2010年11月29日

「0円」で億を稼ぐ あのベストセラー「Free」より先にゼロ円に注目した西川りゅうじんさんの本

「0円」で億を稼ぐ! 「タダ」よりすごいビジネスはない「0円」で億を稼ぐ! 「タダ」よりすごいビジネスはない
著者:西川 りゅうじん
マガジンハウス(2008-07-24)
販売元:Amazon.co.jp
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このブログでも紹介したアメリカのベストセラー「Free」より1年も先にゼロ円のビジネスモデルを提唱した天才マーケッター西川りゅうじんさんの本。

フリー~〈無料〉からお金を生みだす新戦略フリー~〈無料〉からお金を生みだす新戦略
著者:クリス・アンダーソン
日本放送出版協会(2009-11-21)
販売元:Amazon.co.jp
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先日、西川さんの講演を会社で聴いたが、大変わかりやすく、参考になる内容だった。

西川さんとは、内田朝陽君のお父さんが経営する店に30年間通い続けた仲だったことが最近わかったことは、以前書いた通りだ。

この本では消費者からはお金は取らないが、高品質の商品やサービスを提供し、広告や付随取引で利益を上げる様々なビジネスモデルを紹介している。


ゼロ円ビジネス

たとえばリクルートの「R25]や「L25」。配布される木曜日でさえ主要駅のスタンドには残っていない。普通の雑誌と変わらない記事の質と紙質の良さ。とても無料誌とは思えないクオリティの高さだ。

「R25」は配布数60万部。全体で約50ページのうち、半分が広告だが、広告と気づかせない記事中の広告が多く、編集の技法で広告を盛り込んでいる。

西川さんが関係者から聞いたところによると、R25は約20ページ分の広告で、5,000万円近く利益が上がるという。週刊だから1ヶ月で2億円を稼ぐゼロ円商売だ。

民放テレビもラジオも古くからあるゼロ円ビジネスの一つで、コマーシャルやインフォマーシャルといった広告収入で運営している。ゼロ円ビジネスに成功すると、みんなが得するビジネスモデルがつくれるという良い例だ。

ちなみに最近、寮委員の後輩の日テレの人と話す機会があったが、一時マス広告はダメだといわれて、テレビ局各社の収益が激減したことがあったが、今はテレビ広告の効果が見直され、いわゆる冠スポンサー枠は依然として悪いが、スポット広告枠は売れすぎで、枠がない状態だと言っていた。

特に携帯電話とケータイゲーム会社が積極的にテレビCMを打っており、飲料、車、食品、日用品などの従来からのナショナルスポンサーに加わってスポット広告枠の取り合いになっているのだと。

ゼロ円ビジネスは江戸時代からあり、三越の前身の三井越後屋は、「振る舞い傘」と呼ばれるのれんのマークを書いた傘を雨の日に客にタダで配っていた。

ゼロ円ならライバルに勝てるし、本来なら興味を示さない人も客にしてしまう。そしてさらに充実したサービスを求めようとする人が金を払う客になるのだ。

まさにモバゲー、グリーのビジネスモデルだ。テレビでさかんにCMをやっているモバゲーやグリーは「無料」であることを宣伝しているが、ゲームにハマり、より強い武器などが欲しくなると有料アイテムを買うようになり、それで大もうけしているという。


ゼロ円ビジネスの注意点

しかしタダ飯客だからといって、店側がぞんざいに扱うと、せっかくのビジネスモデルが台無しになる。西川さんは「タダ飯客をバカにするとゼロ円に泣く」と表現している。

たとえ最初はタダ飯でも、次からは上得意になる可能性があることを忘れてはならない。成功し続けている料亭の女将やクラブのママは、こういったところがしっかり出来ているのだと。

初めてのお客に対して「どなたのご紹介ですか?」と聞くのも忘れてはならない。

新しもの好き、移り気をネオフィリアというそうだが、人間もネオフィリア的な気質を持っている。ゼロ円だからといっても、新しい工夫が欠かせないのだ。


入りやすいショールーム

外国車のショールームは高いものを買わされると敬遠して、人があまり入っていない。しかし、ゆったりくつろげる空間を用意して、コーヒーや紅茶がすぐ飲め、入りやすい雰囲気をつくれば、近所の主婦が集まり、結果的に旦那に高い車を買わせられるのだ。

このショールーム接客法は、このブログでも紹介した現横浜市長の林文子さんの「一生懸命って素敵なこと」という本でも書いてあった。林さんはこの接客法と気配りでトップセールスになれたのだ。


バリュー、バリュー、バリュー

タダだからといって手を抜いてはいけない。タダだからこそ、バリューが大事なのだ。西川さんは「バリュー、バリュー、バリュー」と3回唱えろと言っている。

ビジネスの基本は、「失客」(離反客)を抑え、「留客」(継続客)を増やすことにつきる。リピーターを増やすのだ。だからゼロ円とはいえ、手を抜いてはならない。

西川さんは再春館製薬のドモホルンリンクルのサンプルを例に挙げている。たとえサンプルでも手を抜かないのだ。

「ブランド」とはBurntから来た言葉で、「焼き印」が元々の意味だという。ブランドは扱う人も含めて「燃えて」いなければならないし、フレッシュでなければならない。「オゴリ」と「マンネリ」は禁物だ。


りゅうじん式方程式「3つのワン」

先日の講演でもわかりやすく説明されていたが、西川さんはゼロ円で億を稼ぐりゅうじん流方程式を紹介している。それは「3つのワン」、つまり:

1.オンリーワン:ほかにはない核となる競争力を持つ
2.ワン・トゥ・ワン:一人一人の客を大切にする
3.ワンス・ア・デー:日々新たな気持ちで一日にひとつ変化を起こす

ゼロ円で億を稼ぐためには、常に気持ちをリセットして、新たな変化を起こさなければならない。ゼロ円ビジネスは感動ビジネスなのだ。

りゅうじん流方程式













出典:本書123ページ

ロングセラーのコカコーラもミッキーマウスもポカリスウェットもグリコもビスコも、変わらないようでいて常に変わっているのだと。

生物学者の福岡伸一青山学院大学教授のベストセラー「生物と無生物のあいだ」に出てくる「動的均衡」を思い出す。生物は外見上は同じに見えても、細胞はたえず入れ替わっているのだ。

西川さんはデパートなどでのドライフルーツの試食販売の知人の話を紹介している。その人の目標は、一人のお客に30種類以上ある商品全部を食べて貰うことだという。食べて貰いながら、それぞれの効能を説明すると、お客は恩に感じて、なにがしら買ってくれるのだと。ゼロ円ビジネスの一つのお手本である。


ゼロ円ビジネスモデル

ゼロ円ビジネスは大きく分けて次の3つのパターンに分類できる。

1.ギフト方式
2.グロス方式
3.3点方式(CMのスポンサーなど)

この本では、それぞれについて具体例を多く紹介しており、参考になる。

たとえばギフト方式は、マクドナルドの無料招待券や、サンプル・ラボの試供品、ドモホルンリンクルのサンプル。ユニチャームのおむつサンプルなどがある。

満足感を与え、リピート客を増やす戦略だ。

こんなモノがタダ!?という例では、北海道標津郡標津町では、契約から3年以内に建築を完了するという条件で、400-485平米の土地を無料で貸与している例を紹介している。

グロス方式では、任天堂のDSやWIIなどのゲーム機のゲームソフト無料ダウンロードや、映画の試写会、無料シャトルバス、マンガ喫茶のマンガ無料などを紹介している。

3点方式では広告ビジネスが代表的だ。グーグル、スカイプ、R25、青空文庫などインターネットサービスでは無料の方が多い。グーグルはインターネット広告モデルの筆頭。スカイプは全世界で3億人ユーザーがいるが、有料サービスを使っている10%の顧客からの収入で全体のビジネスを運営している。

昔の名作が無料でダウンロードできる青空文庫も無料サービスだ。トヨタ財団、マイクロソフト、アスキー、日立製作所、群馬インターネットなどの企業から助成金を得て活動している。

あのベストセラーになった「Free」より1年以上も前に「ゼロ円」ビジネスモデルの強さを紹介している。

さすが天才マーケッターの西川さんだ。読みやすく参考になる事例が満載の本である。


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2010年11月26日

ファーストクラスに乗る人のシンプルな習慣 3%のビジネスエリートとは

ファーストクラスに乗る人のシンプルな習慣ファーストクラスに乗る人のシンプルな習慣
著者:美月 あきこ
販売元:祥伝社
発売日:2009-12-01
おすすめ度:2.0
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日系と外資系の航空会社のキャビンアテンダント(CA=昔風に言うとスチューデス)を16年勤め、その経験を生かしてCA育成講座と法人向けサービス向上コンサルタントとして起業して成功している美月あきこさんの本。

CAの経験を生かして、元CAの社員を使ってCA育成講座と、サービスマナー講習をするというのは、美月さんの考えた「ブルーオーシャン戦略」なのだと語る。

美月さんはCA=Styleというサイトを運営している会社の社長だ。

CA-style







美月さんは、「たった1分でうちとけ、30分以上会話がつづく話し方」や「伸びる人、伸びない人が一瞬でわかる『見抜き力』」などの本を矢継ぎ早に出している。

たった1分でうちとけ、30分以上会話がつづく話し方―“初対面の女王”が明かすたった1分でうちとけ、30分以上会話がつづく話し方―“初対面の女王”が明かす
著者:美月 あきこ
販売元:ダイヤモンド社
発売日:2010-05-28
おすすめ度:3.0
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伸びる人、伸びない人が一瞬でわかる「見抜き力」伸びる人、伸びない人が一瞬でわかる「見抜き力」
著者:美月 あきこ
販売元:ベストセラーズ
発売日:2010-10-26
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筆者はファーストクラスというのは縁遠い世界と思っており、いままでアップグレードで数回乗ったことはあるが、特にファーストに乗りたいという強い気持ちはなかった。

しかしこの本で、「ファーストクラスに乗る人」という人種がいることがわかった。

たとえば東京ーニューヨーク往復運賃は、ファーストクラスは2百万円、ビジネスで80万円から90万円、プレミアムエコノミーと呼ばれる正規のエコノミーで60万円前後、エコノミーの格安だと10万円以下となっている。

こんな高い金を出してもファーストに乗る人は、疲れるのが当たり前の空間で逆に疲れを癒し、到着してすぐにフル活動できるからファーストに乗るのだという。時間と空間の質に注目するのがファーストクラスなのだと。

プライバシーが守られる特別な空間ということも重要だ。

ビジネスエリートのわずか3%の上場企業などの社長クラスや創業者たちが「ファーストクラスに乗る人たち」で、人口の2%といわれている日本の富裕層(資産1億円超)の数に近い。

この本ではファーストクラスに乗る、いわば日本の上流階級の人たちを美月さんが観察し、共通項として見られる習慣を紹介している。

いくつか紹介すると、それは次のようなものだ:

1.寸暇を惜しんで仕事をする人はファーストクラスにはいない。

2.メモをどんどん取る アイデアと感動をフリーズドライにする。

3.健康管理に常に気を配っている 頭がリフレッシュされた朝に頭を使う。

4.ファーストクラスの人は読書家ばかり 
これは筆者もわが意を得たりと感じる。通勤電車の中で、本を読んでいる人のなんと少ないことだろう。本を読むことで、あなたは「その他大勢」から脱却できる。

5.ファーストクラスは他人に気遣いができる人たちの空間。ありがとうの一言で周りを巻き込む。

6.わかりやすい言葉でわかりやすい言い回しをする。

7.ファーストクラスの人は声が良い 良い声を出すにはまず良い姿勢。

8.オウム返し、聞いたことを繰り返すだけで会話は続く。

9.ファーストクラスの人はオープンエンドでなく、掘り下げる質問をする。

10.ファーストクラスの人は沈黙の使い方もうまい。最初に一瞬の沈黙を入れてひきつける。

11.ファーストクラスではルールを守って人脈をつくる。

そして美月さんは「注文の多いエコノミー、ビジネス。手間のかからないファースト」というふうにまとめている。


ファーストクラスの人は姿勢がいい

この本で一番印象に残ったことが、姿勢がいいという指摘だ。筆者は家内からいつも姿勢が悪いといわれ続けている。

いままであまり意識したことがなく、ついダラッとした姿勢になってしまうが、たしかに美月さんの言うとおり、姿勢によって声とか、ひいては自信にもつながってくるのかもしれない。


目標を紙に書き、強く意識することが成功の秘訣

エール大学では次のような質問を卒業生にしているという。

1.あなたは目標を設定していますか?
2.目標を書きとめていますか?
3.最終目標を達成するために計画がありますか?

20年後に追跡調査をしたところ、3つの質問にすべてYesと答えた学生は全体の3%だったにもかかわらず、卒業生の総資産額の90%はこの3%の人が保有していたという。

この数字と、ビジネスエリートでファーストクラスに乗る人の比率、日本の富裕層の比率がすべて3%で一致する。


自分には縁遠い世界といままで思っていたが、ファーストクラスという特権空間が、それなりに存在価値があり、そこで自然な形で人脈をつくるのもアリだと思った。

200ページ強の本で簡単によめて、参考になった。


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2010年11月23日

ヨンピョン島砲撃発生!知らないと恥をかく世界の大問題 2009年池上解説

2010年11月23日追記:

昨日ブログに、北朝鮮と韓国の停戦ラインが海上でははっきりしていないと書いたばかりだが、本日北朝鮮が韓国のヨンピョン島を砲撃した。



まるで予期していたようなタイミングだ。

局地的な紛争で終わると思うが、挑戦半島が依然として「停戦」状態にある、つまり「終戦」ではないことを思いしらされる事件である。


2010年11月22日初掲:

知らないと恥をかく世界の大問題 (角川SSC新書)知らないと恥をかく世界の大問題 (角川SSC新書)
著者:池上 彰
角川SSコミュニケーションズ(2009-11)
販売元:Amazon.co.jp
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テレビの「池上解説」で大人気の池上彰さんの本。

池上さんの解説本はいくつか読んだが、大変わかりやすい。

テレビでもよく「池上解説」を見るが、最近のもので一番参考になったのは、北朝鮮による韓国警備艇の沈没事件で、北と南の停戦ラインは陸上は38度線できっちり決められているが、海上では双方の主張がかみ合わず、停戦ラインがはっきりしていないという話だ。なるほどと思う。

ハルバースタムの朝鮮戦争を扱った「ザ・コールデスト・ウィンター」のあらすじを近々紹介する。日本では朝鮮戦争はいわば忘れられた戦争だが、朝鮮半島ではいまだに朝鮮戦争の残渣(ざんさ)が残っていることを池上解説で初めて知った。

ザ・コールデスト・ウインター 朝鮮戦争 上ザ・コールデスト・ウインター 朝鮮戦争 上
著者:ディヴィッド・ハルバースタム
文藝春秋(2009-10-14)
販売元:Amazon.co.jp
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この本は2009年10月の発行で、2008年のサブプライム問題から、リーマン破綻、FRBバーナンキ議長の舵取り、「第2のフーバー」と呼ばれるブッシュ前大統領など、世界と日本の話題を多く取り上げて、わかりやすく解説している。

いくつか参考になった点を紹介しておく。

★インドでIT産業が発達したのは、新しい産業でカースト制度の縛りがないから。能力さえあれば、ITの仕事に就ける、まさに”インディアンドリーム”だと。それと英語が共通語で、アメリカと昼夜が逆なためアウトソーシングが受けやすかった。

★フランスのサルコジ大統領は、地中海沿岸諸国だけで「地中海連合」をつくろうとした。北アフリカから安い労働力を使って低コストで生産し、雇用拡大することによってEUへの移民流入を防ぎ、資源も確保するという戦略だった。しかしドイツのメルケル首相が口をはさみ、ドイツも加わった。目的の一つは地中海の海洋汚染の除去で、これにはフランスの世界的な水道会社が強みを発揮する。

★コーランに出てくる「ジハード」とはそもそも「努力する」という意味で、「ジハードで亡くなった者は、アラーのもとで暮らしている」と書いてある。イスラム世界に攻めてくる異教徒と戦うことも「ジハード」とされ、異教徒と戦って死ねば天国に行けるという発想になった。

★ウィグル族はトルコ系の民族で、イスラム教徒で、文字はアラビア文字を使う。1933年には一時「東トルキスタン・イスラム共和国」が建設されたこともあり、漢民族の中国政府がウィグル人を弾圧すると、イスラム系のテロを引き起こ可能性もある。

★イランはアメリカのイラク侵攻を見て、「イラクがアメリカから攻撃されたのは、イラクが核兵器を持っていなかったからだ。核兵器を持っていれば、アメリカも報復を恐れて攻撃できないだろう」と考えて、核兵器製造を視野に入れているのではないか。

★今のような「農作業=仕事をしなければお金をあげます」という減反政策をやめて、つくりたいものをつくり、大量に農産物を生産して価格が下がったら、国が一定の補償をするという制度にすべき。ヨーロッパはこの方法で自給率を上げた。

ちょうど民主党が政権交代を果たした直後だったので、民主党政権に対する期待が込められている解説が多い。

簡単に読めて参考になる本だった。池上さんの最新作も読んでみようという気にさせる本だ。


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2010年11月21日

日本開国 日米中関係の原点はアヘン戦争と日本開国

2010年11月21日追記:

京都大学教授で国際政治学、インテリジェンス史が専門の中西輝政さんの「アメリカの不運、日本の不幸」という最近の本を読んでいたら、渡辺惣樹さんの本が引用されていた。

アメリカの不運、日本の不幸―民意と政権交代が国を滅ぼすアメリカの不運、日本の不幸―民意と政権交代が国を滅ぼす
著者:中西 輝政
幻冬舎(2010-07)
販売元:Amazon.co.jp
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ペリーは「アメリカの国策を一人で背負っていると自認する特殊なパーソナリティの持ち主」で、政権と議会を説得して予算を獲得、「日本遠征計画」を実行した。

各州がバラバラで分裂しそうな「アメリカを一つにする唯一の方法」と考えて、わざわざバージニアから喜望峰、インド洋を通って日本に来航したのだと。

「日本の港で捕鯨船の便宜を得るため」は予算を認めさせる方便にしかすぎず、北米大陸外に発展していくことによって、他国との対抗上アメリカが一つにまとまらざるを得なくなることをペリーは狙っていたのだと。

渡辺さんの主張を紹介するとともに、1848年のカリフォルニアの金鉱発見で、各州が独立国家だとカリフォルニア州の金鉱を取りに行けなくなるからという理由でアメリカの各州は一つにまとまったのだと中西さんは説明する。

中西さんの「アメリカの不運、日本の不幸」は、学者の書いた本としてはありえないほど論拠・引用の出典明記がないが、その中で渡辺さんの本はしっかり論拠として挙げられている。

ちなみに以下にも紹介してるとおり、渡辺さんは市井の研究者だが、渡辺さんの本は本文230ページ、注・論拠資料・参考文献紹介30ページという論文にしても良いくらいの構成だ。

それに対して、中西さんの「アメリカの不運、日本の不幸」は重要な点を赤でハイライトしている2色刷りの学習参考書のような体裁で、論拠・引用紹介・参考文献はほぼゼロである。どっちが学者なのかわからない。


2010年5月8日初掲:

日本開国 (アメリカがペリー艦隊を派遣した本当の理由)日本開国 (アメリカがペリー艦隊を派遣した本当の理由)
著者:渡辺惣樹
販売元:草思社
発売日:2009-11-25
おすすめ度:5.0
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カナダ在住の友人が本を出したので読んでみた。

筆者の渡辺惣樹(そうき)さんは、JTに入ったあとに留学し、会社をやめてカナダで貿易会社を創業、現在もカナダ在住だ。

渡辺さんは大学時代は写真部員だった。

ひょんなことから筆者は写真部の連中を、俳優の内田朝陽君のご両親がやっている原宿にあったスナックに招待したことがある。それが知り合ったきっかけだ。


偶然が偶然を呼ぶ出会い

ちょっとありえない話なので、この辺の経緯を説明しておく。

筆者は大学3年のときに内田朝陽君のご両親と、夏の暑い盛りに西伊豆の戸田のビーチで偶然知り合った。これもまたありえないきっかけなのだが、これはまた別の機会に紹介する。

その後当時神宮前に住んでおられた内田さんご夫妻を、神宮球場で行われた秋の東京六大学野球の開幕戦に招待したら、東大が明治に2連勝して、なんと勝ち点を挙げたのだ。

筆者が大学3年生だったと思うので、昭和49年(1974年)のことだと思う。

当時の明治の野球部監督の島岡御大は、さぞかし激怒したことだろう。星野さんの「星野流」という本でも紹介されていたように、島岡さんは何かあると「グラウンドの神様」におわびしていたそうなので、たぶん部員全員と島岡監督で「グラウンドの神様」に土下座しておわびをしたのではないかと思う。

もっとも、それ以来、東大は明治には勝てず、92連敗して、次に勝ったのは1999年だった。

閑話休題。

その試合を応援していた内田さんと当時飼っていた犬の写真が、筆者の大学の卒業アルバムに神宮の試合のスナップ写真の一つとして載った。

内田さんの犬はその後知人の家に預けることになったため、なつかしいので是非写真を焼き増ししたいということになり、筆者が卒業アルバムをつくっている写真部に話をつないだ。

写真部の連中はこころよくOKしてくれ、ネガを借りたお礼に内田さんのお店に招待したという訳だ。

その後筆者はアルゼンチンに2年間研修で行って、日本にはいなかった。

帰国したら内田さんのお店が今の六本木ヒルズのある六本木6丁目に移っていて、写真部の連中が入り浸り、常連の作曲家の猪俣公章先生の子分(虫)となっていたのには面食らった。

現在は六本木1丁目にある内田さんのお店で、時々彼らと出会うことがある。筆者は内田さんとは35年以上のつきあいで、写真部の連中も内田さんとは33年以上のつきあいである。

そのグループの一人が渡辺さんだ。渡辺さんはカナダ産品等の貿易商社を経営しているので、六本木の内田さんのお店にはカナダ産の建築資材が使われている。入口にある巨木の柱は日本の建築家にも高く評価されている銘木ということだ。

渡辺さんは今はカナダ在住で、時々は日本に出張で来ているらしい。久しくお会いしていないので、この本を読んで旧交を温める思いだ。


日本開国前後のエピソード集

この本はペリーが結んだ1854年の日米和親条約、ハリスが結んだ1858年の日米修好通商条約による開国前後の日本、アメリカ、中国などの動きを、ペリー提督タウンゼント・ハリスペリーの娘婿オーガスト・ベルモント、ロスチャイルド家のアメリカの代理人アーロン・パーマー、ラッセル商会関係者など歴史上有名な人物のエピソードをちりばめる形で描いている。

モザイク画のような手法なので、渡辺さんはスーラの画法と表現しているが、まさに言い得て妙である。

Georges_Seurat_-_Un_dimanche_aprè





出典: Wikipedia

ちなみに、上記のスーラの絵は米国シカゴ美術館に所蔵されている。シカゴにはよく行っていたので、米国駐在中に見ておくべきだったと反省している。


この本は日本開国を多角的な視点で描いた物語で、注記も多く、いわば私設ウィキペディアの様な本だ。

ただウィキペディアと違って、リンクでなく巻末注記なので、いちいちページをめくって注を読まなければならない。ウェブ版にして資料がすぐにリンクで参照できるようにしたら、渡辺さんの博覧強記なところが一目瞭然にわかって、もっと良かったと思う。


渡辺さんはハリスゆかりの静岡県下田市出身

渡辺さんは静岡県下田市出身。子どもの頃から黒船祭や、初代米国領事館のあった下田玉泉寺などに慣れ親しみ、トレーダー出身で本職の外交官ではなかったタウンゼント・ハリスが、なぜ日本に初代領事として派遣されたかの謎を中心に、この物語を描いている。

ハリスについては、このブログで紹介した「大君の通貨」で、当時の日本の金銀為替レートを利用して利殖を謀ったことが描かれている。

大君の通貨―幕末「円ドル」戦争 (文春文庫)大君の通貨―幕末「円ドル」戦争 (文春文庫)
著者:佐藤 雅美
販売元:文藝春秋
発売日:2003-03
おすすめ度:4.5
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この本の主役アーロン・パーマー

この本でタウンゼント・ハリスが登場するのはほんの10ページ余りで、ハリスは脇役だ。

米国がペリーによる黒船外交で圧倒的な戦力を示して日本を無理やり開国させながら、後の交渉はノンキャリのセミプロ外交官に任せたのは、”プレイボーイが一旦籠絡した相手には途端に興味を失う”という様子を見ているようだと渡辺さんは独特の表現をしている。

セミプロ外交官のハリスがなぜ派遣されたのか?それがずっと違和感となって渡辺さんの心に残っていた。そのことが、この本の研究に結びついたのだという。

この本の主役の一人は、アーロン・パーマーという「アメリカ合衆国最高裁判所カウンセラー」の肩書きを持つ弁護士で、ロスチャイルド家の米国代理人だ。

彼が、ロビイストとして1849年に起草した「改訂日本開国提案書」が、その後の米国のペリー艦隊派遣等の外交政策の基礎となった。

この歴史的に第一級の資料である提案書は、実はアマゾンでペーパーバックとして売られている。

Documents and Facts Illustrating the Origin of the Mission to Japan: Authorized by Government of theDocuments and Facts Illustrating the Origin of the Mission to Japan: Authorized by Government of the
著者:Aaron Haight Palmer
販売元:BiblioLife
発売日:2009-07
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アメリカ政府はパーマー提案に従って、ペリーを日本に2度派遣し、日本を開国させた。

その表向きの理由は、当時世界的ナンバーワンだった米国の捕鯨船の寄港を認めさせるというものだったが、真の理由は米国と中国(当時は清)を結ぶ太平洋ハイウェイ(シーレーン)構想があったためだと渡辺さんは語る。

日本は開国することによって、アメリカの太平洋ハイウェイ構想の一角をになうので、繁栄につながる。それゆえ「日本は東洋の一等国(東洋におけるイギリス)に変貌できるのだ」とパーマーは書いている。


アメリカの版図拡大(マニフェスト・デスティニー

アメリカの版図は、はじめから大西洋・太平洋の両方に面していたわけではない。この本で紹介されているアメリカの領土図が、大変興味深い。

USA territory




出典:本書12−13ページ

日本に開国させた当時のアメリカは、テキサス、オレゴンテリトリー、カリフォルニアなどを獲得して、1849年のゴールドラッシュで急速に西海岸地区の開発がはじまり、西海岸の延長線上にあるアジアにも注目しだしたところだった。

パナマ運河の開通は1914年だが、1855年に開通したパナマ地峡鉄道を利用することによりアメリカ東海岸の世界へのアクセスは飛躍的に向上した。たとえば次のような具合だ。

★ケープ岬経由
 イギリス −   サンフランシスコ 13,624マイル
 ニューヨーク − サンフランシスコ 14,194マイル

★パナマ経由
 イギリス −   サンフランシスコ  7,502マイル
 ニューヨーク − サンフランシスコ  4,992マイル

捕鯨業者の保護もさることながら、アメリカから中国・アジアに行く航路の安全と、整備はアメリカの西海岸の経済発展には不可欠だった。

マニフェスト・デスティニーの旗印のもと、西部開拓を推進したアメリかは、西部開拓が終わった後の発展は、西海岸からハワイ、さらにアジアへの展開だったのだ(それゆえハワイ王国はアメリカに1898年に併合された)。


歴史を織り成すもう一本の糸はアヘン貿易

渡辺さんは、日本海国とその後の日米中関係の背景となっているのは、アヘン貿易だと語る。

アヘン戦争は、中国からの茶の輸入増大により、対中大幅貿易赤字となった英国が、茶の代金を調達するために、インドで生産した劣悪なアヘンを中国に売りつけて、莫大な利益を得たことに抗議して、武力に訴えた清を英国がなんなく破った戦いだ。

そしてアヘン戦争には、英国系のジャーディン・マセソンなどのトレーダーのほか、アメリカのトレーダーであるラッセル商会が深くかかわっていた。

「ラッセル商会は19世紀最大の犯罪組織であり、世界的なドラッグディーラーだったのだ」とアメリカの歴史家ジョージ・ファイファーは指摘しているという。

Breaking Open Japan: Commodore Perry, Lord Abe, and American Imperialism in 1853Breaking Open Japan: Commodore Perry, Lord Abe, and American Imperialism in 1853
著者:George Feifer
販売元:Smithsonian
発売日:2006-10-01
クチコミを見る

ラッセル商会のパートナーのウォーレン・デラノは、フランクリン・デラノ・ルーズベルト(FDR)大統領の祖父だ。

ラッセル商会のパートナーのウィリアム・ハンティントン・ラッセルは、タフト大統領の父のアルフォンソ・タフトと一緒にエール大学出身者の秘密親睦組織スカルアンドボーンズを創設した。

ブッシュ前大統領父子もスカルアンドボーンズの会員だ。

ラッセル商会のパートナーたちはアメリカの外交に大きな影響力を持つアメリカ外交問題評議会(CFR)の設立にもかかわり、アメリカの教育と外交に大きく影響を与えたという。

渡辺さんは、アメリカのリーダーには「中国にはアヘン戦争の借り」があり、「日本には開国の貸し」があるという深層心理があるという。

最近ではアメリカの外交戦略に大きな影響を与えているカーライルグループに着目する見方があるが、19世紀のラッセル商会の影響力に着目するというのはユニークな着想である。


その他参考になった点を下記する。

★第11代将軍の家斉の娘溶姫を加賀前田家に嫁がせた時に、前田家の迎え入れのために作ったのが、東大の赤門だ。東大経済学部出身の渡辺さんだけに赤門の由来を織り込んでいる。

シーボルト事件のシーボルトの記念館シボルト・ハウスが、オランダのライデンにあり、渡辺さんは訪問したことがあるという。

★鯨は当時「泳ぐ石油」と言われ、19世紀ではアメリカが世界ナンバーワンの捕鯨大国だった。1846年には捕鯨船は722,水揚げは1千百万ドル、現在の価値で51億ドルだったという。」

★トリニーダード島のピッチから灯油を抽出する技術がアブラハム・ゲスナーにより1850年に発明されてから、鯨油の価格は下がり最高リッター47セントだったのが、1865年は16セント、1895年には2セントにまで下がった。捕鯨船の数も1876年には39隻に激減したという。

筆者の住んでいたピッツバーグの北に、車で1時間強行くと、アメリカで最初に石油が発見されたドレーク油田地帯がある。

元々アンドリュー・カーネギーがつくったサイクロップスという特殊鋼メーカーが、この油田地帯の真ん中のTitusvilleにあり、この会社は19世紀からロックフェラーの石油パイプラインにパイプを供給していたのだ。

筆者は何度もサイクロップスを訪問したことがある。この本で鯨油から石油へのエネルギー転換の話を知り、興味深かった。

★オランダは1794年末にフランスの侵攻を受け、それから1815年までフランスの衛星国となっていた。しかし出島のオランダ館長は徳川幕府には秘密にしていたという。


情報が盛りだくさんなので、もうすこし出し惜しみした方が本としての完成度は上がったような気がするが、それにしても渡辺さんの開国関連の歴史の造詣と、博覧強記ぶりはすばらしい。

米国在住の日本史研究者が日本のみならず、米国や他の国の資料を基にして、貴重な歴史書を書くケースは、たとえばこのブログでも紹介した「暗闘」などの例がある。

世界史の中での日本史を書くためには、渡辺さんのような地道な研究が重要なのだということがよくわかる好書である。


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2010年11月20日

祝! ミッションコンプリート! はやぶさの大冒険 山根一眞さんのレポート

2010年11月20日追記

はやぶさのイオンエンジンを開発したNECが特別サイトで、はやぶさに関する情報を公開している。

NEC hayabusa







その中にはイオンエンジンの写真もある。

ion engine3










ion engine







ion engine2





出典:いずれもNEC チーム「はやぶさ」の挑戦 原出典:JAXA

NECの企業広告サイトだが、NHKの「プロジェクト X」のような仕立てで、参考になる話がいくつも紹介されているので、はやぶさについて詳しく知りたい人はNECの特設サイトをチェックすることをおすすめする。


2010年11月17日追記

先週山根一眞さんの「はやぶさの大冒険」のあらすじを掲載したが、はやぶさが持ち帰った粒子はイトカワのものであることが判明した。

イトカワ微粒子






出典:JAXA

JAXAは11月16日に記者会見し、この本でもいつも冷静と紹介されている責任者の川口さんが大変感激しているのが印象的だった。

打ち上げ当初、すべて成功したら「500点満点」と発言したことが引用され、「500点満点の成果」と報道されている

500点満点というのは聞いたことがないが、いずれにしても”mission complete"であることは間違いない。

以下のあらすじでも紹介している通り、、「東京から2万キロ離れたブラジルのサンパウロの空を飛んでいる体長5ミリの虫に弾丸を命中させるようなもの」で、なおかつイトカワの粒子を無事持ち帰ったことは、たしかに500点満点といってもよいと思う。

山根さんの本もアマゾンの売り上げランキングで、なんと72位に入っている。はやぶさ関係の本がいくつも出ている中で、ダントツの人気だ。

やはり7年間もかけてしっかりと取材した本は他とは違うことが、手に取ってみると消費者にもわかるのだろう。

イトカワ粒子確認を祝って、山根さんの本のあらすじを再度掲載する。


2010年11月12日初掲:

小惑星探査機 はやぶさの大冒険小惑星探査機 はやぶさの大冒険
著者:山根 一眞
マガジンハウス(2010-07-29)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る

メタルカラーの時代などの作品で知られるノンフィクションライターの山根一眞(かずま)さんが、小惑星探査衛星のはやぶさを打ち上げ前からフォローして書いたレポート。

メタルカラーの時代〈1〉 (小学館文庫)メタルカラーの時代〈1〉 (小学館文庫)
著者:山根 一眞
小学館(1997-12)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る

はやぶさが7年間の宇宙飛行を終えて地球に帰還して、一躍注目され、いくつか本が出版されたが、その中でも打ち上げ前からフォローしている山根さんの本は際立っている。

この本を読むとはやぶさ(工学実験探査機)がどうして構想されたか、その目的は何か、はやぶさの構造、そしてはやぶさの7年間の飛行などがわかる。JAXAのホームページではやぶさの写真やイトカワの写真が紹介されているので、是非チェックしてほしい。

はやぶさの宇宙旅行の要点を整理しておく:

★はやぶさの目的:約46億年前に出来たといわれている太陽系の起源を知るため。

大きな惑星では太陽系が出来た頃の物質は中心に集まり、高温にさらされ変成している。また物理的に取り出せないので、できるだけ小さい小惑星の地表の物質を分析することを狙った。

★はやぶさが目ざした小惑星は、日本の宇宙工学の父、糸川英夫博士にちなんで「イトカワ」と命名された。イトカワは直径500メートルのラッコのような形状をした小惑星だ。小惑星は約27万個が発見されている。小惑星の直径は最大900キロメートルから、イトカワのような数百メートルのものまである。

★テレビチャンピオンのラーメン王の佐々木晶現国立天文台教授は、隕石研究家で、はやぶさチームの関係者だった。

ラーメンを味わいつくす (光文社新書)ラーメンを味わいつくす (光文社新書)
著者:佐々木 晶
光文社(2002-01)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る

★糸川英夫博士は戦前、陸軍戦闘機「隼」の開発にも従事したので、それゆえ探査機は「はやぶさ」と命名されたという。

Nakajima_Ki-43-IIa




出典:以下、別注ない限りWikipedia

★小惑星は時速10万キロで太陽の周りを周回しており、それに着陸するためには、はやぶさも2年間掛けて時速10万キロにする必要がある。

★はやぶさを小惑星に着陸させるのは、「東京から2万キロ離れたブラジルのサンパウロの空を飛んでいる体長5ミリの虫に弾丸を命中させるようなもの」だという。

★はやぶさと交信するのは、長野県佐久市にある臼田宇宙空間観測所の直径64メートル、重量1,980トンという巨大なパラボラアンテナだ。世界で6番目に大きいパラボラアンテナだという。このアンテナは元々ハレー彗星を観測することを想定して建設された。

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★イトカワに近づくとはやぶさとの通信は片道16分かかり、しかもイオンエンジン点火中は、通信速度が8bpsしかないので、はやぶさは自分で位置や速度を測り、自律的に飛行する機能が織り込まれている。これははやぶさの先行機、火星探査機「のぞみ」で通信が途絶えて失敗した経験に基づくものだ。

★はやぶさの主動力は直径15センチくらいの大きさのイオンエンジン。2.6KW(地球の位置の出力)の太陽パネルで電気を起こし、キセノンガスを燃料にする。キセノンガスに電子レンジと同じマイクロ波を照射してキセノンイオンを発生させる。

構造は次の図の通りだ。キセノンイオンがマイナス電極に当たると、電極がすぐに消耗してしまうので、イオンの中和器で電極の消耗を防ぐ技術がノウハウだ。

イオンエンジン












出典:本書58ページ

★キセノンイオンの放出エネルギーの反作用で推力が得られるが、イオンエンジンの推力は1グラム程度。わずか1円玉の重さだ。宇宙の真空だから有効となる動力源だ。

★はやぶさを太陽の周回軌道に乗せるためには、地球のそばを通過して、地球の引力を利用するスウィングバイを利用した。これは惑星探査機ボイジャーなどが使ってきた加速法だ。

★007のゴールデンアイにも登場したプエルトリコにある世界最大のパラボラアンテナで、直径305メートルのアレシボ天文台がイトカワの観測データを提供してくれた。

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★はやぶさには、何か異常があったときは、パソコンのように「セーフホールドモード」という観測を中断し、探査機の安全を守る機能がある。

★小惑星のサンプル回収はイトカワを小惑星に接近させ、サンプルホーンだけ接地させて、弾を撃ち込み、舞い上がったかけらを回収する方法だった。

800px-Hayabusa_hover






★はやぶさの動力はイオンエンジンだが、姿勢を保つには3つのリアクションホイールという円盤を回転させて、その遠心力を使う動力と、12基の化学推進エンジンという化学反応で姿勢を変えたり、微調整を行う動力がある。

★はやぶさは2005年11月にイトカワに接地したが、その直後通信が途絶えたので、イトカワに30分も接地したままでいた。「セーフモード」になっていたため、サンプルホーンから実際には金属弾が発射されず、接地で舞い上がったかけらを吸い込んで回収できたかどうか現在解析中だ。

★はやぶさの帰還途上で、燃料モレが発見され、化学推進エンジンは燃料切れで使えなくなり、通信も46日間途絶えた。3基のリアクションホィールのうち1基しか動かず、化学推進エンジンもなかった。イオンエンジンも次第に調子が悪くなり、最後は1基しか動かなくなった。イオンエンジンを使うと燃料切れが心配となるので、太陽の輻射圧を利用してはやぶさの姿勢を変えた。苦肉の策だ。

★それでもはやぶさはイオンエンジン1基という満身創痍の状態でなんとか地球の大気圏に再突入し、予定通りオーストラリア西部のウーメラの砂漠地帯でイトカワのちりを回収したはずのカプセルで地球に帰還した。

山根一眞さんはウーメラ砂漠まで行ってはやぶさから回収したカプセルも見ている。

はやぶさを打ち上げ前から7年間にわたって取材してきたジャーナリストらしく、有終の美というところだ。

はやぶさ関係は他にも本が出ているが、7年間という歳月をかけた取材なだけに、レポーターの山根さん自身が理解して書いているので、技術的な説明もしろうとにわかりやすい。


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2010年11月19日

カイト・ランナー 全米ベストセラーのアフガン・アメリカン小説

カイト・ランナーカイト・ランナー
著者:カーレド ホッセイニ
アーティストハウスパブリッシャーズ(2006-03)
販売元:Amazon.co.jp
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1980年に家族と一緒に15歳でアフガニスタンからアメリカに亡命し、カリフォルニア大学サンフランシスコ分校(UCSF=医学部)を卒業し、現在医者としても活躍中のアフガン系アメリカ人、カーレド・ホッッセイニの2003年のデビュー作。

ハヤカワ文庫から出ている「君のためなら千回でも」という本も同じもので、文庫版が出たときに、この小説の中の有名なセリフを本のタイトルとしたものだ。

君のためなら千回でも(上巻) (ハヤカワepi文庫)君のためなら千回でも(上巻) (ハヤカワepi文庫)
著者:カーレド・ホッセイニ
早川書房(2007-12-19)
販売元:Amazon.co.jp
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売り出されてニューヨークタイムズのベストセラーリストに64週間もランクインし、全部で800万部を売り上げるベストセラーになったという。

たしか佐々木俊尚さんの本で絶賛されていたので、読んでみた。

非常に面白い小説だった。

映画化もされている。

君のためなら千回でも [DVD]君のためなら千回でも [DVD]
出演:ハリド・アブダラ
パラマウント ホーム エンタテインメント ジャパン(2010-02-26)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る




この映画の予告編で全体のストーリーがざっと紹介されているので、是非見て欲しい。

例によって小説のあらすじは詳しく紹介しないが、これはアフガン・アメリカンの小説であり、アフガン小説ではない。

つまりアフガニスタンを舞台にしたアメリカ映画であって、1979年のソ連軍のアフガニスタン侵攻や、ソ連軍撤退後にアフガニスタンの実権を握ってやりたい放題のイスラム原理主義政治を行ったタリバンのことを描いた映画ではない。

そういった出来事は、単に時代的背景であり、いかにもアメリカ人が好みそうな、ハラハラ・ドキドキのサスペンスや、どんでん返しがあって、エンターテイメント作品として秀逸である。

ストーリーはアフガニスタン生まれの主人公アミールが、下男の息子ハッサンと兄弟同様に育つが、凧合戦の時にパシュトゥーン人とドイツ人の混血児のガキ大将に目を付けられてハッサンが襲われ、アミールは見て見ぬふりをしてしまう。

アフガニスタン人の多数を占めるパシュトゥーン人と、下男はハザラ人という人種的な対立や、パシュトゥーン人はスンニ派、ハザラ人はシーア派というイスラム宗派の違いもある。

それからはアミールは、ハッサンとは気まずくなり、結局ハッサンの家族はアミールの家を出て行く。

1979年のソ連のアフガニスタン侵攻とともに、アミールは父親と一緒にアメリカに亡命する。

アメリカで小説家となり、成功しはじめたアミールの元にパキスタンの知人から電話が入り、呼ばれてパキスタンに行くと、そこでハッサンがタリバンに殺され、一人息子のソーラブが孤児となったことを知らされる。

ハッサンに負い目があるアミールはアフガン入りすることを決意。そこからアメリカ人好みのアドベンチャーが始まる。

筆者はアフガニスタンは行ったことがないが、イランには仕事で2回行き、テヘラン、古都イスファファン、港町バンダルアッバスを訪問した。

筆者はペルシャ語の簡単な挨拶は覚えている。「神のご加護を!」という意味の「インシャラー」は中近東各国で同じなので、それはいいとして、英語の"How are you?"にあたる「ハリ・ショマ・フベー」がペルシャ語でもパシュトゥーン語でも同じなのに驚いた。

パシュトゥーン人とペルシャ人は人種的・言語的に共通するものが多いようだ。

筆者がイランを訪問したときは、1983年頃で、ちょうどイランーイラク戦争の時だった。ソ連軍がアフガニスタンで戦っていた時期でもある。

ソ連はミル24ヘリコプターなど、最新兵器をアフガニスタンに持ち込んだ。

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出典:以下別注ない限りWikipedia

映画ランボーで出てくるヘリコプターだ。



ムジャヒディン達は、軽武装ながらも、アメリカから援助されたスティンガーミサイルのおかげで、多数のミル24を打ち落とし、結局ソ連軍は安心してヘリコプターや飛行機を飛ばすことすらできなくなった。

800px-FIM-92_Stinger_USMC





結局ソ連は撤退し、ムジャヒディン達は勝利を収める。

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勝ち誇ったムジャヒディン達は、今度はアメリカから援助された武器を使って、アフガニスタンの住民を支配し、さらにオサマ・ビン・ラディンの率いるアルカイダは、アメリカに対して9.11テロ攻撃を仕掛ける。

そのタリバンが制圧するアフガニスタンが、この小説の後半部分の背景だ。

全体を通して凧(カイト)がアクセントになっている。

よくできた小説だと思う。是非どちらかの本を手にとってみることをおすすめする。


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2010年11月18日

アフガン零年 「カイトランナー」を理解するために見たアフガン映画

アフガン零年 [DVD]アフガン零年 [DVD]
アップリンク(2004-11-26)
販売元:Amazon.co.jp
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2004年ゴールデングローブ賞外国語映画賞、他、カンヌ、ロンドン、モントリオール、釜山などの映画祭で入賞したアフガニスタン映画の名作。

日本のNHKエンタープライズが制作に参加しているアフガニスタンー日本ーアイルランド合作映画だ。



今度紹介するアフガニスタン出身のカーレド・ホッセイニ著の「カイト・ランナー」という小説を読んだので、アフガニスタンをさらに理解するために図書館で借りて見た。

「カイト・ランナー」は映画にもなっている。



映画のあらすじは詳しく紹介しない主義だが、この映画はアメリカ軍に追い出される前のタリバン政権の時代に、父も兄も戦争で失った女だけの家族が、女だけでは外出して仕事に行けないので、12歳の娘の髪を切り男装させて看護士の母親の送り迎えをするという話から始まる。

そのうち男装している娘は、タリバンに強制的に学校に連れて行かれ、男の子としてコーランの勉強を続ける。

学校では授業の一環として先生が生徒に正しい風呂の入り方を教える。

その場では、何とか女の子であることはバレなかったが、あることから女の子であることが分かり、タリバンに宗教裁判に掛けられる。

姦通罪などの罪人が石打ちの刑に処せられる中で、あやういところで少女はタリバンの学校の先生に救われる。

最後はこの先生が湯気をもうもうと立てて風呂に入るところで終わる。

いくつもの伏線を置いて、それが最後に絡んでくる印象的で優れた映画だ。

この映画に出てくるタリバンは、武器を持った危険なイスラム教のファナティックな狂信者として描かれている。たぶんそれが実態に近いのだろう。

このあらすじで紹介している2つの映画の予告編でも感じがわかると思う。

アフガニスタンの民衆の生活がわかって、非常に参考になる映画だった。


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2010年11月15日

ゲーム理論で不幸な未来が変わる! 的中率90%という未来予測モデル

ゲーム理論で不幸な未来が変わる!―21世紀のノストラダムスがついに明かした破綻脱出プログラムゲーム理論で不幸な未来が変わる!―21世紀のノストラダムスがついに明かした破綻脱出プログラム
著者:ブルース・ブエノ・デ メスキータ
販売元:徳間書店
発売日:2010-05
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昔の同僚のMonotaRO瀬戸社長からのすすめで読んでみた。

Monotaro





著者のブルース・ブエノ・デメスキータには3つの肩書きがある。

一つはニューヨーク大学政治学部教授で、アレクサンダー・ハミルトン政治経済センター長、学生に論理と証拠による問題解決方法を教えている、

2つ目はスタンフォード大学フーバー研究所の上級研究員で、この肩書きでコラムや本を書いている。そういえばミラーマンで知られる植草一秀さんが、フーバー研究所の客員フェローだった。

横道にそれるが、植草さんは、自身のブログで”「ウィキペディア植草一秀」に含まれる重大虚偽情報”という題で最近書き込んでいる。痴漢行為はあくまで冤罪だと主張している。

そして3つ目がメスキータ・アンド・ラウンデルというコンサルタント会社のパートナーで、ゲーム理論を使って国家安全保障関係の機関や民間企業にアドバイスをしている。

この本ではゲーム理論についての数式や、難しい説明はなく、デメスキータ教授が作り出したシミュレーションモデルを使った予測の例が紹介されており、しろうとでもわかりやすく興味深い。


2つのゲーム理論

デメスキータ教授はゲーム理論には2種類あるという。まずは協力ゲーム理論で、ジョン・フォン・ノイマンオスカー・モーゲンシュテルンによる「ゲームの理論と経済行動」(文庫で全5巻という大作)で理論化された。

ゲームの理論と経済行動〈1〉 (ちくま学芸文庫)ゲームの理論と経済行動〈1〉 (ちくま学芸文庫)
著者:J.フォン ノイマン
販売元:筑摩書房
発売日:2009-05-11
おすすめ度:5.0
クチコミを見る


この説の前提は、約束は必ず守られるということで、それゆえ協力ゲーム理論と呼ばれる。

もう一つは、このブログでも紹介した映画「ビューティフル・マインド」で取り上げられた1994年ノーベル経済学賞を受賞した数学者のジョン・ナッシュが作り上げた非協力ゲーム理論だ。こちらは人間は私利を追求する非情な生き物という前提である。



非協力ゲーム理論の最も有名な例は、囚人のジレンマだ。重罪を犯した2人の囚人が軽微な罪で捕まり、別々に尋問される。両方が黙秘すれば、軽微な罪の最低の刑期で済む。しかし片方が自白し、片方が黙秘を続ければ、片方は釈放、片方は終身刑となる。

この場合囚人は両方が黙秘すれば最低の刑期で済むものを、片方がバラして自分が終身刑というリスクを冒せないので、両方とも罪を認めて自白してしまうのだ。黙秘を通せば軽い罪で済むものを、重罪を自白して重い刑を課せられてしまう。これが囚人のジレンマだ。

ジョン・ナッシュは「ナッシュ均衡」という非協力的ゲーム理論の解を見つける方法を考え出した。「囚人のジレンマ」のケースだと、他のどんな行動を取っても自分の利益が高くならないときがナッシュ均衡で、この場合には「どちらも自白する」だ。


人間は利得で動くというゲーム理論

ゲーム理論では常にシニカルな見方をして、人間は利得で動かされると考える。たとえばイラクでの爆弾テロリストなどは、天国での永遠の安らかな生活を目ざしている殉教者に見えても、実際には残された家族への現金支払いや債務免除という金銭目的で動いているかもしれない。

現にアメリカ軍は一日10ドル(イラクの平均収入は一日6ドル)の手当を支給することで、元テロリストたちを自警団にしたてることができたという。

これは筆者の意見だが、一面では利得・金銭で動く民衆もいると思うが、「元アルカイダのテロリストが10ドルで自警団になった」というのはデメスキータ教授の誇張だと思う。

アメリカ人には、イラク人は全員元アルカイダに思えるのだろうとコメントしておく。


ゲーム理論で車を底値で買う方法

この本ではゲーム理論を実生活に適用する例として、車を底値で買う方法を紹介している。一言で言うと、絶対にショールームは訪れず、すべて電話で交渉し、自分のためのオークションを開くことだ。

セールスマンには次のように言うのだ。

「今日の5時にこれこれの車を買います。今、自宅から半径50キロ以内のすべてのディーラーに電話しているところで、他のディーラーにも同じ話をします。すべて込みの値段を出して欲しい。最低価格を提示したディーラーの所に5時に行って車を買います。」

ディーラーはなんとか自分の店に来させようとするだろうが、その手に乗ってはいけない。「これまで何回もこの方法で車を買ってきた」と言うのだ。

販売店に足を踏み入れることは「コストリー・シグナル」になり、セールスマンが有利になる。車を買いたいというシグナルを送っているからだ。

この方法でデメスキータ教授は、トヨタ・ホンダ・VWを何台も買ってきたという。ディーラー間の値差は驚くほどだったという。


意中の人を後継者に選ぶ方法

この本では意中の後継者をCEO選考委員会に選ばせるために、「アジェンダ・コントロール」する事例を紹介している。

15名のCEO選考委員が3人づつの意見グループに分かれているとする。それぞれの好みの順序は次の通りだ。

1グループ マット>ジェフ>ラリー>カーリー>モー
2グループ マット>モー>カーリー>ラリー>ジェフ
3グループ モー>マット>カーリー>ラリー>ジェフ
4グループ ジェフ>モー>カーリー>ラリー>マット
5グループ ラリー>ジェフ>カーリー>モー>マット

全員の単純投票だと、あなたが絶対後継にしたくないマットが2つのグループから一位指名を受けているので6票獲得し、モー、ジェフ、ラリーがそれぞれ3票で、カーリーは0票。マットが次のCEOになる。

しかし、トーナメント方式で決めようとCEO選考委員会に提案し、まず最有力候補二人から始めようとマットとモーの一騎打ちから始める。

そうすると1,2グループはマットを選ぶが、3,4,5グループではモーがマットよる上なので、モーは9票獲得し、モーが勝ち抜く。勝者はジェフと一騎打ち、その勝者がラリーと一騎打ち、その勝者がカーリーと勝負する。

そうするとなんと全員投票では一位指名ゼロだったカーリーがCEO指名を勝ち取るのだ。

つまり

第1戦 マット<モー
第2戦 モー<ジェフ
第3戦 ジェフ<ラリー
第4戦 ラリー<カーリー

という結果になるのだ。


ゲーム理論で北朝鮮の核開発問題を解決する

北朝鮮問題でまず事実を整理する。

1.大きな利害関係があって、結果に影響を及ぼそうとするグループをすべて特定する。
2.入手出来る情報から特定したプレーヤーそれぞれの本音をできるだけ正確に推測する
3.各プレーヤーにとってこれがどれほど大きな問題か、重要度を推定する。
4.各プレーヤーが他のプレーヤーに対して持つ影響力。どれだけ他人を説得できるかを推定する。

デメスキータ教授の調査によると、金正日は抜け目ない政治家で、核兵器作りの最大の目的は権力の座に居座るためのライフラインとしてそれを利用するためだ。金正日の権力構造はそれほど盤石ではなく、考えられているよりも妥協に応じる傾向が過去にもあったし、現在もあると。

外国に対する金正日の真の要求は「侵略を絶対にせず、私の安全を保障しろ」だ。

最も現実的なのは、中国が正式にかつ明確に北朝鮮を守ることを保障し、アメリカが北朝鮮を攻撃しないことを約束するということだろう。


ゲーム理論が出した中東和平への道

ゲーム理論で導いた提案は「イスラエル政府とパレスチナ自治区が観光から発生する税収の一部を分け合う」というものだ。

観光客が訪れるためには、安全が確保されていなければならない。パレスチナ自治区にとって観光収入は大きい。


アーサーアンダーセンに頼まれた不正予測理論

デメスキータ教授は2000年にアーサーアンダーセンから顧客が不正会計を働く可能性を予測するゲーム理論の構築を依頼され、実際に不正がありうるという過去をあばくデータを提出した。しかしアーサーアンダーセンには受け入れられなかったという。

最もリスクが高いと判定されたエンロン、ボストンサイエンティフィック、ウェイストマネジメントなどでは実際に不正会計が行われていた。

アーサーアンダーセンは最高裁で無罪が確定したが、その前に会社がなくなってしまっていたので、何千人もの失業者を生んだ事例となった。

その他この本では次のようなケースを取り上げている。

★ヒラリー・クリントンの医療保険改革は成功するか

★第1次世界大戦は回避できたか

★パキスタンへの援助で武装勢力を封じ込める

★イラン・イラクとの協調関係は

★温室効果ガスの行方


ゲーム理論で現実の出来事を分析し、予測するという発想は新鮮で、実効性もあるようだ。

MonotaROの瀬戸社長のおすすめ本でもあり、面白く参考になる本だった。


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2010年11月13日

大前研一の資本主義の論点 ハーバードビジネスレビュー論文集

大前研一の新しい資本主義の論点大前研一の新しい資本主義の論点
著者:大前 研一
販売元:ダイヤモンド社
発売日:2010-08-06
おすすめ度:4.5
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大前研一さんの近著。大前さんは序論の「ポスト金融危機の経営戦略」という40ページほどの論文を担当し、他はハーバードビジネスレビューに掲載された論文を集めた本だ。

ニュー・ノーマルの世界

大前さんの論文では、リーマンショック以降、世界経済の主役は先進国からBRICsなどに代わり、もはや世界は昔の秩序には戻らないことがはっきりした。この状態をニュー・ノーマルと呼ぶ人もいるという。

2008年と2009年の主要国のGDP成長率比較の資料が載っている。もやは主役交代は明らかだ。

2008-2009年の主要国GDP成長率










出典:本書3ページ

2010年には先進国が1-2%の低成長が予想される一方、BRICs、VISTA他の国の2010年のGDP成長率予測は次の通りだ。

2010年GDP成長率予想







出典:本書7ページ

インドネシアに注目

大前さんが注目しているのは、インドネシアだ。2004年に初の直接選挙で選ばれたユドヨノ大統領のリーダーシップの下で、汚職撲滅、経済成長、治安回復を目ざす諸政策が実施され、政治と社会が安定し、経済も成長起動に乗っている。ここ5年で国民一人当たりGDPが2、000ドルを超えて倍増している。

人口は2億3千万人、石油、ガス、石炭、アルミなどの天然資源もある。過去の宗教・民族対立に根を発する政情不安も、経済が発展したので国民団結が進み、政治・社会は安定している。

大前さんはBRICsではなく、インドネシアも入れたBRIICsと呼ぶべきだと主張する。

インドネシアは筆者も好きな国だ。

訪問したことは2回だが、実は筆者の亡くなった父親がインドネシアで従軍していたのだ。昭和18年に召集されて、上海、香港、サイゴンなどを経由してインドネシアのジャワ島に派遣された。

父の後続の部隊は輸送船がすべて敵潜水艦にやられて、全く現地までたどり着けなかったので、結局終戦まで父たちの年代が一番下だったといっていた。

今度紹介する山本七平さんの「日本はなぜ敗れるのか」にも書いてあったが、バシー海峡を通る日本軍の輸送ルートを、山本さんはナチの強制収容所以上に効率の良い大量殺人工程と呼ぶ。

日本はなぜ敗れるのか―敗因21ヵ条 (角川oneテーマ21)日本はなぜ敗れるのか―敗因21ヵ条 (角川oneテーマ21)
著者:山本 七平
角川グループパブリッシング(2004-03-10)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る

わずかな駆逐艦と航空機の護衛だけで、兵隊を満載した輸送船をどんどん送り出しては、かたっぱしから敵潜水艦の犠牲となり、兵隊も兵器もすべて海の藻屑と消えたのだ。

陸軍は喪失のリスクが高いことを知りながら、それでもどんどん輸送船を送るものだから、最後はほとんど廃船のようなボロ船で山本さん達はフィリピンに送られたという。

筆者の父も、霧に紛れて出航したが、同僚の船が潜水艦にやられ、駆逐艦がしきりに爆雷を投下したが、潜水艦はやっつけられなかったと言っていた。まさに九死に一生を得ていたのだ。

陸軍では当時「ビルマ地獄、ジャワ極楽、マニラ享楽」と呼んでいたそうだが、米軍の飛び石作戦で、インドネシアは米軍の反攻対象とならなかったので、父はほとんど戦闘を経験せずに済んだ。

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出典: Wikipedia

戦後はオランダ兵が進駐してきたが、オランダ人はインドネシア人に憎まれていたので、日本軍は武装解除せず、オランダ兵を守ってやっていたと言っていた。

日本人はインドネシア人に好かれていたので、日本軍人のなかには、スカルノなどのインドネシア独立軍の顧問としてインドネシアに居続けた人もいる。

父が日本に無事戻ってこなければ、筆者も生まれていなかったわけで、その意味でインドネシアにはいわば「命の恩人」として親しみを感じているのだ。

閑話休題。


アジアの中間層を狙う

2025年頃には日本はインドにGDP規模で抜かれ、インドネシアにも抜かれる可能性がある。そんな状況下、日本企業として決断すべきなのは、7億人のアジア新中間層を狙うことだと大前さんは語る。

アジアの中間層は次のように急速に各国で拡大して、いまやアジア全体で7億人もいて、購買力もそこそこあるのだ。

アジアの中間所得層の人口推移






出典: 本書35ページ

インドネシアに進出して成功している企業の例として、大塚製薬のポカリスエット、ユニチャームを紹介している。


他のハーバードビジネスレビュー論文

この本では大前さんの論文以外に28のハーバードビジネスレビューの論文を次のカテゴリーで紹介している。

第1部 経済と金融
第2部 企業
第3部 グローバリゼーションと新興経済
第4部 技術と環境

印象に残ったのは、GEのリバース・イノベーションの例だ。CTスキャナーは従来10万ドル以上したが、リバース・イノベーションで1,000ドルの携帯型心電計とノートPCを利用する15,000ドルのコンパクトCTスキャナーを開発した。

従来GEのイノベーションは、先進国で開発した製品・技術を後進国に持って行くという「グローカリゼーション」が中心だった。この格安CTスキャナーは後進国である中国のチームが開発し、世界に広める「リバース・イノベーション」だという。

リバースイノベーションの例








出典:本書209ぺージ

それと6つのクリーン・エネルギー技術というまとめの表も参考になった。いずれのクリーン・エネルギーもまだ市場の勝ち組にはなっていない。

clean energy1






clean energy2



出典:本書308-311ページ

筆者の職場ではハーバードビジネスレビューを購読しているが、実は筆者は読んでいない。ちょっとレベルが高すぎるのだ。

大前さんの本だと思って読むと失望するかもしれないが、気に入った論文だけじっくり読めば良いと思う。専門的な論文もあるので世界の一級の頭脳が何を考えているのかがわかって、参考になると思う。


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2010年11月11日

総外資時代キャリアパスの作り方 外資系企業での生き方

総外資時代キャリアパスの作り方 (光文社ペーパーバックスBusiness)総外資時代キャリアパスの作り方 (光文社ペーパーバックスBusiness)
著者:仲 俊二郎
販売元:光文社
発売日:2007-06
おすすめ度:5.0
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川崎重工に入社し、25年間プラント輸出で働いた後、米国化学会社のハーキュリーズ・ジャパンの人事部長としてヘッドハンティングされ、ついには日本法人の社長をつとめた経歴を持つ仲 俊二郎さんの本。

ハーキュリーズが日本から撤退した後は、経営コンサルタントとして働く一方、小説の著作もある。

ドーバー海峡の朝霧
著者:仲 俊二郎
販売元:ビジネス社
発売日:1994-06
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仲さんは、日本企業に入社したと思っても、ある日突然三角合併(外資企業が在日子会社を日本企業と合併させ、その資金は自社株で被合併企業の株主に払うというやり方)で外資に買収されないとも限らない時代なので、外資系企業での働き方を知っておくべきだと語る。

外資系というと外資系コンサルタント会社やゴールドマン・サックス、モーガン・スタンレーなどの金融機関の高給は有名だが、外資平均でも部長クラスで1,500万円〜1,900万円、本部長・事業部長クラスで1,700万円〜2,200万円、社長(日本人)で4,500−5,000万円前後だろうと。

外資平均ではさほど優位性はないように思えるが、ポイントは同じ役職でも外資系の方が圧倒的に年齢が若いことだ。

そして外資系金融機関となると、景気の良かった2006年には、ゴールドマンの新入社員のアナリストのボーナスが1,200万円、全世界2万6千人のゴールドマン社員の平均ボーナスは62万ドルだったという。今はさすがにここまではいっていないと思うが、まさに破格の給与である。

外資系証券、投資銀行の平均的ケースは、アナリストとして入社して初年度の年収が1,000万円程度、3年目には2,000万円、アソシエイトとなる4年めには2,500〜3,000万円が相場だという。

外資系コンサル会社も初年度は400〜600万円、2年目は700〜800万円、3年目は1,000万円弱と上昇し、マネージャークラスの肩書きがついた場合は、20代でも1,500万円くらいもらうのは普通だという。これにさらにボーナスがつくので、成績のいい人は給料の何倍もボーナスを貰うケースがけっこう多いという。

仲さんは最近は在日中国企業がねらい目だという。

この本では外資で働く場合の"Job descripution"主義のことを詳述している。筆者も米国で合計9年間勤務したので、この"Job description"をベースに社員の査定をしていた。アメリカ型人事考課制度だ。

米国会計基準では"Accurued Vacation Pay"といって、未払い有給休暇費用を計算して、費用計上しなければいけない。だから休暇を残すことは、会社に利益に反するので、欧米人は完全に休暇は消化するのだと。にわかには信じられない話だ。

一時話題になった日本のホワイトカラーエクゼンプションや、昇格試験制度は無用と切り捨てている。

外資系企業には本社から派遣されたスタッフがおり、彼らはエクスパット("expatriate)と呼ばれるのだと。本社から派遣された駐在員という意味だ。エクスパットには都心のマンション、車2台、年数回の帰国休暇など、大変手厚い待遇が与えられている場合が多い。

仲さんは、外資系で働く場合には、ポジションが上がるにつれて英語力を磨いていけば良いと語る。むしろ重要なのは、英語力より専門性を磨くことだという。

プロフェッショナルなスキル、経験と知識があれば、市場価値が生まれる。専門性と英語が武器で、会社にとってかけがえのない資産となれと檄を飛ばす。

そして総括として、外資系は「実力主義」、「学歴主義」、「資格主義」の3主義だと語る。実力主義は当たり前として、学歴主義とは、MBAなどの学歴がある人がやはり有利だということだ。そして弁護士、CPAなどの資格を持っている人もやはり優遇される。

そして上司の悪口はたとえ同僚と飲んだ席でも一切聞いたことはないという。生殺与奪の権と査定評価権を持つボスには、悪口がどんなルートで伝われないとも限らないので、そういったリスクは取らないのだと。


外資の事情がわかって参考になる本だった。


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2010年11月09日

変われない組織は亡びる 河野太郎と二宮清純の対談集

変われない組織は亡びる(祥伝社新書206)変われない組織は亡びる(祥伝社新書206)
著者:二宮 清純
祥伝社(2010-07-02)
販売元:Amazon.co.jp
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自民党の若手代議士のプリンス河野太郎とスポーツ評論家二宮清純との対談集。

スポーツの話題もあるが、大半が政治についての対談だ。へーえということがいくつかバラされている。たとえば:

★ゆうちょ銀行の預け入れ最高額を倍にしようと日本新党の亀井静香が動いているが、もしそうなれば銀行のペイオフの1,000万円を超える安全な金融資産となる。

現在郵貯は預貸率(よたいりつ)が2%しかない。つまり預金の2%しか貸付しておらず、残りはすべて国債を買っている。

預け入れ残高が倍になれば、その分国債を買わせられるので、財務省はOBの斉藤(愛称デンスケ)元大蔵次官を送り込んだのだと。

★大臣は引き継ぎはしないという暗黙のルールがあるという。大臣の引継書は官僚が書き、定型的な政策の説明を一式バインダーで閉じたもので、中身など誰も見ていないという。河野太郎は法務副大臣の時に、引継書を自分で書いて官僚に驚かれたという。

★パラリンピックの選手はナショナルスポーツセンターは使えない、パラリンピックは文科省ではなく、厚生労働省管轄だからだ。特例として車いすテニスなどの有名選手には、特別に使わせてやるという姿勢だ。

★社民党の福島みずほ党首などは、すぐに大企業に税金を払わせろとか言うが、日本の法人税は実効税率で約40%、OECD30カ国の平均が26.3%なので、大企業ほど外に出て行く力がある。

サッチャーは「金持ちを貧乏人にしたところで、貧乏人が金持ちになるわけではない」と言っていたそうだが、民主党の政治は「共存共貧」であり、この国で将来何で食っていくのかが明確でないと。

★衆議院には投票ボタンがない。参議院には投票ボタンがあるから、若林正俊議員の「なりすまし投票」が起きた。


簡単に読める本で、参考になった。


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2010年11月08日

オシムの言葉 川渕Jリーグ元チェアマンが感動した本

オシムの言葉 フィールドの向こうに人生が見えるオシムの言葉 フィールドの向こうに人生が見える
著者:木村 元彦
販売元:集英社インターナショナル
発売日:2005-12-05
おすすめ度:4.5
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元日本代表監督、イビツァ・オシムのボスニア内戦を中心とした伝記。以前紹介した明石さんの本や、「戦争広告代理店」と一緒にボスニア紛争を知るために読んでみた。

ドキュメント 戦争広告代理店 (講談社文庫)ドキュメント 戦争広告代理店 (講談社文庫)
著者:高木 徹
講談社(2005-06-15)
販売元:Amazon.co.jp
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元Jリーグチェアマンの川渕三郎さんがこの本を読んでオシムに惚れ込み、オシムを日本代表監督に推薦したことが思い出される。

この本は旧ユーゴに関する本を何冊も書いているジャーナリスト木村元彦さんによるもの。

終わらぬ「民族浄化」 セルビア・モンテネグロ (集英社新書)終わらぬ「民族浄化」 セルビア・モンテネグロ (集英社新書)
著者:木村 元彦
集英社(2005-06-17)
販売元:Amazon.co.jp
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オシム自身が書いたものではない。オシム自身の本は、「恐れるな」、とか「考えよ」とかがある。

恐れるな!  なぜ日本はベスト16で終わったのか? (角川oneテーマ21 A 126)恐れるな! なぜ日本はベスト16で終わったのか? (角川oneテーマ21 A 126)
著者:イビチャ・オシム
販売元:角川書店(角川グループパブリッシング)
発売日:2010-10-09
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最初に現名古屋グランパス監督">ドラガン・ストイコビッチの推薦文が載せられている。「イビツァ・オシムは、私のキャリアの中でも最高の指導者のひとりだった」。

オシムは南アフリカワールドカップに向けた日本代表監督在任中に脳梗塞で倒れ、生死の境をさまよい、それがため日本代表監督には復帰できず、岡田武史監督に代わった。先日のザッケローニ監督の初戦でアルゼンチンに勝利したこともあり、もはやオシムは過去の人という感じもあるが、新聞のコラムなどに書いている日本代表の試合についてのコメントは、するどいものがある。


オシムのエピソード

この本ではオシムの性格がわかるエピソードを多く紹介している。

★ジェフ市原の監督に就任したときに、クラブハウスを最初に訪れたときに就任スピーチなどはいらないと拒否して、選手一人一人のテーブルをコツコツと2回叩いて回った。なぜこれをしたのかは後述する。

★いきなり練習量を増やし、午前と午後2時間ずつの練習。休日は事前には知らされず、前日になって知らされる。フルコートで3対3のミニゲーム、しかもワンタッチでボールを出さないとオシムは激怒した。

★オシムがまっさきにキャプテンに指名したのは、21歳の阿部勇樹だった。


オシムの生い立ち

オシムは1941年サラエボ生まれ。サラエボはセルビア人、クロアチア人、ムスリムの3民族の融和する町だった。13歳でプロチームのジェレズニチャルに参加する。

チームから奨学金を貰ってサラエボ大学では数学を学び、大学から教職員として大学院進学を勧められるが、経済的な理由で断る。

オシムの現役時代は長身(191センチ)のフォワードだった。ドリブルをさせると、ボールを持ちすぎる傾向があったという。


日本との出会い

1964年の東京オリンピックの時に来日し、日本との試合で2ゴールを決めている。このときにカラーテレビを見て驚き、外国人をもてなしてくれるホスピタリティに感動し、日本びいきになったという。

オシムは1970年にフランスのストラスブールに移籍し、8年間フランスリーグのいくつかのチームでプレーして、最後はストラスブールで1978年に引退し、ユーゴに帰国する。


監督としてのキャリア

古巣のジェレズニチャルの監督になり、ユーゴ代表のコーチにも招かれる。1984年のロスアンジェルスオリンピックでは3位になり銅メダルを獲得する。

その時に見いだしたのが">ドラガン・ストイコビッチだ。選手に対する心理的マネージメントと相手チームの分析能力はチームの大きな武器になったという。

1986年にはユーゴ代表監督に就任する。その後ユーゴは分割されるので、最後のユーゴ代表監督となった。この時代のユーゴには世界的なタレントが揃っていた。

多民族国家なので、各民族から一定数を代表に入れ、開催地出身の選手中心にセレクションを行うという不文律があったのを、オシムは無視する。1990年のイタリアワールドカップに向けてオシムは急ピッチで世代交代を図っていた。

チームはスコットランド、フランス、ノルウェー、キプロスという強豪揃いの組のワールドカップ予選を無敗で突破する。

1990年のワールドカップ本戦は、初戦でドイツに1:4で負ける。誰を使えという外圧にその通りやるとどうなるかを見せるためにわざと負けた感がある負け方だ。

その後コロンビア、UAEに勝ち、決勝トーナメント進出。緒戦のスペイン戦では、ストイコビッチの活躍で勝ち、マラドーナ率いるアルゼンチンと対戦して引き分け、PK戦で敗退する。ストイコビッチが外し、マラドーナが止められた歴史に残るPK戦はオシムは見ていないという。監督としての仕事は終わったとして、ロッカールームに引き上げていたからだ。

ワールドカップ後、パルチザン・ベオグラードの監督に就任する。ユーゴ代表監督も兼任するが、このときユーゴ連邦が崩壊し、世界最強チームが戦う前にバラバラになるという経験をする。1990年から1991年の間に国際試合はほとんど勝つが、国はどんどん崩壊していった。


サラエボ包囲戦勃発

1992年3月のオランダ代表との0:2で負けた試合がオシム最後の試合となった。直後にボスニアで内戦が始まったからだ。

1992年4月にサラエボの自宅からオシムと次男がベオグラードに行った直後に、サラエボはセルビア人勢力に包囲され、爆撃が始まった。セルビア軍の戦車260両、迫撃砲120門が町を取り囲んでいた。

これが1395日にわたって続けられるサラエボ包囲戦の始まりだった。

オシムはユーゴ代表のユーロ参加には同行せず、ギリシャのパナシナイコスの監督に就任した。ちなみにユーゴ代表はスウェーデンから強制帰国させられ、ユーロ1992には参加できなかった。

サラエボに残る妻のアンナとはアマチュア無線の交信で連絡を取り合う日々が続き、パラシナイコスのオーナーがギリシャ軍のヘリコプターでアンナを脱出させることを提案するが、アンナは自分だけが特別待遇を受けるわけにはいかないと拒否する。

オシムは一年でパナシナイコスをギリシャカップで優勝させた。翌年はオーストリアのシュトルム・グラーツの監督に就任する。

旧ユーゴ、サラエボと連絡が取りやすいからというのがグラーツを選んだ理由だ。ちなみにグラーツはアーノルド・シュワルツネッガーの出身地でもあり、スタジアムは彼の名前が冠してあるという。

レアルバイエルンなどのビッグクラブからのオファーもあったが、オシム自身ビッグクラブ向けの人間ではないとして断る。ビッグクラブは人気のある選手を外すと、監督のクビが飛ぶ。監督としての仕事ができないからだと。

だからレアルはスペインでもヨーロッパでもチャンピオンになれないだろうとオシムは言う。それは当たっているが、監督も選手以上に人気がある今年のモウリーニョ監督の場合はどうなるのか見ものだ。

オシムは弱小クラブのグラーツを3年でオーストリアリーグ優勝にまで持って行く。
後にグランパスに入団するイビツァ・ヴァスティッチがオシムを慕ってグラーツに入団する。

やがて毎日8人ずつ脱出できるリストにアンナが載り、包囲から2年半後にオシムと再会する。


ジェフ千葉監督就任

オシムはオーストリアで8年間監督した後、イタリアワールドカップで顔見知りになった祖母井(うばがい)GMの、代理人を通さない直接の交渉で心を動かされ、ジェフの監督就任を承諾する。

祖母井さんが訪ねた時、すでにジェフの全選手の名前と顔はインプットされていたという。「余計な挨拶はいらない。選手にはケガをしないよう、祖国に伝わる厄よけのノックをしてやろう」ということで、冒頭の場面となる。

この本の著者の木村さんは内戦の終わったサラエボを訪問して、依然として残る民族間の反感や、サラエボオリンピックの時のスタジアムが今や墓地となっている場所の写真を載せている。

オシム






出典:本書133ページ


オシムがジェフの監督になって、2004年にリアルとの親善試合が組まれた。リアルは銀河系軍団のオッファーを袖にした監督が作り上げたチームを見たいという理由でマッチメイクされたものだ。

この本では現役生活を海外で過ごしたサッカー選手だったオシムのセルボ・クロアチア語の通訳の話や、オシムが監督となって躍進したジェフの戦歴が紹介されている。

もちろん日本代表監督就任前だから、日本代表の話はない。2005年ナビスコカップでのジェフの優勝で終わっている。


ボスニア紛争関係の本として読んだが、オシムの人柄がわかり面白い本だった。川渕元Jリーグチェアマンが読んで、オシムに惚れ込み、日本代表監督に推薦したという理由が理解できる。

オシム自身の本も上記の「恐れるな」とか、「考えよ」とかがあるので、今後読んでみる。

考えよ! ――なぜ日本人はリスクを冒さないのか? (角川oneテーマ21 A 114)考えよ! ――なぜ日本人はリスクを冒さないのか? (角川oneテーマ21 A 114)
著者:イビチャ・オシム
販売元:角川書店(角川グループパブリッシング)
発売日:2010-04-10
おすすめ度:4.0
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2010年11月05日

世界を知る力 寺島実郎さんの「アメリカを通してしか世界を見ない」日本批判

メドベージェフ大統領が北方領土の国後島を訪問したことが、日本の右派を中心とした世論に火を付けている。

一方中国とは尖閣列島問題が尾を引き、シンガポールでの日中首脳会談もキャンセルになるほど関係はぎくしゃくしている。タカ派の前原さんが外務大臣になってからは、中国はなおさら日本とは距離を置く外交姿勢に転換しているのではないかと思う。

外交や経済・株価・円高などについての八方ふさがりな状況から、菅内閣の支持率は低下の一方だ。

アメリカの同盟国という位置づけは変えないが、戦略的に中国に対抗するために、日本はロシアやCISなどとの関係を深める選択肢しか、21世紀に影響力を保つ方策はないのではないかと筆者は思っている。

アメリカ一辺倒、「アメリカを通してしか世界を見ない日本」の姿勢を批判している寺島実郎さんの近著のあらすじを紹介する。

世界を知る力 (PHP新書)世界を知る力 (PHP新書)
著者:寺島 実郎
販売元:PHP研究所
発売日:2009-12-16
おすすめ度:4.5
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三井物産出身で、三井物産戦略研究所会長、日本総研会長、多摩大学学長を勤める寺島実郎さんの近著。

寺島さんは最近はTBSの関口宏のサンデーモーニングにコメンテーターの一人としてレギュラー出演しているので、知っている人も多いと思う。

寺島さんは日本人の「アメリカを通してしか世界を見ない」傾向は、特殊な世界認識の鋳型であり、世界認識を改める必要があると語る。そのため、いままで知らなかった次のような事実が紹介されていて興味深い。


ロシアの日本語学校は1705年創立

ロシアのプーチン首相の出身校、サンクトペテルブルク大学の日本語学校は1705年に設立された。ピョートル大帝のサンクトペテルブルク建設のわずか2年後に日本語学校がロシアにできていたのだ。ペリー来航の150年も前のことだ。ロシアは日本に1792年に遣日使節を送っており、幕府は丁重にもてなしたという。

日本が函館を開港した1859年の翌年、ロシアはウラジオストック建設に着手している。極東ロシアと北海道はほとんど相似形ともいえるほど非常に似た歩みで開発されていく。日露関係は日米関係よりも、もっと歴史的に深く長くかかわりを持っていたのだ。

ちなみに白系ロシア人というのは、色が白いという意味ではなく、赤=共産党に対する白だ。東京のウクライナ大使館の大使の部屋には、大鵬(お父さんが白系ロシア人)の等身大の写真が飾ってあるという。

地図の上下を逆さまにみると、日本がいかにユーラシア大陸に近接しているかよくわかると寺島さんは語る。

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たしかにこうしてみると、日本海は内海で、日本は大陸の一部であることがわかる。


その他参考になった事例

この本で参考になった事例をいくつか紹介しておく。

★世界を変えた5人のユダヤ人。それはモーゼキリストマルクスフロイトアインシュタインで、ユダヤのジョークに5人が議論するジョークがあるという。

★電力網は仕組みがインターネットに似ている。アメリカの電力網効率化計画のスマートグリッドには、Googleがグーグルパワーメーターという電力最適化商品をひっさげて参入している。

筆者は1980年代後半と1990年代後半の2回アメリカに駐在しているが、最初の1980年代後半の時に既にアメリカでは送電網をコンピューターを使って最適化しようというソフトウェアがあった。

当時の上司のピッツバーグ支店長が、アメリカの電力業界(電力会社が石炭の炭坑や船積み設備を持っていた)のコネを使って、この送電網最適化ソフトを開発していた、ベンチャー企業を発掘しようとしていた。

だからスマートグリッドというのは、発電と送電が別個に自由化されて、3,000以上も電力会社があるアメリカでは決して新しい考え方ではないのだ。

★「小泉構造改革」は2001年の米国政府の構造改革対日提案に沿うように日本を市場主義の原理によって改革することを意味していた。小泉政権は、日本をアメリカのような国に変えなければと思い詰め、アメリカの要求に則って、規制緩和や民営化を進めていった。

★小泉政権が「郵政民営化こそが構造改革の本丸」という珍妙な論理で実行されたのは、とにかく改革しなければという強迫観念にも似た幻想にすぎなかったからだ。

★「日米関係は米中関係である」これは国際ジャーナリストとして活躍し、日本憲法の原案作りにも加わった松本重治さんの言葉だ。寺島さんは至言と言っているが、筆者もまさにその通りだと思う。米中関係というもう一つの尺度をもたないと日中関係も上手くいかない。
 
★20世紀の米中日関係に深い影響を与えた人と言われれば、寺島さんはタイム・ワーナー創始者のヘンリー・ルースを挙げるという。チャイナ・ロビーの活動を通して蒋介石を支援していた。その中国側窓口が宋子文だった。孫文夫人宋慶齢、蒋介石夫人宋美齢の兄弟である。戦争期を通じてアメリカが中国に行った支援の累積額は今の金で200億ドルを超すという。

★1949年に中国の内戦が終わり、蒋介石が台湾に逃れてから、1972年のニクソン訪中まで米中関係は混乱していた。その間で日本は復興・経済発展を遂げた。

★「アメリカのアジア政策は常に日本を基軸とする」という幻想にとりつかれていたので、「日米の力で、新たな脅威=中国に対抗しよう」というような議論があるが、これは「日米関係は米中関係」という基本の視点を欠いた議論である。

★そもそも、独立国に外国の軍隊が駐留し続けていることが、いかに不自然な事態であるか、我々日本人は知るべきである」と。ドイツは冷戦終了後、在独基地の縮小と地位協定の改訂を実施した。

★イラン革命が起き、三井物産がイラン・ジャパン石油化学で四苦八苦していた時に、イスラエルのモサドはイラン革命を予想していたという。

寺島さんはこれに驚き、テルアビブ大学の研究所(現ダヤンセンター)を訪問し、「情報」の持つ本当の意味を実感したという。モサドは当時ホメイニ師が毎日瓜とヨーグルトを食べていることまで掴んでいたという。

このブログで紹介した佐藤優さんの「国家の罠」で、佐藤さんが起訴される理由の一つとなった、信頼できるロシア情報をイスラエル経由で入手するために、外務省の公金でイスラエルの著名な大学教授などを日本に招待したことが思い出される。

ロシア情報をイスラエル経由取得するのは、世界の常識では当たり前と考えていたことがよくわかる。

他にも参考になる情報が満載だ。

池上解説ほどジャーナリスティックで、わかりやすいわけではないが、200ページの新書で簡単に読めるので、「アメリカを通してしか世界をみない日本」という問題意識に共鳴する人は、是非一読をおすすめする。


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2010年11月03日

佐藤可士和のクリエイティブシンキング 楽しいリフレッシュ本

佐藤可士和のクリエイティブシンキング佐藤可士和のクリエイティブシンキング
著者:佐藤 可士和
販売元:日本経済新聞出版社
発売日:2010-06-26
おすすめ度:4.5
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以前紹介した「佐藤可士和の超整理術」の続編。


佐藤可士和の超整理術佐藤可士和の超整理術
著者:佐藤 可士和
日本経済新聞出版社(2007-09-15)
販売元:Amazon.co.jp
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超整理術も大変参考になり、佐藤さんの作品が楽しめる本だったが、この本も読んでいて楽しい。

あいかわらず佐藤さんのサイトがスゴイ。是非佐藤さんのサイトも見て欲しい。

佐藤可士和HP





この本で取り上げられているキリンビールの親子対話CM,ユニクログローブライド(ダイワ精工が社名変更)ふじようちえんリサージュ(化粧品)などの広告が掲載されている。

佐藤さんのサイトのふじようちえんのページにはスライドショーがあるので、これは一見の価値があると思う。こんな幼稚園なら是非子どもを通わせたいと思うだろう。

fuji kindergarten







この本ではところどころに佐藤さんの手書きの図が入っていてわかりやすく、楽しめる。


コミュニケーションのキャッチボール

佐藤可士和図2













上記の図は人間同士はたやすくは分かり合えないので、誠意を込めて相手のことを理解しようと、大胆かつ丁寧にコミュニケーションのキャッチボールを続けていくことが大事という図だ。


お客様視線とお茶の間視線

次はこの本で一番参考になった佐藤さんの視点だ。

ビジネスで一般的に考えられているのは「お客様目線」であり、これは自社製品を購入してくれそうな顧客の目線だ。しかし佐藤さんは、「お客様目線」よりも、一般の生活者としての客観的な視点、いわば世間の目ともいうべき「お茶の間目線」が重要だと語る。

satou






つまり買う人以外の一般の消費者の目線を目標にアピールして、買う人、顧客を獲得するという考え方だ。


「そもそも論」の重要性

佐藤さんは博報堂出身のクリエイティブディレクターで、インテリアデザイン、ウェブクリエイター、広告制作者など様々な人が関わるプロジェクトで、プロジェクトのコンセプトがブレないようにすることの重要性を学んだという。

現実の仕事が進むにつれ、メンバーの方向性がズレることがある。その時に対症療法的に修正せず、本質に立ち返り「そもそもこれは、こういうことだったよね」と、方向を正してくれるリーダーが重要だったという。

目の前の仕事の細かい部分よりも「そもそも、社会の中での広告の役割とは?」というふうに、広告のあるべき姿やクリエイティブの哲学といった根幹の部分を上司に語って貰うとスムーズに納得することができたという。

筆者も博報堂との合弁会社で仕事をした経験があるので、この感覚はわかる。

博報堂のクリエイティブのトップの宮崎さんはカンヌ国際広告祭で何度も金、銀、銅獅子賞を受賞した日本を代表するクリエイターだが、講演をお願いした時に、定期は買ったことがなく、帰宅ルートは毎日思いつくままで、町や人を見ていると言われていたことを思い出す。

宮崎さんの広告は、たとえば次の"Hungry?"というカップヌードルCMなど有名なものが多くある。



最近のJamiroquaiのカップヌードルのCMも宮崎さんの作品かもしれない。



それから雑誌Numberは、正確に言うと毎号「Number XXX」と題名が変わるが、当時文部科学省?から雑誌の題名が毎回変わることにクレイムがついたという話をされていたことを思い出す。

Sports Graphic Number (スポーツ・グラフィック ナンバー) 2010年 10/28号 [雑誌]Sports Graphic Number (スポーツ・グラフィック ナンバー) 2010年 10/28号 [雑誌]
文藝春秋(2010-10-14)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る


前作の「超整理術」の様に、佐藤さんの作品が多く紹介されていて読んでいて楽しい。

頭が煮詰まって、アイデアが浮かばない時などには最適なリフレッシング本である。


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