2012年06月29日

10年後に食える仕事 食えない仕事 「フラット化する世界」の日本版

10年後に食える仕事、食えない仕事10年後に食える仕事、食えない仕事
著者:渡邉 正裕
東洋経済新報社(2012-02-03)
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日経新聞の記者、IBMコンサルタントを経て、インターネットニュースMyNewsJapan.comを立ち上げた渡邉正裕さんの本。渡邉さんは1972年生まれ、慶應SFC出身だ。ブログもある

この本は東洋経済新報から出しているので、「週刊東洋経済」でも特集されている。

週刊 東洋経済 2011年 8/27号 [雑誌]週刊 東洋経済 2011年 8/27号 [雑誌]
東洋経済新報社(2011-08-22)
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図書館で借りて読んだ。図書館の蔵書3冊に対して予約が70件と、依然として人気のようだ。

内容は、このブログで紹介したトム・フリードマンの「フラット化する世界」を日本にあてはめたものだ。

フラット化する世界〔普及版〕上フラット化する世界〔普及版〕上
著者:トーマス・フリードマン
日本経済新聞出版社(2010-07-21)
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この本の最初にグローバル化時代の職業マトリクスが載っている。

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出典:本書4ページ

縦軸がスキルタイプ(技能集約的か知識集約的か)、横軸が日本人メリットで、それぞれの説明は次の通りだ。
1.重力の世界    : グローバルな最低賃金に収斂していく職業
2.無国籍ジャングル : 能力さえあれば世界のトップと競える職業
3.ジャパンプレミアム: 日本人でないとこなすことが難しい職業
4.グローカル    : 日本人の強みを生かしつつ、さらに付加価値をつけた職業

1.の重力の世界は、このブログで紹介した「ブルー・オーシャン戦略」の用語でいうと「レッド・オーシャン」で、赤がついている。世界最低賃金国との血みどろの競争を余儀なくされる職業だ。3.と4.は競争の少ない「ブルー・オーシャン」なので、青がついている。

具体的には次のような職業となる。

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出典: 本書57ページ

この本には「エリア判定チャート」がついているので、質問のYES/NOをたどっていくと、自分の仕事がどのカテゴリーか判定できるようになっている。

それぞれの領域の仕事の現状の割合は次の通りだ。全体の7割以上が重力の世界。世界に打って出られる無国籍ジャングルは3%、グローカルは5.5%と少ない。

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出典: 本書195ページ

読んだときに興ざめなので、詳しくは紹介しないが、それぞれのカテゴリーの代表的職業の特徴と日本における価値、世界におけるポジションがわかりやすく記述してあり、非常にわかりやすい。


中国にはサービスという概念がない

中国で「サロンde千華」という美容サロンを経営する村上千賀子さんの話が興味深い。

「この国にはサービスという概念がないから、美容院でスタッフが客とケンカして、すぐに暴れるの。
中国客は『私を綺麗にして』といきなり言って、セットが終わって気にくわないと全部崩してしまってやりなおし。それでも日本人にやってもらうのは、ステイタスなので、また来ます。
『ありがとうございます』とにこやかに帰って、二度と来ないのが日本人」

日本人は客としても厳しいのだ。

丁寧さと勤勉さは日本人ならでは。中国人はきめ細かな仕事が苦手で、すぐに「差不多(チャブドゥ=だいたいおなじ)」と言う。中国人にみそ汁の味を教えても、3日しか持たないという寿司職人の話もある。

これに似た話は、実は日本でも聞いたことがある。筆者の行きつけの中国料理屋は、何カ所も支店があるが、麻婆豆腐はどうしても本店と同じ物ができないという。教えても、中国人コックは自己流で変えてしまうのだと。


ITコンサルタントやSEは土着職業

EC(eコーマース)におけるITコンサルタントやSE(システムエンジニア)は土着職業だとして、楽天のビジネスを例に挙げている。

楽天には2011年秋の時点で約1000名の技術者が在籍している。三木谷社長は、社内公用語を英語とし、日本のベストプラクティスを海外で展開していく計画だが、中国で百度との合弁の「楽酷天」は結局撤退した。

中国の利用者は、気に入った商品を押さえて、チャット機能で価格交渉し、代金引換で受け取る。だから、サイトで売り上げが立っても、資金が回収できない「とりっぱぐれ」が続出した。

日本の感覚で作ったサイトは、全然ウケず、ユーザビリティも日中で違うことが分かった。

つまり日本のベストプラクティスは、日本の商習慣やカルチャーを共有していないマーケットでは通用しないという当然ともいえる結果になった。

プロジェクトマネージャーやSEが日本人だったので、日本の感覚を持ち込んで失敗したのだと。

楽天では2011年10月に35名の外国人新卒社員を採用した。2012年は60人に増やす計画という。日本で楽天のカルチャーを身につけてから、母国に帰ってサービスを指揮するのだ。比率は中国:インド:その他=4:4:2だという。

次に紹介する「内定とれない東大生」の編集者は、就活2勝58敗!の、扶桑社に勤める桜蔭・東大教養学部出身の女性だ。

内定とれない東大生 〜「新」学歴社会の就活ぶっちゃけ話 (扶桑社新書)内定とれない東大生 〜「新」学歴社会の就活ぶっちゃけ話 (扶桑社新書)
著者:東大就職研究所
扶桑社(2012-03-01)
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「ドラゴン桜」の中では「人生のプラチナ・チケット」と言われた東大生でも就活に苦労している時代である。

ドラゴン桜(1) (モーニングKC (909))ドラゴン桜(1) (モーニングKC (909))
著者:三田 紀房
講談社(2003-10-22)
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この本を参考にして「ジャパン・プレミアム」や「グローカル」な職業を目指せ!というのは、就活生には難しい注文かもしれないが、このブログで紹介した海老原嗣生(つぐお)さんの「就職に強い大学・学部」も参考にして、是非ブルーオーシャンを目指して欲しい。

偏差値・知名度ではわからない 就職に強い大学・学部 (朝日新書)偏差値・知名度ではわからない 就職に強い大学・学部 (朝日新書)
著者:海老原 嗣生
朝日新聞出版(2012-03-13)
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ちなみに筆者は、「品質管理」、「教育(コンサル型)」の仕事をしている。現在は「グローカル」だが、「品質管理」の国際規格化とともに、「無国籍ジャングル」にも進出できるかもしれない。

これもユニクロの「匠」のように、日本人の熟練者の役割として残る仕事だという。


ネット系のメディを本職としているだけあって図を多く用いて、ビジュアルでわかりやすい。

この本を読んだからといって、すぐに就活に役立てられる学生は少ないと思うが、読んでおいて得になる本である。


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2012年06月27日

人は死なない 東大病院ER部長の霊体験

人は死なない−ある臨床医による摂理と霊性をめぐる思索−人は死なない−ある臨床医による摂理と霊性をめぐる思索−
著者:矢作 直樹
バジリコ(2011-08-25)
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東大医学部教授でER(救急部)・集中治療部部長の矢作直樹さんの本。

以前このブログで紹介した米国でベストセラーとなっている「天国は、ほんとうにある」と同様の路線ながら、東大医学部教授の医者の書いた本ということで読んでみた。

天国は、ほんとうにある―天国へ旅して帰ってきた小さな男の子の驚くべき物語天国は、ほんとうにある―天国へ旅して帰ってきた小さな男の子の驚くべき物語
著者:トッド・バーポ
青志社(2011-10-17)
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実は前回紹介した鎌田實さんの「それでもやっぱりがんばらない」にも、下北半島の「いたこ」を通して、亡くなった実父と養父の岩次郎さんと話す場面が出てくる。

それでもやっぱりがんばらない (集英社文庫 か 39-4)それでもやっぱりがんばらない (集英社文庫 か 39-4)
著者:鎌田 實
集英社(2008-02-20)
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実父からは「ずっとおまえのことを思っていたよ」という言葉をかけられたという。

養父の岩次郎さんからは「待っていたぞ。よく忘れなかったなあ。でかした。でかした。」、「極楽にいるぞ。幸せだ。」、「ていねいに、人の役に立つように行きなさい」と声をかけられたという。

このブログで紹介した浅田次郎の「降霊会の夜」のような話だ。

降霊会の夜降霊会の夜
著者:浅田 次郎
朝日新聞出版(2012-03-07)
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矢作さんは、「現役の臨床医である私がこんなことを言うと顰蹙(ひんしゅく)をかうかもしれませんが、実際の医療の現場ではわからないことだらけというのが本当のところです」と語る。まず助からないだろうと思われていた患者が蘇生したり、逆に容態が急変して亡くなる患者があるのだ。

「気功」の中健次郎さんと一緒に行った北京気功ツアーで、老人が若者をコロコロ投げ飛ばす場面に驚いたという。

マンションの10階から落ちて半身不随になった患者は、「金縛り」にあうことが多く、ある女性に「あなたの体を借りたい」と入り込まれ、気が付いたらマンションから飛び降りる瞬間だったという。交通事故にあって体外離脱を経験した患者の話なども紹介している。

矢作さん自身も冬山登山で、雪庇を踏み抜いて1000メートル以上も滑落したが、雪の中に突っ込んで全身傷だらけになりながらも生還したという経験が2回あり、2度めの時には「もう山には来るな」という声がどこからともなく聞こえたという。

矢作さんのお母さんは、一人暮らしのアパートの浴槽で亡くなっていたのが発見された。矢作さんは、霊能力の強い知人から「お母さんが息子と話したいとしきりに訴えてきている」という話を聞いて、亡くなったお母さんと交霊したという。

お母さんは霊媒師の体を借りて、いきなり「直樹さん、ごめんなさいね。心配をかけてごめんなさいね」と謝ったという。死因は「心臓発作らしいの」ということで、「結婚指輪をタンスの上に挨拶ハガキと一緒に置いた」という親族以外は知りえないことも話したという。

矢作さんは霊媒師の体を借りたお母さんが、ここまで込み入ったことを正確に話すのに驚いたという。肉体は寿命が来れば朽ちるという意味で「人は死ぬ」が、霊魂は生き続けるので、「人は死なない」と考えているという。

霊界研究では近代スピリチュアリズムの始祖と呼ばれる18世紀のエマニュエル・スウェーデンボルグの著作が有名だという。どんなことが書かれているのか興味があるので、今度読んでみる。

スウェーデンボルグの「天界と地獄」スウェーデンボルグの「天界と地獄」
著者:高橋 和夫
PHP研究所(2008-11-22)
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日本では、立花隆さんの「臨死体験」が有名だ。これは今読んでいるので、いずれあらすじを紹介する。

臨死体験〈上〉 (文春文庫)臨死体験〈上〉 (文春文庫)
著者:立花 隆
文藝春秋(2000-03)
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今度紹介する「ふしぎなキリスト教」でも、一神教の考え方のもとでは、科学と奇跡は両立することが説明されている。世の中には信じられないような奇跡があるのだと思う。

ふしぎなキリスト教 (講談社現代新書)ふしぎなキリスト教 (講談社現代新書)
著者:橋爪 大三郎
講談社(2011-05-18)
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さらにいろいろな本を読んでみようという気になる本である。


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2012年06月25日

がんばらない 諏訪中央病院鎌田實名誉院長のベストセラー

がんばらない (集英社文庫)がんばらない (集英社文庫)
著者:鎌田 實
集英社(2003-06-20)
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諏訪中央病院の名物院長・鎌田實名誉院長が2000年に出版した末期がん患者やチェルノブイリ原発事故の被害者の話を集めたエッセー集。

YouTubeに東北復興支援のための、さだまさしさんとのトークショウが掲載されている。顔を見れば、あの白ひげの院長かと、わかると思う。



鎌田さんは「がんばらない」シリーズと「あきらめない」シリーズで何冊も本を出しており、最近の本はチェルノブイリと福島原発事故を取り上げた「なさけないけど あきらめない」と、鎌田さん自身の自伝の「がんばらないを生きる」だ。

チェルノブイリ・フクシマ なさけないけどあきらめないチェルノブイリ・フクシマ なさけないけどあきらめない
著者:鎌田 實
朝日新聞出版(2011-07-07)
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「がんばらない」を生きる「がんばらない」を生きる
著者:鎌田 實
中央公論新社(2011-11-09)
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いずれあらすじを紹介する。「なさけないけど あきらめない」は福島原発事故以降の鎌田さんの日記(ブログ?)をまとめたもので、福島支援関係の話は、鎌田さんのブログ・「八ヶ岳山麓日記」に収録されている。


筆者の一番苦手とするタイプの本

「がんばらない」は筆者の一番苦手とするタイプの本だ。感動の実話集なので、読んでいてウルウルしてしまう。筆者の読書時間はもっぱら通勤時間なので、電車の中で読んでいると、どうも具合がわるい。

続編の「それでもやっぱりがんばらない」も最近読み終えたが、これも同様に電車の中で読むには具合が悪い本である。鎌田さんの本は、それでもつい読んでしまい、5冊ほど読んだ。不思議な魅力のある本である。

それでもやっぱりがんばらない (集英社文庫 か 39-4)それでもやっぱりがんばらない (集英社文庫 か 39-4)
著者:鎌田 實
集英社(2008-02-20)
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「あなたは何度泣くでしょう」

単行本の帯に鎌田院長の友達で、サポーターのさだまさしさん、原田泰治(画家)さんの推薦文があり、キャッチコピーが「あなたは何度泣くでしょう」となっている。まさにそのキャッチコピー通りの本である。

「がんばらない」というタイトルがついているが、決して病気になったらあきらめるという意味ではない。治療は「あきらめない」が、回復の見込みがなくなったら、それ以上は「がんばらないで天命に任せる」という意味である。

鎌田さんのお父さんの岩次郎さん(実は鎌田さんは実子ではなく、養子だったことが37歳のときにわかった)は、戦前からプロの運転手で、鎌田さんの母親の心臓病の入院費(当時は今のような健康保険制度や最高医療費負担制度はなかった)や鎌田さんの学費(東京医科歯科大だったので、当時の学費は月1,000円)を文句も言わず稼いでいたという。

筆者の亡くなった父親も、昔は珍しかった運転免許を取り、戦前は三田にあった「青柳」という和菓子屋で配達をし、戦争中はインドネシアで輸送部隊に従軍し、復員後は進駐軍のキャンプで働いていたと言っていた。

「大型二種」という大型バスやトラックを運転できる免許を持っていることを自慢していた。「いざとなったらバスの運転手をやればいい」と言っていたものだ。ちょうど進駐軍のバス運転手をしていたという岩次郎さんのキャリアと重なっている。

鎌田さんはいわゆる「全共闘時代」の学生運動の闘士だったが、筆者は大学に入った時に、学校が学費値上げ反対の無期限ストをやっていて、6月から授業が再開された。いわば全共闘の影響を被った世代である。また鎌田さんは杉並区和田の出身だが、筆者も大学2年生の後半から杉並区和田(最寄り駅は東高円寺)に下宿していた。

そんな共通点があるので、鎌田さんの本には親しみを感じている。


感動の実話が満載

1年以上ぶりにお風呂に入れてあげたら、風邪をひいて亡くなってしまったおばあちゃんの家族から逆に感謝された話や、診察の時に鎌田さんのオチンチンをさわるよしばあちゃん、末期がんと知っていれば、じいちゃんの布団のなかに入ってあげたかったと残念がるたぬきばあちゃんなどの話が印象に残る。

他の本でもしばしば登場する鎌田さんの親友の神宮寺の高橋卓志和尚の話も面白い。自分は「住職」ではなく、飛び回っているから「とび職」だと言ったり、NPOを多く手がけているので「十職」だと言ったり、寺のイベントは「明朗会計」で、自分はサラリー制なのだと。

エイズ患者救済のためにタイに出張した帰りの卓志和尚が、末期がん患者の友人に、タイの空港から蘭の花束を持ってきた話も印象に残る。友人女性は、子供に蘭の花を一人一人渡して数日後亡くなったという。


チェルノブイリ原発事故被災者支援

福島原発事故の後だけに、チェルノブイリの話も今日的な意味がある。チェルノブイリの原発事故はちょうど旧・ソ連最大のイベント:メーデー(5月1日)直前の1986年4月26日に起こった。

秘密主義のソ連では事故のことは一切公表されず、ベラルーシの子供たちは、連日黒い雨が降る中で雨に濡れながらメーデーの練習をしていたという。それが大量の白血病や6,000人を超える甲状腺がん患者の発生につながった。

放射性ヨードの半減期はわずか8日だ。その時ベラルーシの子供たちが雨にあたらなければ、多くの後遺症患者は避けられたはずなのに、取り返しのつかない1週間になってしまったという。

これに加えて、放射能汚染された牧草を食べた牛のミルクに放射能が蓄積し、そのミルクを飲んだ子供が放射能で内部被ばくしたことも、上記のような大量の子供の患者が発生した原因だ。

鎌田さんは1991年にNGOを組織して、チェルノブイリの現地調査と医療に取り組んでいる。現場を見てきた人のレポートは心に迫るものがある。

チェルノブイリ原発付近の村や原発を入れた石棺などの様子が、YouTubeにスライドショウとして掲載されている。



チェルノブイリに一緒に行った写真家で映画監督の本橋成一さんは、「ナージャの村」という映画をつくり、ベルリン映画祭などでも好評を博した。今度この映画も見てみる。

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パイオニアLDC(2003-08-22)
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本橋成一監督は、やはりチェルノブイリを取り上げた「アレクセイと泉」という映画も作っており、これはYouTubeで予告編が紹介されている。



チェルノブイリに関しては、鎌田さんは最後に、ベルナンスキーの「人間は原子力をつかうまでにその人間性を深めただろうか」という言葉で締めくくっている。


「醫」は三位一体

鎌田さんは医の旧字「醫」の由来を説明している。医は矢を引くということで、人間の技術を示す。「エキ(役のつくりの部分)」は役=奉仕、酉は神に酒を奉る(まつる)ことで、祈りや癒しを示しているという。

「醫」から「医」に変わったときに、本来持っていた「技術」、「奉仕」、「祈り」の三位一体を忘れて、「技術」に走って行ったのではないかと鎌田さんは語る。

現代の医療が「醫」のように、かつての三位一体のバランスを取り戻した時に、末期がん患者や、痴呆性老人などをやさしく看ることができるのではないかと鎌田さんは言う。

鎌田さんのお父さんの岩次郎さんは、鎌田さんが医者になると言いだした時に、「弱い人の気持ちを理解できる医者になれよ。自分たちのような貧乏な者がどんな思いで医者にかかっているか、忘れるなよ。」と言っていたという。

この本では末期がん患者が他の病院で冷たく扱われ、(保険点数の高い医療を拒否すると、病院は冷淡になるようだ)諏訪中央病院の心のこもった看護に感動したという話がたくさん出てくる。


大腸カメラ検査用の穴あきパンツは諏訪中央病院看護婦の発明

患者のことを考えた諏訪中央病院の看護の一例が大腸カメラ検査の時の穴あきパンツだ。

筆者は2−3年に一度大腸カメラ検査を受けている。検査の時使う穴あきパンツは、諏訪中央病院の看護婦が、すっぱだかでは患者が恥ずかしかろうと紙パンツのお尻の部分を切り取って使い始めたのが最初だという。

その後カネボウサイエンスが商品化したが、看護婦は「ご自由に」と、特許もとらなかったという。


末期がんになったら

筆者が大学に入った年に最後の授業を受けた刑法の権威・団藤重光・前学士会会長・元最高裁判事が、98歳で亡くなった。

筆者は団藤さんと同じ理髪店に行っているので、団藤さんの話は時々聞いていた。頭はしゃっきりしていたが、最後は歩けなくなって車いすで移動していたという。

筆者はとうてい98歳までは生きられないと思う。80歳で十分のような気もするが、その時になったらまた違う考えになるのかもしれない。

筆者も末期がんになったら、鎌田さんの諏訪中央病院のような病院に入りたいと思う。

しかしどうせなら山より、生まれ育った湘南の海辺の病院がいい。けれども海の近くだと、金属は塩ですぐ錆びるし、台風が来たら大変だ。波の音も慣れないとうるさいかな…。

そんなことを考えてしまう本だった。


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2012年06月24日

日本酒は奥深い その10 日本最古の酒蔵 茨城県の「郷の誉」

「日本酒事典」を買って以来、日本各地の酒を試している。もともと東日本大震災からの東北地方の復興を支援する意味で、日本酒を飲み始めたものだ。

蔵元を知って味わう日本酒事典蔵元を知って味わう日本酒事典
ナツメ社(2011-01-21)
販売元:Amazon.co.jp
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今回は日本最古の酒蔵、茨城県の須藤本家の大吟醸酒・山桜桃(ゆすら)を冷酒で飲んでみた。精米度48%の大吟醸酒で、くせのない、芳醇な日本酒である。

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「生々」と書いてある。火入れせず、熱処理を一切していない生酒である。酒屋でも冷蔵庫に入れて売っている。自宅でも四合瓶を、冷蔵庫に入れて冷やして飲んだ。

郷の誉「山桃桜(ゆすら)」純米吟醸無濾過生々 720ml
郷の誉「山桃桜(ゆすら)」純米吟醸無濾過生々 720ml


日本醸造協会会長の石川雄章さんの「なぜ灘の酒は『男酒』、伏見の酒は『女酒』といわれるのか」に蔵元の創業年ランキングが載っている。

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出典:同書28ページ

なぜ灘の酒は男酒、伏見の酒は女酒といわれるのか (じっぴコンパクト新書)なぜ灘の酒は男酒、伏見の酒は女酒といわれるのか (じっぴコンパクト新書)
著者:石川 雄章
実業之日本社(2011-10-27)
販売元:Amazon.co.jp
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須藤本家は1141年(永治元年)創業。茨城県笠間市にある酒蔵だ。主力ブランドは「郷の誉」で、IWCで2007年から3年連続で多くの賞を受賞している。

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郷の誉 純米吟醸 1800ml【あす楽対応】【楽ギフ_包装】【楽ギフ_のし宛書】
郷の誉 純米吟醸 1800ml【あす楽対応】【楽ギフ_包装】【楽ギフ_のし宛書】


1141年というと平安時代末期だ。コロンブスのアメリカ大陸発見の350年も前の創業だ。日本酒の伝統、ここにありという感じの酒である。

日本酒は良いお酒でもワインに比べて安い。楽天で簡単に取り寄せられるので(須藤本家の酒はクール便指定だと思う)、日本最古の酒蔵の酒がどんなものか、試してみることをお勧めする。


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2012年06月21日

体制維新 − 大阪都 橋下徹さんの大阪都構想と堺屋太一さんとの対談

体制維新――大阪都 (文春新書)体制維新――大阪都 (文春新書)
著者:橋下 徹
文藝春秋(2011-11-01)
販売元:Amazon.co.jp
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大阪市と大阪府の行政組織を統合して大阪都をつくる構想をぶち上げている橋下徹大阪市長の本。

2011年11月に行われた大阪市長選挙では、橋下氏が民主党・自民党・共産党(!)の支持を得た平松氏を大差で破って大阪市長になった。大阪府知事に当選した大阪維新の会の幹事長の松井氏とタッグを組んで、大阪都構想を実現できる体制が整った。

昔の「行列のできる法律相談所」時代のイメージしかなかったので、橋下さんは丸山和也参議院議員と同様の、単なるタレント市長かと思っていたが、この本を読んで、しっかりした信念と優れたバランス感覚を持った政治家であることがわかった。

正直、あまり期待していなかったが、得るところが大きい本だった。

橋下さんは、1969年東京生まれ。大阪で育ち、北野高校で全国高校ラグビー選手権に出場し、ベスト16まで行ったという。その後早稲田大学から弁護士となり、1998年に橋下綜合法律事務所を設立した。

テレビの「行列のできる法律相談所」でテレビ受けするあまのじゃくな回答で人気を博していた。

対談で登場する堺屋太一さんが1965年、通産省時代に大阪万博をやろうと言いだした時から、大阪府と大阪市は仲が悪く、「府市あわせ(ふしあわせ)」と呼ばれ、サントリーの佐治敬三さんなどの財界人が仲に入ったりして40年間話し合いを続けてきたが、関係は一歩も進んでいないという。

大阪の問題は人口260万人の大阪市と、人口880万人の大阪府が二重行政となっており、別々に大学も美術館も図書館もあり、もちろん役所も別だ。東京都もかつては東京府と東京市の2つがあったが、1943年に、東条英機首相時代に一体化されている。

大阪市には地域団体組織、市役所、市長という「大阪版鉄のトライアングル」があり、平松市長時代は公金を使った政治活動を認めていたのだと。さらに大阪市の24ある行政区長は公選でなく任命制なので、すべて一律でなければ気がすまず、区をよくしようという意欲が全くないという。

世界各国では個々の都市の成長を促して、都市と都市をつないでいくのが国の役割となっているという。ロンドン市長、ニューヨーク市長、パリ市長、ローマ市長、ソウル市長と競いあうのだと。それには大阪市では小さすぎ、大阪都が必要なのだと。



大阪維新の会で、市長、府長、大阪府議会の過半数を押さえているので、ぜひ橋下市長のリーダーシップで大阪都構想を実現して、関西経済圏の復権を目指してほしいものだ。


公務員もクビにできる制度に

橋下さんの大阪維新の会が提出している2大法案は、職員基本条例と教育基本条例だ。

以前中田前横浜市長の「政治家の殺し方」で紹介した様に、橋下さんもたぶん「死ね」メールなどを職員から顕名で受け取っているのではないかと思う。あまりにひどい公務員はクビにできるようにして、幹部は公募制とすることを提案している。

政治家の殺し方政治家の殺し方
著者:中田 宏
幻冬舎(2011-10-26)
販売元:Amazon.co.jp
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そして教育関係では私立高校の授業料助成金が橋下さんの目玉政策だ。

全国ワースト1位かそれに近い大阪の少年犯罪率、失業率、離婚率などの根幹は教育にあるという橋下さんの認識をもとに、公立でも私立でもどちらでも選ぶことができるようにすることが、大阪ワースト問題を解決するカギとなり、教育の質も向上するというものだ。



世帯年収610万円以下で無料、610万円から800万円までは実質年間10万円。これで大阪府の世帯の7割をカバーする。私立高校の授業料は上限58万円に抑える。2011年は公立から私立に3,500人ほどの生徒が移動した。これで公立高校も必死になり、大阪の高校教育は劇的に変わったという。「


政治を語ることと、組織を動かすことは全く別物

政治を語ることと組織を動かすことは全く別物。そのことが日本の政治の世界では理解されていないと橋下さんは語る。

政治家の役目は、一定の方向性を示し、実現に必要な人やお金の配置をし、組織が機能する環境を整え、組織が動かなくなる弊害を取り除くといった組織マネジメントだ。

個別の政策を実行するのは、行政組織にしかできない。政治家が自分でやろうとしたら失敗してしまう、その典型が政権交代直後の民主党なのだ。

民主党が政権をとっても、鳩山さんも管さんも組織を動かした経験がないので、行政組織を動かせなかった。橋下さんは弁護士時代に社課外取締役等で企業経営にかかわった経験がが役に立ったという。橋下さんから見れば、野田首相は組織マネジメントに力を入れているという。

中国では地方の行政組織を動かして実績を上げた人が中央でも出世する。江沢民胡錦濤習近平がその例だ。アメリカでもクリントン大統領、ブッシュJR大統領が州知事あがりだ。

前評判の高かったオバマ大統領が苦戦しているのも、組織を動かした経験がないからだと思うと橋下さんは言う。


大阪府でPDCAサイクルをまわす

この本を読んで、橋下さんは行政のトップとして成功するだろうと感じた。それは次のようなことを言っているからだ。

大阪府では、府庁の意思決定システムがなかった。10億円を超える大きな予算でもまったく記録が残されていなかった。議事録もない。

だから、橋下さんは最高意思決定機関として戦略本部会議を設けて、部局長がつくったマニフェストを議論させた。部局長マニフェストは数値目標を原則として、PDCAサイクルをまわす。

各現場は部局長のマニフェストに沿って自分の方針をつくって、自律的に動く。こういったしくみを作らないと巨大な組織は一定方向に動かないという。

昔ながらの職員からは、知事はすべて職員に仕事を任せて、最後の責任を取るというマネジメントをしてもらいたいとも言われたが、今の時代では組織の方向をきっちり固めるのが重要だ。

組織の一定の方針の下で、各現場に自律的に動いてもらう。その結果の責任はトップが当然取るという仕組みなのだ。

行政のトップでPDCAサイクル(継続的改善のためのシステム)を意識して組織を動かしている人はほとんどいないと思う。その意味でも、筆者は橋下さんに期待するところ大である。


政治を自動車輸送にたとえると

この本の最初と最後にある堺屋太一さんとの対談も面白い。

政治を自動車輸送にたとえると、タクシーのようなものだと堺屋さんは言う。国民に選ばれた政治家が後部座席に座って、行先を決めて、運転は技術と経験がある官僚が担当する。これが本来の民主主義なのだ。

ところが民主党は、政権交代をするなり、「政治主導」でやると、いきなり運転席に座ったものだから、経験と技能がないので、たちまち事故を起こしてしまった。

事故に懲りて客席に戻ったら、今度はタクシーでなく路線バスになった。「官僚権限の強化」という行先の路線バスなのだと。


財務官僚は財政赤字を減らそうと努力していない

財務省は国の財政問題で赤字を減らそうとしていると思ったら、大間違いで、本当は彼らは、財政赤字を増やして増税し、経済への影響力を強めようとしているのだと。

堺屋さんの子供の時に陸軍の軍人は敵を減らすために戦ってくれていると思っていたが、実際は軍人は敵を次々と増やしていた。

満州で張作霖を爆死させると、ノモンハンに行ってソ連・モンゴル軍と戦う、ノモンハンで勝てなかったら、北京政府に干渉し、それが逃げたら、今度は上海・南京で蒋介石軍と戦う。蒋介石軍を重慶に追いだしたら、今度は仏印に出ていくというふうに、常に敵を増やしていた。

敵を増やすことによって、軍事予算が増え、徴兵権が強くなり、陸軍の統制力が強化される。それが軍務官僚の正体だったのだと。

今の財務官僚も同じことしている。国家事業を効率化するのでなく、予算要求の上限をつけて、いらないものを全部温存して赤字を増やす。その挙句に、この不況のさなかに増税する。

仕組みが官僚権限を拡大するようにできあがっているので、困ったことに財務官僚も昔の陸軍軍人もその自覚がないのだと。


役所の間の人事異動はほとんどない

現在の厚生労働省のトップは1970年代から1980年代初めに入省した人たちで、当時は通産省、農林省は巨大な官庁で文系キャリアを25人前後取っていたのに対して、厚生省や労働者は小さい官庁だったので、せいぜい7人くらいだった。

ところが、30年たって厚生労働省は巨大化して人材不足、農林水産省は人余りとなっている。やむなく農水省は自分たちがコントロールできる制度として「賞味期限」というものをひねり出したという。

役所間の人事異動はほとんどないので、巨大化した厚労省では人材が手薄になっている部局がある。安倍・福田内閣では、省間の人事異動をやろうとしたが実現しなかったという。


政治マネジメントとは

橋下さんがやってきたことは、大阪府庁の仕事の1%以下で、残りの99%は組織が粛々と仕事をしている。

しかし、その1%は組織の在り方や、組織全体の方向性を決める質的に重要なもので、伊丹空港廃港、庁舎移転、学力テスト結果公表、りんくうタウン再生、直轄事業負担金制度廃止などの重要な決定だ。

市町村別の学力試験結果を公表したことで市町村教育委員会の意識が変わった。

文科省、教育委員会、朝日新聞、毎日新聞は「市町村別結果の公表をしたら過度な競争が生じる、不当な学校序列が生じる」と非難していたが、そんな弊害は生じておらず、大阪の教育現場は学力向上に向けて動いているという。



橋下府知事時代に橋下さんは、直轄事業負担金は「ぼったくりバー」と発言して問題を提起し、国の直轄事業負担金制度の見直しを実現させた。



伊丹空港廃止問題は、前原国交相がリーダーシップを発揮し、伊丹空港と関空を経営統合して、運営権を民間に売却するという案をだし、2012年4月に新会社が設立された。



府議会議員の定数を109名から88名まで減らすと大阪維新の会は決断した。これに対して朝日新聞は批判したという。

知事としていかなるとき前面に出るべきなのか、どの部分を行政組織に任せるべきなのか、線引きに日々神経をとがらせてきたと橋下さんは語る。たとえば槇尾川ダム建設中止の決断は行政ではできない。知事の決断なのだ。



政治家の賞味期限

政治家だけで政策を作り上げることができないことは、政権交代時の民主党のマニフェストで明らかだという。

また今の地方議会事務局には、知事部局ほどの体制が整っていないために、そもそも議会が条例をつくれる体制になっていない。

政治家は直感、勘、府民感覚であるべき方向性を示し、その方向性で行政マンが選択肢をつくり、中身を詰める。行政マン同士で見解の相違があるなら、徹底的に議論してもらう。

その際のルールは次のようなものだ。

1.原則は行政的な論理に勝っている方を選択する。

2.論理的に5分5分なら、知事が政治的に選択する。

3.行政論理に負けていても、これはというものは、政治決定で選択する。この時は行政の言い分が勝っていることを認めるが、政治的な思いからあえて選択したことをしっかりと説く。

直感、勘、府民感覚で賞味期限が切れれば、政治家としては使い物にならない。「終了」だと。日本には自分の政治家としての賞味期限切れに気づかない政治家が多いと。

民主党の事業仕分けも、行政マン同士で議論させて、政治家や第三者が見守り、上記1,2,3のルールで判断していけば、組織は動いたのではないかと。「戦略は細部に宿る」のだと。


たしかに地方自治体の首長をつとめて行政のトップだった人が、国政も担当するというのは、英語で言うと"make sense"、腑に落ちる考え方である。

YouTubeの映像をいくつか紹介したが、元タレント弁護士だけにテレビ慣れしている。日本では珍しい劇場型政治家だ。得るところが大きい本である。


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2012年06月19日

プライドと偏見 ジェーン・オースティンの名作の映画化

プライドと偏見 [DVD]プライドと偏見 [DVD]
出演:キーラ・ナイトレイ
ジェネオン・ユニバーサル(2012-04-13)
販売元:Amazon.co.jp
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18世紀イギリスの女性作家ジェーン・オースティンの名作・「高慢と偏見」の映画化。

高慢と偏見 上 (ちくま文庫 お 42-1)高慢と偏見 上 (ちくま文庫 お 42-1)
著者:ジェイン オースティン
筑摩書房(2003-08)
販売元:Amazon.co.jp
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ジェーン・オースティンは18世紀の作家なのに、21世紀になっても作品が映画化されてヒットしている。特に女性に人気がある。

この作品は、18世紀のイギリスの田園を舞台にしている。年頃の娘を5人持つ一家が、娘を裕福な上級階級の紳士と結婚させようと、舞踏会に送り込むところから始まる。

この作品でアカデミー賞ノミネートされたキーラ・ナイトレイが次女エリザベスを演じている。上記のDVDの表紙にも写真が出ているが、たしかに庶民階級の美女という感じが出ている。



一方、裕福だが高慢な上級階級のダーシーをマシュー・マクファディンが演じている。体もデカくてラグビープレーヤーのようで、あまり上流階級という感じがしない。

最近の007シリーズで女性の"M"を演じているジュディ・デンチが、いかにも高慢な上級階級のマダムを演じているのが印象に残る。エリザベス(キーラ)の父親役のドナルド・サザーランド、母親役のブレンダ・ブレッシンも、それぞれいい味を出している。

ちなみにドナルド・サザーランドは、テレビドラマ「24」のジャック・ダウワーを演じているキーファー・サザーランドのお父さんだ。

映画のストーリーは詳しく紹介しない。18世紀のイギリスの田園を舞台にしたラブストーリーだ。田園や邸宅の舞台設定がすばらしく、画面が美しい。

キーラ・ナイトレイも美人だ。図書館でほぼ半年待って、やっとDVDを借りられたが、待つ甲斐はある作品である。


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2012年06月18日

日本の瀬戸際 森本新防衛大臣の本を読んでみた

日本の瀬戸際日本の瀬戸際
著者:森本 敏
実業之日本社(2011-03-01)
販売元:Amazon.co.jp
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第2次野田内閣で、防衛大臣に就任した防衛庁・外務省出身で、拓殖大学教授の森本敏(さとし)さんの本。

森本さんは昭和16年生まれ。防衛庁出身(防衛大学理工学部卒業)で、外務省に出向した後、外務省に入りなおして、在米日本大使館の一等書記官や、情報調査局安全保障政策室長など一貫して安全保障の実務を担当し、退官後は野村総研や、大学の講師や客員教授となり、平成12年からは拓殖大学教授という経歴を持つ。

野田内閣で森本さんの経歴を見たときに、「こんな防衛大臣に適任の民間人がいるとは!」と驚き、野田さんは人を見る目があるなと思ったので、興味を抱いて森本さんの本を読んでみた。

この本は2011年3月の発売なので、森本さんの最近著である。このほかに、「日本防衛再考論」という本も出しているので、これも読んでみる。

日本防衛再考論―自分の国を守るということ日本防衛再考論―自分の国を守るということ
著者:森本 敏
海竜社(2008-05)
販売元:Amazon.co.jp
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ひと言で言って、「百聞は一見に如(し)かず」だ。

この人は「学者」ではない。

この本にも、「日本防衛再考論」にも何の出典・参考文献・自己論文等も示されていない。この人がどれだけ安全保障について研究してきたのか、全くわからない。

一流の学者なら自分の本を書く場合、欧米なら数十ページ、日本でも最低数ページや十数ページは出典などを示すものである。

拓殖大学教授という肩書と、この本の内容に強く違和感を感じる。

一例を示すと、森本さんは「北朝鮮には莫大な天然ウランが埋蔵されている」とこの本で語っている(49ページ)。

1950年代末に中国の専門家の資源調査で莫大な天然ウランが埋蔵されていることを知り、1960年代からソ連から原子炉を購入し、この原子炉を動かして生産(前後の関係から重工業生産と読める)に必要な原子力エネルギーを確保してきたと書いている。

筆者が浅学なのかもしれないが、北朝鮮に莫大な天然ウラン資源があるという話は聞いたことがない。また北朝鮮の電力発電用の原子炉は止まっており、ソ連から購入した原子炉はすべて実験機規模だった。重工業生産を支えるエネルギーを原子力発電でまかなってきたわけではない。

この情報一つをとっても、出典・根拠を全く示さない森本さんの情報の正確性は非常に疑問に思える。

また安全保障の「専門家」なのかもしれないが、書いてあることが抽象的すぎて、具体論にかける。

たとえば第4章(日本の外交・安全保障政策と日米同盟進化はどうあるべきか)という章では、次のようなサブタイトルがならぶ。

1.外交・安保政策における日本の基本課題とは何か

 ・国益を追求する国家戦略を早急に構築すべし

 ・政策決定プロセスの封印で検証が不能に陥る(筆者注:そもそもタイトルからして何を言いたいのか不明)

 ・国家の情報機能を強化すべし

 ・法律で完全に縛られた自衛力を見直す局面に来ている

 ・価値観を共有する国々と連携強化すべき(韓国、豪州、ASEAN諸国など)

 ・日米同盟による抑止力強化が最重要課題

 ・アジア太平洋の地域的枠組みの進展に日本がイニシアティブを!

どれもこれも抽象論だ。具体策と筋道がないので、「足が地についた」議論ではない。

尖閣列島問題では、「尖閣諸島の実効支配が急務の課題」というサブタイトルを掲げて、5つほどのポイントを説明している。

「その第1は、尖閣諸島の実効支配をいかに強化するかについてである。(中略)…その具体的な方法については、まだ検討中である。」

「第2には、海上保安庁の能力向上についてである。(中略)…海上保安庁の予算を急に増やすことは、現実問題として難しく、…(後略)」という具合に、尻切れトンボの寄せ集めだ。

これでは「評論家」だ。「専門家」ともいえないだろう。

このブログは筆者のポリシーとして本の批判は書かない。世の中にろくでもない本は多くある。そういう本は、そもそもあらすじを書く対象としては選ばないのだ。

しかしこの本については、突如登場した防衛大臣という重要なポストの閣僚だけに、あえて批判めいた筆者の意見を公開する。

いずれ森本さんの真の能力が試される時が来るだろう。


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2012年06月16日

アハメドlくんのいのちのリレー 日本初の小児心臓移植成功に際して

アハメドくんの いのちのリレーアハメドくんの いのちのリレー
著者:鎌田 實
集英社(2011-08-26)
販売元:Amazon.co.jp
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「がんばらない」以来、諏訪中央病院名誉院長の鎌田實さんの本を色々読んでいる。実に幅広い支援活動をしている医師で、頭が下がる思いだ。

この本は、12歳のパレスチナ人アハメド君の臓器が6人のイスラエル人に移植され、そのうち一人のユダヤ人の女の子に心臓が移植された話を、日本語・英語で絵本にしている。鎌田医師は、イスラエルを訪問してアハメド君の両親の家と少女の家を訪問している。

日本でも改正臓器移植法に基づき、6歳未満で脳死と判定された男児から提供される臓器の移植が初めて行われた。心臓は大阪大学付属病院で、10歳未満の女児に移植された

日本で初めて小児心臓のドナーになった子どもは、交通事故で脳死となったが、アハメド君はイスラエル兵の狙撃弾で脳死になった。

アハメド君はおめかしをして外出していたら、武器を持っていると誤認したイスラエルの狙撃兵がテロリストと間違えて、頭を打ちぬいたのだ。悲しみに暮れる両親は、医者のすすめに従いアハメド君の臓器提供を決断する。

ドナーの家族は誰が臓器を受け取るのかは選べない。アハメド君の両親は、6人のイスラエル人と一人のアラブ人と聞き、人種は関係ないと言った。そして手術は成功し、イスラエル人の少女にアハメド君の心臓は移植され、少女は元気になった。

数年して鎌田医師のつきそいのもとにアハメド君の父親はイスラエル人少女の家を訪問する。その家の居間にはアハメド君の写真が飾ってあったという。

鎌田医師がプレゼントしたゆかたを着た少女は、アハメド君の父親に"My second father"と呼びかけたという。次がその場面の絵だ。

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出典:本書

小児心臓移植のドナーの家族の心境を考えると複雑なものがある。両親は一生悔やみ、悩むのだろう。誰でも同じ境遇になる可能性がある。

そんな時にこの本を読んでみるのも良いかもしれない。心がなごむ本である。


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2012年06月15日

日本酒は奥深い その9 2011年には日本酒出荷量が回復

「日本酒事典」を買って以来、日本各地の酒を試している。もともと東日本大震災からの東北地方の復興を支援する意味で、日本酒を飲み始めたものだ。

蔵元を知って味わう日本酒事典蔵元を知って味わう日本酒事典
ナツメ社(2011-01-21)
販売元:Amazon.co.jp
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朝日新聞は日本酒出荷量が16年ぶりに前年比プラスになったことを報じていた。秋田魁新報社の社説でも同趣旨を報道している。

日本酒













出典:朝日新聞・Asahi.com

筆者と同じように東北復興支援のために日本酒を飲む人が増えているようだ。

記事のなかで、宮城県塩釜市の「浦霞」、岩手県の「南部美人」、福島県の「大七酒造」が紹介されていた。

浦霞 禅 純米吟醸
浦霞 禅 純米吟醸

南部美人 純米吟醸 720ml
南部美人 純米吟醸 720ml

大七酒造 大七 純米生もと 1800ml
大七酒造 大七 純米生もと 1800ml


「浦霞」はこのブログでも紹介した。「南部美人」、「大七」も飲んだことがある。特に「大七」は昔ながらの”生酛(きもと)”造りの代表的な酒だ。

日本酒は奥深い。しかもワインに比べて安い。東北の酒を飲めば、被災地支援にもなる。最近日本酒を飲んでいない人は、是非日本酒を試してほしい。


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2012年06月13日

忘れられた日本人 明治から昭和初期の農村の生活

2012年6月12日追記

焼き肉料理店などでレバ刺しを出すことが7月から禁止されることになった。昨年の4月のユッケによる焼肉店チェーンでの死亡事故の影響と、厚生労働省(農林水産省にあらず)が検査したところ、200余りのサンプルで3件ほどO157が検出されたことが原因のようだ。

筆者は一度レバ刺しを食べたことはあるが、好きにはなれなかった。しかし焼肉店のメニューとしてはポピュラーなので、生の肝臓は滋養に良いと信じて食べる人も多いのだと思う。

この話を聞いて、不謹慎かもしれないが、「忘れられた日本人」で無法者が、重病を治す特効薬として子どもの生き肝を食べたという話が載っているのを思い出した。その地方では行方不明になった子どもが何十人もいたという。

ひどい話だが、それほど肝臓は薬としても効果があると民間信仰では思われていたということだと思う。

アマゾンの売れ行きランキングで、2位以下は変動があって、今は「遠野物語」が2位となっているが、依然としてこの本は文化人類学のベストセラー第1位を堅持している。まさに知る人ぞ知るベストセラーである。


2012年6月6日初掲:

忘れられた日本人 (岩波文庫)忘れられた日本人 (岩波文庫)
著者:宮本 常一
岩波書店(1984-05-16)
販売元:Amazon.co.jp
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柳田国男とともに日本を代表する民俗学者・宮本常一さんの代表作。アマゾンで文化人類学のベストセラーを見るとこのブログでも紹介した「銃・病原菌・鉄」を抑えて、1位にランクされている。

文庫 銃・病原菌・鉄 (上) 1万3000年にわたる人類史の謎 (草思社文庫)文庫 銃・病原菌・鉄 (上) 1万3000年にわたる人類史の謎 (草思社文庫)
著者:ジャレド・ダイアモンド
草思社(2012-02-02)
販売元:Amazon.co.jp
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たしか成毛眞さんの「実践!多読術」に紹介されていたのだと思うが、はっきり覚えていない。

実践! 多読術  本は「組み合わせ」で読みこなせ (角川oneテーマ21)実践! 多読術 本は「組み合わせ」で読みこなせ (角川oneテーマ21)
著者:成毛 眞
角川書店(角川グループパブリッシング)(2010-07-10)
販売元:Amazon.co.jp
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著者の宮本常一さんは、戦前から日本各地をくまなく歩き、各地の古老に話を聞いて、膨大な作品を残している。

日本の民俗学の最高権威の柳田国男さんは貴族院書記官長までつとめたあと、初代の日本民俗学会長になった民俗学のエリートで創始者、宮本さんはもともと小学校教員出身で、フィールドワークを大切にした民間民俗学者というようなおおざっぱな区別ができる。

柳田さんは多くの中学校などの教科書に取り上げられている「遠野物語」をはじめとして民間伝承や民話の研究が中心だが、宮本さんは、この「忘れられた日本人」のような名もない人からの話から昔の日本人の姿を構成している。

遠野物語 (集英社文庫)遠野物語 (集英社文庫)
著者:柳田 国男
集英社(1991-12-13)
販売元:Amazon.co.jp
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詳しく紹介すると読んだときに興ざめなので、簡単にだけ紹介しておく。この本では宮本さんが訪ねた日本各地のまさに「寒村」というべき僻地の村の古老の話から、明治時代から昭和にかけての日本の農村の生活風景が描かれている。

なかには橋の下の小屋で暮らす乞食老人から聞いた話などもあり、宮本さんのフットワークの軽さには脱帽する。

この本のなかには、エロチックな話もでてくる。農村の「夜這い」の話や、「太子の一夜ぼぼ」(南河内郡の明治初期まで続いた行事で、聖徳太子の祠のお祭りの日には、誰とでも一夜を共にしてよいという日)などが語られている。

その日に生まれた子供は父なし子でも大事に育てたものだという。昔の日本人(農民?)の性意識は開放的だったのだ。

老人から聞いた話なので、「夜這い」の自慢話や、いわゆる「お医者さんごっこ」的な遊びも紹介されている。

たぶん農村の楽しみといったら、こんなイベントとなるのだろう。そんな古老の話をありのまま紹介しているところが、正統派民俗学である柳田学派からは疎んぜられるということになったようだ。

文章は平易で、古老の話を再構成しているので、地域性あふれて読んでいて面白い。豆狸(まめだ)や天狗などの妖怪譚(ようかいたん)も興味深い。

300ページほどの本だが、すぐに読めるので、宮本常一民俗学の入門書としておすすめの本である。


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2012年06月12日

東京スカイツリー NHK出版の東京スカイツリー公認本

東京スカイツリー 世界一を創ったプロフェッショナル東京スカイツリー 世界一を創ったプロフェッショナル
NHK出版(2012-05-16)
販売元:Amazon.co.jp
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東京スカイツリー開業にあわせて2012年5月16日に発売されたばかりの本。

図書館の新着コーナーに置いてあったので、読んでみた。図書館では、発売されたばかりの本も読める。図書館に設置された新着専用書架やホームページの新着コーナーも是非チェックしてほしい。

NHK出版が編者となってまとめた本で、内容は施主の東武鉄道、設計の日建設計、工事の大林組の関係者を中心に、デザイン監修者として設計にかかわった彫刻家の澄川喜一さん、ライティングデザイナーなどのインタビューから構成している。

YouTubeにいくつか東京スカイツリーのビデオが掲載されている。次のビデオが最初からの建設の歩みを紹介していて参考になる。



NHK出版なので、「プロジェクトX」のようなストーリーを期待していたが、淡々と関係者の話を紹介している感じだ。

大林組のナックル・ウォール工法で、東京スカイツリーの地下の長さは地上の634メートルに対して、50メートルで済んでいることや、タワークレーンを駆使した建築の様子、「鋼管トラス構造」で鋼管を溶接して強度を出す工法などが紹介されている。

東京スカイツリーの建設に使われた鋼管は全国19か所の鉄工所で、溶接されて運び込まれたという。

東京スカイツリーの心棒が開いた状態で「スリップフォーム工法」で建設し、ゲイン塔を真ん中の空間からあげるという「リフトアップ工法」なども興味深い。

この本にも載っている2011年3月11日の東京スカイツリーの状況を、次のニュースが詳しく紹介している。この本に登場している人たちに取材しているので、大変参考になる。



東日本大震災の時は、リフトアップ工法によりゲイン塔(アンテナ塔)を押し上げていた時で、最悪のタイミングで地震の揺れが来たが、なんとかスカイツリーは持ちこたえたことがわかる。

簡単に読めて東京スカイツリーに関する豆知識や、使われた工法が詳しく紹介して参考になる本である。ちなみに大林組のホームページに東京スカイツリー建設に関する様々な情報が「東京スカイツリーのつくり方」として紹介されているので、こちらも興味深い。


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2012年06月04日

天国は、ほんとうにある 4歳児の驚くべき天国体験談

天国は、ほんとうにある―天国へ旅して帰ってきた小さな男の子の驚くべき物語天国は、ほんとうにある―天国へ旅して帰ってきた小さな男の子の驚くべき物語
著者:トッド・バーポ
青志社(2011-10-17)
販売元:Amazon.co.jp
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悪性盲腸炎で開腹手術を受け、死線をさまよった4歳の男の子の天国体験談を牧師の父親がまとめた本。この本の表紙に載っているのが、体験談を話した子どもの写真だ。

YouTubeにもテレビ番組で取り上げられた内容が掲載されている。



天国に行っていた時間は男の子の話だと「3分間」だという。

天国では白い服に紫の帯をまとったイエス、イエスの虹色の馬、神、洗礼者ヨハネ、まだ若々しい祖父に会ったという。天国では年をとらないのだと。

そして最も両親を驚かせたのは妊娠2か月で流産して生まれなかった名前のない姉が近寄ってきて抱きついてきたという話だ。もちろん流産したことなど、4歳の子供には言っていなかった。

「トマスの疑い」のように、イエスの手のひらには磔(はりつけ)でできた穴があり、わき腹も穴が開いていたという。

ちなみに、この子に天才少女画家のAkiane Kramarikが8歳の時に書いたイエスの絵を見せたら、イエスはこの人だと言ったという。

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出典:Akiane Kramarik HP

この本ではアメリカでは480万部以上売れたベストセラーになっているという。

臨死体験では、立花隆さんの「臨死体験」という本がある。

臨死体験〈上〉 (文春文庫)臨死体験〈上〉 (文春文庫)
著者:立花 隆
文藝春秋(2000-03)
販売元:Amazon.co.jp
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この本の著者のドッド・バーピ牧師をはじめ、本に登場する人はウソを言っているわけではないとは思うが、にわかには信じがたいというところだ。

「信じる者は救われる」と言うが、ちょっと考えてしまう。あなたはどう思うだろうか?


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2012年06月02日

日本の農業が必ず復活する45の理由 農業について物知りになれる本

日本の農業が必ず復活する45の理由日本の農業が必ず復活する45の理由
著者:浅川 芳裕
文藝春秋(2011-06-28)
販売元:Amazon.co.jp
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農業経営者向けの月刊誌「農業経営者」の副編集長の浅川芳裕さんが、農業に関する様々な疑問に答えるQ&A集。農業に関しては知っているようで知らない点が多いのに気づかされる。

農業経営者 2012年3月号(192号)農業経営者 2012年3月号(192号)
農業技術通信社(2012-03-06)
販売元:Amazon.co.jp
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農家って誰のこと?

たとえば「農家って誰のこと?」という質問だ。

誰もが農家は何か知っているが、統計だと必ずしも農家=農業ではない。10アール以上の農地を持っているか、年間15万円以上の農作物売上げがあれば、農林水産省の定義する「農家」となり、これが253万戸ある。

そのうち、年間50万円以上の売上げのある販売農家が163万戸、それ以下が自給的農家90万戸だ。販売農家のうち主に農業収入の割合が5割以上の主業農家が36万戸あり、この世帯の農家が日本の農産物の大半を生産している。

一方農地だけ持っている「土地持ち非農家」が137万戸ある。自給的農家や土地持ち非農家から農地を借り受けて耕作しているのが、3万社余りの農業法人などだ。


農家優遇策

農地がないと農家にはなれない。農家はある意味特権階級で、補助金が交付されたり、生産物は公設市場に持って行けば必ず値段がつく。農業収入が5兆円に対し、農地を転用した「転売収入」は3兆円だ。猶予制度を利用すれば、相続して20年経てば、宅地にしても相続税はゼロと優遇されている。農家が農業を積極的に辞める理由はどこにもない。


農家に生まれなければ「農業就業人口」には入らない

農水省が発表している「基幹的農業従事者」は農家の同居世帯員で、主に農業に従事している人だ。全体的には高齢化による引退により減少しているが、専業農家数は増えている。定年を期に、農家に戻って農業を始める高齢者が増えているからだ。

このようにリターン農業でおいしいコメの生産をめざす人が増えていることもあり、コメの直売率は増え続け、生産量の2割の165万トンが直売となっている。

「農業就業人口」は、販売農家の世帯員であり、「基幹的農業従事者」と時々農業を手伝う同居の主婦や学生も含んでいる。しかし、農家や農業法人に雇われている233万人の農業労働者が含まれていない。つまり1日でも農業を手伝う農家の世帯員はカウントされ、農業生産に従事していても農家に生まれなければ「農業就業人口」にはカウントされないのだ。

このような誤解を招く指標を多く使って、農業をミステリアスな分野化して、日本の土地は狭い=日本の農家は小規模=保護が必要というロジックで、国家予算を確保し、自分たちの権益維持に使っているのが日本の農林水産省である。


食料自給率の欺瞞

その最たる手口が、食料自給率だ。日本の農水省の発表する食料自給率は2種類ある。一つは1983年から用いられているカロリーベースの自給率で日本独自の指標である。世界各国の自給率もこの指標で計算されているが、計算根拠は公表されていない。

自給率





もう一つは生産額ベースの自給率で、これは世界各国の公表された統計を元にした指標である。国際交渉でコメを一粒たりとも入れないという論理を通すために国内向けに生み出されたのがカロリーベースの自給率なのだ。

エネルギー自給率のように4%では低すぎるので、4割くらいになる指標を生み出したというのが実際のところだという。これにより農水省の自給率予算は2006年の17億円から、戸別所得補償制度が始まった2010年度は8,000億円になっている。

農水省は食料危機で輸入全面停止に備える為と言っているが、日本のエネルギー自給率は4%で、このボトルネックを無視して食品だけの自給率を議論するのは空理空論であると浅川さんは語る。


取引の本質を理解していない食料危機論者

食料危機をあおる人は多いが、筆者は商社マンで原料の貿易に20年間従事していたので、この人たちは取引の本質を理解していないのではないかと思う。

穀物は商品取引所で価格が決定されるが、取引は毎年継続されてきており、何十年も続くものだ。たしかに干ばつなどの不作の年は、市況が高騰し、売り手市場になることもあるが、逆に豊作の年は市況が低迷し、買い手市場になり、穀物は長期間保存が利かないため、物理的に在庫スペースがなくなれば、投げ売りしなければならなくなる。

市況が下がり、どこにも売れないのに、在庫がどんどん積みあがるという恐怖は、市況商品の取引を経験したことにない人にはわからないだろう。

不作の年もあれば豊作の年もある。たまたま市況が高騰したからといって、長年の買い手に一切売らず、スポットで一番高い値を付ける買い手に売ったりすると、信頼関係が崩れ、需給が緩和したらその取引先には、もう買ってもらえなくなる。市況商品はいい時もあれば、悪い時もある。だから実際の取引者は短絡的な行動はとらないものだ。

もし日本の食料輸入が止まれば、世界中の食料生産者が主要売り先を失って困ることになる。食料は長期保存が利かないから、供給が止まって困るのは日本だけではない、供給者も困るのだ。

日本の食料輸入が止まるというような安全保障上の問題が起これば、たぶん中国、台湾、韓国の輸入も止まる。世界中の穀物生産国が極東アジアという最大の顧客を失い、途方に暮れることになるだろう。

第1次世界大戦中も、第2次世界大戦中も大勢が決するまでは食料の貿易は中断したことはない。それで豊かになったのが、筆者が駐在していたアルゼンチンだ。アルゼンチンは1943年まで中立を保ち、両陣営に食料を売っていた。戦時中の日本でも、アルゼンチンからの情報は中立国の情報として重宝されたのだ。

食料危機説は取引の本質を理解していない机上の空論だと思う。


経済合理性を追求するとカロリーベースの食料自給率は下がる

単価が安く国際競争力のない小麦や大豆の代わりに、日本が世界に誇れる品質の果物や野菜、牛肉を増産して輸出が増え、農家が儲かってもカロリーベースの食料自給率は下がる。果物や野菜はカロリーが低く、牛肉は飼料を輸入に頼っているので、農村の理想像を達成しても自給率は下がるのだ。


日本は世界5位の農業大国

このブログで紹介した「日本は世界5位の農業大国」の通り、FAOが発表する農業生産額では、日本は世界第5位の農業大国である。中国が一位、2位は米国、3位がインド、4位ブラジルで、いわゆる農業大国のオーストラリアは16位、アルゼンチンは36位となっており、日本第一位の北海道の農業生産額の方が多くなっている。

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日本は農業生産に最適の風土

日本は南北に長く、四季がはっきりしていて雨が多いので、農業に最適で、品種改良も盛んで技術力の裏付けもある。さらに肥料や育成技術で糖度や酸味などの食味まで管理して、販売価格を上げるという技は海外の農家から見れば異次元の世界である。購買力のある日本国民の好む農産物を生産してきた日本農業の努力の賜といえるのが世界第五位というランクなのである。

たとえば世界にはイチゴは600品種が登録されているが、そのうち日本だけで1/3を保有している。センサーによる糖度管理や、物流の鮮度保持技術などの周辺技術の高さも日本の特長である。スーパーで多くのイチゴの品種が陳列されているのも、日本独自のものである。


アメリカの大豆生産はヘンリー・フォードが促進

アメリカの大豆生産は人類の完全食の実現を目指すヘンリー・フォードがエジソン研究所で世界中の作物を調べた結果、大豆が最適という結論から1920年代から生産を促進したものだ。

当時アメリカの大豆生産は少なく、日本は50万トンの大豆生産があったが、フォードの音頭取りで大豆油を使って工場を創業する他、車のシート材にも大豆繊維を使い、今では日本の20万トンに対し、米国7000万トンと圧倒的な差が付いている。

単位当たり収穫量も米国のヘクタール当たり3トンに比べ、日本は1.5トンで、2トンの中国にも追い抜かれ、日本が大豆生産を教えたブラジルは3トン近くなっている。

米国の農家は醤油・味噌・豆腐・納豆と用途別に作り分けられるのに対して、日本は虫がついていないか、汚れがないかという外観検査だけで等級が決まり、この面でも日本は大豆生産後進国である。


戸別所得補償制度

戸別所得補償はすでにコメの生産を辞めている減反地で、単価の安い麦や大豆の生産や飼料用や米粉用の米をつくれば、最大の所得補償金がもらえることになる。

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出典:農水省パンフレット

そのため補償金目当ての不採算作物の生産が増え、その埋め合わせに税金が使われることになる。さらに所得補償制度のために、意欲のある専業農家に貸していた農地の返却を土地持ち農家が迫り、農地の”貸しはがし”が起こっている。

民主党がこの政策を続けるねらいは、農業を弱体化させ、食料不安をいだく国民の農政に対する期待を高め、農家・非農家ともに政治に頼ってこさせることにあると浅川さんは言う。

農業生産技術についても注目すべき動きがある。


世界的な直播(じかまき)の増加

日本の田植機が普及し始めた1960年代に、ヨーロッパでは田植えは完全廃止されたという。直播(じかまき)はアジアでは15%にも広がっているが、日本では秋田県大潟村などを除いては1.2%の普及率に留まっている。

田植機は田植え作業自体を効率化したが、機械が高価な上に田植えしかできないし、種もみから田植えの前の苗床での育苗など、一連の準備作業はそのままだ。直播きは準備作業もなくすことができる技術革新である。


TPPは大平首相の環太平洋連帯構想がそもそもの発端

1979年の大平首相の環太平洋連帯構想が、オーストラリアに引き継がれ、APECとなり、1995年のAPEC大阪行動指針をさらに具体化したものがTPPであるという指摘も新鮮である。ちなみに農水省は大平首相のビジョン構想当時蚊帳の外に置かれたとして今でも恨んでいるという話があるという。

TPPのメリットとしては、日本が競争力のある野菜、花卉(かき)、果物は輸出しやすくなる。外国人の受け入れが容易になれば、農業労働者不足が解消できるというものがある。

小麦の輸入関税は252%だが、無税の国家輸入枠があり、農水省が差益をエンジョイしてきた。大麦の輸入関税も256%だが、これが無税となれば畜産業界の飼料コストが下がる。

過去輸入解禁に農水省の指導の元に減産・国内果汁工場の設備を廃棄したミカン産業は、国産がピークの300万トンから100万トン以下に減少した。一方アメリカンチェリー解禁に増産で対抗したさくらんぼ業界は、旬の長期化により消費が拡大し、国産もメリットを享受した。


アメリカのコメは長粒種が中心

アメリカは1000万トンのコメの生産量があるが、ジャポニカ米の短粒種の生産は30万トンのみだ。食味的に許容できる中粒米でも輸出量は80万トン。そのうち35万トンを日本政府がミニマムアクセス米として輸入している。

世界的に需要が大きい長粒種であれば、タイやインドネシアなどの不作によりコメの国際相場は一挙に上昇するので、数年に一度は大もうけ出来る可能性がある。

しかし日本市場向けの短粒種は、生産量のわずか3%で、現在生産しているカリフォルニアなどの生産者を除いては、手間が掛かる上に生産経験がないので短粒米に転換するメリットがないのだ。


トウモロコシは最強の作物

トウモロコシはC4作物といって、他のC3作物より効率よく二酸化炭素を固定できる。単位面積当たりの収穫量も1ヘクタール当たり、小麦の3トンに比べて11トンと桁違いで、飼料用に使える茎や葉を含めると18トンの収穫が可能な最強の農作物だ。

天候変動・渇水にも強い。成分もたんぱく質、脂質、糖質をバランス良く含んでいるので家畜を飼育する上でも最高の作物だ。飼料に使われる他、甘味料、マーガリンなどのコーン油にも使われている。茎、葉などのセルロースを使えるようになれば、バイオ燃料生産も拡大が期待される。

唯一トウモロコシに勝てる作物はススキだという。同じC4作物で、トウモロコシより繁殖力が強く、多年草で、面積当たりのバイオマス収穫量はトウモロコシの3倍だが、残念ながら効率よく糖・アルコールに転換する技術は開発されていない。


カロリー確保ならイモ

同じ10アールで生産できる量は、米なら600キロだが、イモなら5トンで作物の中で最も多くのカロリーを供給できる。イモは食べるまで面倒な手間が掛からない。戦中・戦後に家の庭などでイモを生産していたのは、国民のカロリー確保という意味では至極妥当なことだったのだ。

ちなみにフレンチフライやポテトチップスの大成功は、大豆油革命で高品質の油が大量に出回るようになったからだという。


灌漑は世界の9%のみ

世界の灌漑比率は9%しかなく、灌漑地の7割は水田の多いアジアに集中している。

オーストラリアや南米では灌漑はほとんど行われておらず、オーストラリアの単位収穫量は世界でも100位程度に留まっている。広い面積の農地で手間を掛けずに生産するやり方を選んでいるのだ。


砂漠農業

日本の年間鉱量1700ミリに対してドバイは年間60ミリ。そんなドバイの砂漠での養液農業によるイチゴ栽培の話も参考になる。

砂漠での昼夜の寒暖差は果実には最適だ。植物は凍結しないように水分を下げて、糖度を上げる。植物が身を守るための生理現象によって、甘みが強い果実ができるのだ。

砂漠は日射量が多く、害虫と雑草がないので無農薬農業が可能だ。野外で養液栽培をやっているので、ハウスも必要ない。イスラエルやエジプトからヨーロッパに無農薬野菜が大量に輸出されているという。

最後に日本の農家の海外進出の例が紹介されている。千葉の和郷園はタイでマンゴーとバナナを生産している。

日本の種苗メーカーのサカタのタネとタキイ種苗は世界第8位と第10位で、日本の種苗業界は世界第3位だ。世界第一位の種苗メーカーはモンサント、2位デュポン、3位シンジェンタ(スイス)という順だという。農業機械業界や農薬業界も世界第3位なのだ。

アスパラは多年草で、一度株が育つと何年も収穫ができるとか、中国には世界的な農業生産基準であるGAP認定農場数が日本の倍あり、面積では日本の15倍とか、遺伝子組み換え作物は農産物で唯一安全性が公認されている食品とかいった情報も参考になる。

45の例を見てくると、土地が狭くとも日本農業は競争力があるのがわかる。別に市況商品の小麦や大豆で世界と競争する必要はないのだ。国民が高いお金を払ってくれる付加価値の高い甘い果実やおいしくて安全な野菜で勝負すれば良いのだ。

知っているようで知らない農業に関する基本的な知識を得るために最適の本である。


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Posted by yaori at 01:47Comments(0)TrackBack(0)