2010年08月30日

戦争と平和の谷間で 明石康さんのボスニア内戦秘話

戦争と平和の谷間で―国境を超えた群像 (双書 時代のカルテ)戦争と平和の谷間で―国境を超えた群像 (双書 時代のカルテ)
著者:明石 康
販売元:岩波書店
発売日:2007-11
おすすめ度:5.0
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日本人初めての国連職員となり、事務次長、カンボジア、ボスニアの国連PKOを指揮した明石康さんの本。

明石さんの対談「『独裁者』との交渉術」を読んで、明石さんのことをもっと知るため読んで見た。次に紹介する「生きることにも心(こころ)せき」は、明石さんの自伝で、この「戦争と平和の谷間で」がボスニアPKOに限定した秘話だ。

生きることにも心せき―国際社会に生きてきたひとりの軌跡生きることにも心せき―国際社会に生きてきたひとりの軌跡
著者:明石 康
販売元:中央公論新社
発売日:2001-06
おすすめ度:4.0
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この本では国連事務総長特別代表としてボスニア紛争解決に努力した明石さんが、つきあった軍人や旧ユーゴスラビアの指導者、国連PKOとNATOとのつきあい方などについて書いている。

100ページあまりの簡単に読める本だ。

いくつか印象に残った点を紹介しておく。

1994年2月にボスニア・ヘルツェゴビナの首都サラエボの青空市場に1発の迫撃砲弾が撃ち込まれ、死者68人、負傷者約200人という惨事が起こる。

エジプト出身のブトロス・ガリ国連事務総長の特別代理として、セルビア人、クロアチア人、ムスリムの3派の対立で起きた紛争を解決すべく、4万人強という前代未聞の国連PKO軍とNATOの協力を得て交渉にあたる。


NATO軍と国連PKOの関係

NATO南部方面軍総司令官のボーダ提督は、一介の水兵から提督にまで昇進した唯一の人で、身長164センチ、体重60キロくらいと小柄で敏捷そのものの人だったという。彼は帰任後1996年にワシントンの宿舎でピストル自殺を遂げた。

クリントン大統領他は弔辞で、勇ましい軍人としてボーダを描いたが、ボーダ提督は、恵まれない環境に育ち、水兵から出世したが、ベトナム戦争での戦闘経歴疑惑や、海軍予算の大幅カットに悩んでいたという。

海軍の規模は定員59万人から41万人へと削減させられたという。

国連保護軍のフランス人、イギリス人将軍たちのキャラクターや明石さんを忌避したベルギー人将軍との対立などが語られている。

明石さんはNATOによる空爆を要請する権限を持っていたが、空爆は本格空爆と、国連軍を攻撃している特定兵器に対する近接航空支援の2種類あり、本格空爆にはきわめて慎重で、在任中2回だけだったが、近接空爆は20回弱許可したという。

この国連とNATOとのジョイントオペレーションは、デュアルキー(2重のキー)として明石さんは表現している。ザグレブの明石さんの部屋には、2重のキーをもじったDuel Keyという木彫りの板を飾っていたという。


ボスニア紛争当事者の群像

ボスニアにいるセルビア人勢力の代表のカラジッチ「大統領」やムラディチ将軍は情緒的民族主義者だったと明石さんは評している。

カラジッチには、次のような外交官のジョークを言った。

「Ladyが「多分ね」と言うなら、それは「イエス」を意味し、Ladyが簡単に「イエス」というようなら、Ladyとは言えない。

外交官は逆で、「多分」と言うなら、それは「ノー」を意味し、外交官が簡単に「ノー」というようなら、外交官とはいえない。」

カラジッチはカラカラと笑って、ミスター明石は自分に「ノー」という機会を与えなかったと言った。カラジッチは事実を平気で歪めることがあったという。

ムラジッチはまさに情緒的民族主義者でNATOの空爆を徹底的に恐れ、嫌っていた。

ムラジッチは、国連保護軍に属するデンマーク軍が最新式のレオパルド戦車を持ち込で、セルビア人勢力に被害が出たときに怒りを爆発させた。

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出典:Wikipedia

明石さんは、ジュネーブでの停戦交渉の時に、カラジッチやムラディッチなどのセルビア人勢力、ムスリム勢力、クロアチア人勢力を別々に日本料理屋に招待して喜ばれたと外交の裏側を語っている。

ボスニア内戦後逮捕され、獄中でなくなったミロシェヴィッチ大統領は、機会主義的民族主義者だったと評している。ミロシェヴィッチ大統領は熾烈な権力闘争を勝ち抜いた独裁的政治家で、一人だけで重大な決断をしていたという。

明石さんが1997年末に退職し、日本に帰ったあと1999年5月にコソボ危機の最中に小渕首相の要請を受けてミロシェヴィッチと再会したが、NATOによる長期の激しい空爆にもかかわらず、強気の姿勢を崩さなかったという。

クロアチア初代大統領のトゥジマンとボスニア大統領イゼトベゴヴィッチは、政治的民族主義者と評している。

クロアチアはカナダやオーストラリアで成功した海外在住のクロアチア移民から潤沢な財政援助を受けていた。トゥジマン大統領は明石さんの前でも「あのムスリムたち」と呼んで軽蔑していたという。

ボスニア大統領イゼトベゴヴィッチは、MIT出身のガーニッチ副大統領と、ハンサムガイシライジッチ首相の二人を対立させ、うまく使い分けて、自分の目的を達成していたという。

二人は欧米のメディアをうまくアピールして、外交を補った。この話は「戦争広告代理店」で紹介されている。

ドキュメント 戦争広告代理店 (講談社文庫)ドキュメント 戦争広告代理店 (講談社文庫)
著者:高木 徹
販売元:講談社
発売日:2005-06-15
おすすめ度:4.5
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最後にアメリカとの対立も紹介している。アメリカはアメリカ空軍によるNATO空爆には参加したが、地上軍の派遣は拒否した。

ブラックホーク・ダウン スペシャル・エクステンデッド・カット(完全版) [DVD]ブラックホーク・ダウン スペシャル・エクステンデッド・カット(完全版) [DVD]
出演:ジョッシュ・ハートネット
販売元:ポニーキャニオン
発売日:2006-12-22
おすすめ度:4.0
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ソマリアのブラックホークダウンで知られる、PKOアメリカ兵虐殺事件の後遺症で、PKOにアメリカ軍地上戦力を派遣することには慎重になっており、いわば手の汚れない空軍による空爆を常に主張していたという。


ボスニア内戦当時の当事者の群像が明石さんの冷静な視点から描かれている。

日本からはボスニアというと遠い場所と存在だが、ヨーロッパの民族・宗教紛争がここに集約されているといってもよい事件だ。

元々は1389年のセルビア王国とオスマン帝国のコソボの戦いに端を発しているというのも、なかなか理解しがたい話だ。

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出典:Wikipedia


明石さんの業績を知る上で参考になる本である。


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2010年08月27日

ハイ・フライヤー リーダーは生まれつきではない 育成できる

ハイ・フライヤー―次世代リーダーの育成法ハイ・フライヤー―次世代リーダーの育成法
著者:モーガン マッコール
販売元:プレジデント社
発売日:2002-01
おすすめ度:4.0
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南カリフォルニア大学大学院のモーガン・マッコール教授のリーダーシップ論。

このブログで紹介している海老原嗣生さんの本にもたびたび引用されていたので、読んでみた。

課長になったらクビにはならない 日本型雇用におけるキャリア成功の秘訣課長になったらクビにはならない 日本型雇用におけるキャリア成功の秘訣
著者:海老原 嗣生
販売元:朝日新聞出版
発売日:2010-05-20
おすすめ度:3.5
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この本ではリーダーに必要な素質として「ライト・スタッフ=何かいいもの」を挙げ、米国初めての宇宙飛行士となった米軍パイロット7人の映画「ライト・スタッフ」を取り上げている。

ライトスタッフ [DVD]ライトスタッフ [DVD]
出演:サム・シェパード
販売元:ワーナー・ホーム・ビデオ
発売日:2009-09-09
おすすめ度:5.0
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空軍ジェット機のテストパイロットや海兵隊、海軍のエースパイロットが集められ、試験を受けて7人が宇宙飛行士として選抜され、それぞれがロケット飛行をする。

一方空軍の最高のテストパイロットと言われた伝説の人物は、宇宙飛行士にはならず、テストパイロットとしてのキャリアを続けるというストーリーだ。


マトリョーシカモデルの崩壊

この本では海老原さんが「マトリョーシカモデルの崩壊」と呼ぶ問題点が指摘されている。

マトリョーシカはサイズの異なる人形が何層にも重ねられている人形で、元から才能を持った人が段々に才能を発揮するパターンだ。

マトリョーシカモデルは、たとえばピアニストが若くして才能を発揮するというパターンには当てはまるが、政治家や経営者などのリーダーには当てはまらない。

リーダーは素質が開花するのではなく、経験から学習する能力のある人間が、経験を積み重ねてリーダーとなるのである。


経験から学習する能力

ところで「経験から学習する能力」はみんなが持っているものではない。

成功したスポーツ選手を見るとよくわかるが、たとえば松井秀喜は打ったホームランをすべて記憶しているという。ホームランを記憶しているくらいだから、もちろん討ち取られたパターンや球種なども当然すべて記憶しているのだろう。

筆者はゴルフが全然上達しないので、ゴルフから引退しているが、これもゴルフから学ぶ能力がないからだと思う。上手いゴルファーはたとえアマチュアでも、ゴルフ場のコースを良く覚えていて、自分がどう打ったかも記憶している。

野球の3割打者でも、7割はアウトだし、ゴルフも失敗の連続だ。その失敗から学べる能力がある人が成功するのだ。


ビジネスリーダーと良いトラック・レコード

そしてビジネスリーダーは良い「トラック・レコード」(実績)があるから、昇進やヘッドハンティングで上のポジションをつかみ取る。

しかし、並はずれた強みを持っていても、それが逆に弱みになったり、見えなかった問題点が出てきたり、成功によって傲慢になったりして、脱線(Derailment)してしまうケースがある。

「強みが弱みになる」とは、わかりにくい表現かもしれないので、例を示しておく。

次はこの本に紹介されているあるグローパル企業が実際につくったコンピテンシーリストだ。

「強み」を裏返すと「弱み」にもなるという関係がわかると思う。

強みが弱みに





出典:本書69ページ

アメリカ型のキャリアでは、社外からヘッドハンティングなどで経営幹部として登用された人は、社内で実務を行う上で役立つ人間関係を時間を掛けてつくることをしないと、やはり脱線することが多い。


結論としては、キャリア開発は次のようなフロー図で説明している。

リーダーシップ開発モデル





出典:本書261ページ



才能ある人物 → 育成するメカニズム → 経験 → 事業戦略を教える研修等 → 触媒(経験を学習に転換するフィードバックなど) → ライト・スタッフ(リーダー)

という図式だ。


リーダーは育成できる。元から素質が違うという「適者生存」の考え方から、「適者開発」という概念に移行することがリーダーシップ開発に重要だという。


日本もアメリカもリーダー育成という面では、共通点が多いことがわかった。参考になる本である。


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2010年08月26日

瞳の奥の秘密 アカデミー賞外国語映画賞受賞のサスペンス映画

2010年8月26日追記:

昨日アルゼンチン時代の研修生仲間と会ったら、なんとこの映画を日比谷シャンテで見ようと思って行ったら、満席で見られなかったと言っていた。

午後3時過ぎの上映で、250席くらいある劇場のはずだが、その後の上映も満席だったという。

上映が始まって、人気が出てきているとは聞いていたが、これほどまで人気が出ているとは知らなかった。

水曜日でレディスデイということもあると思うが、それにしても人気があることは間違いないと思う。

大人が楽しめる良くできた映画なので、事前に予約して見ることをおすすめする。


2010年8月25日初掲:


昨年のアカデミー賞 外国語映画賞はアルゼンチン映画の「瞳の奥の秘密」が受賞した。ちなみに前年の2008年の外国語映画賞は日本の「おくりびと」が受賞した。

次が予告編だ。



8月14日に映画が封切られてすぐに見に行った。

25年前に起こった殺人事件を取り扱ったサスペンス映画なので、「良い映画」というよりは、「良くできた映画」だ。

ひさしぶりにアルゼンチンのスペイン語を聞いて、なつかしかった。

スペイン語ができる人でも、アルゼンチンのスペイン語はtu(youの親密型)の代わりにvosを使い、活用も異なるのでちょっと面食らうことだろう。ちょっとした優越感に浸ってしまった。


設定は1974年、イザペル・ペロン大統領の時代ということで、筆者が駐在していた当時のことを思い出させる。

イザベル・ペロン大統領はホワン・ペロン大統領の3番めの奥さんで、ミュージカルにもなったエバ(エビータ)・ペロンがペロン大統領の2番目の奥さんだ。

当時は左翼テロが横行し、テロ鎮圧のために軍部が力を持ち始めた時代で、後に2万人ともいわれる蒸発者が発生したのもこの時代だ。

筆者駐在中に、経済大臣がテロリストに襲われるという事件があった。筆者の会社のオフィスがあったビルも、ロケット砲弾を打ち込まれたが、幸い不発だったという話を聞いたことがある。

少しでも政府を批判する発言をしたりしていると、警察に秘密裏に引っ張られ、そのまま帰ってこないというケースも頻発した。

裁判も経ないで、拷問死させたり、飛行機からラプラタ川に突き落としたりして、殺人を行ったという当時の経験を告白する人も出てきている。


例によって映画の詳しいあらすじは紹介しないが、アルゼンチンの刑事裁判所に務める職員が、25年前に起こった殺人事件を題材に小説を書くという設定だ。

25年前の話と、現在の話、そしていろいろな登場人物の話を錯綜させて、黒沢映画の「羅生門」を思わせるシーンもある。

若い男優が50代くらいの年配者に扮するメーキャップや、アルゼンチン一部リーグのラシン(英語でRACINGと書いてラシンと呼ぶ)のサッカー場で犯人を捕まえるシーンのカメラワークもすばらしい。

さすがアカデミー賞外国語映画賞を獲得した作品だ。



上映している映画館が限られているが、もよりの映画館を探して、是非一度見て欲しい映画である。


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2010年08月22日

サイドウェイズ ワイン好きには特に楽しめるラブ・コメディ

サイドウェイ (特別編) [DVD]サイドウェイ (特別編) [DVD]
出演:ポール・ジアマッティ
販売元:20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン
発売日:2010-06-25
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ワイン好きには特に楽しめラブ・コメディ。

英国の取引先の人を、筆者の友達で俳優の内田朝陽君のお父さんの経営する六本木のレストランに連れて行ったら、お礼に送ってくれた。アマゾンからDVDが届いたので、何かとおもったらこのDVDだった。

アマゾンを使って海外にいる友人や取引先に、いろいろな国の本をプレゼントするというのも結構便利だ。

「パリスの審判」のあらすじでも紹介したが、内田さんはソムリエで、六本木のレストランの地下の専用空調設備を備えたワイン貯蔵室には、ロマネ・コンティをはじめDRCシリーズや、ボルドー、ブルゴーニュの一級シャトーのワインを豊富に在庫している。超高級ワインから手頃な価格の掘り出し物の世界中のワインまで置いているので、いつもお客さんを案内するのが楽しみだ。

パリスの審判 カリフォルニア・ワインVSフランス・ワインパリスの審判 カリフォルニア・ワインVSフランス・ワイン
著者:ジョージ・M・テイバー
販売元:日経BP社
発売日:2007-04-26
おすすめ度:3.5
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なぜ取引先の人がこのDVDを送ってくれたかというと、内田さんのレストランで、映画の関係で米国でピノ・ノワールがすごく人気になっていて、多くの米国のワイナリーがピノをつくっているが、いいピノがないという話になったからだ。

赤ワインをつくるメインの品種のカベルネ・ソーヴィニヨンなどは、それほど土壌に影響を受けないが、ピノ・ノワールは土壌の影響を受けやすいので、フランス以外では良いと思うものがなかった。

それでもニュージーランドのピノ・ノワールはすごく良いという話を、内田さんがしていた。

そのとき筆者はどの映画だったか、はっきり覚えていなかったが、英国の取引先の人がDVDを見つけて、筆者と同僚に送ってくれたのだ。

くわしいあらすじを紹介すると映画を見るときに興ざめなので、簡単にストーリーを紹介しておく。

結婚式を週末に控えた元人気俳優の友達(ミュージシャンのヒューイ・ルイスに似ているハンサムガイ)の独身最後の旅行につきあって、大学の時のルームメイトだった小説家をめざす離婚歴のある英語教師(風采があがらない中年男)が、二人で一週間カリフォルニアのワイナリー巡りをする。

ワイナリーやレストランを訪ねてワインを品評する一方、美貌のワイン好きのウェイトレスと、その友達と親しくなり、4人にいろいろな出来事が起こるというストーリーだ。

ワインを飲みながらのうんちく、ピノ・ノワールへのこだわりが、この映画にテイストを加えている。

4人のうち、3人がバツイチという設定がいかにもアメリカらしい。

2004年アカデミー賞合計5部門でノミネートされ、脚色賞を受賞した作品で、2004年のゴールデングローブ賞のミュージカル・コメディ部門の最優秀作品賞、脚本賞も受賞している。

機会があれば見て欲しい大人が楽しめる作品だ。


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2010年08月18日

「婚活」現象の社会学 婚活はレッドオーシャン市場

「婚活」現象の社会学 日本の配偶者選択のいま「婚活」現象の社会学 日本の配偶者選択のいま
著者:山田 昌弘
販売元:東洋経済新報社
発売日:2010-06-11
おすすめ度:4.5
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「婚活」という言葉をつくった社会学者山田昌弘中央大学教授の近著。「婚活」という言葉は、山田教授が2008年にジャーナリストの白河桃子さんと共同で書いた「『「婚活』時代」が最初だという。

「婚活」時代 (ディスカヴァー携書)「婚活」時代 (ディスカヴァー携書)
著者:山田 昌弘
販売元:ディスカヴァー・トゥエンティワン
発売日:2008-02-29
おすすめ度:3.5
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それから結婚情報サービス業者の間で広まり、NHKの「コンカツ・リカツ」というテレビドラマのタイトルでも使われた。

コンカツ・リカツ







山田教授は「パラサイト・シングル」、「格差社会」などの社会の風潮を表す言葉もヒットさせている。


オムニバス論文集という構成

この本はなか見、検索!に対応しているので目次をチェックして欲しいが、次のような構成となっており、山田教授と様々な大学の准教授、教授レベルの女性研究者の書いた論文を集めている。

序   「婚活」現象の広がりの中で       山田昌弘

第1章 「婚活」現象の裏側           山田昌弘

第2章 若者の交際と結婚活動の実態       村上あかね

第3章 結婚仲人の語りから見た「婚活」     小澤千穂子・山田昌弘

第4章 自治体による結婚支援事業の実態     大瀧友織

第5章 結婚活動ブームの二つの波        開内文乃

第6章 誤解された「婚活」           白河桃子

第7章 アメリカ社会から見た現代日本の「婚活」 石井クンツ昌子

コラム 中国の婚活事情             赦力(カクリキ)

終章  積み過ぎた結婚             山田昌弘


石井クンツ昌子お茶の水大学教授は国際結婚をしているのでアメリカ人の婚活、中国人留学生の赦力(カクリキ)さんは中国の婚活を取り上げており、広がりがある。


婚活はレッドオーシャン市場

婚活とは、一言でいうと女性が年収600万円以上の男性を配偶者として求める活動で、そのような男性独身者は人口の2−3%しかいない(年収400万円でも3割程度)。だから正社員や400−500万円以上の収入の男性に多くの女性が集中する「レッドオーシャン」市場というのが、今の婚活市場の実態だという。

「レッドオーシャン」とは、このブログでも紹介した「ブルーオーシャン戦略」で、競争相手の少ないニッチ市場のブルーオーシャンに対して、競争相手がうじゃうじゃいて血に染まっているような既存市場のことで、その現実は次の通りだ。

1.(何もせずに)待っていても理想的な結婚相手は現れない

2.妻子を養ってい豊かな生活を送ることができる男性の激減

ブルー・オーシャン戦略 競争のない世界を創造する (Harvard business school press)ブルー・オーシャン戦略 競争のない世界を創造する (Harvard business school press)
著者:W・チャン・キム
販売元:ランダムハウス講談社
発売日:2005-06-21
おすすめ度:4.0
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山田教授は「女性は収入が高い男性を求め、安定した収入を得る若年男性が減少していることが未婚かの原因である」と1994年に発表し、1997年の結婚の社会学―未婚化・晩婚化はつづくのか (丸善ライブラリー)で世に問うたが、これほど長い間政策やマスコミから無視され続けたものはないと語る。

「仕事を続けたいから結婚しない」という「俗説」の蔓延を食い止めることはできなかったという。

ちなみに相手の男性に求める条件は、以前は3高だったのが、現在は3低に変化しているという。3低とは、低姿勢、低リスク、低依存だという。最近では3手だという。3手とは、手伝う、手を取り合う、手をつなぐだという。


女性の結婚形態

女性の結婚形態は次の3タイプに大別できるという。

生存婚 : 地方の高卒女性に多い、自活できる職業も見つけることが難しく、男性に稼いでもらわないと生きていけないタイプ。

依存婚 : 短大卒の女性に多い、とりあえず就職したが、寿退社を理想とし、専業主婦を望むタイプ。

保存婚 : 大卒女性に多い、男性には家庭の仕事を分担してもらい、自分の専門的な職業を続けたいタイプ

地方の高卒女性にかぎらず、婚活をしている女性の結婚の目的が、この「生存婚」タイプが多いという。恋愛のような自然な出会いの結婚にはこだわりをもたないので、ロマンティク・ラブ・イデオロギーの終焉と呼んでいる。

そして結婚=生まれ変わりと捉えており、「生まれ変わるならばいまよりも幸福に」、「生まれ変わって不幸になるのなら、結婚しない」という考えが多くなっているという。

女性研究者のレポートばかりだからか、男性についての記述は少なく、女性に厳しい現実をつきつけている印象がある。


少子化の主因は結婚の減少

日本では結婚希望を抱いている人は未婚者の9割程度おり、これは20−30年前から変化はなく、夫婦の出生児数も40年前から2.2から2.1で推移している。

しかし2005年の統計では、30ー34歳の男性の半分、女性の4割が独身(離婚者含む)で、男性35−39歳の未婚率は1970年の5%程度から30%に、女性でやはり5%程度から18.4%にまで上がっている。

結婚する人が少なくなったことが、少子化の主因なのだ。


未婚化・少子化の解決策は欧米諸国のような共働き可能な社会

他の先進国(フランス、北欧、米国)などの例を見ると、いずれも「専業主婦時代」→「女性の社会進出および中流男性の没落」→「家計を支えるため共働き家庭」というシフトが起こっており、女性の社会進出を支えるために社会が子育てを負担している。

結婚形態の変化はこの本で次のようにまとめている。

結婚形態変化






日本の場合は、中流男性の没落が起きているのに、女性の社会進出が遅れている。その一つの理由は、「おサイフは妻が持ち、夫はお小遣い制」という日本、韓国、台湾にしか見られない特有のシステムのせいではないかと共著者の白河さんはいう。

結論としては、「年収600万円男性との結婚」から「夫婦合算で600万世帯へ」理想を変えていくことだと。

”稼ぐ女”と”愛される男”が婚活の鍵を握るという。


アメリカの婚活

アメリカ人と結婚している石井クンツ昌子がアメリカの婚活を説明している。アメリカでは、積極的な人は、何歳になっても新聞で相手求むと広告を出す人がいる。

欧米では会社のパーティなどもカップル出席が基本なところが多いので、パーティに誘って正式につきあい始めることもある。

筆者もアルゼンチンの研修生時代は独身だったので、会社のクリスマスパーティなどには相手に困った。結局甲斐性がなく、一人で出席したが、スペイン語の先生とか、下宿の隣の家の娘さんとか、誘おうかと迷ったものだ。

アメリカは様々な相手とつきあうことが多く、恋愛期間は平均して約10年だという。


中国の婚活

中国では恋愛相手と結婚相手とは別と考える若者が多いという。中国の3高は、高学歴、高い給料、高い職位だという。(日本は高身長だが、中国は容姿は重視しないという)。

結婚する際に親が援助するので、親の意見も重要だ。月収2500元(4万円程度)なのに、マンション購入で約60万元(850万円)、結婚相手の女性の家族に渡す礼金が3万元から5万元(50万円から85万円)、結婚式や披露宴などで3万元(50万円)かかる。合計で約68万元(約1,000万円)かかるので、親から援助して貰うからだ。

中国では「剰男剰女」と称しているそうだが、学歴の高い女性と、経済力のない男性の未婚率が高くなっている。中国では結婚は「経済」第一と考えられており、そのように公言されているという。


婚活の現状がよくわかって参考になった。婚活中の人には、わかりきったことかもしれないが、婚活では「ブルーオーシャン戦略」はないと思うので、自分を磨き、いろいろな機会を自らつくり、地道な婚活を続けて伴侶を見つけ、新たな人生に踏み出して欲しいものだ。


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2010年08月16日

日中GDP逆転 ゴールドマン・サックスの伝説のBRICSレポート再掲

2010年8月16日再掲

本日2010年4−6月で中国のGDPが日本のGDPを超えたことが、日経新聞等で報道された。

このままだと2010年通年でも中国のGDPが日本を上回り、中国が世界第2位の経済大国となるのが確実と思われる。

まさにゴールドマン・サックスのBRICSレポート改訂版が予想したとおりのGDP成長になっている。

現在の情勢を考えるにあたって、BRICSという言葉を作り出したゴールドマン・サックスの伝説のBRICSレポートの2007年の改訂版(英語)のあらすじを再度掲載する。


2008年8月6日初掲:

BRICs and beyond revised








本というと書店で買うものと通常は思うが、今回は企業のホームページからダウンロードできる本の紹介だ。投資銀行のゴールドマン・サックスは経済レポートをホームページで公開しており、だれでもダウンロードできる。

このブログでも紹介した「フラット化する世界」や、「日本は没落する」で引用されているBRICs諸国の躍進を予測した2003年10月の伝説的レポート"Dreaming with BRICs:The Path to 2050"も収録されている。

ゴールドマン・サックスのホームページ(英語版)"Ideas"というセクションがある。ここにBRICs関係のレポートや、経済成長、環境とエネルギーなどの分野のレポートが掲載されている。

英語のホームページにはBRICs研究の責任者のジム・オニールが、今最も面白いのはブラジルであると語っている2008年2月のインタビューが日本語字幕付きで公開されており、参考になる。

今回紹介する"BRICs and beyond"は全部で270ページ余りなので、読むのに決心が要るが、2003年に出された"Dreaming with BRICs"は全部で20ページ強、付録を除くと本文は17ページなので、まずはこのレポートを読むことをおすすめする。

英語のレポートを読むのは慣れていないと大変ではあるが、やはり日本語と英語では情報量が違う。時々はゴールドマン・サックスのホームページなどをチェックすることも参考になると思う。

日本のゴールドマン・サックス・アセット・マネジメント社のホームページにもBRICsに関する情報が多く載せられているが、もっぱら投資環境情報で、マクロ経済についてのまとまったレポートは英語のレポートを読むしかない様だ。

投資運用ではモーガンスタンレーのMSCIコクサイインデックスファンドが世界的な指標となっているが、モーガンスタンレーのホームページでも市場環境のレポートが公表されている。

今回紹介するゴールドマン・サックスの2007年12月の"BRICs and beyond"レポートは、各国にいるアナリストがそれぞれの国について2006年から2007年にかけて書いたものを編集して一冊の本としている。

その中にはこれもゴールドマン・サックスが2005年に作った言葉であるN−11("Next eleven")の韓国、フィリピン、ベトナム、インドネシア、バングラデシュ、パキスタン、イラン、エジプト、ナイジェリア、トルコ、メキシコというBRICsに次ぐグループの国々のレポートの改訂版も含まれている。

左が2003年10月の"Dreaming with BRICs"で紹介されていた有名な図だ。車のアイコンはいつの時点でBRICsの国が、G7の国を抜くかを示している。これが、2007年3月の"The N-11: More than an Acronym"で見直しされており、それが右の図だ。BRICs諸国の成長はさらに早まることが予測されている。

BRICs original estimateBRICs revised estimate

今回の改訂で、BRICs合計のGDPがG7を上回るのは当初予測の2040年より早まり、2032年と改訂され、中国が米国のGDPを上回るのも当初予測の2035年から2027年と改訂されている。

中国が日本のGDPを上回るのも、当初の2016年から、2010年に改訂されている。

次がこのレポートの140ページに掲載されている2007年に改訂された2025年の世界のGDP上位国と2050年のGDP上位国の予測だ。

この図でわかるとおり、2050年には日本はG7の中でこそ米国に次ぐ2番目だが、全世界ベースでは中国はもとより、インド、ブラジル、メキシコ、ロシア、果てはインドネシアにまで追い抜かれ世界8位になると予測されている。

World in 2050












2050年の世界のランキングとGDP予測は次の通りとなる。(括弧内は2006年のGDPと2050/2006比率)

1位 中国     70.1兆ドル (2.7兆ドル、26倍)
2位 米国     38.5兆ドル (13.2兆ドル、2.9倍)
3位 インド    38.2兆ドル (0.9兆ドル、42倍)
4位 ブラジル   11.4兆ドル (1.1兆ドル、10倍)
5位 メキシコ    9.3兆ドル (0.8兆ドル、11.6倍)
6位 ロシア     8.6兆ドル (1.0兆ドル、8.6倍)
7位 インドネシア  7兆ドル   (0.4兆ドル、17.5倍)
8位 日本      6.7兆ドル (4.3兆ドル、1.6倍)
9位 英国      5.2兆ドル (2.3兆ドル、2.3倍)
10位 ドイツ    5兆ドル   (2.9兆ドル、1.7倍)
11位 ナイジェリア 4.6兆ドル (0.1兆ドル、46倍)


成長の要因

その国の経済成長を支える要因としては、この本では次を挙げている。

1.マクロな安定度
2.法の統治等の仕組みとしての安全度
3.経済の開放度
4.教育

ここでも「フラット化する世界」と同様、教育の重要性が大きく考慮されている。

これらを数値化したのが、ゴールドマン・サックスで2005年に導入されたGES(Growth Environment Scores)で、これによって国の成長環境を判定している。このGESの判定要素は次の13の指標で、それぞれ0から10の評点となっている。

1.インフレーション
2.政府の財政赤字(対GDP比率)
3.対外債務(対GDP比率)
4.投資率(対GDP比率)
5.経済の開放度
6.電話普及率
7.パソコン普及率
8.インターネット普及率
9.中等教育の年限
10.平均寿命
11.政治の安定度
12.法の支配
13.汚職


次が2006年のGESによる各国の成長環境の評価だ。1位から4位はスウェーデン、スイス、ルクセンブルグ、シンガポールである。

GES 2006









このレポートの意味するもの

この270ページにもわたるレポートを読んでいていくつかキーワードがあると感じた。

それは、次の通りだ。

1.各国の高度成長を維持するためには人口増加が必須となること
2.成長を維持するために教育水準の向上が欠かせないこと
3.政治の安定が必須条件であること
4.通貨の上昇が見込まれていること


通貨の上昇が成長の要因

ゴールドマンのレポートでは、国の成長率を維持する理由の2/3はその国の生産性向上率、1/3は通貨の上昇だ。実際、30年間でBRICs通貨は対ドルで300%上昇すると予測されている。

将来の予測にはドル相場がどうなるのかも大きな要因だ。

中国、湾岸諸国がドルペッグを維持するかどうかが鍵である。

日本もそうだが、これらの国は外貨準備の大半がドルなので、ドルが他の通貨に対して下落を続けても容易にはドルから切り替えることはできず、手詰まりの状態となる。

この安全弁が崩壊すると、それこそドルの大暴落につながる可能性があるのだ。


マクロでの比較

この本ではBRICs及びN−11についてそれぞれの国のアナリストが、それぞれの国の強み、弱みを整理しており、いわば鳥瞰図的に理解できる。

マクロ経済レポートでもあり、個別企業についての説明はほとんど皆無なので、個別の企業の活動については他の本を読む必要がある。その意味で、この本と「フラット化する世界」は良いコンビネーションだと思う。

"BRICs and beyond"の国別のレポートでも言われているが、各国のアナリストたちはゴールドマン・サックスの本社アナリストたちよりも自国の成長について強気であり、特に中国とインドについては、今回の見直しよりもさらに成長が早まると見ているそうだ。


ずば抜けている中国の底力

BRICs4ヶ国、そしてN−11の国につきいわば同じ土俵で評価しているが、やはり中国の底力がずば抜けているという印象を強くする。

将来の成長を阻む要因となっている一人っ子政策や人々の移動を阻む戸籍制度の「戸口」制度は、いずれ見直される可能性が高い。

9年制の義務教育と一人っ子政策の結果、国民の教育熱は高く、より高度な教育を受ける比率が高まり、大学進学率は10年前の5%弱から、現在は20%に上昇しており、2020年には40%に上昇することが見込まれる。

高等教育を受けた親を持つ子供は、大学に行くのが当然と考えるので、そうなると教育水準は上がり、さらに「戸口」の改革により若年労働力が都市部に入ってくると労働プールにも3千万人単位での若年労働力が生まれる。

加えて世銀の勧告等で一人っ子政策が緩和されると、人口ピラミッドも是正され、将来の成長力にもつながる。

日本の大学入試センター試験の志願者数は過去のピークで60万人、現在は約54万人となっているが、中国の同等の試験である「高考」の志願者は1,000万人を超えている。

中国の大学生に占める工学部系の比率は60%。仮に1学年で1,000万人とすると、600万人のエンジニアが毎年卒業する。それに対して日本の工学部志望者は年間27万人、実に1/25である。これでは全く勝負にならない。


成長率の加速が見込まれるインド

インドは古くは1500年頃までは世界のGDPの約3割を占める世界最大の経済国だった。1500年頃に中国が世界最大の経済国となったが、中国も1800年前後に産業革命の起こったヨーロッパに抜かれる。

world 1to2000



ゴールドマン・サックスのレポートは、中国とインドが2050年頃には世界1・2位になると予測しているが、18世紀以前の世界ランキングに戻ることになるわけだ。

インドは黄金の四辺形ハイウェイが完成し、インフラは今後も改善され、成長率も加8%から2010年までには10%超まで加速し、それから10%近い成長が継続することが見込まれる。

農業から工業やサービス業への労働人口のシフトが起こるので、成長率が底上げされることになる。インドには世界で最も成長の早い30都市のうち10都市がある。都市人口が増えると建設や電力などの需要が急速に増加する。

ゴールドマン・サックスのレポートにはないが、インド南部はモンスーンという自然の脅威があり、モンスーン期間中は船での輸送はできないので、インドは交通のハブにはなりえない。

平均教育年限が5.1年という国民の教育レベル、会社を閉鎖するのに10年掛かると言われている非効率な政府手続き、カースト制、女性労働力の未活用という問題がある。

100人以上の会社では事実上解雇ができないという話もある。

これも書かれていないが、宗教上牛あるいは豚は食料にできないし、食料生産に適していない気候や風土ゆえ、人口が増えると飢餓人口も増えるおそれがある。

教育も私立大学は厳しく規制されており、高学歴者を多く生み出す体制とはなっていない。

このようにインドには人的資源という意味では大きな問題があると筆者は感じるが、このゴールドマン・サックスのレポートでは、これらのネガティブな面はサラッと触れられているだけである。


ロシアの問題は法の支配

ロシアは最近税法、労働法、土地所有法を相次ぎ制定しているが、基本的に法の支配がない。

シェル、三井物産、三菱商事が参加していたサハリンIIの過半数の株式をロシア政府の圧力でガスプロムがいわば強奪したことが良い例だ。

報道メディアも支配下に置いたプーチン院政の間は安定することが見込まれ、2012年にはプーチンが大統領として復帰する可能性も取りざたされている。

政治的には安定しようが、外資にとっては法の支配がないと、安心して投資はできない。

プーチン時代は平均年率6.8%成長し、インフレも9%程度に落ち着いた。

しかし単にエネルギー価格が上がって外貨準備が増え、石油代金変動勘定が増えるだけという状態なので、投資なき成長という状態だ。

また現在の人口の142百万人が2050年には109百万人に減少すると見込まれ、GDP成長率も今後低下することが見込まれることはネガティブ要因である。


成長が加速するブラジル

ブラジルは昨年から鉄鉱石や大豆などの一次産品の価格上昇とエネルギーの自給を達成したことにより、成長率は年率5%程度にアップしている。

一応の産業インフラはできあがっているだけに、他のBRICs諸国ほどは高い成長性が見込めないが、それでも従来の成長率2−3%よりは高い。

今後はリアル高、高金利の中で民間部門の投資が増加できるかどうかが鍵である。

筆者は1978年から1980年までアルゼンチンに駐在していたことから、ブラジルとは30年のつきあいだが、国としての先見性という点で昔からすごい国だと思っていた。

何もない高原に首都ブラジリアを建設したり、30年以上前からエタノール混合燃料車を走らせていたり、セラードと呼ばれる農業用地の大規模開発による大豆の増産、鉄鉱石や一次産品の生産拡大などその計画性、先見性は旧共産国をはるかに上回るものがある。

政治的には安定しているが、インフレ率を低く抑えられているのは、通貨の切り上げによる効果が大きく、逆に工業製品は高金利と通貨高により競争力を失っている。

ブラジルはインフレこそ5%前後に収まったが、依然として企業向け貸し出し金利は約30%も高く、いわゆるリアルキャリートレードで、外国からの短期投資資金が流入し、リアル高を支えている。

ブラジルについては、鈴木孝憲さんの本のあらすじを近々紹介するので、これを参照して欲しい。


世界のエネルギー事情

IEAの統計のページに各国の種類別のエネルギー供給がパイチャートになっているので、比較してみると面白い。

左が全世界の種類別のエネルギー供給、右がアメリカのエネルギー供給だ。ほぼ似通っている。

energy balance worldenergy balance USA

次の左が日本で、同じような傾向だ。それに比べて右のブラジルは全く異なる。

energy balance Japanenergy balance Brazil

再生可能エネルギーの比率が高いことがわかる。深海油田開発技術を生かして、石油も今や自給できるので、自国で生産できる石油と水力、エタノール、木炭などの再生可能エネルギーが主体である。

左のロシアは天然ガスの世界最大の生産国なので、天然ガスの比率が高い。同じ南米でも右のアルゼンチンはブラジルと異なりロシアに近い。天然ガス産出国だからだろう。

energy balance Russiaenergy balance Argentina

中国は世界最大の石炭生産国なので、石炭の比率が圧倒的に高い。石炭はCO2排出量も多く、中国の環境問題は地球環境に悪影響を及ぼす可能性もある。中国に比較的似ているのがインドのエネルギー事情だ。インドも世界第3位の石炭生産国なので、石炭の比率が高い。

energy balance Chinaenergy balance India

インドはバイオマス発電大国で、全土に2,000近く小規模のバイオマス発電所があるという。キャッサバ、サトウキビかすが主な燃料だ。インドでは牛糞も古くから燃料として使われてきたので、牛糞も燃料となっているのだろう。鶏や動物の糞は今や最先端のバイオマス燃料だ。


中国の問題

中国の問題は、政治的安定がいつまで続くかという点と、環境問題だ。上記のように中国のエネルギー源は石炭で、石炭はCO2排出量も、また排煙をちゃんと処理しないと酸性雨の原因となる亜硫酸ガスなどの排出も多い。

なんといっても中国と日本は同じ経済圏にあるので、中国の環境問題は日本の重大関心事であり、人類生存の問題でもある。

その意味で、小宮山東大総長が「課題先進国日本」と呼ぶ様に、日本の環境技術が中国、ひいては世界の環境を保全し、そして日本も栄えるというそんな未来図を考えさせられた。


英文を270ページも読むのはかなり大変なので、まずは20ページのBRICsレポートを読むことをおすすめする。

昨年中国がドイツを抜いて世界第3位の経済大国になったが、これはまさに2003年のBRICsレポートが予測していたのとぴったり一致している。

BRICs original estimate






好むと好まざるとにかかわらず、これからもこのレポートで予測されたシナリオに近い形で現実となっていくだろう。その意味では必読のレポートだと思う。


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2010年08月13日

アリババ帝国 中国発のインターネット巨人 ジャック・マーの10年

アリババ帝国 ネットで世界を制するジャック・マーの挑戦アリババ帝国 ネットで世界を制するジャック・マーの挑戦
著者:張 剛
販売元:東洋経済新報社
発売日:2010-07-09
おすすめ度:5.0
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中国のインターネット企業を代表するアリババグループCEOの馬雲(ジャック・マー)の1999年から2009年までの10年の軌跡。

馬雲さんは独特の風貌で、ひときわ目立つ。YouTubeにもファイナンシャルタイムズのインタービューが掲載されているので、紹介しておく。馬雲さんの英語のうまさに驚くと思う。



馬雲さんは1964年浙江省杭州生まれ。杭州師範大学の英文科を卒業し、5年間英語教師をやったあと、「自分が成功できるなら80%の人が成功できる。そのことを証明するために起業した」という。


浙江省杭州市は中国で筆者の最も好きな都市

余談になるが、浙江省や杭州は筆者にとって中国で最も愛着がある場所だ。

筆者は1983年に浙江省にフィリピン産鉱石を持ち込んで、ステンレス鋼の原料に加工して日本に持ち込む委託加工(当時は合作と呼んだ)のビジネスを担当していた。その契約相手が浙江省の杭州市にあった浙江省冶金分公司(こんす)だった。

当時は中央集権を見直していた時期で、北京の冶金公司と交渉を始めたが、最終的に契約相手は浙江省冶金分公司になった。

初めて中国を訪問した1983年の夏には、北京、上海、長沙(上海ー長沙は汽車で20時間以上)の工場を歴訪し、最後に上海から電車で杭州に行き、杭州から車で1日掛けて横山という場所にある工場を訪問した。

当時は外国人の中国での旅行は厳しく制限されており、横山や途中の町も非開放地区だったので、杭州を朝出発したが、途中の町の役場に立ち寄っては通行許可証を取っていたので、横山に辿り着いた時は夜になっていた。

その夜歓迎宴を工場の人が開いてくれたが、夏はスッポンが手に入りにくいため数日前に捕まえておいたというスッポン料理で歓待してくれて感激した。

横山工場には遊休となっていたニッケルの生産設備があり、それはアルバニア人技術者が建設したものだと語っていた。中国はソ連と断交した後、同じくソ連と断交していたアルバニアと親しくなり、アルバニアから技術を導入していたのだ。

優秀な品質の製品をつくる工場で、日本でも評判が良かった。

当時はビジネスで出張すると、せっかく来たんだからと先方がわざわざ観光地を案内してくれる習慣があり、北京では万里の長城、故宮、上海では豫園(よえん)、長沙では毛沢東の生家や刺繍工場を見学した。

杭州では西湖をボートで観光し、日本の天台宗の開祖の最澄も学んだ天台山国清寺、龍泉茶で有名な龍泉(泉の水をかき回して波立てても、しばらくするとスーッと波が消えて、鏡のようになる)などを観光した。

鉱石を陸揚げした寧波にも行って一泊した。当時は中国にはエアコンなどなく、水浴びをしてなんとかしのいだ。夜になると多くの市民が夕涼みのために散歩していて、大変な混雑だった。

杭州市ではできたばかりの花園飯店というホテルに泊まり、宴会の後に若い従業員も加わって、みんなで歌った。千昌男の「北国の春」が中国でもヒットしていたことを思い出す。

毎日おかゆには飽きたので、朝食にパンを頼んだら、カステラみたいにボロボロくずれるパンが出てきたことには閉口した。当時はまともなパンは北京と上海の一流ホテルでしか食べられなかった。

杭州の最初の宴会では、山西省出身の人民解放軍上がりの総経理に汾酒(アルコール度53度でセメダインみたいなにおいがする)で乾杯させられ、死ぬほど飲まされたので、翌日の楼外楼での答礼宴では、ブランデーで乾杯し、コカコーラを用意して、乾杯するたびにコーラを飲んで薄めていた。

汾酒・フェンチュウ(ふんしゅ) 500ml【中国酒】
汾酒・フェンチュウ(ふんしゅ) 500ml【中国酒】


楼外楼は日本にも支店がある杭州の老舗レストランだが、当時はそんなきれいな店ではなく、一般庶民も多く利用していた。名物の乞食鳥を初めて楼外楼で食べた。乞食鳥という名前を奇異に感じたものだ。

閑話休題


1999年にアリババ起業

馬雲さんは「中国黄頁」(中国版イエローページ)など何件か起業した後に、中国国際電子商務中心の情報部総経理(部長)となり「国富通」、「中国商品交易市場」などのサイトを立ち上げる。これらのサイトはすぐに黒字となり、合計300万元(40万ドル)の黒字となった。

馬雲さんはこの成功でインターネットの可能性を感じ、1999年に仲間とBtoBサイトのアリババを立ち上げる。


アリババというサイト

アリババは日本語サイトも立ち上げている。もっぱら企業向けなので訪問したことがない人が多いと思うが、BtoB(企業間取引)向けのサプライヤーとバイヤーのマッチングサイトだ。

alibaba





筆者は10年ほど前にインターネット逆オークションを使った電子調達ビジネスを研究していたので、アリババのサイトも10年ほど前から知っている。

自分の興味ある商品を登録しておくと、メルマガなどでサプライヤーのリストを送ってくれるが、そのサプライヤーの品質がどうか、信頼できそうな相手なのかは自分で調べなければならず、結局使わなかった。

今はアリババの登録ユーザーは4000万人で、中国が8割。登録店舗数は5百万件にまで成長してきたので、それなりの信用や品質情報などもあるのだと思うが、当時は企業版のYellow Pageをインターネットに載せたようなものだった。


アリババ起業の十八羅漢

このときの起業メンバーが馬雲さんも入れて「十八羅漢」と呼ばれる面々で、現在でもアリババやタオバオの幹部を占めている。ちなみに仏教では普通十六羅漢と呼ばれるが、十六でも十八でも大きな差はない。

十八羅漢の中でも、1999年10月の蔡崇信(現アリババCFO)の入社で、アリババは資金確保に悩まされることはなくなった。

蔡崇信は、スウェーデンのインベスターABグループの副総裁だったが、アリババと投資交渉をしていて、急に気が変わり、アリババに入社することを決意、70万ドルの年俸を捨ててわずか500元(60ドル)の月給でアリババに入社した。

蔡崇信が入社してすぐにゴールドマンサックスなどが500万ドルを投資した。


ソフトバンクの孫さんが二千万ドル投資

そのすぐ後に馬雲さんと会ったのがソフトバンクの孫正義さんだ。1999年9月のビジネスウィークにはebiz25というインターネット起業家特集があり、孫さんは日本人として唯一ebiz25に入っていた。

次が1999年9月のBusiness Weekの表紙だ。当時筆者は米国に駐在しており、IPO投資した電子調達会社の社長もebiz25に入っていたので、この表紙をスキャンして保存していたものだ。

BWeek19990927cover










出典: Business Week

この記事はBusinessweek.comで読めるので、参照して欲しい。

孫さんは5−6分馬雲の説明を聞いただけでビジネスモデルを理解し、「我々はアリババを第2のヤフーに育て上げる」と語り、30%の株式を2,000万ドルで取得し、アリババの顧問にもなった。

孫さんの目標は「情報革命で人々を幸せにする」ことで、馬雲さんも「インターネットを通じて、社会を豊かにする」との夢を共有する同志であるという。

ソフトバンクの投資は、後に回収するときに70倍以上になってソフトバンクに富をもたらした。

孫さんのヤフー立ち上げ時の1億ドルの投資は有名だが、それに負けずとも劣らないのが、アリババへのこの2,000万ドルの投資である。

1999年はインターネットバブルのピークで、中国の初期のポータルサイト新浪(sina.com)に、シリコンバレーのベンチャーキャピタルが数千万ドル投資し、クライナー・パーキンス、住友商事の子会社のPresidio Venture Capitalなどもsina.comに投資している。


アリババの目標

馬雲さんの打ち出した目標は次の3つだ。

(1)80年持つ企業になる。この80年は後に102年となり、1999年から2101年まで3世紀にわたって存続する企業を目ざすと若干変わった。

(2)世界のインターネットビジネスで10位内に入る。

(3)ビジネスマンなら誰でもアリババが必要となるようにする。

2000年のネットバブルの崩壊直前にアリババは必要十分な資金を調達したので、順調に拡大を続けたが、好事魔多し、アリババにダメージを与えたのは2003年に広まったSARSだった。SARSのためにアリババのオフィスは12日間隔離された。


タオバオとイーベイの覇権をめぐる争い

2003年5月にアリババのCtoCサイト、タオバオが誕生した。タオバオはイーべイが支援する易趣網に対抗して作られたBtoC、CtoCサイトだ。

taobao site






イーベイはヤフージャパンのオークション無料化戦略で2002年に日本から追い出されたが、中国では1999年スタートのCtoCサイト最大手易趣網に2,000万ドル投資し、33%の株を取得して中国でのシェアを90%以上にまで押し上げていた。

アリババはイーベイの小口送金サービスペイパルに対抗し、アリペイを2003年10月に立ち上げた。

2004年初めのタオバオのシェアは9%だったが、ヤフージャパンと同じく手数料無料戦略をとったので、急速にイーベイ易趣網からシェアーを奪い、2004年末には9%から41%にシェアを上げた。イーベイ易趣網は90%から53%にまで落ちた。

それには2004年2月のソフトバンクの6,000万ドルを核とする8,200万ドルの追加投資が役に立った。日本からイーべイを追い出したヤフージャパンの代理戦争がタオバオでも始まっていたのだ。


2005年に決着

2005年は中国企業が大躍進を遂げた年だ。レノボがIBMのPC部門を買収、中国海洋石油総公司がユノカル買収を発表(結局米国政府が認可しなかった)、他にも英国ローバーを南汽が買収した。

2005年でタオバオとイーベー易趣網の戦いはタオバオの勝利に終わり、タオバオ57%、イーベイ34%という結果となった。さらにタオバオはシェア−7%で3位の一拍網も傘下に収めた。

アリババは順調に成長し、2006年に国際貿易の会員数は3百万人を超え、2006年の取り扱い高は260億ドルと、2005年の200億ドルを3割上回った。国内取引でも会員社数は1,600万社を超えた。

タオバオはさらに急成長を遂げ、2006年には取引額は169億元で、2005年のほぼ倍、2006年一年間で220万台の携帯電話、2000万の携帯電話カード、4000万の化粧品、230万のインナーウェア、60万台のデジタルカメラを売っていた。


アリババの株式を公開

2007年はアリババが株式を上場して、飛躍を遂げた年だ、2007年11月アリババは香港市場で株式を公開し、IPO当時の時価総額は260億ドルとなった。

2007年には米国ではサブプライム問題、中国では不動産バブルが発生しており、馬雲さんは、当初の予定の2009年上場を早める必要があると考え、2007年中に香港市場で上場したのだ。

アリババ株の33.5%を持っていたヤフーのジェリー・ヤンは多額の資金を得たが、それでも米国Yahoo!の経営は立て直せず、失意のうちに経営を退いた。

第二位株主のソフトバンクの持ち株の時価総額は45億ドルとなった。投資資金が七十倍のリターンをもたらしたのだ。

アリババ社員は26%持っており、一挙に約5千人の富豪サラリーマンが誕生した。このうち7名の幹部社員が13%を持っていた。馬雲の持ち分は7%で、創業社長にしては少なかったが、馬雲は社員が裕福になったことを喜んだという。

アリババ上場後、香港株は下がった。このブログでも紹介しているバイクライダー投資家のジム・ロジャースは香港株は高すぎるが、アリババ株は例外だと語ったという。


株式上場後、すぐに非常事態宣言

株式公開後すぐの2007年末に馬雲さんは非常事態宣言を出し、タオバオの総裁、アリババグループのCTO,VPが交代すると発表した。

2008年9月には中国の検索で70%以上のシェアを持つ百度ヨウアというECサービスを始め、タオバオと直接競合するようになった。百度からはタオバオに行けないようにしたので、タオバオは報復としてタオバオからも百度に行けないようにした。

リーマンショックの影響が大きかったので、馬雲はアリババの登録費用を6万元から、2万元弱に引き下げて、5万社の中国企業を支援すると発表した。

2009年にはタオバオは利益はまだ出していないが、1.2億のユーザー、アリペイは1.8億人のユーザーを持っているという。アリババの登録ユーザーは4、000万人で、中国が8割。登録店舗数は5百万件だ。

中国のインターネット人口は、1999年末の630万人から、2009年には4.4億人に急拡大しており、中国のほとんどのECサイトに急激なトラフィック増加をもたらした。


顧客第一、社員第二

馬雲さんは、顧客第一、社員第二、株主第三だと語る。

馬雲さんは、本を書くなら「アリババと1001の過ち」という本を書きたいと語っている。アリババの過ちを公開することで、多くの人にヒントを与えるからだと。

最後に馬雲さんの2009年6月の北京大学国際MBA卒業式のスピーチを紹介している。結びの言葉は、なんと映画フォレストガンプの有名な言葉だ。さすが元英語教師の馬雲さんらしい。

"Life is like a box of chocolates, you never know what you're gonna get"だから"Enjoy the life"だと。



著者のジャーナリストの張剛さんは、公開されている資料中心に、そつなく十年間の軌跡をまとめているが、たとえば何故タオバオのトップを総入れ替えしたのかなど、馬雲さんの考えがわからない。

馬雲さんのインタビューを中心に本を書けばもっと良かったと思う。


参考になれば投票ボタンをクリックして頂きたい。




Cto  
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2010年08月10日

リーダーシップ・チャレンジ リーダーシップの教科書

リーダーシップ・チャレンジリーダーシップ・チャレンジ
著者:ジェームズ・M・クーゼス
販売元:海と月社
発売日:2010-02-19
おすすめ度:3.5
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2010年2月に出たばかりのリーダーシップ論ということで、東洋経済だったろうか、書評で紹介されていたので読んでみた。

筆者のジェームズ・M・クーゼス教授とバリー・Z・ポズナー教授は、いずれもサンタクララ大学リービーMBAスクールの先生だ。本の帯には「世界各国で刊行。180万部突破!最も信頼され、最も読まれているリーダーシップ実践テキストの最高峰、待望の邦訳。トム・ピーターズ激賞」と書いてある。

トム・ピーターズは名著エクセレント・カンパニーの著者として有名だ。彼の推薦文は「本書が20年以上読まれているのには理由がある。膨大なデータ研究に基づいている、極めて実用的である、そしてなにより読む者の魂をゆさぶるからだ」となっている。

エクセレント・カンパニー (Eijipress business classics)エクセレント・カンパニー (Eijipress business classics)
著者:トム・ピーターズ
販売元:英治出版
発売日:2003-07-26
おすすめ度:4.5
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監訳は神戸大学の金井壽宏教授で、金井教授は次に紹介する「ハイ・フライヤー」の監訳も務めている。

最初に「リーダーシップ育成に最適の指南書」と題する金井教授の推薦文がある。

「もしも、英語が分かる人で10年以上リーダーシップの研究や研修に携わっていながらこの本を知らない人がいたら、その人は『もぐり』だ。」と金井教授は語る。

この本を知らなかった筆者はまさに「もぐり」にあたるが、かくいう金井教授も2004ー5年頃にこの本(1987年発刊)のオーディオブックで知ったようなので、ここまで言い切るのが不思議に思え、正直、半信半疑で読んでみた。


内容はまさに「教科書」

ともあれ、内容はまさに「教科書」である。大学とかのリーダーシップ論で使うテキストとして最適だと思う。本の構成も活字が大きく、スペースを空けているので、読みやすい。

翻訳を読んで、気に入ったので、オーディブルで原著を購入してダウンロードした。具体例が多く、実戦的なのでオーディオブックでもわかりやすいと思う。また著者自身が交代で吹き込んでいるので、講義の「臨場感」が楽しめる。

Leadership Challenge: The Most Trusted Source on Becoming a Better Leader (J-B Leadership Challenge: Kouzes/Posner)Leadership Challenge: The Most Trusted Source on Becoming a Better Leader (J-B Leadership Challenge: Kouzes/Posner)
著者:James M. Kouzes
販売元:Your Coach Digital
発売日:2007-09-04
クチコミを見る



リーダーには信頼が不可欠

メンバーが求めるリーダー像として、75,000人以上からのアンケート結果から、次の4つの特質を挙げている。

1.正直である=honest

2.先見の明がある=forward-looking

3.わくわくさせてくれる=inspiring

4.有能である=competent

この本の初めの部分で「リーダーシップは関係である」と語っており、リーダーシップの第1法則、第2法則を次の通り紹介している。

第1法則:自分が信頼されていなければ、自分が伝えるメッセージも信頼されない。

第2法則:やるといったことは、必ずやり遂げる

すべての基礎は「信頼にあり」、信頼がなければ始まらない、「言行が一致しているリーダーは信頼される」。まさにその通りだと思う。


リーダーの5つの実践指針

この本は模範的リーダーの「5つの実践指針=Practice」として次を挙げている。コミュニケーションに関するものが多いことに気づくと思う。

1.模範となる=model the way

2.共通のビジョンで鼓舞する=inspire a shared vision

3.現状を改革する=challenge the process

4.行動できる環境をつくる=enable others to act

5.心から励ます=encourage the heart


リーダーシップ資質体系表

上記5つの実践指針にそれぞれ2つ、合計10のコミットメントを結びつけ、さらにそれぞれのコミットメント(実践)に2つずつ、合計20のエッセンシャル(具体的行動)を結びつけ、リーダーシップを体系づけている。

それをまとめたものが本書巻末にある一覧表だ。

リーダシップ・チャレンジ











出典:本書425ページ

この表だけ見ても、内容は分からないと思うが、400ページあまりの本書のなかで、これらの5,10,20のポイントを米国企業での具体例を多く挙げて説明しており、わかりやすい。


「コミットメント>具体的行動+実践のためのステップ」という構造

10のコミットメントには「実践のためのステップ」というセクションがついており、具体的な行動を示唆して、まさに実践的な教科書だ。

例として、2つの章から成る第3部の「共通のビジョンで鼓舞する」の目次構成を紹介しておく。

「5.未来を思い描く」がコミットメント、「(5)可能性を探る」が具体的行動、★が具体的行動のアクション例、そして最後に「実践のためのステップ」が付くという構造だ。


5.未来を思い描く(まずはゴールを想像します。何を達成しようとしているのかを明確にしてから、実現の方法を考えるのです。)

(5)可能性を探る
 ★ 過去を振り返る
 ★ 現在に注意を払う
 ★ 未来を予想する
 ★ 自分の中の情熱を感じる

(6)共通の目的を見つける
 ★ 話をじっくりと聞く
 ★ 仕事の意義に注目する
 ★ 大義を与える
 ★ 先見の明を持つ

<実践のためのステップ>
 ★ 自分のしたいことを明確にする
 ★ 常に先を考えて行動する
 ★ メンバーが求めているものをたずねる

6.メンバーの協力を得る
(7)共通の理想に訴える
 ★ メンバーの共感を得る
 ★ ”ちがい”に誇りを持つ
 ★ 夢はひとつに
   ここではマーチン・ルーサー・キングの"I have a dream"演説が紹介されている。 



(8)ビジョンをいきいきと描く
 ★ イメージがわく表現を心がける
 ★ 未来のイメージは具体的に語る
 ★ 前向きな言葉で話す
 ★ 感情を込める
 ★ 本心から話す

<実践のためのステップ>
 ★ 共通のビジョンを書く
 ★ ビジョンに命を吹き込む
 ★ コミュニケーション能力と表現力を磨く
   名演説を集めたDVDを参考にするのも一案だと。

デール・カーネギーやスティーブン・コヴィーが説くポイントも織り込んで構成していることがわかると思う。


万人のためのリーダーシップ

最後の「万人のためのリーダーシップ」で「誰でもすぐれたリーダーになれる」として、心構えをまとめている。

 ★ 組織でもっとも重要なリーダーはあなたである
 ★ リーダーシップは誰でも習得できる
 ★ 実践すれば必ず実を結ぶ
 ★ 自分のリーダーになることから始める
 ★ メンバーを高みにみちびくリーダーであれ
 ★ 常に謙虚であれ

エクゼクティブサーチ会社のエゴンゼンダー・インターナショナルの名誉会長エゴン・ゼンダーのアドバイスを紹介している。

「仲間の言葉に耳を傾けましょう。彼らはあなたよりも多くを知っています。一方下がって、自分を正す謙虚さを持つのです」

一流のリーダーは「ひとりでは何もできない」ことを理解している。それに対して、つかの間の成功に浮かれているリーダーは見栄っ張りでプライドが高い。

 ★ チャンスは「今この瞬間」にある
 ★ リーダーシップと人生の成功の秘訣は同じである

そして最終結論は次の言葉だ。

「リーダーの歩む道は決して平坦ではないが、どんなときも変わらず、最後までリーダーを支えてくれるものは愛だ。愛がなければ情熱は生まれない。もし情熱がなければ、どうして来る日も来る日も身を粉にして働くことができるだろう?

すぐれたリーダーになるための最大の秘訣。それは「愛」だ。リーダーであることを愛し、ともに仕事をしてくれる仲間を愛し、組織が提供している製品やサービスを愛し、それを使うことで組織に敬意を表してくれる顧客を愛し続ける

リーダーシップとは、頭ではなく、心で行われるものなのだ」


筆者もまさに同感である。


カーネギーやコヴィーの本に比べて、平板な印象があるが、ポイントを網羅した「教科書」なのでやむをえないところかもしれない。

監訳者の金井神戸大学教授が言うように、読んだことがなくとも「もぐり」とは思わないが、一度読んでみる価値はあると思う。


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2010年08月04日

「独裁者」との交渉術 元国連事務次長明石康さんの対談録

「独裁者」との交渉術 (集英社新書 525A)「独裁者」との交渉術 (集英社新書 525A)
著者:明石 康
販売元:集英社
発売日:2010-01-15
おすすめ度:4.5
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日本人初の国連職員で、カンボジアや旧ユーゴの国連事務総長特別代表を務めた明石康さんとノンフィクション作家木村元彦(ゆきひこ)さんの対談集。

読書家の上司から借りて読んだ。

青春と読書という雑誌の2009年1月から10月号まで連載されていた対談を単行本にしたものだ。「青春と読書」というのは、あるいは図書館向けの雑誌なのかもしれないが、どういった雑誌なのか興味があるところだ。

内容としては明石さんの生い立ち、フルブライト留学生から国連職員になった経緯、カンボジアPKO,ボスニア問題、スリランカ問題、そして最後に職業としての交渉者という構成になっている。

明石さんは1931年秋田生まれ、戦争末期に秋田でも米軍艦載機の攻撃があり、明石さんは米軍戦闘機パイロットの顔を見たという。

東大法学部卒業後、フルブライト留学生としてバージニア大学で学び、その後ボストンのフレッチャースクールの博士課程に進んだところで、国連よりリクルートされ、コロンビア大学で研究を続けることを条件に日本人初の国連職員となる。

この本は明石さんがカンボジアPKO、旧ユーゴスラビアPKO、スリランカ紛争(これは国連ではなく、日本政府の代表)で経験したトピックや交渉相手の話が中心だ。

筆者は1980年に当時のユーゴスラビアに出張したことがあり、首都ベオグラードに入り、スプリート、ダルマチア、スコピエなどを歴訪した。それから1990年代は毎年アルバニアに出張していた。

だから少なくとも旧ユーゴスラビアの部分は話についていけると思っていたが、この本を読んで、自分の知識の浅さを思い知らされた。

対談のため紛争の全体の流れがつかみずらいので、明石さん自身の自伝も読んでみる。

生きることにも心せき―国際社会に生きてきたひとりの軌跡生きることにも心せき―国際社会に生きてきたひとりの軌跡
著者:明石 康
販売元:中央公論新社
発売日:2001-06
おすすめ度:4.0
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戦争と平和の谷間で―国境を超えた群像 (双書 時代のカルテ)戦争と平和の谷間で―国境を超えた群像 (双書 時代のカルテ)
著者:明石 康
販売元:岩波書店
発売日:2007-11
おすすめ度:5.0
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「独裁者との交渉術」というタイトルがついているが、明石さん自身がこのタイトルは重すぎると言っている通り、交渉術というような一般化できるような経験談ではない。

しかし、相手の性格・出自をよく理解し、誠実に交渉することで信頼を得て、相手が受け入れやすいような話に持って行くというオーソドックスな明石さんのやり方は、「誠意は通じる」という筆者自身の信念に通じるところがある。

またスリランカで日本政府代表として交渉に当たる際には、ユニセフ、UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)、WFP(国連世界食糧計画)、赤十字国際委員会(ICRC)、世界銀行、アジア開発銀行代表などと話しあい、チームワークを作って臨んだと明石さんは語る。さすが長年、国連職員として広いコネクションを持っている明石さんだ。

今まで知らなかったことが分かって、参考になった。

いくつか紹介しておく。

朝鮮戦争時の国連軍は、ソ連が中華人民共和国の国連加盟問題で安保理をボイコットしていた時に、アメリカが南下してきた北朝鮮を食い止めるために出した決議案が採択されたものだ。

このあたりの事情は漠然と理解していたが、今読んでいるハルバースタムの「ザ・コールデスト・ウィンター朝鮮戦争」でも、この点ははっきりわからないので、まさに当事者としての明石さんの話は参考になった。

ザ・コールデスト・ウインター 朝鮮戦争 上ザ・コールデスト・ウインター 朝鮮戦争 上
著者:ディヴィッド・ハルバースタム
販売元:文藝春秋
発売日:2009-10-14
おすすめ度:4.0
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★明石さんはカンボジアPKOの時は、シアヌークと親しくなり、カンボジアPKOの成果で、後にシアヌークより勲章を贈られたという。

ポル・ポト裁判をやっている裁判所は、国際法廷ではなく、カンボジアが裁判官と検察側に国際的に活躍している人を何人か入れている特殊な例だという。ちょうどこの法廷で、7月26日に政治犯収容所の所長に禁固35年という判決が出たところだ

スリランカ紛争ではノルウェーが調停役として紛争を収めるべく努力していた。筆者も経験があるが、ノルウェーとスリランカやバングラデシュなどは余り関係ない様に思えるが、ノルウェーは南アジア地域には政府援助など大きな関心を持っている。

実は筆者は25年ほど前に、ノルウェー産のシリコンをノルウェー政府の無償援助を使ってバングラデシュに輸出するという仕事をやったことがある。当時からノルウェーは南アジア地域には援助なども積極的に出していたことを思い出す。

★スリランカのタミル人反政府運動(タミルのトラ)の指導者で、後に暗殺されたプラバーカランは、下層カーストに属する漁村の出身だという。スリランカには約20%のタミル人がいるが、スリランカでもカースト制度の残滓があるようだ。

★スリランカのタミル人が独立すれば、インド南部のタミル・ナデゥ州も独立することになりかねず、そうなるとカシミール独立などと飛び火する可能性があるので、インド政府はタミル問題は無関心ではすまされないのだ。

★全世界ではタミル人は6千万人、スリランカのシンハラ人は2千万人。タミル人はヨーロッパでも成功している人が多いという。

★1389年のコソボの戦い(バルカン諸国がオスマントルコに敗れる)以来600年の歴史をセルビア人指導者は忘れていないという。

★日本政府がお膳立てして2003年に東京で開催されたスリランカ復興開発会議では、51カ国、国連他22の国際機関が参加し、日本政府10億ドル、アジア開発銀行10億ドル、世界銀行が12億ドル拠出し、他の援助もあわせて合計45億ドルの援助が決まり、スリランカのウィクラマナヤカ首相は感激して涙にむせていたという。

★国連の平和維持活動は、国連憲章にも書いていないことを、発明しながら続けているもので、現在12万人がPKOで活動している。

★旧ユーゴ紛争では、米国の国連大使で、後の国務長官のマデレーン・オルブライトが明石さんの姿勢を強く非難した。米国はコソボ、ボスニア寄りで、NATO軍を通じてセルビアの空爆をやりたがっていたという。

米国にはアルバニア系住民もたくさんいる。たとえば映画「ブルースブラザース」で有名になり、亡くなったジョン・ベルーシジム・ベルーシ兄弟もアルバニア系だ。



米国がなぜアルバニア系住民を支援したのか、本当に人道的見地からだけなのか、興味があるところだ。

この本だけでは情報は限られるので、明石さんの他の本も読んで調べてみる。



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2010年08月03日

課長になったらクビにはならない 30代からは「一所懸命」が原則

+++今回のあらすじは長いです+++

課長になったらクビにはならない 日本型雇用におけるキャリア成功の秘訣課長になったらクビにはならない 日本型雇用におけるキャリア成功の秘訣
著者:海老原 嗣生
販売元:朝日新聞出版
発売日:2010-05-20
おすすめ度:3.5
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リクルートエージェントの転職誌「HRmics」編集長で、HRコンサル会社ニッチモ社長の海老原嗣生(つぐお)さんの最新作。

海老原さんは、マンガ「エンゼルバンク」のカリスマ転職代理人海老沢康生のモデルだ。

エンゼルバンク ドラゴン桜外伝(1) (モーニングKC)エンゼルバンク ドラゴン桜外伝(1) (モーニングKC)
著者:三田 紀房
販売元:講談社
発売日:2008-01-23
おすすめ度:3.5
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以前紹介した海老原さんの前作「学歴の耐えられない軽さ」が良かったので、最新作を読んでみた。

「学歴の耐えられない軽さ」は”売らんかな”のタイトルが内容を表していない欠点はあるが、統計資料を駆使して大学進学率が50%を超えた事による大学のレベルの低下と、新卒/第二新卒の就職状況についてのわかりやすい説明は大変参考になった。

学歴の耐えられない軽さ やばくないか、その大学、その会社、その常識学歴の耐えられない軽さ やばくないか、その大学、その会社、その常識
著者:海老原 嗣生
販売元:朝日新聞出版
発売日:2009-12-18
おすすめ度:4.0
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課長の壁

「学歴の耐えられない軽さ」が10代ー20代向けだったのに対して、この本は30代以降向けにどうするかを書いたという。結論としては、「目の前の仕事を頑張るだけで良いんじゃないですか」というものだ。つまり「一所懸命」のススメだ。

世の中には「課長の壁」というものがあり、日本でも35歳が転職の限界年齢だ。OECDの年代別転職率の統計を使って、熟年期に転職収束は世界共通の現象であることを説明している。

35歳以降に転職する人は、スペシャリストとして転職を繰り返し、一つの企業には定着しない傾向にある。会社としてもスペシャリストとして採用した人材は転用が効かず使いづらいのだ。

この結果、よく言うと特定分野のスペシャリスト、悪く言うとジョブホッパーになってしまうのだ。


IBM本社の人材開発部長の話

海老原さんがIBM本社の人材開発担当部長に聞いた話を紹介している。IBMでは30代のSE(システムエンジニア)に、技術やコンサルティング能力をつけさせるために社員教育に力を注いでいる。

それでは人材流出に繋がるのではないかと海老原さんが質問すると、IBMの最高の機材、設備を使い、IBM流に教育することが、最大の転職防止策になっているのだとIBMの部長は答えたという。

IBM流にローカラーズされた環境で学んだスキルや仕事のやり方が身に付くと、マッキンゼーやHPが好条件で迎えてくれるといっても、違った環境にあわすのがおっくうになるのだと。

つまりポータブルなスキルではなく、「企業内特殊熟練」の結果だ。これは自由闊達なリクルートグループでも当てはまると海老原さんは言う。

しかし天才はそれでもIBMを出て行くが、そういった天才は出て行ってIBM流を他でも広め、やがては業界標準になるので、むしろ好ましいのだという。


課長になったらクビにはならない

この本のタイトルの「課長になったらクビにはならない」というのは、「課長になったらリストラはされない。だから今の会社に居続ければ良い」という意味だ。ただし、つぶれそうな会社でないことと、最低査定でないことが必要条件だ。

世間一般で言われているリストラは、実は主に非正規雇用者をまず対象にしている。

正社員を対象にしている場合でも、本社から子会社への出向が含まれており、正社員をリストラする場合には、早期退職制度で手厚い退職金を支払う。

指名解雇によるリストラのようなことを正社員に実施するわけではなく、かえって優秀な社員が早期退職優遇制度で辞めていってしまうケースが多く出てくるという。


リストラは組織再生が目的

優秀な社員が辞めてしまうリスクがあっても、企業がリストラを行う最大の理由は、組織再生だ。

社員1万人を超す大手企業では、転職ゼロの社員の割合が8割ちかくいる。結果として能力を発揮できていない「しがみつきタイプのロー・パフォーマー」、「ぶら下がり社員」を多く抱えているという。

これが日本型雇用の最大の問題点であり、組織再生のために1割程度のローパフォーマーを主対象にリストラを実施するのだと。


人肌あわせ採用の減少

日本の採用は。かつてはOB訪問、リクルーターとの面談を経て、会社説明会からの採用ステップが始まる「人肌あわせ」型採用だった。

しかし、ネットによる大量エントリー時代になると「人肌あわせ」がなくなり、就職上位200社総なめ応募といった「モンスターアプリカント」が出現しているという。

昔は指定校制度というのがあった。一流企業ではMARCHあたりが多かったと思う。一万人も志望者がいて、指定校制度がなければ、はじめは機械的に落とすしかないだろう。


アメリカ型キャリアが良いですか?

海老原さんはアメリカ型キャリア礼賛を切って捨てている。アメリカ型だと次の質問のようになる。

★あなたは、能力アップが給与に反映しない国がいいですか?
★あなたは、一つの仕事が肌にあわないと、辞めるしかない国がいいですか?
★あなたは、社内の4人に一人が、退職準備をしている国がいいですか?
★あなたは、社長や役員を外から採用する国でいいですか?
★あなたは、名門校のMBAがないと社内でのし上がれない国がいいですか?

アメリカ礼賛という「箱モノ」=職務主義と、今の日本の社員キャリアディベロプメント制度をよく比較して欲しいという。

最初の質問の「あなたは、能力アップが給与に反映しない国がいいですか?」にまつわる話は、筆者にも経験がある。

最初にアメリカに駐在した時に、会社がパフォーマンスレビュー制度を導入することになった。そのときの部下面接のマニュアルで、経理部の部下が「MBA取ったのでマネージャーにして欲しい」と言ってきた時にどう対処するかという模擬設問もあった。

そのときの答えは、たしか「やっている仕事が同じならば、待遇は変わらない」と拒絶する。

ただ「今やっている仕事でMBA資格を生かして、能力を発揮すれば評価は上がり、昇進の道も開けるよ」とフォローするという様なものだったと思う。

統計を使ったアメリカの大学生の就職活動についての話も参考になる。アメリカも日本も大学生の就職についてはあまり変わらないのだと。


福島社民党党首の話

「アンチ箱モノ行政の社民党福島党首が箱モノ雇用論に終始する矛盾」というのも面白い。

海老原さんは14年ほど前に弁護士時代の福島さんにインタビューした経験があるが、男女別姓議論のなかで「お墓はどうするのか」といった現実論を聞いたら、「ディテールを今考えるのはおかしい」と言われて失望したという。

その福島さんが社民党党首として次をスローガンで掲げている。

★年収200万円以下のワーキングプアーが1022万人もいる!
★全国一律自給1000円以上に最低賃金法を改正すべき!
★同一価値労働同一賃金を徹底し、派遣労働者にも正社員並待遇を!

海老原さんは、このような耳障りだけ良いが、中身は空虚なものを「箱モノ雇用」と呼んでいるという。その理由は次の通りだ。

ワーキングプアーの正体は働く主婦(と高校生・大学生のバイト、年金をもらいながら働いている老齢者、個人事業者の家族専従者)だという。

ワーキングプアは641万人という厚生労働省発表があったので、紹介しておく。

最低賃金法改正は弱者切り捨てだ。最低賃金も払えない企業は、廃業するしか他に道がなくなるからだ。

同一価値労働同一賃金も、司法判断で正社員は監督責任があることと、転勤を拒否できないので、2割程度の差は容認されている。実際には企業は正社員と非正規雇用者とは仕事の内容を分けて、こういった議論が起きないようにしているという。


「手に職をつける」は誤解

「手に職をつけるための自己啓発が有効」という一般常識にも警鐘を鳴らす。むしろ「資格や語学を身につけても、キャリアにとってはそれほどプラスになることはない。逆にマイナスになることも少なくない」と語る。

たとえばSE(システムエンジニア)やウェブデザイナーだ。20代後半以降であれば、企業はたとえ学校に行って資格を取ってきても、未経験者は採用しない。SEやウェブデザイナー不足の現在でもこれは変わらない。

SEやウェブデザイナーは重労働で忍耐力が必要で、嫌な仕事も引き受け、クライアントの罵声にも耐え、同僚が脱落してもその穴を埋めるチームワーク良く働けることが必要だからだ。

資格や専門知識より経験が生きるのだ。

資格専門知識VS実務能力







出典:本書124ページ

IT企業の現場を経験した筆者には、この話はなるほどと納得できる。筆者はシステム関係の責任者だったことがあり、この時会社生活で初めて完徹(完全徹夜)をしたことがある。

ちょうど新システムスタート直前で、人手が足らずに、初級シスアド資格がある筆者も、商品データをひたすらインプットする作業を手伝ったのだ。

新システムスタート日は決まっており、まさに時間との闘いで、システムとマーケティング関係者の多くが完徹し、「人柱」状態だったが、このようなことがシステム開発ではありうるのだ。

SEやウェブデザイナーの資格を取ったら、面接では今までの仕事で、完徹のようながんばりを見せたことを強調すると面接で良い結果が出ると思う。これは筆者の私見だ。


英語で食っていくとしたらTOECI900点以上が必要

英語力も、外資系アドミはTOEIC900点以上、通関士は定型業務なので派遣で採用することが多いという。ちょっとぐらい英語ができるだけではダメなのだ。

英語で、丁々発止、外国人と交渉できるくらいの英語力がないと英語が出来るとはいえない。


成果主義の本当の意義

成果主義という箱モノの最大の効果は、給与は上がるものというそれまでの考えを、給与は上がったり下がったりするものと変えたことだという。これが人事制度変更の本当の意味だ。

これも正しい指摘だと思う。たしかに昔はボーナスは別として、給料は上がることしか考えられなかったが、今は業績次第で上がり下がりがあるという考え方が定着している。


キャリアは才能なんかじゃ決まらない

最後の「キャリアは才能なんかじゃ決まらない」も面白い。

人材育成の専門家の立場から、リーダーシップ論の変遷を論じている。

1950年代まで : 個性、能力、人格、知能などの個人の持って生まれたものを研究対象としていた。

1950年代 : 「グレートマンズ・セオリーの破綻」=持って生まれたものでなく、行動や価値観、マネージメントスタイルに注目し、特に「達成動機の高い人」を選抜すればグレートマンが多く誕生するという考えが広まる。

「達成動機の高い人」の見分け方の一例が、ロールシャッハテストだという。あのわけのわからないテストの目的が、「達成動機」だったとは初めて知った。

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出典:Wikipedia(以下同じ)

しかし「達成動機の高い人」を大量に採用しても、多くは脱落していったという。

そして、2000年前後に登場した説が、リーダーに種はない、特性が共通しているのではなく、経験が共通しているのだというマッコールが「ハイ・フライヤー」で主張した説だ。

ハイ・フライヤー―次世代リーダーの育成法ハイ・フライヤー―次世代リーダーの育成法
著者:モーガン マッコール
販売元:プレジデント社
発売日:2002-01
おすすめ度:4.0
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「ハイ・フライヤー」も読んだので、今度あらすじを紹介する。


江副さんの名言

海老原さんはリクルートの江副さんの言葉として次を紹介している。

「10代、20代で名を残す名アーティスト、名選手は多い。しかし、10代、20代で名を馳せた経営者はいない」

当たり前のことではあるが、この言葉の意味は深い。

マッコールは「マトリョーシカモデルの崩壊」と呼んでいる。つまりマトリョーシカの様に、リーダーは初めからリーダーとしての素質を持っているのではなく、リーダーは経験を通して育つものなのだ。だから誰でもリーダーになれる。

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海老原さんが直接取材した時に、マッコールはリーダーシップを獲得する条件として次を説明していたという。

1.経験に飛び込んでいく勇気がある人は、成長が早い。
2.経験から物事を学ぶ姿勢が出来ている人は、成長が早い。

それだけでは、当たり前ではないかと海老原さんが食い下がると、マッコールは次を個人的信条として付け加えたという。

3.失敗や間違いを認められる謙虚な姿勢が必要。


ビジネスパーソン勝利の法則

たとえば営業に配属され、内向的な性格のせいで最初のうちは同期に差を付けられても、やがてはその内向性を生かした分析力を生かした提案型営業として成功する可能性がある。

だから弱気、人見知り、くよくよ気にするという性格でも、反省・熟慮・進歩を経て、情報収集・分析・企画力を生かして実績をつくれば、提案型営業ができる。

内向きな性格を、経験と工夫でカバーして、営業のエースになれるのだ。

コンピテンシーと適性の違い






出典:本書153ページ

昔のイチローのニッサンのコマーシャルではないが、「変わらなきゃ」が出来る人は、どんどん自分を変えていけるのだ。


課長になればリストラされない

中間管理職は転職はできないが、課長になればリストラされることは多分ない。

海老原さんの結論は、「30歳を過ぎているあなたは、目の前の階段をゆっくり上っていくだけで、いいんです。むやみに横道にそれるのは、百害あって一利なしです。とりわけ、日本はその傾向が強いですよ。」ということだ。

そして年代別に次の能力を身につけていくのだ。

キャリアを考える上で大切なこと





出典:本書160ページ

最後に筆者も好きなアップルのスティーブ・ジョッブスのスタンフォードでの卒業式スピーチを引用して、夢を求め続けること、そして目の前のことを真剣に毎日やることを勧めている。



ジョッブスのスピーチの日本語訳と日本語字幕のビデオが載っているブログを見つけたので、日本語版は参照してほしい。

結論は「目の前の仕事を真剣に取り組め」、つまり「一所懸命」という当たり前なことだ。

たとえば三木谷さんも「成功のコンセプト」で同じ事を言っている。

成功のコンセプト (幻冬舎文庫)成功のコンセプト (幻冬舎文庫)
著者:三木谷 浩史
販売元:幻冬舎
発売日:2009-12
おすすめ度:4.5
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三木谷さんは、興銀(現みずほコーポレート銀行)に入社し、最初は外国為替部というルーティンワークの典型のような職場に配属された。しかしクサらず、一所懸命仕事をこなし、効率を上げる努力をしたことが評価され、MBA留学生に選ばれ、ハーバードで学んだ。


奇抜なタイトルだし、書きっぷりも軽妙だが、内容は濃い。

なぜ今の仕事に真剣に取り組むことが社内での昇進に繋がるのか、なぜ社内調整役割が日本の会社でのキャリアーディベロプメントで重要なのかよくわかる。

30代といわず、20代の社員にも自分の会社でのキャリアディベロプメントの道筋を客観的に見るという意味で、お薦めしたい本だ。


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