人は同じ真理省の別の部署で働く26歳の女性ジュリア。あるとき彼女はつまづいたフリをして、彼に愛を告白する紙切れを手渡す。

ジュリアとウィンストンはプロールの家の一部屋まで借りて逢瀬を重ねた。プロールの家にはテレスクリーンがないからだ。

あるときウィンストンがジュリアと一緒にオブライエンの大邸宅を訪問すると、オブライエンは反政府活動に属していると告白し、反体制派で今は亡命しているゴールドスタインの本をウィンストンに手渡す。

ウィンストンはゴールドスタインの本を読んで、なぜ党のスローガンが「戦争は平和である (WAR IS PEACE)、自由は屈従である (FREEDOM IS SLAVERY)、無知は力である (IGNORANCE IS STRENGTH)」となっているのかを知る。

イングソックは、人びとの言語を英語(オールドスピーク)から、ニュースピークに変え、人びとが複雑な思考ができないように語彙を極端に減らしたのだ。たとえば形容詞は、良い、非・良い、より・良い、より・非・良い、超・良い、超・非・良いの6語しかない。

そして二重思考(ダブルシンク)と呼ばれる洗脳を行った。党のスローガンのように矛盾することでも、どちらも真実と受け止める思考方法だ。たとえば2+2は5だと言われたら、それは真実だと反射的に言わなければならない。それが二重思考の正しい反応だ。

ゴールドスタインの本でイングソックが人びとの思考をコントロールしようとしていることに気がついたウィンストンは…。


「1984年」は今でも十分通用する寓話だ。元々はソ連を念頭に書かれた小説だが、主人公のウィンストンが真実省で担当している歴史を政府の都合の良いように書き換えることなど、どの国でも大なり小なりやっていることだと思う。

たとえば日本には右と左の両方の教科書問題がある。左は家永教授の教科書検定問題。右は新しい歴史教科書をつくる会の運動だ。

それ以外でも「敗戦」なのに、「終戦」と言い換え、「占領軍」を「進駐軍」と言い換えている。これはGHQ=占領軍の統治がやりやすいようにという配慮が発端だろう。

筆者は、別に韓国と中国についてことさら悪く言うつもりはないが、最近読んだ本のなかでも、いくつか例がある。

たとえば韓国では民族主義の影響で、「日帝36年」の間は朝鮮民族は朝鮮総督府の圧政に苦しんだと歴史の教科書に書いている。

しかし、実際はかなり違うことは、このブログで紹介した呉善花さんの「韓国併合への道」や、今度紹介するソウル大学の李榮薫教授の「大韓民国の物語」に詳しい。




大韓民国の物語
李 榮薫
文藝春秋
2009-02



呉さんは、「私はいかにして『日本信徒』となったか」の中で、戦後韓国の漢字を排除してのハングル一本やりの教育の弊害は、日本人が想像する以上に大きいものがあると語る。

漢字の廃止は、韓国人から抽象度の高い思考をする手だてを奪ってしまったのだと。高度な概念を漢字の表意性をぬきに、ハングルの表音性だけで自由に用いることは無理が伴うのだ。

今は漢字+ハングルや、英語+ハングルとなっているので、問題はないと思うが、ハングル一本やり政策は、ニュースピークの実例のように思える。




呉さんも李教授も圧倒的少数派で、呉さんは韓国から入国を拒否されているし、李さんは韓国内でつるし上げられている。

親日派は少数派だが、日本統治時代の朝鮮の近代化を、支配階級の「両班」の見地からでなく、一般国民の見地から見直そうという一部の動きもあり、次のような論文集も米国で発刊されている。




中国も共産党の正統性には抗日が不可欠だとして、反日教育をしていることが知られている。これによく使われる題材は「南京大虐殺」だ。

たとえば小林よしのりの対談集・「新日本人に訊け」に登場する中国から日本に帰化した石平さんは、「南京大虐殺」が知られるようになったのは、朝日新聞の本多勝一記者の「中国の旅」が出た後だと語る。

新日本人に訊け!
小林よしのり
飛鳥新社
2011-05-11



中国の旅 (朝日文庫)
本多 勝一
朝日新聞出版
1981-12


本多記者は日本軍が30万人を虐殺したと書いたという。当時の南京の人口は20万人だったのにもかかわらずだ。現在でも「南京大虐殺紀念館」には30万人という数字が掲げられているという。

石平さんは、あの時代の中国の状況がどうだったかよく知っているという。本多記者の取材した中国人は全員中国共産党に事前にブリーフィングを受け、「この質問にはこう答えろ」という想定問答集を用意して、丸暗記したことを語ったのだと。

本多記者は、中国共産党のプロパガンダの道具として使われたに過ぎない。

石平さんもあの本が出るまで「南京大虐殺」など知らなかったと。これは世界のプロパガンダ史上、最大の奇跡だという。


脱線したが、このように「1984年」は今日的な意味があり、今読んでも新鮮味を失っていない。

「ビッグ・ブラザー」など、よく知られているストーリーだからといって読まずに済まさないで、一度手に取ってみることをおすすめする。


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Posted by yaori at 00:12Comments(0) 小説 

2020年05月13日

コロナウイルス対策 2009年の新型インフルエンザ完全予防ハンドブック 結局手洗いとマスク

2020年5月13日再掲:

5月13日現在のJohns Hopkins大学のコロナダッシュボードを追加しておく。なんと、たった1ヶ月間で、世界の患者数は2.2倍、死者数はほぼ2.4倍、米国での検査数は3.3倍になっている。

米国の検査数が月間670万件にも急上昇しているのは、経済再開のための準備だろうが、他の多くの国では、患者数が1ヶ月で倍以上に増えて医療崩壊が起こり、それが患者の増加率を上回る死者の増加につながっているのだろう。

JHU corona dashboard
















依然として、コロナウイルスの感染は収まっていない。日本では、緊急事態宣言の緩和が検討されているが、たとえ緩和されたにしても、不要不急の外出を控える「STAY HOME」、マスク着用、ソーシャルディスタンシングなどの各自の自分と回りの人を守る対策は継続が必要だ。



ロックダウンが緩和されたマレーシアの状況をGACKTがYouTubeにアップしている。日本も、いずれこの様に緩和されていくのだろう。

GACKTもマレーシア政府の対応が早かったことを語っている。人口3千万人強のマレーシアの患者数は7千人弱、一方、隣の人口6百万人弱、人口がマレーシアの1/5のシンガポールの患者数は、この1ヶ月で、外国人労働者を中心に急増して25,000人弱。あくまで現時点での評価だが、コロナ対策の成功と失敗がきわだつ結果となっている。




2020年4月14日再掲:

世界中が新型コロナウイルスのために、大変な事態になっている。世界の感染症研究のトップである米国のJohns Hopkins大学では、コロナウイルスダッシュボードとして、全世界の患者数、全世界のコロナウイルスによる死者数、全米の検査数を常時更新して公表している。

Johns Hopkins Univ Corona Dashboard

















出展:Johns Hopkins大学コロナダッシュボード

こんな中で、「コロナの女王」として毎日テレビに登場するのが白鴎大学教授の岡田晴恵さんだ。

スタイリストをつけているのだろうが、大学の研究者というよりは、だんだん芸能人の様な風貌に変わってきているので、「コロナの女王」と揶揄されているのだと思う。

コロナウイルス




















出展:Wikipedia

しかし、筆者も忘れていたが、2009年の新型インフルエンザ騒ぎの時も、第一線の研究者としてテレビ出演し、また、多くの本を出しており、感染症研究の第一人者であることは間違いない。

次は、2009年の新型インフルエンザの時の岡田さんのハンドブックだが、それがコロナウイルス対策でも当てはまる。筆者自身も再確認の意味で、2009年のあらすじを再掲する。薬のところで、タミフル、リレンザをアビガンと読み替えれば、ほぼそのままコロナウイルスにも適用できる内容である。


2009年9月13日初掲:
新型インフルエンザ完全予防ハンドブック (幻冬舎文庫)新型インフルエンザ完全予防ハンドブック (幻冬舎文庫)
著者:岡田晴恵
販売元:幻冬舎
発売日:2009-05-22
おすすめ度:4.5
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会社で全社員に配布されたので読んでみた。


著者の岡田晴恵さんは新型インフルエンザの第一人者

著者の岡田晴恵さんは、感染免疫学の専門家で、ドイツマールブルク大学ウィルス学研究所客員研究員、2009年4月まで国立感染症研究所で研究員として勤務していた経歴を持つ。

新型インフルエンザについては岡田さんは多くの著書を出しており、日経BPがやっているSafety Japanというサイトに、インフルエンザについてのインタビューが掲載されている。

岡田さんは小説も含めてあまりにも多くの著作を短期間に出版し、テレビにも頻繁に登場したりして国民のインフルエンザに対する不安を煽って儲けている様な形となっているので、保健所の現役医師が書いているという新型インフルエンザ対策の達人というブログなどでは批判されている

しかしたとえ国立感染症研究所の新型インフルエンザ担当官ではなくても、新型インフルエンザについて医学的な見地から、素早くいろいろな著書を出して、警鐘を鳴らすという意味では注目されてしかるべき人だと思う。

この本では最も恐いH5N1型の強毒型鳥インフルエンザの潜在的危険や、今年4月に発生し、現在流行しているH1N1型弱毒性豚インフルエンザ(新型インフルエンザ)の特徴などをわかりやすく説明している。


すべては元々鳥インフルエンザ

新型インフルエンザは元々はすべて鳥インフルエンザで、ウィルスの変化により人に感染するようになったものが新型インフルエンザだ。

鳥インフルエンザは強毒型と弱毒型の2つあり、現在はやっているH1N1新型インフルエンザは豚インフルエンザから発生した弱毒型で、人の呼吸器にのみ感染する。しかし強毒型のH5N1鳥インフルエンザだと、罹った鳥は1〜2日でほぼ100%死に至るという恐ろしい毒性だ。


ウィルスの構造

ウィルスの構造について簡単に解説している生物史から、自然の摂理を読み解くというブログを見つけたので紹介しておく。

ウィルスの構造

インフルエンザウイルス構造






出典:生物史から、自然の摂理を読み解く

H1N1ウィルスの電子顕微鏡写真

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出典:国立感染症研究所ホームページ

上記の図で、NA(ノイラミニダーゼ)という釘の頭のようになった突起と、HA(ヘマグルチニン)という針の先のような突起の2種類のタンパク質の違いによって、HAはH1〜H16の16種類、NAはN1〜N9の9種類あり、これらの組み合わせでウィルスの種類が144種類ある。


スペインかぜの大流行

過去最も流行した新型インフルエンザは1918〜1920年のスペインかぜで、当時の世界の人口18億人のうち、5〜10億人が感染し、死者は4,000〜8,000万人。日本の人口5,500万人のうち感染発症者は2,300万人、死者は38〜45万人と言われている。

今年流行している新型インフルエンザは、ほとんどの人が抗体を持っていないため、ウィルスにさらされれば感染しやすく、特に心臓、呼吸器、腎臓等に疾患を持っている人や、糖尿病や血液の持病のある人は重症化しやすいハイリスク者だとされている。

新型インフルエンザは一旦発生すると1〜2年間大流行して、ほとんどの人が免疫を持つようになると、次の新型インフルエンザが出てくるまで”季節性のインフルエンザ”になるというパターンが通常だ。

新型インフルエンザの症状は季節性のインフルエンザと同じく、発熱(38度以上)、筋肉痛、腹痛、咳、たんなどで、免疫がないので飛沫感染と接触感染による感染力が強く、潜伏期間からウィルスを外に出すので、自覚症状のないまま感染を広げてしまうという特徴がある。

通勤電車やバスなどで他人との近接は避けられないので、一旦流行すると感染拡大を防ぐことは不可能となる。

厚生労働省の発表した新型インフルエンザの流行予測では、ワクチンやタミフルを使用しないという条件では、国民の1/4、3,200万人が発症し、入院が53万人から200万人、死者が17万人から64万人となっているが、これだけの発症者がでると医療機関の現場がマヒし、多くの労働者が罹患することで社会インフラに影響が発生し、食料品などの流通にも影響が出る可能性がある。


新型インフルエンザ対策

新たにワクチンをつくるには半年から1年かかるといわれ、一旦広まったら急速に全国に拡大する。国立感染症研究所のサイトでは、パンデミック2009と題して新型インフルエンザの流行状況の地図などの情報を公開している。

9月11日現在の東京都の注意報レベルを越えている保健所数はゼロとなっている。

流行が起きたら、国、自治体、医療機関、企業・学校、家庭・個人がそれぞれの役割を果たし、流行のスピードを遅らせて社会機能を守ることが重要だと岡田さんは語る。

具体的には個人の対策は人と接触しないこと、人混みは避けること、国や企業などは外出を制限することだという。


外出制限が最も効果がある

次がこの本の50−51ページに掲載されている国立感染症研究所の資料から1918年のスペインかぜのフィラデルフィアとセントルイスの死亡率の推移だ。外出や集会の禁止、大規模施設の閉鎖をおこなったセントルイスと、対策が遅れたフィラデルフィアでは大きな差が出ており、外出の制限が被害拡大を防ぐ有効な手段であることが歴史的にも証明されているという。

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出典:本文50−51ページ


新型インフルエンザの予防

予防対策の決め手はワクチンだが、ワクチンの製造は時間が掛かるので、今年の新型インフルエンザについては最初は医療機関従事者などに優先して投与される見込みだ。

家庭で出来る対策としては、感染防止用品、日常品、薬、食料等の備蓄、たとえばいつもは10キロずつ買う米を20キロにして、10キロ常に備蓄することをすすめている。

この本では役割別に、父(会社員)、母(パート)、娘(中学生)、祖母(別居)という家族構成や、一人暮らしのサラリーマン、一人暮らしの老人(持病の薬は多めに貰っておく)などといった設定で、新型インフルエンザの発生の各段階での行動計画をまとめている。

個人としてできることは次の4点だ。

1.できるだけ外出しない。(通学しない、通勤しない、買い物をひかえる)

2.いきなり病院に駆け込まない(かかったかなと思ったら、病院で受診する前に保健所に電話して指示を受ける)

3.外出するときはマスク、ゴーグル、めがねなどを着用する。人混みを避ける。(電車・バスをやめて徒歩、自転車)

4.こまめに手洗い、うがい、洗顔をする。

この本では緊急時連絡用リストまで含まれており、こども用にひらがなで父母が寝ているというシーンを想定した電話のかけ方が掲載されている。


感染した場合

岡田さんはまずは家族全員の体温を毎日測ることをすすめる。感染すると3日ほどの潜伏期間の後に、38度以上の発熱から症状が出るのだと。

症状は38度以上の発熱、倦怠感、筋肉痛、腹痛、下痢、咳、たん等で、悪化すると呼吸困難などの肺炎の症状が出てくる。

そして感染の疑いがある場合にはいつもの病院に行くのではなく、保健所に連絡して指示を受け、家族の誰か一人が感染したら、家族全員が感染したものとして行動する必要がある。

新型インフルエンザに罹った後は、タミフルリレンザの抗インフルエンザ薬が有効だが、特効薬ではない。またタミフルは発症後早く使用するほど効果が高く、48時間以内に服用を開始しないと効果が低くなるという。

熱が出て我慢していると、悪化してからタミフルを飲んでも効果がない場合があるのだ。

家族の看病も通常のインフルエンザとは異なり、看病する人が感染しないようにマスク、ゴーグルを着用し、空気感染を避けるために部屋のウィルス濃度を下げるために換気や加湿器などが有効だ。

シャープやダイキンのウィルスを除去する空気清浄機も売り切れて予約販売となっているようだ。

■シャープ【大人気商品!】加湿空気清浄機 KC-W45★プラズマクラスター搭載【KCW45】
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DAIKIN 世界で唯一ストリーマ技術でウィルスを分解・除去する空気清浄機光クリエールACM75K-W(ホワイト)ダイキン
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daikin hikari





出典:ダイキンホームぺージ

関連リンクでは全国保健所長会の新型インフルエンザ対策ページなどが紹介されている。


最後に岡田さんは「知識のワクチン」ということで、新型インフルエンザの正しい知識を持つことが、自分や家族を守る事につながると語る。

煎じ詰めると、人混みを避ける、マスク、手洗い、うがいという当たり前の対策になるが、当たり前のことを当たり前にやることの重要性が理解できた。

100ページほどの本で、画も多く、簡単に読める。大流行が目前に迫っていることでもあり、是非一読をおすすめする。

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Posted by yaori at 11:36Comments(0) 医療 | 趣味・生活に役立つ情報

2020年05月01日

GACKTのアメリカ英語講座 英語ガク習塾

GACKTはYoutubeでチャンネルをオープンしており、最近は「英語ガク習塾」というタイトルで、アメリカ英語の実践講座を無料オープンしている。



やり遂げる条件として、GACKTは次の6点を求めている。

1.必ず毎日続けること。
2.正しい発音ができるまで何度も発声の練習をすること。
3.手鏡を持って口の形をしっかり認識して発声すること。
4.自分の発音とGACKTの発音の違いを録音して確認。
5.Siriに向かって発音し、正しく認識してくれるかをチェック。
6.今日覚えたことを誰かに何も見ないで教えること。

学ぶのはアメリカ英語で、教材はトム・クルーズとキャメロン・ディアスが共演した「Knight and Day」だ。



映画の予告編だけ見ると、マシンピストルを撃ちまくったり、何か荒唐無稽な映画の様だ。

初回講義が4月29日にアップされたので、受講してみた。



最初に言う文章が聞き取れるか、いきなりブチかまされる。

半分ネタバレになるが、このブチかましの"I'm sorry"だけで1時間かけている。

さらにこの後編のレッスン2では、"How's that?”を1時間23分も掛けて説明している、



筆者は米国に合計9年間住んでいたので、英語のヒアリング力には自信がある。

しかし、それでも音楽の歌詞や、映画のセリフを完璧には理解できない。

TOEICは945点だし、自分では英語が相当できると思っていたが、今回GACKTの初回講座を受講してみて、アメリカ英語の発音を体系的に勉強していないのが、歌詞やセリフを聞き取れない原因なのではないかと思えてきた。

筆者は仕事で、米国の鉄鋼業の現場ワーカーを相手にする時もあったので、彼らが分かる英語を話さないと、そもそも話を聞いてもらえないという緊張感を抱いて英語を話していた。

アメリカ人の発音をマネして話して、それが完璧に通じたので、自分でも英語には相当自信があったが、アメリカ英語の発音の基礎を理解せず、まさに耳学問、見よう見まねで英語を話してきたので、完璧なアメリカ英語にはなっていなかったのだ。

思えば、米国に住んでいた時に、小学生だった息子たちから、お父さんの英語はおかしいと言われたことがある。

何言ってんだ、アメリカ人と完璧に会話ができるので、そんなはずはないと思っていたが、どうやら「アメリカ英語」でなく、「日本人英語」を話していたから、会話は通じても、ヘンな発音のままだったようだ。

今回GACKTがこの講座の中でアメリカ英語とイギリス英語を比較して発音しているのを聞いて、これはアメリカ英語の発音を学びなおすには、大変役に立つ講座だと思った。

ちなみに、GACKTの英語は完璧なアメリカ英語だと、芸能人の英語力を評価しているネイティブのYoutuberが認めている。



GACKTが推薦しているGACKTの声と自分の声の聴き比べアプリのGarage Bandの使い方を早速アップしている人がいる。


初回の講座は1時間強。上記の様に"I'm sorry”だけで1時間かけている。口の形、舌の位置、口の開き方、日本語の母音とアメリカ英語の母音の差など、至れり尽くせりの解説と実演で大変参考になった。

GACKTは、超多忙だと思うので、こんなペースで、いつまで続けられるのかよくわからないが、自分の英語の発音を見直す上で大変役に立つので、プログラムが続く限り継続して受講して、自分の英語の発音をブラッシュアップしてみる。


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Posted by yaori at 19:55Comments(0) 趣味・生活に役立つ情報 | GACKT

2020年04月30日

GACKTの勝ち方 あの連勝は努力とアンビションの賜物だ

GACKTの勝ち方
GACKT
サンクチュアリ出版
2019-08-09



正月番組の「芸能人格付けチェック」で62まで連勝記録を伸ばし続けているGACKTの初のビジネス書。



GACKTの曲は聞いたことがないが、あの番組に連続して正解しているので、前から気になっていた。

GACKTは自分のことを「お肉博士」とか呼んだりしていたので、当初はエラそうなヤツだと思っていた。しかし、たとえば本物の盆栽と和菓子で作った盆栽の見分けなどの難問でも、GACKTが全問正解していくにつれ、ひょっとして、実はすごい人ではないかと思えてきた。

ある年、盆栽の問題で苦労したGACKTは、盆栽をつくった先生から写真集をもらったり、種々勉強して次に備えていたのだ。

このことは、マレーシアの自宅に取材に行ってGACKTにインタビューしている2020年正月の「格付けチェック」を見てわかった。ちなみに、上記Youtubeで紹介した2020年正月番組には故・志村けんさんもでている。

エラそうだが、妙に気になる。GACKTのことを、もっと知りたいと思って読んでみた。

この本を読むと、GACKTは物事に取り組むからには、力を惜しまず、全力で、本当に真剣に取り組み、できるまで、しつこく、あきらめないでやり遂げる人であることがよくわかる。

全問正解は、手間暇を惜しまない努力があってこその結果なのだ。

ページのレイアウトも本文にあわせてフォントの大きさを変えたり、ところどころにGACKTの写真が載っていて、読みやすい。印象に残った部分を紹介しておこう。

成功したい。

【夢】なんて聞こえはいいが、所詮は自分の欲求。
否定しているのではない。
どんなことが夢であってもいいということ。

‥‥という具合に始まる。

「代表作もないのにGACKTはなんでそんなにカネがあるのか?」

⇒「音楽だけやってたらとっくに死んでるよ。」

実業家としてのボクは、まだまだ大したことない。
ボクがすべての仕事で稼ぐ規模でいえば、数十億円程度。
沢山の人がかかわっているので、ボク個人への実入りは、過去MAXで10億程度。
ボクが今の生活を維持するのに必要な額は1年で2億弱。

ボクの武器は人生全てをマネタイズすること。

【GACKTとして存在し、息をするだけでカネを生む】究極の形。
もちろんそれは簡単なことではない。
些細なことの積み重ねと、日々怠らない努力で、積み立て貯金のように少しずつ重なっていく。
もちろん辛い時も苦しい時もある。だが自分に対して嘘はつけない。

出逢いをマネタイズ。

50人のサポーターをつくろう。
⇒「無理の無い範囲の中でボクをサポートして欲しい。」
ボクはファンと自分自身は決して裏切らない。
ファンは自分の夢を叶える世界の大切な妖精みたいな存在だ。

音楽をマネタイズ。

ビジュアルロックという選択。
コピーじゃ勝てない。マーケットはアジア圏。
日本発のファッションと音楽が融合したもの。ビジュアルロックの他にはない。
⇒自作の物語をステージで表現する

たしかにGACKTのステージは、ミュージカルの様だ。GACKTオフィシャルチャンネルで、5月25日までの期間限定で、次のような過去のコンサートをアップしているので、興味がある人はチェックして欲しい。



実業家GACKT
不動産

中古携帯電話輸出

和牛肉輸出(自分で「お肉博士」と言っているのは伊達じゃない)

アクセサリーブランド

「こいつ面白いな」と思ってもらえることが大切。
⇒「じゃあ、なにかできることないかな?」と言ってもらえる関係性を築けるか。

テレビの人にはならない。テレビは年間5本しか出ないと決めている。
テレビ業界は何よりも利権が渦巻いている。広告会社や大手事務所のパワーゲーム。

GACKTという覚悟。

GACKTは20年以上、コメもパンを口にしていない。食事は日に一食。朝は必ずトレーニングし、ハードワークかつストイックな気の抜けない生活。
⇒それが【GACKTである】ということ。ボクが一番GACKTをナメて無い。

勝負に必要なもの、それは覚悟。覚悟が無い者が多すぎる。
勝負を決める鍵となるのは、それまでの立ち振る舞いと、完璧なタイミングでの【強靭な覚悟を持ったハーフブラフ】。相手に自分から引かせる。それが一番美しく、確実な勝ち方。

行動

【知・覚・考・動】と【知・覚・動・考】(とも・かく・うご・こう)の差

英語も同じだ。考える前に、まず喋ってみろ。

GACKTは、最近「 ガク習塾」というタイトルで、Youtubeでアメリカ英語の実践講座を無料オープンしている。これは非常に参考になる取り組みなので、別ページで紹介する。



【出来ない、など無い】

GACKTは、兄貴分のYoshikiに紹介された実業家とのクラブでの出会いを書いている。実業家の連れの大男がまず、グラス一杯のワイン一気に飲み干した。GACKTはロックオンされた。

それではと、GACKTはテキーラをコップ10杯並べ、最初の5杯を一機に飲み干した。そして実業家の連れの大男にも同じことを促す。相手は4杯飲み干して、最後の5杯目で相手が「止めよう」と言い出した。

「コイツと半端な気持ちで勝負すると大変なことになる」ということを印象付けたのだ。

メンタルリセット

「芸能人格付けチェック」でジャニーズの若手と組んだチームの連勝が39で止まった時、GACKTが叫んだ言葉が「メンタルリセット」だ。
【ベストの選択と努力】が為されていれば、【起こってしまった不測の事態は気にしない】というものだ。

ネガティブをポジティブに

常にGACKTはポジティブ思考だ。

GACKTはアンビシャスで、そのアンビションを実現するためのセルフコントロール力がすごい。GACKTに対する見方が、全く変わる本である。

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Posted by yaori at 22:42Comments(0) 自叙伝・人物伝 | GACKT

2020年04月26日

上級国民/下級国民 コロナ対策でもその差が出ている



池袋で旧通産省工業技術院の飯塚幸三元院長(88歳)が、自動車を暴走させて、31歳の若い母親と3歳の女児を死亡させ、10名を重軽傷させた「池袋自動者暴走死傷事故」は2019年4月19日に起こった。



あの痛ましい、そして高齢者の運転に関する日本人の考え方に大きなインパクトを与えた死傷事故の直後に出版された橘玲(たちばなあきら)さんの本。

このブログでも、多くの橘さんの本のあらすじを紹介している。いつもながらキャッチーな話題をいち早く取り入れ、持論を展開しているのはさすがだ。

池袋事件の犯人の飯塚元院長は、2020年2月に在宅起訴され、いまは「飯塚被告」となったが、事件発生当初は、逮捕されず、朝日新聞、毎日新聞、東京新聞などが、「飯塚さん」と呼んだことから、日本全体で批判の渦が巻き起こり、「上級国民」という言葉が生まれ、流行語大賞にもノミネートされた(ちなみに、「上級国民」は2015年にオリンピックエンブレムの盗作疑惑の時も流行語となっている)。

読売新聞が「容疑者」と呼ばない理由について、紙上で弁明している通り、飯塚被告が逮捕されなかったのは、高齢で事故で骨折して入院したからで、新聞が「さん」付けしたのは、「容疑者」という表現は、逮捕や指名手配されないと使えないからだったが、理屈は通らず、「上級国民」という表現が広まった。

この本では、日本のみならず、世界でも、「上級」、「下級」の分断が進んでいる現状を紹介し、そんな状況下で生き抜く方策を提言している。

次は一人当たりGDPの世界ランキング1位〜25位の表だ。赤字になってい部分が日本だが、最新の2018年は、26位(39,308ドル)なので、この表から脱落している。

gdp_percapita_ranking1-25














出典:ファイナンシャルスター

橘さんは、平成年間は「日本がどんどん貧乏くさくなった」時代だという。

日本の雇用に関しては、一橋大学の神林龍教授の本から、1982年から2007年の間の男女年代別、若年女性、若年男性の正社員、非正規社員、自営業、パート/アルバイト、無業者の比率を比較している。



18〜54歳の男女合計での変化は次の通りだ。
      1982年     2007年    差
正社員     46%      46%     0
非正規      4%      12%    +8%
自営業     14%       7%    −7%
無業者     26%      23%    ー3%

つまり全体としては、正社員比率は46%で変わらずだが、自営業と無業者が減ったので、非正規比率は4%から12%に増加している。つまり、正社員の雇用は維持されているのだ。

一方、22〜29歳男性で見ると、次の様に変化している。
      1982年     2007年    差
正社員     75%      62%    −13%
非正規      4%      15%    +11%
無業者     10%      16%    + 6%

若年男性では、もろに正社員が減り、非正規と無業者が増加していることがわかる。

22〜29歳女性では、正社員は40%⇒43%とあまり変わらないが、無業者が43%から26%に減り、非正規雇用が5%から22%に増加している。専業主婦が減り、非正規雇用で働く主婦が増えたということだろう。

       1982年     2007年    差
正社員     40%       43%     +3%
非正規      5%       22%    +17%
無業者     43%       26%    ー17%

今は、コロナ禍による出社自粛要請により、正社員のみならず、非正規・自営業の人も減収で大変だという状態は変わらないだろうが、平成を通してみると、年功序列・終身雇用の日本型雇用慣行は維持されたが、それは若者(とりわけ男性)の雇用を破壊することで、中高年の雇用が維持されているのだ。

欧米諸外国と同様の「同一労働同一賃金」も、2020年4月から大企業に適用されることになっているが、団塊の世代は、75歳以上の後期高齢者がほとんどで、現役労働者ではないので、「同一労働同一賃金」を導入しても、彼らの既得権侵害にはならない。

日本社会では、団塊の世代が新聞を読み、本・雑誌を買う人たちで、活字メディアにとって、団塊の世代を批判することは最大のタブーになっていると橘さんは言う。

団塊の世代は政治家にとって最大の票田で、団塊の世代の利害は「年金」だ。だから社会保険改革は誰も言い出せない。また、誰も興味がない。令和の今後20年間はひたすら対症療法を繰り返して、年金が破綻しそうになったら、保険料を引き上げて、2040年以降の高齢化比率下落を待つというのが某若手官僚が語った「霞が関の論理」だと。ちなみに、2045年はAIが人間の知能を超えるといわれるシンギュラリティの予想年だ。

橘さんは、”「モテ」と「非モテ」の分断”という題で、学歴、年収、結婚などを取り上げている。

社会学者の吉川徹さんの「日本の分断 切り離される非大卒若者(レッグス)たち」という本を引用し、2000年代に流行語になった「下流社会」は、学歴にかかわらず、だれでもが下流に落ちる可能性があるという内容だったが、現代日本社会においては、「下流」の大半は高卒・高校中退の「軽学歴」(レッグス=Lightly Educated Guys)だと結論づけている。

学歴と年収はおおむね比例する。







次に、「モテ」の例として、結婚率を取り上げている。

男性(30〜39歳)の未婚率は、1970年代までは10%以下だったが、2015年には35%に上昇している。30代になれば、だれもが結婚するのが当たり前の時代から、3人に一人が40手前まで独身という時代になっている。一方女性の未婚率も上昇したが、23.9%、つまり4人に一人にとどまっている。

50歳時の未婚率も男性23.4%に対して、女性14.1%とかなりの差がある。

男性の未婚率と年収とは逆相関関係があり、年収300万円以下では、3割、200万円以下では4割が生涯独身だが、年収600万円以上で9割、1,000万円を超えると95%が一度は結婚している。

このことから、橘さんは、現代日本社会は「モテ」る男が、結婚と離婚を繰り返す事実上の「一夫多妻制」だと指摘する。つい最近の例の東出昌大さんのことを思い出してしまうが、(東出さんが身長189センチもあるとは知らなかった。)先進国では共通に見られる傾向であると。

一方、若い女性の「エロス資本」についても紹介している。若い女性は期間限定ではあるが、大きな「エロス資本」を持っており、それを資本市場でマネタイズしているのだと。

もっとも、コロナ禍の現状ではエロス産業も閉鎖しているので、そこで働く人(「黒服」も含めて)は大変だと思う。一時しのぎではあるが、一時金の支給が待たれるところだ。

エロティック・キャピタル すべてが手に入る自分磨き
キャサリン・ハキム
共同通信社
2012-03-03



この格差拡大社会を生き抜くために橘さんは、ロバート・ライシュ元米労働長官の「ザ・ワーク・オブ・ネーションズ」を紹介している。



クリントン政権時代に米国の労働長官も務めたUCバークレー教授・ロバート・ライシュ博士は「ザ・ワークス・オブ・ネーションズ」で、これからの仕事は”シンボリック・アナリスト”と”対人サービス業者”、”ルーティン労働者”に分かれ、米国の中産階級は崩壊すると予測した。

”対人サービス業者”は移民やウーバーなどのスキマビジネス、そして将来的には自動運転に脅かされる。”ルーティン労働者”の雇用は、工場がどんどん米国から海外に移転することで少なくなっている。

トランプ大統領は、これらの”対人サービス業者”、”ルーティン労働者”が支持層なので、工場の海外移転には断固として反対して、移民規制を強化している。トランプのやることはめちゃくちゃだと思うが、その着目点は優れていると言わざるを得ない。

一方”シンボリック・アナリスト”と呼ばれる、エンジニア、投資銀行家、法律家、経営コンサルタント、システムアナリスト、広告・マーケティング専門家、ジャーナリスト、映画製作者、大学教授などの「知的でクリエイティブな仕事」をする新上流階級は、米国の勝ち組として、全米の富を独占し、上位1%が米国の個人資産の42%を保有している。

ライシュの処方箋は、「みんなのための資本論」という映画でも紹介されている。大企業や高額所得者から税を徴収し、それを原資に公教育を立て直し、”シンボリック・アナリスト”を増やそうというものだ。


ライシュ教授の予想はその通りになったが、処方箋は機能していない。

低所得の家庭の子どもと高所得の家庭の子供の学力差は拡大するばかりで、家庭資産上位10%の家庭の子どもと、下位10%の家庭の子どもでは、SAT(大学進学適性試験)のスコアで、1985年当時で800満点中、90点差だったのが、2014年には125点に開いている。

教育では格差は埋められず、米国の教育格差はさらに拡大しているのだ。

米国には、「スーパーZIP」と呼ばれる高所得層・知識層の集まるコミュニティがあり、「スーパーZIP」の集積地が、ワシントンDC、ニューヨーク、サンフランシスコ(シリコンバレー)、ロサンゼルス、ボストンなどだという。

筆者も2000年まで米国に2期にわたって、合計9年間住んでいた。

当時は「スーパーZIP」という言葉はなかったが、昔から米国では富裕層が住む町と貧困層が住む町、混住の町がはっきり分かれていた。

その見分け方は、学校の教師の平均給与だ。

米国で不動産を持っていると、評価価格の5〜10%のスクールタックスがかかる。これは町の収入となり、町立の学校(幼稚園から高校まで)の運営費用に充てられる。いい教育をするために、高い給料を払って、いい教師をそろえる。教師の年収が高いということは、不動産の価格が高く、それゆえ高額所得者でないと住めないということになるのだ。

米国では様々なデータが公開されており、地域ごとの学校の先生の平均給与と人数も公開されている。リンク先はピッツバーグ市の例だ。

筆者が住んでいた米国ピッツバーグも、町ごとに教師の給与を決めており、教師の年収が最低の町では34,115ドル、最高の町は93,724ドルと3倍弱の差がある。筆者の住んでいた町の教師の平均年収は、81,518ドルだ。

これは米国の話で、日本では「スーパーZIP」の様な目に見える差別はないが、日本でも一億総中流は崩れかけ、貧富の差は拡大し、さらに再生産されている。コロナ禍でも、収入に全く影響が出ない人と、コロナ対策で閉鎖されて職を失った人の差は大きい。

この本の結論として、橘さんは、2つの生き方を挙げている。一つは、ライシュ教授の”シンボリック・アナリスト”的な専門職。もう一つは、ユーチューバーの様な「評判資本」をマネタイズする生き方だ。

いずれにしても、自分で生きる道を切り開かなければならないことには変わりはない。


いろいろな情報が得られて参考になった。いつもながら、うまく情報をまとめている本である。

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Posted by yaori at 13:42Comments(0) 趣味・生活に役立つ情報 | 橘玲

2020年04月23日

PCR検査の発明者を紹介した福岡さんの「生物と無生物のあいだ」

2020年4月23日再掲:

コロナウイルスの検査法としてPCR検査があることは、今や誰でも知っていることだ。

PCRとは、ポリメラーゼ連鎖反応(polymerase chain reaction)の略だが、それでは、そのPCR法を発明した科学者は誰かご存知だろうか?

それが、福岡さんのベストセラーの「生物と無生物のあいだ」で「サーファー・ゲッツ・ノーベルプライズ」として紹介されていたキャリー・マリス博士だ。

マリス博士は、1993年にノーベル賞を受賞している。ノーベル賞受賞記念講演がウェブサイトに公開されており、PCRのアイデアを思い付いた時のことや、生い立ち、研究などのことを語っている。

英語版だが、Google翻訳を使うと、意味が通じる訳文が表示されるので、一度ノーベル賞受賞記念講演も見ていただきたい。筆者もGoogle翻訳の進化に驚かされた。

今回久しぶりにウィキペディアでマリス博士のことを調べてみた。マリス博士はまだ生きていると思っていたら、2019年8月に74歳で亡くなっている。

なんとタイミングの悪いことだろう。今生きていたら、PCR検査の父として、世界的に有名になっただろう。

4回結婚し、人格的にはいわゆる「変人」だったようだが、哀悼の意を込めて、マリス博士の著書を紹介するとともに、マリス博士のことを教えてくれた「生物と無生物のあいだ」のあらすじを再掲する。

マリス博士の奇想天外な人生 (ハヤカワ文庫 NF)
キャリー・マリス
早川書房
2004-04-09




2009年10月11日初掲:

生物と無生物のあいだ (講談社現代新書)生物と無生物のあいだ (講談社現代新書)
著者:福岡 伸一
販売元:講談社
発売日:2007-05-18
おすすめ度:4.0
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2007年発刊の本ながら、いまだにアマゾンのベストセラー231位に入っている分子生物学者の福岡伸一青山学院大学教授の本。勝間和代さんの「まねる力」というムック本の対談に登場していたので読んでみた。

AERA MOOK 勝間和代「まねる力」AERA MOOK 勝間和代「まねる力」
著者:勝間 和代
販売元:朝日新聞出版
発売日:2009-06-30
おすすめ度:3.5
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本の帯には各界のいろいろな人からの推薦文が紹介されている。

推薦文













筆者は昔はブルーバックスなどを時々読んでいたが、最近は科学系の本は「日本は原爆爆弾をつくれるのか」以来読んでいなかったので、久しぶりに読んだ科学の本だ。

これを機にブログにも「自然科学」というカテゴリーを新設した。

福岡さんは新書大賞とサントリー学術賞をダブル受賞していることでも分かる通り、この本は科学の本というよりは、本の帯にある「極上の科学ミステリー」といった感じの本で、エンターテインメント性を追求し、非常に読みやすく、わかりやすい。

筆者がひさびさに読んでから買った本だ。


ウィルスには生命の律動がない

現在新型インフルエンザがはやっているが、この本は昔読んだ岩波文書と同じ「生物と無生物の間(あいだ)」という題だったので、てっきりウィルスについての本かと思った。

生物と無生物の間―ウイルスの話 (岩波新書 青版 245)生物と無生物の間―ウイルスの話 (岩波新書 青版 245)
著者:川喜田 愛郎
販売元:岩波書店
発売日:1956-07
クチコミを見る

ウィルスは代謝なし、呼吸なし、結晶化も可能で、限りなくミネラルに近い存在である。しかしウィルスは自己増殖する。この不可解なウィルスを生物とするか無生物とするかで長年、論争がある。

福岡さんはウィルスを生物であるとは定義しない。福岡さんは生物と無生物の間にどのような界面があるのかを、この本で定義したいと語る。それはいわば「生命の律動」であると。いかにも文学的な、わかりやすい表現だ。


この本の目次がふるっている

この本の目次がいかにもふるっている。とても科学書とは思えない目次だ。この本はアマゾンのなか見検索にも対応している
ので、是非目次を覗いてみて欲しい。

第1章  ヨークアベニュー、 66丁目、 ニューヨーク

第2章  アンサング・ヒーロー

第3章  フォー・レター・ワード

第4章  シャルガフのパズル

第5章  サーファー・ゲッツ・ノーベルプライズ

第6章  ダークサイド・オブ・DNA

第7章  チャンスは、準備された心に降り立つ

第8章  原子が秩序を生み出すとき

第9章  動的平衡(ダイナミック・イクイリブリアム)とは何か

第10章 タンパク質のかすかな口づけ

第11章 内部の内部は外部である

第12章 細胞膜のダイナミズム

第13章 膜にかたちを与えるもの

第14章 数・タイミング・ノックアウト

第15章 時間という名の解(ほど)けない折り紙

「細胞膜」と言う用語が出てくるので、生物学の本だということがわかるが、それを除くと、まるで小説のチャプターのような目次である。


研究者にスポットライト

文章のうまさとタイトルの奇抜さもさることながら、この本の特徴は研究者に注目して生化学反応の原理探求を描いていることだ。

普通、科学の本はどういった反応が起こったかを、しとうと読者にわかりやすく説明しようと反応の原因解説が中心だ。読者にわかりやすく解説しようとする著者の親切心の現れともいえる。

読者としては反応がなぜ起こったのかについての知識は得られるが、研究者の人現像や、実験の過程で研究者がどんな点に工夫したかについてはあまり説明されていないことが多い。

ところがこの本では研究結果もさることながら、研究者の方にスポットライトが当たっており、実験者の人物像や試行錯誤の過程が詳しく説明されているので、しろうとにも実験の難しさと、その実験が成功したときの達成感や意義がわかりやすい

最もよい例が第2章アンサング・ヒーローだ。

アンサング・ヒーローとは、人知れず偉大なことを成し遂げた人のことで、福岡さんは「縁の下の力持ち」と言っている。この場合はDNA=遺伝子だと世界で最初に気づいたオズワルド・エイブリーという科学者のことだ。

エイブリーは福岡さんも勤務したニューヨークマンハッタンの一番東寄りのヨークアベニューと66丁目の交差点付近にあるロックフェラー大学研究所に1913年から定年退官する1948年まで35年間勤務していた。


大きな地図で見る

ロックフェラー大学研究所にはかつて野口英世も在籍し、数々の研究成果を発表したが、その発表の大半は現在は誤りであったとされている。

ヨークアベニューと66丁目というのはマンハッタンのちょうどクイーンズボロブリッジあたりで、ユニバーサルスタジオのアトラクションでキングコングが攻撃するケーブルカーがあるあたりだ。

筆者はピッツバーグに合計9年間駐在したので、ニューヨーク出張の帰りにマンハッタンからレンタカーでラガーディア空港に向かう時は、ちょうどこのあたりからからFDRドライブに入ってトライボロブリッジを通って、空港まで行っていた。

そんな有名な研究所があったとは全く知らなかった。

エイブリーがDNA=遺伝子という発見をしたので、その成果を元に1953年にイギリスの若いジェームズ・ワトソンフランシス・クリックがDNAはらせん構造をしているという事実を発表し、後にノーベル賞を受賞した。

1953年に"Nature"に発表されたわずか1.5ページのワトソンとクリックの歴史的論文が、この本に紹介されている。

watsoncrickpaper









出典:本文107ページ 原文はNatureサイトで閲覧可


ワトソンもクリックも次の本を読んだことが、生命を研究するきっかけとなったと語っているので、一度読んでみようと思う。

生命とは何か―物理的にみた生細胞 (岩波文庫)生命とは何か―物理的にみた生細胞 (岩波文庫)
著者:シュレーディンガー
販売元:岩波書店
発売日:2008-05-16
おすすめ度:5.0
クチコミを見る

ちなみにノーベル賞のサイトでは二重らせん構造のDNAを福岡さんがフォー・レター・ワードと表現するACGTでつくるゲームがあるので、一度見て欲しい。

ポスドク賛歌

この本ではこういった華やかな成果発表を支え、来る日も来る日も地道な実験を繰り返すポスドク(博士課程を卒業した研究者)やラボテクニシャン(補助研究者)の様々な試行錯誤にスポットライトを当てている。

福岡さん自身が米国のポスドク研究者だったので、ポスドクの役割である数々の下準備や、実験の工夫などがわかりやすく紹介されていて面白いストーリーとなっている。何人かの評者が「科学ミステリー」と呼ぶゆえんだ。

たとえば「内部の内部は外部だ」という題で、膵臓の細胞が消化酵素を分泌する動きが次の図で説明されている。非常にわかりやすい。

cell
















出典:本文200ページ

「サーファー・ゲッツ・ノーベルプライズ」も面白い。特定のDNAを増殖するPCR(ポリメラーゼ・チェイン・リアクション)マシンの発明をひらめいたサーファー科学者キャリー・マリスのことだ。

ポスドクのことを自虐も含めてラボ・スレイブと呼ぶそうだが、理系の学生にとって、この本は希望とやる気を与えてくれるだろう。

ポスドクは就職戦線では非常に厳しい状況にある。小宮山前東大総長の「東大のこと教えます」という本で、東大が就職部をつくったのは東大でも留学生やポスドクは就職が難しいからだと書いていたことを思い出す。

東大のこと、教えます―総長自ら語る!教育、経営、日本の未来…「課題解決一問一答」東大のこと、教えます―総長自ら語る!教育、経営、日本の未来…「課題解決一問一答」
著者:小宮山 宏
販売元:プレジデント社
発売日:2007-03
おすすめ度:4.5
クチコミを見る



動的平衡

動的平衡とは、体の細胞を構成するタンパク質・アミノ酸が数日間ですべて新しいものに置き換わることであり、それゆえ生命は動的平衡にある流れであると定義できるという。

マーカーで染色されたアミノ酸入りのえさを食べた大人のネズミを解剖して器官を調べたら、アミノ酸は体内のあらゆる細胞に行き渡っていた。生物のあらゆる細胞は短期間にすべて新しいものに置き換わるのだ。


生命は機械ではない

この本の最も印象的な実験が、GP2という細胞膜をつくるタンパク質を持たないGP2ノックアウトマウスを使った実験だ。

まずはGP2遺伝子を欠損させたES細胞(なんの器官にもなるオールマイティ細胞)をつくり、マウスの胚に流し込むと、ES細胞は胚の一部となり、やがてGP2遺伝子ノックアウトマウスが誕生する。

福岡さんははやる思いでGP2ノックアウトマウスの組織を調べたら細胞膜に異常はなく全く正常だったという。


生命には時間がある

次は狂牛病を引き起こすプリオンタンパク質をノックアウトしたマウスだ。

プリオンタンパク質の異常は狂牛病を引き起こすので、プリオンタンパク質ノックアウトマウスは狂牛病になると予想されたが、実際には正常だった。

それではということで、今度は遺伝子の1/3を欠損したプリオンタンパク質をプリオンタンパク質ノックアウトマウスにもどしたら、マウスは狂牛病を発症した。

GP2を完全にノックアウトしたマウスはGP2がなくとも正常に生き、遺伝子を部分的に欠損したノックアウトマウスは異常を発症した。

福岡さんはこの現象について、「生命には時間がある。その内部には常に不可逆的な時間の流れがあり、その流れに沿って折りたたまれ、一度、折りたたんだら二度と解くことができないものとして生物はある。」と語る。

GP2ノックアウトマウスは動的平衡のなかで、GP2遺伝子の欠損を見事に埋め合わせたが、あとから遺伝子の欠陥をつくると、生命の動的平衡は失われるのだ。


生物と無生物の境界はまだ解明されていないが、この本を読んで生物と無生物の境界がミステリー仕立てで、なんとなく理解できたような気がする。

科学書を読むと、いつも感じた読後不満足感がない。大学生の息子にも勧めた。小説のように一気に読めるので、是非一読をおすすめする。


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Posted by yaori at 15:22Comments(0) 自然科学 | 福岡伸一

2020年03月15日

再掲:プラチナデータ DNA捜査はこうなる

2020年3月15日再掲:
東野圭吾の「プラチナデータ」を再度読んでみた。最近のテレビのバラエティ番組で、米国のDNA比較サイトに登録されていたDNAデータを使って、犯人を割り出して、迷宮入りしていた事件を解決したことが紹介されていたので、まさにこの小説の予見していた状況が現実となりつつある。



犯人割り出しに使われたサイトはGEDmatchというサイトだ。無料サービスで、DNA分析サービスはやっておらず、他社で得たDNAデータをアップロードして、他の登録者の登録情報と比較できる

ニュースで報道されていた迷宮入りしかけたゴールデンステートキラーと呼ばれていた事件を解決したあと、DNA情報を警察が使用することの適法性が議論となり、現在は警察に提供することに事前に同意を得る「オプトイン」という形になっている。

130万人の登録者がいるが、そのうち「オプトイン」しているのは、20万人弱だという。

移民の国である米国は、系図づくりビジネスが盛んで、DNAを解析して祖先がどこから来たかを教えてくれるサイトも多い。

こういった系図づくりサイトの比較ブログもある。

系図サイトの一つのGeni.comは、1億4千万人の登録者がいるという。

geni.comサイト2
















日本でもDNA検査が比較的簡単にできるようになってきた。1万円程度で検査ができる



いまさら自分でやってみようという気にはならないが、興味のある人はやってみると面白いかもしれない。

2016年3月14日初掲:
プラチナデータ (幻冬舎文庫)
東野 圭吾
幻冬舎
2012-07-05


東野圭吾の近未来警察小説。

嵐の二宮和也主演で映画化されている。



この小説の中には年号は一切出てこない。

近未来の日本。

DNA検査が犯人特定に使われるようになる。「ビッグデータ」の犯罪捜査への活用だ。

映画の予告編では、日本国民すべてDNAデータを国が管理するとのキャプションが出ているが、話はそう簡単ではない。

日本の居住者全員からDNAを集めるのは不可能なので、近親者のDNAからも犯人を割り出せるシステムが天才数学者の手によって開発された。

DNAを肉親や親戚が登録したら、自分まで芋づる式に調べられる可能性が出てきたのだ。

これなら犯罪抑制の効果も期待できる。

というのは、もし親類や兄弟がDNAを登録していたら、悪いことをするとすぐに自分が割り出される恐れがあるからだ。

手法は異なるが、スピルバーグの映画「マイノリティレポート」の犯罪未然察知システムを想起させる。



「マイノリティレポート」は「未知との遭遇」と並んで筆者の最も好きなスピルバーグ映画だ。特に、ショッピングモールの虹彩を読んで個人を特定して、その人にあった広告を表示するショッピングモールの場面は興味深いので、よく話題にしている。



話が横道にそれたが、DNA検査の捜査利用は順調なスタートを切った。

採取した毛や体液などの分泌物のDNAを調べて、日本国民の膨大なデータとマッチングすれば、容疑者の身長、体重、身体的特徴、そしてモンタージュ写真まで作ることができるのだ。

まずは逮捕第一号。簡単なものだ。

「朝飯前」だ。

これなら刑事も多数リストラできる。

しかし、そのシステムには致命的な欠陥が……。

突然、なぜか警察庁が本腰を入れて乗り出してくる。

というようなストーリーだ。

今や邪魔者扱いされた豊川悦司が演じる警視庁の捜査一課刑事と、検査結果を解析する二宮和也演じる警察庁特殊解析研究所の主任解析員が主人公だ。

大変面白い。単行本だと430ページもの作品だが、時間を忘れて一気に読めてしまう。

是非一読をおすすめする。


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Posted by yaori at 21:42Comments(0) 小説 | 東野圭吾

2019年09月06日

弁護士の格差 かつてプラチナ資格とよばれていたのに

弁護士の格差 (朝日新書)
秋山謙一郎
朝日新聞出版
2018-01-12


筆者もかつて受験した司法試験。司法試験改革で、ロースクールが導入され、さらに合格者も筆者の受験した時代の年間500人以下から、1、500〜2,000人に増えている。

司法試験合格者数

















出典:Google画像検索

そもそも、弁護士の数は、増えたとはいえ全国に3万8千人、医師の31万人、歯科医師の10万4千人に比べて圧倒的に少ない。この希少性がこれまで「文系資格の最高峰」といわれてきたゆえんだ。

ところが、司法試験受験者は驚くほど減少している。受験者何万人というのは遠い昔で、今は年間5千人程度しか受験者がいない。筆者も今回Googleでデータを検索して驚かされた。

司法試験受験者数
















出典:Google画像検索

受験者がひところの10分の1近くに落ち込んでいるのだ。たしかに筆者の受験したころは、大学の法学部に在籍していれば、司法試験を受けるのは当然と思われていたので、筆者自身も含めて受かるだけの準備がないままに「記念受験」していた学生も多かったと思う。

法科大学院卒業者のみになって、「記念受験」がなくなり、本当に法曹職・弁護士になりたい人だけ司法試験を受けるようになっている。それ自体はいいことだが、毎年着実に増えていく弁護士の数に対して、民事も刑事も訴訟件数は減少している。家事だけは、離婚等が増えているせいか増加している。つまり需要が減って、供給が増えているのだ。

ちなみに、法科大学院は、法学部から進学だと2年で国立ならざっと450万円、私立で650万円程度、法学未修コースだと3年間なので、さらに1年分の学費がかかるという制度となっている。

訴訟件数推移














出典:Google画像検索

訴訟件数と弁護士数のグラフを掛け合わせると、訟件数は減少しているのに対して、弁護士数は着実に増えていることがわかる。

新受件数と弁護士数推移















出典:Google画像検索

その最大の理由は、過払い金返還訴訟数の減少だ。過払い金返還訴訟は2006年(平成18年)の最高裁判決で、利息制限法を超える金利は無効という判決が出てから急増した。

過払い金返還訴訟数推移
















出典:Google画像検索

もっと直近の推移をみると大変な減少だ。これは、最高裁判決が出たのが2006年なので、それから10年を経て、たとえ過払い金があっても、返還請求の時効が成立して訴えられなくなっていることも影響していると思われる。たとえばネットで検索してヒットした司法書士事務所がアコム発表として公表している最近の過払い金請求訴訟数は次の通りだ。

アコム過払い金返還訴訟推移





















出典:司法書士あいきんくんの過払い金請求ナビ

過払い金請求は法律が変わって、少額訴訟なら司法書士も手掛けることができる。そのため、過払い金訴訟が減って、影響を受けるのは弁護士だけではないが、それにしても母数がこれだけ減少しては、関係者全部が打撃を受ける。

この本の著者のフリージャーナリストの秋山さんは、”かつて「プラチナ資格」と呼ばれたのも今は昔、近頃では口さがない向きから「資格取得までの苦労が多い割に経済的に報われない資格の筆頭」とまで言われる始末だ”と語っている。

以上のグラフで大体、現在の弁護士が置かれている立場が分かると思うが、それだけではあらすじにならないので、簡単にこの本のあらすじや印象に残ったことを紹介しておこう。

この本の最初にアディーレ事件が取り上げられている。アディーレの元代表の石丸幸人さんは、弁護士になる前に飲酒運転で逮捕され、執行猶予付きの有罪判決をうけたあと、一念発起して弁護士を目指し29歳で合格する。そして弁護士業をビジネスと考え、マーケティングという考えを導入し、「債務整理」に特化した弁護士事務所を2004年に開業する。

テレビCMまで打って過払い金返還訴訟の波に乗り、2006年の最高裁判決がでたあとは、一時はスタッフ300名を抱える大規模事務所へと成長し、石丸さん自身も年俸5,000万円を超えていることを公言した。次のようなテレビCMを見た人も多いと思う。



現在は過払い金返還は減少の一途なので、B型肝炎の給付金請求等にシフトしているようだ。



そして2017年秋「アディーレ事件」が起こる。広告の景品表示法違反に問われ、東京弁護士会よりアディーレに業務停止2ケ月の処分が下された。このあたりを解説している弁護士のユーチューバーがいるので、それを紹介しておこう。



アディーレ事件や石丸元代表の前歴については、ネットでも記事になっている

これまでは弁護士は司法研修所を卒業すると、法律事務所の正社員「イソ弁」=居候弁護士になるというパターンが中心だった。しかし、弁護士余りの時代となってからは、正社員として就職できず、サラリー無しの完全歩合制の契約社員で法律事務所の看板(軒先)を借りる「ノキ弁」、はたまた、どこにも就職できずに、即独立する「ソクドク」が増えつつある。

数は少ないが、安定した就職先として企業内弁護士、「法テラス」に勤務する「スタ弁」=スタッフ弁護士もある。

弁護士業界での経済格差が問題になってきているのだ。

弁護士の年間所得の中央値は400万円だという。食べていけないということで、弁護士バッジを返上するものも増えているという。ちなみに直近の日本の世帯当たりの平均所得は平均661万円(高齢者世帯、母子世帯除く)で、次の様になっている。

世帯当たり所得金額





























出典:Google画像検索(ガベージニュース

某ベテラン弁護士の例がこの本では紹介されている。2016年度の売上は1,600万円。これから500万円の広告費用・HP費用、コールセンター費用80万円、事務所家賃700万円、弁護士会会費が60万円、税金や国民健康保険料などを引くと所得は200万円にも満たない。

この人は他に相続ざいさんや不動産収入があるということなので、代表例にはならないかもしれない。特に広告宣伝費用500万円というのは、普通はそこまで費用をかけないと思うので、売上1600万円なら、広告費用を外した700万円くらいが一般的な所得だろう。

そうなると上記の日本の世帯平均とあまり変わりなくなってくる。

弁護士である以上、込み入った話を毎回ファミレスで聞くというわけにもいかず、事務所を開設しなければならないところが費用が嵩んで、収入はそこそこあっても所得が低くなる原因なのだろう。

刑事事件では検事をやめた「ヤメ検」弁護士が活躍する機会もあるが、件数が少なく、刑事のみではやっていけない。また国選弁護人の報酬は1回8万円ほどのみだ。全く儲かる話ではない。

弁護士の数が増えるに従って、どうやって差別化するかも重要になってくる。筆者の知人で、弁護士でありながら、プライバシーマーク審査員となっている人もいて、個人情報保護を専門性としている。ぜひ頑張って続けて欲しいものだ。

弁護士で専門性を謳うことができるのが、「知的財産・特許」、「医療問題」、「税務」の3分野だという。医師で弁護士とか、ダブル資格を持つ弁護士も珍しくなくなってきているようだ。ちなみにアディーレの元代表の石丸さんは、医学部受験めざして勉強中とのことである。

この本では弁護士費用の格差も取り上げている。最初の30分の相談料は無料というところが増えてきているが、基本は相談料は30分ごとに5,000円で、どこでもあまり変わらない。

ところが、着手金、成功報酬は弁護士の種類によってかなり異なる。この本では離婚訴訟を例に、ヒアリングした結果を次の様にまとめている:

★「街弁」(=普通の開業弁護士)着手金30万円、成功報酬50万円。調停が不調だと訴訟となり、追加着手金15〜20万円、印紙・切手代等の実費が2〜4万円。つまりコミコミの費用プランだ。

★「新興法律事務所」着手金20万円。成功報酬30万円。調停同席1回5万円。訴訟の場合の追加加算金15万円、弁護士出廷は1回3万円。つまり基本料金+毎回のフィーというプランで、回数が多くなると一番高くつく。

★「格安弁護士」着手金20〜30万円、成功報酬は原告だと慰謝料額、被告だと慰謝料減額の20%。こちらはたしかに格安というだけある。

長年文系学部のトップとされてきた東大法学部(文1)の合格最低点が、2019年に初めて経済学部(文2)を下回ったことがニュースになった。法曹職、弁護士の人気低下という世情を反映して受験生の人気が落ちてきているのだと思う。

弁護士業界の実態がわかって参考になる本だった。これからも弁護士業界は、勝ち組と負け組が混在する玉石混交の業界となっていくだろう。

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Posted by yaori at 22:10Comments(0) 趣味・生活に役立つ情報 

2019年09月03日

明治を食いつくした男 大倉喜八郎 大倉財閥の創始者



大成建設帝国ホテルサッポロビールリーガルコーポレーションなどを設立した大倉グループの創始者の大倉喜八郎の伝記。

今度1万円札の肖像となる渋沢栄一と同時代で、一緒に鹿鳴館東京電力帝国ホテル帝国劇場東京商工会議所などの設立に貢献して、日本の産業振興に貢献したが、知名度はあまりない。

大倉喜八郎と渋沢栄一 (2)

























出典:本書P5

「明治を食いつくした」というタイトルがついているが、別に明治政府に癒着して甘い汁を吸ったなどというようなことはないので、なぜこんなタイトルがついているのかわからない。

大倉喜八郎は、明治維新前に新潟県の新発田市で生まれ、上京して鰹節屋の丁稚となり、すぐに独立して乾物屋、それから武器商人となり、31歳で明治維新を迎える。

これからは平和が時代が来ると先読みして、武器商人としての限界を感じた喜八郎は、1872年に民間人初の長期欧米視察旅行に出る。

このときに欧米を視察していた岩倉使節団と一緒になり、木戸孝允大久保利通岩倉具視伊藤博文らと知り合う。

帝国大学初代総長の渡辺洪基とも、この時に知り合った。のちに渡辺は帝大総長退任後、喜八郎が設立した大倉商業学校東京経済大学の前身)の校長に就任した。

1873年に岩倉視察団が帰国、喜八郎も帰国して、すぐに大倉組商会を設立し、翌1874年に日本企業で初めてロンドンに海外支店を設立する。商社としては、三井物産、伊藤忠商事、三菱商事などとほぼ同じ時期の創立だ。ちなみに、住友商事は今年100周年なので、ずっと後発となる。

大倉組はその後、貿易、建設、ビール、皮革製造、化学工業など多角的に事業活動を拡大した。

帝国ホテルは、日本を代表するホテル建設の必要性を感じた大倉喜八郎が渋沢と二人で総代となって1890年に開業した。筆頭株主は宮内省、建設は大倉土木が共同で請け負った。初代理事長は渋沢、渋沢の後を喜八郎が引継ぎ、1922年に息子の喜七郎が引継ぎ、財閥解体で大倉家から離れた。

旧帝国ホテルの売り物は、フランク・ロイド・ライトが設計したライト館だ。ライト館は改築の際に明治村に移設されている。

Imperial_Hotel_Wright_House















出典:Wikipedia

ライト館は1919年に建設工事が始まったが、完璧主義者のライトは石材から調度品の木材の選定に至るまでこだわり、予算が当初の150万円から900万円にふくれあがった。ライトは完成を見ずに帰国、1923年7月にやっと完成した。

直後の1923年9月に関東大震災が起こり、付近の多くの建物は軒並み倒壊や火災が発生したが、ライト館は小規模被害しかなく、帰国していたライトを狂喜させたという。

筆者は米国のピッツバーグに駐在していたので、ピッツバーグ郊外にあるライトの代表作のFalling Water(富豪のカウフマン家の別荘だった)は何度も見学した。

Wrightfallingwater











































出典:Wikipedia

別荘の中を小川が流れ、小さな滝もある。ライトはそこの家具の材質まで指定していたと言っていた。どこでも同じく完璧性を追求していたのだ。

ちなみに帝国ホテルのパンは、ハルピンのグランドホテルに宿泊した喜八郎が、パンのおいしさに驚き、そのパンをつくったアルメニア人イワン・サゴヤンを迎え入れてパンの品質を向上させたのだという。

この本では明治時代に活躍した実業家も、大倉喜八郎として対比して紹介している。明治30年(1897年)の所得税調査では、次のような納税額となっている。三菱財閥の創始者の岩崎弥太郎は1885年に亡くなっているが、依然として三菱財閥が他を圧倒していたことがわかる。

岩崎弥之助(三菱財閥2代目当主) 92万円
岩崎久弥(三菱財閥3代目当主)  15万円
三井源右衛門            8万円
三井武乃助             8万円
渋沢栄一郎             8万円
三井三郎助             7万円
大倉喜八郎(19番目)       5万4千円

安田財閥の創始者で東大の安田講堂に名を遺す安田善次郎と大倉喜八郎は、明治維新時に30歳前後で、ほぼ同じ年齢だ。岩崎弥太郎は明治維新時に34歳だった。

大倉喜八郎は台湾、朝鮮、満州で積極的に事業を拡大し、旧満州の本渓市に本渓湖炭田を開発したり、今も残る本渓鋼鉄を設立したり積極的に活動していたが、敗戦ですべての海外資産を失っている。

台湾での殖産興業のために、大倉喜八郎が当時の台湾総督の乃木希典を訪問しようとしたら、乃木は「本官は商人との直接の交渉は望まぬ。止むを得ざる場合は5分間を限り面会することにしている」という直立不動の姿勢だったことを紹介している。

その後乃木が児玉源太郎総督に交代し、その民生長官として着任した後藤新平が手腕をふるって、大倉財閥の台湾の事業も拡大した。

喜七郎は帝国ホテルの会長だったが、戦後公職追放にあい、持ち株も売却を迫られたので、帝国ホテルの経営権を失い、代わりに1958年に設立、1962年に開業したのがホテルオークラだ。

ホテルオークラ本館は現在建て替え中で、2019年9月12日の開業予定だ。現在休館中の大倉集古館も近々再開されるのだろう。

ゴルフ場があるリゾートホテルとして有名な川奈ホテル、冬は営業しない上高地帝国ホテルも喜七郎が建設したホテルだ。

大倉財閥は敗戦で資産を失い、また戦後の財閥解体で大倉財閥は解体され、その後も財閥としてはまとまりはなく、多くは安田財閥の系譜を組む富士銀行(現みずほ銀行)の芙蓉グループに統合されるような形となった。

大倉組商会の系譜を汲む大倉商事は1998年に不動産投資の失敗により自己破産している。筆者は入社後の鉄鋼原料の担当だった時代に、銀座にあった大倉商事を訪問したことがある。

たぶん昔からの商権だったのだと思うが、大倉商事がインドの鉄マンガン鉱石の日本の鉄鋼メーカー向け輸入の幹事商社だったので、事務的な打ち合わせのために訪問したのだ。銀座の一等地にオフィスを構えていることが印象的だった。

今は大倉グループとして活動しているわけではないので、あまり目立たないが、上記の様に様々な分野で活躍していたことがわかって参考になった。


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Posted by yaori at 06:00Comments(0) 自叙伝・人物伝 | 趣味・生活に役立つ情報

2019年08月31日

ヒトはなぜ人生の3分の1も眠るのか?睡眠研究の先駆者デメント氏の本

ヒトはなぜ人生の3分の1も眠るのか?
ウィリアム.C・デメント
講談社
2002-07-25


NHKの「睡眠負債」で紹介されていたので読んでみた。

睡眠負債 『ちょっと寝不足』が命を縮める (朝日新書)
NHKスペシャル取材班
朝日新聞出版
2018-04-13


著者はレム睡眠の発見者の一人で、スタンフォード大学睡眠医学研究所初代所長のデメントさんだ。「睡眠負債 Sleep debt」という概念の提唱者だ。

デメントさんは1990年に米国議会の睡眠障害に関する委員会の委員長となり、睡眠障害が数百億ドルの国家的損失につながっているという報告書をまとめている。

睡眠不足が招いた重大な事故の一つが、1989年の「エクソン・バルディーズ」の座礁による原油大量流出事故だ。この原因は船長の飲酒と当初報告されたが、その後三等航海士が2日間で6時間しか眠っておらず、極端な寝不足で操船ミスを起こしたことが明らかになった。

睡眠不足による自動車事故などは、ほぼ毎日のように起こっている。特にアルコールは睡眠負債と結びつくと強烈な眠気を引き起こす。飲酒運転が原因とされる事故の多くは、実は睡眠負債が影の主役を務めているのだと。

この本では、1952年にデメントさんがシカゴ大学メディカルスクール2年目で睡眠研究の第一人者のクライトマン教授の研究室で、REM睡眠の発見者とされるアゼンリンスキーの助手をしていた時の、REM睡眠観察についても紹介されている。

フロイトの「夢判断」を読んでいたデメントさんは、元々はREM睡眠と夢の関係を立証したかったのだという。



スタンフォード大学に移って、1971年にデメントさんはスタンフォードでフェローシップ滞在経験を持つ神経科医のフランスのギルミノー博士をスタンフォードに招聘した。

ギルミノー教授は睡眠時無呼吸症候群の権威として、スタンフォード大学が睡眠研究で世界的地位を築くのに貢献した。ちなみにギルミノー教授は、今年2019年に亡くなったばかりだ

「スタンフォード式最高の睡眠」の著者の西野精治教授の恩師だ



この本では、睡眠に関する世界的な権威だけあって、医学的な見地からの情報が多く報告されている。

特に恐ろしいのは、睡眠時無呼吸症候群などによる病的な睡眠不良だ。これについては、この本では一つの章で取り上げている。寝ている間にイビキをかくとか、呼吸が止まっていることは自分では気づかないので、最悪の場合突然死することもある。「隠れた殺し屋」だと。

この本では治療法として、酸素呼吸器のようなCPAP(continuous positive airway pressure)やマウスピースを用いる方法が紹介されている。

220px-CPAP













出典:Wikipedia

外科的試みで、この本で紹介されているのは、舌を動かす筋肉を前方に出して、戻らないよう90度ねじってから固定するという手術と、新技術として数分で終わるという高周波焼き切り法が紹介されている。

ここで注意が必要なのは、原著が書かれたのは1999年で、20年前の本なので、医療法も現在とは異なっていることだ。

この本の「訳者あとがきに代えて」でさえ、「本書には気管切開も紹介されているが、この治療法は患者のクオリティオブライフが大きく損なわれるため、現在はほとんど行われていないという」と付け加えている。

訳注でも紹介すべき点ではないかと思われる。

この本では、罹患率がカナダのケベック州で14%、米国では5%と発表されている「むずむず脚症候群」や、夜驚症などについても紹介している。

筆者は子供の時に夜驚症だった。デメントさんの娘さんも夜驚症で、自分もうろたえたという。

動物の睡眠、イルカの脳は2時間おきに左右交代で眠るとか、理想の覚せい剤となる可能性のあるモダフィニルなどについても紹介している。

終章の「今夜から始めよう!三週間の眠り改善プログラム」では、眠る環境、光、カフェイン、アルコール、運動、仮眠、仕事について考えることやメール対応などを網羅したプログラムを紹介していて、自分の睡眠のチェックに役立つだろう。


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Posted by yaori at 12:41Comments(0) 趣味・生活に役立つ情報 | 睡眠

スリープ・リボリューション 眠りについて総合的に見直す本



NHKスペシャルで放送された「睡眠負債」に紹介されていたので読んでみた。著者は、ハフィントンポストの創設者のアリアナ・ハフィントンさんだ。
睡眠負債 『ちょっと寝不足』が命を縮める (朝日新書)
NHKスペシャル取材班
朝日新聞出版
2018-04-13


この本は本文約370ページ、付録として「睡眠チェックリスト」、「寝つきを良くし、夜中に目覚めないための瞑想ガイド」、「ホテルの睡眠革命」、「マットレスを見直す」がついている。約50ページの原注もあり、詳細に論拠が示されている。

原著に関するウェブサイトも開設しており、英語だが、参考になる情報が掲載されている。

たとえば上記ウェブサイトの「Guided Meditation download」をクリックすると、アリアナさんの妹のアガピ・スタシノポロスさんの瞑想ガイドが聞ける。

米国でベストセラーになった本なので、いろいろなメディアが紹介している。



NHKの本は番組の取材が中心なので、焦点を絞っているが、この本は次の目次でもわかる通り、睡眠に関して多角的に研究した本だ。

第1章 睡眠危機の時代
第2章 睡眠産業
第3章 歴史に見る睡眠
第4章 睡眠の科学
第5章 睡眠障害
第6章 夢
第7章 眠り方をマスターする
第8章 ベッドの人口問題
第9章 すべきこと、すべきでないこと
第10章 仮眠、時差、時差ぼけ
第11章 睡眠と職場
第12章 見直される睡眠パワー
第13章 記録を伸ばす、スポーツ界の究極の睡眠法
第14章 テクノロジーとの付き合い方(深入り禁止)

一般的に睡眠は一晩に7時間以上取るべきとされているが、米国では3人に一人が平日に十分な睡眠をとれていない。

リストバンド型の活動量計を製造しているジョウボーンは、睡眠が少ない都市のランキングを公表しているという。それによると東京が世界で一番一晩当たりの睡眠が少ないという次のような結果となっている。
東京 5時間45分
ソウル 6時間3分
ドバイ 6時間13分
シンガポール 6時間27分
香港 6時間29分
ラスベガス 6時間32分

筆者の睡眠時間に近い結果で、たぶん実態はこんなものだろう。




筆者は以前アルゼンチンに2年間研修生として住んでいたが、アルゼンチン人は超夜型だ。レストランが開店するのが夜8時〜9時、一番混むのが10時〜13時頃というのが普通だ。

当時は、アルゼンチン人はいつ寝ているのだろうと不思議に思っていたが、睡眠時間データからすると、どうやら日本人の方が夜型のようだ。

なにげなくハフィントンさんの本を読んでいたら、夢のところで、長年気になっていた曲が偶然紹介されていた。ロマンティクスの1983年の"Talking in your sleep"という曲だ。



昔、テレビ(ベストヒットUSA?)で小林克也さんが「デトロイト出身の4人組」と紹介したことが記憶にあり、曲のメロディーも覚えているのだが、バンドの名前と曲のタイトルが長年わからなかった。夢で出会えたようなものだ。

ハフィントンさんの本では、働きすぎが戦後アメリカの最も危険なステータス・シンボルとして紹介されている。

たとえばウォルマートのサム・ウォルトンは、土曜日の朝の会議のために、土曜日は2時か3時にオフィスに行って、その週の数値にくまなく目を通すと自伝に書いている。



日本の「サラリーマン」も成功のために睡眠を擬制にしている悲劇的な例として紹介されている。

睡眠では4つのステージがあることがわかっている。

ステージ1は浅い眠り、容易に目覚めることができる。目や筋肉も動いている。
ステージ2はもう少し深い眠りで、眼球と深部体温も下がる。
ステージ3は最も深い眠りで、目も筋肉も動かない。
ステージ4がいわゆるレム(REM)睡眠で、入眠から約1.5時間後に始まる。急速な眼球運動(Rapid Eye Movement=REM)が見られ、血圧と心拍数が上昇し、筋肉はマヒしたような状態になる。

ハフィントンさんは、レム睡眠の発見者の一人で、スタンフォード大学睡眠医学研究所初代所長のデメント氏のたとえを紹介している。

「レム睡眠が発見されるまで、睡眠は車をガレージに入れてエンジンを切るようなものだと考えられていた。動かないし、ガソリンも減らない。でも実は睡眠は、車を止めてギアをニュートラルにしておくに近い。エンジンは回り続けているんだ」。

大学の睡眠革命として、ミシガン大学などが図書館の仮眠室に設置したメトロナップ社のエナジーポッドという仮眠リクライニングチェアを紹介している。



よくここまで情報を集めたと思う。睡眠に関する情報満載の本だ。睡眠に関して一冊だけ読むなら、この本をお勧めする。


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Posted by yaori at 09:32Comments(0) 趣味・生活に役立つ情報 | 睡眠

2019年08月26日

睡眠負債 どれだけ、どう睡眠をとればいいのか

筆者注:マリアナ・ハフィントンさんの本とデメントさんの本のあらすじを別途掲載したので、あらすじを再掲する。

睡眠負債 『ちょっと寝不足』が命を縮める (朝日新書)
NHKスペシャル取材班
朝日新聞出版
2018-04-13



NHKスペシャルで取り上げられた「睡眠負債」の取材結果を本にしたもの。テレビ番組ではとりあげられなかった事柄も豊富に取り上げている。

睡眠負債が毎日積みあがると、土日に寝た程度では解消できず、仕事や家事など生活の質を下げるだけでなく、重大事故の原因となったり、がんやアルツハイマー病といった命にかかわる病気のリスクを高めたりすることもある。

放送された内容は、「放送した内容・リスク☑結果」というページにまとめられているので、こちらも参照願いたい。

筆者は平日は大体寝るのは1時前後で、起きるのは6時〜7時の間だ。午前中にアポイントがあるときは6時台、アポイントがないときは7時頃にしている。つまり、大体毎日5〜6時間の睡眠時間だ。

会社員だった2年前までは、6時台のロマンスカーで通勤していたので、平日の睡眠時間は、ほぼコンスタントに5時間以下だった(ロマンスカーでも30分弱は寝ていたが…)。そして、土日は大体午後に2時間程度昼寝することが多かった。

伝説上の話かもしれないが、ナポレオンやエジソンは4時間しか眠らなかったといわれているので、筆者も平日は5時間程度の睡眠と土日の昼寝でやっていけると思っていた。

以前よりは睡眠時間は若干長くなっているが、今の方が午後眠くなることが多い。一つには、会社員だったころは、ほぼ毎日1万歩程度歩いていたが、今は多くても6千歩程度だ。たぶん1万歩毎日歩くことで、適当に疲れてよく眠れていたのだろう。

今は、土日に「寝だめ」しても、到底解消はできず、これが「睡眠負債」となっていた。そんなわけで、睡眠のとり方を見直すためにこの本を読んでみた。

NHKスペシャルでは、芸人の陣内智則が出ていて「結局、何時間というのを教えてもろてええですか?」と単刀直入に聞いたのに対して、睡眠評価研究機構の白川代表は「基本的に7時間前後なんですよ。これが一番健康被害がない、あるいは死亡率が下がる時間なんですね。7時間から8時間です」と答えている。

この本で紹介されている細かい議論を踏まえた上での発言だ。

この本が契機となって、睡眠に関する他の本も読んでみた。ハフィントンポストの創設者のアリアナ・ハフィントンさんの「スリープ・リボリューション」のあらすじは別途取り上げているので、そちらを参照していただきたい。




睡眠では4つのステージがあることがわかっている。
ステージ1は浅い眠り、容易に目覚めることができる。目や筋肉も動いている。
ステージ2はもう少し深い眠りで、眼球と深部体温も下がる。
ステージ3は最も深い眠りで、目も筋肉も動かない。
ステージ4がいわゆるレム(REM)睡眠で、入眠から約1.5時間後に始まる。急速な眼球運動(Rapid Eye Movement=REM)が見られ、血圧と心拍数が上昇し、筋肉はマヒしたような状態になる。

この本が紹介しているもう一冊の本が、「ヒトはなぜ人生の3分の1も眠るのか?」で、著者はレム睡眠の発見者の一人で、スタンフォード大学睡眠医学研究所初代所長のデメント氏だ。デメント氏が「睡眠負債 Sleep debt」という概念の提唱者だ。

デメント氏は、REM睡眠を次の様に表現している。

「レム睡眠が発見されるまで、睡眠は車をガレージに入れてエンジンを切るようなものだと考えられていた。動かないし、ガソリンも減らない。でも実は睡眠は、車を止めてギアをニュートラルにしておくに近い。エンジンは回り続けているんだ」。

ヒトはなぜ人生の3分の1も眠るのか?
ウィリアム.C・デメント
講談社
2002-07-25


デメント氏の本はさすがに睡眠に関する世界的な権威なので、医学的な見地からの情報が多く報告されているが、原著が書かれたのは1999年で、20年前の本なので、医療法も現在とは異なっているので、別途あらすじを紹介する

この本では、「睡眠負債」ががんを含む腫瘍の成長が早くなり、重大な結果をもたらすというシカゴ大学の研究者のインタビューも紹介している。

睡眠の質・量が不足すると、がんを殺すはずのM1マクロファージが、がんの仲間のM2マクロファージになってしまうのだと。

睡眠負債による注意力、運動能力の低下が重大な事故等を招く危険性があるので、厚生労働省では「勤務時間インターバル」の導入を企業に勧めている。つまり、勤務終了後に一定時間以上の「休息時間」を設けることで、働く人の生活時間や睡眠時間を確保するものだ。

残業などで勤務が延びた場合には、翌日の出社時間を繰り下げるといったものだ。

EUは1993年に11時間のインターバルを企業に義務付けるように求めている。

「ベッドで眠れなくとも、目を閉じていれば眠っているのと同じ効果がある」という俗説は、明らかに否定されている。横になっているだけでは、睡眠状態でなく、覚醒状態であり脳は疲労する。

寝だめも「ダメ」だ。平日にマイナス2時間だと、土日で2X5日=10時間余計に、つまり合計20時間寝なければならないが、そんなことはできないだろう。

寝る時間を1時間早くして、起きる時間を1時間遅くするのが専門家のアドバイスだという。できるかな?筆者は自信がないが…。

「すみやかに寝るための10カ条」は次の通りだ。
1.午前中に日の光を浴びよ
2.食事の時間は一定にせよ
3.運動は夕方に。散歩もよし
4.カフェインは寝る3時間前まで
5.酒は寝る3時間前まで
6.寝る2時間まえより強い光を避けよ
7.風呂は寝る30分前に
8.寝室は18度〜26度に保つべし
9.布団でのスマホ・ゲームは御法度
10.寝なきゃとあせるべからず

この本の最後の60ページほどは、全部で76問のQ&Aに充てており、このQ&Aも参考になる。パラパラと本屋で、ページをめくって興味あるところを読めば参考になると思う。いくつか紹介しておくと:

電車や車の中での仮眠では、睡眠負債は補えないが、脳をリフレッシュさせる一過性の効果はある。一方、昼寝は夕方に近くなると夜の睡眠時間に影響してしまう恐れがあるが、午後1〜3時くらいの間の昼寝なら睡眠時間を補完する効果がある。

二度寝は気持ちがいいが、睡眠のリズムを整えるという意味では逆効果だ。一回体温が下がってしまうので、睡眠から覚醒への切り替えが悪くなる。朝、目が覚めてしまったら起きてしまって、昼寝をする方がましだと。

睡眠の質は時間とは直接的な関係はない。睡眠が短くても大丈夫な人はわずか0.5%(ショートスリーパーの率)であり、大多数の人は最低6時間、できれば7時間必要で、睡眠の質がよくても、時間が短ければ睡眠負債は溜まる。

酒は睡眠には逆効果なので、飲みすぎると睡眠の質が悪くなり、微量だと興奮性の作用があるので、寝つきが悪くなる。寝つきが悪い人は、寝る前に体温を上げる軽いストレッチなどを5分程度やるとよい。

人によるが、カフェインは就寝前3〜4時間は控えた方がよいという。

筆者はカフェインについて、全く誤解していた可能性がある。この本は気づきを与えてくれたので、大変有益だった。

実は筆者は、夜12時頃までコーヒーを飲んでいても問題なく眠れるので、カフェインには影響を受けない体質だと思っていた。しかし、この本やハフィントンさんの本、デメント氏の本など、睡眠に関する本を何冊か読んでみると、違う見方もあるように思えてきた。

つまり、毎晩1時前後まで起きていられるのはカフェインで刺激し続けているせいで、それでも1時頃が限度なので、限界をすぎると「バタンキュー」となって、よく眠れるのではないかと思えてきた。

カフェインのせいか、途中でトイレのために起きることもあり、睡眠を中断されることがしばしばある。睡眠の質確保という意味でも、カフェインについては気を付けた方がよさそうだ。

基礎代謝と睡眠は関係しており、筋肉量が減ると睡眠時間が減る。だから、高齢者の睡眠時間は若い時に比べて短くなるのだ。

たしかに、筆者は最近トレーニング回数を増やして、週3回トレーニングしている。トレーニングした日は、筋肉疲労があるので、寝つきもよい。睡眠中に成長ホルモンが分泌されるので、一流アスリートは良い睡眠を重視しているという。

トレーニングは、単に体力維持・向上のみではなく、睡眠にも良い効果を与えるのだ。

この本と、上記に紹介している睡眠に関する本を読んで、これまで睡眠時間を短くすることが、生産的活動に充てる時間を増やすことだと思ってきたが、これが大変危険な考えであることがわかった。

寝る直前のメール対応も、寝つきが悪い原因となる。

これからは睡眠時間を削ってまで仕事や書き物をすることはしないようにし、もし睡眠時間を削った場合には、昼寝等で取り返す習慣をつけようと思う。

気づきを与えてくれるという意味で、大変参考になる本である。

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2019年08月12日

君たちはどう生きるか 1937年の作品が今よみがえる

君たちはどう生きるか (岩波文庫)
吉野 源三郎
岩波書店
1982-11-16


戦前、1937年=昭和12年に発刊された本が、平成〜令和の時代にベストセラーとしてよみがえった。この本の漫画版もよく売れているようだ。



岩波文庫版を読んでみた。

旧制中学2年生のコペル君が主人公だ。コペル君のお父さんは、大銀行の重役だったが、2年前に亡くなったという設定だ。お母さんの実の弟で、大学の法学部を卒業して間もない叔父さんが、コペル君の家にちょくちょくきて、コペル君にいろいろ教えてくれる。この本はコペル君と叔父さんの会話と、手紙のやり取りが物語の中心となっている。

学校生活での出来事、たとえば、商売人(豆腐屋)の子どもに対するいじめや、それに義憤を感じて立ち上がる仲間、上級生のいじめに立ち向かう仲間と、意気地なしで逃避してしまい、後悔にさいなまれて学校を休んでしまうコペル君などを描いている。

旧制中学といえば、昔はエリートコースだ。一般の人は高等小学校を卒業して就職するところを、旧制中学出身者は、旧制高校、大学と進学する人が多かった。だから、商売人の子どもに対する嫌がらせというのもあったのかもしれない。

筆者の出身の神奈川県の湘南高校も、昔は湘南中学だった。新制高校となってすぐの1949年(昭和24年)に夏の甲子園で野球部が全国優勝している。

学校生活や、なにげない普通の暮らしで感じたコペル君の感想や質問に対して、叔父さんが詳しく説明してくれるという展開だ。

銀座のデパートの屋上(屋上でも7階しかないというのがいかにも時代を感じさせる)から見た人や車の動き、それと粉ミルクや羊毛がオーストラリアから日本に来て、その間に多くの人が携わっている話(マルクス経済学では「生産関係」という)、ニュートンがリンゴが木から落ちるのを見て、空にある月が落ちてこないことに思いをはせ、万有引力の法則を思い立った話などを取り上げている。

資産家の息子の友達の家を訪問して、友達のお姉さんからナポレオンの話を聞いたという設定で、ナポレオンの代表的な勝利である1809年のワグラムの戦いと、これまたナポレオンの代表的な敗北である1813年から1814年のフランス対全欧州の戦争を紹介している。

1814年の進軍としてこの本で紹介されている絵は次のものだ。

Meissonier_-_1814,_Campagne_de_France

















出典:Wikipedia

偉大な人間とはどんな人か、ということで、この本では詳しくナポレオンを取り上げている。Youtubeでも1993年のテレビ番組が公開されているので、時間のある人はこれを見ると参考になると思う。



岩波新書でもナポレオンについての本がある。割合最近の2018年発刊の本なので、筆者はこれを読んでみる。




最後にこの本では、仏像はギリシャ人がはじめてつくったという話を紹介している。




コペル君の亡くなったお父さんの「人間として立派な人間になってもらいたい」という言葉が随所に出てきて、面白い読み物ながらも、全体として修身(道徳)の本となっている。

簡単に読めて、ためになるベストセラーである。

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2019年07月20日

筋肉の栄養学 トレーニングをしている人におすすめの本



管理栄養士として、2004年のアテネオリンピックでは、女子バレーボールチームや水泳選手、2008年の北京オリンピックでは、男子バレーボールチームをサポートし、数々の有名アスリートを指導してきた実績を持つ川端理香さんの本。

筆者はON/OFFの時期はあったが、1970年頃(高校2年生から)ウェイトトレーニングを続けている。トレーニングと休養・栄養補給が表裏一体なことは、十分理解しているつもりだったが、この本は発見が多かった。自分の栄養に関する知識が古いこともわかって、大変参考になった。



「筋肉は裏切らない」というキャッチフレーズのNHKの筋肉体操が有名になって、出演しているタレントの武田真治さんがCMに頻出したりして、トレーニングに対する世間一般の関心が上がっている。

以前紹介した「筋肉博士」石井東大教授の「一生太らない体のつくり方」にもある通り、筋肉をつけて基礎代謝を上げれば、太りにくい体質とできるし、筋力を維持すれば、自分の足で歩いて行動する健康寿命を延ばすことにもつながる。

一生太らない体のつくり方
石井 直方
エクスナレッジ
2008-01-17



しかし、筋肉をつけたいので、サラダチキンや卵の白身ばかり食べていては逆効果だという。筋肉はタンパク質のみでできているわけではない。トレーニングは筋肉を壊すことなので、筋肉を合成させるには、タンパク質のみではなく、ほかの栄養素も摂る必要がある。

この本で紹介されているタンパク質の合成と分解の図は次の通りだ。

タンパク質の合成と分解













































出典:本書48ページ

タンパク質の摂りすぎは、窒素が増え、便が臭くなり、腎臓に負担がかかる。

タンパク質を多く摂った場合には、腸の状態をよくするために食物繊維を増やすことが欠かせない。川端さんは、「戦略的な食事を」と呼びかける。

筆者の場合は、毎朝朝食はシリアルにしている。それも、「オールブラン」を中心としたシリアルだだ。「オールブラン」は食物繊維が20%以上含まれており、非常に効率よく食物繊維が摂れるシリアルだ。同じ様に見えるが、「ブランフレーク」は、そこまで食物繊維は含まれていないので、要注意だ。




納豆も効果が大きい。納豆は納豆菌の働きでビタミン量が増え、腸内環境をよくすることで、栄養素の吸収を高めたり、便秘の予防にもなる。川端さんは納豆に鰹節をかけて食べることを勧めている。タンパク質を上手に筋肉にするための組み合わせだと。

タンパク質は20種類のアミノ酸からつくられ、そのうち8種類が必須アミノ酸だ。これは体内でつくることができないため食事で摂る必要がある。

筋タンパク質の合成を促すのは必須アミノ酸で、必須アミノ酸が1種類でも足りないと、筋肉は合成できない。特にBCAA、とりわけロイシンは単体でも筋タンパクの合成を急激に増加させる。BCAAは集中力を高める効果もあり、トレーニングの効率を高めるという。

筆者は、味の素のアミノバイタルを時々飲んでいるが、一袋5グラム程度の少量なので、これまで、あまり意識して飲んでいなかった。アミノバイタルは、顆粒で水なしでも簡単に飲める。これからは、トレーニングの前後に摂取してみる。




HMBはロイシン代謝物で、HMBサプリメントなどはロイシンが筋肉や肝臓で代謝された状態で摂ることで、筋肉の分解を抑えて、合成を高める効果がある。




筆者の知識が間違っていたのは次の点だ。

以前は筋肉をつくるには肉を食べるのが良いとされていたが、1985年に見直され、現在では大豆などの豆類もアミノ酸スコアで100点で、タンパク質消化吸収率補正アミノ酸スコアでは、むしろ大豆のほうが牛肉より高いという。

筆者は豆より肉の方が、筋肉づくりには良いと思っていたが、それは古い考えのようだ。

コメはアミノ酸スコアは低い。しかし、リジンを多くふくむ大豆と一緒に食べることで、補正が効く。納豆とコメという組み合わせで、コメのタンパク質も筋肉づくりに使えるのだと。

ラグビーなどのコンタクトスポーツは、脂肪はクッションの役目をするので、ある程度は必要だ。

脂肪は脂肪酸とグリセリンに分けられる。筋肉をつけたいときは、不飽和脂肪酸のオメガ3、DHA、EPAを意識して摂るといいという。この点で優れているのが魚の缶詰だと。トロなどの脂ののった部分もDHA/EPAを多く含んでいる。

筆者は、毎日DHA/EPAサプリメントを飲んでいる。4粒でDHAは500mg、EPAは65mg摂れる。




サバ缶などの魚の缶詰だと、DHAが1,000mg〜2,000mg、EPAが500mg程度摂れるが、これは煮汁も全部飲んだ場合だろう。

EPAは摂取することで、赤血球が柔らかくなり、抹消まで血液が運ばれるので心臓に負担をかけずに酸素が運ばれやすくなる。筋肉痛や腰痛などの炎症はもちろん、花粉症などのすべての炎症を抑える効果があるという。

これまで意識していなかったが、ここ数年、筆者の花粉症がひどくならないのは、DHA/EPAサプリメントを飲んでいる効果なのかもしれない。

魚のCMソングでも「頭がよくなる」と歌われている。DHAは脳の神経には大事な栄養素で、疲労回復にもつながる。



サバ缶とか、サンマの蒲焼缶などは、これまであまり意識して食べてこなかったが、これからは意識して食べてみようと思い、早速数種類買って食べてみた。

サバ缶他





















川端さんは、おにぎりと、おかずにサバ水煮缶と粉チーズを勧めていたので、試してみたが、これを続けるのはきびしい。

DHA/EPAが大量に含まれている煮汁を、ご飯にかけることを川端さんは推奨していたが、これは、ちょっと抵抗があるので、結局捨ててしまった。たぶん缶に書いてあるDHA/EPAの含有量は摂れなかったと思う。

やはりサプリメントの方が筆者には向いているようだ。続けるなら、蒲焼缶などの調理缶とするか、サバ水煮そのままでなく、何らかの調理をすべきだと思う。

さて、炭水化物も重要だ。炭水化物は、糖質と食物繊維に分けられる。体が吸収できないのが食物繊維だ。

糖質はダイエットの敵の様にみなされているが、糖質を摂ることで分泌されるインシュリンが原因となって、筋肉の合成が進みやすくなることがわかっているという。

タンパク質だけ摂ってトレーニングを行うよりも、調味料も含めてインシュリンを出すような食事をすることが、筋肉づくりには有効なのだと。

川端さんは、この本で、主要なビタミンそれぞれについて、特徴と効果を説明している。筆者の場合は、毎日マルチビタミン・ミネラルを飲んでいるので、ビタミンはケアしなくてよさそうだ。




この本では、筋肉を作る食べ方を紹介している。

トレーニングをした日に必要なたんぱく質摂取量は、2グラム/体重1KGで、トレーニングしない日は、1グラム/体重1KGだという。

トレーニングした日は、トレーニング直後、30分以内にタンパク質を摂取する。このゴールデンタイムに成長ホルモンの濃度や血流、インシュリンの筋肉への感受性が高まっているからだ。

逆に、トレーニングしない日は、少し食事を意識するだけでタンパク質は十分とれると。

筆者はこれまで、トレーニングをしない日も筋合成は起こると考えて、毎朝晩プロテイン豆乳シェイク(200CC一杯でタンパク質30グラムは摂取できる)を飲んで、タンパク質を摂ってきた。

しかし、トレーニングの強度(今は、せいぜい1回/週程度しかできない)に比べて、タンパク質摂取量が多かったようだ。タンパク質の摂りすぎは、腎臓に負担をかけるので、良くない。







川端さんは、朝食、昼食、夕食、それと男性、女性、シニアのおすすめメニューを紹介している。

川端さんのおすすめは、納豆ピザ(食パン、納豆とゴマ、トマト、チーズをのせて焼くだけ)、魚の缶詰を使った丼(たとえば、さんま蒲焼丼とか)、おにぎりとサバ缶+粉チーズ+野菜スティック、ファーストフードの場合はケチャップやマヨネーズ抜きなどだ。

居酒屋は、実は筋肉をつける食事ができるのだと。冷奴、納豆、タコ酢、ぬか漬け、刺身、焼き魚、焼き鳥といった低脂肪で糖質を気にせずにタンパク質を摂ることができる。

ただし、アルコールは筋肉づくりにはマイナスだ。利尿作用があるので、脱水症を起こしやすく、筋肉づくりに関与する成長ホルモンなどの分泌が減り、タンパク質の合成が阻害されるのだと。筆者もアルコールの量には気を付けなければならない。

遅い時間の食事も、BMAL1(ビーマルワン)という脂肪合成にかかわるたんぱく質の一種の影響で、体脂肪になりやすいので、要注意だ。

この本の最後は、アスリート流食事法で締めている。

川端さんが契約した最初のプロチームの東京ヴェルディは、当時はJ1で優勝争いをする強豪チームで、クラブハウスも診療室にはMRIを備え、立派なものだった。

川端さんは、ラーメンやカレーなど職員向けの食事が中心だったクラブハウスのメニューを、選手用メニューに変えて、ビュッフェスタイルにした。メインは肉2種類と魚介類1種類、複数のサラダ、海藻や野菜の総菜は3品、果物2種類、ヨーグルトなどだ。

そうすると、シーズンが終わると体重が減っていた選手が、体脂肪が落ちるだけでなく、筋肉量は増加したという。

バレーボールの北京オリンピック代表では、年間でジャンプ力が平均10センチ上がった。それまでは、高く飛ぶために体重を減らしていたが、逆に筋肉をつけて、高く飛べるようにしたのだ。

毎朝サバやサンマの缶詰を1缶食べる選手、鮭がいいとアドバイスすると、鮭を切り身を一度に5切れ食べる選手、アルコールが良くないと聞くと、シーズン中は全く飲みにいかない選手などを紹介している。

(そういえば、筆者が20年くらい前に、前のラミーズで見かけた清原選手も、シーズン中だったので、全く酒は飲んでいなかった。)

向上心が、メンタルの強さにもつながるのだと。

筆者はトレーニング歴だけは長いが、トレーニングと栄養補給が、うまく結びついていなかった。この本を読んで、すべてのパズルが組みあがった感じだ。これで、腎臓への影響を心配せずに、トレーニングとタンパク質補給ができる。

トレーニングをしている人は、一読の価値がある本である。

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2019年07月08日

妻のトリセツ 新発見がある本



次男が読めといって渡してきた本。妻の差し金かもしれない。

この本がベストセラーになったので、トリセツシリーズを何冊か書いている脳科学者の黒川さんの本。
ことばのトリセツ (インターナショナル新書)
黒川 伊保子
集英社インターナショナル
2019-06-07



定年夫婦のトリセツ (SB新書)
黒川 伊保子
SBクリエイティブ
2019-04-06



妻から放たれる弾を10発から5発に減らすのが本書の目的だという。

そもそも妻の怒りは「今、目の前で起きたこと」だけではなく、過去の関連記憶の総決算として起こるものなのだと。実感を持って、その通りだと思う。

女性は感情に伴う記憶を長期間にわたって保存し、しかも「みずみずしく取り出す」ことが得意な脳の持ち主だ。

人類は1個体が残せる子どもの数が少ないので、子育ては常に「新しい問題」に直面する。それを何百世代にもわたって培ってきた女性脳は、「新たな命題に対して、人生の記憶を総動員して瞬時に答えを出す機能」を備えるようになったと考えられるのだという。

これが、著者の黒川さんの解説だ。

科学的な説明なのかどうかわからないが、納得できる説明だ。

筆者もまだ長男が2歳くらいのときに、熱を出して引き付けを起こして、一時息をしていなかった時、あわてて救急車を呼んだが、救急車が到着するころには、息をするようになっていた。女性脳には、こういった経験の積み重ねがあるのだろう。

「夫」という役割をどうこなすかはビジネス戦略だという。プロの夫業に徹することで、妻から放たれる弾を10発から5発に減らそうというのが本書の目的であると。

女性は、共感されるとストレスが解消される脳の持ち主なので、共感こそが、相手の脳への最大のプレゼントなのだと。

男性脳は、「〇〇すればいいんじゃない」などと、いきなり問題解決を目指すが、そうなると女性は「思いやりがない」、「私の話を聞いてくれない」となじってくるのだと。ここで大切なのは、夫が共感してくれたという記憶なのだ。共感するフリでもいい。解決策は必要ないのだ。

「いい夫」とは、時に妻の雷に打たれてくれる夫のことだと。「おおむね優しくて頼りがいがあるが、時に下手をして、妻を逆上させる男」なのだと。妻のストレスの放電に打たれるのだ。

解決方法は真摯に謝る。それしかないという。閾値(いきち)に達する前に「あなたって、どうして?」が出始める。「忘れてて」とか理由を述べるのは、アマチュア夫のやることだ。

言われたら、収拾がつかなくなる前にすっぱり謝ろうと。

夫が気が付かない「妻を絶望させるセリフ」は「言ってくれれば、やったのに」だと。

黒川さんの解説によると、女性脳は育児の過程で、物言わぬ赤ん坊が何を求めているのか察して生きている。「察すること」イコール「愛の証」だと信じているのだ。

だから「言ってくれれば、やったのに」は、察することを放棄した言葉であり、「僕はあなたに何の関心もない」、「あなたを大切に思っていない」と同義語なのだと。

他の妻を絶望させるセリフは、「だったらやらなくてもいいよ」、「つまりこういうことだろ?」、「おかず、これだけ?」、「今日何してたの?」などだ。

心と裏腹な妻の言葉は次のようなものだ。
「勝手にすれば」=勝手になんてしたら許さないよ。私の言うことをちゃんと聞いて。「好きにすれば」も同義語。
「自分でやるからいい」=察してやってよ。察する気がないのは愛がないってことだね。
「どうしてそうなの」=理由なんか聞いていない。あなたの言動で私は傷ついているの。

ポジティブトリガーとして、結婚記念日、それを盛り上げるための予告と反復、頻繁な携帯メールやメッセージ、おみやげ、「定番の幸せお菓子」など。

口うるさいのは、一緒に暮らす気があるからだと。

「人口学研究」によると、妻と離別した男性は、妻がいる場合と比べて40歳時での健康余命が10年短くなるという結果があるという。

妻は男の守り神なのだと。その通りだと思う。反省を込めて、十分読む価値のある本である。



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2019年06月30日

私定時で帰ります あの業界は今どうなっているのか?




TBS系でドラマも放送されていた

私定時で帰ります
















11月にビデオが発売される。

わたし、定時で帰ります。Blu-ray
吉高由里子
アミューズ
2019-11-06


TBSのドラマでは、次のような配役だった。

主人公:東山結衣(吉高由里子)
婚約者:諏訪巧(中丸雄一)
元婚約者・種田晃太郎(向井理)
上司:福永清次(ユースケ・サンタマリア)
会社に住み着く非効率男・吾妻徹(柄本時生)
辞めたがりの新人男子・来栖泰斗(泉澤祐希)
仕事命の皆勤賞女・三谷佳菜子(シシド・カフカ)
双子を育てるワーキングマザー・賤ヶ岳八重(内田有紀)

小説のあらすじはいつも通り詳しくは紹介しない。

主人公の東山結衣はウェブ制作会社のディレクター。会社に住みついている様な非効率社員や、絶対に会社を休まない皆勤賞社員までいて、残業が普通の職場の中で、定時退社を宣言し、それを貫いてきた。

今はリタイアした父親が、現役の時には仕事優先で、家庭を顧みないモーレツ社員だったことも、反面教師として、定時退社を貫く理由となっている。父親の好きなCMソングが、「リゲイン」のCMだ。



筆者が思うに、極めつけは次のCMだ。



結衣は、仕事では生産性を上げて時間内にやるべきことを片付け、退社後は行きつけの中華料理屋でビールを楽しみ、婚約者もいる。仕事と私生活を楽しむタイプだ。

一方、結衣の元婚約者は、やり手のウェブディレクターで、生産性は断トツに高いうえに、仕事のためには連続徹夜も辞さないのめり込むタイプ。結衣との婚約が解消されたのも、徹夜続きで両家挨拶の日に自室で倒れていたためだった。

その元カレが、上司とともに結衣の会社に移ってきたことから、結衣の定時退社生活に波風が立ち始める。新しい上司が、コネのある先から採算割れの注文を受けてしまったのだ。

これをなんとかこなすため、結衣が指導する新人社員、双子を育てるワーキングマザーなど、周りの人も巻き込んで、事態は進んでいき、最後には…というストーリーだ。

インパール作戦もキーワードとして登場する。




筆者も2007年までインターネットサービスの会社に出向していたので、ウェブ制作の仕事には、なじみがある。

ウェブサイトをリニューアルした時には、サイトチェック(入力画面からの動作や、リンクなどが正しく表示されるかを、手分けしてすべてのページをチェックする)のために、副社長の筆者も他のスタッフと一緒になって、会社で徹夜で検証にあたったこともある。

その時は、ウェブ制作担当者が1000ページほどもあるチェックリストをつくって、各人の担当をきめて配布し、自分の担当の数十ページ分の動作、リンクを一個一個チェックする。不具合があると、そのチェックリストに「表示されない」や「リンク間違い」などと記入して、間違って表示されるページを画面印刷して、ウェブ制作者にチェックリストと一緒に戻すのだ。

今はたぶんかなり自動化できているのだと思うが、当時はウェブ制作は相当手作業の部分が多かった。

ウェブ制作者はクリエイターなので、やはりセンスのある、なしが問われる。センスのあるウェブ制作者は、独立していろいろな会社から注文を受けていた人もいた。今は、たぶんこの小説の舞台となったようなウェブ制作会社を立ち上げているのだと思う。

多くの会社は「働き方改革」で、残業を厳しく管理して、極力規定範囲内の残業に抑えていると思う。小説では、この会社の社長も同様に残業を減らす方針だったが、残業を強いられる職場も、まだあるかもしれない。そんなことを考えさせられる楽しめる小説だった。


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Posted by yaori at 21:30Comments(0) インターネット | 小説

2019年06月29日

ヒロシ 芸人ではなくYouTuberとして活躍




筆者が気に入っている芸人の一人ヒロシが、テレビではなく、YouTuberとして活躍していた。この本では、そのことを「働き方1.9」として紹介している。

ヒロシは一時「笑っていいとも」の何曜日かにも、レギュラーで出ていたことがある売れっ子芸人だったが、売れなくなって久しい。

ヒロシのことを知らない人もいるかもしれないので、YouTubeに載っている2013年のヒロシのネガティブ漫談を紹介しておく。結構笑える。



現在YouTuberとしてヒロシがシリーズものを出しているのは、一人キャンプというテーマだ。



キャンパー向けにいろいろなコンテンツがあるが、たとえばチャークロスという着火用布の作り方を紹介している。最後に「チャンネル登録よろしくお願いします」という一言を入れているが、これが広告収益の上がるしくみのようだ。






ヒロシチャンネルは現在42万人が登録しているという。

割合最近テレビに出た映像もYouTubeに載っている。



「徹子の部屋」でも詳しく取り上げられている。



気に入っている芸人なので、YouTuberで生き抜き、時々はお笑いでも出てきてほしいものだ。


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Posted by yaori at 21:39Comments(0) 自叙伝・人物伝 | ヒロシ