2012年11月30日

国会議員の仕事 自民党・民主党の若手ホープの政治家のつくりかた

国会議員の仕事―職業としての政治 (中公新書)国会議員の仕事―職業としての政治 (中公新書)
著者:林 芳正
中央公論新社(2011-03)
販売元:Amazon.co.jp

国会議員の仕事を、自民党の世襲政治家で参議院議員の林芳正さんと、民主党でサラリーマン家庭に育った元日銀マンの津村啓介さんが、それぞれの履歴や政治活動について語っている。

この本を読んだ後、衆議院選挙が2012年12月16日投票と決まった。林さんは参議院議員なので、選挙には臨まないが、津村さんの民主党には逆風が吹いているので、厳しい選挙になると思う。是非切り抜けて4期目当選と果たしてほしいものだ。

「職業としての政治」というタイトルでは、もちろん筆者も学生時代に読んだマックス・ウェーバーの著書が有名だ。

職業としての政治 (岩波文庫)職業としての政治 (岩波文庫)
著者:マックス ヴェーバー
岩波書店(1980-03-17)
販売元:Amazon.co.jp

この本では、ウェーバーのようなアカデミックな立場でなく、政治家として活動しているお二人の実際の行動が具体例として紹介されていて興味深い。

この本では林さんと津村さんが、機ス餡餤聴になるまで、供ス餡餤聴の仕事と生活、掘ゾ泉政権から政権交代へ、検ダ権交代後の1年について、それぞれが書き、最後の后ァ嵜Χ箸箸靴討寮治」を語ろうで、林さん、津村さんが対談するという構成になっている。

親類に政治家がいる人は林さんのパターン(林さんはちなみに4代目)。まったく徒手空拳の人は、津村さんパターンが参考になると思う。

次に目次とキーワードを箇条書きで紹介しておく。大体の内容がわかると思う。

林芳正:

機ス餡餤聴になるまで
1.「政治家の家系」ではあるけれど
  政治には「無意識」だった 
  父親の「注文」(文兇任覆文気法
  商社マンになる 世界を見たことが転機に

2.決意と戸惑い
  「どうするか考えなさい」(三井物産を退社して父親のカバン持ちに)
  (ハーバード大学ケネディスクール卒業) 
  大蔵大臣政務秘書官 
  「チャンスをもらえる人間はそうはいない」(1995年の参議院選挙で初当選) 

供ス餡餤聴の仕事と生活
1.行政の仕組みを知る
  橋本対小泉
  (父と仲人の宮澤喜一さんが属する宏池会に入る)
  規制緩和で役所と対峙(「ここで先生とお話ししても、何も決まりませんから」と労働省の役人に言われる)
  財政金融委員会

2.大蔵政務次官・参議院副幹事長
  「ゼロ金利」をめぐる攻防(デフレの始まり) 
  宮沢喜一流の指導(次官を鍛える) 
  参議院の独自性を高める

3.小泉政権
  「加藤の乱」の現場 突如変わった「風」
  (小泉内閣支持率80%に急上昇) 
  外交防衛委員会委員長(FTA推進) 
  郵政解散 小泉政治の功罪
  (罪の方が大きい。)
  (『政策がわかっている人』ではない。消費税・集団的自衛権を先送りし、郵政民営化を優先した。)
  靖国参拝で中国・韓国との関係悪化)

掘ゾ泉政権から政権交代へ
1.安倍内閣
  「強力政権」のツケ 
  三期目の選挙

2.防衛大臣(2008年8月改造福田内閣)
  予算委員会の仕事 
  初入閣でまずやったこと(所管事項のレクを受ける)
  ”チーム”の大事さ(自衛官を入れて26万人の大所帯)
 「防衛大綱」見直しに着手(大臣の承認を得ない『専決』の見直し。普天間決着を逃す)

3.2度目の入閣と自民党の下野
  唐突な「大連立」だったが 
  首相の条件(角栄の原則:内政と外交の重要閣僚、党三役の少なくとも2つを経験した人間でなければ、総理の資格はない) 
  勝負の時を誤った(麻生内閣の1年弱) 
  経済財政政策特命大臣(2009年7月から1か月)

そして2009年8月に政権交代が起こる。次は過去の衆参両院の政党別人数の推移だ。

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出典:本書265ページ


検ダ権交代後の1年
1.政権交代は必然だった
  自民党下野の根本原因
  (「旧態依然」の自民党に国民が”NO”。 小選挙区制は日本になじまない

2.民主党政権の諸問題
  マニフェストはなぜ「破綻」したか
  (間違いだらけで、作り方がいい加減。パブリックコメントも経ていない) 
  乗数効果問答(「乗数効果」を知らない菅財務大臣)
  「政治主導」の弊害 軸なき民主党外交が残したもの(普天間迷走)
  「政策不況」はいつまで続く?
  (日米FTAを無視してなぜTPPか?)
  ”青い鳥”は果たしているか?

3.自民党は何をなすべきか
  野党になってできたこと 
  今の私の目標(2010年1月に自民党の綱領を作り直し)


津村啓介

機ス餡餤聴になるまで
1.サラリーマン家庭
  われら団塊ジュニア世代(出身は岡山県津山市)
  (麻布から東大法学部) 
  日本銀行(1994年ー2002年) 
  (日銀で直属上司の証券課長が『ノーパンしゃぶしゃ事件』で逮捕される)

2.政治家をめざす
  オックスフォード大学MBA留学で保守党クラブに入る 
  江田五月さんとの出会い 
  民主党の候補者公募制度(イギリスの制度をモデルに) 
  親の反対
  (お兄ちゃんの人生なんだから、お兄ちゃんの好きなようにさせてあげなさいよ)

3.若い力を国会へ
  「落下傘候補」 
  初めての街頭演説(1に毎日、2に堂々、3に短いフレーズ)
  党からのサポート 
  ポスター貼りのこだわり(馬淵澄夫議員に指導を受ける) 
  労働組合とのつきあい 
  (2003年選挙で小選挙区落選、比例区で当選)
 
供ス餡餤聴の仕事と生活
1.国会という場
  新人議員の失望
  (質問者も大臣も原稿棒読み 本会議は単なるセレモニー。法律は官僚によって作られ、国会の審理はアリバイつくり) 
  一期生の仕事は「次の選挙に勝つこと」
  (一気に9人の秘書を雇い、130万円/月の歳費はすべて人件費に充て、ボーナス550万円を生活費に。週に岡山・東京を2往復 小さな祭りや神事を優先してイベントにすべて顔を出す) 
  戦後初の「戒告」処分

次が津村さんの平均的な岡山での日程だという。たしかにいろいろなイベントに顔をだしまくっている。

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出典:本書124ページ

2.国会質問
  国会質問の作り方(福井日銀総裁に質問)
  国益とは何かー外務、安全保障委員会 
  超党派の課題ー天皇制の危機

3.政治とカネ
  国会議員個人の収支(歳費+文書通信交通滞在費 100万円/月) 
  政治資金ー収入(政党交付金 1,000万円/年、パーティ代+寄付) 
  政治資金―支出(公設秘書3人は国が負担、ほかに6名を私設秘書として雇う。事務所を4ヶ所 250万円/月) 
  議員宿舎(赤坂の3LDK 家賃10万円/月)と議員パス

4.東京と地元
  「金帰火来」 
  個人事業主としての側面(優秀な秘書に支えられている)
  民主党岡山県連代表としての運営(候補者選びの人事権を握る)

掘ゾ泉政権から政権交代へ
1.民主党の試練
  初の本格代表選挙から年金未納まで 
  岡田代表の挫折 「郵政選挙」の大敗北 
  若き前原代表の登場と挑戦 ニセメール事件の意味するもの

2.小沢代表のリーダーシップ
  小沢代表と大連立構想 
  衆参ねじれ国会 
  日銀総裁空席問題

3.政権交代ー2009年8月30日
  解散先送りと底をつく資金 
  小沢代表の辞任ー西松事件 
  全国初の「予備選挙」 
  臓器移植法をめぐるドラマ 
  熱気あふれる衆議院本会議場

検ダ権交代後の一年
1.政治主導の最前線
  最初の罠(任命直後から政治家をコントロールしようとする)
  秘書官人事がターニングポイント(日銀と内閣府から1名ずつ指名)
  官僚の記者会見を禁止 
  政務三役(大臣、副大臣、政務官)会議「準備会合」が主戦場
  (官僚との良い関係作り)

2.国家戦略室の理想と現実
  政治主導のシンボル 
  菅大臣の顔が見えない 
  突然の大臣交代 
  機能変更 
  政府・与党の一元化をめぐって

3.民主党の経済財政戦記
  史上最悪の失業率とデフレ宣言
  GDP統計の整備 
  景気「踊り場」論争の内側
  「日本銀行の独立性」を高めるために

4.科学・技術政策と日本の未来
  事業仕分けの衝撃 
  科学・技術の可能性 
  国会議員の仕事ー官僚との役割分担

后ァ嵜Χ箸箸靴討寮治」を語ろう
  本物の「政治主導」とは何か 
  日本は選挙が多すぎる 
  民主党は路線を明確化できるか 
  これからの日本経済をどうする 
  政治家の資質とは 
  総理大臣をめざす(林さんは3年後に総理をめざす。津村さんは17年後に総理をめざす)

そのほかに2点ほど参考になったポイントを紹介しておく。


小選挙区制と政党交付金制度が公募政治家を生んだ

津村さんは1994年の政治改革がなかったら政治家にはなれなかっただろうと語る。小選挙区制度と政党交付金制度が、公募世代の政治家を生んだのだ。

8年目で日銀を辞めたときの1,000万円が軍資金だった。民主党の公認候補への活動費が最初は50万円、そのあと100万円になり、そのうち30万円は個人の生活費として使えた。最終的に初めての選挙が終わった段階では、700万円貯金は残っていたという。自己資金300万円しか使わなかった計算になる。

選挙本番では1,500万円の公認料が支給された。これも政党交付金制度のおかげである。さらに民主党公認となれば、お金のかからない選挙ノウハウを熟知している労働組合が支援してくれ、党幹部の有名政治家が応援に来てくれる。


官僚との戦い

林さんは一年生議員の時に、派遣法の説明にきた労働省の役人に、「どうしてこんな規制をするのだ」と聞いたところ、役人は答える代りに、「ここで先生とお話ししても、何も決まりませんから」と言い放ったという。

猛勉強して商工委員会で追及したそうだが、規制緩和に関しては、役所と正面から向き合うので、役所が何をやっているのか熟知しないといけないという。

特に注意すべきなのは「…等」」という言葉だ。「…等」とあったら、必ず「この『等』は具体的には何?」と聞かなければならない。往々にして羅列されている事柄の何倍ものものが、「等」に隠されているのだと。

管直人元総理の「大臣」という本には、そのような「罠」がいくつも紹介されているという。

大臣 増補版 (岩波新書)大臣 増補版 (岩波新書)
著者:菅 直人
岩波書店(2009-12-18)
販売元:Amazon.co.jp


政治家の自伝はいくつか読んだが、これほど率直に自らの国会議員としての生活を描いた本は少ないと思う。所属政党は違うが、官僚統治と闘っていることでは同じ経験をしている。

副題の「職業としての政治」というタイトルは、この本の内容を正確にあらわしている。政治家に興味がある人には参考になると思う。彼ら二人を応援したくなる本である。


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2012年11月28日

空飛ぶタイヤ 池井戸潤さんの代表作 あの事故を思い出す

空飛ぶタイヤ空飛ぶタイヤ
著者:池井戸 潤
実業之日本社(2006-09-15)
販売元:Amazon.co.jp

以前紹介した「下町ロケット」が面白かったので、池井戸さんの他の作品も読んでみた。

下町ロケット下町ロケット
著者:池井戸 潤
小学館(2010-11-24)
販売元:Amazon.co.jp

初めは「空飛ぶダイヤ」ということで、国際輸送か密輸の話かと思ったら、「タイヤ」だった。

多くの人が記憶していると思うが、2000年前後に起こった三菱自動車の一連のリコール隠しのなかでも最も重大な事故が、三菱ふそうトラックのタイヤ脱輪事故だ。

2002年1月に横浜市瀬谷区で、三菱ふそう大型トレーラーの車輪が付け根のハブごと脱輪し、140キロのタイヤが通りがかった母子を直撃し、運悪く母親(29)が死亡し、長男(4)とベビーカーに乗っていた次男(1)も手や足に怪我を負った。

それが「空飛ぶタイヤ」というタイトルのゆえんだ。

池井戸さんの作風なのだろうか。「下町ロケット」と同様に、大企業相手に戦う中小企業の社長が主人公だ。

池井戸さんは「下町ロケット」で直木賞を受賞したが、その前に「空飛ぶタイヤ」でも直木賞候補になっている。さすが直木賞候補になる作品だけに、大変楽しめる。

いつも通り小説のあらすじは詳しくは紹介しない。アマゾンの「なか見!検索」で、小説のエッセンスがすべて詰まっている出だし部分が読めるので、是非こちらをクリックして「なか見!検索」を見てほしい。

三菱ふそうトラック脱輪事件を題材にしているが、ストーリーはフィクションで、大変面白い展開のエンターテインメント作品である。単行本で500ページ弱だが、一気に読める。


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2012年11月27日

ヘルマン・ヘッセ 荒野のオオカミ 青春でなく初老を描くヘッセの作品

荒野のおおかみ (新潮文庫)荒野のおおかみ (新潮文庫)
著者:ヘッセ
新潮社(1971-02)
販売元:Amazon.co.jp

ヘルマン・ヘッセの後期の代表作。今度あらすじを紹介するスティーブン・コヴィーの「第3の案」のキーワードである”魔術劇場”が登場する作品として紹介されていたので読んでみた。

”魔術劇場”とは、「入場は狂人だけ。入場料として知性を支払うこと」と書かれた入口を通ると、中には無数の扉と魔法の鏡が取り囲んでいる秘密の場所だ。「第3の案」では、そのような”魔術劇場”はどんなアイデアも許され、第3の案を生み出すのに理想的な環境として紹介されている。

第3の案 成功者の選択第3の案 成功者の選択
著者:スティーブン・R.コヴィー
キングベアー出版(2012-02-25)
販売元:Amazon.co.jp

この作品はヘッセが50歳の時の作品で、筆者が好きなヘッセの代表作の「車輪の下」や「ペーター・カーメンチント」、「デミアン」などの青春ものとは全く異なる作風だ。ヘッセの作風は知っているつもりだったが、自分が読んだ本の範囲など本当に狭いということを痛感させられる。

車輪の下で (光文社古典新訳文庫)車輪の下で (光文社古典新訳文庫)
著者:ヘッセ
光文社(2007-12-06)
販売元:Amazon.co.jp

ハリー・ハラーというヘルマン・ヘッセ自身を思わせる自称「荒野のオオカミ」作家が、とある下宿屋に住みつくようになる。ほどなくして下宿を引き払う時に、大家のおいに作品を預けるというストーリーだ。

まるで、夏目漱石の「こころ」の「先生」が手紙を預けるような展開である。

こころ (新潮文庫)こころ (新潮文庫)
著者:夏目 漱石
新潮社(2004-03)
販売元:Amazon.co.jp

その作品の中に登場するのが、ハリー・ハラーにダンスを強要するヘルミーネ(ヘルマンの女性形)とヘルミーネの女友達マリーアや愛人のサクソフォニスト・パブロだ。

ハリーはたまたま見かけた”魔術劇場”という電光掲示板に気が付いて探すが、なかなか見つからない。やっと”魔術劇場”を見つけて中に入ると、不思議の国のアリスならぬ、無限のドアと鏡の世界だった。ドアには様々なシナリオが描かれており、そのドアを潜り抜けると、ドアに書いてある場面に出会えるのだ。

不思議の国のアリス (角川文庫)不思議の国のアリス (角川文庫)
著者:ルイス・キャロル
角川書店(角川グループパブリッシング)(2010-02-25)
販売元:Amazon.co.jp

幻想的な場面の描写が続き、最後はハリーがナイフを持って…。ということで、いつも通り小説のあらすじは詳しくは紹介しない。

筆者はヘッセなら「車輪の下」のような青春ものが好きだが、この「荒野のおおかみ」に違った魅力を感じる人もいると思う。

「荒野のおおかみ」はドイツ語ではDer Steppenwolfだ。映画「イージー・ライダー」の主題歌の"Born to be wild"というヒット曲を持つアメリカのSteppenwolfというバンドは、この作品の名前を取っている。筆者が高校生くらいの時から好きなバンドだが、バンドの名前の由来を今回初めて知った。

Steppenwolf (BORN TO BE WILD)Steppenwolf (BORN TO BE WILD)
アーティスト:Steppenwolf
MCA(1987-06-01)
販売元:Amazon.co.jp



映画「イージー・ライダー」の衝撃的なエンディングを思い出す。



この作品は筆者が学生時代に読んだコリン・ウィルソンの「アウトサイダー」では、1章をさいて論じられ、ドイツ人として約千年ぶりにローマ法王になったベネディクト16世は、この作品を愛読書に挙げているという。

アウトサイダー (集英社文庫)アウトサイダー (集英社文庫)
著者:コリン・ウィルソン
集英社(1988-02-19)
販売元:Amazon.co.jp


こんなヘッセの代表作もあったんだと、再発見できるスピリチュアルかつファンタジックな作品である。


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2012年11月26日

私の紅衛兵時代 中国の映画監督陳凱歌氏の紅衛兵時代

私の紅衛兵時代-ある映画監督の青春 (講談社現代新書)私の紅衛兵時代-ある映画監督の青春 (講談社現代新書)
著者:陳 凱歌
講談社(1990-06-12)
販売元:Amazon.co.jp

前回紹介した「北京バイオリン」や2011年12月に公開された「運命の子」などの優れた映画を監督している陳凱歌(チェン・カイコー)監督の紅衛兵時代のことを書いた手記。会社の読書家の友人から紹介されて読んでみた。

北京ヴァイオリン 特別プレミアム版 [DVD]北京ヴァイオリン 特別プレミアム版 [DVD]
出演:タン・ユン
ジェネオン エンタテインメント(2004-04-02)
販売元:Amazon.co.jp

山崎豊子さんの「大地の子」でも、主人公の陸一心が、中国の文化大革命時代に日本人の子供ということで、スパイ容疑をかけられ、内モンゴル自治区の労働改造所に送られる場面があった。

大地の子 1 父二人 [DVD]大地の子 1 父二人 [DVD]
出演:仲代達矢
NHKエンタープライズ(2002-09-06)
販売元:Amazon.co.jp

今回中国共産党中央委員会総書記に就任した習近平氏も、父の習仲勲国務院副総理が文化大革命中に反動勢力として吊るし上げられたことから、1969年から7年間陝西省に下放され、洞窟で暮らしていたことが報じらている。



陳凱歌さんは1952年生まれ。映画監督の父とシナリオライターの母との間に生まれた。陳さんの母は裕福な家庭の出身で、アメリカ系のミッションスクールを出たが、日本軍が攻めてきたときに破産してしまったという。その後陳さんの母の両親と兄弟は台湾に移り、陳さんの母のみが大陸に残され、2度と両親に会うことはなかった。


陳さんの育った時代

1958年からの大躍進時代に続く1960年から62年にかけての大飢饉で、中国では2−3千万人、つまりオーストラリアの人口の2千万人以上が餓死した。1959年にはソ連と断交し、1962年にはインドとの国境紛争が起こり、1964年にフルシチョフ書記長が失脚した年に中国は核実験を成功させた。陳さんが育った時代は、このように中国が自主独立路線を歩み始めた時代だ。


文化大革命の始まり

陳さんは、1965年9月に北京の四中に入学した。大学進学率90%を誇る有名校で、党の高級幹部の子弟が多く含まれていたという。

1966年5月7日に毛沢東は、後に「5.7指示」と呼ばれる文化大革命の指示を出す。これに呼応して大学生、中学生が紅衛兵となって、「反動主義者」を吊るし上げ、集団リンチを加えた。共産主義では本来許されない個人崇拝が広まり、学生たちは「毛主席の良い子供になる」ことを目指した。

1966年7月29日、小平、周恩来、劉少奇の党首脳は、数十万人の大学生、中学生を前に演説を始め、最後に毛沢東が登場し、集会はクライマックスを迎え、それから町に軍服を着た中学生・大学生の紅衛兵があふれた。

北京四中の教師は頭を半分剃られ、メガネを割られ、首から下げた看板に書いた名前は×印で消されていたという。


破壊の限りを尽くす

「天地をひっくり返し、嵐のような波風を巻き起こして、大いにひっかきまわせ。そうやって、ブルジョア階級を眠れないようにし、プロレタリア階級も眠れないようにするのだ」というのが毛沢東の指令を受けた林彪の指示だったという。

寺院、孔子廟、キリスト教会を破壊し、北京には一切宗教的な建物はなくなった。北京市は築800年の城壁に囲まれていたが、城壁は紅衛兵たちに完全に破壊され何も残らなかった。

筆者の好きな北京ダックの名店「全聚徳」は、看板を壊され、「人民メニュー」を作らせられた。

髪が長すぎるとみられた男女はハサミで髪を切られた。細すぎるスラックスは切り裂かれ、ハイヒールのかかとは折られた。


陳さんは父親を攻撃

陳さんの父親は、若いころ国民党員だったことがあり、この過去が陳さんにも影響を与えてきた。陳さんは父親を憎むようになった。陳さんのお父さんは、「国民党分子、歴史的反革命、網に漏れた右派」として罵倒され、陳さん自身もお父さんを突き飛ばした。陳さんは14歳だった。翌日陳さんのお父さんは連行されていった。

数年後陳さんが下放された雲南省から帰省した時に、ボロをまとい、歯の抜け落ちた老人が学校の便所掃除をしていた。それが50歳になった陳さんのお父さんだったという。


陳さんの自宅も略奪される

陳さんの家は級友による家宅捜索を受け、衣装タンスは壊され、服は引き裂かれ、本は毛沢東のものなど一部を除き、すべて燃やされた。目覚まし時計やカメラなど金目のものは持ち去られ、頭痛薬まで見逃さなかった。

級友たちは破壊し尽くした後、陳さんと握手して立ち去ったという。数百万の家がおなじように略奪を受けた。紅衛兵自身の家もすべて略奪をうけた。共産党幹部、劉少奇や彭徳懐元帥も例外ではなかった。殴り倒され、ケガをさせられた。


文革の犠牲者は多い

「地主」や「資本家」とみなされたものは、もっと悲惨だった。ガラスの破片の上に座らされ、ちょっとでも動くと殴る蹴るの暴行を受け、殴り殺されたものもいた。陳さんも紅衛兵の軍服を着て、赤い腕章をつけて北京市内を自転車でまわった。人を殴ったこともある。

陳さんの友人の父親の元・石炭工業相は、頭を丸刈りにされ、全身に傷を負い、死ぬ直前に息子に会って、「お前は長男だ。しっかりしろ」と言って、数日後に亡くなった。毛沢東と周恩来に手紙を書いて無実を訴え、生涯信じた仕事に悔いはないという遺書が残っていたという。

今も共産党の考えで法律は変更されるので同じ傾向があるが、文革中には法律は存在しなかった。拷問を受け無理やり自供させられ、私設法廷で裁かれて処刑されていった。高いビルから落として、自殺とみせかけて犯行をごまかすといったことが平気に行われていた。

「人民芸術家」とされていた文豪の老舎は、京劇の衣装を焼かれ、重傷を負わされ、みずから北京の太平湖公園で湖に身を投げた。陳さんは死の直前老舎と出会ったという。

文豪老舎の生涯―義和団運動に生まれ、文革に死す (中公新書)文豪老舎の生涯―義和団運動に生まれ、文革に死す (中公新書)
著者:舒 乙
中央公論社(1995-01)
販売元:Amazon.co.jp

駱駝祥子―らくだのシアンツ (岩波文庫)駱駝祥子―らくだのシアンツ (岩波文庫)
著者:老 舎
岩波書店(1980-12-16)
販売元:Amazon.co.jp


雲南省シーサンパンナに下放

1969年の春、陳さんは雲南省の山奥の山林に下放された。17歳だった。労働改造中の父親はホームまで見送りに来て、陳さんは父親の涙を初めて見たという。

雲南のシーサンパンナのタイ族の村で、森林開発に従事した。野焼きして原生林を焼き払い、戦略物資のゴムの栽培をしていたが、結局うまくいかなかったという。

下放された女学生が発狂し、掘立小屋で乞食のように住んでいた話や、上海から来た16歳の知識青年が木の下敷きになって死亡した話が語られている。

陳さんはバスケットボールがうまかったので、1971年に軍のバスケットボールチームにリクルートされ、部隊はラオスに移動する。公然の秘密だったが、ベトナム戦争に中国軍が参加していたのだ。ラオスで爆撃跡の復旧作業を担当し、1975年除隊して北京に復員する。


北京で出発点に戻る

北京映画現像所で空調を取り扱う労働者となり、毛沢東が亡くなると、北京映画学院の監督科に入学する。1975年ー78年の入学者には、その後の中国のあらゆる部門の逸材を輩出しているという。習近平も1975年に精華大学に入学している。下放された1,000万人を超える知識青年たちが、都会に戻ってきて、出発点に戻ったのだ。

陳さんは、北京映画学院を卒業後、広西省と陝西省西安の映画撮影所で数本の映画を制作し、その後1987年に1年間映画の講義をするために米国に行き、そのままニューヨークに滞在して映画制作に取り組んでいる。

この本もニューヨークで日本での出版用に書き下ろしたものだ。

この本を読んでいて、中国は昔から変わらないとつくづく思う。

同じことのぶり返しで、最近の共産党幹部の汚職や日系企業・日本車をターゲットにした攻撃を見ていると、「アラブの春」のように、民衆の怒りが共産党に向かう日も近いのではないかという気がする。

文化大革命は毛沢東が指導した権力闘争だった。反日デモには毛沢東の肖像画を掲げる民衆の姿が放映されていた。このままいくと毛沢東崇拝が復活し、違う形での文化大革命の再来となるかもしれない。

最近では「中国は崩壊する」や、「中国大分裂」などセンセーショナルなタイトルの本が日本で多く出版されている。

2014年、中国は崩壊する (扶桑社新書)2014年、中国は崩壊する (扶桑社新書)
著者:宇田川 敬介
扶桑社(2012-06-01)
販売元:Amazon.co.jp

中国大分裂 改革開放路線の終焉と反動中国大分裂 改革開放路線の終焉と反動
著者:長谷川 慶太郎
実業之日本社(2012-07-12)
販売元:Amazon.co.jp

中国が崩壊した場合、日本も無傷ではないだろうが、共産党の一党独裁が永遠に続くこともありえないだろう。

文革時代を描いてはいるが、同じことがまた起こりそうな懸念を抱かせる本である。


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2012年11月24日

陳凱歌監督のドラマ 「北京パイオリン」を見た 

北京バイオリン DVD-BOX1北京バイオリン DVD-BOX1
出演:リュウ・ペイチー
マクザム(2007-09-28)
販売元:Amazon.co.jp

次に紹介する「私の紅衛兵時代」を書いた中国を代表する陳凱歌(チェン・カイコー)監督の代表作「北京パイオリン」のテレビ・ドラマ版を見た。

NHKで放送されたので、日本ではNHKエンタープライズがDVDを販売している。

映画は次のジャケットで、配役もお父さん役のリュイウ・ペイチー以外はドラマとは異なる。

北京ヴァイオリン 特別プレミアム版 [DVD]北京ヴァイオリン 特別プレミアム版 [DVD]
出演:タン・ユン
ジェネオン エンタテインメント(2004-04-02)
販売元:Amazon.co.jp

中国のテレビドラマを見るのは初めてだが、画質も良いし、服装もダサいところもない。結構洗練されているという印象を受けた。

元々2時間ほどの映画を18時間程度(45分X24話)のテレビドラマにしただけに、映画にはないエンターテインメント的な挿話もある。

テレビドラマは芸術総監督が陳凱歌、演出(実質上のドラマの監督)が夢継(モン・ジー)という布陣で、DVDの第5巻の特別映像では夢継が映画をテレビ・ドラマに仕立てた時の、原作者の陳凱歌監督とのエピソードなどを語っている。

映画のあらすじは詳しくは紹介しない。

養子であることを知らずに父(リュウ・ペイチー)に育てられた劉小春(リュウ・チャオチュン)が、天性の才能を発揮して北京のコンクールに優勝し、才能を開花させるという誰もが予想できるサクセスストーリーだ。

しかし、ひと癖もふた癖もあるリュウ・ペイチー演じる父親・劉成(リュウ・チェン)に加え、親しくなった友人の女優・莉莉(リーリー)や女たらしの司会者・鐘阿輝(ジョン・アフェイ)、音楽教育の第一人者といわれる余(ユー)教授など、周りを固める俳優の持ち味が面白い。

主人公の少年役の嘉央桑珠(ジャーヤン・サンジュ)がジャニーズ系の顔だちながら、今一つ垢抜けないのはご愛嬌といったところか。

余教授役の俳優は北大路欣也に似ている。次のビデオでも最後の方に登場する。



上記のコンクールの優勝発表の場面でも出てくる友人の女優莉莉(牛莉)は中国の代表的女優のようだ。



友人の司会者役の程前(チェン・チエン)も、手八丁口八丁の味をだしていて面白い。

どんでん返しの結末が、ほとんどの登場人物を一人二役にしているようなイージーな印象を受けるが、楽しめる。

全部見ると18時間と長いが、時間を忘れて楽しめるドラマである。


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2012年11月20日

ジャパン・ハンド 米国の知日派とは

ジャパン・ハンド (文春新書)ジャパン・ハンド (文春新書)
著者:春原 剛
文藝春秋(2006-11)
販売元:Amazon.co.jp

以前紹介した日経・CSISシンポジウムのアーミテージ・ナイ鼎談で、日経新聞編集委員の春原 剛(すのはら つよし)さんの進行役が手際よかったので、著書を何冊か読んでみた。

春原さんは、1961年生まれ。コロンビア大学ジャーナリズム大学院で学んだ。日経のワシントン支局勤務の他に、米国のCSISの客員研究員として1年間、超党派のシンクタンクのヘンリー・スティムソン・センターの東アジアプログラムの短期研究員として勤務した経験を持つ。ちなみに小泉進次郎も、CSISの客員研究員として在籍した経験がある。

「日中もし戦わば」は、出版社が売らんがためにエキセントリックなタイトルをつけた感じで、あまり得るところがなかったが、共和党のリチャード・アーミテージ、マイケル・グリーン、民主党のジョセフ・ナイ、カート・キャンベルなどについて書いた「ジャパン・ハンド」は参考になった。

日中もし戦わば (文春新書)日中もし戦わば (文春新書)
著者:マイケル・グリーン 張 宇燕 春原 剛 富坂 聰
文藝春秋(2011-12-15)
販売元:Amazon.co.jp

米国で対日関係にかかわった知日派(ジャパン・ハンド)は次の3つのグループに分類できるという。

1.国務省で日本語を専門とし、日本研究に取り組んだキャリア外交官
俗に「菊クラブ」と呼ばれる。国務省で2年間日本語研修を積み、日本に駐在経験を持つ外交官。トーマス・ハバード、ラスト・デミング、宮沢喜一元首相の娘婿のクリストファー・ラフルアーなどだ。戦前の駐日日本大使で、日本の真の友人と呼ばれるジョセフ・グルーが「菊クラブ」の草分け的存在だ。

グルー―真の日本の友 (ミネルヴァ日本評伝選)グルー―真の日本の友 (ミネルヴァ日本評伝選)
著者:廣部 泉
ミネルヴァ書房(2011-05-06)
販売元:Amazon.co.jp

クルーは1902年にハーバード大学を卒業、1904年に国務省に入り、エジプト、メキシコ、ロシア、ドイツの大使館勤務を経て、1924年から5年間国務次官として勤務。その後トルコ大使を経て、1932年に駐日大使となっている。

日米開戦を回避すべく努力を続けるが、1942年に交換船で無念の帰国をしている。帰国後も親日派として活動し、1944年12月には国務次官に返り咲き、日本の天皇制存続や穏当な対日政策を主張し、まさに「真の日本の友」といえる存在である。

2.ハーバード大学で日本学の権威として知られ、のちに駐日大使となったエドウィン・ライシャワーに代表される学界関係者
コロンビア大学のジェラルド・カーティス、ハーバードのエズラ・ボーゲルなどが代表的人物だ。

ライシャワーは自伝をはじめ、日本についての本をいくつも書いている。

ザ・ジャパニーズ―日本人 (1979年)ザ・ジャパニーズ―日本人 (1979年)
著者:エドウィン・O.ライシャワー
文藝春秋(1979-06)
販売元:Amazon.co.jp

ライシャワーの奥さんのハルさんも本を書いており、ハルさんについて書いた本もある。

絹と武士
著者:ハル・松方 ライシャワー
文藝春秋(1987-10)
販売元:Amazon.co.jp

ハル・ライシャワー (講談社プラスアルファ文庫)ハル・ライシャワー (講談社プラスアルファ文庫)
著者:上坂 冬子
講談社(1999-02)
販売元:Amazon.co.jp

エズラ・ボーゲルは1980年に出版されて大変話題になった"Japan as No. 1"の著者だ。

ジャパン・アズ・ナンバーワンジャパン・アズ・ナンバーワン
著者:エズラ・F. ヴォーゲル
阪急コミュニケーションズ(2004-12)
販売元:Amazon.co.jp

もっとも"No. 1"といっても、日本が世界一の大国になるという意味ではなく、副題の"Lessons for America"、つまり日本に学ぼうという趣旨の本だ。

この本はアメリカでも大変な反響を巻き起こし、日本研究が盛んになった。

ジェラルド・カーティスは日本とのかかわりあい45年という日本の政治研究の専門家だ。

政治と秋刀魚 日本と暮らして四五年政治と秋刀魚 日本と暮らして四五年
著者:ジェラルド・カーティス
日経BP社(2008-04-10)
販売元:Amazon.co.jp

マイケル・グリーン元大統領補佐官(1961年生まれ)も、ジョンズ・ホプキンス大学博士課程を卒業し、もともとはアカデミズムの系譜を継ぐ人材とされている。

マイケル・グリーンは静岡県の高校で英語を教え、東大で学び、椎名素夫代議士の秘書となり、日本の防衛政策に関する論文で博士号を取った日本研究の専門家だ。ジョージW.ブッシュ政権の時に、2005年まで大統領補佐官としてNSCのメンバーだった。現在はCSIS上級副所長で、アジア・日本部長をつとめている。

日本語が堪能で、先日のシンポジウムでは、自民党の林芳正参議院議員が、ロムニーに会ったら、グリーンさんをホワイトハウスで使うようにアドバイスするとジョークを言ったら、「ほめ殺し」ありがとうと言っていた。


3.官僚・学会いずれにも属さない個性派集団
存在感の大きい元国務副長官のリチャード・アーミテージの名前をとって「アーミテージ・スクール」と呼ばれる。ジム・ケリー元国務次官補、トーケル・パターソン元大統領補佐官、ロビン・サコダ元国防総省日本部長らがいる。

アーミテージは米国海軍将校だった時に、佐世保での船舶修理で修理にあたった日本人技術者たちと一緒に飲みに行き、それから日本びいきになったという。

アーミテージ・ナイ緊急提言ということで、「尖閣、尖閣、尖閣、オレたちをなめるんじゃないぞ!」という中国に対して刺激的な帯がついた本を出している。

日米同盟vs.中国・北朝鮮 (文春新書)日米同盟vs.中国・北朝鮮 (文春新書)
著者:リチャード・L・アーミテージ
文藝春秋(2010-12-15)
販売元:Amazon.co.jp

ジョセフ・グルーが「真の日本の友」なら、それの継承者ともいうべき存在だ。

マイケル・グリーン、アーミテージは共和党だ。日米関係については慢性的な「人材不足」が指摘されている民主党の知日派の代表が、現・国務次官補、東アジア・大洋州担当のカート・キャンベルだ。キャンベルは、クリントン政権時代に国防副次官補となり、普天間の変換問題や、在日米軍の縮小などを担当した。

キャンベルはハーバード大学出身。元々はロシア問題の専門家だったが、冷戦終了とともにやることがなくなっていたところを、ハーバード出身の先輩ナイがクリントン政権の国防次官補になった時に、国防副次官補としてペンタゴンに呼ばれた。

この時、キャンベルはマイケル・グリーンのところに相談に行き、グリーンの言葉を何から何までノートにとって必死に理解・吸収しようとしていたという。

普天間返還問題、テポドン発射問題、日本独自スパイ衛星導入など、キャンベルはたぐいまれな行動力と理解力で、対日政策を事実上一人で切り盛りするようになる。

ナイはキャンベルのことを「自分が見抜いた通り、見事に開花した」と評しているという。

この第3グループの知日派は、偶然が積み重なって知日派となった人ばかりで、その意味では第2.第3のアーミテージを見出すことは難しい。

この本の文末のアーミテージ、トーマス・シーファー前駐日大使、ブルース・ライト在日米軍司令官のインタビューの中でアーミテージは、「多くの人が『なぜ、それほどまでにあなたは日本が好きなのか』と聞いてくるが、私はいつも『なぜなら、私は合衆国が好きだからだ。今、日米同盟を維持することが、我々の利益になっているのだ』と答えることにしている。」という。

日本が"Power Projection"能力(敵基地攻撃能力)を持つことの必要性についてもアーミテージは語っている。

「かつて海部首相が掃海艇をペルシャ湾に派遣した時、自衛艦に『軍艦マーチ』を演奏させなかった。彼らが帰還した時に、それを演奏したのは米国の第7艦隊だった。(中略)あれ以来、多くのことが変わった。自衛隊はイラクのサマワに派遣され、日本は国際社会の『完全な市民』になった。今こそ日本は対外攻撃能力を開発する時ではないかと自分には思える」

有名になった"Show the flag"(戦列に参加しろ)や、"Boots on the ground"(兵員を派遣しろ)といったことを語ったアーミテージらしい発言だ。

この本では1995年と2006年の2回に行った米国政府関係者、約40名への日米関係についての記名式アンケート調査の内容を、「日本か、それとも中国か」というタイトルで、1章にわたって紹介しており興味深い。


将来の知日派を生み出すJET制度

1987年から日本政府が行っているJET(Japan Exchange and Teaching Program)制度を利用して日本に英語教師として滞在し、日本の文化を学んだ米国の学生は、累計で15,000人を超える。

2005年度は、米国が約3,000人、イギリス900人、カナダ800人、オーストラリア400人、ニュージーランド300人といった内訳だ。

このJET世代が、将来の知日派を生み出す宝庫となっていくだろう。


2006年の本だが、「ジャパン・ハンド」自体はあまりメンバーも変わっていない。CSISに客員研究員として務めた経験もある春原さんだけに、参考になる情報が満載の本である。


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2012年11月18日

Steve Jobs Special スティーブ・ジョブスと11人の証言

Steve Jobs Special ジョブズと11人の証言Steve Jobs Special ジョブズと11人の証言
著者:NHKスペシャル取材班
講談社(2012-09-27)
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ステーィブ・ジョブスを特集した「NHKスペシャル」の取材班が、スティーブ・ジョブスを取り巻く11人の知人にインタビューした内容を公開した本。テレビ番組だと時間の都合でカットせざるを得なかった部分を公開している。

最初に国谷キャスターのスティーブ・ジョブスへのインタビューが掲載されており、そのあとに次の11人のインタビュー内容が紹介されている。

1.スティーブ・ウォズニアック(アップルの共同創業者)

2.ダニエル・コトケ(リード・カレッジの同級生でアップル創成期の社員。スティーブとインドを4か月間一緒に旅行)

3.ビル・フェルナンデス(アップル創成期のエンジニア。ユーザーインターフェースアーキテクト。ウォズとスティーブを引き合わせる)

4.ラリー・テスラー(元ゼロックスパロアルト研究所所員でスティーブにGUIを見せる。アップルに転職)

5.リッチ・ペイジ(初期のアップル・フェローの一人。モトローラのマイクロプロセッサーを搭載した開発にかかわり、スティーブと一緒にNeXTへ転職)

6.ジョン・スカリー(スティーブを追い出した元アップルCEO。ペプシコCEOの時に、スティーブから「一生砂糖水を売り続けたいのか?それとも、私と一緒に来て世界を変えたくはないか?」と口説かれた)

7.福田尚久(アップル日本と本社に勤務した)
8・前刀禎明(さきとうよしあき)ライブドア創業者。元アップルジャパン社長

9.ダグ・キットラウス(アップルに買収された音声認識ソフトのSiri共同創設者)

10.ウォルター・アイザックソン(「Steve Jobs」伝記作家)

11.孫正義


現実歪曲フィールド

ウォズニアックは、「現実歪曲フィールド」とは、「どんな無理なことでも、現実を曲げてでも実現させてしまう」というスティーブの性格を表したもので、スティーブが言いだすと、全く現実的でない彼の意見に賛同してしまったり、実際に彼の言った通りになってしまうことだという。

スティーブがビジョンを説得力を持ってプレゼンすると、不思議に実現できそうに思えてくる。これが「現実歪曲フィールド」の力だ。

実際に、起動システムの担当者に「10秒早めてほしい」と伝え、担当者が無理だと言い張ると、「もし君の努力で、人の命が救えるとしたらどうだい?」(数百万人が10秒ずつ短縮できれば、一生分以上の時間が短縮できる)と呼びかけ、わずか数週間で20秒短縮できたという。


スティーブの尊敬していた人

スティーブの尊敬していた人は、ボブ・ディランガンジーアインシュタインエジソンだった。それゆえ、IBM PCに対抗するアップルのThink Different」の広告ができたのだ。



ゼロックスの種をアップルが木に変えた

ゼロックスのパロアルト研究所がGUIやマウスを開発し、それを見たスティーブが衝撃を受けて、アップルが製品として開発した。

アップルはゼロックスのアイデアの「種」を様々な機能を加えることで使いやすくして、「木」に変えたのだと。


戻ってきたスティーブは優秀な経営者に成長

スティーブはいったん、アップルから追い出されるが、アップルがNeXTを買収したので、アップルに戻ってきた。

アップルに戻ったスティーブは、去った時とは全く違う優秀な経営者になっていたという。


今回インタビューにも登場するウォルター・アイザックソンが書いたスティーブの公式伝記はだいぶ前に読んだが、まだあらすじをアップしていない。

スティーブ・ジョブズ Iスティーブ・ジョブズ I
著者:ウォルター・アイザックソン
講談社(2011-10-25)
販売元:Amazon.co.jp
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スティーブ・ジョブズ IIスティーブ・ジョブズ II
著者:ウォルター・アイザックソン
講談社(2011-11-02)
販売元:Amazon.co.jp
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大変興味深い本だった。時間を見つけて、こちらのあらすじもいずれアップする。


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2012年11月16日

下町ロケット やっぱりベストセラー小説はバツグンに面白い!

下町ロケット下町ロケット
著者:池井戸 潤
小学館(2010-11-24)
販売元:Amazon.co.jp
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なにかの本に紹介されていたので読んでみた。

いままで池井戸さんの小説は読んだことがなかったが、他の池井戸作品も読んでみようと思わせる出来の作品だ。抜群に面白い。

2010年出版の本だが、いまだに人気があるようだ。町田図書館では41冊蔵書があるにもかかわらず、20人が予約待ちの状態だ。

いつも通り小説のあらすじは詳しく紹介しない。

東京都大田区の町工場街にある、佃製作所の社長の佃航平は、元・宇宙航空科学開発機構(JAXA)のロケット開発主任だったが、宇宙ロケット打ち上げ失敗の責任を取って、実家の町工場を継ぐ。

実家の町工場では小型エンジン用のバルブを製造していたが、大口客先との取引を失って赤字転落した上に、大手メーカーから特許侵害による巨額の損害賠償訴訟を起こされ、先行き不安になっていたところ、運よく特許訴訟のエクスパートの弁護士が見つかる。

弁護士のアドバイスで、今まで取得していた特許の周辺特許まですべて抑えるという特許戦略に転換すると、思わぬ大魚が釣れる。

日本の宇宙開発を代表する「帝国重工」の宇宙ロケット開発部隊だった。帝国重工は自社開発のバルブの特許を申請したところ、佃製作所の特許があるために特許が認められなかったのだ。

ロケットはバルブを多数使用する。佃製作所の特許がないと帝国重工は世界の宇宙ロケット開発競争で優位に立てないことがわかった。

帝国重工の財前宇宙航空部宇宙開発グループ部長は赤字経営の佃製作所に乗り込み、バルブの特許を20億円で買いたいと持ちかけるが…。

「佃品質、佃プライド」を合言葉に、自社部品を供給してロケットを飛ばすという夢を実現したい佃と、ライセンス料を払ってキーコンポーネントは内製したい帝国重工のせめぎ合い。

佃の製品にケチをつけて、あわよくば不合格にしたい帝国重工の監査チームに、佃の元銀行員の財務責任者が通告する。

「なにか勘違いされていませんか、田村さん」、「そんな契約などなくても、我々は一向に困ることはありません。どうぞ、お引き取りください」…

町工場の職人が手作業でつくる部品は、大手メーカーの機械でつくる製品よりはるかに品質が勝っていた。ところが、思わぬことが起こる…。

この小説はWOWWOWでドラマ化されている。映画化に適した作品だ。

池井戸さんが自ら語っているビデオがYouTubeで公開されている。自分は登場人物全員になりかわって、感情移入して書いているのだと。主な登場人物のプロフィールなども紹介されている。



大変楽しめる是非おすすめしたい本である。


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2012年11月14日

大富豪アニキの教え 成功哲学の基本はみな同じ 「本気でぶっちぎる」のみ

大富豪アニキの教え大富豪アニキの教え
著者:兄貴(丸尾孝俊)
ダイヤモンド社(2012-06-22)
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バリ島に住む関西弁の日本人大富豪に、うだつの上がらない年収295万円のサラリーマンの鈴木一郎(いっちゃん)が数度にわたって教えを乞うという寓話のような本。99%実話だという。「大富豪アニキ」のサイトもあり、こちらに主要な教えが紹介されているので、参照願いたい。

アニキを呼ばれる丸尾孝俊さんは、ホームページやFacebookアカウントも持っている。

アニキは母と離別し、家が貧しくて中卒で”アンパイ”と考えていた自衛隊を受験したが、不合格だったので看板屋の丁稚として働き、夜や土日は副業で稼ぎ、ふとしたことからバリ島で担保に取った不動産が高く売れ、不動産業など30あまりの会社を持ち、5,000人余りを雇う大富豪となったという経歴の持ち主だという。

この本の帯には「やばいで、オレ人生を変えるとんでもない秘密をバラしてしもうた」というアニキの口癖が載っている。

この本の教えは単純に言うと「必死のパッチ」(必死でということ。パッチはももひき。単に強調語として使い、意味はない)で、「本気でぶっちぎる」ことができれば、生まれつき持っている才能やお金に関係なく、誰でも成功できるということだ。

たとえば暴走族のOBは社長になったヤツがいっぱいいるという。普通の会社に就職難しいので、自分で独立して社長をやらなければならなかったという事情もあるが、「本気が炸裂!」、「根性が強烈!」なのだと。

以前紹介した「夢をかなえるゾウ」と似たような感じだが、「夢をかなえるゾウ」の方ファンタジックながらも成功法則の具体策が多く紹介されており、このアニキの方はもっと基礎的な心構え編というところだ。

アマゾンのカスタマーレビューでは、「『夢をかなえるゾウ』の『ガネーシャ』のモデルらしいですが」と書いている人が多いが、真偽のほどはわからない。

夢をかなえるゾウ 文庫版夢をかなえるゾウ 文庫版
著者:水野敬也
飛鳥新社(2011-05-20)
販売元:Amazon.co.jp
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アニキの教えはシンプルだ。次のアニキの言葉に集約されている。


一日14時間働く

「いろいろな『成功法則』とか呼ばれとるものがあるかもしれんけど、結局な、『本気でぶっちぎる』ことができたら、生まれつき持っている才能やお金に関係なくな、誰でも成功できるんやで」

だから「リミッター」をはずせと。一日14時間、週7日間働くのだと


年がら年中仕事のことについて考える

そして年がら年中仕事のことについて考える

「『誰も見ていないところで、その仕事について思い入れている時間を長く持つこと』を繰り返すと、『工夫』がたくさんできるようになる。そうするともっと良い仕事ができて、もっと仕事が増えて、だから、たくさん稼げるようになる。」

といった具合だ。

マンガ家の手塚治虫も、『仕事に思い入れている時間』が長かったという。しょっちゅう徹夜して、平均睡眠時間は4時間、息を引き取る最後の言葉が、「となりの部屋へ行くんだ。仕事をする。仕事をさせてくれ。」だったという。だからマンガの神様と言われるようになったのだ。


あきらめないで、一所懸命(一生懸命ではない)

『天職』は、仕事を選んだ時点ではわからない。5年から10年本気で仕事を続けてみて、ようやくわかるものだと。アニキは転職するかどうかでフラフラしているいっちゃんに今の仕事に集中して取り組むようにアドバイスする。

ハリー・ポッターシリーズを書いたJ.K.ローリングは、昔は教師をやっていたが、夫と離婚して娘を連れて家を出て、生活保護を受けて暮らしていた。

5年間かけて「ハリー・ポッター」を書き上げたが、どこの出版社も長すぎるとして取り上げなかった。たまたまブルームズベリー出版の編集者が8歳の娘に読ませたら、『お父さん、これ、ごっつい、面白いよ!』というので、出版したら全世界で4億部売れ、J.K.ローリングはあっというまに大富豪になった。

ハリー・ポッターシリーズ全巻セットハリー・ポッターシリーズ全巻セット
著者:J. K. ローリング
静山社(2008-07-23)
販売元:Amazon.co.jp
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生活保護を受けているシングルマザーだったのに、あきらめずに5年間小説を書き続けた。その結果として、大富豪になれたのだ。


「縁つなぎ」が成功の秘訣

トップセールスマンと呼ばれる人は、親身になって「縁つなぎ(紹介)」をする。医者の紹介を頼まれれば、名医を紹介し、進学に悩んでいる人には学習塾を紹介するなど、車とは関係のないことでも世話を焼く。

「相手を自分ごとのように大切にする心」を持って、相手のために行動を起こすことで、「つながり=ご縁・絆」が生まれる。

そうやって「与え続ける」ことによって「神様預金」をため、いずれ、どこからか、誰かから、必ず返ってくる。

だから、毎回「ボーボー(意味はない強調語)『ご縁つなぎ』をやっている人」のもとに、後々大きな話がやってくるのだと。


継続こそ力

いっちゃんが学んだアニキの教えで、最も重要なことは、「アニキの教え」を継続することだ。継続することが最も難しい。

アマゾンのカスタマーレビューでは、★一つのレーティングで「これはバリ島やオンラインでの成功法則セミナーへ誘導するためのフロントエンド商品の一つです。(集客および個人情報収集が主な目的)」というようなことを書いている人がいる。

たとえそうであっても、そのセミナーでアニキの教えに従ってやる気になり、一日14時間働き、常に仕事のことを考え、相手のことを思って「縁つなぎ」すれば、成功の確率は上がると思う。

別にアニキの肩を持つわけではないが、きっかけは何でもよいのだ。だから「成功セミナーのフロントエンド商品です」と決めつける必要はないと思う。

前回紹介したノーベル賞を受賞した山中教授が恩師のUCSF(カリフォルニア大学サンフランシスコ校)のグラッドストーン研究所のメーリー所長から学んだこともVW(ビジョン&ワークハード)だ。

山中伸弥先生に、人生とiPS細胞について聞いてみた山中伸弥先生に、人生とiPS細胞について聞いてみた
著者:山中 伸弥
講談社(2012-10-11)
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当たり前のことしか書いていないが、当たり前のことを継続するのが難しく、それゆえ、こういう本が人気が出るのだと思う。

成功の道筋は同じなのだ。このブログで紹介した松下幸之助の言葉を元側近の江口克彦さんがまとめた「成功の法則」で、松下幸之助は次のように言っている。

「きみなあ、成功の道というものは、いろいろの行き方があるけどね。でも結局のところ、おおむね同じじゃないかと思う。多少の違いはあっても、成功の道すじ、軌道というのは、だいたいにおいて決まっている。いわば共通性があるということや」

成功の法則―松下幸之助はなぜ成功したのか (PHP文庫)成功の法則―松下幸之助はなぜ成功したのか (PHP文庫)
著者:江口 克彦
PHP研究所(2000-12)
販売元:Amazon.co.jp
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異論がある人もいるかもしれないが、人生を変える何かのきっかけが欲しい人には良い本だと思う。


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2012年11月12日

山中伸弥先生に、人生とiPS細胞について聞いてみた ノーベル賞受賞直後の自伝

山中伸弥先生に、人生とiPS細胞について聞いてみた山中伸弥先生に、人生とiPS細胞について聞いてみた
著者:山中 伸弥
講談社(2012-10-11)
販売元:Amazon.co.jp
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山中教授のノーベル賞受賞決定直後に出版された本。本の帯には「唯一の自伝」となっている。出版社は実にタイミングの良い出版を考えるものだ。この本は現在売り上げランキングの50位前後にある。

出版とほぼ同じタイミングで図書館で予約して、さっそく読んでみた。

このブログでは、山中教授とノーベル物理学賞受賞者の益川教授の対談の「大発見の思考法」のあらすじを紹介している。「大発見の思考法」は、あらすじのタイトルに記したように”ノーベル賞受賞者の知性のジャムセッション”そのもので、大変面白かったが、この本も自伝ならではの発見がある。

「大発見の思考法」のあらすじでは、他に2冊の本も読んで、iPS細胞がどういうものなのかもふくめて詳しくあらすじを紹介しているので、参照して欲しい。

「大発見」の思考法 (文春新書)「大発見」の思考法 (文春新書)
著者:山中 伸弥
文藝春秋(2011-01-19)
販売元:Amazon.co.jp
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この本は「大発見の思考法」では触れていないiPS細胞研究上の様々な試み、決して順調ではなかった山中教授のいままでの研究生活、それと山中教授と一緒に研究してきた仲間などについて山中教授自身が書いている。

たぶん山中教授の話をライターがまとめたのだと思うが、英語の会話すら、こんな感じで大阪弁訳になっている。

「シンヤ、シンヤ」

「どないしたん?」

「あんたのマウスがいっぱい妊娠してんねん」

「そりゃ、妊娠くらいするやろ」

「いや、妊娠してんのはオスのマウスやねん」

これはマウスにコレステロールを下げる遺伝子の働きを強める操作をしたところ、その遺伝子ががん遺伝子で、マウスが肝臓がんになって肝臓が膨れ上がってしまったのだ。

第2部はフリーライターとのインタビューで、第1部が140ページ、第2部が50ページという構成だ。

いくつか印象に残った話を紹介しておく。

山中教授の生い立ちや、「人生塞翁が馬」というモットーを持つに至った、決して順調でない研究生活については「大発見の思考法」のあらすじを参照してほしい。


ノックアウトマウスに魅了(ノックアウト)される

山中さんはのノックアウトマウスの精度の高さに魅了されたという。

ノックアウトマウスは、25億の塩基対(2本のDNA結合)のうち、わずか1個の遺伝子だけつぶす技術だ。

文字数にたとえると、この本の1ページ当たりの文字数が600個なので、25億個だと416万ページ、つまり200ページの本が2万冊以上となる。それだけの本の中から、たった一か所を探し出して黒く塗りつぶしたのがノックアウトマウスなのだ。

iPS細胞発見も、ノックアウトマウスをつくった技術員の一阪さんと、後述の徳澤さんの貢献が大きい。


VWとプレゼン力

山中教授がしばしば口にするVWとは、フォルクス・ワーゲンではなく、山中教授の恩師のUCSFグラッドストーン研究所のロバート・メーリー所長の言葉だ。Vision & Work Hardだという。メーリー所長は「VWさえ実行すれば、君たちは必ず成功する。」と言っていたという。

VWと並んで、山中教授が強調するのは、プレゼン技術だ。アメリカ留学で身に着けたプレゼン力が、その後何度も山中教授を救った。

奈良先端大学で、上に教授のいない研究室主宰者としてはじめて独立したラボを持てることになったときも、VWにならって、ES細胞ができれば、どれだけ素晴らしいことができるかというビジョンをプレゼンに織り込んで、3人の大学院生を獲得したという。

それが現在も山中教授のもとで働く高橋和利講師、4つの遺伝子のうち一つのKlf4を見つけた徳澤佳美さんら3人だった。

高橋さんは、24個にまで絞った遺伝子から初期化に必要な遺伝子4個を特定するのに、大変功績があった。山中さんは、高橋さんのとりあえず24個いっぺんに入れて、一つ一つ減らしていくという発想に、「ほんまはこいつ賢いんちゃうか?」と思ったという。高橋さんはこの考え方をもとに、1年かけてきちんと実験し、4個の遺伝子を見つけた。


京都の作り方

この本ではiPS細胞の働きを説明するのに、「京都の作り方」という本があったと仮定して説明している。作業員に指示するときに、「京都の作り方」の一部だけコピーして渡すのか、全部コピーして、必要な場所にしおりを入れて渡すのかという問題だ。

どちらが正しいか論争があったが、山中教授が生まれた1962年にイギリスのジョン・ガードン教授がカエルの腸の細胞から、オタマジャクシを作ることに成功して、論争に決着をつけた。成体のカエルまでは成長できなかったが、ちゃんとオタマジャクシは作ることができたのだ。

これが山中教授が、「ガードン教授の研究がなければ、iPS細胞研究はなかった。ガードン教授と一緒にノーベル賞を受賞できることがなによりもうれしい」と語っている理由だ。


山中教授がPADを克服するのに役立った本

山中教授が、アメリカ留学から帰って来て、あまりの研究環境の違いに、うつのようになり、ベッドから起き上がれなくなったという話は、「大発見の発想法」で説明していたが、その状態を山中教授はPAD(Post America Depression)と呼んでいる。

そのPADを克服するのに役立った本として次の本を紹介している。

仕事は楽しいかね?仕事は楽しいかね?
著者:デイル ドーテン
きこ書房(2001-12)
販売元:Amazon.co.jp
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今度読んでみる。


CiRA(京都大学iPS細胞研究所)はオープンラボ

山中教授が所長を務めるCiRA(サイラ:京都大学iPS細胞研究所)は米国グラッドストーン研究所をモデルとして、オープンラボ形式になっている。

実験スペースは共用で、研究室に仕切りはなく、教授室もラボとは別に横に並んでいる。高性能の装置をみんなで使うという考え方だ。


最後にiPS細胞の一日も早い医療応用のための、iPS細胞研究基金への支援を呼びかけて、この本は終わっている。山中教授自身も大阪や京都のマラソン大会に出場し、基金への支援を呼びかけているという。

ノーベル賞受賞後の記者会見の「私は無名の研究者だった。国に支えていただかなければ、受賞はできなかった。日本という国が受賞した。」という発言にも感心した。「大発見の思考法」のあらすじでも書いたように、山中教授の謙虚さには敬服する。



この本でも一緒に研究にあたった高橋講師や徳澤さん、ノックアウトマウスをつくった技術員の一阪さんなどの同僚の名前と具体的な貢献を紹介して感謝しており、ノーベル賞を共同受賞したガードン博士はじめ先達や、競争相手のウィスコンシン大学チームなどの業績も紹介している。

なんて気配りができる研究者なんだ!

200ページ余りの本で、簡単に読める。「大発見の思考法」と一緒に読むことをおすすめする。


参考になれば投票ボタンをクリック願いたい。





  
Posted by yaori at 12:41Comments(0)TrackBack(0)

2012年11月05日

福島第1事故検証プロジェクト 最終報告書 大前研一の中立的報告書

原発再稼働「最後の条件」: 「福島第一」事故検証プロジェクト 最終報告書原発再稼働「最後の条件」: 「福島第一」事故検証プロジェクト 最終報告書
著者:大前 研一
小学館(2012-07-25)
販売元:Amazon.co.jp
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元原子炉設計者の大前研一さんが、福島第1原発事故の真相を自費でまとめた検証報告書。

自費といっても、事前に細野豪志原発担当相に相談して賛同を得て、細野さんの口添えで東京電力、日本動燃、日立GEニュークリア・エナジー、東芝などの技術者に大前さんが質問して資料提供を受け、それを大前アンド・アソシエーツパートナーの柴田巌さんが取りまとめるという手順を踏んでおり、調査の緻密さには驚く。

元原子炉設計者の大前さんならではの内容である。

細野大臣はこの報告書をボランタリーな「セカンド・オピニオン」として大変ありがたいと共同記者会見で語っている。

大前さんはこの調査のために、事故検証チームH2Oを2011年6月に立ち上げ、2011年10月28日に細野原発担当大臣に報告書を手渡すとともに、一緒に記者会見を行った。この内容がYouTubeで公開されている。



マスコミが全く報道しないので、ほとんど知られていないが、大前さんは報告書をYouTubeで公開し、事務局長の柴田巌さんとともに2時間にわたり骨子を解説している。



中間報告書最終報告書ビジネスブレークスルーのPRページに公開されており、全編ダウンロードできるようになっている。

さらに世界の原子炉技術者が福島の事故から学べるようにという気持ちを込めて、大前さんは英語でも中間報告書最終報告書の要約版を公表している。

また上記のYouTubeの映像は2012年3月に英語の字幕が追加されている。画面右下の四角の「字幕」ボタンをクリックすると、ボタンの色が赤に変わり、英語と日本語の字幕が表示できる。

YouTubeには多言語翻訳機能もついている。英語や日本語の字幕を他の言語の字幕にも機械翻訳できるようになっているので、世界の技術者に知ってもらうという意味では、YouTubeの字幕機能は大変便利だと思う。

この本では公開されている最終報告書の主要部分と、追加で大飯第3,4号機の安全対策検証と視聴者からの質問に答えている。上記ウェブサイトで公開されている報告書では詳細なデータが満載されているので、中間報告書で186ページ、最終報告書で290ページある。

この本も175ページあるが、しろうと向けに整理されているので、この本の方が読みやすいと思う。この本の目次は次の通りだ。

第1章 地震と津波は原発にどんなダメージを与えたのか?

第2章 福島第1原発はどのようにして過酷事故に至ったか?

第3章 メルトダウンした原子炉と生き残った原子炉の分かれ道

第4章 福島第一事故からどんな教訓が得られるのか?

第5章 今後はどんなアクシデント・マネジメント体制が必要か?

    枝野官房長官の国民へのメッセージを検証

第6章 再稼働した大飯原発3、4号機の安全対策を検証する

第7章 なぜ福島第一原発1号機だけが事故の進展が早かったのか?

おわりに 福島の惨事から学んだ貴重な課題をいかさないまま終わっていいのか?

冒頭で紹介したYouTubeの細野大臣との共同記者会見で、この報告書の概要を大前さんが説明しており、福島第1原発の事故の根本原因は天災ではなく、人災であると結論付けている。

今回の福島第1原発の1〜4号機で事故が起こり、5〜6号機や他の東北地方の原発では冷温停止まで持って行けた差は、全電源の喪失に尽きる。それを比較したのが次の表だ。

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出典:本書82ページ

原発は交流電源喪失の場合は、ディーゼル自家発電機を備えていたが、肝心のディーゼル発電機は水冷式だったので、津波では流されなかったものの、冷却用の海水取り入れ装置が津波で機能しなかったため、冷却ができず発電できなかった。

福島第1の5号機、6号機が冷温停止できたのは、唯一残ったディーゼル発電機が空冷式だったことから、それを使って両方に電力を供給し、なんとか冷温停止ができたのだ。

このような事態に陥ったのは、原発の設計指針として政府がそれまで出していた「安全指針」で、”長期間にわたる全交流動力電源喪失は、送電線の復旧又は非常用交流電源設備の修復が期待できるので、考慮する必要はない”としていたことが根本原因だ。

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出典:本書116ページ

つまり国の原発の設計方針が、今回のような全電源喪失という事態を想定しなくてよいとしていたから、原発の設計者が全電源喪失といった事態を設計の際に考慮していなかったのだ。

そんな環境の中で、福島第1原発の現場はよくやったと、大前さんは記者会見の最後で高く評価している。

また、共同記者会見では大前さんは、原発の設計は「確率論ではダメ」と語っていた。10メートルを超す津波は1,000年に一回だからとかいった理由で、確率を原発の設計に織り込んではならないと大前さんは語る。

どんな事態が起こるかわからないので、未知の事態が起こっても対応できるような設計とすべきだという。

大前さんは、原発存廃の是非は国民が判断すべきことであるが、今後日本で原発を新設することはたぶんできないと思うが、再生エネルギーはまだまだコストも高く、原発をすぐに代替できるほど供給力がない。

したがって、現在ある原発は寿命の30年間は操業して、30年後には原発をゼロにするというのが現実的な解決策だと大前さんは語っている。

その考えに基づいて、福島第1原発事故から得られた教訓を忠実に学ぶべきであり、「日本のエネルギーの未来」を考えるうえでの一助として本書を書いたのだと。

そして福島の二の舞を絶対に演じないために、取るべき対策を次の通り提案している。

1.電源の確保

2.冷却機能の確保

3.制御室機能の確保

4.ベント機能の確保

5.水素爆発の防止

6.アクシデント・マネジメントの整備

7.インフラの強化など

大飯原発3,4号機は、これらの対策を適切に導入し、非常時に備え、休日や夜間も訓練をしていることが紹介されている。

大飯原発の現場でも真剣に安全対策に取り組んでいることがよくわかる。

大飯原発は敷地の中に活断層があるかもしれないということで、原子力規制委員会が調査しており、活断層があれば原発をすぐに停止すべきと主張している学者もいるので、先行きが気になるところである。

公開されている報告書もあるが、中間報告書や最終報告書はボリュームがあるので、
まずは次のYouTubeの大前さんのまとめ(12分)を見るか、中間報告書のまとめ(37ページ)を読んでから、この本を読むことをお薦めする。



筆者はこの本を図書館で借りて読んでから買った。日本国民として福島第1原発の事故を正確に知っておく必要があると考えたからだ。

今後のスケジュールについては、東電の「中長期ロードマップ」を紹介し、福島第1原発については、これから燃料デブリの取り出しや、核廃棄物処理の完了まで30〜40年掛ることを説明している。

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出典:本書20ページ

大前さんは、地震発生直後からYouTubeで情報発信するなど、福島原発事故については、大変参考になる活動をしてきた。



大前さんの活動の集大成として価値ある報告書だと思う。


参考になれば投票ボタンをクリック願いたい。


  
Posted by yaori at 00:25Comments(0)TrackBack(0)