2008年01月31日

人はなぜ太るのか あたらめてダイエットを考えてみるのに最適な本

人はなぜ太るのか―肥満を科学する (岩波新書)


新潟大学教授で、予防医学、長寿科学が専門の岡田正彦教授による肥満のメカニズムを解説した本。

岡田教授自身はやせていて太りたいと思っているという。


実は筆者はここ半年で、4−5キロ体重が増えてしまった。

石井東大教授の「スロトレ」を読んで、基礎代謝を上げるために、筋肉をつけるべくトレーニング量を増やしたのだ。

体重は一旦は筋肉量の増加で増え、その後は減ってくるものと予想していたが、体重が4−5キロ増えたきり減らないのである。

おかしいと思って読んでみた本がこれだ。


ひと言で言って、筆者の場合は、カロリーの摂りすぎだった。

筆者の場合、毎日飲んでいたゲータレード、夕食時の牛乳、そして朝食シリアルに入れるドライフルーツやプルーン、ミックスシーズなどがカロリー過多の要因だった。

男性の場合は炭水化物、糖質の摂取量が肥満につながる。週末の夕食のデザートも肥満に直結する。

この本を読んで減量対策がわかったので、まずは一日500キロカロリー程度減らすべく、週0.5キロくらいのゆるやかな減量を始めたところだ。


横道にそれてしまったが、この本で覚えておくべきポイントは次の通りだ:


三大栄養素の整理

3大栄養素の体内での働きは次の通りだ。

1.タンパク質は1グラムで4カロリー。タンパク質のもとはアミノ酸で、不要なアミノ酸は体外に排出されるため、肥満の原因にはならない。

2.炭水化物も4カロリー。炭水化物のもとは糖分で、余分な糖分は脂肪酸に変化し体内に蓄積されるので、肥満の原因になる。

3.脂肪は9カロリー。脂肪のもとは脂肪酸で、余分な脂肪酸は中性脂肪として蓄積されるため、肥満の原因になる。


炭水化物のグリセミック指数(GI値)

アメリカで5年間にわたる調査の結果、男性は糖分を摂っているグループが圧倒的に太り、女性では脂肪を多く摂ると太ることが分かったという。

だから男性の場合には、炭水化物・糖質対策が重要だ。

炭水化物を食べて一定の時間で血糖値がどの程度上昇するかを指数で示したものが、グリセミック指数(GI値)だ。同じ炭水化物でもグリセミック指数の高い食品の方が、はやく空腹感を覚え、間食を取ってしまうので太る傾向がある。

また全く同じ総カロリーにもかかわらず、グリセミック指数の大きい食事ほどインシュリンの分泌量が格段に多く、アドレナリンと成長ホルモンが上昇することがアメリカの実験でわかった。つまりGI値の高い方が、肥満につながりやすいのだ。

この本によると、主な食品のグリセミック指数は次の通りだ:

70−79 パン、ベーグル、コーンフレーク、にんじん、かぼちゃ、ドーナッツ
60−69 全粒パン、クロワッサン、パイナップル、アイスクリーム
50−59 ご飯、オートミール、ゆでたポテト、とうもろこし、ポテトチップス、ポップコーン、バナナ、オレンジジュース
40−49 ぶどう、オレンジ、チョコレート
30−39 スパゲッティ、ヨーグルト、リンゴ、梨
20−29 ソーセージ、牛乳、グレープフルーツ
10−19 ピーナッツ

ネットで検索すると、次のような日本の食品のGI値を紹介したサイトがあるので、参考になる。

GI値






日本ではそばが良いと言われるが、これもグリセミック指数が低いからだ。ちなみに筆者が朝食で食べているブランフレークは、穀類では春雨に次ぎGI値が低い。


運動療法

健康的にやせる方法として、減量ペースとしては1週間に0.5キロ、1ヶ月に2キロを岡田さんはすすめる。ダイエットだけで0.5キロ減量するためには、毎日500キロカロリー以上も食べる量を減らす必要があるので、運動も必要になってくる。

まずは歩くこと、そしてジョッギングでも1時間8キロくらいでゆっくり走ること。水中では体重が1/10になるので、水泳もひざなどに負担が少なく無難な運動だ。

それと腹筋を鍛えるために、レッグレイズそして腕立て伏せをすすめている。

さっそうと歩くように心がけたり、エレベーターやエスカレーターに乗らないことも有効だ。

ちなみに筆者の現在のルーティンは次の通りだ。

平日1−2回 : 加圧式トレーニング 15分
平日1−2回 : 腕立て伏せ50回とレッグレイズ15回 x 2セット
土曜日     : 1キロ以上水泳(クロール)
日曜日     : 2−4キロジョッギング

月曜から金曜日: 駅まで2キロウォーキング

岡田さんのすすめる3種類の運動処方箋にも近く、妥当だと思われる。


果物の効用

バナナをはじめ、果物はカロリーが低いので、肥満対策にも効果がある。

次のように比較すると果物が良いことがわかる。

ミカン1個       35キロカロリー
バナナ1本      85キロカロリー
プリン1個      200キロカロリー
あんパン1個    200キロカロリー
大福1個       160キロカロリー
シュークリーム1個 160キロカロリー

特にバナナは良い。

東京マラソンはじめ、マラソンでは栄養補給用にバナナが大量に用意される。

岡田さんも「バナナは単糖であるぶどう糖と果糖、2種類のしょ糖、それに多糖類に属するスターチが微妙な割合で含まれている。それぞれ、体内でぶどう糖になるまでの時間が異なるため、血糖値のレベルが長時間にわたって維持されるので、長時間の運動には最適の食品なのである」と語っている。

もちろんバナナだけ食べていては栄養が偏るので、他の食品も摂る必要があるが、バナナはGI値が低いこともあり、腹持ちも良く、その意味でもダイエットには効果的だ。

尚、筆者はバナナと牛乳の組み合わせが好物だが、牛乳は脂肪量が極めて多いので、大人にとっては肥満の原因になる。

200CCの牛乳で140カロリーくらいあるので、上記のシュークリーム1個と同じくらいのカロリーである。子供にはバナナと牛乳は最適のコンビネーションだが、減量には牛乳は適さない。


アルコールでは体重は増えない

この本を読んで初めて知ったが、アルコールはカロリーが高いように思えるが、分解され体内に残らないので、それ以外の成分のカロリーのみが体に吸収される。

ビールのレギュラーサイズと清酒1合は、ほぼ同じ50キロカロリー程度で、食パン1/3程度だ。

アルコール以外の成分の少ない蒸留酒、たとえば焼酎などは、アルコールを除けば、ほとんどゼロカロリーだ。

酒類で太ったとしたら、つまみのせいで、ダイエットのためにアルコールをやめる必要はないと岡田さんは語る。


ダイエット薬など

ダイエットピルやダイエット手術についても岡田さんはコメントしている。

やせ薬のなかには、食欲をなくすものもあるが、かなり危険な副作用があるので、日本では自由に購入できる市販品はない。

フェンフルラミンエフェドラが有名だが、どちらも危険な副作用がある。中国のやせ薬でも死者が出たことも記憶に新しい。

甲状腺ホルモンや成長ホルモンも副作用がある。漢方薬も同様で、薬でやせるのは危険が大きいという。

アメリカではハリウッドスターでなくても、手術で胃を小さくしたり、小腸を切り取って胃とくっつけるという手術も行われているという。

そんなことをしなくても、適度な運動とともに、毎日の食事を見直して、少しでもカロリーを減らせるものはカットして、それで摂取カロリーを減らして減量するのが正道だろうが、ショートカットを求める人もいるものだ。


水を飲んでも太るという人がいるが、水だけで太れるなら人類の食糧問題は解決すると岡田さんは言う。考えてみれば当然の話だ。

GI値の違いでやや異なるが、基本的には摂ったカロリーがそのまま体重増加につながる。要は足し算の問題だ、ダイエットに奇跡はないのだ。

いろいろ迷信が多いダイエットにつき、正しい理解ができる。写真もほとんどなく、学術書のような本ではあるが、内容は大変参考になる。

フィットネスを気に掛ける人に、是非おすすめできる一冊である。


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2008年01月30日

お金持ちになる人、ならない人の仕事術 ブライアン・トレーシーのやる気を起こさせる本

お金持ちになる人、ならない人の仕事術


アメリカの成功哲学の代表的作家、ブライアン・トレーシーのやる気を起こさせる本。

原題は"Change your thinking, change your life"だ。

筆者は気に入った翻訳本は、原著のオーディオブックで何度も何度も聞くことにしている。

ブライアン・トレーシーの本は、「カエルを食べてしまえ」を読んで気に入ったので、"Eat that frog"の英語のオーディオブックを持っているが、このシリーズも英語のオーディオブックを購入するつもりだ。

本だとなかなかもう一度読み直そうという気にならないが、オーディオブックなら繰り返し聞くのに適しているので、本当に頭にたたき込みたい内容なら、オーディオブックが最適だ。

ちなみに「カエルを食べてしまえ」は、高校生の長男に渡したら、非常に気に入り、長男もよく聞いている。

カエルを食べてしまえ!


Eat That Frog!: 21 Great Ways to Stop Procrastinating And Get More Done in Less Time


150ページほどの本に、金持ちになる方法というよりも成功する方法のヒントが10章にわたり60挙げられている。さらに各章には、実践テクニックとして、いわゆるnutshell(ナットシェル)のまとめがついている。

各章は、かなりエキセントリックなタイトルがついている。

1.お金持ちになる人は運を味方にする! ー は大まちがい

2.屈辱をバネにして相手を見返せ! ー は大まちがい

3.強い信念を持っている人が成功する! ー は大まちがい

4.裕福な人ほど心は貧しい! ー は大まちがい

5.まずは業界トップをめざせ! ー は大まちがい

6.仲間はいつまでも大切にしろ! ー は大まちがい

7.ブレのない人が信頼を集める! ー は大まちがい

8.トラブルは未然に防げ! ー は大まちがい

9.ビジネスに熱い感情はいらない! ー は大まちがい

10.貯蓄よりまずは自分へ投資しろ! ー は大まちがい



アドバイスが60もあるが、印象に残ったポイントを10だけ紹介する。

この種の本は一度読むだけでなく、自分の行動パターンが変わるように、何度も何度も読み返して頭にたたき込む必要がある。


02.現代のお金持ちの多くは、一代で財を築いている
全米に約500万人いるお金持ちの多くは、親の遺産によってではなく、一代で財産を築いた人たちだ。彼らは貧乏から身を起こして一生懸命に働いて巨万の富を築いた。

自力で財を成す秘訣をひと言で表現すると、考え方を変えて潜在能力をぞんぶんに発揮するということだ。

多くのお金持ちは貧乏から身を起こし、潜在能力を存分に発揮して巨万の富を築いた。あなたも目標を掲げて、すぐに行動を起こそう。


03.お金儲けに必要なのは才能ではなく技術
私はこの約40年間、富裕層の研究をしてきた。一代で財産を築いた人たちを調べていくうちに、出身や学歴、年齢などに関係なく、一つの共通点があることに気づいた。

彼らはみな、想像を絶するくらい大きな困難を乗り越えて成功しているのだ。

研究を始めた頃、私は安アパートにひとりで住んでいた。職がないうえに多額の借金を抱え、中古車のローンすら払えないありさまだった。

第一の発見は、成功者は凡人とは違う方法で物事に取り組んでいることだった。

私も彼らと同じやり方に切り替えた。5年で借金を完済し、次の5年で純資産が100万ドルを突破した。

振り返ってみると、それは奇跡でも何でもなかった。私がしたのは、成功者たちがしたことを学び、それと同じことを粘り強く実行して同じ結果を得ただけなのだ。

無一文から出発した多くの成功者を見習おう。彼らの成功の秘訣を実践すれば、あなたも成功する。


11.成功者は人のサクセスストーリーが大好き
貧しさから身を起こして一代で財産を築いた多くの成功者の人生を調べた結果、彼らのほとんどが若いころから伝記と自叙伝を熱心に読んでいたことがわかった。

自分が尊敬し、目標となる人をひとり選ぼう。その人の考え方や感じ方を学び、自分の人生観の中に取り入れよう。


25.大事なのは上位10%をめざすこと
自分についての考え方を変える最も有効な方法のひとつは、卓越性にこだわることだ。自分の分野で上位10%に入るという決意を今すぐにしよう。

トップである必要はない。ただし、競争社会で勝ち残るためには、上位10%に入る必要がある。


26.成功者は人より3%すぐれているだけ
幸い上位10%に入ることは、あなたが思っているほど難しくない。大多数の人たちはめったに卓越性にこだわらないからだ。

しかし、もしあなたが成功者になりたいなら、そんな人たちのマネをしてはいけない。卓越した業績をあげるために、よりいっそう努力すべきだ。

肝心なところでほんの少しすぐれていることが、やがて積もり積もって大きな結果の差につながる。

まず、平均的な人より3%すぐれていればいい。あとは学習と努力を継続すれば、いつのまにか上位10%に入ることができる。



29.成功者はなぜ早起きなのか?
成功者はよい習慣を身につけるために自分を律している。

よい習慣を身につければ人生は快適になる。毎朝午前6時か6時半には起きて、紙の上で一日の計画を立てよう。これは多くの成功者に共通するよい習慣だ。


37.成功者の決定の7割は本来まちがっている
あなたを妨げる要因は二つある。一つは硬直した精神だ。固定観念である。もう一つは、一貫性を維持しようとすることだ。

エマーソンはこう言っている。「愚かなまでに一貫性を維持しようとするのは小人物の特徴だ」

あなたは自分が仕事と人生で下す決定の7割は、長い目で見るとまちがっている可能性があることを理解すべきだ。

自分の決定がまちがっていることがわかれば、素直に自分の非を認めよう。優秀な人ほど余裕と柔軟性がある。


42.成功者は失敗しない方法を最初に考えない
成功者はうまくいかないときでも、すぐに立ち直って前進し続ける。それに対し失敗者は、すぐにあきらめて引き返すことが多い。

失敗にどう対処するかが、成否の分かれ道だ。「どんな問題に直面しても、落胆せずに前進し続ける」と自分に言い聞かせよう。


47.お金を稼ぐアイデアを生み出すテクニック
マインドストーミングと呼ばれるテクニックだ。まず紙に自分の目標や問題を質問形式で書いてみよう。つぎに少なくとも20個の答えを思いつく訓練をしよう。

20個のアイデアを思い浮かべて紙に書く習慣を身につけよう。脳を活性化すれば、お金を稼ぐ方法が見えてくる。


60.お金持ちになるために本当に必要な条件
リーダーシップに関する3,000以上の研究を調査したところ、ひとつの共通点が見つかった。それは勇気である。

実際、高い目標を掲げる人はいくらでもいる。だが、それを実行に移す勇気を持っていない人がほとんどだ。

勇気のある人とは、夢を持ち、目標を設定し、とにかく第一歩を踏み出す人のことだ。

失敗してもいいから、恐怖を感じていることを実行する勇気を持とう。そうすれば、もはや恐怖を感じることはない。


ブログは情報発信と自分の記憶にたたき込むという2つの目的がある。

実はこのブログを書いて、筆者も自分で必死に覚えようとしているのだ。ブライアン・トレーシーの言っている内容は、60にも上るが、一つが見開き2ページにまとまっていて、読みやすく、頭にスッと入る。

キーワードは、勇気、目標、努力、継続だ。

誰でも成功者になれる。その他大勢より3%すぐれるように努力すれば。

ここでは紹介できないが、その他にも有用なアドバイスが満載だ。自分の習慣を変えることができれば、この本の定価1,000円の元はすぐ取れる。

是非手にとって見て欲しい本であり、頭にたたき込んで欲しい本だ。


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2008年01月28日

再掲:夜と霧(原題:心理学者収容所を体験する) ヴィクトール・フランクルの不朽の名作 

2008年1月28日追記:

ヴィクトール・フランクルの「それでも人生にイエスと言う」を読んだ。

それでも人生にイエスと言うそれでも人生にイエスと言う
著者:V.E. フランクル
販売元:春秋社
発売日:1993-12
おすすめ度:4.5
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たしか本田直之さんのレバレッジリーディングに、推薦されて居たのではないかと思うが、別の本かもしれない。記憶が不確かだ。

この本は、以下にあらすじを紹介する名作「夜と霧」の著者、心理学者のヴィクトール・フランクルが、強制収容所から解放された翌年の1946年にウィーンの市民大学で行った講演を集めたものだ。

内容は「夜と霧」と重複する部分が多いので、詳しいあらすじは記さないが、フランクルが強制収容所生活を生き延びることができた理由として、「人生の問いのコペルニクス的転換」を挙げているので、これを紹介しておこう。

生きることに疲れた人に対して、フランクルは、ものごとの考え方を180度、コペルニクス的転換をして、「私は人生にまだなにを期待できるか」を問うのではなく、「人生は私になにを期待しているのか」を問うべきだという。

「生きる意味があるか」と問うのは、はじめから間違っているという。

私たちは人生に問われている存在なのであると。

日本では自殺者が年間3万人以上いる。警察庁の統計を見て頂きたいが、2万強で推移していた自殺者数が、平成10年から一挙に1万人増え、3万強となっている。

首都圏では、人身事故で電車が遅れない日は、ほとんどないという現状だ。

このあらすじを読む人は、自殺など考えたこともない人が、ほとんどだろう。

しかし、万が一魔が差して、自殺を考えるような時が来たら、是非このフランクルの「夜と霧」を読んで、24歳の美しい妻をはじめ、家族すべてをナチスに殺され、自らも強制収容所に収容されてもなんとか生き抜いた心理学者の話を読んで欲しい。

そして「生きる意味があるか」を問うのではなく、「人生は私になにを期待しているのか」を考えて欲しいと思う。


2006年11月27日初掲:

夜と霧 新版夜と霧 新版
著者:ヴィクトール・E・フランクル
販売元:みすず書房
発売日:2002-11-06
おすすめ度:5.0
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ナチスにより強制収容所に入れられ、九死に一生を得て生還した心理学者ヴィクトール・フランクルの不朽の名作。

原題は「心理学者収容所を体験する」という簡単なもの。副題が「夜と霧」だった。

夜と霧とは夜と霧に紛れて、人々が連れ去られた歴史的事実を表現するものだ。

筆者は1978年から1980年まで軍事政権下のアルゼンチンに2年間駐在した経験があるが、当時の軍事政権は反政府的な行動・言動をした人を、まさに夜と霧に紛れて連れ去り、密殺していた。

この蒸発者は2万人ともいわれ、『汚い戦争』と呼ばれていたものだ。

フォークランド紛争の敗戦で、軍事政権が倒れ民主政権となってからは、大々的に『五月広場(大統領府の前にある広場)の母たち』として、蒸発者の親たちが集団で抗議行動をしていた。

軍事政権下で多くの人を殺した実行犯が告白を始め、次第に事実が明らかになってきたが、戦争中のナチス政権下でなくても、普通の国のアルゼンチンでさえ、『夜と霧』があったのだ。

スティーブン・コビーの大ベストセラー『7つの習慣』にも、強制収容所という極限的な環境の中でも、いかにふるまうかという人間としての最後の自由を奪うことはできないとヴィクトール・フランクルの言葉が紹介されている。

7つの習慣―個人、家庭、社会、人生のすべて 成功には原則があった!7つの習慣―個人、家庭、社会、人生のすべて 成功には原則があった!
著者:スティーブン・R. コヴィー
販売元:キングベアー出版
発売日:2008-08
おすすめ度:4.5
クチコミを見る


フランクルはドストエフスキーの言葉を紹介している。「わたしが恐れるのはただひとつ、わたしがわたしの苦悩に値しない人間になることだ」。

最期の瞬間までだれも奪うことができない人間の精神的自由。

それは、どのような覚悟で生きるかだ。生きることが意味があるなら、苦しむことにも意味があるはずだという考えだ。

こう書くときれい事のように聞こえるが、この本を読んでみると強制収容所という環境での様々な人間模様と、生き方が実体験として冷静に描写されており、深い感動を覚える。

フランクルの家族は全員収容所で亡くなったそうだが、家族がどうなったかなど、個人的なことは一言も書いていない。

ただ単に当時24歳だった奥さんへの愛が、フランクルが生き続けることができた理由だと書いてあるだけで、感情を押し殺した冷静な描写には驚くばかりである。

ヴィクトール・フランクルは家族と一緒に、アウシュヴィッツにまず送られた。

到着してすぐにカポーという収容所への協力者に気づく。魂を売り渡した被収容者だ。最初に選別され、左と言われた人(ほぼ90%)は、到着してすぐガス室直行だ。

フランクルはシャワーノズルから(殺人ガスでなく)水が出たので、みんな冗談を言い合ったことを最初の反応と言っている。

死と隣り合わせの生活で、感情はなくなり、常に飢えている、そんな状態でも(生きているのか死んでいるのかわからないが)、奥さんの姿を心の中で見ることで、至福の境地になれるのだと語る。

収容所の様々な風景、人間模様が描かれているが、時として衝撃の話が出てくる。

フランクルはアウシュヴィッツからガス室のないドイツのダッハウ収容所に移送され、そこで解放された。

アウシュヴィッツに残った仲間の一人と再会したが、アウシュヴィッツは最後は人肉食が始まり、地獄となっていたのだと。

収容所の1日は1週間より長いと言うと、収容所仲間は一様にうなずいたという話も驚くべき話だ。

全編を通じて、精神力/気力がゆえに、人は極限状態でも生存できるということを強く感じる。

たとえば1944年のクリスマスと1945年の新年の間にかつてないほどの死亡者がでたのも、クリスマスまでには解放されるという素朴な希望にすがって生きていた人たちが、落胆と失望にうちひしがれたからだ。

生きていることに何も期待が持てない人たちはあっという間に崩れていったと。

収容所の監視側でも人間らしい人はいた。

ダッハウ収容所の所長は親衛隊員だったが、被収容者のために自費で薬を買ってこさせていた。解放後はユダヤ人被収容者がアメリカ軍から所長をかばい、アメリカ軍占領後もアメリカ軍からあらためて収容所長として任命されたのだ。

旧版訳者の霜山徳爾さんの言葉や、訳者の池田香代子さんのあとがきも良い。霜山さんはフランクルと個人的にも親しく、自らも戦争に行った経験を持ち、特攻を黙認した天皇に対して、血が逆流する想いが断ち切れないと。フランクルの書は大いなる慰めであると。

訳者の池田さんは、この本の旧版と新版で違う点を指摘している。旧版ではユダヤという言葉が一言も出てこないのだと。

新版でもユダヤ人が出てくるのは上に紹介したダッハウ収容所長の話のところだけだ。

改訂版が出た1977年はイスラエルが第4次中東戦争で勝利して、ユダヤ人移住を奨励し始めた年だ。

被迫害者が迫害者となって、パレスチナ人民を追い出している。そんな情勢を憂えて、立場が異なる人たちが尊厳を認め合うストーリーとしてこの話を入れたのではないかと語っている。

原題の「心理学者収容所を体験する」が示すとおり、冷静すぎるほど冷静な収容所体験談である。

冷静な描写ゆえに深い感動を呼ぶ。

是非おすすめできる一冊である。


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2008年01月26日

レバレッジ時間術 「レバレッジ」シリーズの本田直之さんの時間活用術

レバレッジ時間術―ノーリスク・ハイリターンの成功原則 (幻冬舎新書 ほ 2-1)


「レバレッジ」シリーズでベストセラーを連発している本田直之さんの時間活用術。

前回はレバレッジ・リーディングのあらすじを紹介した。

「仕事は一番忙しい人に任せよ」とは、いろいろなところで聞くことだが、本田さんは、忙しくても「忙しい」と言わないことをルールにしようと言う。著名な経営者や総理大臣のスケジュールに比べれば、自分はまだまだ甘いことがわかるだろうと。

時間は消費するのではなく、時間を投資するのだという。1時間掛かっていたことを、5分でやるというブレークスルーは、コツコツでは生まれない。選択と集中でポイントを絞り込み、限られた時間で最大の効果を上げる。そして余った時間を余暇に使うのだ。


時間投資の基本は「仕組み」つくり

本田さんはパソコンを使い出した時に、ブラインドタッチができるように5日間の集中トレーニングを受けたという。このトレーニングで、その後どれだけ生産性が上がり、時間が節約できたのかわからないという。

時間を投資するということは、このように仕組みをつくったり、仕事の段取りを考えたり、スケジュールの作り方を工夫したりすることにより時間資産を増やすことだ。


レバレッジ・スケジューリングの3本柱

レバレッジ・スケジューリングの柱は次の3つだ。

1.俯瞰逆算スケジューリング
2.時間割
3.タスクリスト

本田さんは、手帳は使わず、PDAと1ヶ月単位の書き込めるカレンダーを使って、アクティブスケジューリングを実施している。

アクティブスケジューリングとは逆算型で、本の出版や売上30%アップなど3ヶ月から半年先の明確な目標を設定し、目標達成のためにやらなければならないことを、他の予定とのバランスをとりながらスケジュールに落とし込むやりかただ。

これにより仕事の成果はあがり、プライベートの時間も余裕が出る。


横道にそれるが、筆者はまとまった仕事ではマイクロソフト プロジェクトを愛用している。マイクロソフトプロジェクトは、全体を俯瞰できるとともに、どこかが遅れると、全体を自動的に遅らせたり、メンバーの仕事量管理ができる。

アメリカでは、コンサルのみならず、普通の会社でもよく使われている。日本ではあまりポピュラーではないが、便利なソフトなので、興味があればマイクロソフトのプロジェクトのサイトで試用品ダウンロードを試して見て貰いたい。


本田さんが逆算スケジュール管理を始めたのは、高校3年の春からだという。大学合格に必要なことだけをやるスケジュールを逆算で考えて、受験勉強をしたという。

会社のスケジュール管理は、俯瞰・逆算でやっている人が多いだろうが、個人のスケジュール管理は俯瞰・逆算でやっている人は少ないと本田さんは語る。

最近は手帳の使い方に関する本がよくあるが、「夢に日付をつける」とか「ビジョンを掲げる」も同じ、目標設定を明確にする仕事術・成功法であると。

PDAは日々の予定管理に使う。本田さんの場合、日本にいるのは年に半年ほどなので、毎日のランチとディナーの時間はすべてブロックしてあり、すべて人と会う時間にしているという。

人と会うことは、仕事の一部であり、重要な自己投資でもあるからだと。


一日の時間割による時間家計簿

本田さんは一日の時間を次の4つに分類して、時間家計簿をつけている。

1.自己投資のインプットの時間
2.仕事をしているアウトプットの時間
3.食事や風呂などの生活の時間
4.自由に使うプライベートの時間

これを1ヶ月程度続けてみると、テレビを見たりしてダラダラ過ごす不明時間の多さに気が付くはずだと。この不明時間を少なくし、インプット/アウトプットの成果を数値化して、見直すと効果が大きい。

ちなみに本田さんの1日のスケジュールは、朝5時に起き、入浴しながら2−3時間の読書。それから午前中2時間はジムで汗を流し、昼はレストランが混む前の11:30から誰かと必ずランチ、2時から仕事で7時までに終了。毎日誰かとディナー。そして帰宅は10時から11時頃だという。

最後はタスクリストだ。毎朝5分程度、その日に具体的になにをすべきかをメモ書きする。To-do-listと呼ばないのは、To-doだとやらされているという語感があるからだという。

その他に備忘リスト、仕事の段取りのチェックリスト、Yahoo!カレンダーなどの無料リマインダーメールサービスも併用しているという。


ハウツー本として様々なテクニックを紹介

時間密度を高める様々なテクニックが紹介されている。

「チリツモ勉強法」、「雑誌は全部読むな」、「スキマ時間に雑誌・新聞を読む」、「名刺のベストな整理法は捨てる」、ケータイでPCメールが読めるリモートメールサービス、「機器のマニュアルは必ず読む」、「電車に乗らない生き方」、「都心に住むという生き方」、「メイン・オフィスはバスルーム」などだ。

仕事も100点が必要な仕事と、80点でいいが、スピードが求められている仕事があるので、仕事で求められているレベルを見極めることも重要だと、本田さんは語る。

「あいつは早く帰るヤツ」と思わせるとか、「仕事90分、休憩10分」で脳を活性化とか、「早起き早寝」、「15分昼寝」などハウツー本として、自分の生活・仕事のノウハウが紹介されている。


「やらないこと」を選択する

本田さんのモットーは"Doing more with less"、「少ない努力でより多くの成果を」だという。やめるとか、人に任せるとかで、時間を10分の1に短縮する方法を考えよと。

優秀な人が頭打ちになる理由は、なんでも自分でできるので、一人で仕事を抱え込んでしまうことだという。優秀な人ほど、「自分でやらないこと」を見つけ出す勇気が必要だと。

やらないことを選択する能力は、KSF("Key Success Factor")成功要因だという。

たとえば受験のKSFは、過去問と合格点ねらいだ。

本田さんが、俯瞰スケジューリングを始めたのは高校三年の大学受験の時からだったことは前に書いたが、大学受験でも過去問と合格点ねらいだったという。

また通常半年かかるといわれるワインアドバイザーの資格(以前はしろうとでもソムリエの資格が取れたが、今ではソムリエはプロのみで、しろうとはワインアドバイザーという資格になっている)を1ヶ月で取れたという。

過去問を徹底的に分析して、合格ラインの70%が取れる必須事項を覚えたのだという。

ビジネスも同様で、ビジネスの「過去問」はビジネス書だという。レバレッジ・リーディングで、いわばインターバル走法の様に、ポイントはじっくり、それ以外は流してビジネス書から、目的の事柄を学ぶのだ。


経営者の仕事は意志決定

そして無駄なことを切り捨て、最後に残る重要な仕事の「意志決定」に集中すべきで、本田さんの場合、「返答は即座に」をモットーにしていると。

最悪なのは情報不足のまま悩み続けることで、もし判断ができないなら、「その場で判断をしない」と意志決定し、すぐに情報収集をすべきであると。そして判断にかける時間は1日もあれば十分であると。

意志決定に時間がかかるという人は、ぐずぐずと判断を先延ばしせず、自分がなぜ決断できないか、その原因を分析する必要があると本田さんは語る。


日本人が好きなハウツー本で、しかもすべてに答え、やり方が用意してある。ベストセラーになるべくしてなった本である。

レバレッジ・リーディングもそうだが、この本も2時間あれば読める。

幻冬舎の本は、まだアマゾンの「なか見検索」には対応していないので、書店で手にとってパラパラとめくってみて頂きたい。

目次が節ごとに出ているので、このあらすじと目次を読めば、大体本の内容がわかると思う。

なにはともあれ、実行することが重要だ。

必ずしも本田さんのやっていることと同じことをやる必要はないが、限りある人生のなかでの時間管理に目覚めたならば、一つの例としてこの本を参考にして、是非自分のやり方を編み出して頂きたい。


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2008年01月25日

反転 逮捕されたらまっさきに差し入れるべき本

反転―闇社会の守護神と呼ばれて (幻冬舎アウトロー文庫 O 90-1)


特捜エース検事と言われながら辞任し、バブル紳士、自民党清和会、山口組トップなどの顧問弁護士もつとめ、「闇社会の守護神」と呼ばれた田中森一(もりかず)弁護士の自伝。田中さん自身のホームページもある。

アマゾンでも売上211位のベストセラー本だ。

著者の田中森一さんの文才はたいしたものだ。検察や闇社会という両極端ではあるが、どちらも世間からはほど遠い世界を動かしている力学がよくわかり、読んでいて面白い。

起訴されて公判中ということでも、国家の罠―外務省のラスプーチンと呼ばれてでベストセラー作家に転身した佐藤優氏を彷彿とさせる。

ヒット作を生み出すのが天才的な幻冬舎の見城徹社長が、佐藤優さんの成功パターンを念頭に、計算ずくで田中森一さんを売り出したのだろう。すでに半年で、共著ながらも田中さんの本が他に三冊出版されている。

「巨悪を眠らせない」と言っていた検察上層部が、実は検察OBや政治家の圧力で、平和相互銀行事件の捜査や、三菱重工CB事件、苅田町公金横領事件の追求をやめさせたとか、検察内部への告発も含んでいる。

ここまで実名を載せて書いて、元検事あるいは、弁護士としての守秘義務はどうなっているのかと思わせるほどだ。

この本に書いてある内容が本当に正しいかどうかは、わからないが、田中さんが最後に書いていることが、この本の内容をよく言い表している。

「この国は、エスタブリッシュメントとアウトローの双方が見えない部分で絡み合い、動いている」

「いちど足を踏み入れると抜け出せないような、暗いブラックホール。その深淵に立ち、覗き込むことはあっても、足を踏み入れることはできない。検事時代に感じた上層部や政治家の圧力も、これに似ている。」

「闇社会の守護神、特捜のエースと呼ばれてきても、しょせんその程度だったのではないか、と正直に思う。日本という国に存在する、深く真っ暗い闇がそこにある」



著者の田中森一さんは元特捜検事

著者の田中森一さんは、長崎県平戸出身で、貧しい家庭の8人兄弟の長男として1943年に生まれた。

実家は、半農半漁の小作人で、魚や農産物は自家用で、唯一の現金収入は年に一度牛を売って得る3−5万円だけだったという。

中学を卒業して、定時制高校に通い、浪人して予備校夜間部で苦学し、やっとのことで岡山大学に入学した。岡山大学では一念発起し、在学中に司法試験に合格した。

司法研修所では元々裁判官をこころざしたが、ある出来事で共産党系と見られてしまったので、やむなく検事になったという。1971年のことだ。それから1987年に辞めるまで、16年間、検事、そして最後の6年余りは特捜検事として活躍した。

検事になりたての頃は、月230時間残業していたという。もちろん残業代ゼロだ。仕事の鬼だ。

イトマン事件にも関わった許永中氏とともに、石原産業手形詐欺事件で二審で懲役三年の有罪判決を受け、現在上告中である。

ノンフィクション小説のような面白い内容だ。

特に、灰皿を投げつけたり怒鳴りつけるとか、何回も調書を書いては破り捨て、しまいには被疑者の根負けをねらうとか、検察の落としのテクニックを暴露しているところは、斬新で興味深い。

別ブログで紹介した通り、普通に生活していても、あなたもわたしも「それでもボクはやっていない」の様に冤罪の痴漢容疑で逮捕されることだってありうる。

筆者が、この本を「逮捕されたらまっさきに差し入れるべき本」と呼ぶゆえんだ。

詳しく紹介すると本を読む時に興ざめなので、いくつか特に印象に残ったストーリーだけ紹介しておく。


検察の内情

検察にはいわば徒弟制度があり、三つの派閥があるという。一つは赤レンガ派と呼ばれる東大法学部卒の法務省勤務が長いエリート官僚や、閨閥を後ろ盾にしている検事などだ。赤レンガ派は優遇されており、参考人程度の取り調べしかしないし、できないが、検察トップは赤レンガ派で占められている。

次は現場捜査派で、現場のたたき上げ検事だ。特捜検事になるのも難しいが、特捜検事になっても、うまくいっても最高検の検事、高検検事長、多くの人は地検の検事正どまりだ。辞めて刑事事件に強い、いわゆるヤメ検弁護士となる人が多い。

それらの中間が、準キャリアと呼ぶこともある中間層で、学閥や閨閥がなくても、法務省の重要ポストに抜擢されれば、最後は高検の検事長くらいにはなる。

田中さんは現場捜査派で、東京地検、佐賀地検、大阪地検、松山地検、高知地検と転々とし、大阪地検で特捜検事となり、次に東京地検の特捜部に転勤となったが、上層部の圧力で、政治家が絡む汚職事件の捜査がつぶされるのに憤慨して、もうどうでもよくなり、検事をやめた。

ちょうど1980年に巨人軍の王貞治選手が、その年30本もホームランを打っていながら、「三振しても腹が立たなくなったから」という理由で引退した気持ちに似ているかもしれないという。

検察といっても法務省の国家公務員であり、政府や時の権力者に都合が悪い展開となると、追求にブレーキが掛かるのは、権力に弱い官僚機構として、やむを得ないのだろうと田中さんはいう。

田中さんは検事時代に撚糸工連事件、平和相互銀行不正融資事件、三菱重工CB事件、福岡県苅田町長公金横領事件など政治家や検察OBが関与している事件で、検察上層部などの圧力で捜査を断念したという。

筆者の大学の同級生が、東京高検のかなりのポジションに居る。彼のことを思いながら、これを読んだ。


ロッキード事件と「検察冬の時代」

ロッキード事件の時は、あまりに三木政権や、外務省など官庁が協力してくれたので、やりやすかったという話を、田中さんは主任検事の吉永さんから聞いたという。

事件はアメリカ側からの仕掛けという説も根強いが、うなずける面もあると。

田中角栄は、ソ連への経済援助やシベリア共同開発、中国との国交回復など、従来のアメリカ一辺倒からよりグローバルな国際外交戦略に転じようとしていたので、日本を属国とみるアメリカの怒りをかったのではないか。

現にアメリカの異常ともいえる捜査への協力は、田中政権つぶしの意志をあからさまに示していたのではないか。

ロッキード事件は、捜査史上に燦然と輝く事件などではなく、検察が国際的な政争の具に利用されただけで、むしろ汚点を残しただけではなかったのかと思えると田中さんは語る。

事件で失脚すると見られた田中角栄は、むしろ自らの派閥を強化し、闇将軍として君臨し、検察への怨念を抱いて封じ込めにかかり、次々と息の掛かった有力代議士を法務大臣に送り込んで、法務省を支配しようとした。

そして、その間の10年間、検察は下手には動けず、「検察冬の時代」と呼ばれていたのだという。


驚く話が満載の検察官の待遇

今はこんな事はないだろうと思われる話が満載されている。

たとえば、検事が地方検察庁に赴任するときには、ヒラ検事でも各地の警察署長、消防署長、県庁の役人が列を成して挨拶にきていたという。

赴任者が検事正とでもなると、県警本部長や、国税局長などそうそうたるメンバーが挨拶に来て、挨拶に来ないのは、知事と裁判長くらいだと。

田中さんが故郷に近い佐賀地方検察庁に赴任した時は、自衛隊の好意で、ヘリコプターで実家に里帰りしたという。

田中さんは、朝日、毎日、読売の記者と常につきあっていた。彼らを通じて幅広い情報ソースを持っていたこともあって、1987年末に辞めたときには、文藝春秋に「特捜検事はなぜやめたか」という特集記事が出た。

そのためか、田中さんが検察官を退任して大阪で弁護士になったときに、6,000万円もの祝儀が集まった。ハナテンの社長などが、ポンと1,000万円の祝儀をくれたという。

「あなたは正義感の固まりだ」という相談者や、「無罪にしてくれ」という依頼人が列をなし、以前担当した事件での被告人なども知り合いの企業を紹介してくれ、顧問先は1年で100社を超え、約1,000万円/月の顧問料収入があった。

田中さんの場合は幅広い人脈があったとはいえ、「ヤメ検弁護士」は収入には困らない生活ができるようだ。

ただし、学生結婚の奥さんは検察官をやめることに反対し、それ以来別居が続いているという。

バブルの頃は、多くのバブル企業や山口組などヤクザ関係者の顧問弁護士となり、節税対策で7億円でヘリコプターを買ったほどだ。ただ、不動産などに投資した資産は40億円くらいあったが、バブル崩壊で一挙に40億円すべてすってしまったという。


こんな内情暴露もある。

検察幹部の小遣いは、捜査予備費と呼ばれる検察庁全体で2−3億円の予算のなかから、一人起訴して公判請求すれば五万円、起訴猶予だと一万円という具合に報奨金が各地検に配られていたという。

だから地方検察は逮捕者の多い選挙違反事件を好んで取り上げるのだと。

なるほどというか、情けない話だ。


大阪という土地柄

大阪府警のゲーム賭博の一斉捜査での捜査員のネコババ、ゲーム業者からの賄賂など、前代未聞の警察官汚職事件は、当時の責任者だった警察大学長の自殺という思いがけない事態が起こり、「身内をこれ以上追求してどうなるのか」というムードが高まり、尻すぼみになった。

当時の大阪府警の本部長や中心地の警察署長が転勤するときは、餞別として2,000万円から3,000万円の餞別が地元の有力者から贈られたという。こういった腐りきった内実があっての大阪府警察官汚職事件だった。

大阪では、暴力団や同和団体、在日韓国人などが複雑に絡んでいる。

当時の大阪国税局長が、同和団体に団体交渉権を認めた事実から、同和団体は税金を優遇される権利があると都合よく解釈しており、同和関係者がからむ脱税事件は捜査もおぼつかなかったという。

ある時は、同和団体の幹部を刑事告訴した弁護士の家に、毎日のように切ったばかりの豚や牛の生首が投げ込まれ、それで家族がパニックになり弁護士も告訴を取り下げるということがあった。

田中さんが意を決して、同和幹部から事情聴取したら、赤貧で育った田中さんでも思わず涙ぐむ様な話を聞かされ、追求する気が失せてしまったという。


東京地検特捜部と筋書きのつくられた事件

東京に転勤した田中さんは、特捜検事として平和相互銀行事件を担当する。本来平和相互銀行は恐喝され巨額融資をしてしまった被害者の立場のはずだった。

平和相互銀行には、検察OBの伊坂監査役もいたのに、思いもよらない容疑で経営陣が、特別背任罪で起訴されてしまった。

金屏風事件、馬毛島レーダー基地疑惑という自民党への巨額不正献金疑惑は訴追されず、結果として住友銀行が、内紛で弱体化した平和相互銀行をタダ同然で買い取る結果となった。

ちなみに、大阪では旧住友銀行と読売新聞が検察と古く強い関係を保っていて、定期的にトップと食事会を設けていた。検事正が退官して弁護士になるときは、住友銀行と読売新聞は何十社と顧問先をつけていたという。

この事件を体験して、田中さんは東京地検特捜部の恐ろしさを知ったという。

事件が検察の思い通りに、つくられるのだと。

特捜部では、捜査に着手する前に任意で関係者を調べ、部長、副部長、主任が事件の筋書きをつくって、法務省に送る。東京の特捜事件は、ほとんどが国会の質問事項になるので、法務省は事前に把握しておく必要があるためだ。

事件の真相は、実際に捜査してみないとわからず、捜査の段階で予想外の事実が出てくるものだが、特捜部ではそれを許さない。筋書きと実際の捜査の結果が違ってくると、部長、副部長、主任の評価が地に落ちるからだ。だから筋書き通りに事件を組み立てていくのだと。

上司の意図に沿わない調書は必ずボツにされるという。検事たちは筋書き通りの供述になるようにテクニックを弄して誘導していくのだと。

大阪の特捜部では尋問もしていない上役の検事が、事実関係について調書に手を入れるなどはありえないと。

こうなると、もはや捜査ではない。よく検事調書は作文だと言われるが、こんなことをやっていたら冤罪をでっち上げることにもなりかねないと田中さんは語る。


バブル企業や自民党清和会の顧問弁護士として活躍

バブル紳士として次の人たちが紹介されている。

東京に来るとホテルオークラの最高級スイートを借り切り、会う人には数十万円から数百万円の現金を渡していた5えんや(ECC)の中岡信栄会長。安倍晋三前総理の父、安倍晋太郎氏もそこにある牛乳風呂を気に入っていたという。

ちなみに田中さんは、安倍晋太郎氏が所属していた自民党清和会の顧問弁護士で、リクルート事件で安比高原リゾート開発の保安林指定解除をめぐっての政治工作疑惑で、加藤六月を弁護して訴追を免れさせ、自民党関係者からいたく感謝されたという。

大阪の街の多くのビルの屋上に、末野ビルと看板を立てたナニワの借金王と言われた末野恒産。朝日住建、富士住建など、住専問題で有名になった不動産会社の社長などとの、一晩に何百万円も札びらを切る生活、ヘリコプターで往復し、掛け金数千万円が乱れ飛ぶゴルフなどが述べられている。

ピーク時資産1兆円と言われたイ・アイ・イグループの高橋治則氏や、イトマン事件の伊藤寿永光氏、佐川運輸の創始者佐川清氏などとの、つきあいも語られている。

田中さんと一緒に起訴された許永中はバブルの頃、赤坂東急ホテルに葡萄亭ワインセラーという店を持っており、ロマネ・コンティを買い占めていたので、一本100万円もするワインをゴルフの帰りに何本も空けたという。

うらやましいというよりは、折角のワインの芸術品の無駄遣いという気がする。


拘置所での愛読書は中村天風

最後に田中さんの拘置所での愛読書が紹介されているところも、佐藤優氏の本を彷彿とさせる。

拘置所にいた頃、田中さんが最も心を打たれた本は、差し入れて貰った中村天風の「成功の実現」だったという。

成功の実現


東郷平八郎、原敬、松下幸之助などが心服したという人生哲学に、田中さんも心が洗われたという。

筆者も中村天風の名前は聞いたことがあるが、著書は読んだことがなかった。「成功の実現」は、一冊1万円もする本だが、図書館で借りたので、あらすじを紹介した


400ページ余りの本だが、中だるみがなく、最後まで面白く読める。検察や日本の政治力学の一端を知るためにも、是非一読をおすすめする。


参考になれば次クリックお願いします。


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Posted by yaori at 08:07Comments(0)TrackBack(0)

2008年01月24日

フラット化する世界 毎年アップデートされる"ダイナミック"な本

2008年1月24日追記:

以下あらすじで紹介したトム・フリードマン氏の「フラット化する世界」の増補改訂版が発売になった。書店に行ったら山積みになっており、アマゾンの売り上げランキングでも171位に入っている。

このあらすじの初掲分にバージョン3.0の日本語訳がないため、英語のオーディオブックをダウンロード購入したと書いたが、なにせ全部で27時間もの大作なので、実は現在もまだこのオーディオブックを聞いている。

改訂増補版では、最近のストーリーが多く取り上げられているが、最も印象に残ったのは一昨年ノーベル賞を受賞したグラミンバンクのムハマド・ユヌスの話だ。

ムハマド・ユヌス氏が創設したグラミンバンクでは、バングラデシュの8万人の乞食に、一人10ドル程度の金を貸して、お菓子や玩具などの訪問販売業に職種転換をはかっているという。乞食がフルタイム販売員となり、乞食から抜け出す人、半分乞食、半分訪問販売の人が増えたという。

たしかにマイクロクレジット運動で、貧困は世界からなくせるかもしれない。

この本のそこかしこにインド人などの外国人が出てくるが、オーディオブックのナレーターは、インド人や他の外国人のアクセントをまねて話しているので、芸が細かく面白い。英語に慣れている人は、オーディオブックもおすすめである。

同じ本の改訂版が、いきなりベストセラーというのも珍しいと思う。大変参考になる本なので、あらすじを再掲する。



2008年1月8日初掲載:

+++今回のあらすじは長いです+++

フラット化する世界 [増補改訂版] (上)フラット化する世界 [増補改訂版] (上)
著者:トーマス フリードマン
日本経済新聞出版社(2008-01-19)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る

前作「レクサスとオリーブの木」が世界的ベストセラーとなったピューリッツァー賞受賞3回のジャーナリスト トム・フリードマン氏の最新作。原著は2005年4月に初版が発売され、1年後の2006年4月に改訂増補版、さらに2007年7月にバージョン3.0が発売され、毎年内容がアップデートされている。

日本語版でも改訂増補版の翻訳が2006年5月に出版され、バージョン3.0の翻訳が2008年1月18日に発売される。

ひとことで言うと「ダイナミックな本」だ。

正確に言うと「ダイナミックに動く世界情勢を、(本としては)ダイナミックに追いかけている本」とでも言うべきなのだろうが、日本語版で800ページもの本が、毎年アップデートされているというのはダイナミックだと思う。

あらすじが長くなってしまったので、内容を簡潔に言いあらわした次のストーリーを紹介しておく。この本の言いたいことが大体わかると思う。

フリードマン氏は、こどもに次のように言い聞かせなければならないと語る。

「いいか、私は子供の頃、よく親に『トム、ご飯をちゃんと食べなさい ー 中国やインドの人たちは、食べるものもないのよ』といわれた。

おまえたちへのアドバイスはこうだ、『宿題をすませなさい ー 中国とインドの人たちが、おまえたちの仕事を食べようとしているぞ』。」



上下二巻の大作なので、一度図書館で借りたが結局手つかずで挫折し、今回は2度めの挑戦だ。

実は会社の上司から、筆者の昔の上司が絶賛しているという話を聞いて、興味を持って再度読んでみた。たしかに凄い本だ。筆者も今までいろいろなビジネス書を読んできているが、こんな本は見たことがない。

この本の凄いところは、著者のトム・フリードマン氏が世界各地で幅広く取材し、きら星のような企業や政府、大学のVIPにインタビューしたFirst-hand-basisの情報をふまえて、この本を書いている事だ。

巻末にインタービューした相手への謝辞を列記しているが、この本の主題のインド関係ではインフォシスのCEOやWiproの前副会長から直接話を聞いており、他にビル・ゲイツやラリー・ペイジ、エリック・シュミット(Google)、ジェリー・ヤン(Yahoo!)、IBM、マイクロソフトのエクゼクティブなど約100名がリストアップされている。

さらに凄いのは、日本語訳で800ページもの本を、毎年アップデートするという著者の熱意だ。

英語版の冒頭にバージョン3.0発刊にあたってのトム・フリードマン氏の言葉が載っている。

「一年前に本書の改訂版を発行してからも急速に時代は変化しているので、章を二つ追加し、改訂せざるをえなかった。そして評者や読者、特に子供を持つ親からの要望や質問にも答えたかった」と、インタラクティブ時代にふさわしいコメントに加えて、「出版業界もスピードアップしたので、毎年全面改訂することが可能になった」と語っている。

読んだ日本語訳より新しいバージョン3.0が既に英語で出版されていることを知り、筆者も思わず最新版の英語のオーディオブックをaudible.comでダウンロード購入してしまった。

audibleでは現在月額$7.49で毎月1タイトルをダウンロードできるキャンペーンを実施中なので、アマゾンで買ったら5,700円のオーディオブックを$7.49でダウンロード購入できた。

audible special offer






オーディオブックは27時間にも及ぶものだが、分かりやすい英語なので、英語に慣れている人には、日本語訳を800ページ読むよりもむしろ楽だと思う。英語版ならではの、インドのコールセンターでのアクセント矯正ドリルの早口言葉も面白い。

"A bottle of bottled water held thirty little turtles. It did not matter that each turtle had to rattle metal ladle in order to get a little bit of noodles, a total turtle delicacy....."


この本のタイトルのフラット化というのは、組織のフラット化というように使われているヒエラルキーやミドルマンがなくなったという意味と、地球の反対側でもインターネット等の新技術と新しい活用法により、まるで隣町のように一体化されたという意味の二つだ。

英語の初版本の表紙のイラストは、地球は丸くない平面だというFlat Earth Societyの地球平面説を意識させるもので面白い。

World is flat











写真出典:Wikipedia

筆者が一度挫折したように正直取っつきにくいが、まずは第一章の「わたしが眠っているあいだに」をざっと読んで貰いたい。

インドや中国のコールセンター、確定申告、レントゲン写真解析、業績速報などのデータ処理アウトソーシング、家庭の主婦へのホームソーシング、マクドナルドのドライブスルーの集中処理センターなど、刺激的な先進事例を多数紹介しているので、これに興味を持ったら、次章以降を読むと良いと思う。


グローバリゼーション3.0

フリードマン氏は、近世からのグローバリゼーションを3段階に分けている。

1.グローバリゼーション1,0 コロンブスの新大陸発見から1800年頃まで 原動力は国家のグローバリゼーション
2.グローバリゼーション2.0 1800年から2000年まで 原動力は企業のグローバリゼーション
3.グローバリゼーション3.0 2000年以降 原動力は個人のグローバリゼーション

フラット化した世界では、アメリカのミドルクラスは、中国・インドと競争するようになる。そこで冒頭のフリードマン氏の「勉強しなさい」発言が出てくるのだ。


インド・中国の参入でかすむ21世紀の日本のプレゼンス

トム・フリードマン氏がグローバリゼーション3.0と呼ぶ時代で、日本のプレゼンスが小さくなっていることを痛切に感じた。

800ページあまりの本だが、日本人がまともに登場するのは、最初に登場する大前研一氏の大連での日本語コールセンターやチャイナ・インパクトなどの話と、「インターネットは恐竜を死滅させた巨大隕石だ」と語るソニーの出井前会長、「東アジアでは一所懸命勉強するDNAがある」と語る野村総研のリチャード・クー氏の3人くらいだ。

日本の進んだインターネット環境や、JETRO、ドコモのワイヤレステクノロジーなどが紹介され、三洋電機、ソニーなども登場するが、印象が薄い。

21世紀のグローバリゼーションの主役は、アメリカと中国/インドなのだということを、思い知らされる。

1999年に出版したフリードマン氏の「レクサスとオリーブの木」のグローバリゼーション側の主役がトヨタだったことを思えば、テーマが異なるとはいえ日本の凋落を感じてしまう。

レクサスとオリーブの木―グローバリゼーションの正体〈上〉


ただそんなことを嘆いていても仕方がないので、先に紹介した大前研一氏の大前流心理経済学 貯めるな使え!でも力説されているように、我々日本人はこの本に書かれている世界の変化に対応して、どう21世紀を生きていくのかを考えるのだ。


世界がフラット化した10の要因

フリードマン氏は世界がフラット化した要因として、次の10項目を挙げている。

1.ベルリンの壁崩壊(1989年11月9日)と、創造性の新時代
ベルリンの壁崩壊後の東欧や旧ソ連諸国のみならず、中国やインドを加え30億人規模の経済圏が西側に合流した。ベルリンの壁崩壊と同じ年に中国では天安門事件(1989年6月4日)が起きて、開放政策、共産主義市場経済に大きく転換した。

またインドでは、それまでヒンドゥー経済成長と揶揄されていた3%の成長から、1991年のマンモハン・シン現首相による政策転換により高度成長に転換し、10億ドルに枯渇していた外貨準備も、1,000億ドルを超えた。

2.インターネットの普及と、接続の新時代
インターネットの普及は説明を要しないが、マイルストーンとしてこの本で取り上げられているのは次のようなイベントだ。MS−DOS時代からのPCユーザーの筆者にとって、同時代史として懐かしく感じられるところだ。

1977年 スティーブ・ジョッブスとスティーブ・ウォズニアックがアップルIIを発売
1981年 IBMがマイクロソフトのMSーDOSを使ってIBM PCを発売
1985年 マイクロソフトが最初のMS-Windowsを発売
1989年 ベルリンの壁崩壊
1990年 マイクロソフトがMS-Windows 3.0を発売 最初のWYSIWYG対応 パソコン通信全盛
1991年 バーナーズ・リーが最初のウェブサイトをオープン WWW, HTML, URL, HTMLなどの規格が決まる
1994年 モザイクを使ったインターネットブラウザー ネットスケープ配布開始 あの流れ星がなつかしい
1995年 ネットスケープの会社公開(8月9日) インターネットバブルをつくった
1998年 サンクスギビング(11月)頃からインターネットショッピングが急成長
1999年 インターネットバブル
2000年 3月にインターネットバブル崩壊
それ以降  オープンソース、光ファイバーによるインターネット通信の高速化

参考までにバーナーズ・リーのつくった世界初のウェブサイトは今でも見られるので紹介しておく。

infocern







3.共同作業を可能にした新しいソフトウェア
最初はコンピュータと電子メールの組み合わせ(自動確認メールなど)から始まった。XML, SOAP, AJAXを利用した共同作業用のソフトウェアの開発が進み、世界中で分業ができるグローバル・バーチャルオフィス化が進む。


4.アップローディング:コミュニティの力を利用する
もともとエンジニアには頭の良さ、自分の優れた仕事をみんなに知って欲しいという願望があり、自然発生的に世界的なコミュニティ開発ソフトウェアプロジェクトが始まった。

ウェブサーバー管理ソフトのアパッチ(名前のアパッチは、"a patchy server"(パッチだらけのサーバー)から付いたという説もある)、ジミー・ウェルズが始めたWikipedia、Linuxなどが典型だ。

変わったオープンソーシングの実例として、カナダの金鉱開発会社、Goldcorpの例が紹介されている。同社は自社の持つマイニングデータをウェブで公開し、金鉱探しコンテストを行った結果、上位入賞の5件の内4件で金鉱を掘り当てた。

ブログによる個人の情報発信、評論は社会的にも大きな影響力を持つようになり、CBSやBBCもブロガーに記事や映像を依頼するようになってきた。


5.アウトソーシング:Y2Kとインドの目覚め
インドではネール首相がつくったインド工科大学(IIT)7校が、優秀な技術開発を担う人材を大量に輩出した。IITはMITや東大よりも難しいといわれているが、それまでは人材がインドに埋もれていた。

GEのジャックウェルチ前会長は、1989年にインドを訪問したときに、インドの知的レベルの高さに「インドは知的能力が発達した発展途上国だ」と驚き、ジョン・F・ウェルチ科学技術センターをインドにオープンし、多くの仕事をインドにアウトソースした。

GEとジョイントベンチャーを組んだのがインド最大のソフトウェア会社のWiproであり、他にインフォシス、タタ・コンサルタンシーサービスなどがある。インドのソフトウェア業界が世界に躍進するきっかけとなったのは、世界を巻き込んだY2K問題対策のプログラミング、検査を下請けで引き受けたことだった。


6.オフショアリング:中国のWTO加盟
この節はライオンとシマウマの話から始まる。シマウマはライオンより早く走らないと生き残れない。ライオンは一番足の遅いシマウマに追いつけないと飢え死にする。世界で一番足の速いライオンは中国であろうと。(原著のバージョン3.0ではシマウマでなくガゼルになっているが、なぜ日本語訳がシマウマなのか不明)

2001年の中国のWTO加盟時に、中国は国際法、標準的な国際商習慣に従う旨を表明しており、その通り行動してきた。このあおりを受けたのがメキシコで、中国のWTO加盟以来メキシコでは工場閉鎖が相次いで、アメリカの第二番めの貿易相手国という地位を中国に奪われている。

大前研一氏のチャイナ・インパクトで「中国は脅威、中国は顧客、中国は競争相手」と語っていることが紹介されているが、中国は単に低賃金競争で勝っているのではない。アメリカの研究によると、中国の国営企業を除く民間企業部門では、1995−2002年で生産性が年率17%向上している。

中国がこれだけの経済発展を遂げた一つの理由は、文化大革命世代は役に立たないが、主に中国本土出身で多国籍企業の経験を積んだ「新中国マネージャー」の力が大きい。


7.サプライチェーン:ウォルマートはなぜ強いのか
史上最高のSCMオペレーターとされるウォルマートの、CPFR(共同計画・予測・補充)プログラムや、RFIDを使ったSCMが紹介されている。ウォルマートの倉庫では、伝票を廃止し、オペレーターはヘッドセットをつけて作業を行い、生産性は飛躍的に向上したという。

1988−2000年のウォルマートのCEOだったデビッド・グラスは、フォーブス誌で「最も過小評価されているCEO」とされている。

ウォルマートの中国との貿易額は国にするとロシア、オーストラリア、カナダを抜いて世界第八位だ。三洋電機はウォルマートの本拠があるアーカンサス州の工場を閉鎖せずに操業を続けたことで、今や世界最大のテレビ工場を持っている。

デルのPCをフリードマン氏自身が分解し、そのSCMを現地取材した話も面白い。様々な企業から部品を集めてマレーシアで組み立てていたが、日本企業の部品があまり使われていないのが象徴的だ。


8.インソーシング:UPSの新しいビジネス
UPSは様々な企業のサプライチェーンに食い込み、パパジョンピザの原料調達や、東芝パソコンの修理、ナイキのオンラインショップなど、「シンクロナイズド・コマーシャル・ソリューション」と呼ばれる水平分業を請負っている。


9.インフォーミング:知りたいことはGoogleに聞け
グーグルのCEOのエリック・シュミットは「検索というのはまったく個人的な作業なので、ほかの何よりも人類に力をあたえた」と語っている。

「グーグルはまるで神だ。神はワイヤレスで、どこでもいる。すべてを見通す。この世でなにか知りたいことがあれば、グーグルに聞けばよい。」というユーザーの声をフリードマン氏は紹介している。


10.ステロイド:新テクノロジーがさらに加速する
ステロイドとは穏やかでないが、ワイヤレステクノロジー、インスタントメッセージ、ファイル共有、IP電話(スカイプ、VoIP)、テレビ会議、CGなどの新しいテクノロジーが紹介されている。

ロールスロイスは、世界中の飛行機のエンジンに監視ソフトを入れ、衛星通信でリアルタイムでデータを収集し、エンジンの状態を管理しているという。


三重の集束(トリプルコンバージェンス)

コンバージェンス(集束)とは、ITバブル前後で良く使われたなつかしい言葉だが、ITと従来の技術や商習慣などを統合して、さらに良いものを創り上げる事を指している。

この本で三重のコンバージェンスと言われているのは、次の通りだ:
1.10の要因でフラットになった世界(新しい競技場)
2.旧共産圏、中国、インドなどからの30億人の新しい人々(新しい人材)
3.グローバルな水平共同作業などの新しいビジネス手法(新しい手法・ルール)

様々な例が挙げられていて、それぞれ面白いが、新しいビジネス手法として最も印象に残った例を一つだけ挙げておく。それは、イラクでの米国軍のオペレーションだ。

イラクでテロ対策に活躍している無人偵察機プレデターは、ラスベガスの基地から無線操縦されており、空からテロ勢力を監視、ミサイルで先制攻撃している。

Predator





フリードマン氏がイラクの前線司令部を訪れたとき、プレデターが写す映像を、CIA,DIA(国防情報局)、NSA(国家安全保障局)、陸軍、空軍のアナリストがリアルタイムでオンラインチャットしながら分析していたという。

陸軍と空軍や海軍は連絡も悪く、情報交換もままならなかったのは昔の話で、今や完全に協力しながら作戦を遂行しているのは驚きだ。まさに新しい時代のゲームのルールだと思う。

そしてハードだけではダメだ。無人偵察機だけでも、監視システムだけでもダメだ。それらハードを完璧に使いこなすビジネス手法がないと、このオペレーションは成り立たない。

基地では多面スクリーンにプレデターからの映像を流していたが、一つの画面ではボストンレッドソックスとヤンキースの試合を流していたというのが、いかにもアメリカらしい。


グローバリゼーション3.0を生き抜く為に

フリードマン氏は、グローバリゼーション3.0時代の人間像は次の三つだと語る。
1.かけがえのない特化した人々
2.地元に密着した人々
3.代替可能な工場労働者、ミドルクラスなど

このうち3.のミドルクラスは、これからはインドや中国との競争にさらされる。この時代を生き抜くためには、次の才能を身につけなければならない。

1.学び方を学ぶ ー まずは正しい学び方を学ぼう
2.IQよりもCQ(Curiosity Quotient)とPQ(Passion Quotient) ー 好奇心と熱意が差を生む
3.人とうまくやる能力 ー いつの時代にも人とうまくやれる人が成功する
4.右脳の資質 ー 大前さんが翻訳したダニエル・ピンクの「ハイコンセプト」を引用している。

一例として、ジョージア工科大学のクルー学長は、「才能のある学生の大部分は、教室で教わることよりも、創造的な表現手段のほうに興味を示す」と気づいて、学生受け入れ基準を変えて、楽器やコーラス、チームスポーツをやるような学生を集めた。卒業率も上がり、卒業生の質も上がり、今やマーチングバンドにチューバが24本もあるという。

クラリネット奏者の大前さんが、さぞかし喜びそうな話だ。


アメリカの強みは薄れてきている

アメリカの基礎教育はKー12といってK=Kindergartenから12年生=高校3年だ。アメリカは20世紀初頭のハイスクール運動で、高校教育までの義務化ができている。

さらに「すべてのアメリカ人を、男も女も、大学のキャンパスに立たせることが夢だ」とフリードマン氏は語る。

アメリカの強みは、高等教育であり、アメリカ全体で大学以上の高等教育機関が4,000ある。その他世界全部足しても7,768しかない。カリフォルニア州だけもで130の大学があり、130以上の大学を持つ国は世界で14ヶ国しかない。

移民や留学生を惹きつけるアメリカの魅力は、アメリカ社会が開放的で、知的財産が保護されており、柔軟な労働法があげられる。

しかし世界がフラット化したので、グローバルな水平共同作業の結果、母国で良い給料で、居心地良く快適で、多国籍企業の良い仕事が得られるようになってきた。

インド本国でITの仕事に就くことの方が、すさまじい競争になっており、今や「インドに居られるかどうか」が悩みになってきているという。

必ずしもアメリカで教育を受ける必要性がなくなってきたのだ。

ノーベル賞経済学者のポール・サミュエルソンは、アメリカは自転車レースの先頭で、後ろの人の空気抵抗を減らしてきたと言うが、これからもアメリカは先頭で行き、世界の頭脳を惹きつけなければならない。

そうしないと今まで外国人や移民の頭脳に頼っていたアメリカの高等教育と高度研究の競争力が失われてしまうのだ。


Perfect Storm

アメリカ最古の工科大学であるレンセラー工科大学長のシャーリー・アン・ジャクソンは、今の現状は"Perfect Storm"だと表現する。エアマットの空気が抜ける様に、気が付かないうちに頭が地面に着いてしまうのだと。

老壮年層の引退、若手不足、外国人不足でアメリカのエンジニアの層が薄くなるのだ。中国では大卒の60%が理工系だが、アメリカでは31%にとどまる。

プロバスケットボール選手でつくったアメリカのドリームチームは、アテネオリンピックでは銅メダルだった。もはやアメリカが突出してはいないのだと。

ベンチャーキャピタルのクライナーのジョン・ドーアは「中国の指導者層と話をすると、みんなエンジニアなんだ。だから呑み込みが早い。アメリカ人はだめだ。みんな弁護士だからね。」という。

ビル・ゲイツも「中国人は危険を冒すのが平気で、重労働が平気で、教育がある。中国の政治家に会うと、みんな科学者かエンジニアだ。数字の話ができる。」と語っている。

マイクロソフトは世界で4番目の研究所を北京に開いたが、ビル・ゲイツによると「出てくるアイデアの質がものすごく高い。これにはぶったまげた。」という。

フルタイム研究者200人を抱えるこの研究所では、次のような金言があるという「いいか、おまえが10万人に一人の人材だとしても、おまえみたいなやつは他に13,000人いるんだ」。ビル・ゲイツでなくても「ぶったまげる」話だ。

フリードマン氏は、フラット化時代に適したケネディ大統領のニューフロンティア政策のようなトップダウンの政策が必要だと語る。IBMを再生させたルー・ガースナーの様なリーダーが必要だ。ガースナーは、終身雇用をやめ、エンプロイアビリティ、雇用される能力に置き換え、IBMを再生させた。

2004年に競争力評議会によるナショナル・イノベーション・イニシアティブサミットが開催され、イノベート・アメリカと題した研究が発表された。中国はウェブに公開されていた報告書を入手し、注目していたが、ブッシュ大統領は無視して、同じ日、同じ場所での共和党支持者への演説を優先させた。

ブッシュ政権のやっているようなことをこのまま続けると、アメリカ・中国・インドは、地球環境を顧みない「悪の枢軸」と呼ばれる可能性もあるのではないかとフリードマン氏は語る。


フラット化した世界で勝ち抜く条件

フリードマン氏の「天然資源がすくないほど、その国の人はフラットな世界で成功する」という法則には、野村総研のリチャード・クー氏も賛成する。中国には「頭と胃に入れてしまえば、誰も奪うことができない」ということわざがある、「東アジアでは一所懸命勉強するDNAがある」のだと。

中東でもその例はある。バーレーンだ。バーレーンは中東で最初に石油が出なくなったが、労働者の能力開発と労働改革に力を入れ、女性の参政権も認め、アメリカと最初にFTAを結んでいる。

ちなみに前作レクサスとオリーブの木―グローバリゼーションの正体〈上〉">で「オリーブの木」側として取り上げられていたイスラムなどの民族主義者の動きの研究は、いわばフリードマン氏のライフワークでもあり、この本でも頑強な抵抗勢力として、様々な場所でふれられている。バーレーン、ドバイなどのアラブの中での穏健派、経済開発推進派と正反対の急進派イスラム勢力だ。

フラット化した世界では、インフラ、教育、法のガバナンスという3要素がそろった国が繁栄する。そしてビジネスのしやすさを判定する要素として、起業、雇用・解雇、契約執行、融資、破産・廃業のしやすさが挙げられる。

たとえばペルーではエルナンド・デ・ソトの改革により、10年かけて不法居住者120万世帯に、所有権権利書を発行した。これにより親は財産を守るために家に居る必要がなくなり、外に出て仕事を見つけられるようになった。また子供も学校に行けるようになったという。

大前さんが「心理経済学」で、なぜ南米のペルーの経済が伸びているのか、石油の出ないドバイがなぜ好調なのかと質問していたが、答えがこの本でわかった。

その他参考になる話として、石油消費削減こそ国家の最優先課題だとするセット・アメリカ・フリーの運動も取り上げられている。

プラグインハイブリッド車とアルコール80%の混合ガソリンで、1ガロン当たり500マイル(リッター当たり222KM)の燃費が達成できるので、アメリカの石油消費の2/3を占めている輸送向け需要が激減し、アメリカは石油を自給できるのだという。世界の未来像を考えるときには、これらの代替エネルギーの動きも考慮に入れる必要があるだろう。


世界情勢が手に取るようにわかり、分析もたしかだ。800ページもの大作だが、このあらすじを参考にして、興味を持ったら、是非書店か図書館で本を手にとって、ページをめくってみて頂きたい。


参考になれば次クリックお願いします。


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2008年01月20日

車輪の下 ヘッセの青春文学 あの感動をもう一度

車輪の下で (光文社古典新訳文庫 Aヘ 3-1)


最近は古典文学の新訳本が人気だ。

異常とも思える人気が出ているのは、ドストエフスキーの「カラマーゾフの兄弟」で、アマゾンの売上ランキングでも61位だ。

カラマーゾフの兄弟1 (光文社古典新訳文庫)


古典文学がこれだけ人気というのは、今までなかった現象だ。

なぜ「カラマーゾフの兄弟」なのか?なぜドストエフスキーなのか?よくわからないところだ。

最近筆者は昔読んだ小説をオーディオブックで読み直し(聞き直し)ているが、ヘッセの青春文学作品は、オーディオブックはないので、古典新訳本を読んでみた。

10代の時に読んだので、「そういえばそうだった」と、思い出す部分もあるが、それが「車輪の下」だったのか、「デミアン」だったのか、「ペーター・カーメンチント」だったのか、ストーリーがごっちゃになっている。

ほとんど筋を忘れていたため、かえって新鮮な感動を得られてよかった。


「車輪の下」は、ヘッセの自伝的作品で、ドイツのシュヴァルツヴァルト(黒い森)地方の田舎町出身の聡明なハンス・ギーベンラート少年が、難しい試験に合格して神学校に入学した後、神学校の友人との交友や、挫折を経験する青年の悩みを描いた作品だ。

車輪という言葉には様々な意味が込められ、運命の有為転変を意味すると訳者の松永美穂さんは解説している。

筆者のポリシーとして、小説のあらすじは詳しくは書かないが、今読んでも、感動が新たによみがえる。素晴らしい青春小説だ。

舞台は19世紀末のドイツの神学校だが、その入学試験のために、10代のハンス少年は、ヘブライ語で聖書を研究し、ラテン語、ギリシャ語を学んでいる。

19世紀のドイツの神学校受験生はドイツ語はもちろんのこと、ヘブライ語、ラテン語、ギリシャ語ができたのである!

そして聖書は原文のヘブライ語で研究しているのだ!

昔の人はすごかったと、つくづく思うし、自分はまだまだだなと思う。

やはり古典文学はいい。心が洗われる思いだ。

是非古典文学の再読をおすすめする。


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2008年01月16日

下流志向 多作多芸な内田樹教授の下流論

下流志向──学ばない子どもたち、働かない若者たち


専門は現代フランス思想論ながら、映画論、武道論、アメリカ文化など、幅広い分野で積極的に情報発信している内田樹(たつる)神戸女子大教授の下流論。

昔の仕事仲間で、24万社の顧客を持つ日本最大の間接資材のネットストアMonotaRO(ものたろう)の瀬戸社長にすすめられて読んでみた。

内田樹の研究室というブログが、多くの本を生み出している。

この本は、ひところの下流論ばやりの頃のベストセラーだ。

内田さんは1950年生まれということで、ほとんどのページに’’’(強調点というのだろうか?)で修飾された部分がある。最近の本には、この強調点はほとんど見られないので、ひさしぶりに学生時代の頃の本に出会ったような気がした。


エーリッヒ・フロムの「自由からの逃走」

最初に主題が、「学びからの逃走・労働からの逃走」だと説明されている。

筆者も学生時代に読んだエーリッヒ・フロムの「自由からの逃走」のように、子供達の学びからの逃走、若者の労働からの逃走が起こっているのだと。

自由からの逃走 (1951年) (現代社会科学叢書〈第1〉)


筆者が学生の時に読んだのは、まさにこの表紙の本だ。当時の教養学部では、組織論とか現代の人間とかいったゼミが人気で、フロムの本も教科書の一つになっていた。

フロムが描いたのは、20世紀前半に市民が自由主義を捨て、ナチスドイツなどの全体主義に傾斜していく現象だが、現代でも同じような逃走が学びや労働で起こっていると東京大学の佐藤学教授は指摘している。


日本の子供は世界で最も勉強しない子供?

OECDの統計によると、日本の子供は世界で最も勉強しない子供になっているという。

にわかには信じがたいが、中学2年生の校外学習時間は1995年の世界平均が3.0時間で、日本では2.3時間だった。これが1999年に1.7時間に下がり、当時の調査国37ヶ国中35番めだった。たぶん現在は調査国中最低になっていると思われると。

ネットで検索してみると、次の資料が中央教育審議会の議論のなかで示されてた。

校外学習時間調査






この本の中で引用されているデータと若干違うが傾向は同じだ。2003年の調査では、主要OECD13ヶ国のうち、下から3番目の週6.48時間だった。

筆者の率直な印象としては、日本全体の平均はこの調査の様になっているかもしれないが、私立と公立の差が大きいではないかと思う。


勉強は何の役に立つのですか?

今の子供は「先生これはなんの役に立つんですか?」と聞いてくるという。ひらがなを学ぶといった小学1年生の学習からもだ。内田さんは「新しいタイプの日本人の集団」という。

「人を殺してなぜいけなんですか?」など、内田さんは答えることのできない問いには、答えなくてよいと語る。

気に入ればやる、気に入らなければやらない。そんな選択権があると思っている子供がいる。授業を受けるという不快を耐えているのに、先生にとやかく言われる必要はないと考えているのだと。


不快通貨論

このように不快が「通貨」として流通している。その起源は家庭だという。家庭内通貨として「他人のもたらす不快に耐えること」が機能しているのだと。

家族の中で、誰が最も家産の形成に貢献しているかは、誰が最も不機嫌であるかに基づいて測定されるのが、現代日本の家庭のルールだという。

「不快通貨論」面白い指摘だ。


青い鳥症候群

自分探しの旅で、世界を旅する人は人間的に成長する可能性は低い。本当に自分探しなら、親や近親者にロングインタビューした方がよっぽど分かるはずだと。

むしろ目的は、自分についての外部評価をリセットすることではないか。

勉強は何の役に立つのかと逃げだす子供、仕事をすぐに投げ出す若者は、捨て値で未来を売り払っているのだと内田さんは語る。

未婚化・非婚化と言われているが、現実には高学歴で高収入の人たちの方が、結婚率は高く、収入と学歴が下がるにつれて離婚率、未婚率が上がる。実は社会的弱者ほど、支援者が持てないシステムになっているという。

勉強しなくても自信たっぷりで、自己決定して学校の業績主義から離脱することが良いことだと思っているのが、低い階層の出身者の傾向であると。

労働からの逃走では、自己決定フェティシズムともいうべき、「自己決定したのであれば、それが結果的に不利益をもたらす決定であっても構わない」というメンタリティがある。

日本型ニートは、このような「自己決定」する若者たちの一つの病態と考察すべきものだという。

「青い鳥」を求めて、「こことは違う場所」を求めて、「今、ここでベストを尽くすこと」を拒否しているうちに、どうにも身動きならなくなってしまった。

日本版ニートはそのように形成されているのではないかと、内田さんは分析する。


こうすれば良いという示唆を出している訳ではないが、分析はなるほどと思う。参考になる本だ。



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2008年01月12日

ウェブ時代をゆく ウェブ進化論の梅田望夫さんのウェブ版「学問のすすめ」

ウェブ時代をゆく ─いかに働き、いかに学ぶか (ちくま新書)ウェブ時代をゆく ─いかに働き、いかに学ぶか (ちくま新書)
著者:梅田 望夫
販売元:筑摩書房
発売日:2007-11-06
おすすめ度:4.5
クチコミを見る


ウェブ進化論の著者梅田望夫さんの新著。「ウェブ進化論」に次ぎベストセラーになっており、1月12日現在アマゾンの売上ランキングでは57位だ。

この本は、福沢諭吉西洋事情学問のすすめの2つの書物の関係になぞらえて、「西洋事情」が「ウェブ進化論」、そしてこの本が「学問のすすめ」にあたるウェブ時代の生き方について書いたものだと梅田さんは語る。

「ウェブ進化論」のように教養書として知識を得ようとすると、新規性が少なくて失望するが、ウェブ時代を生きていく人に対する指針として書かれたものだ。


梅田さんの経歴

梅田さん自身は、慶應の工学部を卒業後、東大の情報科学科でマスターを取った後、趣味の将棋や数学を生かした職業などを考えていたが、アメリカのバッテル研究所にあこがれ、それに近い会社としてADリトルに最低年俸で良いとして入社する。

ジェネラリストの経営コンサルタントではなく、専門性の高いコンサルタントをめざし、「レジス・マッケンナ」というテクノロジー・マーケティング戦略に特化したコンサルをロールモデルとして、ADリトルでも仕事をした。

その後社内エクスチェンジ制度を利用して、ADLサンフランシスコ事務所で勉強し、帰国して「ADL情報電子産業フォーラム」を立ち上げ、企業会員を集め、朝食会を中心としたフォーラムを3ヶ月に一度開催し、最盛時は年間1億円の売上をあげた。

このフォーラムの顧客人脈がその後のコンサルティングの仕事につながり、また梅田さんが1994年に独立してシリコンバレーに移住した時から現在に至るまでの顧客人脈となっているのだという。

ブログという新しいメディアに出会ってからは、自分の時間という希少資源を思いっきりブログにつぎ込み、自分のブログをスタートさせた。

有名なベンチャーキャピタリストジョン・ドーアは「若い心をもって、スタンフォード大学やMITを毎日うろうろ歩く」ことを若き日にやっていたというが、梅田さんもこれをロールモデルにして、CNET Japanを立ち上げた山岸さん(現グリー副社長)を窓口に、日本に出張するときは、山岸さんがこれぞと思う若い人材と会うことに努めていると語る。

そして会った一人がはてなの近藤社長だ。

ソフトバンクの孫さんが、Yahoo!を発掘する前に、まずアメリカのITに強い出版社ジフ・デービスに出資し、ZD Netを通じて、有望な企業の情報を集めたのと同じ発想だ。

梅田さんは500枚入る名刺ホールダーに、自分が仮に組織をやめて一人になったときに、自分の能力に正当な対価を払ってくれそうな人の名刺を埋めていくことをすすめている。

"in the right place at the right time"(時宜を得て)、運をつかむことができるための種まきだ。


学習の高速道路とその先の大渋滞

この本の主題になっているのは、「ウェブ進化論」で紹介されていた将棋の羽生善治さんとの対談で、羽生さんが言っていた、「学習の高速道路とその先の大渋滞」という言葉だ。

インターネットの発達により、知識は非常に手に入りやすくなったので、それを生かして、いかに生き、いかに仕事を選ぶのかが問題だ。

アップルは"iTunes U"というスタンフォード、UCバークレー、MITなどの全米の大学の講義を無料配信するサービスを2007年5月に始めたという。

i Tunes U






これからは世界のどこにいても、全米トップクラスの授業を、iPodにダウンロードして講義を受けられることになった。

学ぶ気持ちがあれば、いつでもアメリカの一流大学の授業を聴講できるのだ。

Googleは人類のあらゆる知識をデータベース化するGoogle Book Searchを2004年から始めている。日本語版も既にスタートしている。

趣旨に賛同したハーバード大学、スタンフォード大学、ミシガン大学、オックスフォード大学、ニューヨーク公共図書館と共同でスタートし、その後日本の慶應大学を含め多くの大学が参加し、既に100万冊のスキャンを終えたという情報がある。

マイクロソフトも大英図書館や、コーネル大学と組んで同様の活動を始めている。

人類の叡智として取り込むべき図書は数千万冊なので、丁寧にスキャンすれば一冊20ドルとして、数千億円の予算があればできる。

そのうちネットで検索すれば、過去の本すべてが読めるようになるのだろう。

梅田さん自身は「高速道路」を下りて、「けものみち」を20年近くも歩いてきたと語るが、ウェブ時代を生き、高速道路を走る「ネットアスリート」に対して、次のキーワードを挙げている:

1. Only the paranoid survive(偏執狂のみが生き残る)インテルの元会長のAndy Groveの有名な本の題名だ。競争の激しいIT業界、半導体業界で、一時は日本とのメモリー競争に敗れ、倒産しかかったが、CPUビジネスに転換し、生き延びたインテルのグローブ元会長ならではの言葉だ。

Only the paranoid survive






2. Entrepreunership 不屈の企業家精神 

3. Vantage point 見晴らしの良い場所に出て、自分のまわりを見渡すこと 


今の日本の若者には、力があっても自信がなさすぎるという。米国の若者は力がなくとも、自信ばかりある人が多い。両極端であると。


「18歳の自分に対するアドバイス」

梅田さんは、「18歳の自分」に対するアドバイスとして、次のようなウェブ・リテラシーを持つ事をすすめるという。

1.ネットの世界がどういう仕組みで動いているのかの原理は、相当詳しく徹底的に理解している。

2.ウェブで何かを表現したいと思ったら、すぐにそれができるくらいまでのサイト構築能力を身につけている

3.「ウェブ上の分身にカネを稼がせてみよう」みたいな話を聞けば、手をさっさと動かして、そこに新しい技術を入れ込んだりしながらサイトを作って実験ができる。

4.ウェブ上に溢れる新しい技術についての解説を読んで独学できるレベルまで、ITやウェブに対する理解とプログラミング能力を持つ。

これらが、ネットとリアルの境界のフロンティアで、新しい職業に就く可能性を広げるためのパスポートだという。


二人の日本人プログラマーが、例として紹介されている。

世界のオープンソースコミュニティで尊敬されている日本人として「まつもとゆきひろ」という天才プログラマーがいる。

島根県に住んで、島根県松江市のネットワーク応用通信研究所に勤務しているが、1993年にRubyというプログラム言語をつくった。

Rubyは世界で数十万人が使う、日本初の数少ない世界プログラミング言語である。

まつもとゆきひろは世界のプログラミング言語オタクのアイドルで、島根県議会は「地域資源」(人間国宝?)として捉えているのだという。

もう一人梅田さんの親しい石黒邦宏さんというプログラマーも紹介されている。

現在はシリコンバレーに住んでいるが、寝ても覚めてもプログラムを書いているという。石黒さんはシリコンバレーに移住し、IP Infusionという会社を立ち上げ、日本のアクセスに会社を売却し、創業者利益を得た。

自分の作品として自信を持って言えるプログラム、美しい作品を作るのだという。石黒さんはいままで、こいつはすごいなあと言えるプログラマーに一人だけ会ったという。

食事しているときと寝ている時以外は、ずーっとプログラムを書くか勉強しているのかのどっちかだってことが、コード見て分かるという。


最後に梅田さんは、「自助の精神」がより求められると語る。自助の精神に基づく勤勉の継続が求められるのだ。

先日サミュエル・スマイルズの「自助論」を再度読んだが、梅田さんのウェブ時代を生きるためのアドバイスも「自助」である。

スマイルズの世界的名著 自助論 知的生きかた文庫


スマイルズの「自助論」は1858年の発刊だ。ちょうど150年前に出版された本だが、今も輝きを失っていない。いつの時代も目標を設定して、それを達成するために地道に努力する人が勝つ。

「ウェブ進化論」とは趣が異なる本だが、梅田さんの21世紀の日本、日本人に対するあせりを含んだ期待感がよくわかる Nononsenseな(きまじめで真摯な)本だ。


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2008年01月06日

図書館に行こう!その4 ミシュランガイド東京が1ヶ月で入手できた

2008年1月6日追記: 

ミシュランガイド東京を、図書館でリクエストしたら何日で読めるか実験してみたが、結果が出た。

本日入手したので、リクエストして1ヶ月だ。発売から1ヶ月以上経った今でも書店では数週間待ちなので、図書館で1ヶ月なら書店とそう変わらないと思う。

超人気の新刊書でも、図書館でリクエストすれば1ヶ月程度で読めることが、この実験でわかると思う。

是非もっと図書館を活用しよう!


2007年12月5日掲載:

前回は楽天の三木谷さんの成功のコンセプト
を図書館でリクエストしたら、何日で読めるかの実験をした。

そのときはリクエストしてから17日だった。

三木谷さんの本のあらすじは近々紹介するが、今でもアマゾンの売り上げで634位というベストセラーだ。

それでは現在アマゾンの売り上げランキングでトップの、ミシュランガイド東京を図書館でリクエストしたら、何日で読めるか実験してみる。

(「ハリーポッター7」は2008年7月発売予定の予約受付で、実際の売れ行きではない。)

MICHELIN GUIDE東京 2008 (2008)


ミシュランガイドは現在売り切れ中で、書店でリクエストしても数週間待たされるほどの人気本だ。

日曜日に図書館でリクエストしたら、予約順位7番目で、本はまだ図書館に入荷していなかった。

ひょっとすると、本を手にするまで数ヶ月掛かるかもしれない。

いずれにせよ売り上げナンバーワンを、図書館で何日で読めるかは参考になると思うので、本が入手できたらレポートする。


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