2013年06月29日

実録 アルコール白書 吾妻ひでおと西原理恵子のアル中談義

実録! あるこーる白書実録! あるこーる白書 [単行本(ソフトカバー)]
著者:西原理恵子
出版:徳間書店
(2013-03-15)

人気絶頂の時にアルコール依存症のため仕事場へ向かう電車と反対方向の電車に乗って、失踪したロリコンマンガ家とアルコール依存症の戦場カメラマンの夫を持った女性マンガ家の対談。

もう一人アルコール依存症を克服した月乃光司さんという編集者が対談に参加している。

吾妻ひでおは筆者の好きなマンガ家なので、このブログでは失踪から復活第一弾の「失踪日記」「逃亡日記」のあらすじを紹介している。

失踪日記失踪日記 [コミック]
著者:吾妻 ひでお
出版:イースト・プレス
(2005-03-01)

逃亡日記逃亡日記 [単行本]
著者:吾妻 ひでお
出版:日本文芸社
(2007-01)

ちょっと長いが、YouTubeに「実録! あるこーる白書」の出版記念イベントで、西原(さいばら)理恵子さんと吾妻ひでお、月乃光司さんのトークショウが収録されている。



筆者は高校生の時に吾妻ひでおのマンガを初めて読んだが、吾妻ひでおの姿を見たのは、このYouTubeがはじめてだ。赤塚不二夫などと違って、あまりコミカルな感じがしない風貌で、ちょっとイメージが違う。

この本はアマゾンの「なか見!検索」に対応していないので、「なんちゃってなか見!検索」で、目次を紹介しておく。

第1章 依存前日譚 あなたにとってお酒とは

第2章 依存症体験録 やめられない とまらない

第3章 依存症風運記 なんと体は正直な!

第4章 依存体験見聞 優しいだけでは破滅する

第5章 病棟事情拾遺 認める決意がありますか

第6章 集団的治療圏 酔えない日々の過ごしかた

第7章 恒久依存対処法 すべらない話をしよう

第8章 依存談話結論 明日のために啓蒙を!

マンガ家二人の本なので、マンガもまじえた本だと思って読んでみたが、目次を見てもわかる通り、内容はアルコール依存症の体験談とアルコール依存症の夫(鴨志田穣=戦場カメラマン)に苦しめられた妻のシリアスな話だ。

筆者は今年2月から本格的ウェイトトレーニングを再開したが、それからウチで酒を飲む機会はめっきり減った。

もっぱらプロティンドリンク(筆者の場合には、紀文の調整豆乳にゴールズジムのホエィプロテイン・プレーンをシェイクして混ぜる)を一日2−3杯飲んでいる。

紀文 調整豆乳 1000ml  12本セット(6本×2) 常温保存可能紀文 調整豆乳 1000ml  12本セット(6本×2) 常温保存可能 [その他]
商標:紀文







GOLD'S GYM ホエイプロテイン プレーン(ノンフレーバー) 900gGOLD'S GYM ホエイプロテイン プレーン(ノンフレーバー) 900g [その他]
商標:GOLD'S GYM(ゴールドジム)







プロテインを飲んでいると、酒を飲もうという気にならない。

会社や仲間との飲み会では普通に飲んでいるが、ウチでは酒を飲もうという気にならない。

以前だと、夕食の際には、昔は赤ワイン、東日本大震災後は、東北支援の意味もあって日本酒を飲んでいたが、今は酒の代わりにプロテインドリンクを飲んでいる。

今までは、休肝日が週に1日か2日という生活だったが、今は酒を飲む日が週に1日か2日となっている。

嗜好というものは、生活習慣で変わるものだ。

アルコール依存症の人に、「酒を辞めるには、ウェイトトレーニングとプロテインドリンクがいいですよ」といっても、効果があるかどうかわからないが、シリアスなウェイトトレーニングをすれば、たぶん体質が変わって、効果は出ると思う。

閑話休題。

この本の話題はアルコール依存症からいかに脱却するかというものなので、アルコール依存症の専門病院の長谷川病院や、久里浜医療センターなどが紹介されている。

アルコール依存症の場合、禁断症状が出て苦しがっている本人を、家族が助けて飲ませてしまうと、家族が「イネーブラー」となって、問題が解決しない。だから「キーパーソン」となって、絶対に飲ませないようにして問題解決に当たって欲しいという。

西原理恵子は、夫の戦場カメラマンの鴨志田穣に、さんざんひどいことをされた思いでを書いている。鴨志田穣と離婚した後、鴨志田がガンとなって事実婚として復縁。

鴨志田が42歳で死ぬと、葬式では喪主となったが、鴨志田の墓を柄杓(ひしゃく)で殴りつけたり、子供たちも墓にパンチを食らわせたりしたという。聞くに堪えないような話を明かしている。


女性の感情はポイントカード

西原さんは、女性の感情はポイントカードなのだという。

日常の細かいことをポイントカードにハンコで押して、ポイントを貯めているので、ある一言で50ポイントに達して、ポイント還元キャンペーンが始まって、急に怒り出すのだと。

アルコール依存症の夫を持った奥さんたちは、ポイントカードがとっくに2,000ポイントくらい貯まっているので、些細なことでキャッシュバックキャンペーンが始まるのだと。

ちょっとやそっとじゃ消化しきれない。もうパンパンなのだと。

なるほどと思う。


自助グループのAA

アメリカには1930年代に誕生したAA(アルコホリック・アノニマス)という団体があり、日本でも「無名のアルコール依存者たち」という会がある。

あくまで「無名のアルコール飲酒者」の団体で、代表もいない。会員制もないので、誰にも本名を知らせずに匿名のまま参加できる。

現在日本のメンバーは数千人規模だという。

AAで特筆すべきは、スポンサーという制度で、メンバーひとりひとりが先輩メンバーをスポンサーに選び、その人から個人的な問題についてアドバイスをもらえるシステムを取っている。

吾妻ひでおは断酒して10年以上経っているという。今はほそぼそと時々作品を発表するくらいだが、もともと独特のユーモアのある作風のマンガ家なので、是非また活躍してほしいものだ。


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2013年06月25日

鉄の骨 池井戸潤さんのゼネコン小説

鉄の骨 (講談社文庫)鉄の骨 (講談社文庫) [文庫]
著者:池井戸 潤
出版:講談社
(2011-11-15)

池井戸潤さんの作品を最近いくつか読んでいる。

前回紹介した朝井リョウの作品は、高校生や就活生が主人公なので、筆者のようなおっさんには感情移入が難しいが、池井戸さんの作品は企業小説が多いので、無理なく感情移入できる。

以前紹介した「バブル組」シリーズのように、ほとんどマンガだ。

オレたち花のバブル組 (文春文庫)オレたち花のバブル組 (文春文庫) [文庫]
著者:池井戸 潤
出版:文藝春秋
(2010-12-03)

巨大土木プロジェクトをめぐる熾烈な入札競争と、政財官を巻き込んだ談合を題材とした作品だ。

日本の建設業の関係者は540万人で、就業者の12人に一人が建築業界の関係者だ。

そのほとんどが中小零細企業で、体力のない土建業に従事して、細々と食っている。なんとか食えるのは、談合があるからだと。

昔ながらの代議士をバックにしたフィクサーが登場する。
このフィクサーが「小説のトゲ」だ。

しかし、ひと昔前なら談合はありえたかもしれないが、今は内部告発の恐れもあり、コンプライアンス上、談合などやっている会社は到底存続できないと思う。

その意味では、いかにもありそうなストーリーだが、筆者はマンガではないかと思った。

ともあれ、小説はエンターテインメントなので、現実味はともかく、楽しめればよい。

最後のどんでん返しには「これは、ちょっと、あんまりなんじゃないか?」と、驚くとだけ言っておこう。

単行本では500ページ強の作品だが、中だるみもなく一気に読める作品である。


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2013年06月24日

日本が震えた皇室の肉声 文芸春秋90周年記念誌

日本が震えた皇室の肉声 (文春MOOK)日本が震えた皇室の肉声 (文春MOOK) [ムック]
出版:文藝春秋
(2013-03-01)

文芸春秋に掲載された皇室関係の記事の特集号。

この本は、おおざっぱに分けると、次のような構成になっている。

1.東日本大震災と皇室
冒頭に東日本大震災に際しての2011年3月26日に発表された天皇の御言葉が掲載されている。
地震、津波、原発事故の被災地の国民を励まされる天皇・皇后両陛下や、皇太子殿下・妃殿下他の皇族の献身的な活動を伝える川島侍従長の一文が、写真とともに紹介されている。

2.嫁ぐ娘を送る父の気持ち
皇后陛下の実父・正田英三郎(元日清製粉社長)と、小和田国際司法裁判所判事夫妻の文が紹介されている。皇后陛下が平民として天皇に嫁いだ最初の例だ。当時の写真を見ても、この本のいろいろなところに紹介されている皇后陛下のエピソードを読んでも、畏れおおいことながら、今上天皇陛下は、本当に良い決断をされたと思う。

表紙写真も本当にいい写真だし、皇后陛下のご結婚前の写真や、皇太子殿下がご幼少の時のご一家の写真なども多く紹介されていて、興味深い。

皇后陛下のエピソードとしては、東日本大震災の時は、地震直後にガラスの引き戸をすぐに少し開けて、外への出口を確保されるなど、ゆがみで戸が開かなくなることを危惧しての実家のお母様の教えをいつも守られていることが紹介されている。

また、津波の被害を受けた奥尻島を訪問した時に、皇后様が子どもの頃読んだ教科書の「稲むらの火」のことを語られたこともあり、その後小学校の教科書には「稲むらの火」が取り上げられているとのことだ。

津波!!命を救った稲むらの火津波!!命を救った稲むらの火 [大型本]
著者:小泉 八雲
出版:汐文社
(2005-04)

この本の半分くらいは皇后陛下に捧げられたものと言ってもよい内容である。

3.大きなコンテンツとしてはこのブログでも紹介した単行本になっている「昭和天皇独白録」が収録されている。

昭和天皇独白録 (文春文庫)昭和天皇独白録 (文春文庫) [文庫]
著者:寺崎 英成
出版:文藝春秋
(1995-07)

4.皇族同士(高松宮殿下・妃殿下、三笠宮寛仁殿下、秩父宮妃殿下)のざっくばらんな座談会や、三笠宮寛仁殿下の女系天皇反対論、三笠宮寛仁親王家の二人の女王姉妹のインタビュー、故・高円宮憲仁殿下の韓国公式訪問記などは、貴重な資料だ。

皇室の系図は次の通りだ。

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出典:Wikipedia

女系天皇反対論

この本を読んで、女系天皇に反対する理由がはっきりわかった。三笠宮寛仁殿下は天皇家の尊さは、2,600年も男系で継続してきたファミリーという事実にあると主張されている。

これは、このブログで紹介した旧・竹田宮家出身の竹田恒泰さんの「語られなかった皇族たちの真実」や、生物学者の竹内久美子さんの「万世一系のひみつ」と同様の議論だ。

語られなかった 皇族たちの真実 (小学館文庫)語られなかった 皇族たちの真実 (小学館文庫) [文庫]
著者:竹田 恒泰
出版:小学館
(2011-02-04)

遺伝子が解く!万世一系のひみつ (文春文庫)遺伝子が解く!万世一系のひみつ (文春文庫) [文庫]
著者:竹内 久美子
出版:文藝春秋
(2009-05-08)

三笠宮家の女王姉妹は、「お前たちは結婚したら民間に行く身だから」と小さい時から教育を受けてきたと語り、皇族に選択権はないことながら、皇族として残るなら子供のころから、そのように教育すべきだと語っている。

三笠宮寛仁殿下は昨年ガンで亡くなったが、この本での櫻井よしこさんのインタビューでは、「高校生の頃、はたと気がついたら我々には同業者が16人しかいなかった」と語っている。

三笠宮寛仁殿下、高円宮憲仁殿下など、既に多くの男系皇族がなくなっており、それぞれの家には男系の皇族はいないので、これから女王がどんどん結婚されていくと思うので、今は同業者は16人もいないだろう。

三笠宮寛仁殿下は、学習院の初等科の時のクラスメートに、「お前たちは俺たちの税金で食わせてやっているんだ」と言われたというが、皇族は皇族資産から支給される歳費(櫻井よしこさんは3,000万円程度と語っている)で暮らしているが、営利事業には関与できない。苗字もなく、医療保険もなく、選挙権も被選挙権もない。皇族の基本的人権は認められていないのだ。


女系天皇反対の例示

女系天皇については、三笠宮寛仁殿下は次の様な例を出している。

「畏れおおいたとえですが、愛子様がたとえば鈴木さんという男性と結婚されて、そこから玉の様なお子様が生まれれば、その方が次の天皇様になられるわけです」。

「そのお子様が女のお子様でいらした場合、さらにたとえば佐藤さんという方と結婚されてーーーというふうに繰り返していけば、百年もたたないうちに天皇家の家系というのは、一般の家と変わらなくなってしまいます」。

「その時、はたして国民の多くが、天皇というものを尊崇の念で見てくれるのでしょうか。『私の家系とどこが違うの』という人が出てこないとは限らないわけです」。

「天子様を戴くシステムを突き詰めて考えれば、先ほども言いましたように連綿と続く男系による血のつながりそもののなのですから」。

「この女系天皇容認という方向は、日本という国の終わりの始まりではないかと、私は深く心配するのです」。

「せっかくサミュエル・ハンチントン教授が、『文明の衝突』で、日本は世界でも独自の文明を持つひとつだと書いてくれたのに、それを台無しにしてしまうのは、いかにも残念なことです」。

文明の衝突文明の衝突 [単行本]
著者:サミュエル・ハンチントン
出版:集英社
(1998-06-26)


5.その他資料
たとえば天皇陛下の「サイエンス」誌に掲載された「日本の科学を育てた人々」という論文が掲載されている。

これでは「解体新書」、「蘭学事始」などの蘭学研究から、日本に医者として来日したツェンベリー(植物学者)や、シーボルトなどの影響を紹介している。

故・高円宮殿下は、日韓ワールドカップの際の今上天皇の発言「桓武天皇の生母が百済の寧王の子孫であると続日本紀に記されている ことに韓国とのゆかりを感じています」という発言は、日韓関係を戦後の50年というスパンでなく、1,000年を超える古いつきあいがあったことを忘れてはならないというメッセージだと語っている。

これについては、YouTubeに、冒頭に天皇の発言そのものを含んでいる、メッセージ・ビデオを紹介しておく。



文芸春秋には貴重な作品が多く掲載されているが、このように皇室関係だけを集めて特集本とすると、まとまった作品になる。

大変参考になる本である。


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2013年06月19日

たたかうソムリエ 世界最優秀ソムリエコンクール チリ大会

たたかうソムリエ - 世界最優秀ソムリエコンクールたたかうソムリエ - 世界最優秀ソムリエコンクール [単行本]
著者:角野 史比古
出版:中央公論新社
(2013-02-22)

2010年にチリで開催された第13回世界最優秀ソムリエコンクールを取材したNHKのディレクターが書いたドキュメンタリー。

YouTubeにも表彰式が掲載されている。



チリ大会の時のASI(国際ソムリエ協会)の会長はこのブログでも「生涯ソムリエ」を紹介している小飼一至さんで現在の会長は知名度抜群の田崎真也さんだ

生涯ソムリエ生涯ソムリエ [単行本]
著者:小飼 一至
出版:エフビー
(2008-12)


チリ大会の次は2013年3月末に東京で、第14回世界最優秀ソムリエコンクールが開催された。



大会の速報も日本ソムリエ協会のホームページで公開されている。

コンクールのブラインドテイスティングなどの審査員は、過去のソムリエコンクールの優勝したソムリエたちが務める。トップでなければトップの感性を採点することはできないのだ。

チリ大会はチリ最大のワインメーカー、コンチャ・イ・トロの支援を受けて開催された。ランチパーティはコンチャ・イ・トロ社のブドウ畑で開催された。

コンクールの出題内容は、毎回変えられている。

ブラインドテイスティングは準々決勝から決勝まで必須だが、ほかには出されたアルコール飲料の名前を当てるテスト、ワインリストの間違い探し、ブドウ畑の写真を見て、それがどこの産地か当てるテスト、サービング実技コンテストなどがある。

次が2010年チリ大会で出されたアルコール飲料だ。

1.チュニジア ブーカ・ボコブサ オー・ド・フィグ
2.フランス ウィエイユ・プルネ マスネ
3.スコットランド ハイランド・モルト・アンド・モア・ウィスキー
4.フランス コニャック ヘネシー VSOP
5.チリ ピスコ リゼルバ・ド・マル・パソ
6.スウェーデン ウォッカ アブソルート
7.イタリア シナモン・シュウェップス・リカー
8.南アフリカ アマルーラ

決勝進出者はこのうち4〜6品目を当てている。

ワインリストの間違い探しは、Grand CruをPremier Cruと誤記しているなどの例だ。

写真を見て、それがどこの産地か当てるテストで出題されたブドウ畑は、次のような場所だ。

1.南アフリカ テーブルマウンテン
2.スペイン カナリア諸島 ランサローテ
3.アメリカ カリフォルニア オーパス・ワン
4.イタリア リグーリア チンクエテッレ
5.フランス ボルドー シャトー・ピション・ロングヴィル・バロン

サービングでは、わざとシャンパンの栓を強力な金属のワイヤーで固定して栓を開けにくくして、沈着な対応を見るテストが出題された。

他にもマニアックとしかいいようがない問題ばかりだ。

落とすための試験としか言いようがない。

こんなコンテストを勝ち抜くソムリエは、毎回のように挑戦して、何度かの挑戦の後で、やっと優勝するという人ばかりだ。

2013年の東京大会で優勝したスイスのソムリエも、2010年のチリ大会の決勝進出者だ。

コンテストの細かい内容がわかって面白いが、ディープな理解が求められるマニアックな問題ばかりなので、ワイン好きでないと飽きてしまうかもしれない。

まずは上記で紹介したYouTubeの映像を見て、興味がわいたら一読することをお勧めする。


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2013年06月18日

マッキンゼー流入社1年目の問題解決の教科書 これが教科書?

マッキンゼー流 入社1年目問題解決の教科書 [単行本]
マッキンゼー流 入社1年目問題解決の教科書
マッキンゼー流 入社1年目問題解決の教科書 [単行本]
著者:大嶋 祥誉
出版:ソフトバンククリエイティブ
(2013-04-27)

エクゼクティブ・コーチングなどの人材育成コンサルタント会社、センジュヒューマンデザインワークス社長の大嶋祥誉(さちよ)さんの本。

大嶋さんは、上智大学卒業後、米国デューク大学でMBAを取得。マッキンゼー勤務のあと、ウィリアム・エム・マーサーワトソン・ワイアット、三和総合研究所などの人材コンサルティング会社やヘッドハンターで勤務した後、2002年に独立した。

編集者は「マッキンゼー流」というタイトルをつけて、売らんかなという姿勢なのだと思うが、アマゾンの、カスタマーレビューでも辛口のコメントが多いようだ。

この本はアマゾンの「なか見!検索」に対応しているので、ここをクリックして目次を見てもらえれば、大体の内容が推測できると思う。

著者の大嶋さんは、独立して人材育成コンサルタント会社を興しているのは、スゴイとは思うが、マッキンゼー流のフレームワークを学ぶのであれば、読むべきなのは、この本ではない。

このブログで紹介している「ロジカル・シンキング」と、「ロジカル・ライティング」の2冊だ。

ロジカル・シンキング―論理的な思考と構成のスキル (Best solution)ロジカル・シンキング―論理的な思考と構成のスキル (Best solution) [単行本]
著者:照屋 華子
出版:東洋経済新報社
(2001-04)

ロジカル・ライティング (BEST SOLUTION―LOGICAL COMMUNICATION SKILL TRAINING)ロジカル・ライティング (BEST SOLUTION―LOGICAL COMMUNICATION SKILL TRAINING) [単行本]
著者:照屋 華子
出版:東洋経済新報社
(2006-03-24)

これらの本の著者の照屋さんは長年、マッキンゼー等で、コミュニケーションのプロとして多くのコンサルタントを教えている。

筆者も読んで、当時大学生だった長男にプレゼントした。

長男は昨年就職して、現在はある会社の地方の寮にいる。

家から持っていた本の中には、「ロジカル・シンキング」と「ロジカル・ライティング」そして、バーバラ・ミントの「考える技術、書く技術」が入っていた。よほど気に入ったようだ。

考える技術・書く技術―問題解決力を伸ばすピラミッド原則考える技術・書く技術―問題解決力を伸ばすピラミッド原則 [単行本]
著者:バーバラ ミント
出版:ダイヤモンド社
(1999-03)

照屋さんの本こそ、フレームワークのことを理解するための必読書だということを、この本を読んで、あらためて気づかされた。

2冊とも2,300円と結構高いので、どちらか一冊ということなら、「ロジカル・ライティング」をおすすめする。

照屋さんの「ロジカル・シンキング」は2001年発刊の本、バーバラ・ミントの「考える技術・書く技術」は1999年の本だが、どちらも、いまだにアマゾンの売り上げ600位くらいに入っている。

本物の「教科書」はどういうものかがわかるだろう。


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2013年06月15日

オレたち花のバブル組 池井戸潤さんの半沢直樹シリーズ第2弾

オレたち花のバブル組 (文春文庫)オレたち花のバブル組 (文春文庫) [文庫]
著者:池井戸 潤
出版:文藝春秋
(2010-12-03)

このブログで「ロスジェネの逆襲」や「下町ロケット」「空飛ぶタイヤ」を紹介した直木賞作家・池井戸潤さんの「半沢直樹」シリーズ。

下町ロケット下町ロケット [ハードカバー]
著者:池井戸 潤
出版:小学館
(2010-11-24)

空飛ぶタイヤ(上) (講談社文庫)空飛ぶタイヤ(上) (講談社文庫) [文庫]
著者:池井戸 潤
出版:講談社
(2009-09-15)

「オレたちバブル入行組」が第1弾で、この作品が第2弾、前回紹介した「ロスジェネの逆襲」が半沢直樹シリーズの第3弾だ。

オレたちバブル入行組 (文春文庫)オレたちバブル入行組 (文春文庫) [文庫]
著者:池井戸 潤
出版:文藝春秋
(2007-12-06)

小説のあらすじはいつも通り詳しく紹介しない。この本はまるでマンガだ。「ありえない展開」ばかりで、あきれると同時に面白い。

銀行員が、反対派の取締役や常務を相手に、こんな具合に立ちまわる。

「大和田常務に伝えていただけませんか。常務ともあろう方が派閥意識にとらわれてどうするんです…」

「もしあんたがまともなバンカーなら、おそらく自分のしたことを後悔しているはずだ。この報告書の内容を素直に認めるつもりがあるのかないのか、それを確かめにきた。認めるのなら、取締役会で証言してもらいたい…」

金融庁の検査官は「オネエ」という設定だ。

「もう結構。この前と変わらないじゃないの。いやよねえ。こういうの出してくるなんて。失礼しちゃうわ…」

オネエの検査官にもきっぱり対抗する。

「…正常債権として扱ってなんら問題はありません。…ナルセンの破綻など、もはや全く問題になりませんのでご安心ください。さて、他に何か質問がありますか、黒崎さん…」

「オレは、基本は性善説だ。だが、やられたら、倍返し」という半沢のポリシー通りの展開だ。

7月7日からTBSの東芝日曜劇場での「半沢直樹」シリーズのドラマ放映が始まる。

大変楽しめるエンターテイメント作品である。


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2013年06月13日

漁業という日本の問題 ニシンは絶滅 このままだと日本の漁業資源は枯渇する!

日本の魚は大丈夫か―漁業は三陸から生まれ変わる (NHK出版新書 360)日本の魚は大丈夫か―漁業は三陸から生まれ変わる (NHK出版新書 360)
著者:勝川 俊雄
NHK出版(2011-09-08)
販売元:Amazon.co.jp

ひとことでいうと「乱獲」に他ならない日本の漁業の実態を、するどく解明する三重大学准教授の勝川俊雄さんの本。

勝川さんは、ほかに「漁業と言う日本の問題」などの著書もある。

漁業という日本の問題漁業という日本の問題
著者:勝川 俊雄
エヌティティ出版(2012-04-12)
販売元:Amazon.co.jp

両方読んでみたが、ほぼ同じ内容で、「日本の魚は大丈夫か」では放射能汚染についても触れているので、こちらを買った。ひさしぶりの読んでから買った本である。

勝川さんはYouTubeにも日本の漁業改革について英文で投稿している。説明している内容はこの本とほぼ同じだ。著者の勝川さん自身が吹き込んでいるわかりやすい英語なので、参考になる。



日本の漁業の最大の問題は、「乱獲」

日本では「オリンピック方式」で、日本の漁業者であれば誰でも「よーい、ドン」で参画できる。

それゆえ、いずれ高く売れる成魚になる幼魚でも、逃したら他の誰かが捕ってしまうので、肥料や飼料用にしか売れないような安い値段にもかかわらず、網で根こそぎ捕っていってしまう。

だから漁獲量が年々減少し、漁業者は自分で自分の首を絞めているのだ。

いままで漁業の問題については、韓国漁船や中国漁船が日本の排他的経済水域内に来て、勝手に魚を捕っていくことが問題だと思っていたが、実は乱獲を放置している日本の水産行政が最大の問題だった。

たとえば東シナ海の底曳(そこびき)網漁業の漁獲量の推移は次の通りだ。

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出典:本書39ページ

最新の魚群探知機を備えた大型漁船による魚を文字通り「一網打尽」にする底曳網漁法で、漁獲量がこれだけ減少しているということは、漁業資源が乏しくなっていることに他ならない。


漁獲割り当ての絶大な効果

一方、たとえばノルウェーでは次の表のように漁業生産額が毎年増加している。

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出典:本書118ページ

日本とノルウェーとの差は、漁獲量割り当てがあるかないかだ。


世界の水産先進国では当たり前の漁獲割り当て

ノルウェー以外でも、世界の水産先進国を見てみると、いまや資源保護のために漁獲割当制が当たり前となっている。

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出典:60ページ

つまり漁業も管理漁業の時代になっているのだ。

ノルウェーでは漁船ごとに漁獲枠を配分しているので、他人をさしおいて自分だけ早く魚を捕りにいく必要がない。

だから日本のように早く魚群を見つけるためにエンジンを強化したり、強力なソナーを設置する必要がない。

魚の相場を見て、高く売れそうな時に捕りに行き、魚をできるだけ高く売るために、フィッシュポンプをつけたり、捕った魚を冷やしておく冷凍設備などを充実させている。

たとえばサバで比較してみると、ヨーロッパと日本では大きな差がある。

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出典:本書

日本ではサバの漁獲量は激減しており、1970年代のピークの500万トンに比べて、近年では100万トンを割っている。

一方、ヨーロッパはピークの600万トンよりは減ったものの、400万トンくらいで安定しており、近年ではむしろ増加している。

漁獲の年齢構成でも大きな差がある。

日本では1980年ころまでは、漁獲の年齢構成はバランスが捕れていたが、1985年に漁獲高が激減して以降は、ほとんど0〜3歳の魚ばかりで、これでは親となって卵を産む前の幼魚を根こそぎ捕っている状態だ。

ヨーロッパでは、漁獲の大半を5〜6歳以上の成魚が占めており、日本の年齢構成とは大きな差がある。再生産ができる体制が維持できているのだ。

マグロについても同様だ。再生産のできない魚齢のものばかり日本では捕っている。

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出典:本書


ノルウェーのニシンは復活、日本のニシンはほぼ絶滅した

ニシンについても、漁獲高が激減した1970年代後半に禁漁措置を取り、資源を増やす努力をした結果、ニシン資源は回復し、それ以降も厳しい漁獲制限を実施している。一方、日本のニシンは乱獲のためにほぼ絶滅した。


魚の価値を高め、高く売るための努力

ノルウェーの漁業者は成魚を中心に漁獲し、魚を高く売る為の努力をしている。
YouTubeに勝川さんがノルウェーの漁業協同組合にインタビューした内容が掲載されているので、紹介しておく。



ノルウェーの漁業協同組合は、漁船から漁獲重量と体重組成の連絡を受け、インターネットのオークションで世界中に向けて売りに出す。

成魚のみ漁獲し、一定基準以下の幼魚は捕らないのだ。

入札参加資格は、水揚げ設備を持っている水産加工場なので、ノルウェー以外にもスコットランドなどの水産会社も入札に参加し、スコットランドの会社が落札すれば、漁船は直接スコットランドに行って水揚げするという形だ。

成魚を最も高く売るシステムができあがっているのだ。

漁協の手数料は0.65%と非常に低い。日本の漁業協同組合が、旧態依然としたセリで魚を売り、セリの参加者同士の談合を見て見ぬふりをしながらも5%の手数料を取ることと大違いだと勝川さんは語る。


イカ釣り漁船の集魚灯

先日の円安による燃料費高騰に抗議して、一部のイカ釣り漁船が一斉に2日ほど休漁することがあった。

日本ではこのようなイカ釣り漁民の苦境が報道されるが、なぜそういった事態になっているのかは報道されない。

日本の漁業は「オリンピック方式」なので、イカ釣り漁船は他の誰よりも早く漁場に到着して、他の誰よりも強力な集魚灯でイカを集めて釣る必要がある。

そのために強力なエンジン、高性能魚群探知機、そして高出力の集魚灯が必要なのだ。だから燃料費が高騰すると、たちまち採算割れという事態に陥る。

集魚灯も現在はLED集魚灯に変わって、電力消費は減っている。それでも宇宙から日本近海を見ると、集魚灯の明かりで煌々と照らされていることがわかる。(次のビデオの1:28から1:40あたりが日本の夜景)



韓国漁船や中国漁船も中にはいるのかもしれないが、世界中でこれほど明かりをつけて夜に漁をしている地域はない。

そもそもこんな「オリンピック方式」で、高いコストを掛けて、漁獲を競いあって維持可能なのだろうかと思う。


いままであまり知らなかった日本の漁業の問題点がよくわかった。水産庁や漁協の圧力があるのかどうかわからないが、この種の漁業問題を取り上げた本は少ない。

筆者が読んでから買った本の一冊だ。大変参考になると思う。


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2013年06月09日

ハーバード流宴会術 本はタイトルで売れ!?

ハーバード流宴会術ハーバード流宴会術
著者:児玉 教仁
大和書房(2012-11-24)
販売元:Amazon.co.jp

ハーバードMBA卒、三菱商事鉄鋼部隊出身で、現在はグローバルアストロラインズというベンチャー企業の代表取締役社長の児玉教仁さんの”日本流”宴会術。

児玉さんによると、ハーバードは、”パーティ・スクール”と呼ばれているほど、各種イベントやパーティが多く、生徒の多くはパーティの達人だったという。

しかし、このブログで紹介したマイクロソフト社長の樋口泰行さんの「愚直論」では、MBAの勉強中は、毎週数冊の本を読み、毎晩3時か4時まで必死に予習しないと授業についていけないと書いている。

「愚直」論  私はこうして社長になった「愚直」論 私はこうして社長になった
著者:樋口 泰行
ダイヤモンド社(2005-03-04)
販売元:Amazon.co.jp

”パーティ・スクール”と呼ばれているなどというノー天気な話は、正直信じられない。

ハーバード・ビジネススクールには卒業生の同窓会があり、日本でもHBS Club of Japanとして活動している。

著名経営者はじめ、ゲストの講演も多いはずなので、そいういったゲストとのパーティや、卒業生パーティなどで、パーティ術を身につけたのかもしれないと思って半信半疑で読んでみた。

まずは目次を紹介しておこう。この本はアマゾンの”なか見!検索”に対応しているので、ここをクリックしてこの本の目次を見てほしい。

コラムとしては、「外国人のパーティは必ず2人で行け」(日本人の友達と二人で行けと児玉さんはいうが、自分の友達だけと話すのはパーティのルール違反だと筆者は思うが…)などの外国人とのパーティ術があるが、それ以外は日本の宴会術についての本であることがわかると思う。

アマゾンのカスターマーレビューでも、辛口のコメントが多いようだ。

このブログで「入社1年目の教科書」、「超凡思考」などを紹介したライフネット生命保険副社長の岩瀬大輔さんが、”激推薦”と本の帯には書いてある。

入社1年目の教科書入社1年目の教科書
著者:岩瀬 大輔
ダイヤモンド社(2011-05-20)
販売元:Amazon.co.jp

超凡思考超凡思考
著者:岩瀬 大輔
幻冬舎(2009-02-10)
販売元:Amazon.co.jp

しかし、岩瀬さんは児玉さんとはハーバードMBAで同期で、MBA学生140人もの"Japan Tour"を一緒にオーガナイズしたという関係はあるが、別に岩瀬氏の推薦文が載っているわけではない。

ハーバードMBA卒の人が本を出すと、出版社は売らんがために「ハーバード流○○術」というタイトルで本を出したいようだ。

しかし、「ハーバード流」でも本物の「ハーバード流」がある。

たとえば「ハーバード流交渉術」は、ハーバード・ロースクールのロジャー・フィッシャー教授が代表者となっている"Harvard Negotition Project"(交渉術研究所)の研究成果で、いまやビジネス書の古典に属する名著だ。

ハーバード流交渉術ハーバード流交渉術
著者:ロジャー フィッシャー
阪急コミュニケーションズ(1998-03)
販売元:Amazon.co.jp

筆者はこの本を大変気に入ったので、英文の原著まで購入した。手元には1987年版のオーディオ・ブックがある。

Getting To Yes: Negotiating An Agreement Without Giving InGetting To Yes: Negotiating An Agreement Without Giving In
著者:Roger Fisher
Random House Business Books(2012-06-07)
販売元:Amazon.co.jp

本物の「ハーバード流」を知りたいのなら、こっちを読んだ方が良いだろう。


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2013年06月07日

インフレ目標政策 第一人者の伊藤隆敏教授が基本を解説

インフレ目標政策インフレ目標政策
著者:伊藤 隆敏
日本経済新聞出版社(2013-02-26)
販売元:Amazon.co.jp

インフレターゲット政策の提唱者の一人、東大公共政策大学院院長・伊藤隆敏教授のインフレターゲットの教科書。

2001年に同じ表紙デザインで出版された本を改訂したものだ。

インフレ・ターゲティング―物価安定数値目標政策インフレ・ターゲティング―物価安定数値目標政策
著者:伊藤 隆敏
日本経済新聞社(2001-11)
販売元:Amazon.co.jp

伊藤さんは福田内閣の時に日銀副総裁として指名されたが、参議院で多数を占めていた民主党の反対で実現しなかった経緯がある。

この本ではインフレターゲットの基本をわかりやすく説明している。部分によっては2001年の本のオリジナルな記述をそのまま残しているが、それらはほとんど現在実現している。

長い間、少数意見だったインフレターゲット論が、突如主流派になったことがわかる。

次がインフレターゲット政策を採用している主要国一覧だ。

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出典:本書36〜37ページ

これに2012年から米国、そしてついに2013年から日本が加わった。

上記の表の主要国がインフレターゲット政策を採用したのは、インフレを止めるためだったが、日本の場合はデフレを止めるためで、ほかの国とは異なる。

日本のこれまでの状況はデフレスパイラルに陥っていて、そのありさまは次の図のようになっていた。

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出典:本書88ページ

具体的な方策としては、長期国債の買い増し、ETF購入、REIT購入を提案している。この本では2001年のオリジナルな部分は「旧版のまま」という注釈をつけている。

これらは、いずれも「旧版のまま」の部分だ。このような具体策を2001年の段階で提言しているのだから、まさに先見性があるといえるだろう。

この本の最後に「反論に対する反論」ということで、次のような想定問答が紹介されている。

★インフレが止まらなくなるのではないか?

★年金生活者など国民に負担を強いるものではないか?

★長期金利が上昇して、銀行のバランスシート、実体経済に悪影響があるのではないか?

★インフレターゲティングの採用国は小国であり、大国は採用していないのでは?

★デフレはユニクロ現象のような良い物価下落で深刻な問題ではない。

★デフレは少子高齢化・人口減少のせいだ。

簡単に読めるインフレターゲティングの教科書である。


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2013年06月02日

モサド・ファイル イスラエル最強スパイとその敵列伝

2013年6月2日追記:

マイケル・バー=ゾーハーのスパイ小説「エニグマ奇襲指令」を読んでみた。小説のあらすじは詳しく紹介しないが、最後の史実に基づくどんでん返しが面白い。

エニグマ奇襲指令 (ハヤカワ文庫 NV 234)エニグマ奇襲指令 (ハヤカワ文庫 NV 234)
著者:マイケル・バー・ゾウハー
早川書房(1980-09)
販売元:Amazon.co.jp

エニグマはナチス・ドイツの暗号通信機として有名だが、実は第2次世界大戦がはじまる前にポーランドの情報部がエニグマを1台入手していた。

そのエニグマが英国に渡り、英国は暗号解読情報を「ウルトラ」として最高幹部のみに配布していた。

暗号解読によりコベントリー爆撃情報を事前に得ていたが、チャーチルはコベントリー市民に何の警報も出さなかった。暗号解読をドイツに疑われないためだ。

エニグマは複数の文字盤から構成され、文字盤は時々差し替えられた。



そのたびごとに沈没寸前のドイツのUボートや、船舶などから文字盤入手努力が続けられ、暗号解読がなんとか継続されたのだ。

ディスカバリーチャンネル Uボート 捕獲大作戦-エニグマ暗号を解読せよ!- [DVD]ディスカバリーチャンネル Uボート 捕獲大作戦-エニグマ暗号を解読せよ!- [DVD]
角川書店(2005-12-23)
販売元:Amazon.co.jp


2013年5月11日初掲:

モサド・ファイルモサド・ファイル
著者:マイケル バー=ゾウハー
早川書房(2013-01-09)
販売元:Amazon.co.jp

世界最強と言われるイスラエルの情報機関モサドのスパイや、モサドと敵対したテロ集団のリーダーなど21人の列伝。

イスラエルの元国会議員で、「エニグマ奇襲指令」や「ミュンヘン」などのスパイ小説を多く書いているマイケル・バー=ゾウハーとジャーナリストのニシム・ミシャルの作品。

ミュンヘン―オリンピック・テロ事件の黒幕を追え (ハヤカワ文庫NF)ミュンヘン―オリンピック・テロ事件の黒幕を追え (ハヤカワ文庫NF)
著者:マイケル,バー ゾウハー
早川書房(2006-01)
販売元:Amazon.co.jp

HONZに紹介されていたので読んでみた。HONZは書く人のノルマが決まっているためだと思うが、たいして面白くない本まで紹介しているので玉石混交だが、中には面白い本もある。

周囲をアラブ諸国に囲まれ、自前の核兵器は持っているものの、イラン、イラク、シリアなどで続けられる核開発の阻止のために、暗殺や空爆などあらゆる手段を使って自国を守っているモサドの活動を描いていて大変面白い。

この本で取り上げられている21の物語は、大別すると次の4パターンとなる。それぞれの代表的な章のあらすじを紹介しておく。


パターン1.モサドの主要人物の紹介

第1章 闇世界の帝王
YouTubeにもインタビューが掲載されているメイル・ダガン前モサド長官の話だ。


第1章では、ダガン長官のイスラエル国防軍時代のPFLPパレスチナ解放戦線のテロリストキャンプ奇襲など数々の功績が紹介されている。

ダガンの祖父はチェコでナチスに殺害された。この本では、撃たれる直前にナチスの前で法衣を着て抗議する祖父の写真を紹介している。ダガン長官はこの写真をデスクに飾っていたという。

ダガンは国防軍から引退していたが、アリエル・シャロン首相の選挙を手伝ったことから、2002年にシャロン首相からモサドのトップに任命された。

シャロン首相の口説き文句は、「口の中に短剣を隠し持つ男をモサド長官に据える必要がある」だったという。

ダガンは2011年までの9年間モサドのトップを務め、シリアの原子炉を破壊し、イランの核兵器製造計画をつぶし(第2章参照)、ヒズボラなどのテロリスト幹部を暗殺した。

第5章 「ああ、それ? フルシチョフの演説よ…」
KGBのスパイとなったモサドスパイのヴィクトル・グラエフスキの二重スパイとしての活動が紹介されている。

ヴィクトルはモサドのスパイになる前に、ポーランドの党書記長秘書からスターリン批判をしたフルシチョフの演説を数時間借りて、イスラエル大使館に持ち込んでコピーさせた。

フルシチョフは1956年に、スターリンは数百万人のロシア人と外国人を殺害した大量殺人犯であることを暴露していたが、西側はその情報をつかんでいなかった。

これが西側がスターリン批判を知る初めてのきっかけで、モサドはCIAに情報を提供して感謝された。ヴィクトルがモサドのスパイとなった後、KGBからスパイとしてリクルートされ、二重スパイとなった。

ヴィクトルは、長年モサドが都合よく編集したイスラエル情報をKGBに流して、KGBから勲章をもらった。その後モサドからも表彰され、ダブルで勲章を受けた初めての二重スパイとなったという。

第9章 ダマスカスの男
シリアで政権党のバース党に近づき、政財界の大物や夫人に多額の贈り物をして、最高権力を持つ実力者グループの一員となったエリ・コーヘンの物語。

シリア政府はヨルダン川の流れを変えて、イスラエルを水不足にしようという計画を進めていた。

エリ・コーヘンは、計画立案と工事を請け負ったサウジアラビア人実業家のビン・ラディン(オサマ・ビン・ラディンの父親)と親しくなって情報を入手し、イスラエルに無線で送信した。

イスラエルは情報に基づく正確な空爆で工事を中止に追い込んだ。シリア政府は毎晩送信される通信の出所を突き止め、エリ・コーヘンを逮捕する。

エリは公開処刑されたが、イスラエルの国民的英雄となった。


パターン2.イランを中心にアラブ世界でも核開発を推進しようとする動きを、何としても阻止しようとするイスラエルの動き

第2章 テヘランの葬儀
イランはシャー時代はイスラエルと同盟国で、イスラエルはイランの原子力発電所建設を警戒していなかった。しかし、イスラム革命が起こり、イラン・イラク戦争が勃発すると事態は一変した。

イランは核兵器開発を決断し、パキスタンからウラン濃縮技術を買い取って自前の核兵器生産計画に着手した。当初の敵はイラクだったが、その後はイスラエルが仮想敵国となった。

イランにウラン濃縮技術や設計図を売り渡したのは、パキスタンの死神博士と呼ばれるアブドゥル・カディール・カーン博士だ。

この本では多くの飛行機墜落事故や原因不明の爆発、ミサイル攻撃、自動車爆弾など、あらゆる手を使って、専門家を殺し、施設を破壊して、イランの核開発を遅らせたモサドの工作が暴かれている。

ダガン前モサド長官は、2011年に退任するときに、「イランの核計画の完成は少なくとも2015年まで延びた」と語ったという。

第8章 モサドに尽くすナチスの英雄
第2次世界大戦中、1943年9月にムッソリーニが反体制派のクーデターでアペニン山脈に幽閉されていた時に、ナチス空挺師団が救い出した。その一員のスコルツェニーは戦後スペインに移住して会社を経営していた。

1963年にモサドはスコルツェニーを訪問して、協力を要請した。当時エジプトがドイツ人のロケット科学者を多数リクルートして、ミサイル開発をしていたからだ。

当時のイスラエルのベングリオン首相は、西ドイツのアデナウアー首相と個人的な信頼関係を築いており西ドイツから砂漠の開発費用として多額の借款を受けたり、数億ドルの戦車、大砲、ヘリコプター、飛行機をユダヤ人虐殺の償いとして無償で提供を受けていた。

エジプトのミサイル開発に圧力をかけてもらうようにアデナウアーに要求して、西ドイツとの良好な関係を壊したくなかったイスラエル政府は、独自の解決方法を選ぶことにした。

スコルツェニーは、モサドが彼の命を狙わないことを条件に協力を約束し、エジプト国内で働くドイツ人科学者のリストなどの情報をモサドに提供した。

モサドはエジプトに協力しているドイツ人科学者のオフィスなどに手紙爆弾を送り付けたり暗殺を試みたりして妨害し、とうとうエジプトにミサイル開発を断念させた。

後日談として著者がV2ロケット開発者で、NASAの宇宙開発計画の責任者・ヴェルナー・フォン・ブラウン博士に米国のアラバマ州ハンツヴィルで会った時に、この時のドイツ人科学者リストを見せたら、「こうした二流科学者たちに、実戦配備可能なミサイルを製造できた可能性はごくわずかだろう」と語っていたという。

第15章 アトム・スパイの甘い罠(ハニー・トラップ)
イスラエルの原爆製造工場に勤務していたオペレーターのモルデカイ・ヴァヌヌが、カメラを持ち込んで原爆製造工場内のあちこちを撮影し、後に写真と詳細な図面などを英国の新聞の「サンデー・タイムズ」に売った1986年の事件。

イスラエルの原爆製造工場のディモナ研究センターの極秘の第2研究所は表向きは2階建ての建物だが、地下6階まである。

レイアウトは次のようなものだ。

2階    事務室とカフェテリア
1階    事務室と組み立て部屋
地下1階 パイプ配管とバルブ
地下2階 中央制御室と「ゴルダのバルコニー」と呼ばれる地下工場が一望できるテラス
地下3階 燃料棒の作業場
地下4階 (3階分の高さがある)燃料棒からプルトニウムを抽出する工場と分離施設
地下5階 冶金部門と爆弾の部品を製作する研究室
地下6階 廃棄物貯蔵所

このうち地下4階と地下5階が原子爆弾製造工場だ。

ヴァヌヌは、1986年にディモナ研究センターをクビになったあと、海外を旅行し、持ち出した写真とレイアウトなどを英国の「サンデー・タイムズ」に売った。

「サンデー・タイムズ」が出してきた購入条件は、即金で10万ドル、原稿の著作料の40%、出版した場合の著作権の25%、さらに映画化もありうるというものだった。

モサドは独身で世界をうろついているヴァヌヌに、ブロンドの「ファラ・フォーセットに似た美人」エージェントのシンディをアプローチさせ、英国政府の監視の目が厳しい英国から、ある意味どうにでもなるイタリアにヴァヌヌを連れ出し、イタリアで捕えてイスラエルに連行した。ハニー・トラップの典型である。

「サンデー・タイムズ」はヴァヌヌの情報に基づいて特集シリーズの連載を始め、イスラエルの原爆保有が10〜20基どころではなく、150〜200基の核爆弾を保有し、水素爆弾と中性子爆弾の製造能力を持っていることを暴露した。

第16章 サダムのスーパーガン
まさにフォーサイスの「神の拳」で出てきたサダム・フセインの巨大大砲建設計画だ。

神の拳〈上〉 (角川文庫)神の拳〈上〉 (角川文庫)
著者:フレデリック フォーサイス
角川書店(1996-11)
販売元:Amazon.co.jp


カナダの科学者ジェラルド・ブル博士は、スーパーガンに取りつかれ、サダム・フセインから注文を受けて、射程1、000キロ近く砲弾を撃ち込める「バビロン計画」を推進しようとした。

本物は長さ150メートル、重さ2,100トン、口径1メートルだが、その前に「ベビー・バビロン」と呼ばれる長さ45メートルの試作砲をつくることになった。

「パイプラインの部品」として欧州4カ国にオーダーされた部品は、着々とイラクに到着した時、ブルは何者かに拳銃で射殺された。1990年のことだ。

第18章 北朝鮮より愛をこめて
北朝鮮の協力により完成間近だったシリアの原子炉はイスラエル空軍の爆撃とミサイル攻撃で破壊された。

イスラエルのオルメルト首相は、トルコのエルドアン首相に連絡を取り、シリアのアサド大統領あての伝言を託したという。

「イスラエルはシリアと戦争する気はないが、隣国のシリアが核兵器を保有することは容認できない」という内容だった。

イスラエルの爆撃にもかかわらず、再度核施設を建設しようとしたスレイマン大統領補佐官はイスラエルの特殊機関の狙撃手に殺害された。


パターン3.元ナチスの戦争犯罪人や反イスラエルのテロリストを逮捕・暗殺しようとする動き

第6章 「アイヒマンを連れてこい! 生死は問わない」
ナチスでユダヤ人抹殺計画を立てたアドルフ・アイヒマンは、終戦直後の混乱に紛れ、南米に逃れ、妻子とアルゼンチンで偽名を名乗って暮らしていた。

アイヒマンはブエノスアイレス郊外の、Chacabuco 4261, Olivos, Buenos Airesという住所に住んでいて、同じく郊外のアベジェネーダに引っ越したところで、モサドに捕まって、秘密裏にイスラエルに移送された。1960年のことだ。

筆者は1978年から80年までの2年間、ブエノスアイレスの中心部に住んでいたが、アイヒマンがブエノスアイレスに住んでいたことは知らなかった。

Olivos(オリーボス)というのは、ブエノスアイレスの郊外で、どちらかというと高級住宅地なのだが、この本では貧しい地区と言っている。貧しい地区というのは、捕まったアベジャネーダの方だと思う。

アイヒマンは、「体調不良で引き返す乗務員」に仕立て上げられ、ずっと睡眠薬で眠らされ、医師同行のもとでイスラエルの国有航空会社エル・アルの飛行機のファーストクラスに乗せられ、イスラエルまで移送された。

この本では、まさに「スパイ大作戦」ばりの捕り物劇、囚人移送劇が展開されている。

アイヒマンは、1961年にイスラエルで裁判にかけられて死刑となり、1962年5月に絞首刑が執行された。アイヒマンの最後の言葉は、「また会おう…私は、神を信じて生きてきた…戦争法に従い、旗に忠誠を尽くした…」だったという。

アイヒマンの遺体は焼却炉で焼かれ、地中海に散骨された。

「死の天使」ことユダヤ人を生きたまま人体実験に使ったヨーゼフ・メンゲレもブエノスアイレスに本名を明かして住んでいた。アイヒマン逮捕が世界中で報道されたので、身の危険を感じて、ひそかにパラグアイに移住した。メンゲレは1979年2月に心臓発作で死亡するまで姿を隠したままだった。

第12章 赤い王子をさがす旅
1972年のミュンヘンオリンピックで、「黒い9月」と名乗るテロリストがイスラエルの選手村に潜入し、コーチと選手1人ずつを殺し、9人を人質に取った。西ドイツによる人質救出作戦は失敗し、人質全員が死亡した。

この事件はスピルバーグが映画にしている。



「黒い9月」はヨルダンのフセイン国王による自国内のテロリスト攻撃に反発したアラファトPLO議長がひそかにつくったテロリスト集団で、ミュンヘンテロ事件を計画したアリ・ハサン・サラメは、血塗られた「赤い王子」と呼ばれた。

「ミュンヘンの夜」事件は、ゴルダ・メイア首相を打ちのめし、モサドはテロリストに対する復讐・「神の怒り」作戦を開始した。赤い王子はベイルートで、自動車爆弾で殺害された。

第20章 カメラはまわっていた
テレビのバラエティ番組でも報道されたモサドの暗殺チームが、ハマスの指導者のアルマブフーフをドバイのホテルで殺害した事件。

YouTubeにもテレビ番組が掲載されている。



パターン4.第4次まで繰り返された中東戦争など、イスラエルとアラブの武力抗争にからむ動き

第10章 「ミグ21が欲しい!」
1966年にモサドはイラク人パイロットをそそのかして、当時の東側の最新鋭ジェット戦闘機のミグ21ごとイスラエルに亡命させた。

Mikoyan-Gurevich_MiG-21





出典:Wikipedia

イスラエルは米国と一緒にミグ21を徹底的に調べて弱点を研究した。その研究成果が実り、1967年に起こった第3次中東戦争では、イスラエル空軍は数時間でエジプト空軍を壊滅させた

亡命したイラク人パイロットは、イスラエル空軍のテストパイロットがミグ21をいとも簡単に操縦するのに驚き、「きみのようなパイロットが相手では、アラブ人は決して勝てないだろう」と語ったという。


世界最強のスパイ組織のモサドの暗殺や破壊活動を詳細に描いている。さすがイスラエルの国会議員までやった作家だけに、相当な情報をつかんでいる。

テロリストを国歌を挙げて抹殺しようとするモサドの姿勢は、国として生きていくために必要な暗殺なり爆破工作なのかもしれないが、今から4,000年も前のハンムラビ法典の「目には目を、歯に歯を」と同じ世界が、いまだに中東の現実であることに驚く。

きれいごとでは済まされない、血で血を洗う世界がまだそこにある。

イスラエルを取り巻く中東で何が起こったか、何が起こっているのかを知るために大変役立つ本である。


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