2013年10月26日

死神の浮力 伊坂幸太郎さんの「死神の千葉」シリーズ最新作

死神の浮力
伊坂 幸太郎
文藝春秋
2013-07-30


家内が図書館で借りていたので読んでみた。

伊坂幸太郎さんの作品を読むのは初めてだ。

伊坂さんの作品は、2008年の本屋大賞を受賞した「ゴールデンスランバー」が有名だ。



「ゴールデンスランバー」は「半沢直樹」で一躍トップスターとなった堺雅人主演で映画化されている。

ゴールデンスランバー [DVD]
堺雅人
アミューズソフトエンタテインメント
2010-08-06





この本では伊坂さんの「死神」シリーズに登場する、「千葉」と名乗る死神につとまとわれる小説家夫婦が主人公だ。

「千葉」と名乗る死神は、「情報部」から派遣された調査員だった、人間を1週間密着調査して、調査結果が「可」であれば、8日めにその人間は、なんらかの原因で死ぬ。

調査結果が「見送り」であれば、とりあえずは生き延びる。

小説家夫妻には小学生の一人娘がいたが、冷酷なサイコパス(良心を持たない男)に連れ去られ、毒物を注射されて殺される。

犯人は娘が死ぬ映像をメールで小説家に送り付けた。その映像データはウィルスを仕組まれていて、小説家が見た後、パソコンからデータが消滅して証拠はなくなった。

ほどなく防犯カメラに映っていた小学生の娘と一緒に歩いていた男が捕まり、裁判にかけられる。しかし、目撃者の老婆が証言を翻したため、証拠不十分で無罪判決が出る。

無罪判決に憤った小説家夫妻は男に対する復讐するため男のホテルを襲い、意外な事実を男に伝える。実は裁判は…。

小説家夫婦と行動を共にする死神の「千葉」。逆に拳銃、爆弾で反撃する男。

物語は思いがけない展開を遂げる。

間の抜けた「千葉」の受け答えや、音楽なしではやっていけない死神という設定がユーモラスだ。

430ページ余りの単行本だが、一気に読めえ、楽しめる本だ。


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2013年10月22日

レアメタルの太平洋戦争 これが日米開戦のミッシング・ピースだ



ジャーナリストの藤井 非三四(ひさし)さんが書いた太平洋戦争を金属資源の観点から分析しなおした本。

筆者が読んでから買った数少ない本の一つだ。

よく知られているように、米国に1941年8月1日の対日石油輸出禁止を決断させた直接の原因は、1941年7月の日本軍の南部仏印進駐だ。この辺の事情をまとめた「戦争と石油」という記事がJOGMECの情報誌に載っているので紹介しておく。

この予想もしていなかった米国の強硬な態度に、日本政府関係者はみんな驚いた。当時の陸軍の軍務課長だった佐藤賢了は、「私達はこんな形で経済封鎖を受けることは予想していなかった。私は南部仏印に進駐しても日米戦争にはならないと判断しておった」と語る。

「日本軍部隊はすでに北部仏印に進駐しており、それがヴィシー政府との協定に基づいて、南部仏印に転出するだけで、戦争でもなければ侵略でもない。そこは米国の領土でも植民地でもない。日本はフィリピンの安全は保障する。南部仏印進駐によって、米国が対日戦争をしかける理由はない。」というのが当時の陸軍の一般的な考え方だったという。

「南進」が米国の虎の尾を踏んだのだ。日本で「南進」を警戒していたのは、皮肉なことに松岡洋右だけだったという。

いままで、米国の対日禁輸を招いた南部仏印進駐は、一般に言われているように「米国が南部仏印進駐をドミノ理論的にとらえ、東南アジア全域を支配するための第一歩と受け止めた」と考えていたが、この本を読んで、なぜ南部仏印進駐が、米国の過剰反応を引き起こしたのかわかった。

それは、南部仏印に進駐することで、米国のマレーシア、フィリピン、インドネシアなどから輸入しているレアメタル資源や天然ゴムの供給を脅かすからなのだ。

ミッシング・ピースが見つかった思いだ。

アメリカには石油、石炭に加え、鉄、銅、アルミなど戦争に必要な金属資源は豊富にある。裾野の広い自動車産業が発達していたこともあり、19世紀後半から金属の生産量は世界最大をずっと保っていた。

そのアメリカにないものが、ニッケル、クロム、錫だ。ニッケルは隣のカナダで大量に生産するので、大きな問題はないが、クロムはフィリピン、そして錫はマレーシアやインドネシアのバンカ島、ビリトン島に頼っていた。

錫はあらゆる電気製品に使われるハンダ原料で、自動車、船舶、飛行機すべてに使われている重要部品の軸受を作るのに必要なバビットメタルなどに不可欠の金属だった。またクロムも兵器生産に不可欠の金属だ。マレーシアの天然ゴムも戦略物資だ。

日本に東南アジアを抑えられてしまえば、天然ゴムに加え、クロムと錫が止まる。米国は、ひそかにボリビアで錫の鉱山、キューバでクロムの鉱山を開発していたが、それでもクロムと錫の主要な供給源を日本に抑えられることは、大きな痛手となる。だから南部仏印進駐に対して石油禁輸で厳しく対抗したのだ。

一般に太平洋戦争の直接の動機は、米国の対日石油禁輸だといわれている。米国の石油禁輸により、このままでは石油の備蓄を食いつぶしてジリ貧となると考え、それまで対米戦に反対していた海軍が対米戦容認に動いたからだ。

たしかに石油は重要だ。石油がなくては近代の軍艦は動かないし、飛行機も飛ばない。戦車もトラックも汽車も動かせない。しかし戦争するには、石油だけでは戦争できない。火薬を作るためには、硫安や硝石などの化学物資が必要だ。

ドイツが空気から人造硝石をつくって火薬原料とし、石炭から人造石油をつくって戦車や飛行機の燃料にしていたから、ヒトラーが戦争に踏み切れたことは、「大気を変える錬金術」のあらすじで紹介した通りだ。



しかし、石油や火薬だけでは戦争はできない。どんな武器を作るにもレアメタルが絶対必要だ。


銃弾に使われているレアメタル

たとえば次がこの本に載っている日本軍の38式歩兵銃の銃弾の構造だ。

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出典:本書19ページ

38年式実包と呼ばれ、口径6.5ミリ、全長76ミリ、重量21.2グラムで、一発が4銭7厘から7銭5厘、大体タバコひと箱の値段と同じだったという。弾丸は硬鉛と呼ばれる鉛とアンチモニーの合金、弾丸を包む金属ジャケットは銅:ニッケルが8:2の白銅だった。

「フル・メタルジャケット」という映画があったが、鉛主体の弾頭を金属で覆ったものがフル・メタルジャケットだ。



薬きょうは銅合金で、回収して再利用していた。同じく銅不足に悩むドイツ軍に学んで、昭和16年に鋼製薬きょうを導入したが機関銃の撃ち殻が薬室から抜けなくなる事故が続出した。これは致命的な欠陥である。

ガス化しやすい薬剤を薬きょうに塗って、抜けやすくするように工夫したが、それでも虎の子の機関銃で薬きょうが詰まる事故が続出し、こんなところでも資源小国の悲哀を味わうことになった。


砲弾に使われているレアメタル

次は砲弾だ。日本陸軍が多用していた75ミリ野砲の通常榴弾は次のような構造だ。

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出典:本書27ページ

全部の重量は10キロほどで、弾体は合金鋼、薬きょうだけで6キロほどの黄銅が使われている。日本は銅不足のために、薬きょうはリサイクルしていた。

鋼でつくった薬きょうを砲弾用に実用化していたが、黄銅なら3回の搾伸で済むところを、8回も搾伸して、そのたびごとに焼きなまし、洗浄、銅めっきを繰り返す必要があり、生産性は黄銅に比べて1/3近くに落ちた。

銅と亜鉛が豊富に供給される米国や英国は、薬きょうの鋼化には無関心で、ひたすら銃弾や砲弾の生産性を重視していたという。

そのほか小銃の砲身や発射機構は合金製だし、鉄兜もクロム・モリブデン鋼を使用している。戦車や軍艦の防弾板も大量の合金鋼でできている。このように見ていくと、戦争には大量の金属が必要なことがわかってくる。


飛行機生産に不可欠なアルミ

飛行機の兵器としての重要性は、第2次世界大戦で明らかとなった。飛行機はアルミ合金でできている。次がこの本で紹介されている大戦期間中の主要国のアルミニウム生産量だ。

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出典:本書123ページ

隣国のカナダを合わせると、米国は大戦中にドイツの3倍以上、日本の12倍のアルミを生産していた。これが米国30万機、ドイツ11万機、日本6万5千機という差になってくる。米国はソ連にアルミを大量に供給し、ソ連はそれを使って大戦後半に12万機もの飛行機を生産して、独ソ戦に投入している。

しかも米国はエンジン4発のB17やB29といった大型重爆撃機を3万3千機以上も生産している。この間に日本が実用化した4発の航空機は2式大艇のみで、その数167機だった。

ドイツがジェット戦闘機をまっさきに実用化しても、多勢に無勢、戦局を変える効果はなかったのだ。


日本の兵器戦略の致命的問題

資源面から日本と米国は圧倒的な差がある。主要兵器にも大きな差があるが、それ以上に日本の兵士を苦しめたのは、行き当たりばったりの兵器開発によって生じたインターオペラビリティ(共用性)の欠如だ。

その良い例が、銃弾だ。

戦争を熟知している国は、基本となる小火器弾薬は信頼できる実包(実弾)を大量生産して使い続けると藤井さんは語る。小銃、機関銃を実包にあわせて設計するのだ。

たとえば英国は1889年に採用された303ブリティッシュ実包を、1957年にNATO共通弾に切り替えるまで使っていた。ブリティッシュ実包は口径7.7ミリ、薬きょう長57ミリ、起縁(リムド)型の古めかしいものだが、小銃からヴィッカース機関銃までこれを使っていた。

米国は1903年制定の30.06スプリングフィールド実包だ。口径7.62ミリ(0.3インチ)、薬きょう長63ミリ、無起縁(リムレス)型で、M1903スプリングフィールド銃M1ガーランド銃BARブローニング自動銃重軽機関銃をすべてこの実包で統一して第2次世界大戦、朝鮮戦争を戦い抜いた。

ソ連も同様で、1891ねんからリムド型の7.62X54mmR弾を現在まで使っている。

次がこの本で紹介されている日本の小火器で使用される銃弾の一覧表だ。

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出典:本書203ページ

この表を理解するためには、この本で紹介されている薬きょうの形も知っておく必要がある。。

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出典:本書201ページ

主力小銃で、38式歩兵銃と新型の99式歩兵銃では口径が6.5ミリと7.7ミリと異なるので、同じ銃弾は使えない。

これは日中戦争で、6.5ミリ弾は対人では威力を発揮したものの、ちょっと厚い鉄板は打ち抜けないなどの問題が指摘され、日本陸軍全体が7.7ミリに切り替えようとしていたもので、やむないところかもしれない。

しかし、戦っている最中の軍隊で主力小銃の銃弾に兌換性がないというのは致命的だ。

ところで、38式歩兵銃は設計者の有坂成章中将の名前をとって、アリサカライフルと呼ばれ、今でも米国などのガンマニアには評判のライフルだ。反動がすくなく、命中精度が高いという。



日本軍の主力重機関銃だった92式重機関銃は99式歩兵銃と同じ口径7.7ミリだが、薬きょうの形がセミリムドと、リムレスと異なる。



無理に使えないことはないが、機関銃として致命的な装弾不良を覚悟しなければならない。

一方92式重機関銃の実包は、リムがあるので、99式小銃の薬室には収まらない。

92式重機関銃は55キロと重いので、後継の1式重機関銃は32キロにまで軽量化した。これに使用するのは99式小銃と同じ99式実包だった。これで主力重機関銃の間のインターオペラビリティは失われた。

銃弾がこれだけ種類があっては、ある種類の弾が残っているのに、自分の銃器では使えないという絶望的な事態を招いたことも戦場ではあったのではないかと思う。


あらすじが長くなりすぎるので、この辺にしておくが、大変参考になる本だった。冒頭に記したように、ミッシングピースを見つけた思いだ。

筆者が読んでから買った数少ない本の一つだ。

2013年7月に出たばかりの本なので、一度本屋で手に取ってみることをお勧めする。


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2013年10月20日

64(ロクヨン) 横山秀夫さんのベストセラー警察小説

64(ロクヨン)
横山 秀夫
文藝春秋
2012-10-26


このブログで「震度0」を紹介した横山秀夫さんのベストセラー。「64(ロクヨン)」も「震度0」も警察小説だ。

震度0 (朝日文庫 よ 15-1)
横山 秀夫
朝日新聞出版
2008-04-04


「64」は単行本で650ページ弱の大作だが、予想もできない展開につい引き込まれる。

小説のあらすじはいつも通り詳しく紹介しない。D県警で長年刑事畑にいた三上義信は46歳にして、2度目の広報室勤務を命ぜられる。今回は広報室トップの広報官だ。

前回は刑事3年目で広報室勤務を命ぜられ、1年で刑事部に戻された。以来、20年以上、刑事としてキャリアを積んできた。捜査1課の強行犯、盗犯、特殊犯で実績を挙げ、捜査2課に移ってからは知能犯の捜査でD県警でも一目置かれる存在となった。それが青天の霹靂の広報官就任だ。

三上の家族は元ミス県警の妻・美那子と、父親に似ているルックスを嫌い、親と衝突して家出している高校生の娘・あゆみの2人だ。

以前紹介した大沢在昌さんの「売れる作家の全技術」に出てくる、「小説のとげ(あとで伏線となる話)」が、あちこちに仕込まれている。その一つが無言電話だ。家出した娘からの無言電話だと、三上と美那子は思い込んでいたが…。

小説講座 売れる作家の全技術 デビューだけで満足してはいけない
大沢 在昌
角川書店(角川グループパブリッシング)
2012-08-01


もう一つの「小説のとげ」がこの本の冒頭の電話ボックスの写真だ。

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この電話ボックスがなぜ「小説のとげ」なのかは、最後まで読むとわかる。

D県警には時効直前の未解決事件があった。通称「64(ロクヨン)」と呼ばれる雨宮翔子ちゃん誘拐殺人事件だ。昭和64年1月5日に発生したので、64(ロクヨン)と呼ばれている。昭和最後の年・昭和64年は1月7日に昭和天皇が崩御したので、わずか7日しかない。

その短い昭和64年に起こり、犯人を逮捕して絶対に昭和の時代に連れ戻すという強い警察の意志から、「64(ロクヨン)」と呼ばれているのだ。

しかしその「64」も時効まで1年の14年を経過し、捜査本部は依然として設けられているものの、新しい証拠はなく、手詰まり状態だった。

そんな中で、全国26万人の警察官のトップ・警察庁長官がD県を訪問する際に、雨宮さん宅を訪問して事件解決に対する強い意気込みを被害者に伝え、その場で記者会見するという話が持ち上がった。

警察庁長官訪問を機に、警察庁につながる刑務部と、代々県警のたたき上げがトップを務める刑事部の対立が激化する。本庁はD県警刑事部トップにキャリア警察官僚を送り込み、「天領」とするつもりなのか?

一方、被害者の父親・雨宮さんからは、長官訪問は遠慮すると言われる。

このとき三上は別件の自動車事故で被疑者の名前を言う言わないで、記者クラブともめ、記者から取材ボイコットを受けていた。弱り目に祟り(たたり)目。

広報室の部下と一緒に、12社+アルファの報道機関対策に手を焼きながらも、三上は警察庁長官の遺族訪問を実現すべく、雨宮さんの翻意を促すために、あらためて「64」の捜査関係者から話を聞きまわる。

犯人からの脅迫電話を録音する「自宅班」4人のうち、2人が事件後、ほどなく警察を辞めていた。三上は歴代の刑事部長をはじめ、関係者から話を聞くうちに、刑事部が代々隠匿していた秘密がある事を知る。

そして警察庁長官の訪問の直前に、急に刑事部が大捜査体制をつくって、部外者を締め出す。「64」の手口を全くコピーした新たな誘拐事件が発生したのだ。三上はマスコミが要求する追加情報を求めて、敬愛する刑事部の松岡参事官・捜査1課長の捜査指揮車に同乗する。

すると松岡は、「お前がもたらした情報が端緒となった。この車は今、ロクヨンの捜査指揮を執っている」と言い出す。なぜ?…。

電話ボックスがどのように使われたのか、これがこの小説の一番のポイントだ。思いもよらない展開に驚くとともに、横山さんの発想力に感心する。

650ページの大作だが、読み始めたら止まらない。最後まで楽しめる作品である。


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2013年10月13日

農業ビッグバンの経済学 今の農政に批判的な農水省官僚もいたんだ!

農業ビッグバンの経済学
山下 一仁
日本経済新聞出版社
2010-03-24


元農水省の官僚で、農村振興局次長にて退官、現在はキャノングローバル戦略研究所研究主幹、経済産業研究所上席研究員、東京財団上席研究員などを務める山下一仁(かずひと)さんの本。山下さんはS52卒だから、筆者とほぼ同年代だ。

このブログでは農業に関しては、改革派の月刊誌「農業経営者」副編集長・浅川芳裕さんの「日本は世界第5位の農業大国」「日本の農業が必ず復活する45の理由」を紹介している。





一方、農協を中心とする保守派のTPP反対論としては「TPPを考える」や、農林水産省のパンフレットを紹介している。



農林水産省のパンフレットを見る限り、農林水産省の官僚は「保守派」一枚岩で固まっているものと思っていたが、中には農林水産省の保守本流に反対する山下さんのような官僚がいたことを初めて知った。

山下さんはほかにも「『亡国農政』の終焉」や、「農協の大罪」などといった、刺激的な本を出している。

「亡国農政」の終焉 (ベスト新書)
山下 一仁
ベストセラーズ
2009-11-07


農協の大罪 (宝島社新書)
山下一仁
宝島社
2009-01-10



この本の目次

この本はアマゾンの「なか見!検索」に対応していないので、「なんちゃってなか見!検索」で、目次を紹介しておく。項タイトルまで書いてある優れた目次だが、項タイトルまですべて紹介すると長くなりすぎるので、重要なものだけピックアップして紹介しておく。

序章  間違いだらけの日本の農政

第1章 誰のための農業・食料政策か
  1. なぜ農業を保護するのか
  2. 忍び寄る小農主義

第2章 食料安全保障問題の本質
  1. 世界の食料・農産物市場の特殊性
    ・隔離されている国内市場と国際市場
    ・自国優先の政策が増幅する国際食料市場の不安定性
  2. 農業生産の特殊性
    ・代替不能な農地資源
  3. 我が国の食料安全保障の現状
    ・250万ヘクタールの農地が消滅
  4. 食料自給率の向上は食料安全保障にはつながらない
  5. 人口減少時代が迫る農業衰退

第3章 なぜ、農業は衰退するのか
  1. 農業生産の特徴ーBC(Bio/Chemical)過程とM(Machinery)過程
  2. 高収益農業の存在
    ・「考える企業家」としての農家
    ・契約栽培で価格変動を吸収
    ・グローバル化を利用した成功例
  3. 土地利用型農業の可能性
  4. 政策の失敗が招いた日本農業衰退
    ・構造改革を阻んだ農地法の成立
    ・ゾーニングや転用規制の不徹底
    ・農協が兼業農家を重視する理由

第4章 世界農政は価格支持から直接支払いへ
  1. 先進国の農業問題と途上国の農業問題
  2. 1980年代のアメリカ・EC農政と国際貿易の混乱
  3. ガット・ウルグアイ・ラウンド交渉
  4. さらなるEUの農政改革
    ・アジェンダ2000
    ・アメリカとのWTO農業合意に備えたさらなる改革
  5. アメリカ農政の転換
    ・1996年農業法ー不足払いから直接固定支払いへ
    ・2002年農業法ー価格変動型支払いの導入
    ・2008年農業法の内容
  6. 関税か直接支払いか
    ・関税よりも優れている直接支払い
  7. 世界農政の比較
    ・世界農政の流れから取り残される日本農政
    ・保護方法を間違えている日本農政

第5章 グローバル化に対応できない日本農政
  1. WTO交渉がもたらす困難
    ・EUの変化を読み間違えた日本
    ・交渉のコア・グループから外された日本
  2. 農業のためにFTAを結べない

第6章 農地制度の改革
  1. 国際競争力強化の手段としての技術進歩と農地のゾーニング
  2. 農地法廃止という規制の緩和とゾーニング規制の強化
  
第7章 米についての奇妙な経済学
  1. 日本の米は安いのか?
  2. 減反維持の主張のおかしな前提
  3. 構造改革効果が期待できない減反選択制
  4. 自民党が導入した直接支払い政策の経緯と内容
  5. 民主党の戸別所得補償政策
    ・国民負担をさらに重くする戸別所得補償政策
    ・米輸出の可能性を摘み取る戸別所得補償制度

第8章 直接支払いによる構造改革
  1. 規模拡大の条件
  2. 農地の転用・耕作放棄の防止と構造改革
  3. 直接支払いによる規模拡大
  4. 具体的な制度設計

第9章 農業組織の解体的改革
  1. 農政トライアングルの形成と科学的行政の後退
  2. 農協改革
  3. 農林水産省の改革

終章  真の食料安全保障の確立を目指して

以上ちょっと長くなったが、目次を見ると大体の主張がわかると思う。


山下さんの主張は農林水産省の政策とは正反対

山下さんの主張は次の通りだ。

減反を段階的に廃止して米価を下げれば、コストの高い兼業農家は耕作を中止し、農地を貸し出すようになる。そこで、一定規模以上の主業農家に直接支払いを交付し、地代支払い能力を補強すれば、農地は主業農家に集まり、規模は拡大し、コストは下がる。また、環境にやさしい農業を実現できる」。

これは長年高い農産物価格で農家の所得を維持しようとしてきた農林水産省の政策とは正反対だ。

農林水産省のこのような政策を推す進めてきた結果、次のようなウソと現実が生まれたと山下さんは語る。

農林水産省のウソ:

1.小規模の兼業農家が農業を支えている
2.農家は赤字でも米つくりに励んでいる
3.予算額を比較して日本の農業保護はアメリカやEUよりも低い
4.平均コストがアメリカや中国に及ばないので競争できない

長年ウソが続いたので起こった現実:

1.小規模農家が多く、肥料・農薬を多用して環境に悪い農業を継続している
2.食料自給率が40%なのに、米を余らせて水田面積の4割、100万ヘクタールもの減反政策を推進している
3.減反しながらミニマム・アクセス米を輸入している
4.生活様式の多様化と高米価のため、米消費は毎年減少している。

米消費量推移







出典:民主党ホームページの記事

国際農政比較や農業に関する冷静な議論は大変参考になる。

いくつか参考になった点を紹介しておく。


フードマイルの考え方は単純化しすぎている

WTOのパスカル・ラミー事務局長は、次のように語っている。

「食料生産及び出荷チェーンにおける主たるCO2の排出は生産過程で発生する。輸送における排出はわずか4%に過ぎない。殺虫剤および肥料の生産ならびに、農場および食品加工によって必要とされる燃料から生じるCO2の発生に比べると、輸送による排出は小さい。(中略)フードマイルの議論は国内食料調達政策における自給の確立に対する正当化にはならない。

ロンドンの店に出荷されたスペイン産、あるいはポルトガル産のトマトは、イギリスの温室で栽培されたトマトよりもCO2の排出が少ない。ニュージーランド産のラムはイギリス産のラムより4倍エネルギー効率が良い。これはイギリスの農民は気候上の制約のために、補完的な飼料を用いることを余儀なくされるからである。(後略)」

なるほど、その通りだと思う。


水田による二毛作は熱帯雨林を上回るO2を生産する

水田で稲と麦の二毛作を行えば、光合成によるO2の生産量は熱帯雨林に迫ると言われている。以前は6月に麦を収穫してから田植えをして、二毛作を行っていたが、最近は兼業農家が増加し、5月の連休中に田植えが行われるようになって、二毛作はほとんど行われなくなってしまった。

かつてのコメと麦の水田二毛作が、今では米単作・サラリーマン兼業という二毛作に変わっている。

これは筆者も以前から疑問に思っていた点だ。小学校の時は、北海道・東北を除く日本のほとんどの地域では二毛作が可能だとたしか習ったと思うが、いつの間にか二毛作はほとんど死語になってしまった。

最大の原因は米の減反政策と、小麦価格が米より低いことだと思う。


食料自給率ではなく、食料自給力の強化を

農林水産省は数年前から金額ベースの食料自給率も発表している。これだと65%という数字になり、農政の失敗を問われないからだと。しかし金額ベースでは、価格を上げて消費者負担を増やせば自給率が上昇するという結果となる。

山下さんは、食料自給率ではなく、農地や若い担い手を中心とした農業資源の確保を目標にすべきだと主張する。真に食料安全保障を確立するためには、農業の収益性を向上させ、農地規模の拡大や後継者確保につながるような政策を打ち出す必要がある。

毎日食べなければならない食料に関しては、一週間でも供給不足が生じると大変な事態になるという。

たとえ50年に一度という低い確率でも、その場合の悲惨さは経済面のみならず、社会的、政治的な不安や混乱を生じさせかねない。これは軍事的な紛争の場合と同じであると。

この辺の感覚が筆者とは全然違うところだ。

官僚は、食管会計で麦などを入札で買っているだけなので、ビジネス感覚がないのだろう。

筆者の長い貿易経験では、たとえ不可抗力でも、何らかの事情で売り手が一度でも供給をストップすると、買い手は二度とその売り手からは買うまいと心に誓う。

たとえば米国国内の飼料用の大豆かすの需要が増えて、ニクソン大統領が大豆輸出をストップした時、多くの買い手は米国の大豆に依存するリスクを痛感して、代替ソースの確保に注力した。

もちろんすぐに代替ソースを確保できるわけではないが、そういった着実な努力の結果、米国の大豆禁輸をきっかけに、ブラジルとアルゼンチンの大豆生産量は着実に増加して、今では2国の合計生産量は米国を上回る。

主要国大豆生産量推移









出典:FAO日本事務所長 横山光弘さんの講演資料

「やられたら倍返し」は半沢直樹の専売特許ではない。国際資源ビジネスの常識だ。

中国がレアアース禁輸を宣言してから、日本とはじめとする消費国が代替ソース確保に走ったため、ふたを開けたら中国のレアアース業界自体がひん死の重傷を負う結果となった。

日本レアアース輸入量








出典「木走日記」ブログ・レアアース関連記事

筆者はニクソンの1973年の大豆禁輸は、米国より後に訪中したにもかかわらず、米国より先に日中国交正常化を実現した日本の田中角栄総理に対するニクソンの報復もあると考えている。

アメリカの大豆禁輸が中南米での日本の援助による大豆生産を急増させる結果となった

長くなりすぎるので、この辺でやめておくが、ほかにも「農地法は日本の3大ザル法の一つ」とか、ヨーロッパの徹底した農地ゾーニング、日本の米価格は1953年までは国際価格より安かった、現在の日本の米の単収はヘリコプターで種まきしているカリフォルニアの粗放農業より3割も少ないなど参考になる情報が満載だ。

山下さんは、農林水産省や農協からは裏切り者のように見られていると思うが、冷静な議論は大変参考になる。

一度手に取ってみることをお勧めする。

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2013年10月11日

金融庁が6カ月の業務停止命令 【再掲】富裕層はなぜYucasee(ゆかし)に入るのか 

2013年10月11日再掲:

「ゆかし」で投資商品を紹介している投資助言会社「アブラハム・プライベートバンク」(東京都港区)が無登録で投資ファンドの運用商品を販売するなど金融商品取引法に違反したとして、金融庁から6カ月の業務停止命令を受けた

「ゆかし」については、このブログで5年前に紹介している。その時も「ゆかし」について疑問を呈しているが、懸念が現実になったようだ。

事件を機に「富裕層はなぜ、YUCASEE(ゆかし)に入るのか」のあらすじを再掲する。


2008年10月4日初掲:

富裕層はなぜ、YUCASEE(ゆかし)に入るのか富裕層はなぜ、YUCASEE(ゆかし)に入るのか
著者:高岡 壮一郎
販売元:幻冬舎
発売日:2008-02-08
おすすめ度:5.0
クチコミを見る


純金融資産1億円以上が入会資格というプライベートクラブ「ゆかし」を運営する高岡壮一郎さんの本。

高岡さんは三井物産で情報産業、M&A事業に従事した後、退社してアブラハム・グループ・ホールディングス株式会社を創設し、プライベートクラブ「ゆかし」を始める。

「ゆかし」とは日本の古語で、「見たい、知り合い、会いにゆきたい」という意味だという。


東大OBネットの主催者

東大のOBネットも高岡さんがプロモートしている。

東大OBネット





東大を含めた旧七帝大は学士会というOB組織があるが、非常に緩やかなOB会で、会員になっている人も各大学の卒業生のほんの一部だと思う。

たとえば一橋大学などは如水会というOB会があり、結束が強い。今でもそうかもしれないが、以前は大手企業なら会社の如水会があって毎年一橋大学の新入社員を歓迎していた。

医学部とかの一部学部や学科・ゼミなどを除き、東大は全学のOB会がなかったので、高岡さんが学士会に呼びかけて東大OBネットをつくったものだ。ちょうど東大は130周年記念ということで募金活動をしていたので、渡りに舟だったのだろう。

世の中には、思いたったことをどんどん挑戦、実行すべく努力する超ポジティブ人間がいる。楽天の三木谷さんの言う"Get things done"タイプの人だ。高岡さんもまさにその超積極タイプで、三井物産というエスタブリシュメントではあきたらなかったようだ。


相続リッチとインテリッチ

富裕層は、相続リッチとインテリッチの二タイプがあるという。この本ではインテリッチを主に取り上げている。

インテリッチと一般人との違いは、失われた10年と呼ばれる90年代をチャンスととらえ、自らの戦略で果敢に挑戦してきたことだという。

職業は様々だが、外資系金融機関の幹部、オーナー企業や上場企業の社長、ベンチャー企業の役員、医師、弁護士、個人投資家などで、いかにしてリッチになったかの様々なケースを簡単に紹介している。

純資産は1−5億円が75%、職業は経営者40%、医師・弁護士などの専門職が34%で、世帯年収は3,000−5,000万円が最も多く20%で、次が2,000−3,000万円の18%となっている。

たとえば「ウィーンのコンチェルトハウスの命名権が日本人を対象に数十億円で売りに出されている」というような情報が、ゆかしで紹介されているという。

自分が一億円も金融資産を持っていないので、本を読んでも今ひとつピンとこないが、富裕層マーケティングというのは今注目されている分野だ。富裕層を集める手法としてプライベートクラブを開くというのもアリだと思う。


この本の目次

アマゾンのなか見検索に対応していないので、目次を紹介しておく。

序章  すべてはインターネット上のプライベートクラブから始まった
第1章 新世代富裕層「インテリッチ」の誕生
第2章 インテリッチはどうやって富裕層になったのか
第3章 インテリッチが社会を変える
第4章 新世代富裕層の日常としての「ゆかし」
対談  富裕層社会の未来(渋澤建氏を迎えて)
第5章 世界が富裕層を奪い合う
終章  個人が主役になる社会

各章はさらに3−6の節からできており、よくできた目次である。


リッチスタン

日本には資産1億円以上の富裕層が147万人いると言われ、アメリカでは100万ドル以上の富裕層が950万世帯いるという。そんなアメリカでも相続で富裕層になった相続リッチは10%で、ほとんどが一代で富を築いた人たちだという。

アメリカでは原題が「リッチスタン」、邦訳「ザ・ニューリッチ」という富裕層の本がベストセラーになっているという。

ザ・ニューリッチ―アメリカ新富裕層の知られざる実態ザ・ニューリッチ―アメリカ新富裕層の知られざる実態
著者:ロバート・フランク
販売元:ダイヤモンド社
発売日:2007-09-14
おすすめ度:4.0
クチコミを見る


富裕層向けの情報が満載

ゆかしの会員になると会員同士の口コミコーナーや、ゆかしマネーという投資情報が役に立つという。

ある会員は、「マネー誌に載ったら、もう売りだが、ゆかし会員が興味を持っている情報は自分も関心を持つ。成功者についていくことができるからだ。」と語っているという。

ゆかしで紹介されている情報は、ゆかし限定のドナルド・トランプ倶楽部への案内とか、イタリアの名門クラブの入会資格付きの高級別荘、5億円のクルーザー、名門英国ロイヤルスクール入学、400年の歴史を持つ有名レストランのオーナーシップ、有望なロシア人アーティスト、オランダ人写真家についてとかといったものだ。


富裕層を惹きつける国

世界で最も富裕層が増えているのはシンガポールで、増加率は21%だという。国策として世界の金融業の中心となることを目指しているので、所得税の最高税率も18%と低い。最近ではシンガポールに日本の金持ちが移住する傾向が増えているという。

高給取りが集まっている金融業界を惹きつけようとしたら、所得税・法人税を安くするのが効果的だ。だからアジアでは香港とシンガポールの税率が低い

昔はモナコとかが金持ちの集まる国として有名だったが、シンガポールもそれを目指している。

所得税の料率は低くとも、仮に年収1億ドルの人が新たにシンガポールに移住してくれば、シンガポールの税収は1,800万ドルの純増となる。

金持ちから税金を徴収した方が効率も良い。要は絶対額の勝負なのだ。

日本の一人当たりGDPは昨年シンガポールに抜かれ、アジアNo.1の座をゆずったが、その裏には所得税や法人税が低いので、村上ファンドの村上さん以外にも世界の富裕層が移住しているという事情もあったのだ。


国民一人当たりGDP

次が国民一人当たりのGDPだ。日本はシンガポールの次の22位で、すぐ次はクウェートだ。


順位  国名     2007年(単位 ドル)
― 世界[18] 8,354.95
― 欧州連合[19] 33,251.80
1 ルクセンブルク 104,673.28
2 ノルウェー 83,922.50
3 カタール 72,849.07
4 アイスランド 63,830.08
5 アイルランド 59,924.42
6 スイス      58,083.57
7 デンマーク 57,260.95
8 スウェーデン 49,654.87
9 フィンランド 46,601.87
10 オランダ 46,260.69
11 アメリカ合衆国 45,845.48
12 イギリス 45,574.74
13 オーストリア 45,181.12
14 カナダ 43,484.94
15 オーストラリア 43,312.32
16 アラブ首長国連邦 42,934.13
17 ベルギー 42,556.92
18 フランス 41,511.15
19 ドイツ 40,415.41
20 イタリア 35,872.42
21 シンガポール 35,162.93
22 日本 34,312.14
23 クウェート 33,634.34


富裕層が「ゆかし」に入る理由

最後に高岡さんは、富裕層が「ゆかし」に入る理由は、今の日本の社会が個人のニーズを十分に充足していないからだと語る。

現代の富裕層は、「個人が主役になる社会」の成功者であり、どこの国でも通用するので、日本が大切にすべき人材である。そんな人々に対して「ゆかし」がより良い環境を提供したいと高岡さんは語る。

日本では白洲次郎が理事長となっていた軽井沢ゴルフ倶楽部とか、東京青山のカナダ大使館ビルにある"City Club of Tokyo"などの超名門クラブが、プライベートクラブにあたるのだろう。

アメリカの主要都市にはプライベートクラブがある。筆者の住んでいたピッツバーグには、デュケン・クラブ(Duqeusne Club)という名門クラブがある。

Duquesne Club





20世紀初頭カーネギーやメロンという企業家が会員となって盛り立てた創立130年の由緒あるクラブだ。

日本人の駐在員で会員になれる人はほんの一握りで、このメンバーシップは金を出せばなれるというものではない。複数の有力会員からの推薦があって、夫婦一緒の面接を含め厳しい入会審査を通らないと会員になれない。

数年に一度USオープンが開かれるオークモントというカントリークラブもピッツバーグにある。2007年のUSオープンの優勝スコアは5オーバー、タイガーウッズでさえ6オーバーという難コースだが、ここも入会金は数万ドルとたいしたことはない。

Oakmont





しかし会員になるのが非常に難しく、審査まで数年待ちで、定期的に交代する駐在員では会員にはなれない。WASP中心のクラブで、以前はユダヤ人は会員になれないという噂があったくらいだ。

会員になるために他の会員の推薦が必要だし、地元の名士として認められないとダメだ。本来クラブとはこういうもので、メンバーになりたくてもなれない希少価値があってこそ、クラブの価値がある。

「404 Blog Not Found」の小飼 弾さんもこの本を読んで、試しに「ゆかし」の会員になってみたそうだが、小飼さんのブログにゆかしについての続報は見あたらない。

小飼弾のアルファギークに逢ってきた [WEB+DB PRESS plus] (WEB+DB PRESS plusシリーズ)小飼弾のアルファギークに逢ってきた [WEB+DB PRESS plus] (WEB+DB PRESS plusシリーズ)
著者:小飼 弾
販売元:技術評論社
発売日:2008-04-15
おすすめ度:4.0
クチコミを見る


まさにこの点が問題だと思う。「ゆかし」の知名度を上げるためにはネットの有名人の小飼弾さんは、本音はなんとしても入って欲しい会員だと思うが、富裕層一般に受ける人ではない。あえて落とすことで希少価値を上げるという手もあったのではないか。

小飼さんは、勝間さんとか本田さんなどと親しいし、影響力のある人なので落とされたら逆に宣伝になったのではないかと思う。

自分には縁のない話なので、勝手なことを言って著者の高岡さんには申し訳ないが、メンバーになりたくてもなれないクラブ。それこそが富裕層が列を作って入りたがるクラブではないのか?

ベンチャー企業には難しいとは思うが、本当に希少価値のあるクラブをつくるなら、電話2回の質問で会員にするなどとということをせず、すべて面接で会員を審査し、当初は経営は赤字でも、少数の超選りすぐりの会員組織をまずつくり、それから徐々に口コミで広げていくやり方の方が長い目で成功する道ではないのかと思う。

本を出して宣伝するというやり方も疑問が残る。

富裕層向けにプライベートクラブを開くというのは目の付け所は良いと思う。はたしてプライベートクラブという業態が成功するのか。注目されるところだ。


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2013年10月05日

再掲 バナナの世界史 バナナ・リパブリックは衣料品ブランドだけじゃない

2013年10月5日再掲:

議会と大統領の対立で10月からスタートした新年度の予算執行が停止している米国のことを、「バナナ・リパブリック」と呼んで揶揄する人がいる。

政府がコントロール不能に陥っていることを指すのだろう。

しかし、発展途上国などのいわゆる「バナナ・リパブリック」と異なり、米国の場合には制度上の欠陥で予算に議会の承認を得られない場合の規定がないことが原因であり、これをもって「バナナ・リパブリック」と呼ぶのは、ジョークにしても的外れのような気がする。

1995年から1996年にかけてのクリントン政権でも、同じ事態が起こっている。

この「バナナ・リパブリック」?騒動と、バナップルを最近食べたので「バナナの歴史」を再掲する。

「バナナの歴史」の最後で、バナナの新しい品種として紹介されている「バナップル」を食べてみた。近くのスーパーで売っていたものだ。

Banapple












出典:スミフルホームページ

Banapple2












出典:フルーツの殿堂 楽天市場店

味はバナナの中心にリンゴの粒が入っているような感じだった。

食感はバナナ、ほんのりとリンゴの味がするという感じで、普通のバナナよりだいぶ小ぶりだ。

筆者は近くのスーパーで買ったが、上記の「フルーツの殿堂」楽天市場店でも買える。いずれは日本中のスーパーで売られることになるかもしれない。

300〜400円で買えると思うので、一度試してみることをお勧めする。


2013年1月3日初掲:

バナナの世界史――歴史を変えた果物の数奇な運命 (ヒストリカル・スタディーズ)バナナの世界史――歴史を変えた果物の数奇な運命 (ヒストリカル・スタディーズ)
著者:ダン・コッペル
太田出版(2012-01-19)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る

世界で一番生産量が多い果物であるバナナの歴史を通してバナナビジネスを描いた本。

世界のバナナ生産量は約1億トン。インドがダントツの1位で30%を占めるが、生産量のほぼ全量が国内で消費され、輸出にはまわらない。2位の中国も同様に国内消費用で、3位のフィリピンと4位のエクアドルが輸出バナナ生産の最大手だ。


バナナのジャイアント:ユナイテッド・フルーツ社

バナナは19世紀から貿易されていたが、現在のように大量に輸出入される商品となったのは、1899年に合併によって成立し、世界32カ国で事業展開したユナイテッド・フルーツ社によるプランテーション拡大によるところが大きい。

ユナイテッド・フルーツ社は専用船団と各地にバナナ倉庫を持ち、パナマ、ホンジュラス、グアテマラ、キューバなどの各地の自社バナナプランテーションで収穫したバナナを専用船で輸送し、米国やヨーロッパに置いた専用倉庫から消費地に出荷していた。


ユナイテッド・フルーツ社の政治力

1912年に米軍がホンジュラス、パナマなどに侵攻した事実は知らなかった。米軍の侵攻後、ユナイテッド・フルーツ社は鉄道建設の許可を得て、プランテーションを建設している。

コロンビア人のノーベル賞作家のガブリエル・ガルシア・マルケス「百年の孤独」には、プランテーションでストライキを起こした3,000人の労働者たちを軍隊が機関銃で殺す場面がでてくる。これは1928〜9年にコロンビアで実際に起こった事件だ。

百年の孤独百年の孤独
著者:G. ガルシア=マルケス
新潮社(1999-08)
販売元:Amazon.co.jp

ユナイテッド・フルーツ社はグアテマラで世界最初のバナナプランテーションを運営していた。

グアテマラのアルベンス大統領は1951年に反バナナプランテーション政策をとったので、ユナイテッド・フルーツ社は政治力を行使してアイゼンハワー大統領を動かし、大統領はCIAに政権転覆工作を命じた。アルベンス大統領は空港で服を脱がされ、下着姿でメキシコに亡命したという。

スパイ映画によくある、多国籍企業が開発途上国の利権を握り、利権を危うくする者をCIAを使って抹殺するというストーリーが現実に起こっていたのだ。

キューバではカストロ政権転覆のためのピッグス湾事件で、自社の船団を反カストロ勢力の輸送に供している。

ユナイテッド・フルーツ社がグアテマラとホンジュラスの独裁政権を支援してきたこと、またユナイテッド・フルーツ社からの依頼でCIAによるグアテマラ工作が実施されたことが、情報公開法により公開された一連の政府文書から明るみに出ている。


まさにバナナ・リパブリック

バナナ・リパブリックというと、現在はカジュアル衣料ブランドとして有名だが、本来の意味は、開発途上国の頼りない政府を揶揄した言葉だ。グアテマラの政権転覆は、まさにバナナ・リパブリックにおける多国籍企業の政治力を見せつける事件だ。

【Men's】BANANA REPUBLIC(バナナリパブリック)ボーダー鹿の子ポロシャツ(Gray)
【Men's】BANANA REPUBLIC(バナナリパブリック)ボーダー鹿の子ポロシャツ(Gray)



バナナの品種交代がユナイテッド・フルーツ社の没落のきっかけ

バナナはクローニングにより栽培されるので、抵抗力のない病気が発生すると大規模な病害が起こる。

現在世界各地で生産されているバナナは中国が原産とされているキャベンディッシュという品種だが、1960年以前は世界のバナナはグロスミッチェルという品種だった。

グロスミッチェルは1910年ごろパナマから広がったパナマ病という病気に耐性がなかったため絶滅した。

米国政府まで動かす政治力があったユナイテッド・フルーツ社だったが、当時のバナナプランテーションの主力品種のグロスミッチェル種にこだわったため、パナマ病の蔓延でシェアを落とした。

日本でもエクアドルバナナの代名詞として有名なチキータはユナイテッド・フルーツ社のブランドで、CMソングは全米で評判になったという。




スタンダード・フルーツ社はバナナの箱輸送で活路

一方、スタンダード・フルーツ社も1899年創業だが、ユナイテッド・フルーツ社よりは規模が小さく、マーケットシェアも長年20%を超えることはなかった。

しかし、グロスミッチェル種がパナマ病に侵される面積が拡大するにつれ、ユナイテッド・フルーツ社の業績は悪化し、1950年の66百万ドルの利益が、1960年には2百万ドルまで落ち込んだ。

これに代わって主要品種として栽培されたのがキャベンディッシュで、スタンダード・フルーツ社はキャベンディッシュに集中することで、マーケットシェアを一気に拡大した。

キャベンディッシュはこすれると黒ずんで柔らかくなるという欠点がある。これをスタンダード・フルーツ社は、箱に詰めて箱ごと輸送するというやりかたで解決した。これは”バナナ産業史上最大の技術革命”と呼ばれている。


ユナイテッド・フルーツ社の落日

落ち目のユナイテッド・フルーツ社は、1969年にユリ・ブラックというユダヤ人投資家に買収され、社名もユナイテッド・ブランズに変更された。

この頃パナマ、コスタリカ、ホンジュラスなどの中米バナナ輸出国が一致してひと箱あたり1ドルの「バナナ税」を課すことを決定した。バナナ版OPECをつくろうとして、「バナナ輸出国機構」設立の動きがあったのだ。

そんななかで1975年ユリ・ブラックは、ニューヨークのパンナムビルにある本社事務所の窓から飛び降り自殺した。

バナナ税を引下げさせるために、ホンジュラス大統領へ巨額のわいろを贈ることを決定したことを悩んでの自殺だったと見られる。

ユナイテッド・ブランズ社は1992年に投資家に買収され、チキータに社名変更したが、シェア低下・収益低下に悩まされ、とうとう2001年にチキータは会社更生法を申請した。1世紀以上も世界のバナナ生産と貿易を牛耳ってきたユナイテッド・フルーツ社の終焉だった。


未来のバナナ

バナナのゲノム解明は2001年に開始され、2012年に完了した。

遺伝子組み換えバナナは不稔なので、在来種との混合の恐れはない。ベルギーなど世界各地で品種改良が進められている。

現在はキャベンディッシュが世界各国で生産されているが、他にアップル・バナナとしてゴールドフィンガーという種類がある。

カハラフレッシュ アップルバナナ プレミアムドライフルーツ  【あす楽対応_関東】【YDKG-kd】【RCP】
カハラフレッシュ アップルバナナ プレミアムドライフルーツ  【あす楽対応_関東】【YDKG-kd】【RCP】


これからもバナナの品種改良は進められ、近い将来は様々な味のバナナが登場することだろう。


バナナ業界を牛耳る多国籍企業の歴史とバナナの雑学が楽しく学べる本である。


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Posted by yaori at 21:29Comments(0)

2013年10月04日

韓国併合への道 完全版 日本に帰化した呉善花さんの本



1910年の韓国併合に至る歴史的事実と、1945年までの日本統治下の韓国、そして日本統治時代の評価についての拓殖大学教授・呉善花(オ・ソンファ)さんの本。

生い立ちや日本に来た1983年前後の事情は、ベストセラーとなった処女作「スカートの風」に詳しい。今度このあらすじも紹介する。



ちなみに「スカートの風」=チマパラムという言葉の意味は、女の浮気や、ホストクラブ通いなど自由奔放な女性を指す言葉だという。

呉さんは、1956年韓国済州島に生まれる。韓国人だったら誰でも求める、お金と権力にあこがれて、大学から志願して軍人となり、軍人との結婚を目指す(当時、韓国の歴代大統領は軍人だった)。

軍人との初恋はあえなく破れ、27歳の時に日本に留学する。日本の大東文化大学を卒業後、東京外国語大学大学院でマスターを取った。日本の大学で教えながら活発に執筆活動しており、2005年に日本に帰化している。

日本統治時代を客観的に評価する姿勢が韓国で国賊扱いを受けており、2007年の母親の葬儀の時には、空港で入国拒否をくらい、日本領事館の抗議で、葬儀にだけ参列できた。

2013年7月に親戚の結婚式で韓国に行ったところ、仁川空港で入国を拒否され、日本に強制送還されるという事件が起きている。



入国拒否となったのは、全3部作となった「スカートの風」や、この本の影響も大きい。

この本の初版は2000年に発売され、その時は第10章までで終わっている。




次が初版に集録されている1〜10章までのタイトルだ。

第1章 李朝末期の衰亡と恐怖政治

第2章 朝鮮の門戸を押し開けた日本

第3章 清国の軍事制圧と国家腐敗の惨状

第4章 独立・開化を目指した青年官僚たちの活躍

第5章 一大政変の画策へ乗り出した金玉均

第6章 夢と果てた厳冬のクーデター

第7章 国内自主改革の放棄

第8章 新たなる事大主義

第9章 民族独立運動と日韓合邦運動の挫折

第10章 韓国併合を決定づけたもの


上記の通り第1〜10章は歴史書である。

その後、2012年に「完全版」として、11章と12章が追加された。これら2つの追加が本当に重要な日本統治時代の評価に関する部分なので、これらについては、節のタイトルまで紹介しておく。

第11章 日本の統治は悪だったのか

・西洋列強による植民地統治との違い

・韓国教科書に載る「土地収奪」の嘘

・英仏蘭が行った一方的な領土宣言

・巨額投資による産業経済の発展

・原料収奪をもっぱらとした西洋諸国

・武力的な威圧はあったか?

・武断統治から文化統治への転換

・植民地で行われた弾圧と虐殺

・学校数の激増と識字率の急伸

・教育を普及させなかった西洋列強

・差別と格差をなくそうとした同化政策

・戦時体制下の内鮮一体化政策

第12章 反日政策と従軍慰安婦

・反日民族主義という「歴史認識」

・国民に知らされない日本の経済援助

・親日派一掃のための「過去清算」

・韓国人自身の「過去清算」への弾圧

・「従軍慰安婦」問題の再燃

・政権危機と対日強硬姿勢の関係


この本はアマゾンの「なか見!検索」に対応している。目次は節タイトルまで記載しているので、ここをクリックして、全部の目次をチェックしてほしい。

この本を読んでいて、1〜10章までは歴史の叙述で、正直やや冗長なので、ダレ感があったが、最後の2章の思い切った発言は前の10章までとは全然異なっており、目が覚める思いだ。

2005年に日本国籍を取得して、2012年の「完全版」で、呉さんが思っていたことをやっと書けたということだと思う。それが上記のような韓国政府の入国拒否という事態を招いたのだろう。

第11章の「日本の統治は悪だったのか?」では、日本による朝鮮統治と西洋列強の植民地統治との違いとして次の4点を挙げている。

1.収奪によって内地を潤すという政策をとらなかったこと

2.武力的な威圧をもっての統治政策を全般的にとらなかったこと

3.文化・社会・教育の近代化を強力に推し進めたこと

4.本土人への同化(一体化)を目指したこと

たとえば、現在韓国で使われている地籍公簿(土地台帳、地籍図)は1910年から1918年までの間に朝鮮総督府が作ったものだ。近代国家体制の確立していなかった朝鮮に、本格的な土地調査を導入し、これにより土地の所有者を明確にした。

ところが、韓国の歴史教科書では、「全農地の約40%にあたる膨大な土地が朝鮮総督府に占有され、朝鮮総督府はこの土地を東洋拓殖株式会社など、日本人の土地会社に払い下げるか、我が国に移住してくる日本人たちに安い値段で売り渡した」(2002年の中学校国史の国定教科書を呉さんが引用)と書いている。

日本による土地調査事業について、ソウル大学の李榮薫教授の調査報告を紹介している。

「総督府は未申告地が発生しないように綿密な行政指導をした。(中略)その結果、墳墓、雑種地を中心に0.05%が未申告で残った。あの時、私たちが持っていた植民地朝鮮のイメージが架空の創作物なのを悟った」。

「日帝の殖民統治史料を詳らか(つまびらか)にのぞき見れば、朝鮮の永久併合が植民地統治の目的だったことがわかる。収奪・掠奪ではなく、日本本土と等しい制度と社会基盤を取り揃えた国に作って、永久編入しようとする野心的な支配計画を持っていた。近代的土地・財産制度などは、このための過程だった」。

しかし 李榮薫教授などは少数派だ。韓国の教科書フォーラムで聴衆に殴られる李教授の姿がYouTubeに掲載されている。



李榮薫教授は、「大韓民国の物語」で、韓国の歴史教科書を変えよと主張している。

大韓民国の物語
李 榮薫
文藝春秋
2009-02



この本で呉さんは、日本は西洋列強の収奪を目的とした植民地支配とは異なり、差別と格差をなくそうとした同化政策を取っていることを指摘している。李榮薫教授も、「地理的に接していて、人種的に似ていて、文化的によほど似たり寄ったりで、一つの大きな日本を作ろうとしていたのだ」と語っている。


創氏改名の真実

創氏改名についても、韓国でしばしば主張されているような「朝鮮人の姓名を強制的に日本名に改めさせること」ではない。

昭和15年に施行された創氏改名は次のような条件で行われた。

1.創氏は6か月間限定の届け出制。届け出なかったものは従来の朝鮮の姓が氏としてそのまま設定される。

2.創氏しても従来の姓がなくなるわけではなく、氏の設定後も姓および本貫はそのまま戸籍に残る。

3.日本式の氏名などへの改名は強制ではなく、期限なく、いつでもしてよい制度である。

朝鮮では本貫(ほんがん)と姓がある、たとえば慶州出身の李さんなら慶州李氏が本貫で、李が姓だ。本貫・姓では女性は結婚しても夫の姓にはならないので、本貫・姓に代わる家族名として「氏」を創設できる制度だ。結果として朝鮮在住者の80%が創氏して日本風の名前に変更している。

改名は名を変えることで、こちらは10%以下が改名した。

韓国国民に知らされない日本の経済援助

韓国の初代大統領となった李承晩は、日本の植民地支配に甘んじてきた屈辱の歴史を清算し、民族の誇りを取り戻すために、反日民族主義を打ち出した。

日本は終戦の時に、朝鮮のすべての日本及び日本人保有の私有財産・工場設備・インフラなどを米軍経由韓国に委譲し、北朝鮮にあった資産はすべてロシアが没収した。

ハーグ条約は占領軍が占領地の私有財産を没収することを禁じている。しかし、日本はこの主張を1957年に取り下げ、在朝鮮資産を正式に放棄した。

日本と韓国は戦争をしたわけではないので、本来日本に戦争賠償責任は生じない。

それにもかかわらず日本は1965年の日韓国交正常化を機に、日韓経済協力協定を締結して韓国に多額の援助をした。1950年代には国民一人当たりのGDPがわずか60ドルという世界最貧国の韓国にはまさに干天の慈雨となった。

日韓経済協力協定に基づく日本の援助額は、10年で有償2億ドル、無償3億ドル、民間経済協力3億ドル以上の合計8億ドル以上である。これは当時の日本の外貨準備のほぼ半分にあたる巨額の援助である。

このほか民間人に対する補償として1975年に軍人、軍属または労務者として召集され終戦までに亡くなった者を対象に、その直系遺族9,500人にそれぞれ30万ウォンが支払われている。同時に日本の金融機関への預金などの財産関係の補償として9万4千件に対して総額66億ウォンが支払われている。

韓国は日本からの資金を使って朝鮮戦争で荒廃した港湾、鉄道、鉄橋などのインフラや、農業近代化、中小企業育成、POSCO製鉄所などの重化学工業団地などを建設した。

1970〜1980年には約2,000億円が援助され、1980年からは追加の約3,300億円が地下鉄建設、ダム建設、下水処理などに活用されている。


韓国人自身の過去の清算

1997年1月の韓国の通貨危機以降、「韓国人自身の過去の清算」という言葉が登場し、日本の過去ばかりでなく、自らの過去を問い直そうという動きがでてきた。この表れが1998年10月に日本を訪問した金大中大統領の「もはや過去について論及することはない」という発言だった。

続く盧武鉉大統領も「過去は問わない、未来を見つめよう」と登場したが、金大中も盧武鉉も支持率低下とともに、対日強硬姿勢に転換している。


反日姿勢は大統領支持率アップに必須

盧武鉉はさらに親日反民族行為を糾弾するとして、106名を公表し、財産を没収した。これで親日派を一掃したのだ。

言論も弾圧された。2002年に韓国で出版された「親日派のための弁解」は青少年有害図書とされ、著者のキム・ワンソプは独立運動家の名誉棄損で在宅起訴された。




韓国の日本に対する賠償請求権は、1965年の「財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する日本国と大韓民国との間の協定」で消滅している。

しかし、韓国政府は盧武鉉政権の2005年以来、「従軍慰安婦、サハリン残留韓国人、韓国人被爆者は対象外だったので、解決していない」という態度を取っている。

どの政権でも政権支持率が下がる3,4年目には必ず対日強硬姿勢を打ち出しているのが現状だ。

朴槿恵(パククネ)大統領に至っては、就任当初から対日強硬姿勢を打ち出している。これは2011年8月に、韓国憲法裁判所が「韓国政府が賠償請求権の交渉努力をしないことは違憲」とする判断を示したことに始まっている。

つい最近もソウル高等裁判所で、新日鐵住金に対して戦時中の朝鮮人労働者に対して雇用条件と異なった重労働をさせたという理由で賠償を認める判決がでており、新日鐵住金は韓国大法院(最高裁判所)に上告した。

日本人から見ればきりがない韓国の賠償や謝罪要求は、実はすべて両国間で解決済みの問題であることを呉さんは冷静に指摘している。

呉さんは親日的な発言に目をつけられて、今は韓国入国を禁止されている元韓国人だが、その主張は拝聴すべきものと思う。

大変参考になる本だった。筆者が読んでから買った数少ない本の一つだ。


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