2006年11月30日

使える弁証法 ソフィアバンク代表田坂広志さんの近著

使える 弁証法


シンクタンクのソフィア・バンク代表で、多摩大学大学院教授の田坂広志さんの近著。

田坂さんは著書が多いことで知られているが、どれも読みやすい本ばかりで、いままで7−8冊程度は読んだ。

筆者は現在の会社に来る前に、1999年から3年ほど米国と日本で企業向けインターネット逆オークション事業を立ち上げようとしていたので、当時田坂さんの講演を聞いたことがある。

たしか「これから日本市場で何が起こるのか」という本が出たころで、ニューミドルマンが活躍する場が多く出てくるという様な内容だったと思う。


ネット革命 これから日本市場で何が起こるのか―ニューミドルマンが資本主義市場を進化させる


まず驚いたのは会場に入ると、講演に出てくるキーワードをびっしり書いたA4一枚のトーキングペーパーを渡されたことだ。

トーキングペーパーがあるので、話の展開がよくわかり、記憶に残る講演内容だった。

このトーキングペーパー配布という配慮からもわかるとおり、田坂さんの読者に理解して貰おうという努力には頭が下がる。

この本も非常に読みやすく書かれている。

表紙に「ヘーゲルが分かればIT社会の未来が見える」と書いてあるが、筆者はヘーゲルなんて大学時代に教養として読んでからは、ほとんど縁がなかった。

『弁証法』とか『止揚(アウフヘーベン)』などという言葉だけは覚えているが、内容はどうだったのかおぼつかないところがある。

この本は次の3章で構成されている。

第1章 弁証法は、役に立つ
第2章 弁証法を、どう使うか
第3章 弁証法で、身に付く力


それぞれの印象に残った部分を紹介する。

第1章 弁証法は、役に立つ

弁証法で最も役に立つ法則

弁証法にはいくつもの法則があるが、重要なのは次の法則であると:

1.螺旋的発展
2.否定の否定による発展
3.量から質への転化による発展
4.対立物の相互浸透による発展の法則

このうち、田坂さんは弁証法で最も役立つ法則は「螺旋的発展」の法則だと説く。

螺旋的とは直線的に対する言葉で、「進歩・発展」と「復活・復古」が同時に起こるのが螺旋的発展なのだと。

例えばネット革命。

オークションと逆オークション。市場(しじょう)が「いちば」と呼ばれていた時代のビジネスが、ひとたび消えてまた新しい形で復活したのだ。

ネット・オークションは資源リサイクルのしくみとしても優れている。これから復活してくる懐かしいものとは、「御用聞き」の復活のコンシェルジェサービスなどだ。


なぜ、この時代に「螺旋的発展」が起こるのか

これまでも「螺旋的発展」はあったが、世の中の変化が遅かったから気づかなかった。

ドッグイヤー、マウスイヤーの現代だから「螺旋的発展」を見ることができるようになったのだ。

企業は3年計画を毎年見直す時代となった。先のことは予測不能なのだ。

田坂さんは「書を捨てて、街に出よ」と訴える。街で「螺旋的発展」を見つけようと語る。


第2章 弁証法を、どう使うか


復活では、必ず「価値」が付け加わる

ECショップを電子自動販売機、電子通販と考えた人は失敗した。

顧客はECショップというハイテクの場で、実は昔ながらの店のオーナーとのふれあい、ハイタッチを求めたのだ。

成功しているECショップは、オーナーの顔が見えて、心配りが感じられるショップなのだ。

だから我々は「新しいもの」を「新しい眼鏡」で見なければならないと田坂さんは語る。いかなる形で新たな価値が付加されるかを考えるのが、新しい眼鏡でみることなのだと。


現在の動きは必ず「反転」する

田坂さんは「知識社会」は「知識が価値を持つ社会」ではなく、「知識が価値を失っていく社会」だと語る。

今までは専門知識は一部の人に限られていたが、これからは「言葉で表せる知識」は相対的な価値を失っていき、「言葉で表せない知恵」が価値を持つようになる。

かつての徒弟制度の「体で覚えろ」とかが復活して、スキル、センス、ノウハウといった知恵になって価値を持ったのだ。


第3章 弁証法で、身につく力

弁証法の次の法則から、田坂さんは弁証法を知ると「対話力」と「歴史観」が身につくと語る。

1.弁螺旋的発展
2.否定の否定による発展
3.量から質への転化による発展
4.対立物の相互浸透による発展の法則

たしかに弁証法という枠組みで考え方の整理ができる。

わかりやすく、読みやすい。考え方のヒントが得られるおすすめの本である。


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2006年11月22日

資源インフレ 資源価格高騰は日本のビジネスチャンス

資源インフレ―日本を襲う経済リスクの正体


丸紅経済研究所所長の柴田昭夫さんの本。

本の帯には「石油ショックを越える新たな危機」と書いてある。

最近でこそ原油価格が55ドル前後に下落しているので、ややガソリン価格も下がってきたが、それまでは上昇する一方だった。

現在はやや落ち着いているが、原油だけでなく、石炭や鉄鉱石、銅やアルミなど、それぞれがここ数年で過去最高の高値を記録している。それもこれまでの価格の2倍、3倍という水準だ。

この変化を察知して、果敢に先手を打っている国が米国と中国であると。中国の国内需要増大を見越した資源確保の動きは戦略的だ。

銅、アルミなどでは投機マネーによる市況高騰といった要因もあるが、柴田さんはこれを一過性の現象として、高い資源価格時代の到来に対して何もしない無作為こそが、日本にとっての最大のリスクであると語る。


商品相場の上昇を早くから指摘したジム・ロジャース

柴田さんは資源供給の現状を予測した投資家ジム・ロジャースを紹介している。

ジム・ロジャースはジョージ・ソロスのクアンタムファンドの元パートナーとして有名で、世界中をバイクで走りながら投資機会を肌で感じ取る冒険投資家としても知られている。

そのジム・ロジャースが早くから「商品相場で新しい上昇相場がやってくる」と強調し、1998年からは自ら「商品インデックスファンド」を立ち上げ、商品価格は1998年を底に長期上昇トレンドに入ったと指摘した。

ジム・ロジャースは今回の上昇局面ではこれまで見られなかった根本的な構造変化が生じていると強調する。

それは「供給懸念」と「中国」だ。

ジム・ロジャースは「中国は、共産主義を自認しているが、その実態は世界最大の資本主義国である。しかも、その莫大な人口の多くが勤勉で貯蓄率が35%にも及ぶことから、短期的には紆余曲折があったとしても中長期的には成長を続ける」との見方を示している。

2004年後半から2005年前半にかけて中国が輸入を抑制したことから、値下がりする場面もあったが、「世界の供給が小さく、需要が大きいままである限り、中国が商品の輸入を再開するや否や、商品価格は再び上昇するだろう。調整は価格の一時的な下落に過ぎない。」と予測している。

ジム・ロジャースの言葉が資源需給の現状をよくあらわしている。


中国の需要が急増

高度経済成長が続く中国で、資源需給に影響を与えているのは次の3つだ。

1.国内インフラ整備のための鉄鋼需要
  2008年の北京オリンピック、2010年の上海万博に向かっての国内のインフラ整備需要が急速に進んでおり、「鉄が鉄を呼ぶ」形での鉄鋼需要が急増している。

2.2010年代まで続く住宅ブーム
  1998年の住宅制度改革で住宅の個人所有が認められてから、住宅需要は8年間で4倍に拡大し、さらに増加している。

3.急増する自動車保有
  中国の自動車生産台数は700万台を越え、米国、日本に次ぐ世界第3位となった。スクラップされる車が少ないので、2006年末の自動車保有台数では4,000万台を越え、日本の半分強となる。2010年には日本の生産台数を超えると見られている。

これらを考えると、中国の経済成長に伴う資源需要は、当分減ることはないと思われる。

例えば鉄鋼生産を見ると、中国の粗鋼生産は2000年以降毎年3,000万トンずつ増加しており、2005年には3億4千万トンを越えた。

筆者も2000年まで鉄鋼業界で仕事をしていたが、当時の中国の鉄鋼生産は1億トン程度だった。なんと6年で3倍強になっているとは驚きだ。

自分が浦島太郎になった気分である。

中国国内には鉄鉱石もあるが、低品位鉱石なので輸入に頼らざるをえない。

元々鉄鉱石の供給はブラジル、豪州で世界の7割を占めている寡占状態で、生産者も消費者もプレイヤーが限られていた。ところが中国が、鉄鋼石輸入を大幅に増やしたことで需給バランスが大きく変化し、毎年のように価格は上がっている。

中国は世界最大の石炭生産国だが、零細炭田が多く、酸性雨の環境問題も起こしている。

中国のエネルギーは石炭依存度が高いが、これ以上生産を増やせないので、石炭の輸入が増えるとともに、石油への依存度も上がっている。


穀物の輸入は水と土地の輸入

中国の弱点の一つは水資源だ。日本では工業用水は再利用が徹底しているが、中国では再利用が少なく、工業と農業で水を取り合っているような状態だ。

水不足が深刻化しつつある中国などアジア諸国は、今後最大の食料輸入国となるだろう。

穀物の輸入は水と土地を輸入している様なものだ。


「ヒンドゥ的成長」から脱却したインド

インドは1980年代まで「ヒンドゥ的成長」として年率3%程度の成長だったが、1991年以降経済自由化を進め、年率6−7%成長、2005年には8%の高成長と成長が加速してきた。

ソフトウェア産業を中心とするサービス業が牽引役だが、製造業も強化している。人口大国インドでも中流階級が育ってきており、3億人とも言われている。

原油輸入は急拡大し、既に世界第6位の石油消費国である。

インドでは就業人口の6割弱を占める農業生産が大きく、食料生産は2億トンでコメと小麦が8割である。これまでは食料の純輸出国だったが、小麦輸出は急速に縮小し、近く輸入国になると思われる。

そうなると資源、エネルギー、食料の大輸入国となり、まさに第2の中国となるだろうと柴田さんは予測する。


柴田さんは資源の供給を大幅に増やすには、長い時間と多額の投資が必要なこと、資源価格が上がると新しい資源開発の動きが出てくるが、それには時間が掛かることを説明している。

さらに供給サイドの寡占化により、コモディティ市場において価格カルテル的な動きがある。価格が上がっても生産をあえて増やさないのだ。

代替エネルギーとしてのトウモロコシとか、地政学上のリスクとしてのイランの核疑惑、東アジア石油備蓄ゼロの恐怖、株価と商品は10−15年で逆相関サイクルとか参考になるトピックスも取り上げられている。


高い資源価格こそビジネスチャンス

最後に柴田さんは高い資源価格こそビジネスチャンスだと指摘する。

日本経済は資源高に打たれ強い。日本経済の潜在力を生かし、技術革新で付加価値の高い商品を作り出すことが生存の条件である。

代替エネルギー開発も今なら採算に乗り、企業家のアニマルスピリットが発揮されるときであると。

団塊の世代とその前後の世代を合わせた1、000万人が、開拓のパワーと情熱を抱き続けることができる今後の10年がチャンスであると柴田さんは力説する。

石油危機を乗り切り、軽自動車が市場の2割を占め、公害も抑えられている。日本は世界で一番エネルギー効率の良い経済大国だと思う。

もはや資源争奪戦では日本は中国に後れをとった。中国に続いてインドもやってくるだろう。またそもそも資源は寡占であり、日本が割って入る余地はない。

そんな中で日本が活躍するとしたら、省エネルギー技術でしかないだろう。

高い資源価格こそチャンスだという柴田さんの意見に筆者も同感だが、団塊世代の力がまだ残る今後10年がチャンスだという現実には、やや冷や水を浴びせられる思いだ。

団塊の世代と前後の世代のパワーが、まだまだ日本を引っ張る必要があり、むこう10年はそれができると思う。

筆者もまだまだ頑張らなきゃ。


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2006年11月05日

ハイコンセプト 「新しいこと」を考え出す人の時代 大前研一訳の21世紀の勝ち組

ハイ・コンセプト「新しいこと」を考え出す人の時代


本の帯がふるっている。

21世紀にまともな給料をもらって、良い生活をしようと思った時に何をしなければならないか ー 本書は、この「100万ドルの価値がある質問」に初めて真っ正面から答を示した、アメリカの大ベストセラーである。大前研一

大前さんの訳者解説がこの本の内容をよくまとめているので、大前さんの解説を中心にあらすじを紹介する。

「格差社会」を勝ち抜くための三条件

私は、この本の翻訳を二つ返事で引き受けた。それほどこの本は、これからの日本人にとって大きな意味があるからだ。

それはいま話題の「格差社会」という問題に深くかかわっている。

経済のグローバル化で、中国で生産できるものは中国に、ITなどインドでできるものはインドで、というふうに少しでも人件費が安くすむ地域へ産業は引っ張られ、下の給料は中国・インドに引っ張られる。

一方上の方は、アメリカのプロフェッショナルに引っ張られる。トレーダー、大手コンサルタントなど億単位の給料を貰うのが普通になった。

所得分布がM字型になったとき、われわれは何をしたらよいのか、上に行くには、次の三つを考えなければならない。

1.「よその国、特に途上国にできること」は避ける
2.「コンピューターやロボットにできること」は避ける
3.「反復性のあること」も避ける
   反復性があることは、コンピューターがやってしまうか、アウトソーシングされるからだ

(以上の3点は大前さんのまとめだが、著者のダニエル・ピンクはこう付け加える。

4.自分が提供しているものは、豊かな時代の非物質的で超越した欲望を満足させられるだろうか?)

要するに、これからは創造性があり、反復性がないこと、イノベーションとか、クリエイティブ、プロデュース、といったキーワードに代表される能力が必要となってくる。


第四の波

アルビン・トフラーの『第三の波』はいまや古典的名著だが、大前さんはトフラーと旧知の仲で、トフラーはビジネスブレークスルーの出資者の一人でもあるので、この本の題名を『第四の波』としていいかどうか、トフラー夫妻に聞いたという。

第三の波とは。第一の波(農耕社会)、第二の波(産業社会)が終わって、これからはナレッジ・ワーカーの情報化社会だというものだ。

このナレッジ・ワーカーの仕事が急速にコンピューターやインターネットに取って代わられてしまっている。弁護士や会計士の仕事を100ドル程度のソフトが肩代わりしているのだ。

それが著者のダニエル・ピンクが提唱する情報化社会から「コンセプチュアル社会」、右脳主体の発想ができる突出した個人の時代となりつつある現在なのだ。


専門力ではない総合力の時代

今まではある種の知識を持った特定の人たちの世の中だった。プログラマー、弁護士、MBA取得者など。

これからは、何かを創造できる人や他人と共感出来る人、つまり芸術家、発明家、デザイナー、ストーリーテラー、介護従事者、カウンセラー、そして総括的に物事を考えられる人たちの時代である。

いままではMBA資格が重視されていたが、これからはMFA(Master of Fine Art)が最も注目されている資格だ。

情報化社会を引っ張ってきた左脳的能力だけではだめで、右脳的な資質が重要になってくる。


6つのセンス

ダニエル・ピンクが重視する6つのセンスとはデザイン、物語、調和、共感、遊び、生きがいだ。

1.これからは機能だけでなくデザインが意味を持ってくる。

2.誰でもすぐにタダで検索できる時代の情報価値は、人に訴えかけることができる物語である。

3.個別よりも全体のシンフォニー(断片をつなぎあわせて統合する能力)が重要だ。これから成功するタイプは、マルチタスク、発明できる人、巧みな比喩(メタフォー)が作れる人である。

4.相手を説得するのは論理ではなく、共感をつくれることが重要だ。これは相手の感情を読みとる能力だ。

5.まじめだけでなく遊び心が重要だ。

米軍のAmerica's Armyテレビゲームを紹介している。

米軍は志願者が減少している現実を踏まえ、志願者を増やす方法として、なんと擬似的に軍の生活や作戦を体験できるゲームをつくって理解を広めることを始めた。

まさに遊び心である。


America's Army








いまやAmerica's Armyは760万人がダウンロードした大人気ゲームとなっている。

America's Armyは目的を達成する上で必要なチームワークや価値観、および責任を強調しているという点で、他のゲームとは一線を画すものだ。

6.物よりも生きがい

最後に、ダライラマの言葉を紹介している。

科学と仏教はとてもよく似ています。なぜなら、どちらもリアリティの本質を探ろうとしているからです。そして、どちらも、人類の苦しみを軽減することを目標としているのです。


ハイコンセプト、ハイタッチの時代

ダニエル・ピンクはこれからは、右脳中心のクリエイティブさ、人々の共感を得られるかどうかが重視されるハイコンセプト、ハイタッチの時代だという。

このことを強烈に印象に残る形で説明しているのが、本文にはない大前さんの解説の「カンニングOK」社会への転換という点だ。

今の義務教育で教えているようなことは、メモリーチップに入れるとせいぜい100円程度の価値しかないという。そこまでつぶしがきかなくなった。

現実にアメリカの高校ではカンニングを容認するようになってきたという。

答のない時代のいま、世の中に出たら、知識を持っていることよりも、多くの人の意見を聞いて自分の考えをまとめる能力、あるいは壁にぶつかったらそれを突破するアイデアと勇気を持った人の方が貴重なのである。

自分一人で考えたり、覚えていることは二束三文の価値しかない。学校で教えてくれる程度のことも二束三文の価値しかないのだ。


教育基本法改正が現在論議になっているが、ダニエル・ピンクの提唱するような右脳素質を伸ばし、21世紀に世界じゅうの国と対等に戦えるクリエイティブな日本人を育成する戦略となっているのだろうか?

筆者も反省するところ大だが、知識詰め込み物知り人間では、世の中が情報検索無料、「カンニングOK」の時代になってきたら役に立たない。

カンニングOKの時代でも競争力のある人材が21世紀の勝ち組となるのだ。大前さんの解説がこの本の価値をより一層高めている。考えさせられる良い本である。


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2006年11月04日

素人のように考え、玄人として実行する ロボッティクスの権威 カーネギーメロン大学教授の金出さんの本

素人のように考え、玄人として実行する―問題解決のメタ技術


天才棋士羽生善治さんの『決断力』で紹介されていた筆者の旧知のカーネギーメロン大学の金出武雄先生のビジネス書。

カーネギーメロン大学やピッツバーグ大学がある地区にある、見かけは冴えないが、料理はバツグンにうまい中華料理屋オリエンタル・キッチンを思い出す。

カーネギーメロン大学のキャンパス周辺はこんな感じだ。


カーネギーメロン大学

あーまた行きたいものだ。

スーパーボウルで使用された360度三次元ビデオカメラシステムを開発したことで、『スーパーボウルに出演した唯一の大学教授』とも呼ばれているそうだ。

羽生さんの本でも紹介されていた、KISS(Keep it simple, stupid!)という、複雑に考えるな、単純に考えろというのがこの本の一貫したコンセプトだ。

金出さんのモットーは『素人発想、玄人実行』だという。書家に揮毫してもらい、自宅の居間にも飾っていると。

BCG(ボストンコンサルティンググループ)の内田さんの『仮説思考』に紹介されていた「名刺の裏に書ききれないアイデアはたいしたアイデアではない」というのがあったが、発想は単純、素直、自由、簡単でなければならないと金出さんは説く。

たとえばインターネットの基盤となったDARPAのプログラムマネージャーだったB. カーンの発想は「コンピューターがつながっていれば、軍事的にはソ連の攻撃で一カ所のコンピューターが破壊されてても大丈夫だし、経済的にはアメリカの西海岸と東海岸では3時間の時差があるから、計算の仕事を分散させるメリットがある」というものだったそうだ。

この本は四部構成で、全部で48項目についてエッセー風に書かれている。

第1章 素人のように考え、玄人として実行する 発想、知的体力、シナリオ

第2章 コンピューターが人にチャレンジしている 問題解決能力、教育

第3章 「自分」の考えを表現し、相手を説得する 実戦!国際化時代の講演、会話、書き物術

第4章 決断と明示のスピードが求められている 日本と世界 自分と他人を考える

すべての項目について具体例が満載されている。頭にスッ入り、読みやすく記憶に残る本である。

いくつか印象に残った項目をご紹介しよう。


2.なんと幼稚な、なんと素直な、なんといい加減な考えか

今や常識となっている大陸移動説は、元々は20世紀はじめにドイツの気象学者ウェゲナーが南アメリカ大陸とアフリカ大陸の海岸線が似ていることに気づき、はさみで切って貼りあわせたらパズルの様にぴったりあったことから考えついたものだという。

発表当初は否定されたが、20世紀後半となりプレート移動説によって再発見されてよみがえり、今は定説になっている。


3.成功を疑う

金出さんは「成功から学ぶ」とか、「失敗から学ぶ」ことは誰もが考えるが、「成功を疑う」のが一番難しいと語る。

成功を疑わなかったために、新たな成功をつかみそこねた絶好の例が、パソコンを発明したゼロックスだと。

カリフォルニア州パロアルトのゼロックスの研究所では1970年代のなかばには、アルトと呼ばれるパソコンを完成させていた。アルトはその後出てきたマッキントッシュの機能とアイコンなどの概念を完全に含む、はるかに進んだシステムだった。(アップルがアルトを真似たという歴史家が多いと)

ところがゼロックスはコピー機ビジネスの成功で莫大な利益を上げていたので、パソコンという新しいビジネスに賭けることを嫌い、アルトはお蔵入りしたのだった。


10.できるやつほど迷うものだ

金出さんは記憶力バツグンで、手帳を持ち歩かなくとも予定は1年先まで記憶でき、試験は、どの科目も100点を取るつもりで、一種のゲーム感覚でやっていたと。

その金出さんが大学院の研究でつまづいた。3年間の博士課程のうち2年間を、いろいろな研究課題を取り上げては行き詰まり、なにもできないままに終わってしまいそうになった。

そんな時に「もう少し具体的なことをやったら」と人の顔の画像データベースの研究をアドバイスしてくれたのが、後の京都大学総長長尾真(まこと)先生だと。

金出さんは研究テーマに迷うことを、研究について研究するということで、メタ研究と呼ぶ。メタ研究はいくらやっても何の役にも立たないのだ。

研究は具体的目標を設定できる課題を選び、ねばり強くやれと。

当たり前のことだが、案外「できるやつほど迷う」ものだと。


アナログ

アナログ』と、筆者もよく使っている言葉だが、01のデジタルに対してアナログということは知っていても、アナログ自体の意味はよく知らずに使っていた。

アナログとは英語でAnalogous、似ている、相似のという言葉から来ている。

デジタルばビットの集まりという離散的な形で示したが、アナログは連続的という意味で使われる。

筆者が思い出すのは、ラジオのAM放送やレコードだ。電波の波形、あるいは振動の波形が音の波形に似せてあるので、アナロジー、相似形なのだ。

元々は鉄塔間の電線の長さ(懸垂線)を測るために、ひもを用いて同じ種類のカーブを得たことから、アナログ計算という考え方が始まったものだ。

ファジーなあいまいさを残す人間をアナログ人間と呼ぶそうだが、こういわれると自分もまさにアナログ人間だと思う。


19.コンピューターは人より知性的になる

「新しい知性を感じた」というのは、チェスの世界王者ガリー・カスパロフが、IBMのスーパーコンピューター ディープ・ブルーに負けたときに言った言葉だ。

この研究の推進者はカーネギーメロン大学出身のエンジニアだったそうだ、

金出さんは人を越えるコンピューター、ロボットが町を歩く時代も遠い将来のことではないと予測する。


20.思考力、判断力は問題解決に挑戦することで伸びる

金出さんは学生の頃、実験が嫌いだったと。日本の実験は、理論を検証する方法が、『実験の手引き』で決められており、実験するというよりも手順を単に作業するだけだからだったからだ。

これに対してアメリカでは、問題解決学習が基本で、たとえば金出さんの息子さんの行っていたコーネル大学では「使い捨てカメラは、どうしてこんなに安い価格で売れるのか調べなさい」というものだった。

授業で使い捨てカメラと普通のカメラを分解して調べるなど、様々な作業を通して、どうやったらわかるのかを自分で考え、調べて発見する。

自分で問題を考え、解決法を工夫し、判断する能力が養われるのである。


教育者としてのアドバイス、アメリカでビジネスをする上でのアドバイス

金出さんはピッツバーグでは面倒見の良いことで知られている。ピッツバーグ日本人会のゴルフなどは毎回積極的に参加し、金出さんが出るので、他のピッツバーグ在住者もつられて、参加者が多くなっていた。

この本でも面倒見の良いことを発揮して、教育者としてのアドバイス、またアメリカで活躍する超一流の大学教授として、アメリカでビジネスをしていく上での様々なアドバイスを述べている。

実にこの本のほぼ半分はこのアドバイスである。

例えば国際会議などで米国を訪れる研究者には、前置きなしに、結論をさきに話せとアドバイスしている。

日本流に前置きから始めては、聴衆が最も感心を持っている最初の部分を逃すおそれがあるので、日本で用意したスライドの順序を逆にしてちょうど良いくらいであると。

その他、項目だけ紹介するとこんな具合だ:

30.説明して納得させるのではない。納得させてから説明するのだ。

36.論文や人を説得する書き物は推理小説と同じである。

38.プロポーサルは論文プラス資金の要求だ ー 相手が上司に説明しやすく書く
   アメリカの大学での研究は『研究起業』であると

40.発表と英語に関する三つの変なアドバイス
   プレゼン資料は一目で内容がわからないようにつくる
   子どもに対する英語教育は早く始めるな

48.「自分が決める」という勇気   アメリカと日本で一番の違いとして感じるのは、日本には「自分が決定者である」という立場になりたがらない人が多いことだ。

文庫本にもなったほど売れた、わかりやすく、スッと読める本である。特にアメリカでビジネスや勉強をしている人には是非おすすめする。


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