2012年02月22日

武器としての決断思考 京大の大人気講座が本になった

武器としての決断思考 (星海社新書)武器としての決断思考 (星海社新書)
著者:瀧本 哲史
講談社(2011-09-22)
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エンジェル投資家(海のものとも山のものともわからない会社に起業資金を提供する投資家)で京都大学客員准教授の瀧本哲史さんの本。瀧本さんは東大法学部を卒業後、すぐに助手となったが、法学研究の世界に飽き足らず、マッキンゼーに転職。3年で独立して、エンジェル投資家となったという経歴の持ち主だ。

こんなバックグラウンドの人を客員とはいえ准教授で採用し、独自の講座「意志決定の授業」を任せるとは、京都大学も大したものだと思う。

瀧本さんの「僕は君たちに武器を配りたい」も読んだので、近々紹介する。「僕は君たちに武器を配りたい」と「武器としての決断思考」は同じタイミングで出ている。京都大学で大人気講座というだけある。学生が社会人の先輩から聞きたい情報が満載で、現役学生は必読ではないかと思う。

僕は君たちに武器を配りたい僕は君たちに武器を配りたい
著者:瀧本 哲史
講談社(2011-09-22)
販売元:Amazon.co.jp
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エクスパートでなくプロフェッショナルになれ!

瀧本さんはマッキンゼー時代に「エクスパートでなくプロフェッショナルにならなくてはダメだ」とよく言われていたという。

IT,英語、FT(Financial Technology)が、ビジネスマンの3種の神器だとよく言われる。しかし、それだけではエクスパートにしかなれない。これからの時代はエクスパートの価値は下落していく。

プロフェッショナルを瀧本さんは次のように定義する。

1.専門的な知識・経験に加えて、横断的な知識・経験を持っている
2.それらをもとに、相手のニーズに合ったものを提供できる

マッキンゼーが「われわれはトップマネジメントコンサルタントである」と標榜していたことは、まさに上記の2.のことを言っている。

物流、購買、人事、その他すべての企業活動に対する横断的な知識・経験をもとに、トップが決断するための手助けをする。経営者の立場に立って、経営者の代わりに考えるのだ。

面白い例が挙げられている。電動ドリルが売れている状況を見て、「もっと高性能のドリルを売ろう」と考えるのがエクスパートで、もっと根本的なことまで考えて、「お客さんが欲しいのはドリルではなくて穴である」と考えるのがプロフェッショナルなのだと。


仏教の「自燈明」

仏教には「自燈明」という言葉があるという。お釈迦様が亡くなる時に、弟子たちがこれからは何を頼って生きていけばよいのかと聞かれて、「わしが死んだあとは、自分で考えて自分で決めろ。大事なことはすべて教えた。」と言われたという。

自ら明かりを燈(とも)せ。つまり自分の指針を持たなければいけない。

これからは変化に対応できないことが最大のリスクとなる。だから、意思決定の方法を学んで、自分で道を切り開くことが、最大のリスクヘッジとなるのだ。この本は実社会を生きていくゲリラのような若者に、「武器」となる意思決定の方法を教えるものだ。

スティーブン・コヴィーの「7つの習慣」で、中国のことわざとして紹介されている「人に魚を与えれば、1日食べられる。人に魚の釣り方を教えたら、一生食べられる」(筆者訳)と同じ考えだ。

7つの習慣―成功には原則があった!7つの習慣―成功には原則があった!
著者:スティーブン・R. コヴィー
キングベアー出版(1996-12)
販売元:Amazon.co.jp
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世の中には「正解」などない。意思決定の方法を学んで世の中の生き方を身につけるのだ。


ディベート思考

この本で瀧本さんが教える意思決定の方法は、議論を通じて「いまの最善解」を導きだす「ディベート思考」だ。議論によって意識的に違う視点、複数の視点を持ち込み、ぶつけ合うことで「いまの最善解」を出すことができる。

瀧本さんは日本の会社で多い、結論の出ない会議はディベートとは言わない。ディベートで重要な点は次の通りだ。

★準備が8割
★誰が言ったかではなく、何を言ったか
★結論の内容以上に、結論に至る筋道が重要。前提が変われば、結論を変えればよい
★ブレないことに価値はない。ブレない生き方は、思考停止の生き方
★先送りというのは、「決断しないという大きな決断」
★ディベートはメリットとデメリットを比較して決める
★反論は「深く考える」ために必要なもの
★ディベートは、複数人でも一人でもできる

ディベートで明らかになってくる正しい主張は次の3条件を満たすものだ。
1.主張に根拠がある
2.根拠が反論にさらされている
3.根拠が反論に耐えた


ディベート思考のコツ

ディベート思考のコツは、事象をいくつかの要素に細分化して、具体的な問題にする下調べを行うことだ。たとえば、「結婚はいつしたらいいのか?」では議論にならない。「20代に結婚すべきか」のように具体的な問題まで落とし込むのだ。

この本では「サッカーの日本代表がワールドカップで活躍するには何をすべきか?」という練習問題を使って、ディベート思考を紹介している。

まずは思いつくまま要素を挙げていく。たとえば監督、選手、選手の選出方法、育成方法、ファン、マスコミ、競技施設、協会の運営など。そしてこのうちから重要と思われるものをいくつかピックアップして、優先順位をつける。

この例では瀧本さんは、サンプルとして「監督の強化」、「選手の育成方法」、「協会の運営方法」を選んでディベートしているが、もちろん他の論点でもよい。

「ドーハの悲劇」は、ある選手のロスタイム直前での攻め上がりが原因で生まれたが、なぜ時間稼ぎが必要なシーンで、わざわざ攻めたのか?選手は何を考え、監督は何を指導していたのか?日本のマスコミは「悲劇」をあおるだけで、問題の本質にメスをいれるような報道はほとんどなかったという。たしかに当時の映像を見ると、中東勢のように、終盤近くなると露骨に時間稼ぎをするという当たり前の戦法が、当時の全日本には全く見られないことがわかる。




練習問題も参考になる

「X社に内定したA君は就職活動を続けるべきか?」という練習問題など、いくつかの練習問題が紹介されている。京都大学の授業でも、このように進めているのだと思う。次がこの練習問題の意思決定のフローシートだ。

意思決定フローシート_ページ_1






出典:本書222−223ページ


意思決定のツールとしての「ホントのようなウソ」の見分け方

この本ではいくつかの意思決定のツールを紹介している。「ホントのようなウソ」の見分け方として、次のような練習問題を紹介していて興味深い。()カッコ内は反証の例。

★【練習問題】新卒で大企業に入れば、人生は安心か?
★【練習問題】私の友人の関西人はみんな早口でよくしゃべる。よって、関西人は早口だ。
★【練習問題】アメリカの死刑廃止州では、重大犯罪が少ない。よって、重大犯罪を減らすには、死刑を廃止するのが良い。
(重大犯罪が少ないから、死刑を廃止しているのかもしれない)
★【練習問題】女は地図が読めない。
★【練習問題】オタクだからモテない。
★【練習問題】英語ができる人ほど年収が高くなる。
(学歴が高いから、英語の成績もいいし、大手企業に就職できて年収も高くなるのかもしれない)
★【練習問題】営業成績の良い人は、仕事に対するモチベーションが高い。
(仕事に対するモチベーションが高いから、営業成績が良くなるのかもしれない)
★【練習問題】これを飲むだけで痩せるダイエット食品。
(被験者は痩せたらギャラがもらえるので、ダイエット食品を食べる以外にもいろいろと痩せる努力をしている)
★【練習問題】政権交代が起こると景気が良くなる。
(負けるわけにいかない前政権が景気対策を行うが、選挙には間に合わず敗北する。新政権が誕生してすこし経ったときに、前政権の景気対策が効果が出てきて景気が良くなる。新政権は自分たちが政権を取ったから、景気がよくなったと喧伝する。)


意思決定のツールとしての「情報収集術」

ディベートで自分の主張を証明、補強するための証拠収集術のポイントは次の通りだ。

★マスメディア、ネットの情報を鵜呑みにしない。マスメディアの報道とは逆の意見を集める。
★日経新聞のニュースで投資すると、まず間違いなく損をする。みんなが知っていることにあわせて行動をとっていたのではダメ。

瀧本さんは、あるゲーム会社の人気ソフトにバグがあったというニュースを聞き、株価が暴落した会社のコールセンターに電話して、バグの発生率が非常に低いことを確かめて投資したという。

★インタビューを行う時のポイントは次の3つ。
1.すべての人は「ポジショントーク」(家を持っている人は、持家をすすめる)
2.結論ではなく、理由(根拠)を聞く
3.一般論ではなく、「例外」を聞く

★「海外はこうだから、日本もそうすべきだ」論者などへの反論の仕方
1.資料の拡大解釈
2.想定状況のズレ
3.出典の不備
4.無根拠な資料(専門家の言う「私の経験上…」)


大学以降の人生では、情報に接したら、それが本当かどうかをまず疑ってくださいと瀧本さんは語る。本についても「読書は格闘技。」筆者の言っていることを咀嚼しながら読んでいくのだと。

瀧本さんの結論は「自分の人生は、自分で考えて、自分で決めていく」だ。今度紹介する「僕は君たちに武器を配りたい」も良い。若い人に限らず、どんな年代の人が読んでも大変参考になる本である。


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Posted by yaori at 13:03Comments(0)TrackBack(0)

2012年02月15日

入社1年目の教科書 ライフネット生命保険会社の岩瀬大輔さんの本

入社1年目の教科書入社1年目の教科書
著者:岩瀬 大輔
ダイヤモンド社(2011-05-20)
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このブログでも「超凡思考」を以前紹介したライフネット生命保険の副社長・岩瀬大輔さんの仕事のやり方指南本。

岩瀬さんの「ハーバードMBA留学記」を読んで以来、岩瀬さんの本は大体読んでいる。注目している若手経営者・オピニオンリーダーの一人だ。

金融資本主義を超えて―僕のハーバードMBA留学記 (文春文庫)金融資本主義を超えて―僕のハーバードMBA留学記 (文春文庫)
著者:岩瀬 大輔
文藝春秋(2009-05-08)
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岩瀬さんは会社(リップルウッド)をやめて自費でハーバードMBAに留学した。留学時代のブログをまとめた本が「ハーバードMBA留学記」だ。もともとそのつもりだったのかどうかわからないが、本の印税で留学の経費は賄え、今は文庫にもなっているので、会社をやめて留学するという思い切った決断だが、十分リターンはあったのだろう。

もちろん留学して得た知識や人脈は財産となっており、ダボス会議の「ヤング・グローバル・リーダーズ2010」にも選出されている。

この本は、今年就職する長男に参考になるのではないかと思って読んでみた。岩瀬さんの「ハーバードMBA留学記」は既に渡してある。

この本はアマゾンの「なか見!検索」に対応しているので、ここをクリックして目次を見てほしい。「何があっても遅刻するな」や「宴会芸は死ぬ気でやれ」とか、実践的な内容であることがわかると思う。

合計50のタイトルで説明しており、最初に仕事において大切な3つの原則として次を挙げている。

原則1 頼まれたことは、必ずやりきる

原則2 50点で構わないから早く出せ

原則3 つまらない仕事はない


社会人になると「信頼できるかどうか」が重要な判断基準となる。職場の仲間でも、取引先でも同じことだ。岩瀬さんの上記の3原則は、新人が「頼れる人」と見なされる上で重要なポイントだと思う。

特に原則3の「つまらない仕事はない」は、楽天の三木谷さんも「成功の法則92ケ条」に、当時の東京銀行に入行して配属されたルーティン業務の代表格の外国為替部門でも、クサらず積極的に取り組んで成果を出したことを書いている。

成功の法則92ヶ条成功の法則92ヶ条
著者:三木谷 浩史
幻冬舎(2009-06)
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外国為替業務といっても、多くの人にはピンと来ないだろう。筆者も商社マンなので、昔は貿易実務を担当していた。

主に原料の輸入をやっていたが、輸出もやったことがある。輸入の場合にはL/C(Letter of Credit)という信用状を銀行に開いてもらって、輸出者が銀行に要求された船積書類を持ち込むと、銀行がチェックして問題なければ、輸出者に輸出代金が支払われる仕組みだ。

三木谷さんの言っているのは、そのような信用状関連の業務だと思う。筆者も大手町の旧・日本興業銀行本店に行ったことがある。

三木谷さんの本では、銀行の外為業務はルーティンでつまらない業務と見なされていたようだが、商社マン、特に若手担当者にとっては銀行経由送られてくる船積書類が要求通り作成されているかどうかをチェックするのが重要な役目だった。

というのはもし輸出者が要求通り船積書類を作成していないと、再作成を要求でき、支払いを延ばすことができるのだ。当時のドル金利は10%を超えており、金額が数百万ドルと大きいので、1週間でも支払いを延ばせればかなりのコストセーブになる。

それこそ目を皿のようにして、船積書類をチェックした。その時代から書類チェックは筆者の好きな業務で、全然ルーティンだなんて思っていなかった。同じ外為業務でも支払い手段を提供している銀行の人と、実際に貿易をしている商社マンとは違うのだと思う。

脱線したが、どんな仕事でもつまらない仕事はない。文字通り「一所懸命」ということだと思う。

「なか見!検索」で目次を見れば、大体の論点は分かると思うので、ここでは参考になった点を紹介しておこう。


★「岩瀬さんは、いい意味でコンサルタントっぽいよね。」

岩瀬さんは、他の業界の人にこういわれたという。

ある業界の市場規模、現在のシェア、シェアの推移、各社の収益率の差異、商品ごとのポートフォリオ、それぞれの収益性、将来の展望、海外との比較、規制や技術革新の状況…。

岩瀬さんが最初に就職したのは、ボストン・コンサルティング・グループだったので、コンサルとしてトレーニングする中で、上記のようなポイントで、常に業界がどのように動いているかというマクロの視点でものを見る習慣がついているのだと。

営業マンは明日のことを考え、部長は1か月先のことと考え、本部長は1年後のことを考え、社長は5年後のことを考えている。

だから経営者と話すときは、時間軸が違うことを念頭に入れておく必要がある。全体像を見る視点を持った人と付き合うことが重要だと語る。


★ライフネット生命の顧客開拓は大学生から

このブログでも紹介した和田浩子さんの「P&G式世界が欲しがる人材の育て方」を読んで、小学5年生から生理用ナプキンを配るという話を知り、岩瀬さんは感心したという。

P&G式 世界が欲しがる人材の育て方 日本人初のヴァイスプレジデ<br>
ントはこうして生まれたP&G式 世界が欲しがる人材の育て方 日本人初のヴァイスプレジデ
ントはこうして生まれた

著者:和田浩子
ダイヤモンド社(2008-08-22)
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そこでライフネット生命保険は大学生に向けた宣伝活動を開始した。大学生は生命保険は買わないが、数年後は生命保険を買うようになる。だから「ライフネット生命お薦めの10冊」といった広告を出したのだ。


★趣味を伸ばすこと、本を読むこと、体のコンディショニングなどは、仕事が終わってからの空き時間で済ますような重要度の低いものではない。

岩瀬さんも当初はわからなかったが、だんだんに趣味、読書、健康の重要性に気がついてきたという。少なくとも飲みに行って遊んでいるヒマがあったら、成長するための自己投資に時間を使うべきだと。

筆者は今でこそ、週5冊以上、年間300冊程度本を読んでいるが、20代は月に1冊本を読めばよいほうだった。それがだんだん読書量が増えてきたのは、本好きの家内と結婚したことが大きな要因だと思う。

子どもが生まれる前も一緒に図書館に行っていたが、子供が絵本を読むようになったら、毎週のように図書館に通うようになって、筆者の読書量も増え始めた。通勤時間の2〜3時間はみっちり本を読むようになってきた。

アメリカ駐在の時は、車で通勤していたので本は読めないため、オーディオブックで本を読んで(聞いて)いた。最初はカセットブックだった。日本の電車通勤は時間的に長いが、筆者は日本の通勤の方が好きだ。本が読めるからだ。

筆者の場合、昔は図書館をほとんど利用せず、もっぱら本は買っていたが、本を買うとそれで安心してしまい、「積ん読」になってしまうパターンが多かった。その点で、図書館を利用して2週間以内に必ず読んで返すというパターンは筆者にぴったりだった。だから読書量が増えたのだ。

そうはいっても、筆者は読書量を誇るつもりはない。本を読むだけだったら、たぶん年間500冊だって読めるだろう。問題は本から何を得て、自分の身につけられるかどうかだ。

その意味では、このブログは筆者の「外部記憶媒体」として、大変役立っている。たぶんブログがなかったら、筆者の読書も単に量だけのものだったろう。

ブログの一番のメリットは、本の内容を忘れていても、ブログトップの検索窓でキーワード検索すれば、その記事が出てきて、それを読めば記憶がよみがえることだ。年間300冊位読む本の内容はいちいち覚えきれない。そんな時にこのあらすじブログが役立つ。

2006年にベストセラーとなった「ウェブ進化論」の梅田望夫さんは、「ブログは究極の知的生産の道具」と言っていたが、その通りだと思う。

既にこのブログのエントリー数は750を超えている。紹介した本は全部で1,000冊以上だろう。ぜひ筆者の例を参考にして、自分の「外部記録媒体」としてブログやSNSを活用してほしい。

ウェブ進化論 本当の大変化はこれから始まる (ちくま新書)ウェブ進化論 本当の大変化はこれから始まる (ちくま新書)
著者:梅田 望夫
筑摩書房(2006-02-07)
販売元:Amazon.co.jp
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閑話休題。


★苦手な人には「惚れ力」を発揮

以前ブライダル関係の人に講演を依頼した時に、「なかなか結婚できない人は、惚れ力を磨け」と言っていたという。

条件に固執して、結婚相手のあら探しばかりしてはいけない。相手のどこか良いところを探して、そこに惚れる。それが「惚れ力」なのだと。

人間関係でも付き合いにくい人がいたら、それを克服するのが「惚れ力」だ。つまり相手の良いところを見て、悪いところばかりみないということだ。

ポジティブシンキングの人間関係版というところだろう。


★いきなりテレビのワイドショーに呼ばれたら

岩瀬さんは消費税や国家財政についてのワイドショーでゲストに呼ばれたという。そのためにまずは10冊ほど関連する本を大人買いした。

次にしばらく会っていなかった財務省の友人に電話して、昼食を取りながら相談したら、財務省の課長クラスの人が2人でレクチャーしてくれることになったという。

次に外資系投資会社の友人に連絡してチーフエコノミストに紹介してもらい、財務官僚とは逆の立場からの意見を聞く機会をつくった。そのチーフエコノミストとは2時間も昼食を一緒にしながら、いままで調べたことで疑問に思ったことを質問したという。

これだけの準備をしてテレビの収録に臨んだので、聞かれても気の利いたことがいえる結果となったという。

参考になる対応だと思う。


新入社員や若手社員を念頭に書かれた本だが、ビジネスの基本を押さえており、参考になる。冒頭で紹介した三木谷さんの体育会系の「成功の法則」とあわせて読むと良いと思う。

お薦めの本12冊に自分の本2冊とライフネット生命の社長の出口さんの本が1冊出てくるのは、やや興ざめだが、もともとライフネット生命保険がターゲットとしている若手社員向けの本だから、自社の宣伝が目につくのはやむを得ないところだろう。

まずは「なか見!検索」で目次を見てみることをお勧めする。


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Posted by yaori at 00:38Comments(0)TrackBack(0)

2012年02月10日

采配 監督・落合博満が初めて明かした采配の秘密 再掲

+++今回のあらすじは長いです+++

2012年2月10日追記:

以下に紹介する落合の本と並んで本屋に置いてあったので張本勲さんの「原辰徳と落合博満の監督力」を読んだ。2011年1月発行の本なので、内容は中日がリーグ優勝した2011年の結果を踏まえていないが、原・巨人と落合・中日を比較して両方に苦言を呈している。

原辰徳と落合博満の監督力原辰徳と落合博満の監督力
著者:張本 勲
青志社(2011-01)
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張本さんはこの本の中で、落合の山井交代采配を厳しく批判している。また「勝利の方程式」という言葉を多発している。

落合が名球会に入らなかった理由は、同じ中日・ロッテの先輩で名球会メンバーの江藤慎一さんが怖かったからだという。

以下に紹介する落合の「采配」で、落合が「勝利の方程式」ではなく「勝負の方程式」だとこだわっているのは、張本さんの本を読んでいるからかもしれない。

名球会に入らない理由は、落合は群れることを嫌うからで、故・江藤慎一さんが怖かったなどという理由ではないだろう。

張本さんはTBSのサンデーモーニングに出てくる名物野球解説者だが、張本さん自身は野球指導者としてのキャリアはない。マスコミ側の人なのだと感じた。


2012年1月8日初掲:

采配采配
著者:落合博満
ダイヤモンド社(2011-11-17)
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落合博満前中日監督が2011年の日本シリーズ中に出版した本。この本は監督・落合博満が書いた最初の本で、現在アマゾンで売り上げランキング20位前後と、ベストセラーになっている。筆者が読んでから買った数少ない本の一つだ。

落合は参考になる本を何冊も出しているので、このブログでも紹介しているが、中日の監督に就任してからは本は一切出していない。レポーターが書いた「落合戦記」という本はあるが、これは落合が書いた本ではない。

落合戦記―日本一タフで優しい指揮官の独創的「采配&amp;人心掌握術」落合戦記―日本一タフで優しい指揮官の独創的「采配&amp;人心掌握術」
著者:横尾 弘一
ダイヤモンド社(2004-11)
販売元:Amazon.co.jp
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「落合戦記」は絶版になっており、中古本がプレミアム付きで売られている。このブログで紹介した「超野球学1・2」も、いずれも中古本がプレミアムがついている。
落合博満の超野球学〈1〉バッティングの理屈落合博満の超野球学〈1〉バッティングの理屈
著者:落合 博満
ベースボールマガジン社(2003-05)
販売元:Amazon.co.jp
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落合博満の超野球学〈2〉続・バッティングの理屈落合博満の超野球学〈2〉続・バッティングの理屈
著者:落合 博満
ベースボールマガジン社(2004-03)
販売元:Amazon.co.jp
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落合は監督退任表明後、いくつものテレビ番組の取材に応じているので、YouTubeに次の対談など、いくつかアップされている。それぞれ面白いので、時間があればチェックしてみてほしい。




勝つための66の言葉

この本では落合が勝つための66の言葉として、次の6章にわけて述べている。

1章 「自分で育つ人」になる
2章 勝つということ
3章 どうやって才能を育て、伸ばすのか
4章 本物のリーダーとは
5章 常勝チームの作り方
6章 次世代リーダーの見つけ方、育て方

アマゾンの「なか見!”検索」に対応しているので、ここをクリックして目次を見てほしい。それぞれの章に10前後の言葉があり、大体の感じがわかると思う。


「オレ流」はない

落合の采配はマスコミに「オレ流」とレッテルを貼られているが、この本で「オレ流はない。すべては堂々たる模倣である。」と語っている。

自分がいいと思うものを模倣し、反復練習で自分の形にしていくのが技術であり、模倣は一流選手になるための第一歩だ。ピアニストも画家も同じ。大事なのは誰が最初に行ったかではなく、誰がその方法で成功を収めたかだ。

「オレ流」として、いままで議論を読んできた落合采配の「謎」をこの本で自ら解説していて、大変面白い。そのいくつかを紹介しておこう。


補強なしに現有戦力で優勝する

落合采配の最初の謎は中日の監督に就任した時に、「誰一人クビにしない。目立つ補強もせず、現有戦力を10〜15%アップさせて優勝する」と宣言したことだ。巨人などのカネにまかせて他球団のエースや4番打者ばかり集めてくるチームには、イヤミに聞こえる発言だろう。

これを落合が実行した理由は、最初に部下に方法論を示し、「やればできるんだ」という自信をつけさせるためだという。

「あの人の言う通りにやれば、できる確率は高くなる」と、上司の方法論を受け入れるようになれば、組織の歯車は目指す方向にしっかりと回っていく。そして有言実行で就任一年目でリーグ優勝した。

しかし、2004年のシーズンが終わった後、18人の選手がドラゴンズのユニフォームを脱いだ。積極的な補強をしなければ、2005年は戦えないと判断したからだ。

ドラゴンズのユニフォームを脱ぐ選手には、ドラゴンズでは競争に負けたが、ほかの球団では通用する実力をつけさせたいと落合は語る。事実、2005年戦力外通告を受けた鉄平は楽天に行って、パリーグの首位打者になった。ドラゴンズの厳しい練習が間違っていなかった証拠だと落合は語る。


2月1日紅白戦の謎

「2月1日に紅白戦をやる。春のキャンプでは初めから1軍も2軍もない。キャンプの間に見させてもらう」、「全員一からポジションを争ってもらいます」というのは、敵を欺くにはまず味方を欺けという戦法だ。

2001年に発刊した「コーチング」の中で、落合はコーチングの基本を「教えない。ただ見ているだけでいい」と定義した。

コーチング―言葉と信念の魔術コーチング―言葉と信念の魔術
著者:落合 博満
ダイヤモンド社(2001-09)
販売元:Amazon.co.jp
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実際に監督になって、「見ているだけのコーチング」が基本となることは確認できたが、それと同時に「最低限、教えておかなければならないこと」があることに気づいたという。それは、「自分を大成させてくれるのは自分しかいない」ということであり、選手の自覚を促す方法が2月1日の紅白戦だった。

プロ野球選手の契約では12月1日から1月31日までの2か月はポスト・シーズンと呼ばれ、球団に拘束されない期間だ。監督やコーチが練習させたくとも、できない。

「2月1日の紅白戦」という監督のメッセージを受け止め、選手は考える。「自分自身で自分の野球を考える」習慣を植え付け、それができる選手がレギュラーの座を手にするのだ。

落合が2月1日紅白戦と宣言したことで、メディアや評論家がキャンプを訪れ、高齢でめったに現場に足を運ぶことはないと言われていた川上哲治さんをはじめ、広岡達郎さん、関根潤三さんなどの監督経験者も2時間以上続くノック練習を楽しそうに見ていたという。落合も1999年から5年間の評論家時代は12球団のキャンプ地すべてに足を運んだ。「プロだからこそ見なければわからない」のだと。

なかにはキャンプを見もしないで「初日から紅白戦なんて意味がない」と批判する評論家もいた。2004年、中日がリーグ優勝したことで、足を運んだ評論家の多くは「厳しい練習が実を結んだ」と評価し、足を運ばなかった評論家はだまっているしかなかったという


6勤・1休の厳しい練習

他の球団は4勤・1休が多いだろうが、中日のキャンプは6勤・1休だ。それだけで中日のキャンプの厳しさがわかる。しかし、6勤・1休は昔はどの球団でも同じだったという。「オレ流」ではないのだと。

落合は「休みたければユニフォームを脱げばいい。誰にも文句を言われずにゆっくり休めるぞ」と言う。「一年でも長くユニフォームを着ていたいのなら、休むということは考えちゃいけないよ。」というのが本音のメッセージだ。

不安だから練習する。練習するから成長する。「心技体」ではなく、体をつくる練習が先に来る「体技心」だと。これが成長のサイクルだ。

春季キャンプでは、全体練習を終えた後、落合自身がサブ・グラウンドでノックして守備練習する。守備練習は強制ではなく、ノックを受けたいと思った選手がコーチに申告し、落合がノッカーに指名される。1,2時間は当たり前、どちらがギブアップするかまで続けられる。

「これ以上続けたら体が壊れてしまうと感じたら、グラブを外してグラウンドに置く」ということだけがルールだ。

落合の中日監督時代に生え抜きからレギュラーになったのは森野将彦ただ一人だ。その森野は「終わる時間は自分で決めなさい」と言うと、いつも最後までグラウンドにいたという。

ノックでも、落合がもう限界なのではないかと思ったが、グラブを外さないので、続けたら、突然バタッと倒れて救急車を呼びそうになったことがあるという。グラブを外したくとも手が腫れ上がって外れなかったのだと。

そうまでにして自分の限界まで追い込んでポジションを奪い取った。だから「自分から練習に打ち込んでいる間は、オーバーワークだと感じても絶対にストップをかけるな」というのが落合のルールだ。

コーチにも「どんなに遅くなっても、選手より先に帰るなよ。最後まで選手を見てやれよ」と言っていたという。選手の指導については次の2点を徹底してきた。

1.絶対に押し付けてはならない
2.鉄拳制裁の禁止

厳しい競争は自然にチームを活性化させる。だから選手たちが自己成長できるような環境を整え、そのプロセスをしっかり見ていることが指導者の役割なのだ。


3年間一軍登板ゼロの川崎憲次郎を開幕投手に

落合が監督に就任した2004年のシーズンでは、沢村賞投手ながら、ヤクルトから移籍して肩を痛め、3年間一軍登板ゼロの川崎憲次郎を開幕投手として登板させた。落合は投手起用については森繁和コーチに全面的に任せており、これが落合が先発投手を決めた唯一のケースだという。

川崎ほどの実績のある投手が故障で宝の持ち腐れとなっていたので、本人の復帰を後押しするつもりで、開幕投手に指名し、具体的目標を与えたのだ。

川崎は2回で5失点してマウンドを降りたが、ドラゴンズ打線はコツコツ反撃して、最後は8対6で広島に勝った。

復帰を目指して川崎が必死で努力する姿をチーム全員が見て、川崎に勝たせようと全員が動くことでチームとはどういうものなのかを実感させた。大きなリスクを覚悟した落合の監督として最初の采配は成功だったのではないかと。

川崎はこの年もう一試合先発登板したが、ワンアウトも取れず4失点で降板し、その年に現役を引退した。しかし新監督がチームとしてのまとまりをつくる方法としては、落合のいうように成功だったと言えると思う。


2007年日本シリーズ第5戦の「山井の幻の完全試合」

落合の采配で最も議論を読んだのが、2007年の日本ハムとの日本シリーズ第5戦で、8回まで完全試合を続けていた山井を9回に岩瀬に交代させた采配だ。



落合は自分の采配を正しかったか、間違っていたかという物差しで考えたことはないという。「あの時点で最善といえる判断をしたか」が唯一の尺度だ。

落合・中日の日本シリーズの成績は2004年対西武3勝4敗、2006年対日本ハム1勝4敗だった、2007年はリーグ優勝できなかったが、クライマックスシリーズで勝ち上がり、またもや日本ハムとの日本シリーズとなった。

なんとしても勝ちたい中日は3勝1敗で名古屋で第5戦を迎えた。山井は完全試合を続けていたが、4回から右手のマメが破れ血が噴き出していた。8回で1:0でリードしていて、9回の守りをどうするか考えているときに、森繁和コーチが「山井がもう投げられないと言っています」と言いに来た。

落合は即座に「岩瀬で行こう」と決断した。岩瀬はプレッシャーのかかるなかで、3者凡退に打ち取り、ドラゴンズは53年ぶりに日本一になった。

落合も山井の完全試合を見たかったが、その時点でのリードは1点しかなく、監督としてはどうしても53年ぶりにドラゴンズを優勝させたかった。この采配は53年ぶりの優勝という重い扉を開くための最善の策だったという。

ドラゴンズが日本一になったという事実だけが残る。その瞬間に最善と思える決断をするしかない。それがブレてはいけないのだと。


「勝利の方程式」よりも「勝負の方程式」

この本で落合は、「負けない努力が勝ちにつながる」と語っている。これが落合野球の真髄だと思う。落合は投手力を中心とした守りの安定感で勝利を目指す戦いを続けてきた。監督が投手出身か打者出身かは関係ない。これが勝つための選択なのだと。

試合は「1点を守り抜くか、相手をゼロにすれば負けない」。そしてチームスポーツでは「仕事をした」と言えるのは、チームが勝った時だけである。たとえ10点失っても勝った投手は仕事をしている。0対1で完投負けした投手は、厳しいようだが、仕事をしていないのだ。

勝利をひきよせるための手順=「勝負の方程式」はあるが、こうすれば絶対に勝てるという「勝利の方程式」はない。

落合は現役時代に「勝負の方程式」という本を書いている。

勝負の方程式勝負の方程式
著者:落合 博満
小学館(1994-06)
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「こうすれば相手は嫌がる」、「こんな取り組みをして失敗した」という様に勝負を少しでも優位に戦うための原則論をまとめたものだという。

ドラゴンズでは勝ち試合は8回に浅尾、9回に岩瀬を送って白星をつかむケースが多いので「勝利の方程式」と呼ばれている。

岩瀬の代わりに浅尾をストッパーに起用すると、「岩瀬に何かあったのか」とか「ストッパーを岩瀬から浅尾に代えるのか」と騒ぎ立てられるが、落合はあくまで勝利に近づくための最善策としかとらえておらず、岩瀬や浅尾に対する信頼感とは別次元の問題だという。

この本で落合は「岩瀬を出せば勝てる」と思ったことは一度もないと語る。勝負には何があるかわからない。だから岩瀬が打たれて負けた試合の落合のコメントは、「岩瀬で負けたら仕方がない。岩瀬だって打たれることはある」というものだ。

これに対して「勝利の方程式」を信じている監督は「まさか、あの場面で岩瀬が打たれるとは…」と言うだろう。

落合は日本一を目指して戦うなら「まさか」で黒星を喫したくない。勝負に絶対はないが、「勝負の方程式」を駆使して最善の策を講じていけば、仮に負けても次に勝つ道筋が見えるのだと。


大変参考になる本だが、詳しく紹介しているとあらすじが長くなりすぎるので、要点を、1.落合流強いチームの作り方、2.落合の企業秘密、3.落合の指導法に整理して簡単に紹介しておく。


1.落合流強いチームの作り方

★任せるところは1ミリも残さず任せきる/人脈や派閥のような感覚でコーチを起用しない
落合が先発投手を自分で決めたのは、上記の川崎憲次郎の開幕投手だけだった。それ以外はすべて森繁和コーチが決めた。森コーチの采配にすべての責任を負うのが監督の仕事だという。

現役時代に仕えた監督を見てきて「なんでも自分でやらなければならない監督ほど失敗する」と感じていたという。だから投手に関することは森コーチに任せられると思うと、全面的に任せ、落合自身は先発投手が誰になるのかも直前まで知らなかったという。

森コーチは駒澤大学のエースとして活躍し、社会人の住友金属経由、西武に入団。黄金時代の西武でプレーして、現役引退後もすぐにコーチとなり、西武、日本ハム、横浜で投手コーチを務め、一年たりともユニフォームを脱いだ年がなかった。現場が必要としている人材なのだ。

そうはいっても落合と森コーチの接点は、アマチュア時代の世界選手権でチームメートになったくらいで、決して親しい仲間だったわけではない。

野球の世界に限らず、一般社会でも気心しれたヤツだけを自分の周りに置きたがる人がいる。落合は名前は出していないが、典型的な例が北京オリンピックの星野ジャパンの星野・山本浩二・田淵幸一トリオだろう。

落合は仕事は一枚の絵を描くようなものだと言う。自分の持っている色だけではなく、自分とは違う色を持っている人を使う勇気が絵の完成度を高めてくれると語る。


★できる・できない両方がわかるリーダーになれ
落合の真骨頂がこれだ。「毎シーズンAクラスのチームを作ることができた要因は何ですか」と問われたら、落合は「選手時代に下積みを経験し、なおかつトップに立ったこともあるから」とはっきり答えるという。

監督には「名選手、名監督ならず」で、できない選手の気持ちがわからない人がいる。その一方で、現役時代は実績を残せなかったが、早くして指導者になり、コツコツと経験を重ねて、2軍監督やコーチを経験して「できない選手」の気持ちがよく理解できるので、若い選手を育て上げる手腕にたけている人もいる。しかしこのタイプの監督は「できる人の思い」が理解できず、スター選手と無用な衝突を起こしたり、ベテランから若手に切り替えるタイミングを間違うことがある。

落合自身プロに入ったのは「もうけもの」と考え、プロになればすぐクビになっても「元プロ野球選手」になれるので、残った契約金で飲食店でもやろうと考えていたという。「できない人の気持ち」は若いころの自分の気持ちそのものだと。

落合のようにプロに入った時はあまり期待されていなかったが、あとで超一流選手になったという経歴のある監督は、川上哲治さん、野村克也さんがいる。

しかし二人とも野球から一歩も離れず、ずっと真剣に取り組んできたという点で落合とは大きな差があると思う。鉄拳制裁になじめず、秋田工業高校では野球部の入部退部を繰り返し、東洋大学野球部ではケガもあって退部し、大学も中退して、故郷に帰ってプロボウラーを目指していたというキャリアの監督は落合くらいだろう。

川上さん、野村さんの二人とも名監督だが、落合くらい選手の気持ちがわかる監督もいないだろうと思う。


★連戦連勝を目指すより、どこにチャンスを残して負けるか
長嶋監督はファンを愛する人で、試合を見てくれるファンがいるかぎり毎試合勝とうとした。落合は今日は負けても、翌日に戦う力、勝てるチャンスを残すべきではないかという考えだ。

「1敗は1敗でしかない」と割り切ることも大切だ。

いい結果が続いている時でもその理由を分析し、結果が出なくなってきた時の準備をする。負けが続いた時でも、その理由を分析し、次の勝ちにつなげられるような負け方を模索する。

組織を預かる者の真価は、0対10の大敗を喫した次の戦いに問われるのだと。


「ファンが喜ぶ野球ーそれは勝ち続けることなのだと信じて。」
この本、いや落合野球で一番の問題はここだと思う。

「最大のファンサービスは、あくまで試合に勝つことなのだという信念が揺らいでしまったら、チームを指揮する資格はない。」と落合は語る。

そこで、「ファンが喜ぶ野球ーそれは勝ち続けることなのだと信じて。」という言葉が来る。

たしかに球場に来るファンはひいきチームが勝つことが最大の喜びだ。しかし球場まで行くことはめったにないが、ひいきチームはあるという人が圧倒的多数だろう。

野村さんはこのブログで紹介した「あぁ、監督」という本で、落合のサービス精神の欠如について、次のように語っている。

「どうも落合は勘違いしているのではないか。彼はグラウンドで結果を出せばいいと考えているようだが、それだけではプロ野球の監督として失格なのだ。いくら強くても、実際にファンが球場に足を運んでくれなければ、商売は成り立たないのである。

誰のおかげで自分が存在できるのか。ファンあってのプロ野球ということをいま一度考えてもらいたいのである。」

あぁ、監督    ――名将、奇将、珍将 (角川oneテーマ21)あぁ、監督 ――名将、奇将、珍将 (角川oneテーマ21)
著者:野村 克也
角川グループパブリッシング(2009-02-10)
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球場に行ったこともないが、ひいきチームはあるという、いわばサイレントマジョリティのファン、そしてひいきではないが興味はあるので、一度はプレーを見てみたいというファン、そういった人を球場に来てもらえるだけの魅力と話題性を提供するのが本当の一流監督ではないのか?

別に落合がコメディアンになる必要はない。ただ玄人好みでなく、素人好みの路線がプロ野球には必要とされていると思う。その典型が今度横浜の監督に就任する中畑清監督だと思う。

中畑監督はこの本で落合が排しているお友達内閣を組織しつつある様に思える。たぶん横浜は今季もダメだろう。

しかしスポンサーのDNAは別に強い横浜が欲しいわけではない。社名のDNAが広く知れ渡るような話題性のある広告塔が欲しいのだ。最下位でも注目度が上がればそれでよいのだ。

だから今のところ力の衰えが目立つラミちゃん以外は目立った補強をしていない。筆者は、もう付き合えないので、今年限り郷土の球団の横浜ファンから「引退」するが、DNAのやり方はこれはこれでアリだと思う。

筆者は正直、落合が日本で再度監督をやるかどうかはわからないと思っている。野球がオリンピック・スポーツとして復活したら、中国が落合を監督にリクルートする可能性は高いのではないかと思う。

幅広いファンとの折り合い、そしてマスコミの使い方、これが次に落合が日本で監督をやる際には落合が飛躍するための課題となるだろう。


2.落合の企業秘密

落合が45歳まで現役でプレーできた理由で最も大きかったのは、対戦相手が落合という選手の考え方を分析できなかったからだ。野球はメンタルなスポーツという典型例である。

落合の打撃の特徴は、「外角のボールをライトスタンドに放り込んでしまう」ことだと言われてきたが、実は落合自身はその記憶はない。

実際には内角寄りのボールを力負けせずに、押し込むようにライトスタンドに運ぶ技術を持っていたのだが、元プロのスコアラーには内角のボールをライトスタンドまで運べるはずがないとして、コースを真ん中よりに記録してしまう。そんなプロの盲点の積み重ねが「外角球をライトスタンドに放り込む男」という評価なのである。

実際外角のボールに3三振することもあったのに、ライトへのホームランが多いということだけで、「落合は外角に強い」と誤解されてきたから45歳までプレーできたのだと。

これは落合の「企業秘密」だったから、引退するまで決して口外しなかった。これがプロの戦術なのだ。監督となれば、対外的なことだけではなく、自軍のコーチや選手にも読まれてはいけない部分もある。

監督は何をやろうとしているのかをコーチに読まれると、監督にすり寄って、選手を見ないコーチが生まれる。コーチの見るべき方向は監督の顔色ではなく、選手なのだ。


落合は今季中日のユニフォームを脱いだが、プロ野球の監督は引き継ぎは一切しない。しかし、引き継ぎはしないが、次の監督が困らないチームにしておく、それが監督としてやらなければならない仕事なのだと。

最後に落合は「仕事で目立つ成果を上げようとすることと、人生を幸せにいきていこうとすることは、全く別物と考えているのだと語る。一度きりの人生に悔いのない采配を振るべきではないかと。

一杯の白飯と穏やかな時間。その中で生きていこうとしているのが、落合博満の「人生の采配」なのだと結んでいる。

大変参考になる本だったので、あらすじも長くなりすぎた。「若手諸君、成長したけりゃ結婚しよう」などの落合の指導法については、つづきを読むに載せたので、興味があれば見ていただきたい。

冒頭で紹介したとおり、筆者が読んでから買った数少ない本の一つだ。一読の価値はあると思う。


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Posted by yaori at 12:45Comments(0)TrackBack(0)