2013年11月29日

父の肖像 堤清二(辻井喬)が書いた西武グループ創始者 堤康次郎の伝記小説

2013年11月29日再掲

セゾングループの創始者の堤清二さんが86歳で亡くなった。堤さんは「辻井喬」のペンネームで作家としても活躍されている。堤さんのご冥福を祈って、辻井喬さんの代表作の「父の肖像」のあらすじを再掲する。


2005年11月28日初掲:

父の肖像


西武百貨店(セゾン)グループの総帥だった堤清二氏は辻井喬(つじいたかし)のペンネームで作家としても有名である。

筆者の読んだ本のなかでは詩人で住友財閥の重役だった川田順のことを書いた『虹の岬』も印象に残る作品だったが、この本は自ら『最大の宿命』と呼ぶ、父であり西武グループの創始者である堤康次郎氏の伝記小説である。


虹の岬


実は図書館で3ヶ月前に借りて一旦読み出したのだが、あまりのボリューム(640ページ)に完読できず、再度またリクエストして読んだのだ。

この本は雑誌『新潮』に2000年から2004年にかけて連載されたものを2004年9月に本にまとめて出版されたものでもあり、西武鉄道・コクドの事件とは直接関係はないが、この作品で辻井喬氏が野間文学賞を受賞したこともあり、出版後1年以上経つのにいまだにリクエスト者が数十名居るという、図書館でも非常に人気が高い本である。

筆者のポリシーは小説を紹介するときは、面白みが薄れてしまうので、詳しいあらすじは書かないというものだが、この小説は堤康次郎の生き様を描くかたわら、作者堤清二自身の出生の秘密と未知の実母に対する複雑な思い(フィクションなのか実話なのか不明)がちりばめられた伝記と小説の混合なので、640ページという大作でもあり、印象に残った点を紹介したい。


西武鉄道有価証券法違反事件

堤ファミリーが保有する株式を、第三者名義にして株主名を何十年も偽って報告したため、有価証券取引法違反等で、昨年西武鉄道の総帥堤義明氏が逮捕されたことは、記憶に新しい。

この本の中でも堤康次郎が堤義明らに次のように言ったとされている:

「世間では東急を近代的とか大企業らしいなどと言っているが、どの企業も五島家のものではない。そこへいくとわしの事業は全部堤家のものだ。」

「西武鉄道は上場しているが、それは形だけのこと。絶対の支配権はわし一人が握っている。成り立ちが違う。経営の実態を知らない近代かぶれの学者や記者ごとき軽薄才子に惑わされてはいかんぞ。」

「お前らは堤家中興の祖、曾祖父清太郎の遺志だけを継げ、世間の評判は一切無視しろ。そんなもの、悪ければわるいほどよろしい。」


なんと最初は特定郵便局長から事業開始

小泉首相が郵政民営化は是か非かを問うた今年9月の総選挙が記憶に新しいが、なんと堤康次郎は東京に出てきて早稲田大学高等予科に通う傍ら、郵便局を買収して郵便局長として最初の事業を始めている。

明治時代から特定郵便局は儲かる商売だと思われていたようだ。

堤康次郎は明治22年滋賀県東畑郡六箇荘生まれで、幼少の頃父が腸チフスで亡くなったため、弟は養子に出され、実母は実家に帰ることとなり、妹と一緒に祖父に育てられた。しかしその祖父も康次郎が19歳の時になくなる。

田舎では肥料の仲買をやったり、郡役所に勤めたりして最初の結婚をし、21歳で長女が誕生しているがすぐに離婚した。

祖父から相続した田畑を売り、学資をつくって上京し、早稲田大学予科に入学し、政治経済学部へ進学する。立身出世を目指す康次郎は雄弁会で弁舌を鍛えながら、柔道でも腕を上げる。

学生ながら株式投資でできた資金を使って特定郵便局を買収する一方、鉄工所も買収し、複数事業に同時に取り組むという今で言うとポートフォリオ戦略を実行する。

郵便局長時代に23歳で、局員に産ませたのが長男であるが、この相手とは結局結婚はしなかった。


政治への野望

早稲田時代には、ちょうどオックスフォードでの留学を終えて教授として帰国したばかりの永井柳太郎に師事、当時第2次大隈内閣を率いていた早稲田大学創始者の大隈重信とも近づきとなる。このとき永井の指導で『日露財政比較論』という本も出版している。

ほとんどが士族出身で、なおかつ藩閥内閣の薩長閥が力を持っていた当時の政治の世界では、近江の百姓出身というコンプレックスを常に抱いていた康次郎だったが、大正5年に永井の妻の友人の編集者で、2歳年上で小名浜の医者の娘の桜と2度目の結婚をした後は、文人とのつきあいも増え、コンプレックスは薄れた様だ。

桜との間には結局子供はできず、長男と、夭折した弟の息子として戸籍上は届けられた作者堤清二を引き取り、堤清二は桜に育てられる。

永井柳太郎が大正9年に当選し、康次郎もその後を継いで大正13年に衆議院議員となり、以来戦前戦後を通じてずっと議員の資格を持つ。

大正13年の最初の選挙では『家老の子か、土民の子か』という戦略で、普通選挙を求める民衆の意識の高まりをうまく利用し、かつ勧業銀行、興業銀行、山下汽船、東京電燈、実業之日本社などの社長、早稲田や東大教授の支援を得て当選し、永井のいる憲政会に入党する。

ちなみに普通選挙法は大正14年に成立するので、康次郎の民衆意識に訴えるという戦略は、まさに時代を先取りしていた。

昭和7年には永井が外地(台湾・韓国・満州など)を担当する拓務省の大臣となった関係で、政務次官となる。このとき満州を視察し、匪賊に悩まされている辺境の開拓民の実体を知り、満州経営は非常に困難であることを実感したが、流れを変えることはできず、昭和11年に2.26事件が起こったあとは日本は全面戦争に向けひた走ることになる。


地域開発事業への進出

大正2年に大学卒業後、大正6年に後藤新平のすすめで軽井沢の沓掛地区に80万坪の土地を購入し、地域開発事業に進出。郵便局とか鉄工所は手放したが、東京護謨(ゴム)という会社を買収するなど、事業には才能があり、不動産業や鉄道業でもその才覚を発揮する。

司法大臣等を歴任した政治家大木遠吉を訪ねて熱海を訪問した時に、十国峠を越えて箱根を視察し、首都から1日圏の観光地としてのポテンシャルを見抜き、観光地開発を決意、三島から修善寺を走っている駿函鉄道も買収して伊豆・箱根開発に力を入れる。

また東京市長の後藤新平と相談して、国分寺と立川の間に国立をつくり、ドイツのハイデルベルク等にならって、核となる東京商科大学(一橋大学)を敷地が4千坪から2万坪になるという計画で誘致し、駅から延びる『60メートル道路』を持つ学園都市として開発する。

昭和初期には第1次世界大戦後の不況で、不動産業は窮地に陥り、開発費の支払いが滞り、コクドは破産状態となっていたが、なんとか持ちこたえ、戦争拡大とともに景気は回復し、窮地を脱する。

コクドはその後減資・増資して埼京鉄道(西武鉄道)を買収し、さらに路線での不動産開発をすすめ、西武グループは新興企業グループとして確固たる地位を占める。

このころ学園都市開発で知り合った大学教授の娘の治栄とねんごろになり、三男が誕生する。堤義明氏である。治栄とは婚外で2男、1女をもうけた。

戦後、衆議院議長として宮内に正式な妻ではない治栄と一緒に拝謁したことから、スキャンダルを恐れ、長年別居していた正妻桜と離婚して治栄と正式に結婚する。

昭和15年には麻布に一万坪の六荘館とよぶ迎賓館を建設し、一族はそこに住む様になる。東条内閣の時には大東亜迎賓館と呼ばれ、政府の公式な迎賓館としても使われたが、結局空襲で焼けてしまう。


難民は叩き出せ

空襲で大東亜迎賓館が焼け、近所の避難民が逃げてきたとき、堤康次郎は「叩き出せ。絶対に入れるな。棍棒を持って追い出してこい。一度入れたら居座られるぞ。」と大音声を発したと。

「いいか清二、覚えておけ。今、難民たちに甘い顔をしてみろ、どこまでもつけあがるぞ。そのうちに小屋掛けをして居座り、結果は乗っ取られる。財産を守るというのはそういう事だ。」と叫んだという。


戦後の発展

戦後康次郎は5年間公職追放となっていたが、軽井沢、箱根、西武線沿線、ホテル、デパート、スキー場、国立地区、三浦半島、大磯、伊豆など西武グループの事業はさらに拡大した。従業員には康次郎は『大将』と呼ばれ、人望も厚かったようだ。前立腺肥大で尿管閉塞を起こし、これが持病となるが、見事快復する。

康次郎の会社の3原則は:

第1に人のためになることをせよ
第2に人のやらないことをせよ
第3に儲かることをせよ

だという。

箱根では五島慶太率いる東急グループ、小田急グループと熾烈な箱根戦争を繰り広げ、西武が建設した自動車専用道路(箱根ターンパイク?)に東急パスが路線申請をしたことから訴訟合戦も繰り広げられることとなるが、その後自動車専用道路を静岡県に売却し、伊豆観光開発の利権につなげる。


作者出生の秘密

この本を通じての最大のテーマが作者出生(しゅっしょう)の秘密である。

作者は「私は自分が何者なのかを知りたくて、そこから父の伝記を書こうと考えたのだ。」と語っているが、作者出生の秘密を握る謎の人物が出てくる。

渋谷の飲食店経営者で後に近江に戻り尼となる平松摂緒とその姪平松佐智子である。

このふたりは小説の中心の人物なので、詳しく説明しないが、この作品に不思議なテイストを与えている。


不思議な読後感

その他作者が康次郎に反発して、東大経済学部時代に共産党に入党したことや、結核療養、一緒に訪米してマッカーサー、アイゼンハワーに面談したことなどのエピソードもあるが、これは詳しくは本を読んでいただきたい。

結局読み終えるまで20時間以上かかったが、読み終えてみると艶福家(えんぷくか)というより好色の事業家堤康次郎に対する嫌悪感は残らず、一介の百姓から西武グループを創り衆議院議長にまでなった尊敬できる人物の様に思えてきた。

たぶんこれが作者堤清二氏の康次郎氏に対する現在の感情なのであろうと思う。

不思議な読後感であった。


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2013年11月25日

小沢一郎 淋しき家族の肖像 どこまでが真実か不明の暴露本

小沢一郎 淋しき家族の肖像
松田 賢弥
文藝春秋
2013-06-12


「角栄になれなかった男」など小沢一郎に関して何冊も暴露本を出しているフリージャーナリスト・松田賢弥さんの本。



松田さんは週刊文春でも小沢一郎の暴露記事を書いている。

特に、この本の冒頭に引用されている小沢一郎の妻・和子さんの支持者に宛てた手紙(離縁状)は週刊文春でも暴露され、政治家小沢一郎には相当なインパクトを与えるものだ。

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出典:本書10〜11ページ

この手紙は6ページ余りにわたって掲載されている。また、週刊文春WEBには手書きの手紙のコピーが掲載されている。

上記で紹介した最初の部分に結論が出ている。

「このような未曾有の大災害にあって本来、政治家が真っ先に立ち上がらなければならない筈ですが、実は小沢は放射能が怖くて秘書と一緒に逃げだしました。岩手で長年お世話になった方々が一番苦しいときに見捨てて逃げ出した小沢を見て、岩手や日本の為になる人間ではないとわかり離婚しました。」

強烈な手紙である。

それと次の段落で、小沢の隠し子のことが触れられている。3年付き合った女性との間の子で、その人が別の人と結婚するから引き取れと言われ、和子さんと知り合う前から付き合っていた●●●●という女性に、一生毎月金銭を払う約束で養子にさせているのだと。

そして、和子さんが小沢に罵倒された言葉も引用されている。

「あいつ(●●●●)とは別れられないが、お前となら別れられるからいつでも離婚してやる」

伏字になっている部分は、実名が入っているという。

本当の手紙なのか、あるいは捏造(ねつぞう)なのか、にわかには信じられない。

小沢一郎が松田さんや週刊文春を名誉棄損で提訴したという話は聞いていない。

隠し子の話が唐突に出てくることなどから、筆者にはガセはないかという気がするが、本当に離婚しているなら、いずれわかるので、現状では判断は差し控えたい。

「放射能が怖い」という部分はまさにガセの可能性が高いと思うが、隠し子の話は本当なのかもしれない。

うがった見方だが、一部真実が含まれているので、小沢一郎も名誉棄損で訴えられないという事情があるのかもしれない。

先日の最高裁判決で、民法で非嫡出子の遺産分与が嫡出子の1/2となっていることが違憲という判決がでて、衆議院ではこれを規定している民法900条の該当部分を削除する改正案を可決し、議案を参議院に送った

法案に反対する国会議員からは、日本の家族制度が崩壊するという意見が出されたという。

なぜ非嫡出子の遺産分与を嫡出子と同じにすると、家族制度が崩壊するのか、ロジックがにわかには理解できなかったが、この本を読んでなぜ国会議員が騒ぐのかわかったような気がする。

小沢一郎に本当に婚外子がいるのかどうかはわからないが、一部の政治家や資産家が一番影響を受ける可能性が高い。民法を改正しても、一般市民にはほとんど影響がないだろう。

この本には小沢一郎が田中角栄の5歳で肺炎のため亡くなった長男と同い年だったとことから、「他人とは思えない」ということで、田中のバックアップを得たことや、建設省人脈やゼネコンを徹底的に使った小沢流選挙術などが紹介されている。

どれだけ真実が含まれているかどうか、判断できないところだ。

いくつかの真実を含んだキワモノと思って読んでみると良いと思う。


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2013年11月04日

ここは退屈迎えに来て 間違って(?)読んでしまった本

ここは退屈迎えに来て
山内 マリコ
幻冬舎
2012-08-24


短編「十六歳はセックスの齢」で、2008年に第7回R-18文学賞・読者賞を受賞した山内マリコさんのデビュー作。

なんでこの本を読んだのか思い出せない。

たぶん他の幻冬舎の本を読んだ時に、巻末の本の広告で紹介されていたからだと思う。

タイトルに惹かれて図書館で借りて読んだが、1日で読んで返却した。

おっさんの読む本ではなかった、と思う。

舞台は地方都市。サッカーがうまくて高校を卒業して実業団チームに入ったが、ほどなくして退団、今は自動車教習所の教官をやって3歳の娘がいる椎名一樹を中心として、まわりの女性たちのことを描いた短編を集めている。

山内さんは富山県出身で、大学は大阪芸術大学芸術学部卒だ。自分の経験を元に、地方都市出身者の女性の思いを書いている。

このブログで何度も紹介している大沢在昌さんの「売れる作家の全技術」で書いているように、いまは出版界が余裕がなくなり、大沢さんのように11年間28冊も初版だけで”永久初版作家”と呼ばれた人を気長に育ててくれる編集者がいない。

小説講座 売れる作家の全技術 デビューだけで満足してはいけない
大沢 在昌
角川書店(角川グループパブリッシング)
2012-08-01


だから、山内マリコさんも2008年に第7回R-18文学賞・読者賞を受賞していながら、なかなか本が出せず、今回がデビュー作となったのだろう。

幻冬舎には、自費出版の要素も取り入れて一定部数までは、作者が売り上げを保証する制度があると聞いている。あるいは、その制度を使っての出版かもしれない。

小説を書く人には、厳しい時代だが、ぜひくじけずに続けてほしいものである。

文章は整理されて読みやすく、頭にスッと入る。筆者のようなおっさんには無理だが、山内さんのような地方出身者の女性は容易に感情移入できるだろう。


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2013年11月03日

7つの会議 半沢直樹と同時にドラマ化されたもう一つの池井戸作品

七つの会議
池井戸 潤
日本経済新聞出版社
2012-11-02


大ヒットした「半沢直樹」シリーズと同じタイミングでNHKでドラマ化された池井戸潤さんの作品。

このブログでは池井戸さんの作品は「オレたちバブル入行組」「オレたち花のバブル組」「ロスジェネの逆襲」などの「半沢直樹」シリーズや、「下町ロケット」「空飛ぶタイヤ」「鉄の骨」「ルーズベルト・ゲーム」など中小企業を舞台とした企業小説を紹介している。

この7つの会議は、他のどの池井戸作品とも異なる。主人公がいないのだ。「半沢直樹」が大ヒットして、NHKのこのドラマが陰に隠れたのは、そのせいだろう。

7つの会議








出典:NHK番組紹介ページ

大手電機メーカー・ソニックの子会社の東京建電は、住宅向け設備や家電製品、飛行機や電車のイスなどを製造している。会社の最重要営業部門である営業第1部の坂戸課長が、同じ課の万年係長・八角からパワハラで訴えられ、人事部付となる。

代わって営業第1部の課長になった原島は、板戸の処分には何か裏があることに気づく。飛行機や電車などに使われるイスで使われる重要部品のネジのサプライヤーが、数年前に入れ替わっていた。元は営業のエースだった八角も、自分が板戸おろしに使われた本当の理由を知るために乗り出す。

実はネジのサプライヤー交換は重大な意味を持っていたのだ。

主要な登場人物が出てくるたびごとに、その人の生い立ちとか家庭環境、経験とかを紹介するために、その人が主人公となったショートストーリーが出てくる。これの連続なので、主人公は誰かわからなくなってしまう。

アマゾンのカスタマー・レビューで、☆一つを付けた人が言っているように、ビジネスの現場を知っている人には、ありえない設定や展開だ。

なぜありえないか、一つヒントを書いておく。

サーバとPC、どちらもハードディスクが使われるが、サーバが高価で、PCが安いのはなぜだろう?

その違いは不良率と耐久性にある。もちろん材質も違うし、テストも厳しい。ネジは見かけは同じでも、材料となる棒鋼の規格は全く異なる。民生用と特注品と同じものが使われることなど、ビジネスではありえないのだ。

池井戸さんは元銀行マンなので、あまり実業は知らないなという印象を受けるが、小説は楽しめればいいので、「ありえないなぁ」と思いながらも、引き込まれてしまう本である。


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Posted by yaori at 01:06Comments(0)TrackBack(0)