2011年06月28日

大前研一 洞察力の原点 大前版「道をひらく」

大前研一 洞察力の原点 プロフェッショナルに贈る言葉大前研一 洞察力の原点 プロフェッショナルに贈る言葉
著者:大前研一
日経BP社(2011-02-24)
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大前研一さんの過去40年間にわたる100冊以上の著書や雑誌のコラムなどの言葉を集めた本。

いわば大前版「道をひらく」だ。

道をひらく道をひらく
著者:松下 幸之助
PHP研究所(1968-05)
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元々はビジネス・ブレークスルーのスタッフが、大前さんの言葉をツイッターで紹介する「大前研一 BOT」を開始したところ、またたく間にフォロアーが万人単位で増え、それが注目されたものだという。

筆者は大前さんの本はかなり読んでいる。引用した本を入れると、このブログでもたぶん40冊くらいは紹介していると思う

大前さんの本を読んでいつも感心するのは、ネタが常に新しいということだ。

大前さんはサラリーマン「再起動」マニュアルで、神田地区にある「江戸っ子寿司」がいきつけだと言っていたが、ネタが新鮮な大前さんが推薦する「江戸っ子寿司」はさぞかしネタが良いのだと思う。

edokkosusi






冗談はさておき、この本は筆者があらすじを書く上でも大変参考になった。というのは、この本には大前さんの250くらいの言葉がまとめられているので、ブログで紹介する言葉に優先順位をつける必要があったからだ。

筆者は通常読んだ本で、参考になったところにはポストイットを貼っておき、あとでその部分を中心にあらすじを書いている。しかしあまりにも参考になる部分が多いとポストイットが多すぎて、結局あらすじが書けない本がいくつもある。

その代表例がカーネギーの「人を動かす」だ。

人を動かす 新装版人を動かす 新装版
著者:デール カーネギー
創元社(1999-10-31)
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カーネギーの「人を動かす」は日本語では数回しか読んだことがないが(最初は日本語で読んだ)、英語のオーディオブックはたぶん100回くらいは聞いていると思う。ほとんどのストーリーが頭に入っているが、あまりに参考になる部分が多いので、あらすじにまとめきれないのだ。

この本も参考になる言葉が多く、ポストイットだらけになったが、1ページに一つの文だけなので、優先順位を付けやすかった。だから最初に読んだときにポストイットを貼りまくり、次にポストイットを貼った場所に優先順位をつけて、あらすじに紹介す言葉を選び出した。

同じやり方で、他の本のあらすじもまとめればよいということに気が付いた。つまりポストイットの部分をすべて紹介するのではなく、参考になる部分をさらに厳選してあらすじにまとめるのだ。

このやり方で、まだあらすじを書けていないウォルマートのサム・ウォルトンの本とか、ポストイットだけ貼って、あらすじを書けていない本を今後紹介していく。

私のウォルマート商法 すべて小さく考えよ (講談社プラスアルファ文庫)私のウォルマート商法 すべて小さく考えよ (講談社プラスアルファ文庫)
著者:サム・ウォルトン
講談社(2002-11-20)
販売元:Amazon.co.jp
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閑話休題。

横道にそれたが、上記の一次選抜>二次選抜方式で、選んだのが次の10作の大前さんの言葉だ。

この本は「なか見!検索」に対応しているので、ここをクリックして目次も見て欲しい。

未来は予測できる

「その力はなぜ起きているのか。一時的なものか、継続的なものか。継続するとすれば、その力は強くなるのか。ベクトルは一定か、変化するかなどを考え、その結果、現象が先々どのように変化するのかと考える。

こうした論理的な洞察を繰り返すことで、自ずと未来が予測できる。これは「予言者」の勘、あるいは霊感とは異なり、誰でも身につけることのできる能力だ。」

原出典:「Think!」 2009 No.30

この未来予測可能性については、「ビジネス力の磨き方」のあらすじを参照して欲しい。

「未来は予測できる」という発想が重要だ。


ノウハウを手にする

「与えられた仕事は、文句をつけたり拒んだりするべきではない。すべてはチャンスだ。せっかくいやな仕事をやり遂げるのだから、自分は必ずノウハウを手にしてやる、と心に決めて取りかかっていけばいい。」

原出典:「朝日新聞」 2003年3月2日

同趣旨のことは、楽天の三木谷さんも言っている。三木谷さんの場合にはルーティンジョブの典型の外国為替に配属されたが、与えられた仕事に集中し、ついには銀行派遣のハーバード留学生になれた。

筆者も全く同感だ。就職が決まった大学4年生の長男にも、この言葉を贈りたい。


指数関数

「人の二倍考える人間は10倍の収入を得ることができる。三倍考える人間は、100倍稼ぐことができる。」

原出典:「考える技術」


人間が変わる三つの方法

「人間が変わる方法は三つしかない。一つは時間配分を変える、二番目は住む場所を変える、三番目は付き合う人を変える。この三つの要素でしか人間は変わらない。もっとも無意味なのは、「決意を新たにする」ことだ。」

原出典;「プレジデント」2005年1月17日号


世間話ができない

「日本全体のこととか、世界経済だとか、東京全体の問題とかは、一生懸命考えてきたけれど、下町の風景のなかでおじいちゃん、おばあちゃんと世間話ができない。

日本改造から自分はスタートしたが、まずは自分の改造が先だということに気がついたのだった。」

原出典;「大前研一敗戦記」

このブログで紹介した大震災と原発事故からの復興計画を提案する「日本復興計画」でも、この傾向が出ていると思う。大前さんの欠点の一つは、庶民感覚がないのだ。

日本復興計画 Japan;The Road to Recovery日本復興計画 Japan;The Road to Recovery
著者:大前 研一
文藝春秋(2011-04-28)
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大前さんは政治家には向いていないと思う。


妥協

「ビジネス・プロフェッショナルに、『妥協』の二文字は厳禁です。妥協とは自分の都合であって、顧客の都合はもちろん、ビジネス・パートナーの都合なども一方的に無視する、甘えた態度です。」

原出典:「ザ・プロフェッショナル」

筆者もインターネット企業に出向して、このことを痛感し、かつ反省している。”NO”はいつまで経っても”NO”で、”YES”とはならないのだ。何に”NO”を言うのかが、経営者の職務なのだ。


自分の家の庭に原子炉を作るつもりで考える

「MIT(マサチューセッツ工科大学)の原子力工学部の名物教授で、マンハッタン計画にも参画していたトムプソン教授の言葉を思い出す。

彼はわれわれ大学院生に原子炉の安全に関しての講義のなかで、『一番基本的なことは開発技術者としての知識を云々するよりも、当該原子炉を自分の家の裏に作る、という態度で物事を考えること』と教えてくれた。」

原出典:大前の頭脳

現在原発事故で問題になっている原子炉の安全性の基本がこれだ。つまり原子炉設計者は、NIMBY(=Not In My Back Yard)ではイカンという教えである。

最近も原発の現場で作業に当たっている東電社員が累積350ミリ・シーベルトの放射線を浴びたという報道があった。

現場のみんなが決死の覚悟で作業に当たっておられるのだと思う。

このブログで紹介した京大原子炉実験所の助教の小出裕章さんの「隠される原子力 核の真実」に書いてあった通り、放射線が身体にダメージを与えることは間違いない。

隠される原子力・核の真実―原子力の専門家が原発に反対するわけ隠される原子力・核の真実―原子力の専門家が原発に反対するわけ
著者:小出 裕章
創史社(2011-01)
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生命体を構成しているDNAなどの分子結合エネルギーはせいぜい数電子ボルトだが、放射線のエネルギーは数百万から数千万電子ボルトに達する。放射線が身体に飛び込んでくれば、DNAはじめ身体の分子構造が切断されてしまうのだ。

筆者の先輩で原子力学科を卒業した人は、結婚するときに精子を保存したと言っていた。

大前さん自身もMITで放射能を含んだ物質を呑み込んでしまったとYouTubeで公開されているビジネスブレークスルー大学院大学の講義で言っていた。まさに内部被ばくである。それだけ原子力関係者は被ばくのリスクにさらされているのだ。



筆者は、このブログで紹介した広瀬さんや小出さんの言うように、原発を全部廃止することは、人類の進歩に逆行すると思う。原子力関係者の奮闘を評価して、原発をより安全なものにすべく我々も支援すべきだと思う。


唯一のツール

「私の唯一のツールは、「なぜか」である。同じ商品なのに、売れるセールスマンとそうでない人間がいるのは「なぜ」だろう。東京で売れて、大阪で売れないのは「どうして」だろう。そういうことをいつも考えていると、答えは見えてくる。」

原出典:「ニュービジネス活眼塾


サマリーを作る練習をする

「プレゼン能力を高めるためには、サマリーを作る練習を繰り返さなければならないのである。具体的にはどうすればいいのか?私は、ベストセラー小説や文学賞を受賞した小説を読んで、それがなぜベストセラーになったのか、自分なりの論理で説明する、という訓練を薦めたい。」

原出典:「サラリーマン『再起動』マニュアル

筆者もまさにこのブログで、サマリーを作る練習を繰り返している。このブログで書いた様に、要約の重要性がわかったのは、アルゼンチンでスペイン語を学んだ時だ。

アルゼンチン駐在の二年目はカトリック大学の講師にオフィスに来て貰って、週1回個人教授を受けていた。その教え方が要約だった。

短編小説集を教材にして、一つの短編を翌週までに読見込んで、次の授業の冒頭でその短編のあらすじをスペイン語で説明する。そして短編を読んで新しく覚えた単語を使ってスペイン語で作文するのが宿題だった。

この勉強を続けたので、帰国して研修生上がりでは唯一のスペイン語社内検定一級になれた。

サマリーを作る練習を筆者も是非お勧めする。あなたのビジネス力がアップすること請け合いだ。


ビル・ゲイツも悪夢を見る

「マイクロソフトにしても、トヨタ自動車にしても、経営トップは強烈な危機何を抱いています。かつてビル・ゲイツは、「今日、私が一つ判断を誤れば、この会社は明日にも潰れる。そういう夢をいまでもよく見る」と私に語ってくれました。」

原出典:「ザ・プロフェッショナル


冒頭に紹介したように、松下幸之助の「道をひらく」のように、毎日1ページ読む座右の書としても使える本だと思う。

大前さんの特長である「ネタ」の新しさがこの本では味わえないので、やや魅力には欠けるが、大前さんの考え方が概略わかって参考になる本である。


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2011年06月27日

三度目の奇跡 日本復活への道 日経新聞の特集記事

緊急出版 三度目の奇跡 日本復活への道緊急出版 三度目の奇跡 日本復活への道
日本経済新聞出版社(2011-05-17)
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2011年元旦からスタートした日経新聞の連載シリーズ。

途中で東日本大震災と福島原発事故が起こり、当初の「平均年齢45歳の国の未来図」を描く特集が、大震災・原発事故からの復興を目指す記事に変わった。

参考になる情報が多く載せられている。印象に残ったものをいくつか紹介しておく。

★枝野官房長官は「復興庁創設」に意欲を示しているが、官僚は冷めているという。「ハコ作りに力を割いている場合じゃない。」「民主党政権は『形』にばかりこだわる」。これらは経済官庁幹部の発言だという。

各官庁の事務次官・局長レベルは民主党の動きの遅さにさじを投げているという話も聞いたことがある。

「いくら情報を官邸に集約しても、その後の指示が降りてこない」と官僚は語る。

この本には書いていないが、筆者の言葉では「ヘッドレス・チキン」。これが菅政権を形容する言葉だ。

★宮城県石巻市の「イトーヨーカドー石巻あけぼの店」は地震の影響で、建物が一部損壊した。しかし営業をやめたのは3時間だけだった。店頭で飲料水、カップ麺、乾電池など数十品目を販売したのだ。

「まさか開いているとは思わなかった」東北にあるイトーヨーカドー全10店舗は一日も営業をやめていないという。

★バングラデッシュからも日本への援助が寄せられている。日本は1972年にバングラデシュがパキスタンから独立して、先進国で最初に承認した。そのことを覚えている人々も多いという。

★バングラデッシュでは日本のベンチャー企業が活躍している。例えば納豆のねばねば成分を固めた水浄化剤「ポリグル」を売る日本ポリグルだ。

2007年のサイクロンの時に、現地にサンプルを送ったら好評で、ヤクルトレディに倣いポリグルレディを通じて売っているという。

★中国政府系のシンクタンクは、「人民元高を容認する『中国版プラザ合意』はありえない」としている。こんなジョークがあるという。「日本のことを研究するな。社会主義になってしまう」。

★陸軍の秋丸次朗中佐の「戦争経済研究班」は、陸軍きっての実力者で、当時の軍務局軍事課長の岩畔豪雄(いわくろひでお)に命じられ、1939年から日米開戦を前提に世界大戦の予測をした。

メンバーの有沢広巳(英米班)、中山伊知郎(日本班)、武村忠雄(独伊班)の報告は、「日本の生産力はもうこれ以上増加する可能性はない」、「ドイツはこれ以上の余力なし」。最終結論は「日本の経済力を1とすると英米は合わせて20。日本は、2年間は蓄えを取り崩して戦えるが、それ以降は経済力が下降線をたとり、英米は上昇し始める。彼らとの戦力格差は大きく、持久戦には耐えがたい」だった。

開戦直前の1941年半ばに陸軍首脳らに対する報告会が開催された。列席した杉山元参謀総長は「報告書はほぼ完璧で、非難すべき点はない」しかし、「その結論は国策に反する。報告書の謄写本はすべて燃やせ」。

「見たくないものは見ない」という態度が太平洋戦争の惨劇を招いた。1988年の有沢広巳死後に、遺品から秋丸報告書の一部が発見されたという。

いまこそ戦時の失敗に学べと日経新聞はいう。

★JA(農協)に頼らない人たちが増えている。コメリの出す「アグリカード」は、支払いは年1回、収穫月だけでよいという。カード保有者は4万人、コメリの売上高は3千億円で、JAの2兆円には及ばないが、存在感は小さくない。

★人材を輸出する韓国。
李明博大統領は「2013年までに5万人の海外就職、3万人の海外インターンシップ、2万人の海外ボランティアを育てる」グローバルリーダー10万人育成計画を打ち出した。

韓国人の若者が日本にも求職に来る。「韓国の就職は本当に厳しく、会社に入っても週末に自分の時間が全然取れない。日本企業は給料も労働環境もいいので、日本でずっと頑張っていきたい」という。

韓国では最低賃金が安いので、日本の若者のように「フリーター生活」で暮らしていくこともままならないのだという。

厚生労働省の国民生活基礎調査によると、国民所得がピークだった1994年と2008年を比べると、平均的な日本国民はどんどん貧しくなっている。

                   1994年      2008年
一世帯当たりの年間平均所得  664万円      548万円
300万円以下の世帯比率     23.5%      33.3%
800万円以上の世帯比率     29.1%      21.3%

実際のグラフは次の通りだ:

2-1a







出典:国民生活基礎調査(平成21年版)

平均所得金額以下の世帯比率が増え、所得がより低い層が増加していることを示している。

2-2b





出典:国民生活基礎調査(平成21年版)

次は、以前紹介した大前研一さんが、近著「日本復興計画」で示していた図だ。

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出典:「日本復興計画」109ページ

先進国のなかで日本だけが国民所得が減少していることがわかる。

もっとも、これらのグラフだけから結論付けるのは事実認識を誤る危険がある。日本の場合、1994年の1世帯当たりの人員は2.95人だったが、2008年では2.62人になっている。

世帯数と平均世帯人員




出典::国民生活基礎調査(平成21年版)

同じ時期で、高齢者世帯が4百万世帯から9.6百万世帯に、単身者世帯は8百万世帯から12百万世帯に増えている。

筆者は平均世帯所得が減少している傾向として正しいとは思うが、為替相場とかインフレ率や世帯構成の違いなどを考慮にいれないと、Apple-to-appleの比較や正確な評価はできない。

主に年金で生活する高齢者世帯と単身者世帯が増えることにより、平均では日本人は貧しくなっているようにみえることも留意しておく必要があるだろう。

ちなみにこの点は筆者の会社の読書家の友人から指摘があったので付記したものだ。



その他にも参考になる事例が多い。簡単に読めるので、是非一読をおすすめする。


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Posted by yaori at 14:28Comments(0)TrackBack(0)

2011年06月23日

大気を変える錬金術 書評競作 その1 読書家の友人の書評紹介

大気を変える錬金術――ハーバー、ボッシュと化学の世紀大気を変える錬金術――ハーバー、ボッシュと化学の世紀
著者:トーマス・ヘイガー
みすず書房(2010-05-21)
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会社の読書家の友人にこの本を紹介したら、書評を送ってもらった。この書評が非常に出来が良いので、別途紹介した筆者の「あらすじ」と競作の書評として紹介する。

それは今を去ること100年以上前の1898年、英国のブリストルでの英国アカデミー会長サー・ウイリアム・クルックスによる予言的な演説から始まった。

曰く「英国をはじめとするすべての文明国家は、いま生きるか死ぬかの危機に直面している。人口が幾何級数的に増え続けている中で、食料の増産は遅々としてすすまず、このままでは人類は遅くとも1930年代には飢餓に直面し、多くの人間が命を落とすことになるだろう。それを克服する方法はただひとつ。それは化学を発展させ、食料の増産に必要な肥料、窒素を豊富に含んだ肥料を化学的に合成し、それを農地に大量に投与するしか人類が飢餓の恐怖から逃れる方法はない」と。

あらゆる生命体にとってもっとも重要な元素。それは窒素である。空気の80%は窒素から出来ているが、窒素は気体のままでは生命の維持には役に立たず、これを液体(アンモニア)もしくは固体とし、植物がこれをとりこんで養分として吸収できるようにしなければならない。これがなかなかの難物で、気体の窒素N2を分解し、水素と化合させてアンモニアNH3を作るのは容易ではなく、古来、人類は固体窒素を豊富に含む別の物体(人糞、獣糞、尿など)を採集し、地面にばらまくことで、痩せる一方の地味の維持管理を行ってきた。

農地は毎年毎年同じ作物を植え続けると痩せてしまい農作物の収穫量が減るのは、地中に含まれる窒素を植物が消費しつくしてしまうからで、これを回避するために人類が編み出したのが何年に一度か農地を休耕し、そこにマメ科の植物を植えることであった。マメ科の植物は根に寄生するバクテリアが窒素を形成し地中に放出する性質を持っており、これが地味を回復させる働きをもっていることを人類は経験から発見したのである。

しかし、こういう悠長な方法ではとても対処しきれないスピードと規模で人口は急増。1900年には19億人だった人類が、今や60億人を突破して、尚増え続けている。それでも人類がクルックスの予言通り飢餓に直面せず、当時の3倍超の規模まで増殖し、かつ、肥満の問題で悩むまでに至った最大の理由は何か。それが本書の主人公、フリッツ・ハーバーが発見しカール・ボッシュが企業化した「大気からアンモニアという窒素を合成する錬金術」=ハーバー・ボッシュ法の成果なのである。

アンモニアは肥料としてのみ有用なのではない。ダイナマイトの原料となる硝石の化学式はKNO3で、アンモニアを更に加工することでドイツはダイナマイトの原料となる硝石をも大量生産することに成功する。

本書を読むと19世紀末から1920年代にかけて、ドイツの化学産業というのは、英国やフランス、米国を遥かに上回る世界のトップランナーであったことが分かる。

ドイツといえば1871年に他に遅れて国家統一を成し遂げた後進国であり、いわばキャッチアップ型の経済成長を遂げた国とばかり思っていたが、こと化学産業に関する限り、ドイツのレベルは当時の先進国だった英国やフランス、そして米国よりも数段進んだレベルに既にあったのだ。

その中核にあった企業が人工染料で財を成したBASF、バイエル、ヘキストというドイツの化学企業群で、なかでも中核を占めたのが今日も世界最大の化学企業であるBASFだ。この3社は後に合同し、IG(イーゲー)ファルベンという文字通り世界最大の化学企業体を形成する。IGファルベンの名前は知っていたが、その意味がドイツ語で「染料事業利益共同体」だとは本書を読むまで知らなかった。

世界のトップランナーとしてのドイツを支えたのが当時のドイツに住まうユダヤ系の人々だった。当時のドイツでも、もちろんユダヤ人は差別の対象だった。しかし、その度合いが英国やフランスに比べて緩やかで、とりわけアカデミーの世界ではユダヤ人はのびのびと才能を発揮する自由がドイツでは認められていた。

なんとか2級市民の地位を脱したいユダヤ人は学業に専念し、学問的業績を通じてドイツに貢献し、晴れてドイツ人社会に受け入れてもらえることを夢見、願った。その典型が、本書の主人公フリッツ・ハーバーだ。彼はユダヤ人でありながらキリスト教に改宗し、ドイツ人よりもドイツ人らしく振る舞おうとした。

独自にデザインしたプロイセン風の軍服を身にまとい、片メガネをかけ、ドイツ至上主義を誰彼となく鼓吹したという。このドイツ人になりたい、ドイツ人として認められたいというハーバーの強い願望が、やがて彼をして塩素系毒ガスの開発へと駆り立てていく。

毒ガス開発の父ハーバー 愛国心を裏切られた科学者 (朝日選書 834)毒ガス開発の父ハーバー 愛国心を裏切られた科学者 (朝日選書 834)
著者:宮田 親平
朝日新聞社(2007-11-09)
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しかし、ドイツは第一次大戦に敗北し、やがて復讐に燃えたフランスと英国によって苛斂誅求なるヴェルサイユ条約を押しつけられ、ドイツ経済は文字通り崩壊する。全ドイツ国民が塗炭の苦しみを味わう中で、やがて「こうなったのは、すべてユダヤ人のせいだ」と叫ぶヒットラーが国民から圧倒的な支持を集めるようになる。

なぜフランスはドイツにあそこまで過酷な賠償を押し付けたのか。最大の理由はフランスの国土は戦場となって荒廃し、フランス国民の多くがドイツ人によって虐殺されたが、ドイツの国土はほぼ無傷で残ったことだ。自分たちに災いをもたらした悪の総本山たるドイツの国土が、ほぼ無傷で残り、フランスはヴェルダンを筆頭にほぼ原形をとどめない形で徹底的に破壊された。「ドイツ、ゆるすまじ」の声がフランス、ベルギー、オランダで強くなったのは理解できる。

ハーバーが作った塩素ガスの惨禍がこのドイツ憎しの感情を倍加させた。第一次大戦後、フランス、英国には手足を無くなった廃兵、毒ガスで大きな被害にあった廃兵が山のようにいて、それが文字通りの生き証人としてドイツへの報復の世論を後押ししたという。

ヒットラーのたちの悪いところはユダヤ人を宗教的概念でとらえず「人種」として捉えたところだ。本来、ユダヤ民族という民族は存在しない。あれは確かに中東に起源をもつものだが、基本は宗教である。だから黒髪のユダヤ人もいれば金髪のユダヤ人もいる。エチオピアには大量の黒人のユダヤ人さえいる。それを無理やり単一民族として定義したところにナチズムの無理があったのだが、これがキリスト教に改宗しドイツ人になったつもりになっていたハーバーをはじめとするドイツユダヤ人に悲劇をもたらす。

大量のユダヤ人、それも優秀なユダヤ系がこぞってドイツを出国し、アメリカへと亡命する。その筆頭が、アインシュタインだ。発見だったのは、当時のドイツ社会ではアインシュタインよりもハーバーのほうが社会的評価が高かったということだ。アインシュタインは「愛国者ではなく、変わり者の社会主義者の平和主義者で、ドイツを捨ててアメリカへ渡った大ほら吹き」とドイツでは思われていたという。

私は20世紀初頭に世界の頂点に君臨したドイツのアカデミーが戦後、見るも無残に零落した原因のひとつが、この優秀なユダヤ人学者のアメリカへの亡命があると見ている。当時のドイツの大学は科学の最先端を走っており、米国からも留学生が大挙して押しかけていたとある。ノーベル賞も大量の受賞者を当時のドイツは出していた。それが戦後になると急ブレーキがかかったように見える。

余禄として、ドイツがアンモニアの合成に成功する前、南米が肥料や硝石の産地として一時の繁栄を謳歌したこと。BASFが生産に成功した合成ガソリンでドイツのメッサーシュミット戦闘機やタイガー戦車が動いていたことには正直驚いた。


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2011年06月17日

シェア 所有から利用へ 世界の消費の流れが変わりつつある

シェア 共有からビジネスを生みだす新戦略シェア (共有)からビジネスを生みだす新戦略
著者:レイチェル・ボッツマン
日本放送出版協会(2010-12-16)
販売元:Amazon.co.jp
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以前紹介した「フリー」に続く独特な表紙のNHK出版協会による最新のインターネット本。

フリー~〈無料〉からお金を生みだす新戦略フリー~〈無料〉からお金を生みだす新戦略
著者:クリス・アンダーソン
日本放送出版協会(2009-11-21)
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大量消費文化の終焉?

最初に太平洋ゴミベルトのことが書いてある。太平洋の真ん中には巨大な漂流ゴミがある。沿岸各国から流れ出たゴミが太平洋の真ん中で漂流しているのだ。

アニー・レオナードは製造・流通システムから送り出されるすべての材料のうち、6ヶ月後に北米で使われているモノはわずか1%だと"The Story of Stuff"という本で指摘している。残りの99%はいずれゴミとなるのだ。

The Story of Stuff: How Our Obsession with Stuff is Trashing the Planet, Our Communities, and Our Health - and a Vision for ChangeThe Story of Stuff: How Our Obsession with Stuff is Trashing the Planet, Our Communities, and Our Health - and a Vision for Change
著者:Anne Leonard
Constable(2010-05-27)
販売元:Amazon.co.jp
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人々の消費ぐせを象徴するのがクレジットカードだ。

クレジットカードは目の前で現金を渡さないので、モノを買う行為とお金を払う行為が「デカップリング」=分離する。

そうすると人々は要らないモノまで買ってしまう。何を買ったかも思い出せない支払いがたくさんあるのだ。


新しい消費の流れ

大量消費時代から、新しい消費の流れが生まれつつある。新しい流れを象徴するのが、ホワイトハウスの家庭菜園だ。

オバマ大統領はホワイトハウスのサウスローンを家庭菜園に変えた。第2次世界大戦後はじめてホワイトハウスに家庭菜園ができた。「地産地消」の広がりを象徴する動きだ。


オバマの選挙参謀はフェイスブック創始者

オバマのネット選挙参謀を務めたのが、以前あらすじを紹介したフェイスブックのなかでも紹介されている創始者の一人のクリス・ヒューズだ。

フェイスブック 若き天才の野望 (5億人をつなぐソーシャルネットワークはこう生まれた)フェイスブック 若き天才の野望 (5億人をつなぐソーシャルネットワークはこう生まれた)
著者:デビッド・カークパトリック
日経BP社(2011-01-13)
販売元:Amazon.co.jp
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MyBarackObama.com(今はbarackobama.comとなっている)とVote for Changeという2つのサイトを立ち上げた。

オバマの選挙活動に協力するとポイントがもらえるシステムで、オバマへの個人献金を過去最高レベルにまで集めた。

この話の「クリーム=最もおいしい話」は、若い世代の投票率を過去最高に上げたことだ。


新しい消費の3パターン

この本では新しい消費の流れの3パターンを多くの例を使って説明している。

1.プロダクト=サービス・システム

「所有より利用」だ。車を買うよりカーシェアする動きがカリフォルニア州はじめ、各地で広がっている。

カーシェアリングのZipCarは入会金75ドルと1時間あたり8ドルの利用料をとる。2009年は自動車販売は40%落ち込んだが、ZipCarの売り上げは1億3千万ドルに増えた。

マツダはフォードとの合弁会社の生産工場から撤退することを発表した。北米の車販売が落ち込んでいるようだ。カーシェアの動きが大都市中心に広まれば、米国の車販売は減っていく一方になるかもしれない。


2.再配分市場

要らなくなった赤ちゃん用品を別のものに交換する。

引っ越しに使う段ボールはほとんどが一度しか使われない。ユーズドカードボックス.comは使用済み段ボールを販売している。段ボールのマッチングサービルも行っている。Free Cardboard boxes.com

3.コラボ的ライフスタイル

モントリオールの自転車シェアbixi(バイクとタクシーの造語)は、市内に多くのbixiステーションをつくって、自転車の乗り捨てができるシステムをつくった。それぞれの自転車にはGPSとRFIDチップがついていて、どこにあるかトレースできる。

ホテルのタオルの再利用も仲間意識を強調して効果を上げている。「お客様の75%はタオルを2度以上お使いになっています」とメッセージを添えるだけで、再利用率は大幅にアップした。

マイケル・デルの弟のアダム・デルは、シェアードアースを立ち上げた。土地とタネと器具を提供するから、耕してくれる人を募集したところ、大きな運動=ムーブメントとなったのだ。

もちろんアンドリュー・カーネギーこのブログで頻繁に紹介しているデール・カーネギーではなく、こちらがカーネギー・ホールのカーネギー)が全米に建設した図書館もシェアの先駆者だ。カーネギーは米国を中心に世界で2、500以上の図書館を建設したという

個人同士のお金の貸し借りを仲介するzopa.comもある。

CouchSurfingは素人同士の自宅に泊まらせるホスピタリティサービスだ。

bartarcard.comなどの物々交換サービスもある。

とても全部紹介できないくらい新しい消費の形が盛りだくさんで、消化不良になりそうなくらいに紹介されている。

フリーのように目からウロコという新しい発想ではないが、まさに日本語の「もったいない」という考えが世界に広がっているのではないかと感じる。


最新の世界の動きを知る上で参考になる本である。


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2011年06月14日

孤舟 渡辺淳一の定年後小説 反面教師だ

孤舟孤舟
著者:渡辺 淳一
集英社(2010-09-24)
販売元:Amazon.co.jp
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渡辺淳一の定年後小説。

渡辺淳一の作品なので、「失楽園」とか「化身」のような要素があるのかと思っていたが、そういった場面はほとんどない。

失楽園〈上〉 (角川文庫)失楽園〈上〉 (角川文庫)
著者:渡辺 淳一
角川書店(2004-01)
販売元:Amazon.co.jp
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化身(上) (講談社文庫)化身(上) (講談社文庫)
著者:渡辺 淳一
講談社(1996-03-14)
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女性誌「マリソル」の連載小説だったそうで、ある意味なるほどと思う。

marisol (マリソル) 2011年 07月号 [雑誌]marisol (マリソル) 2011年 07月号 [雑誌]
集英社(2011-06-07)
販売元:Amazon.co.jp
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筆者のポリシーとして、読んだ時面白くないから小説のあらすじは詳しく紹介しない。以下簡単にあらすじを記しておく。

主人公は62歳の元広告代理店常務という設定で、社長派に属していないために、大阪の子会社社長の内示を断り、60歳で定年退職する。

筆者は昔IT子会社に出向していたときに、事業パートナーだった大手広告代理店の役員とは親しくさせて頂いたから、なんとなく身近に感じる。

退職してからは、家でいわゆる「粗大ごみ」化して、あいかわらず奥さんに「フロ」、「メシ」を繰り返す。そのうち奥さんはストレスで頻繁に外出するようになる。

定年退職してから年金生活者となったので、小遣いも月5万円奥さんから渡されるだけ。ゴルフにも行けず、他に行くところもないので、週に数回図書館などに行き、暇を持て余す生活をする。

子どもは就職して会社の寮に住む長男と、同居している会社員の長女の二人。主人公と奥さんの間を取り持つのが長女だったが、口争いが原因で長女は自分でワンルームマンションを借りて自分で住み始める。

奥さんと二人きりとなった生活がいかにもありそうな話ばかりで、妙にリアルだ。渡辺淳一はこんな作風もあったのかと、その観察眼に驚かされる。

年代も近い筆者には身につまされる話が多い。

この本を読んで、やはり食事は自分でつくるとか、自活力をつけなければいけないとか、小遣いを奥さんから支給されるようになったらおしまいだなとか、いらんことを考えてしまう。

渡辺淳一らしい面では、奥さんから100万円の軍資金を得て会員制デートクラブに登録し、27歳のOLと付き合う話が唯一の色っぽい展開だ。それとて「マリソル」の連載なので、「アバンチュール」という章題がついてはいるが、たかが知れている。

筆者もいずれ同じ立場となる。反面教師となり、楽しめる小説だった。


参考になったかどうかわからないが、よければ投票ボタンをクリックして頂きたい。



  
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2011年06月12日

塩野七生 痛快!ローマ学 「ローマ人の物語」総集編

痛快!ローマ学 (痛快!シリーズ)痛快!ローマ学 (痛快!シリーズ)
著者:塩野 七生
集英社インターナショナル(2002-12-05)
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ローマから日本が見える (集英社文庫)ローマから日本が見える (集英社文庫)
著者:塩野 七生
集英社(2008-09-19)
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「ローマ人の物語」シリーズを書き続ける作家塩野七生さんの「ローマ人の物語」総集編。以前紹介した集英社インターナショナル社長の島地さんの「えこひいきされる技術」で紹介されていたので読んでみた。

えこひいきされる技術 (講談社プラスアルファ新書)えこひいきされる技術 (講談社プラスアルファ新書)
著者:島地 勝彦
講談社(2009-11-20)
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当初「痛快!ローマ学」がムック本で2002年に発売され、写真などの装丁を変えて「ローマから日本が見える」というタイトルで単行本と文庫本で出版されている。

違う本かと思って両方図書館で借りたが同じ本だった。図書館で借りたからよかったが、これがアマゾンで両方注文していたらガックリくるところだった。一つの原稿をタイトルを変えて、3回も出版するのは問題ではないかと思う。

実は筆者は塩野さんの作品はこのブログで紹介した「絵で見る十字軍物語」以外読んだことがない。あまりに大部すぎてどこから読んだらいいのかわからないので、手を付けていないというのが実情だ。

絵で見る十字軍物語絵で見る十字軍物語
著者:塩野 七生
新潮社(2010-07)
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その意味では食わず嫌いの人向けに最適な入門書・総集編だと思う。

この本に塩野さんの古代ギリシャ・ローマの指導者の通信簿が載っていて興味深い。

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出典:「痛快!ローマ学」201ページ

この通知簿の評価が高い人の「ローマ人の物語」を読めば良いと思う。

一番評価が高いのはカエサルと都市国家アテネの黄金時代を築いたギリシャのペリクレスだ。


ローマの強さ

ローマの強さは「敗者を同化する」点にあったと塩野さんは説く。ローマ帝国は次の5層構造でできており、これを歴史家アーノルド・トインビーは「政治建築の傑作」と呼んでいたという。

1.ローマ
2.ラテン同盟(ローマ市民権あり)
3.ムニチピア(地方自治体)ローマ市民権はない。しかし投票権、被選挙権を除けばローマ市民権と同等の権利あり。
4.ソーチと呼ばれる同盟国 ソーチの支配層にはローマ市民権取得を勧める
5.コローニア(植民地というよりは辺境の防御拠点)パリ、リヨン、ケルンなど

被征服国の国民をローマ人と同化することで、ローマ帝国は長く続いたのだ。

「すべての道はローマに通ず」ということで、帝国の道路を整備した。これは軍事的な理由もあった。戦争があれば、軍隊を迅速に移動するためだ。

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出典:「ローマから日本が見える」268−269ページ

この地図のローマ帝国の版図はカエサル時代に達成された。塩野さんはカエサルこそローマ帝国のグランド・デザインを書いた人物だと評価し、歴代の指導者の中でもベストに挙げている。「ローマ人の物語」でもカエサルのことを書くために2巻を費やしたという。

しかしカエサルはブルータス他の元老院の反対派に暗殺されてしまう。

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出典:Wikipedia

カエサルの遺言でその後を継いだのがオクタヴィアヌス、後のアウグストゥスだ。

アウグストゥスは自分から権力を望むというそぶりは一切見せず、元老院から権限を与えられて、最終的に様々な権限を自分に集中して皇帝の地位についた。塩野さんはアウグストゥスの皇帝の地位に就くまでの巧妙な深慮遠謀を説明していて面白い。

アウグストゥスはローマの税制をつくり、それが300年続いた。

次の表の通り、既に売上税や相続税が入っているとは驚きだ。

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出典:「痛快!ローマ学」157ページ

「奴隷解放税」は自由の身になった奴隷が自分の価値の5%を税金として収めるもので、無差別の奴隷解放で治安が悪化するのに歯止めを掛ける意図だったという。

塩野さんは日本人が「ローマ人の物語」を書く意義を、西洋のローマ史はキリスト教に影響されているからだと説く。日本人の方が宗教観なしに、欧米人よりずっと公平にローマ史を描けるのだと。

今後「ローマ人の物語」を読むに際して、基礎知識として役立つ本だった。


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2011年06月09日

隠される原子力 核の真実 原子力の専門家が原発に反対するわけ

隠される原子力・核の真実―原子力の専門家が原発に反対するわけ隠される原子力・核の真実―原子力の専門家が原発に反対するわけ
著者:小出 裕章
創史社(2011-01)
販売元:Amazon.co.jp
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原子力畑一筋で東北大学工学部卒業後、京都大学の原子炉実験所で放射能測定を専門として研究を続ける一方、原発反対運動を支援する小出助教(「助手」が現在は「助教」という呼称に変わった)の本。

創史社・八月書館というマイナーな出版社から発刊されているが、折からの原発事故の関係で、アマゾンでは「在庫なし、入荷未定」の状態が続いていた。現在はアマゾンの売り上げで53位とよく売れているようだ。

原発事故後に書かれた「原発のウソ」はアマゾン売り上げ第二位、「放射能汚染の現実を超えて」は売り上げ48位と、いずれもベストセラーとなり、小出さんは一躍時の人になった。

原発のウソ (扶桑社新書)原発のウソ (扶桑社新書)
著者:小出 裕章
扶桑社(2011-06-01)
販売元:Amazon.co.jp
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放射能汚染の現実を超えて放射能汚染の現実を超えて
著者:小出 裕章
河出書房新社(2011-05-19)
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筆者が学生の時に自主講座「公害原論」を開催していた故・宇井純さんを思い出す。宇井さんも東大のポジションは助手どまりだった。

新装版 合本 公害原論新装版 合本 公害原論
著者:宇井 純
亜紀書房(2006-12-01)
販売元:Amazon.co.jp
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この本のサブタイトルにあるように、小出さんは原発の専門家でありながら原発に反対している。この本は1999年から2010年の小出さんの各地での講演内容を取りまとめたものだ。

原子力に関する基礎的な知識が得られて大変参考になった。ピックアップして紹介しておく。


放射線の恐ろしさ

生命体を構成しているDNAなどの分子結合エネルギーはせいぜい数電子ボルトだが、放射線のエネルギーは数百万から数千万電子ボルトに達する。放射線が身体に飛び込んでくれば、DNAはじめ身体の分子構造が切断されてしまうのだ。

被曝量が多くて、細胞が死ぬと、やけど、嘔吐、脱毛、最悪の場合には死を迎える。

一般的にはある線量、たとえば50ミリ・シーベルト以下は被曝の影響がない「しきい値」があるように言われるが、それは妄言だと小出さんは語る。

事実、2005年6月30日に長年放射線問題を研究してきた米国科学アカデミーの委員会は、放射線被曝にはしきい値はないと調査レポートを発表している。放射線の影響はリニア(直線的)に増えるという。


マンハッタン計画

ウランの核分裂現象が発見されたのは、1938年末のナチスドイツの時代だった。そのためアインシュタインはルーズベルト大統領に原爆開発を勧める手紙を送った。

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出典:Wikipedia

これが総額20億ドル(当時の日本の年間GDP)がつぎ込まれ、5万人とも10万人ともいわる科学者・技術者・労働者が動員されたマンハッタン計画が生まれた原因だ。

この辺の話は、「日本は原子爆弾をつくれるのか」のあらすじを参照して欲しい。

日本は原子爆弾をつくれるのか (PHP新書)日本は原子爆弾をつくれるのか (PHP新書)
著者:山田 克哉
PHP研究所(2009-01-16)
販売元:Amazon.co.jp
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マンハッタン計画の2つの道がこの本で図解されている。

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出典:本書26ページ

上記の図で、ウランルートでできたのが広島原爆で、プルトニウムルートでできたのが長崎原爆だ。


劣化ウラン弾

核分裂性ウランの含有量が減ったものは「劣化ウラン」や「減損ウラン」と呼ばれ放射能のゴミとなる。このゴミは長年蓄積していくので、次の表のように各国は大量の劣化ウランを保有している。

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出典:本書28ページ

その核のゴミをコストゼロの原料として「有効利用」しているのが、劣化ウラン弾だ。

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出典:Wikipedia

次が最近の戦争で使われた劣化ウラン弾の量である。

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出典:本書29ページ

筆者は「劣化ウラン」という名前から放射性物質は含まないと誤解していたが、実は天然ウランに比較すると線量は半分程度ではあるが、依然として危険なものに変わりはない。

一般公衆の劣化ウラン吸入年間摂取量限度は11.4ミリグラムで、たとえ少量でも規制されている。

ちなみに劣化ウラン弾は、鉄の倍以上重く(比重18.9、鉄は7.9)、貫通力があり、空気中では発火するので、敵戦車の装甲を貫通して車内で燃え、放射能汚染も引き起こすという恐ろしい兵器だ。


ウラン資源は化石燃料資源の代替にはならない

次はこの本に載っている図だ。四角の大きさが究極埋蔵量、黒い四角が確認埋蔵を示している。石炭の資源は大きく、1,000年以上は枯渇しないと見られている。ウラン資源の枯渇の方が早く起こる。

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出典:本書37ページ

これ以外にも海底のメタンハイドレートや、シェールガスなど、まだ利用されていない化石燃料資源がある。


日本の核燃料サイクル

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本書:41ページ


高速増殖炉で改質したプルトニウムは原爆原料

ウラン資源の99.3%は、核分裂性のないウラン238だ。これをプルトニウムに変えて利用するのが高速増殖炉を使った核燃料サイクルだ。

日本の高速増殖原型炉もんじゅは1994年に動かしはじめ、1995年に40%の出力まで上げたところでナトリウム噴出事故が起こり、2010年まで休止していた。2010年5月に再稼働したが、燃料交換中継器を炉内に落下させる事故が起こり、2012年に予定した40%出力試験の実施は不可能となった。

普通の原発で生み出されるのは核分裂性のプルトニウムが70%程度で、これでは核兵器は作れない。しかし高速増殖炉でつくるプルトニウムは核分裂性が98%となり、優秀な核兵器の製造が可能となる。

日本はプルトニウムをせっせと溜め込んで、今や長崎原爆4,000個がつくれるだけのプルトニウムを国内外で保有している。

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出典:本書46ページ

大前研一さんは、日本は90日で原爆を作る能力がある「ニュークリア・レディ」国だという。

しかし原爆を作るわけにはいかないので、それでウランとまぜて原子炉の燃料(MOX燃料)としているのが「プルサーマル」型原発だ。


原発は非効率な湯沸かし装置

100万KWの原発を一年間運転するのに必要な作業は次の通りだ。

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出典:本書71ページ

原子力は発電時にはCO2は排出しないが、その前のウラン鉱山、精錬、濃縮、それから再処理と莫大なエネルギーを消費し、やっかいな廃棄物をもたらす。

冷却用に使う温排水は日本にある原子炉54基すべてが稼働すると、年間1、000億トンと、日本の河川全部の流量4,000億トンの1/4という流量となる。平均7度上がった温排水が海に流れ込むので、大幅な近海海水温度上昇を巻き起こす可能性がある。

原子力発電所の熱効率は33%で、最新の火力発電所の50%超、温排水を地域暖房に使うコジェネの80%に比べて低い。また都会立地ができないために、排水の有効利用もできないという問題がある。


原子力から撤退する核先進国

フランスでさえ新たな原発計画はなく、ヨーロッパ全体でフィンランドに1基建設計画があるだけだ。アメリカもスリーマイル島の原発事故以来一基も原発は建設していない。オバマのグリーンニューディールでは原発建設が含まれていたが、これも先行きは不明になってきている。

小出さんは原発をやめても、火力発電所があるので全く困らないという。


小出さん自身は夏でも家でも職場でもクーラーは使わないという。徹底していて立派ではあるが、意固地な変人といえなくもない。日本はエネルギー浪費型社会を改める作業に一刻も早く取りかからなければならないと小出さんは最後に説いている。


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2011年06月06日

日本復興計画 大前さんの原発事故と東日本大震災からの復興計画

日本復興計画 Japan;The Road to Recovery日本復興計画 Japan;The Road to Recovery
著者:大前 研一
文藝春秋(2011-04-28)
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大前さんがビジネスブレークスルー大学院大学で東日本大震災と、その後の福島原子力発電所事故について解説した番組を加筆して緊急出版したもの。

このブログでも紹介している通り、大前さんは東日本大震災が起こり福島の原発事故が発生した直後の3月13日から毎週、ビジネスブレークスルー大学院大学で原発事故について講義をしていた。これらはYouTubeにも収録されている。



大前さんは当初からこれで日本原子力産業は終わったと言っていた。

大前さんの復興計画の根幹をなすのは次の2点だ。

1.道州制
2.個人の意識改革

道州制については、大前さんが「平成維新の会」を立ち上げる前から主張しているものだ。

今回の提案は、被災地に最初に道州制を導入するという先行導入案だ。県単位でバラバラに復興計画が出されて、全体最適が損なわれる事態を、道州制を導入して全体で整合性のある復興計画にしようというものだ。

たとえば昔の「ここより下には家をつくるな」の石碑などの例にならい、住居は高台につくり、漁師などは海辺に車で通勤するとかの提案が含まれている。



最近では道州制賛同者も増え、公的な会議の議題にも道州制が上る様になってきた。先日前経団連の御手洗さんの講演を聞く機会があった。御手洗さんも道州制を復興計画の柱として提案されていた。

2.の個人の意識改革というのは、大前さんが「大前流心理経済学」などで、繰り返し提案しているものだ。

大前流心理経済学 貯めるな使え!大前流心理経済学 貯めるな使え!
著者:大前 研一
講談社(2007-11-09)
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次の表の通り、日本は20年間所得が減り続けている世界唯一の先進国だという。これを克服するには日本人のメンタリティを変えなければならない。住宅、車、教育の3大熱病は早く治すべきだと語る。

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出典:本書109ページ


筆者の場合、すべての「熱病」を抱えており、いまさらどうにもならないが、たしかに賃貸物件もいいものがあるので、若い人がこれからマンションとかを買うのは考えた方が良いかもしれない。


特筆すべき発言

テレビ放送を本にしたものなので、オフレコ的な発言も収録されている。

★たとえば4島返還でなくてもよいから日露平和条約を早期に締結して、シベリアの無人地域に核廃棄物の埋設場所を確保させてもらうことを提案している。

放射性廃棄物の問題は日本の国難であり、北方4島と次元が異なる問題だからだという。

合理的な提案かもしれないが、ロシアと日本の国民感情を考えれば、到底受け入れられる提案とは思えない様に筆者には思える。

今後紹介する「大前研一 洞察力の原点」で、世間話ができないことを「大前研一敗戦記」で書いていることが紹介されている。


世間話ができない

「日本全体のこととか、世界経済だとか、東京全体の問題とかは、一生懸命考えてきたけれど、下町の風景のなかでおじいちゃん、おばあちゃんと世間話ができない。

日本改造から自分はスタートしたが、まずは自分の改造が崎だということに気がついたのだった。」

原出典;「大前研一敗戦記」

「シベリアで核廃棄物埋設場建設」というのも、この傾向が出ていると思う。つまり大前さんの欠点の一つは、庶民感覚がないのだ。


★大前さんの奥さんはアメリカ人なので、アメリカ大使館から連絡があってヨウ素カリを大使館指定の薬局でもらってきたという。アメリカの本気度と日本に対する信頼のなさが読み取れるという。

表の顔、裏の顔を使い分けて万全を期すのがアメリカのやり方だ。いかにもありそうな話だと思う。


★日本には「ウラの国策」があり、プルトニウムをためていけば90日で原爆が造れるという。日本は唯一の被爆国として非核三原則を掲げているが、それに抵触しないで核武装の能力だけは備えておく、つまり90日で原爆を作る能力のある「ニュークリア・レディ」国なのだ。

だから使用済み核燃料を国内にずっとため込んでいるのだと。

この「ニュークリア・レディ」の話を読んで、大前さんもヤキがまわったと思っていた。

以前「日本は原子爆弾をつくれるのか」で紹介したとおり、プルトニウム原爆の起爆装置は非常に複雑で、実験もできずノウハウもない日本が90日で原爆ができるとは到底思えない。

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出典:Wikipedia

日本は原子爆弾をつくれるのか (PHP新書)日本は原子爆弾をつくれるのか (PHP新書)
著者:山田 克哉
PHP研究所(2009-01-16)
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ましてや運搬手段のミサイルも爆撃機もない日本で、原爆弾頭だけつくっても、何の役にも立たない。そもそも原爆保有を大多数の国民が許すとは到底思えず、中国や北朝鮮から攻められるとかいう事態があっても、国民のコンセンサスは得られないのではないか?

ところが、最近読んだ京都大学原子炉実験所小出裕章助教の「隠される原子力・核の真実」という本を読んで、日本はせっせとプルトニウムをため込んでおり、すでに長崎原爆を4,000個つくれるだけのプルトニウムを保有していることがわかった。

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出典:「隠される原子力・核の真実」46ページ

隠される原子力・核の真実―原子力の専門家が原発に反対するわけ隠される原子力・核の真実―原子力の専門家が原発に反対するわけ
著者:小出 裕章
創史社(2011-01)
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大前さんはヤキがまわったのではなく、元原子力関係者として一般人が知らない真実をチラッと明かしただけなのかもしれない。そんな気がした。


大前さんはこの本の印税をすべて寄付するという。震災・原発直後の復興提案としては提案スピードといい、提案内容といい、優れたものだと思う。

本を読むか、あるいは上記のYouTubeの2番目の映像の公開講義を見ることを、ぜひおすすめする。


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2011年06月02日

ポジショニング戦略 世界で30年間読み続けられるマーケターのバイブル

ポジショニング戦略[新版]ポジショニング戦略[新版]
著者:アル・ライズ
海と月社(2008-04-14)
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先日読んだ日本コカ・コーラ会長の魚谷さんの「こころを動かすマーケティング」に、マーケターの教科書として取り上げられていたので読んでみた。

こころを動かすマーケティング―コカ・コーラのブランド価値はこうしてつくられるこころを動かすマーケティング―コカ・コーラのブランド価値はこうしてつくられる
著者:魚谷 雅彦
ダイヤモンド社(2009-08-07)
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邦訳第1版は1987年に電通出版事業部が自ら訳して出版している。いかに広告業界で広く読まれているかがわかる。

最初にマーケティングの泰斗フィリップ・コトラーの序文が載っている。

コトラーのマーケティング3.0 ソーシャル・メディア時代の新法則コトラーのマーケティング3.0 ソーシャル・メディア時代の新法則
著者:フィリップ・コトラー
朝日新聞出版(2010-09-07)
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コトラーによると、ポジショニングには次のような方法がある。

.「商品特性」によるポジショニング
ボルボは安全性というポジショニングで成功した。フォルクスワーゲンのビートルの広告は「シンク・スモール」だった。

.「価格」によるポジショニング
ハーゲンダッツは高級アイスクリームというポジションを確立した。ビールのミケロブは国産プレミアムビールという市場がなかったので、そこで成功した。

筆者も最初にピッツバーグに駐在した時は、ミケロブばかり飲んでいた。バドワイザーよりほんの少し(たしか6本で1−2ドル)高いだけだが、コマーシャルが高級感を与えていた記憶がある。

.「路線」によるポジショニング
下着メーカーのヘインズは、デパート向けとスーパー向けを別ブランドで展開している。

.「広告宣伝」によるポジショニング
ピザ・チェーンのリトル・シーザースは「1枚の値段で2枚のピザ」広告で成功した。ジャマイカを「カリブ海のハワイ」と呼んだ広告が成功した。

乾電池市場でナンバーワンだったエバレディを、アルカリ乾電池=デュラセルという商標で逆転した。

.「対抗」型ポジショニング
エイビス・レンタカーの「我々はナンバー2です。だからより一層努力します」という広告で、一位のハーツに近づいた。

敵のポジションを崩すことも有効だ。アスピリンをターゲットとしたタイレノールのCMは、アスピリンを飲むと胃が荒れることを攻撃した。


ポジショニング戦略は、穴を探してそれを埋めることだという。訳者あとがきには、ポジショニングとは「商品ではなく、消費者の側から発想せよ」というものだという。なんだかよくわからない説明だ。

著者のアル・ライズジャック・トラウトはマーケティングの専門家で、それぞれ自分のマーケティング会社を経営している。

この本は「ポジショニング」という新しい概念を広告業界に持ち込んだ最初のもので、成功したポジショニング事例、失敗したポジショニング事例を挙げておりわかりやすい。

一位と二位のポジショニングを紹介しておく。

★消費者の頭の中に入り込む簡単な方法は、一番乗りすることだ。コトラーは上記の類型を挙げているが、どんな形であれ一番乗りできればそれにこしたことはない。たとえばコカ・コーラは「ザ・リアル・シング」というコマーシャルを打った。世界トップブランドゆえにできるCMだ。

しかし既に他社が一番乗りしているケースがほとんどなので、2番手以降でどうポジショニングして一位を切り崩すかがポイントだ。

★一位を切り崩すことが容易ではない場合もある。たとえば米国のタイヤメーカーはすべてオハイオ州アクロンに本社がある。アクロンでは「グッドリッチが発明し、ファイアストンが改良し、グッドイヤーが売る」と言われているという。名前も似ているし、グッドリッチは、スティールベルト付きラジアルタイヤを発明したのに、いくらやってもグッドイヤーに勝てないのだ。

★コンピューターを発明したのはスペリーランドだが、消費者の頭の中にコンピューターという商品を受け付けたのはIBMだ。

アメリゴ・ベスプッチコロンブスとの関係でも言える。コロンブスはアメリカ大陸を発見したが、コロンブスは黄金を求めるあまり口をつぐんだ。アメリゴ・ベスプッチはコロンブスに5年遅れたが、アメリカをインドとは違うとポジショニングし、航海記を「新世界」として発表した。「新世界」は、40カ国語に訳された。

アメリカ大陸はベスプッチにちなんで命名された。コロンブスは獄中で死んだ(?)という。


身近な製品のコマーシャルが取り上げられているという点で、魚谷さんの本の方がわかりやすいが、その魚谷さんが推薦するマーケターの教科書ということなので、一読の価値はあると思う。


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2011年06月01日

「普天間」交渉秘録 元防衛事務次官 守屋武昌さんの本

+++今回のあらすじは長いです+++

「普天間」交渉秘録「普天間」交渉秘録
著者:守屋 武昌
新潮社(2010-07-09)
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2003年から4年の長きにわたり防衛事務次官を務めた守屋武昌さんの本。守屋さんは山田洋行から度重なる夫婦ゴルフ接待など便宜を受けたとして収賄罪で起訴され、現在最高裁で係争中だ。

最近また「普天間」問題が頻繁に報道されるようになっている。「V字」滑走路案が復活したり、はたまた米国上院で普天間の海兵隊ヘリコプター部隊を嘉手納に統合する案が出されたりしている。

この本ではその「普天間」の解決案がどのように変わってきたのか、そしてその背景は何なのかを、防衛省でずっと交渉を担当してきた守屋さんが過去の詳細な日記を元に明らかにしている。

守屋さんは1審で有罪となり、懲役2年6ヶ月、追徴金1,250万円という判決を受け、それが2審でも支持された。上告中なので、裁判は未決ではあるが、すでに退職金も全額自主返納したという。

しかし、山田洋行をめぐる疑惑については、便宜を図ったことは誓ってないが、多大な迷惑をかけたことをお詫びしたいと、この本では一切釈明していない。

在日米軍基地再編問題と防衛省昇格についてだけ書いている。その意味では立派だと思う。

普天間問題については、鳩山前首相を初めとする民主党が、何も知らずに県外移設とかコミットしてしまい、ファンブルしたという印象を筆者は持っている。

今年の初め、沖縄総領事だったケビン・メア米国国務省日本部長が、「沖縄はゆすりの名人」という、学生の前でポロッとしゃべったオフレコ発言が問題にされて辞任している。

「日本の文化は合意に基づく和の文化だ。合意形成は日本文化において重要だ。しかし、彼らは合意と言うが、ここで言う合意とはゆすりで、日本人は合意文化をゆすりの手段に使う。

合意を追い求めるふりをし、できるだけ多くの金を得ようとする。沖縄の人は日本政府に対するごまかしとゆすりの名人だ。」


この本では「在日米軍の基地の74%が沖縄に集中している」と主張をする沖縄が、既に合意している米軍基地施設返還に協力しなかったり、普天間移設についても、できるだけ埋め立て工事などの公共事業が生まれるように動いている現実があることが明らかにされている。

メア氏は日本語も流ちょうと聞くが、問題発言は英語だと思う。どういう言葉を使ったのか興味があるところだ。「ゆすり」という言葉で、日本政府と合意しても沖縄県の反対で、いっこうに実行されない普天間移設案に対するメア氏のいらだちが、非公式の場でポロリと出たのだと思う。


守屋さんの経歴

守屋さんは、1944年宮城県塩竃市の出身。1971年に防衛庁に入庁し、防衛庁内の数々のポジションを歴任したほか、内閣審議官として官邸に出向していた経歴を持ち、小泉首相はじめ多くの政治家と太いパイプを持つ防衛省きっての実力者だった。だから防衛次官として異例の4年間という任期をつとめ、小池百合子防衛大臣と衝突して退任し、山田洋行がらみの収賄罪で有罪判決を受けた。

この本でも小泉首相から直接了解を得て、外務省をすっ飛ばして米国側と交渉していた守屋さんの実力のほどが伺える。首相に直接話し、首相からお墨付きを貰うなど、普通の官僚ではなかなかできないことだ。


9.11以降の米軍の世界戦略に基づく米軍再編

次が守屋さんが小泉首相に2004年9月に説明した米軍再編問題だ。

2001年9月11日以降、米国は2002年に国土安全保障省(FEMA: Federal Emergency Management Agency)を新設し、日本でいえば税関、入国管理局、警察庁、消防庁、国土交通省の防災局、海上保安庁を一緒にした。同時に米軍の配置見直し(GPR: Global Posture Review)を行い、ヨーロッパ諸国、韓国と在留米軍の見直しについて合意し、最後に残ったのが日本との米軍再編問題だった。

米国が日本に提示したのは次の2点で、これはトータル・パッケージと呼ばれている。米軍は冷戦終了とともに世界戦略の中心をヨーロッパからアジアに移してきている。いまや在日米軍のトップ経験者が次の米軍のトップになるようになったのだ。

1.米陸軍第一軍司令部(ワシントン州フォート・ルイス)をキャンプ座間に移す。
2.横田基地にある第5空軍司令部をグアムに移転する。

外務省はこのうち2.だけを認めるスモール・パッケージの考えだが、これではアメリカと合意することは難しい。むしろこの機会に米軍問題を解決して、「日本の戦後」を終わらせるために次の3点も提案すべきだと守屋さんは小泉首相に説明した。

1.厚木基地の空母艦載機部隊を岩国の海兵隊基地へ移す。
2.相模原補給廠省や牧港補給廠(沖縄)の返還。
3.普天間飛行場移設合意の見直し。

この案は守屋さんが、旧知の米国のカート・キャンベル現国防次官補とすりあわせた案だという。小泉首相は、「本当に日本の戦後を終わらせることが出来るんだな?」と聞いたという。

実は現在でも東京の港区、渋谷区、新宿区、西部地域の上空7千メートルまでは米軍の空域となっている。羽田に向かう旅客機が銚子から回り込むように着陸しているのは、この空域を避けて飛ばなければならないからだ。このルートはハワイ、グアムから最短距離で朝鮮に行く航空路だ。だから守屋さんが「戦後を終わらせる」と言っているものだ。


普天間返還問題

この本の大半が普天間問題の経緯についてだ。普天間飛行場は1945年に建設された海兵隊のヘリコプター飛行場で、建設された当時は普天間町は1万5千人ほどの人口だったのが、9万人を超え、市街地の中の飛行場になっている。

まず日米間で1996年に名護市沖の海上浮体方式とする移転案が合意された。

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出典:本書26ページ

ところが、当時の大田知事が単純返還を主張、その後の稲嶺知事は軍民共用飛行場を辺野古沖(キャンプ・シュワブ)に埋め立てで建設する案を出したが、結局なにもせず環境アセスメントが遅れる。

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出典:本書27ページ

2004年に米軍ヘリの墜落事件が起こり、普天間移設は政治問題化する。辺野古沖軍民共用空港案は巨額の建設費用がかかる上に、アセスメントが進まないことで事実上凍結となる。

代わりに出てきたのが、今回も出てきている嘉手納統合案だ。しかし低速のヘリコプターと高速の戦闘機の航空管制は異なる。発着回数の激増が飛行場運用を難しくし、なおかつ地元住民の負担が増すという問題がある。

一方守屋さんはキャンプ・シュワブ陸上案を推し進める。

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出典:本書47ページ

ところがアメリカから提案された案は、名護ライト案という名護市の土建業の有力者が推す案だった。その有力者はワシントンまで出向いてペンタゴン担当者にこの案を説明し、これなら沖縄住民は賛成すると吹き込んでいたという。

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出典:本書55ページ

ところがこの名護ライト案では珊瑚礁のきれいな海を埋め立てるという問題がある。ジュゴンの生態にも影響を与え、国民の支持を失う恐れがあったので、守屋さんはキャンプ・シュワブ宿営地案L字型案を出す。

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出典:本書61ページ

これならサンゴの少ない海を埋め立てることになり、埋め立て面積も大きいので地元(土建業者)も納得するはずという考えだった。当初米国は難色を示したが、なんとか乗り切り米国もL字案で合意した。

合意の直後、守屋さんは夫妻で園遊会に呼ばれて天皇陛下にお会いしたという。各省の事務次官は2年に一度園遊会に呼ばれるのだという。守屋さんは防衛次官としては20年ぶりに今上天皇陛下にご進講したことがあったので、天皇陛下から「この間はありがとう」と声を掛けられたという。

2006年になると1月5日に鈴木宗男議員から「検察が防衛庁をねらっているから気を付けろ」という不可解な電話が入る。防衛施設庁の空調工事汚職でOBと現役役人が逮捕された。

聞いて驚く話だが、2.26事件以来警察と防衛庁は仲が悪い。2.26事件で軍の前に警察は無力だったからその怨念があるという。

一旦日米で合意したL字案は、その後住宅地の上をヘリが通る等の理由で、名護市から300メートル海上にずらせというX字案が出てくる。これで建設費は500億円増える。土木工事利権のからんだ非常に政治的な動きだ。

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出典:本書125ページ

さらに飛行ルートの安全性も考慮して最終的に名護市と合意したのがV字案だった。

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出典:本書139ページ

ところが合意の会見場で、稲嶺知事は合意していないと言い張る。その後沖縄を訪問した小泉首相には「防衛は国の専権事項で地方がどうこう言える問題ではない。しかし県内的には基地は容認できないという立場をとらないと私は生きていけない。どうぞ総理、理解してください」と言っていたという。

こういう話は他でも出てくる。稲嶺知事は合意書の形式を拒否したという。「合意書の形をとることは、私がいかにも国に歩み寄った格好になり、県民の反発を呼ぶことになるから

その後も稲嶺知事の後を継いだ元通産省技官の仲井真知事や、名護市島袋市長などの沖縄側から、山崎拓副総裁などを経由して、さらに沖合に550メートル出せと圧力がある。

沖合に出す距離を50メートルから数百メートルの間で、まさに手を変え品を変えて沖縄側は交渉してきた経緯がこの本には実名で詳しく書いてある。

「V字案を受け入れる条件として、1.那覇空港の滑走路の新設、2.モノレールの北部地域までの延伸、3.高規格道路、4.カジノ」という話が仲井真知事の使者と名乗る人物(本には実名が書いてある)から寄せられたという。


「アメとムチ」の沖縄対策費

沖縄に支給されている基地対策予算は巨額だ。2006年度の北部振興事業費は総額115億円。このうち国が98億円負担している。

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出典:本書162−163ページ

沖縄県には北部振興策を含め、約3,000億円の「沖縄振興開発事業費」が支払われている。これは1972年の沖縄復帰の際に制定された「沖縄振興開発特別措置法」で決められている。振興事業にかかわる経費の95%は国が負担するという特別措置だ(他の都道府県では3分の1以下)。

普天間移転は8年経っても進まないのに、北部振興策には毎年予算がついていた。

守屋さんは太平洋セメントの諸井虔(もろい・けん)相談役から「政府は沖縄に悪い癖をつけてしまったね。何も進まなくてもカネはやるという、悪い癖をつけてしまったんだよ」と言われたという。

逆に、沖縄側から振興策は「アメとムチで沖縄県民の心を引き裂くものではないか」と言われ、当時の橋本首相は「そういう言い方をされるのは悲しい」と語った。しかし、それが現実で、沖縄の政治のFAW(Forces at work=動かす力)となっていることを示している。

もっとも、筆者はこのことで沖縄を非難するつもりはない。これは沖縄だけの話ではないからだ。誰もNIMBY(Not In My Back Yard=自分の地域では困る)と思うから、原発立地や基地立地の自治体には手厚い支援があるのは当然だ。

定年延長して防衛次官を務めていた守屋さんを退任させたのが小池百合子大臣だ。この本では小池百合子防衛大臣の就任の時に、小泉首相から守屋さんに直接電話があったことや、防衛省をバカにした小池大臣の発言が引用されている。

「防衛省には英語ができる人、いないんでしょ。私は外国からのお客さんと直接やるから、英語がわかる秘書官でないと困るわ。それから私が環境大臣だったときに作らせたエコカーね、あれを持ってきて私の公用車にしてほしい」

現在は防衛省は民間の語学学校で6ヶ月の語学研修を受けさせ、さらに米英の大学への留学、在外公館への勤務などで人材の育成に努めているという。


防衛事務次官人事で小池大臣と衝突

各省の事務次官、各局長などの人事は次の手順で決められると守屋さんは書いている。

1.各省庁の事務方が大臣の了解した人事案をつくり、官邸に提出する。
2.官邸では内閣官房長官と三人の内閣官房副長官から成る「人事検討会議」に諮られ検討される。
3.人事検討会議の審査が終わってから、直近の閣議に諮られ了解される。

この不文律は政治と行政の間で国家公務員の身分保障を確保する「最後の砦」として存在していた。小池大臣が守屋次官の退任と後任人事を新聞にリークしたのは、これらのルールを無視したものなので、守屋もファイトバックした。

小池大臣に協力した西川官房長(後任次官として新聞で発表されていた)を「役人として恥を知れ」と怒鳴りつけ、「閣議了解の前に公にされた場合は、その人事は差し替えられる」という4番目の不文律に従って官房長官に新たな人事案を提出し、西川次官という新聞辞令は葬られた。守屋さんの後任は増田人事教育局長となった。


日本の地政学的重要性

日本の国土は世界で61番目で、イギリス、イタリアより大きく、ドイツとほぼ同じ面積だ。先進国としては遜色のない面積を持っている。さらに200海里の排他的経済水域を入れると日本は世界で6番目となる。

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出典:本書331ページ

日本本土の在日米軍基地

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出典:本書10ページ

沖縄県内の在日米軍基地

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出典:本書11ページ

実名で書いてあるので、暴露本という面もある。内容も守屋さんの立場を正当化しているので、実名で書かれた人には異論があるだろうし、当事者の一方的な理解を伝えているにすぎない。

その分は差し引いて読む必要があるが、いまだにくすぶり続けている普天間移設問題と沖縄の基地問題の経緯と力学がわかって大変参考になる本だった。


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Posted by yaori at 12:50Comments(0)TrackBack(0)