2009年10月31日

もったいない主義 映画「おくりびと」の脚本家 小山薫堂さんの本

もったいない主義―不景気だからアイデアが湧いてくる! (幻冬舎新書)もったいない主義―不景気だからアイデアが湧いてくる! (幻冬舎新書)
著者:小山 薫堂
販売元:幻冬舎
発売日:2009-03
おすすめ度:4.0
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映画「おくりびと」で昨年アカデミー外国映画賞を受賞した脚本家小山薫堂(くんどう)さんの本。

以前紹介したノーベル平和賞受賞者ワンガリ・マータイさんと何か関わりがあるのかと思って読んでみた。

ワンガリさんの"mottainai"とは直接関係なかったが、小山さんの本を読んで、以前仕事で講演をお願いしたことがある日本を代表するクリエーター、博報堂の宮崎晋専務のことを思い出した。

宮崎さんはカンヌ国際広告祭グランプリの金賞を何度も受賞しているクリエーターで、博報堂のクリエイティブ部門のトップだ。宮崎さんの部屋には金や銅などの様々色のライオン像が置いてあった。

たとえば日清食品のHungry?というコマーシャルも手がけている。





有名コマーシャルは数々あるが、講演では雑誌「ナンバー」の話をされていた。

Sports Graphic Number (スポーツ・グラフィック ナンバー) 2009年 10/29号 [雑誌]Sports Graphic Number (スポーツ・グラフィック ナンバー) 2009年 10/29号 [雑誌]
販売元:文藝春秋
発売日:2009-10-15
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この雑誌は30年近く前に創刊されたものだが(たしか第2号の表紙が具志堅用高のタイトルマッチ試合直後の無惨にも腫れ上がった顔写真)、創刊号のナンバー1からはじまって、ナンバー2,ナンバー3と毎号雑誌タイトルが変わることに当時の文部省(?)からクレイムがついたという話をされていた記憶がある。

宮崎さんは入社以来通勤定期は持たず、帰りの山手線は右回りだったり、左回りだったり、別のルートをつかったり、その日の気分で途中下車したりして、今日は何か新しいことがないかと通勤を楽しんでいたと言われていた。

この本で小山さんも同様に「今日はいつもより1時間早く仕事が片づいたから、普通なら電車に乗って帰るところを、バスを乗り継いで帰ってみよう。その途中でこういうことをやってみようか」というようなことを思うことも「企画」だと語る。

身の回りにあることで企画を考えるのが楽しいのだと。

宮崎さんと同じ人種なのだとピーンときた。

この本では小山さんの手がけた広告などが多く紹介されていて面白い。

特に印象にのこった例をいくつか紹介しておこう。


「もったいない」から生まれたヒット商品

大輪のバラを咲かすには、20本の内19本の花を間引きして、1本のバラをつくる。その間引いたバラの花を使ってバラ風呂をヒットさせたのが大阪のローズネットという会社の川端秀一社長だという。

川端社長は「僕この間までホームレスだったんですけど、このバラが成功して、もうすぐ上場するんです」と言っていたという。

バラ風呂として使った後は、乾燥させてポプリとするのだと。

他にも東武動物公園で1個200円で売っているへびの抜け殻で作った「お金が貯まるへびの皮」などを紹介している。


日本の映画を全部無料化

小山さんが日本の首相なら、日本の映画館をタダにすると語る。日本の映画産業の規模は年間2,000億円しかない。ばらまきの定額給付金予算2兆円の1/10の規模である。


地デジ切り替えの数千億円を、コマーシャルではなく、機材買い換え費用に充てるのか、何か形に残る形にした方が良いと。

デザインではデザイナーの深澤直人さんがつくり、2007年のDIME「トレンド大賞」を受賞したトイレ「アラウーノ」が好きだという。

◆送料無料◆【パナソニック】アラウーノS床排水タイプ/ホワイト[XCH1101WS]Panasonic全自動お掃除トイレ
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深澤さんはAUのINFOBARや壁掛け式CDプレーヤーの作品で有名なデザイナーだ。

小山さんはFM横浜のパーソナリティを務めているので、この本でもラジオ番組の話がいろいろ出てきて面白い。

1時間程度で簡単に楽しく読める。気分転換の読書には最適の本である。



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2009年10月29日

マイクロソフトでは出会えなかった天職 成功するNPOのつくり方

+++今回のあらすじは長いです+++

マイクロソフトでは出会えなかった天職 僕はこうして社会起業家になったマイクロソフトでは出会えなかった天職 僕はこうして社会起業家になった
著者:ジョン ウッド
販売元:ランダムハウス講談社
発売日:2007-09-21
おすすめ度:5.0
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マイクロソフトで9年間勤務し、オーストラリアと中国に駐在して国際関係の要職を勤めていたが、1999年に辞めて社会起業家となったジョン・ウッドさんの本。

ウッドさんはマイクロソフトでの激務の合間に休暇で行ったネパールで、旅行者の置いていった数冊の本しかない学校の図書館の実情を知る。

校長に「あなたはきっと、本を持って帰ってきてくださると信じています」と呼びかけられ、親や友人に声をかけて本をネパールに寄付することからNPO活動を始め、人生を変える行動を起こす。

英語の原書では荷物を一杯積んでいるヤクのそばに立っているウッドさんの写真が表紙だ。

Leaving Microsoft to Change the World: An Entrepreneur's Odyssey to Educate the World's ChildrenLeaving Microsoft to Change the World: An Entrepreneur's Odyssey to Educate the World's Children
著者:John Wood
販売元:HarperBusiness
発売日:2006-09-01
おすすめ度:5.0
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NPOもビジネスだ

彼の活動は"Room to read"というNPOだ。

roomtoread1





世界の40カ国以上に地域チャプターがあり、日本にもチャプターがある

roomtoread2





各地でチャプター(支部)をつくってその国での活動をチャプターに一任するというのもすぐれてビジネス的な発想だし、このRoom to Read運動が世界的に広まった理由の一つだ。

以前Table for Two活動事務局長小暮真久さんの「20円で世界をつなぐ仕事」のあらすじを紹介したが、その中で語られていた「NPOもビジネスだ」ということがよく分かる。

マイクロソフトではたぶん億に近い給料と経費枠(アメリカの会社のエクゼクティブは、年俸と同じくらいの経費枠を持っており、社有車、住居、出張、ゴルフ場、接待その他の費用に充てられる)を得ていたウッドさんは自らの意思で無給で何年も働いた。

スタッフの多くも月給1,000ドルとかの低い給料なので、利益を上げることが目的の会社とはかなり違うが、NPOの慈善福祉団体でも、しっかりしたビジネスプランと営業力がないと成功しない。

ちなみに岩瀬大輔さんと伊藤真さんの「超凡思考」を読んだところだが、岩瀬さんが卒業したハーバードビジネススクールでは、今や卒業生の10%が社会起業分野に就職しており、最も人気が高い分野とのことだ。

超凡思考超凡思考
著者:岩瀬 大輔
販売元:幻冬舎
発売日:2009-02-10
おすすめ度:3.0
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いくら理念が立派なNPOでも、資金がなければ何もできないわけで、そのことを象徴するのが、Room to Readを立ち上げたばかりの時の2つの面談だ。


American Himalayan Foundationの冷たい対応

ネパールに本を寄贈する運動を立ち上げたいと最初にAmerican Himalayan Foundationに申し入れたら、女性専務理事は何度も待たせたあげく、話を始めて2分で「これ以上、お話をする必要があるかしら。あなたと同じ事をしている小さなグループは何百もありますね。」と切り上げようとした。

「マイクロソフトで学んだことは"Think Big"、大きく考えることです」と必死に食い下がると、「自分ならできると思う理由は?」と聞かれる。

「良い質問です。まず、私には意欲があり、エネルギーが山ほどあります。必死に働くこともいといません。テクノロジー業界時代の人脈は広く…。」と説明しはじめると、たった10分足らずでランチのアポイントがあるといって11時15分に打ち切られた。

「良い質問です。"Good question"」というのは、普通答えに困った時にとっさに言って、その間必死に考える為の時間つなぎの言葉で、答えを用意していなかったのがバレる結果となる。

理念だけではいくらでも同じような団体はあるのだ。面談後フォローのメールを出しても返事も来なかった。ウッドさんは「5つ星の事務所に星ゼロの人格」と皮肉っている。


ベンチャーキャピタリストの高い評価

もう一つの面談は、サンフランシスコでの成功したベンチャーキャピタリストとの面談だ。

ビル・ドレイパーはドレイパー・リチャーズというベンチャーキャピタルで成功し、ドレイパー・リチャーズ財団という財団をつくり、年間10万ドルの使途無制限の資金を3年間提供して社会起業家を支援している。ドレイパー・リチャーズは1959年から活動を始めたベンチャーキャピタリストの老舗で、マイクロソフトが買収したホットメールなどを育て上げた。

ビル・ドレイパーは秘書と一緒にメルセデスの赤のコンバーチブルでウッドさんの事務所に時間ぴったりに来た。ビル・ドレイパーは熊のような大男で、70歳になったばかりだが、10歳は若く見える。ラクダのブレザーに白いシャツ、赤のネクタイとブルックス・ブラザースのカタログから飛び出してきたようだったと。

ビルは「私は人材に投資する。まず、きみたちのスタッフについて説明して欲しい」と切り出す。

ウッドさんは次のように説明する。

「この資金集めのモデルは、世界を変えたいと思っている人のすべてが、今の仕事を辞めてまで行動を起こすわけにはいかない、という現実に基づいたものです。」

「誰でも資金集めに協力できるようにすることが目標です。仕事中に1時間だけ時間をやりくりしたり、夜や週末を使ったりして、イベントを企画する事なら出来るでしょう。」

「このモデルの利点は、ボランティアの彼らにお金を払う必要がないことで、資金集めのコストを抑えることができます。」

「すばらしい。いい発想だ。経費はすくないほどいい。」とビルは力強くこたえる。

次にRoom to Readのミッションステートメントだ。

「われわれのチームは途上国の地域社会と協力し、共同出資モデルをつくって、学校や図書館、パソコン教室、女子への長期的な奨学金など新しい教育インフラの創造を媒介する。」

ビルはまたも賞賛する「これはいい。共同出資はまさに理にかなっている。私がUNDPの総裁を務めていたことは知っているだろう?私はかねがね、援助計画を成功させる唯一の方法は、地元の住民にも労働力と少額の資金を提供させることだと思っていた。」

「そうでなければ援助は無償の贈り物にすぎず、当人たちに失うものがないから、プロジェクトの価値をだれも認めようとしない。」

ウッドさんは我が意を得たりということで、ハーバードビジネスクールのマイケル・ポーター教授の言葉を紹介する。

「旅行業界の歴史を通じて、レンタカーを洗車した人は誰もいない。所有している意識がなければ、長期的なメインテナンスはしない。私たちのプロジェクトも同じだと思っています。」

ビル・ドレイパーは国際発展に関する様々なエピソードを語り、Room to Readを賞賛した。「感心した」と語り、秘書が止めるのもかまわず、奨励金の使い道を考え始めると良いと言ってくれたという。

最後のだめ押しは事務所に置いてあったノースフェイスの黄色い寝袋だ。

「重要なレポートなどがあるときは、これが僕の家になるのです。」

「そう言って欲しかったんだ。一所懸命に働くことをいとわない人がいい。NPOは『仕事は9時から5時まで』の精神の持ち主が多すぎる。」


成功したのはマイクロソフトのおかげ

Room to Readが成功したのも、初期のマイクロソフトで培ったあきらめない営業力のおかげだと。

マイクロソフトでは、「大きく行け、それができなければ家に帰れ」と言われていたという。Room to Readの目標も「1,000万人の子どもに生涯の教育機会を届けること」だと。

「21世紀のアンドリュー・カーネギーは裕福な白人男性ではない。21世紀のカーネギーとは、関心の高い世界中の市民のネットワークのことで、それをこれからつくるのだ」とウッドさんは語る。


マイクロソフトの面接問題

「ビル・ゲイツの面接試験」のあらすじで紹介したマイクロソフトの面接試験のことが書かれていて面白い。

ビル・ゲイツの面接試験―富士山をどう動かしますか?ビル・ゲイツの面接試験―富士山をどう動かしますか?
著者:ウィリアム パウンドストーン
販売元:青土社
発売日:2003-06-15
おすすめ度:3.5
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1991年にマイクロソフトに応募したときウッドさんの面接官はメリンダ・フレンチ(当時はビルの恋人。今は奥さん)だった。彼女の質問は;

「商業銀行は、積極的な人やねばり強い人が集まる業界には思えません。コンチネンタル銀行での経歴を通して、あなたは例外なのだと説明してください」

ウッドさんはウェアトン・スチールとの大きな契約をまとめた経験を披露し、それが気に入られて1991年4月にマイクロソフトに入社した。1991年ということは、まだMS−DOSのコンピューターばかりで、ウィンドウズ3.0が出たばかりの時代だ。

思わぬ所でウェアトン・スチールという名前が出てきたが、ウェアトン・スチールは筆者のピッツバーグ駐在時代の取引先で、ピッツバーグから車で南に1時間弱のところにある製鉄所によく行ったものだ。かなり古い製鉄所だが、閉鎖せずに動かすために従業員が株主となっていた。

ウェストバージニア州の最大の雇用者なので、会社が破綻しそうになっても州政府が雇用確保のために、てこ入れしていたが、筆者が日本に帰国してから倒産し、資産はオークションにかけられ、世界最大の鉄鋼メーカー、ミッタルが買収したそうだ。


マイクロソフトのエクゼクティブ達

マイクロソフトのビル・ゲイツや、こわいボスだったスティーブ・バルマーのエピソードが紹介されているのも面白い。

ウッドさんはビルが中国に出張で来た時に、マスコミに言って欲しいことをブリーフィングするが、ビルは何の準備もしていなかったという。「カネをたっぷり稼いだ人は、たいてい悪い聞き手になる」という紀行作家のポール・セロー(Paul Theroux)の言葉を紹介している。

ワールズ・エンド(世界の果て) (村上春樹翻訳ライブラリー)ワールズ・エンド(世界の果て) (村上春樹翻訳ライブラリー)
著者:ポール セロー
販売元:中央公論新社
発売日:2007-11
おすすめ度:3.5
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スティーブ・バルマーとは仕事でも、一緒のジョッギング中にも怒鳴りまくられたが、ウッドさんがボストン・マラソンで3時間4分の記録だったということをしっかり覚えていて、「部下のことは何でも知っているんだ」と言っていたという。

スティーブ・バルマーの飛び跳ねるビデオがYouTubeに載っている。気が違ったのではないかと思えるようなビデオなので、"Steve Ballmer going crazy"というタイトルが付いている。




Room to Readの営業方針

ウッドさんは次の5つの方針で営業にあたったという。

1.お金のある人は、教育が自分の人生に役に立ったという経験をしている可能性が高い。その「お返し」に途上国の子どもに同じ贈り物をできるのだと強調する。

2.寄付がもたらす直接の効果がわかる。8,000ドルの寄付でネパールに学校を一つ建てられるのだ。

3.運営コストは低く抑える。寄付金の90%が実際のプロジェクトに使われる。

4.情熱を売り込む。ジョンがテクノロジー業界の出世街道を捨てて報酬なしで専念していることを話せば、共感してもらえるだろう。

5.人は人生により多くの意味を求めている。教育に投資すれば、世界を変えるために手助けをしているというすばらしい気持ちを味わえる。

まさにビジネスの営業方針そのものだ。NPOビジネスとして、しっかりとした方針があって事業にあたっていることがよくわかる。

この本の巻末にある、寄付金の募集要項も紹介しておく。

寄付金相場






これを読んだら誰でもできることは協力したいと思うだろう。


Room to Readのあゆみ

300ページ余りの本で、ウッドさんがRoom to Readを思いついてから、両親や友人他の助言で、マイクロソフトをやめてNPOに専念する決心をし、Room to ReadがCNNなどのマスコミにも報道されることによって、さらに大きく成長したかが物語りとして語られている。

この成長物語は詳しくは紹介しないが、大変面白い読み物になっている。

特に最初の頃、73歳のお父さんが、ネパール行きをしつこくウッドさんに主張し、父のことを心配して思いとどまらせようとするウッドさんに「そんな風に人を見下すような息子に育てた覚えはない。自分は大恐慌も第2次世界大戦も生き延びてきたのだ。」と言い、メールにまで「PS 私が一緒にネパールに行けない理由をもう一度、説明してくれないか?」と書いてきたというエピソードが印象に残る。

ネパールに本を送るプロジェクトは、それからは父と息子のプロジェクトになったのだと。


途上国教育を支援する意義

911の直後、シカゴの募金集めの会でベン・シャピロから次のように言われたという。(筆者注:ベン・シャピロは若手コラムニストだと思うので、Wikipediaのリンクもそのベン・シャピロのものを載せた)

「きみたちのウェブサイトを見て本当に感動した。…僕たちは安上がりにグローバル化を進めてきた。たとえば、この10年間にアフガニスタンに学校をつくるべきだった。あの国の教育制度を確立する努力をしていれば、テロリストはいまより少なくなっていたはずだ。」

日本の民主党がアフガニスタン支援の方向を転換してインド洋での給油をやめてアフガニスタンへの農業や教育面での復興支援で協力すると言い出していることを思い起こさせる言葉だ。

ウッドさんはベンの言葉を「カブールの本屋」を読んだときに、思い出したという。

カブールの本屋―アフガニスタンのある家族の物語カブールの本屋―アフガニスタンのある家族の物語
著者:アスネ セイエルスタッド
販売元:イーストプレス
発売日:2005-07
おすすめ度:4.0
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様々な寄付のアイデア

この本では様々な人から様々な形での寄付があったことを紹介しているが、ユーモアがあって最も印象に残ったのは、ロンドンにあるモンテッソーリ教育法のパークゲート小学校の子ども達の「沈黙売ります」というアイデアだ。

1時間10ポンドで、生徒は自宅で黙って夜を過ごすという商品は親に大人気だったという。

ちなみにモンテッソーリ教育法は、日本ではあまり見かけないが、(たしか鎌倉などにモンテッソーリ法の幼稚園があったと思う)欧米では有名な幼児からの教育法で、感覚教育と自発性を重んじることが特徴だ。筆者の次男もピッツバーグで年少・年中の時にモンテッソーリ幼稚園に通っていた(米国では年長からは小学校に組み込まれている)。


日本のRoom to Read活動

この本の日本語訳には特別に第22章(ルーム・トゥ・リードと日本)という章が付け加わっている。この中に東京チャプターの資金集めのイベントが南アフリカ大使公邸で開催された時のマレファネ大使の挨拶が紹介されている。

「私が9年生、14歳のとき、地元の学校に村で最初の図書館ができました。私は大切な本を手に取れることがうれしくて、夢中で読みましたが、図書館にはわずかな本しかなく、毎週1時間しか開いていませんでした。」

「だからいま、ルーム・トゥ・リードが私の国にもやって来たことを、心から歓迎しています。たくさんの子どもが生まれて初めて本というものを見て、喜びのあまり踊りだすでしょう。」

実に印象深い大使の挨拶だ。

日本チャプターの実績:

roomtoread4






これまでのRoom to Readの実績

ウッドさんはメールの署名のところにRoom to Readの実績を書いて、こまめに更新していたという。この本の翻訳時点での実績と現在ウェブサイトに載っている実績比較は次の通りだ。素晴らしい伸びである。

            2007年6月     2009年10月
寄贈した本の数     140万冊        570万冊
建設した学校       287校         765校
建設した図書館    3,540ヶ所      7,168ヶ所
コンピューター教室    117ヶ所        179ヶ所
奨学金を受ける女生徒 2,336人       7,132人

現在の実績:

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地元は労働奉仕で協力

ネパールで学校の建設のためにセメント袋を背負って運ぶ母親達の話も印象的だ。日の出前に1時間かけて50キロのセメント袋を取りに行き、1時間半かけて山道を登って村に戻るのだと。

ジョンは試しにセメント袋を担ごうとしたが、ぎっくり腰になりかけたという。たしかに50キロを背負うというのは並大抵のことではない。ネパールの母親達は自分の体重くらいのセメント袋を担いでジョンより早足で山登りしていたという。

労働の提供も地元負担分として認められるので、母親達はセメント運搬、父親達は建設作業で、現金は出せなくても新しい校舎建設に協力しているのだ。


すごく参考になった本なので、いろいろ紹介したいが、あらすじが長くなりすぎるので、この辺りにしておく。

本来ならカタい話だが、冒険小説のようにスッと読める。筆者が久しぶりに読んでから買った本だ。是非一読をおすすめする。


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2009年10月25日

資本主義はなぜ自壊したのか 構造改革推進派 中谷巌さんの反省の書

資本主義はなぜ自壊したのか 「日本」再生への提言資本主義はなぜ自壊したのか 「日本」再生への提言
著者:中谷 巌
販売元:集英社
発売日:2008-12-15
おすすめ度:3.0
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以前は公務員の兼業が禁止されていたため、一橋大学教授をやめてソニーの取締役となった中谷巌さんのグローバル資本主義に対する「懺悔の書」。

中谷さんは一橋大学を卒業後日産自動車に勤めるが、27歳で休職してハーバード大学の博士課程に留学。博士号を取って帰国してからは大阪大学教授、一橋大学教授を歴任、ソニーの一件以来国立大学には奉職せず、多摩大学教授や三菱UFJリサーチ&コンサルティング理事長などを勤めて、最近はテレビのコメンテーターとしてもしばしば登場する。

2005年まではソニーの取締役会の議長を勤めていた。


グローバル資本主義はモンスター

中谷さんはグローバル資本主義は世界経済活性化の切り札となるというプラスもある反面、(1)世界経済の不安定化、(2)所得や富の格差増大、(3)地球環境破壊・食品汚染など、人間社会にマイナスの効果ももたらすモンスターだと語る。

このモンスターに自由を与えすぎて規律を失ったから資本主義そのものが自壊したのだと。

中谷さんは古き良きアメリカ時代にアメリカに留学しているが、最近アメリカに行くたびに「何か変だ」と感じていたという。

所得上位1%の富裕層の財産が8%から17%に倍増する一方、かつての豊かなアメリカを支えていた中流階級の所得はほどんど上がらず、没落した。

そして資本主義は暴走してサブプライム問題に端を発する世界金融不況に突入する。信用程度の低いサブプライムローンを分割して他の債権商品とくっつけ債権レーティングをAAとするまやかし金融術がまかり通り、不動産市況が下落に転じるとすべてのスキームが破綻に陥った。

金融のプロ達は破滅が来ることは計算済みだったのだ。


構造改革推進派

中谷さんは小渕内閣で「経済戦略会議」議長代理を務め、竹中平蔵氏と一緒に二百数十項目の改革提案をまとめ、その後の小泉構造改革路線でも「改革なくして成長なし」のスローガンのもとに、構造改革を支持した。しかし、これは人を不幸にする改革だったと反省しているという。

ここ10年で日本も年収200万円以下のワーキングプアと呼ばれる低所得者が1,000万人を越え、非正規社員比率は1990年の2割から毎年上昇して2008年には1/3を越え、日本の終身雇用・安心・安全神話は崩れた。

パンドラの箱は開いてしまったのだ。


構造改革は日本人を幸福にしたか?

中谷さんの最大の反省点は、「構造改革は日本人を幸福にしたか」という点だ。

日本経済が「グローバルスタンダード」なるものを受け入れ、構造改革、規制緩和、100円ショップなどの価格破壊、郵政民営化を実現したが、小泉改革により日本社会は他人のことを思いやる余裕を失い、自分のことしか考えないメンタリティが強くなった。

だから日本人は小泉構造改革には幻滅している。

小泉元首相が支持表明し、2008年9月の自民党の総裁選に出馬して構造改革路線の進化・発展を訴えた小池百合子氏が、自民党地方票では1票も取れなかったことがその証拠だと中谷さんは語る。

ちょうど小池百合子さんの「もったいない日本」という自民党総裁選後2008年10月に出版された本を読んだところなので、小池さんの言い分も紹介しておく。同じ出来事でも、小池さんは全く正反対の評価をしているので面白い。

もったいない日本もったいない日本
著者:小池 百合子
販売元:主婦と生活社
発売日:2008-10
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「特に、各地の党員・党友が投票する地方票において、47都道府県中35の地で第2位となることができたのは、大きな意義がありました。これは、地方の「声なき声」が私を支持してくださったからであり…。」

自民党の総裁選挙のしくみはよく知らないが、どうやらアメリカ大統領選挙のような一位がその県の全票を取るという"Winner takes all"式なのだろう。その意味では、どちらも真実なのだろうが、小泉改革支持派は小池さんしかいなかったことから考えると、中谷さんの言うことが当を得ていると思う。


中谷さんが見過ごしたもの

1970年代初めにハーバード大学の博士課程に留学した中谷さんは、ノーベル賞受賞者揃いのハーバードの教授陣や、世界中から集まった同級生の優秀さに驚かされ、一気にアメリカかぶれになった。

その後1970年代後半に台頭した小さい政府、規制緩和を掲げるレーガンノミックスを支える市場原理肯定派に感化されたという。しかし、ここで中谷さんは2つのことを見逃していたと反省する。

一つはアメリカ流経済学を日本に適用しても日本人が幸せになれる保証はどこにもないこと。

もう一つは当時の豊かなアメリカ社会を支えていたのは、レーガンノミックスによる自由な市場活動ではなく、政府の役割を重視していたサミュエルソンなどの「新古典派総合」経済政策だったことだ。


レーガン政権で潤ったのは富裕層

レーガンが登場し、小さな政府、大胆な減税により、最も潤ったのは富裕層だ。2005年では上位1%の富裕層が17%の所得を得ており、上位0.1%の最富裕層がなんと全体の7%の所得を得ている。

これはクルーグマンが「格差はつくられた」で指摘しているところだ。

格差はつくられた―保守派がアメリカを支配し続けるための呆れた戦略格差はつくられた―保守派がアメリカを支配し続けるための呆れた戦略
著者:ポール クルーグマン
販売元:早川書房
発売日:2008-06
おすすめ度:4.0
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資本主義や民主主義は元来非情なもの

マーケットメカニズムを説く近代経済学も、自由を重んじる民主主義も、貴族階級から権限を奪うためのエリート支配のツールだったという一面もある。

アダム・スミスの「見えざる手」による資源の適正配分と自由主義市場の自律機能は、王侯・貴族から権限を奪い、ブルジョワジーに力を与える理論だったのだ。

国富論 国の豊かさの本質と原因についての研究(上)国富論 国の豊かさの本質と原因についての研究(上)
著者:アダム・スミス
販売元:日本経済新聞社出版局
発売日:2007-03-24
おすすめ度:5.0
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中谷さんはアダム・スミスの「見えざる手」を繰り返し強調しているが、「国富論」の中に「見えざる手」が出てくるのは2個所のみというのは有名な話だ。

だからといって「国富論」の価値が下がる訳ではないが、元々「国富論」は当時のイギリス経済の状況について書いた本なのだ。筆者も昨年「国富論」(約1,000ページ)を読み直して、これを確認した。いずれ「国富論」のあらすじも紹介する。


日本の産業空洞化は必然

モノを安く供給しようと思えば、生産は必然的に中国・ベトナムなどの低賃金国に移る。中谷さんが「生産と消費の分離」と呼ぶ、日本の産業空洞化が生じたのだ。

ロバート・ライシュはこのブログでも紹介した「暴走する資本主義」の中で、先進国では消費者と資本家はグローバル資本主義の恩恵を受けたが、労働者と市民は被害を受けたと説いている。

暴走する資本主義暴走する資本主義
著者:ロバート ライシュ
販売元:東洋経済新報社
発売日:2008-06-13
おすすめ度:4.0
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「資本主義とは個人を孤立化させ、社会を分断させる悪魔の挽き臼」であるというのは、ハンガリーの経済学者カール・ポランニーが第2次政界大戦中に書いた「大転換」という本の中の言葉である。


「国民総幸福量」という考え方

中谷さんは世界でも低所得国のブータンキューバを取り上げ、貧困でも心がすさまない、明るく他人に親切な社会について語っている。

キューバは、その高い医療水準で医療立国を目指している。これを取り上げたのがマイケル・ムーア監督の「シッコ」だ。

アメリカで医療を受けられない人々をキューバに連れて行ったら、キューバでは無料で高度な医療が受けられたという。



ブータンでは王室が選挙制度を導入し、民主主義に移行したが、国民の90%は民主化に反対したと。この国では30年以上の前に「国民総幸福量」という概念を発表している。

ブータンの産業は水力発電くらいしか思いつかないが、鶴が電線で感電死するかもしれないという理由で、村を電化することを住民が止めたというエピソードまである。まさに「ボロは着てても心は錦」の国なのだ。


世界幸福感指数

イギリスのレイチェスター大学が発表した世界の幸福感指数では、ブータンは福祉の行き届いた北欧諸国と並んで、世界第8位で、日本は90位だという。それは次のようなランキングだ。

The 20 happiest nations in the World are:

1. Denmark
2. Switzerland
3. Austria
4. Iceland
5. The Bahamas
6. Finland
7. Sweden
8. Bhutan
9. Brunei
10. Canada
11. Ireland
12. Luxembourg
13. Costa Rica
14. Malta
15. The Netherlands
16. Antigua and Barbuda
17. Malaysia
18. New Zealand
19. Norway
20. The Seychelles

Other notable results include:

23. USA
35. Germany
41. UK
62. France
82. China
90. Japan
125. India
167. Russia

The three least happy countries were:

176. Democratic Republic of the Congo
177. Zimbabwe
178. Burundi


アメリカは「宗教国家」

中谷さんは、アメリカは「マニフェストデスティニー」を背負った「宗教国家」なのだと語る。だから神から受けた使命を達成するために原住民のインディアンを殺したり、ペリーを派遣して未開国日本を開放させたり、戦争で日本に勝ったが、ベトナムで敗北し、ブッシュ政権はイラクで壁にぶちあたった。

これを修復するのがオバマ大統領だ。オバマは(1)大不況からの修復、(2)中産階級の修復、(3)モラル・リーダーシップの修復をすることが期待される。


中谷さんの日本人論

この本の中で中谷さんは日本人論に多くのページをさいている。いくつかサブタイトルをひろうと。

・なぜ日本人は自然と共生できたのか
・なぜ、西行や芭蕉は聖人と慕われたか
・神道と仏教を融合した日本人
・弥生人は縄文人を征服しなかった
・国譲りによって統一された日本の独自性
・自然に神聖さを感じる日本人、自然を征服の対象と考える欧米人
・日本文化の中にこそ環境問題への解決の鍵がある
・戦後日本を経済大国にした談合・系列の秘密
・信頼こそが社会資本である
・稀に見る均質性こそ日本近代化の鍵だった
・今や貧困大国となった日本
・雇用改革が破壊した日本社会の安心・安全


中谷さんの結論

結論としては、江戸時代以来の伝統である安心・安全という価値観を、環境対策や省エネといった分野で、世界に広めようというものだ。そして安心面で日本が学ぶべきモデルケースとして高福祉国デンマークを挙げている。

デンマークではいつでも余剰人員を解雇できる。解雇されても、高い失業保険がもらえ、さらに職業訓練学校に通いスキルアップのチャンスとなるので、解雇されることをマイナスと思わないという。デンマークでは同一労働同一賃金が徹底しているので、同じ所に長く働いても賃金が上がるわけではないのだ。

デンマークでは社会に支えられているという実感があり、たとえば子育ての親の苦労を地域社会全体が負担しようと公共の養育施設が充実している。


これからはグローバルスタンダードでなく、相互に認め合う相互承認の時代であると結んでいる。この本はグローバルスタンダード論から日本の構造改革を支持してきた中谷さんの方針転換、反省の書である。

筆者もGDP世界第二の経済大国の座を失っても、日本は世界のリーダーとして存在意義を十分示せると思う。この本の中谷さんの提言に賛成だ。

中谷さんほどの著名な学者がここまで謙虚に「懺悔の書」を書くとは驚きだ。日米文化論は中谷さんの放談という感があるが、全体を通して中谷さんのまじめな性格が伺える。

本屋で平積みになっていると思うので、是非一度手に取ってみて欲しい本である。



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2009年10月22日

「古代カルタゴとローマ展」に行ってきました チュニジア大使の「うな重方式」英語勉強法

2009年10月22日追記:

多賀さんの本にたびたび登場する会社の先輩(TOEIC970点!)と同僚で大丸で開かれている「古代カルタゴとローマ展」に行ってきた。

次は会場で配られていたチュニジア政府の観光案内だ。

Tunisia2





チュニジアの各都市の位置を示したのが次の資料だ。
Tunisia1





出典されていたのは、テラコッタの様々な像や瓶など、ギリシャ風の大理石の彫像、ガラス細工の置物や首飾り、指輪やコインなどの金属加工品、墓を飾った石柱装飾や彫刻された石棺、そしてモザイク画などだ。

古代カルタゴとローマ展」のサイトの写真をいくつか紹介しておく。

これが筆者が感心した金属加工による装飾よろいだ。ミネルヴァの女神像が彫られている。
work_05_l








紀元前3世紀というと日本では弥生時代にこれだけの精密な金属加工製品ができていたことに驚かされた。

極彩色のガラス細工の置物もきれいだった。そしてカルタゴ展を代表するモザイク画も見事だった。

バラのつぼみを撒く女性のモザイク像:

work_09_large










モザイクのメデューサ像。

work_10_large








これが石棺のふたの彫刻だ。下半身が羽となった女神が右手で鳩を持っている。

work_03_l








筆者が1980年代はじめにエジプトに出張した時に、先方の接待でエジプト料理のレストランに行き、鳩料理を食べたことを思い出す。なぜか「オム・デ・アリ(アリのお母さん)」というフルーツタルトのようなホットデザートを食べたことが記憶に残っている。

カルタゴの港は海の入口の商港とその奥にある軍港にわかれていたが、軍港にあった巨大な木製の人口島のモデルには驚かされた。

軍船200隻以上を収納可能だったそうで、中央は司令室、ドック自体は乾ドックとなっており、軍船を収納して修理したもので、当時の再現CGが流れていて大変興味深かった。

次のカルタゴの想像図で、丸い出島のようなものが描かれているが、これが軍港の乾ドックだ。

carthage_img2








カルタゴは今のシリアあたりに居たフェニキア人の植民地で、ローマと戦ったポエニ戦争でのハンニバル将軍の象を使ってのアルプス越えが有名だ。

カルタゴの最大領土(出典:Wikipedia)

CarthageMap




しかし第3次ポエニ戦争でローマ軍に破れ、住民はほとんど殺戮されたり奴隷にされて、不毛の地にするために土には塩がまかれ、カルタゴは徹底的に破壊されたという。もちろんこの軍港の巨大な木製人工島も破壊されたのだろう。

筆者はエジプトには出張したことがあるが、チュニジアには行ったことがない。ましてやカルタゴが現在のチュニジアにあることも知らなかった。アフリカにあるが、住民は見たところアラブ系の浅黒い人というよりは、白人が多いようだ。

この本の著者の多賀敏行さんがチュニジア大使で赴任されたので、おかげで知識が広がった。是非機会があれば「古代カルタゴとローマ展」も見て欲しい。


2009年10月18日追記:

「外交官のうな重方式英語勉強法」の著者多賀敏行さんは、今年7月に辞令を受けて、在チュニジア全権大使としてチュニジアに赴任されている。

そのチュニジアにちなんだ「古代カルタゴとローマ展」が全国各地で順繰りに開催されている。

現在は東京駅の大丸百貨店で10月25日まで開催されている。

カルタゴ





来週にでも一度行ってみようと思う。

それにしても今回カルタゴの英語読みのスペリングを初めて知った。"Carthage"(カーセージ)がカルタゴとは!

チュニジアはアラビア語国だが、フランス語も普及しており、多賀さんも昔独学で覚えたフランス語が役に立っているそうだ。

「芸」は身を助けると言うが、いろいろな国の言葉ができることも立派な「芸」だと思う。

その意味も含めて多賀さんの最新作「外交官のうな重方式英語勉強法」のあらすじを再掲する。


2009年3月11日初掲:

外交官の「うな重方式」英語勉強法 (文春新書)外交官の「うな重方式」英語勉強法 (文春新書)
著者:多賀 敏行
販売元:文藝春秋
発売日:2008-11
おすすめ度:3.0
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この本の最後のクレジットに挙げられている先輩に勧められて読んでみた。著者の多賀敏行さんはジュネーブ日本政府代表部公使や、バンクーバー総領事などを歴任した外交官で、現在は東京都知事本局の儀典長だ。

まず不思議なネーミングに興味がわく。

多賀さんが「うな重方式」と呼ぶのは、うな重は、ご飯、たれ、ウナギ蒲焼きが混ざって初めておいしいのであって、別々に食べても良さがわからない。

英単語もこれと同様に、名詞の前後の動詞なり、主語なりを一緒に覚えることで、記憶にとどめようというものだ。

たとえば日本の戦争責任について、カナダの新聞に"Japan's amnesia"というタイトルの記事が掲載されたことがあったが、"amnesia"とは健忘症のことで、日本の首相が靖国神社に参拝することに中国などが日本は戦争責任を忘れていると怒っているという内容の記事だ。

同じ記事に"The Japanese are contorting the truth"という文が出てくる。"contort"というのは難しい単語だが、"contort the truth"(事実を歪曲する)だと覚えやすい。

このような言い回しで英単語を覚えることを「うな重方式」と 多賀さんは呼んでいる。

筆者も今でこそTOEIC945点だが、会社に入ってアルゼンチンに研修生として赴任する時、パンナムのアメリカ人スチュワーデスに"milk"を頼んだら、何度言っても通じず、"milk","milk"と連呼していたら、結局ビールを持ってこられたときには落ち込んだ。

当時筆者は"L"と"R"の発音の区別ができなかったし、朝食時でもないのに、大の大人が牛乳を頼むというのも、スチュワーデスからすれば、ありえないことだったのかもしれない。

このことが教訓となり、それからはミルクを頼む時は、"(a glass of)fresh milk"と頼む様になり、特に"a glass of"を付け加えるようにすればカンペキになった。

これも多賀さんの言う「うな重式」の例になるのかもしれない。

TOEIC945点までになったのも、このパンナムの"milk"の件で発憤したことも大きいと思う。

ところで、アルゼンチンにいる間に"L"と"R"の発音ができるようになったので、その後の英語の進歩につながった。

アルゼンチンで"L"と"R"が区別できるようになったのは、ワインのおかげだ。

スペイン語で白ワインは”ビノ・ブランコ”だが、はじめはvino brancoという風に発音していた。ある時vino blancoと言えたら、同じ下宿のアルゼンチン人の友達が"L"が言えたじゃないかと祝福してくれた。

余談ながらポルトガル語では白ワインはvinho brancoだ。どういうわけかヨーロッパもポルトガルまで行くと他の国と"L"と"R"が逆転する。


200語を覚えると10,000語理解できる!?

多賀さんは昔の英語勉強法のベストセラー作家岩田一男さんの本を紹介し、100の接頭語(a, in, ex, re, conなど)と100の語幹(たとえばspire)を覚えると、マトリクスで10,000語の意味がわかる50倍の投資効率だと紹介している。

英単語記憶術―語源による必須6000語の征服 (カッパ・ブックス)
著者:岩田 一男
販売元:光文社
発売日:1967-03
おすすめ度:4.0
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筆者も岩田一男さんのカッパブックスの本を学生時代に読んだことがある。英語を語源で覚える英語勉強法の本はいくつもあるが、たぶん岩田一男さんの本が元祖ではないかと思う。

ちなみに接頭語の"a"や"con"は元々ラテン語起源で、"a"は英語の"to"だし、"con"は"with"である。


●冠詞が分かれば英語は分かる

そこそこ英語が出来る人には、冠詞の重要さ、冠詞の使い方の難しさは共通認識になっていると思う。

冠詞が正確に使えると、ネイティブと区別がつかない英文を書ける。

この本では多賀さんはいくつか例を紹介している。たとえば:

・Do you have time?(時間がある?)
・Do you have the time?(今、何時?)
・What is time?(時間とはなんであろうか?ー哲学的疑問)
・What is the time?(今、何時?)

・within a month(1ヶ月のうちに)
・within the month(その月のうちに)

・I ate a chicken in the backyard.(庭で一羽のにわとりを締めて食べた)
・I ate chicken in the backyard.(庭でチキンを食べた)

参考として次の2冊を紹介している。

国際ジャーナリストの英語術 (朝日新書)国際ジャーナリストの英語術 (朝日新書)
著者:村上 吉男
販売元:朝日新聞出版
発売日:2008-05-13
おすすめ度:3.0
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村上吉男さんはよく米国のメディアにも登場した英語の使い手だという。また日本人の英語についてのマーク・ピーターセン氏の本も、冠詞の使い方について参考になるという。

日本人の英語 (岩波新書)日本人の英語 (岩波新書)
著者:マーク ピーターセン
販売元:岩波書店
発売日:1988-04
おすすめ度:5.0
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マーク・ピーターセンは、最初に冠詞が決まり次に名詞を選ぶのだという。発想が全く日本人とは逆である。

多賀さんは、筆者も高校生の時に使ったなつかしい「山貞」(山崎貞)の参考書、「新々英文解釈研究」(初版はなんと1915年)を今でも使える英文法の解説書として、"what"の関係形容詞的用法などを紹介している。

新々英文解釈研究復刻版新々英文解釈研究復刻版
著者:山崎 貞
販売元:研究社
発売日:2008-12-11
おすすめ度:5.0
クチコミを見る


"what money I have"は"all the money I have"の意味だ。

●"can"と"be able to"の違い、"will"と"be going to"の違い

この本では"can"と"be able to"の違い、"will"と"be going to"の違いなどが、多賀さんの経験を通じて説明されているので、わかりやすい。

"can"と"be able to"は、多賀さんがケンブリッジに留学していた時、判例が見つかったときに、教授に"I could find the case"と言ったら、理解されなかった例を紹介している。

"could"は、「いつでも望めばできた」という意味で、「ある時あることができた」と言うなら、"be able to"か"manage to"を使うのだと。

"will"と"be going to"の違いは次の通りだ。

・I will take you to the observatory floor."(展望階につれて行ってあげましょうー意志決定)

・I am going to take you to the observatory floor."(これから展望階につれて行ってあげますー元々の計画をこれから実行)


●同じように見えて意味が違うケース

この本には同じように見えて、様々な意味の違いがあるケースを紹介している。答えは続きを読むに記載した。

・「古池やかわず飛び込む水の音」は"A frog has jumped into the water."か、"A frog jumped into the water"か?

・"I have painted the chair"と"I painted the chair"の違い

・"My grandfather has done a lot for me"と"My grand father did a lot for me"の違い


●チャーチルの名言

バトルオブブリテンの時のチャーチルの英国議会での有名な発言が倒置法の例として紹介されている。

"Never in the field of human conflict was so much owed by so many to so few."
(人類の戦争において、こんなにも多くの人々が、こんな少ない人達によって、これほどまでに助けられたことはなかった=訳は筆者バージョン)

横道にそれるが、筆者はオーディオブックで、チャーチルのノーベル賞受賞作"The Second World War"第2次世界大戦を聞いている。

Audibleでダウンロードしたものだが、元々6巻をチャーチル自身が4巻にまとめたものを、声優が全文朗読している。

1巻が10時間から14時間で、4巻全部で50時間程度の大変なボリュームだが、第2次世界大戦のあちこちの戦場での出来事が詳しく語られている。

the second world war





バトルオブブリテンは第12章、オーディオブックで30分ほどが割り当てられている。

撃墜機数も戦果発表当時とは違い、実は半分程度だったとか、レーダーもまだよちよち歩きの段階だったという風に、第2次世界大戦の帰趨を決めた重要な戦いながら、控えめな表現なのが印象的だ。

ずいぶん前から聞いているが、やっと1944年10月のレイテ沖海戦まで来たところだ。

元外交官の関榮次さんの「チャーチルが愛した日本」を読んだことでもあり、時間を掛けて興味深く聞いている。

チャーチルが愛した日本 (PHP新書)チャーチルが愛した日本 (PHP新書)
著者:関 榮次
販売元:PHP研究所
発売日:2008-03-15
おすすめ度:3.5
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ちなみにアメリカを訪問した時に、チャーチルは自分のことを"Half American"と言っており、アメリカ人である母のジェニーの影響を強く受けていることをみずから語っている。


ややセンスが古いところもあるのでアマゾンのレーティングは低いが、軽妙な語り口で1時間程度で読める。

「うな重方式」という奇抜なネーミングに難があるような気がするが(混ぜて食べて味わうならカレーライスでも天丼でも何でも良いはず)、かなり英語が出来る人でも参考になる点が多いので、一度手に持ってページをめくってみることをおすすめする。


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2009年10月20日

星間商事社史編纂室 三浦しをんさんの最新作

星間商事株式会社社史編纂室星間商事株式会社社史編纂室
著者:三浦 しをん
販売元:筑摩書房
発売日:2009-07-11
おすすめ度:3.5
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三浦しをんさんの最新作、「星間商事株式会社社史編纂室」を読んでみた。

三浦しをんさんの作品は以前「まほろ駅前多田便利軒」を紹介したが、あれは直木賞受賞作だからというよりは、筆者の住んでいる町田市をモデルにした小説だったから読んでみた。

まほろ駅前多田便利軒 (文春文庫)まほろ駅前多田便利軒 (文春文庫)
著者:三浦 しをん
販売元:文藝春秋
発売日:2009-01-09
おすすめ度:4.0
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筆者も商事会社に勤めているので、この本はタイトルに興味を惹かれて読んでみた。

筆者のポリシーとして小説は詳しいあらすじは紹介しないが、「まほろ駅前…」と同じく、この本も「事実は小説より奇なり」ではなく、「小説は事実より奇なり」という感じだ。

社史編纂室に左遷されたアラ30の女性主人公が、実は「さぶ」(今や廃刊となっているようで、古いかもしれないが、他にうまい言葉が見つからないので)系の同人誌を女友達2人と10年来作っているオタク(ただし本人はノーマル)という設定だ。

商社に勤める筆者の目からして、ストーリーはありえない展開だが、エンターテインメントとしては大変面白いので、それでよいと思う。

登場人物もありえない設定だし、奇想天外で面白い。

こういう小説を読むと、読書はエンターテインメントなんだと妙に感心してしまう。

大変面白いので、小説が好きな方には是非おすすめする。


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2009年10月17日

靖国への帰還 ミステリー作家内田康夫さんのファンタジー作品

靖国への帰還靖国への帰還
著者:内田 康夫
販売元:講談社
発売日:2007-12-15
おすすめ度:4.0
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著者内田康夫さんは、「浅見光彦」ミステリーシリーズなどで、多くのミステリー作品を書いている売れっ子推理小説作家だ。

その内田康夫さん自身の、「これは、私の代表作になるかもしれない」とのコメントが本の帯に載っている。

本のタイトルと富士山をバックにした日本軍機月光の表紙に興味を惹かれて読んでみた。

月光



小説のあらすじは詳しく紹介しないのが筆者のポリシーだが、この本を読んでスピルバーグの「未知との遭遇」のあの場面を思い出した。

close encounter





「未知との遭遇」は「フォレストガンプ」と並んで、筆者の最も好きな映画だ。

次のYouTubeに載っているビデオの5分過ぎくらいから出てくる場面だ。



この本のストーリーには「未知との遭遇」と同じ様なファンタジー性を感じる。

靖国をテーマとした小説だが、内田康夫さんの靖国問題についての主張も色濃く反映されていて、考えさせられる作品だ。

筆者の叔父さん(母の弟)は海軍土浦航空隊の航空訓練生だったが、米軍機の防空壕直撃爆弾で昭和20年に多数の戦友と一緒に窒息死している。亡くなった母や祖父が元気だった頃は、毎夏土浦まで合同慰霊祭に出かけたものだ。

戦死した叔父さんは「海軍二等飛行兵曹」と彫った立派なお墓があるので、靖国神社に祀られているということを一度も考えたこともなかった。「ミッドウェーの奇跡」のあらすじで紹介した空母「加賀」で戦死した親戚もいるので、一度靖国神社を訪問して調べてみようと思う。

そんなことを考えさせられた作品だった。


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2009年10月15日

最近ハマっているビール キリンハートランド 瓶ビール

最近は、もっぱらキリンのハートランド瓶ビールを飲んでいる。

kirin heartland






たまたま近くの酒屋で見つけて飲んでみたが、泡のきめの細かさにびっくりした。本当にクリームのような泡だ。

コーンスターチや米などアメリカのバドワイザータイプの原料を一切含まず、麦とホップだけを原料としているので、味も格別だ。

kirin heartland3






このビールは昔ながらのリターナブルボトルを使用しており、販売店に空瓶を持って行くと5円リファンドがある。

子どもの時、平日の朝、友達と夏の湘南海岸に行って、ビールや酒の空瓶拾いに出かけて、小学校のクラブだったかPTAだったかの活動資金の足しにしていたことを思い出す。

たしかビール瓶は一本5円か10円で酒屋が買い取ってくれたが、もっと大きい酒の一升瓶は買い取ってくれなかったような記憶がある。子供心に、ガラス原料をたくさん使ったでかい瓶の方を何故買い取ってくれないのか不思議に思っていたものだ。


麦とホップしか使わないドイツ伝統製法のビールとして、今まではエビスビールを飲んでいた。

缶ビールもあり、どこでも売っているエビスに比べると、売っている店が限られるし、店まで空瓶を持って行くのが面倒ではあるが、味と泡のクリーミーさではキリンハートランドに軍配が上がる。

「キリンもその気になれば出来るんじゃん」という感じのビールだ。

販売店が限られているので、デパートなどのリカーショップや酒の量販店でも売っていないかもしれないが、近所の酒屋で聞いてみるか、ネットで買って一度試してみることを是非おすすめする。

【送料無料】 キリンハートランドビール500ml瓶 20本入(P箱)
【送料無料】 キリンハートランドビール500ml瓶 20本入(P箱)



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2009年10月14日

終の住処 磯崎 憲一郎さんの芥川賞受作

終の住処終の住処
著者:磯崎 憲一郎
販売元:新潮社
発売日:2009-07-24
おすすめ度:3.0
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三井物産現役商社マンの磯崎憲一郎さんの芥川賞受賞作品。磯崎さんは今まで勤務先は関係ないとして、公表していなかったそうだが、今回芥川賞受賞が決まって三井物産の人事総務部の部長代理ということがわかってしまったようだ。

家内が図書館から借りていたので、読んでみた。たぶん家内は出版されたらすぐに図書館に予約を入れたのだと思う。

寝る前に1時間弱で読み終えた。

筆者のポリシーとして小説のあらすじは細かく紹介しないが、30歳過ぎで愛し合うこともなく結婚した主人公の、平凡のような、それでいてありえない20年あまりの生活をつづった作品だ。

タイトルのように家がところどころ重要なモチーフとなっている。

出版社の宣伝文句では、「ガルシア=マルケスを思わせる感覚で、日常の細部に宿る不可思議をあくまでリアルに描きだす。」ということだそうだ。

筆者は主人公の立場で疑似体験できるタイプの小説が好きだが、この作品の場合には感情移入できなかった。(そういえばガルシア=マルケスの「百年の孤独」も感情移入できなかった)

百年の孤独百年の孤独
著者:G. ガルシア=マルケス
販売元:新潮社
発売日:1999-08
おすすめ度:4.5
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横道にそれるが、ガルシア・マルケスの短編集はアルゼンチンでスペイン語の個人教授を受けて勉強しているときの教材だった。「百年の孤独」は彼の最も有名な作品だが、筆者は短編集の方をおすすめする。

悪い時 他9篇悪い時 他9篇
著者:ガブリエル ガルシア=マルケス
販売元:新潮社
発売日:2007-06
おすすめ度:4.0
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「終の住処」は強い印象がなかったが、それは読み手によるのだろう。ある意味、評論家や批評家など、くろうと好みの作品なのかもしれない。

15万部突破ということで、本屋の店頭に平積みになっていると思うので、一度手に取ってパラパラめくってみることをおすすめする。


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2009年10月11日

生物と無生物のあいだ 65万部突破のポスドク賛歌

生物と無生物のあいだ (講談社現代新書)生物と無生物のあいだ (講談社現代新書)
著者:福岡 伸一
販売元:講談社
発売日:2007-05-18
おすすめ度:4.0
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2007年発刊の本ながら、いまだにアマゾンのベストセラー231位に入っている分子生物学者の福岡伸一青山学院大学教授の本。勝間和代さんの「まねる力」というムック本の対談に登場していたので読んでみた。

AERA MOOK 勝間和代「まねる力」AERA MOOK 勝間和代「まねる力」
著者:勝間 和代
販売元:朝日新聞出版
発売日:2009-06-30
おすすめ度:3.5
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本の帯には各界のいろいろな人からの推薦文が紹介されている。

推薦文









筆者は昔はブルーバックスなどを時々読んでいたが、最近は科学系の本は「日本は原爆爆弾をつくれるのか」以来読んでいなかったので、久しぶりに読んだ科学の本だ。

これを機にブログにも「自然科学」というカテゴリーを新設した。

福岡さんは新書大賞とサントリー学術賞をダブル受賞していることでも分かる通り、この本は科学の本というよりは、本の帯にある「極上の科学ミステリー」といった感じの本で、エンターテインメント性を追求し、非常に読みやすく、わかりやすい。

筆者がひさびさに読んでから買った本だ。


ウィルスには生命の律動がない

現在新型インフルエンザがはやっているが、この本は昔読んだ岩波文書と同じ「生物と無生物の間(あいだ)」という題だったので、てっきりウィルスについての本かと思った。

生物と無生物の間―ウイルスの話 (岩波新書 青版 245)生物と無生物の間―ウイルスの話 (岩波新書 青版 245)
著者:川喜田 愛郎
販売元:岩波書店
発売日:1956-07
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ウィルスは代謝なし、呼吸なし、結晶化も可能で、限りなくミネラルに近い存在である。しかしウィルスは自己増殖する。この不可解なウィルスを生物とするか無生物とするかで長年、論争がある。

福岡さんはウィルスを生物であるとは定義しない。福岡さんは生物と無生物の間にどのような界面があるのかを、この本で定義したいと語る。それはいわば「生命の律動」であると。いかにも文学的な、わかりやすい表現だ。


この本の目次がふるっている

この本の目次がいかにもふるっている。とても科学書とは思えない目次だ。この本はアマゾンのなか見検索にも対応している
ので、是非目次を覗いてみて欲しい。

第1章  ヨークアベニュー、 66丁目、 ニューヨーク

第2章  アンサング・ヒーロー

第3章  フォー・レター・ワード

第4章  シャルガフのパズル

第5章  サーファー・ゲッツ・ノーベルプライズ

第6章  ダークサイド・オブ・DNA

第7章  チャンスは、準備された心に降り立つ

第8章  原子が秩序を生み出すとき

第9章  動的平衡(ダイナミック・イクイリブリアム)とは何か

第10章 タンパク質のかすかな口づけ

第11章 内部の内部は外部である

第12章 細胞膜のダイナミズム

第13章 膜にかたちを与えるもの

第14章 数・タイミング・ノックアウト

第15章 時間という名の解(ほど)けない折り紙

「細胞膜」と言う用語が出てくるので、生物学の本だということがわかるが、それを除くと、まるで小説のチャプターのような目次である。


研究者にスポットライト

文章のうまさとタイトルの奇抜さもさることながら、この本の特徴は研究者に注目して生化学反応の原理探求を描いていることだ。

普通、科学の本はどういった反応が起こったかを、しとうと読者にわかりやすく説明しようと反応の原因解説が中心だ。読者にわかりやすく解説しようとする著者の親切心の現れともいえる。

読者としては反応がなぜ起こったのかについての知識は得られるが、研究者の人現像や、実験の過程で研究者がどんな点に工夫したかについてはあまり説明されていないことが多い。

ところがこの本では研究結果もさることながら、研究者の方にスポットライトが当たっており、実験者の人物像や試行錯誤の過程が詳しく説明されているので、しろうとにも実験の難しさと、その実験が成功したときの達成感や意義がわかりやすい

最もよい例が第2章アンサング・ヒーローだ。

アンサング・ヒーローとは、人知れず偉大なことを成し遂げた人のことで、福岡さんは「縁の下の力持ち」と言っている。この場合はDNA=遺伝子だと世界で最初に気づいたオズワルド・エイブリーという科学者のことだ。

エイブリーは福岡さんも勤務したニューヨークマンハッタンの一番東寄りのヨークアベニューと66丁目の交差点付近にあるロックフェラー大学研究所に1913年から定年退官する1948年まで35年間勤務していた。


大きな地図で見る

ロックフェラー大学研究所にはかつて野口英世も在籍し、数々の研究成果を発表したが、その発表の大半は現在は誤りであったとされている。

ヨークアベニューと66丁目というのはマンハッタンのちょうどクイーンズボロブリッジあたりで、ユニバーサルスタジオのアトラクションでキングコングが攻撃するケーブルカーがあるあたりだ。

筆者はピッツバーグに合計9年間駐在したので、ニューヨーク出張の帰りにマンハッタンからレンタカーでラガーディア空港に向かう時は、ちょうどこのあたりからからFDRドライブに入ってトライボロブリッジを通って、空港まで行っていた。

そんな有名な研究所があったとは全く知らなかった。

エイブリーがDNA=遺伝子という発見をしたので、その成果を元に1953年にイギリスの若いジェームズ・ワトソンフランシス・クリックがDNAはらせん構造をしているという事実を発表し、後にノーベル賞を受賞した。

1953年に"Nature"に発表されたわずか1.5ページのワトソンとクリックの歴史的論文が、この本に紹介されている。

watsoncrickpaper







出典:本文107ページ 原文はNatureサイトで閲覧可


ワトソンもクリックも次の本を読んだことが、生命を研究するきっかけとなったと語っているので、一度読んでみようと思う。

生命とは何か―物理的にみた生細胞 (岩波文庫)生命とは何か―物理的にみた生細胞 (岩波文庫)
著者:シュレーディンガー
販売元:岩波書店
発売日:2008-05-16
おすすめ度:5.0
クチコミを見る

ちなみにノーベル賞のサイトでは二重らせん構造のDNAを福岡さんがフォー・レター・ワードと表現するACGTでつくるゲームがあるので、一度見て欲しい。

ポスドク賛歌

この本ではこういった華やかな成果発表を支え、来る日も来る日も地道な実験を繰り返すポスドク(博士課程を卒業した研究者)やラボテクニシャン(補助研究者)の様々な試行錯誤にスポットライトを当てている。

福岡さん自身が米国のポスドク研究者だったので、ポスドクの役割である数々の下準備や、実験の工夫などがわかりやすく紹介されていて面白いストーリーとなっている。何人かの評者が「科学ミステリー」と呼ぶゆえんだ。

たとえば「内部の内部は外部だ」という題で、膵臓の細胞が消化酵素を分泌する動きが次の図で説明されている。非常にわかりやすい。

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出典:本文200ページ

「サーファー・ゲッツ・ノーベルプライズ」も面白い。特定のDNAを増殖するPCR(ポリメラーゼ・チェイン・リアクション)マシンの発明をひらめいたサーファー科学者キャリー・マリスのことだ。

ポスドクのことを自虐も含めてラボ・スレイブと呼ぶそうだが、理系の学生にとって、この本は希望とやる気を与えてくれるだろう。

ポスドクは就職戦線では非常に厳しい状況にある。小宮山前東大総長の「東大のこと教えます」という本で、東大が就職部をつくったのは東大でも留学生やポスドクは就職が難しいからだと書いていたことを思い出す。

東大のこと、教えます―総長自ら語る!教育、経営、日本の未来…「課題解決一問一答」東大のこと、教えます―総長自ら語る!教育、経営、日本の未来…「課題解決一問一答」
著者:小宮山 宏
販売元:プレジデント社
発売日:2007-03
おすすめ度:4.5
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動的平衡

動的平衡とは、体の細胞を構成するタンパク質・アミノ酸が数日間ですべて新しいものに置き換わることであり、それゆえ生命は動的平衡にある流れであると定義できるという。

マーカーで染色されたアミノ酸入りのえさを食べた大人のネズミを解剖して器官を調べたら、アミノ酸は体内のあらゆる細胞に行き渡っていた。生物のあらゆる細胞は短期間にすべて新しいものに置き換わるのだ。


生命は機械ではない

この本の最も印象的な実験が、GP2という細胞膜をつくるタンパク質を持たないGP2ノックアウトマウスを使った実験だ。

まずはGP2遺伝子を欠損させたES細胞(なんの器官にもなるオールマイティ細胞)をつくり、マウスの胚に流し込むと、ES細胞は胚の一部となり、やがてGP2遺伝子ノックアウトマウスが誕生する。

福岡さんははやる思いでGP2ノックアウトマウスの組織を調べたら細胞膜に異常はなく全く正常だったという。


生命には時間がある

次は狂牛病を引き起こすプリオンタンパク質をノックアウトしたマウスだ。

プリオンタンパク質の異常は狂牛病を引き起こすので、プリオンタンパク質ノックアウトマウスは狂牛病になると予想されたが、実際には正常だった。

それではということで、今度は遺伝子の1/3を欠損したプリオンタンパク質をプリオンタンパク質ノックアウトマウスにもどしたら、マウスは狂牛病を発症した。

GP2を完全にノックアウトしたマウスはGP2がなくとも正常に生き、遺伝子を部分的に欠損したノックアウトマウスは異常を発症した。

福岡さんはこの現象について、「生命には時間がある。その内部には常に不可逆的な時間の流れがあり、その流れに沿って折りたたまれ、一度、折りたたんだら二度と解くことができないものとして生物はある。」と語る。

GP2ノックアウトマウスは動的平衡のなかで、GP2遺伝子の欠損を見事に埋め合わせたが、あとから遺伝子の欠陥をつくると、生命の動的平衡は失われるのだ。


生物と無生物の境界はまだ解明されていないが、この本を読んで生物と無生物の境界がミステリー仕立てで、なんとなく理解できたような気がする。

科学書を読むと、いつも感じた読後不満足感がない。大学生の息子にも勧めた。小説のように一気に読めるので、是非一読をおすすめする。


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2009年10月09日

図書館に行こう! その9 落語CDの在庫もスゴイ

百席(48)乳房榎百席(48)乳房榎
アーティスト:三遊亭円生
販売元:ソニーレコード
発売日:1998-01-21
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先日勘三郎の納涼歌舞伎公演で見た「怪談乳房榎」の元ネタの落語を聞いた。

筆者の住んでいる町田市の図書館には落語CDをたくさん置いており、「落語」で検索すると330本のCDを置いている。

落語CD





さらに「円生」で検索するとなんと105本のCDがある。

円生落語





「ビートルズ」でヒットするのが67件で、そのうち多くのCDが同じ物を別の会社がだしたものなので、たぶん円生の105本というのは、町田図書館にあるアーティストとしては最も多い作品数なのではないか?

町田図書館の場合にはCDは予約できないので、出向いて棚や書庫にあるCDを借りることになるが、それでも105本もあると円生の落語を聞くだけで1年以上かかると思う。

ほとんどすべての図書館が落語CDを置いている。

中央区図書館は172本のCDとビデオテープ、DVD。

中央区図書館





港区図書館は84本のCD,DVDだ。

港区立図書館





町田図書館はCDの予約はできないが、中央区と港区図書館ではCDでもDVDでも予約ができるので便利だ。

筆者は今まで落語のCDをあまり聞いたことがなかったが、今回のCDでは、円生の円熟した技に驚かされた。さすがに日本落語界の第一人者を長年続けた円生だけある。

男女の声色も使いわけるし、いなか言葉や江戸っ子のしゃべりもその役になりきっている。

下男の正介がよっぱらうところなど、本当に酒を飲んでいるような音までたてて、まさになりきっている。

解説の円生の地声に戻ると江戸っ子の「ひ」と「し」の発音が混ざっているのは、ご愛敬なのだろう。

日本の古典芸能の落語は奥が深い。

今後はときどき落語のCDも借りてみようと思う。


是非最寄りの図書館で落語CDをチェックして欲しい。多くの落語CDを置いているはずだ。


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2009年10月03日

日本海軍の戦略発想 ”マベリック”海軍参謀の敗戦分析と反省記

+++今回のあらすじは長いです+++

日本海軍の戦略発想日本海軍の戦略発想
著者:千早 正隆
販売元:プレジデント社
発売日:2008-12
おすすめ度:5.0
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最後の海軍大学卒業生で、終戦の時に連合艦隊砲術参謀中佐だった千早正隆さんが昭和22年に書いた日本海軍の反省記の改訂版。プレジデント社で1982年に発売され、1995年に文庫本になっている。

読んだのは中公文庫版だが、2008年12月に、プレジデント社から再発売されている。たぶん日本海軍の戦略の失敗の現代的意味を問い直そうということだろう。

千早さんは戦後GHQの戦史室調査員となり、このブログでも紹介した「ミッドウェーの奇跡」などを書いたGHQ戦史室長ゴードン・プランゲ博士の調査に協力した。

この本は英訳されて、多くの英語の戦史研究に引用されている。


千早さんはいわば”マベリック”

映画トップガンを見た人は覚えているだろうか?トム・クルーズが演じる主人公のコードネームが”マベリック”だ。マベリックとは、異端者、へそまがりという意味で、千早さん自身も自らの性格をそう評している。



たとえば千早さんはアメリカ人の戦争観を知るためにシンガポールで押収した「風とともに去りぬ」を見たいと、海軍大学時代に言いだしたが、さすがにこれは認められなかったという。



次にクレマンソーを研究したいと言い出して、クレマンソー研究家の酒井陸軍中将を招いて講演をしてもらったら、酒井中将は大東亜戦争出直し論を2時間論じたという。

クレマンソーといえば、「皇族たちの真実」で終戦直後の総理大臣に就任した東久邇宮稔彦王が、フランス留学時代に親交のあった元首相のクレマンソーに警告されたという話を思い出す。

「アメリカが太平洋へ発展するためには、日本はじゃまなんだ。(中略)アメリカはまず外交で、日本を苦しめてゆくだろう。日本は外交がへただから、アメリカにギュウギュウいわされるのにちがいない。その上、日本人は短気だから、きっとけんかを買うだろう。

つまり、日本の方から戦争をしかけるように外交を持ってゆく。そこで日本が短気を起こして戦争に訴えたら、日本は必ず負ける。アメリカの兵隊は強い。軍需品の生産は日本と比較にならないほど大きいのだから、戦争をしたら日本が負けるのは当たり前だ。それだからどんなことがあっても、日本はがまんをして戦争してはならない」

まさにクレマンソーの警告した通りの展開になったわけだ。


海軍大学卒業に際して放校になりかける

海軍大学卒業に際して、教授連に対して、ほとんど造反ともいえるマベリックぶりを見せた。

千早さんたち学生に意見を求められたので、千早さんは海軍大学の教育方針を独善的で各科バラバラであると評した。

科学的に戦争そのものを分析して、日米戦の対策はどうあるべきかという大命題の下に、あらゆる科目を統合して研究すべきで、艦隊の運動の研究などはその一部にすぎないと書いた。

「現在の戦況の苦境もつまるところ、研究に不真面目であったためである。深く戒む(いましむ)るところがなければならない」と要約したら、翌日学生全員が集められ、主任教官より名前を挙げて譴責されたという。

処分の話も出たが、同期生全員がかばってくれたのと、校長が代わったので処分なしで終わったという。


参謀としてもマベリック

参謀としても並み居る海軍大学出身参謀たちと対立して、ビアク島防衛の重要性を強調し、「ビアク気違い」と呼ばれたりしたという。

ちなみにビアク島には1万人の兵力が駐留し、米軍の攻撃までに十分陣地を構築する時間がなかったにもかかわらず、善戦して米軍を手こずらせたのでマッカーサーは激怒し、指揮官を子分のバターンボーイズの一人のアイケルバーガー中将に代えている。

マッカーサーが厚木飛行場に乗り込んできた時に、ぴったり寄り添っているのがアイケルバーガー中将だ。

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出典:以下特記ないかぎりWikipedia


千早さんの経歴

千早さんは昭和2年の海兵第58期生。昭和5年に海兵を卒業後、すぐに艦隊勤務となり、駆逐艦、巡洋艦などの現場を経験し、砲術学校での学習を経て巡洋艦・戦艦の対空砲の分隊長となった。

千早さんの書いた艦隊防空のレポートは、海軍省の昭和16年の最優秀作品に選ばれたという。

千早さんは戦艦大和の艤装作業に立ち会い、大和は1トン爆弾の直撃にも堪えるように全体を装甲200ミリの鉄板で覆っているのに、巡洋艦から転用した副砲塔の装甲は30ミリしかないことを指摘したという。

戦争が始まると戦艦比叡に乗艦し、昭和17年11月の第3次ソロモン海戦で比叡が夜間探照灯砲撃で集中攻撃を受けた際に千早さんも両手の親指を負傷するが、奇跡的に指はつながり、内地で病院生活を送った。

比叡は切手にもなったので、筆者も亡くなった叔父に貰って、この満州国建国記念の切手を今でも持っている。

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昭和18年7月から海軍大学校に学び翌19年3月に普通2年のところを8ヶ月で繰り上げ卒業し、艦隊参謀、連合艦隊作戦参謀として勤務し終戦を迎える。


千早さんがこの本を書いた理由

千早さんがこの本を書いた理由は、戦後多くの日本人、アメリカ人に次のような質問をされ続け、千早さん自身もその理由を解き明かしたかったからだと。

1.日本で米国のことを一番知っていたのは、日本海軍ではなかったか、その海軍がなぜ米国と戦争することになったのか。

2.アメリカンフットボールで同じ手を使って連敗するのは下の下といわれるが、日本海軍はなぜ同じ手を繰り返してその都度叩きのめされたのか。


米軍の攻撃で最も驚いた点

千早さんが連合艦隊参謀として勤務していて、米軍の攻撃で最も驚いたのは次の点であると。

1.B29による本土爆撃。超航空を飛ぶB29には対空砲も届かず、迎撃戦闘機も有効でなかった。

Boeing_B-29_Superfortress_USAF






2.B29による瀬戸内海への機雷敷設。これは「飢餓作戦」と呼ばれたものだ。使用された機雷は日本海軍が見たこともなかった磁気式、水圧式に度数式を組み合わせた新型のもので、特に低周波音響機雷には有効な掃海手段はなかったので、瀬戸内海はほとんど通行不可能となった。

まさに日本の首を真綿で絞めたのと同じ結果となった。

3.原子爆弾。連合艦隊作戦参謀だった千早さんでも原子爆弾の概念すら持っていなかった。慚愧(ざんき)に堪えないという。


この本の目次

目次を読めば大体この本の内容がわかると思うので、紹介しておく。

第1部 日本海軍の対米戦争に関する判断

 1. 日本海軍の仮想的は米国海軍

 2. 日米戦争に関する研究

 3. 戦術面のみに目が奪われた

 4. 不備だらけの日本海軍の戦務(戦務とは旧海軍用語で、索敵、偵察、海上輸送護衛、補給などの戦争するための諸準備のこと)

 5. 大局を忘れた日本海軍の戦備

 6. 陸海軍協同の不完全

 7. 戦争についての各種判断の誤り

第2部 戦争はかく実証した

 1. ハワイ海戦の戦訓

 2. 日本海軍の小手先芸

 3. 小手先芸の限界

 4. あと1ヶ月あったなら(ガダルカナルも敵に簡単に奪われることもなかったろう)

 5. 馬鹿の一つ覚え

 6. 偵察、索敵の軽視

 7. 追撃戦の宿命
    追撃戦で最後まで徹底的にやった戦例が乏しいのは、徹底性を欠く国民性にあると千早さんはいう。

 8. 慢心と増長の悲劇
    ミッドウェー海戦が典型例である。作戦の根本思想、敵空母出現の可能性の未検討、索敵の不備など、暗号が解読されている以外にも慢心と増長は多い。

 9. 美辞麗句が多くなった作戦命令

10. 用法を誤った潜水艦戦と時代遅れの対潜作戦
    日本の船腹量は約1千万トンだったが、戦争で喪失した船腹量は800万トン、このうち潜水艦の攻撃によるものが全体の57%、航空機が31%、触雷が7%、敵の砲撃はわずか2万トンにすぎない。

    B29と潜水艦の前に日本の戦力は崩壊したといえる。

11. 補給戦に敗れた
    ニューギニア戦線では14万人が補給もなく投入され、実に13万人が死亡したが、戦死はわずか3%で、残りは餓死、戦病死だった。

12. 誤った作戦で犠牲になった設営隊
    昭和19年、暗号が解読されていると千早さんは疑い、わざわざ「長官の名前の画数を足した日」というような指令をだしたが、島の防衛隊からの返信に「では○○日のことか?」と打ち返してきて頭を抱えてしまったという。結局敵に待ち伏せされたという。

13. 軽視した情報、防諜のとがめ

14. 甘かった人事管理

第3部 総まとめ

 1. 後手、後手となった作戦計画

 2. 完敗に終わった「あ」号作戦「捷」号作戦
 3. 水上部隊の悲惨な最期 戦艦大和が片道の燃料で向かったという話は実は誤りで、実際には簿外の在庫を呉の機関参謀がかきあつめ、往復に必要な燃料を積んで死出のはなむけとしたのだと。これでほとんどの艦船を沈められて、燃料もなく日本海軍は静かに死を待った。

 4. マクロ的な考え方と総合性の欠如

 5. 物量の差だけではなかった

 6. 教育に根本の問題があった

いくつか参考になった点を紹介しておく。


日本海軍の仮想的は明治以来米国海軍

明治40年、日露戦争の2年後に決定された「帝国国防方針」では日本の仮想敵は陸軍はソ連、海軍は米国とされた。

米国は日本海軍が兵力を増強するための目標敵であったが、実際に昭和12年南京攻略時に日本の爆撃機が間違って米国の砲艦バネー号を撃沈した時には、米国に陳謝するとともに多額の賠償金を支払った。あくまで仮想敵であって、本当に米国と戦線を開くことなど考えてもいなかったのだ。

ところが三国同盟に猛反対していた米内海軍大臣が昭和15年に及川海軍大臣に交代すると、海軍は簡単に三国同盟に賛同し、一挙に対米戦が現実味を帯びてくる。

昭和14年9月の第2次世界大戦勃発以降、対米関係は悪化の一途をたどった。ナチスの傀儡のヴィシー政権の承認を強引に得た昭和16年7月の南仏印進駐が引き金となって、米国が在米資産凍結、石油全面禁輸を発表し、海軍は対米戦の準備を開始した。

いわゆる月月火水木金金の猛訓練だが、この時も大口径砲の戦艦で敵を迎え撃つ艦隊決戦が戦略の中心で、潜水艦の船団攻撃や船団の対潜護衛の演習は皆無だったという。


太平洋戦争開戦時の連合艦隊の戦力

太平洋戦争が始まった時の連合艦隊の戦力は次の通りだ。これは戦艦と潜水艦こそ米国の6割を切っていたが、航空母艦と重巡洋艦では米国と肩を並べる兵力で、これにくわえて大和、武蔵の巨大戦艦2隻が加わった。

戦艦   10隻
航空母艦  9隻
重巡洋艦 18隻
軽巡洋艦 18隻
駆逐艦  90隻
潜水艦  55隻
潜水母艦  3隻
水上機母艦 2隻
合計   133万トン(基準排水量)

対米戦のために長年兵力を整備した結果だった。日本海軍は米軍に比肩しうる戦力を持っていたことがわかる。

ちなみに今度あらすじを紹介する佐藤晃さんの「太平洋に消えた勝機」という非常に面白い本の巻末に、「日米主要艦の戦力推移」という表が載っているので、紹介しておく。

太平洋に消えた勝機 (光文社ペーパーバックス)太平洋に消えた勝機 (光文社ペーパーバックス)
著者:佐藤 晃
販売元:光文社
発売日:2003-01
おすすめ度:4.5
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日米主要艦推移







出典:本書230ページ

この表を見ると、日本は戦争の後半でほとんどの艦船が撃沈されているのに対して、アメリカは真珠湾で戦艦2隻、1942年に空母が4隻沈没した他は、1942年以降戦艦の喪失ゼロ、1943年以降は主要艦船の喪失ゼロという状態が続いていたことがわかる。

日本側の一方的敗北だったことがよくわかる表である。昭和19年のマリアナ沖海戦は「マリアナの七面鳥撃ち」を言われ、日本艦船を米軍が面白いように葬ったが、かくも一方的な敗北だと本当に「バカの一つ覚え」と言わざるを得ない。

実はこの表は正規空母までで、米国が圧倒的な産業力を注力して大量に製造した1万トン級のリバティー船と8,000トン級の護衛空母や軽空母が含まれていない。

リバティ船は戦後構造的欠陥が判明したが、溶接を使わず、鉄板をリベット接合して、わずか42日で完成し、戦時中実に531隻が建造された。

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護衛空母100隻以上が建造され、ドイツ潜水艦の脅威を封じ込めるのに成果を上げた。

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日露戦争以来の大鑑巨砲主義の旧弊が支配した海軍

日本の大鑑巨砲主義という伝統は崩せず、開戦時の10名の艦隊長官のうち、4名が鉄砲屋(砲術出身)、4名が水雷屋、1名が航海屋、1名が航空屋だった。

唯一井上成実(しげよし)第4艦隊長官が昭和16年1月に「航空兵力の充実、海上護衛兵力の大増強、南方島嶼(とうしょ)の守備の強化」という正鵠を得た「新軍備計画論」を訴えたが、大鑑巨砲主義の主流派から無視される結果となった。


馬鹿の一つ覚えの艦隊決戦でのアウトレンジ戦法

日本の戦法は敵の射程距離外から砲撃して敵を撃滅するというアウトレンジ戦法で、これがため世界最大の46センチ主砲を持つ大和・武蔵を建造したものだ。

この巨大戦艦はパナマ運河を通行できないため、アメリカのように大西洋と太平洋両方に面している国は機動力が生かせないので、アメリカは同じサイズの戦艦をつくれないと見られていた。

そうすると大和・武蔵の46センチ砲はアメリカ戦艦の40センチ砲よりも射程距離が長く、それがためアウトレンジ戦法で勝利できるというシナリオだった。

しかしアウトレンジ戦法が度が過ぎて、射程距離を縮めて命中確率を上げようという積極性に欠け、レーダー測敵機もないので、遠距離から射撃しても非常に悪い命中率にとどまっていた。

たしか大和の大砲は小田原から撃って、東京に届くという話を聞いたことがある。射程距離は最大42キロだという。しかし、現実問題そんなに離れていては光学照準機では到底ねらえない。

戦争中の艦隊決戦の例では、昭和17年のジャワ沖海戦では、日本の重巡洋艦は敵の15センチ砲にまさる20センチ砲を持っていたので、アウトレンジ戦法で砲撃したが、数百発の20センチ砲弾のうち1発が敵に命中しただけだった。

次に戦艦2隻が36センチ砲を打ち込んだが、300発撃って一発も命中しなかった。

アッツ島ではまたもアウトレンジ戦法で、900発撃って5発しか命中しなかった。

昭和19年のレイテ沖海戦では、栗田艦隊の戦艦大和と長門が最初で最後の砲撃を敵艦隊に浴びせるが、大和は約100発、長門は45発撃ち、金剛、榛名がそれぞれ100発づつ撃ったにもかかわらず、敵駆逐艦を1隻沈め、1隻を大破させただけだった。

アメリカ側はレーダー測敵器があるので、照準は正確だったようだ。これが前記の表の圧倒的な日米の艦艇損失の差になるのだ。


不備だらけの日本海軍の戦務

戦務とは旧海軍用語で、索敵、偵察、海上輸送護衛、補給などの戦争するための諸準備のことである。

燃料は海軍は当初の2年分の燃料は備蓄して戦争に臨んだと言われているが、実際には開戦時の備蓄は600万トンだった。

必要な燃料量を年280万トンと見込んで戦争に突入したが、実際には年500万トン近くを消費し、南方などからの石油供給も海上輸送路を攻撃されて満足にできなかった。昭和17年後半以降は常に燃料に苦しめられることとなった。

燃料備蓄量以外にも、日本艦船は日本近海の艦隊決戦を想定して建造されているので、航続距離に問題があったという。

さらに問題なのは弾薬で、開戦時に艦艇に定数通りの量を配給したら、弾薬庫には25ミリ機銃弾がなくなり、その後も弾薬の不足は解消されなかった。

日本海軍の対空砲の弾薬定数は高角砲200発(約10分)、機銃1,500発(約10分)のみで、撃ち尽くしても補充は受けられなかった。

これも艦隊決戦で大砲には一門の大砲が発射する弾数に限度があるので(大口径砲では120発。それ以上だと大砲が焼き付いてしまう)、それと同じ考えを対空火器まで適用したことが問題だった。

この点では相当期日にわたる会戦を単位に弾薬を準備していた日本陸軍の方がましだったと千早さんは語る。


日本は潜水艦による近代戦を理解しなかった

日本の潜水艦戦略には通商破壊戦の考え方はなく、艦隊決戦のみを想定していた。それでも対潜水艦対策は皆無だった。

「享楽的で質実剛健に乏しい米人は、困苦欠乏をもっとも必要とする潜水艦の乗員には適しない。従って、米国潜水艦はあまり恐れる必要はないだろう」とたかをくくっていたという。

有名な米国海軍のフロスト中佐は逆に「潜水艦は米人の使用に好適の艦種である。なんとなれば、米人は敏活、果断、独創に富み、潜水艦の乗員に最適な性質を具備している。われわれ米国海軍軍人は、潜水艦戦において、世界いずれの海軍軍人も凌駕することができる」と語っているという。

まさに日本の見方と正反対だが、これが結果的に真実となった。前述の「日米主要艦の戦力推移表」でも、米国潜水艦に沈められた空母や戦艦が多いことがわかる。

排水量わずか2,000トン程度の潜水艦が、3−5万トンの戦艦や航空母艦を葬り去るのである。実に効率のよい戦いである。

ノックス米海軍長官は「日本は近代戦を理解しないか、あるいはまた近代戦に参加する資格がないか、いずれかである」と語っていたという。


海軍大学の画一的で時代遅れの教育

千早さんは昭和18年7月に海軍大学に入学し、9ヶ月で繰り上げ卒業している。卒業したときはギルバート、マーシャル諸島は敵手に落ち、ラバウルも秋風落莫の状態だったという。

明治につくられ、最終改訂が昭和9年の最高機密「海戦要務令」が絶対規範として生きていた。

これは艦隊決戦主義で、航空部隊も潜水艦部隊もそれを支援するという域を出ていなかった。もちろん通商破壊もなく、対潜水艦作戦もない。いかに日本海軍の用兵者の考えが硬直的だったかがわかる。

海軍大学の戦略、戦術の研究は机上演習に終始し、日米海軍の決戦を想定した自己満足のものだった。

決戦が起こるのか、決戦が起きたら戦争は終わるのか、負けたらどうなるのかといった問題はまじめに研究されなかった。

おまけに机上演習ではゼロ戦は1機でヘルキャット10機に相当するなどという、ありえない前提が演習統監により出されていたという。

千早さんは海軍大学で教育を受けた画一的なエリートが参謀なり司令官なりになって戦争を指導したことが、日本海軍の敗因であると推論している。

アメリカ軍は日本軍の敗因は、チームワークの欠如にあったと分析しているという。マクロ的かつ長期的な総合性と計画性を欠く日本人特有の結果に基づくのではないかと。

たしかにたまたま真珠湾で大勝利してしまったがゆえに、徹底性を欠く一般的な日本人の性格、オペレーションリサーチマインドというか、科学的な彼我の戦術の分析の欠如が、敗戦につながったことは否めないと思う。

いろいろな戦記もののタネ本ともなっている本で、昭和22年に最初の原稿が完成し、まだ戦争の記憶が生々しいなかで書かれたこの本は、冷静な分析と反省に満ちている。

プレジデント社から昨年末再度発売されたことでもあり、是非一度手にとって見て欲しい本である。


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2009年10月01日

O. ヘンリー短編集 珠玉の作品集 心が洗われる


最後の一葉 (新潮CD)
著者:O.ヘンリ
販売元:新潮社
発売日:2001-12
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図書館でCDを借りてO.ヘンリーの短編集のオーディオブックを聞いた。

「最後の一葉」、「よみがえった改心」、「賢者の贈り物」というO.ヘンリーの代表作ばかり3作の朗読だ。

子供の時に読んだと思うが、大人になって読んでも心を動かされる。

新訳シリーズで、代表作21作品をあつめたO.ヘンリー短編集も最近出版されているようだ。

1ドルの価値/賢者の贈り物 他21編 (光文社古典新訳文庫)1ドルの価値/賢者の贈り物 他21編 (光文社古典新訳文庫)
著者:O・ヘンリー
販売元:光文社
発売日:2007-10-11
おすすめ度:4.5
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筆者のポリシーとして小説のあらすじは詳しく説明しないが、「最後の一葉」は重症の肺炎で明日をも知れない娘が、窓の外に見えるツタの葉が落ちると自分も死ぬと思い込んでいる話だ。

「よみがえった改心」は元銀行強盗の話。

「賢者の贈り物」は赤貧の新婚夫婦のクリスマスプレゼント交換の話だ。

ひょっとしたら教科書に載っていたのかも知れない。たぶん多くの人が、読んだことがあるストーリーだと思う。

やはり名作は心が洗われる思いだ。短編集なので1日で読める(聞ける)。是非O.ヘンリーをおすすめする。


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