2009年02月24日

食品の裏側 知られざる食品添加物の世界

食品の裏側―みんな大好きな食品添加物食品の裏側―みんな大好きな食品添加物
著者:安部 司
販売元:東洋経済新報社
発売日:2005-10
おすすめ度:4.0
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60万部売れたという食品添加物についてのベストセラーを読んでみた。

先週社員食堂でチャンポンを食べた。食べて気がついたが、このチャンポンのスープは、まさにこの本が書いている”白い粉の配合剤”ではないかと思えてきた。

思えば当たり前である。

たとえば筆者の家の近くにある全国的に有名な”室蘭ラーメン”の店雷文の営業時間は11時30分から16時頃までだ。夜は翌日の仕込みをしている。

20種類以上の野菜、肉、鶏ガラ、魚を入れてスープをとり、スープをとった後の残りが大量に出るので堆肥として無料で希望者に配っているほどだ。

社員食堂で、”仕込み”に何時間も費やせるはずがないので、スープのだしは出来合いのものを使うはずである。

ちなみに雷文のスープは絶品で、一言で言うと”クリアーな味”だ。町田駅から遠いので、車で来られるひとは是非食べてみてほしい。

この本では”白い粉”からとんこつスープを作る話とか、サボテンの寄生虫をすりつぶしてつくる天然色素、廃棄寸前のくず肉を大量の添加剤をまぜてミートボールに再生する話、スーパーで売っているパックサラダが殺菌剤のプールで何度も消毒されているというような話を紹介している。


味の素に慣れた舌

この本を読むまでは、ほとんど気にしていなかったが、思えば食品添加物だらけである。

実は筆者の子供のころは、しょうゆには必ず味の素を混ぜていた。刺身を食べる時にも、まずしょうゆに味の素を混ぜ、軽くかき混ぜてからわさびを足すのだ。家族や親類みんなが同じようにしょうゆに味の素を混ぜていたので、筆者も自然とそうしていた。

いつ頃から味の素を入れなくなったのかはっきりしないが、たぶん小学校高学年くらいから味の素を混ぜるのはやらなくなった。

そんなわけで味の素には子供の時から慣れているが、この本を読んでからは化学調味料の味が気になってきた。


著者の安部さんは食品添加物の専門家

著者の安部さんはかつて食品添加物の専門商社につとめて、お客の要望しだいで、食品工場の生産性が飛躍的に向上する食品添加物を売っていた”添加物のソムリエ”だった。しかし、ある日自分の家族が、安部さんの自信作のくず肉再生ミートボールをおいしいと食べるのを見て、人生が変わったという。

食品の安全性を無視して仕事をしてきた罪悪感にさいなまれ、会社を辞め、無添加明太子をつくりはじめ、食品添加物についての講演も引き受けるようになった。

食品添加物は悪か?と言われれば、法は犯していないし、消費者も味よりも見た目が良いものを求めるので、正しい経済活動だという。しかし、食品添加物がどれだけ使われているか情報公開がされていないのが問題だという。

製造している人たちも自分のところの製品は食べるなと言っているほどだそうで、野菜の漂白や合成着色料などを大量に使っているという。


食品添加物の実例

添加物商社に勤めていた時の最大の得意先は、明太子、漬物、練り物、ハム・ソーセージだったという。これらには大量の食品添加物が使われている。

●ドロドロのたらこが、添加物に一晩漬けるだけですきとおった赤ちゃんのようなつやつやな肌に生まれ変わるという。普通の明太子は20種類以上の”白い粉”でつくられているという。

添加物は一つひとつの安全性は厚生労働省がチェックしているが、20種類もの添加物を一度に食べて安全性はどうかはテストされていない。

無着色の明太子も合成着色料を2−3種類はずしているだけだという。

●”プリンハム”は豚肉を増量するために、大豆たんぱく、卵白、乳たんぱくなどのつなぎを加えて水をゼリー状にしたものを20−30%加えてつくる。

たんぱく加水分解物は肉や大豆のタンパク質を分解してつくられるアミノ酸で、うまみの成分で、子供の舌をこれに慣れさせてしまうと、おいしいと感じるようになり、味覚の崩壊が起こるという。

●塩分5%の低塩梅干しは、アルコールにつけたリサイクル梅に化学調味料、甘味料、酸味料、合成着色料、保存料(ソルビン酸)でつくった代物だ。塩だけで保存するのは7−8%が限界で、それ以下では他の保存料が必要になる。

●特売しょうゆや弁当についてくるしょうゆは、しょうゆ味調味料なことが多い。本物のしょうゆの成分は大豆、小麦、食塩だけで製造は1年以上かかるので、新式醸造しょうゆは、うまみのアミノ酸に何十種類も添加物を加えて作る。しょうゆの色はカラメルで出す。

●日本酒も米とこうじから作るのは純米酒だけで、本醸造酒は10%までのアルコール添加、普通酒はさらに糖類と酸味料の添加が許され、一番安い合成酒だとブドウ糖、みずあめなどなんでもありだ。

吟醸酒でも大吟醸でも変わらない。単にネーミングだけで、純米酒かそれ以外かに分けられる。

もっとも安部さんは純米酒しか本物の日本酒でないように書いているが、日本酒にアルコール添加は昔から味を調えるために行われてきたことだそうなので、必ずしも純米酒以外はダメということではないようだ。

実際本醸造酒は最大で10%までのアルコール添加なので、その意味では味を調えるためには必要なことのようだ。

●日本酒のつまみのさきイカも有名メーカーの製品も化学調味料がいっぱいで、成分表を見ても食品添加物のオンパレードなことがわかる。

筆者は今は食品添加物なしで昆布しょうゆで味付けした裂きイカを食べているが、後味が全然違う。

●砂糖の代わりにブドウ糖果糖液糖を使うとさわやかな甘みになるという。清涼飲料水のほとんどが使っている成分で、これを飲むとあっという間に血糖値が上がるという。


添加物表示の落とし穴

添加物は同じ種類なら一括表示で「乳化剤」とか「酸味料」、「PH調整剤」で、表示をできるだけ短くする。一種のトリックだと。

さらに食品衛生法の表示免除の制度を使う手もある。

キャリーオーバー(たとえば調味料のしょうゆに種々の添加剤が入っていても表示義務なし)、加工助剤(残っていなければ良い。たとえばパック入り野菜の洗浄剤)、ばら売りおよび店内加工、パッケージが小さいものが除外例だ。


安部さんは今、最進(さいしん)の塩という海水を平釜でコトコト炊くという製法で作っている塩に携わっているという。コストは高くなるが、ひもの会社で採用が決まったという。

安部さんは”手首の練習”で食品包装の裏を必ずチェックして、ハムになぜ大豆たんぱくや卵白が入っているのか?など素朴な疑問をもつことだと語る。

食品添加物すべてが悪ではない。ただ世の中には食品添加物を使いすぎた食品も氾濫しているので、消費者の厳しい目で「食品の裏側」を見ることが大事だと語る。


あまり知られていない食品添加物という分野がおもしろくわかる。さすが60万部のベストセラーとなっただけのことはある。是非一度手に取ることをおすすめする。


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2009年02月18日

和解 志賀直哉の名作を歩きながら読んだ

筆者は健康のために毎朝駅まで約30分歩いている。そして電車に乗っている時間が乗り継ぎを入れて約1時間。地下鉄の駅から会社まで10分程度で、合計1時間45分程度が片道の通勤時間だ。

この通勤時間の生産性をいかに上げるかが筆者の課題だ。

電車が空いていたり、座れれば本を読む。毎日の読書時間は往復で1時間半から2時間程度はとれるので、これで週5冊程度の本を読む。

そして駅まで歩いている間や満員電車の生産性を上げる手段が、iPodで聞くオーディオブックだ。

もっぱら英語のオーディオブックを聞いているが、図書館で借りた日本の小説などのオーディオブックも聞くことがある。

今回は志賀直哉の「和解」をオーディオブックで聞いた。

和解 (角川文庫)和解 (角川文庫)
著者:志賀 直哉
販売元:角川書店
発売日:1997-06
おすすめ度:5.0
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和解 (新潮CD)
著者:志賀 直哉
販売元:新潮社
発売日:2005-02
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CD三枚で、朗読は加藤剛だ。

本で読むのも良いが、一流の俳優が朗読するオーディオブックも良い。とくにこの作品では赤子の泣き声が重要なモチーフになっているが、加藤剛の赤子の泣き声は絶妙である。

小説のあらすじは詳しく紹介しないのが筆者のポリシーだが、結婚をめぐっての実父に対する反発から勘当されていた志賀直哉が、様々な出来事を通して実父と心からの和解を遂げる話をベースとした私小説だ。

学生の時読んだが、かすかに覚えているのは志賀直哉の祖母があごをはずしたというエピソードくらいで、自分の記憶力のあやふやさにがっくりきた。

もっともほとんど内容を覚えていないので、かえって新鮮に聞くことができた。

名作はいい。心が洗われる思いだ。

志賀直哉は「暗夜行路」も最高だ。

暗夜行路 (新潮文庫)暗夜行路 (新潮文庫)
著者:志賀 直哉
販売元:新潮社
発売日:1990-03
おすすめ度:4.5
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是非時々は日本あるいは世界の名作を読むことをおすすめする。


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2009年02月17日

アフリカ・レポート 追記 人類はみんなアフリカ出身

2009年2月17日追記:

元朝日新聞論説委員の松本さんの「アフリカ・レポート」のあらすじを紹介したが、アフリカというと日本人の自分とは関係ない地域と感じる人も多いのではないかと思うので、人類の祖先はアフリカで誕生したことが科学的に確かめられたIBMのジェノグラフィック・プロジェクトを再度紹介しておく。

IBMは様々な文化的プロジェクトを協賛していて、そのフィランソロピーのマインドには感心する。

その一つがNational Geographicと共同で推進しているジェノグラフィック・プロジェクトだ。

すでに20万人以上の様々な人種と国籍の人のDNAを採取して、DNAを分析したデータを蓄積している。

その研究の一端がIBMのサイトで公開されている。

IBMプロジェクト






ニューヨークのグランドセントラル駅に居合わせた人種も出身も異なる白人、アメリカインディアン、フィリピン、ラテン系の4人のDNAを採集して分析してみたのだ。

IBMのサイトでは、画面は小さいが動画で公開されている。

National Geographicのサイトでも公開されている。

National Geographic






DNA分析の結果、4人すべての祖先はアフリカから来たことがわかった。

数万年という年月で、白人やアジア人、アメリカインディアンと人種は異なるが、まさに人類みな兄弟という言葉を実証する結果となった。


IBMのサイトでは、ゴルフの科学や、リアルタイム犯罪センター、鳥インフルエンザ問題など、他のプロジェクトも取り上げられている。

さすがIBMと思う。是非一度IBMのサイトもご覧戴きたい。


2009年2月13日初掲:

南部アフリカのジンバブエで1980年の独立以来長く独裁政権を続けてきたムガベ大統領が、インフレ率年率150億パーセントという国内の混乱に対する国内外の批判に屈し、反対派のツァンギライ(Tsvangirai)氏が首相となる連立政権が本日(2月13日)誕生する。

連立政権が誕生しても、ムガベ氏は大統領として残るので前途多難だと思うが、少なくとも「世界最悪の独裁国家」と呼ばれたムガベ独裁から、挙国一致内閣に政権移行するのは歓迎すべきことだと思うので、アフリカの現状について書かれたこの本のあらすじを紹介する。

アフリカ・レポート―壊れる国、生きる人々 (岩波新書)アフリカ・レポート―壊れる国、生きる人々 (岩波新書)
著者:松本 仁一
販売元:岩波書店
発売日:2008-08
おすすめ度:4.5
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2007年まで朝日新聞社で勤務し、ナイロビ支局長や編集委員を歴任したアフリカ通の記者松本仁一さんのアフリカの現状レポート。

松本さんを知るヨハネスブルグ駐在経験者の先輩から勧められたので読んでみた。

筆者は世界40カ国以上訪問したことがあるが、アフリカはエジプトと南アフリカしか行ったことがない。それもエジプトは約20年前、南アフリカは最後に行ったのが10年前で、最近の状況をレポートするこの本は参考になった。

1960年代はアフリカの時代と呼ばれ、東京オリンピックの前後に多くの国が独立し、アフリカはアフリカ人のものになった。しかし多くの国は部族間の対立と私利私欲に走る権力者という問題をかかえ、結局アフリカ諸国が繁栄する時代は来ていない。

AfricaCIA-HiRes










松本さんは現在のアフリカ諸国を次の類型に整理している。

1.政府が順調に国づくりを進めている国家
  該当するのはボツワナくらいだろうと。ボツワナは南アフリカの真上に位置する。

2.政府に国づくりの意欲はあるが、運営手腕が未熟なため進度が遅い国家
  ガーナ、ウガンダ、マラウィなど10カ国程度。

3.政府幹部が利権を追い求め、国づくりが遅れている国家
  アフリカではもっとも一般的で、ケニア、南アフリカなどが入る。

4.指導者が利権にしか関心を持たず、国づくりなど初めから考えていない国家
  ジンバブエやアンゴラ、スーダン、ナイジェリア、赤道ギニアなど。

いわゆるサハラ以南アフリカには48カ国がある(アフリカ全体では53ヶ国)。そのうちこの本で取り上げているのは10カ国程度だが、アフリカのどの国も同じ病理をかかえているので、代表的サンプルだと考えてよいと松本さんは語る。

いままでアフリカの汚職などを国際機関が追求すると、あなたはレイシストだと反撃され、そのまま議論は進まなかったが、もはやレイシスト=思考停止ではすまされない時代になってきている。

松本さんは1980年にアフリカを初めて訪れ、それ以降30年近くアフリカと関わってきた。その松本さんの「中間レポート」(いずれ最終レポートにつながる)が本書だ。


この本の目次

この本の目次は次の通りだ。

序章  アフリカの今 ー ムルンバの夢はどこへ行ったか
第1章 国を壊したのは誰か ー ジンバブエで
第2章 危機に瀕する安全と安心 ー 南アフリカ共和国で
第3章 アフリカの中国人 ー 南アで、アンゴラで、スーダンで
第4章 国から逃げ出す人々 ー パリで、歌舞伎町で
第5章 「人々の独立」をめざして ー 農村で、都市スラムで
第6章 政府ではなく、人々に目を向ける ー ケニアで、ウガンダで、セネガルで、


ジンバブエ

冒頭に記した様に、今日は30年あまり続き「世界最悪の独裁政治」と言われたムガベ大統領の独裁制が終わり、ツァンギライ首相との連立政権が成立する歴史的な日だ。

ジンバブエは昔はローデシアと呼ばれ、南部アフリカでも豊かな国だった。ローデシアとは南部アフリカで富を築いた英連邦のケープ植民地の首相でダイヤモンドのデビアス社の創設者の一人でもあるセシル・ローズにちなんだ国名である。

クリントン大統領はローズ奨学金を受けてオックスフォードに留学しているが、このローズ奨学金は莫大な富を死後オックスフォード大学に寄付したセシル・ローズにちなんだ奨学金だ。

ローデシアは鉱物資源に恵まれ、世界3大瀑布の一つのビクトリアフォールズもあり観光資源にも恵まれている。白人の農場主が土地をよく管理していたので、農産物を輸出するほどだった。

しかし人口600万人のうちのわずか5%の白人が支配していたことから、人種差別国だとして1966年から国連のローデシア制裁を受け、ついに1980年に黒人政権が誕生した。

その初代大統領が人口の8割を占めるショナ族出身のムガベだ。筆者も鉄鋼原料を担当していたので記憶があるが、独立当初は政府高官も白人が多く、安定した政権で、日本は官民合同で新生ジンバブエにミッションを送ったり、ミッションを受け入れたりしていたが、ジンバブエ政府の窓口のテクノクラートはみんな白人だった。

「アフリカで最もめぐまれた独立」といわれた新生ジンバブエは優れた農業政策をとっていた。

農業省の白人官僚は農業生産振興のために農業普及員ネットワークを作り上げ、農業キットという種と農薬のセットを農家に配った。この政策が功を奏し、1984年の干ばつで隣国が種まで食料にしてしまい、農業生産が落ち込むかたわら、ジンバブエは農業生産を拡大した。1980年にはタバコの93%、大豆の99%を白人農場が生産していた。

しかし1980年代後半からムガベの白人いじめのため、白人の政府官僚は辞め、ムガベの腐敗の噂がでると、矛先を変えるために白人の農地支配を非難したため、多くの黒人元ゲリラが白人の農場を乗っ取った。

しかし元ゲリラは大規模農場経営のノウハウがないので、農業生産は激減し、物価も高騰した。

その後ムガベ政権は1998年にはコンゴ派兵(自分の愛人が所有するダイヤモンド鉱山の警備に出兵したと言われている)、2000年には白人農場の強制接収を実施した。

2000年までは白人農場で働く黒人労働者は200万人いたが、国の白人農場接収で、実に180万人が職を失い、そのうち100万人が流民化した。

その後のジンバブエ経済の混乱ぶり、超インフレについては、時々報道されているとおりだ。青年海外協力隊の人もジンバブエの1、000億ドル紙幣を紹介している。

筆者がかつて駐在していたアルゼンチンも年率100〜200%のインフレだったが、年率150億%というのは全く想像もできない。要は通貨ジンバブエ・ドルの価値がないということだ。

この本ではムガベ政権下のジンバブエの無秩序な経済運営の実態をレポートしている。物価を抑えるため、2007年6月に政府は価格半減令を打ち出したので、なかば暴動のように人々が買いあさり、商品はなにもなくなった。

あまりにインフレが激しいために、為替も公定と闇相場は1000倍の開きがでて、卵一個が公定相場だと2万円で、闇だと20円という状態だという。

1970年代まではアフリカの多くの国は農業輸出国だった。それが農業は利権のうまみがないので、支配者が農業には関心を払わなかったので、どの国でも農業は衰退し、アフリカは農産物輸入国となってしまった。

このプラス・マイナスの所得の損失は年間700億ドルにものぼり、年間200〜300億ドル程度の先進国からのODAではとうていまかなえない金額である。

ムガベ大統領は経済の混乱は英国の制裁のせいだと言い出し、批判する野党の指導者を暴漢に襲わさせた。そして2008年3月国際監視のもとにジンバブエで大統領選挙が行われ、ムガベと同じショナ族出身ながら野党のツァンギライ候補が対抗馬として立候補した。

選挙結果はなかなか発表されず、やっと5月になってツァンギライ候補がムガベを上回る獲得票数だったが、どちらも50%に達しなかったということで再選挙が6月に実施された。

野党への圧迫は激しく、支持者の生命と引き替えに投票を依頼することはできないとして、ツァンギライ候補が決選投票への出馬取り消しを表明し、ムガベ政権がまた6年間続くことになった。

この本が出版されたのは2008年7月なので、その後ムガベ大統領と反対派のツァンギライ氏との間で合意が成立し、本日(2月13日)に連立政権が誕生することは冒頭に記した通りだ。


危機に瀕する「安全」と「安心」

松本さんは「危機に瀕する安全と安心」というタイトルで、1章を割いて南アフリカの治安の現状をレポートしている。

松本さんが訪問した時に、高級住宅地のサントンで、帰宅でガレージを開けた時をねらわれたカージャックが発生した。白人女性から奪われた新車のホンダは数時間後ソウェトでほとんどの部品をはぎ取られて横倒しになって見つかった。

2005年の南アフリカの犯罪は次の通りだ。括弧内は人口が約3倍の日本の犯罪発生数だ。いかに南アフリカの犯罪数が多いかわかると思う。

殺人事件  1万9千件(1,300件)
強盗事件 19万4千件(3.500件)
強姦事件  5万5千件(1,800件)

白人政権時代はフライング・スクォッドと呼ばれる優秀な警察組織があったが、現在の南アフリカ政府は犯罪対策に真剣に取り組んでいるとは思えないと松本さんは語っている。

たとえば警官の給料は地方公務員より2割安い。警官の数も減っている。犯罪の起訴率は殺人25%、強姦18%、強盗やカージャックは3−4%で、「やり得」の状態が続いているという。

犯罪の根本原因は貧困で、松本さんはヨハネスブルグ郊外のソウェトの現状をレポートしている。電気もトイレもない。電気は車のバッテリーをコミュニティセンターで充電して使う。1回100円の充電で、60ワットの電球を毎日4−5時間使うだけなら3週間持つという。

水道は700軒ほどの共同、トイレはヨーロッパのNGOが寄付したものがところどころあるが、政府がくみ取りをしないので、汚水があふれているという。

世界の金市場を支配するアングロアメリカンや、ダイヤモンドのデビアス社などが出資した400億円の貧困対策予算があるが、こうした基金は手つかずのままだ。会計検査が厳しく、利権のうまみがないからだ。

復興開発計画の目玉の一つは、10年間の義務教育無料化だったが、教育は無料となったがかえって子供の非行が増えたという。信じられない展開だが、初めは子供全員が学校に行くが、半分以上が3年でドロップアウトする。教材が買えず、授業についていけないからだという。

ドロップアウトした子供はドラッグに手を出し、金ほしさにスリやかっぱらいをして、ギャングの手下となるという結末だ。考えさせられる現実だ。


新植民地主義(ネオコロニアリズム)

アフリカの指導者が腐敗するのは、一つには部族の問題があるという。わいろを取っても部族の面倒をみる方が大切だという考え方だ、もう一つは他国の侵略などにさらされなかったので指導者に強い危機感がなかったことだという。明治学院大学の勝俣誠教授は「公の欠如」と呼んでいるという。

ヨーロッパ諸国などによる武力を用いない資源持ち出し・市場化の動きもある。それが「新植民地主義=ネオコロニアリズム」だという。フランスはセネガルに多数の「コーペラン(行政顧問)」を送り自国企業の利益を計っているという。

中国もアフリカの石油を手に入れ、中国商人が安価な中国製品を持ち込んでその国の市場を占拠しつつある。中国がネオコロニアリズムの主役になろうとしていると松本さんは語る。

中国商人=華僑の生命力・バイタリティは今に始まったことではない。昔から世界中で中華料理屋がない町はないと言われていたものだ。たとえば筆者の駐在していたアルゼンチンの最南端の町ウスアイアでも30年前に中華料理屋があった。

まずは中華料理屋をはじめ、そのうち事業を拡大していくのが典型的な華僑のやり方だ。

中国政府が資源確保に走っていることは間違いないが、政府が後押しして中国商人がアフリカに進出しているわけではないと思う。この本で指摘しているように出稼ぎ支援は中国ではビジネス=投資なのである。

南アフリカの小売りにも中国人が進出してきて、ギャングにねらわれて殺された人もいる。中国人は銀行を使わず、現金決済なので常に現金を持ち歩いているとみられているからだ。

南アフリカ在住の中国人が推定30万人と増えたので、はじめて中国人警官がヨハネスブルグ警察に誕生したという。

中国はナイジェリアに次ぐ石油埋蔵量があるといわれているアンゴラにも政府が積極アプローチをかけており、2004年には20億ドルのODAを供与し、20億ドルの鉄道、住宅、道路建設のほとんどを中国企業が受注した。


日本にいるアフリカ人

松本さんは日本にいるアフリカ人についてもレポートしている。歌舞伎町で外人バーを経営しているナイジェリア人のオースチンがぼったくりで逮捕された。シャンパン代金20万円を客のカードで引き落とした。カードのサインはあきらかに日本人のものではないサインだった。

そういえば六本木などでも外国人の客引きが目立つが、「かわいいい女の子いるよ。ガイジンの若い子。ボクの奥さん日本人、ボクを信用してよ」とかいって客の腕をつかんで離さないという。客引きの基本給は1日1万円が相場だ。

東京出入国管理局によると、彼らは出稼ぎ経験者からはまずは日本人女性と結婚しろと教わる。摘発されても強制退去にならないために日本人女性と結婚して永住権を得るのだ。

オースチンはナイジェリアの南東部ビアフラ出身だという。ビアフラといえば、悲惨な結果に終わったビアフラ独立戦争を思い出す。1960年代後半に起こったナイジェリアの内戦だが、ビートルズがビアフラ支援を呼びかけた。

ビアフラ独立戦争では数百万人が飢餓のため死亡したといわれ、フレデリック・フォーサイスがビアフラ側を支援して傭兵部隊を雇おうとして失敗したが、これが「戦争の犬たち」の元になった。

戦争の犬たち (上) (角川文庫)戦争の犬たち (上) (角川文庫)
著者:フレデリック・フォーサイス
販売元:角川書店
発売日:1981-03
おすすめ度:4.0
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「戦争の犬たち」は映画化もされている。

戦争の犬たち [DVD]戦争の犬たち [DVD]
出演:クリストファー・ウォーケン
販売元:20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン
発売日:2009-02-06
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ビアフラ内戦は、ナイジェリアの少数民族イボ族の支配勢力のハウサ族に対する反乱という部族闘争という面もあったが、歌舞伎町にいるナイジェリア人は7割はビアフラ出身のイボ族で、主流部族であるハウサ族出身者は一人もいないという。

日本でもナイジェリアの部族対立の余波があることを初めて知った。


アフリカに生まれつつある希望

ジンバブエの農業NGOのORAPはただでものを配る援助はしないという。

ドラム缶のタンクから水を引き、穴の開いたゴムホースを畑にはりめぐらすというドリップ式灌漑で農産物の生産が飛躍的に向上し、余裕のある自作農が増えている。

10年間の内戦が終わったシェラレオネでは元兵士たちがバイク・タクシーを始めた。

アフリカで成功し、現地の雇用拡大に努力している日本人も三例紹介している。

ケニアで「アウト・オブ・アフリカ」というマカデミアナッツチョコレートを製造しているケニアナッツの佐藤社長。当初ケニアの木材で鉛筆をつくるつもりだったが、ハワイから持ってこられて放置されていたマカデミアナッツに目をつけ、これに集中して植林からはじめ成功した。従業員4,000人を雇用する。

植林から始めているので、中国商人も手が出さないという。

厳しい労働協約を結んで、従業員の無断欠勤は3回で解雇。遅刻は3回で警告、さらに遅刻したら解雇。怠慢が続いたら警告、そのうえ怠慢が続いたら解雇。という具合だ。

セネガルの生ガキ産業は、日本の青年海外協力隊の若者が事業を成功させたものだという。

ウガンダではシャツメーカーのフェニックス・ロジスティクスの柏田社長ががんばっている。従業員300人でオーガニックコットンをつかった「ヤマト」ブランドの製品を欧米中心に輸出している。

ウガンダのムセベニ大統領の要請を受けた日本の国際協力銀行が300万ドルの融資をすることになっていたが、財務省が私企業に政府が融資するのはいかがなものかとストップしてしまい、結局融資が実施されるのに4年かかった。

当時ウガンダ大使だった菊池氏は「フェニックス社はウガンダに外貨をもたらすことのできる数少ない企業で、ヤマトブランドは国中に知られており、日本の顔が見えるという意味では最高のプロジェクトです。大統領の要請に応えて決まった融資を財務省が止めてしまうなんて、これではアフリカ開発会議(TICAD)を何回やっても無駄ですよ。」と語っているという。

2008年5月末に横浜で開かれたTICAD IVでは、アフリカ53カ国のうち40カ国の首脳が参加したので政府は成功したと評価し、福田首相が今後5年間でアフリカODAを倍増するとぶちあげたという。しかし旧態依然の援助を続けていっていいのだろうかと松本さんは疑問視する。

この本で紹介されているようにただでものを配ることはせず、よく言われている「人に魚を与えれば1日養える。人に魚の釣り方を教えれば一生養える」タイプの援助をすべきだと思う。

アフリカ大陸には53カ国もあるので、国連の常任理事国選挙や、オリンピック開催競争では草刈り場として話題になるアフリカだが、中国が資源外交で先行しているなか、日本としてもアフリカ諸国とのつきあい方を見直す必要があると思う。

そんなことを考えさせられる参考になる本だった。

朝日新聞の「カラシニコフ」など新聞の連載記事を得意としていた松本さんだけに、まるでテレビの報道特集を見ているような構成で印象に残る場面が多い。

カラシニコフIIカラシニコフII
著者:松本 仁一
販売元:朝日新聞社
発売日:2006-05-03
おすすめ度:5.0
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アフリカに興味がある人もない人も、是非一度手にとって見ることをおすすめする。


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2009年02月09日

ロジカル・ライティング 人を動かすレターの書き方

ロジカル・ライティング (BEST SOLUTION―LOGICAL COMMUNICATION SKILL TRAINING)ロジカル・ライティング (BEST SOLUTION―LOGICAL COMMUNICATION SKILL TRAINING)
著者:照屋 華子
販売元:東洋経済新報社
発売日:2006-03-24
おすすめ度:4.0
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前回紹介した「ロジカル・シンキング」の実践編。

人を動かすには相手の立場になって考えろと言われるが、相手の立場にたって考えるというのはどういうことなのか論理的に示されている。加えて文章作成のテクニックが多く紹介されていて実用的で参考になる。

大学生の息子にも読ませた本の一つだ。

コラムに「ロジカル・シンキングは筋力トレーニングと同じ」というセミナー受講者のコメントが紹介されている。

筋力アップには「やっとできる」程度の負荷を掛けることが大事で、楽なトレーニングをいくらやっても筋力アップにつながらない。汗をかくくらいの負荷を継続的にコツコツやらないといけない。

ロジカルシンキングも同じで、「なるほどこういう手法か」と頭で理解するだけでは宝の持ち腐れで、「これをMECEにわけると」とか「So What?すると」など、頭のなかに汗をかきかき、考えることの積み重ねでスキルがついてくるという。

読み手の立場になって考えろとはよくいわれることだが、次の要素を確認することが読み手の立場点に立つことだという。

視点1 なぜ、「このテーマ」を設けたのか?

視点2 なぜ、「この反応」をとらねばならないのか?

視点3 なぜ、「この書き手」なのか?

視点4 なぜ、「この読み手」なのか?

視点5 答えについてあらかじめ把握しておくべきことはないのか?


書く前にやること

書く前にやることは、読み手の立場に立って考えることと同じで、テーマの確認、期待する反応の確認、読み手の確認、そして書き手の確認だ。つまり「何について、何のために、誰が、誰に向けて書くのか」ということだ。

テーマを確認するとは、「現状」はどうか、「課題」は何か、「アクション」は何かの3点を確認することだ。

期待するアクションの確認とは、読み手に「理解して貰う」のか、「フィードバックして貰う」のか、「アクションをとって貰うのか」の3種類だ。

そして読み手と書き手を確認する。

「ロジカル・シンキング」で学んだMECEと"So What?/Why So?"でピラミッド構造にロジックを構築する。

この本では技術者派遣業におけるベータ社という競合相手を研究するという仮定で、約30ページにわたってレポート作成例が解説されている。

いろいろな例を使うやり方もあるが、一つの例について「避けたいありがちな例」と「望ましい例」を対比しながら様々な切り口で説明する方がわかりやすい。


見てわかる文章の作り方

「見てわかる」文章の作り方のノウハウが解説されており、参考になる。

1.表題・見出しを明記する
2.記号・スペースを活用する
3.文頭で説明の切り口を明示する

記号を使った見出しのタイプ別の対比がわかりやすい

  項目型          So What?型
●意欲向上策        ●自主性重視の意欲向上策
 ・採用の段階        ・独立志向の人材の採用
 ・育成の段階        ・メンター制を活用した育成
 ・評価・報奨の段階    ・成果を個人に還元する評価・推奨
 ・独立支援の段階     ・積極的な独立支援

どちらが良いということではないが、So What?型の見出しは大変分かりやすい印象を受ける。

「文頭で説明の切り口を明示する」とは、文の出だしにMECEのキーワードなどを入れて、「市場全体を見ると....」、「競合の状況は....」、「販売チャンネルの...」というようにすると説明の切り口がわかりやすくなることだ。


プレゼンテーション作成の基本

最近はパワーポイントでプレゼンを作る事も多いが、プレゼンテーション資料を見てわかる文書にするノウハウは次の3点だ。

1.本論に入る前に導入部「はじめに」を入れる
2.目次を入れる
3.要旨を入れる

このような配慮で、プレゼンテーションがわかりやすくなること請け合いだ。


ビジネス文書で重要な3つの要件

要件1:具体的に表現する  

たとえばこんな具合だ。

「若年層セグメントでは、ライフスタイルの変化により、腕時計の需要が伸び悩んでいる」
                ↓
「若年層セグメントでは、携帯電話の普及とともに、時計機能を携帯電話に代替させて腕時計を持たない層が拡大している。」
  
●「商品Xのマーケティングの現状
 ・商品:統一感の欠如
 ・価格:割高感
 ・訴求方法:定価販売不振の悪循環
 ・販売経路:プッシュ販売の失敗」
            ↓
●「商品Xのマーケティングの現状
 ・商品:商品テイストの統一感の欠如
 ・価格:競合に比べて2割程度高い価格設定
 ・訴求方法:定価販売の不振対策の値引きが商品イメージを落として、定価販売の一掃の不振を招く。
 ・販売経路:プッシュ販売による、上顧客離れの進行」


要件2:論理的な関係を正しく表現する

エッセンスを明示する例が参考になる。

「『マイホーム・コーディネート・サービス』は、注文住宅をご希望の施主の皆様を以下のようにお手伝いします。」
                ↓
「当サービスは『品質もコストも満足できる注文住宅』をご希望の施主の皆様がベストな建築士を選べるよう、家作りのプロがきめ細かくサポートする仕組みです」


要件3:簡潔に表現する

「花粉症に悩む患者が、抗アレルギー剤に求めるものは、もはや効き目だけではない。この点に鑑みて...」
                ↓
「花粉症に悩む患者が、抗アレルギー剤に求めるものは、もはや効き目だけではない。眠気などの副作用の少なさや、1日の服用回数が少なくて済むという利便性を重視するようになってきている。この点に鑑みて...」

簡潔に表現するノウハウを紹介している。

●主語と述語をはっきりさせ、一文を短くする。

●「...によって...」、「...における」などを多用しない。

●「れる・られる」を乱用しない。基本は能動態で、むやみに受動態にしない。

●屋上屋を架するような言い回しに注意
 「設定を行う」→「設定する」
 「検討を実施する」→「検討する」

   
巻末に「セルフエディティングのためのチェックリスト」がついている。これまで公開してしまうと照屋さんにしかられそうなので紹介しないが、大変有効なチェックリストだ。

文章を書くときに大変役立つチェックリストなので、筆者もコピーして常に手許に置いている。


読んだ本しか買わない筆者が買った今年2冊目の本である。

「ロジカル・シンキング」と2冊比べたら、「ロジカル・シンキング」がより理論に厚く、「ロジカル・ライティング」は実戦的だと思う。

どちらか一冊ということであれば、筆者は「ロジカル・ライティング」をおすすめする。

是非手にとってパラパラめくってみて欲しい本である。


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2009年02月05日

ロジカル・シンキング 「コンサルタントの先生」が書いた教科書

ロジカル・シンキング―論理的な思考と構成のスキル (Best solution)ロジカル・シンキング―論理的な思考と構成のスキル (Best solution)
著者:照屋 華子
販売元:東洋経済新報社
発売日:2001-04
おすすめ度:4.0
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マッキンゼーなどの一流コンサルティング会社で、コミュニケーションのプロとして多くのコンサルタントを教えている照屋華子さんと岡田恵子さんの本。

照屋さんはこの本の実践編の「ロジカル・ライティング」も書いているので、こちらも別途あらすじを紹介する。

普段なにげなく、あまり深く考えずに人と接しているが、コミュニケーションにも原理原則があったのだとあらためて気づかされる。


「自分しか見えない病」と「にわか読心術師症候群」

まず最初に照屋さんは「自分しか見えない病」や「にわか読心術師症候群」に落ちいっているビジネスマンが多いと語る。

自分の思いの丈(たけ)など、受け手にとってはどうでも良いことだ。相手にメッセージとして伝わるかどうかこそが重要で、受け手のことを考えないコミュニケーションを「自分しか見えない病」と呼ぶ。

逆に相手のことを考えるばかりに、相手の機嫌を損ねないように相手によってニュアンスや表現を変えてしまうと、「あっちとこっちと言っていることが違う」という事態になりかねない。またそもそも機嫌を損ねないために、会議の目的である結論を出さない会議をしてしまう。これが「にわか読心術師症候群」だ。

自分がそうなっていないか見直してみよう。


原稿エディティングのポイント

1.課題、2.答え、3.相手に期待する反応の3点セットを満たすものがメッセージだ。自分の言いたいことが重要なのではない、相手に伝えるべきメッセージが重要なのだ。

自分しか見えない病にかかっていると、自分がいま言いたいことは何だろうと考える。この考え方をあらためて、自分が今相手に伝えるべき課題は何だろう、その答えはなんだろう、相手に期待する反応はなんだろうと確認するのだ。

具体的な業界のことを知らなくとも、人の書いた原稿を判断できるように、照屋さんはいつも次のように自問自答しているという。

●課題に対して、伝え手が、どのようなアクションをとるべきだと言っているのか?
イエスなのかノーなのか?伝え手の意見がクリアに頭に残るか?

●その結論に至った根拠に納得感があるか?

●結論がアクションの場合、具体的なやり方が示されているか?
そのアクションについて部下に指示を出す場面を想定したとき、指示の中身が具体的にイメージできるか?

これらの質問にイエスと答えられるかどうかが、課題に対する答えの要素があるかないかのチェックポイントだ。


相手にメッセージが伝わらない落とし穴

メッセージが伝わらないときの落とし穴は次のようなものだ。

●落とし穴1 結論は「課題の答えの要約」であって、「自分の言いたいことの要約ではない」

●落とし穴2 「状況に応じて」、「場合によっては」に要注意。付帯条件は同床異夢の温床

●落とし穴3 「Aが必要だ、なぜならAがないからだ」では相手は納得しない。

●落とし穴4 「それは事実ですか?それともあなたの判断、仮説ですか?」と思わせた途端に、信憑性は半減する。

●落とし穴5 「言わずもがな」、「当たり前」と思っているのは伝え手だけ

●落とし穴6 他の会社、10年前でも通用するような公理では人は動かない。

●落とし穴7 修飾語で物事が具体的になることはない 「抜本的な」とか「全社一丸」とか


説得力のない「答え」に共通する欠陥

説得力のない「答え」に共通する欠陥として、注意すべき点が挙げられている。

●話の重複は「私の頭の中は混乱中」のサイン

●話の漏れは「一点突破、全面崩壊」につながる。

●話のずれは、そもそもの目的やテーマからの脱線を招く

●話の飛びは相手の理解を拒絶してしまう。

例えば次のような例だ:

「業績は厳しいが、贅肉をそぎ落とし、無駄のない運営を目指す。(中略)従って総務業務と受発注業務は外注する。しかし、中央研究所は歴代社長を輩出した当事業部発祥の地であり、思うような成果は出ていないが、死守する」というスピーチ。

本来あるはずのつながりを相手に伝えられないことのリスクは限りなく大きい。話の飛びや脈略の不明瞭さが、わからない話に共通する特徴であると照屋さんは語る。


論理的に相手に伝えるために、相手に余計な作業をさせないということが大事である。そのため伝え手はあらかじめ自分の思考をきっちりと整理し、大きな重複、漏れ・ずれ、話の飛びがないようにチェックする必要がある。

論理的に思考を整理する技術がMECEとSo What?/WHy So?の2つだ。


●MECE(ミーシー又はミッシー)話の重複、漏れ、ずれをなくす技術
(Mutually Exclusive and Collectively Exhaustive)

大前さん勝間さんなどの本にも取り上げられているコンサルタントの頭の整理術がMECEだ。各事柄間に重なりがなく、全体として漏れがない状態のことをいう。

ロジカルシンキング情報館というサイトがあり、MECEが説明されているので、紹介しておく。

たとえば「雇用」といった場合、「正規雇用」、「非正規雇用」と2つに分けられる。法律用語で「従業者」と言えば、その会社で雇用形態にかかわらず働いている人すべてを指し、列挙すると役員(監査役を含む)、正社員、契約社員、嘱託社員、派遣社員、出向社員、パートタイム、アルバイトとなる。

つまりそれぞれが重複なく、漏れなくすべての構成要素を捉えることを言う。要は考え方の切り口のことだ。

照屋さんは、多くのMECEポケット(フレームワーク)を持てと呼びかける。MECEポケットの例としては次のようなものだ。

●完全に要素分解できる集合
 ・年齢
 ・性別
 ・地域など

●絶対ではないが、これだけ抑えれば大きな重なり合いや欠落はないと見なせる集合
 ・3または4C(Customer, Competitor, Company, Channel)
 ・マーケティングの4P(Product, Price, Place, Promotion)
 ・流れ、ステップ(作業フローなど、技術>生産>販売など)
 ・効率・効果
 ・質・量
 ・短期・中期・長期
 ・過去・現在・未来


MECEはロジカルシンキングの基礎となる考えなので、この本では多くのMECEの集中トレーニングと解答例が用意されている。例えばこんな問題だ。

●自動販売機で買える飲み物を整理してみよう(メーカー別、パッケージ別、温度別、成分別など)

●世の中にある弁当を全体としてどのように整理できるか?(買うを5W1Hで分解)

●テレビ番組をMECEで整理してみよう

●顧客への営業活動をMECEで整理してみよう
 
●あなたの会社が提供しているサービスをMECEで整理してみよう
 
●あなたの仕事全体を、その内容を知らない人でもわかるようにMECEで整理してみよう

銀行のカスタマーサービスに寄せられた顧客の声をどうやって整理するかの例題も面白い。解答も初級編、中級編、上級編とわかれており、参考になる。



"So What?/Why So?"話の飛びをなくす技術

"So What?"は手持ちの情報、材料のなかから「結局どうなのか?」を抽出する作業だ。「よって」、「したがって」、「このように」の前後で話がつながらないと話が飛んでしまう。話の飛びをなくすのがこの技術だ。

そしてこれに対を成すのが、"Why So?"、なぜそういえるのかを検証する作業だ。

前述のロジカルシンキング情報館So What?/Why So?の説明も紹介しておく。

この技術を使いこなすためには、日頃から「要するにここから何が言えるのか?」、「なぜそうなるか?」を考えるクセをつけることだ。

課題として観光地の旅行者の評価と来訪意向の相関図、パスタソース新規商品導入などが示されていて頭の体操になる。

論理的に構成する技術

MECEとSo What?/Why So?で論理をつくるやり方として、縦の法則のSo What?/Why So?と、横の法則MECEでピラミッド型に論理を組み立てるやり方が紹介されている。

有名なピラミッド方式だ。

ロジカルシンキング情報館のピラミッド構造の説明を紹介しておく。

Pyramid








この論理パターンもいくつかの例題と解答例が載っている。「宝くじが当たったら」という課題に、筆者二人がそれぞれ解答した例も面白い。

最後に論理FAQ、穴のある論理の例や例題と模範解答がついているので、参考になる。

銀行の「顧客対応サービスの達人から学ぶ」というテーマで、支店長の指示と本部通達に従って3人の候補者;銀行店頭案内係のベテラン、ホテルマン、エアラインの客席乗務員の中からスピーカーを選ぶ例題は面白い。

例題と解答例が満載で、この本を読み、頭の体操をすることで、かなりロジカル・シンキングの技術が身に付くはずだ。


「ロジカル・シンキング」は2001年5月の発売だが、筆者が買った版は2008年10月発行の40刷で、比較的地味な分野の本としては大変なベストセラーだ。

この手のドリルは何度も何度も繰り返して練習する必要があるので、読んだ本しか買わない主義の筆者も、この本と次に紹介する「ロジカル・ライティング」の本は買った。

大学生の息子にも読ませている。
  
単に例題を読むだけでなく、頭で実際に考えてみないとSo What?/Why So?の意味がつかめないと思うので、是非本を手にとってパラパラめくってみて欲しい。

自分の考えを人に説明する上での注意事項が満載で大変参考になる。自分の説得力を客観的に評価するためにも是非参考にして欲しい本である。


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2009年02月02日

ユニクロ!監査役実録 監査役というより上場コンサルタントの実録

「ユニクロ」!監査役実録―知られざる増収増益の幕開け「ユニクロ」!監査役実録―知られざる増収増益の幕開け
著者:安本 隆晴
販売元:ダイヤモンド社
発売日:1999-05
おすすめ度:4.0
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以前紹介したユニクロの柳井正社長の「一勝九敗」という本で紹介されていたユニクロ監査役で、公認会計士の安本隆晴さんの1999年に出した本。

一勝九敗 (新潮文庫)一勝九敗 (新潮文庫)
著者:柳井 正
販売元:新潮社
発売日:2006-03
おすすめ度:4.0
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どちらの本にも書いてあるが、安本さんの書いた熱闘「株式公開」―いまだから店頭登録入門
を読んで、柳井さんが是非話を聞きたいと連絡してきたのが二人が知り合うきっかけだ。出版直後の1990年のことである。

当時は全部で25店舗、そのうち18店がユニクロで、7店がメンズショップだった。


ユニクロのビジョン

初対面の安本さんに、ポロシャツと綿パン姿の柳井さんは、カジュアルウェアだけを専門に扱う店は日本にはないと語り始める。

「カジュアルウェアはあまり年齢・性別にとらわれることもなく、流行に左右されることもないし、マーケットは相当大きい。スーツなどの重衣料の何倍もあります。多くの人が普段着られて、ちょっとした外出着にもなるものを、買いやすい値段で買ってもらう。そのために、当社が企画した商品を大量発注、完全買い切りでやる。それに、倉庫型店舗でのセルフ販売だから接客業務はほとんどいらない。」

アメリカのウォルマート社やギャップ社を目標としており、日本ではしまむらやセブンイレブンに興味がある。経営を本格的に勉強したいし、今後出店を重ねていき、いずれの日にか株式を上場したいと思っているので、その指導をして欲しいという。

上場がすべてでなく、通過点と思えるようにしたいと。

当時経営コンサルタント会社に勤めていた安本さんはその場でOKしてつきあいが始まった。


柳井さんの役員合宿での宿題

この本の冒頭に柳井社長が1998年12月26日に13人の役員宛に送ったメールが引用されている。1998年12月といえば、東証一部に上場(1999年2月)替えする直前だ。

「次回の役員合宿の質問事項です。この年末年始考えて下さい。
2001年8月までに何をどう改革するのか。
どのように他企業と差別化するのか。
どのようにしたら店長の転勤が3年に1回になるのか。
どのようにしたらパート社員の平均勤続年数が3年以上になるのか。
どのようにしたら店長の年収が倍になるのか。
倍の年収の店長の必要条件は何か。
最高水準の店長だけにするにはどのようにすればよいか。
店長の仕事を労働集約から知識集約にするには、どうすれば実施できるか。
店舗作業の大幅減を、コストアップせずにお客様に迷惑をかけずにどのように進めるのか。
店舗での問題点を店長が的確に迅速に発信するために、どのようにしたらよいのか。
売り場発の情報(顧客ニーズの発見)と本部での的確な対応がまだ不十分だが、この解決方法は何か。
39期、40期の年間最適出店数は店舗の質の大幅アップするという前提で、何店舗が最適か。」
このあと商品、企画生産、店舗開発、広告宣伝などの質問が続き、全部で44項目に及ぶ。

原理原則を洞察し、勉強し、実践し、失敗を恐れず前進を求め、直接的な、真っ向勝負の、気取らない柳井社長の性格がよく現れた文章であると安本氏は語る。

ユニクロでは毎月1回祝祭日に役員合宿と呼ぶ終日の会議を行う。上記が柳井さんの議題メールだ。


この本の目次

この本の目次は次の通りだ:

序章  福音は読者から 資料分析とレビュー報告
2章  要人から友人へ 株式公開コンサルティング
3章  船団始動す 資本政策と初の第三者割り当て増資
4章  社名に託された成功要因 いよいよ公開準備委員会
5章  組織と人、それぞれの成長 会計基準の採用
6章  大事の前に小事起こる 管理規程の整備と運用
7章  時よ空転するなかれ 店舗急増!管理体制と業務基準
8章  いざ行かん故郷へ 公開準備作業軌道に
9章  事務所開きは怒濤のごとく 資本政策立案
10章 難問降りて標的を変える 人的関係会社を整理する
11章 確執から生まれるもの 銀行借り入れと「IIの部」作成
12章 「初値つかず」の果てに 公開申請、審査そして上場

1994年当時のユニクロの店舗数は355店、都心店はまだ少なく、ほとんどがロードサイド店だった。

柳井さんはお父さんの始めたメンズショップを受け継ぎ、1984年に広島にユニクロ1号店をオープン、それから冒頭に書いたビジョンでSPA(Specialty-taylor of Private apparel)事業を拡大する。

1994年に広島証券取引所に上場、97年に東証2部、99年に東証1部に上場したが、この本は広島証券取引所に上場するまでの1990年から1994年までの4年間の安本さんの業務日記をベースにしたものだ。

安本さんは他の会社にもかかわっていたので、ユニクロ以外の話も含まれている。会計監査をして横領を見つけた話とか、ユニクロ以外の話も面白い。


ユニクロの成功要因



「柳井さんはまだ成功していないというだろうが」、という注釈つきだが、安本さんがユニクロの成功要因をまとめている。

「まず先に方針ありき、原理原則を考え、それに基づいて方針を立てる。

世の中の、あるいは業界の常識がその原理原則とかけ離れていて抵抗にあっても、曲げずに実行する。

実行が無理だと判断したらスパッとあきらめるか、時期を待つ。

決まったらすぐに実行し、それが駄目だったら失敗をすぐに認め、次の手をすばやく打つ。

重要なのは『すぐに実行』で、社長の発想を具体化につなげた経営幹部や社員の方々の努力にはすごいものがある。頭が下がる思いだ」

と。


柳井さんの最高の教科書

このブログでもあらすじを紹介している柳井さんが「私の最高の教科書」と絶賛するハロルド・ジェニーンさんの「プロフェッショナルマネージャー」に書いてある通りのことを柳井さんは実践していることがよくわかる。

プロフェッショナルマネジャープロフェッショナルマネジャー
著者:ハロルド・ジェニーン
販売元:プレジデント社
発売日:2004-05-15
おすすめ度:4.0
クチコミを見る


柳井さんが最も影響されたという「3行の経営論」を思い出す。

本を読む時は、初めから終わりへと読む。
ビジネスの経営はそれとは逆だ。
終わりから始めて、そこへ到達するためにできる限りのことをするのだ。



柳井さんの「商売の原点」

柳井さんは「常に商売をやっているんだ、ということを忘れずに」とよく口に出すそうだが、次のようなエピソードがあったという。

柳井さんが大学卒業後、小郡商事に入社して商店街の店の店頭に立っていたときに、高校の担任の先生が通りかかった。「おや、柳井くんじゃないか。なぜ、こんなところにいるんだね。」

せっかくいい大学を出たのに小売店の売り子かい、といったような皮肉な口調で、見下されたという。柳井さんは平静を装ったが、その時「一般の人には、商売というのはそんなふうに映るんだ」と思ったという。

これに発奮したことがユニクロ躍進の原点だったかもしれないと安本さんは推察する。


この本はまるで株式公開マニュアル

本のサブタイトルに「知られざる増収増益の幕開け」と書いてあるが、このサブタイトルに惹かれて読むと失望すると思う。

柳井さんの強烈な個性が出る場面がところどころあるが、全体に株式公開準備マニュアルの様な本である。

1999年の出版なので2006年に施行された会社法でかなりの変化があるため見直しが必要だと思う。

しかし筆者も経験があるが、中規模会社が上場するまでに社内規程をいろいろ整備し、人事制度を導入し、資本政策を決め、メインバンクから借り入れを行うなど課題がある。

それについてステップごとに直面した課題も含めて具体的に解説されているのでわかりやすい。


柳井さんの性格がわかる

柳井さんの性格がわかる逸話がいくつか紹介されている。

柳井さんの「店長を教育すべきエリアマネージャーの作業標準ができていない。それに管理職としての認識が甘い。場当たり的な教育しかできていない。そこをなんとかしたいのです」という要望を受けて、安本さんが大手企業向けで実績のある教育研修コンサルタントを紹介した。

一度社員研修会を開こうということになり、コンサルタントが「自分たちで考えてから行動するのが重要」と教えていると、柳井さんが入ってきてそれを聞いて、「今の小郡商事は会社方針が先にあり、それをどうやって実行するかが最優先でしょう」と発言して立ち去る。

そのあと柳井さんから「会社の方針を汲んでくれないし、本人たちの自発性を待つという考え方では遅すぎる。今はトップダウンで行くべき時。単に使われるだけじゃダメ、というように教えるのは大企業になってからでもいいでしょう。」との話があり、安本さんはコンサルタントに電話をかけ断った。

これは1991年のことで、ファーストリテーリングと社名変更する直前のことだが、小郡商事と呼んでいた頃の会社の規模を考えると、大企業向けの教育内容は、当時のやり方に合っていなかったのかもしれない。

なかなか新規融資に応じてくれず、ユニクロの将来性を見ずに担保至上主義に徹しているメインバンクの支店長との衝突の話とか、支店長を飛び越えて本店の部長に話をして、かえって支店長との関係を悪化させた話とかが紹介されている。

安本さんが追記しているが、この支店長が銀行をやめ取引先に転籍したあとに安本さんが街で出会ったら、ヘッドロック?を掛けられて頭をコツンとたたかれたという。

ユニクロはメインバンクを変えようと画策したはずなので、あるいはメインバンクをはずされてうらみ骨髄なのか、よくわからない話だ。

今は隆々としているユニクロが、株式公開前は地方の同族企業として銀行融資の確保に四苦八苦していた様子がよくわかる。

安本さん自身は父親と同居するために東京のコンサル会社をやめて、静岡で独立して自分の会計士事務所をスタートした。

その時にユニクロとの契約を、会社との顧問契約から個人顧問契約に変えて貰ったが、顧問料は安本さんの期待の3割減ではなく、ばっさり半額にされたという。

柳井さんの性格を象徴するような話だと思う。いかに世話になっていても、コンサルタントは使い倒し、自分の判断する適正コストしか払わないということだろう。


1999年に出版された本だが、柳井さんの経営に取り組む真摯な姿勢がよくわかり、またユニクロの様な同族会社を上場する(公開会社にする)時にはどういった点に注意をしなければならないのかがわかり、参考になる本だ。


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