2010年12月31日

一番好きな映画 その3 未知との遭遇

一番好きな映画その3はスピルバーグ監督の未知との遭遇だ。英語のタイトルは"Close encounters of the third kind"、つまり「第3種接近遭遇」だ。

日本語のタイトルがこの「第3種」というのを省いたので、英語のタイトルとはだいぶ感じが変わってくる。

「接近遭遇」とは、第1種がUFOを目撃すること、第2種はUFOが何らかの影響を与えること、第3種がUFOの乗員と接触することだ。

未知との遭遇[ファイナルカット版] デラックス・コレクターズ・エディション [DVD]未知との遭遇[ファイナルカット版] デラックス・コレクターズ・エディション [DVD]
出演:リチャード・ドレイファス
ソニー・ピクチャーズエンタテインメント(2007-05-30)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る

YouTuneに予告編が載っているので、ぜひ見てほしい。



この映画が公開されたのは1977年で、筆者は研修生で行っていたアルゼンチンで見た。

スピルバーグ監督がまだ31歳のときの作品で、オリジナル予告編では、若々しいスピルバーグが登場する。



この映画を見たときは、あのシンプルなリズムとインドの宗教指導者、ゴビ砂漠の船、メキシコソノラ砂漠の飛行機など不思議なシーンの連続に驚かされたものだ。

この映画も港区図書館でDVDを借りた。

港区図書館所蔵のDVDで、この映画の前後の作品は次の通りだ。

港区図書館2





やはり前後10作品すべてが貸し出されていることがわかる。

インターネットで予約ができるので、「未知との遭遇」は1週間程度で手に入った。図書館で気軽に映画のDVDが借りられるのは、すごくメリットがある。

この作品はアカデミー賞の撮影賞と特別業績賞(音響効果)を受賞しているが、いずれも技術的効果についてのもので、作品賞や監督賞、主演・助演俳優に与えられる賞は結局取っていない。

その意味では、前2回に紹介した「フォレスト・ガンプ」、「愛と青春の旅だち」がメインの部門のアカデミー賞を受賞しているのに比べて、知名度では落ちるかもしれない。

それでもUFOや宇宙人という未知の存在を親しみが持てるものにしたことは、1982年の「E.T.」の成功につながったと思う。

スピルバーグ監督の代表作は、上記のほかにアカデミー賞受賞作品の「プライベート・ライアン」や「シンドラーのリスト」、「ジョーズ」、「インディ・ジョーンズシリーズ」など、いくつも挙げられる。

しかし、一番好きな作品ということでは、筆者は「未知との遭遇」をまず挙げたい。

見たことのある人には再度、まだ見ていない人は、ぜひ一度見てほしいファンタジックな作品である。


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2010年12月29日

一番好きな映画 その2 An officer and a gentleman

一番好きな映画その2は"An officer and a gentleman"。邦題の「愛と青春の旅だち」も内容がわかる良いタイトルだ。

リチャード・ギア主演の1982年の作品で、この作品で教官のフォーリー軍曹を演じたルイス・ゴッセットJr.がアカデミー賞助演男優賞を受賞した。

愛と青春の旅だち 製作25周年記念 スペシャル・コレクターズ・エディション [DVD]愛と青春の旅だち 製作25周年記念 スペシャル・コレクターズ・エディション [DVD]
出演:チャード・ギア
パラマウント ホーム エンタテインメント ジャパン(2008-06-20)
販売元:Amazon.co.jp
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YouTubeで予告編がアップされているので、ぜひ見てほしい。



懐かしい画面がよみがえってくる。

筆者が特に思い出すのは、ワシントン州の飛行訓練所に集合した新入生を整列させて、ルイス・ゴセットJR.の鬼軍曹が注意を与えるシーンだ。

出身地は?

オクラホマ・シティ、オクラホマ、Sir(サー)!

オクラホマの名物はSteer(ステア=去勢牛)とQueer(クイア=ホモセクシャル)だ。

お前はSteerではないので、Queerだな?

(あせって)ノー、サー!

映画の最後でも同じセリフをルイス・ゴセットJR.が、今度はアリゾナ出身の新入生に浴びせかける場面が出てくる。

この映画はストーリー、俳優の演技、音楽すべて良かった。

音楽もいい。

愛と青春の旅だち愛と青春の旅だち
アーティスト:サントラ
ポリスター(1992-09-26)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る


ジョー・コッカーとジェニファー・ウォーンズが歌った"Up where we belong"がアカデミー歌曲賞を受賞している。



今回港区図書館で借りて、再度見た。「愛と青春の旅だち」の前後のDVDのレパートリーは次の通りだ。

港区図書館





やはり前後10作品すべて貸し出されている。

今回借りたDVDは、それぞれの場面について監督の解説ナレーションが入っている特別編だ。

2時間の映画で、全部で1時間以上かかる。いままでこの種の監督解説は見たことがなかったが、今回の監督解説を見て、この映画のすばらしさを再認識できた。

パラマウント映画の経営陣のサポートが得られず、低予算のなかで監督が苦労したという裏話や、それぞれの俳優の演技がいかに秀逸かがよくわかる。

リチャード・ギアの恋人役のデボラ・ウィンガー、研修生仲間のシドを演じるディビッド・キースの演技も見事だ。


まだ見ていない人にはぜひお勧めしたい名作だ。


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2010年12月28日

一番好きな映画 その1 フォレスト・ガンプ

図書館で予約して、筆者が最も好きな映画の「フォレスト・ガンプ」のDVDを借りて見た。

トム・ハンクスを一躍有名にしたアカデミー賞6部門独占の1994年の映画だ。

フォレスト・ガンプ [DVD]フォレスト・ガンプ [DVD]
出演:トム・ハンクス
パラマウント・ホーム・エンタテインメント・ジャパン(2006-07-07)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る

数々の場面がYouTubeで公開されている予告編に載っているので、ぜひ見てほしい。



たぶん多くの人が見たことがあると思うが、軽い知的障害者のフォレスト・ガンプが、ベトナム戦争前後のアメリカの数々の出来事のシーンに顔をだし、ありえないような展開から成功をおさめ幸運をつかむというハッピーストーリーだ。

時代の流れがたどれるとともに、ファンタジックで誰でも楽しめるエンターテインメント作品だ。

今もこの映画を見ると感動を新たにする。


図書館で予約してDVDを借りる

以前紹介したとおり、港区図書館のAV関係の在庫はすごい。DVDは4,000本の在庫があり、邦画は300本、洋画は1,000本だ。

港区図書館DVD






筆者の借りた「フォレスト・ガンプ」の前後のタイトルは次の通りだ。

港区図書館






右端の貸出のところに、×印がついているのが、現在貸し出し中の作品だ。同じページの10作品すべてが現在貸し出し中なことがわかる。

DVDは在庫があっても、予約者から予約者に渡るので、書架にはずっと戻らないことがわかる。

これから2回続けて筆者の最も好きな映画を紹介する。

図書館で借りたり、あるいはレンタルビデオで借りたり、WOWOWやYouTubeで見たりして、昔の思い出の映画を見て、感動をあらたに、気分をリフレッシュして新年を迎えて欲しい。


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2010年12月27日

偽善エコロジー 「偽善」シリーズ本を出しているマベリック学者の本

偽善エコロジー―「環境生活」が地球を破壊する (幻冬舎新書)偽善エコロジー―「環境生活」が地球を破壊する (幻冬舎新書)
著者:武田 邦彦
幻冬舎(2008-05)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る

「偽善」シリーズ本や、環境問題のウソというような題の本を多く出している元名古屋大学教授で現中部大学教授の武田邦彦さんの本。

アマゾンに出ている武田さんの主な本は次のようなものがある。

偽善エネルギー (幻冬舎新書)偽善エネルギー (幻冬舎新書)
著者:武田 邦彦
幻冬舎(2009-11)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る

日本人はなぜ環境問題にだまされるのか (PHP新書)日本人はなぜ環境問題にだまされるのか (PHP新書)
著者:武田 邦彦
PHP研究所(2008-11-15)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る

「CO2・25%削減」で日本人の年収は半減する「CO2・25%削減」で日本人の年収は半減する
著者:武田 邦彦
産経新聞出版(2010-02-05)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る

環境問題はなぜウソがまかり通るのか (Yosensha Paperbacks)環境問題はなぜウソがまかり通るのか (Yosensha Paperbacks)
著者:武田 邦彦
洋泉社(2007-02)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る

ちょっとエキセントリックすぎて、まともな学者なのか、マベリック(異端者、へそまがり)なのか判断がつかない。

ネットTVのピラニアTVで「現代のコペルニクス」というコーナーを持っているようだ。

いくら新書とはいえ、学者の本にしては、論拠があまりにも少ない。

まえがきには次のように書いてある。

「今回、可能な限り、確実な情報を整理しました。地球温暖化についてはIPCCという国際機関のデータを、毒物についてはその道の専門家の信頼できる論文を、そして海外のことについてはその国の新聞などをあたり、『本当に環境を守るためには』という視点から書いています」

どうも根拠が弱い。「その国の新聞」が正しいことをどうやって検証するのだろう。ウィキペディアにもむちゃくちゃ書かれており自身のホームページ反論している

この本はなか見、検索!には対応していないので、主なサブタイトルを紹介しておく。一般常識とかなりかけ離れていることがわかると思う。

第1章 エコな暮らしは本当にエコか?

★レジ袋を使わない → ただのエゴ

★割り箸を使わずマイ箸を持つ → ただのエゴ

★ハウス野菜、養殖魚を買わない → ただのエゴ

★温暖化はCO2削減で防げる → 防げない

★冷房28度Cの設定で温暖化防止 → 意味なし

★温暖化で世界は水浸しになる → ならない


第2章 こんな環境は危険?安全?

★ダイオキシンは有害だ → 危なくない

★狂牛病は恐ろしい → 危なくない

★生ゴミを堆肥にする → 危ない

★プラスチックをリサイクル → 危ない

★洗剤より石けんを使う → よくない


第3章 このリサイクルは地球に優しい?

★古紙のリサイクル → よくない

★牛乳パックのリサイクル → 意味なし

★ペットボトルのリサイクル → よくない

★アルミ缶のリサイクル → 地球に優しい

★空きビンのリサイクル → よくない

★食品トレイのリサイクル → よくない

★ゴミの分別 → 意味なし


第4章 本当に「環境にいい生活」とは何か

第1節 もの作りの心を失った日本人

★リサイクルより、物を大切に使う心を

★自治体と業者を野放しにしていいのか

第2節 幸之助精神を失う

★家電リサイクル、儲けのカラクリ

★国民は無駄金を払い、バカをみている

★廃棄物を途上国に売りつける日本

第3節 自然を大切にする心を失う

★自然を大事にする国は自国の農業も大切にしている

第4節 北風より太陽、物より心

★リデュース、リユース、リサイクルの3Rにだまされるな



およそ常識と異なる話ばかりなので、混乱すると思う。武田さんの主な主張をいくつか紹介しておく。


レジ袋削減はスーパーのエゴ


たとえばレジ袋は、石油の不必要な成分を活用した優れものなので、レジ袋を追放すると石油の消費量が増えるという。買い物袋、専用ゴミ袋が必要だからだと。

レジ袋削減とはスーパーの売り上げ増加のために「環境」という印籠(いんろう)を使ったものだと。


ダイオキシンは無害?

最も混乱するのはダイオキシンは人間にとってはほぼ無害という説だ。

東大医学部の和田收教授の2001年1月の「学士会報」に載っていた「ダイオキシンはヒトの猛毒で最強の発ガン物質か」という論文を論拠にしている。

筆者は学士会報もとっているが、学士会会報に載ったからといって、それが学会の定説とは限らない。

これほど一般常識に反する異論を唱えるなら、もっと論拠を挙げるべきだと思う。

和田教授の論文は「ヒトはモルモットのようなダイオキシン感受性動物ではないので、”環境中ダイオキシン”では一般の人にダイオキシンによる健康障害が発生する可能性はほとんどない」というものだ。

これは環境中に排出される濃度のダイオキシンのことであり、ダイオキシン自体が無害というわけではない。

あまりにも危険な「ダイオキシン=無害説」ではないかと思える。


ウシではない狂牛病?

日本には一人もウシによる狂牛病の人はいないが、「ウシではない狂牛病」に罹っている人が400人以上いるという。

肉骨粉はそれまで捨てていたウシの骨格や脳などを飼料にするために、徹底的に焼いて乾燥させていた。

しかし次第に生焼けの状態で飼料にするケースが出てきて、結果的に共食い、かつ子供が親の肉を食うという事態となって狂牛病の原因となったと武田さんは語る。

筆者はアルゼンチンに30年ほど前に研修生として駐在していたが、当時日本はアルゼンチンからMBM(Meat Bone Meal)というのを輸入していた。これがまさに肉骨粉だった。

武田さんは狂牛病は危なくないと語る。「ウシではない狂牛病」とはクロイツフェルト・ヤコブ病のことだと思うが、よくわからない。

ちなみに狂牛病のリスクは現在はおさまっている。


あらすじを紹介する当ブログが、書評ブログのような内容になってしまった。

本や新聞に書いてあるからといって、正しいとは限らない。論拠をもっと示してほしい本である。


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2010年12月24日

低炭素社会 小宮山前東大総長のCO2削減の処方箋

低炭素社会 (幻冬舎新書)低炭素社会 (幻冬舎新書)
著者:小宮山 宏
幻冬舎(2010-05)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る

2009年4月に東大を退官して現在は三菱総研理事長を勤める小宮山前東大総長のCO2削減の現実的提案。

小宮山さんの話は、このブログでも紹介した東大の入学式の時に一度聞く機会があった。会社でも先日小宮山さんの講演を聞く機会があった。東大のアメフット出身で非常にエネルギッシュな人だ。

この本はたまたま知り合った幻冬舎の見城社長に「良い本なのに売れない」と相談したら、「それじゃあ売って見せましょうか」と応じられたのが出版のきっかけという。見城さんはこのブログでも紹介したとおり、カリスマ・モーレツ編集者だ。

以下にあらすじを紹介する通り、大変参考になる本だが、アマゾンでは現在43,700位で、あまり売れていないようだ。見城さんとは売れなかったら「残念会」ということになっているという。


懇切丁寧な目次

この本はアマゾンのなか見、検索!に対応していないので、目次を簡単に紹介しておく。

第3章がメインの部分で、第3章の第1節から第9節まで、ほぼ4ページおきにサブタイトルがついているので、主要なサブタイトルも紹介しておく。大体の感じがわかる懇切丁寧な目次である。

第1章  「温室効果ガス25%削減」で新しい日本へ

第2章  そもそもエネルギーって何だろう

第3章  エネルギー消費量の正しい減らし方

 第1節 どこでどのくらい減らしていくか

  ・  エネルギー変換、ものづくり、日々のくらし(エネルギーの使い道)
  ・  もはや乾いたぞうきんを絞るようなもの?
  ・  「日々のくらし」のエネルギーは8割減らせる
  ・  年間30万円の光熱費が5万円に減った私の家
  ・  住宅環境改善だけで目標の約半分は達成可能

 第2節 高断熱住宅はいいことずくめ

  ・  日常生活で一番エネルギーを消費するのは暖房
  ・  諸外国に遅れをとっている日本の住宅の断熱性
  ・  防音効果が高く健康にもよい二重ガラス
  ・  住宅内の温度差解消で医療費・介護費も減る

 第3節 お湯づくりの常識が変わった
  
  ・  現在の30分の1のエネルギーでお湯が沸く
  ・  エアコンの性能は4倍になる
  ・  日本が拓く、給湯器の新市場
  ・  太陽電池は日本に最適のエネルギー

 第4節 自動車の常識も変わる
  
  ・  10年後、自動車の燃費は10分の1にできる
  ・  通勤・買い物には一人乗りの電気自動車
  ・  長距離物流をトラックから鉄道へ

 第5節 こんな考え方は古い

  ・  節約するよりエコ家電を買おう
  ・  安全・ハイリターンな「エコ投資」
  ・  もったいないのはモノよりエネルギー

 第6節 新エネルギーはどこまで有望か
  
  ・  原発は稼働率アップが第一
  ・  風力発電の適地はまだある
  ・  トウモロコシをエネルギーにしてはいけない
  ・  バイオマスエネルギーの有望株はクロレラ類
  ・  太陽電池の併用で電力の夜昼問題を解消

 第7節 損するリサイクル、得するリサイクル
 
  ・  金属のリサイクルは圧倒的に安くつく
  ・  新たに鉱山を掘る必要はなくなる
  ・  リサイクルが高くつく場合もあるプラスチック
  ・  プラスチックは燃やしてもよい
  ・  紙も最後には燃やすのが正しい

 第8節 総力戦で取り組む
  
  ・  森林資源を増やしてCO2を吸収する
  ・  排出権取引を有効に機能させるルール作りを

 第9節 ポジティブに取り組む
  ・  日本より劣るアメリカのエネルギー効率
  ・  2050年、世界のエネルギー効率を3倍に
  ・  エネルギー、鉱物、食料 ー どこまで自給できるか

第4章  町づくりで低炭素社会を実現

第5章  人類の知を構造化する


日本の先進国宣言

2009年7月に首相に就任した鳩山氏が、ニューヨークの国連気候変動サミットで、「2020年までに1990年比で25%の温室効果ガスを削減する」と宣言した。

小宮山さんはこの発言は日本の「先進国宣言」だと受け止めたという。日本が「課題先進国」として率先して世界の温室効果ガス削減のために動きだすという宣言である。


地球の平均気温15度というのは生物には理想的

大気がないと平均気温はマイナス18度になってしまうが、主に水蒸気とCO2の温室効果のために33度くらいプラス効果があるので、地球の平均気温は生物が暮らしやすい15度となっている。

地球の外側にあって薄い大気しかない火星はマイナス45度、水は氷でしか存在できない。探査機「あかつき」が周回軌道に乗れなかった金星は、地球より太陽に近いので90気圧というCO2主体の大気を持ち、平均気温は430度という高温である。

地球は大気があるので、水が液体として存在でき、それが水蒸気となって気温を保っているのだ。

ここ100年でCO2濃度は290PMMから380PPMに上昇した。これからもCO2濃度は上昇が見込まれ、温暖化の様々な影響が異常気象や海面上昇という形で現れてくる。


地球温暖化懐疑論批判

小宮山さんが初代代表を務めていたサステイナビリティ学連携研究機構(IR3S)では「地球温暖化懐疑論批判」という小冊子をインターネットで公開している。

水素エネルギーは無尽蔵というのは、水から水素を取り出すときに莫大なエネルギーが必要だという認識が欠落している。


CO2削減の処方箋

小宮山さんは学者らしく、CO2削減の処方箋を導くのに、まず「エネルギー保存の法則」の説明から入る。

「エネルギーは最後は熱となる。エネルギーの出入りがない領域全体ではエネルギーの総量は常に一定で変わりない」

だからできるだけ熱になるのを遅らせ、何回でも利用することがエネルギーの効率的な利用法だ。

小宮山さんが出題した東大教養学部の物理の試験問題を例としてあげている。

「同じ大きさの部屋が2つある。1キロワットの電気ヒーターを入れた部屋と、テレビ、冷蔵庫、掃除機を入れた消費電力量合計1キロワットの部屋で、同じ時間同じ電力をかけると、どちらの温度が高くなるか?理由とともに答えよ」

答は「同じ」である。東大の学生の正解率は50人中2人だったという。しろうと感覚では、ヒーターの部屋の方が暖かそうだが、理論は同じである。


用途別日本のエネルギー消費

小宮山さんはまず日本のエネルギー消費を用途別に分類している。それが次のグラフだ。
日本のエネルギー消費1







出典:本書53ページ

これをものづくり、輸送、オフィス、家庭でくくり直すと、次のグラフになる。

日本のエネルギー消費2








出典:本書55ページ

日本のエネルギー消費に占めるものづくり=産業用の比率は既に5割を切っている。

いままで日本の産業界は鉄にしろ、セメントにしろ世界でナンバーワンの省エネルギー生産を達成してきた。たとえばセメント1トン当たりの消費エネルギーは日本を1とすると、中国は1.6だ。産業界の「乾いた雑巾」を絞るようで、もはや大きな削減の余地はないというコメントは正しいのだ。

しかし日本のエネルギー消費の半分以上を占める、輸送、オフィス、家庭の分野はまだまだエネルギー消費削減の余地がある。いわば「濡れ雑巾」状態なのだ。

この本ではこれらの輸送、オフィス、家庭の分野に重点を置いた「チーム小宮山」のCO2削減策を紹介している。


チーム小宮山のCO2削減策

日本のCO2削減策







出典: 本書67ページ

上記目次のように、様々なエネルギー消費削減策をこの本で提案しているので、特に印象に残ったポイントを紹介しておく。

小宮山ハウスは、光熱費年間30万円が5万円になり、さらに太陽光発電の買電単価が倍になるので、光熱費ゼロになる日も近いという。

★高断熱住居にするため、窓ガラスを二重化する。講演で環境省は二重窓にしたので、冬に暖房を入れるのは月曜日だけだという話を紹介していた。熱が逃げないので、余熱で1週間暖かいのだと(ただし一部の職員は”ヤッケ”を着ているという話もある)。

★オフィスではグローランプ式蛍光灯をインバーター式蛍光灯に換えると、エネルギー消費が半減する。東大では34,000基の蛍光灯を入札でメーカーを決めて、すべて入れ替えたという。

★ガス湯沸かし器をエコキュート(ヒートポンプ)に換えるとエネルギー消費が大幅に減る。ヒートポンプなら理論値ではガス湯沸かし器の30分の1にまで下げられるという。既に200万台普及しており、価格も100~150万円だったのが、60万円程度にまで下がっている。

★エネファームは燃料電池給湯設備だ。燃料電池を給湯に使っているのは日本だけだ。価格は300万円くらいするが、国や地方公共団体が補助金をつけているので、大量生産できれば、エコキュートと同程度の価格まで下げることが可能かもしれない。

★自動車の世界最高燃費記録はガソリン1リッターで、なんと5,385キロである。電気自動車の導入などで、まだまだエネルギー消費削減の余地はある。小宮山さんはマークIIをプリウスに換えて、燃費が1/3になったという。

ちなみに筆者の車はこのブログで紹介しているとおりハリアーハイブリッドだ。燃費は旧型ハリアーに比べて2/3といったところで、プリウスの1/3までは行かないが、優遇措置や補助金があったのでガソリン車との値差は十分回収できた。

★輸送も鉄道を多用して、鉄道駅から目的地までをトラック輸送として棲み分けする。

★もったいないと古い家電を使い続けるより、最新型の省エネ家電に換えることにより、消費エネルギーが大幅に減って、数年でもとが取れる「エコ投資」となる。

★三菱総研は社内エコポイント制度を導入して、省エネ家電や自宅の省エネ改造には社内補助金を出すと講演で小宮山さんは言われていた。

たとえば製鉄会社など、これ以上の省エネが難しい会社は、社員の自宅でのCO2排出量削減を促進することで、企業としてアピールできる。その意味で、今後他の企業も社内エコポイント的な制度を導入するところが増えてくると思う。

★産業界では原発は稼働率アップが第一。日本は規制が厳しすぎて原発の稼働率は平均60%台だが、韓国は90%で、諸外国でも80%程度だという、

日本は年に1ヶ月の点検が義務づけられているが、諸外国は2年に一回だという。稼働率を80%に上げるだけで、原子力発電の発電シェアが3%上がり、CO2排出量をその分削減できる。

★小宮山さんの将来の日本の発電比率は、水力8%、太陽電池15%、バイオマスや風力発電が7%、原子力40%で非化石燃料で70%を占める。残り30%をガスや石油を使ったコージェネレーションでまかなうというものだ。

★金属のリサイクルが進めば、先進国では新たに鉱山を掘る必要はなくなる。

鉄鋼原料出身の筆者には、ありがたいような、困るような話で、いわゆるミックスドフィ-リングだ。

★プラスティックはリサイクルが高くつく場合もある。たとえばポリエチレンは、分子構造が石油と似ていて石油からつくってもリサイクル原料からつくっても、エネルギーコストはあまり変わらない。

ポリエチレンは生ゴミなどを燃やす良い燃料となるので、「サーマルリサイクル」=熱源として再利用するのも活用法だ。

それに対しPETボトルなどのポリエステルは何度も化学反応を経て作るので、PETは回収した方が良い。

★もし日本の省エネ技術や「もったいない」意識をそのままアメリカに持って行けば、CO2排出量はすぐに半分くらいに落とせるだろうと小宮山さんは語る。

筆者も米国に合計9年間駐在した経験がある。アメリカのセントラルエアコンは夏も冬も快適だが、誰もいなくてもすべての部屋を暖房するので、エネルギー消費が日本とは比べものにならない。

大体どの家でもボイラー室に、巨大なボイラーと温水タンクがある。筆者の友人は誰も使わない部屋はエアコンの吹き出し口を紙などで塞いで、省エネしている人もいた。

少なくとも部屋別暖房に換えるとかで、半分までは行かなくともかなりの省エネ効果が見込めると思う。

★日本の食糧自給率を上げるために、多収量米を遊休耕地でつくり、普段は家畜のえさ、緊急時には食料として活用することを薦めている。

★日本は活気ある高齢化社会をつくるべき。80歳以上の高齢者の8割は健常者だから、この8割の高齢者の社会参加が重要だ。

福井市では介護のデータとレセプト、健康診断のデータベースを統合しようという検討を三菱総研と始めているという。健康情報の一元管理だ。

★小宮山さんの提唱する「プラチナ構想」とは、高齢者が参加できるエコ、低炭素化社会だという。全国で地方自治体のプラチナ構想ネットワークができつつあるという。


すぐに実行可能で、具体的なCO2削減提案で、大変参考になった。

筆者の家は建て売り住宅で、断熱にはほぼ満足しているが、サッシの二重化やエアコンの交換、エコキュート導入を具体的に検討してみる。

数年で投資額が数年で回収できるのであれば、築18年の家で設備も古くなってきているので、やらない手はない。

上記の目次を参考にして、書店で手にとってパラパラと読み、自分でもやれそうなCO2削減策を考えて欲しい。

そしてみんなに言おう「地球に良いこと何かやってる?」


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2010年12月22日

デフレの正体 人口動態変化が日本経済デフレの原因

デフレの正体  経済は「人口の波」で動く (角川oneテーマ21)デフレの正体 経済は「人口の波」で動く (角川oneテーマ21)
著者:藻谷 浩介
角川書店(角川グループパブリッシング)(2010-06-10)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る

日本政策投資銀行参事役の藻谷浩介さんの本。

2010年12月19日の朝日新聞日曜版の書評審査員お薦め「今年の3点」で、植田和男東大教授のイチ押しに挙げられていた。

「いよいよ現実のものとなった日本の人口減少が、いかに内需不振の主因であるかを、簡潔なグラフ中心にわかりやすく示した好著。薄々感じていた不安に直接手で触れたような読後感。対策として高齢者から若者への所得移転、女性就労、外国人観光客の増加を推奨」が推薦の言葉だ。

まえがきのところで、藻谷さん自身も、自分が書いた本ながら「これは読んだ方がいい」と誰にでも薦められるという。

誰が読んでも客観的とわかるような事実を並べているが、類書にない、オンリーワンの内容だからだと。

最初からちょっと大風呂敷だと思ったが、読んでみるとなるほどと思わせる内容だ。但し、この本には藻谷さん自身も書いている通り、タネ本があることは後述する。

藻谷さんは日本政策投資銀行の地域振興グループの参事役で、2000年から各地で数多くの地域振興の講演を行っており、全国3,200市町村の99.9%を訪問した経験を持つという。

アマゾンでも2010年12月20日現在売り上げ47位と、よく売れているようだ。

この本の目次

この本はアマゾンのなか見!検索に対応しているので、ここをクリックして、目次を見て欲しい。次のような章が並んでいる。

第1講 思いこみの殻にヒビを入れよう

第2講 国際経済競争の勝者・日本

第3講 国際競争とは無関係に進む内需の不振

第4講 首都圏のジリ貧に気づかない「地域間格差」論の無意味

第5講 地方も大都市も等しく襲う「現役世代の減少」と「高齢者の激増」

第6講 「人口の波」が語る日本の過去半世紀、今後半世紀

第7講 「人口減少は生産性向上で補える」という思いこみが対処を遅らせる

第8講 声高に叫ばれるピントのずれた処方箋たち

第9講 ではどうすればいいのか1.高齢富裕層から若者への所得移転を

第10講 ではどうすればいいのか2.女性の就労と経営参加を当たり前に

第11講 ではどうすればいいのか3.労働者ではなく外国人観光客・短期定住者の受入を

補講  高齢者の激増に対処するための「船中八策」


内需不振の本当の原因

「世界同時不況の影響で地域間格差が拡大したことが内需不振の原因」などというのは、藻谷さんは、SY(数字を読まない)、GM(現場を見ない)、KY(空気しか読まない)人たちが確認もしていないウソを拡大再生産しているのだと。

SYの例が中国と日本の貿易バランスで、中国一国だけだと日本の赤字だが、香港を入れると日本の大幅黒字である。

そういえば中国との輸出入は香港も入れて考えるというのが、昔は常識だったが、筆者もすっかり忘れていた。

日本の国際収支














出典:本書41ページ

日本の大得意はハイテク生産国の台湾、韓国だ。中国にも日本ブランド製品は売れ続けている。日本は国際競争の勝者なのだ。

一般的に言われている「リーマン破綻以降の世界同時不況の影響で、輸出が激減し日本経済は停滞している」という説明、「景気さえ良くなれば大丈夫」という「妄想」が日本をダメにしたのだ。

その証拠として次のグラフを挙げている。

日本の基礎代謝







出典:本書57ページ

上のグラフの左側が増え続ける日本の実質GDPと減り続ける小売販売額と雑誌書籍販売部数。

右側が同じく、増え続ける日本の実質GDPと減り続ける新車販売台数、貨物総輸送量、自家用車旅客輸送量、酒類販売量のグラフだ。

このグラフからわかることは:

・小売販売額は1996年度をピークに12年連続で減少が続いている

・雑誌書籍販売部数は1997年度をピークに11年連続で減少が続いている

・国内貨物総輸送量、自家用車旅客輸送量もそれぞれ2000年、2002年から減少続き

・酒類販売量は2002年度から減少続き(ビールだけだと1997年度から減少続き)

・グラフにはないが、日本の水道使用量は1997年から減少続き


2000年に一度の生産年齢人口減少

「若者の車離れ」、「景気変動」、「出版不況はインターネットの普及のせい」、「地域間格差」など、内需の減少の原因としてあげられる理由はすべて間違いだ。本当の内需減少の原因は、生産年齢人口の減少である。

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出典:総務省統計局人口推計

藻谷さんは、日本政策投資銀行の地域振興グループの参事役という得意分野を生かして、青森県、首都圏、東京23区、(リーマン不況まで景気が良かった)愛知県、関西圏、沖縄県の1990年からの小売指標と個人所得の推移を比較している。

青森県と関西圏を除いて個人所得は増加しているにもかかわらず、どこも小売販売額は1998年頃がピークで、毎年減少している。

唯一の例外が沖縄県で、個人所得も小売販売額も増加している。しかし、その他はすべて小売販売額が減少している。

これこそ「2000年に一度」の生産年齢人口減少と「高齢者の激増」の影響なのだ。


所得はあっても消費しない高齢者

所得はあっても消費をしない高齢者が日本全国で激増している。特に首都圏では2000-2005年の間に65歳以上の老齢者が118万人増えている。高齢者は将来の不安があり、買いたい物もあまりないので消費をせず貯蓄する。

次が日本の人口ピラミッドだ。

人口ピラミッド








出典:総務省統計局人口推計

日本で一番人口の多い団塊世代が60歳を超えて続々と退職している。年金だけでは所得が減少するので、将来の不安から消費を抑え、貯蓄する。


団塊の世代が起こしたバブルとバブル崩壊

この団塊の世代の影響で起こったのが住宅バブルとバブル崩壊だ。

最初は団塊世代の実需で住宅・土地市場が活性化した。ところが日本人のほとんどが、住宅市場の活況の要因を「人口の波」と考えずに、「景気の波」と勘違いした。

だから住宅供給を適当なところで止めることができず、供給過剰=バブル崩壊が生じたのだ。

この説は元マッキンゼー東京支社長で、現東大EMP企画・推進責任者の横山禎徳さんが「成長創出革命」という本で指摘していることだと、藻谷さんはタネ本を開かしている。

成長創出革命―利益を産み出すメカニズムを変える成長創出革命―利益を産み出すメカニズムを変える
著者:横山 禎徳
ダイヤモンド社(1994-02)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る

この「成長創出革命」は現在絶版で、アマゾンでは中古本が約7千円とプレミアム付きで売られている。図書館にリクエストして他の図書館から借りて貰うので、入手したらあらすじを紹介する。

団塊世代のライフステージに応じて様々なものが売れ、そして売れなくなっていくという単純なストーリーで説明・予測できる物事は多い。たとえば:

・バブルがなぜ首都圏と大阪圏に集中していたのか

・スキーや電子ゲームが流行り、その後急速に衰退していったのか

・ゲーム市場の拡大は高齢者にも売れる任天堂Wiiまで待たなければならなかったのか

生産年齢人口の減少は今後も続き、「好況下での内需縮小」は延々と続くことになる。


藻谷さんの解決策

★高齢者から若者への所得移転

現在は高齢者から高齢者への相続で貯蓄は死蔵され続けている。

高齢化社会における安心・安全の確保は生活保護の充実で行い、年金から生年別共済に変更するというのが解決策だ。

これまで日本は生産性を上げて人口減少に対処しようとしている。そのための施策が、経済成長率至上主義、インフレ誘導、リフレ論、出生率向上、外国人労働者受入、エコ分野の技術で世界をリードすることで日本の活路を見いだす等々だが、いずれも内需拡大には繋がらない。

そこで、解決策としては「生産年齢人口が3割減になるなら、彼らの一人当たり所得を1.4倍に増やせば良い」というものだ。つまり団塊世代の退職で浮く人件費を若者の給料に回そうというものだ。この解決策は、藻谷さんが若手官僚から聞いたものだという。

ちなみに中国でも生産年齢人口の減少は20年後くらいから急激に起こる。中国が同じ悩みを抱えるのも時間の問題なのだ。


★女性就労拡大

藻谷さんの解決策の一つは女性就労拡大だ。女性は高齢になっても消費意欲は衰えないので、女性の所得が上がれば、内需拡大にもなり、税収も上がる。

日本の女性の就労率は45%で世界的に低いので、まだまだ上がる余地はある。


★外国人観光客を誘致して観光収入をアップ


横山禎徳さんのタネ本

藻谷さんは「成長創出革命」しか紹介していないが、実はこれらの解決策は、上記の元マッキンゼー東京支社長の横山禎徳さんの2003年の本「『豊かなる衰退』と日本の戦略」で提唱されている「3つのシステム・デザイン」という提案とかなりかぶっている。

「豊かなる衰退」と日本の戦略―新しい経済をどうつくるか「豊かなる衰退」と日本の戦略―新しい経済をどうつくるか
著者:横山 禎徳
ダイヤモンド社(2003-03)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る


横山さんの3つの提案(+α)とは:

1.一人二役(兼業・兼職も認める。セカンドハウスを持つ。週休三日とする)

2.二次市場の創造(住宅など中古市場の充実)

3.観光立国(外国人旅行者大量受入システム)

+女性への期待(主婦への期待)


生産性向上とは付加価値を増やすこと

マイケル・ポーター教授の日本公演の時に、聴衆から質問があり、それに答えて生産性向上の例として出したのはカリフォルニアワインだったという。

人手を掛けて品質を向上させることによって、ブランド力を上げることに成功し、値上げができた。

カリフォルニアワインがブランド力を上げる要因となったできごとは「パリスの審判」に詳しいので、興味がある人は参照して欲しい。

生産性とは付加価値を増やすことだが、日本では労働者を減らすことが生産向上と誤解されているために、このときの講演後のQ&Aではポーターの説明が伝わらなかったという。


残念な誤植

大変説得力ある本だが、致命的な誤植がある。相続税を支払う人が相続人の4%まで減り、納税額も12兆円というところは、1.2兆円の誤りだ。

税収が40兆円程度しかないなかで、もし相続税収入が12兆円もあれば4割を占める大変なパーセンテージだ。SY(数字を読まない)でない限り、普通なら誰でも気付く誤植と思う。

せっかく納得性のある議論をしているだけに、こんなポカミスは残念ながら藻谷さんの全体の議論の信憑性を疑わせる恐れがある。

筆者も他山の石としなければならないミスである。


ともあれ斬新な見地からの議論で、大変参考になる本だった。


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2010年12月19日

一生モノの勉強法 京大人気教授の知的ノウハウ

2010年12月19日追記:

書店に行ったら「週刊東洋経済」で鎌田教授が書いていた「一生モノの古典」が、単行本になって出版されているのに気がついた。

座右の古典 ―賢者の言葉に人生が変わる座右の古典 ―賢者の言葉に人生が変わる
著者:鎌田 浩毅
東洋経済新報社(2010-11-12)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る

アマゾンのカスタマーレビューで全部の題名を紹介しているものがあったので、それを引用させてもらうと、次のようになる。

1章
『論語』孔子,『幸福論』ヒルティ,『時間と自由』ベルクソン,『荘子』荘周,
『自助論』スマイルズ,『生きがいについて』神谷美恵子
2章
『ソクラテスの弁明』プラトン,『ホモ・ルーデンス』ホイジンガ,『人間性の心理学』マズロー,
『ミケランジェロの生涯』ロマン・ロラン,『神曲』ダンテ,『大衆の反逆』オルテガ,
3章
『風姿花伝』世阿弥,『知的生活』ハマトン,『春宵十話』岡潔,『職業としての学問』マックス・ウェーバー,
『学問のすすめ』福沢諭吉,『民主主義と教育』デューイ,『学問芸術論』ルソー
4章
『方法序説』デカルト,『野生の思考』レヴィ=ストロース,『サイバネティックス』ウィーナー,
『陰翳礼賛』谷崎潤一郎,『プラグマティズム』ウィリアム・ジェイムズ,『からだの知恵』キャノン,『風邪の効用』野口晴哉
5章
『ゲーテとの対話』エッカーマン,『人生の意味の心理学』アドラー,『フランクリン自伝』フランクリン,
『「いき」の構造』九鬼周造,『幸福論』バートランド・ラッセル,『メディア論』マクルーハン
6章
『新科学対話』ガリレイ,『コモン・センス』トーマス・ペイン,『コロンブス航海誌』コロンブス,
『古代への情熱』シュリーマン,『自省録』マルクス・アウレリウス,『バガヴァット・ギーター』ヒンドゥー教聖典,『人生論』トルストイ
第7章
『第二次大戦回顧録 抄』チャーチル,『孫子』孫武,『藁のハンドル』ヘンリー・フォード,
『ローマ帝国衰亡史』ギボン,『君主論』マキアヴェリ,『ジュリアス・シーザー』シェイクスピア,『韓非子』韓非
8章
『啓蒙とは何か』カント,『イタリア・ルネッサンスの文化』プルクハルト,
『森の生活』ソロー,『読書について』ショウペンハウエル

読んだ本が数点あるが、それ以外は読んでない本ばかりで、改めて鎌田教授の教養の広さに感心する。

筆者は「本は読んでから買う」のを通例としているが、この本はひさしぶりの「読む前に買った本」だ。鎌田教授の本を参考にして、紹介されている本も読んでみようと思う。

世の中には自分の読んでいない本ばかりだということを、思いしらされる本である。


2010年12月16日初掲:

一生モノの勉強法―京大理系人気教授の戦略とノウハウ一生モノの勉強法―京大理系人気教授の戦略とノウハウ
著者:鎌田 浩毅
東洋経済新報社(2009-04-03)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る

真っ赤な革ジャンと真っ赤なズボンなどといったドハデな服装で登場する京大の火山学の鎌田浩毅教授の勉強法。

はじめに鎌田教授のドハデ戦略について説明している。専門の火山の話を聞いて貰うにあたり、まず鎌田浩毅という人間に注目して貰うためにファッションに気を配っているという。

鎌田教授は「週刊東洋経済」で以前は「一生モノの古典」、現在は「ビジネスパーソンのための地球科学入門」という2ページもののコーナーを書いている。「一生モノの古典」のまとめかたには感服した。

たとえばシュリーマンの「古代への情熱」を紹介した2010年7月10日号では、音読、作文、毎日1時間というシュリーマンの語学勉強法を紹介するとともに、ビジネスパーソンに役立つ教訓3ヶ条として次を挙げている。

1.大きな目標を立て、完遂するまで忘れない
2.勉強は目的を明確にして始めるべきだ
3.発掘継続のためにおこなった情報開示と広告戦略を学べ

先見の明のある考古学者として、また自意識過剰な俗人として毀誉褒貶(きよほうへん)の多いシュリーマンだが、学問的な高い評価はゆらぐことがないと語る。人に限らず書物も、良い点を見て学べばよいと結んでいる。

非常にコンパクトに要点をまとめた書評で、筆者にも大変参考になった。

この本はアマゾンのなか見!検索に対応しているので、ぜひ目次を見てほしい。

昼休みの活用法や通勤電車を英語塾として活用する方法など、実際的なアドバイスが並んでいることがわかると思う。


この本の構成

この本は次のような構成となっている。

第1章 面白くてためになる「戦略的」な勉強法とは

第2章 勉強の時間を作り出すテクニック

第3章 効率的に勉強するための情報整理術

第4章 すべての基本「読む力」をつける方法

第5章 理系的私見突破の技術

第6章 人から上手に教わると学びが加速する


それぞれの章が10前後の節から構成されているので、全部で55の節があり、それぞれが実践的なアドバイスだ。


勉強法のポイント

この本で鎌田教授の伝えたい肝心の点は次の2つに絞れると思う。

1.勉強するときは集中し、ONとOFFをはっきりさせる。集中するためには弛緩(しかん)する時間も不可欠だ。

2.勉強は場当たり的にするものではない。目標とそれに到達する工程をあらかじめ決め、締め切り時間を決めて「戦略的」に取り組む。


磨くべきスキル

勉強は単に知識を増やすだけではない、音楽や古典などの教養の両方が必要である。スキルとしては次の3つの能力を磨く必要がある。

1.コンテンツ能力 必要な知識を身につける

2.ノウハウ能力 仕事のやり方についての具体的なテクニック

3.ロジカルシンキング能力 データを論理的に組み立てて説得力ある結論を導く能力


もっとも困難なのは「努力すること」そのもの

鎌田教授は勉強でも仕事でも、最も困難なのは「努力すること」そのものだと語る。これには筆者も100%同感だ。

「努力すること」がきちんとできるようになれば、たいていのことは成就する。だから「努力が継続するシステム」の構築が重要だ。

たとえばイチローは「先に満足している」からヒットを打てるのだと。「一試合終わって良いヒットが打てたらそれで満足する」という。

小さな満足を得ることで、努力がおっくうではなくなり、もっと大きな努力を呼ぶ。もっと大きな満足をもたらすという好循環がでてきているのだ。

以前紹介した松井秀喜の「不動心」に「努力できることが才能だ」という言葉が紹介されていた。筆者はこの言葉は、まさに金言と思っている。

たとえば昼休みの食事の後の30分を毎日勉強に充てれば、積み重ねれば相当な時間になる。ビジネスランチでも良い。昼休みの活用の努力が、他人との差別化につながるのだ。


理系的試験突破の技術

なにせ入学試験の出題者であり採点者でもある大学教授だけに「理系的試験突破の技術」という章は大変参考になる。

「試験勉強は相手の意図を探ることから始める」というのは、まさに出題者ならではアドバイスだ。

大学入試のいわゆる「赤本」で、多くの高校生は最初の「傾向と対策」の部分を省いて過去問を解こうとする(そう言われてみれば筆者もそうだった)。しかし、実はこの解説のページに試験突破の重要な手掛かりが書かれているのだ。

この部分は予備校の教科主任のような立場の人が、過去20年間の過去問を研究して解説を書いているので、試験官が要求するポイントをとらえており、問題の傾向をつかんでいる。

大人の勉強に完璧主義は不要であり、「ドライに行こう」と。満点でもすれすれでも資格としては同じであり、効率主義で良いのだ。

テキストは最初から最後まで覚えず、ヤマを張る。模擬試験を利用してヤマの的中率を上げる。テキストで重要な点はどこか、重要なポイントを外さない判断力をいかに養うかが勝負なのだと。

情報は3段階で記憶する(1.熟読、2.音読、3.書いて覚える)とか、試験問題は第1問から解いてはいけない(解ける問題から解く。難問に取り組むより、見直しで5点、10点稼ぐ)とか、入試だけでなく、どんな試験の受験生にも役立つ実践的なアドバイスが満載だ。


鎌田教授もカーネギー信者

「第4章 すべての基本『読む力』をつける方法」の章では、次の写真が使われている。

一生モノの勉強法













出典:本書111ページ

なんと中心にカーネギーの「道は開ける」を置いている。

道は開ける 新装版道は開ける 新装版
著者:デール カーネギー
創元社(1999-10)
販売元:Amazon.co.jp
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この本のなかでもカーネギーの「人を動かす」の「人に好かれる6原則」をそのまま紹介している。

1.誠実な関心を寄せる
2.笑顔を忘れない
3.名前を覚える
4.聞き手にまわる
5.関心のありかを見抜く
6.心からほめる

人を動かす 新装版人を動かす 新装版
著者:デール カーネギー
創元社(1999-10-31)
販売元:Amazon.co.jp
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鎌田教授もカーネギー信者だったんだ。

天才マーケッターの西川りゅうじんさんも、カーネギーの本は擦り切れるほど読んだと言っていた。「自己啓発はヘンなのも多いけど、やはりカーネギーに始まり、カーネギーに終わる」。その通りだと思う。


大変参考になった本だが、詳しく紹介していると長くなりすぎるので、その他参考になった点をいくつか紹介しておく。

★「締め切り効果」で時間の流れを制御する
たとえばインターネット検索なら、あらかじめ15分と締め切りを決めて実行する。トリンプの吉越前社長の「デッドライン仕事術」のように効率をアップさせるのだ。締め切りを決めないと、漫然と1時間以上も検索に費やすというようなことになりがちだ。

デッドライン仕事術 (祥伝社新書)デッドライン仕事術 (祥伝社新書)
著者:吉越 浩一郎
祥伝社(2007-12-15)
販売元:Amazon.co.jp
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★大学の講義法も「3分間スピーチ」から学んだ
鎌田教授は「冠婚葬祭のスピーチは3分でまとめろ」という解説書を参考にして、講義も3分ごとの話を積み上げるようにした。これによって聞く方の興味が持続するのだと。

筆者もセミナーなどで講演することがある。さっそくこの「3分間スピーチ」術を実行してみる。

★入門書は最低3冊買う(そのうち一冊は新書)

★不得意な分野は児童書を見よ
鎌田教授は「ジュニア新書」はもっとも高度な表現が求められると語る。文系の人には、理系の「プリマー新書(ちくま書房)」や「ジュニア新書(岩波)」が良いという。

実は筆者も図書館で借りて児童書の世界偉人自伝全集で、チャーチルの自伝を読んでいる。

チャーチル (昭和41年) (世界偉人自伝全集〈1〉)
著者:チャーチル
小峰書店(1966)
販売元:Amazon.co.jp
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チャーチルの伝記は新書でも出ているので、こちらも図書館で借りた。

チャーチル―イギリス現代史を転換させた一人の政治家 増補版  (中公新書)チャーチル―イギリス現代史を転換させた一人の政治家 増補版  (中公新書)
著者:河合 秀和
中央公論社(1998-01-25)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る


まだ読み始めていないが、児童書の方が写真や図も多くて新書より情報量が多い。鎌田教授が児童書をすすめる理由が納得できる。

★鎌田教授の推薦するテレビ教養番組
次が鎌田教授の推薦するテレビ番組だ。
・「世界一受けたい授業」日テレ 鎌田教授も火山の話で登場したという
・「プロフェッショナル 仕事の流儀」NHK
・「爆笑問題のニッポンの教養」NHK
・「課外授業~ようこそ先輩」NHK
・「美の壺」NHK教育

その他、本の書き込み法(これは筆者は絶対にやらない)、書店を利用するメリット、文房具について、クリアファイルについてなど、知的生産の道具の説明も参考になる。

鎌田教授は、一瞬「2ちゃんねるか?」と思わせるような構成のホームページをつくっているが、ブログとかインターネット利用法は一切出てこないところが、最近の本にしては珍しい気がする。

読者の役に立つようにという熱い思いと気遣いが感じられる。面白く読めて、かつ著者の親切心が伝わってくる良著だ。


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2010年12月15日

技術力で勝る日本が、なぜ事業で負けるのか 東大妹尾教授の本

技術力で勝る日本が、なぜ事業で負けるのか―画期的な新製品が惨敗する理由技術力で勝る日本が、なぜ事業で負けるのか―画期的な新製品が惨敗する理由
著者:妹尾 堅一郎
販売元:ダイヤモンド社
(2009-07-31)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る

東京大学 知的資産経営総括寄附講座(イノベーションマネージメントスクール)特任教授で、NPO産学連携推進機構理事長の妹尾堅一郎教授の本。東大イノベーションマネージメントスクールの学生は20人くらいと言っていた。

10月に経産省主催の情報化月間記念講演会で講演を聞く機会があったので、本を読んでみた。

元は富士写真フィルムのビジネスマンとはいえ、最近の大学の先生はここまで話が面白いのかと大変感心した。

この本の冒頭で自身の爆弾発言を紹介して、問題提起をしている。「日本の自動車産業は、15年で壊滅状態になります」。自動車生産のメッカ名古屋での2009年正月の発言だという。

そして2番目の問題提起はインテルだ。インテルは保有特許数だと320しかないと言われている。

一方、日本のメーカーの保有特許は1万を超えているのにもかかわらず、日本の半導体メーカーすべてを束にしてもインテル一社の収益に及ばない。もとはNEC,日立製作所、三菱電機のメモリー部門だったエルピーダメモリは産業再生法の対象となっている。


「負ける日本」という問題意識

妹尾さんは、「負ける日本」に次の2つの問題意識を持っているという。

1.日本には技術力はあるのに、事業で勝てない。なぜか?
  技術で勝っても、知財権を取っても、国際標準を取っても、事業で負ける。

2.日本の産業競争力は崩壊間近いのではないか?

国際競争力比較で有名なスイスのビジネススクールIMDの「世界競争力年鑑2008年版」によると、日本の国際競争力は55カ国中22位、最新の2010年版では27位となっている。

1989年にIMD調査が開始し、5年間は日本がトップを続けてきたが、1998年には20位に下がった。長らく米国がトップを続けてきたが、2010年にはシンガポールが1位となり、2位香港、3位米国となった

中国は18位、韓国23位、日本の一位上の26位はタイで、日本の一位下はチリとなっている。

上のリンクでレポート全文を読めるので、興味のある人は見て欲しいが、日本は"sinner"、つまり”罪深い国”のNO.1で、現在の債務を安全レベルといわれているGDPの60%にまで押さえ込むには2084年までかかると予想している(もっとも債権者はほとんど国内なので問題は少ないという注記がある)。

「日本は科学技術大国だが科学技術立国になっていない」と妹尾さんは語る。

2番目の「産業競争力は崩壊間近いのではないか」という点については、妹尾さんの同僚の小川紘一特任教授の表を見れば、一目瞭然で分かると思う。

日本製品シェア推移







出典:本書 xviページ

それぞれの製品の世界市場の規模は、年を経るごとに飛躍的に拡大しており、その中で、日本のシェアが落ちているということは、他国は販売量を格段に増やしているのに、日本は他国ほどには増えていないということだ。

この裏には欧米企業とNIEs/BRICs地域企業との巧みな協調関係のからくりがあるという。

妹尾さんの表現だと、「日本チーム14安打、22残塁、またも無得点」というところだろうと。

そしてこの2つの問題意識の答えとしては、「三位一体」経営であり、技術が強ければ勝てるというのは過去の話になっていると。


「三位一体」経営

「三位一体」とは、

1.製品の特徴に応じた急所技術の見極めと研究開発。

2.どこまで独自技術としてブラックボックス化したり、特許を取ったり、どこから標準化してオープンに使わせるのかのさじ加減をする知財マネジメント。

3.これが一番重要だが、垂直統合でなく、中間財などを介した「国際斜形分業」などによる、市場拡大と収益確保を両立させるビジネスモデルの構築。

この3つの戦略が一体化してはじめてインテルの成功が可能となる。電気自動車で同じことをやられかねないので、日本の得意分野の自動車業界やロボットは危ないのだと。


成長か、発展か?

最初に妹尾さんは「成長したいのか、発展したいのか?」と問う。

成長はあくまで既存モデルの量的拡大で、発展は新規モデルの不連続的移行である。おたまじゃくしがカエルになるのが発展で、木が大きくなるのは成長なのだと。

筆者もこの辺の区別はついていなかった。

日本のお得意はインプルーブメントで改善を重ねて、コストを下げる。それに対して欧米はイノベーションでモデル自体を変えてしまう。


プロパテントからプロイノベーションへ

2004年末に米国の官民学のリーダー400人が集まって作った競争力向上の通称「パルミサーノレポート」("Innovate America")に、「最後にはゲームのルールを変えたものだけが勝つ」と書いてある。これはまさに至言なのだ。

これに先立つ1985年の「ヤング・レポート」は、日本の製造業に対抗するために、新技術の開発とパテント重視の経営を提言した。

しかしパルミサーノレポートでは日本は外され、中国やインドなどBRICs諸国との対抗を意識して書かれたものだ。「人財」育成を提言し、中国やインドの留学生の取り込みに成功した。


イノベーション促進モデル

妹尾さんは、問題対応の構成として次の3つの切り口から分析している。これを「ソシアルイシュー・マネジメントモデル」と呼んでいる。

タイプ1.問題状況の改善
タイプ2.問題状況の解決
タイプ3.問題状況の解消

タイプ1.の改善は、携帯電話に不可欠なレアアースの例をとると、使用量低減や資源外交、携帯電話の複数番号対応や、1台の携帯電話をできるだけ長く使うことなど。

タイプ2.の解決は、都市鉱山と呼ばれる携帯電話機からのリサイクル、新しい鉱床の発見、探鉱・採掘技術の開発など。

タイプ3.の解消は、レアアースの代替材の開発、金属を使わないシステム開発などだ。

妹尾さんの記念講演では、「VHSとベータ、どっちが勝ったか?」や、「ブルーレイとHD-DVD、どっちが勝ったか?」というような質問をまとめた次のクエスチョンペーパーを配っていた。さまざまな角度から分析することのドリルだと言っていた。

妹尾教授講演20101001













出典:2010年情報化月間記念講演会配布資料

ちなみにHD-DVDでは東芝はブルーレイ連合に負けたが、中国はHD-DVDを国内標準として採用した。

そうなると「13億人のガラパゴス」になるのか、中国に売り込みたい世界の国が競って、13億人の市場にあわせるので、逆世界標準となるのか、わからないところだ。

昔のVIDEO-CDを思い出す。日本では全くはやらなかったが、中国や東南アジアではビデオよりVIDEO-CDの方がはやっていた。


インテル・インサイド

次は勝ちパターンの研究だ。インテルはCPUという基幹部品周り(PCIバス)をブラックボックス化し、インターフェースはオープンとして他のメーカーには関連部品を開発させた。さらにCPUを組み込むマザーボードの技術を開発し、台湾メーカーにノウハウを提供した。

これによりマザーボードという中間製品が安価に製造でき、パソコンメーカーが雨後のタケノコのように出現してパソコンの価格も下がった。パソコンの生産が増えれば、インテルのCPUも売れるという好循環になったのだ。

さらにインテルジャパンが始めた「インテル入ってる」=「インテル・インサイド」を広告することによって、どのメーカーのパソコンでもインテルさえ入っていれば大丈夫だろうという安心感を与え、パソコン市場の拡大に貢献した。

基幹部品が完成品を従属させたのだ。

今は自作するよりショップブランドを買う方が安いので、PCを自作していないが、筆者も10年ほど前にパソコンを自作したことがある。

パソコン自作はプラモデル作り並みに簡単だ。ファンやハードディスクなどの基幹部品をシャーシかマザーボードに取り付け、ケーブルをつなぐだけだ。

若干トリッキーなのは、CPUに断熱ジェルを塗りつけ放熱板を取り付ける作業だが、それ以外はパーツをはめ込むだけだ。

インテルの基本設計で、パソコンは誰でも簡単に組み立てられるようなユニバーサル設計となっていることを実感したものだ。

閑話休題。


アップル・アウトサイド

「アップル・アウトサイド」は妹尾教授の造語だ。アップルのiPodやiTunesなどのサービスと完成品が一体となった「完成品主導型」、あるいは「コンセプト主導型」のモデルのことだ。

iPhoneではオープン戦略を取って、インターフェースを公開し、数万もの関連アプリケーションを他社に開発させ、それがまたiPhoneの魅力を高めている。


ハイブリッドカーは電気自動車への「つなぎ?」

ハイブリッドカーの技術を向上させるのはモーターの改善が主なので、どんどん電気自動車に近くなる。

一方、電気自動車ではモジュラー化が進むので、現在の自動車のような3万点の部品の組み合わせということにはならない。

それこそ部品数百点のインドのタタ自動車が2千ドルで売り出した「ナノ」のような車が、今度は電気自動車として登場するのだ。

ちなみにナノは欧米の部品メーカーが背後で協力しており、どこまで部品数を減らせるのかという実証実験にも見えると妹尾さんは語る。

電気自動車を実用化する場合、家庭での充電以外にも、充電スタンドでバッテリー自体を交換するという方法もある。

また電力消費のピーク時には、電気自動車のバッテリーを蓄電池代わりに使って、バッテリーから逆に家庭を通して電力会社の送電網に電力を供給するという逆方向もありうる。

妹尾さんが「日本の自動車産業は15年で壊滅する」と警鐘を鳴らす理由を、この本では詳しく書いていないので、ハイブリッド車オーナーの筆者が補足しておく。

ガソリンエンジンはレシプロ(上下運動)を回転運動に変えているのでその分ムダがあり、高温反応、燃費、エンジンの密閉性、排気ガス処理、振動対策、騒音対策とさまざまな技術的課題がある。

部品一つ一つがしっくり噛み合っていないと、効率が落ち、振動や音が発生して、燃費が低下し、運転の邪魔となる。だからガソリン自動車では日本の噛み合わせ技術が生きるのだ。

とくに噛み合わせ技術がもっとも必要なのは、エンジンのガスケットだ。エンジンは鋳造品なので、組み合わせるときのすきまをガスケットをかませて密閉性を保っている。

ガスケットが悪いとエンジンからガスが抜けて、出力が上がらないという問題が起こる。

陸軍のトラック輸送部隊にいた亡くなった父から聞いた話だが、戦前の日本のエンジンは密閉性が悪く、オイル漏れだらけだったが、進駐軍のトラックのエンジンを見てオイル漏れがないのでびっくりしたと言っていた。

ところが電気自動車のモーターなら初めから回転運動なので、密閉性も高温の問題もなく、燃費の問題もない。問題は航続距離だけなので、上記のすべての技術的対策が不要となる。逆に音がしないので、近々ハイブリッド車には、人に近づくとわざとエンジン音が出る装置が付けられることになっているほどだ。

だから電気自動車はモジュール化に適しており、モジュール化したら、ガソリンエンジンのような緻密な噛み合わせは不要となり、日本の噛み合わせ技術は無用の長物になるのだ。


その他参考になった点

大変参考になった本なので、あらすじが長くなりすぎるので、特に参考になった点だけ箇条書きする。

★日清食品が開発した即席ラーメン市場が拡大したのは、特許技術のオープン戦略によるもの。

★デンソーはQRコードの技術を公開して、誰でも使えるようにした。デンソー自身はリーダー機器に技術を集中し、リーダー機器販売でビジネスを成立させようとしている。

★コカコーラは1831年に薬剤師のジョン・ペンバートン博士が開発して以来、処方は企業秘密で、特許も取っていない。特許を申請すると、技術が公開されてしまうので、特許を申請しないという戦略も有効である。

★IBM,ノキア、ソニーなどの企業が結成した「エコ・パテント・コモンズ」では、環境保護に使える特許を無償で開放して、相互に使おうというもの。

★1991年に基本特許が取得されたカーボン・ナノチューブは、大規模な用途開発がようやく進展しはじめたが、すでに特許は切れる段階に来ている。

★従来はイノベーション=インベンションだったが、今はイノベーション=インベンションXディフュージョン(廉価化)だ。

★月島機械は日本有数のプラント会社だが、プラント建設だけでなく、下水道設備の運用サービスにも乗り出している。これはIBMの「ソリューションビジネス」というビジネスモデルのプラント版である。

★妹尾さんは「真珠湾・マレー沖海戦思考」と呼ぶそうだが、「勝った理由をしっかり認識せず、負けた原因をしっかり分析せず、それらの対応を真剣に考えず、それゆえ適切な対応をしないこと」を意味するという。

IBMもインテル、アップルも一度徹底的に負けた経験を持つ。野村監督が言うように「負けに不思議の負けなし」で、負けの理由をしっかり反省しなくては、次の試合にはつながらない。

★日本企業の役員の多くは、若い時は日本の黄金時代を過ごし、バブル経済とその崩壊を通して、失われた10年を過ごしているが、頭にしみ込んだモデルは変わらない。だから「これで勝てるという方程式」を一度捨ててみるべきだと。

環境は変わったのではなく、欧米諸国に変えられたのだと。日本が垂直展開していくうちに、欧米とNIEs/BRICsのコラボレーション共闘はさらに先に進む。


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2010年12月13日

荒野の七人 黒沢映画のウェスタン版 図書館でDVDを借りた

荒野の七人 アルティメット・エディション [DVD]荒野の七人 アルティメット・エディション [DVD]
出演:ユル・ブリンナー
20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン(2007-02-02)
販売元:Amazon.co.jp
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図書館で予約して「荒野の七人」のDVDを借りた。

ご存じ黒澤明監督の名作「七人の侍」にほれ込んだユル・ブリンナーが翻訳権を買い取り、ジョン・スタージェス監督が制作したウェスタン映画だ。

ユル・ブリンナーは、当時無名に近かったスティーブ・マックイーン、ジェームズ・コバーン、チャールズ・ブロンソンなどを起用し、彼らが大スターとなるきっかけとなった。



映画を見るときに興ざめなので、簡単にだけあらすじを紹介しておくと、「七人の侍」のように七人のガンマンが、盗賊に悩まされている貧しいメキシコの村人の要請を受けて、村の防衛に立ち上がる。

「七人の侍」のように村人に銃の操作を教えて、自分たちで防衛するように訓練するが、途中で思いがけないことが起こる。

最後は七人のガンマン対盗賊の迫力ある銃撃戦だ。

傷ついた盗賊がウマに引っ張られるシーンや、長老が村から離れて住んでいたり、若いガンマンとメキシコ娘の恋など、「七人の侍」の翻案であることがわかって楽しい。


DVDも図書館で予約して借りられる

筆者の住んでいる町田市の図書館では、AV資料は予約できないが、筆者の属している協会がある港区の図書館はDVD,CDとも貸し出し予約が可能だ。

書架にはたいした映画がないので、いままであまり利用していなかったが、今回図書館のホームページを見て驚いた。

港区図書館1







なんとDVDは4,000本、CDだと39,000本の在庫があるのだ。DVDのうち、邦画は300本、洋画は1,000本だ。

港区図書館2







筆者の借りた「荒野の七人」の前後のタイトルは次の通りだ。

港区図書館3







右端の貸出のところに、×印がついているのが、現在貸し出し中の作品だ。これを見ると、同じページの10作品すべてが現在貸し出し中なことがわかる。

DVDは在庫があっても、予約者から予約者に渡るので、書架にはずっと戻らないことがわかる。

やはり昔の名作はいい。感動を新たにした。

すべての図書館でAV資料の予約ができるわけではないので、もよりの図書館でDVD、CDの貸出予約ができるかどうかチェックして欲しい。


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2010年12月10日

米国発ブログ革命 新聞よさようならマイクロメディアよこんにちは

米国発ブログ革命 ルポ (集英社新書)米国発ブログ革命 ルポ (集英社新書)
著者:池尾 伸一
販売元:集英社
発売日:2009-06-17
おすすめ度:4.0
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中日新聞の記者でコロンビア大学東アジア研究所所員やニューヨーク駐在員を経験した池尾伸一さんの本。

新聞・TVなどの既存メディアが弱体化し、地方新聞は廃刊する一方、記者達は自分たちが情報発信するブログなどで高品質のニュースを配信して生き抜こうとしている米国の現状をレポートする。

2008年の大統領選挙の際に、オバマ大統領のネット献金による資金調達が話題になった。選挙期間を通じて集めた資金は5億ドル、My.BarakObama.comの登録者は1300万人にものぼった。大統領に当選した後は、Organizing for Americaという組織に衣替えした。


多様な意見を流すネットメディア

ネットの選挙への影響力は資金集めだけではない、ネットメディアも新聞・TVなどのマスコミに代わって、アメリカの良さである多様性を反映する意見を一般大衆に流している。

この本ではそれらの代表例を紹介している。


dailykos

まずは中南米系移民家庭に育った元会社員マルコスの始めたdailykos。野党もまともな報道機関もなくなったと嘆くマルコスは自分のサイトでリベラルな意見を発表している。そのサイトdailykosは2009年には月間の訪問者が2千万人を超え、支持者が拡大している。

誰でも自分の意見を書くことが出来るダイアリーというコーナーを設けていることがこのサイトが人気を博している理由の一つだ。

2007年8月のオフ会にはバラク・オバマ、ヒラリー・クリントンなど民主党の大統領候補が勢揃いしたという。

「誰もがトーマス・ペインになれる」と、"What Would Google Do?"の著者でニューヨーク大学準教授のジェフ・ジャービスは語る。
What Would Google Do?What Would Google Do?
著者:Jeff Jarvis
HarperBusiness(2009-02-01)
販売元:Amazon.co.jp
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トーマス・ペインはアメリカ独立戦争の時、建国の精神的支えとなった「コモンセンス」の著者だ。

コモン・センス 他三篇 (岩波文庫 白 106-1)コモン・センス 他三篇 (岩波文庫 白 106-1)
著者:トーマス ペイン
岩波書店(2005-03-16)
販売元:Amazon.co.jp
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マルコスは最近"American Taliban"という、共和党右派をタリバンと同じと糾弾する本を出したばかりだ。

American Taliban: How War, Sex, Sin, and Power Bind Jihadists and the Radical RightAmerican Taliban: How War, Sex, Sin, and Power Bind Jihadists and the Radical Right
著者:Markos Moulitsas
Polipoint Press(2010-09)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る


talkingpointsmemo

政治関係の調査報道ではブログ形式のインターネットニュースサイトtalkingpointsmemo.com=TPMを紹介している。TPMは月間訪問者75万人、ゴンザレス司法長官を辞任に追い込むスクープ記事を載せたことで有名だ。

ブログ読者から自分の地域の検事が解任されているという情報が重なり、捜査つぶしの権力の横暴が起こっている疑いがあるとTMPの記者が気づいたからだ。

司法省が600ページにものぼる報告書を出してきたときは、TPMは全体を10のパートに分け、常連の読者に分析を頼むというWikipediaの手法を取っている。

TPMはフリーランスジャーナリスト、マーシャルの始めたブログが原型で、次第に読者が増えたので、規模を拡大した。広告収入では賄えないので、読者に資金協力を頼むという方法で運営している。


huffingtonpost

huffingtonpost.comはリベラル系インターネット新聞で、月間400万人がアクセスするという。ニューヨーク大学ジャーナリスト講座とのジョイントベンチャーが"off the bus"で、大統領選挙中は大統領の遊説バスに同行する既存メディア(=on the bus)の向こうを張って市民メディアをつくろうというものだ。

「ペンシルベニアの田舎町の人々は失業に苦しみ、社会を恨み、銃や宗教におぼれている」という大統領選挙中のオバマのペンシルベニア州での失言も、主婦の視聴者が投稿してはじめて明らかになったものだ。


中国関係のフリープレスサイト

今年のノーベル平和賞をめぐって中国の報道規制があからさまになり、各国のメディアから非難を浴びている。中国の抱える矛盾と腐敗のニュースを英語と中国語で流しているのが博訊(ボシュン)boxum.us/news/publishだ。

中国出身のソフトウェアエンジニアのワトソン・メンが2000年から運営しているという。

中国の真実の姿を国民や外国に伝えたいとワトソンは言うが、数万人ともいわれるサイバーポリスを擁する中国政府との戦いは熾烈だ。

これまで記事を送ってきた市民は数千人、訪問者は毎日20万人を超すという。

このサイトでは多くの警察の横暴や腐敗事件などを報道している。貴州省の中学生レイプ殺人事件で警察が動かなかったので、中学生が暴動を起こしている事件や、四川省大地震の救援物資が被災者に届かず、官僚が地元商人に横流ししている腐敗事件などだ。

中国政府は数万人のサイバーポリスを使って、DoS攻撃や、中国にいる報道記者の逮捕など様々な妨害をしているという。南京の女性ブロガーも軟禁されているという。

中国のYahoo!はYahoo!メールを使った人権運動家の個人情報を当局に流し、人権運動家が逮捕されることに繋がったという。

筆者も9月に上海に出張したが、中国ではTwitterもFacebookも使えないことにびっくりした。中国当局がSNSサイトをブロックしているのだ。

日本にいるとわからないが、中国には自由主義諸国のような報道の自由はない。たとえば対日デモに参加している学生なども、中国政府の一方的な報道に踊らされている一面がある。


特徴あるサイトが紹介されている

http://newhavenindependent.orgは、ハイバーローカルメディアだという。元々は人口12万人のコネチカットの町NewHavenでNew Haven Advocateという新聞の記者をやっていたポール・バスが立ち上げたローカルメディアサイトだ。

記者は4人、決まったオフィスもない。地元記事中心だ。米国のメディア業界はコンログマリット化が進んでいる。収益を上げ、株価を上げるために、メディアの買収と統合、合理化が相次ぎ、経費のかかる取材部門は切りつめが進んでいる。

New Haven Advocateもトリビューン社に買収され、取材費や人員が大幅にカットされ、まともな取材ができなくなっていたという。

結局NPO形式で税額控除できる寄付を得てNew Haven Independentサイトを立ち上げた。

http://aliveinbaghdad.org/はイラクの一般人が記者となってニュースを投稿するというサイトだ。イラクの治安は悪いので、CNNや大手放送局の記者たちは米軍キャンプを離れられない状況だ。

プロの記者に代わってイラク人5人を雇って、ビデオカメラを持たせて、イラクから報道させている。イラク人の給料は月4-6万円程度だという。イラク人が撮影する映像は生々しいものが多く、一人のイラク人記者はマシンガンで惨殺されたという。

ウィスコンシン州のマディソンにあるhttp://storybridge.tvはローカルテレビ局でキャスターをやっていたケイティが独立してカメラマンと2人でやっているインターネットテレビ局だ。

ローカルテレビ局も新聞同様コスト削減のため制作費が削られており、それに不満をもったケイティが飛び出して設立した会社だ。YouTubeにも専用チャンネルを持っている。

個人発のニュースや投稿は良いことばかりではない。だましやニセ情報も投稿される場合があるので、情報の真偽のほどの確認が難しいという問題がある。


米国の新聞社の苦境

米国の新聞社の苦境もひどい。著者の池尾さんは「のたうつ恐竜」と評している。

「LAタイムズ」はトリビューン社に買収され、1200人いた記者を800人にして、18ある海外支局を半減する方針を打ち出し、記者の反発を招いている。新しい経営陣に反対した編集長はクビになり、残る記者達はバッチをつけて無言の抵抗をしているという。

トリビューン社は結局LAタイムズをシカゴの不動産王サミュエル・ゼルに売却し、記者のさらなる削減に繋がった。

米国の新聞発行部数は1990年の6300万部から、2006年は5300万部まで落ち込み、広告収入は2000年の467億ドルから2007年には422億ドルになった。

「ウォールストリートジャーナル」はメディア王マードック氏に売却された。2008年9月のリーマンショックは新聞業界にも影響を与え、伝統あるクリスチャン・サイエンス・モニターはオンライン配信に変え、紙は週末のみとした。

1970年は23万人いた会員が、5万5千人にまで減った。キリスト教団体の支援も限界があるので、記者や支局の数は減らさないで、ウェブ版のみにしてコストを下げ、クオリティを維持する方針だという。

廃刊に追い込まれたローカル紙は続出している。フィラデルフィアのフィラデルフィアインカラー、デンバーのロッキーマウンテン・ニューズなど。

ニューヨークタイムズはウェブ版と紙版の編集部を統合し、ウェブ広告の拡大で事業継続を目ざしている。

最後に米国メディアの「ネットワークト・ジャーナリズム」というコンセプトを紹介している。ネットワークトという意味はプロの記者と一般読者、フリージャーナリストなど、報道機関で働く者全部と視聴者との共同作業でメディアをつくろうという考えだ。

これからも個人メディアでインフルエンサーが増えてくると、プロのライターとの役割分担という手法もたしかに出てくると思う。

具体例が多く、いずれ日本の新聞・TV業界も同じような動きになると思うので、その意味で参考になった。


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2010年12月08日

フレンチ・パラドックス なぜ「大きな政府」なのにあの国はうまくいっているのか

フレンチ・パラドックスフレンチ・パラドックス
著者:榊原 英資
販売元:文藝春秋
発売日:2010-06-11
おすすめ度:4.5
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かつて「ミスター円」と呼ばれた元大蔵省財務官で、現在は青山学院大学教授の榊原英資(えいすけ)さんの最新刊。

フレンチ・パラドックス表紙












表紙の帯には榊原さんの写真とキャッチコピーが載っている。”なぜ「大きな政府」なのに、あの国は、うまくいっているのか?”

榊原さんの著書はこのブログでも紹介している。民主党の政策検討のブレーン的な役割を果たしてきた。

英国ではサッチャー首相、米国ではレーガン大統領、日本では小泉政権が「小さい政府」を標榜し、民営化政策を進めてきた。しかし最近は北欧型の大きな政府にすべきと主張するグループも台頭してきている。


フレンチ・パラドックス

榊原さんも北欧型の「大きな政府」派だが、手本にすべきはフランスだと主張する。

フレンチ・パラドックスとは、一般的にはフランス人はバターや肉などをたくさん食べるのに心臓病が少ないというパラドックスのことを言い、フランス人がよく飲む赤ワインのポリフェノールがコレステロールを下げる働きをしていることが原因と言われている。


日本はすでに小さい政府

榊原さんは、日本は既に諸外国に比べると「小さい政府」だと指摘する。

国民負担率












出典:本書17ページ

2001年4月に成立した小泉政権は「聖域なき構造改革」を標榜し、郵貯民営化など、様々な民営化を推進するとともに、従来禁止されていた製造業への労働者派遣を解禁した。

雇用が正規雇用と非正規雇用に二分化し、格差が拡大、アジア諸国へアウトソーシングされ、先進国では雇用が減少している。グローバリゼーションの流れは止まらず、デフレも続くだろう。


フランスの少子化対策

フランスの少子化対策は100年の歴史がある。

フランスの人口は18世紀末にはイギリスの3倍だったが、1900年にはフランス3800万人、ドイツ5600万人、イギリス3200万人と、イギリスに近づかれ、ドイツに大きな差を付けられた。1916年には出生率は1.23まで低下した。

このため1932年に家族手当を制度化し、教育支援や女性の労働環境を整備する等の様々な政策を打ち出した。

現在は専業主婦比率は2割を切っており、ほとんどが共稼ぎ家庭だ。子ども手当は14歳以上は年齢加算もある。産休(16週間)、育児休暇制度、補足手当、出生手当、3歳未満の子ども加算などがある。

もちろん託児システムの完備も見逃せない。3ヶ月から3歳までの子どもを預かる公共の託児所がある他、私立の託児所もある。

3歳から5歳までは無料の公立幼稚園があり、空きがあれば2歳から預けることは可能だ。給食も支給され、延長保育もある。幼稚園が休みの時や不定期に預かって欲しい時は、臨時託児所も完備している。

フランスで子ども二人を育てる家族は、成人するまで3万9千ユーロ(500万円)の家族手当の支給が受けられるという。

フランスの特徴は婚外子が多いことだ。フランスの場合、事実婚が多く、2008年には婚外子が52%だ(日本は婚外子は2%)。しかしフランスでは嫡出子と非嫡出子との法的な差別はない。


大学まで教育は無料

幼稚園を終えると義務教育が始まり、6歳から16歳までが義務教育だ。授業料は無料で、私立の場合でも国からの補助があるので、年間10万円程度に抑えられている。学童保育施設もあり、放課後に子どもを預かってくれる。収入が少なければ無料だ。

義務教育は6歳が準備学級、7歳から4年間小学校、中学校が4年、2年間が高校、その後は職業訓練を受ける人と、バカロレアという大学入学資格試験を受験して大学に進学する人と分かれる。

大学は9割が国立で、授業料は無料だ。グラン・ゼコールという高等教育機関は国家公務員待遇となり、給与が支給される。


フランス型を目ざす政策

榊原さんが提唱するフランス型社会を目ざす政策は次の3つだ。

1.格差を縮小し、出生率を増やすための、現役世代向けの社会保障政策
2.日本の国際競争力を高めていくための教育政策
3.次の成長分野を日本が先導していくための産業政策

そしてその財源は国債発行を充てるという。

日本政府の財政赤字はGDPの9.3%、赤字の累積額はGDPの約2倍と先進国の中ではダントツで悪いが、日本国債の94%が国内で保有されている。

ムーディーズも日本国債の格付けをAa3からAa2も引き上げており、発行利回りが先進国の国債の中でも最低レベルの1.3%なのに売れ残ることはない。

地方を入れて、国公債発行残高が900兆円とすると、国民の資産が1、400兆円あるので、まだ500兆円ほどの資産増加であり、国債の発行余地はあるという。

ちなみに今度紹介する経営共創基盤CEOの冨山さんはまったく違うことを言っている。

榊原さんは国民資産はまだ国債発行の余裕があると語り、冨山さんは100兆円の蓄えしかないという。最大の違いは冨山さんは国民負債(300兆円)を国民金融資産(1400兆円)から減じていることだ。
カイシャ維新 変革期の資本主義の教科書カイシャ維新 変革期の資本主義の教科書
著者:冨山 和彦
朝日新聞出版(2010-08-20)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る

冨山さんの指摘は斬新だったので、筆者も平成20年度国民経済計算統計を調べてみた。

一般に言われる国民の金融資産1,400兆円は、負債を引いていないグロスの資産で、ネットの試算だと1、000兆円であることがわかった。

一方政府の負債は970兆円だが、資産を差し引くとネットの負債は500兆円だ。

だから結論としては榊原さんの議論は正しいことになる。つまりネット同士の比較だと、政府のネット負債は500兆円、民間のネット資産は1、000兆円。榊原さんの言うように理論的には国内で500兆円の国債引き受け余地はある。

もっとも国民が資産500兆円をすべて国債に使うとは思えないので、あくまで机上の議論ではあるが、政府がどんどん国債依存高を高めているのは、こういった背景があるからだ。

日本の資産総括表負債残高総括エクセル表のリンクを入れておくので、一度自分でもチェックすることをおすすめする。

閑話休題。


政府は何をなすべきか

榊原さんは政府がなすべき政策として次のようなものを挙げている。

1.景気刺激策
  マニフェスト通り、ガソリン暫定税率を撤廃。

2.マネのできない技術力の高い製品をつくること。

3.医療・観光・教育サービスを充実

4.英語を公用語に
  日本の最大の弱みは語学力である。日本マーケットはそこそこ大きいので、翻訳マーケットも見込める。

ちなみに前出の冨山さんは、英語についても全国民のレベルを上げるのではなく、一流大学を中心にトップレベルの英語力を上げるべきだと主張する。

5.道州制は非現実的なので、廃県置藩で地方分権を


たぶん批評家から言わせれば、「フランスでは」という榊原さんは「出羽の守(ではの守)」なのだろうが、フランスの教育や育児支援制度は日本でも参考になると思う。

具体的な政策提言はやや弱い気もするが、少子化対策の先進国、フランスに着目して日本のことを考えるのも有益と思う。


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2010年12月06日

アメリカの小学生が学ぶ歴史教科書 アメリカ史入門に最適

アメリカの小学生が学ぶ歴史教科書アメリカの小学生が学ぶ歴史教科書
著者:村田 薫
ジャパンブック(2005-01)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る

会社で簡単なアメリカ史の本について聞かれたので、この本を推薦した。

この本はバージニア大学のハーシュ教授が小学生用に編纂した文学、歴史、地理、美術、音楽、数学・自然科学の6冊の教科書の中から、アメリカ史の部分を抜き出して一冊にしたものだ。

アメリカには教科書検定はなく、評判の良い教科書を現場の教師が使うというやり方で、ハーシュ教授の教科書は最も人気のあるものの一つだという。

この本は平易な英語の原文と日本語訳を対訳しているので、アメリカの小学生が学ぶ英語はどんなものかわかって面白い。

筆者は左側の英語で読んだが、わかりやすい表現で読みやすい。

難しいところは、右側の日本語訳を参照すれば良いので、英語の勉強もかねて、左側の英語版に挑戦して欲しい。


アメリカの旧跡

筆者は合計9年間アメリカピッツバーグに駐在したので、ワシントン、ボルチモア、ゲティスバーグには車でよく行った。

ピッツバーグからは車で4-5時間の距離だ。

家族で時々ニューヨークまで足を伸ばしたが、車でニューヨークまで行くと7-8時間かかる。

リンカーンの演説で有名な南北戦争の激戦地ゲティスバーグは、地域一帯がナショナル・セメタリー(国家管理墓地)となっており、そこら中に各州の記念碑や当時の大砲などが展示されている。

この本では、ピケッツ・チャージ(Pickett's Charge=ピケットの突撃)で有名なゲティスバーグでの戦闘についても紹介している。

各所に置かれた「星条旗の由来」とか、「自由の女神」、「チャップリン」、「ウッドストック世代」などのコラムも面白い。

小学生向けの教科書でもあり、フランクリン、ワシントン、ジェファーソン、ハミルトン、マディソンなどの建国の英雄は、それぞれ簡単に紹介されている。


過去の反省も盛り込まれている

アメリカは移民が集まって出来た自由と平等の国だが、南部の黒人は1960年代までは二級市民扱いされていた。日系人は第2次世界大戦中、収容所に隔離されていた事実も記述されている。

アメリカは海外では人権のために戦っていたが、本国では多くの罪のない人々の人権を剥奪したとはっきり語っている。

このブログで紹介したアメリカが第1次世界大戦に参入するきっかけとなった、ツィンメルマン電報事件も紹介されている。

決定的瞬間―暗号が世界を変えた (ちくま学芸文庫)決定的瞬間―暗号が世界を変えた (ちくま学芸文庫)
著者:バーバラ・W. タックマン
筑摩書房(2008-07-09)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る


重要なイベントは写真入りで紹介

この本では重要なところでは写真を入れているので、どこが小学生に覚えさせたいかという編集方針がわかる。

たとえば第2次世界大戦の紹介で、写真が出てくるのは、つぎのところだ。

・ノルマンディー上陸
・真珠湾攻撃(詳しく説明されている)
・ホロコースト
・ガダルカナル島の浜辺(日本軍兵士の遺体が重なっている)
・日本人収容所
・Dデイ(ドイツ軍の機関銃陣地)
・Dデイ(アメリカ軍の上陸)
・ヤルタ会談
・フランクリン・ルーズベルト(エレノア・ルーズベルトの写真もコラムで紹介)
・硫黄島戦勝記念碑
・広島の原爆投下(被災後の原爆ドーム)
・長崎の原爆投下

ちなみに20世紀になって多くの人が戦争で死ぬようになった最大の原因は、機関銃という大量殺人兵器が登場したからであると述べている。

最近は日本の若者は日本とアメリカが戦争したことを知らない人もいるようだが、アメリカは小学生から真珠湾攻撃やホロコースト、原爆について学ぶのだ。

原爆の記述では、ドイツが負け、世界で日本だけが連合国と戦っていたが、それでも日本本国には2百万人の軍隊を温存し、日本国民も死ぬまで戦うよう訓練されていたので、アメリカの人的被害を防ぐために原子爆弾の投下をトルーマンは命じたと書いている。

そして日本政府は日本全体の破滅を避けるために、降伏したのだと。

第2次世界大戦後については、冷戦、マッカーシズム、朝鮮戦争、アメリカの黄金時代の50-60年代、ベトナム戦争、キング牧師の黒人解放運動、キューバ危機、ケネディ暗殺、宇宙開発、ウォーターゲート事件などが簡潔に紹介されている。

最後は1976年7月の独立200年祭でこの本は終わっている。


アメリカの短い歴史

それにしてもアメリカの歴史は短い。

この本は氷河時代に、当時は陸つなぎだったアジアからアメリカ・インディアンが動物の獲物を渡ってきた後、1万2千年前に氷が溶け、アジアとアメリカが分離したという歴史から書き始めている。

しかし、そのすぐ数ページ後は、もうコロンブスになる。

ピルグリムファーザースなどの初期の開拓者の話が数ページ続き、その後はもう1773年のボストン・ティーパーティだ。

ちょうどアメリカ中間選挙で、共和党の保守派を支持するティーパーティが勢力を拡大しているが、それの元祖である。


アメリカ人が自分の国の歴史についてどのように教わっているのかを知ることは、アメリカとビジネスをしている人には基礎知識として不可欠だと思う。

中学や高校で学んだ歴史のおさらいができ、英語の教材にもなる。2005年発行の本なので、本屋には置いていないかもしれないが、図書館には確実に置いていると思う。

一度もよりの図書館の蔵書検索で「アメリカの小学生が学ぶ歴史教科書」でチェックして欲しい。


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2010年12月04日

仕事に使えるゲーム理論 ケーススタディが満載

仕事に使えるゲーム理論仕事に使えるゲーム理論
著者:ジェームズ ミラー
阪急コミュニケーションズ(2004-02)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る


ゲーム理論を応用したケースを多く並べて簡単に解説した本。

参考になった事例をいくつか紹介する。

★コルテスはメキシコに上陸して、すぐに船を燃やした。強大なアステカ王国に反抗する部族を結集させて本気で戦わせるために退路を断つ作戦にでたのだ。

中国の故事が起源だと思うが、この退路を断つという作戦は、たとえば包囲戦などで立てこもる敵に、こちらの戦闘意欲がゆるぎないものであることを示し、敵の降伏を促す可能性がある。

★映画「ビューティフルマインド」で、ナッシュ均衡として暗示されている、バーで4人の男が一人の超美人と4人の普通の女性に言い寄るケースについて解説している。

ナッシュは美女を無視して、他の4人に絞るべきだと主張する。しかしこれはナッシュ均衡ではない。

ナッシュ均衡は、他の3人が普通の女性で満足し、一人が超美人にアタックする場合と、2~3人が超美人にアタックするが、フラれても良いと思っている状態だ。

相手の戦略に対して、どのプレーヤーも自分の選んだ行動を後悔しない状態がナッシュ均衡だと。

★囚人のジレンマを解消するために、マフィアは警察に協力した者は無慈悲に殺す。

もし捕まってもマフィアのメンバーなら確実に刑期を短くできるのだ。そういう連中が殺人を犯す確率は高くなり、マフィアは犯罪組織の中で優位性を保てるのだ。

★CEOが会社の資産価値をたとえ1%でも高めてくれれば、CEOに莫大な報酬を与えても良い。だから良いCEOには各社のオファーが殺到し、年俸が急騰するのだ。

★喫煙者は先のことより現在のことを大事にする人だから、タバコを吸う人を信頼するのはほどほどにした方が良い。逆に運動習慣のある人は、将来に備えた行動をしているので、相手を裏切ることは少ないだろう。

★納入業者と結ぶ「最優遇顧客協定」は顧客に安心を与える一方、業者には価格競争を緩和するメリットもある。

筆者の駐在していた時も、たとえばGMとフォードなどは、仕入先と「最優遇顧客協定」を無ずぶことが多かった。たとえば鉄鋼メーカーなどがフォードと価格値下げで合意すると、GMも自動的に値下げを受けられる。

だから力のある会社はこのような「最優遇顧客協定」を要求するのだ。

★求人では逆選択がありうる。支払う給料に最も満足する人が、最も低い資質の持ち主だからだ。求職者は熱意を過剰に表すべきではない。むしろ気のないそぶりをして別の会社からも魅力的なオファーが殺到していると雇用者に思いこませる方が良い。

たとえば年俸8万ドルで求人広告を出すと、最もその仕事に就きたいと思っているのは他の会社では8万ドルももらえない人物だからだ。本当に雇いたい人は、たぶん応募すらしてこない。その人は8万ドル以上稼げる有能な人物だからだ。

★アメリカのバレンタインデーでは男が女性にプレゼントを贈る。(筆者ははっきり記憶がないが、男でも女でもプレゼントを贈ってよかったような気がする)

バレンタインデーは多くの女性にとって最後の審判の日なのだと。花をもらえなかった女性は、自分に夢中な男性がいないことを思いしらされる。

少しでも気がある女性がいれば、花を贈るしか男性に選択肢はないのだ。

★共産圏の共同農場はなぜ成功しないのか。収穫した作物から自分の分は一部しかもらえないなら、自分の得る分以上に収穫するインセンティブはなくなる。これがスターリンや毛沢東時代の共同農場で生産が停滞し、大飢饉が起こった理由だ。

スターリンや毛沢東がゲームの理論を理解さえしていれば、何百万という犠牲を出さずにすんだはずだと。


多くのケースが出ているので、もし自分の仕事などで関係のあるケースがあれば役に立つと思う。参考になる本だった。


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2010年12月01日

朝鮮戦争を知らずして今を語るべからず ザ・コールデスト・ウィンター

平成22年12月1日追記:

新聞・テレビなどのマスコミで、朝鮮戦争のことが連日取り上げられている。

しかしどれも断片的だ。

北朝鮮が当初からいかに冒険主義国家だったのか。

金日成はソ連で赤軍将校となったコネもありスターリンの傀儡だったが、一旦破竹の奇襲が跳ね返されたら、毛沢東の陰に隠れて陰の人になりさがったのか。

朝鮮戦争は実は米中戦争だったこと。

ソ連と中国は当時一体で、唯一の核配備国米軍に対峙していたこと。(1949年にソ連は最初の核実験に成功している。中国が核実験に成功したのは1964年のことだ)

などなどが全然伝わってこない。

現状を理解するために。朝鮮戦争を描いたハルバースタムの遺作「コールデスト・ウィンター」を再掲する。



平成22年11月25日初掲:

+++今回のあらすじは長いです+++

北朝鮮が韓国のヨンピョン島を突如砲撃した。まさに朝鮮戦争の勃発の時のように、何の前触れもなく一方的に砲撃をしてきた。

朝鮮戦争がいまだに終戦しておらず、休戦状態にあることを思いしらされる。朝鮮戦争を取り上げたハルバースタムの遺作を紹介する。

ザ・コールデスト・ウインター 朝鮮戦争 上ザ・コールデスト・ウインター 朝鮮戦争 上
著者:ディヴィッド・ハルバースタム
販売元:文藝春秋
発売日:2009-10-14
おすすめ度:4.0
クチコミを見る

アメリカのジャーナリスト ディヴィド・ハルバースタムの遺作。2007年にこの本を書き上げて、ゲラに手を入れた翌週、ハルバースタムは交通事故で亡くなった。

ハルバースタムの作品は今まで余り読んでいなかったが、会社の友人に勧められて「ザ・コールデスト・ウィンター」、ベトナム戦争を取り上げた「ベスト・アンド・ブライテスト」などを読んだ。

「ザ・コールデスト・ウィンター」は、2009年10月に日本語訳が出版されている。

朝鮮戦争を取り上げた作品に「忘れられた戦争"The Forgotten War"」という本があるが、第2次世界大戦とベトナム戦争に挟まれた朝鮮戦争は、まさに忘れられた戦争という言葉が的を射ているとハルバースタムも評している。

The Forgotten War: America in Korea, 1950-1953The Forgotten War: America in Korea, 1950-1953
著者:Clay Blair
Naval Inst Pr(2003-03-31)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る


筆者の世代は戦後史は試験に出ない(たぶん歴史の評価が定まっていないので、試験に出せない?)ということで、高校の世界史の授業では教科書自習だったので、戦後史については本で学ぶことが多い。

北朝鮮が韓国のヨンピョン島を砲撃したことから朝鮮半島の情勢が緊迫化しており、北朝鮮の指導者も金正日から金正恩(キムジョンウン)に交代することが決定した現状、アメリカ、北朝鮮、韓国、そしてソ連の代理の中国がまともに戦った朝鮮戦争のことを知っておくのも意義があると思う。

朝鮮戦争は1950年6月25日、北朝鮮の精鋭7個師団(約10万人)が3週間で朝鮮半島全土を制圧するもくろみで、韓国に侵入して始まった。

北朝鮮の指導者金日成は、1949年10月の国共内戦での中国共産党の勝利の後は、自分が朝鮮を統一するのだと言って、ソ連のスターリンの支援を受け、中国の国共内戦を人民解放軍と一緒に戦った北朝鮮軍がソ連の武器を使って十分に準備をしての行動だった。

北朝鮮軍は3週間で朝鮮半島を制圧する予定だった

当時の国務長官のディーン・アチソンのミスで、アメリカの当時の防共ラインは日本海に引かれており、韓国には小規模な軍事顧問団しか置いておらず、侵略に対する備えを欠いていた。だから歴戦の勇者の北朝鮮軍は首都ソウルを含む韓国を蹂躙し、8月には韓国軍と米軍顧問団は南の釜山周辺に押し込められ、日本海に追い落とされるのも時間の問題となっていた。

当時はソ連と中国は緊密で、スターリンと毛沢東は朝鮮支援について話しあい、アメリカは参戦しないだろうが、日本が出てきたら中国が参戦するとシナリオを想定した上での金日成の軍事的冒険だった。

このとき北朝鮮軍の先頭で活躍したのが150両のソ連軍のT34/85戦車だ。

800px-Char_T-34






出典:Wikipedia(以下別注ない限りWikipedia)

米軍の持っていた60MMバズーカ砲はT-34に対抗できなかったので、急遽90MMバズーカ砲が大量投入された。ちょうど両方のバズーカが写っている写真がWikipediaに載っていた。90MMに比べると60MMはまるでおもちゃのようだ。

Bazookas_Korea







朝鮮戦争は「歴史から見捨てられた戦争」、「20世紀最悪の胸くそ悪い小戦争」などと呼ばれるが、険しい地形と朝鮮の冬の凍てつく寒さは米軍将兵を悩ませたという。

当時のトルーマン大統領は、北朝鮮が侵略してきた4日後に記者会見で、「戦争ではない。もっとも事実上そういうことにはなるが」と歯切れの悪い表現をし、「国連のもとでの警察行動」と呼んでも良いと答えた。

第二次世界大戦で勝利した米軍は、戦後5年間で定員も装備も足りない軍隊に成り下がり、おまけに朝鮮の険しい地形は工業力の象徴である戦車に頼る軍隊には最悪だったという。

当時の韓国の大統領はハーバードで学位を、プリンストンで博士号を取得して、アメリカに35年間生活してロビーストとして活動していた李承晩だった。

現在でも朝鮮戦争は休戦が成立したままで、依然として戦争は正式には終結していない。停戦までの米軍の死者は3万3千人、10万人以上が負傷した。韓国側の損害は死者41万人、負傷者43万人、北朝鮮・中国の死者は推定で150万人と言われている。

マッカーサーの甘い見込み

マッカーサーは朝鮮戦争勃発当時は日本を民主的な社会につくりかえるのに熱心で、朝鮮には関心を持っていなかった。ちょうど日本を訪問していたアリソンとダレスに、自分の功績を自信満々に説明した。朝鮮戦争も威力偵察に過ぎないだろうと軽くあしらっていた「朝鮮でパニックを起こすいわれはない」。

しかし部下より先にアリソンから大規模な戦闘になっていることを知らされると、翌日はひどく落胆し、今度は「朝鮮全土が失われた」と言っていたという。

マッカーサーはすでに70歳で、パーキンソン病に罹って、集中力の持続時間が限られ、手が震えていたという。

不意を衝かれた米軍(後に国連軍となる)・韓国軍は、圧倒的な武力の北朝鮮軍にすぐに釜山周辺まで押し込まれたが、現地司令官ジョニー・ウォーカーの獅子奮迅の指揮で、なんとか2ヶ月持ちこたえた。

米軍は大砲、迫撃砲がなかったので、バズーカ砲とクワッド50という装甲車に載せた4連マシンガンが有効な武器だったという。

この間マッカーサーは7月に台湾の蒋介石を訪問した。蒋介石を朝鮮戦争に招き入れるかどうか検討していたからだが、トルーマンはマッカーサーの独走をカンカンになって怒ったという。マッカーサーは台湾を「不沈空母」と呼んでいた。


9月の仁川上陸作戦が大成功

マッカーサーがほぼ独断で決めた9月15日の仁川上陸作戦で背後を衝かれて北朝鮮軍は敗走した。毛沢東は仁川上陸を予想していて、軍事参謀を金日成の元に送り注意を喚起したが、金は聞き流したという。

9月15日は仁川がなんと9.6メートルという最大潮位になる日で、これなら上陸用舟艇を長い危険な砂浜でなく岸壁に直接乗り付けられる。この日を逃すと1ヶ月後まで待たなければならないというぎりぎりのタイミングだった。「マッカーサーの生涯に軍事的に天才だったといっていい日が1日あった」と言われるゆえんだ。

国連軍・韓国軍はソウルを回復、10月には38度線を北上して平壌を陥落させた。「いまやマッカーサーを止めることはできない」とメディアは書き、アチソン国務長官はマッカーサーを「仁川の魔法使い」と呼んだ。

10月16日のウェーキ島でのトルーマンとの会見では、中国は駐中国インド大使経由、参戦すると警告を発していたが、マッカーサーは中国軍は決して参戦しないと請け合っていた。もし参戦してもひどい目にあわせてやると。マッカーサーはトルーマンに対して敬礼しなかったが、トルーマンは問題にしない様子だったという。

ワシントン上層部は平壌附近から攻め上がらず、中国軍の参入を招かない腹だったが、マッカーサーはワシントンの制限を無視して、10月末にはついに中国国境の鴨緑江まで攻め上がった。マッカーサーが従うのは、自らの命令だけであると信じられていたのだ。


クリスマスまでには戦争は終わる

得意の絶頂にあるマッカーサーはクリスマスまでに戦争は終わると公言し、朝鮮向けの武器弾薬をハワイに送り返す準備をしていた。

マッカーサーは自分は東洋人の心理を読むエクスパートだと自認していたが、マッカーサーには日本軍の意図と能力を読み違え、第二次世界大戦緒戦でフィリピンから逃げ出した前科があった。

金日成は南朝鮮から敗退するとすぐにソ連軍の支援を求めた。スターリンは初めから戦闘部隊は出さないと決めていたが、中国なら出すかもしれないと答えた。毛沢東は悩んだ末に金日成の援助要請に応じた。

前年12月に中国を統一してモスクワを初めて訪れた毛沢東はモスクワで冷遇された。会食も拒否され、やっとのことでスターリンに会ったが、軍事援助はわずかで、領土問題について譲歩を迫られた。「虎の口から肉を取るようなものだった」という。

これは筆者の推測だが、ソ連への憎悪から毛沢東は北朝鮮を自分の配下に引き入れるチャンスだと思ったのだろう。毛沢東はまずは12個師団(20万人)の大軍を義勇軍として朝鮮半島に派遣した。補給を船に頼らなければならない国連軍に対して、中国なら地の利があるというのが判断理由の一つだった。

スターリンは当初ソ連空軍の支援を約束していたが、結局空軍支援は鴨緑江以北にとどめ、主戦場の鴨緑江以南は支援区域から外した。毛沢東が朝鮮への友愛からではなく、自国の利害から介入したこと、そして中国がいずれ台湾を攻撃する場合には、ソ連の空軍と海軍に依存する他ないことをスターリンは知っていた。

毛沢東は激怒したが、ソ連の上空支援がなくとも参戦を決定した。軍の統制も子ども並みの金日成を「冒険主義者」と中国は軽蔑しきっており、金日成は戦争の責任者ではなくなった。


10月末には中国義勇軍が参戦

そして鴨緑江対岸に集結していた中国軍の大軍は、国連軍と韓国軍の補給線が伸びきるまで待って10月末に一挙に鴨緑江を超えて攻め込んだ。

当初、マッカーサー司令部G-2情報局のウィロビーは、鴨緑江に中国軍が集結しているという情報を取り合わなかった。マッカーサー信奉者のウィロビーは、マッカーサーの言葉を信じて中国軍が参戦するとは予想していなかったのだ。

この本では中国軍との戦闘に参加したアメリカ兵の実話を多く載せており、広がりと臨場感がある読み物になっている。ソ連製武器と、以前蒋介石に送ったアメリカの武器で中国軍に攻撃され、味方がどんどん倒れていく最前線の戦いが生々しく200ページ余りにわたって詳細に描かれている。

この実話の部分がハルバースタムが、休戦から55年も経ってから朝鮮戦争のことを書いた理由だ。様々な人から貴重な体験談を聞いたので、「書かねば死ねない」のだと。

しかしマッカーサー司令部のウィロビーはアメリカ軍の苦戦を信じなかった。そればかりか11月6日に朝鮮戦争は平壌北で敵の奇襲攻撃を撃退し、事実上終結したと声明を発表した。

マッカーサーは生涯を通じてアジアと関わったにもかかわらず、アジア人を知らず、軍司令官として「汝の敵を知れ」という基本中の基本も学んでいなかった。日本との戦いは工業国同志の戦いで、日本の産業基盤が限界となったのに対して、中国は最も工業化が遅れた国で、自分の弱点を理解してそれに応じた戦術を編み出していた。

日本では絶対的な権力を握っていたマッカーサーのとりまきNo. 1のウィロビーも酷評されている。ウィロビーはスペインのフランコ総統のファンで、従軍中にフランコの伝記を書いており、マッカーサーからは「愛すべきファシスト」と呼ばれていたという。

最前線の第8騎兵連隊の報道官は「カスター将軍を見舞った悲劇と同じだ」と語っていたという。

「勝利のワインが酢になり、マッカーサーは『空からの援護もなく、戦車もなく、大砲もほとんどなく、近代的通信設備も兵站基地もない中国人洗濯屋』にまんまと出し抜かれた」のだ。


12月初めには「鉄のおっぱい」リッジウェイ将軍が着任

12月初めにはマッカーサーの軍隊は全面退却していた。12月末にはマット・リッジウェイが第8軍の司令官としてワシントンの統合参謀本部から着任した。リッジウェイは頑固で、ユーモアがなく、攻撃的だったが、冷徹な現実主義者だった。

リッジウェイはノルマンディー上陸作戦時の空挺部隊指揮官であり、一時ウェストポイントの教官だったことから、軍に教え子が多くいた。マッカーサー同様神話の重要性を知っており、彼のあだ名は「鉄のおっぱい」(old iron tits)というものだった。いつも胸に二つの手榴弾をぶら下げていたからだ。マット・リッジウェイはつねに戦う姿勢にあるということだ。

着任前の12月26日に東京のマッカーサーに挨拶に行ったリッジウェーは、マッカーサーから「第8軍は君に任せる。いちばんよいと思うやり方でやってくれ」と言われた。この言葉でいままで東京がすべて動かしていたが、これからはリッジウェイが指揮をとることがはっきりした。

マッカーサーは面談の1時間半をすべて持論に費やしたという。マッカーサーは共産中国と全面戦争をやりたがっていた。「中国は南部が開けっ放しの状態だ」。

朝鮮では一泊もしたことのないというマッカーサーに対して、徹底した現場主義者のリッジウェイは小型機で戦場を飛び回り、地図に敵軍の旗があるのは48時間以内に接触した場合のみに限った。偵察、敵を知るのが最重要なことを現場に徹底された。


マッカーサーの米国政府批判

マッカーサーは政府批判を始めた。マッカーサーが中国軍を緊急追跡し、満州内の基地を爆撃しようとしたにもかかわらず、ワシントンが許さなかった。「歴史に前例のない莫大な軍事的ハンディキャップ」を負わされたと主張したのだ。

トルーマンは激怒した。事実上終わったと思っていた戦争が拡大したばかりか、その司令官が政府にとって巨大な敵となって敗北の責任を政府におおいかぶせてきたのだ。トルーマンは「核兵器の使用も含めてすべての兵器の使用は司令官が責任を持つ」と失言してしまい批判をあびる。

毛沢東もマッカーサーのように成功に酔っていた。現場指揮官の彭徳懐は冬が来るのに補給も途絶えがちで、ズック靴の中国兵では朝鮮の厳しい冬は戦えないので、春まで攻勢を待つことを訴える。しかしソ連と金日成の圧力もあり、毛沢東は共産主義の勝利を世界に知らしめるために追撃を命令する。

リッジウェイはソウル放棄を決断したので、中国軍は1月にはソウルを再占領した。ソウルから退却して体勢を立て直した国連軍は、韓国のちょうど真ん中付近の原州附近の双子トンネルや砥平里(チピョンニ)などで空軍の支援も受けて中国軍を迎撃した。

国連軍が多大な犠牲を出し、後に「殺戮の谷」(Massacre Valley)と呼ばれることになるこの激戦の模様が、この本では克明に記されている。

当時の米軍は人種差別をしており、黒人は黒人だけの部隊編成をしていた。トルーマンやリッジウェーは人種差別を撤廃しようとしていたが、第10軍司令官でマッカーサー側近のネド・アーモンドは、黒人を蔑視しており、「灰やゴミ」と一緒だと言って、白人部隊に3人ずつ黒人兵を配置した部下の指揮官を罰した。

アーモンドは中国人を「洗濯屋」と呼んで蔑視しており、中国軍について研究することを一切しなかったので、部隊間の情報交換はなかった。それがためアーモンドが立案した「ラウンドアップ作戦」で、多大な犠牲を被ることになった。国連軍を包囲していた中国軍は道の先頭のトラックを攻撃し、立ち往生した国連軍トラック120台と多くの大砲を手に入れた。

2月には中国軍はさらに進撃し、原州に近づくが、それを察知した偵察機からの情報で、迎え撃つ国連軍の130MM砲数門、155MM砲30門、105MM砲100門という大量の大砲の餌食となり、空からはナパーム弾の直撃を受けた。

リッジウェーは長距離砲を中心とした戦略で、圧倒的多数の中国軍との「人口問題」を解決しようとしていたのだ。中国軍の重火器は空軍力でたたき、「肉挽き機」のように戦うのだと。

朝鮮の中部回廊地区だけで中国軍の死傷者は20万人にも達した。これが戦闘の転機となり、中国軍の進撃はストップした。

F86セイバー戦闘機が共産軍のミグ15との空中戦で優位に立ったのはこのときだ。



マッカーサー解任

リッジウェイの成功で、マッカーサーのプライドが傷ついた。リッジウェイの作戦を、ひいては攻める「アコーデオン戦争」と呼び、依然として中国との全面戦争を主張し、トルーマン政権攻撃をエスカレートさせた。

戦線を北緯38度線まで押し戻せれば、共産主義を食い止めたということで、国連軍の勝利だと主張するリッジウェイに対し、マッカーサーは自分なら同じ戦力で、中国軍を鴨緑江の向こう側に押し返せると明言し、東京駐在の各国の外交官に伝えていることが、外交通信傍受でわかった。

これは明らかな軍の文民統制に対する違反であるとトルーマンは判断し、4月11日にマッカーサーを解任した。マッカーサー自身への通告の前にラジオが放送するという不手際だった。

タイム誌は「これほど不人気な人物がこれほど人気のある人物を解任したのははじめてだ」と書いた。リチャード・ニクソンはマッカーサーの即時復職を要求した。日本では25万人がマッカーサーを見送るために街頭に列を成し、ニューヨークでは700万人がパレードに繰り出したという。

「老兵は死なず。ただ消え去るのみ」マッカーサーの上院での退任演説での有名な言葉だ。しかし上院聴聞会は3日間続き、マッカーサーは中国軍は参戦しないと確信していたことを認め、ヨーロッパのことは発言を回避するなど、日に日に小さくなっていった。油断から判断を間違えた司令官というイメージが定着していった。


戦線の膠着と和平交渉

朝鮮での戦争は1951年春中国が30万人の兵力を投入し、大攻勢を掛けたが、成果を上げられなかった。1951年7月和平交渉が開城、次に板門店で始まったが、交渉は遅々として進まなかった。

1952年の大統領選挙でアイゼンハワーが勝利し、翌1953年3月にスターリンが死ぬと、戦闘は続いていたが、アメリカと中国は解決策を探り1953年7月27日に休戦合意が成立した。

その後金日成は、朝鮮戦争をまるで一人で戦ったような話をでっち上げ、平壌の朝鮮戦争記念館を訪れた中国人は、その展示を見て激怒するという。金日成は核兵器を開発することと、息子を後継者にすることを目標とし、国内の工業生産も国民の飢え死にも気にしなかった。金日成は死に、金正日が後を継ぎ、そして金正恩がその路線を継ぐことになる。


登場人物の描写

金日成の経歴が紹介されている。金日成は朝鮮生まれだが、両親と共に満州に移住し、抗日運動に属した後、ソ連で赤軍将校となりスターリンのあやつり人形として1945年10月に平壌で朝鮮デビューした。スターリン死後もスターリン主義者であり続け、統治を確実なものにするための個人崇拝の必要を悟ったことなどが紹介されている。

マッカーサーの記述も面白い。

アイゼンハワーはマッカーサーの副官としてワシントンとマニラで一緒に勤務していたので、マッカーサーの手の内を知り尽くしていた。アイクは「わたしはワシントンで5年、フィリピンで4年、彼の下で演技を学びました」と答えていたという。

マッカーサーより「上級」なのは神しかおらず、生涯「自分より劣る人間がつくったルールは自分には適用されないという前提で」行動したという。「マッカーサーは語る。だが聞かない」。

タイム誌のオーナー、ヘンリー・ルースはチャイナロビーと結びついており、蒋介石をタイム誌の表紙にたびたび載せる一方、マッカーサーを賛美しており、マッカーサーも蒋介石に次ぐ7回タイムの表紙に登場したという。

マッカーサーは1918年に最年少で将軍になっており、それから30年間も将軍として君臨して、とりまきにお追従を言われ続けた。マッカーサーは毎日人に会う前に演技の練習をしていたという。

念入りにリハーサルを行っていながら、あたかも即興のようにみせ、天性の独白役者で、演技には寸分の狂いもなかったとハルバースタムは評している。この本ではマッカーサーの父親や、マッカーサーをマザコンにした母ピンキー・マッカーサーのことも説明していて面白い。

マッカーサーが母親に相談なく最初の結婚をしたときに、母は結婚式に出席せず、寝込んでしまい、結局、最初の結婚は長続きしなかったという。マッカーサーの二番目の妻のジーンは母親が選んだ相手で、自宅ではマッカーサーのことを1"Sir, Boss"と呼んでいたという。

マッカーサーはフランクリン・ルーズベルトを嫌っており、ルーズベルトが病気で死去したときには、「ルーズベルトは死んだか。うそが自分に役立つときは真実は決して話さない男だった」とコメントしたという。もっとも、ルーズベルトも「マッカーサーは使うべきで、信頼すべきでない」とコメントしていたという。

マッカーサーは1944年、1948年の大統領選挙に共和党の大統領候補として出馬しているが、いずれも惨敗している。

トルーマンとの関係も悪かった。トルーマンはマッカーサーのことを「あのプリマドンナの高級将校」と呼び、マッカーサーはトルーマンほど大統領としての適性を欠く者はいないと考えていた。大学も出ておらず「あのホワイトハウスのユダヤ人」と言っていたという。

1949年秋にアメリカの原爆独占は終わり、ソ連が原爆を開発した。

それまで親米だった蒋介石の中華民国が毛沢東の中国共産党に敗退し、1949年1月には蒋介石が台湾に移り、4月に南京が陥落し、国共内戦にけりがついた。

中国に於ける米国軍事顧問団の代表だったジョセフ・スティルウェル将軍は、1942年の段階で、蒋介石は全く役に立たず、能力はあっても抗日戦に軍を使う気がないとレポートしていたが、ルーズベルトは蒋介石に圧力を掛けすぎて日本との単独講和に走らせないようにとの配慮から放っておいた。

その結果「アメリカ人に訓練され、アメリカ製装備で武装したほぼすべての師団が、一発も発砲しないで共産軍に降伏して」中国は共産化し、米国では「誰が中国を失ったのか?」と政治問題化した。

この辺の事情はバーバラ・タックマンの「失敗したアメリカの中国政策」に詳しい。こちらも今度あらすじを紹介する。

失敗したアメリカの中国政策―ビルマ戦線のスティルウェル将軍失敗したアメリカの中国政策―ビルマ戦線のスティルウェル将軍
著者:バーバラ・W. タックマン
朝日新聞社(1996-02)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る


恥ずかしながら、朝鮮戦争については断片的にしか知らなかったので、この本は大変参考になった。

北朝鮮は朝鮮戦争をしかけた金日成の時から「冒険主義者」である。今度のヨンピョン島砲撃も冒険主義者的な動きだと思う。アメリカ・韓国軍と正面切って戦争をやるだけの軍事力も根性もないと思うが、全く危険な隣人である。

緊迫する朝鮮情勢を考える上で、朝鮮戦争のことを知ることは有意義だと思う。一度手にとってみることをおすすめする。


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