2007年09月28日

日本の防衛戦略 軍事評論家江畑謙介氏による防衛力分析

日本の防衛戦略
日本の防衛戦略


軍事評論家の江畑謙介氏による日本の防衛力の分析。豊富な資料・写真が載っていて、わかりやすい。


自衛隊の装備に対する考え方

自衛隊は導入の時には世界最高のモデルを求めるが、一度導入されると改良努力がほとんどなく、時代の変化にあわせて戦闘能力を強化し、抑止力を高めようという努力がほとんどなされていない。

一例として戦車が取り上げられている。

戦後初の国産戦車61式戦車は1961年(昭和36年)の配備後、アクティブ赤外線投影装置が一部戦車に追加された他は30年間ほとんどなにも改良がなされなかった。

ちなみにアクティブ赤外線投影装置は、今では自分の居場所を敵にあかすこととなるので、ほとんど自殺行為だ。

61式戦車は設計からして朝鮮戦争時代の90ミリ砲を搭載した車高の高い設計で、構想当時からソ連の中心戦車T−55の車高の低さと100ミリ砲に劣っていた。

さらに実戦配備直後にソ連は貫通力の高い115ミリ滑腔砲(かっこうほう)を搭載したT−62戦車を導入し、61式戦車はアウトレンジされることになった。途中で105ミリ砲に換装することも検討されたが、実施されなかった。

結局2世代あとの90式戦車で、120ミリ滑腔砲を導入してロシアの主力戦車と同等の装備となった。

90式戦車







写真出典:Wikipedia

さらに問題は射撃制御装置で、61式戦車はステレオ式光学式(要は幅1メートルの双眼望遠鏡?)のままで、その後中国軍も装備したレーザー測遠機すら装備せず、命中精度の改善はなされなかった。


RPG(携帯式ロケット砲)対策も不在

大砲の大きさも、射撃制御装置も湾岸戦争やイラク戦争の様な対戦車戦以外では致命的な差は出ないかもしれないが、近年では北朝鮮などのテロ勢力が日本に侵入し、戦車がそれを制圧するという局面は予想される。

このブログでも紹介した村上龍の「半島を出よ」が、まさにこのストーリーだ。

北朝鮮の不審船の乗組員が携帯式ロケット砲を、自衛隊の船に向けてぶっぱなした(命中はしなかったが)光景は、テレビで繰り返し報道されたので、記憶されている人も多いと思う。

ゲリラなども必ずといっていいほど携帯式ロケット砲を持っている。

RPG





写真出典:Wikipedia

そんなときには戦車の相手はRPGと呼ばれる携帯式対戦車ロケット砲となり、これに対する備えは装甲の強化が重要だ。

しかし自衛隊の戦車は61式戦車も、その次の74式戦車も他国のように装甲を増着して対RPG防御力を向上させる改良をしていない。

この手の装甲では、イスラエルなどの実戦経験豊富な軍隊の戦車に取り入れられているERAと呼ばれる爆発反応装甲や90式戦車に取り入れられた最新式のセラミックを取り入れた複合装甲などがある。

ロシア、イスラエルや米国の戦車の写真を見ると、やたらと箱が車体に貼り付けてあるが、これが増着装甲だ。不格好だが、重量をあまりふやさずに防御力の強化ができる点で実戦的だ。

ERA







写真出典:Wikipedia


日本の武器の欠点

この本では江畑さんの武器に関する深い造詣に基づき、興味深い事例がいくつも指摘されている。

・航空自衛隊の輸送機には、ミサイル誘導妨害装置がなかったので、イラク派遣が決まったときに急遽購入して付けた。スティンガーなどの携帯式対空ミサイルが普及しているので、誘導妨害装置は必須だ。

・北朝鮮の不審船対策で導入した はやぶさ型ミサイル艇や、水中翼ミサイル艇は、停船勧告に有効な遠隔操作の中口径機関砲がない。20MMバルカン砲は強力すぎ、76mm砲も船を沈めてしまう。

 12.7MM重機関銃は装備できるが、威力不足で、しかもマニュアル操作なので、敵の反撃に遭うと射手が危険にさらされる。

・水中翼艇は、荒れた海では停船ができない。つまり海が荒れると海上臨検とかはできない。

・日本では人的ロスを減らせる無人攻撃機や無人偵察機の導入は遅れている。米軍やイスラエル軍で重用されているプレデター等の無人偵察・攻撃機の導入はやっと2007年度からはじまる予定だ。


次期主力戦闘機F−X

日本の次期主力戦闘機F−Xについてもわかりやすく解説している。

米国議会の反対で購入できないでいるF−22はステルス性にすぐれ、技術的には最も優れているが、コストは一機450億円とも予想され、しかも日本でのライセンス生産はできずに全機輸入となる可能性が高い。

F-22







写真出典:Wikipedia

従いこんな巨額の費用を出すよりは、ステルス性等では劣るが、F−15の改良型で、F−22と同等の電子機器を搭載したF−15EXを、すでに日本にあるF−15生産ラインで生産する方が最も安い選択肢となると江畑さんは語っている。

NATOで採用されているユーロファイターは、コストも安く、NATO採用なので、米軍とのインターオペラビリティもすぐれている。

日本との共同開発にも乗り気といわれているので、F−Xの本命F−22が米国議会の反対で導入できなれければ候補として浮上してくる可能性もある。

ユーロファイター






写真出典:Wikipedia

ミサイル防衛戦略(BMD)

2006年10月の北朝鮮による核実験は初期爆発だけで核分裂の連鎖反応は起こらず、失敗だった可能性が強いが、それでも北朝鮮が核開発能力を持ったことは周辺国には脅威となる。

北朝鮮が核爆弾を持ったら、問題は運搬手段である。

北朝鮮はテポドンはじめミサイル発射実験を繰り返している。

北朝鮮が中国経由ウクライナ製の巡航ミサイルを購入した疑惑については、ジャーナリストの手嶋龍一さんの小説「ウルトラ・ダラー」にも描かれている。

江畑さんは、北朝鮮には巡航ミサイルを積む大型爆撃機がないし、たとえあっても大型機は日本のレーダーにも容易に捕捉されるので、やはり弾道ミサイルが最も可能性の高い運搬手段となるだろうと見ている。

弾道ミサイル防衛(BMD)の方法も興味深い。

旧ソ連の1960年代の初期のBMDは、落下してくる核弾頭を核爆発で誘発させるという方法で、実施されるとモスクワ市民の15%が死ぬという恐ろしいものだった。

これでは何のための防衛かわからないので、核弾頭を用いないで迎撃するシステムが湾岸戦争でも使われたパトリオットミサイルPAC−2だ。

しかしミサイルを打ち落としても、弾頭が落下して爆発すると被害が出るので、弾頭を無力化するために弾頭に命中させるパトリオットミサイルPACー3が開発され、日本でも米軍が沖縄にまず配備し、自衛隊は首都圏から配備している。

またイージス艦には、スタンダードミサイルSMー3という日米共同開発のミサイルが配備されており、これは北朝鮮のミサイルが発射されるのを感知して、すぐに迎撃する。

従い日本のBMDは、SM−3とPAC−3の2段階となっている。


この本は400ページの大作なので、詳しく紹介しているときりがないが、最後に最新の武器技術を紹介しておく。

兵器の進歩という意味で最も驚かされたのが、AGS=Advanced Gun Systemと呼ばれる米軍が開発中の軍艦の艦砲システムだ。

軍艦はもう旧時代の遺物だと思っていたが、AGSが配備されれば一挙にコストの安い最新鋭精密攻撃手段としてよみがえる。

YouTubeにもシミュレーション画像が載せられているが、従来15−30KM程度だった艦砲の射程を、GPS誘導やレーザー誘導装置を持つ精密誘導弾を発射するシステムに変えることによって70−180KMにまで拡大している。

精密誘導155ミリ砲弾で、移動中の車両一台一台でも砲撃できるという、恐るべく効率の良いシステムだ。

100キロ前後離れたところから発射された砲弾が、移動中の自動車まで正確に砲撃できるというまさに「天網恢々(てんもうかいかい)」の、天から降ってくる砲弾だ。

海上自衛隊でも島嶼(とうしょ)防衛用に艦載砲を積極活用する方法を研究、実用化すべきだろうと江畑さんは語っている。


豊富な軍事知識を元に、自衛隊と世界最新の軍備についてわかりやすく説明しており、参考になる。是非一読をおすすめする。


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2007年09月25日

伝説コンシェルジュが明かすプレミアムなおもてなし 感動をもたらす気配り

伝説コンシェルジュが明かすプレミアムなおもてなし―お客様の望みをすべてかなえる方法
伝説コンシェルジュが明かすプレミアムなおもてなし―お客様の望みをすべてかなえる方法


林田さん他のリッツカールトンシリーズでも紹介されていた伝説のコンシェルジュ、前田佳子さんの本。

この本を読むとリッツカールトンの感動を呼ぶサービスとして紹介されていたエピソードの多くが、前田さんの経験談であることがわかる。

ところが同じストーリーながら、他の本と違って、読んでいて涙がジーンと浮かんでくるような書きっぷりになっていない。実に淡々と書いている。

自分の自慢話とせず、スタッフ全員の共同作業として再現可能なストーリーにして、サービス業を目指す人に役立てることに徹しているのだ。

すごい人だ。

リッツ・カールトンで学んだ仕事でいちばん大事なこと
リッツ・カールトンで学んだ仕事でいちばん大事なこと


前田さんは大学卒業後スチュワーデスを目指すが果たせず、大阪東急インのフロント係として就職、そこで頭角をあらわしヒルトンホテル大阪に転職。

ヒルトンでシステマティックにお客に対応する技術と語学を学び、スタート直前のリッツカールトン大阪にコンシェルジュとして転職、「心でモノを見る」ということを学ぶ。

ヒルトンで5年、リッツカールトンで9年働いた後、2008年3月に東京お台場にオープンする会員制リゾートホテルのリゾートトラスト東京ベイコート倶楽部の開業準備室で働いている。

東京ベイコート倶楽部のコンセプトは、すべてのスタッフがコンシェルジュの様に仕事をするというもので、前田さんはそれに心を打たれたという。


おもてなしに一番必要なもの

前田さんはおもてなしに一番必要なものは、マインドだと語る。

マインドの高い人は、お客様の要望に決して"NO"ということはない。

たとえ口に出されない要望でも、五感や第六感を駆使してキャッチし、他のスタッフとのチームワークで、実現しようとするのだ。

現在は、お客様の要望に答えるのはあたりまえ、それを超えた「おもてなし」をしてはじめて、お客様に感動して頂ける時代だと前田さんは語る。

たしかに外資系の有名ホテルがぞくぞく日本に進出してきて、帝国ホテルやホテルオークラなどの日本のホテルが、サービス満足度で劣勢に立たされている。帝国ホテルは三井不動産の系列に入ったばかりで、今後も激動の時代が続くだろう。

前田さんの言葉も、なるほどとうなずける。


伝説の感動ストーリーが一杯

林田さんの本にも紹介されていた次のような感動ストーリーが一杯だ。

・「飛行機を止めてくれ」。父親が危篤のアメリカ人ゲストに頼まれ、飛行機会社に出発を遅らせてもらう

・「予算18万円でリッツカールトンのスイートルームにバラとミモザの花を敷き詰めてほしい」

・「プロポーズのタイミングで、アイスツリーからティファニーの指輪が落ちる様にしてほしい」


プロフェッショナルとしての気配り

前田さんのマイモットーは次の3つだという。

1.あきらめない

2.心でモノを見る

3.自分以外はみな師

このマイモットーで、おもてなしをするのだ。さすがと思える気配り・心構えが満載だ。

・電話は笑顔をつくって、2コール以内に(試してみたら、こちらは2コールでも相手は3コールだった)

・声質にかかわらず重要なのが話すスピード

・ボールペンは3本 お客の前で使う1本 お客が貸すための1本 秘密メモ記入用の1本 

・ボールペンはノベルティグッズや事務用品は使わない ホテルは「非日常空間」だから

・「お待ち下さい」と言わない 必ず「お待ち頂けますか?」と言う

・緊張度は瞳孔に、感情は瞳に表れる(脳が緊張しているときには瞳孔が小さくなり、脳がリラックスしているときは瞳孔は大きくなる)

・女性には「言葉地図」の方が好まれる (言葉地図とは書いた図面でなく、言葉で説明した地図、たとえば「XX駅の何番出口を出て左に200メートル行った角を右に曲がり、そこから100メートル行ったところ」といった具合)

「話を聞かない男、地図が読めない女」という本があったが、前田さんはそのことを体験で知っている。

話を聞かない男、地図が読めない女―男脳・女脳が「謎」を解く
話を聞かない男、地図が読めない女―男脳・女脳が「謎」を解く


・カールトンのクレドにある"We are on the stage" 仕事では「舞台に上がる」という発想が大事

・本代は月に3万円 ノンフィクションやビジネス書で勉強する


ホテルの仕事を辞めようと思った日

その前田さんでも、ホテルを辞めようと思ったときがあったという。ゲストに代わりに買い物をしてくれと頼まれ、応じようとしたら、「あなたが一人やったために、他の人がみんなしなくてはいけなくなるから、そういうことはやめてくれ」と言われ、反発したのだ。

そんなとき、たまたま俳優のマルチェロ・マストロヤンニが滞在していた。彼が体調を崩したので親身になって3時までつきそい看病すると、彼から次のようにいわれた。

「いろいろつらいことがあるかもしれないけれど、この仕事は辞めなさんな。あなたはこの仕事をするべくして生まれてきた人だと私は思う。だから決してあきらめないで、頑張りなさい。これは私が言っているんじゃなく、神様が私の体を使って言っていると思いなさい。」

さすが大俳優。印象に残る話だ。


コンシェルジュ資格基準

最後にこの本の付録の東京ベイコート倶楽部のコンシェルジュ資格基準が面白い。次のような項目だ。

1.資質: 気配り、注意深さ、情報量、丁寧さ、感受性、共感性、穏やかさなど9項目

2.会社方針: リッツカールトンのクレドの様に「スタッフウィル」というものをまとめているので、暗唱できるかなど理解度、実戦度などの4項目

3.業務内容: これがメインで、道案内(台場周辺、江東区、東京都)、館内設備、外部イベント、フライト、列車、旅行アレンジ、劇場・コンサート・映画チケット手配、手配物(花など)、ビジネスサポート(タイピングなど)、外部レストラン案内、遊園地案内、言語能力、電話対応、アテンド、シガー(知識)、飲料の20項目

4.コミュニケーション全般: セクション内、部内、他部署、上司・部下の4項目

これらすべてに1〜5とSP(スペシャル?=90点以上)まで6段階の点数がある。

コンシェルジュは8割以上に3,最上級のチーフコンシェルジュは全項目について5以上(80点以上)でなければならないという内規だ。


サービス業を目指す、あるいはサービス業に興味のある人に、心構えから懇切丁寧に指導しようとする態度がよくわかり、非常に読みやすく書かれている。

前田さんの言われる内容はスッと頭に入る。さすが伝説のコンシェルジュだ。本にまで気配りが一杯である。

リッツカールトンについての本も良いが、前田さんの本も是非おすすめする。


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2007年09月15日

白い人 遠藤周作の芥川賞受賞作

白い人 黄色い人 (講談社文芸文庫)
白い人 黄色い人 (講談社文芸文庫)


オーディオブックで遠藤周作の実質デビュー作白い人を読んだ(聞いた)。

戦後すぐの芥川賞受賞作品だ。

ドイツ軍占領中のフランス リオンでの物語である。

遠藤周作自身が戦後すぐに1950年から1953年にフランスに留学しており、フランスから帰国して1955年に発表した作品だ。

小説のあらすじは詳しく紹介しないが、カトリック教徒の遠藤周作が書いたということで、背徳的な内容が話題になった作品だ。

ちなみにこの年後期の芥川賞受賞作は石原慎太郎太陽の季節だ。

遠藤周作のデビュー作など、本ではなかなか読もうという気にならないが、オーディオブックなら通勤の行き帰りに聞けるので、気軽に読める(聞ける)。

オーディオブックの活用を是非おすすめする。



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2007年09月08日

パリスの審判 ワインの国際化のきっかけとなった1976年の試飲会

+++今回のあらすじは長いです+++

パリスの審判 カリフォルニア・ワインVSフランス・ワイン
パリスの審判 カリフォルニア・ワインVSフランス・ワイン


カリフォルニアワインがフランスワインに勝った伝説の1976年の試飲会のレポート。

著者のジョージ・テイバー氏はタイム誌の特派員として当時フランスに駐在しており、このブラインド試飲会に立ち会った唯一のジャーナリストとなった。

本のタイトルの「パリスの審判」は1976年のパリのワイン試飲会と、ギリシャ神話でトロイアの王子パリスが、女神コンテストの審判となり、世界一の美女を与えると約束した女神アフロディーテを選んでスパルタの王妃ヘレナを得、それがトロイ戦争につながったという「パリスの審判」にちなんでいる。

読んだ本しか買わない主義の筆者が、久しぶりに買った本だ。

単に伝説の試飲会とそれをとりまく中心人物を詳しくレポートするだけでなく、この試飲会をきっかけに、世界各地でフランスを超えるワインを生産しようという機運が高まり、結果として世界のワインビジネスの拡大につながったことがよくわかる。


French Paradox

1991年にアメリカのCBSテレビの人気番組60ミニッツは"The French Paradox"を取り上げた。

フランス人はフォアグラやチーズ、バターなど高脂肪食をたくさん食べるのに、心臓病はアメリカ人より少ない。その理由は赤ワイン=ポリフェノールの抗酸化作用だというフランスのボルドー大学の科学者の学説を紹介した。

それ以来、アメリカでも日本でも赤ワインブームが起こり、近年は中国や東南アジアなどの新興国のワイン新規需要が加わり、高級ワインの価格は毎年値上がりを続けている。

フランスのシャトーワインなどは年々高くなり、筆者の友人のソムリエの内田さん(NHKの「どんど晴れ」に出演している内田朝陽君のお父さん)はいつもこぼしている。

しかしプレミアム格付けワインの生産はボルドーでもわずか5%であり、実はそれ以外のワインの方が重要なのだ。


フランスのワインビジネス

フランスでは一人当たりのワイン消費量が、1926年の136リットルから最近は50リットル以下に下がっており、ワインを毎日飲む人の比率は1980年の47%から2000年には25%に下がった。

そのためフランスのワインビジネスにとっては、輸出ビジネスが唯一の活路なのである。

ところが世界のワイン輸出に占めるフランスのシェアは1990年の52%から、2003年には39%に落ち込み、他方新大陸のワインのシェアは1990年の4%から、2003年の21%と大幅に上昇した。

オーストラリア一国でも1990年の1.5%から2003年には9%にまで増加した。


ワインビジネスで最も重要な価格帯

ワインの価格帯は最低価格帯、10ドル前後、10〜20ドル、50ドル以上の4つに分かれており、このうち最もワインビジネスで重要なのが10〜20ドルの価格帯である。

この価格帯の顧客は、ワイン需要が急速に拡大している西ヨーロッパ以外の国であり、これらの国の裕福な消費者にブランド認知度が上がると、次は高価なワインも買ってくれるという好循環となってくる。

フランスが世界最大のワイン輸出国であることは変わらないが、チリやオーストラリアの大手生産者はフランスの強力な競合相手となってきた。


世界的なワイン生産の拡大

そこそこの品質のワイン生産は世界の至る所で拡大しており、最近ではインドや中国、モロッコ、ブラジルなどのワインが日本でも出回る様になった。

フランス、イタリア、スペインのワイン生産量は減少し、輸出量もここ10年でフランスは25%も減少する一方、新大陸のアメリカ、オーストラリア、チリなどは軒並み数倍の伸びを示した。

細かい温度管理が可能なステンレスの発酵タンク、特殊弁、フレンチオーク樽など、フランスで生まれた技術、フランスと同じ条件での生産が、世界中で可能となったのだ。

アメリカのワイナリー数は1976年には579で、そのうち330がカリフォルニアだった。これが2004年には全国で3,726にも拡大し、カリフォルニアだけでも1、689となった。

25のワイナリーがカリフォルニアのワイン生産の95%をい占め、ワインは基本的には大企業のビジネスだが、残りの1、664のブティックワイナリーが高級ワイン市場を大手から徐々に奪い取っている。


歴史的試飲会

かつてはフランスワインが世界の高級ワイン市場を牛耳っていたが、フランスの覇権に最初に風穴を開けたのが、1976年のパリのブラインドテイスティングだ。

この本では試飲会が行われた背景や、参加した6銘柄のカリフォルニアワインと4銘柄のフランスワインの歴史や特徴なども詳しく説明してある。

もともとこの試飲会は、パリでワインショップとアカデミー・デュ・ヴァンというワイン学校を始めたイギリス人スティーブン・スパリュアの思いつきで行われたものだ。

アカデミー・デュ・ヴァンは1987年に日本でも開校したワインスクールの老舗だ。筆者の知人の弁護士・桐蔭横浜法科大学院教授の蒲先生も初期の生徒で、川島なおみ、マリ・クリスティーヌと一緒にワインの勉強をしたそうだ。筆者もいつかはワインスクールに行きたいと思っている。

試飲会の審査員は全員フランス人で、ワイン専門誌の編集者、高級ワインを審査するAOC委員会の主席審査員、DRC(ロマネコンティ社)の共同オーナー、シャトー・ジスクールのオーナー、トゥール・ダルジャンのソムリエ、タイユヴァンのオーナー、3つ星レストラングラン・ヴュフールのオーナーシェフ、レストランガイドのゴー・ミヨ紙の販売部長など9名だ。

ワインはテイスティングの直前にカリフォルニアに旅行したスパリュアが持ち帰った24本だった。フランスの白ワインはすべてブルゴーニュ、赤ワインはすべてボルドーだった。

誰もがカリフォルニアワインがフランスワインに勝つことなど予想しておらず、カリフォルニアでも高品質のワインができることを、フランスのワインプロフェッショナルにも知って貰おうという軽い気持ちだった。

ところがブラインドテイスティングという審査法が、白ワインでも赤ワインでもカリフォルニアがフランスに勝つという予想外の結果につながった。

試飲会の様子については、主催者のアカデミー・デュ・ヴァン日本校のサイトにも「世界を変えたワインテイスティング ー パリ対決」として詳しく紹介されているので、このコラムも参照頂きたい。

AduV








白ワインはシャトー・モンテレーナが一位

まず白ワインのテイスティングが行われた。フランスブルゴーニュを代表するモンラッシュ、ムルソーもあったが、1位になったのは、カリフォルニアのシャトー・モンテレーナだった。9人のうち6人が1位に選び、総合でも132点と2位のムルソー・シャルムの126.5点に大差を付けた圧勝だった。3位もカリフォルニアのシャローン・ワインヤードで121点だった。

Montelena










写真出典:Wikipedia

このときのシャトー・モンテレーナのワインメーカーがクロアチアからの移民で、現ガーギッチ・ヒルズ・セラーの共同オーナーのマイク・ガーギッチだ。

筆者はガーギッチ・ヒルズ・セラーを訪問したことがある。これが商品カタログだ。

シャトー・モンテレーナで有名になったシャルドネ以外に、フメ・ブラン、カベルネ・ソーヴィニオンをつくっており、カリフォルニアワインとしては比較的高い価格で販売している。

Grgich Hills








赤ワインはスタッグスリープワインセラーズが一位

白ワインの審査結果が発表されて審査員全員が衝撃を受け、赤ワインではなんとしてもフランスワインを勝たそうと決心した中で、赤ワインのテイスティングが始まった。

しかし赤ワインでもカリフォルニアのスタッグスリープワインセラーズが127.5点で、ボルドーの1級ムートン・ロートシルトの126点、3位のボルドーでも最古参の15世紀から続くシャトー・オーブリオンの125.5点に僅差で勝利した。

4位は122点のシャトー・モンローズで、1位から4位まではほぼダンゴ状態だ。

それから20点近く差がついて南カリフォルニアのリッジ・ワインヤードだった。

Haut Brion
Mont Rose















しかしスタッグスリープを1位に選んだ人は一人だけで、一位投票で最も多かったのはオーブリオンの3人、ついでモンローズの2人だ。

筆者の意見では、赤ワインではカリフォルニアの勝ちとは言えないと思う。

元々誰もカリフォルニアが勝つとは予想もしていなかったので、白はブルゴーニュ、赤はボルドーだけが出品されたが、ブルゴーニュの赤ワインや、シャトー・ラトゥールシャトー・マルゴーが出品されていたら、結果は違ったのではないかと思う。

この結果が出て、フランスでは審査員が叩かれた。

2位となったムートン・ロートシルトのオーナーのフィリップ・ド・ロートシルト男爵は審査員の一人に電話をかけ、「私のワインになんて事をしたんだ。一級昇格に40年もかかったんだぞ」とどなったという。


スタッグスリープワインセラーズ

筆者はスタッグスリープワインセラーズに行ったことがある。これが当時のワイナリーでの価格リストだ。

Stags Leap









ワイナリーに行ってもCask 23はじめ、SLVとかFayとかの違いがわからなかったが、この本を読んで初めて畑ごとのブランドの違いがわかった。Cask 23はいい年のみ1.500ケースだけつくられ、SLVとかFayは畑の名前だ。

Stag's leap











写真出典:Wikipedia


フランスのシャトーワインに勝ったワインということで非常に期待して訪問したのだが、正直特に優れているとは思わなかった。

テイスティングルームはアットホームな感じで、5ドルでいろいろテイスティングでき、テイスティンググラスはおみやげとして持ち帰りできる。少人数のワイナリーツアーもあり、たぶんナパバレーで最もサービスの良いワイナリーだと思う。

種々のワインのテイスティングの他、自分でもSLVを買って日本に持ち帰ってソムリエの内田さんと飲んでみたが、味と香りは今ひとつ印象が薄かった。

尚、似たような名前だが、スタッグスリープ・ワイナリーはなんの関係もないので、要注意だ。



筆者の好きなワインの話題ゆえ、ついあらすじが長くなりすぎてしまうので、このへんでやめておくが、ニュージーランドのマルボロ地区でのソーヴィニヨン・ブラン(辛口白ワイン)が、フランス・ロワール地方のサンセールを超えるワインをつくっているという注目すべき話や、オーストラリア、南アフリカ、ポルトガル、チリ、オレゴン州ウィラメットバレーでのワイン生産のレポートも面白い。

1855年のパリ万博の時のボルドーワインの格付けは、価格だけで決められたとか、雑学にも最適だ。


ワインに興味がある人には、大変楽しめる本だ。是非おすすめする。


(「続きを読む」にその他のカリフォルニアワインとナパ・バレー産ワインビジネスをつくった四人を掲載してあります)


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2007年09月06日

国家と外交 田中均元外務審議官と田原総一朗の対談

国家と外交
国家と外交


表紙に田原総一朗とのっぺりした田中均(ひとし)さんのツーショット写真が載っていて目立つので、読んでみた。

このブログでは、いままで拉致被害者家族連絡会事務局長の蓮池透さんの手記「奪還」など数点の拉致問題に関する本のあらすじを紹介している。

特に蓮池透さんの手記で、めちゃくちゃにこき下ろされているのが、この田中均元外務審議官だ。

Wikipediaでも田中氏については割合詳しく書いてある。

京都大学卒(運動部はゴルフ部)で1969年に外務省に入省し、すぐにオックスフォード大学に留学、卒業後日本に帰らずにジャカルタに赴任した。

ジャカルタではインドネシアを訪問した田中角栄首相が反日デモで三日間一緒に迎賓館に閉じこめられ、田中首相と同行していた田中眞紀子さんと懇意になる。

帰国して南東アジア課、経済局でODAを担当、ワシントン大使館、北米二課長、北東アジア課長、在サンフランシスコ総領事、経済局長、アジア大洋州局長を歴任し、2002年外務省NO.2の外務審議官になり、2005年に退官した。

北朝鮮拉致問題解決のキーパーソンとして、北朝鮮の「ミスターX」と秘密交渉を重ね、小泉総理の訪朝を実現したが、8人死亡、5人生存というショッキングな情報が明らかとなり、しかもその情報を確認もしないで受け入れたとして、後からボコボコに非難された。

特に2003年に田中氏の自宅に爆発物が仕掛けられた時は、石原都知事が、「爆弾を仕掛けられて当ったり前の話だと思う」と暴言を吐いたことでも有名になった。

いわば近年の対北朝鮮日本外交の悪役である。

「田中氏ほど毀誉褒貶の激しい外交官はいない」と評する田原総一朗との30時間にも及ぶ対談は、田中氏の外交官としての信念と大局観がわかり、日本の国益を計ろうとする外交官の現場の考えがわかって面白い。

対談だからこそなのかもしれないが、こういう言い方をすると誤解されるなというところも見受けられる。


田中氏が考える日本外交の原点

田中氏は「外交官という職を選んだときから、日本にとって一番脅威があって、かつ日本の歴史的な背景から見て外交の原点はどこかと考えたときに、それは朝鮮半島だろうということを一貫して思っていた」と語る。

「まず日本が朝鮮半島を植民地支配したという歴史的事実はぬぐえない…北朝鮮との正常化は進んでいない、という現実がある。…たから朝鮮半島に平和をつくるという作業は、日本という国の外交として、最も能動的にやるべき重要課題だというのが、私の認識だったんです。」と語る。

植民地支配に対する謝罪と補償を求めてくる北朝鮮に対して、「ちょっと待て。植民地支配の問題(過去の問題)についてはきちんとした清算はする。だけれども、いまある問題(=拉致問題)について解決しない限り、そこまで行き着かないよ」という交渉をするのだと。


田中氏の「大きな地図」

田中氏は北朝鮮に「大きな地図」を呼びかけたと。

大きな地図とは「われわれの目的は朝鮮半島に大きな平和をつくることだ。そのためのロードマップをつくりましょう。このロードマップは北朝鮮の利益にもかなうことです。あなた方もこれが自分たちの利益になると思うなら、拉致問題を解決しなさい」というものだった。

小泉前首相も、「俺はそういう大きな平和をつくるために北朝鮮に行く。事前に拉致の情報がとれなくても、俺は行く」と言ってバックアップしたと。

ミスターXとは2001年秋から30回以上、週末の秘密交渉をしたという。もちろん外務大臣も事務次官も了承の上での交渉で、毎週金曜日と月曜日に官邸に報告に行ったという。

ミスターXが誰かという点については、北朝鮮にはいろいろな反対勢力がいるので、彼の立場と日本の国益を考えて、今は明かせないが、金正日を動かすことができる人物だという。いずれ何十年かして外交文書が公開されたらわかるだろうと。

本当の意味での交渉はまだ終わっていないのだと。

朝鮮半島で戦争が起こらないようにソフト・ランディングすることは、関係各国の共通の思いで、その路線の中で6ヶ国協議を通して拉致問題を解決しようとしていることを、一般の人たちにもよく理解して欲しいと田中さんは語る。


拉致被害者を軽視、政治家をバカにしているとの批判

上記の日本外交の原点といい、大きな地図といい、国家を動かす外務官僚という信念があっての発言だろうが、裏を返せば国益優先で、拉致被害者(国民)を軽視しているという批判にもつながりかねないと思う。

田中さんは政治家をバカにしていると批判されているそうだ。

わかる様な気がする。上記の様な信念で行動している外交官なので、政治家を見下していると思われるのかもしれない。


湾岸戦争のトラウマが日米防衛協力の新ガイドラインにつながった

湾岸戦争の時は、日本は130億ドルも資金を出していながら、自衛隊を派遣しなかったことで、クウェートに全く評価・感謝されなかった。

当時は海部内閣で、小沢幹事長は日本も法律を作って多国籍軍に参加しようとしたが、廃案となった。小沢氏は武力行使までやると言っていたので、これが反発を呼んだのだと。

この反省と1993年/94年の朝鮮半島危機の時に、日本はなんの準備もできていないことがきっかけとなって、1997年に日米防衛協力の新ガイドラインができた。それに続き周辺事態法が1998年に成立した。

様々な事態を想定したシナリオで、田中さんはこの新ガイドラインをつくるときの責任者だったのだと。

この一連の動きが有事法制整備だ。


外交は一定の曖昧さを残すことに意味がある

中国の王毅駐日大使に説明に言ったときに、有事とは台湾海峡を含むのかと質問され、「そんなことは言えない」と答えたという。

「それは中国の行動次第だ。中国がしかけ、戦争になったときに、日本が行動を取らないことはありえない。しかし台湾問題が平和的に解決されるかぎり、ガイドラインが発動されることはない。すべて中国の行動次第なのだ」と。

しかし政治家が台湾海峡は入る入らないの議論を始めてしまったのだと。

外交というものは、一定の曖昧さを残すことに意味がある場合があり、旗幟鮮明にしてしまうと、かえって事態を悪くする一例であると。


中国問題は今考える必要がある

田中氏は、日本は少子高齢化で国力が落ちていくわけだから、10〜15年後には中国と日本の国力が交わるタイミングが来る。そのときにどういう日中関係かは、国力が交わってから考えるのでは遅いと語る。

いまから考えるのだという。


佐藤優氏とは接点ほとんどなし

同じ時期に外務省で働いていながら、田中氏は、佐藤優氏はほとんど知らないそうだ。能力のあった人だと思うが、彼の集めた情報を政府の中で生かすシステムがなかったという。

佐藤優氏の著書でも、アルマジロになった外務省高官の話はあったが、田中氏の名前は出てきたかどうか、記憶がない。

佐藤氏からも田中氏の評価が聞きたいものだ。


小泉首相の独断専行のやり方など、日本外交の様々な出来事の舞台裏などもわかって面白い。元外交官の守秘義務もあってか、衝撃の告白的な話はないが、信念を持った外交官という印象がある。

蓮池透さんの本と一緒に読むべき本かもしれない。拉致問題を複眼的に考える上で、参考になる本だった。


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2007年09月04日

社員監視時代 情報セキュリティ対策がわかる

社員監視時代 (ペーパーバックス)
社員監視時代 (ペーパーバックス)


社員監視時代というタイトルだったので、学生時代に読んだジョージ・オーウェル1984年を思い出したが、実は情報セキュリティの本だった。

1984年 (ハヤカワ文庫 NV 8)
1984年 (ハヤカワ文庫 NV 8)


いきなり個人情報漏洩事件の話から始まり、ソフトバンクBBが導入した監視ソフトSeer Innerが紹介される。(その後製品はseer innner SAという製品と二つにわかれたようだ)

このSeer Innerとは、筆者も導入したことがあるSeer Insight社(現エンカレジ・テクノロジ社)の、コンピューター端末のリアルタイム監視ソフトだ。

こんな具合に利用者の端末の操作画面が表示され、誰がどういう作業をしているのか画面がリアルタイムで監視できる。

Seer Inner 2






その社員のパソコン画面だけ大きく表示する機能もあるので、社員がパソコンでトランプゲームなどをしていると、管理者にすぐわかってしまう。

Seer Inner 3







写真出典:Seer Innerサイト


ソフトバンクBBは、このSeer Innerを導入するとともに、オペレーションルームの厳しい入退室管理に加え、ビデオカメラでの監視も実施している。

同社のSOC(Security Operation Center)では、常時十数名の社員が24時間・365日監視にあたっており、社員・アルバイトも含めた15,000台のパソコンを監視している。

リアルタイム監視といっても、網の目をくぐり抜けて不正を行う社員もいるかもしれないが、常時監視していると社員に告げることによって、過去起こったような個人情報漏洩持ち出し事件は防げると関係者は断言している。

Seer Innerの他にもAll WatcherLanScopeCatというログを、システマティックにすべて収集するソフトも紹介されている。

フォレンジック(Forensic)という聞き慣れない言葉があるが、犯罪科学という意味で、これらソフトはForensicソリューションと呼ばれている。


オフィスの生産性向上にも役立つ

社員の監視というとネガティブなイメージがあるが、マイクロソフトが提供しているIPA(Individual Productivity Assessment)と呼ばれるサービスは、ホワイトカラーの生産性改善を目指したものだ。

それ自体はあまり儲からないということなので、現在もマイクロソフトがIPAサービスを提供しているかどうかわからないが、この本でも紹介されている東洋タイヤのケースがマイクロソフトジャパンのホームページに紹介されている。

エンジニアの仕事ぶりを2週間程度カメラで記録し、それを分析して生産性改善点をレポートするというサービスだ。たとえばエクセルのコピーアンドペーストの使い方や、ショートカットの活用等で、生産性がアップする。


最大の抵抗勢力はシステム管理者!?

この本では情報セキュリティ導入の裏話も紹介していて参考になる。監視ソフト導入の最大の抵抗勢力はシステム管理者だという。

アクセスログは証拠として調査される可能性があるが、従来はシステム管理者は都合の悪いログは削除していたのだと。

にわかには信じがたい話だが、ありうる話なのかもしれない。


社員監視システムは「砂上の楼閣」

この本で参考になったのが、リアルタイム社員監視システムとかは、見た目には派手で、社員に与える不正抑止効果もあるが、LANの内部を暗号化しないと、監視している画面から情報が漏れ、セキュリティホールとなって、情報漏洩のリスクが増えるという指摘だ。

だからセキュリティは順番が大事で、まずLANに流れるデータを暗号化するのが大前提だと。

LANの中身を暗号化するソフトはフリーソフトもあるが、製品として提供しているメーカーは少ない。セキュリティ業界にとっては、LANの内部を暗号化するというのは商売にならない。

だからクライアント企業に教えず、内部情報の暗号化なしに監視ソフトを入れる「砂上の楼閣」が増えているのだと。

なるほどと思う。

情報がすべて暗号化されていれば、万が一漏洩しても本人への連絡も、監督官庁への報告も不要だ。非常に役立つ指摘である。


個人情報名簿業者の実態

もう一つ参考になったのが、個人情報を売買する名簿業者への取材だ。

この本では名簿業者大手のイアラ・コーポレーション社長にインタビューしている。

いままで名簿業者とはどういう会社か実態がわからなかったが、この本で紹介されているイアラ・コーポレーションはホームページもあり、2005年の個人情報保護法施行以降も事業を続けている。

まさに個人情報保護法に従った適法な名簿販売業をやっており、いわゆるオプトアウト方式で、削除しろと言われたら削除するというやり方で、個人情報を販売している。

同窓会や各種団体の会員名簿などリストとして販売しているものの紹介と、5,000万件のデータから希望のターゲットを絞ってリストアップするサービスがある。

イアラは元々はブレーンという会社で、ダイレクトメールなどのダイレクトマーケティングの会社だったが、ダイレクトマーケティング部門は日立グループに販売して、日立ブレーンという会社になり、リスト部門だけが残っているものだ。

イアラ社長の話で印象に残ったのが、名簿業者が販売しているデータはどれも「名前、住所、電話番号」だけだという。

つまり元データは電話帳等なので、それだけではどんな意味のある個人情報かわからないが、イアラの保有する大量のデータから名寄せして、条件にあった人をリストアップしてデータベースとして販売しているので、たとえば高額納税者リストとか、意味のあるデータとして売れるのだという。

この本は2005年発刊だが、2007年3月の経産省の最新のガイドラインでも、名前、住所、電話番号のみの名簿は電話帳と同じ扱いとなる。名簿業者のビジネスは、依然として適法なのである。

個人情報漏洩の唯一完全な対策は、個人情報を持たないことだと言われているが、特に利用価値のない住所と電話番号は、保有せずに削除して、必要な時に都度個人から取得するというのが、有効な個人情報セキュリティ対策となってくるだろう。


「1984年」現代版

最後にジョージ・オーウェルの「1984年」の現代版ショートストーリーもある。

著者の小林雅一さんは、大学を卒業して某大手電機メーカーに入社したそうだが、昼の12時ちょっと前に同期みんなで、社員食堂に行ったら、だれも皿を取ろうとしない。

みんな白線の向こうで待機しているのだ。12時のブザーが鳴って初めて、みんな動き始めたと。

これを聞いて、筆者は思い当たる会社がある。筆者も最近同社の社員食堂に行って、全く同じ体験をしたからだ。

最後に本当の監視も出てきて、なかなか面白く読める本だった。

情報セキュリティに興味のある人に役に立つ、おすすめできる本である。


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2007年09月01日

高野聖 泉鏡花の名作 オーディオブックで聞いてみた

高野聖 (集英社文庫)
高野聖 (集英社文庫)


最近日本の小説をオーディオブックで読んで(聞いている)。

筆者は、いずれ引退したら図書館に通って、今まで読んでいなかった日本や世界の小説を心ゆくまで読みたいと思っている。

そんな訳で普段はあまり小説、特に古典的小説は読まないのだが、最近名作のオーディオブックにはまっている。

前回は宮沢賢治だったが、今回は泉鏡花だ。

泉鏡花の「高野聖(こうやひじり)」は、いままで名前だけ知っていた程度だったが、オーディオブックを図書館で借りて、毎日駅まで歩いていきながら聞いた。

小説のあらすじは詳しくは紹介しないが、旅の途中の僧侶が経験した不思議な話で、妖怪話と言ってもいいストーリーだ。泉鏡花の作風は幻想文学とも呼ばれている。

佐藤慶の朗読もいいし、オーディオブックなら繰り返し聞けるので便利だ。読むのとは別の楽しみが味わえる。

これからも毎週オーディオブックで、名作を読もう(聞こう)と思っている。

小説のオーディオブックも是非おすすめする。


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