2010年02月28日

東大家庭教師が教える頭が良くなる記憶法 記憶法に奇策はない

東大家庭教師が教える 頭が良くなる記憶法東大家庭教師が教える 頭が良くなる記憶法
著者:吉永 賢一
販売元:中経出版
発売日:2009-02-20
おすすめ度:4.0
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同じシリーズの「東大家庭教師が教える 頭が良くなる勉強法」を読んだので、「記憶法」も読んでみた。

著者の吉永賢一さんは、東大理科III類出身。言わずと知れた日本最高偏差値の学科だ。しかし吉永さんは家庭教師を天職と感じ、医者にならずに家庭教師のプロとなった変わり種だ。

吉永さんは、小学校3〜4年生の時にトニー・ブザンの「頭が良くなる本」を読んだことで、記憶法に興味を持ったという。

筆者も興味を惹かれ読んでみたので、別途簡単にあらすじを紹介するが、到底小学生が読む本とは思えない。こんな本を小学校3〜4年生で本当に読んだとしたら、超早熟と思う。

トニー・ブザン 頭がよくなる本トニー・ブザン 頭がよくなる本
著者:トニー ブザン
販売元:東京図書
発売日:2006-09
おすすめ度:4.0
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トニー・ブザンといえば、いまやマインドマップで有名になった記憶法の第一人者だが、1970年代に出版されたこの本でも”マインドマップ”というネーミングでは呼んでいないが、全く同様の記憶法を紹介している。

ザ・マインドマップザ・マインドマップ
著者:トニー・ブザン
販売元:ダイヤモンド社
発売日:2005-11-03
おすすめ度:3.5
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吉永さんが、この本で記憶法として紹介しているのは、オーソドックスな方法ばかりだ。やはり記憶術に奇策はないということだろう。

1.つなげる
これは何か他のものと関連づけして覚えることだ。既に知っていること、実際に起きていること、体験、因果関係、似たもの、時間の流れ、場所、意義・使命、ルールなどとつなげる。

つなげ方が多ければ多いほど覚えやすい。

2.またやる
これは反復練習することで覚えることだ。一回目の復習は覚えた直後、2回目の復習は1日後、復習するたびに強度を上げる(スピードを上げるとか、合格点を上げるとか)、自分の忘却傾向をつかむとかだ。

3.外に出す
これは人に話したり、書くことで、頭の中から外にだして覚えることだ。人に説明することは、非常によい学習法だ。

この本には書いていないが、筆者はあらすじ=要約を人に説明する勉強法を是非おすすめしたい。特に外国語の勉強には非常に役立つと思う。

人に説明する機会がつくりにくければ、このブログの様に、あらすじメモにしたりして覚えることも有効だ。

筆者はブログを書く前は、読書メモをつくっていたが、紙に書いたものだと検索ができないので、結局メモを書いただけで、後から読み直すことはほとんどなかった。

読書メモに替えてブログにしたら、著者などのキーワードで検索すれば、その本のあらすじが読み返せるので、大変効率は向上した。


記憶力アップの様々なテクニック

この本では記憶力が良くなる様々なテクニックが紹介されている。

参考になったものをいくつか箇条書きで紹介する。

・拡大コピーは暗記の強力なサポーター

・箇条書きの行間はたっぷりとる

・姿勢にこだわる 背中を丸める、または背筋を伸ばす

・数字イメージ転換法 英語圏では発達しているという。

 0から9までの数字をそれぞれ次のように割り振る:

 1=あ行の文字
 2=か行の文字
 3=さ行の文字
 4=た行の文字
 5=な行の文字
 6=は行の文字
 7=ま行の文字
 8=や行の文字
 9=ら行の文字
 0=わ/ん

 11ならあ行の文字、何でも良いがたとえばイエとかと覚える。

 覚えるのが面倒くさいような気がするが、今度電話番号で試してみる。

・記憶力が良くなる緊張度のコントロール
 
・ニギニギボールを使ったリラックス法
 
・眠気覚ましにはつねったり、指一本で机をトントン叩く
 
・ノートは眠気覚まし
 
・つまらないときはあえて質問
  
・記憶には酸素が必要 コンビニの酸素缶など

・自分に声をかけて励ます 「やるぞ!」「できる!」


実戦的で参考になる。奇策はないが、逆に実践すれば誰でも必ず結果が上がる記憶術だと思う。余り過度の期待をせず読むことをおすすめする。


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2010年02月25日

東京五つ星の中国料理

東京 五つ星の中国料理東京 五つ星の中国料理
著者:岸 朝子
販売元:東京書籍
発売日:2009-11-28
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料理記者岸朝子さんが、東京の様々なレストランを紹介しているシリーズ本の中華料理版。

楽しく読める本だ。

ミシュランとは違って、グレード分けしているわけでもない。岸さんのおすすめの東京と横浜中華街の中華料理店が紹介されている。

どの店もフカヒレとか伊勢エビとかの高級食材を使った料理の写真を載せている。そんな高級食材は食べることは稀なので、あまり参考にならないが、少なくともその店の看板料理がわかって参考になる。

この本の最大の収穫は、筆者の好きな北京ダックの老舗が日本にもあることがわかったことだ。

その店は全聚徳(日本語読みだと「ぜんしゅうとく」)で、北京ではチェーン店のようになっており、子ども連れでも気軽に北京ダックが食べられる。

この店の良いのは、ダックの皮に適度に肉が付いている点だ。

北京ダックの店は、皮だけで全く肉がついていないところが多いが、全聚徳は皮と鴨肉が味わえる。

筆者は皮だけよりも肉が適度についた方が好きだ。

また他の高級店でよくある一人前ダックの皮3〜4枚で終わりというようなケチな店ではない。何枚でもラッピングの皮を追加注文でき、本当に北京ダックだけで満腹感を味わえる。

全聚徳







出典:本書16ページ

鴨一羽丸焼きが、国産なら約一万円、カナダ産なら8,000円と、値段もお手頃だ。岸さんも本場北京の全聚徳で北京ダックを食べたと書いている。

東京にあるなら是非一度家族で行ってみようと思う。

全聚徳があることがわかっただけでも収穫だった。

楽しい本である。


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2010年02月20日

成功の法則92ヶ条 三木谷楽天教の教典

+++今回のあらすじは長いです+++

成功の法則92ヶ条成功の法則92ヶ条
著者:三木谷 浩史
販売元:幻冬舎
発売日:2009-06
おすすめ度:4.5
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楽天グループを率いる三木谷さんの仕事哲学92ヶ条。

アマゾンの表紙写真だと味気ないが、本屋に並んでいる本は三木谷さんの顔写真入りカバーがついて、こんな感じになる。
三木谷本












筆者が読んでから買った2010年最初の本である。

三木谷楽天教というのは、決して悪い意味ではない。楽天は三木谷さんの同志で主要なメンバーはほとんど去っており、三木谷色がいよいよ強い会社となっているので、そう呼んでいるだけだ。

以前の「成功のコンセプト」のあらすじは別ブログで再掲しているので、こちらも参照願いたいが、その最後でもコメントした通り、三木谷さんのワガママぶりは相変わらずだ。楽天の仲間が一人としてこの本に登場することはなく、謝辞もなにもない。こんなところが傍目には傲慢に見える。

同じ努力をしても最後の0.5%が大きな差になって現れるという「三木谷曲線」と呼ぶグラフを紹介している。曲線以外にも他にもいろいろ「三木谷○○」があるのでだろう。

三木谷曲線












出典:本書280ページ


楽天で唯一の「経営者」なのだろう。


出だしが強烈だ。

「夢を見るのは若者の特権だという。

美しい言葉ではあるけれど、僕は間違っていると思う。」


夢を抱くだけでは意味がない。夢を具体的な目標に組み立て直し、達成するためには具体的に何をしなければならないかを考え抜き、自分の能力、才能、体力、忍耐力をすべてをかけて実際にひとつずつ成し遂げる。

何年かかるかは別として、それで実現できない夢はないし、そこまでやってはじめて、夢を見る意味があるのだ。

夢と現実とは違うなどとは、夢を現実に変える努力を怠った人間の苦し紛れの言い訳に過ぎないと三木谷さんは語る。


夢を実現するための技術を書いた本

夢を実現するためには技術が必要だ。だから三木谷さんは自分の夢や目標を実現する方法を楽天グループ5,000人はじめ、日本のビジネスマンに伝えるためにこの本を書いたのだと。

三木谷さんの「成功のコンセプト」のあらすじは詳細にわたって紹介したが、「成功のコンセプト」はいわば総論で、この本はそれで示した三木谷経営の神髄を92の具体的テーマについて語った各論だ。

成功のコンセプト (幻冬舎文庫)成功のコンセプト (幻冬舎文庫)
著者:三木谷 浩史
販売元:幻冬舎
発売日:2009-12
おすすめ度:4.5
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なぜ92ヶ条なのか?

この本にはなんで92ヶ条なのか書いていないが、筆者の推測では、三木谷さんは読者が座右の書として毎日1ヶ条づつ、3ヶ月で1冊すべて、1年に4回繰り返して読むように、この本を92ヶ条にしたのではないかと思う。

つまり92 x 4 ≒ 365 だ。

ハードカバーのゴツい本だが、座右の書とするという意味では松下幸之助の「道をひらく」のようなビニールのソフトカバーが最適だと思う。

道をひらく道をひらく
著者:松下 幸之助
販売元:PHP研究所
発売日:1968-05
おすすめ度:5.0
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体育会系経営

リッツカールトンホテルでは”モーニングラインアップ”と呼んで職場全員が集まって15分ほどその日の順番に当たった人からの発表と、ミーティングを行っているという。

楽天の月曜日の全体朝会は有名だが、各部署でも毎日朝会をやっているという。この本は、その朝会で毎回発表者をきめ、一つのテーマについて発表させたりして、三木谷流経営を社員5,000人となった楽天グループに浸透させるために書かれたのではないかと思う。

ソフトボールの宇津木妙子さんの本のあらすじでも紹介した通り、重要なことは毎日リマインドして覚えることが、ベタではあるが間違いなく最も効果的だ。

だから野球やソフトボールなどのスポーツでは最も重要な走守攻は毎日練習する。そして統率が取れたチームは毎日練習の前にやるべき事と目標をみんなで確認する。

そんな体育会系の反復練習を思い起こさせる。

全部で92の三木谷教の教えの内容を一つ3ページにまとめ、初めにその章のタイトルページをつけて、4ページセットとして、ひとつひとつがあたかも本の一つの章のような体裁となっている。

松下幸之助の「道をひらく」は、全てのテーマが見開き2ページに収まっているので読みやすく、筆者は1テーマ見開き2ページの方が良いのではないかと思うが、本文3ページ+タイトルページというのは、三木谷さんなりの考えがあっての構成なのかもしれない。


この本の目次 なんちゃって中見!検索

アマゾンの中見!検索のように目次を紹介しておく。

成功の法則目次2成功の法則目次1













成功の法則目次4成功の法則目次3













成功の法則5













なにせ92もあるので、いっぺんに全部頭に入れるのは難しいが、毎日1ヶ条づつ、年4回繰り返し読んで少しずつ覚えれば良い。その意味でも、この本は教典である。

この本を読むと三木谷さんが自分の考えをどのように部下に伝えているのか、よく分かる。自分の教えを簡潔な言葉でまとめて、強い印象を与える本だ。

いくつか参考になったものを紹介しておく。

15.人生一生勉強。すべて勉強。
大学時代の恩師の言葉だという。なによりも自分自身への戒めであると。たしかに、この言葉は筆者の戒めでもある。

プロのスポーツ選手で、自分はプロになれたからもう練習しないなどという人はいない。

成長こそが人生の喜びだ。人は何かを学ぶために、この世に生まれてくるのだと。

26.精神的エネルギーレベルを下げるな。
スティーブン・スピルバーグは、自分が撮影に入る前に黒沢明監督の「七人の侍」を見るという。スピルバーグは「七人の侍」を初めて見たとき、これが映画だと思ったそうだ。その感動を思い出しているのだろう。



七人の侍(2枚組)<普及版> [DVD]七人の侍(2枚組)<普及版> [DVD]
出演:三船敏郎;志村喬;稲葉義男;宮口精二;千秋実
販売元:東宝
発売日:2007-11-09
おすすめ度:5.0
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精神的なエネルギーレベルをいつも高く保ち、前向きな気持ちで仕事に取り組むために、三木谷さんは週2〜3回ジムに行くという。。テンションが下がったまま仕事をするのは、敗北への道を進むのと同じだと知るべきだと。

28.他人の立場になって考える。
これは小学校4年生の時におばあさんに言われたことだと。ものすごく大きな衝撃を受けて、それ以来、ずっと心の底に秘めている教訓だという。

他人の立場になって考えるというのは、カーネギーの「人を動かす」の最も重要な教訓である。

サイバーエージェントの藤田さんは「渋谷ではたらく社長の告白」でカーネギーの本について書いているが、三木谷さんも「カーネギー信者」かもしれない。

29.物事の本質を見極めろ。(なぜ人はものを買うのか?)
これの答は、ショッピングはエンターテイメントだからというものだ。

遠回りのようだけど、結局は物事の本質を見極める作業を繰り返すことが、問題の本当の解決法へと辿り着く、最善にして唯一の方法なのだと。

全く同感だ。しかしこれは筆者の意見だが、eコマースシステムサービスを提供する楽天なら、その答えで良いかもしれないが、消費者相手の小売り業ではそれだけでは不十分だろう。

なぜ人はそのものを買うのか?

これを経験を使ったり、科学的に割り出したりして、同じパターンを再現させるために、日夜世界中の商人が研究している訳だ。

その一つの方向性は、このブログでも紹介した世界第3位の小売業英国のスーパーマーケットTESCOのポイントカード(クラブカード)による徹底的な購買履歴分析、属性・類型分析に基づく割引クーポン付きのパーソナライズされたダイレクトメールであり、もう一つは、こちらもブログで紹介したアマゾンの”この本を買った人はこちらも買っています”というリコメンドだ。

「なぜ」がわかれば、無敵の小売業になれる。

楽天が取扱高を公表しているので、なんとなく小売業のように勘違いしていたが、この章の答えで楽天は小売業ではなく、小売業向けサービス提供者であることがはっきりわかった。

31.身近なベストプラクティスを探せ。
三木谷さんが考案したという「2ミニッツ・コール」が紹介されている。インターネットで資料請求したら、楽天の担当者が2分以内に電話を掛けることだ。コンピューターのプログラムが自動的に動いているだけでなく、しっかり人間がサポートしていることを実感してもらえるという。

楽天の他の子会社ではあまり広がらなかったが、アメリカの楽天子会社では広がっているという。たしかに新鮮なサプライズを与え差別化できる良いプラクティスだと思う。

43.リーダーとは指揮官であり、教育者であり、戦略家である。
バッティングのコツを聞かれて、「来たボールを、ひっぱたくだけです」と言った人がいるが、これはまさに天才の言葉で、凡人に理解できる単位にまで分解しなければならない。直感の内容を言語化しなければ他人に伝わらない。

三木谷さんがこの本を書いている最大の理由がそこにあるという。

能力のある個人が集まるだけでは、いい会社はつくれない。個人が辞めたら会社からその能力が失われるからだ。能力を伝える仕組みを構築する必要がある。社員の能力を高める社内教育のシステムがなければ、会社は長続きしない。

リーダーは自分がやると、なぜ上手くいくのかそれを徹底的に分析し、もう一度自分で理解した上で、部下に伝えることのできる教育者でなければならない。

チームを成長させ、目標を達成し、さらに高い目標に挑む。この幸福のスパイラルを作り上げることができるのがが、真のリーダーなのだと。

44.組織を生かし、物事を達成せよ。やる気になれば、10倍のスピードで組織は動く。
個人にはできないことをするために組織はある。組織は道具だ。その道具を使いこなせないでどうすると言いたいと。

組織は複雑な道具なので、組織を動かす工夫や努力を怠ったら、動かなくなるのは当たり前だ。だからいつも組織を動かす工夫と努力を続けよう。

三木谷さんは、どんな組織でも現在の10倍の速度で動かせると思っていると語る。

楽天では2時間の会議を12分にしたという。事前に紙の説明を配っておいて、参加者はそれを読み込んで質疑応答で5分、判断に5分で2分余るという。

45.競争原理を働かせる。
楽天はかなり厳しい競争社会だという。優れた業績には賞を与え、マイナス評価もする。しかしチャレンジして失敗することにはマイナス評価はつかない。

肉体をベストのコンディションに保ち、学習翌・向上心を満たすための環境整備として本社内に学習スペースのある図書館、社員教育のための「学校」、ジムを作った。どんなに忙しくても専門書を調べ、トレーニングできるのだ。

成長の努力を続けた人としなかった人との差は残酷なくらいはっきりしている。

与えられた問題を解くことしか知らない現代の多くの若者には厳しい環境だろが、そういう厳しい環境で自分の成長を実感できることが、人生の喜びだと三木谷さんは鼓舞する。

49.朝会がしっかりしている部署は成功する。
楽天ではそれぞれの部署で毎日朝会をやっている。一日の始まりに、今日の仕事のテーマを具体的に明確にするのだ。これが上手くできている部署は例外なく成功しているという。

人間は怠惰な生き物だ。僕自身がそうだからよくわかるという。隙あらば楽をしようとする。その隙を作らないためにも毎日の始まりに節目を作って、仕事をする意欲をかき立てることが必要なのだ。

一日の仕事の始めに、今日の行動目標をきちんと整理する。そして、その目標を達成するための段取りをする。

そういう毎日の積み重ねが大きな成功につながる。

52.社内での信頼を勝ち取れ
「どうせ僕が話しても、みんな聞いてくれないんです」そういうことを言う人がいる。それは誰のせいでもない、自分のせいなのだ。

周囲の人間が話しを聞かないのは、話を聞かないだけの理由があるはずだ。

仲間に信頼されなければ、いい仕事はできない。

「あいつに任せておけば間違いない。あいつがやって駄目ならもう仕方がない」と思われるような存在になることを目指すべきだと。

53.象徴的な儀式を作れ。
人間は弱くて、忘れやすい。だから、誓いや目標を立てる。しかしその熱い気持ちもそのままではいつか冷めてしまう。

どんなに高い志や、理想を胸に抱いていても、それを繰り返し胸に刻む努力を怠れば、いつかは忘れてしまう。

だから楽天は創業時から続けている月曜日の全社朝会と社員全員による掃除を、儀式として、そして全員の心を一つにするために、いつまでも続けていくのだと。

58.仮説を立て、「仕組み化」する。
仮説を立て、仕組み化する。ビジネスでも何でも成長のすべては、これだけのことで成し遂げられる。

三木谷さんは最近週2回10階分階段を歩いて上がるという。そして万歩計機能付きの携帯電話を使っている。

この仕組み化によって、トレーニングを日常生活の習慣として組み込めば、確実に効果が出る。

きちんとした仕組み化が大切だ。

59.世の中には2つのタイプの人間しかいない。できる方策を探す人と、できない言い訳を考える人。

これは読んで字の如くだ。「成功のコンセプト」でも三木谷さんが繰り返し説いていることである。

英語だと、"Get things done"と、"Best effort basis"となる。

筆者が常々思っていることだが、人生は無為に過ごすには短すぎる。つねにthings doneをめざそう。

自戒の言葉として常に覚えておく必要のある言葉だ。

72.数字からトレンドを読む。
数字に強いことは、経営者の絶対条件だ。数字を正しく読むには、その数字と現実を結びつける能力が必要だ。

数字を読む能力を鍛えるには数字の変化を追いかけるといい。

楽天には日報がある。それぞれのセクションからの日報で、1日の厚さが5センチ以上になるという。数字を見ているだけで、仕事の現場で今何が起きていて、世の中がどいう動いているかまで、ある程度想像することができる。

79.圧倒的なコスト差を創造した企業は必ず勝利する。
コストリダクションは新しいビジネスモデルを作るのに匹敵する創造的な作業だ。

楽天では月15億円、年間180億円のコスト削減を出来る見通しだという。開発コストやコーポレート費用削減のみでなく、文書を縮小してA3一枚にA4を8ページコピーするとかもやっている。

新規参入案件も、実験フェーズでは投入資金をできるだけ少なくする。英語のagile(アジャイル)は俊敏なという意味だが、鈍重な恐竜は亡び、すばしこいねずみのようなほ乳類は生き残った。

体重は軽い方がよい。一つの実験フェーズにかける資金を減らして、実験の回数を多くする。実験が成功すれば、一気にスピードを上げる。

コストリダクションは企業にとって、さなぎから蝶への脱皮だという。圧倒的なコスト差を創造した企業は必ず勝利するのだ。

81.インターネットショップは自動販売機ではない。コミュニケーションこそが、最大のエンターテインメントである。

これも読んで字のごとしだ。楽天市場の最大の特徴は、それがインターネットというツールを使った、対面販売だということだと。

90.過去の成功例を徹底的に分析せよ。
意味もない自己顕示欲や、思い上がりは捨てた方が良い。

結局のところ、最終的に成功するのは謙虚に学べる人だ。それもまた歴史が僕に教えてくれたことだという。

92.Never too late.
ファーストムーバーになれなければ、ベスト・ムーバーを目指せばよい。Never to late. 人生に遅すぎるということはない。

今この瞬間から始めれば、この世に不可能ということはない。僕は心の底からそう思っているという言葉で締めくくっている。


次に紹介する稲盛和夫さんの「働き方」など、他の経営者の書いた本との共通点も多い。稲盛さんは”ベンチャー経営者”で、三木谷さんの大先輩となる。

具体例が多く、大変参考になる本だ。冒頭で記したように、筆者が読んでから買った今年最初の本である。

ハードカバーでは、毎日1ヶ条づつ読むのにはかさばる。座右の書として毎日読むのに適したハンディな文庫版にして欲しいものだ。


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2010年02月19日

裸でも生きる 行動力抜群の20代女性社長の手記

裸でも生きる――25歳女性起業家の号泣戦記 (講談社BIZ)裸でも生きる――25歳女性起業家の号泣戦記 (講談社BIZ)
著者:山口 絵理子
販売元:講談社
発売日:2007-09-22
おすすめ度:4.5
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バングラデシュ産のジュートを利用したカジュアルバッグなどのスペシャルティバッグを輸入販売するマザーハウスの20代女性社長、山口絵理子さんの手記。山口さんは、フジサンケイ女性起業家支援プロジェクト2006の最優秀賞を受賞している。

山口さんのストーリーはテレビの「情熱大陸」でも取り上げられている。YouTubeに3部にわけて載っているので、紹介しておく。バングラデシュで取材したビデオなので、リアルで迫力があって面白い。



本屋に平積みになっていたので読んでみた。「裸でも生きる」というタイトルなので、てっきり無一文になって、それからの再起の話かと勝手に思いこんでいたが、実は慶應湘南卆でバングラデシュの大学院を卒業した行動力抜群の女性起業家の話だった。

最近思うのだが、本には著者の熱意が伝わる本と、著者の意気込みや熱意が伝わってこない本の2種類がある。この本は、間違いなく前者で、著者の山口絵理子さんの熱い思いがビンビンに伝わってくる。

先日社内報に寄稿したときのことを思い出す。

筆者の書いた文はすっきり整理されて読みやすい文章になっていたと思うが、筆者の読書ノウハウを淡々と紹介するだけで、熱い思いが全然伝わってこない。それに比べ、他の社員が書いた文は、しろうと作文で、一つの文が長く主語述語がはっきりとしないため体裁が悪いが、伝えたいことがはっきりしていて、熱意が伝わってくる。

慢心を猛省した次第である。このブログでは従来同様、筆者の熱意を込めて書き続けるつもりだ。

山口さんの本は、やたら泣く場面が多いのが気になるが、著者の熱意がこもっていることがよくわかる、読んで面白い感動の作品である。

山口さんの談話は、ドリームゲートというサイトにも紹介されている

dream gate








山口さんの経歴

著者の山口絵理子さんは、埼玉県出身。小学生の時にいじめにあったり、中学生で不良の仲間に入ったりするが、大宮工業高校で男子に混じって柔道部で猛練習し、埼玉最強の埼玉栄高校の選手を破って埼玉県チャンピオンとして全国大会7位に入賞する。

余談となるが筆者は実は埼玉栄高校とは縁がある。

埼玉栄高校のある大宮市と筆者の住んでいたピッツバーグが姉妹都市関係にあったので、ピッツバーグ日本語補習校が校舎を借りていたフォックスチャペル高校と埼玉栄高校の交流を縁結びしたのだ。

筆者はその後日本に戻り、大宮市自体も浦和市などと合併してさいたま市になってしまったので、現在ピッツバーグとの姉妹都市関係はどうなっているのかわからないが、あるいは一時的な交流に終わってしまったのかもしれない。

埼玉栄高校は佐藤栄学園という学校法人で学園長は佐藤栄太郎さんという人で、地元の有力者だった。たしか埼玉県に数カ所の高校と大学もあったと思う。

フォックスチャペル高校も全米で有数の高所得者の町の高校だが、校長が埼玉栄高校を訪問して、その体育設備や音楽関係の設備がすばらしいことに驚いたと言っていたことが記憶に残っている。

閑話休題。

山口さんは偏差値40台だったが、持ち前のがんばりで大宮工業高校から慶應大学の湘南(総合政策学部)に入学し、竹中平蔵氏の竹中ゼミに入る。大学の入試面接では、「政治家になりたい」と言ったという。


途上国支援が研究テーマ

竹中ゼミで「発展途上国における所得格差と経済成長の関係」についてプレゼンし、竹中さんから「すごくよかったですよ。がんばってね」と声を掛けられる。

途上国は先進国の技術を模倣でき、後発のメリットを生かすことができるので、途上国と先進国との差は自然と縮小するという理論とは逆に、現実には”様々な理由”でギャップは拡大していることをレポートしたのだ。

それから国際協力分野に興味を持ち、その「様々な理由」を確かめるために、米州開発銀行の夏季インターンになってワシントンに行くが、国際機関に働く人たちは、現地を訪問する気もないエリートばかりなことに失望する。

援助が本当に役に立っているのかを調べるために、インターネットで”アジア 最貧国”と検索して、表示されたバングラデシュを2週間後に訪問する。スゴイ行動力だ。


バングラデシュでの生活

バングラデシュについたら、悪臭、汚さ、何かにつけて長蛇の列、平気でワイロを要求する役人や警察官、日本人と見ると”マネー”と金を求め群がってくる群衆、人間の生活できる衛生限度を越えている悪臭を放つスラムに圧倒される。

バングラデシュの現状については、ムハマド・ユヌスさんの「Baker to the Poor」や、このブログでも紹介した「貧困のない世界を創る」などで、なんとなく分かっているような気がしていたが、この本を読んで、全くうわべしか知らないことがよくわかった。

ちなみに日本語のバングラデシュ情報サイトのバングラナビというのもあるので、紹介しておく。

何とか住めるアパートを見つけ、バングラデシュのNGOが経営しているBRAC大学院に入学して、2年間でマスターを取る。バングラデシュの大学院を卒業した初めての日本人だ。


バングラデシュ製バッグの販売

アルバイトで働いていた三井物産ダッカ支店の仕事で、展示会に行き、バングラデシュの伝統産品のジュートを使ったバッグを日本で売ることを思い立つ。

ジュートはコーヒー豆の袋などの麻袋の素材で、筆者は昔鉄鋼原料を担当していたので、小口の顧客向けに輸入の原料を日本の倉庫で20Kgか25Kgの麻袋に詰めて、販売したことがある。

小口の鋳物メーカーとかは、麻袋入りの原料をそのまま人手で炉に投げ入れるのだ。

しかし麻袋は、もっと効率の良い1トン入りのフレコンバッグに置き換えられ、どんどん需要は落ちていった。

バングラデシュはジュートの世界最大の生産国とはいえ、化学繊維に市場を奪われ世界的に需要が減少したので、相当打撃を受けていたと思う。

そんなバングラデシュの特産品の天然素材のジュートを今度は、バッグの素材として目を付けたのだ。

苦労して個人向けに生産してくれる町工場を見つけ、工場に日参して工員と一緒に作業して、自分のデザインのバッグを160個生産し、日本に持ち帰る。

アルバイトしてお金を貯め、竹中ゼミの先輩でゴールドマン・サックスに就職していた先輩の山崎さん(現マザーハウスパートナー)からアドバイスを貰って起業し、ホームページでバッグを売り出す。

卸には相手にされず、多くの店に足を運ぶが、東急ハンズのバイヤーが気に入ってくれて、すぐにバッグを置いてもらう。"環境goo"というサイトでも励まされ、だんだんに売れていき、160個のバッグは残り少なくなる。

山口さんの活動がメディアでも紹介されるようになった時に、ある人から忠告を受ける「ビジネスになりきれていないわね。ファッション業界でビジネスをやることは、そんな簡単ではないのよ。白紙に戻すことも選択肢の一つだと思うわ。」

人の親切心・援助心に頼っていた販売、バッグのことを何も知らない自分に気づき、自らバッグ製造の修業をすることを決心し、バッグ職人を養成する御徒町の学校に入学する。先生から怒鳴られ厳しく教え込まれるが、最終的には先生と心が通じ合う。


バングラデシュ再訪

総選挙で混乱のさなかのバングラデシュを再度訪問し、前回の工場に行くが、パスポートを盗まれ不信感を抱いて、別の工場を苦労して探すが、そこでもだまされる。

つてを頼ってなんとかバングラデシュNo 1という型紙職人の居る工場を見つけ出し、そこで650個の生産を引き受けて貰う。従業員15人の小さな工場だが、ドイツ製の機械もあり、生産性と品質は高かったという。

今度はジュートを使ったカジュアルバッグを650個生産し、日本に持ち帰り表参道や、福岡三越、新宿小田急などで「お客様イベント」や発表会を開いた。

日経新聞の「春秋」で取り上げられたり、メディアで取り上げられたので、ウェブサイトでの販売は急増し、1分に1個売れるようになったという。スタッフは9人となり、第1号直営店を入谷に開いた。

motherhouse








ホームページではレザーバッグもたくさん売っている様なので、ジュートバッグだけでは無いようだ。


「裸でも生きる」と決めたのは、バングラデシュで食うや食わずの生活をしているみんなが、「君はなんでそんなに幸せな環境にいるのに、やりたいことをやらないんだ?」と問いかけてくるような気がするからだと。

やたら泣く場面が多いのが気になるが、実話なのだろう。ストーリーの展開も面白く、著者の思いのこもった一冊である。


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2010年02月16日

さらば財務省! 竹中改革の懐刀 異能の官僚 高橋洋一さんの内実レポート

+++今回のあらすじは長いです+++

さらば財務省!―官僚すべてを敵にした男の告白さらば財務省!―官僚すべてを敵にした男の告白
著者:高橋 洋一
販売元:講談社
発売日:2008-03
おすすめ度:4.0
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東大の数学科出身で、自称「変人枠」で大蔵省に採用され、資金企画室長時代に異能を生かして、3ヶ月でALM(Asset Liability Management)システムを自力で構築して日銀からの攻勢を一蹴し、一時は大蔵省の「中興の祖」を呼ばれたという高橋洋一さんの財務省、官邸の内実レポート。

この作品で高橋さんは山本七平賞を受賞している。

高橋さんは「霞ヶ関埋蔵金」という特別会計に隠された国の資産の存在を公表したことでも有名だ。この本のサブタイトルにも「官僚すべてを敵にした男」と書いてある。

「さらば○○省!」というと同じ講談社で前例がある。筆者も読んだことがある「さらば外務省!」という本があるが、高橋さんは政府の政策決定に直接携わっていたので、外務省の天木さんの本とはかなり差がある。

さらば外務省!―私は小泉首相と売国官僚を許さないさらば外務省!―私は小泉首相と売国官僚を許さない
著者:天木 直人
販売元:講談社
発売日:2003-10
おすすめ度:4.0
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この種の内実暴露本は、上記の天木さんの本を含めて後味が悪い本が多いが、高橋さんの本は個人攻撃という面は少なく、霞ヶ関の力学がわかって参考になる。

高橋さんは理系、しかも数学科出身なので、問題を論理的に解いていった。導いた答えを役所はどう思うかを考えずにいた点は、うかつだったと語る。財務省が高橋さんを協調性がないということで、攻撃するのは一面当たっているという。


歌って踊れるエコノミスト

高橋さんが小泉政権の時に政府に重用されていたのは、竹中平蔵さんの引きによるものだ。1982年に大蔵省財政金融研究所に勤務していた時に、日本開発銀行から竹中さんが出向してきており、高橋さんの上司だったという。

大蔵省は東大法学部卒が幅をきかしており、大蔵省の「植民地」の日本開発銀行出身で、一橋大学出身の竹中さんは、完全に格下扱いされていて相当フラストレーションが溜まっていたのではないだろうかと。

高橋さんは違っていたので、すぐにうち解けて、IMFからの出向外人とトリオで、六本木などのライブハウスで盛り上がっていたという。竹中さんは「歌って踊れるエコノミストになろう」と言っていたそうだ。

「英語と会計はよく勉強しておいた方がいいよ」というのは当時の竹中さんのアドバイスである。このブログでも竹中さんの「竹中式マトリクス勉強法」を紹介しているので、参照して欲しい。

竹中さんは映画「千と千尋」に出てくる妖怪カオナシだと高橋さんは評する。カオナシはあたりにあるものすべてを吸い込む。竹中さんも旺盛な吸収力と軽快なフットワークで様々な理論を取り入れ、まとめ上げるという。


「議論するときはみんな同期」

当時の大蔵省は、筋さえ通っていれば議論に上下の関係は持ち込まないという「議論するときはみんな同期」という文化があった。当たり前ではないかという気がするが、年功序列の役所だからこそ、こんなことをルールにしないと議論もできなかったのだろう。

東大法学部卒の役人は数字に弱く、知識や理論は知り合いの学者から仕入れた耳学問なので、上司にたてつく議論ができるほど理解していなかったという。高橋さんが異能を発揮できたわけだ。


日銀マンが答えられない大学入試センター試験問題

高橋さんがトピックとして紹介しているが、2008年度の大学入試センター試験で、次のような中央銀行の政策で最も適当なものを選ぶ問題が出たという。

1.デフレが進んでいる時に通貨供給量を減少させる
2.インフレが進んでいる時に預金準備率を引き下げる
3.不況時に市中銀行から国債を買い入れる
4.好況時に市中銀行に資金を貸す際の金利を引き下げる

正解は3.だが、これには日銀マンは答えられないだろうと。というのは日銀のやっているのは、1.で3.ではないからだ。

国債を買うことは、財務省への屈伏、敗北を意味するので、日銀のエリートとしての矜持がそれを許さないのだ。これは戦前の軍備拡張を日銀が国債買い上げで際限なく引き受け、戦後ハイバーインフレが起こった反省によるものだという。


幻に終わった日銀の大蔵省攻撃三部作

日銀は1998年までは大蔵省の下部機関だったので、日銀生え抜きからすれば、大蔵省に一矢報いたいという気持ちは強かった。

それで国庫金を預かる大蔵省のリスク管理の甘さを衝こうと、経済理論のエースだった深尾光洋さんを中心に3部作の論文を2−3年掛けてまとめ、大蔵省にぶつけようとしていた。

大蔵省出身の日銀理事から、不穏な動きが報告され、大蔵省はなんとかして撃退すべく、リスク管理の必要性を説いていた高橋さんにALM(Asset Liability Management)システム構築の命令が下った。

外注すれば数十億円、2−3年構築にかかるシステムだが、隠密にやれということで、高橋さんが2年前に作っていたシステムの原型を使って3ヶ月でシステムを稼働させた。

日銀が乗り込んできた時に、大蔵省はALMを使って「この数字は違いますね」で逆襲して20分で決着がつき、日銀の3年の努力のたまものの3部作は幻と消えたという。

「今までは竹槍を持ってB29と戦っていたようなものだ。高橋君の開発したシステムはパトリオットミサイルだ」と賞賛され、高橋さんは「大蔵省中興の祖」と呼ばれたという。


大蔵省の権限を手放す財投改革を立案

高橋さんは次に、大蔵省が郵貯や年金積立金など政府系金融機関から預託金として一手に預かっていた財投の改革を橋本内閣で実現した。

これで郵貯は長年の悲願であった大蔵省に頼らない自主運用が可能となり、郵貯関係者からは「郵貯100年の悲願を達成してくれた高橋さん」と感謝されたという。

しかし今まで国債しか運用したことのない郵貯が自主運用を任されると、国営ではやっていけず、経営責任の取れる民営化するしかないことは自明の理で、小泉さんが総理にならなくとも、郵政民営化は実現しただろうと。


プリンストン大学の客員研究員、帰国後「雷鳥」ポスト就任

財投の入り口の郵貯と、出口の特殊法人改革も同時に行い、それらが実現したときに、1998年からプリンストン大学に客員研究員として高橋さんは派遣された。現FRB議長のバーナンキ(Bernanke)プリンストン大学経済学部長やポール・クルーグマン教授アラン・ブラインダー教授、マイケル・ウッドフォード教授らと親しくなったという。

経済学の泰斗ばかりそろった教授陣は、日銀のゼロ金利解除政策は間違っていると非難していたが、彼らの見方が正しかったことは、デフレ不況解消の道筋すら立っていない現在の状態を見ればわかるという。

プリンストン滞在を1年延ばして貰い、高橋さんは2001年に帰国して、国土交通省の中の大蔵省の出島の特別調整課長を命じられる。国土交通省の予算を削る役割のポストだ。予算が高く飛ばないようにするポストなので「雷鳥」と呼ばれていたという。


秘密のアジトで竹中大臣の懐刀となる

高橋さんが帰国すると竹中さんが経済財政政策担当大臣になっていた。

竹中さんの部下は内閣府。有名な学者が参加する経済財政諮問会議をベースに議論をして政策を練り上げようと楽しみにしていた竹中さんは足をすくわれる。内閣府で竹中つぶしをもくろむ一派が委員を使って、議事をリークさせていたのだ。

御用学者の中には、日当や旅費を二重取りする人や、役人のつくったペーパーを読むだけの先生もいたという。

審議会をコントロールして都合の良い結論を出させるのは、官僚たちのテクニックで、たとえば役所は反対意見を持つメンバーが出られないような日にちに審議会を設定するのだという。また意に反する結論だと、延々と議論させて結論がでなかったと打ち切る。


郵政民営化準備室に

竹中さんの郵政民営化を手伝って欲しいという希望が通り、高橋さんは関東財務局理財部長から経済諮問会議特命室に引っ張られ、晴れて竹中さんのスタッフとなった。前経済財政政策担当大臣の大田弘子さんもメンバーだった。

いよいよ郵政民営化を実現するために郵政民営化準備室が各官庁から人を集めて発足した。高橋さんはこの準備室に前金融庁長官で、現日本郵政会社副社長の高木さんと参加した。

他の省庁から集まったメンバーは郵政反対か無関心だったが、竹中さんの政務秘書官だった経済産業省出身で現慶應大学教授の岸博幸さんが協力してくれたという。

4年近く官僚と戦い続けてきた竹中さんは、役人に関与させると骨抜きにされることを学習していた。だから役人を集めた郵政民営化準備室は実は「座敷牢」で、経済財政諮問会議では竹中チームでつくった民間議員提案を議論して、総理に提出しようというものだった。

諮問会議で唯一反対したのは、その後の麻生前総理の発言でもあるとおり、麻生太郎総務大臣だった。諮問会議の議論は、郵政を管轄する麻生総務大臣と竹中チームとの間で行われた。結局小泉さんが竹中案を100%採用して、竹中チームの勝利となったが、システム構築が間に合わないというクセ球が投げられた。

そこで高橋さんは郵政システムを担当するベンダーの80名のSEと対決して、一つ一つつぶし、機能をそぎ落として1年半で完成ということまでこぎ着けたという。

郵政民営化反対の官僚は、特殊会社経由の民営化を画策していた。これなら、政権が変われば法律を改正して、郵政民営化をやめることができる。高橋さんは、このことを竹中さんに進言し、民営化したら直ちに商法会社にすることを小泉総理が指示した。

そこで2005年8月の郵政民営化選挙の大勝を受けて郵政民営化が実現し、システムは2007年10月から稼働した。


郵政改革の次は政策金融機関改革

政府系の政策金融機関8機関の整理は財務省と経産省の逆鱗に触れた。ある財務省高官は「高橋は三回殺しても殺したりない」と言ったという。いままで財務省の事務次官の天下り先だった国際協力銀行と日本政策投資銀行を整理してしまったからだ。

中川昭一経済産業大臣と、谷垣禎一財務大臣が霞ヶ関の意向を代弁して、政府系金融機関は必要だという論陣を張ったが、小泉総理は内閣改造で反対派を退けた。しかし竹中さんの後任に与謝野馨さんを持ってきたことから、経済諮問会議は頓挫して、霞ヶ関派がコントロールする方向になった。

一方自民党の中川秀直政調会長が政策金融機関改革を支持してくれたので、財投改革案は自民党案として再浮上した。

小泉総理は元々大蔵族なので、飯島勲筆頭秘書官と財務省からの秘書官を使って財務省とのパイプを保って郵政民営化を進めた。他方霞ヶ関の改革は竹中さんにやらせた。巧みな二元コントロールだという。

竹中さんや中川秀直さんは「上げ潮派」で、経済成長率を上げることによって税収を増やし、歳出カットで財政再建を目指す。これに対する谷垣さんとか与謝野さんの「財政タカ派」はまず増税ありきで、財政さえ立ち直れば国民経済は多少がたついても良いという考えだ。

ふるさと納税も高橋さんが発案者の一人だという。ふるさと納税は、「税額控除方式による寄付」に他ならず、「家計が主計官」というのは中川秀直元幹事長の言葉だ。これに財務省は反発したという。


霞ヶ関埋蔵金

2007年秋中川秀直元幹事長が、「国民に還元すべき埋蔵金がある」と発言、これに谷垣、与謝野大臣が反論したが、これ以降自民党の最大派閥である清和政策研究会が埋蔵金を財政健全化に使うべきと主張し、3度目のパワーシフトが起きた。

2008年になって財務省はあっさり埋蔵金を認め、財政融資資金特別会計から10兆円を取り崩すと発表した。「モンテカルロシミュレーションしたら、リスクを減らしても大丈夫なことがわかった」と言ったという。

埋蔵金については塩川正十郎元財務相が、「母屋でがお粥で辛抱しているのに、離れではスキヤキを食べている」と発言して注目されている。

年金は破綻寸前だが、おおかたの特別会計で超過積立金があり、総額は50兆円を超えるという。最大のものは、財政融資資金特別会計で27兆円、次に外国為替資金特別会計が17兆円ある。これに続くのが国土交通省の道路特別会計の6兆円だ。

他に独立行政法人の整理で20兆円くらい整理益が出る可能性がある。2005年に初めてつくられた国のバランスシートは隠し資産を明るみに出す結果となったのだ。


日本は財政危機ではない

日本は834兆円もの債務を抱えており、これはGDPの160%にも上る危機的数字だという財務省の増税やむなしの論調があるが、834兆円はグロスの債務であり、これから政府が持つ莫大な金融資産を差し引くとネットの債務は300兆円まで減る。

この論法は財務省が米国の格付け会社に送った意見書にも述べられており、財務省の国内向けのアナウンスと海外向けのアナウンスとは全く異なっている。

高橋さんは名目成長率が上がれば、景気も良くなり、税収もアップする。改革で支出を減らし、財政再建は可能だと結論づける。世界の学者が驚くデフレの時に通貨供給量を減らすという日銀の愚かな金融政策が日本経済の名目成長率を引き下げ、現在の状態に追い込んでいるという。


猪瀬直樹さんに協力して道路公団債務超過のウソを暴く

高橋さんは、「日本国の研究」のデータチェックを手伝った時から猪瀬さんと知り合いで、道路公団の資産査定で協力した。

続・日本国の研究 (文春文庫)続・日本国の研究 (文春文庫)
著者:猪瀬 直樹
販売元:文藝春秋
発売日:2002-05
おすすめ度:4.0
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道路公団は民営化をやめさせるべく6兆円から7兆円の債務超過という情報を流していたが、これには将来の補助金と高速道路収入債権が入っておらず、この債権を入れると少なく見積もっても2−3兆円の資産超過となったという。


安倍内閣の官邸特命室に

高橋さんは安倍内閣の官邸特命室に任命され、公務員制度改革案を大田経済財政政策担当大臣の主管する経済財政諮問会議に提出した。安倍内閣のほとんどの大臣が各省庁を代表して反対する中で、新任の渡辺喜美行革担当大臣が高橋さんを呼び出して支持を表明したという。

官僚はマスコミに渡辺大臣と異なる方針をリークしたが、渡辺大臣は官僚を一喝したという。安倍総理も事務次官等会議を経ないで閣議に提案した。

これに対抗し、官僚は経済財政諮問会議委員で政府税調会長の本間正明教授のスキャンダルを報道し、議事を混乱させようとしたという。本間教授は竹中大臣の財政金融研究所時代からの友人だ。


消えた年金

社会保険庁の5000万件のでたらめなデータがあるのは以前から分かっていたという。高橋さんは1990年ころに、厚生年金基金の欠陥を指摘する論文を経済週刊誌に発表しようとしたら、厚生労働省が雑誌を傘下の厚生年金基金に購読させないと圧力を掛けてきたという。


小泉政権の中枢の竹中大臣の懐刀として構造改革に取り組んだ六年半は、コンテンツクリエーター冥利につきる年月だったという。

財務省には感謝していると高橋さんは語る。



高橋さんは昨年銭湯で腕時計などを盗んだとして、窃盗の現行犯で逮捕され、不起訴にはなっているが、スキャンダルを起こしている。人物的にはやや暗い感じがあるが、さすが山本七平賞を受賞した作品だけに面白く、読んでためになる。

是非一読をおすすめする。


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2010年02月14日

骸骨ビルの庭 シリアスな小説好き向けの作品

骸骨ビルの庭(上)骸骨ビルの庭(上)
著者:宮本 輝
販売元:講談社
発売日:2009-06-23
おすすめ度:3.5
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骸骨ビルの庭(下)骸骨ビルの庭(下)
著者:宮本 輝
販売元:講談社
発売日:2009-06-23
おすすめ度:3.5
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家内が図書館で借りていたので読んでみた。

大阪十三(じゅうそう)にある通称「骸骨ビル」という戦前からの堅牢なビルで暮らした元戦争孤児たちと、孤児たちの育ての親との強いきずなを、ビル管理人の「私」が日記に記す形で語る小説。

戦争孤児といっても親に捨てられた遺棄児童がほとんどで、親から捨てられたことでそれぞれが心に傷をもっているという設定だ。

育ての親の一人は南方帰りで九死に一生を得たビルオーナー。もう一人は元結核患者のオーナーの友人で、二人とも戦後すぐには20代だった。

オーナーの戦場からの奇跡的な生還体験と、友人の結核からの奇跡的な治癒体験が、彼らが縁もゆかりもない戦争孤児たちの育ての親となろうと決心した理由だ。

「私」は家電メーカーを早期退職したが職が見つからず、買収したビルに居座る住人を追い出すという使命を受けて、東京の不動産マネージメント会社からビル管理人として派遣され、大阪に単身赴任する。

ビルオーナーはだいぶ前に亡くなり、ビルには元孤児の親代わりのオーナーの友人が住んでいて、元孤児のそれぞれが作業場や事務室として部屋を持っていて、毎日のように訪れる。

オカマバーのママになったり、食堂を経営したり、金属加工業や運送業など、それぞれの道に進んだ元孤児たち10人余りの話を「私」が聞いて、ストーリーが展開する。

ビルオーナーが亡くなったあと、新しい所有者はビルを売却し、今住んでいるオーナーの友人と元孤児を追い出すべく管理人を送り込むが、前の管理人は、すぐにやめてしまう。

「私」も着任早々、「家族や兄弟、親の住所まで知って居るんだぞ。彼らが不慮の事故に遭わないように祈る」という脅迫を突きつけられる。

「私」は脅しに負けず頑張るというよりは、何もしないで時間を過ごすことを選び、元孤児と一緒に裏庭での野菜栽培とか、元孤児が経営する定食屋で料理を教わり、のらりくらりと暮らすうちに、解決の糸口が生まれる。

日記なので、ところどころに「私」が読んでいる本が紹介されている。読んでいる本とは、このブログで「夜と霧」を紹介したユダヤ人強制収容所から生還した心理学者ヴィクトール・フランクルの「意味への意志」や、司馬遷の「史記」など筆者も読みたいものばかりだ。

この小説の対象読者がわかる。

意味への意志意味への意志
著者:ヴィクトール・E. フランクル
販売元:春秋社
発売日:2002-07
おすすめ度:4.0
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史記 全8巻セット (ちくま学芸文庫)史記 全8巻セット (ちくま学芸文庫)
著者:司馬 遷
販売元:筑摩書房
発売日:1997-07
おすすめ度:5.0
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戦争は65年も前に終わり、「戦争孤児」は、ほとんど死語に近いと思うが、親代わりとなった南方帰りの兵隊上がりのビルオーナーの青年が、心の葛藤を覚えながら、九死に一生を得た戦争経験から、ビルに住み着いていた孤児たちの親代わりとなるというストーリーは、当時ならあり得た話かもしれない。

平成生まれの人にはわかるかな?という気はするが、元々「群像」に連載されていた小説なので、中高年向けのストーリーだ。

群像 2010年 03月号 [雑誌]群像 2010年 03月号 [雑誌]
販売元:講談社
発売日:2010-02-06
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例によって小説のあらすじは詳しくは紹介しないが、シリアスな小説好きの人には楽しめる作品だと思う。


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2010年02月09日

日本人の知らない日本語 外国人から教えられる日本語

日本人の知らない日本語日本人の知らない日本語
著者:蛇蔵&海野凪子
販売元:メディアファクトリー
発売日:2009-02-18
おすすめ度:4.5
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日本語教師海野凪子(なぎこ)さんの経験談をマンガにした本。

表紙に出てくるイラストが、それぞれのストーリーを表している。

たとえば真ん中のマグロとチョウザメを両手に持っているイラストは、「鮪」という漢字で示す魚の種類が中国と日本では違うことを表している。

鮪は中国ではチョウザメだが、日本ではチョウザメがいないので、2−3メートルの大型魚ということで、マグロと読むようになったのだという。同じように鮭も中国ではフグのことだ。

教師イラストの上のアネゴみたいなイラストは、任侠映画ファンのフランス人マダムで、最初に「おひかえなすって、私マリーと申します」と挨拶したという。

「私のことは姐さん(あねさん)と呼んでください」。

いくら何でもこれは作り話だろう。

黒澤映画にあこがれて、日本語を学びに来たスウェーデン人女性も武士言葉を使っていたという。



「これはいたみいります」「ちょこざいな」

表紙の左下で、答案を受け取って冷や汗かいているイラストは、多くの外国では(例えばアメリカ、フランス、中国)正解はチェックマークで、○がついていたらここが間違っていますという印だからだという。

○ばかりの答案を受け取り、全部間違っていたと誤解したアメリカ人のイラストだ。

このように普段気が付かない日本語の特徴が、外国人からの指摘で明らかになって面白い。

いかにも外国人らしい突拍子もない例は、発言するときは、「立って言ってください」だ。

「た」と言ったという。

たしかに「たって言っている」。

「ばつが悪い」という意味がわかりますか?

「もしかして、○(マル)は良い?」

「人間は何と数えますか?」

「匹!だって辞書に『男一匹』って出ています」


飲食業でアルバイトする学生も多いので、食器の名前の質問も多い。

醤油を入れる真ん中に仕切りのある四角い皿は「薬味醤油皿」だし、カレーなどを入れるボート型の容器はグレービーボートだ。

いろいろと重宝します!薬味二品盛皿♪ホワイト布目 二品薬味皿
いろいろと重宝します!薬味二品盛皿♪ホワイト布目 二品薬味皿

混ぜやすく注ぎやすい形です。ドレッシングやカレーなどにお使い下さい。JASMINE - PROSPERITYグレービーボート0.33L
混ぜやすく注ぎやすい形です。ドレッシングやカレーなどにお使い下さい。JASMINE - PROSPERITYグレービーボート0.33L


女性用の公衆トイレに男子用便器があったので、「これはニューハーフ用ね」と納得した韓国人女性の話とか(日本の女性用トイレには、連れの男の子のための男性便器があるところが多いという話を初めて聞いた)、中国人、韓国人、ベトナム人は同じ漢字を使っていても、かなり違うので日本語の漢字は難しいが、台湾人にはラクとか(台湾は昔の旧字のような繁体字を使っている)参考になる。

変体仮名の話とか、「〜もじ」(しゃもじ、かもじ=かつら、ゆもじ=ゆかた)は昔のギャル語だったとか、音読み、訓読みの話など参考になる。

「〜です」は元々は江戸時代の芸者の言葉、軍人の「〜であります」は山口県の方言、「おいこら」は鹿児島弁だったという。

ペット用の缶詰を、日本人も猫を食べるものと誤解していた中国人の話とか、猫ブランドだと思って食べていた中国人の話は、ありうるかもしれない。

この中で、誤解を招くのが「お」と「を」は両方とも「O(オー)」だという説明だ。ありえない。

昔は違う音だったが、江戸時代からどちらも「O(オー)」となり、昭和の初めに助詞の「を」だけ残してすべて「お」に統一した。暫定ルールだという。

たとえば昔は「をんな」と書いていたのを「おんな」にしたなどだ。それならわかる。しかし、現在は助詞の「を」にしか使われていないので、「『お』と『を』は同じ発音か?」という質問には違うと答えるべきではないかと思う。


あまり詳しく紹介すると本を読んだときに興ざめなので、この辺でやめておくが、楽しく読めるマンガだ。

ちょうど「ダーリンは外国人」、「ダーリンの頭ン中」シリーズと同じようなところを狙っている。

30分で読めるので、本屋で一度手に取ってみることをおすすめする。


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2010年02月04日

明日の警察責務 カタイ本だが参考になった

明日の警察責務 時代の要請に応える警察であるために明日の警察責務 時代の要請に応える警察であるために
著者:安村隆司
販売元:立花書房
発売日:2009-07-01
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今回はちょっと趣向の変わった本を紹介する。大学のクラブの後輩で、警察大学校の警務教養部長の書いた本だ。

安村さんは昭和56年に警察庁に入庁。福岡県警宗像警察署長、警視庁捜査1課理事官、千葉県警警備部長、内閣官房参事官、警察庁長官官房参事官、富山県警本部長などを経て、平成20年に警察大学校警務教養部長に就任した。

この本は警察大学校での警察責務の講義ノートを加筆したものだ。


警察制度の沿革

最初に警察制度の沿革の説明がある。明治6年に警察制度に関する建議書によりまず内務省が設置され、翌7年に司法省の警保寮が内務省に移管され、東京に警視庁を設置。明治8年に行政警察規則が制定され、欧米型の近代的警察制度が発足した。

東京都だけ警視庁として別格で、そのトップは警視総監と他の道府県とは別扱いになっているが、これはフランスのパリ警視庁の制度をまねたものだ。

この行政警察規則は昭和22年の占領軍下の内務省解体と旧警察法制定まで維持された。旧警察法は昭和29年に大幅改訂され、現在の警察法となった。

警察には行政警察と司法警察の両方の面があり、行政警察は交通取り締まり、司法警察は犯人逮捕を目指す刑事などが代表例だ。


警察権の限界

この本の大きなテーマの一つは「警察権の限界」。

行政法理論からの限界説、「民事不介入」の誤解(民事でも「公共の安全と秩序の維持」に関することなら警察が取り上げるべき)、逮捕権乱用批判の呪縛(「警察は犯罪がないと動けない」という誤解)などから、現在の警察は警察権を必要以上に狭めているという。

これについては歴史的経緯から説明している。


戦前の国家警察

戦前は夜間は別にして、日中は警察官の立ち入りには何の制限もなかった。そのため学説では、法律には規定されていないが、当然「公共の安全・秩序の維持に関係する場合に限る」等の条理上の制限があるとされた。私権の保護のためだ。

戦後の旧警察法はGHQの日本民主化政策の一環として、国民の自由を制限していた多くの法律が廃止され、警察官の権限も大幅に縮小された。


戦後の自治体警察

戦前と戦後の一番の差は、戦前の国家警察制度をあたらめ、1,600ものアメリカ式の市町村の自治体警察を設置し、警察の政治的中立を確保するため、公安委員会が設置された。


自治体警察といえば、思い出すことがある。

筆者はアメリカピッツバーグに合計9年間駐在していたが、ピッツバーグは昔はアメリカの鉄鋼生産の中心地だったことは、よく知られていると思う。

ところが筆者が駐在した1986年には、もはやピッツバーグ市内には稼働している製鉄所が1ヶ所しか残っていないという状態で、ミシシッピ川の最上流のモノンガヘラ川沿いに、閉鎖された製鉄所が20キロ以上にわたって遺跡のように雨ざらしになっているという状態だった。

こんな状態の製鉄所でロケした映画がある。「ロボコップ」の最初の作品だ。



ロボコップの舞台は未来のデトロイトということになっているが、実際にはピッツバーグの閉鎖された製鉄所で撮影されたものだ。

そんな閉鎖された製鉄所があったピッツバーグ郊外の町クレアトンとホームステッドは、いよいよ警官も入れて職員5人という状態にまで、町長が最後の最後まで頑張った。しかし結局町は破綻して職員は全員解雇された。本当に刀折れ、矢尽きという状態だ。

ホームステッドにはUSスチールの前身、カーネギースチールのホームステッド製鉄所があった。1892年に大規模なストライキが起こって、軍隊が出動し労働者が殺されるという事件が起こった製鉄所だ。しかし、いかんせん老朽化した設備をいつまでも使い続けていたので、競争力を失い、とうとう1980年代前半にホームステッドの製鉄所やクレアトンのコークス炉が閉鎖され、製鉄所に依存していた町も破綻した。

警官が解雇されたら、どうやって町の治安を守ったのかよくわからないが、自治体警察が中心のアメリカでは、市町村が破綻すると警官まで失職することもある。

町を走っているパトカーはすべて所属する市町村の名前が入っており、例えば筆者が住んでいたピッツバーグの町では、パトカーには"Upper St. Clar Police"と町の名前が書いてあり、よく住宅地を巡回してくれていたので、犯罪率も非常に低かった。

ちなみにUpper St. Clairで検索してみたら、2009年のUS News紙のBest Places to Liveの全米ランキングでなんと10位に選ばれている。

USC








出典: U.S. News Best Places to Live 2009

閑話休題。

GHQが原案を作った旧警察法では、警察の責務は「国民の生命、身体及び財産の保護に任じ、犯罪の捜査、被疑者の逮捕及び公安の維持にあたること」に限られ、建築・営業等の規制権限を警察から取り上げ、今まで検察官の補助的な業務だった捜査権限を警察本来の権限とした。

しかし旧警察法はバラバラで統制の取れない自治体警察という不合理な面があったので、占領状態が解消した後、昭和29年に全面改正され、現在の警察法が成立した。


現在の警察法

警察法は旧警察法の公安委員会による民主的運営と政治的独立を維持したが、より効率的な運営ができるように1,600もの自治体警察を都道府県警察にまとめ、地方性と国家的性格を調和させた。


警察に対する国民意識の変化

この本のもう一つの大きなテーマは、時代の変化、国民意識の変化に、警察はいかに対応すべきかという点だ。

近年では国民の警察に対する意識が変化し、納税者の権利意識の高まりとともに、警察を公的サービスの一つとして捉える考え方が出てきている。

そんな中で国民の期待を裏切る警察の不祥事が何件か発生しており、この本でもそれぞれの経緯を説明している。


警察の不祥事

1.ナイフ事案 ナイフを持つ酔漢をスナックの経営者が派出所に連れて行ったが、警官がナイフを取り上げず、そのまま返したので、怒った酔漢がスナック経営者を刺した事件。

2.新島事案 旧日本軍の廃棄砲弾が嵐の度に海岸に打ち上げられる新島で、警察署は事態を知りながら砲弾の処理を自衛隊に依頼しなかったので、中学生が砲弾で遊んで重症を負った事件。

3.神奈川事案 神奈川県警で起きた一連の警察官の不祥事。同僚を脅す、被害者の女性に交際を強要、警官が覚醒剤を使用など

4.雪見酒事案 新潟県警で9年間にわたって監禁されていた女性が発見・保護されたが、保健所の職員が発見して警察に援助を求めてきたにもかかわらず、当初警察は動かず、後で事態発表の時にも保健所職員から第一報があった点は一切発表しなかった。

これにくわえて、被害者が確保されたのが特別監査実施中だったため、県警本部長やトップは、特別監査に来た管区局長の接待マージャンを優先させ、職場に戻って陣頭指揮をしなかった。

5.桶川事案 ストーカーに悩まされていた女子大生が、交際をやめると告げると、逆に500万円の損害賠償を請求された。それを録音したテープを警察署に持ち込んだが、年配署員は相手にせず、その後ストーカーは自宅、親の勤務先に中傷ビラを配ったあげく、仲間を使って女子大生を殺害した。

6.石橋事案 気の弱い会社員を喝上げ、監禁、暴行し、両親が何度も警察の捜査を求めたが、「警察は事件にならないと動けない」と取り合わないうちに、被害者はリンチを受け絞殺された。

7.草加事案 暴力団風の男が公衆の面前で仲間に暴行を受けていると通報があったが、警察官はひるんで「暴力団だとわかったので、怖いから関わりになりたくなかった」と放置し、被害者は3ヶ月の重症を負った。

8.台場事案 お台場で車で暴走を繰り返した男がバットを持って出てきたので、現場に直行した3人の警察官は逃げだし、男はミニパトを使って逃走を図ろうとした。この一部始終がテレビ放送された。


時代の要請に応える警察

この本の結論である「時代の要請に応える警察のあり方」では、国民の期待に応え、上記の不祥事を教訓とした、(1)積極的な警察、(2)正しい警察、(3)強い警察の3つのコンセプトを提案している。

特に警察官たる者、術科(柔道、剣道などの武道)で体力・精神力を強化することを訴えている。安村さんは柔道3段だそうだが、柔道の訓練写真がこの本の表紙となっている。

最後の資料編では、「雨なので家まで送って」とか、「犬にエサやって」とか、ゴキブリ退治を警察に求められたケースなどの新聞記事と、救急車をタクシー代わりに使う非常識な要請が広がっているという新聞記事が添付されている。モンスターペアレントならぬ、モンスター市民である。


この本は都立図書館の所蔵本を町田図書館経由で借りた。図書館同士は、本の融通のネットワークがあるので、たとえその図書館に置いていなくても、近隣の市町村の図書館が所蔵していれば借りられる。

一般読者が読むことをあまり想定していないのだろうが、かえって警察の中枢に居る人の問題意識がストレートにわかり、不祥事も反省材料として具体例を挙げているので、我々一般人の常識と警察の問題意識が乖離がないこともわかって参考になる。

話題になった事件で解決していないものが多い。時効となった世田谷スーパー店員殺人事件とか、このブログでも紹介している世田谷一家殺害事件とかだ。

警察は勤務時間が不規則で、時には凶悪な犯罪者と対峙しなければならず、大変だろうが、是非日本の公共の治安向上のために、この本で述べられているように警察官一人一人が知力・体力をつけて頑張って欲しいものである。


本来であればあまり公にしたくない過去の警察の不祥事も、今後のためにつまびらかにしている。真摯な態度に好感が持てる。

この本はあまり書店では置いていないと思うので、ネットで購入するか、もよりの図書館にリクエストして読むことをおすすめする。


参考になれば投票ボタンをクリック願う。


  
Posted by yaori at 02:18Comments(0)TrackBack(0)

2010年02月02日

大君の通貨 米国領事ハリスの為替投機と幕府の隠し財源喪失

大君の通貨―幕末「円ドル」戦争 (文春文庫)大君の通貨―幕末「円ドル」戦争 (文春文庫)
著者:佐藤 雅美
販売元:文藝春秋
発売日:2003-03
おすすめ度:4.5
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幕末の開国当時、幕府が人為的にコントロールしていた国内の金・銀交換率に目を付けたタウンゼント・ハリスは私服を肥やす一方、それが外圧でくずれた時、幕府の弱体化につながったという歴史の皮肉を描く小説。

前回紹介した講談社アメリカが米国で英語出版した日本の小説の一つなので読んでみた。


イギリスのオールコック

この小説の中心人物は、幕末に日本に駐在して「大君の都」という日本事情を書いたイギリスの初代中日外交代表ラザフォード・オールコックとアメリカの初代駐日公使タウンゼント・ハリスだ。
大君の都 上―幕末日本滞在記
著者:オールコック
販売元:岩波書店
発売日:1962-04
おすすめ度:4.0
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オールコックは元々外科医で、中国の廈門で開業していたが、リューマチ性の熱病に罹って手が使えなくなり、外交官に転じ、1859年に日本に来る前に中国に10年間駐在していた。オールコックが中国に駐在していた10年は激動の時代だった。

当時イギリスは中国から1万トンを越える茶を輸入しており、輸入超過が続いていたが、貿易不均衡を是正するために中国にアヘンを売り始め、中国の反発を武力で押さえつけ、これが第1次アヘン戦争第2次アヘン戦争につながり、南京条約天津条約が結ばれ、香港の割譲などイギリスの中国に於ける権益は確立された。

オールコックは結婚していたが、中国に来てすぐに妻を亡くし、日本駐在当時は独身だった。ハリスは生涯独身を通した。


アメリカのハリス

ハリスは元々陶器を扱うニューヨークの商人上がりのにわか外交官だった。日本へは老後の蓄えを貯めるためにやってきたという。

ハリス来日前の1853年と1854年の二度のペリー黒船来訪でアメリカは日米和親条約を締結し、ペリーは「日本遠征記」を書き残している。
ペリー艦隊日本遠征記 上ペリー艦隊日本遠征記 上
販売元:万来舎
発売日:2009-04
おすすめ度:5.0
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ハリスは1856年に下田の駐日外交代表兼総領事として赴任した。ハリスは精力的に幕府と交渉し、諸外国に先駆けて日米修好通商条約を締結して一躍名を上げた。

開国前から日本は物価の世界一安い国としてアジアにいた欧米人には有名だったという。その当時から日本に進出していた最大の商社は、今も活動しているジャーディン・マセソンだ。


人為的な幕府の金銀交換率

外交交渉ではドルと日本の通貨の交換率でもめた。当時の日本の通貨では金貨の1両=4 x 一分銀、1分銀=4 x 安政二朱銀となっており、開国後は幕府は1ドル=1一分銀を要求したという。

これは当初の三倍の交換率で、日本はこれにより世界で一番物価の高い国となるので、どの船も日本寄港は見合わせることとなり、ペリーが考えていた捕鯨船の補給港確保という目的が達成できなくなる恐れがあった。

一方日本国内の金と銀の交換率は重量比だと1対5だった。世界の相場は金:銀は1:16だったので、日本の一分銀貨を含有量ベースで等価に近い料率で獲得して、それを日本で小判に換えれば、国際相場の1/3で金を入手できるのだ。当時の横浜では外国人による小判の買い漁りが起き、日本の金が大量に流出していたという。


ハリスの利殖

ハリスは敬虔なプロテスタントということになっていたが、この小判投資に目を付け、私服を肥やしていたことを、1859年に駐日総代表として着任したイギリスのオールコックに見透かされたという。

幕府に国内の金:銀交換率の変更を申し入れるべきだと一緒に主張しようと呼びかけるオールコックの前に、ハリスは言い訳を並べたが結局同意した。

にわかに起こったゴールドラッシュはアメリカの一般人も巻き込み、ついには戦艦ポーハタン号で香港から銀を運び込み、小判に換えるという小判漁りが起こり、アメリカ本国の新聞にも報道され、後に大きな問題となった。

このポーハタン号の不始末が原因でハリス自身も小判漁りで巨額の利益を得ていたことがアメリカ政府に知れることになる。しかし1861年から南北戦争が起こったために、ハリスの処分はなされず、ハリスは1862年に後任と交代した。

オールコックとハリスが幕府に小判の価値を4 x 一分から、12〜13 x 一分に引き上げるべきだと勧告したが、幕府はすぐには金価格を引き上げなかった。オールコックの動きは、小判で儲けていた外国人の反感を買うことになり、オールコック自身も1862年の一時帰国の際に、イギリス大蔵省から個人的な利殖をしていたということで糾弾されることになった。


幕府の不正蓄財が明るみに

これがこの小説の肝になるところだ。

実は幕府は改鋳で銀貨の純度を既に1/3に落としていたのだが、オールコックはそれを知らずに幕府に小判と一分銀の交換レートをハリスと共同して外圧で変更させたため、銀の純度に気が付いた商人が一挙に3倍以上に値段を上げ、物価が跳ね上がってしまったのだ。

これで武士階級の生活は困窮し、武士階級のエネルギーが一挙に倒幕に向かったという。

オールコックが1862年に出版した「大君の都」では、急遽最後の39章に「日本の貨幣制度と通貨の問題」を新たに書き加え、小判で自身が儲けていたという攻撃をかわし、自分は日本駐在で貧しくなって帰国したと自らの潔白を主張している。

幕府は天保一分銀などの代用貨幣を発行することにより、文政元年(1818年)から、安政四年(1857年)までの40年間に1,800万両余り、年平均で四五万両の益金を得ていた。これは物納の米を除く全歳入の4割弱を占めていた。

これが一挙になくなり、長州征伐もかけ声だけで何も出来ないくらい財政は逼迫してしまったという。

オールコックは「大君の都」を発行した後、再婚した妻を連れて1864年に日本に再赴任し、その後駐清公使として栄転し、1871年に外交官を引退した後も王立地理学協会会長になり、活躍した。


為替での利殖は現代でもある

この本では江戸時代末期の駐日外交官達が、私利私欲を肥やしていた話が中心となっているが、為替で大きなもうけを上げるということは現代でも起きている。

たとえば昔のイランリヤルの闇相場だ。イラン・イラク戦争の時代にイランに出張した時に、乗り継ぎのドバイで、ドルをイランリヤルに自由相場で交換して持ち込んだことがある。試しにやってみただけで、大した金額ではなかったが、それでも6倍程度の自由相場で交換できた。

1978年から1980年までアルゼンチンに駐在していた時は、超ハイバーインフレはやや収まっていた時代なので、闇レートも公定レートもあまり差はなかったが、この時代の南米でも闇レートと公定レートが大きく乖離するということがあった。

もっとも闇レートといっても、両替店の裏に行ってコソコソと替えるのではなく、おおっぴらに両替店がレートを公表して、それで交換するので、闇というよりは自由相場といった方が良いと思う。

1990年代のアルバニアでは、首都ティラナの中央広場に両替商が集まっており、旅行者に声をかけて直取引で外貨を現地通貨に替えていた。まさにオープンスペースのフリーマーケットである。

このように今でも途上国通貨は闇レートが存在する。

オーストラリアドルとか、ニュージーランドドルなど、外貨預金や外貨FXなどはポピュラーな投資になってきた。

今のお金で数億円稼いだというハリスの利殖も、外交官という特権を利用していたことは大きな問題だが、為替投機自体は大きな問題ではないと思う。相場の変動リスクを背負うだけである。


開国が思わぬ形で幕府の財政困窮を招き、幕府が倒れる引き金となったという面白いテーマの小説である。


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Posted by yaori at 00:44Comments(0)TrackBack(0)