“想い”と“頭脳”で稼ぐ 社会起業・実戦ガイド 「20円」で世界をつなぐ仕事
著者:小暮 真久
販売元:日本能率協会マネジメントセンター
発売日:2009-03-21
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大手企業を中心に100社以上が賛同しているTable for Two Internationalの事務局長小暮真久さんの本。表紙のすばらしい笑顔に惹かれて読んでみた。
Table for Twoとは、ダイエットメニューに、アフリカの子どもへの給食補助20円をオンして社員食堂で提供し、メタボ対策とアフリカの貧困支援の一石二鳥を狙おうという日本発のNPO運動だ。
現在はウガンダ、ルワンダ、マラウィの3カ国の子どもを支援している。
Table for Two運動のコンセプト
出典:本書45ページ
次が筆者の会社の社員食堂に置いてあったTFTのパンフレットだ。
会社によって社員食堂の単価は変わるが、筆者の会社の社員食堂ではTFTメニューを500円で提供し、20円の寄付金をつけて520円としている。
この本では全体の10−20%がこのメニューを選ぶと書いてあったが、たしかに2割前後という感じだ。
著者の小暮さんは元マッキンゼー
著者の小暮さんは1972年生まれ。早稲田高等学院から早稲田大学理工学部を卒業し、オーストラリアのスインバン工科大学で人工心臓を4年間研究、その後知人が就職しているマッキンゼーの面接を受ける。
人工心臓には全くのしろうとのはずのマッキンゼーの面接官が、おどろくほど理解が早く、小暮さんの話を聞いて、こうしたらどうだというような改善の提案をその場でしてきたことに驚き、是非入社させてくれと希望し採用が決まる。
同じマッキンゼー出身の大前研一さんもMITの博士課程に留学した日立製作所出身の原子力のプロだが、いろいろなタレントを持った人材をつかいこなすところはさすがだ。
マッキンゼーではニュージャージー支店駐在の1年間も含めて6年間充実した仕事をしたが、結局他人のために仕事をしても、報われない感じを持ったという。
特にニュージャージーに駐在し、日本の製薬会社の米国オペレーションを立て直し、心底尽くしてクライアントの社長の全幅の信頼を得たと思っていたのに、1対1の慰労会で「でもね、君は民間企業に勤めたことがないでしょう。だから、私たちの気持ちの本当のところはわからないよ」と言われて非常なショックを受け、コンサルタントという仕事の限界を知る。
松竹からTFTへ
実業がやりたくて2005年に松竹に転職し、経営企画と事業開発を担当するが、マッキンゼーの先輩でTFT代表理事をやっていた近藤正晃ジェームズ氏(現東京大学先端科学技術研究センター特任准教授)と出会い、メタボと貧困対策の一石二鳥というコンセプトに賛同する。
さらに近藤氏と一緒にニューヨークで、ジェフリー・サックス教授と面談して社会起業に感銘を受け、2007年8月に事務局長としてTFT運動に参加する。
当時TFTは伊藤忠商事の社員食堂を皮切りに、ファミリーマート、日本IBM,日本航空、NEC,横浜市などで導入が進んでいたが、NPO法人としての認証登録もしていなかったので、まずは認証登録のために2年間の事業計画やビジネスモデルをつくった。
NPOもビジネス
小暮さんがこの本で強調するのは、NPO法人のやっていることもビジネスであり、小暮さんがマッキンゼーで徹底的に仕込まれたフレームワークや、ロジックツリー、ピラミッド思考などの考え方が生かせたということだ。
NPOだからといって、トップから鶴の一声で事務局に指示してもらうと逆にうまくいかない。むしろ普通のビジネスと同じく、ボトムアップの営業が必要で、お金をかけない広告や宣伝も重要だ。
NPOでも競争力ある賃金を
NPO法人だから無給のボランティアで働けというのは間違いで、欧米のNPOなどは優秀な人材を確保するために、大手企業やコンサルと変わらない賃金を払っているという。
マッキンゼーもビル&メリンダゲイツ財団やクリントン・グローバル・イニシアティブなどの大きな財団とビジネスがあり、マッキンゼーの元代表のラジャ・グプタはHIV撲滅のための世界最大のグローバルファンドの理事を務めている。
実際にアメリカの大手NPOではマーケティング、ファイナンス、営業、広報、事業開発など、各分野の専門家が集団となって仕事をしている。
NPO活動に精一杯頑張るためには、家族を含めた生活の安定も必要であり、運営費の中からスタッフに適正な給料を払うことは必要なのだと。
キーワードは想い
NPOが普通のビジネスと違うのは「想い」によるつながりを作ることだという。
各社で集めた個人からの寄付で成り立っているNPOなので、寄付には心を込めて感謝状や名誉会員称号を送って感謝の意を表しているという。
2008年4月からのメタボ検診スタートで、導入企業は一気に増え、現在は100社を越える規模になってきており、社員食堂のない企業は、自動販売機に20円寄付するメニューを加えたCup for Two運動を導入してくれたところもある。
目標は3−4年後に1,000社の社員食堂での導入だと。
最後に、想いはきっと社会を変える、小さなしくみで革命を起こすと、社会起業のおもしろさを語っている。
前述の当初からの賛同企業を含め、オイシックス、三國シェフ、スリーエフなど、企業やパートナーの名前は出てくるが、具体的な成功事例が紹介されていないので、今ひとつ記憶に残る事例がない。
あるいは企業との取り決めがあるのかもしれないが、もっと具体的事例を紹介すれば、読む人に感動を与え、導入を考える企業の担当者もイメージがわいて、さらに良かったのではないかと思う。
世界から貧困をなくすという目標を持ちノーベル平和賞を受賞したバングラデシュのグラミンバンクのムハマド・ユヌス氏が社会起業家としては有名だが、是非TFTの小暮さんも日本発の社会起業家として成功して欲しいものだ。
簡単に読めるので、書店で手に取ってみることをおすすめする。
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