2008年10月31日

ジム・ロジャースの中国の時代 20年先まで見据えた投資

ジム・ロジャーズ中国の時代ジム・ロジャーズ中国の時代
著者:ジム ロジャーズ
販売元:日本経済新聞出版社
発売日:2008-06-14
おすすめ度:4.0
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前回紹介した橘玲さんの「黄金の扉を開ける賢者の海外投資術」でもしばしば登場したクオンタム・ファンドでジョージ・ソロスのパートナーだったジム・ロジャースの中国投資ガイドブック。「私は20年先まで見据えている」と本の帯に書いてある。

ジム・ロジャースは1988年にクオンタム・ファンドをやめ、バイクで世界一周しながら、自分の目で投資機会を見つけ、早くからいろいろな国で投資しているので、アドベンチャーキャピタリストと呼ばれている。

筆者が最初に中国に出張したのは1983年だが、ジム・ロジャースが中国に最初に行ったのは1984年とのことで、当時の状況を思い出させる。

ジム・ロジャースが最初にバイクで中国を横断したのは1988年だが、一番時間が掛かったのは、上海からカラコルム高速道路?まで3,000キロを走破することではなく、必要な許可を中国政府から取ることだったという。

筆者も記憶があるが、当時は完全な中央集権体制で、地方政府の高官は中央の官庁から派遣された役人ばかりだった。

お金も中国人が使う人民元と、外国人用の外貨兌換券の2種類があり、ホテルやレストランの料金はすべてダブルスタンダード、レストランは外国人とつきそいの中国人の食事場所が分かれていた。

中国人料金は大体外国人料金の1/10から1/30程度だったと思う。ホテルの電話はすべて盗聴されており、日本に電話して交渉戦略を打ち合わせしたりすると、すべて中国側につつ抜けになるということで、事前に暗号のような合言葉を決めて中国との交渉に臨んだものだ。

中国国内は大都市中心の外国人解放区と地方の非解放区とに分かれており、非解放区は基本的に外国人が入ることが禁止されていた。筆者は浙江省杭州から車で6時間程度の横山という場所にある工場を訪問したが、途中のいくつもの町で役場に立ち寄り、通行許可を取ってからでないと進めないという有様だった。

ちなみに杭州の近くには、揚子江が逆流するので有名な銭塘江がある。アマゾンのポロロッカと同じ現象だ。

浙江省には杭州の西湖はじめ観光名所・旧跡が多いので、今や日本語ホームページもあるが、1983年には杭州には外国人用のホテルが2軒しかなかったし、朝食にパンを頼んだらカステラのようなボロボロくずれるパンが出てきた。

ちなみに1983年はビジネスでの出張だが、中国側が気を使ってくれて西湖観光や、仏教の天台宗の総本山の天台山国清寺、高級ウーロン茶で有名な龍井茶の龍泉を訪問し、宴会は日本にも支店?がある西湖のほとりの楼外楼で「乞食鳥」を食べた。

初めて「乞食鳥」を食べたので、その調理法にびっくりした。

観光客などほとんどいなかった時代なので、当時出来たばかりの花園飯店(記憶不確か)の食堂で、中国側の通訳やホテルの従業員らと食事のあと一緒に歌を歌って宴会をした。「北国の春」が、中国ではやっていたのに驚かされた記憶がある。



話が横道にそれたが、いずれにせよジム・ロジャースが1988年から中国に注目して、実際に投資していたことには脱帽する。(1988年に中国の株を買ったことは、近々紹介する「商品の時代」に書いてあった)

大投資家ジム・ロジャーズが語る商品の時代大投資家ジム・ロジャーズが語る商品の時代
著者:ジム・ロジャーズ
販売元:日本経済新聞社
発売日:2005-06-23
おすすめ度:4.5
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この本は23年間、24万キロを掛けて書いた本と言うこともできると、ジム・ロジャースは語る。まさに実践派投資家である。


21世紀は(またもや)中国の世紀

21世紀は中国が中心になって世界を牛耳るので、子どもや孫には中国語を習わせておきなさいとアドバイスしている。2003年に生まれた娘のハッピーには、中国人の乳母をつけたので、北京語がしゃべれるという。

1970年までは「メイドインジャパン」といえば、安っぽくて品質の悪いものだったが、日本が大きく変わったのは今日中国に見られるのと同じ勤労意欲と高い貯蓄率、大企業と政府の利害の一致、技術革新の組み合わせだ。中国は日本の国土の25倍で、日本がもう失ったかもしれないハングリー精神とやる気に満ちているという。

次代のGM,マイクロソフト、AT&Tが現れるかもしれないとジムは語る。

この本では注目される業界と代表銘柄が紹介されているが、ジム・ロジャース自身がどこに投資しているかは書いていない。

この本を書いている2007年の段階で、中国株が上昇していたので、ジムはソフトランディングを予想しているが、もしもバブルが膨れ上がったら、しばらくは注意したほうが良いと警鐘も鳴らしている。その場合には、市況が底入れした段階で動けるように準備しておこうと呼びかける。

現在の中国株の市況動向から言って、底値はまだ見えないと思うが、10年、20年後の世界を考えると中国は「買い」だろうと筆者も思う。ジムが言う様に、準備をして長期保有株を仕込むのには良いタイミングではないかと思う。

shanghai stockmarket




原著はもちろん英語なので、この本でジムはアメリカなど世界の一般投資家に中国への投資を呼びかけており、中国株の歴史的背景や、中国のカントリーリスクなどにも触れている。

A Bull in China: Investing Profitably in the World's Greatest Market
A Bull in China: Investing Profitably in the World's Greatest Market


ちなみに上に挙げたペーパーバック版は2008年12月に発売予定なので、たぶん最近の状況を踏まえて改訂されるのだと思う。


中国のリスク

1.侵略者としての中国
中国はICBMを40発程度持っていると見られるが、それは米・ロの保有する核兵器の4%程度で、抑止力的なものだ。朝鮮戦争やベトナムとの中越紛争までは中国は拡張主義者と見られていたが、一人っ子政策で子どもが一人しかいない今、親が喜んで戦場に送るだろうかとジムは疑問視する。

台湾問題についても、ビッグマックを売っている国同士では戦争したことがないという「マクドナルド要因」を取り上げる。中国は軍事費に国家予算の7%(実際はその3倍と見られている)を使って、軍備の近代化を進めているが、台湾とは経済面で不可分の関係にあるので(大前研一氏は「霜降り状態」と表現している)、国民党政府となってむしろ両国は強固な結びつきになるのではないかと語っている。

2.環境問題
「僕たちは敵に出くわした。それは僕たちだった」という言葉をジムは紹介し、中国の深刻な環境汚染について説明している。

筆者は知らなかったが、石炭に多くを依存している中国の温暖化ガス排出量は今やアメリカを抜き、世界一にならんとしている。カリフォルニアの曇った空に舞う粒子の1/4は中国から飛んできたものだという。

中国と世界のエネルギーバランスを対比して紹介しておく。いかに中国が温暖化ガス排出量の多い石炭に依存しているかがよくわかる。

energy balance Chinaenergy balance world

ジムが懸念しているのは、中国が将来砂漠化してしまうのではないかということだ。インドも中国にも増して水不足はひどいという。ジムは両国をバイクで旅して、水不足のためかつては栄えた町がゴーストタウンと化しているのをいくつも見たという。

世界で最も汚染のひどい都市20のうち16は中国にある。化学汚染によって土壌の良い土地は減少し、森林は砂漠化し、工業地帯に住む子どもの8割は鉛中毒に冒されている。工場排水の80%は下水処理がされておらず、2012年には揚子江は生き物の住めない川になる恐れがある。中国は人口当たりの水の量が世界で下から13番目だといわれている。

ジムは中国の水問題を解決するために、ロシアのバイカル湖の水が使われることを予想している。バイカル湖の周辺をバイクで走ったときに、バイカル湖が米国の5大湖をあわせたよりも多くの水量を持ち、世界の淡水の20%を占める世界最大の淡水湖で、一時は中華帝国の領土の一部だったこともあるという。

次がロシアの極東の地図だ。バイカル湖と中国の間には山脈があり、モンゴルがある。距離も相当あるので、はたしてジムの言っているようになるかどうかは筆者は疑問に思う。

Russland




中国政府や民間企業が上水道・下水道・下水処理のために多くの投資をすることが見込まれ、この関連の業界もビジネスチャンスが増えるだろうと予想している。

バロンズ誌は、中国の問題点として、さらに人口の高齢化と蔓延する汚職をあげているが、ジムは何億といる地方の人が今後何十年も高齢化する人口を補っていき、汚職はいわゆるアジアンタイガーには共通する問題だと整理している。


業界寸評と銘柄紹介

ジムは中国の現状を様々な角度から分析し、関連する業界の中国あるいは台湾又は世界の主要企業のここ3年の業績、上場市場と株価コードを紹介している。紹介している業界の切り口は次のようなものだ。

1.戦時によし、平時によし − 航空宇宙産業と台湾プラステックなど台湾企業

2.流体利益 − 公害対策企業とシンガポール企業、欧米企業など

3.この世では誰もが知っている − 保険・年金、石炭、タイヤ、アルミ、通信

4.現代中国の5大革新者 − 分衆伝媒(デジタルサイネージ)、百度(検索エンジン)、中国徳信(通信)、無錫尚徳太陽能電力(サンテック、太陽電池)、アリババ(BtoB電子商取引)

5.うまい汁を啜る − 電力会社、石炭会社、石炭掘削機

6.イケ株、石油 − ペトロチャイナなどの石油会社

7.中国の風に吹かれて − アレヴァ(フランス企業、中国発の原発を建設),ユーセック(ウラン生産)、BHPビリトン(鉱山会社)、再生可能エネルギー会社など

8.アスファルトの上に立つ − 高速道路会社、港湾運営会社、建設業者

9.自動操縦 − 自動車会社、自動車部品メーカー

10.出発進行 − 鉄道会社、鉄道建設、船会社

11.船乗り計画 − 携程旅行網(旅行会社)、芸龍旅行網、空港会社、航空会社

12.全室煌々と − 上海錦江国際酒店(ホテル150軒のチェーン。1983年には上海で唯一の高級ホテルだった)、地方の旅行会社

13.空の飛び方 − 航空会社、空港会社

14.人民公社よ、さようなら、コンバインよ、こんにちは。− 食品会社

15.ジューシーな果実を − 飲料メーカー

16.タネ銭 − 食肉加工、種メーカー、農業機械

17.ファーストフード − 砂糖メーカー、牛乳メーカー

18.人民のスピリッツ − ワインメーカー、ビールメーカー

19.緑の大地 − 有機野菜、肥料

20.金を生む処方箋 − 超音波検査機、バイオ、医療サービス

21.中国の未来を保障する − 保険会社

22.宿題を少々 − 新東方教育科技集団(外国大学の入試英語教育)、通信教育、職業学校

23.建設的批判 − 不動産開発会社

24.エマージング中国 − ハイテク、宇宙・航空、インターネット(2006年末で、中国のインターネット人口は1億4千万人(そのうち76%は高速回線)、ブロガーは8千万人、中国語ウェブサイトは84万)、映画、スポーツ、クレジットカード、携帯電話(利用者5億人!)、ケーブル・テレビ(利用者1億4千万人)、出版、小売・ファッション。

1999年に中国にはスーパーマーケットは1軒しかなかったが、2003年には6万軒に増えたという。


最後にジム・ロジャースは、人民元に対する投資も比較的優れた安全な方法であると語っている。今後20年の間に、ドルに対して300−500%上昇すると予測している。次は人民元の対ドル相場推移だ。

CNY_USD




筆者が現在も使っている米国のインターネット専門銀行everbankの多通貨投資サービスの人民元口座開設を紹介している。ちなみに筆者は知らなかったが、everbank人民元以外でもいろいろな国の通貨で預金ができる


やはり足で稼いだ情報は貴重だ。BRICS、特に将来のソニー、ホンダをさがすべく中国株投資を考えている人には是非一読をおすすめする。


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Posted by yaori at 12:47Comments(0)TrackBack(0)

2008年10月29日

黄金の扉を開ける賢者の海外投資術 目からウロコのオルタナティブ投資指南

+++今回のあらすじは長いです+++


黄金の扉を開ける賢者の海外投資術黄金の扉を開ける賢者の海外投資術
著者:橘 玲
販売元:ダイヤモンド社
発売日:2008-03-07
おすすめ度:4.5
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このブログでも何冊か紹介している、「海外投資を楽しむ会」のメンバーの橘玲(たちばなあきら)さんの2008年3月の最新作。

前回紹介した「臆病者のための株入門」の続編である。

「金融2.0時代のグローバル運用法」と本の帯に書いてあるが、たしかに様々な海外投資法やジム・ロジャースなどの有名な投資家の考えがわかって、目からウコロのオルタナティブ投資指南本だ。

ただし、この本に書いてある投資戦略や節税手法は、著者の個人的な見解なので、実践するのは読者の自由だが、それによって損失を被っても著者及び出版社は一切責任を負わないと最後に書いてある。

当たり前であるが、それだけ内容が濃いものがある。

この本が書かれた2008年始め頃と現在とでは世界金融危機のため、株式、原油、新興国市場などが軒並み暴落・暴騰し、当時とは相場環境が全く違う。

円は対ドルは90円台まで行き、結局100円弱に戻ってきたが、ユーロ等他の通貨に対しては大幅に上昇した。株式市場や石油などは暴落したが、金は700ドル台と価値を保っている。

日本株はバブル崩壊後の小泉内閣時代の2003年4月28日の7607円を割って急反発し、8000円台でさらに上値を探る勢いだ。資産ポートフォリオを考え直し、新たに投資するには絶好のタイミングではないかと筆者は思っている。


金持ちかどうか判定する計算式

橘さんはこのブログでも紹介した「となりの億万長者」という本に載っている自分が金持ちかどうか知る計算式を紹介している。

期待資産額=年齢 x 年収/10

これによると筆者は全然金持ちではないが、世界一の大富豪バフェットもゴールドマンへの投資などで活発に買いあさっている今がチャンスだと思うので、できる範囲で投資をしようと思う。

その意味で、今読むには大変参考になる本だ。読んだ本しか買わない筆者が、読んでから買った今年4冊目の本である。


この本は次の構成となっている。

序章  さよなら、プライベートバンカー

第1章 究極の投資VS至高の投資

第2章 誰もがジム・ロジャーズになれる日

第3章 ミセス・ワタナベの冒険

第4章 革命としてのヘッジファンド

第5章 タックスヘイヴンの神話と現実

第6章 人生設計としての海外投資

終章  億万長者になるなんて簡単だ


序章の「さよなら、プライベートバンカー」では、プライベートバンカーの起源は十字軍の遠征までさかのぼり、財産を相続や放蕩などで失わない様に、執事に委託したことから始まると説明する。

財産保全を目的としていたので資産運用のノウハウは元々なく、強固な守秘性が売り物だったが、マネーロンダリング対策でスイス政府が守秘性を認めなくなると、運用成績で優れているゴールドマンサックスなどの投資銀行に取って代わられたという。

香港のプライベートバンカーは「私たちは絶滅していく人種なのです」、「プライベートバンクは、ベントレーのようなものです。今の時代に、好きこのんでこんな手のかかる車に乗る人はそれほど多くありません」と言っていたという。

「高級車に乗ったからと言って特別な目的地が用意されているわけではありません。電車やバスを使っても、同じ場所にたどりつくことができるでしょう」と。

この本では、金融業は元々情報産業であり、純粋にグローバルな産業なので、Web2.0情報革命とともに個人がエンパワーされ、機関投資家やヘッジファンドと対等の立場で、何億円も儲けられる「金融2.0時代」になったことを様々な切り口から説明しており、参考になる。

その切り口が、「美味しんぼ」の山岡の海原雄山(機関投資家などのプロフェッショナル)に対する「究極の投資」であったり、ジム・ロジャースだったり、ミセスワタナベという架空のFXに投資する主婦であったりして面白い。


究極の投資と至高の投資

「究極のメニュー」とはマンガ「美味しんぼ」で貧乏サラリーマンの山岡が実の父である美食家海原雄山の「至高のメニュー」に対抗するメニューだが、それになぞらえて橘さんは「究極の投資」を紹介する。

「至高の投資」がプライベートバンクなどのプロの投資であるのに対して、「究極の投資」はサラリーマンなど庶民ができる投資だ。

そのやり方はオーソドックスである。アセットアロケーションの3分割法、つまり債券・不動産・株式だ。

富裕層は豪邸などの不動産資産を持っているので、あとは日本・世界債券と日本・世界株式を組み合わせる。これがプライベートバンクがアドバイスする「至高の投資」だ。

これを300万円程度の資金で実現しようとするのが、庶民の「究極の投資」である。


サラリーマン債券?

まずはサラリーマンの人的資本を評価する。富裕層は働いていないので、彼らの人的資本はゼロだが、庶民は働いているので、サラリーマン債券を保有していると考える。

生涯賃金3億円(年収は入社時250万円、退社時1,300万円、退職金3,000万円とする)の標準モデルで考えると、入社直後の人的資本は1億4千万円、40歳で1億3千万円、50歳で1億2千万円と計算できる。

1億円のサラリーマン債券からサラリーという金利を得ていると考えても良い。

だからサラリーマンが債券に投資するのは不要で、全額株式に投資すべきだと橘さんは語る。またサラリーマン債券価値を毀損しないために、専門知識や特殊技能を身につけて人的資本の充実を計るべきだと。

金持ちでも全く仕事をしていない人は少ないはずなので、サラリーマン債券というのは奇抜な発想ではあるが面白い考え方だ。

そこで投資の基本法則1.だ。

金融資産に比べて、人的資本が圧倒的に大きい場合(つまりサラリーマンの場合ということだ)、全資産を株式で運用すべきである。


投資にはレバレッジをかける

山岡は1億円のサラリーマン資産を保有しているのに、投資額は300万円、つまり3%だ。保守的な機関投資家ですら、3割は株式投資しているので、山岡ももっとレバレッジを掛けてたとえば1,000万円くらいのリスクを取るべきだと論じる。

300万円しか貯金がないのに、1,000万円も投資して損をしてしまうと破産してしまうではないかと言う人がいるかもしれないが、これはマイホーム購入と同じだと橘さんは反論する。

新築の不動産の購入がそれだ。300万円の頭金で、3000万円の物件を買い、しかも新築物件は買ったとたんに1−2割価値が下がる。

これはレバレッジ10倍で、不動産に投資していると解釈でき、しかもほとんどの人が損をしている。

ワンルームマンションなども、本当に儲かるならワンルームマンション会社自身がやっているはずだ。

マイホームを購入した人はせっとと繰り上げ返済する以外にやるべきことはないと橘さんは語る。

同じ不動産投資をするなら、マイホームを売り払って、REITに乗り換えた方が経済合理的だと橘さんは言う。REITなら東京などの一等地の不動産に投資することができるからだと。

橘さんは不動産も車も持っていないそうだが、評価損がある自宅を抱える筆者などには耳が痛い話だ。

これが投資の基本法則2.である。

金融資産に比べて人的資本が圧倒的に大きい場合、投資にはレバレッジをかけるべきである。

株式の信用取引ではレバレッジ率は3.3が限度だが、金融先物を使えば最大25倍のレバレッジが賭けられる。


全資産を海外市場に投資?

さらに投資の基本法則3.は全資産を海外市場に投資せよというものだ。

金融資産に比べて人的資本が圧倒的に大きい場合、全資産を海外資産で運用すべきである。

プレイベートバンクでは、投資家の国籍に関係なく世界株ポートフォリオが勧められ、それは米国50%、欧州30%、日本15%、その他5%というようなものだ。

オーソドックスな分散投資は債券:株式=50:50が理想と言われているので、サラリーマン債券を1億円保有する山岡が1億円の株式ポートフォリオを持つのが理想と橘さんは言う。

サラリーマンの山岡はサラリーマン債券は日本で保有しているので、全額を海外株式で運用すべきだと。

日本株は1989年末のピーク終値38915.87円をいまだに越えられないが、株価は成長率が高い国では伸びている。

nikkei





世界株ポートフォリオを保有するには

世界株ポートフォリオを保有するのは子どもでもできるという。証券会社に行ってMSCIコクサイ株価指数に連動するインデックスファンドを購入すれば良いのだと。

MSCIワールドは北米、ヨーロッパ、アジア、オセアニアの23の主要市場の大型株に投資するもので、これから日本株を抜いたものがMSCIコクサイだ、

インデックスファンドでは信託手数料がかかるので、もっとコストを安く投資したい場合には、EFTを買う。ETFは株式市場に上場されているが、相対取引なので、売りたいときに買い手がいない場合がありうる。このリスクを避けるためにできるだけ売買高の大きいEFTを購入するのだ。

代表的なEFTはS&P500に連動する「SPY(スパイダーズ)」とNASDAQ100社のインデックス「QQQQ」だ。世界投資ならバークレーズ・グローバルのiShareシリーズでMSCIに連動したEFTを上場させている。

MSCIコクサイに連動するEFTはiShare MSCI KOKUSAI(TOK)であり、これは日本の投資家にはきわめて利用価値の高いEFTである。

エマージング市場に投資するiShare MSCI Emerging Markets (EEM)を組み合わせるのも便利だ。

こうして「至高の投資」でプライベートバンクがやっていた世界株ポートフォリオが、EFTの登場で今や誰でも世界株ポートフォリオが保有できるようになったのだ。

EFTには中小型株EFTや不動産REITのEFT、石油や商品相場に連動する商品EFTもある。

EFTはまるでドラえもんの異次元ポケットの様だと橘さんは語る。「こんなことできたらいいな」と思っていると、それにあったEFTが上場されるからだと。

橘さんは国民に代わって国が年金を分散運用しているが、それを個人に返還すべきだと語る。すくなくとも個人が分散投資ができるまで金融市場は進化しているのだと。

山岡は300万円の金融資産に8倍のレバレッジをかけ、2,400万円のバーチャルポートフォリオで、海原雄山の至高の投資と対決する。このポートフォリオから8%のリターンが得られるとすると、金融資産は10年で5000万円、20年で1億円、30年で2億2千万円になる。

さらにボーナスと給料で毎年100万円積み立て、3年に一回やはり8倍のレバレッジをかけて追加投資したとすると、資産は10年で1億5千万円、20年で4億3千万円、30年で10億円となって富豪になる。

となりの億万長者」を思わせる話だ。

これを机上の空論と笑うだろうが、マイホーム投資で300万円の頭金で、2,400万円のマイホームを買うのも同じ投資だと。

金利3%で金を借りられるが、買ったとたんに不動産投資は1−2割価値を失い、30年後には上物の価値はゼロとなり固定資産税も毎年かかる。

日本人はこれまでマイホームの名のもとに、荒唐無稽な不動産投資を行い、異常とも奇妙とも思ってこなかったと橘さんは語る。考えさせられる指摘だ。

筆者はtoo lateだが、息子たちには借家で過ごすというのもアリかもしれない。一生借家で過ごす必要はなく、持ち家がどうしても欲しければ、50代くらいになるまでに資産を運用し、キャッシュで中古住宅(新築はすぐ減価する)を買えばよいのだ。


誰もがジム・ロジャースになれる日

ジム・ロジャースはジョージ・ソロスとともにクォンタム・ファンドを立ち上げた後、独立して大型バイクで世界を旅しながら中近東や西アジアなど自分の目で見つけた有望投資先や商品に投資している。

テンプルトン・エマージング・ファンドを立ち上げたスキンヘッドのマーク・モビアスも投資と旅にとりつかれた男だ。

ベトナムファンドを中小証券会社が売り出したところ、どうせなら自分で投資しようとベトナムの現地証券会社に個人投資家が殺到し、なんと証券口座の半分が日本人のものだったという。小ジム・ロジャースが何千人も集まったわけだ。

この時期ベトナム株は確実に儲かるギャンブルだったという。日本の証券会社が次々とベトナムファンドを設定し、資金が入ってくることがわかっていたからだ。

ベトナムファンドの手数料は高く、2割の成功報酬もあったので、2006年3月に設定されたファンドは60%上昇しているが、実はこの時期ベトナム株式市場のVN指数は100%上昇していたのだと。

割高な手数料のため、市場平均を40%も下回っているのだが、これは説明のどこを見ても書いていない。だからこの時期自分でベトナムで直接口座を持てば100%のリターンが得られたので、個人投資家が殺到したのだ。

これがジム・ロジャースの言うエマージング投資の報酬なのだと橘さんは語る。

第2のベトナムを求めて、モンゴルやカザフスタン、ドバイを投資家は訪れているという。

インドの株式市場は外国人を厳しく制限している。しかしニューヨーク市場に上場されているインド企業のADR(American Depositary Receipts)を買えば、インド企業にドル建てで投資できるのだ。

インド以外でもジョージ・ソロスが昨年約600億円を投資したブラジルの石油会社のペトロブラス(ソロスは相当な含み損を負っていると思う)、世界最大の鉄鉱石メーカーリオドセ、世界最大のダイヤモンド生産者の南アフリカのアングロアメリカン、世界最大の鉄鋼メーカーアセロール・ミッタルなどがADRを上場している。

アメリカの上場基準はSEC(証券取引委員会)が厳しくコントロールしているので、アメリカの厳しい上場基準を逃れロンドンで上場しているエマージング株もある。

例えばロシア最大の石油会社ルークオイル、世界最大のガス会社ガスプロムはGDR(Global Depositary Receipt)をロンドンで上場している。


エマージング投資法

エマージングマーケットに投資する方法は次の4つある。

1.日本の金融機関のエマージングファンドを買う 但し手数料が高い
2.アメリカ市場に上場されているEFTを買う i-Share MSCI Emerging Marketsなどだ。最も手軽でコストパフォーマンスが良い
3.ADRやGDRを利用してエマージングマーケットの優良銘柄に投資する 但し買える銘柄は限られ、一部の株は割高である。
4.現地の証券会社に口座を開く 時間も手間もお金もかかる

現地の証券会社に口座を開く問題を一挙に解決するオンライン証券会社が香港にできたという。

Boom証券は香港、深セン、上海、シンガポール、タイ、インドネシア、マレーシア、オーストラリアなど中国A株とベトナム株を除くと東南アジア地区のほとんどの株が購入できる。

橘さんの「至高の銀行・証券会社」という本に口座の解説方法などが詳しく紹介されている。

黄金の扉を開ける賢者の海外投資術 至高の銀行・証券会社編黄金の扉を開ける賢者の海外投資術 至高の銀行・証券会社編
著者:橘 玲
販売元:ダイヤモンド社
発売日:2008-07-26
おすすめ度:3.5
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この他にも同様のマルチマーケット・マルチカレンシー投資のオンライン証券会社はいくつかあるという。

現地の証券会社に口座を開けば、オンライン証券会社の手数料分セーブできるので、最もコストパフォーマンスは良いが、そのためには現地に行かなければならない。

しかしエマージング投資のプロのマーク・モビアスは「あらゆる人々が投資に適切と考える頃には、本当のタイミングはとうの昔に過ぎ去っている」と語る。

実際ジム・ロジャースがアフリカのガーナの株式を買ったのは1990年代だったという。

技術的にはジムと同じ事をできるようになった。エマージング投資はブームを過ぎており、急落しているが、10年先のことを考えると依然として魅力的な投資だと思う。

ただし、プロは一般人よりは一歩も二歩も先を進んでいるので、本がいろいろ出回る頃には、しろうとはブームの終わりのババをつかまされる可能性が高いことにも注意しなければならない。


ミセス・ワタナベの冒険

ミセス・ワタナベとは、実在の人物ではなく、日本の主婦トレーダーの総称だという。投資のレバレッジ率は株の信用取引では3.3倍が普通だが、外貨FXだと大手で20倍、中小業者だと200−400倍というところもあるのだ。

いわゆる円キャリートレードで、たとえば100万円の資金でレバレッジ200倍で2億円を借り、200万ドルに両替してドル金利の5%を得る。

200万ドルのバーチャルな預金から毎年10万ドルのリアルマネーが入ってくるので、元手100万円で一生暮らしていけるのだ。

架空の人物ミセス・ワタナベは数兆円の円資産を売って、米ドル、オーストラリアドル、ニュージーランドドルなどの高金利の通貨を買っているのだという。

外貨FXはクリック一つで終わり、後は金利が振り込まれるまで待てば良いだけで、手軽に不労所得が得られるので、主婦やフリーターに急速に広まった。

外貨FXで多くの巨額の脱税事件が発生したが、外貨FXは手数料率が0.05%程度と低く、かつ胴元が300倍までの資金を貸してくれるので、宝くじより非常に効率の良いギャンブルなのだという。

勿論資金が200倍、300倍のレバレッジをかけていると、ちょっとでも逆方向に動くとすぐに損失か利益が出る。

経済理論からするとデフレ+低金利の通貨は強く、インフレ+高金利の通貨は弱いはずだが、円に限ってはデフレ+低金利の円安が10年間続いている。

この理由の一つが外貨先物取引に於けるスワップポイントだ。ドルと円の金利差を、外貨FX業者は毎日のキャッシュ支払いに転換したのだ。1万ドルの円売りポジションを持っていれば、金利差年率5%とすると0.013%つまり、毎日1.3ドル入金する。

逆にドル売りポジションを持っていると、毎日1.3ドルが口座から差し引かれるのだ。

参加者は外貨FXは外貨預金の一種と考えていることもあり、この心理的効果は大きく、結果として円売りポジションばかり積み上がり、ドル売りポジションは少ないのだという。

この10年間円高にかけて円買いを敢行したプロ投資家はことごとく敗退し、苦杯をなめてきた。為替レートが一定以上の円高になると、必ず円売りドル買いの投資家が現れ、相場を押し戻すのである。

1998年のLTCM破綻でも、2007年のサブプライムショックでも、欧米の金融機関やヘッジファンドが損失を出し、円キャリートレードを手じまおうとして巨額の円買いが出た時でも、1ドル=105円の水準で必ず円売りドル買いが出て為替相場を円安に押し戻したという。

現在の90円まで行って、また100円近くまで急速に戻ってきた円相場を見ると、たしかに橘さんの言っていることが当てはまるような気がする。

LTCMは破綻時には60倍のレバレッジをかけていたとされるが、ミセス・ワタナベは300倍のレバレッジをかけることができる。

為替市場に於けるミセス・ワタナベの存在は謎につつまれているという。

自らの取引を外貨預金と信じているミセス・ワタナベはスワップ金利が受け取れる限り、円高で含み損がふくれあがっても容易にポジションを解消しようとしない。その結果外貨資産が根雪のようにふくれあがる。

かくして最新の金融工学で武装した日本の主婦が、機関投資家・ヘッジファンドと立ち向かう近未来活劇を我々は見ているのだという。しかも彼女たちはデリバティブ取引について全く理解していないのだ。


日本人全員が働かずに暮らせるユートピア

そして奇妙きてれつなおとぎ話が生まれたという。

デフレ+低金利の円安というマーケットの歪みが固定化し、為替が将来も一定範囲に収まるならば、もはや日本人は働く必要はない。

外貨FXで高金利の外貨を買い、あとはスワップ金利を受け取りながら遊んで暮らせばいいのだ。この投資法はなんの知識も技術も不要で、子どもから老人まで誰でもできる。

そうなると低金利と円安が永遠に続くことが望まれ、もっとも忌み嫌われるものは、金利の上昇と円高だ。

すなわち、日本を長い不況が襲い、改革は遅々として進まず、株価も不動産も下落する社会こそ日本人全員が働かずに暮らしていけるユートピアが実現するのだ。

公的年金や医療制度は破綻するかもしれないが、スワップ金利さえあれば何の問題もない。こうして賢明な有権者は無能な政治家を為政者に選ぶだろうと。

ミセス・ワタナベはとてつもない潜在力を持っている。レバレッジ300倍で、国民資産の1500兆円を運用すると、45京円という金額になる。これは地球上に存在するお金1.6京円の30倍である。

日本国が国として滅びることによってこの世に極楽浄土が到来するのだと。

「ミセス・ワタナベ」と言うこんな恐ろしい話があったとは知らなかった。しかしなるほどとここ10年来の円安の理由がうなずけるような気もする話である。

ミセス・ワタナベのFX取引のために、円安が続き日本の国民一人当たりのGDPが世界2位から22位まで落ちて、国民全体の資産が対外的に目減りしていたわけだ。

しかし最近の世界金融危機で、円は他通貨に対して大きく値を戻しており、ここ数日で値を戻しているが、それでも独歩高と言っても良い。

たぶん今まで為替FX取引で円安に賭けて円売りベースでやってきた人には、極楽ならぬ地獄になっていると思うが、いままでFX取引をやっていなかった人には新規参入のチャンスかもしれない。


革命としてのヘッジファンド

ミューチュアルファンドはバイアンドホールド(買い持ち)しか許されていなかったが、ショート(空売り)をはじめたのがヘッジファンドの始まりで、1949年にアルフレッド・ジョーンズが始めたA.W.ジョーンズが始まりだという。

それまでは持っている株しか売れなかったのが、今度は空売りもできるようになり相場が下落しても儲けられるようになったのだ。

アメリカの法律ではヘッジファンドのリミテッドパートナーを投資額100万ドル上の投資家100名以下、又は投資額500万ドル以上のポートフォリオを持つ投資家5,000名以下と定めている。

投資家が金融のプロか富裕層に限定されていれば、国家が介入することはないと考えたのだ。

ジョーンズは自分の報酬も成功報酬のみの20%とし、全財産をファンドに預けたという。高い成功報酬を取る以上、投資家とリスクを共有するのは当然と考えたのだ。

1966年4月「フォーチュン」誌に「ジョーンズには誰も追いつけない」という記事が出たという。

成功報酬の20%を差し引いても、ジョーンズのファンドが5年間で最高利回りのミューチュアルファンドのフィデリティを44%上回り、10年では最高のドレイファスファンドを87%も上回ったのだ。

この記事をきっかけに第一次ヘッジファンドブームが起こった。そのなかの一つがハンガリーから逃げてきたジョージ・ソロスの運営するクォンタム・ファンドだ。

ジョージ・ソロスはイングランド銀行を相手にポンド売りを仕掛けて勝利し、一躍有名になった。ソロスのファンドは1日で10億ドルを超える利益を手にしたという。

近々ソロスの「ソロスは警告する」のあらすじを紹介するが、相変わらず難解な本を書く人だ。

ソロスは警告する 超バブル崩壊=悪夢のシナリオソロスは警告する 超バブル崩壊=悪夢のシナリオ
著者:ジョージ・ソロス
販売元:講談社
発売日:2008-09-02
おすすめ度:4.5
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その後ヘッジファンドは増え続け、2007年には1万社を超え飽和状態に達したという。

ヘッジファンドが市場インデックスを上回るというのは統計の詐術であると。ファンドマネージャーが成功報酬をもらえないような運用実績を記録した場合、ファンドを解散するので、統計に反映されない。運用に成功したファンドだけ統計に反映されるからだという。こうして年間数百社のヘッジファンドが消えていく。

米国以外では投資家の制限はないので、ヘッジファンドは下限投資額を引き下げ、海外投資家を勧誘する。日本人に最もなじみのふかい老舗マン・インベストメンツは5万ドルから投資できる。

こうした個人向けヘッジファンドは手軽に購入できるが、販売は代理店に任せているので、5%程度の販売手数料と毎年0.3%程度の管理手数料が販売者にキックバックされる。販売代理店に資格は必要ないので、マルチ商法まがいの会社もいるので要注意だ。

ヘッジファンドの仕組みは簡単だ。たとえば自分の元手1億円を用意して、他の出資者99人から1億円ずつ集める。100億円をレバレッジ20倍の2,000億円で運用し、年率1%で運用すれば20億円の利益、つまり100億円の元手を20%のリターンで回したことになる。

だがもし損失を出すとレバレッジをかけている分、損失も大きくなる。たとえば1%のロスで、20億円の損失、マイナス20%の運用成績となるのだ。

ヘッジファンドのマネージャーは成功報酬だが、失敗したときは最悪は報酬ゼロであり、損は負担しなくてよい。だからファンドマネージャーにはモラルハザードが発生しやすい。


その他、詳しく紹介しているときりがないが、マレーシアのラブアン島やランカウイ島のタックスヘイブンの話とか、イラン革命の時、アメリカの共和党が秘密裏に、人質になっていた米国大使館の職員を解放しないようにイランに金を渡していた(?)ことが決済会社の社員によって暴かれた話とかが面白い。

マネーロンダリングの代理人―暴かれた巨大決済会社の暗部マネーロンダリングの代理人―暴かれた巨大決済会社の暗部
著者:エルネスト バックス
販売元:徳間書店
発売日:2002-04
おすすめ度:4.5
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筆者はラブアン島に行ったことはないが、米国にいたときに、まさにラブアン島にあったマレーシアのガス会社の子会社の直接還元鉄の会社から、アイアンブリケットを米国に輸入していたので感慨深い。


パーペチュアルトラベラー

一ヶ所に定住することなく、常に世界中を旅していればどこの国でも税金を納めなくても済む可能性がある。

ところが日本の税務当局は海外に住んでいても、国内に住所を有すると推定されれば所得税を取り立てる。捕捉率は低いが、著名な人はしばしば税務調査ターゲットになる。

たとえば香港在住の武富士創業者の息子の相続税脱税裁判は、2007年5月東京地裁で判決が出て、1,300億円の追徴課税が取り消され、国税当局は還付加算金を含む1,715億円を返還することになったが、2008年1月の東京高裁では国側の逆転勝訴判決が出された。

ハリーポッターシリーズの翻訳者も2001年スイスジュネーブにマンションを購入して住民票を移していたが、2006年7月に3年間で35億円の申告漏れを指摘され、7億円の追徴課税を受けた。

これらは氷山の一角だ。

タックスヘイブンのマレーシアのラブアン島は日本人のリタイア層に人気だそうだが、日本人の現地業者が日本人向けに8万円で仕入れた部屋を25万円で貸してぼったくっているケースもあるという。海外移住者から甘い汁を吸おうとする業者には要注意だと。

オーストラリアの通貨高、物価高でオーストラリアに移住した人が日本に戻ってくるケースも続出しているという。日本円が安くなったので、もはやオーストラリアよりも日本の方が物価・生活費が安いのだと。

もっとも最近の円高で、かなり状況は変わっていると思う。

audjpy=x




ポンド高もあって、イギリスでは人口の約1割が海外移住しているという。円高になれば、また海外移住という話題も復活してくると思う。


前作「臆病者の株式投資」の上級編といった感じの本書だが、まさに目からうろこで、読み物としても面白く大変参考になる本だ。

この本が書かれた2008年初めと今とでは、かなり市場環境が変化しているが、逆にチャンスではないかと思う。

是非一読をおすすめする。





  
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2008年10月19日

マネーの未来、あるいは恐慌という錬金術 明快でわかりやすい

マネーの未来、あるいは恐慌という錬金術──連鎖崩壊時代の「実践・資産透視学」マネーの未来、あるいは恐慌という錬金術──連鎖崩壊時代の「実践・資産透視学」
著者:松藤 民輔
販売元:講談社
発売日:2008-07-11
おすすめ度:3.5
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このブログで紹介した「無法バブルマネー終わりの始まり」の著者で金鉱山オーナーの松藤民輔さんの2008年7月発刊の近著。

無法バブルマネー終わりの始まり──「金融大転換」時代を生き抜く実践経済学無法バブルマネー終わりの始まり──「金融大転換」時代を生き抜く実践経済学
著者:松藤 民輔
販売元:講談社
発売日:2008-01-16
おすすめ度:4.5
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前著に引き続き、サブプライム問題に端を発した今回の金融危機を分析し、「日本人にとって、金融恐慌は60年に一度のビッグチャンス!」と語る。

「ひょっとして恐慌が来るかもしれない」ではない。次の理由で既に恐慌なのだと松藤さんは語る。

1.サブプライム問題はまだ片づいていない
2.金融機関の倒産はこれからが本番
3.ドルの転落
4.原油高、資源高、食料高のトリレンマが始まる
5.「有事のドル」の伝説崩壊

しかしむしろいまこそ千載一遇のチャンスなのだ。投資に臆病で、これまで利殖運用の世界と縁がなかった人には、現在進行中の金融恐慌は人生で1回の「ビッグチャンス」なのだと。

松藤さんは金鉱山のオーナーなので、金に期待する。

金価格は1980年の高値875ドルを超えて、今年前半のピーク1,000ドルを挟んで上下しているが、金融恐慌が本格的に始まれば2,000ドルの壁を越えていくに違いないと語る。直近の10月17日の金相場は785ドルだ。

gold price






出典:三菱マテリアルGOLDPARK

金相場が本当に松藤さんの予想通り行くのかわからないところである。


よくできた目次

松藤さんの本の目次はそれぞれの章が10ほどの節にわかれており、目次を読めば内容が推測できる。

作者の頭の中がよく整理されていることが一目でわかる優れた目次なので、ちょっと長くなるがそれぞれの節まで紹介しておく。

第1章 動き出した「悪魔のシナリオ」
    神の怒りに触れた人々
    バブルの顔はどれもよく似ている
    底なしの住宅価格
    売れない車と凍りつく個人消費
    急上昇する「原油価格」と「失業率」
    始まった自治体の連鎖財政破綻
    密かに進行する恐慌化10のプロセス
    「悪夢のシナリオ」は止まらない
    賞味期限切れの欧米中心型金融システム
    ドルの未来
    アメリカは滅び、ドルは強くなる
    「M」が示すマネーの暗号

第2章 USBとベアー・スターンズの転落
    「証券化」という錬金術
    UBSオスペル会長の末路
    「ローカル銀行」の栄光と挫折
    サブプライム誕生の秘密
    バブルは、すべてを失って初めて気づく
    「死に体」ベアー・スターンズの異例すぎる救済
    どこかで聞いたセリフ
    エリートを待ち続ける訴訟の嵐
    「120兆円」に向かって積みあがる損失
    「質は日本のバブル崩壊によく似ている」
    バブル処理コストは「15年200兆円」
    「有事のドル」から「有事の金」へ

第3章 宴の最中に始まった「中国パッシング」
    中国の急減速
    アメリカに依存しすぎた中国経済
    失敗だらけの中国の巨額投資
    中国パッシングが始まった
    「脱中国」の動きは止まらない
    中国の外堀を埋める東南アジア
    毒餃子事件とチャイナリスク
    中国政府が隠す「不都合な真実」
    資源を盗掘し続ける無法国家
    四川大地震は人災か?
    地下資源を狙ったチベット弾圧
    中国投資熱はとっくの昔に冷めている

第4章 絶望のドバイ
    原油価格はドル相場と逆相関に動く
    利下げ、ドル安、原油高のドミノ倒し
    原油価格高騰の真犯人
    中東の出資は「追証」!?
    世界最大の国富ファンドは日本にある
    アブダビ投資庁の9割が外国人職員
    原油価格高騰が招く食料インフレ
    次世代エネルギー開発のチャンス
    日本企業から続々生まれる代替エネルギー
    石油がほとんどいらないエコ住宅
    公開実験に成功した夢の「固体核融合」

第5章 恐慌の錬金術ー2025年までは金と金鉱株の独歩高
    ドル神話の終わり、金神話の始まり
    幻想の中の通貨
    資産としての価値、商品としての価値
    NYダウ暴落と金暴騰
    チャートが示す流動性危機の予兆
    未来のポジション
    金融恐慌化の金ETFのメリット
    金はますます足りなくなる
    日本に眠る巨大な都市鉱山
    古い投資法、新しい投資法
    ローリスク・ハイリターンの分散投資
    天井知らずの金価格
    金の理論値は2、289ドル
    金投資の有望性と留意点

グリーンスパンの言葉を引用して始まる。「アメリカのこの金融危機は、第2次大戦以来最悪という評価を将来受けるだろう。」

グリーンスパンの回顧録は大変参考になり、既に何回も読んだので、近々紹介する。

英語の原著のペーパーバック版には最近の金融危機についてのエピローグが追加されたので、英語のオーディオブックに加えて、英語のペーパーバックまで買ってしまった。このエピローグの日本語訳は追加で出版されている。

The Age of Turbulence: Adventures in a New WorldThe Age of Turbulence: Adventures in a New World
著者:Alan Greenspan
販売元:Penguin USA (P)
発売日:2008-09-09
おすすめ度:5.0
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波乱の時代 特別版―サブプライム問題を語る波乱の時代 特別版―サブプライム問題を語る
著者:アラン グリーンスパン
販売元:日本経済新聞出版社
発売日:2008-10
おすすめ度:4.5
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今回の金融恐慌の本質は:

1,儲かればなにをやってもかまわないという文化
2.膨大なボーナスを得るためには、どんな仕組みでもつくってしまうというゲーム感覚に似た文化
3.自分だけ成功すればいい、というエリート特有の鼻持ちならない文化

松藤さんは神の怒りに触れた人々だと呼ぶ、つまり「行き過ぎの資本主義=モラルハザード」がそのベースに横たわっているのだ。

松藤さんは現状をコンパクトにまとめているので、その文を紹介しておこう。

「本来なら、たんなる住宅ローンの延滞率上昇に過ぎなかったトラブルが、「証券化」という核爆弾を積んでいたおかげで連鎖反応をくり返し、住宅不況、金融不況、ドル暴落(ドル独歩安)、株価暴落、原油高騰、金高騰、穀物高騰、不況、物価高....そして、経済破綻から本格的な世界恐慌を引き起こす、というのが現在の実情なのである」

まさに現状をよく言い表していると思う。

サブプライムローンをプライムローンと混ぜて証券化し、モノライン(金融保証会社)が保証を与えて高い格付けの商品とするというCDO(債務担保証券)は魔法の杖だった。

この魔法の杖が消えて、モノラインが実質破綻したので、モノラインが保証していた自治体などの債券が急落しているという。

筆者が住んでいたピッツバーグにある肝臓移植手術では世界トップのピッツバーグ大学医療センターが発行している債券の金利も、2008年2月より3.5%から17%に跳ね上がってしまったという。

ニューヨークの有料橋/トンネルやフェリーなどを運営しているニューヨーク・ニュージャージーポートオーソリティの債券金利も4%から20%に跳ね上がった。

それだけ金利を上げないと資金が調達できない非常事態になってきているのだ。

証券業務では5位にすぎないベアー・スターンズだが、証券化ビジネスではトップで、10兆ドルにものぼるスワップ取引の契約相手になっていたのだという。だからFRBが乗り出してベアー・スターンズをJPモーガンに救済させたのだ。

いざ破綻すればCDOなど世界中のデリバティブに次々波及して、本当にアメリカ発の金融恐慌の引き金を引いてしまうからだ。

この本に「巨大すぎるデリバティブの規模」として、世界の店頭デリバティブの想定元本合計の4京9300兆円(国際決済銀行=BIS調査)と、世界の株式市場7,200兆円、世界の債券市場5,500兆円などを対比した図が載っている。

いかにデリバティブ市場が巨大で、なぜベアー・スターズを救済したのかよくわかる。


金融機関の損失の全体規模

ゴールドマンサックスのエコノミストは金融機関の抱える損失を最大1兆2千億ドルと2008年4月に予想していたという。バーナンキの当初の予想1,000億ドル、ドイツ連銀の予想4,000億ドルをさらに上回る金額だ。

日本のバブル処理コストは投入された公的資金11兆円、無税償却で39兆円、景気浮揚策として130兆円、ゼロ金利政策で国民に入るべき金利が削られた部分を加えて15年で200兆円だったと松藤さんは推定している。

今回の世界金融危機の処理コストはどれだけになるか予想が付かないが、いずれにせよバーナンキの当初予想の1,000億ドル程度の額でないことは確かだと松藤さんは語る。

筆者も記憶があるが、日本のバブル崩壊当時でも全体の損失額は結局誰にもわからず、時がたつにつれだんだん損失が巨大化していった。それと同じことが起こるのだろう。


中国の不都合な真実

中国の「不都合な真実」として公害やチャイナリスクと呼ばれる食物・玩具・日用品汚染、砂漠化、原油輸入の増大、原発を15−20倍に増設する計画などを指摘している。

チベットについては、少数民族の女性は漢民族の男性との結婚は認められているが、その逆は認められていないという。チベットには仕事がないので適齢期の女性は都会に出て働き、漢民族の男性と結婚して都会に住むしか選択肢がなくなり、チベット人男性の結婚相手はいなくなり、壮大な民族浄化計画が進んでいると松藤さんは語る。


絶望のドバイ

原油価格高騰の犯人は年金資金だと松藤さんは語る。アメリカの大手年金資金が積極的に商品相場をポートフォリオに織り込んでおり、2003年比20倍の規模になっている。

たとえばカルパースは運用資産の8%を商品で運用しているという。

世界最大の国富ファンドは日本の旧年金福祉事業団だ。現GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)その運用規模は150兆円だが、運用益は3.5%にとどまるという。


日本の技術力という現代の黄金

日本のメタンハイドレートなど、次世代エネルギー開発のチャンスだ。日本が得意な代替エネルギーもおおいに期待される。電気自動車、ハイブリッド車に使われるリチウムイオン電池、水素エネルギー、燃料電池、北海道大学の水野忠彦教授が理論を確立した常温固体核融合などが紹介されている。

松藤さんの持論は金だ。CPI調整したリアル・ゴールド・チャートで見ると金は1,000ドルでもまだ安い。3倍ほどの上昇余地はあると語る。

gold price







金ETFが良いという。そして金の理論値は2,289ドル/オンスだという。

金については松藤さんの前著「無法バブルマネー終わりの始まり」のあらすじで筆者の私見を書いたが、筆者自身は金に大きな期待を寄せるのは疑問に思う。

この本で松藤さんは逆オイルショックは早く来ると予測している。実際松藤さんの予測どおり、原油相場はピークの半値となった。

一方穀物相場は暴落し、予想は外れている。

最後にブラジルのOGX Petroleoという新興石油会社を紹介している。

単に海底油田にボーリングを打つ権利を持つだけの会社が昨年マーケットのピークでIPOして株価は最高1,385リアルまで上がったが、現在は340リアルまで下落している。(1リアルは50円弱だ)

まさに2000年のインターネットバブル崩壊をほうふつとさせる事例だ。


日本の新興国株投信のマイナス50%などという運用成績は、時代を読み間違えた人々の運用なのだと松藤さんは語る。

いろいろ本が出て、新興国投資とか豪州ドルやニュージーランドドルのFXが話題になる頃はピークは過ぎていて、参入した素人はプロの餌食になるという典型例のような話だ。

逆にこれだけいろいろなものが暴落したら、新しく投資するリスクは少ないともいえる。松藤さんが言うように、現在進行中の金融恐慌は人生で1回の「ビッグチャンス」なのではないかと思う。

筆者の持論は、近未来はわからないが、10年先の未来なら大体誰でも予測ができるというものだ。松藤さんの言うように「時代はどこを見ているのか、僕らはどこに行こうとするのか考え」て、投資するチャンスだと思う。


松藤さんの言うように金が良いのかどうかわからないが、現状を分析する上で、大変参考になる本だった。

簡単に読めるので、まずは本を手にとってみることをおすすめする。


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2008年10月16日

イオンが仕掛ける流通大再編 流通業界の現状がよくわかる

イオンが仕掛ける流通大再編!イオンが仕掛ける流通大再編!
著者:鈴木 孝之
販売元:日本実業出版社
発売日:2008-02-28
おすすめ度:2.0
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西友出身で、西友シカゴ駐在員事務所長の後、バークレーズ証券、メリルリンチを経て独立してプリモリサーチジャパンという流通関係に強いコンサルタント会社を運営している鈴木孝之さんの本。2008年2月の発売だ。

日本の流通業界の一般知識を得るために読んでみた。この本にはスーパー業界のみならず、家電量販店やドラッグストア、コンビニ、百貨店などの売上高ランキングと上位企業の利益率なども掲載されており、参考になる。

目次は次の通りだ。

第1章 イオンが真の流通覇者になるときはいつか
第2章 セブン&アイは21世紀の主導者たり得るか
第3章 イオンが描く首都圏スーパーマーケット連合の全貌
第4章 ウォルマートが日本から撤退する日は来るのか
第5章 ウォルマート流は成功するか?−日本を狙う外資小売の課題
第6章 イオンとセブン&アイを取り巻く流通大再編のゆくえ

イオンは2001年に21世紀ビジョンとして、次を2010年までに達成することを発表している。

グループ売上高     7兆円
グループ経常利益    2,800億円
イオン本体の営業利益率 5%
グローバル10に入ること

売上高7兆円の内訳は、GMS(総合量販店)3兆円、SM(スーパーマーケット)2兆円、ドラッグストア1兆円、その他1兆円だ。

上記目標のうち、現時点で最も達成が難しいと見られているのが現状1.8%にとどまっている営業利益率だ。

利益率を改善するために、イオンが力を入れているのが、2、200億円を売り上げ日本最大のプライベートブランドとなったトップバリュ、仕入れの1割にまで拡大したサプライヤー60社強との直接取引、200を超えるメーカーとの間の需要共同予測システムだ。

イオンの国際部門の全社営業利益に占める割合は14%で、グローバルにタイ、マレーシア、香港、中国などに展開しており、中国にも日本と同じイオングループをつくるべくショッピングセンター型の「イオンモール」という形で進出している。

ちなみにこのブログでも紹介した世界第3位のTESCOとイオンはトップ同士が親交があるという。


イオンのGMS/SM部門

イオンのGMS/SM部門は自社及びグループ会社を含め、次から構成されている。日本最大のGMS/SMグループであること間違いない。

イオン(ジャスコ、イオンモール、まいばすけっと)
マックスバリュ
ダイエー
マイカル
マルエツ(イオン31%。含ポロロッカ、サンデーマート、フーデックスジャパン、リンコス)
カスミ(イオン32%)
いなげや(イオン15%)
ベルク(イオン15%)

これにコンビニのミニストップが加わる。


イオンのドラッグストア部門

イオン・ウェルシア・ストアーズが、世界最大のドラッグストアチェーンの米国ウォルグリーンを手本にして事業拡大を目指している。ドラッグストアグループとしては、No.1の8、500億円の売上げ規模で、2位のマツキヨグループは6,700億円である。

グループのCFS(ハックキミサワ)には、グループ離脱の問題がくすぶっている。


セブン&アイ

セブン&アイの問題点は、セブンイレブンの成功の後、21世紀のグランドデザインが書けていないことであり、これは鈴木敏文さんに次ぐ経営者が育っていないことも原因だと鈴木さんは指摘する。

鈴木敏文さんの著書はこのブログでも何冊か紹介しているが、立派な経営者であることは間違いないが、たしかに後継者は誰なのか名前と顔が浮かんでこない。

元そごうと西武百貨店のミレニアムリテイリングを傘下におさめたが、シナジーという面ではまだ発揮できていない。

次の転機はウォルマートが西友を売却検討するときではないかと鈴木さんは語る。ウォルマートのリー・スコットとセブンの鈴木さんとは親しく、ウォルマートがイトーヨーカドーの経営指導を受けたり、セブンがウォルマートの製品を販売したりで、緊密な関係があるという。

だからもしウォルマートが西友を手放す場合には、本当はイオンがベストな相手ではあるが、まずセブンに声を掛けるのではないかというのが鈴木さんの読みだ。


イオンのグループマーチャンダイジング

イオンは次の3社の機能会社を設立している。

イオントップバリュ
イオン商品調達
イオングローバルSCM

グローバル10に入るための、戦略ITと戦略物流を伸ばそうという考えだ。


ウォルマートの撤退はあるのか

鈴木さんは西友出身でもあり、ウォルマートについては全く評価していない。西友はウォルマートと提携する前までは、経営努力で黒字を続けていたが、ウォルマートが入ってきてから赤字が続いている。

売り場に魅力がなく、活気がなく、大幅な人員削減で店長の1/4が退社して、人材もいなくなったという。ウォルマートとの提携はあきらかに誤りだったと鈴木さんは指摘する。

西友はバブル崩壊で子会社の東京シティファイナンスが4,000億円の不良債権をかかえ、資金繰りに困っていた。メインバンクの第一勧業銀行に断られたので、まず住友商事の出資を受けた。次にイオンが西友に関心を示すが、西友が断り、結局ウォルマートの出資を受けてから凋落がはじまった。

イオンと提携していれば、イオンは首都圏の店が少なく、提携もうまく行っていたのではないかというのが鈴木さんの見立てだ。

ウォルマートはこれまで西友に約2,500億円をつぎ込んだが、赤字が続いているので、さらに500億円程度が必要と見られている。

ウォルマートが昨年1,000億円を掛けて西友を完全子会社化したのは、西友の信用不安をかき消し、ウォルマートの日本市場に対する不退転の決意を示すためだと思われているが、いかにウォルマートでも、赤字続きの西友をいつまでも支援するわけにはいかないだろうというのが鈴木さんの見方だ。

このブログで紹介したロバート・ライシュ元労働長官の「暴走する資本主義」にも書いてあったが、ウォルマートは強大だが米国でもウォルマート出店反対運動が起こるなどの問題もある。鈴木さんは米国での問題点も含めて詳しく説明している。


共同持株会社による効率化

最後に鈴木さんは共同持株会社による統合は日本の小売業界にダイナミズムをもたらすと歓迎している。合併だと合併会社・被合併会社という色分けがつくが、経営統合なら参加企業は並列なので、さらに多くの企業を迎え入れることができるという。

小売業のメリットは、1.水平拡大、2.総合化、3.マルチブランド化だという。

家電量販店ではデオデオとエイデンが経営統合し、エディオンになった。ヤマダ電機に対抗するグループができた。


これからの再編の動き

これからはプライベートブランド戦略の優劣が競争力を決めること。総合商社と卸の系列が再編に加わること。ローソンとミニストップが統合の可能性があること。ちょうど10月10日に発表があった阪神・阪急と高島屋の経営統合などを鈴木さんは予測している。


わかりやすく簡単に読めて参考になる本だった。流通業に興味のある人には、是非おすすめできる本である。


参考になれば次クリック投票お願いします。



  
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2008年10月15日

無法バブルマネー終わりの始まり 投資家で金鉱山オーナー松藤民輔さんの本

無法バブルマネー終わりの始まり──「金融大転換」時代を生き抜く実践経済学無法バブルマネー終わりの始まり──「金融大転換」時代を生き抜く実践経済学
著者:松藤 民輔
販売元:講談社
発売日:2008-01-16
おすすめ度:4.5
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昨年からサブプライム後の金融バブル崩壊の警鐘を鳴らしている松藤民輔さんの本。

松藤さんは日興証券、メリルリンチを経て、ソロモンブラザースで年収2億円の敏腕トレーダーとして勤務。その後独立して牛之宮という投資クラブ?を設立してメルマガで情報提供している。

ペーパーマネーから実体マネーに移るとの見込みのもとに、1995年に株式会社ジパングを設立して、2003年にアメリカの金鉱山のオーナーとなる。

松藤さんは船井総研の船井さんと親しいようで、船井さんのブログに松藤さんの活動が紹介されている

昨年から世界金融危機に関していくつもの刺激的な本が出されているが、松藤さんも昨年からサブプライム問題や金融危機に関して数冊の本を出している。

今回松藤さんの本を初めて読んだが、億のサラリーを貰っていたトレーダーをやめ、金鉱山オーナーになったという異色の経歴だ。

「これからは商品の時代」と商品・金投資を提唱するジム・ロジャースのことを紹介し、結論として金投資を進めている。

この種の本は他にもいくつも出ているが、結論として警鐘を鳴らしているだけで、書いている人自身がどうしたらよいのかわかっていないので、苦し紛れとしか思えない無茶なことを書いている本が多い。

評論家なら本に書いてそれで終わり、いわば書き捨てなのだろうが、松藤さんの場合、自分で10億ドルといわれる金鉱山を所有しているので説得力が違う。

この本の目次は次の通りである。大体目次を見ただけで内容が推測できると思う。各章は10ほどの節にわかれており、わかりやすい構成だ。

第1章 サブプライム・ショックの本当の恐怖
第2章 中国の不都合な真実
第3章 ロシア資源戦略の「限界」
第4章 これから10年は、金と金鉱株の時代
第5章 500年目の「黄金の国ジパング」

松藤さんはアメリカネバダ州の金鉱山のオーナーなので米国の事情にも詳しく、サブプライムショックに対する解説もわかりやすい。


アメリカの不動産ローン事情

筆者はアメリカの地方都市、ピッツバーグに二回駐在したが、ピッツバーグには貸家が少ないので、二回めの駐在の時の1997年には家を買ってモーゲージ(住宅ローン)を借りていた。

Mortgage






30年ローンで当初7年間の金利は7.6%というものだった。頭金はわずか5%で、18万ドルくらいの家だったので頭金とその他費用や税金等を入れて、1万5千ドルくらい初めに払った。(金利は店頭に表示されている金利そのままで、プレミアムはついていなかったので、「プライムローン」ではあった)

その時は気がつかなかったが、今再度モーゲージ契約書を読み返してみると、借り手が返済できない場合は、貸し手が不動産を没収すると書いてあり、いわゆるノンリコースローンである。

よくテレビ等で報道されているので、お分かりの方も多いと思うが、アメリカの不動産ローンは個人でなく、物件に対してのローンなので、ローンが返せなかったら、不動産からウォークアウェイ(退去)すれば、支払い義務から逃れられるのだ。

この日米の不動産ローンの根本的な差が、今回の不動産バブルがはじけた後のサブプライムローン問題を引き起こしているひとつの要因だ。

それと不動産をローンで買うと、税制上の数々の優遇がある。だからたとえ裕福な人でも家を買うときは手持ち資金では買わず、必ずローンを組むのだ。

今も変わらないと思うが、アメリカの場合、家2軒分までは金利や税金・諸費用が所得から控除できる。

筆者の場合は、アメリカの家の住宅ローン金利と税金、日本に持っていた家の賃貸ロス(駐在の間は日本の家を貸していたので、受け取る賃貸料から住宅ローン金利と減価償却・税金など諸費用を引いたときの損失)がすべて所得から控除できた。

タックスリターンと呼ばれる確定申告で税金が戻ってくる分は毎年1万ドルを超えており、ばかにならない金額だった。

さらに不動産鑑定士の家の評価額が20万ドルを超えていたので、ローン17万ドルとの差額の3万ドル程度をホームエクイティローンとして借りて、家の改装(浴室を日本風に改造し、タイル張りにしてジャクージーも入れた)にあてた。

築40年弱の家だが、居住性も良く全く問題ない。アメリカではむしろ1970年代の石油ショック前後に建てられた家は材料も工事も手抜きが多く、むしろ1960年代以前の家の方が堅牢に建てられているのだ。


大きな地図で見る

このホームエクイティローンの金利も不動産ローン金利として所得から控除できるので、限度額まで借りた方が得という非常にメリットあるものだった。

アメリカの場合、ローン債権がしばしば譲渡されるので、貸し手が変わることがよくある。筆者の場合にも4年間の間に貸し手が2度変わった。


サブプライムショックの本当の恐怖

今回のサブプライム問題では、ローン債権が譲渡されるだけでなく、さらにデリバティブに組み込まれ、全く別の高い格付けの新規証券として売買されるという債券の流動化が、問題の根を深くしている。

今度紹介するジョージ・ソロスの「ソロスは警告する」では、CDS(Credit Debt Swap)やCDO(Collateralized Debt Obligation)のデリバティブの残高は42.6兆ドルと推定している。

ソロスは警告する 超バブル崩壊=悪夢のシナリオソロスは警告する 超バブル崩壊=悪夢のシナリオ
著者:ジョージ・ソロス
販売元:講談社
発売日:2008-09-02
おすすめ度:4.5
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この42.6兆ドルという推定が正しいのかどうかわからないが、もしそれに近い数字だとすると、米国の7,000億ドルの金融支援が焼け石に水になる可能性がある。

だから誰もサブプライム問題の全体の金額がわからないという現実を引き起こしているのだ。

松藤さんは、サブプライム問題は世界の金融機関を悩ます「ガン細胞」だと呼んでいる。まさにその通りだと思う。

サブプライム問題は自動車業界にも「飛び火」しており、北米マーケットの終わりの始まりだと語る。

日本の金融機関はサブプライムにはあまり首を突っ込んでいないので、松藤さんはこれからは日本の一人勝ちになると予想している。―本当にそうなってくれればよいのだが...。


中国の不都合な真実

昨年政府系ファンドが注目され、日本でも政府系ファンドを立ち上げるべきだという議論が活発になったときに、中国が2003年に設立した中国投資有限責任公司が、アメリカのヘッジファンド最大手のブラックストーングループの8%の株式を取得したことが話題になった。

取得株価は新規公開時の35ドルだと思うが、ブラックストーンはサブプライムでもやられているので、株価は下落の一方だったが、なんと昨今の株価急落で直近では8ドル以下になっている

誰が責任を取るのか知らないが、なんと約8割の株価下落である。

役人に資産の運用など任せられないという典型例が中国の政府系ファンドだ。


このブログでもたびたび紹介しているウォーレン・バフェットのペトロチャイナ株の売りぬけなどについて解説している。

スーダンのダルフール紛争へのペトロチャイナのかかわりなどが、国際的にも非難されたが、バフェットは中国株の売却はあくまでタイミングを見てのものであり、政治的な圧力を考えた訳ではないと語っている。

その後原油相場の下落もありペトロチャイナの株も下落が止まらない。直近では6ドルまで下落したが、まだ先が見えないところなので、まさに見事なプロフィットテイキングである。

バフェットのみならず、フィデリティグループもバフェットに先立つこと3ヶ月で、ペトロチャイナ株を手じまっている。

アラン・グリーンスパン前FRB議長も、2007年10月に「中国の株式市場はあらゆる角度から見てバブルの特徴を備えている。バブルの定義を求めたいのなら、これこそそうだ」と語っているという。

松藤さんは中国でバブルが繰り返される理由として次をあげている。

1.1億2千万人を超える個人投資家
2.株式と不動産しか投資・運用先がない
3.金利を誰もあてにしていない
4.わずかな売買で株価が騰落する
5.インサイダーと粉飾がまかり通る

さらに「コピー大国に未来はない」や、「世界中に毒を撒き散らす中国」、「リストラ軍人が中国を破壊する?」と手厳しいタイトルが並ぶ。


ロシア資源戦略の「限界」

ロシアは資源価格高騰で復活しているが、「サハリンII」を強引にガスプロムが過半数を持つ企業体に変えたりして、ロシアのカントリーリスクは世界一だと松藤さんは語る。

政治や軍事の分野では「上海協力機構」をロシア、中国と中央アジア諸国4カ国の合計6カ国で設立し、イラン、インド、モンゴル、パキスタンの4カ国がオブザーバーとなっている。

敵の敵は味方というロジックで、対米連合となっているのだ。

古くはセブンシスターズと呼ばれるオイルメジャー7社、これが現在は4社(BP,シェル、エクソンーモービル、シェブロン)になっている。

今後は新しいニューセブンシスターズ(サウジアラビアのアラムコ、ロシアのガスプロム、中国ペトロチャイナ、イランNIOC、ベネズエラPDVSA、ブラジルのペトロブラス、マレーシアのペトロナスの7社)が今後40年間で世界の90%を押さえるだろうと英国のファイナンシャルタイムズは予測しているという。

しかし時代のトレンドは脱石油なので、ロシアの天下は資源価格下落とともに終わるだろうと松藤さんは予測する。

これからは省エネルギー技術が発達し、原子力技術に強い日本企業が世界をリードするだろうと松藤さんは予想する。ハイブリッド車、燃料電池車、水素車、とくに常温核融合に注目しているという。


これから10年は金と金鉱株の時代


最後に松藤さんのホームグラウンドの金について自説を述べている。松藤さんのポジションはNYダウ暴落、金暴騰が基本であると。ドルはNYダウが暴落しても、一瞬暴騰し、時間を掛けて下落すると予想している。

まさに松藤さんの予想通り、現在これが起こりつつある。

現物回帰が基本で、ジム・ロジャースが「これからは商品の時代だ」と語っている様に、これから10年は金が運用商品の中心になると予測している。

大投資家ジム・ロジャーズが語る商品の時代大投資家ジム・ロジャーズが語る商品の時代
著者:ジム・ロジャーズ
販売元:日本経済新聞社
発売日:2005-06-23
おすすめ度:4.5
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目先の小さな儲けより、歴史の大きなトレンドに乗ることを優先すべきであると。

「有事」になると金が注目される理由は、金は資産として永遠の価値を持っているからだ。

松藤さんが注目するのは、東証版金ETFだという。6月30日に東証に上場され、現在は基準価格を割っているようだが、松藤さんの言うとおり長期トレンドを考えるべきだろう。


筆者の私見

筆者は金についてはタイミングよく大変儲けた経験があるが、長期的に価格が上がるという点は、自信が持てない。

筆者は1978年から1980年までアルゼンチンに駐在していたが、インフレ対策としてペソ建て給料をすぐに金貨に換えて持っていたのだ。

1オンスのメキシコ金貨を何枚か持っていたが、ちょうど1980年はレアメタル高騰の時期で、1オンス200ドル台で買った金貨が、1980年の日本帰国の時に売ったら1オンス650ドル程度で売れて、大変儲かった。

本当は保有しつづけたかったが、金貨なので日本に持ち帰るときに、身に着けて持って帰らざるを得ず、空港とかの手荷物検査で大変だと思って処分したのだ。

しかしその後金相場は20年以上低迷を続けたので、結果的に大正解だった。その時の経験から、本当に長期的に金相場が上昇するのか確信が持てないのだ。

松藤さんは「アル・ゴアのノーベル平和賞が保証する金価格の上昇」と題して、原状回復コストなどの環境対策コストが高いので、新しい金鉱山の開発は事実上無理なので、供給が増えないため金価格は上昇すると語っているが、上記の事情で筆者は半信半疑だ。

最後に松藤さんは、金鉱山こそ、「夢追い人」の目指す山として、日本がかつてジパングとよばれ、各地に金山があったことを説明している。

戦国武将も武田信玄が伊豆の土肥金山などを抑えていたり、織田信長、豊臣秀吉、徳川家康などは莫大な金資産を持っていたという。

21世紀の日本は技術力という「現代の黄金」によって生き残るのだと松藤さんは結んでいる。


テンポ良く読め、わかりやすく面白い本だった。是非おすすめする。


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2008年10月13日

葡萄酒か、さもなくば銃弾を 手嶋龍一さんの人物評伝

2008年10月13日再掲:

10月12日米国が北朝鮮に対してのテロ支援国家指定を解除した。

まさにブッシュ政権末期のドタバタで、なんとか自分の功績としてアピールできるものを作ろうとしているライス国務長官とヒル国務次官補のなせるわざと言わざるを得ない。

核実験をやろうと準備している国に、テロ支援国家指定を解除してどうなるのか?

米国や他の国から援助を取り付けて、国力を回復し、準備を万全にして時期をずらして核実験を実施するというだけのことになるのではないか?

本質がわからずに「理解を示している」麻生首相も、ブッシュ大統領から電話をもらってうれしくて、そう言ってしまったのではないかと思えるが、本気でそう言っているならノー天気なものだ。

筆者は必ずしも北朝鮮懐柔策に反対するものではないが、それにしても核実験実行するぞと恫喝されてテロ支援国家指定を解くとは、まともな人間のなせる技ではない。

このあたりの事情を鋭く洞察している手嶋龍一さんの本のあらすじを再掲する。



2008年10月6日初掲:

葡萄酒か、さもなくば銃弾を葡萄酒か、さもなくば銃弾を
著者:手嶋 龍一
販売元:講談社
発売日:2008-04-25
おすすめ度:3.0
クチコミを見る


インテリジェンス小説という新しい分野を開いた元NHK手嶋龍一さんの人物評伝。

登場人物は次の通りだ。ほとんどが手嶋さんが直接間接に知っている人ばかりで、手嶋さんの広い交友範囲をあらわしている。

I 遙かなりホワイトハウス
  大統領への永い道……バラク・フセイン・オバマ
  二人のファーストレディ……ヒラリー・ローダム・クリントン
  敗れざる者……ビル・ブラッドレー(元上院議員)
  ベトナムから還ってきた男……ジョン・マケイン

II 政治の中の生と死
  赤い曳光弾……ヘルムート・コール(元ドイツ首相)
  手術室のジョーク……ロナルド・レーガン
  ハイアニス・ポートの孤高……ジョン・F・ケネディ
  三十年の平和……ヘンリー・キッシンジャー

III 姿なき交渉者たち
  帰りなんいざ……戴秉国(中国国務委員)
  昼行灯のひと……谷内正太郎(ヤチ。元外務事務次官)
  テヘランに在りし者……斉藤邦彦(元外務事務次官)
  雪渓の単独行……林貞行(元外務事務次官)
  ふたりのマツナガ……松永信雄(元外務事務次官)とスパーク・マツナガ(元上院議員)

IV 外交という戦場
  冷や飯のひと……麻生太郎
  ツルゲーネフの森……ハンス=デートリッヒ・ゲンシャー(元ドイツ外相)
  少数派の叡智……ヨシュカ・フィッシャー(元ドイツ外相)
  知られざる人……近藤元次(元農水相)
  北の凍土と向き合いし者 宋旻淳(韓国元外交通商相)

V 日米同盟の光と影
  冷たい戦争の意志……ジョン・フォスター・ダレス(米元国務長官)
  矜持なき者の挫折……クリストファー・ヒル(米国務次官補)
  プレスリー同盟……小泉純一郎
  裏切りの季節……コンドリーザ・ライス(米国務長官)
  イラクへの道……ドナルド・ラムズフェルド(元国防長官)

VI 超大国に抗いし者
  隠れゴーリスト……小沢一郎
  「ブッシュの戦争」の抵抗者……ドミニク・ド・ヴィルパン(元フランス首相)
  昨日の理念……安倍晋三
  日米同盟の遠心力……福田康夫

エピローグ  
  月下美人……若泉敬(政治学者。沖縄問題の特使)

なかには、余り聞いたことのない名前もあるが、外務省高官だったり、若泉さんは沖縄返還交渉の時の福田赳夫首相の対米密使だ。

それぞれの特徴を捉えたエピソードを紹介しており、読み物として面白い。

たとえばバラク・オバマ氏は、2004年の民主党大会の演説がメジャーデビューだったし、ヒラリー・クリントンは弁護士時代はヒラリー・ローダムで通していたが、ビルがアーカンサス州知事再選に失敗すると名前をヒラリー・クリントンに変えた。



ジャックリーン・ケネディはJFKの女遍歴に耐えかね、離婚を何度か言い出すが、そのたびにケネディ家の家長であるジョセフに金で丸め込まれていたという。ジョセフの執念が実り、JFKはカトリックで最初の大統領となるが、暗殺されてしまう。ケネディ暗殺は謎のままである。


キッシンジャーの功績

キッシンジャーは国務副長官時代に歴史に残る声明を発表している。ソ連と中国がアムール川のダマンスキー島の領有権を巡って一触即発の状態だった1969年に、「ソ連が国際政治の均衡を崩すような挙に出て、中国に対する核攻撃に打って出るようなことがあれば、ニクソン政権はこれを座視しない」というものだ。

これが米中接近の引き金にもなる。

ニクソン訪中の前に周恩来とキッシンジャーが交渉していた時に「上海コミュニケ」の中の、いわゆる「台湾条項」のワーディングは固まった。

台湾条項の第1項は「アメリカ政府は、台湾海峡をはさむ両岸の中国人が、それぞれ中国は一つだと述べていることを事実としてacknowledgeする。」このacknowledgeという言葉は周恩来のサジェスチョンによるものだと。

第2項は「アメリカ政府は、台湾海峡問題の平和的解決を希求する」。これはアメリカが有事には、軍事力で台湾の防衛に駆けつけるとは一切書いていない。実際に1996年に中国が台湾海峡向けに4発のミサイルを発射したときに、アメリカは空母2隻を台湾海峡に派遣した。

しかし文言としては、曖昧さを残すことで、台湾側の自重も求めた。後に「戦略的曖昧性」と呼ばれている。

これが台湾海峡に熱い紛争が起こるのを防止してきたのだ。

こういった歴史の証人たちに直接インタビューして取材している手嶋さんの幅広い情報収集力には敬服する。

手嶋さんの友人の韓国の宋旻淳元外交通商相や、普段あまり聞くことのない外務省の歴代の外務事務次官の話も面白い。

軽妙な読み物に仕立てているが、手嶋さんは主張すべきところは主張している。


北方領土問題は日ロ関係のトゲ

たとえば北方領土問題は、死せるダレス元国務長官が打った日ロ関係のトゲ、冷戦の残渣であり、これがために日ロ交渉は全く進展していない。「領土問題は日本丸というタンカーの船底に張り付いてしまった貝殻のような存在」だと。

「対中、対米外交に新たな地平を切り拓くためにも、北方領土のくびきから日本外交自らを解き放つべきときが到来している」と手嶋さんは語っている。


ライス国務長官とヒル国務次官補

北朝鮮との外交で、独断専行でポイントを稼ごうとして失敗している米国のクリストファー・ヒル国務次官補と、他に成果がないので北朝鮮外交を自分の実績としたいコンドリーサ・ライス国務長官には手厳しい。

北朝鮮の旧式の核施設を廃棄させるが、まだ数個保有していると思われるプルトニウム核爆弾や、ウラン濃縮設備については、全く手つかずのままだ。

「国際社会はまだ、野心の外交官クリストファー・ヒルが犯しつつある失策の恐ろしさに十分気づいていない」と警告している。

「ライスとヒルは、東アジアのポスト冷戦史に、野心に溺れて同盟国を裏切った外交官としてその名を刻まれることになるだろう」と。


小沢一郎と「国連至上主義」

小沢一郎については、ひそやかな対米自立論者として、「自衛隊が国連待機軍として国連の要請に応じて出動し、国連の指揮下にはいることは、何ら憲法に違反しない」という1993年の「日本改造計画」を引用している。

日本改造計画日本改造計画
著者:小沢 一郎
販売元:講談社
発売日:1993-06
おすすめ度:4.5
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アメリカは小沢一郎をフランスの故ド・ゴール大統領の様に、対米自立を模索する「隠れゴーリスト」と見ているという。

1990年の湾岸戦争の時に、当時の自民党幹事長の小沢一郎は自衛隊の派遣を当時の首相の海部俊樹にせまっている。結局それは実現せず、日本は130億ドルという巨額の資金を提供したのに、軍事的支援はゼロだったので、戦後のクウェートのThank-you Listにも載らず、屈辱を味わった。


条約官僚というモンスター

日本の憲法や国際条約解釈を独占しているモンスターのような「条約官僚」という存在も指摘している。

福田前首相は昨年末の小沢一郎との密談の時に、条約官僚に「小沢が提案する国連の集団安全保障に飛び移って構わない」と言われたという話を紹介している(手嶋さんの本にはこう書いてあるが、真偽のほどは筆者はわからない)。

党首会談の合意文書など、どう書かれていようとも、国際法の知見を利用して再解釈してみせるという自信のほどを見せつけたものだと。

「日本の政治指導部が真に立ち向かうべき相手は、法衣をまとっていない大審問官たちなのである」と手嶋さんは指摘している。

現在の条約・憲法解釈についての力学がわかって参考になる。


自民党の面々には冷ややか

麻生新首相を「冷や飯の人」と呼んでいるが、なぜそう呼ぶのか全くそれにあたる説明がない。吉田茂の孫として、冷や飯という訳でもないと思うが、よくわからないところだ。

麻生さん以外にも小泉元首相、安倍元首相、福田前首相は好意的には取り上げられていない。小泉=ブッシュ関係をプレスリー同盟と呼んでいる。


これからの政権交代議論や現在の世界情勢を考える上で、参考になるインサイト(洞察)である。

面白く簡単に読めるおすすめの本である。


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2008年10月11日

暴走する資本主義 ライシュ米元労働長官の警鐘

暴走する資本主義暴走する資本主義
著者:ロバート ライシュ
販売元:東洋経済新報社
発売日:2008-06-13
おすすめ度:4.0
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ロバート・ライシュ元労働長官、現カリフォルニア大学バークレー校教授の最新作。

英国留学時代からの友人のクリントン夫妻と親しく、クリントン政権ではハーバード大学教授をやめて労働長官をつとめ、今回の大統領選挙でもヒラリーを応援すると見られていたが、2008年1月にクリントン陣営のネガティブキャンペーンを批判し4月にはオバマ支持を表明した。オバマ氏の政策ブレーンとして最も影響力がある人物である。


この本の目次は次の通りだ。

序   パラドックス
第1章 「黄金時代」のようなもの
第2章 超資本主義への道
第3章 我々の中にある二面性
第4章 飲み込まれる民主主義
第5章 民主主義とCSR
第6章 超資本主義への処方箋

勝間和代さんの推薦文が付いている。「一人でも多くの日本人に読んでもらいたい」本だという。


資本主義の暴走

ライシュ氏は、資本主義と民主主義は共存共栄していると考えられているが、米国では1970年代後半から自由市場主義は成功を収めている一方、民主主義は衰退してしまったと語る。

格差が拡大し、雇用を不安定にし、地球温暖化などの環境問題も引き起こした。

これがライシュ氏の呼ぶ資本主義の暴走、超資本主義だ。

企業は競争に勝ち、収益を拡大するために賃金を含めコストを削減し、販売価格を下げて売上を拡大しようとする。当然の経済活動だが、これが負の結果を引き起こす。


ウォルマートの例

たとえば世界最大の流通業のウォルマートだ。ウォルマートは"Everyday Low Price"を旗印に、ITを駆使してコストを削減してサプライヤーから最安値で仕入れ、競争相手よりも低価格で売り、消費者のふところの助けとなっている。

しかしウォルマートの従業員は時給10ドル程度の低賃金で、平均年収は17,500ドル。多くの従業員には医療保険がない。それでもさらにパートタイム従業員を増やしている。ウォルマートには組合はなく、カナダで組合結成の動きがあった店舗は閉鎖された。

オバマ氏の副大統領候補として選ばれた労働者階級出身のジョセフ・バイデン上院議員は、「ウォルマートは時給10ドル払うと言います。しかしそれでどうやって中流の生活ができますか?」と訴えていたという。

ウォルマートが食品や医薬品の販売を拡大してきたので、競合のチェーン店は自社の労働者の賃金を切りつめ始めた。低賃金は伝染していくのだ。

ウォルマートのCEOリー・スコット・ジュニアの2005年の年収は1,750万ドル。平均的従業員の900倍だったという。

創業者サムウォルトンの子孫4人の資産は2005年で合計720億ドルであり、ビルゲイツの460億ドル、ウォレン・バフェットの440億ドルを上回る。

これに対して、2005年の米国の資産額下位40%の1億2千万人の資産合計は950億ドルだったという。

ウォルマートの様にCEOの待遇は良いのに、労働者の賃金は減らされる例がいくつも挙げられている。GMから分離独立した自動車部品メーカーのデルファイの新しいCEOは、時給27ドル(諸手当を加えると65ドル)を10ドル以下にしようとして会社を倒産させようとした。

キャタピラー、ノースウェスト、インテルなども従業員と賃金をカットしている。

多くの世帯の勤労所得でもシュンペーターが言うところの「創造的破壊」が起きているのだとライシュ氏は語る。

富は中流家庭から最上位に行ったのだ。1980年には米国の所得上位1%は、総収入の8%を得ていたが、2004年には16%を占めている。上位0.1%の所得はこの期間に3倍になったという。

ウォルマートグループと競合しているウェアハウスクラブのコストコは、従業員のスキルレベルを上げ、給料を高く払うかわりにサービスの質を上げる作戦で成功している。ウォルマートより高い平均17ドルの時給を払いながらも、念入りな社員教育によりサービスで差別化しているが、こういった考え方の企業はまれだ。


有能なCEOは希少資源

1980年のCEOの所得は平均的労働者の40倍だったが、2001年には350倍にふくれあがった。

有能な経営者は世の中には少ない。大企業の取締役会は失敗を恐れるので、成功者をCEOとして雇い入れるためには、高額の報酬を出しても良いと考える。だからCEOの報酬がスカイロケット化したのだ。

エクソン・モービルの元会長のリー・レイモンドは、同社が2005年360億ドルの利益を計上した年に引退し、1億4千万ドルの報酬と、2億6千万ドルのストックオプションを得たという。しかしそれはエクソン・モービルの利益に比べれば小さいものだという。

金融業界の賃金も高騰した。

大きな買収の相次いだ2006年には投資銀行の上級役員は3,000万ドル前後、トレーダーは5,000万ドル前後のボーナスを受け取っていた。ヘッジファンドはさらに上で、某社のヘッジファンドマネージャー26名の平均は年収3億6千万ドルで、前年比45%アップだったという。

2006年9月に苦境にあるフォードのCEOとして就任したムラーリー氏は基本給200万ドルとサイニングボーナス750万ドル、前の職場のボーイングを離れる際に失ったオプション補填の1100万ドルを含めて、3600万ドルが支払われた。

ムラーリーはボーイング時代に労働力を6割削減したという。痛みを伴う選択ができる人物だという。


ロビイストにあやつられる政治

ワシントンのロビイストは急増し、新興のマイクロソフト、グーグルなども大量の政治資金を投入している。

2006年10月に米国議会はインターネット賭博にクレジットカードの使用を禁じる法律を可決し、事実上インターネット上の賭博は禁止されることになった。これはカジノがロビー活動をしたためだ。

ビジネスでは勝ち続けているウォルマートが銀行への進出で敗北したのもロビー活動のせいだ。工業ローン会社の買収が、銀行業界のロビー活動によりFDICにブロックされたのだ。


アメリカ人の二面性

アメリカ人は市民としては地球温暖化に切実な関心を寄せているが、消費者や投資家としては、SUVを乗りまわし、2−3台の車を持ち、全部屋セントラルエアコンの快適な家に住み、大画面の薄型テレビを持ち、二酸化炭素をまき散らして、地球の温度を上げている。

消費者や投資家としての私たちは、市民としての声をかき消している。

クリントンが健康保険制度を導入しようとしたときも、企業が反対したのに対して、労働組合などからも支持が得られず結局成立させられなかった。

デジタルデバイドも拡大している。2006年全米の42%の世帯はパソコンを持っておらず、インターネットに接続していない。


ライシュ氏の処方箋

企業は人ではない。正確なイギリス英語では企業を呼ぶ場合は、たとえば"Rolls-Royce are"と複数形にしているという。

間違った人格化の結果、人間の権利が企業にも与えられているような錯覚が生じ、それが資本主義と民主主義の境界をあいまいにし、悪い公共政策に繋がっているという。

企業は愛国心を持っているわけではない。愛国心のために米国労働者を雇ったり、米国工場を維持するわけにはいかないのだ。例えばワールプールは米国の工場を閉鎖し、ドイツから食器洗い機を米国に輸出している。今やドイツ最大の対米食器洗い機輸出メーカーだという。

ライシュ氏の結論は「我々は消費者であり、投資家であるが、民主主義を守るために、民主主義という権力で、社会コストを引き下げ、購入する商品やサービスのコストを下げることができる」というものだ。

まるで小説の終わりのようにいわば余韻を残したような結論で、しかも日本語訳だと上記の太線部分はわかったようでわからない。

しかし本には具体的な処方箋は書いてなくとも、読者に考えさせる余韻を与える終わり方であることはたしかだ。

筆者は米国に合計9年間駐在したので、いろいろ考えさせられた。

たしかに米国には無駄が多い。全然エコではない。社会的にもライシュ氏が指摘しているロビー活動を制限するだけでも、膨大なコストが削減できるだろう。

社会的コストとしては、自分で自分の仕事(訴訟)をつくる日本の50倍もいる弁護士と天文学的な賠償金。高い訴訟リスク保険のため産婦人科医などが維持できなくなり、医療費も高騰していることなどがある。

いくらエネルギーコストが安いからといって、巨大なSUVを載りまわし、車を何台も持ったり、人が居てもいなくてもセントラルエアコンで家の隅々まで冷暖房したりということは、地球資源の浪費であり、もはや許されることではないだろう。

グリースパンを舌鋒鋭く批判するラビ・バトラは、「経済民主主義」を提唱しているが、まさにアメリカ人の国民としての品格が問われている。

グリーンスパンの嘘グリーンスパンの嘘
著者:ラビ バトラ
販売元:あうん
発売日:2005-07
クチコミを見る


経済合理性を極限まで追求したアメリカだからこそ、本書で述べられているような問題が起きている。

アメリカの轍を踏まない―それが日本人いや人類としての務めであり、警鐘を鳴らすという意味で、考えさせられる本だ。


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2008年10月02日

資源世界大戦が始まった 元NHK米総局長日高義樹さんの国際情勢分析

資源世界大戦が始まった―2015年日本の国家戦略資源世界大戦が始まった―2015年日本の国家戦略
著者:日高 義樹
販売元:ダイヤモンド社
発売日:2007-12-14
おすすめ度:4.0
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元NHKアメリカ総局長で、在米30年あまり、現在はハーバード大学タウブマンセンター諮問委員、ハドソン研主任研究員を務める日高義樹さんの本。

筆者は日高さんの本を読むのは初めてだが、本屋に平積みになっていたので読んでみた。作家として活躍する元NHK手嶋龍一さんの先輩だ。


アマゾンのなか見検索に対応していないので、目次を紹介する。

序章   21世紀の新しい世界戦争が始まった

第1章  世界は変わる
 第1部 温暖化で北極圏の石油争奪戦が始まった
 第2部 核兵器のない新しい抑制戦略が出現した
 第3部 30億人の一大経済圏が世界を変えた
 第4部 アメリカでは十年後に新聞がなくなる
 第5部 アメリカと北朝鮮が国交を樹立する

第2章  日本は「世界の大国」になる
 第1部 日本は世界の一流国になった
 第2部 ロボットが日本経済をさらに強くする
 第3部 日本の軍事力は世界一流になった
 第4部 大国日本には影の部分がある
 第5部 日本の指導者が中国を恐れている

第3章  米中の兵器なき戦いが始まった
 第1部 アメリカは中国を抱き込む
 第2部 中国とは軍事衝突したくない
 第3部 中国の分裂を恐れている
 第4部 中国にアジアを独占させない
 第5部 いつまでだまし合いがつづくか

第4章  ロシアの石油戦略が日本を襲う
 第1部 プーチンは石油を政治的に使う
 第2部 プーチンはアメリカを憎んでいる
 第3部 プーチン大統領とは何者なのか
 第4部 プーチンのロシアは混乱する
 第5部 日本とロシアは対立する

第5章  石油高がドル体制を終焉させる
 第1部 石油の高値がドルを直撃する
 第2部 サウジアラビアがドル本位制をやめる
 第3部 ドル体制は追いつめられている
 第4部 アメリカはなぜ嫌われるのか
 第5部 ブッシュのあとドルはどうなる

第6章  「永田町」の時代は終わる
 第1部 日米軍事同盟は幻想だった
 第2部 日米関係はなぜ疎遠になったのか
 第3部 自民党は3つの党に分裂している
 第4部 民主党はなぜだめなのか
 第5部 永田町の時代は終わった

最終章  日本には三つの選択がある

タイトルだけ見ると長谷川慶太郎さんの本かと思う。結構過激な内容だということが推測できると思う。


日高さんはハドソン研の主任研究員

日高さんはハドソン研の主任研究員だ。ハドソン研といえば、ハーマン・カーン氏を思い出す。PHPの江口克彦さんの「成功の法則」という本に、松下幸之助から「「ハーマン・カーンて人知っているか?」と3回質問されたという話が載っていた。

成功の法則―松下幸之助はなぜ成功したのか (PHP文庫)成功の法則―松下幸之助はなぜ成功したのか (PHP文庫)
著者:江口 克彦
販売元:PHP研究所
発売日:2000-12
おすすめ度:5.0
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毎月1回「日高義樹のワシントン・リポート」というテレビ東京の番組でアメリカの要人と対談しているので、相当な情報ソースがあるのだろうが、2007年12月の本ながら、アメリカの大統領候補はヒラリー・クリントンとジュリアーニと予想していたりして、予想がはずれて興ざめな部分もある。

もっとも当時は大半がそう予想していたので、日高さんの予想が外れても責められないが、本に書いてあると証拠が残るのでダメージが大きいと思う。

日高さんはキッシンジャーと親しい様だ。日高義樹のワシントン・リポートの正月特集は常にキッシンジャー氏との対談だそうである。

キッシンジャー博士がいつも言うことがある。「日本には世界に友人がいない。アメリカがたった一人の友人だ。」だと。

日高さんは正確には日本にはもう一人の友人がいると。それは台湾だと。


日本ではあまり報道されない世界の動き

ワシントン在住だけに、日本ではあまり報道されない世界の動きがわかって面白い。

たとえば北極海では地下資源の存在が噂されていることもあり、デンマークとカナダの間で紛争が起こっているとか、アラスカの地下資源は1兆ドルを超す資産価値があり、石油資源だけで6千億ドルを超えるとか、北極の氷が溶けて、海上輸送が可能となると東京から欧州への海上運賃は1/3になるとかだ。

日本人の核アレルギーを不必要に刺激するのではないかと思うが、トマホークの様な正確な通常兵器で核施設を攻撃すれば、核兵器で敵を攻撃するのと同じことになるので、核装備をするべきかどうかという議論は古くなりつつあるという。

だから日本にとって必要なことは正確な攻撃のできる通常ミサイルを持つことだという。

北極圏やアフリカなど資源を求めての競争が激しくなってきている。スーダンのダルフールが有名になったのは、独裁者が石油資源を抑えているからで、反対する部族を虐殺している。アメリカは独裁者の非人道的な政治に介入を続けているが、中国は独裁者を支援している。

これがウォレン・バフェットがペトロチャイナ株を持っていた時に非難されていた理由だ。

世界の石油生産量は1日8千万から9千万バレル。今後10年間で世界の石油需要は20%増えると見込まれているが、増産できるのは一部のOPEC諸国に限られる。

インドネシアは石油の輸入国となり、今年12月にOPECから脱退する。OPECは現在13ヶ国だが、新規加入候補はノルウェー、メキシコ、スーダン、ボリビア、シリアなどである。産油国も新顔が増えたものだ。


キャノン機関

日高さんはマッカーサーがつくった秘密組織のキャノン機関のヘッドだったキャノン中佐にインタビューしたことがあるという。

キャノン機関は新しくできたCIAとの抗争の末、権限を取り上げられ解散させられたが、全盛時は本郷の岩崎邸にオフィスを構え、占領時の様々な工作を担当していた。

そのキャノン中佐からアルバムを見せられ、「これは白洲次郎だ、われわれの活動にとって重要な人物だった。」と説明されたのだという。

白洲次郎 占領を背負った男白洲次郎 占領を背負った男
著者:北 康利
販売元:講談社
発売日:2005-07-22
おすすめ度:4.5
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「いろんな政治家がやってきた。吉田茂も来ていた。彼は他の政治家や役人のように砂糖やバターが欲しいなどとは言わなかったがね」とキャノン氏は語っていたという。

キャノン機関と白洲次郎、日本の政治家がちがどう関わっていたのか資料があるわけではないが、写真を見る限り白洲次郎はキャノン機関の一員といってもおかしくない雰囲気であると。

日高さんはキャノン中佐が自殺した後、夫人からキャノン中佐のアルバムを貰ったという。戦争に敗れた日本がいかにみじめな存在であったか、日米友好の始まりがどういうものであったかを、日高さんはこのアルバムの中に見るという。

日高さんは当時(1981年頃)は白洲次郎を知らなかった由だが、思わぬ処から白洲次郎が出てきたものだ。


中国の指導者を支えるアメリカ政府

2007年にハドソン研究所で中国に関するセミナーが開かれたが、テーマは「中国には強い指導者が必要である」というものだったという。

2007年始め中国軍部は衛星攻撃ミサイルの実験を成功させて世界を驚かせたが、胡錦涛主席が全く知らされていなかったのは明らかであると。

アメリカ政府は胡錦涛主席の知らないところで、中国軍がアメリカに対立的な姿勢を強めているのではないかと疑っているという。

世界の景気が悪くなると中国はこれから失業者が増え続ける。

急激な経済拡大のひずみがひどくなると混乱が起き、中国に内乱でも起こると、混乱がロシアや朝鮮半島に波及し、アジア全体が収拾のつかない状態になることをアメリカは懸念しているという。

中国社会は依然として共産党と軍が動かしているが、経済発展で優秀な若者はビジネス分野に行き、人材が不足してきている。官僚と軍人の質が低下すると優秀な指導者は出てこなくなる。中国の指導者の力が弱くなっているのは、共産党や軍の衰退が原因だとアメリカの中国専門家は見ているという。

世界経済、米国経済の好況は中国経済の成長なくしては考えられないので、アメリカはなんとしても中国の崩壊を防がなければならない。アメリカ政府が中国との間に多くの問題を抱えていても、中国政府を非難せず中国の指導者を助けようとしているのは、ひとえに中国を混乱させたくないためだと日高さんは語る。

こうした状況は第二次世界大戦前のドイツの状況と似ていると日高さんは語る。当時のドイツは第一次世界大戦の敗戦後、経済が不振で失業者が増え、共産党が強くなりつつあった。

ヨーロッパの中心であるドイツが共産化すれば、ヨーロッパ全体が共産化してしまうと考えたアメリカの指導者は、共産党に対抗して登場したヒットラーを支援した。

歴史に明らかなようにヒットラーを強く支持したのは、ヘンリー・フォードやジョン・ロックフェラーであると。彼らはシーメンスやクルップなどの大企業と協力してヒットラーの台頭を助けたと日高さんは語る。

アメリカがヒットラーと戦いを始めたのは、日本がバールハーバーを攻撃したことがきっかけで、日独伊三国同盟に基づきドイツがアメリカに宣戦布告したからだ。

筆者は寡聞にして、フォードやロックフェラーがナチスを助けたとは知らなかったが、共産党の台頭を考えると当然の動きといえるかもしれない。ちなみにロックフェラー家はドイツ出身だ。

アメリカ経済は世界経済を拡大させることによって、自己増殖を続け、繁栄をつづけてきたという。だから中国の経済拡大を続けさせ、中国とうまくやっていくことが米国政府の基本政策なのだと。

アメリカの指導者は基本的には中国は本当の意味での脅威とは捉えていないという。

「われわれはあの強大なソビエトを軍事的に追いつめ屈服させた。中国のことなど心配していない」とアメリカ国防総省の幹部はよく言うという。

日高さんはこのアメリカ人の考え方と中国に対する評価が間違っていないことを望むと書いているが、筆者も日高さんに同感だ。このままでは行かないと思う。先週の「神舟7号」の宇宙遊泳の成功など、中国は米ソに対抗し着実に技術力を付けてきている。


ロシアのプーチン大統領はこき下ろし

プーチン大統領のロシアを日高さんはこき下ろしている。

暗殺されたアンナ・ポリトコフスカヤは「ロシアン・ダイアリー」に、プーチンが大統領に就任した直後に母親、父親、メンターが相次いで死亡したのは、「プーチンが自分の過去を消し去ろうとしたからだ」と書いているという。

ロシアン・ダイアリー―暗殺された女性記者の取材手帳ロシアン・ダイアリー―暗殺された女性記者の取材手帳
著者:アンナ・ポリトコフスカヤ
販売元:日本放送出版協会
発売日:2007-06
おすすめ度:5.0
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本当にそうなのか今度「ロシアン・ダイアリー」を読んでみる。

KGB出身のプーチン大統領自身の経歴は不明だが、プーチンが大統領就任後KGBは復活している。プーチンは、核大国としてロシアをよみがえらせ、石油マネーを使って軍事力を強化している。

プーチンは資源が豊富な極東を手放さないし、北方領土も手放さないと。北極海の氷が溶け、本格的に航行可能になったら、ロシアは自国の権益を守るために日本をはじめ他の国と対決するに違いないと日高さんは予想している。ヒットラーと同じだと。


石油高がドル体制を終焉させる

アメリカ社会は安い石油を湯水のように使うことになれており、国民は貯金をすることが嫌いで、借金を重ねながら生活している。

今までは石油が安かったので、借金をしながらでも経済を拡大してきたから、世界の人もアメリカ経済の拡大を信じてアメリカに投資してきた。

ところが石油の高値によってインフレが起き、ドルが弱くなっては、アメリカ経済への信頼がゆらぎ、ドルへ体制を維持することができなくなってくる。

現在ではサウジアラビア、中国がドルペッグ制をとっており、日本もドルを支えているが、2007年9月のサウジアラビアの新聞にサウジアラビアはドル本位制から脱退するのではないかとの観測記事が出た。

ドルがユーロに対してあまりにも下落したことが原因である。

ブッシュ大統領の考えは極めて単純だという。

「ドルが強ければ世界中の人がアメリカに投資し、アメリカの株や土地が高くなる。土地や株が高くなればアメリカ人の資産が増える」

アメリカの民主党はドルを安くして輸出を増やしたいと考えている。アメリカの労働者の職を確保することを最も大事だと思っているからだと日高さんは語る。

このブログで紹介したルービン回顧録などにも書かれている通り、筆者は誰が大統領になろうとも、ドル体制の維持はアメリカの利益の源泉だと考えている。

今やドル紙幣10枚のうち7枚は海外で流通していると言われており、紙幣を印刷するだけで富がつくれる既得権をアメリカが逃すはずがないと思う。

そのためにスタンスとしてドル高維持は変わらないと見ているので、必ずしも日高さんの意見には同意しないが、誰が大統領になるのかの影響はあるだろう。


日米軍事同盟は幻想だった

日高さんはニクソン大統領からはじまる歴代の大統領、政府高官にインタビューしたが、彼らの答えは常に同じで、次の言葉を繰り返すのみだったという。

「日本はアメリカの重要な同盟国だ。日米安保条約はアメリカにとってかけがえのないものだ」

日米安全保障条約は片務条約で、アメリカの本音は「日本に勝った。アメリカは占領が終わっても基地を使い続けるぞ」というものであると。

日本も同様で、基地は提供しているが、アメリカを軍事的同盟国とは思っていない。アメリカ側も台湾問題でアメリカが中国と戦争を始めても、日本が参戦するとは思っていない。

日高さんは日米関係が疎遠になってきていると指摘するが、その最大の理由は日米安保条約なのだと。

安倍元首相や当時の麻生外務大臣が言い出した「戦後レジームの解体」という言葉に、アメリカは国家主義の台頭を感じ、敏感に反応しているのだという。

アメリカの指導者は中国についてしきりに言う言葉は、「中国は世界のステークホルダーである。中国と関わっていくのがアメリカの政策である」ということだ。

朝鮮半島や台湾で戦争でも起こらない限り、アメリカは中国と対決するつもりはなく、日本と共同で中国の脅威に対抗する気はないと日高さんは語る。

つまり日米とも本音は基地提供条約なのに、安保条約というから建前と本音の差が生じ、これが日米関係が疎遠になっている理由なのだと。

アメリカは中国がアジアの覇権を握るのには強い警戒心を持っているが、だからといって積極的に阻止するつもりはない。中国と友好関係を持つことが重要となっているのは間違いない。

長年の同盟国であるアメリカが、日本とともに中国の脅威に立ち向かってくれるというのは、幻想にすぎないと日高さんは語る。日米安保条約は崩壊寸前なのだと。


自民党と民主党

日高さんは自民党と民主党につき面白い見方している。自民党は小泉アメリカ党、安倍保守独立党、福田中国党の3つから成っている、アメリカのある学者の見方であると。

そうなると麻生新首相は安倍保守独立党の一員ということになると思う。

民主党がだめな理由は次の3つであると。

1,安易な移民政策 

移民を入れての治安悪化、社会不安、不法移民問題など、アメリカ、そして特にヨーロッパで起こっている問題を考えていない

2.老後資金を税金によってまかなうという考えから脱却できていない

そもそも年金をすべて税金でまかなうのであれば、北欧並の高税率が必要だし、国民の納得が必要だ。

アメリカではソーシャルセキュリティを払うが、払った額に応じた年金を受け取るシステムである。老後資金をすべて年金でまかなうという考えではないのだ。

3.国家は自らの力で自らを守るべきだという原則を全く理解していない

国連は紛争後の平和維持までが限界で、局地的紛争ならともかく、大きな紛争を武力をもって解決する力はない。何でもかんでも国連至上主義は誤りであると。


日本の3つの選択肢

最後に日本の3つの選択肢として次を挙げている。

1.憲法を変え、核兵器を持ち、経済力にみあう軍事力を保有して独立独歩で行く

軍事力によってアジアと世界情勢の方向を決める国際的な指導力を持つ。アジアを自らのやり方で動かし、世界に於ける日本の利益を確保する。

2.アメリカと対等の協力関係をつくりあげる 

上下関係のある安保体制をやめ、大国日本にふさわしい軍事力を持ち、国際社会における自己責任を全うする一方、民主主義と人道主義を広めるために、アメリカと協力体制をとり続ける

3.おんぶにだっこのアメリカがいなくなったら中国に頼るという、これまでと同じ外交姿勢をとり続ける

日高さんの意見は2.だ。

安保条約については、元外交官でノンフィクション作家の関榮次さんも「日英同盟」の中で、「日本国民が必ずしも納得しない米国の世界戦略に奉仕することを求められることもある現在の安保条約を、国民的論議も十分に尽くさないまま惰性的に継続することは、日米の真の友好を増進し、世界の平和と繁栄に資する道ではない」と語っている。

日高さんも同様の提言をしているが、これからの日本を考え、中国とアメリカの動きを見ていると、たしかに日米安保条約の継続について真剣に議論すべきだろうと筆者も考える。

日高さんはロシアはこき下ろしているが、筆者はプーチンロシアやEUの台頭は打ち手として使えるのではないかと思っている。

余談になるがF−22の輸入につき防衛庁の制服組が熱心なようだが、F−22でもF−35でも、もはや人が乗って敵戦闘機に対決して防衛する時代でもないのではないか?

潜水艦、無人機とミサイル防衛網で国を防衛すべきではないか?飛行機がいるにしても、せいぜい陸上支援用の軽装備のもので十分ではないか?

アメリカのオハイオ級最新鋭原子力潜水艦ミシガンは154発のトマホークミサイルを搭載しているという。

もし飛行機やミサイルで攻撃を受けた場合、人が戦闘機に乗って数分掛けて急上昇し、敵を見つけて迎撃したりするよりも、潜水艦や艦船からミサイルで迎撃するか、あるいは敵飛行機が飛び立った基地を、トマホークでボコボコにして無事に着地できなくして二度と飛び立てないようにしてしまう方が、よほど確実で効率的なのではないかと思う。

F-22は一機155億円もするという。トマホークミサイルは1発7千万円と言われている。どちらも国産したらもっと高いのだろうが、F-22一機でトマホークが200発買えるのだ。

ハリネズミのようになった国に戦争を仕掛けようと言う国もないはずだ。


在米30年以上ということで、日本人の感覚と違う点が目に付くが、拝聴すべき意見だと思う。

必ずしも日高さんの意見には賛成できない部分もあるが、日本の国家戦略についての議論は盛り上げていくべきであると思う。

国家戦略についての議論がないのが、今の政治に対する筆者の最大の不満であり、次の衆議院選を通して国民の中での本当の選択ができるようなマニフェストを見たいと思う。

そんなことを考えさせられる参考になる本だった。


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