2013年08月29日

三匹のおっさん ふたたび 還暦探偵団が帰ってきた

三匹のおっさん ふたたび
有川 浩
文藝春秋
2012-03-28


以前紹介した有川浩の「三匹のおっさん」の続編。

三匹のおっさん (文春文庫)
有川 浩
文藝春秋
2012-03-09



登場する三匹はキヨ、シゲ、ノリの還暦三人組だ。

キヨは建設会社を定年退職して、系列のゲームセンター(アミューズメントパーク)の経理担当となっている。キヨは剣道の達人で、親から引きついだ剣道教室の師範をやっていたが、剣道教室は生徒不足で休業中だ。

キヨの孫の祐希(ゆうき)は高校3年生。アミューズメントパークでアルバイトをしていたが、今は受験勉強のためにアルバイトは辞めている。

シゲは居酒屋を息子に引き継ぎ、今は息子夫婦を手伝う柔道の猛者。いつもジャージを着ているガニマタのおやじだ。昔は国体で、現在の地元警察署長を投げ飛ばしたことがあるほどの腕前だ。

ノリは町工場の経営者で改造スタンガンや改造モデルガンなど、やたらアブナイ道具をコートの下に持ち歩く。ノリは男やもめで、娘の早苗と暮らしている。

早苗はキヨの孫の祐希とつきあっており、同じ大学を受験する予定だが、ノリに良い縁談が持ち上がり、そのせいで早苗の成績が下がってしまう…。

小説のあらすじはいつも通り詳しくは紹介しない。

60歳の還暦3人組という筆者の年齢に近いおっさん3人が、それぞれの特技を生かして犯罪を解決するという中高年探偵団のストリーだ。

今回はキヨの息子の嫁で、お嬢さん育ちの貴子が商店街でバイトする話、アミューズメントパークの駐車場で粗大ごみを持ち込む住人や、ゴミを持ち込んだり、タバコを喫っている中学生の不良予備軍、10年以上ぶりに神社のお祭りを復活させる話、隣町で自警団を始めたニセ三匹などといった話が展開する。

商店街の書店の万引き犯を懲らしめる話は、筆者の有川さんが思い入れを込めて書いている。

一冊の本を売って書店がどれだけ利益が上がるか(大体2割程度)、どれだけ経費が掛って、実質の儲けはどのくらいかなどを登場人物に語らせて、もし万引きで損失が出ると、そんな儲けはふっとんでしまうことを、万引き犯の中学生に教えるというストーリーだ。

有川さんは、ベストセラーが売れるおかげで、出版社はいろいろな本を出せるのだと語る。有川さんも、新人の頃は、同じ出版社の売れている作家の売り上げで本を出させてもらったのだと。

一冊の本にはいろいろな経費が載っており、その中には未来への投資も含まれる。だから、本を買うことで「未来の本に、未来の作家に投資したのだ」と誇ってほしいと訴える。

読者が本を買い支えてくれるおかげで、出版業界の私たちは本を出せているのだと。

三匹とは全く関係ない、「植物図鑑」とのクロスオーバー作品(いわばコラボ)のボーナストラック(おまけの話)、「好きだよと言えずに初恋は、」も面白い。

植物図鑑 (幻冬舎文庫)
有川 浩
幻冬舎
2013-01-11



様々な登場人物がいるので、どんな年代の読者でも気軽に感情移入出来ると思う。

文句なく楽しめる本である。


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2013年08月28日

君は一流の刑事になれ 後輩に伝える刑事魂

君は一流の刑事になれ
久保正行
東京法令出版
2010-04-22


東京法令出版というカタい出版社から出された元警視庁捜査1課長からの後輩刑事たちに伝える刑事魂。

この出版社は「捜査研究」という警察関係者向けの月刊誌を出版している。この本も「捜査研究」の「次世代の捜査官たちへ」という連載を編集したものだ。

現場の描写などは詳細で、超リアル。気持ちが悪くなるような表現もあるが、この本の最後で「本文中、現在は不適切と思われる表現が一部ございますが、あくまで捜査現場の様子を描写するためのものとして使用しました。読者各位のご賢察をお願いいたします」と書いてある。


捜査1課とは

「捜査1課」は、よくテレビドラマなどで出てくるが、どんな組織なのかこの本を読んで初めて分かった。

皇居の桜田門に向かって位置する警視庁に勤務する警察官は4万5千人。その中から選り抜きの390人余りが警視庁捜査1課に所属する。

東京で起きた殺人、強盗、放火、強姦、誘拐といった凶悪事件の捜査にあたるのが捜査1課だ。

この本の表紙にある金色に輝くバッチのようなもの。それが”S1S”=捜査1セレクトという捜査1課課員が胸に着ける栄光のバッチだ。

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出典:本書表紙


捜査1課の体制

警視庁刑事部捜査第1課には捜査1課長(警視正、カッコ内は資格)、その下に特殊犯罪対策官(警視)と理事官(警視)の二人がいわば次長として勤務している。警察の資格について詳しく紹介しているサイトがあるので、ここをクリックして参照してほしい。

2009年11月現在では、理事官の下に第1から第7までの強行犯捜査管理官(警視)、そして特殊犯罪対策官の下に第1、第2特殊犯捜査管理官(警視)、そして特命捜査対策室管理官(警視)がいる。それぞれの管理官がいくつかの係を統括している。

全体の体制は本書に載っている次の表の通りだ。

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出典:本書冒頭


著者の久保さんは北海道出身

この本の著者の久保正行さんは、元警視庁捜査第1課長。捜査1課に刑事から警視正までの全階級で勤務した経験を持つ。北海道生まれで、高校の柔道部のキャプテンだったが、北海道警では働きながら大学で勉強できすることは難しいので、柔道を活かして警視庁の警察官となった経歴を持つ。

捜査1課と、鑑識課、機動隊を行ったり来たりしてキャリアを磨き、捜査第1課長、田園調布署長、渋谷署長を経て警視庁第7方面本部長を最後に勇退し、現在は日本航空に勤めている。柔道でも念願の赤白の帯を締められる講道館6段となったという。

いわゆるノンキャリの警察官で、必要とあれば夜も寝ず、家にも帰らず、署の道場に寝泊まりして捜査にあたっている現場の警察官だ。


刑事のみが被害者の無念を晴らすことができる

このブログでも紹介している世田谷一家殺人事件」は依然として未解決のままだ。久保さんもこの本の中で、自分の名刺の裏に世田谷事件の情報提供を呼びかけるメッセージを印刷していたことをふれている。



これだけの凶悪事件で、素人目にはたくさんの証拠が残されている事件が未解決のまま残っているので、正直、警察の捜査力にやや疑問を感じていた。しかし、この本を読んで現場の刑事たちの、私生活を犠牲にして、捜査に打ち込む姿勢には感動した。その刑事たちの誇りが、冒頭で紹介したS1Sのバッチだ。

ホシを挙げて被害者の無念を晴らすのは刑事にしかできないと久保さんはいう。

だから靴底を減らし、私生活を犠牲にしてでも苦労を重ねて検挙する。遺族の「これで成仏できる」との安堵の顔があり、「ありがとうございました」との感謝の言葉に、刑事は心から「よかったね」と、満足感に浸るのだと。

久保さんは、「若者たちよ、損得を先に考えて、手を抜いていないか。額に汗は流れているか。」と呼びかける。もう一度、「人のために何かをしたい」という奉仕の心を原点として立ち返れと。


最初に失敗捜査を語る

この本の最初で犯人が自殺してしまったために、被害者の遺体が今も見つからない捜査1課殺人八係長時代の強盗殺人事件を教訓として紹介している。

この時は捜査中に久保さんは警察署の道場に寝泊まりしていて、被疑者の夢を見て金縛りにあった。その後もそのような夢をたびたび見たという。

花瓶で殴打したことで死亡しうるかの検証も科学的に行い、ABO血液型と、ミトコンドリアDNA検査も導入して証拠をそろえて逮捕状を取って、逮捕に向かったが、あと一歩のところで犯人に逃げられ、高知で自殺されてしまった。

ちなみに、逮捕に向かう日はどんなに長く道場などで寝泊まりなどしていても、必ずきれいな下着を着るのだと。もし殉職したときに汚い下着を着ていたら、それだけでだらしないイメージを与えてしまうからだ。命を賭けてホシを捕る。生き様にこだわり、死に様にもこだわる。それがデカというものだと。

最後に高知県警への感謝と、被害者に対して「どうか許していただきたい。」という一文でこの項を終えている。


この本で紹介している事件と教訓

この本では次のような事件を紹介している。それぞれの事件では、事件の詳細説明の後に教訓がいくつも挙げられている。

第2章 基礎力こそ突破力
     野中署管内ガス自殺偽装殺人事件
     綾瀬署管内女性殺人、死体損壊事件
     元看護師長殺人事件
     渋谷署管内傘による殺人事件

第3章 科学捜査の時代に
     事項直前、DNA鑑定を活用して 綾瀬署管内殺人事件

第4章 難事件に挑む
     外国人によるバラバラ殺人事件(通訳専門の警察官がいることを初めて知った)
     柿がホシを割り出す 新宿署管内強盗殺人事件

第5章 生命の尊さと償い
     母娘死亡強盗殺人事件
     双生児らによる醜悪な強盗殺人事件

第6章 リアルタイムで進行する特殊事件に挑む
     幼児人質立てこもり事件
     酒屋経営者人質立てこもり事件(盾で犯人の包丁から身を守り、犯人を制圧)
     乳児誘拐事件(津川雅彦と朝岡雪路の娘)
     小学生誘拐事件

第7章 若者たちへの道しるべ
     デキる刑事の条件
     よき伝統を引き継ぐ(お茶汲み3年、コロシ3年、アカ(放火)8年など)
     まずマネからはじめよ
     自己への投資はしているか
     捜査力はヤカン酒のごとし
     ひらめきの源は健全な心と身体
     蒔かぬ種は生えぬ
     部下・後輩への愛情
     待っていてくれた先輩

新書などで出ているものとは全然違う内容である。これこそ本物のデカが書いた本だ。刑事小説以上に面白い。

現場の刑事に声援を送りたくなる本である。


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2013年08月26日

「はだしのゲン」騒動でわかったこと



松江市教育委員会が、マンガ『はだしのゲン』に閲覧制限をかけたと報じられ、メディアで批判されている

筆者も「はだしのゲン」を少年ジャンプでリアルタイムで読んだ。最初は画の下手なマンガ家だと思っていたが、あの原爆直後の手から体の皮膚が垂れ下がって歩いている被爆者の画は、強烈で、忘れられない。

だから原爆体験の悲惨さを教育委員会が問題にしたのではないかと思った。

ところが、問題になっているのは原爆のシーンではないらしい。

「アゴラ」に掲載されている「『はだしのゲン』騒動のばからしさ」という石井孝明さんの記事が事情を詳しく述べているので、参考までに紹介しておく。ここをクリックして記事を見て欲しい。

石井さんのポイントは次の通りだ。

広く知られていないが『はだしのゲン』では、前半と後半では掲載誌が違う。前半で作者は、被爆体験を中心に描き、少年ジャンプに連載された。後半は左派系市民誌『市民』、日本共産党系の論壇誌『文化評論』、日教組の機関紙『教育評論』(いずれも今は廃刊)で連載されている。



後半には政治主張が多く、残虐場面と日本への批判を繰り返し、マンガの雰囲気が変わった。そして松江市はこの後半部分に閲覧制限をかけた。これはマンガの成り立ちをよく調べており、適切な対応であろう。問題のある政治団体の「プロパガンダ」に公立小中学校は加担してはならない。

以上が石井さんのコメントだ。筆者は少年ジャンプのものしか読んでいないので、このような事情は知らなかった。

大変参考になる記事だった。


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2013年08月24日

聞く力 阿川佐和子さんのインタビューとっておきの話



週刊文春で900回を超える長寿インタビューコーナーの「この人に会いたい」で聞き役を務めている阿川佐和子さんの本。

「○○の力」という池上彰さんの本のシリーズを真似た様なタイトルなので、このブログでも紹介している池上さんの「池上彰の情報力」の様なコンテンツを期待して読んだが、冒頭から様子がおかしい。

池上彰の情報力
池上 彰
ダイヤモンド社
2004-01-29


はじめに阿川さんは自分がインタビューが苦手で、いまだにインタビューに出かける前は、ビクビクどきどきしていることを告白しており、自分が「新書」を出すような柄ではないと謙遜する。



池上さんのような報道記者の「聞く力」とは、差があって当然かもしれない。

いくつか「聞く力」のヒントもある週刊誌のコラムの裏話と思って読むと良いと思う。

いくつか印象に残ったポイントを紹介しておく。

4.自分の話を聞いてほしくない人はいない。

5.質問の柱は3本。

6.「あれ?」と思ったことを聞く
  たけしとインタビューした時に、たけしが頻繁におしぼりで目を拭いている。バイク事故の後遺症で目が乾くのだと。「まわりはさ、もう治ったと思ってくれているけど、俺の中ではまだ治っていないんだ。あれでもう、北野武は終わったって、俺自身、思ったもん」

「HANA-BI」はたけしの自身の体験から生まれた映画なのだと。



12.会話は生ものと心得る
鶴瓶にインタビューしていた時に、途中でスタッフから今話題の「みそぎ」について聞けと言われ、阿川がスタッフに対してキレた。それをとりなした鶴瓶のセリフが「ま、ええやないですか。トークは生ものやさかいに」だったという。

22.「オウム返し質問」活用法
俳優の西村雅彦さんにインタビューした時に、西村さんに「僕、人に『えっ?』て言われると傷つくんですよ。」と言われ、それ以来「えっ?」の使い方には注意しているという。「えっ?」が出ないように、オウム返しで答えるのも有効だと。

32.憧れの人への接し方
憧れの人ジュリー・アンドリュースと会ったときは、ジュリー・アンドリュースが出演した「メリー・ポピンズ」から、「スパーカリーフラー…」とかを歌って見せたという。他人の参考にはならないだろうが、阿川さんの人柄がわかるストーリーだ。





35.遠藤周作さんに学んだこと−あとがきにかえて
遠藤周作さんは、阿川さんのお父さんの阿川弘之さんの友達だったので、子供のころからの知り合いだった。信心深い反面、茶目っ気があって周りを明るい気分にしてしまうキャラクターだったという。

その遠藤さんがインタビューアとなる雑誌の対談で、阿川さんがアシスタントをしていたところ、ある時遠藤さんがインタビューを終えて怒っていたという。「ダメだよ、あの人は。ちっとも具体的な話が出てこないんだもの。ちっとも面白くない!」

具体性が大事だと教えてくれたのは、遠藤さんだったという。本でも同じで、このブログで紹介しているのは、すべて具体的な話だ。やはり具体性がないと話は印象にも残らないし、面白くない。


気軽な話題が満載で楽しめる。そして、「聞く力」を考えるためのヒントになる本である。


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2013年08月19日

ハダカデバネズミ アフリカのサバンナに住む奇妙な社会的動物

ハダカデバネズミ―女王・兵隊・ふとん係 (岩波科学ライブラリー 生きもの)ハダカデバネズミ―女王・兵隊・ふとん係 (岩波科学ライブラリー 生きもの) [単行本]
著者:吉田 重人
出版:岩波書店
(2008-11-06)

アフリカのサバンナの地下にトンネルを張り巡らせて集団生活をする体長10センチ弱の小さなハダカデバネズミの紹介。

HONZ代表の成毛眞さんの「面白い本」に紹介されていたので読んでみた。

面白い本 (岩波新書)
成毛 眞
岩波書店
2013-01-23


ハダカデバネズミは英語で言うと"Naked Mole-Rat"、つまり、ハダカモグラネズミだ。英語より日本語のデバネズミの方が特徴をよくとらえていてわかりやすい。

ハダカデバネズミは国内のいくつかの動物園などで飼育されている。YouTubeに、さいたま県こども動物公園で飼育されている様子が掲載されているので、紹介しておく。



ユーモラスな外観の小動物で、モグラのように地中でトンネルを掘って生活する。しかしモグラのように、やたらめたらトンネルを掘るわけではなく、アリのようにちゃんと組織だって巣を建設する。

目はほとんど見えないが、出っ歯の歯がトンネル掘削機でもあり、感覚器だという。

ハダカデバネズミのヒエラルキーは次のようになっている。

1.女王(巣に一匹) 子供を産む もっとも体が大きい

2.王様(巣に数匹) 女王から交尾を命令される 女王の次に体が大きい

3.兵隊デバ 外敵の攻撃があった時に、自ら犠牲になって巣を守る 

4.働きデバ トンネルの整備や食料集めをする 時には肉ぶとんとなって女王や赤ん坊を温める

女王は巣の中で最も体が大きく、強い。時には女王の在任期間は20年以上にも及ぶ。女王は食べ物が豊富な飼育下では、年間4回出産する。

デバはひっきりなしに鳴いており、コミュニケーションをとっている。そしてその声には、歴然としたヒエラルキーがあり、自分より偉いデバに対しては、たくさんあいさつをするのだという。

サバンナの地下に暮らしているモグラのようなネズミだが、結構社会的な動物だ。

この本ではデバの歌を偶然録音したことが紹介されている。


成毛さんの本で紹介されていなかったら読むことはなかっただろう。大変参考になった。

埼玉県など、もよりの動物園などでハダカデバネズミを飼育しているところがあれば、小学生の夏休みの研究には、うってつけなのではないかと思う。


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2013年08月09日

O2Oの衝撃 消費生活評論家・岩田昭男さんの最新作

ネットからリアルへ  O2O(オー・トゥー・オー)の衝撃 決済、マーケティング、消費行動……すべてが変わる!ネットからリアルへ O2O(オー・トゥー・オー)の衝撃 決済、マーケティング、消費行動……すべてが変わる! [単行本(ソフトカバー)]
著者:岩田昭男
出版:阪急コミュニケーションズ
(2013-07-11)

筆者が尊敬する消費生活評論家・岩田昭男さんの最新作。このブログでは岩田さんの本を多く紹介している。いつも通り読みやすい文章で、様々な話題をわかりやすく紹介している。「頭にスッと」入る本だ。

今度はO2O(オー・ツー・オー、On-line to Off-line)

この本では日本最大のポイント会員組織を持つTポイント・ジャパン、ヤフー・ジャパンの責任者とのインタビューを載せている他、読み取り端末をスマートフォンに差し込んでクレジットカード決済を可能とするスクウェア楽天スマートペイペイパルヒアコイニーなどの新しいサービスについても関係者に広くインタビューしている。すごい情報収集力だ。


端末起点マーケティング

岩田さんはスマートフォン時代のマーケティングを「端末起点マーケティング」と呼んでいる。

スマートフォンがあれば、ポイントカードや電子マネーもスマートフォンに乗せられるし、クーポンもわざわざ印刷して持ち歩く必要がない。スマートフォンこそ、O2O(オー・ツー・オー、On-line to Off-line)の主役デバイスだ。

たとえば家電製品を買う場合は、いままでは買いに出かける前に、パソコンで価格コムや楽天などで検索して、最安値を調べて、それをもとにヤマダ電機とかに行って交渉していた。

ところが、今ならスマートフォンがあれば、出先で価格チェックも可能で、その場で量販店のセールスマンに証拠を示すこともできる。

筆者がデジタルテレビを買った2年前は、ヨドバシはネット最安値との価格マッチングは拒否していたが、ヤマダ電機はポイント割引等でネット最安値に競合する条件を出してきた。ヤマダ電機は、その後公式にネットでもリアルでも安値に対抗することを表明している。


スマートフォンはポイントカードとしても便利

スマートフォン(あるいはガラケー携帯電話)はポイントカードとしても便利だ。

たとえばロイヤルホストのメルマガ会員になると、常時10%引きのクーポンがもらえる。

スマートフォンか携帯電話があれば、ロイヤルのサイトにアクセスしてクーポンをレジで表示するだけでよい。印刷したクーポンを持ち歩く必要はない。さらに自分や家族の誕生月には20%引きのクーポンがもらえる。

こういったケータイ対応のポイントというだとヤマダ電機のケイタイde安心ポイントが最も進んでいると思う。

ヤマダ電機はプラスティックカードの時代から来店ポイントを付与してきた。ヤマダ電機の店に入って、読み取り端末にケータイをかざすと、スロットゲームが回り、毎回50ポイントくらいが当たる。すかさずメールが来て、その時のお買い得品などを紹介してくれる。

ヤマダ電機はポイントカード自体を廃止し、スマートフォンかおサイフケータイ一本にしているので、ポイントカードを忘れるということがない。

しかしヤマダ電機では所詮量販店なので、一部のマニアは別にして毎週行くというようなことはない。その意味で、いろいろな店で使える共通ポイントのTポイントがスマートフォンに対応すると、O2Oの覇者となる可能性は高いと思う。


Tポイントのスマートフォン対応

Tポイントはあれだけ普及しているが、まだスマートフォン対応はしていない。ポンタはスマートフォンに対応しているので、スマートフォンを会員カードとして使うことができる。しかし、読み取り端末を入れて対応しているのはローソン位のもので、他のポンタ加盟店では普及していない。

Tポイントはプラスティックカードがかなり普及しているので、スマートフォンを会員カードとして使うと加盟店に莫大なシステム・読み取り機投資が必要となり、踏み切れないのだと思う。

この本の中で、岩田さんがインタビューしたヤフーの担当者は、近い将来ヤフー・ウォレットをスマートフォンに対応させて、スマートフォンをかざすだけでクレジットカード決済ができるようになると語っている。

「ネットでもリアルでも最高のおサイフをめざそう」というのがヤフー・ジャパンの決済サービス部門の合言葉になっているという。

たぶんTポイント単体で対応するより、クレジットカードなど他のサービスも同梱できるヤフー・ウォレットがスマートフォンに対応するというのが近道となるからだと思う。


Tポイント・ヤフー連合の強み

Tポイントは若者には圧倒的な人気だが、2012年に主婦層やシニアの取りこみを開始し、マルエツなどの中堅スーパーや、ドラッグストアを提携店に加えて、会員数は1年で500万人も増えたごいう。

Tポイントの最後の仕上げがヤフー・ジャパンとの提携で、これが2013年7月に動きだした。

ヤフー・ポイントをTポイントに切り替えることで、ネットでためたポイントが、ガストやファミマ、ドトールといったTポイント加盟店で1円から割引きに使えることになり、まさにネットとリアルの融合が完成した。

Tポイントの親会社のCCC(=TSUTAYA、カルチャー・コンビニエンス・クラブ)はヤフーからの15%の出資を受け入れるために、Tポイントジャパンという別会社をつくった。

2013年3月末時点のTポイントのアクティブ・ユニーク会員数は4,454万人だという。これにヤフーの会員の3,000万人弱が加わる。重複などを除いても、5,000万人を超える日本最大の共通ポイント会員組織が誕生する。

Tポイント加盟店のメリットは、々餾櫺餬彜霆爐箸覆辰討癲▲櫂ぅ鵐箸鯣行時に負債計上する必要がなく、使われた時に販促費として計上できる、■達劭佑離機璽咼垢ある。ことだという。

CRMサービスについては、ファミリーマートは2009年からCCCと組んで「ロイヤルカスタマー優遇システム」を構築し、月間の購買頻度、購買額と購買履歴を分析して様々な販売促進を実現している。

2011年からは「DB−WATCH」というPOS情報にT会員の属性情報を連動して、「誰が」購入したかがわかるようになり、顧客の嗜好に対応した商品開発や品ぞろえが可能となったという。

特にTポイントが充実しているのはレジクーポンだ。

岩田さんは、TSUTAYA利用者に、牛角の割引クーポンを渡すというような形で、ネットワーク加盟店間のクロスセルを拡大していることを紹介している。

Tポイントには、筆者もお会いしたことがあるレジクーポンの世界最大手のカタリナマーケティングにいた人が転職しており、レジクーポンの活用を拡大している。

O2Oの覇者をめざす動き

この本で岩田さんは、楽天対アマゾン、楽天対Tポイント・ヤフー連合、そして覇権をねらうリクルート、ドコモ等の動きも紹介している。

楽天とCCCは元々それぞれのCEOの三木谷さん、増田さんが他方の社外取締役を兼ねるという親密な間柄だったが、2007年の楽天のレンタル事業進出もあって、双方が取締役を降り、CCCは楽天と敵対しているヤフーと提携することになった。

アマゾンは昨年日本の売上高を始めて公開した、それによると2012年は7,300億円となっており、楽天の売上高(流通額ではない)の4,434億円をはるかに上回っていたことが判明した。これにより楽天神話に疑問符がつくきっかけとなったという。

楽天はクレジットカードの楽天カードに加えて、誰でも持てるポイントカードの楽天Rポイントカードを新規に導入した。楽天は既にEDYを子会社にしており、EDYの営業部隊を使って楽天Rポイントの加盟店を獲得しようとしている。

しかし、楽天のRポイントカードをわざわざ財布に入れて持ち運ぼうという人は少ないだろう。その意味ではTポイント・ヤフー連合に一日の長があると思う。

アマゾンはクレジットカードについては、日本での戦略はまだ確定していないようだ。

ジャックスが発行しているリーダーズカードという「なんちゃってアマゾン提携カード」も面白い。アマゾンのデポジット(割引)と交換すると1.8%という高率のポイント還元となることを岩田さんは紹介している。


iPhoneへのおサイフケータイ機能搭載

iPhone 5にはNFC(Near Field Communication、おサイフケータイなどの機能のこと)は乗らなかったが、iPhone 6はNFC対応することが期待されている。

筆者がiPhoneを使っていない理由はiPhoneだとおサイフケータイが使えないからだ。筆者の様に毎日モバイルスイカやiDを使っているユーザーは、おサイフケータイがないと非常に不便だ。

いずれiPhoneへのおサイフケータイ機能が搭載されると思うが、そうなると一気にO2Oの覇者を目指す動きが加速化されるだろう。


クレジットカード業界の新しい動き

岩田さんはクレジットカードを長年研究してきているので、この本でもスクウェア楽天スマートペイペイパルヒアコイニーなどの新しいサービスについても、それぞれの戦略などを紹介している。

これらのスマホに接続するクレジットカード読み取り端末を使うと、いままでBtoC取引でしか使われていなかったクレジットカードが、CtoC(個人間の取引)でも使えることになる。つまり友達との支払いでクレジットカードが使えるようになるのだ。

東京IT新聞の2013年6月11日号にスマホ決済特集号があり、これの最後のページの花くまゆうさくの「ITの汁」というマンガが面白いので、紹介しておく。ここをクリックして、最後のページのマンガを見てほしい。

CtoC取引でクレジットカードがどのように使われるか、思わず笑ってしまうユーモラスな一例を紹介している。まさにポイントをついたマンガだと思う。

140兆円と言われる消費の中で、ECは8兆円と言われる。まだまだ規模は小さいが、成長余地は大きい。変化が激しいので、時代についていけない会社は脱落するしかない。一時は携帯ゲーム業界を席巻したインデックスの倒産が象徴している。

岩田さんは、ブリタニカ百科事典が2012年に244年に上る歴史を閉じ、書籍版の出版を中止したことを記している。

CtoCにもクレジットカードが使われる時代、スマートフォンがプラスティックカード代わりになる時代が始まった。新しい消費スタイルの覇者はどこになるのか、時代の流れを俯瞰できる大変参考になる本である。


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