2011年11月28日

サッカー代理人 中村俊輔、長谷部誠らの代理人の本

サッカー代理人 (日文新書)サッカー代理人 (日文新書)
著者:ロベルト 佃
日本文芸社(2011-05-25)
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中村俊輔、長谷部誠、長友佑都、岡崎慎司、阿部勇樹などの代理人をつとめるFIFA公認代理人であり、6か国語を話すというロベルト佃さんの本。

ロベルトさんはアルゼンチン生まれで、アルゼンチンで同時通訳などをやっていて、1995年に横浜マリノスの当時のアルゼンチン人監督のホルヘ・ソラリ監督と3人のアルゼンチン人コーチの通訳として雇われた。

当時マリノスにはラモン・ディアス、メディナベージョ、ビスコンティ、サパタのアルゼンチン代表、元代表がいて、あわせて8人のアルゼンチン人がチームにいた。選手の通訳はうまくなくてもよいが、監督の通訳は正確性が求められる。そのため当時のマリノスの森孝慈GMがロベルトさんにオファーを出したのだ。

中村俊輔は1997年にマリノスに入った時からの知り合いだ。またロベルトさんの会社の共同経営者の西塚さんとは、マリノスのフロントで知り合った仲だ。

この本では日本選手を海外チームに売り込む場合の交渉術、日本人プレーヤーにあった国、ヨーロッパの国の民族性の差、年俸戦略などが紹介されており興味深い。


年俸は必ずしも高い方が良いわけではない

非常に参考になったことは、年俸は必ずしも高い方が良いわけではないということだ。

たとえば現在の年俸が2,000万円であれば、交渉で5,000万円とするよりも、3,000万円にとどめておいたほうが良い場合もある。

クラブの経営状態が悪くなると、高い年俸の選手からリストラの対象となるので、たまたま次のシーズンに結果がでないと5,000万円の選手はリストラされてしまう恐れがあるからだ。Jリーグの選手の年俸は500万円/年きざみで上がっているのが現状だという。

プロ野球の選手の高額年俸がメディアで報道されるのを見て勘違いし、年俸をあまりに吊り上げるようなことは自分自身の首を絞める。80年の歴史のあるプロ野球チームと20年の歴史のJリーグクラブとの財政状態は大きな差があることを忘れてはならないとロベルトさんは語る。


契約年数は代理人の腕の見せどころ

複数年契約もトリッキーだ。複数年契約は、2年目は1年目の年俸を下まわらない額、3年目は2年目を下まわらない額という風に決めることが多い。その場合には大体500万円ずつのアップになる場合が多い。

ところが単年度契約なら、活躍できる選手にはクラブ側は残ってほしいので、最初の年は1,000万円でも交渉によっては2年目は2,000〜2,500万円と年俸を上げることができる。

もっとも海外移籍を目指す選手の場合には、安易に単年度契約をしてしまうと、2年目は条件が白紙になったということで、海外からオファーが来た時に、クラブ側が移籍金を吊り上げることが可能となる。そうなると高い移籍金を払える移籍先は限られてしまい、簡単には海外移籍ができなくなってしまう。だから海外移籍を考える選手は複数年契約にしたほうがよいという。


国によって違う交渉

ドイツや英国のクラブはしっかりしていて、約束も守る。オランダはお金に細かい。北イタリアは比較的北ヨーロッパに近いが、南イタリアはルーズで、フランス、スペイン、ポルトガルは約束の時間を守らず、トルコ、ギリシャは論外だという。

ヨーロッパの国の多くでソブリンリスクが発生しており、ギリシャはもちろん、スペインでも経済が停滞し、クラブが次々と経営破たんしている。

スペインのクラブはソシオという会員組織で成り立っており、サッカー以外にも多くのスポーツをやっている。景気が悪くなると会員収益が減り、とたんに経営が苦しくなるのだ。スペインの中小クラブでは選手の給料や移籍金の未払いも日常茶飯事で、有名クラブのバレンシアでさえ財政難からバレンシア市の援助を受ける事態にまで陥ったという。

日本のサッカー選手はスペインサッカーの質の高さに魅了されているが、給料を滞納しているクラブもあることを注意すべきだと語る。イタリアもクラブ経営が厳しいのはスペインと同じだが、イタリアでは私財を投じてクラブ経営を行っているオーナー経営者が多く、スペインよりは安定しているという。


代理人として海外移籍第一号の中村俊輔

ロベルトさんが仲介した海外移籍第一号は中村俊輔だった。

中村俊輔のセリエA移籍はレッジーナ側が積極的で、最初から買い取り前提のレンタル移籍だった。レンタル期間は6か月という好条件で、マリノス社長の条件もクリアーできた。

中村俊輔がセリエAをまず目指した理由は、フィジカルが強いセリエAで通用すれば、フィジカル面での欠点を補える能力があることの証明になるためだった。

中村俊輔の技術力はイタリアでも高く評価されており、「手でボールを扱っているようだ。あそこまでコントロールできる選手は見たことがない」とイタリアのプロも評価していたという。

セリエAで3年間やった後で、スコットランドのセルティックの監督が中村にほれ込み、2005年にセルティックに移籍した。ヨーロッパのビッグ20に入り、チャンピオンズリーグの常連の名門クラブで活躍した日本人選手は俊輔だけだった。

中村俊輔はマリノス入団当時からサッカーノートをつけていた。自分のプレイのみならず、相手の良いプレイでも書き留めていたという。このメモが課題克服に役に立ち、日ごろの自己分析を自分の成長につなげた典型例だ。

中村俊輔はサッカーが好きで、イタリアでもサッカー漬けの生活をしていた。夜7時に夕食、8時からはテレビゲームでリラックス、9時からは風呂、ストレッチで、11時前には寝る。朝は7時に起きて、いいイメージをつくるために、自分が出場した試合のビデオを見るという生活だったという。


海外で活躍する有力選手

長友佑都は3つぐらいの単語を知っていただけで、1時間もイタリア語で談笑できる、だれとでもすぐ仲良くできる「ラテン系日本人」だという。心肺能力も抜群のものがあり、走力はずば抜けている。

岡崎慎司は技術面ではもっとうまい選手がいるが、チームのために限界まで頑張れるタイプの選手だという。メンタル面とフィジカル面での強さを兼ね備えた選手である。

ヴォルフスブルクの長谷部誠は、攻撃面では得点にからむ決定的な仕事をし、守備面でも豊富な運動量に裏付けられた献身的なプレーで高い評価を得ている。

長谷部はドイツ語を流暢に話し、ドイツの文化、クラブにも溶け込んでいる。イギリスやイタリアからの誘いもあったが、ドイツへの移籍は長谷部が希望して実現した。非常に頭がよく、読書家であり、人のことを第一に考えるタイプの人間なので、そういった人間性がドイツの国民性・サッカーに合致して、まわりの信頼を得ている。

礼儀正しく律儀で、ロベルトさんの事務所に顔を出すときも、必ずみやげを持ってくるという。自分でできることは自分でやる。チケットの予約も自分でやるというぐあいだ。


南米の選手はなぜ異国で活躍できるのか

ブラジルやアルゼンチンの選手がなぜヨーロッパなどで活躍できるのかについては、ロベルトさんは技術の高さもあるが、次の要因を挙げている。

1.家系にスペイン人、イタリア人、ポルトガル人の親族がおり、ヨーロッパで活躍すれば、数年でEUのパスポートが取れることが大きなモチベーションとなっている。

2.サポーターの厳しい目があり、手を抜いたプレーをするとヤジが飛ぶ。そんな日常的なプレッシャーの中でプレーしている彼らはプレッシャーを感じない強靭な精神構造がつくられる。

3.南米社会の底辺は貧しく、家族を養うために生活費を稼ぐハングリーさを持ち合わせている。

4.ブラジル人選手は「サッカー界の中国人」と呼ばれ、数も多く、どこの国にいっても存在感は大きい。しかし、ブラジル人は多いが、失敗する選手も多い。

逆にアルゼンチン人選手はブラジル人に比べれば数は少ないが、海外で成功する確率は高い。これはアルゼンチンの競争心をはぐくむ教育方針が関係しているとロベルトさんは語る。アルゼンチン人は、仕事は成功させなければならないものという意識が高く、失敗して故郷に帰るくらいアルゼンチン人にとって恥ずかしいことはないのだと。

長谷部も「心を整える。」の最後でアルゼンチンのボカジュニアーズとレッズ時代に対戦した時に、ボカの選手の試合にかける意気込みとハングリーさはレッズの選手と全く異なっていたと書いている。

心を整える。 勝利をたぐり寄せるための56の習慣心を整える。 勝利をたぐり寄せるための56の習慣
著者:長谷部誠
幻冬舎(2011-03-17)
販売元:Amazon.co.jp
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マラドーナもブエノスアイレスの貧民街出身だ。天性のサッカーセンスもあるが、そのハングリー精神はすごいものだ。だからあれだけの選手となったのだ。


Jリーグ年俸制の問題点

Jリーグの新人選手の年俸は大学・高校生は”C契約”で上限は480万円だ。アマチュア時代に国際Aマッチ、オリンピックやアジア大会などの予選・本戦の出場時間が450分以上となると”A契約”が可能だが、それでもA契約の上限は700万円と設定されている。

ロベルトさんはこれではいかにも低すぎ、プロの世界といっても夢が感じられないだろうと語る。サッカーでなくほかのスポーツを選ぶ可能性も出てくる。野球のほうが選手生命は長く、高額な契約金もある。スポーツのできる子がサッカー界を目指さなくなるのではないかと。


スポーツ選手の代理人というと、口八丁手八丁の辣腕弁護士のようなイメージがあるが、ロベルトさんはその辺を感じさせない。トリッキーなところがなく、選手から信頼されて各国のクラブオーナーやGMと誠実な交渉をしていることがうかがえる。

ロベルトさんが代理人をとつめるサッカー選手の人柄や、サッカー選手年俸・移籍に関する交渉の内実がわかって参考になる本である。


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2011年11月27日

大震災の後で人生について語るということ 日本を襲ったブラック・スワン

大震災の後で人生について語るということ大震災の後で人生について語るということ
著者:橘 玲
販売元:講談社
(2011-07-30)
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最新の海外投資やパーペチュアル・トラベラー(常に渡り歩いて、どの国にも税金を払わない)、サラリーマン法人など、ユニークな話題を取り上げている橘玲さんの最新作。このブログでも多くの橘さんの作品を紹介している

この本では日本で起こった二つのブラック・スワン(起きる前は誰も予想できなかったが、起こった後は誰もが”起こるべくして起こった”と見なしている「世界を変えた出来事」)として、今年の東日本大震災と1997年のアジア通貨危機を取り上げている。

ブラック・スワン[上]―不確実性とリスクの本質ブラック・スワン[上]―不確実性とリスクの本質
著者:ナシーム・ニコラス・タレブ
ダイヤモンド社(2009-06-19)
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ちなみに「ブラック・スワン」という2010年度アカデミー主演女優賞を受賞したサスペンス映画もあるが、ここでいう「ブラック・スワン」とは関係ない。



東日本大震災と福島第一原子力発電所の問題は、誰にでもわかりやすいブラック・スワンの例だが、1997年のアジア通貨危機とその後の日本の金融危機(北海道拓殖銀行、山一證券、日本長期信用銀行、日本債券信用銀行の破綻)は言われてみなければわからない。

日本の自殺者は1998年から1万人/年増えていて、毎年減らない。

自殺者長期推移






次が男女・年齢別の自殺者数の推移だ。1998年以降男性が大幅に増えているのに対し、女性はほとんど変化が見られない。

自殺者男性年齢別











出典:「自殺対策白書」

政府が毎年発表している「自殺白書」では、1998年から男性の45歳〜64歳の自殺率が急増し、それが毎年1万人弱という大幅な自殺者の増加の原因であることを示している。

東日本大震災での死者・行方不明者は約3万人と言われているが、1998年からの金融危機後の自殺者増加数は12年間の累計で10万人にも上り、東日本大震災を上回るインパクトである。

中高年男性が自殺を選ぶ最大の原因は経済的な理由と見られている。

典型的なパターンは、リストラなどによる失業や賃金カットで、住宅ローンや教育費が払えなくなり、消費金融から金を借りるだけでは追いつかず、闇金にも手を出す。借金取りに追い立てられて挙げ句の果てには自殺して生命保険で借金を清算するほかなくなる、という悲劇の構造だ。

この金融危機後のブラック・スワンの原因は次の日本の4大神話が崩壊したことにあると橘さんは語る。

1.不動産神話 持ち家は賃貸より得だ
2.会社神話  大きな会社に就職して定年まで勤める
3.円神話   日本人なら円資産を保有するのが安心だ
4.国家神話  定年後は年金で暮らせばよい


これらがいずれも崩壊したことに気が付かないと、ある日突然自分の資産がマイナスとなり、窮地に追い込まれることとなる。

橘さんはマイホームを買うという夢は否定しないが、年収の数倍という大きな借金を背負って金融資本のすべてを不動産に投資することは、きわめて危険な選択だという。

米国のようにノンリコース(非遡及型)なら、住宅ローンが払えなければ、家を明け渡せばよいだけだが、日本の住宅ローンは属人型なので、不動産価値が下がると、たとえ家を換金売りしてもまだ借金は残る。

サラリーマンは一定の賃金が将来とも保証されているという「サラリーマン債券」という資産を持っていると見なせるが、会社が倒産したり、リストラにあって職の安全が保証されなくなるとサラリーマン債券を失う。「サラリーマンでいることのリスク」が顕在化してきているのだ。

リストラに遭うと、中高年サラリーマンが再就職するのは至難の業で、せいぜい非正規社員にしかなれない。収入は激減し、住宅ローンや教育費が重くのしかかってくるのだ。


日本人はリスクを嫌う

「リスクに背を向ける日本人」という本で引用されている、「世界価値観調査」によると”自分は冒険やリスクを求める”のカテゴリーに当てはまらないと思っている比率は日本人が世界でも最も高い。

リスクに背を向ける日本人 (講談社現代新書)リスクに背を向ける日本人 (講談社現代新書)
著者:山岸 俊男
講談社(2010-10-16)
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世の中に錬金術はなく、国家財政の赤字を垂れ流し、国債を発行ばかりしていれば、人口減少・少子高齢化の日本の未来ははっきり見通せる。それは今と逆の世界で、高金利、円安、インフレだ。

日本人は元々リスクを嫌う国民で、安定した人生を送るために、偏差値の高い大学に入って大企業に就職することを目指し、住宅ローンを借りてマイホームを買い、株や外貨には手を出さずにひたすら円を貯め込み、老後の生活は国に頼ることを選んできた。

こうしたリスクを避ける伝統的な選択が、今はリスクを極大化する事になってしまう。この事態は1997年の金融危機から始まっていたが、多くの日本人は”不都合な真実”に眼をそむけ、3.11の東日本大震災ではじめて自らのリスクを目の前に突きつけられたのだと橘さんは語る。


伽藍からバザールへ

そしてこの本の結論として、橘さんは「伽藍からバザールへ」という言い方で、「出る杭は打たれる」ことを恐れ、目立つことをしない閉鎖的なネガティブゲーム社会から、自分の能力を売り物にするグローバルなポジティブゲーム社会へ生き方を変えることを提言する。

伽藍というのはあまりビジネス書では使われない言葉だが、いわば塀に囲まれた町のようなイメージだろう。

米国の労働長官も務めたUCバークレー教授・ロバート・ライシュは「ザ・ワークス・オブ・ネーションズ」で、これからの仕事は”マックジョブ”と””クリエイティブクラス”に2極化すると予言している(この表現は橘さんの用語で、元々の表現は”シンボリック・アナリスト”と”対人サービス業者”、”ルーティン肉体労働者”)。

ザ・ワーク・オブ・ネーションズ―21世紀資本主義のイメージザ・ワーク・オブ・ネーションズ―21世紀資本主義のイメージ
著者:ロバート・B・ライシュ
ダイヤモンド社(1991-10)
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マックジョブはマクドナルドのアルバイトのようにマニュアルにより誰でも出来る仕事で、製造業でもサービス業でも、この種の仕事の賃金はグローバルな競争にさらされる。

その一方で医者や弁護士などの専門家、俳優やクリエイターなどのスペシャリストは専門性あるいは他の人で置き換えられない価値を持っている。


読者が目指すべき道

日本の出版業界では、ながらく本を読む人は人口の10%と言われてきたという。「出版大崩壊」という本で、著者の山田純さんは、日本のビジネス・経済書を読む人口を400万人と推定している。

出版大崩壊 (文春新書)出版大崩壊 (文春新書)
著者:山田 順
文藝春秋(2011-03-17)
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その根拠は、日本の一流大学(MARCH,関関同立など)の卒業生は年間15〜20万人で、その人たちが40年間にわたって本を読むとして800万人。ビジネス書の読者は圧倒的に男性だから、その半分の400万人がビジネス・経済書の読者というものだ。

この本の読者はすでにその400万人の日本の知識層のうちの一人なので、転職や独立を意識しつつ、スペシャリストとして競合他社や他の業種でも評価してもらえる実績をつくることが重要だと橘さんは説く。

サラリーマン法人など前作「貧乏はお金持ち」で紹介したような(筆者はちょっとありえないと思うが)サラリーマンのフリーエージェント化の可能性もある。

貧乏はお金持ち──「雇われない生き方」で格差社会を逆転する貧乏はお金持ち──「雇われない生き方」で格差社会を逆転する
著者:橘 玲
講談社(2009-06-04)
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これが人的資本の伸ばし方の一例で、金融資本の伸ばし方(投資)については、インフレに強い投資(金EFTや商品EFTなど)、FX(ハイリスクなので筆者はお勧めしない)、世界株投資(ACWI=All Country World Index EFTやVT(Vanguard Total World Stock EFT)などを紹介している。

個人のバランスシートは4つの神話に基づいたものから、次のような新しいポートフォリオに変わるのだ。

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出典:本書

最後に橘さんは、東日本大震災の日にあてもなく街をさまよった自らの経験を語り、ヴィクトール・フランクルの「夜と霧」の「最もよき人々は帰ってこなかった」という一節を引用している。

夜と霧 新版夜と霧 新版
著者:ヴィクトール・E・フランクル
みすず書房(2002-11-06)
販売元:Amazon.co.jp
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そして”カポー”(ユダヤ人のナチス協力者)は、暖房の効いた部屋で津波に押し流される家を見ていた自分だったと語る。

橘さんは地震の後、ショックを受け茫然自失に陥った。自分の本はいままで絵空事を書いてきただけではないかと悩んだ。しかしそうであれば絵空事を書くことに徹しようというということで、この本を2週間で書き上げたという。

地震で評価を挙げた経済人は、100億円を寄付したソフトバンクの孫さんや10億円を寄付した楽天の三木谷さんユニクロの柳井さんなどベンチャー企業経営者で、バザールの住人たちだった。大企業はほとんど存在感を発揮できなかった。

筆者自身の話となるが、筆者はいままで橘さんのいう「伽藍世界」の価値観で生きてきた。一流大学を卒業し、大企業に就職して、25年ローンで東京の郊外に一戸建てを買った。18年前に購入したマイホームは、住みやすく問題はない。しかし最初の米国駐在から帰ったバブル直後に購入したこともあり、マイホームの価値は買ってから半減した。

筆者がマイホームを購入したのは、会社の先輩の「年を取るとローンが借りられなくなる」というアドバイスがきっかけだ。橘さんの「サラリーマン債券」という発想そのものである。バブルの後で不動産市況は下落していたが、逆に非常にクオリティの高い住宅が以前より安く買えるようになったことが、現在の家を購入した理由だが、結局マイホーム投資では数千万円という資産価値の下落を経験した。

さいわいまだ個人バランスシート上は債務超過にはなっていなし、払い終えるめどはほぼついてきたが、あやうく債務超過に陥るところだった。

日本が少子高齢化・人口減少化社会に向かうことから考えても、年収の数倍のローンを抱えてマイホームを購入することは、今後は大きなリスクとなることは間違いない。橘さんの説く方向性は間違っていないと思う。なんらかの技能や資格を持ち”つぶしが効く”存在となり、家は極力賃貸することだ。

橘さん自身が書いているように、この本はこれまでの本と同じ路線で、あまり新規性はないが、これまで述べてきた主張を本にまとめて、日本をおそったブラック・スワンに対して日本人への警鐘を鳴らす本である。

この人は本当に文章がうまい。いつもながらテンポがよく、読みやすい本である。


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2011年11月21日

命の限り蝉しぐれ 中曽根康弘元総理と竹村健一氏の対談

命の限り蝉しぐれ―日本政治に戦略的展開を命の限り蝉しぐれ―日本政治に戦略的展開を
著者:中曽根 康弘
徳間書店(2003-12)
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小泉総理(当時)に衆議院議員出馬を止められて政界現役を引退した中曽根康弘元総理と評論家竹村健一氏との対談。2003年12月の出版で、この年の10月に中曽根さんは自民党北関東比例代表区の公認候補を外された。


小泉元首相の「政治的テロ」

小泉首相からの中曽根さんと宮沢喜一さんに対する議員退職の通告に対し、宮沢さんも中曽根さんも反発し、中曽根さんはいたずらに時間を引き延ばされ、結局"NO”と一方的に通告してきたのは「政治的テロ」だと言って強く非難したことは記憶している。

もともと自民党北関東比例代表区の終身1位となるかわりに、小選挙区からは出馬をしないという約束が橋本首相の時代にあり、党の記録にも残っているという。宮沢さんも同様の約束があった。

しかし小泉首相は中曽根さんの抗弁には黙りこくり、中曽根さんの「断じて承服できない」という言葉には無言で帰り、後から安倍晋三幹事長を使いとして決定方針だけ伝えてきたという。

いかにも小泉首相のひ弱さがわかるストーリーだ。

中曽根さんは小泉首相や管直人さんなどのいまのリーダーはタレント的政治家だと断じる。国会全体がクラゲのような「背骨のない軟体動物」のようになっており、国家観がないという。

「私から見ると、今の若い政治家たちは”銀のスプーンをくわえて生まれ育ってきた”から苦難を知らない。従って、非常時という概念もない。われわれは昭和の時代から何回も非常時を経験して、非常時にはふだんやらないことをやらなければ障害を突破できないということを心得ている」

と中曽根さんは語っている。



「体の中に国家を持っている」

竹村さんによると、石原慎太郎都知事は「中曽根さんが素晴らしいのは、体の中に国家を持っていることだ」と言っていたという。戦争の修羅場を潜り抜けた人だけが持つ言葉の重みを感じさせる最後の政治家だろう。

中曽根さんは総理大臣になる前は、その時の政界の主流派と行動を共にするために主張を変え変節することがあり、そのことをマスコミは「風見鶏」とレッテルを貼って非難していた。

しかし、民主党が政権を取って、見かけ上の2大政党制が成立した今、本当の連立政権には「政策の融合」が不可欠ではないかと思える。このことは、大前研一さんも「『リーダーの条件』が変わった」で次のように書いている。

「イギリスも連立だが、日本の連立は足し算した連立であって、一つの見解でまとまった政権ではない。だから吹けば飛ぶような社民党や国民新党の意見に左右される民主党政府は何の改革もできないし、国民からそっぽを向かれる。」


2大政党制

中曽根さんは日本に2大政党制時代は到来するかと聞かれ、イギリスやアメリカの2大政党制は社会的基盤があるが、日本にはない。だから本当の自民党支持者、民主党支持者はあまりおらず、無党派層を中心に揺れ動いているのが現状だと分析する。

日本は「フランス型」の社会基盤であり、フランスのように情勢変化に応じて各党の勢力図が変わったり、新たに政党ができたりするのだという。その意味で第3党の可能性もあると語る。

「みんなの党」が力をもちつつある現状を2003年に言い当てている。なんという先見性なのだろう。

今度紹介する中曽根さんの「わたしがリーダーシップについて語るなら」で、中曽根さんはリーダーの資質として「目測力」、「説得力」、「結合力」、「国際性」、「人間的魅力」を挙げている。

「目測力」とは面白い表現だが、中曽根さんならではの先見性のある意見が参考になる。


憲法改正と教育基本法改正

中曽根さんは政治家になった時からの目標である憲法改正と、教育基本法の改正をやり遂げられなかったことに挙げている。しかし、中曽根さんは議員はやめるけれども、政界は引退しない。自由な立場から言論、執筆活動を続ける。生涯現役で、政治家として現役で死んでいくのだと。


いくつか参考になった点を紹介しておく。

★中曽根外交はコミュニケーション外交。
中曽根さんは当時のレーガン大統領との「ロン・ヤス」関係をはじめ、相手の首脳と一所懸命になってコミュニケーションしようとした。

中曽根さんは自称「心臓英語」に「心臓フランス語」でレーガン大統領のみならず、サッチャー首相、ミッテラン大統領とも直接話し合った。

首相としてはじめて訪れた韓国では、全体の1/3は韓国語でスピーチし、迎賓館の歓迎二次会では「黄色いシャツ」という韓国語の歌を歌った。



そのお返しに当時の全斗煥大統領が日本語で「知床旅情」を歌った。こんな付き合いを各国の首脳とできるリーダーが今の日本にいるだろうか?

★間接税(=消費税)の導入
国家ビジョンを持って、中曽根さんは政治を行っている。たとえば売上税にしても、中曽根さんが提唱し、在任中は実現できなかったが、中曽根さんの路線を継いだ竹下内閣で実現した。

内閣法制局はマッカーサーの肝いりで作られた部署(?)
内閣法制局は内閣の姿勢が憲法から逸脱していないかを目を光らせる部署だ。日本は自国を守る権利はあるが、集団的自衛権はないという解釈を一介の役人の内閣法制局が打ち出して、それを総理大臣が唯々諾々としているのは情けないと。

★中曽根さんの憲法改正の主要論点
・前文は全面改定。まず日本語になっていないし、日本の歴史とか国家・伝統に触れていない。
・第一章の天皇の項は煩瑣過ぎ。天皇の国事行為を列挙しているが、これは抽象的な表現でよい。
・第9条は第1項は残すとして、国の交戦権を認めない第2項は現状に改め、第3項として集団的自衛権を入れる。
・第4章の国会は参議院の機能を独自のものに改める。
・第5章の内閣は、中曽根さんの議員になった時からの主張である首相公選制を討議する。
・第8章の地方自治は道州制を取り入れ、地方分権を推進する。
・第9章の改正は改正案が国会の過半数で通過したときは、国民投票。2/3なら国民投票不要というふうにより改正しやすくする。

★教育基本法は「蒸留水」
中曽根さんが教育基本法を問題視するのは、本来憲法と教育法は対の関係であるべきだからだ。明治憲法には教育勅語があった。現在の教育基本法は日本の伝統や文化・歴史が全く考慮されておらず、権利や個性とか人格とかは書いてあるが義務や責任は一切書かれていない。その意味で教育基本法は「蒸留水」であり、日本の水の味がせず、どの国にいっても適用できるという。

★FTAの大潮流に乗り遅れるな
中曽根さんは「FTAの大潮流に乗り遅れるな」と檄を飛ばす。農業問題は政治家の決断次第でどうにでもなると語る。

田中角栄さんが通商産業大臣だったときに、それ以前の宮沢さん・大平さんが行き詰まっていた日米繊維交渉を、日本の繊維工場に近代化資金と補償金を与えて簡単にまとめてしまった例を挙げている

★無利子国債で機動的な財政運営
中曽根さんは、無利子国債を10兆円でも出して、そのかわりその分は相続財産から除外できるという扱いをすることを提案している。そのお金を機動的に使って、仕事を作ればよいという。巨人軍の内紛で話題になっているナベツネなどと年中話していることだという。


日本全体のリーダーシップが欠如している現状では、中曽根さんのような先見性のある政治家が本当に必要である。

もともとは子供向けに書いた「わたしがリーダーシップについて語るなら」のあらすじは次に紹介する。是非読んでほしい本の一つである。


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2011年11月19日

ホテル・ルワンダ ルワンダ内戦で難民を救ったホテルマンを描いた映画

ホテル・ルワンダ プレミアム・エディション [DVD]ホテル・ルワンダ プレミアム・エディション [DVD]
出演:ドン・チードル
ジェネオン エンタテインメント(2006-08-25)
販売元:Amazon.co.jp
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ルワンダ内戦の時の実話を描いた映画。

2006年のアカデミー賞3部門にノミネートされ、その年の最優秀外国映画賞を受賞している。



舞台は1994年のアフリカのルワンダ。

恥ずかしながら、筆者はルワンダと南部アフリカのアンゴラの首都ルアンダと混同していた。

この話もてっきりアンゴラ内戦の時のルアンダのホテルの話だと思っていた。

筆者はアルゼンチンと米国に駐在した経験があり、40か国あまりの国に行ったことがあるが、アフリカはエジプトと南アフリカにしか行ったことがない。

今回の一件で、アフリカに対する無知を思い知らされた。

ルワンダの場所は地図を参照してほしい。コンゴ(旧ザイール)、タンザニア、ウガンダに囲まれた中央アフリカの小国で、隣国のブルンジとルワンダ・ブルンジと一緒にして呼ばれることが多い。

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出典:Wikipedia

ルワンダでは9割を占める多数派のフツと少数ながらドイツの植民地時代には支配階層だったツチ(いずれも部族ではないことがややこしいところだ)が、長年対立しており、1993年に一旦は停戦合意が成立して、国連の平和維持軍が派遣された。

しかし、1994年に大統領の飛行機がミサイルで撃墜され、大統領が死亡するという事件が起きてから、内戦が激化し、人口7百万人余りのルワンダで、ツチの人々が50万人以上虐殺されるというルワンダ虐殺が起こった。

この映画はそのルワンダ虐殺の時に、いわばシェルターとなったベルギー系のホテルのマネージャーの実話を描いている。

主演はオーシャンズ11などでおなじみの黒人俳優ドン・チードルだ。

映画のストーリーは例によって詳しく紹介しないが、ベルギー・サベナ航空が経営するオテル・デ・ミル・コリンのマネージャーが、反乱軍・政府軍両方と金や贈り物でうまくつきあい、ベルギー本社社長の政治力や国連平和維持軍の隊長であるカナダ軍司令官の支援を得て、1,000名以上の難民をホテルにかくまい、最後には無事脱出するというストーリーだ。

彼らの親戚・友人には殺されるものも続出し、フツのマナージャーはツチの妻に、自分が殺されフツがホテルを占拠した場合は、ナタで家族全員なぶり殺されるよりは家族を連れて屋上から飛び降り自殺するように告げる。

ハラハラする場面の連続で、フツだからという理由で急に偉ぶるホテル従業員や、フツの武力決起を扇動するラジオ、孤児を世話する赤十字の女性職員などが描かれており、印象に残る場面が多い。

ニック・ノルティが演ずる国連平和維持軍のカナダ軍司令官は、その後母国に帰って、PTSDを発病したが、現在は上院議員となっている。

アフリカの内戦を舞台にしたシリアスな映画ではあるが、映画を見た後の感動が深い満足感を与える作品だ。


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2011年11月18日

落合博満の超野球学1 梨田監督が絶賛する落合博満監督の野球学

2011年11月18日再掲:

2011年度の日本シリーズがいよいよ大詰めを迎えている。下馬評もソフトバンク有利だったが、福岡での2敗の後、敵地で3連勝して本拠地福岡に戻るソフトバンクがやはり有利のように思える。

昨日の第5戦のテレビ中継を解説していた野村克也氏が、「こんなオーナーはいままでなかった」と絶賛していた孫正義オーナーの絶大なる支援も受けている。

ノムさんが落合監督を高く評価していることは、ノムさんの「あぁ、監督」でも紹介した。

今回のシリーズで落合監督が内川のバットのグリップのテープにクレイムをつけたことも、ノムさんがヤクルトの監督時代に日本シリーズでオリックスと対戦し、イチローの振り子打法に「足がバッターボックスから出ている」とクレイムをつけて、結局イチローを封じ込めた心理戦をほうふつとさせる。

今年で中日の監督を退任する落合博満監督は、マスコミ対策にはほどんど関心はなく、それがアダとなり退任という結果となったようだが、選手の心をつかむことが巧みなので、火事場の馬鹿力で中日優勝の目もあるかもしれない。

映画「マネーボール」で紹介したように、野球はメンタルなスポーツなのだ。

所詮短期決戦はどうころぶかわからないと思う。第1戦、第2戦のように投手が抑えていても、たった一球の失投で勝敗が決まるのが怖いところだ。

第6戦の先発はソフトバンクは和田毅だろう。六大学出身で、三振の数だけポリオワクチンの提供献金を続けている和田には是非日本シリーズで勝利を挙げて欲しいと思う反面、落合監督にも花道を飾ってほしい気持ちもある。

ところで、どういうわけかこのブログでも紹介した落合の書いた「超野球学 1」、「超野球学 2」が絶版となり、プレミアム付きで売られている。

落合博満の超野球学〈1〉バッティングの理屈落合博満の超野球学〈1〉バッティングの理屈
著者:落合 博満
ベースボールマガジン社(2003-05)
販売元:Amazon.co.jp
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落合博満の超野球学〈2〉続・バッティングの理屈落合博満の超野球学〈2〉続・バッティングの理屈
著者:落合 博満
ベースボールマガジン社(2004-03)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る

本の画像をクリックして見ればわかるが、アマゾンマーケットプレイスで古本がそれぞれ6,000〜7,000円という値段がついている。

筆者も読んでから買った参考になる本である。いまやプレミアムがついている落合の「超野球学 1」の紹介を再掲する。


2009年1月20日再掲:


昨日ニッポンハム監督の梨田昌孝さんの講演を聞いた。梨田さんは「梨田昌孝の超野球学」という本を出しているので、近々読んであらすじをアップする。

梨田昌孝の超野球学―フィールドの指揮官梨田昌孝の超野球学―フィールドの指揮官
著者:梨田 昌孝
販売元:ベースボールマガジン社
発売日:2006-05
クチコミを見る


最後の質問コーナーで、最強の打者は誰かという質問に、梨田さんは落合博満と答えていた。落合さんは梨田さんの同期だ。

落合さんの場合、やる気があるのかないのかよくわからない構えで打席に立つ。

てっきり見逃すと思って梨田さんがキャッチングしようとすると、落合さんはスイングのスピードがすごく速いので、スコーンと打ってしまうという。

梨田さんは、王さん、長嶋さんとは直接対決していないので、直接対決した打者のなかではという限定つきだが、落合さんは様々な面で最強の打者だという。

筆者も落合さんの本を読んで、全然「オレ流」ではないと感じた。落合監督の著書のあらすじを再度掲載する。


2007年11月2日再掲:


日本シリーズを制して、中日に53年ぶりの優勝をもたらした落合博満監督。

名球会の資格がありながら、名球会には入らないなど、落合監督は「オレ流」とか言われて誤解されることが多い。

今回の最終戦も落合監督の采配が非難されているが、プロとして当然のピッチャー交代だと思う。

その落合監督の考えがよくわかるのが、この「コーチング」と「超野球学(1)」なので、日本シリーズ制覇を記念して再掲する。

コーチング―言葉と信念の魔術


落合博満の超野球学〈1〉バッティングの理屈


落合博満中日監督というとマスコミは『オレ流』とレッテルを貼る。しかし彼の流儀は『基本に忠実に』であり、全然『我が道を行く』とか『唯我独尊』ではない。

彼はあまりに当たり前の事しか言わないので、常人とは異なる『鋭い』見方で人気を保っている有名プロ野球解説者面々には煙たがられ、彼らとは異なるという意味で『オレ流』と呼ばれているのかもしれない。

そんな落合の本は出版社が受けを狙ってか前著の『コーチング』でも『教えない、ただ見ているだけで良い』とか、誤解を招くサブタイトルを付けられていた。

この本も『超野球学1』とあたかも普通の野球理論とは異なる本の様なタイトルを付けられているが、実際はサブタイトルの『バッティングの理屈』が示すとおり、基本の基本のおさらいである。

バッティングの常識は
1.センター返し、
2.ボールをよく見る、
3.コンパクトにスウィングする
の3点だが、落合はそれぞれにわかりやすい説明をして、それらがいかにちゃんと理解されていないかを指摘する。

この本も読んでから買ったが、買う価値のある本だと思う。

たとえばセンター返しについては2000年の中村紀洋との対談で、『落合さんはライトへのホームランが多かったと思いますが、どうやったら右へ強い打球を狙い打ったのですか』と聞かれた時に『ライトに狙い打ったことは一度もないよ』と答えたと。

一瞬中村は驚いた表情をしたが、すぐになるほどと理解した由。翌2001年は中村は前年の記録を大幅に伸ばし、プロの一流の打者でも基本に忠実にやることによって記録を伸ばせることを実証してみせた。

あくまで常識=理屈を説き、全然オレ流ではない。

『バッティングは1日、2日で上達するものではない。1回でも多くバットを振った選手が生き残る。』実に泥臭いが、そういえば王も練習の虫と言われていたことを思い出す。

コンパクトなスウィングの解釈はバットを短く持って、当てに行くのではなく、『トップの位置はより深く、バットは一直線に振り出し、フォロースルーは大きく』だ。

全然しろうと考えと違うが、なるほどと思う。参考になる野球理論である。


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野球がもっと面白くなる 落合の超野球学2 再掲

2011年11月18日再掲:


落合博満の「超野球学 1」に続けて、古本がプレミアム付きで売られている「超野球学 2」のあらすじも再掲する。



2009年1月20日再掲:


落合の超野球学1のあらすじでコメントした通り、梨田昌孝ニッポンハムファイターズ監督の絶賛する落合博満監督の野球論を再掲する。


2007年11月2日再掲:

落合ドラゴンズが日本シリーズを制した。落合博満監督が浪人時代にベースボールマガジンの超野球学シリーズで持論を展開したのがこの本だ。

今回の最終戦の完全試合達成中だった山井を、8回で換えた采配が論議を呼んでいる。

「小心な夢のない野球」とか言っている人もいる様だが、結果論もいいところだ。

1:0の試合で、そのまま逃げ切れば日本シリーズ制覇となる場面で、岩瀬へのスイッチは当然だ。そのまま山井に投げさせていれば、日本ハムは最後の力を振り絞って反撃してきただろう。

一人でも走者を出せばズルズル行く恐れはあった。筆者も記憶があるが、ヤクルトの松岡弘だったと思うが、9回まで完全試合をしていたが打たれて負け投手になった例もある。

あの場面で岩瀬が出てきたので、日本ハムは意気消沈し、日本ハムの息の根を止める見事な采配だった。

勝つために野球をやっているのであって、記録をつくるために野球をやっているのではない。

この本でも紹介されている落合の、「相手の嫌がることをやるかが勝負の鉄則」の真骨頂を見せた試合だ。

その落合の野球理論がイラストや写真入りで、わかりやすく説明されているので、「コーチング」と「超野球学(1)」と一緒に、再掲して紹介する。

落合博満の超野球学〈2〉続・バッティングの理屈


超野球学1はバッティングの技術、基本を一から説いたが、2では頭、考え方を説く。

いかに相手の嫌がることをやるかが勝負の鉄則だと。

佐々木主浩との対決ではフォークを捨ててストレートだけで勝負して良い結果を残した。

そういば数年前イチロー、佐々木のマリナーズと松井が入る前のヤンキーズでプレイオフを戦ったとき、ヤンキーズ打者全員に徹底的にボールを見られて通用しなかった事を思い出す。

力のある投手がアウトローをひたすらついてくるとお手上げなのに、なぜ自分と同じ考えをする投手がいないのだろうと、ほくそ笑んでいたのだと。

『最後は自分のウィニングショットで打ち取りたい』という投手の美学、『真っ向勝負したから悔いはない』という投手の冒険心、相手バッテリーの性格を考えて攻略するのだと。

『データ人間になってはいけない、自分がデータの宝庫になろう!』といいながら、『ヤマは張ったことはありません。』、『配球も読んだことがありません。』ではやや混乱するが、インハイを意識してたち遅れない準備だけをしてボールを待つのだという。

超野球学1でのボールをよく見る、深いトップと大きなフォロースルー、早い始動、超野球学2の理想的な体の回転、『ボールを押し込む』という手首の動き、理想的なミートポイント、これらのチェックポイントを頭に入れて、かつリキまない。

今度バッティングセンターに行くのが楽しみだ。

最後に現役時代の『練習なんかしません』発言について、現役を退いた今『練習はしました。質も量も他のどの選手にも負けないくらい練習しました』と胸を張って言えると。

落合の言うことはすべて疑ってかからなければならない。すべて目的があって言っているのだから。


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2011年11月17日

知識ゼロからの大江戸入門 時代劇を読む際の副読書

知識ゼロからの大江戸入門知識ゼロからの大江戸入門
幻冬舎(2009-04)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る

このブログの「一日二冊本を読む方法」で紹介した池波正太郎の「剣客商売」や「鬼平」シリーズを読む時の副読本。

池波正太郎の時代劇作品は「夜四つ」とか「朝四つ」とか当時の時間表現なので、その時刻が果たして何時なのか知っていないと、筋がわからない。

場所は大体分かるが、そもそも「江戸」と呼ばれるのは、次の古地図(オランダ語?)でもわかるとおり、今の東京23区より相当狭い場所に限定されていた。こんな狭い地域に100万人が住んでいて、当時は世界最大の都市だった。

Karte_Tokia_MKL1888








出典:Wikipedia


そこで手軽な副読書としてこの本を読んでみた。

この「知識ゼロからの〜」シリーズは幻冬舎が出しており、イラストや漫画で説明してあってわかりやすい。

江戸時代関連では浮世絵幕末編もある。

知識ゼロからの浮世絵入門知識ゼロからの浮世絵入門
著者:稲垣 進一
幻冬舎(2011-08-04)
販売元:Amazon.co.jp
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知識ゼロからの幕末維新入門知識ゼロからの幕末維新入門
著者:木村 幸比古
幻冬舎(2008-12)
販売元:Amazon.co.jp
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時刻の対比表は次の通りだ:

0時   暁9つ   ネの刻
2時   暁8つ   丑の刻
4時   暁7つ   寅の刻
6時   明け6つ  卯の刻
8時   朝5つ   辰の刻
10時  朝4つ   巳の刻
12時  昼9つ   午の刻
14時  昼8つ   未の刻
16時  昼7つ   申の刻
18時  暮れ6つ  酉の刻
20時  夜5つ   戌の刻
22時  夜4つ   亥の刻

しかも日照時間により夜と昼の長さが違うと、1刻の長さも変化するので、昼の1刻は夏至の時は2時間30分くらいで、冬至の頃は1時間40分くらいだったという。

そして1刻のなかも4等分しており、「草木も眠る丑三つ時」とは丑の刻つまり1時から3時までで、それを4等分した3/4なので、2時30分頃になる。

その他江戸時代の風俗や、住居、食事、男女出会いのスポットは浅草寺仁王門前とか雑多な知識が得られる。

鬼平犯科帳」の鬼平こと長谷川平蔵は実在した人物で、1787年に43歳で「火付盗賊改」に就任して活躍している。
  
ちなみにこの本のネタ本は次の本であることが冒頭に書いてある。600ページ弱で、15,000円もする事典なので、図書館で借りて読んでみる。

絵でよむ江戸のくらし風俗大事典絵でよむ江戸のくらし風俗大事典
柏書房(2004-09)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る


簡単に読めるので、池波正太郎の作品などの時代劇を読むとき、基礎知識を得るのに役立つ本である。


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2011年11月16日

祝!「京」スパコン連続世界一! 「科学技術大国」中国の真実 前北京大使館アタシェのレポート

平成23年11月16日追記:

富士通がつくった理研のスーパーコンピューター「京」が引き続き世界トップとなった第2位の中国の天津スーパーコンピューターセンターの天河1A号の演算速度を4倍上回る圧倒的な差だ。

東大が富士通のスパコンを初めて注文し、ほかにも受注の動きがあるようだ。

スパコンだけだと周辺分野や日本経済全体への影響も限られるが、ぜひスパコンを活用して様々な分野で世界トップクラスの研究成果を挙げてほしいものだ。

スパコンの日中比較が載っている在北京日本大使館の科学技術担当アタシェの「科学技術大国中国の真実」を再掲する。


平成23年6月21日初掲:

「科学技術大国」中国の真実 (講談社現代新書)「科学技術大国」中国の真実 (講談社現代新書)
著者:伊佐 進一
講談社(2010-10-16)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る

2009年11月の事業仕分けで蓮舫大臣に葬られそうになった次世代スーパーコンピューター「京(ケイ)」が2011年6月20日に発表されたスパコンランキングで世界一になった



「京」の前までは中国の「天河1号A」が世界一位だった。しかし「京」は富士通の独自開発CPUを使っており、汎用CPUをつなぎまくる中国のスパコンの単純な設計とは一線を画している。

この本では中国の科学技術の強みと弱みを、科学技術庁出身で2007年から2010年まで在北京日本大使館の科学技術担当アタシェとして勤務した伊佐進一さんがレポートしている。ちなみに伊佐さんはアメリカのジョンズ・ホプキンス大学で中国研究及び国際経済のMBAを取っている。

アマゾンの写真だと本の帯が映っていないが、書店に並んでいる本は次のような帯がついている。

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2008年9月、3回目の有人宇宙飛行で初めて船外作業を行った「神舟7号」の宇宙飛行士が五星紅旗を振っている映像が、生中継された時の写真だ。

米国、ロシアに次いで三番目に有人宇宙飛行・宇宙遊泳を成功させたことは、中国の宇宙開発技術が世界でもトップクラスであることを世界に示す結果となった。人工衛星打ち上げビジネスでも中国は第三位のポジションを日本、EUと争っている。

しかし一方で、宇宙遊泳させる飛行士に国旗を持たせて振らせるというのは、どういうセンスなのかと疑ってしまう。

せいぜい数十分という貴重な船外活動の時間をそんなことに使って良いのか?元々ヒーローを好む国民性もあるが、巨額の資金を投入して国のメンツをかけた宇宙開発なので、愛国心高揚のためのパフォーマンスが必要だったのだろう。

他の例でも、たとえば2008年に完成した中国最大の天体望遠鏡「LAMOST」は天体観測に適さない黄砂の通り道に建設された。有力者の地元への誘致によるものだという。

この本の最初に伊佐さんが北京でマラソンに参加した時のエピソードを書いている。

ゼッケンを貰うのは2日がかり、制限時間外にゴールすると水もフルーツも片づけられている。識別チップ返却には長蛇の列…。全然システム化されていないし、開催者が勝手にルールを変更する。

「中国の科学技術が発展することなんてありえない」という人がいるだろうが、その根拠になるようなシーンだ。


日本の技術力はすでに中国に負けている!?

「日本の技術力はすでに中国に負けている!?」と本の帯にセンセーショナルに書いてある。それは「!」であり、「?」である。

中国の科学技術は日本をもしのぐ先進性がある反面、権力者の影響力やメンツが科学技術探求より優先されるという後進性もある。このような二面性は、科学技術人材のレベルの「格差」と中国の強みを活かすことができる「分野」かどうかによるという。

冒頭でふれた蓮舫大臣の「2位ではダメですか?」の発言で有名になったスーパーコンピューターでは、2010年6月の世界のスーパーコンピューターのランキングで中国製のスーパーコンピューターの「星雲」が2位、「天河1号」が7位となって、ベストテンに2台入った。

その時は日本のスパコンでは原子力研究開発機構の富士通製の22位が最高で、かつては1位となり、アメリカをあせらせたNECの地球シミュレーターは37位まで順位を下げている。



この事象だけ見ると、日本はスパコンの分野でも中国に差をつけられていたと「!」の分類に入るが、実は中国の「星雲」はインテルの汎用CPU6万個をつないだもので、理論値の半分の実効速度しか出せていない。

他のスパコンの80%前後や、富士通やNECの95%前後という実効速度に比べて著しく低く、スパコンのコア技術であるCPUの同期技術が見劣りするという実態が浮かび上がってくる。

伊佐さんは「計算機工学の観点からすれば、技術的には脅威とは言えないものである」とコメントしている。その証拠が冒頭の「京」の世界1位だ。

この本には2010年6月のランキングまでしか載っていないが、2010年11月のランキングでは改良型の「天河1号A」がナンバーワンとなっており、3位が「星雲」となっている。


人材大国中国

2009年の中国からの海外留学生総数は22万人を超え、帰国留学生数も10万人を超えた。いずれも10年前の1999年の10倍だ。

これらの人材がいろいろな分野で勉強しており、米国の博士号取得者の出身大学で一番多いのは中国の清華大学で、第2位が北京大学だ。3位がUCバークレー、4位がソウル大学。日本の大学は50位には入っていない。

海外留学者の帰国を促す「海亀政策」により、留学生が帰国すると住居や保険、車の購入費用、そして都市戸籍の付与と優秀な人材を処遇できるポジションを作っている。帰国者が起業するためのインキュベーションパークが100ヶ所以上あり、起業資金や所属税・光熱費・賃貸料免除などの様々な特典が与えられている。

一方日本人留学生は減少しており、2009年は全体で7万5千人とピークの2004年の2割減。米国への留学生に至っては10年前に比べて4割減の約3万人となっている。

「拡散する中国、収縮する日本」という構図だと伊佐さんは語る。

米国留学は米国生活に触れるということと、人脈つくりという意味で依然として意味があると筆者は考えているが、日本の大学院のレベルが上がり、必ずしも米国に留学しなくても慶應や一橋など優れたMBAコースができたことも、米国への留学生が減った理由の一つなことを指摘しておく。


日本は理系人材が報われない国

伊佐さんがもう一つ指摘するのは、日本は理系人材が報われない国だという点だ。このブログで紹介した元文部科学省審議官で、JAXA副理事長だった林幸秀さんの「理系冷遇社会」でも同じ趣旨の主張がある。

理科系冷遇社会―沈没する日本の科学技術 (中公新書ラクレ)理科系冷遇社会―沈没する日本の科学技術 (中公新書ラクレ)
著者:林 幸秀
中央公論新社(2010-10)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る

日本の理系人材は学歴が上がれば上がるほど就職が難しくなる。生涯賃金も諸説あるが、理系は文系より低いというデータもある。

これを反映して理系学生は減少しており、2008年の工学部志望者数は5年前の4割減の24万人で、ピークの1992年以来減少が続いている。

他方中国では学歴は処遇で評価され、博士新卒者は学卒者の3倍の給与で処遇されるという。

中国の理系重視の姿勢はあきらかだ。たとえば胡錦涛主席以下の党中央政治局常務委員のトップ9は、1名の経済学博士を除き、全員工学系で占められている。

米国で博士号を取った出身国別でもトップだ。「海亀政策」で海外留学生の帰国を促していることもあり、他国を圧倒するスピードで優れた技術者を拡大している。伊佐さんのカウンターパートの中央官庁の大臣、副大臣、事務次官などは全員理系の博士号を持っているという。


「研究者集約型」分野で力を発揮

中国の一番の強みは、出来るだけ多くの実験をこなして、データの蓄積で成果を挙げるという分野だ。これを伊佐さんは「研究者集約型」と呼ぶ。最初の発見は外国人であっても、応用・実用化技術は研究者を大量投入する中国が先に成果を上げてしまうのだ。

たとえば鉄化合物を使っての新高温超電導は日本の東京工業大学で発見されたが、スマートグリッドなどへの実用技術は中国が「研究者集約型」で、大量に人材と資金を投入して研究しているので、現在は高温超伝導の論文の7割は中国だという。

最初に日本がブレークスルーを挙げても、中国が人材を一気に投入してしまえば、最終的な成果は中国のものになってしまうのだ。

遺伝子研究分野でも同じ事が懸念される。

2006年に京都大学の山中教授によって発見され、ノーベル賞間違いなしと言われるiPS細胞研究でも、2009年7月に世界で初めてiPS細胞から生体マウスを作り出したのは中国の北京生命科学研究所と中国科学院動物研究所だった。

アメリカも日本の10倍の予算を投入して応用を研究しており、山中教授によれば、「日本の1勝10敗」だという。

北京生命科学研究所は2004年に設立されたばかりで、研究員600名、リーダー23名全員が米国帰りのドクターだという。政府から潤沢な研究費を得て、5年間の任期で住居や教育費まで援助がある。

ライフサイエンス分野で世界トップのアメリカニューヨーク州ロングアイランドにあるコールド・スプリング・ハーバー研究所の2番目の拠点が蘇州に設立され、DNAの2重らせん構造を発見したジェームズ・ワトソン教授も開所式に出席した。

中国のライフサイエンス研究の発展を示す出来事である。


国際特許出願数ナンバーワンは中国企業

国際特許出願数ではパナソニックが長年トップを占めてきたが、2008年は中国の通信機器メーカーの華為技術(ホワウェイ)がトップとなった。2009年にはパナソニックが返り咲いたが、2位は華為だった。

華為は売り上げの10%を研究開発費として投資しており、全従業員の4割の3万7千人の研究員を抱えているという。華為は競合他社との特許侵害訴訟を通じてグローバル市場に於けるルールを勉強して力を付けてきて世界トップの国際特許数を誇るまでになったという。

しかし華為などの例外はあるが、中国企業の研究開発能力は依然として脆弱である。

中国のビジネスモデルは、コアとなる部品は海外からベストのものを競争させて安く買いたたき、国産の部品と組み合わせて製品をつくるというものだ。だから自動車のエンジンやエアコンのコンプレッサーは外資系から調達している。

日本企業の「垂直統合」とは全く異なるので、これを東京大学の丸川知雄教授は「垂直分裂」と呼んでいるという。

現代中国の産業―勃興する中国企業の強さと脆さ (中公新書)現代中国の産業―勃興する中国企業の強さと脆さ (中公新書)
著者:丸川 知雄
中央公論新社(2007-05)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る


中国の科学技術発展の大きな阻害要因は学術や研究に於ける汚職、不正の横行だ。米国カーネギー国際平和基金の報告によると、中国の汚職と不正による経済損失はGDPの13%にも上るという。論文の偽造、成果のねつ造も頻繁に起こっている。


中国市場への取り組み方=中国との共生

最後に伊佐さんは、世界最大級の中国市場への取り組み方法につき私見を披露している。

一つの参考は韓国のサムソンだ。サムソンは中国市場でも成功しており、その特長は対象市場の徹底研究にある。「消費者に選ばれる力」こそが「真の競争力」であるという。

しかし、サムソンのやり方は技術力の優位性が確保できない企業の生き方で、日本企業はサムソンに学ぶ必要はないと説く。中国市場では極端に価格を下げる必要はなく、富裕層・都市の中産階級を狙えば良い。

日本の環境技術とエネルギー技術は中国への協力にふさわしい分野だが、中国には日本の高品質の技術はそのまま持ってきても売れない。日本と異なる中国のニーズを吸収し、日本の環境技術をもとに日中で共同開発して、中国の市場を切り開いている成功例も水処理などで見られるという。

日本の水膜処理技術は世界最高水準で、海水でさえ浸透膜処理で真水にすることができる。しかし、そのためには大きなエネルギーが必要だ。

日本の場合には、2トンの汚水を濾過して2トンの浄水を得ようとするが、中国の場合には2トンの汚水から1トンの浄水で良い。高額の世界最高水準の薄膜より、エネルギー消費の少ない中程度の安価な薄膜が適しているのだ。

中国との技術共生については、GEのリバース・イノベーションの例を挙げている。GEはCTスキャナーのトップメーカーだったが、10万ドルを超す大型スキャナーは中国やインドなどの途上国では全く売れなかった。

そこで中国の無錫に研究拠点を作って、3万ドルで売れるラップトップパソコンで動かせる携帯型のスキャナーを開発し、中国の病院で大量に販売した結果、価格は1万5千ドルまで抑えることができた。

このポータブルスキャナーは米国でも使われるようになり、2002年には4百万ドルだったポータブル診断装置の売り上げが、2008年には世界で2億8千万ドルにまで増加したという。


普通のビジネスマンでは得られない広範囲な中国の科学技術情報を元に、具体例を多く紹介している。中国の科学技術の強みと弱みがよく理解できて大変参考になる本である。


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2011年11月15日

全貌 ウィキリークス メディアのアナーキズム登場

全貌ウィキリークス全貌ウィキリークス
著者:マルセル・ローゼンバッハ
早川書房(2011-02-10)
販売元:Amazon.co.jp
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日本のメディアにはほとんど登場しないので、最近あまり話題になっていない機密情報暴露サイトのウィキリークスについて独・シュピーゲル誌の記者が書いた本。

シュピーゲル誌は、2010年6月に米・ニューヨークタイムズ紙、英・ガーディアン紙と一緒に、ウィキリークスが9万件ものアフガニスタン戦争の戦争日誌を公開する前に、既存メディアとして情報の分析に協力するとともに、確認できた情報を自己判断でニュースとして流すことに合意した。

ウィキリークスがこれだけ広く認知された過程では、既存メディアの協力もあった。

この3誌合同のプロジェクトはKabul Recoveryというコードネームで呼ばれ、英国ガーディアン紙の本社オフィスに拠点が置かれた。ウィキリークス創設者のジュリアン・アサンジと各紙の記者は4週間にわたり共同作業を続けたという。

著者のシュピーゲルの記者たちがジュリアン・アサンジに最初にあった時は、共同プロジェクトの最中で、アサンジはひげもそらず青白い顔色で数日前から着続けている服を着て、靴を履かずに靴下だけであらわれたという。


創始者ジュリアン・アサンジの経歴

ウィキリークスの創始者で唯一の決定権者のジュリアン・アサンジはオーストラリア生まれ。ヒッピーで売れない絵描きのシングルマザーに育てられた。

母親はジュリアンを育てながら、いろいろなパートナーと同棲と結婚を繰り返し、一時はカルト教団の信徒に付きまとわれたこともある。

アサンジはきちんとした教育は受けたことがなく、通った学校は37校にものぼる。しかしアサンジの知能指数は147−180だという。

アサンジは最初にコモドール64というホームコンピューターのとりことなり、あっというまにプログラミング言語をマスターし、13歳でシステムのセキュリティを破るクラッキング専門のハッカーとなった。自らを「マッド・プロフェッサー」というコードネームで呼んでいたという。

当時は電話線で回線をつなぎ、音響カップラーで通信していたという。

音響カプラ





出典:Wikipedia

音響カップラーをご存じの人は少ないと思うが、筆者は最初の米国駐在の時に(1986年〜1991年)重さ10キロくらいの携帯用のテレックスマシンを持っていた。米国内の出張のときはそれを持参して、ホテルや公衆電話からテレックスを送っていた。

当時の電話機はモジュラージャックがついていない機種もあり、そのときはこの音響カップラーを受話器にむすびつけて、受話器経由で信号を送っていたのだ。ちょうどファックス送信の時の音のような感じだ。

駐在の最後の1991年ころになるとパソコン通信が始まったが、1986年当時はまだeメールはなく、テレックスの時代だったのだ。

閑話休題。

アサンジはハッカーとしての活動について語らないが、仲間と一緒にNASAのシステムに侵入したりしていたらしい。彼らは自らを「ハックティビスト」と呼び、権力に抵抗していた。

アサンジ自身の最後の学歴はメルボルン大学数学科だ。メルボルン大学は米国陸軍から砂漠での自走車両走行の最適化のプロジェクトを受託していたという。アサンジは「殺人機械の最適化」に嫌気がさし、退学した。

その後アサンジは友人を通じ、オーストラリアの反戦運動家で現国会議員のアンドリュー・ウィルキーや、ベトナム戦争の機密文書を7,000ページを「ペンタゴン・ペーパーズ」としてリークしたダニエル・エルズバーグなどと知り合いになった。

ダニエル・エルズバーグはランド研究所員として米国国務省の依頼でベトナム戦争の分析に携わり、「ペンタゴン・ペーパーズ」の執筆者の一人でいながら、情報をリークするというまさにウィキリークスの先達となる存在だ。この「ペンタゴン・ペーパーズ」は今は情報公開法に基づき、一部が公開されている。


ウィキではない

ちなみにウィキペディアの創設者のジミー・ウェールズは、ウィキリークスを非難して、次のように語っている。

「私はウィキリークスを敬遠し、本当は彼らがこの名称を使わないようにと望んでいるほどです。『ウィキ』ですらないのですから。」

たしかに「ウィキ」(不特定多数が寄ってたかって作り上げる)ではない。筆はジミー・ウェールズの意見に賛成だ。


「コラテラル・マーダー」ビデオの公開

ウィキリークスを一躍有名にしたのは、米軍のアパッチヘリコプターが、テロリストと間違えてロイターのカメラマンと運転手を含むイラクの民間人を攻撃した事件の一切が映っているビデオだ。

コラテラルとは付随的という意味で、「コラテラル・マーダー」とは、シュワルツネッガーの「コラテラル・ダメージ」という映画を連想させる題名だ。



事件は2007年7月12日にイラクのニュー・バクダッドで起こった。

ロイターのカメラマンと運転手は小火器を使った戦闘があったというしらせで現場に直行したところ、背中のカメラを米軍のアパッチヘリコプターのパイロットに武器とみなされ、30ミリ砲の攻撃を受けたのだ。

その場にいあわせた12人全員が死亡した。助けようとやってきたミニバンも銃撃され、乗っていた子供も重傷を負った。そのビデオがウィキリークスで公開され、世界中に報道されたのだ。



このビデオは元兵士のブラドレー・マニングが、軍のワークステーションで特別に保護されたネットワークからダウンロードしてCDに焼いて持ち出し、アサンジに送ったのだ。マニングも元ハッカーだった。マニングは米陸軍当局の徹底的な捜査で、情報源として特定され、機密漏えい罪で逮捕された。


次々と公開される秘密書類

次の大スクープとなったのは前述の報道機関3社との共同で検証していた「アフガニスタン文書」だ。9万件もの戦争日誌である。

これは2010年7月に報道機関3社と一緒に公開され、現在もウィキリークスで"wardiary"として公開されている。

「アフガニスタン文書」に続き、2010年10月には39万通にものぼるイラクからの戦争報告も公開された。

戦争日誌では、テロリストから自白を得るためにイラクの警察が拷問していても、米軍は見て見ぬふりをしている事実などが明るみにでた。

そして2010年11月末に米国の外交公電25万件が公開された。1966年12月から2010年2月までの外交公電が含まれており、その中には駐在大使のざっくばらんな現地政府高官や実力者の評価などが含まれていた。

たとえばタイのタイイップ・エイドリアン首相はスイスに8つの隠し口座を持っているのではないのかといった汚職情報や、ロシアとの天然ガスの取引でベルルスコーニ首相が巨額を手にしたとか、メドベージェフ大統領は「見習い」で、プーチンが「群れのボス犬」で、「バットマン」(メドべージェフはロビン)だとかいった情報が数限りなく含まれている。

ヒラリー・クリントン長官名で大使館関係者に、国連と国連の首脳について徹底的な調査を指示しだ2009年7月の極秘扱いの公電も公開された。

あれやこれやでヒラリー・クリントン国務長官は、各国の外務大臣や政府高官に謝罪の電話をかけまくらなければならなかった。


米国政府のウィキリークス封じ込め

米国政府はウィキリークスを壊滅させることを決心した。各国政府によびかけ、様々な妨害活動を開始した。

まずはウィキリークスサイトに大量のDoS攻撃があった。ウィキリークスがアマゾンのEC2クラウドサーバーを利用しはじめると、アマゾンはすぐにサービスを打ち切った。

EveryDNSはDNSサービス提供を解約し、URLでは検索できなくなった。ウィキリークスの英国の銀行口座は閉鎖され、eBayはpaypalサービスの解約を通知、VISA、Mastercardも解約、いずれもウィキリークスへの送金を拒んだ。

これでウィキリークスへの小口献金の道はほとんど閉ざされた。ドイツの財団だけがウィキリークスへの資金援助を続けている。

こういった反ウィキリークスの動きに対して、ウィキリークスのサポーターたちは、大量ミラーリングを呼びかけ、数日のうちに1,200以上のウィキリークスのコンテンツを複製したミラーサーバーがインターネット上に誕生した。


アサンジの逮捕

アサンジにはインターポールから国際指名手配が出された。

女性二人への強姦(コンドームなしのセックス強要)の訴えがあったスウェーデンでは、2010年8月にいったん不起訴処分となっていたが、同じ容疑でインターポールから国際指名手配が出されたのだ。

アサンジはロンドンの警察署に出頭、逮捕されたが、支持者が保釈金を払って釈放された。


哲学的問題

ジャーナリストが書いた本だけに、この本の最後では、次のような哲学的問題が提起されている。

・機密文書の公開は民主主義を脅かす?

・すべての情報を公開すべきか?

・「国境なき危機の時代」における、ウィキリークスとメディアの課題。


内部告発者の末路

最後にこの本ではロバート・レッドフォード主演の「コンドル」という映画を紹介している。

CIAで書籍分析を務めるレッドフォードが演じるターナーは、ある日昼食から戻ったら、職場の同僚6名が殺害されていた。CIAが石油市場を操作するという知ってはならない事実を彼らが文書解析の仕事で洗い出してしまったのだ。

CIAの卑劣な幹部がターナーを部署もろとも抹殺しようとしたのだ。

ターナーは逃げ延びて、ニューヨークタイムズにすべてを告げるために出向く。

ターナーとCIA支局長のヒギンスの会話で終わる。

「彼ら(ニューヨークタイムズ)はすべてを知っている。なんでもやるがいい。彼らに話したんだ」

「ターナー、新聞社が記事にするなんて思っているのか?」

「記事にするさ」

「どうしてそう言える?」



ウィキリークスの概要がわかり、その存在意義について考えさせられる本である。


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2011年11月14日

一日二冊本を読む方法? 

語り芝居 鬼平犯科帳シリーズ 『狐火』語り芝居 鬼平犯科帳シリーズ 『狐火』
アーティスト:野間脩平
デラ(2010-03-26)
販売元:Amazon.co.jp
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最近一日二冊以上本を読んでいる。

といっても書籍として読むのはせいぜい一日一冊が限度だ。あと一冊はオーディオブックを読んで(聞いて)いる。

筆者の勤務先がある中央区の図書館には相当なオーディオブックのストックがある。そのなかでも充実しているのが池波正太郎「剣客商売」「鬼平」シリーズだ。

中央区図書館1





中央区図書館2





中央区図書館3






以前読んだ「散歩のとき何か食べたくなって」によると、池波正太郎は浅草出身だと思うが、中央区にも何かゆかりがあり、それで中央区図書館の池波正太郎CDコレクションが充実しているのかもしれない。

散歩のとき何か食べたくなって (新潮文庫)散歩のとき何か食べたくなって (新潮文庫)
著者:池波 正太郎
新潮社(1981-10)
販売元:Amazon.co.jp
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全部で50本のCDとビデオがある。

これを借りて、歩いている時とか電車が混んでいて本が読めないときに聞いている。

「剣客商売」も「鬼平」シリーズも一話がCD一枚に収まり、長さが60分前後なので、一日1−2話聞ける。

おかげで池波正太郎の作品は相当読みこんだ。

筆者が「剣客商売」で最も気に入っているのが「天魔」だ。忍者のような素早い殺人狂の若剣士が相手だ。

天魔 (新潮文庫―剣客商売)天魔 (新潮文庫―剣客商売)
著者:池波 正太郎
新潮社(2002-10)
販売元:Amazon.co.jp
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「剣客商売」は漫画にもなっている。

剣客商売 9 (SPコミックス)剣客商売 9 (SPコミックス)
著者:大島 やすいち
リイド社(2011-02-28)
販売元:Amazon.co.jp
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鬼平犯科帳も本と漫画がある。鬼平シリーズで筆者が一番気に入っているのは「流星」だ。

鬼平犯科帳〈8〉 (文春文庫)鬼平犯科帳〈8〉 (文春文庫)
著者:池波 正太郎
文藝春秋(2000-06)
販売元:Amazon.co.jp
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鬼平犯科帳 8 (SPコミックス)鬼平犯科帳 8 (SPコミックス)
著者:さいとう たかを
リイド社(2007-07-30)
販売元:Amazon.co.jp
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こちらはさいとうたかをが漫画にしている。なんと50巻以上の漫画が出ている。

鬼平犯科帳 50 (SPコミックス)鬼平犯科帳 50 (SPコミックス)
著者:さいとう たかを
リイド社(2011-09-30)
販売元:Amazon.co.jp
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筆者はあまり小説は読まないが、オーディオブックなら片手間に聞くことができて便利だ。

あなたも最寄りの図書館のオーディオブック蔵書をチェックして、一日二冊に挑戦してほしい。


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2011年11月12日

映画「マネーボール」 ブラピがカッコよ過ぎ 



今日公開された映画「マネーボール」をさっそく見た。

映画のあらすじを紹介すると映画を見るときに興ざめなので、詳しくは紹介しない。

貧乏球団のオークランド・アスレチックスが、ヤンキースなどの金満軍団の1/3の年俸総額でもプレーオフ進出を果たした2002年のシーズンの実話を取り上げている。

2002年の球団別の選手サラリー合計は次の表の通りだ。

MONEYBALLchart





出典:Wikipedia

主演のブラッド・ピットがかっこよすぎて原作のビリー・ビーンのすぐカッときて当たり散らすキャラクターが目立たないことと、離婚した元妻のところで暮らす娘とビリーの交流が映画全体を流れるテーマとなっていて、本と映画は別物であることだけ記しておく。

本の方は2003年に日本語訳、文庫版は2006年に発売されている。

マネー・ボール (RHブックス・プラス)マネー・ボール (RHブックス・プラス)
著者:マイケル・ルイス
武田ランダムハウスジャパン(2006-03-02)
販売元:Amazon.co.jp
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映画化されたこともあり、今書店で並んでいる本にはブラピのカバーがついている。

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映画は純粋にエンターテインメントで、これはこれで楽しめる。

内野手ジェイソン・ジアンビー、外野手ジョニー・デイモン、投手イズリングハウゼンという中心選手3人を失ったオークランド・アスレチックスが、最下位というおおかたの予想に反して翌年の2002年のシーズンに快進撃を続ける実話をドラマチックに描いている。

一方本の方は、新人選手スカウティングや電話会議で行われるドラフト会議の現場も描いており、強いチームをつくるという目標達成のために、何をどうすれば良いのかという大変面白いビジネス書である。

今年の文化勲章受章者の丸谷才一さんが「思考と生き方のためのマニュアル」という解説を書いていることも、スポーツ関係の本としては異例である。

この本はアマゾンの「なか見!検索」に対応していないので、「なんちゃってなか見!検索」で目次を紹介しておく。

この本がノンフィクション小説ではあるが、野球を題材にしたビジネス書であることがわかると思う。

まえがき

第1章 才能という名の呪い

第2章 メジャーリーガーはどこにいる

第3章 悟り

第4章 フィールド・オブ・ナンセンス

第5章 ジェレミー・ブラウン狂騒曲

第6章 不公平に打ち克つ科学

第7章 ジオンビーの穴

第8章 ゴロさばきマシン

第9章 トレードのからくり

第10章 サブマリナー誕生

第11章 人をあやつる糸

第12章 ひらめきを乗せた船

エピローグ

あとがき:ベースボール宗教戦争

解説:丸谷才一 思考と生き方のためのマニュアル



本の方もいずれ詳しくあらすじを紹介する。

映画を見た人は是非原作を読んで欲しい。新たな面白みが発見できるはすだ。


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2011年11月10日

あぁ、監督 野村克也元監督の名将、奇将、珍将 メッタ切り

あぁ、監督    ――名将、奇将、珍将 (角川oneテーマ21)あぁ、監督 ――名将、奇将、珍将 (角川oneテーマ21)
著者:野村 克也
角川グループパブリッシング(2009-02-10)
販売元:Amazon.co.jp
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現役時代は南海で三冠王を達成し、南海、ヤクルト、阪神、楽天で監督を務めた「生涯一捕手」を信条とする野村克也氏(ノムさん)の監督メッタ切り。「名将、奇将、珍将」という副題がついているが、手放しで名将としてほめているのは川上哲治さんくらいで、ほかはすべて何かしらケチをつけている。

2009年2月の第2回WBC開幕直前に出版された本なので、その当時の話も紹介している。


落合WBC監督?

落合がノムさんをWBCの監督に推薦したのだという。ノムさんは、逆に落合の名前はなぜ出ないのかとWBCの体制検討会議で発言したが、結局誰も落合の名前を出す人はいなかった。

結果は前年西武に負けて日本一を取れなかった巨人の原辰則監督に決まったわけだが、ノムさんは落合監督を一番評価しているという。

落合が評論家時代、ノムさんの率いる阪神のキャンプに来て、3−4時間も野球論議をしていったという。「野球界広しといえども、野球の話ができる人はほかにいないんですよね」と言っていた。落合のこの発言がいまのプロ野球界の状況を物語っているという。


プロは終着駅という選手が大多数

現役のときからノムさんは「素質を見込まれてプロに入ったのに、どうして努力しないのだろう」とよく思ったという。プロになるのが終着駅で、プロに入ったらホッとして向上心をなくしてしまい、持てる素質すら開花させられないで終わってしまう選手が大多数なのだと。

落合も同じことを「超・野球論2」で語っていたが、ノムさんもだれにも負けないくらい練習したと語る。それでもいくら練習をしても打率が伸びないという技術的限界にぶちあたったという。

要は相手ピッチャーのマークがきつくなったのだ。そのままでは2割5分しか打てない。3割を打つための残りの5分を埋めるのが、データの導入だった。

本当のプロの戦いは技術的限界の先にある。技術的限界を超えた「知力」の戦いなのだ。


監督代えたらチームは強くなる病

阪神は真弓監督を更迭し、またもや「監督を代えるだけでチームは強くなる」病が出てきそうな感じだ。

ノムさんが阪神の監督1年目の時に先日亡くなった久万オーナーに、球団の心臓部は編成部であり、10年近く低迷した理由は編成部にあると直談判したという。

オーナーはノムさんの訴えを聞き入れ、補強に力を入れて現場が野球に集中できるような環境をつくってくれた。だからノムさんの後の星野監督の1年目でセリーグ優勝できたのだと。


それにしても監督を神格化していないか?

この本では監督はあたかも補強、選手起用、試合の指揮のすべてに絶対的権力を持つような存在に書かれているが、今週ブラッド・ピット主演の映画が公開される「マネー・ボール」を読んだところなので、「本当にそうか?」という疑問がわいてくる。

マネー・ボール (RHブックス・プラス)マネー・ボール (RHブックス・プラス)
著者:マイケル・ルイス
武田ランダムハウスジャパン(2006-03-02)
販売元:Amazon.co.jp
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大リーグではゼネラルマネージャー(GM=日本でいえば球団社長か?)がいて、編成には絶対の権力を持っている。

監督は選手起用と試合の采配、つまり雇った選手をどう使うかが役目で、補強や新人獲得、つまりどの選手を雇うかはGMの役目と分担ができている。

新人獲得の場面に、監督が出て行って、最後の一押しをするというのはあるのかもしれないが、少なくとも誰を獲得するかという議論で監督が決断を下すべきではないと思う。

監督は自分の意見は言えるかもしれないが、数年で変わる監督が将来の戦力となる新人選手獲得の決定権を持っているというのは考えずらい。その意味で、この本には違和感を感じた。

ドラフト会議で指名が重なって監督がくじを引く場面が報道されるが、だからといって監督が決定権を持っているわけではないだろう。あまりにも監督を神格化しているのではないかと思う。

特に今回の日本ハムの栗山新監督就任や、中日の高木守道監督就任にも、軽さを感じてしまうところだ。


中日落合監督

監督の敵は、選手、ファン、オーナー、メディア。いずれもうまく使うという発想が大事だ。

その意味で落合監督は勘違いしているのではないかとノムさんは語る。

「どうも落合は勘違いしているのではないか。彼はグラウンドで結果を出せばいいと考えているようだが、それだけではプロ野球の監督として失格なのだ。いくら強くても、実際にファンが球場に足を運んでくれなければ、商売は成り立たないのである。

誰のおかげで自分が存在できるのか。ファンあってのプロ野球ということをいま一度考えてもらいたいのである。」


落合監督はセリーグで優勝し、CSも勝ち抜き、日本シリーズでも優勝する可能性があるにもかかわらず、今年で中日のユニフォームを脱ぐ。落合監督になって中日の人気が落ちて、観客動員数が減っていることがその理由だ。

ノムさんの懸念通りの展開となった。


ヤクルト古田前監督

古田が監督としてダメだったのは、プレーイングマネージャーとなる道を選択したことと、ヘッドコーチに投手出身で自分と親しい伊藤昭光を起用して、お友達内閣を作ってしまったたからだという。

スター選手だから自分中心の考え方をするので、周囲に感謝の念がない。野村さんに年賀状一枚送ってこないことがそれを象徴しているという。

まさに名選手、名監督ならずだ。


監督メッタ切り

この本でノムさんは多くの監督を批評している。詳しく書くと本を読んだときに興ざめなので、対象としている監督の名前だけ挙げておく。

三原脩(巨人、西鉄ライオンズ(現西武)、横浜をいずれも日本一にした)

鶴岡一人(南海ホークスで20年間監督。ただしノムさんは鶴岡組には入れてもらえなかった)

土井正三(オリックス監督時代にイチローを飼い殺し)

・恐怖と情感にあふれていた星野仙一

・財布を持ち歩かない絶対的指揮官・広岡達朗

・揃った戦力を使うのに卓越していた森祇晶

・人格者・王貞治

・監督して必要な6つのファクターをすべて持っていた川上哲治

ノムさんが本を読むきっかけとなった本


ノムさんの本は色々読んだが、ノムさんは本当に勉強家だと思う。そのノムさんが評論家となった時、多くの本を読むきっかけとなった本は、安岡正篤(まさひろ)の「活眼活学」だったという。

[新装版]活眼 活学(PHP文庫)[新装版]活眼 活学(PHP文庫)
著者:安岡 正篤
PHP研究所(2007-05-22)
販売元:Amazon.co.jp
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この本は筆者も読んだ。平易でわかりやすい。手軽な安岡正篤入門書である。


データ野球はどこを見るか?

最後にノムさんがどういったデータを見ているのか、さわりを紹介している。今週映画「マネーボール」を見るので、比較してみるのが楽しみだ。

たとえば:

・あるピッチャーはストレートを何球続けて投げるか

・ボールカウントごとの配球はどうなっているのか

・こういうアウトカウント、ボールカウント、ランナー位置ではどういう球種を投げてくるのか

・どういう状況でキャッチャーのサインに首を振ったか

・このバッターは空振りしたあと、どのようなスイングをしたのか


野球は心理戦でもある。ノムさんの放談が楽しめる本だった。


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2011年11月09日

「リーダーの条件」が変わった 大前研一さんの最新作

「リーダーの条件」が変わった (小学館101新書)「リーダーの条件」が変わった (小学館101新書)
著者:大前 研一
小学館(2011-09-20)
販売元:Amazon.co.jp
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2011年9月に発売されたばかりの大前健一さんの最新作。「SAPIO」と「週刊ポスト」の連載コラムの記事を加筆修正して再構成したものだ。いつもながら大前さんのネタの新鮮さには驚かされる。

この本はアマゾンの「なか見!検索」に対応していないので、「なんちゃんてなか見!検索」で目次を紹介しておく。大体の内容がわかると思う。


はじめに ー 能力なきリーダーしかいない日本の不幸


第1章 東日本大震災でわかった「危機に克つリーダー」の条件

★スピード 一週間でできない「緊急対策」は、一年かけてもできない

★危機管理力 組織のダメージを最小限にする工夫と判断が必要だ

★行動力と交渉力 次世代の国家リーダーに求められる「3つの条件」


第2章 組織を元気にするリーダーシップの育て方

★ビジョナリー・リーダー 世界で勝つ企業は人材育成に毎年1000億円かけている

★中間管理職”再生術” 組織を動かすには「”揺らぎ”のシステム」を使いこなせ

★新・人材教育カリキュラム リーダーシップは”天与”のものではない


第3章 日本が学ぶべき世界のリーダーシップ

★イギリス・キャメロン首相1. 弱冠43歳にしてトップに立ったリーダーはどこが凄いのか?

★イギリス・キャメロン首相2. 「グレート・ソサエティ」構想で活かすべき「民の力」

★ロシア・メドベージェフ大統領 「結果を出す指導者」の驚くべき決断力と行動力

★日本VS中国リーダー比較 国民の差ではなくリーダーの差が国家の関係を規定する


第4章 私が「リーダー」だったら日本の諸課題をこう乗り越える

★震災復興 「緊急度の掌握」ができなければ非常時のリーダー失格だ

★電力インフラの再構築 原発と送電網は国有化、電力会社は分割して市場開放せよ

★食糧価格の高騰 世界の農地に日本の農業技術、ノウハウを売り込め

★水資源争奪戦 水道事業を民営化して「水メジャー」並の競争力をつけよ

★エコカー開発競争 劇的な低価格を実現し、世界市場で優位に立つ「新EV革命」

★財政危機 所得税・法人税ゼロの「日本タックスヘイブン化」で経済は甦る


おわりに ー 「強いリーダー」は強い反対意見の中から生まれる



もし大前さんが日本の首相だったら

もし大前さんが日本の首相だったら、次のように行動するという。

まず第1案として「脱原発」の方針を示す。総電力量に占める原子力発電の比率は約30%だが、原発の稼働率は3割に落ちているので、日本全体の電力消費量を15−20%削減すれば原発なしでも電力は足りる。

そこで1.電力消費を前年比2割削減、違反者には料金5割アップのペナルティ、2.家電製品の電力消費を5年以内に3割カット、3.電力危機警報システムを導入し、電力使用率が90%を超えると警報を出す、というような対策をとる。

その上で第2案として「原発維持」を提案する。日本には原発は54基あり、ウェスティングハウスを買収した東芝はじめ日本企業は世界最先端の原子力技術を持っている。日本の技術に期待している国もあるので、今回の事故の教訓を生かして、より安全な原発をつくる。21世紀の日本の基幹産業となりうる原発を維持することを国民に提案する。災い転じて福となすを国民に提案するのだ。


台湾の馬英九総統を日本の首相に!

馬総統は大陸出身で日本に弱いと言われていたが、東日本大震災で台湾は世界で最も多い200億円の義捐金を送り、馬総統は義捐金受付のコールセンターに最初の四時間は自分で応対するというリーダーシップを見せた。

馬総統は大前さんの話に興味を示し、次の大前さんの来台では閣僚と軍の上層部全員呼んで大前さんの話を聞かせたという。

中国との三通(通商、通信、通航)ではいまや週558便、中国37都市に直行便があるという。直行便が認められていなかった前任者の陳水扁氏の時代とは大違いなのだ。


次世代の日本のリーダーに求められる3要件

日本の国と公機関の借金は2011年内には1,000兆円を上回る勢いだ。このままいくと日本国債のデフォルト風評が出る恐れがある。

次のリーダーに絶対必要な第一の能力は、イギリスに見られるように大幅な歳出カットと増税をやり抜き、国民に納得させられるコミュニケーション能力だ。

第二の能力は新しい世界情勢に対応した新しい外交の座標軸を決めることだ。鳩山元首相の思いつきの「日米中正三角形」ではなく、BRICSも含めた「多面体」外交だと大前さんは提唱する。

第三の能力は人材を強化することだ。アジアでも韓国、中国、シンガポール、インドネシアなどの若者はグローバルで活躍する意欲にあふれ、能力も高い。

インドに至っては、フォーチュン500の300社以上にインド人の副社長以上が居る。日本人の副社長以上はゼロである。アメリカの医者の五人に一人、イギリスの医者の五人に二人はインド人だ。シリコンバレーで起業して、上場まで持っていた外国人経営者のトップはインド、二位イスラエル、三位が台湾だ。こちらも日本人はゼロである。

この人材格差を埋めないと日本はジリ貧になるばかりだ。平均レベルの人材を大量生産する工業社会時代の教育から、傑出した少数精鋭を育成するIT社会時代の教育に転換しなければならない。


リーダーの最も重要な要素はビジョンとコミュニケーション能力

リーダーの最も重要な要素はビジョンとコミュニケーション能力である。リーダーシップは教育によってはぐくむことができる。

代表に選ばれる前から自民・公明との大連立を標榜していた野田佳彦氏などリーダーシップの片鱗もないと酷評している。イギリスも連立だが、日本の連立は足し算した連立であって、一つの見解でまとまった政権ではない。だから吹けば飛ぶような社民党や国民新党の意見に左右される民主党政府は何の改革もできないし、国民からそっぽを向かれる。

イギリスのキャメロン首相は、銀行の休眠口座に放置されている資金を元にして「ビッグ・ソサエティ・バンク」を創設する構想を明らかにした。サッチャー以来の伝統である「スモール・ガバメント」は維持しながら、社会政策を充実するために「ビッグ・ソサエティ」という民の力の活用だ。

日本には国家公務員、地方公務員、郵便局や大学など公務員に準ずる人が700万人いて、総人件費は60兆円かかっていると言われている。公務員をギリシャ並に1/3削減すれば20兆円は削減できるのだ。

その公務員が減った分を、民間のボランティアなどで補うという構想だ。ボランティアなど何らかの貢献があった人には、ポイント制を導入してポイントを与えても良い。そして郵貯の休眠口座もイギリスと同様に洗い出して、日本国債の償還に充てる。


メドベージェフ大統領の「大ウスリー島方式」

メドベージェフ大統領は中国との国境線確定で導入した面積を二等分する「大ウスリー島方式」で、ノルウェーとの長年の国境紛争を解決した。2009年にプーチン首相が来日した時に、「大ウスリー島方式」で3.5島返還論が出てきたが、外務省からリークされて世論の反対で潰れた。

この方式を一ひねりして国家主権は日本だが、択捉島だけは「共通の家」とするような方式で決着すべきだと大前さんは提案している。

民主党政権は対ロシア外交でも失敗している。また尖閣列島問題でも小平以来「棚上げ」してきた過去の経緯を無視した民主党の幼稚な外交の結果だと切り捨てている。

寝た子を起こした結果となった背景には中国大使に民間出身の丹羽さんを起用した民主党政権への外務省のサボタージュもあるという。


ヘビににらまれたカエル

温家宝首相を”待ち伏せ”した屈辱的な菅外交として、菅前首相の外交でのていたらくを非難している。下を向いてひたすたメモを見て、胡錦涛首相の目を見ない菅首相には、筆者もおよそリーダー失格という評価をしていた。大前さんも全く同じことを言っている。

一国のリーダーたる矜持は微塵も感じられず、ヘビににらまれたカエルのようだったと。


原発問題

原発については、東電はGE崇拝で、大前さんが新設計の原子炉の設計図を持って行っても、GEのお墨付きのない原子炉などいらないということで、門前払いをくらったという。だから大前さんは日立を二年間で辞めたのだと。せっかく日本独自の原子炉をつくるために勉強してきたのに、GEの技術指導を強いられたのでは、原子炉を設計している意味がないからだ。

今回の福島第一原発の事故ではGEの設計者はよく考えていることがわかったという。

地震で炉心が緊急停止すると、1.外部電源、2.非常用ディーゼル発電、3.原子炉自身の蒸気をつかってタービンを回して自動的に冷却するというしつこいシステム(これが何かの理由で機能しなかった)、4.蓄電池、5.外部の電源車という五重の安全対策システムがついていた。

さすがGEと感心するくらいシステム防御策が念入りに考えられていたという。今回の事故は設計よりも”現場の知恵”が不足していたことに問題があるという。たとえば外部電源の取り入れ口が水没すると分かっていれば、機密性を高めたり、440Vという外部電源はおかしいと気づいたはずである。

2002年に起こった圧力容器にヒビ割れがあるというGEの下請けのエンジニアの告発による「原発トラブル隠し」が大問題となって東電の原子力畑の人はことごとく粛正された。原子力に三割依存しているのに、だれも経営陣が原発の構造を知らないという会社となっていたのだ。


資産課税と付加価値税導入

税金についての大前さんの提案は資産課税と付加価値税だ。資産は生産財控除などを認めた上で、1%にすると35兆円程度が見込める。付加価値税は5%とすると、25兆円が見込める。合計で60兆円は現在の税収の1.5倍である。

付加価値税は、日本ではなじみがないが、海外では通称VAT(Value Added Tax)と呼ばれ、多くの国で日本の消費税と同じように導入されている。計算は販売金額から仕入れ金額を引いた付加価値の部分に課税するやり方だ。

日本のGDPが500兆円なので、5%課税とすると大体25兆円の税収が見込める。


その他の具体的施策

★稼働・停止が比較的容易な小型ガスタービン発電(30万KW程度)をいくつもつくり、発電量の確保に備える。

★原子力発電所はすべて国が買い取って国営とする。送電網は国有化して、電力会社は発電会社と配電会社に分ける。発電会社ー送電会社(国)ー配電会社の3層構造にする。50HZと60HZという日本国有の問題も技術的に解消する。

★消費税を期間限定で上げる。被災地支援のために国民が一致すれば、前向きの駆動力を生みだし、経済の活性化にも繋がる。財務省ではこのような案もあったが、民主党でグシャグシャにされているという。船長のいない幽霊船のような状態になっているからだと。

★道州制を導入し、”変人知事”や”変人市長”のパワーを利用して地方分権を推進し、中央に陳情するのではなく、世界に営業する自治体をつくる。5つの道州をつくり、大阪と京都で「本京都」、名古屋で中京都、新潟州、福岡都、神奈川都をつくる。福岡都と神奈川都は県内に政令指定都市が複数あって非効率だからだ。

マスコミ操縦術に長けているが、世界から富を呼び込むという発想のない”変人知事”の実力もわかるだろう。田中角栄以来の「均衡ある発展」は捨て去り、地域同士の競争を盛んにするのだ。

★食糧安保問題では、農林水産省が打ち出した「食料自給率」を「ためにする議論」として切り捨てている。たとえば牛肉の自給率は43%だが、飼料は輸入に頼っている。

この辺の議論は以前紹介した「日本は世界第5位の農業大国」のあらすじで詳しく紹介しているので、参照して欲しい。

日本は世界5位の農業大国 大嘘だらけの食料自給率 (講談社プラスアルファ新書)日本は世界5位の農業大国 大嘘だらけの食料自給率 (講談社プラスアルファ新書)
著者:浅川 芳裕
講談社(2010-02-19)
販売元:Amazon.co.jp
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農水省は種の海外持ち出しを規制しているが、種も技術も人材もウクライナやアルゼンチンなどの世界の農業最適地に持って行って、日本のひもつきの生産をすべきだと語る。それが日本にとってベストの食糧安保戦略だと。

★水事業については、日本では上下水道の設計・建設ノウハウは民間企業、運営・維持ノウハウは自治体が独占している。事業主体は東京都以外は市町村単位となっており、グローバル展開は遅れている。

日本の水は全体の65%が農業用水、15%が工業用水、20%が水道用水として使われているが、最も上流のおいしい水が農業用水として使われており、水道水は下流で取水している。基本的に水利権は江戸時代の(士)農工商の身分制度そのままなのだ。

たとえば東京都の水道水は主に利根川の支流の江戸川から取水しているが、利根川の上流で取水すれば、JR東日本がミネラルウォーターとして販売している旧「大清水」(上越新幹線の大清水トンネル開削工事の沖に湧き出た水が原料)と同じおいしい水が水道で味わえる。

★EVの電池はカセット式を普及させる。アメリカのベタープレイスという会社も推進しているが、充電に時間がかかる電池をカセット式にしてガソリンスタンドに充電済みのカセットを置くようにすれば、自動車の値段もカセット電池分安くできる。

充電インフラと充電時間の問題を克服できる上、EVの価格が一気に安くなって普及に拍車がかかり、経営が苦しいガソリンスタンドも潰れないですむという一石三鳥の解決策なのだと。

★EVの新技術のインホイールモーターは、30年にわたってEVを研究してきた慶応大学環境政策学部の清水浩教授が社長になって設立した産学連携ベンチャーのシムドライブ社が推進している技術で、ガソリン車の1/4のエネルギーで走行でき、一回の充電で600キロ走ることができる。

現在はどこの国のどの企業も一社2000万円の参加料を払えば参加でき、開発した技術はオープンソースとして供与し、量産段階では1−3億円の権利金を払えば製造の技術・ノウハウ・コンサルティングも提供するというビジネスモデルとなっている。しかし、このような「お人よし」契約はやめるべきで、インホイールモーターを含めたコントロールユニットをブラックボックス化して先行者利益を確保するべきだと大前さんは推奨する。

すでにベタープレイス社は中国南方電網と提携してカセット電池パックを使ったEVを普及させる計画があり、日本は電池技術でアドバンテージがあるうちに、インホイールモーターと組み合わせたEVを開発・普及させるべきであると。

車の排ガスによる環境汚染に苦しんでいるのは中国だけではなく、インド、ブラジル、ロシアの大都市も同じなので巨大な需要が見込める。


日本の税金を倍にして、予算を半減させないと、このまま国債発行がふえていけば、ある日突然国債が暴落して、預貯金や保険が吹き飛ぶ。そしてハイバーインフレが来て、タンス預金は紙くずになり、年金生活者も困窮する。1990年代のロシアの状況が再現されるのだ。

日本のリーダー不在が続くと、いずれIMF駐留軍に経済を握られることになると大前さんは警鐘を鳴らす。前回野田佳彦首相の「民主の敵」のあらすじを紹介したが、そのビジョンのなさにはあきれた。

野田首相でも民主党は変わらないだろう。たけしの予言したとおりである

リーダー不在が続く日本で、むなしく響く大前さんのリーダーに向けた提言だが、自分の考え方を整理するには適切な本である。


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Posted by yaori at 08:40Comments(0)TrackBack(0)

2011年11月02日

総理、増税よりも競り下げを! 衆議院議員 村井宗明さんの提言

総理、増税よりも競り下げを!総理、増税よりも競り下げを!
著者:村井宗明
ダイヤモンド社(2011-08-26)
販売元:Amazon.co.jp
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当選3回、富山一区選出の衆議院議員村井宗明さんの競り下げ(リバース・オークション)導入のすすめ。書店で目に付いたので、読んでみた。書店に並んでいる本にはこんな帯がついている。

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リバース・オークションについては、筆者は思い入れがある。

実は2度めの米国駐在の時にインターネット上のリバース・オークションサービスを提供しているピッツバーグの会社に投資して関係をつくり、共同で事業展開をするために日本に戻して貰ったのだ。

その会社から貰った日本語取材ビデオが次のものだ。



取材の条件としてビデオ公開の権利を貰ったということだった。

次が9分とちょっと長いが英語版のサービス紹介のビデオだ。



帰国後2年ほど電子部品や化学品原料などの様々な原材料でトライアルを重ね、リバース・オークションの事業採算を検討していた。

平均するとコストセーブは10%を超えたが、結論としてはリバース・オークション自体は国や地方公共団体中心に普及していくだろうが、商社として採算性が見込めないということでやむなく撤退した。

あれから10年経って、オークション自体は地方公共団体が税金の差し押さえで没収した美術品や様々な商品を中心に広く普及したが、調達コストを下げるリバース・オークションの普及は今ひとつのようだ。

この本では郵便事業会社でのリバース・オークション導入で、2010年上半期には141億円の予算のところ、13億円コストが下がったこと、なかには60%以上も予算より削減できた案件があったことを紹介している。

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出典:本書28−29ページ


少額随契で160万円未満は担当者の自由

国や独立行政法人には「少額随意契約」と呼ばれる制度があり、160万円未満の購入や250万未満の工事は担当者の自由に決められる。

2008年度に国が結んだすべての契約156万件のうち、89%の138万件は少額随意契約で、その実態は未公表で闇の中だという。

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出典:本書88ページ

160万円を超える案件でも、160万円以下に分割してしまえば、網の目をくぐることができる。実際に恣意的に分割して会計検査院が摘発した例が紹介されている。まさに氷山の一角である。

この本では文房具やコピー用紙を例にとり、官公庁がかなり高く物品を購入していることを報告している。たとえばコピー用紙の例ではグリーン購入法を満たすコピー用紙の民間価格はA4で0.54円なのに対して、官公庁の平均は0.677円で、民間よりも24%高く買っている。

各官庁がバラバラで購入するのでなく、まとまって共同購入という形を取ることでも、少額随意契約からはずれ、調達コストは下がる。

海外に於ける財政再建への取り組みとしては、英国の保守党・自由民主党連合政権の打ち出した2015年に財政収支を黒字化、そのために2011年度は医療費と海外援助を除いた政府全体の支出を19%削減するという予算編成を紹介している。

英国では公共機関の調達をサポートするBuying Solutionsという会社を通じてリバース・オークションを導入してきており、いままで平均14%コストを削減し、コスト削減額の合計は32億ポンド(4,000億円)に上る。

手法としては共同購入のためのWebカタログと、リバース・オークション、共同調達だ。Webカタログではサプライヤーの価格や条件が比較できる。またサプライヤー側にも、中小企業でも政府調達に参加できるというメリットもある。

インターネット・リバース・オークションは2010年は128の公共機関で実施し、コスト改善率は31%だったという。このオークションの仕組みはZanzibarと呼ばれている。

リバース・オークションが有効になる条件として次を挙げている。これがまさにキーポイントである。

1.供給市場に競争環境があること
2.調達の仕様が明確であること

この辺は米国駐在時代を含め1999年からリバース・オークションを研究してきた筆者がノウハウを持っているところだ。


日本での適用

民主党国土交通質問研究会では、日本でリバース・オークションサービスを提供しているディーコープの谷口 健太郎社長を招いて講演してもらったという。

会社のコストを利益に変える リバースオークション戦略会社のコストを利益に変える リバースオークション戦略
著者:谷口 健太郎
東洋経済新報社(2010-04-23)
販売元:Amazon.co.jp
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ディーコープでのリバース・オークションの国内導入例は次の通りだ。

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出典:本書145ページ

東大の小宮山前総長がインバーター蛍光灯の一括購入で半値近くなったと言っていたことがあるから、東大の導入例は蛍光灯かもしれない。

ディーコープはソフトバンクグループの会社で、筆者が日本でリバース・オークションのトライアルをやっていた2000〜2002年当時に名前は聞いたことがある。

筆者たちがあきらめた、リバース・オークション・サービスを続け、今や170人くらいの社員を雇用しているのは大したものだと思う。

ちなみに日本で過去、最もリバース・オークションを活用していたのはダイキンだと思う。しかしそのダイキンも、長年リバース・オークションを利用してコスト削減の効果が十分出たと思うので、最近はリバース・オークションをやっているのかどうかわからない。

すかいらーくなどは2001年当時は食材の調達にリバース・オークションを毎週何度も開催していたが、現在は多分やめているのだと思う。


リバース・オークションで2兆円国の歳出を削減

リバース・オークションを国の一般会計に導入すると、2兆円程度のコスト削減が期待できるという。

リバース・オークションが成功するためには、仕様の明確化とより多くの企業の参入が不可欠である。それを実現するためには、次がポイントになる。

・具体的
・オーバースペック禁止
・継続的な費用
・品質
・インターネット
・流動性
・匿名性
・見積期間
・手続きの簡素化

リバース・オークションサービス提供者への報酬は、固定費型と成果報酬型があり、村井さんは成功報酬型が効果が高いと考えていると語っている。

まさに筆者たちが陥った「採算性が見込めないので、事業撤退」というストーリーが繰り返されるようなシナリオが見えてくる。

この10年間日本のe調達は全く進歩していないと感じる。リバース・オークションは強力な武器だが、使い方が難しく、上記のような要件が揃わないと効果を発揮しない。

筆者はかつてリバース・オークションを日本に普及させるために帰国した経緯もあり、リバース・オークションが国や公機関の調達で浮上して欲しいという気持ちは強い。抵抗は強いだろうが、村井議員に期待するところ大である。


特記事項 IMFが進駐してくるとどうなるか?

日本政府が財政破綻して、IMFの管理下にはいると、どうなるか予測したネバダ・レポートというものがあり、国会で財務副大臣の五十嵐文彦衆議院議員が報告しているという。その内容は次の通りだ:

1.公務員の総数、給料は30%カット、ボーナスは例外なくすべてカット
2.公務員の退職金は一切認めない 100%カット
3.年金は一律30%カット
4.国債の利払いは5年〜10年停止
5.消費税の20%引き上げ。課税最低限を引き上げ、年収100万円から徴税を行う
6.資産税を導入し、不動産に対しては公示価格の5%を課税。債権、社債については5〜15%の課税
7.第1段階として、預金の一律ペイオフを実施
8.第2段階として、預金の30%から40%を財産税として没収

どの程度現実化するかは不明だが、IMF管理下にはいると、国民生活に大きな影響がでることは間違いない。参考になる情報である。


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Posted by yaori at 01:04Comments(0)TrackBack(0)