2013年05月30日

米韓FTAの真実 TPPの正しい理解に役立つ韓国の事情

TPPの正しい議論にかかせない米韓FTAの真実TPPの正しい議論にかかせない米韓FTAの真実
著者:高安雄一
学文社(2012-11-22)
販売元:Amazon.co.jp

TPP交渉への日本の参加が正式決定した。

TPPに関しては、「考えてみよう!TPPのこと」というサイト、「現代農業絵ときTPP反対」など、様々な反対論が出ているが、中には誤解に基づくものもある。

このブログで紹介した「隣の国の真実」など韓国に関する著書が多い高安雄一さんが、米韓FTA批判への韓国政府の反論を紹介することで、日本のTPP論議での同様の誤解に回答している。

隣りの国の真実 韓国・北朝鮮篇隣りの国の真実 韓国・北朝鮮篇
著者:高安雄一
日経BP社(2012-11-22)
販売元:Amazon.co.jp

ちなみに「みんなの党」のホームページでも「TPP反対論に対する反対論」を公開している。

最初にTPPの論議で、なぜ米韓FTAを題材として取り上げたかの説明をしている。TPPとFTAは次の表のように、非常に似通った内容の条約だ。

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出典:本書2ページ

また日本と韓国とは農業の国際競争力がなく、貿易立国であるという意味で、経済構造が似ているので、韓国の例が日本の参考にもなる。


韓国はFTA先進国

韓国がFTA先進国であることはよく知られている。この本で紹介する米韓FTAのほかに、EUともFTAを結んでいるので、工業製品の関税については、日本と比べると韓国製品の方が圧倒的に有利なポジションにいる。


対米国貿易      日本製品に対する関税率    韓国製品に対する関税率

自動車        2.5%                    0%
トラック        25%                     0%
カラーテレビ     5%                      0%

対EU貿易      
乗用車        10%                     0%
薄型テレビ      14%                     0%
液晶モニター     14%                     0%
電子レンジ      5%                      0%

これが日本もTPPに加盟して、「バスに乗り遅れるな」という根拠となっている韓国製品との競争力の差だ。

TPPでもよく言われる問題の整理をいくつか紹介しておく。


ISDS(Investor-State Dispute Settlement)条項

★アメリカ企業は日本政府を提訴できるが、日本企業はアメリカ政府を提訴できない?
これは条約がそのまま国内でも効力がある国と、条約を履行するために国内法が必要な国の差だ。

つまりアメリカは条約がそのまま国内では効力がない。外国企業はFTAなりTPPなりの条約を根拠としては提訴できない。

しかし、アメリカは条約を履行するための国内法を作っているので、その法律を根拠にアメリカ政府を訴えることができる。

★国際仲裁機関はアメリカ寄り?
国際仲裁機関で裁定が終わった200件余りのうち、投資家勝訴は30%。しかし公開されていない和解をあわせると推定60%を超えているといわれており、必ずしも国家有利ではない。

国際投資紛争解決センターは世界銀行の下部組織だが、世銀総裁は裁定には関与しない。裁定者は紛争当事者から各1名、双方が合意した第三者1名である。アメリカ寄りという事実はない。

★アメリカ企業による濫訴
アメリカ企業が提訴するケースは相対的に多い。しかし、法制度が未整備の国を提訴するケースが多く、法制度が整備している国が提訴されるリスクは少ない。


食の安全と農業

★ラチェット条項は「毒素条項」でBSE(狂牛病)が発生しても禁止措置を取れない

「ラチェット条項」とは、一度開放された水準は、いかなる場合でも反自由化の方向には戻せないというものだ。しかし「ラチェット条項」は投資、国境間のサービス貿易、金融サービスの一部にしか適用されない。

★未来最恵国待遇で、将来米国より高い水準の市場開放を別の国と合意すると、米国も同じ待遇にしなければならない?
未来最恵国待遇も、投資、サービス貿易のみに適用され、物品貿易には適用されない。

★農業壊滅 コメは守ったが、畜産などその他の農産品は関税撤廃で壊滅する?
たしかに牛肉をはじめ自由化される農産品の生産額は減少するという試算があるが、韓国では牛肉の生産量は増加している。

国産牛を好むという消費者のトレンドが国産品増加の要因で、自由化による生産減少を国産品選好が上回ることが予想される。

日本でも同じことが起こった。BSEによる輸入禁止期間もあったが、日本における輸入牛肉のシェアは一定に留まっているのが実情だ。

その他、次の様な誤解・疑問点についても丁寧に説明している。

★国のエネルギー政策が崩壊する

★国民皆保険が崩壊する

★金融市場が国際資本の草刈り場になる

★ジェネリック薬品が製造不可になる

★著作権侵害が非親告罪になり、誰でも告訴できる

★著作権の保護期間が70年に延びて、一般利用者に負担が掛る


FTAもTPPもほぼ同様の分野についての交渉となるので、米韓FTAについての考察が参考になる。正しいTPP/FTA理解に役立つ本である。


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2013年05月27日

マイナンバーがやってくる マイナンバー導入対策ガイドブック

2013年5月27日追記:

マイナンバー法が参議院本会議で可決され、5月24日に成立した。いよいよ日本でも2016年1月スタートで個人番号制度が実施されることになる。

一部の記述と資料をアップデートして「マイナンバーがやってくる」のあらすじを再掲する。


2013年3月5日追記:

安倍内閣で、通称「マイナンバー法」が3月1日に閣議決定された。既に自民党、公明党、民主党の3党が合意しているので、国会に提出されて、すみやかに成立することが見込まれる。

表などをアップデートしたので、再掲する。

なお、マイナンバーの配布時期は2015年中、利用開始は2016年1月からと、当初の案より1年遅れとなる見込みだ(消費税が10%となるのは、2015年10月から)。


2012年12月20日初掲載:



2012年8月に成立した消費税増税法案に基づく徴税と低所得者対策の「給付付き税額控除」、それと年金などの基盤となる個人番号・通称マイナンバーの導入対策ガイドブック。

マイナンバー法案は2012年2月に国会に提出されたが、政治の空転により審議されずに今に至っている。消費税は2014年4月から8%、2015年10月から10%に引き上げられるので、税と社会保障を支えるマイナンバーは、2012年年度中には成立させておく必要がある。

マイナンバーの導入スケジュールは次の通りとなっている。2016年1月からの運用開始に先立ち、2015年末までにマイナンバーが全国民と全法人に通知される予定になっている。

マイナンバーschedule





出典:内閣府 法案概要資料4ページ

米国の社会保障番号(Social Security Number)は民間企業が名寄せに使えるが、マイナンバーは民間企業の利用は禁止されている。将来の利用として今後議論されることになる。

マイナンバーが使われるのは社会保障、税金、そして健康情報の管理に当面は限定されるが、それでもマイナンバーが導入されることで、行政のムダがかなり削減されるだろう。

次がマイナンバーを利用する概念図だ。

総務省マイナンバー制度説明





出典:総務省資料

こうしてみると国民にとってたいしてメリットないように思えるが、いままで政府が縦割り行政のもとに、バラバラに徴税、社会保障、健康保険、生活保護などを運用してきたものが同一本人を特定して実施できる。

社会保険庁時代の5,000万件の「消えた年金」問題はじめ、日本では共通番号制度がないための弊害が数々生じてきた。こんなことはマイナンバー制度の元では絶対に起こり得ない。

国民にとっては、いままで別々の役所の窓口に申請しなければならなかったことでも、1か所の窓口でできるようになる。また、自ら申請しなければ受けられなかった給付が、将来は役所から自動的に「プッシュ型」で提供されるということも可能になるという。

一枚の個人番号カードが年金手帳、いずれは健康保険証にも使えるので、利便性もあがることが期待される。


もちろん所得税などの捕捉率もあがる。正しく申告している人にはまったく影響がないが、所得隠しが難しくなるので、公平性という意味では良いと思う。

マイナンバーのシステム構成図は次の図を参照してほしい。

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出典:本書108ページ

マイナンバーは一人に一つだが、利用するそれぞれの官庁では、個別の識別符号で管理することにより、すべての個人情報を特定の省庁の役人が名寄せすることを防ぐようになっている。

逆に、本人はインターネット上で提供される「マイポータル」で、自分の個人番号をどこの官庁が使ったか、利用状況をチェックできることになる。

個人情報の適切な取扱を担保するための仕組みとして、「特定個人情報保護委員会」(上記資料では「個人番号情報保護委員会」となっている)が、政府から独立した組織として設立される。

これは1995年の「EUデータ保護指令」により、EUから日本への個人情報の移送が禁止されていることを解消するための布石だろう。

マイナンバーでカバーされる分野で国に関するものは次の通りだ。

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出典:本書110ページ

地方公共団体でマイナンバーを利用する業務は結構多い。

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出典:本書169ー170ページ

マイナンバーを整備・維持するための費用は次の通り見積もられている。

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出典:本書24ページ

上記は2011年10月の政府の見積もりで、ICカードでなく、紙の仮カードに変えたり、クラウドサービスなどを利用すると費用は圧縮できると思われる。

いわゆる「消えた年金」問題で、年金記録を照合するためのコストが2009年度に106億円、2010年度に427億円、2011年度736億円、2012年度も660億円費やされている。4年間で2,000億円もの巨額の予算が投じられているのだ。

マイナンバーを導入すれば、このような人手で年金記録を照合するという無駄な作業は、今後は発生しない。

法律が成立していないので、確定的なことは言えないが、元々三党合意があるので、自民党内閣となれば、すみやかにマイナンバー法は審議にかけられ、2012年度中には予算決定されることになるだろう。

企業のマイナンバー利用は前述のように禁止されている。

本人確認の手段としては使えるが、マイナンバーを使っての名寄せはできないという運用になる。

総務省マイナンバー利用






出典:総務省資料 16ページ

一方、税務と社会保障の関係で、企業も法人番号が付与され、社員の個人番号を登録して、納税記録に記載しなければならない。だから企業にとっては、マイナンバーは自社では利用できないのに、納税と社会保障の関係でシステム変更を余儀なくされて、費用だけが掛かるということになる。

マイナンバーメモ






出典:総務省資料(企業関連部分を追加)

住民基本台帳カードはわずか4%、650万人にしか普及していないのに対し、マイナンバーは最初から全国民分の紙の仮カードが送付され、希望者のみICカードに変更できるという形でスタートすることが予想される。

5,000万人分の年金が消え、上記のように2,000億円かけて年金記録を再調査しているが、いまだに2,000万人の年金記録が不整合のままだという。

マイナンバーが導入されれば、少なくともこのような先進国にあるまじき事態は防止できる。

企業にはマイナンバー導入のためにシステム改変等の費用がかかり、以前のY2K(西暦2000年問題)のようなシステム改編ブームが起こるかもしれない。

なお、医療関係でもマイナンバーの利用が当初より検討課題に挙げられている。

医療分野では2012年9月に厚生労働省が設立したワーキンググループが「医療等分野における情報の利活用と保護のための環境整備のあり方に関する報告書」を出しており、マイナンバーとは異なる「医療等ID(仮称)」という別の仕組みを作るべきだと答申している。

医療等IDまとめ_ページ_2





出典:社会保障分野サブワーキングループ報告

図がなくて、文字ばかりの報告書で読みづらい。

要は医療関係の情報の流れは次の様になっており、税金や社会保障用のマイナンバーとは性質が異なる。

医療情報は万が一漏れると、本人に取り返しの出来ないダメージを与える恐れがあるものもあるので(たとえば病歴等)、マイナンバーのインフラは共用することも検討可能ではあるが、別の「医療等ID」や「医療カード」を導入すべきだという答申だ。

医療等IDまとめ_ページ_1






出典:「医療等分野における主な情報のながれ」(全55ページの報告書)


マイナンバーが導入されるとどういった影響があるのか、わかりやすく解説しているガイドブックで参考になった。

この本を購入するかはともかく、上記で出典として紹介した総務省の資料は目を通しておくことをおすすめする。


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2013年05月24日

エネルギー論争の盲点 エネルギーを考える上で必要な基礎知識

エネルギー論争の盲点―天然ガスと分散化が日本を救う (NHK出版新書 356)エネルギー論争の盲点―天然ガスと分散化が日本を救う (NHK出版新書 356)
著者:石井 彰
NHK出版(2011-07-07)
販売元:Amazon.co.jp

日経新聞記者を経て、石油公団で資源開発に携わった石井彰さんの本。石井さんは、現在はエネルギー・環境問題研究所所長で、JOGMEC(石油天然ガス・金属鉱物資源機構)特別顧問となっている。

サブタイトルにあるように天然ガス活用と、コジェネレーションや燃料電池を含めたエネルギー源の分散を提唱している。

アマゾンの「なか見!検索」に対応しているので、まずはここをクリックして目次を見てほしい。章や節のタイトルだけでなく、セクションの題も載っているすぐれた目次である。目次だけ見ても本の概要が大体わかるだろう。

…と書いたら、いつの間にか「なか見!検索」では目次は表示されなくなった。残念だ。

章と節のタイトルだけ次に記しておく。

第1章  エネルギー問題がなぜ重要なのか
 第1節 エネルギーとは何か
 第2節 エネルギーは人命を守る
 第3節 エネルギーがつくった文明史
 
第2章  技術革新の陰に化石燃料あり
 第1節 化石燃料はなぜ近代化を促したのか
 第2節 石油はなぜチャンピオンになったのか
 第3節 エントロピーから考えるエネルギーと文明の関係

第3章  虚飾にまみれたエネルギー論争
 第1節 エネルギー論争のウソ
 第2節 コストで比較する原子力と再生可能エネルギー
 第3節 二元論者の奇妙な相似

第4章  知られざる天然ガスの実力
 第1節 「天然ガス後進国」ニッポン
 第2節 葬られたガス・パイプライン計画
 第3節 国際的にすすむ天然ガス革命

第5章  21世紀型の省エネとエネルギー安全保障
 第1節 省エネの盲点
 第2節 コジェネレーションの可能性
 第3節 原子力代替は天然ガス+再生可能エネルギーで
 第4節 エネルギーの安全保障

参考になったポイントを紹介しておく。

★巨大な黒部第4ダムでも発電量はガス火力発電所の半分しかない。
映画「黒部の太陽」の舞台となった巨大な黒部第4ダムでも最大出力は33万KWで、天然ガス火力発電所の1系列よりも小さい。


福島第一原子力発電所の能力は1〜6号機合計で約500万KWあった。原子力発電所や火力発電所のなかには、1か所で1000万KWくらいの出力があるものもあるので、水力発電の比率は今後とも低下していくだろう。

ちなみに三井物産が最近発表したブラジルの流れ込み式水力発電所は、完成時には375万KWの能力だ。建設コストは8,000億円と言われている。

★「石油はもうすぐ枯渇する」のウソ
1970年代には「石油はあと30年で枯渇する」という議論が一世を風靡した。筆者も学生の時にローマクラブの「成長の限界」を読んだ。

成長の限界―ローマ・クラブ「人類の危機」レポート成長の限界―ローマ・クラブ「人類の危機」レポート
著者:ドネラ H.メドウズ
ダイヤモンド社(1972-05)
販売元:Amazon.co.jp

今は、現在の生産量と価格であれば、100年位くらいは生産可能な資源が存在していると言われている。

天然ガスについては、シェールガス革命もあり、現在の生産量でもあと400年は生産可能だ。石炭についても数百年分の生産が可能な資源がある。

★省エネ家電はエネルギー問題の解決にはならない
日本の全エネルギーのうち、電力の占める割合は25%程度だ。そして家庭で直接使用する電力は全電力消費の3割以下。だから家庭で使用する電力は日本の全エネルギーの1割程度だ。

省エネ家電はエネルギー節約にはなるが、これがエネルギー問題を解決することにはならない。

★CO2排出量では発電方式も要チェック
同一エネルギー出力に対するCO2排出量だと次のような順番となっている。

石炭>石油>天然ガス>天然ガス・コンバインドサイクル

コンバインドサイクル発電とは、まず化石燃料でガスタービンを回して発電し、発生した高温の排気をボイラーで蒸気タービンに送ってもう一度発電するものだ。

★太陽光発電の能力と稼働率のギャップは大きい
日本では、太陽光発電はカタログ発電能力のせいぜい11〜12%くらいしか発電できない。日照時間が足りないからだ。砂漠でも昼間や好天の日しか発電できないので、稼働率は20%程度だという。

大規模太陽光発電所の発電能力が何千世帯とかいっているのは、ほとんどの場合「夏至の日の快晴の場合の瞬間最大発電能力」にすぎないという。

★新規発電所の電源別コスト比較
次がこの本で引用されている米国エネルギー省エネルギー情報局の2009年のエネルギー白書の資料だ。

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出典:本書123ページ

エネルギー情報局はエネルギー省傘下ではあるが、エネルギー長官の指示は受けないことになっている独立の機関だ。

★ドイツの太陽光発電は発電全体の1〜2%
ドイツの発電の16%は再生可能エネルギーとなっているが、2割は水力発電、風力が4割、バイオマスが3割で、太陽光発電は1割以下だ。

ドイツの場合、フランスから電力を輸入できるので、自国の原子力発電をなくしても、EU全体の原子力発電依存度はあまり変わらない。フランスの電力は大半が原子力発電だからだ。

★カリフォルニアのモハベ砂漠の世界最大のメガ・ソーラー発電所の発電能力は10万KW
カリフォルニアのモハベ砂漠で計画されている世界最大のメガ・ソーラー発電所の最大出力は40万KWとされているが、砂漠であっても太陽光発電の稼働率は2割程度なので、実質的には10万KWの発電能力しかない。

これは通常の天然ガスコンバインドサイクル発電機1系列の1/4の発電能力だ。おまけに、砂漠から需要地までの送電ロスが大きく、仮に3,000キロとすると、使用可能電力は半分となってしまう。

★ヒトラーの対ソ開戦は、合成石油増産不調が原因
このブログの「大気を変える錬金術」のあらすじでも紹介したナチスドイツの合成石油生産のことが、この本でも紹介されている。

大気を変える錬金術――ハーバー、ボッシュと化学の世紀大気を変える錬金術――ハーバー、ボッシュと化学の世紀
著者:トーマス・ヘイガー
みすず書房(2010-05-21)
販売元:Amazon.co.jp

ヒトラーは原油生産コストの5倍から10倍のコストをかけて、IGファルベンのロイナ工場などで合成石油を生産させていたが、大増産計画目標は達成できなかった。

1939年9月のドイツのポーランド侵攻を見て、ソ連は1939年11月末にフィンランドを占領すべく攻め入ったが、小国のフィンランドを屈服させることができなかった。

翌1940年3月に停戦してフィンランド領土を10%のみ獲得することにとどまった(冬戦争)。このフィンランド戦争でのソ連軍の弱体ぶりを見て、ヒトラーは対ソ開戦を決め、ソ連の石油を確保しようとしたのだという。

フィンランド防衛戦で活躍したのが、500人以上を狙撃したという「白い死神」と呼ばれた天才狙撃手シモ・ヘイヘだ。シモ・ヘイヘについては、次の本を最近読んだ。

白い死神白い死神
著者:ペトリ サルヤネン
アルファポリス(2012-03)
販売元:Amazon.co.jp

フィンランドは、1941年6月に独ソ戦が開始した後、枢軸国側についてソ連との戦争を再開し、一時は冬戦争で奪われた領土を奪還した。継続戦争は1944年まで続いた(継続戦争)。しかし、奪われた領土は、結局再度ソ連に取り戻されるという結果となった。

★日本のガスは元々石炭から製造していた
ガスのことが「天然ガス」と呼ばれるのは、日本のガスは元々石炭から製造していたからだ。天然ガスは無色無臭で、都市ガス用に供給するときは、においをつけておく。

日本の都市ガス配給網は国土面積でわずか5%で、それ以外はプロパンガス等である。天然ガスを液化させるには、マイナス162度という超低温が必要だが、プロパンガスは圧力を加えれば、常温でも液化する。

だから一般家庭用などは、ブタンガスと炭素成分の多いプロパンガスをまぜてLPGとして広く流通しているのだ。

★日本の一次エネルギーに占める天然ガスの比率は15%と低
ドイツなどEU諸国は25%、英国やイタリアは40%、米国も25%、ロシアでは50%だという。

ロシアのエネルギーバランス
energy balance Russia





日本のエネルギーバランス
energy balance Japan





世界のエネルギーバランス
energy balance world







★サハリンガス・パイプライン計画は電力会社の反対で葬られた
サハリンから需要地の日本までは2,000キロと近く、パイプラインが経済的に建設できる距離だ。

しかし日本の電力会社はLNGによる輸出に固執して、サハリン・ガスパイプライン計画を葬った。

将来電力自由化になると、パイプラインの途中で多くの自家発電所や独立発電所が建設され、自らの競争力が脅かされることを恐れたからだ。

こういった政治的な事情のない中国や韓国ではすでにガスパイプラインによりガスを輸入したり、国内に流通させている。

★廃熱を利用するコジェネレーション
森ビルの六本木ヒルズは、東京ガスとの合弁で地下に4万KWのコジェネの自家発電を持っており、ビルで消費する電気と冷暖房の熱をすべてまかなっている。

東日本大震災の時は、東電にも余剰電力を販売した。このような廃熱を利用できるコジェネのエネルギー利用効率は90%と極めて高い。

★家庭用燃料電池
都市ガスを原料とする家庭用燃料電池も発電効率が40%前後と高い。「エネ・ファーム」の商品名で販売され、補助金ももらえる。




石井さんは、チャーチルの言葉を引用して「供給安全保障の要諦は、一に多様化、二に多様化、三に多様化」だと結論づけている。この言葉は、第一次世界大戦前に海軍大臣となったチャーチルが、軍艦の燃料を石炭から石油への転換を推進した時のものだ。

最後に次のようなスマート・コミュニティの概念図を紹介している。

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出典:本書205ページ

エネルギー全体については、あらすじをまだ紹介していないがダニエル・ヤーギンの「探究」が良くまとまっている。

探求――エネルギーの世紀(上)探求――エネルギーの世紀(上)
著者:ダニエル・ヤーギン
日本経済新聞出版社(2012-04-03)
販売元:Amazon.co.jp

ヤーギンの本はそれぞれのエネルギーの歴史まで詳述した上・下900ページの大作だ。

石井さんの本は新書でも必要なポイントを抑え、よくまとまっている。

人類が動物との生存競争に打ち勝ったのは、加熱調理のためだと石井さんは語る。

さらに農業革命と産業革命でエネルギーを自由に利用できるようになって、人類の人口は爆発的に増加した。また、冷暖房が普及し、生活環境は格段に良くなって死亡率が低下し、寿命も飛躍的に延びた。

そんなエネルギーの歴史もふまえて、エネルギーを考える上で必要な基礎知識がわかる本である。


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2013年05月22日

いいひと賞 なぜか引き込まれない人物紹介コラム秀作集

いいひと賞いいひと賞
著者:朝日新聞いいひと賞選考委員会
講談社(2010-03-26)
販売元:Amazon.co.jp

朝日新聞朝刊2面に、ほぼ毎日掲載されている名物コラムの「ひと」から、その月の最優秀作を集めた本。

以前紹介した「作文の技術」で、著者の外岡秀俊さんが、「ひと」から、よくできた作文例として連続20回以上TOEIC満点を達成し、ひきこもりから英語教師となった海外旅行経験ゼロの「イングリッシュ・モンスター」さんなどのコラムを紹介していたので、興味を惹かれて読んでみた。

イングリッシュ・モンスターの新TOEICテスト最強勉強法イングリッシュ・モンスターの新TOEICテスト最強勉強法
著者:菊池健彦
泰文堂(2011-07-15)
販売元:Amazon.co.jp

「いいひと賞」は、「ひと」コラムで、その月の最優秀作を書いた記者に送られる賞だ。

選考委員会のメンバーは、座長がシニアライターで政治記者経験が長い早野透・コラムニスト。紙面委員が司会をして、政治、経済、社会・地域報道、国際報道、生活、科学医療、スポーツ、文化、BE編集、編集センター、校閲センターの11グループのデスクたち(おおむね40代なかば)の13人。

事前に推薦作品をだし、委員会ではそれぞれが推薦理由を話す。


「いいひと賞」選考基準

選考基準は次のようなものだという。

1.書き出しは魅力的か(定型すぎないか?奇をてらいすぎていないか?)

2.取り上げた人物の本質が読者に伝わるエピソードがふんだんに盛り込まれているか

3.文章にテンポがあるか

4.業界用語のような、やたら難しい言葉をしたり顔で使っていないか

5.いちいち前に戻って確認しなければならないような引っかかりはないか

6.締めに余韻が残っているか

7.取り上げた人物は旬のひとか

8.いやに誉め過ぎていないか


心を打つ「いいひと」は一人も登場しない

この本の構成は次のようになっている。

いいひと賞 2009年1〜12月

いいひと賞 2007年1月〜2008年12月

いいひと賞 2005年1月〜2006年12月

いい文賞  2009年1月〜12月

原稿用紙2枚くらいの短いコラムで、スペースが限られていることもあるが、この本を見て、どれも画一的な「つくり」となっているという印象を受けた。

「いい人」を事務的に紹介しているような印象だ。

筆者は読んで感動するような「いいひと」を期待していたのだが、はっきり言って、心を打つ「いいひと」は一人も登場しない。

もしこのような作品に「いいひと賞」が与えられているのなら、単に記者の職業訓練のための賞ではないかという気がする。


いい文章のために深代惇郎さんを研究

最近、「いい文章」の研究のために、朝日新聞で名文家と言われた深代惇郎(ふかしろじゅんろう)さんの「旅立つ」や、追悼作品の「記者ふたり世界の街角から」を読んでみた。

旅立つ (1981年)
著者:深代 惇郎
ダイヤモンド社(1981-11)
販売元:Amazon.co.jp

記者ふたり 世界の街角から (朝日文庫)記者ふたり 世界の街角から (朝日文庫)
著者:深代 惇郎
朝日新聞社(1985-04)
販売元:Amazon.co.jp

そのなかで「作文の技術」でも頻繁に登場する朝日新聞の名文記者・疋田桂一郎さんの発言が紹介されている。

疋田さんが、記者仲間の集まりで、「長い間、上手い文を書こう、いい文章を書こうと思ってやってきたが、このごろ、そういう自分がいやだね。」と言っていたという。

深代さんは「あのときの話、このごろよく解るよ。」と言っていたという。

これを読んで、筆者はわかったような気がする。

文章は読者に著者の思いや感動を伝えることが、目的ではないのか?

朝日新聞の記者は「いいひと」を「いい文」で、きれいに描こうとするあまり、基本のところ、つまり相手に感動を与えることを忘れているのではないかと思う。

こんなことなら、しろうとが書いた文でも、思いのたけを込めて書けば、新聞記者が書いた事務的なコラムより、よっぽど感動を与えるのではないかと思う。


心を打つ「いい文賞」作品

もちろん原稿用紙2枚という制限があることも、きれいにまとめた文章ばかりになる原因だろう。その証拠に、この本の「いい文賞」の部分の作品は、感動を与えたり、なるほどと納得する作品がある。

たとえば、次のような作品だ。

★兄の形見「ぼく使う」阪神大震災から13年たったランドセル「ぼろくてもいいねん」

★ホームレス歌人さん、連絡求ム 昨年末、朝日歌壇に 経歴一切不明 ほぼ毎週入選 

★(文化特捜隊)ピアノ入門でバイエル離れ

★つらい思い 詠んで忘れる 「朝日歌壇」に投稿して半世紀、福岡の大塚さん

★(週刊首都圏)結婚式に「親友」も派遣 代役ビジネスが人気


ノンフィクションライターの野村進さんがスゴイ

「いい文章」の研究では、次に紹介するフリーランスのノンフィクションライター・野村進さんの「調べる技術・書く技術」には感動した。

調べる技術・書く技術 (講談社現代新書 1940)調べる技術・書く技術 (講談社現代新書 1940)
著者:野村 進
講談社(2008-04-18)
販売元:Amazon.co.jp

例文として紹介されている「歌舞伎俳優・市川笑也(えみや) 大部屋の『玉三郎二世』」や、5人の中学生の集団自殺を取り上げた「五人の少女はなぜ飛び降りたか」を読んでみたら、「いいひと賞」で取り上げられている話など、ぶっとんでしまう。

「心」がこもった文とはどういうものか、考えさせられるとことが多かった本である。


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2013年05月20日

アベノミクスで日本経済大躍進がやってくる 高橋洋一さんの近著

アベノミクスで日本経済大躍進がやってくる (現代ビジネスブック)アベノミクスで日本経済大躍進がやってくる (現代ビジネスブック)
著者:高橋 洋一
講談社(2013-03-28)
販売元:Amazon.co.jp

このブログで紹介した「日本経済の真相」「さらば財務省!」の著者、高橋洋一嘉悦大学教授の最新作。

2013年3月に出版されたばかりなので最新の話題も織り込んでいるが、基本的には「日本経済の真相」、さらには2008年の「この金融政策が日本を救う」と同じ路線である。

日本経済の真相日本経済の真相
著者:高橋 洋一
中経出版(2012-02-15)
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俗説を列挙して、論評を加えるスタイルも「日本経済の真相」と同じスタイルである。

アベノミクスの道筋は、大胆な金融緩和でインフレ予想がでてくれば、円安と株高になり、1〜2年内に消費、輸出、設備投資が増えて景気回復、雇用増加につながる。2年半程度で貸出も増え、インフレ率が高まってさらに実需がでて、賃金上昇につながるというものだ。

これが経済学のスタンダードな理論であると高橋さんは語る。

現在のアベノミクスを支える理論的基盤を与えているのは、日銀副総裁に就任した岩田規久男さんが率いていた「昭和恐慌研究会」のメンバーだ。この研究会は、2004年に「昭和恐慌の研究」という本を出して、日経・経済図書文化賞を受賞している。

昭和恐慌の研究昭和恐慌の研究
著者:岩田 規久男
東洋経済新報社(2004-03-19)
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岩田さんは高橋さんの都立小石川高校の先輩という関係にある。

高橋さんがプリンストン大学留学から帰国した時に、岩田さんの「昭和恐慌研究会」に招かれて、プリンストンでバーナンキ経済学部長やクルーグマン教授などが、どんな議論をしているのかを説明し、それから研究会に参加するようになったという。

クルーグマンは、「日本の金融政策はアブノーマルだからおもしろい」と言っていたという。クルーグマンは1998年に日銀はインフレ・ターゲット政策を採用すべきだという論文を書いている。

15年も前に、世界的に有名な経済学者がインフレ・ターゲットの採用を日銀に提起していたのだ。

バーナンキも、「自ら機能マヒに陥った日本の金融政策」という論文も書いているという。


大恐慌を終息させた金融政策

大恐慌が終息したのは、ルーズベルトがニューディールなどの巨大な公共投資を推し進めた財政政策だというのが通説だったが、これに異論を唱え、金融政策の重要性を指摘したのがミルトン・フリードマンだった。

フリードマンの学説をさらに発展させたのがバーナンキや、カリフォルニア大学のバリー・アイケングリーンなどだ。

当時は岩田さんを中心とするグループはそれほど影響力をもっていなかった。世間には日銀に追随するような議論ばかりで、岩田さんのグループは、まるで「レジスタンス」のようだったという。

今回復刊された岩田規久男さんの「まずデフレをとめよ」は2003年の出版だが、「インフレ目標政策を導入せよ!」と本の帯に書いてあり、今復刊しても修正するところがないという。

日本経済再生 まずデフレをとめよ日本経済再生 まずデフレをとめよ
著者:岩田 規久男
日本経済新聞出版社(2013-03-26)
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実質金利をマイナス金利に

「ゼロ金利のもとでは金融政策に限界がある」というのは誤りだ。名目金利はゼロ以下には下げられないが、予想インフレ率を高めれば、実質金利はなお下げることができる。これが最も重要なポイントであると高橋さんはいう。

たしかに筆者も高橋さんや岩田さんの本を読む前までは、ゼロ金利になっている以上、貸出金利をマイナス金利にすることは不可能だと思っていたが、この本を読んでよくわかった。

クルーグマンが早くから指摘していたのも、この点で、「日銀は人びとのインフレ予想を高めるような政策を打ち出せ」と主張し、具体的にはインフレターゲット政策を提起していた。

予想は英語だと"expectation"だ。誤解を招くので高橋さんは「期待」でなく、「予想」と訳しているという。


大蔵省の「洗脳」にのらなかった浜田教授

高橋さんは、かつて大蔵省の「洗脳部隊」に属していたという。学者やマスコミに、大蔵省に都合のよい主張をしてもらうことが仕事だ。やり方は勉強会や研究会に参加してもらい、時には海外視察などにつれていくのだと。

しかしこの洗脳部隊の時に、全く誘いを受け付けなかったのが、当時東大にいた浜田宏一イェール大学名誉教授だったという。

浜田教授は2年ほど前に「昭和恐慌研究会」のメンバーとなった。先日紹介した「アメリカは日本経済の復活を知っている」では、「20年もの間デフレに苦しむ日本の不況は、ほぼすべてが日銀の金融政策に由来するものである」と断言している。

アメリカは日本経済の復活を知っているアメリカは日本経済の復活を知っている
著者:浜田 宏一
講談社(2012-12-19)
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円安が好況の鍵

高橋さんは、小泉政権が成功したのは、日銀に量的金融緩和を実施させ、その結果円安が続いたためだと語っている。

高橋さんは第一次安倍内閣(2006年9月〜2007年9月)の時に、総理補佐官補というポジションで、総理官邸入りするように安倍総理から直接依頼された。

超党派の議員200人が集まり、「増税によらない復興財源を求める会」を結成した時にも、安倍さんに声をかけて加わってもらった経緯がある。

安倍さんは、「増税によらない復興財源を求める会」に参加するとともに、自民党内でも議員立法で日銀法を改正すべく同志を集めていた。結局谷垣総裁が待ったをかけたため、日銀法改正検討は進まなかったが、こういった活動を通して安倍さんは知識を蓄えていった。

そして自民党総裁選で「消費者物価上昇率2%を目標としたインフレ・ターゲット政策を日銀に求める」と宣言して自民党総裁に就任すると、今度は総選挙でもインフレ・ターゲットを自民党の目玉政策に掲げて、選挙に勝利したのだ。


日銀のレジームチェンジ

それまで安倍さんのインフレ・ターゲットを批判していた白川日銀総裁が、豹変してインフレ・ターゲットの受け入れをすぐさま示唆した。「金融政策のレジーム転換」が起こったのだ。

そして3月の黒田新総裁になって、「異次元の金融緩和策」が実施され、円安と株高の流れが加速したのだ。株価は野田民主党政権時のほぼ倍、円相場は30%下落、GDPはプラスに転じた。

平成26年度からの消費税アップもあり、高額商品が良く売れているという。

長期金利が上昇しているが、それでも0.9%という歴史的には低い水準だ。金利が低いうちに長期固定金利の住宅ローンを使って住宅を購入しようとする人が増えている。

国民の心理が「インフレ期待」に一変した。まさに「心理経済学」で大前研一さんが提唱していたように、人々の心理を動かした結果、円安株高がある。

大前流心理経済学 貯めるな使え!大前流心理経済学 貯めるな使え!
著者:大前 研一
講談社(2007-11-09)
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アベノミクス登場以来、このブログで高橋さんの本は何冊か紹介している。

この本もわかりやすいが、これ一冊ということなら、そのものズバリの2008年末の「この金融政策が日本を救う」だろう。浜田宏一教授の推薦書でもある。

この金融政策が日本経済を救う (光文社新書)この金融政策が日本経済を救う (光文社新書)
著者:高橋洋一
光文社(2008-12-16)
販売元:Amazon.co.jp

次は「この金融政策が日本を救う」のあらすじを紹介する。


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2013年05月16日

戦後史の正体 元外務省・国際情報局長が書いた「米国の圧力」史

戦後史の正体 (「戦後再発見」双書)戦後史の正体 (「戦後再発見」双書)
著者:孫崎 享
創元社(2012-07-24)
販売元:Amazon.co.jp

昨年から話題となっている外務省の元・国際情報局長の孫崎享(まごさき・うける)氏が書いた「米国からの圧力」を軸とした戦後史。

昨年7月に発売されて以来ベストセラーとなっている。現在でもアマゾンの売り上げランキング250位くらいに入っている。

いわゆる「とんでも本」だと思っていて、いままで読んでいなかったが、外務省の元・局長だけに、興味深い指摘もある。


日本が負担した占領軍駐留経費

戦後日本の復興に、アメリカのガリロア・エロア資金(1946〜1951年までに18億ドル。うち5億ドルは返済)が大変役立った。米国による寛大な占領だったと言われている。しかし、実は同じ時期に日本は占領軍の駐留経費を約50億ドル負担しており、占領軍のゴルフ場代から、特別列車代まで負担していた。

孫崎さんは、一般に言われているほど「寛大な占領」ではなかったという。むしろ経済的な負担も日本に過酷なものがあった。

ちなみに、ガリオア・エロアは、人の名前か地名の様に思えるが、ガリオアはGovernment Appropriation for Relief in Occupied Areaの頭文字を取った"GARIOA"で、エロアは Economic Rehabilitation in Occupied Area Fundの頭文字を取った"EROA"だ。

本書によると、日本の負担した占領軍駐留経費は次の通りだ。

  年       金額     一般会計に占める割合
1946年    379億円   32%
1947年    641億円   31%
1948年  1,061億円   23%
1949年    997億円   14%
1950年    984億円   16%
1951年    931億円   12%

日本政府は戦争に敗れ、国土も産業も荒廃した大変な経済困難のなかで、6年間で5,000億円、国家予算の2〜3割を米軍経費に充てている。

この時、米国に駐留費の減額を求めて公職追放されたのが石橋湛山で、米国の言う通りにしたのが吉田茂だと孫崎さんはいう。

吉田茂の功績を高く評価している高坂正堯(こうさかまさたか)の「宰相吉田茂」などとは全く異なる評価である。

宰相吉田茂 (中公クラシックス (J31))宰相吉田茂 (中公クラシックス (J31))
著者:高坂 正尭
中央公論新社(2006-11)
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吉田の考えは、「占領下だから文句をいってもしょうがない。なまじっか正論をはいて米国からにらまれたら大変だ」というものだったという。だから吉田は、対米追随派の代表であると。

このブログでは北康利さんの「吉田茂 ポピュリズムに背を向けて」のあらすじも紹介している。吉田茂の政治姿勢を表す言葉として、「戦争に負けて外交で勝った歴史はある」というものがある。これが吉田の政治信条を貫いていたのではないかと筆者は考えている。

吉田茂 ポピュリズムに背を向けて吉田茂 ポピュリズムに背を向けて
著者:北 康利
講談社(2009-04-21)
販売元:Amazon.co.jp

孫崎さんの自主派/対米追随派で分けるというのは、偏った見方という気がするが、これがこの本を貫く孫崎さんの姿勢である。


自主派か対米追従派か

孫崎さんは、政治家は次の様に自主派と対米追随派に大別できるという。

自主派:
・重光葵(外相)
・石橋湛山
・芦田均
・岸信介
・鳩山一郎
・佐藤栄作
・田中角栄
・福田赳夫
・宮沢喜一
・細川護煕
・鳩山由紀夫

対米追随派:
・吉田茂
・池田隼人
・三木武夫
・中曽根康弘
・小泉純一郎
・海部俊樹、小渕恵三、森喜朗、安倍晋三、麻生太郎、管直人、野田佳彦

一部抵抗派:
・鈴木善幸
・竹下登
・橋本龍太郎
・福田康夫


日本の「自主派」政治家を引きずりおろす米国のツールは、検察、マスコミ、学者

検察特捜部は、もともとGHQの指揮下にあった「隠匿退蔵物資事件捜査部」(戦後に日本人が隠匿した資産を探し出してGHQに差し出すのが任務)だった。だから、孫崎さんは、創設当初から検察特捜部は米国と密接な関係を維持してきたと指摘する。

占領直後は、GHQは「公職追放」というまさに偏見と独断がまかり通る武器を持っていた。孫崎さんによると、米国からバージされた首相・政治家は次の通りだ。

芦田均以前の政治家は別として、田中角栄、小沢一郎が米国に目をつけられたというのは、うなずける。

・石橋湛山(公職追放)
・鳩山一郎(公職追放)
・芦田均(昭電疑獄)
・田中角栄(ロッキード事件)
・小沢一郎(越山会疑惑)


マスコミ、学界、官僚も親米

米国は、日本の大手マスコミのなかで、「米国と特別な関係を持つ人々」を育成してきた。また、外務省、防衛省、財務省、大学にも「米国と特別な関係を持つ人々」がいる。

松田武著の「戦後日本におけるアメリカのソフト・パワー 半永久的依存の起源」では、日本の米国学界が「米国に批判的な、いかなる言葉も許されない」状況でスタートし、米国から多額の援助を受けたことを指摘しているという。 

戦後日本におけるアメリカのソフト・パワー―半永久的依存の起源戦後日本におけるアメリカのソフト・パワー―半永久的依存の起源
著者:松田 武
岩波書店(2008-10-28)
販売元:Amazon.co.jp


アメリカの望みは「望むだけの軍隊を、望む場所に、望む期間だけ駐留させること」

1950年にトルーマン大統領は、対日講和条約締結交渉を開始するように指示し、それを受けて1951年にジョン・フォスター・ダレス(後の国務長官)が来日する。

その時のダレスの交渉姿勢が、「われわれは日本に、われわれが望むだけの軍隊を、望む場所に、望む期間だけ駐留させる権利を確保できるだろうか。これが根本問題である」だった。

孫崎さんは、この姿勢が現在に至るまで変わっていないと指摘する。

たとえば鳩山首相の「普天間飛行場の移転先を最低でも県外」という発言は、米国の方針に反するために、鳩山首相は米国につぶされたと孫崎さんはいう。

たしかに鳩山首相の「最低でも県外」は、混乱を招いた。しかし、それ以外にも鳩山首相のお母さんからの毎月1,500万円の「こども手当」とか、国連総会で勝手に「2020年に温暖化ガス25%削減」とか言いだしたとかの要因もあって国内外の信頼を失って退任したので、別に米国の虎の尾を踏んだから退任したわけではないと思う。

ちなみに、普天間飛行場の返還・移転交渉については、守屋元防衛事務次官の「普天間交渉秘録」のあらすじを紹介しているので、参照願いたい。

「普天間」交渉秘録「普天間」交渉秘録
著者:守屋 武昌
新潮社(2010-07-09)
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行政協定(地位協定)のための安保条約?

戦前の外務省アメリカ局長で、1946年に外務次官になった寺崎太郎は、「行政協定(注:現在は地位協定)のための安保条約、安保条約のための平和条約でしかなかったことは、今日までに明らかとなっている。つまり本能寺は最後の行政協定にこそあったのだ」と語っている。

朝鮮戦争が勃発したことから、米国は日本に対する考えを変え「ソ連との戦争の防波堤」としようとした。

日米地位協定では、第2条で基地の使用を認め、「いずれか一方の要請があるときは、(中略)返還すべきこと、または新たに施設および区域を提供することをを合意することができる」となっている。

ダレスの「望むだけの軍隊を、望む場所に、望む期間だけ駐留させること」が実現しているのだ。


「北方領土問題」は米国発案

孫崎さんは、北方領土問題は米国が、日本とソ連との間に紛争のタネをのこし、友好関係に入らないためにつくったものだと語る。

というのは米国ルーズベルト大統領はスターリンにソ連参戦の条件として国後、択捉の領有権をソ連に約束している。しかし冷戦の勃発後は、国後、択捉島のソ連による領有に米国は反対している。

孫崎さんが頻繁に引用する米国の歴史家・マイケル・シャラーさんの「『日米関係』とは何だったのか」でも、この件が紹介されている。

「うまくいけば、北方領土についての争いが何年間も日ソ関係を険悪なものにするかもしれないと彼らは考えた」。

「日米関係」とは何だったのか―占領期から冷戦終結後まで「日米関係」とは何だったのか―占領期から冷戦終結後まで
著者:マイケル シャラー
草思社(2004-06)
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この本も図書館で借りたので読んでみる。

紛争のタネを残しておくというのは、インド・パキスタンの間のカシミール問題、アラブ諸国の間の飛び地問題、日韓の竹島問題、日中の尖閣列島などにも当てはまり、外交上よく行われる手口だという。


「イコール・パートナー」を提唱したライシャワー大使

孫崎さんは、ライシャワー大使についての逸話をいくつか紹介している。

一つは東京オリンピックの時の選手村が当初朝霞に決まっていたのを、外務省がライシャワー大使の口添えで代々木の米軍キャンプを移転させ、跡地を選手村にしたことだ。

この時は、オリンピックの主管官庁の文部省が反対し、「朝霞に決めたので主管官庁でもない外務省が口を出すな」と全く動かなかったので、事務次官会議を通さずに閣議に上げたという。

東京生まれのライシャワー大使は、戦前も対日戦争に反対し、戦後は沖縄返還のきっかけをつくった。まさに「二つの祖国」を橋渡しした人である。

日本への自叙伝日本への自叙伝
著者:エドウィン・O・ライシャワー
日本放送出版協会(1982-01)
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自主派の佐藤栄作首相

佐藤首相時代に日本は「核保有国は、非保有国を攻撃しない義務を負うべきだ」という政策を立案し、1968年に国連の「非核保有国の安全保障に関する安保理決議」として結実している。

佐藤首相は、1965年に沖縄を訪問し、「沖縄の祖国復帰が実現しないかぎり、わが国にとっての戦後が終わっていない」という声明を読み上げた。

これは外務省と全く打合せしていなかったという。

佐藤首相は、退任後、1974年に「非核三原則」の提唱により、ノーベル平和賞を受賞した。筆者も賛否両論がおこったことを覚えている(どちらかというと、「否」の方が多かったと思うが)。

たしかに「核保有国は、非保有国を攻撃しない」という義務が、本当に国際的に確立できれば、ノーベル平和賞にも値するだろう。


ニクソンと佐藤首相の密約

1969年に訪米した佐藤首相は、ニクソン大統領との間で二つの密約を締結する。一つは沖縄に核兵器を持ち込むような事態が将来生じた場合、日本政府は理解を示すという「核持ち込み密約」。

もう一つはニクソンが大統領選挙対策上もっとも重視していた南部各州対策のための繊維製品の対米輸出枠の密約だ。

佐藤首相は帰国後密約は存在しないという立場をとり、合意を実行しなかった。ニクソンと交渉にあたったキッシンジャーは激怒し、報復を始めた。


ニクソンの報復

第1弾は日本には事前通告なく発表されたニクソン訪中。第2弾はニクソンショック(金ードル交換停止)だと孫崎さんはいう。

ニクソン訪中については納得できるが、ニクソンショックはたぶん密約無視とは関係ないだろう。


田中角栄失脚

ロッキード事件が米国発で起こり、田中角栄が失脚任したことは、一般的にはロシアからのガス輸入や北海油田開発などの日本独自のエネルギー政策が、米国の怒りを買ったといわれている。

しかし、孫崎さんは田中角栄が、米国より先に日中国交回復を実現したことが、米国の怒りをかったのだと説く。

米国は日本の頭ごなしに、ニクソン訪中を1972年2月に実現していながら、中国との実際の国交樹立は議会の反対で1979年までできなかった。

ところが、田中角栄は中国を訪問した1972年9月に日中国交回復を実現している。これが中国が田中真紀子や、小沢一郎などの旧田中派の政治家を「老朋友」と遇する理由だ。


日本のP3C大量配備は米国防衛のため

孫崎さんは、日本のP3C対潜哨戒機大量配備は、日本のためではなく、米国のためだと指摘している。

P_3_ACH





出典:Wikipedia

オホーツク海に潜むロシアの潜水艦はSLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)を持っており、それのターゲットは米国で、日本ではない。

しかし米国はシーレーン防衛という名目でP3Cを大量に買わせて、米国の防衛の肩代わりをさせているのだと。

一面ではたしかに孫崎さんの指摘するような面はある。しかし、現代の防衛はイージス艦や、三沢など各地にある米軍の高性能レーダー、AWACS早期警戒機、海峡に設置された音波収録器など、様々な情報を管制してはじめて成り立つのであり、単に対潜哨戒機だけ持てば役に立つわけではない。

特に昨今は、中国潜水艦と思われる国籍不明潜水艦も日本近海に出没するようになってきている。

孫崎さんの説は、あまりに狭量というか、外務省の元高官が言う言葉ではないと思うが…。


2005年の日米同盟の変質

2005年小泉政権が締結した「日米同盟 未来のための変革と再編」は従来の安保条約を変質させている。

1.日米軍事協力の対象が極東から世界に拡大された。

2.戦略の目的が、「国際安全保障環境を改善する」こととされた。


TPPは日本にとってきわめて危険

TPPの狙いは日本社会を米国流に改革し、米国企業に日本市場を席巻させることで、日本にとってきわめて危険な要素を含んでいると孫崎さんは語る。

被害は限りなく想定されるという。

たとえば国民健康保険制度が崩壊するという危険性を挙げているが、意味がよくわからない。TPPを米国が日本にせまる理由も、日本が中国に接近することへの恐れと、米国経済の深刻な不振だという。

こういった議論については、今度紹介する「米韓FTAの真実」という本が、参考になると思う。

TPPの正しい議論にかかせない米韓FTAの真実TPPの正しい議論にかかせない米韓FTAの真実
著者:高安雄一
学文社(2012-11-22)
販売元:Amazon.co.jp

注意して読むと、外交官時代に自分が見たり聞いたりした情報はふくまれていない。公務員として守秘義務が課せられているからだろう。

自分が持っている情報は一切出さないが、公表されている情報をまとめて対米追随派/自主派という論理を組み立て、政治家や過去の事件を分類している。

佐藤優さんの本だったか、インテリジェンスのほとんどは新聞や雑誌などの公開情報の寄せ集めという話があった。公開情報を分析して、その奥に潜む真実や、その国の真意を探り当てるのがインテリジェンスだ。

外務省のインテリジェンス部門の国際情報局長をつとめた人だけに、同じ手法をとってこの本を書いているものと思う。

結論として、やはり「とんでも本」というか、「偏向本」ではないかと思うが、的確な指摘も含んでいる。どう評価したらよいのか、よくわからない本である。


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2013年05月13日

隣の国の真実 知っているようで知らない北朝鮮と韓国の現状

隣りの国の真実 韓国・北朝鮮篇隣りの国の真実 韓国・北朝鮮篇
著者:高安雄一
日経BP社(2012-11-22)
販売元:Amazon.co.jp


日経ビジネスオンラインで「知られざる韓国経済」「茶飲み話ではない北朝鮮」として2011年末から2012年初めまで不定期に掲載されていたシリーズものが本になった。

著者の高安雄一さんは、大東文化大学教授。1990年に当時の経済企画庁に入省し、韓国の日本大使館に3年間駐在した経験がある。

この本では韓国経済の基礎知識と、補足として北朝鮮についての統計データを紹介している。

筆者自身も両国に対する基礎知識は断片的だったので、知識拡充に役立った。

たとえば朴槿恵大統領の伝記を紹介した時に、朴正熙元大統領の20年間で韓国と北朝鮮のGDPは逆転したと書いたが、北朝鮮のGDPがそもそもなぜ韓国より高かったのかは知らなかった。

その疑問がこの本を読んで解けた。北朝鮮は第2次世界大戦後ずっとソ連や中国などの共産圏諸国の援助を受けており、これらの無償援助がGDPの多くの部分を占めていたのだ。

たとえば1945〜1960年のソ連や中国の北朝鮮への援助額は18.5憶ドルだった。ところが、中ソ対立で北朝鮮が中国寄りの立場をとったことから、ソ連からの援助は打ち切られ、中国も文化大革命による内紛や援助余力がなかったことから、1961〜1970年には援助額は3.8憶ドルに激減した。

「ガリオア・エロア資金」として知られる米国からの対日復興援助は、1946〜1951年の6年間で18億ドルだった。

国の規模を考えれば、日本の3億ドル/年に対し、北朝鮮の1.2億ドル/年は、優遇といえるだろう。

これが北朝鮮の一人当たりGDPが1950年代の4,000ドル前後から毎年減少し、2010年には推定1,073ドルにまで減少した原因だ。一方、韓国は1950年代は見るべき産業は農業くらいしかなかったが、朴正熙大統領が主導した「漢江の奇跡」により500ドル台から、2010年には20,756ドルと急増して現在に至っている。

現在北朝鮮の一人当たりGDPは世界第144位で、カメルーン、パキスタン、ラオスなどと一緒の下位グループにいる。


北朝鮮の統計

北朝鮮の統計は公式に発表されたものが少ないが、一人当たりGDPが低い割には識字率は100%と高い。

平均寿命は69.3歳で、韓国の79歳に比べて低いが、世界的には中ぐらいに位置する。ただし、幼児死亡率は2.6%と世界117位にとどまっている。ちなみに日本の幼児死亡率は0.2%で世界最低で、韓国は0.4%と世界20位である。


韓国のFTA締結状況

韓国は次の諸国・地域とFTAを締結している。
EU,米国、ASEAN,EFTA(欧州自由貿易連合)、インド、チリ、シンガポール、ペルーの8カ国・地域

現在FTA交渉中なのは、ニュージーランド、オーストラリア、カナダ、メキシコ、GCC,コロンビア、トルコの7件で、日本とはFTA交渉が中断したままとなっている。

よく言われるように韓国の輸出依存度は高い。GDPに占める輸出の割合は韓国では50%近く、15%の日本とは比べ物にならないくらい高いので、輸出が韓国の成長の源であることは国民共通の認識となっている。


農民票の影響度

総人口に占める農民の割合は、日本の5.5%に対して6.4%だ。しかし国民の直接投票によって選ばれる大統領が強大な権限を持っていることや、選挙制度が小選挙区制に基づく一院制で、農民の多い地区は限られていることから、FTAに反対する農業団体の声がマジョリティになりにくい構造がある。

もっともFTA締結のために農業部門を切り捨てているわけではない。農業部門への補助金は莫大なもので、コメの関税化も当初2004年とされていたものを、FTA再交渉で2014年に遅らせている。

しかし、輸出が韓国成長の源なので、韓国政府はTVコマーシャルなどで、「日本が先を走っていきます。中国が先を走っていきます。(中略)より大きな世界に進むための私たちの選択、米韓FTA。…」というような刺激的な言葉で、国民にアピールし、今では国民の過半数がFTA推進を肯定している。

いくつか印象に残った点を要点だけ紹介しておく。

★韓国の財政は健全
韓国の財政は健全で、1988年に導入された国民年金制度は積み立て段階で、まだ支払いが始まっていないこともあり、国家財政は黒字だ。

GDPに対する国家債務比率は33%、それも半分以上の債務が対応資産があるものなので、これらを除くと純債務はGDPの16%程度にとどまる。

1997年の韓国の通貨危機は、財政の赤字が問題ではなく、国際収支の赤字と外貨準備不足によりもたらされたものだ。

★韓国の税率は日本より低い
韓国の税率は日本より低い。1975年には所得税率8〜70%だったが、現在は6〜35%の4段階に下がった。

法人税も20〜40%だったものが、現在は10%と22%の2段階に簡略化されている。付加価値税は1977年の導入以来10%で変わりない。

政府のクレジットカード普及策により法人所得の捕捉率が上がったことも、経済成長と並んで、税率を低く抑えられている原因に挙げられている。

★韓国の予算に占める福祉関係支出は少ない
韓国の予算に占める福祉関係支出はまだ少ないことも均衡財政が保てる理由の一つだ。韓国の65歳以上の高齢者比率は11%で、OECD諸国の間でも低い。

国民皆年金となったのは1999年と日が浅いので、年金をもらえない高齢者には2008年から国家予算から対象者に年金が支給されるが、これは経過的な措置で、いずれ減少が見込まれる。

★医療保険は高齢者への配慮なし
医療保険では日本の健康保険のように、一般は30%だが、高齢者負担が70歳以上20%、75歳以上10%と減る制度ではなく、おおむね同じである。

年間の医療費自己負担額の最高額が決まっており、これを超えると国民健康保険公団が補てんしてくれる制度がある。

介護保険は2008年からスタートしたばかりで、負担も低水準だ。儒教精神で高齢者は家族が看護するという伝統があるせいもあるが、世界でも類のないスピードで高齢化が進む韓国で、このような低負担が将来も続けられるのかは疑問があるところだ。

★外国人労働者は50万人
外国人労働者は現在50万人いて、労働力不足解消に貢献している。

★高い大学進学率
日本の54%に対して79%と高い大学進学率が、これは専修大学(2〜3年)への進学率も含んでおり、実質の4年制大学の比較では日本より若干高い程度である(同じ専修学校も含む基準だと日本は約70%)。

★地方大学よりもソウルの大学
大学は序列化が激しく、ソウルの大学、トップはSKY(ソウル大学、高麗大学、延世大学)が占めており、高学歴は就職等にも有利な現状を反映している。地方大学よりもソウルの大学、専修大学よりも4年制大学の希望が高い。

個別の大学入試はなく、「大学就学能力試験」に一本化されている。国家公務員上級職試験の合格者からみた大学のランキングは次の通りだ。

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出典:本書

★逆単身赴任(キロギアッパ)
「キロギアッパ」という言葉は、海外留学している子どもに一緒に妻がついていっているんで、夫は韓国に残って、時々子ども・妻を訪問するという、逆単身赴任に近い韓国特有の言葉だ。小学生8、000人、中学生6、000人、高校生4、000人が6か月以上の海外留学中だという。

★大学生の就職難
大学生の数は増えているが、企業の新卒者採用は逆に減少している。これが韓国の大学生の就職難につながっている。

1996年の企業の新卒者に占める転職者の比率は34%だったのが、2002年には82%となっている。このため新卒者に占める非正規雇用者率は4割を超えている。

★兵役義務
男性国民は21か月の兵役義務を負っている。企業は兵役義務を終えたものという条件を課すところが多いので、大学生の間に兵役を果たす人が多く、休学者の90%以上が兵役である。2年から3年間休学する人が多い。

★ウォンはリスク資産
韓国政府の財政状態は健全だが、外債残高に対する外貨準備高が不足していた。そのため1997年1月に中堅財閥の韓宝が破たんしたことがきっかけとなって財閥の連鎖倒産が起こり、金融会社の不良債権が積み上がった。

返済能力に不安を感じた海外の貸し手が、短期貸出のロールオーバーを拒否して、資金の返済を迫ったことから、外貨準備不足でIMFの支援を仰いだ。

通貨危機を契機として、1997年末からは韓国は完全変動相場制となった。ウォンは地政学的リスクがあるので、ハイリスク資産と見なされている。それが、韓国の景気が良くても、ウォンが高くならない理由である。

★韓国の電気料金は格安
韓国の電気料金は国際的にも格安で、日本の4割程度となっている。これは割高な重油発電が1981年の79%から2009年には3%にまで激減し、かわりに割安な石炭火力が45%、原子力が34%と転換が進んだことが理由だ。原子力発電所は20カ所ある。

★韓国の年金制度
韓国の年金制度は1988年に国民年金制度が導入されたが、当初は対象が10名以上の事業所で雇用されている人に限られており、1999年に国民皆年金となった。

このためまだ年金の支給が本格的に始まっていないため、退職世代の格差は大きい。所得格差を示すジニ係数で見ると、日本の退職世代のジニ係数は0.34に対し、韓国は0.4となっている。

韓国の年金は「高齢者に厳しい」年金となっており、最低の10年間年金を払った人への支給額は月8千円程度と低い。

40年間年金を支払った人への所得代替率(現役世代の何割の年金がもらえるかの比率)は日本の50%に対して韓国は40%と低い。

もっとも年金制度のスタートが1988年なので、年金を満額貰える人がでてくるのは2028年以降となる。

出生率は2005年は1.08%で日本よりも低いことを考えると、現在は税金を投入しない純粋保険料方式となっているが、将来的にこれが維持できるかどうかは疑問が残る。


知っているようで知らない韓国と北朝鮮の現状がおさらいできて参考になった。

このあらすじを参考にして、日経ビジネスオンラインの「知られざる韓国経済」「茶飲み話ではない北朝鮮」の高安さんの記事もチェックしてみることをお勧めする。


参考になれば投票ボタンをクリック願いたい。


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Posted by yaori at 12:51Comments(0)TrackBack(0)

2013年05月06日

売れる作家の全技術 大沢在昌の小説講座 懇切丁寧な指導が光る

+++今回のあらすじは長いです+++

小説講座 売れる作家の全技術  デビューだけで満足してはいけない小説講座 売れる作家の全技術 デビューだけで満足してはいけない
著者:大沢 在昌
角川書店(角川グループパブリッシング)(2012-08-01)
販売元:Amazon.co.jp

「新宿鮫」シリーズなどの刑事小説の大御所・大沢在昌が、角川書店の「小説 野生時代」の企画で、12人の「どうしてもプロになりたい」という小説家志望者に対して1年間続けた「小説家講座」の講義録。


筆者が最近、人に勧めている本のナンバーワン

筆者は、年間250−300冊のペースで本を読んでいるので、「最近読んだ面白い本を教えてくれ」と聞かれることが多い。そんな時に、最近、筆者が勧めているのがこの本だ。

もっとも、この本を勧めると、「別に小説家になりたいわけではないので…」というような反応を示す人がいるが、この本は小説家志望の人向けだけに書かれたものではない。

一般読者には、「作家はこんな風に考えて、こんなテクニックを使って小説を書いているのか」ということがわかり、かえって小説を読む楽しみが増すと思う。

また、この本で紹介されている小説のいくつかは本当に面白い。たとえば直木賞を受賞した朝井リョウの「桐島、部活やめるってよ」や、三崎亜紀の「となり町戦争」などは大変面白い小説である。


「名前は知っているけど、読まないと決めた作家」という壁

大沢在昌は、長くやってきて知名度も高くなった作家ほど「名前は知っているけど、読まないと決めた作家」という壁にぶち当たると語る。

だから「ほぼ日」で「新宿鮫」の最新シリーズを連載したりして、新しい試みで、その壁を突破しようとしているのだという。

実は、筆者も、この本をきっかけとして大沢在昌の「新宿鮫」シリーズなどの作品を読んでみた。

新宿鮫 (光文社文庫)新宿鮫 (光文社文庫)
著者:大沢 在昌
光文社(1997-08)
販売元:Amazon.co.jp

大沢在昌は、筆者が「読まないと決めた作家」の一人だった。筆者は元々刑事ものには興味がない。もし、この本を読まなかったら、大沢在昌の作品は読むことはなかっただろう。


「デビューだけで満足してはいけない」

この本を読むと、アマチュア相手に、これだけ懇切丁寧に、愛情をこめて指導している大沢在昌自身に興味を惹かれる。講義の最後には、受講生12人すべての作品を読み、一人ひとりへのアドバイスを与えている。

受講生はすべて動物の名前で、「ネコ」とか「イルカ」とかになっている。将来世に出た際に、この小説講座を受講していたことがマイナスの評価にならないために、仮名にしたという。すごい思い入れだ。

サブタイトルは「デビューだけで満足してはいけない」。

大沢在昌自身がまさに、「デビューだけして全く売れなかった作家」だったから、指導にも熱が入っているのだと思う。

大沢在昌は23歳でデビューして、11年間全く本が売れなかった。28冊の本が、すべて初版どまりで「永久初版作家」と呼ばれたという。それでもなんとか食えたのは、出版業界が今とは比べものにならないほど豊かで、気の長い編集者が育ててくれたからだと。

28冊、毎回、「これでどうだ」、「これじゃ駄目か」、「それならこうしてやる」と手を変え品を変え、他人の作品はもちろん、映画や漫画からも、おもしろい話を作るメソッドを盗もうとしていたが、売れなかった。

29冊目の本の「新宿鮫」がヒットし、その後文学賞をいくつか受賞したこともあって、いまは大きな顔をしているが、1作のヒットで一生食えることなどありえない。むしろそのヒット作を上回るものを作らないと、「あの人はあれで終わったな」と言われてしまう。

作家に安全確実なポジションなどない。過去の成功は過去でしかない。いつも今書いている作品、これから書く作品を問われるのだ。

講義の最後の大沢在昌の言葉は次の通りだ。

「自分を苦しめ、追い詰めて、これ以上ないと思った、さらにその先があると信じて書くこと。

100パーセントの力を出し切って書けば、次は120パーセントのものが書けるし、限界ぎりぎりまで書いた人にしか次のドアを開けることはできません。それを超えた人間だけがプロの世界で生き残っているんです」。


驚かされるプロの作家の読書量

大沢在昌の読書量はハンパではない。最も読んだときは高校2年生の時で、毎日3冊ずつ図書館の棚の端から端まで読んで、1年間で1,000冊読んだという。

作家になるまでも毎年500〜1,000冊、スタンダードなミステリーはもちろん、新しい作家のものや優れたノンフィクションも読んだ。

いろんな作家の本を読むことによって、経験したことのないことにに対する知識や、小説の勘どころみたいなものが身に付くのだと。

ミステリーを書こうとする人には、基礎知識が絶対必要で、「本格推理小説」でも「ハードボイルド」でも、古今東西の名作、古典は一通り読んでいなければならない。本格推理小説にはトリックの知識、警察小説には警察の知識が不可欠だ。

最低でも1,000冊は読んでからでないと、ミステリーの賞に応募することはできないと。

今回の受講者12人には、それほどの読書家はいないようで、大沢在昌は、ことあるごとに作家にとっての読書の重要性を強調している。

「プロの作家がどれだけ多くの本を読んでいるかを知ったら、おそらくびっくりするでしょう。みんなたくさん読んできているし、今現在も読み続けています。

そんな人たちの中に殴り込んでいって自分が名を成そうとするならば、その人たちより少ない読書量、少ない引き出しでは絶対に勝てるわけがない」。

「『本を読むのは嫌だけど書きたい』という人は作家などやめたほうがいい」。

筆者は別に小説家になろうとは思わないが、我が意を得たりという気がすると同時に、「年間300冊でもまだ少ないんだ」、と思う。

先日紹介した「海賊とよばれた男」の最後に参考文献が載っていた。出光佐三や出光興産に関する本ばかり、50冊ほど紹介されているのに驚いた。

やはり、あれだけの本を書くには相当な読書と研究が必要なのだと思う。

大沢在昌は、この本の最後に卒業制作として長編小説を課題に出している。その準備に関して、「準備期間5か月のうち、3か月を材料の仕入れやプロットを考えることに使い、2か月を書くことに使うこと」を勧めている。膨大な読書を含む準備が、いかに重要なのかがよくわかる。


この本の構成

大沢在昌が1年間、毎月続けた講義は、10回が講義、2回が受講者の作品講評という構成となっている。

この本の目次を見ると、毎回10程度取り上げられている講義ポイントがわかる。よくできた目次なので、まずは本屋で目次をパラパラめくってみることをお勧めする。

この本はアマゾンの「なか見!検索」に対応していないので、「なんちゃってなか見!検索」で、目次の一部を抜粋して紹介しておく。どんな感じか、わかると思う。(カッコ)内は特記事項だ。

第一部 講義
第1回 作家で食うとはどういうことか

   ・作家デビューの方法
   ・偏差値の高い新人賞を狙え
   ・作家の財布事情
   ・縮小する出版市場
   ・作家になるために大切な四つのポイント
   ・作家のモチベーション
質疑応答
   ・デビュー前にどれくらい書いていたのか?
   ・無理してでも決めた枚数を書くべきなのか?
   ・途中で駄作だと感じても最後まで書くべきか?

第2回 一人称の書き方を習得する 
   ・3つのハードルを克服しろ
(3つのハードルとは、1.視点の乱れをなくす、2.限定された視点でどこまで読者に情報を提供し、物語を形作れるか、3.視点人物、つまり語り手である「私」や「僕」や「俺」の個性をどれだけ読者に伝えられるか)
   ・「出す」だけでなく、「入れる」ことも忘れない(ネタを常に探し、アイデア帳を身近に置いておき、常に人間観察するなど)

質疑応答
   ・どうすれば嫌な人物を描けるか?
   ・実体験を作品に反映させることはあるのか?
   ・いいタイトルをつける秘訣は?

第3回 強いキャラクターの作り方 
   ・キャラクターがストーリーを支える
   ・キャラクターには登場する理由がある
   ・細部を細かく作り上げていく(「スタニスラフスキー・システム」)
   ・主人公に変化のない物語は人を動かさない(ストーリーが登場人物を変化させ、その過程に読者は感情移入する)
   ・人間観察からすべてが始まる(水商売の女性は靴を見てお客を見極める)
   ・ミステリーには基礎知識が必要
質疑応答
   ・名探偵は主人公なのに物語の中で変化しないのでは? 
   ・アマチュアでも取材は可能か?

第4回 会話文の秘密
   ・「実際の会話」と「小説の会話」は違う
   ・キャラクターにふさわしい会話
   ・なぜ「隠す会話」が必要か
   ・効果的な会話のテクニック
   ・決定的なセリフにたどり着け
質疑応答
   ・「神の視点」と視点の乱れの違いは?

第5回 プロットの作り方
   ・どんな楽しみを提供するかを意識する
   ・「謎」の扱いがプロット作りのカギ
質疑応答 
   ・どうすればプロットをうまく使えるようになるか?
   ・作品内のタイムテーブルは作るべきか?

第6回 小説には「トゲ」が必要だ
   ・面白い物語を書くには
   ・最も強い武器を伸ばせ
   ・面白い物語とは何か(自分が書くものは必ず面白いはずだと信じる)
   ・主人公を残酷な目に遭わせろ(主人公に残酷な物語は面白い)
   ・小説の「トゲ」とは何か(読み終えたあと、読者の心の中にさざ波を起こすような何か)
質疑応答
   ・こぢんまりした作品になってしまうのはなぜ?
   ・古典の引用で注意すべきことは?(「フランケンシュタイン」と「マイ・フェア・レディ」は実は同じ話)
   ・小説に実在の人物名を使ってもよいか?
   ・物語のカタルシスには何が必要か?(死ぬほど考えるしかない)
   ・漢字はどの程度使うべきか?
 
第7回 文章と描写を磨け
   ・文章にリズムを持たせろ
   ・正確な文章を書け
   ・「8割感情、2割冷静」で書く
   ・人物をひと言で表現しろ
   ・描写の3要素(「場所」、「人物」、「雰囲気」)
   ・擬音、オノマトペ、外来語
   ・日本文学と海外文学の違い(最小限の言葉で最大限の情報を伝達するスキル)
   ・改行のテクニック(改行は、文章のリズムを作るうえでの数少ないテクニック)
質疑応答
   ・「副詞はなるべく入れるな」は正しい?(読んでいて心地よい文章かどうか)
   ・推敲の方法(その日の仕事を始める前に、必ず前回書いた文を読み返す)

第8回 長編に挑む
   ・設計図と分量配分
   ・冒頭シーンは何度も書き直せ(「新宿鮫」の冒頭シーンの解説)
   ・主人公を印象づけろ
   ・強いキャラクターを複数つくる(「新宿鮫」の「ロケットおっぱいのロッカーの晶」、「まんじゅう(死人)の上司・桃井」)
   ・中だるみを防ぐには謎を解け
   ・一つ目の謎を解き、新たな謎を作る
   ・クライマックスは二度用意する
   ・自分を遊ばせてあげよう(「生きた会話」が書けたのは、私自身、楽しんで書いていたから)
   ・推敲まで作品を寝かせる(時間をあけることによって、あたかも他人の文章を読むように自分の文章を読み返すことができる)
   ・描写に困ったときの虎の巻(「天・地・人・動(動物)・植(植物)」)
   ・読者はMで、作者はS(主人公に対しても読者に対しても、作者は意地悪にならなければならない)
   ・強いタイトルを考えろ
編集者から長編小説への注文 
   ・読者を楽しませる、サービスしてあげるという気持ちは絶対に必要
   ・冒頭の10〜20枚で読者を引き込むように書く
   ・読者を冷静にさせてはいけない
   ・どうすれば読者をもう一度水中深く引っ張り込むことができるのか?
   ・何枚かに1回は山場をつくる、「引き」をつくるという意識を持つ
   ・小さな謎をちりばめておいて、それをところどころで解決していくことで読者を引っ張り続ける
   ・時代の空気を取り入れろ
質疑応答
   ・短編向きのテーマ、長編向きのテーマとは?
   ・思いついたことは作品にすべて注ぎ込むか?
   ・知らない世界をどう描くか?
   ・冒頭から順番に書くべきか?(成功している小説は、おそらく頭から順番に書かれたもの)

第9回 強い感情を描く
   ・面白い物語を作る技術は教えられない
(アイデアの出ない人はプロになれないし、万一プロになれたとしても、もたない)
   ・「作家になりたい」という人生は続く
(とにかく本をたくさん読むこと。それ以外にない。自分の中の蓄積、引き出しが少なすぎる)
   ・作家としての人生もいろいろある
(読むことが好きで好きで読み過ぎて、そこから今度は書きたいという気持ちに転換した、そういう自分を自覚している人でなければ作家にはなれない)
   ・回り道を恐れるな
(プロになっても、引き出しが少ないために苦労している人は実はたくさんいる。書く時間よりも読む時間をはるかに多く持ち、どんどん読んで、どんどん引き出しを増やして、アイデアを膨らましている人が作家を目指している)
  ・足りないものをどう埋めていくか(結局、「才能がなければダメですよ」)
  ・技術は教えられるが才能は教えられない(アイデアが出せなければ、作家になる才能がない。とにかく頭をひねることに尽きる)
質疑応答 
  ・ラストから逆算して書いてもよいか?(人間を駒にしてしまう危険性がある)

第10回 デビュー後にどう生き残るか
  ・プロ小説家の心得(専業か兼業か)
  ・編集者とのつき合い方(「頼りすぎずに頼ること」)
  ・作家同士のつき合い方(北方謙三とのつき合いを紹介している)
  ・パーティに出よう
  ・仕事の依頼は断るな(締切厳守で書くこと)
  ・読者は大切なお客様である(横柄に振る舞うような人は最悪)
  ・出版界の厳しい現実
(直木賞作家でも初版1万部という人がたくさんいる。文庫書き下ろしは約60万円の収入で終わり。それでも文庫書き下ろしの仕事をしている作家は多い)
  ・本を作る仕事は出版社にとって先行投資(一人でも売れる作家が出てくれば元が取れる)
  ・マスメディアとのつき合い方(テレビでよく見る作家で、ちゃんと小説も書いているという人はとても少ない)
  ・「先生」とは呼ばせるな
  ・インターネットの評価は気にするな
  ・デビュー後の5冊が勝負(受賞第1作がダメならば、この作家はダメとなる)
  ・直木賞ぐらいでおたおたするな(直木賞を取ることにエネルギーを使い果たして、燃え尽き症候群になってしまう)
質疑応答
  ・持ち込みでのデビューは可能か?
  ・一般のエンターテインメント小説で「偏差値の高い」新人賞は?
  ・自分にはこれしか書けないというものに対して、愚直なまでに信じて書く
  ・新人賞への挑戦は何回くらい(3回から5回くらい)

第二部 受講生作品講評
課題は次の4つだ。それぞれのテーマにつき9人前後の受講生の作品のあらすじが紹介され、大沢在昌が論評している。

A ラストで「ひっくり返す」物語を書く(原稿用紙40枚)

B 「自分の書きたい世界」を書く(原稿用紙50枚)

C テーマ競作「バラ」と「古い建物」を入れた物語を書く(原稿用紙40枚)

D テーマ競作「恐怖」の感情を書く(原稿用紙30枚


本当に小説家を目指す人には、作品のどのような点が、どう評価されるのかわかるので、大変参考になると思う。「人のふり見てわがふり治せ」という言葉がある。第二部の受講生作品講評も、しろうとの作文とバカにせずに、じっくり読むと、大変参考になる。

この本には収録されていないが、最後に「卒業制作」としてテーマは自由で、原稿用紙250枚から400枚くらいの長編小説が課題として出されている。締切は約5か月で、良い作品があれば角川書店から単行本として出版されることになる。


以上、目次の補足のようなあらすじとなったが、これでも全部の目次の半分程度である。いかに講義の内容が濃いか、わかると思う。

冒頭に記したように、筆者が最近、他人に進めている本のナンバーワンだ。こんな本は、いままで読んだことがない。大沢在昌のパイオニア精神、後輩を育てようとする真摯な姿勢には感心する。

実に様々な味わい方がある本である。


参考になれば投票ボタンをクリック願いたい。



  
Posted by yaori at 10:07Comments(0)TrackBack(0)