2016年04月29日

マネーボール ビッグデータを野球に適用するとこうなる



データ分析をビジネスに活用した例として、このブログであらすじを紹介しているデータ分析の教科書の「分析力を武器とする企業」で紹介されていたので読んでみた。

分析力を武器とする企業
トーマス・H・ダベンポート
日経BP社
2008-07-24


ブラッド・ピット主演で映画化されている。



ボストン・レッドソックスが採用したことで有名なセイバー・メトリクスを使ったデータ野球の本だと思って読んでみたが、抜群に面白い。

松井秀喜中島裕之が一時在籍していたオークランド・アスレティックスは30年ほど前は、ホセ・カンセコマーク・マグワイアを擁する大リーグ屈指の金満強豪球団だったが、オーナーが代わり、資金の余裕がなくなって、大リーグでも最低予算球団に仲間入りした。

アステレィックスはワールドシリーズ優勝は1989年以来ないものの、それでも毎年のようにプレーオフには出場する。金満球団との競争のなかで、いかにオークランド・アスレティックスがタレントの宝庫ともいえるような戦力をつけていったのかを明かしている。

主人公のアスレティックスの前GMであるビリー・ビーンは、スポーツ万能で体格にも恵まれ、将来を嘱望されて高卒でニューヨークメッツに入団したが、生来の短気さが災いし、メンタル面での弱さが足を引っ張り、メジャーでは目立った成績を残せなかった。

筆者はたまにやるゴルフでミスショットをすると、それが後を引いてスコアを崩すことがよくある。コンバット・フライト・シミュレーターなどのコンピューターゲーム(ちょっと古いか。今はゲームをやらないので)をやる時も、カーッとなって、機械に八つ当たりする傾向がある。

ビリーのように頭に血が上らないように気をつけなければならない。

Microsoft Combat Flight Simulator
マイクロソフト
1998-11-13


ビリーはメッツがワールドシリーズで優勝した時の中心選手、ダリル・ストロベリーと同期の1980年のドラフト入団組で、翌年入団のレニー・ダイクストラとは2年間同じ部屋に住んだ仲だ。

レニー・ダイクストラからは「おい、読書なんてしてどうする。目が悪くなるぞ」と言われたという。

ビリーはむらが多く、三振するとバットを折ったり、壁に穴をあけて八つ当たりする。ビリーの打順が回ってくると、控え投手がブルペンから出てきて、ビリーが三振して暴れまくるところを見物していたという。

メッツからツインズにトレードされ、ツインズで1987年のワールドシリーズ制覇、それからタイガースを経てアスレティックスにトレードされ1989年のワールドシリーズ制覇のベンチにいた。

メジャーリーガーだったら誰でも欲しいワールドシリーズの優勝記念指輪を2個持つビリーは、野球界の「フォレスト・ガンプ」だと自嘲的にいう。

アスレティックスのワールドシリーズ制覇にベンチウォーマーとして参加した翌年、現役をやめてアドバンス・スカウトになる。「とくに野球をやりたいってわけじゃないんだ」というのがビリーの本心だった。

出塁率に注目した野球理論を発掘した当時のアスレティックスのサンディ・アルダーソンGMの右腕として頭角を現し、1999年にアスレティックスのGMに就任する。

GMに就任してからはハーバード大学出身のポール・デポデスタにデータ分析を担当させ、旧来の新人発掘スカウトを全員クビにする。

競争相手が気が付かない、データに基づいた野球を目指して低コストで強いチームを作り上げた。ただし、GMのできることはチームをプレイオフに進出させることまでで、後は運だという。たしかに、アスレティックスは1989年のワールドシリーズ優勝以来、ワールドシリーズ制覇から遠ざかっている。

この本では、抜群の選球眼で、高い出塁率を誇るスコット・ハッテバーグや、大リーグでは珍しい長身の下手投げ投手チャド・ブラッドフォードなどを取り上げている。長年ボストン・レッドソックスで活躍し、最後は楽天に短期間来たケビン・ユーキリスは、ビリーが欲しがった選手として紹介されている。

独自の基準で目を付けた新人を育て上げ、安い年俸の時に活躍させ、高い年俸を払わざるを得なくなるFAの直前に他のチームにトレードして対価を稼ぐのがビリーのやりかただ。

アスレティックスはティム・ハドソンバリー・ジートマーク・マルダーの”ビッグ3”はじめ、後に大成する投手を何人も新人として発掘しているが、意外だったのは、アスレティックスは投手より打者を優先的に獲得するという方針だという。

たしかに、アスレティックスは前記のマーク・マグワイア、ホセ・カンセコ、ジェイソン・ジアンビなど打者としてその後大リーグを代表する存在になる選手も数多く育てている。

そして他のチームから受け入れるのは力の割には評価されていない年俸が低い選手がもっぱらだ。松井秀喜が良い例である。アスレティックスにいた時の松井の年俸はヤンキース時代よりも大幅に下がっているが、打点ではチーム2位と貢献している。

クローザーは買うより育てた方が安いという方針も、たしかにその通りかもしれない。

驚かされるのは、著者のマイケル・ルイスの取材の緻密さだ。どのページを開いても、メジャーリーガーか、ドラフトにかけられるルーキーの名前が誰かしら載っており、それぞれの特徴を簡潔に紹介している。大リーグに親しみのない人でも抵抗感なく読める本に仕上がっている。

ビジネスにも役立つ。選手起用や対戦相手研究にデータ分析を使うことは、いわば当たり前であるが、GMとしてチーム戦力アップのためにデータ分析を使い、低予算で強いチームを作り上げることは、誰でもできることではない。

怒るとイスや壁に当たり散らし、試合観戦はしない主義だというビリーや、電話会議で行われるドラフト会議など、もともと「絵になるシーン」の連続のような本なだけに、ブラッド・ピット主演の映画も大変面白い。

ビリー・ビーンは、スタンフォード大学への進学が決まっていたのに、大リーグの契約金に目がくらみ、高卒でプロ野球選手となったことを、ずっと悔やんでいたという。

GMとして成功してボストン・レッドソックスから250万ドルX5年という巨額の年棒で契約オファーがあったときも、「私は、金のためだけに決断を下したことが一度だけある。スタンフォード進学をやめて、メッツと契約したときだ。そして私は、二度と金によって人生を左右されまい、と心に決めたんだ。」といって断った。

データの信奉者らしからぬ発言ではあるが、信念を曲げないビリーらしい行動だ。

マネー・ボールで取り上げられている選手は成功者ばかりではない。この本でデータ分析による新人選考の結果、有望新人として大きく取り上げられているジェレミー・ブラウンは、結局目が出ず、大リーグ出場はわずか5試合にとどまった。

高卒をドラフトで採用しても、多くはジェレミー・ブラウンの様に目が出ないケースが多い。

日本ハムの大谷翔平も、高卒でメジャーに行くよりも、まずは日本のプロ野球で成功して、それから大リーグに挑戦するほうが正解なのだろう。

あまり野球に興味のない人でも、面白く読める。映画もお勧めだ。


参考になれば投票ボタンをクリック願いたい。



  
Posted by yaori at 00:42Comments(0)TrackBack(0)

2016年04月25日

容疑者Xの献身 こんなんありか?奇想天外な犯罪トリック

容疑者Xの献身 (文春文庫)
東野 圭吾
文藝春秋
2008-08-05


東野圭吾のガリレオシリーズの代表作。東野圭吾はこの作品で直木賞を受賞している。

容疑者Xの献身 ブルーレイディスク [Blu-ray]
福山雅治
ポニーキャニオン
2009-03-18


起こった犯罪自体は、どこにでもありそうな事件だが、犯罪を隠ぺいするためのストーリーが凝りに凝っている。

最後まで息をつかせないストーリー展開だ。

この作品は映画化されている。まだ映画は見ていないが、次の画面の通り、湯川の大学の同期生の数学の天才で、高校柔道部コーチの石神を、堤真一(マフラーで顔があまり見えないが)が演じているので、若干違和感がある。



それにしても、これだけのストーリーをよく考えたものだ。

バツイチで娘と暮らす美貌の隣人に片思いの恋心を抱く高校の数学教師石神は、探偵ガリレオこと湯川と警視庁刑事の草薙の帝都大学の同期生だった。

最初に石神が毎朝高校に出勤する前に立ち寄る清州橋付近にある弁当屋と、道すがらの隅田川沿いのホームレスキャンプが登場する。

このホームレスキャンプが「小説のトゲ」となって、後から効いてくる。

この弁当屋で働く、石神の隣人の元夫が殺された。事件を担当する草薙から湯川は相談を受ける。

その事件の関係で、殺された男の元妻が重要参考人として浮かび上がる。しかし、元妻には映画を見ていたという2時間余りを除いて、ほぼ完ぺきなアリバイがあった。

湯川はひょんなことから、その重要参考人の隣人が石神であることを知る。

湯川は石神を天才数学者と一目置いていたが、石神とは卒業後音信不通で20年が過ぎており、天才数学者の石神が一介の高校教師となっていることに驚く。

そして湯川は、この事件は綿密に考えられたアリバイ工作があると見抜く。

親友の石神と対決せざるをえなくなって苦しむ湯川。

湯川は、友人の警視庁の草薙とは別行動に出る。

石神と湯川の直接対決。

その後、石神は思いもかけない行動に出る。

それは……。

というようなストーリーだ。

やりすぎといった感のあるストーリーだが、思いもかけない展開だ。

文庫本で400ページ余りの作品だが、最後まで一気に読んでしまう。

大変面白い小説だ。一読をお勧めする。


参考になれば投票ボタンをクリック願いたい。

  
Posted by yaori at 23:18Comments(0)TrackBack(0)

2016年04月23日

メジャーリーグの英語 ColdじゃなくてCalledだったんだ



メジャーリーグの野球中継でよく使われる英語を投手用語、打者用語、守備用語などのカテゴリーや、トピックス、有名人、メジャーリーグ観戦術などの分野に分けて紹介した本。

あまり難しい英語はないので、簡単に読める。

この本で一番難しい英語は、たぶんアメリカ国歌だろう。

次に一番の歌詞だけ引用する。

Oh, say can you see,
by the dawn's early light
What so proudly we hailed
at the twilight's last gleaming?

Whose broad stripes and bright stars,
through the perilous fight.
O'er the ramparts we watched
were so gallantly streaming?

And the rockets' red glare,
the bombs bursting in air,
Gave proof through the night that
our flag was still there,

Oh, say does that star-spangled
banner yet wave.
O'er the land of the free
and the home of the brave!



難しい歌詞だし、難しい旋律だ。

この本の収穫は、筆者が間違って覚えていた単語があったことだ。

たとえばコールドゲーム、てっきりCold Game、つまり盛り上がりに欠ける試合という意味だと思っていた。ところが、これはCalled Game、つまり審判によってCall=宣告されたゲームで、審判が試合終了をCallしたから、Called Gameとなるのだ。

おなじように、見逃し三振もCold Strikeだと思っていたら、Called Strikeだった。これまた、審判がストライクとCallして三振という意味だった。

筆者が米国のピッツバーグに駐在していた時に、小学生の長男は町の少年野球チームに入っていた。

全米がそうなのか、たまたま筆者の住んでいた町がそうなのかわからないが、筆者の住んでいたUpper St. Clair(アッパー・セント・クレア)という町は、少年野球参加希望者13人ごとに1チームを編成して、どんなに下手でも必ず試合に出られるように編成する。

ピッチャーも毎回変えて、誰でもピッチャーとなれ、誰でも打席に立てるようにする。

下手でもなんでもいいのだ。

1チームに一人、父兄のボランティアコーチがいて、そのコーチがポジションや打順を決める。

守備は9名だが、打撃は13名全員が順番で打席に立ち、特に交代などなかったと思う。

小さい時から野球に親しむことが目的の育成方法だ。

もちろん日本の様に軟式野球ボールはないので、はじめっから硬球、金属バットだ。

コーチは、"ノー・コールドアウト"といって、バッターを送り出していた。筆者は"Cold out"つまり、手を出さない消極的な三振だとおもっていたら、これも"Called out"つまり、審判に宣告された三振=見逃し三振だったのだ。

米国では、どんどんバットを振っていって、空振り三振は"Good try"といってほめる。四球=Walkを選んだり、ボール球を見送ったりすると、"Good eyes"といって、またほめる。

子供を叱らず、ほめて育てる文化なのだ。

この本では、「Money Ball」で話題になった、SABERMETRICSの考案者、ビル・ジェームズについても「常識として知っておきたい人たち」というコーナーで紹介している。

「Money Ball」では、アスレティックスのGM,ビリー・ビーンのことが中心で、SABERMETRICSを発案したビル・ジェームズについては、簡単に紹介しているだけだ。

ビル・ジェームズは熱心な野球ファンとして、既成観念にとらわれず、データを分析して、独自の理論を打ち出した。

投手は、勝率や勝利数でなく、WHIP(Walk plus Hits per Inning Pitched、つまり四球とヒット数を投球回数で割ったもの)、打者は打点や打率でなく、OPS(On-base Plus Slugging、つまり出塁率に長打率を足したもの)で評価すべきだというのが、ビル・ジェームズの理論だ。

このブログでも「Money Ball」の映画「マネー・ボール」の本を紹介しているので、参照してほしい。






ついでに、たけしの「野球小僧の戦後史」も紹介しておく。たけしと野球のかかわりで、戦後史の一面を描いた本だ。

たけしが明治大学出身なことは知っていたが、明治大学の理工学部は神奈川県川崎市の生田にあり、たけしは足立区の東武線の梅島駅の近くに住んでいたので、片道2時間かかったという。

たけしは昭和22年生まれの団塊の世代で、昭和40年に明治大学の機械工学科に入ったが、学生運動が活発な時期で、授業にも影響がでて、結局たけしは大学に行かなくなり、5年で除籍処分となっている。




明治大学は、その後平成16年にたけしに「特別卒業認定証」を送って、卒業扱いとしている。当時は学生運動が活発な時で、たけしは学業を続ける意欲を3年でなくしたが、それまでに106単位を取得しており、そのままいけば卒業は問題なかったし、たけしの母親は5年間学費を納めていたからだと。

昭和34年の「天覧試合」では、長嶋のサヨナラホームランが有名だが、この試合で新人の王もホームランを打ち、長嶋は2本のホームランを打っていることを初めて知った。

気軽に読める本である。


参考になれば投票ボタンをクリック願いたい。


  
Posted by yaori at 23:50Comments(0)TrackBack(0)

2016年04月19日

戦略がすべて 瀧本哲史さんの戦略的思考「攻略本」

戦略がすべて (新潮新書)
瀧本 哲史
新潮社
2015-12-16



このブログで紹介した「僕は君たちに武器を配りたい」と「武器としての決断思考」の著者、京都大学准教授の瀧本哲史さんの近著。






この本はアマゾンの「なか見!検索」に対応していないので、「なんちゃってなか見!検索」で目次を章まで紹介しておく。

機.劵奪肇灰鵐謄鵐弔砲蓮峪迭櫃院廚ある

1.コケるリスクを排除するーAKB48の方程式

2.全てをプラットフォームとして考えるー鉄道会社の方程式

3.ブランド価値を再構築するー五輪招致の方程式

供]働市場でバカは「評価」されない

4.「儲ける仕組み」を手に入れるースター俳優の方程式

5.資本主義社会の歩き方を学ぶーRPGの方程式

6.コンピューターにできる仕事はやめるー編集者の方程式

7.人の流れで企業を読むー人材市場の方程式

8.二束三文の人材とならないー2030年の方程式

掘 岾弯掘廚覆プロジェクトは報われない

9.勝てる土俵を作り出すーオリンピックの方程式

10.多数決は不毛であるーiPS細胞の方程式

11.人脈とは「外部の脳」であるートップマネジメントの方程式

12.アナロジーから予測を立てるー北海道の方程式

検‐霾鵑棒む「企み」を見抜け

13.ネットの炎上は必然であるーネットビジネスの方程式

14.不都合な情報を重視するー新聞誤報の方程式

15.若者とは仲間になるーデジタルデバイスの方程式

16.教養とはパスポートであるーリベラルアーツの方程式

后/祐屬痢峅礎諭廚篭軌蕕之茲泙

17.優秀な人材を大学で作るー就活の方程式

18.エリート教育で差別化を図るー東京大学の方程式

19.コミュニティの文化を意識するー部活動の方程式

20.頭の良さをスクリーニングするー英語入試の方程式

21.入試で人間力を養うーAO入試の方程式

此\治は社会を動かす「ゲーム」だ

22.勝ち組の街を「足」が選ぶー地方創生の方程式

23.マーケティングで政治を捉えるー選挙戦の方程式

24.身近な代理人を利用するー地方政治の方程式

察\鑪を持てない日本人のために

それぞれの章で上記の「方程式」と呼ばれる「勝ちパターン」=戦略が紹介されているので、瀧本さん自身はこの本を「戦略的思考ケースブック」と呼んでいる。

たとえばAKB48の方程式とは、「プラットフォーム」をつくることだ。「人」を売るビジネスでは、「成功の不確実性」、「稼働率の限界」、「交渉主導権の逆転」の問題がある。AKBの方程式では、これらの課題を次のように解決している。

AKBのメンバーは芸能プロダクションに所属していて、AKB活動の時だけ、AKBに派遣されている。大量のメンバーを入れながら、リスクやコストをすべて負う必要はない。AKBの社員ではないので、固定費はない。稼働率の問題はないのだ。

誰が売れるかわからないが、誰かが売れるだろうというやり方ができ、総選挙という消費者の好みを聞くしくみもある。総選挙で上位のタレントを集中的に売り出せばよいのだ。これなら成功の確実性は非常に高い。

AKBというプラットフォームに仕事が来るので、個々のタレントの独立や報酬の高騰といったリスクは小さい。つまり、交渉主導権を失うリスクは小さい。

このようにプラットフォームをつくることで、様々なリスクを軽減して、ビジネスに永続性を持たせることができる。

AKBのセンターがどんどん変わり、「卒業」しても、AKBの人気は維持できる仕組みができている。たとえば宝塚歌劇団でも同じような構造を持っているし、コンサルティング会社や弁護士事務所などのプロフェッショナルファームも似たような仕組みを持っている。

コンサルティング会社は素質のありそうな人をアソシエイトとして大量採用し、その中から才能が開花して顧客を獲得できた人材だけをパートナーにしていく。誰が売れるかわからないAKBのシステムとよく似ている。

また、稼働率の問題はアソシエイトに見えない調査などの仕事をやらせて、顧客対応などの見える仕事はパートナーが行うことで解消できる。

瀧本さんが居たマッキンゼーの例が紹介されている。現在「マッキンゼー」という本を読んでいるのので、近々あらすじを紹介する。




このような形で、それぞれの「方程式」を紹介している。それぞれの章の最後に「まとめ」があって、わかりやすい。

たとえば、非常に参考になった12.の「アナロジーから予測を立てるー北海道の方程式」の「まとめ」は次のようになっている。

・アナロジーから未来を予測することで、ビッグデータには導けない仮説を導き出せる。
・北海道のように、未来を読むための縮図や実験場を見つける(北海道は日本の縮図として、消費財のテストマーケティングに使われることが多い)。
・ドラスティックな変化は新しいビジネスのチャンスになる。
・「日本人の知恵」の部分を輸出するというビジネスモデルには商機がある。

21.の「入試で人間力を養うーAO入試の方程式」では、ひところ有名になった「ビリギャル」の入学後についての新聞インタビューによる後日談を紹介している。結局、大学教育になじめず、あまり業界リサーチをせず就活をして、結局短期で退職し、その後同業種の小さな会社に再就職しているという。

入学試験で合格することは手段でしかなく、その後何をするかが大事だが、「受験が最高の成果だった人」の受験本がヒットするという歪んだ構造があるという。




最後に瀧本さんは、日本企業のキャリアパスに疑問を投げかける。

日本の一般的な組織においては、「良き平社員が、係長に」、「良き係長が、課長に」、「良き課長が、部長に」の延長で、最高意思決定者が決まる。

多くの場合は本流の部門や業績を伸ばした部門を上り詰めた者が選ばれる。意思決定の力量ではなく、環境や時代に恵まれていたり、社内評価を高めることに成功した人というわけだ。

そんな人が突然戦略的思考を求められても無理だろう。実のところ、作戦指揮と戦略決定は、野球とサッカーぐらい違うのだ。

企業という組織においては、各階層での仕事は大きく異なるため、日本のようなキャリアパスの設計は適切ではない。事実、多くのグローバル企業では、最初からリーダーを選抜し、かなり早い段階から難しい意思決定をさせて経験を積ませている(日本でも先進的な企業はすでにそうなっている)。

だから戦略的思考を身につけるには、中堅幹部向けの戦略思考研修や、ロジカルシンキング本などの「勉強」ではあまり成果は上がらない。

多くの問題を解いたり、「実戦」の場に出たりして、その成否を検証できるプロセスを何度も経験することが重要で、ビジネススクールなどで行われているケーススタディを大量にこなすという「疑似トレーニング」が有効だと瀧本さんは語る。

身の回りに起きている出来事や、日々目にするニュースに対して、戦略的に「勝つ」方法を考える習慣を身につけ、「勝利の方程式」を自分で考えてみることを勧めている。

筆者も、ネット企業の経営者だったことがあるので、瀧本さんのいうことはよくわかる。

経営者は「できる営業マン」の最終形ではない。経営者は、その会社の立ち位置を完璧に理解し、どういう戦略で強みを伸ばして、収益を上げるのか、どこに集中しなければならないのか、どうしたら社員の士気を上げることができるのか等、明確な戦略を持ち、それをもとに社員を鼓舞して組織を動かさなければならない。

当時の筆者には会社の全体像が見えておらず、どこに成長の限界となる弱みがあり、どうやって永続的成長を遂げるのかの戦略を持っていなかった。

そんな反省も「実戦」を経験したからこそ、わかったことだ。

この本では、上記のような「方程式」を紹介することで勝ちパターンを考えるヒントを与えてくれる。

このブログであらすじを紹介している「ロジカルシンキング」「ロジカルライティング」といった本も「教科書」として役に立つが、戦略的思考の実践的練習を始めるなら、「攻略本」としてこの本が役立つと思う。







まず一度読んで、気に入ったら、何度も読み込むことをお勧めする。


参考になれば投票ボタンをクリック願いたい。

  
Posted by yaori at 21:19Comments(0)TrackBack(0)

2016年04月16日

闘う純米酒 埼玉県の神亀酒造の純米酒製造



ほぼすべての日本酒が醸造用アルコールと調味料を加えて作られた三倍増醸清酒が全盛だった時代に、全国に先駆けて全量を純米酒とした埼玉県蓮田市の神亀酒造を中心とした日本酒の作り手の側からの本。

神亀酒造






















三倍増醸清酒は、もともとは戦中・戦後のコメ不足の時代に少ないコメで多くの酒を造るために開発された苦肉の策の酒つくりだった。

同じ量のコメから3倍の酒がつくれるということは3倍の税収になるため、税収を増やしたい国の政策と合致したため、戦後の混乱期から戦後を通して日本酒生産の中心だった。

昭和50年ころからの地酒ブーム、純米酒ブームで平成15年に酒税法が改正され、現在は三倍増醸清酒は、「清酒」ではなく「リキュール類」になっているが、筆者の学生時代の昭和40年代は、日本酒というと三倍増醸清酒だった。

筆者は、学生時代から日本酒は悪酔いするというイメージを持っており、それがずっと続いていた。混ぜ物ばかりの三倍増醸清酒を飲まされていたのだから、悪酔いするのは当たり前といえば当たり前だ。

今の日本酒は、筆者の学生時代に飲んでいた三倍増醸清酒とは全く異なる。

筆者が日本酒の良さに気付いたのは、東日本大震災復興支援の思いも込めて東北の日本酒を飲み始めた5年前のことだ。

この本では、三倍増醸清酒全盛時代に、税務署の指導をはねのけて日本酒本来の製法である純米酒つくりを全国に広めた埼玉県の神亀酒造と、神亀酒造に影響を受けて純米酒生産に転換した各地の蔵元の話を紹介している。

神亀酒造の主力商品「ひこ孫」は3年間冷温熟成させた純米酒で、新酒が良いというそれまでの日本酒の常識を覆した酒だ。

神亀 ひこ孫 純米吟醸酒 720ml
神亀 ひこ孫 純米吟醸酒 720ml

実は、神亀酒造が税務署とケンカしながら1タンクだけ作った純米酒は、新酒では辛くて薄いと不評で、売れ残ってしまった。

しかし、その売れ残りが数年間瓶の中で熟成して良い酒になっていたのだ。

それまで日本酒は作った醸造年度に売るというのが原則で、税務署は在庫が2年分もあるのに、なぜ製品を作るのかと何年も寝かすことは認めていなかった。この面でも税務署との争いになったという。

この本では神亀ファンと一緒に自ら田植えをしてコメつくりをしたり、日本の純米酒つくりの先駆けとして、他の蔵元に支援を惜しまない神亀酒造の姿勢を紹介している。

酒蔵で蔵人全員が半年ほど合宿して酒造りに取り組む生活や、杜氏(とうじ)がどのように判断して酒つくりを進めているのか、神亀酒造で学んだ蔵人がその後各地の酒蔵で酒つくりを始める姿なども紹介されている。

酒造りといえば、フジテレビでドラマ化された「夏子の酒」が有名だ。





夏子の酒は伝説の酒造米を復活させて酒つくりに取り組むというストーリーだ。

原料のコメも重要ではあるが、むしろ醸造工程が酒の良し悪しを決める。

もともとは「蔵付き酵母」という、その蔵に住みついている酵母を使って醸造していたので、納豆やミカンは酒蔵には禁物だったという。

現在は科学的にプロセスが改良され、工程も温度もコンピューター管理されているが、それらが導入される前は、杜氏の経験と勘にたよった製法だった。

獺祭はじめ、日本酒の輸出も増えている。しかし、税務署と戦っても純米酒を作るという神亀酒造のパイオニア精神がなければ、今の日本酒ブームはなかった。

純米酒のパイオニアの苦労がわかる一冊である。


参考になれば投票ボタンをクリック願いたい。


  
Posted by yaori at 23:41Comments(0)TrackBack(0)

2016年04月09日

カッコウの卵は誰のもの WOWWOWドラマ化された東野圭吾の小説



この前紹介した「プラチナデータ」以来、東野圭吾の作品をいくつか読んでいる。

東野圭吾の作品はいくつもテレビドラマになっている。

この「カッコウの卵は誰のもの」もWOWWOWでドラマ化されて、現在放送中だ。土屋太鳳(たお)が主役の風美役を務めている。

カッコウ






















アルペンスキーでオリンピック出場を目指す風美は親子二代にわたるスキーヤーだ。

風美はどんどん実力を上げ、大会でも上位に食い込むようになってきた。そんな風美が所属する企業チームの新世開発に、ある日脅迫状が届く。風美をチームから外さないと、風美に危害を加えると。

脅迫状が届いてすぐ、風美が乗るはずだったホテルのマイクロバスが事故を起こし、風美のファンだと言って近づいてきた初老の男性が巻き込まれて重体になる。

一方、スポーツ選手の才能は「スポーツ遺伝子」で決まるという理論を証明したい新世開発スポーツ科学研究所の柚木は、元オリンピックアルペンスキー選手だった風美の父親にDNA提供を求めるが、断られていた。

ところが、バス事故後、風美の父親のほうから、DNAを分析してくれと逆に依頼され、風美の亡くなった母親のものだとして血がついた紙を渡される。

分析結果は、風美が持つスポーツ遺伝子は母親も持っていたことがわかる。元オリンピック選手の父のみからスポーツ遺伝子を受け継いだわけではなかったのだ。

風美の母親はスポーツ選手ではなかった。判定結果は柚木をがっかりさせるが、逆に風美の父は不安にかられる。

風美は自分と自殺した妻との子供ではないのではないかという疑問を持っていたからだ。

自分が海外遠征中に妻が入院していた病院には、出産記録はない。

カッコウの托卵のように、どこかで乳児を見つけてきたのではないか?

風美の母親の出身地であり、風美の出生地である新潟や長岡で亡くなった妻の友人や病院を調べまくる父。

柚木も加わって、調査が進むと意外な事実が浮かび上がってきた。

あの風美のファンだといって、近づいてきた男の本当の目的は?……。

というようなストーリーだ。

どういう結末となるのか予想がつかず、どんどん読み進んでしまう。

大変楽しめる小説だ。

テレビドラマはWOWWOWに契約していれば、WOWWOWメンバーズオンデマンドに登録すれば無料でストリーミング視聴できる。

今度ドラマも見てみようと思う。


参考になれば投票ボタンをクリック願いたい。




  
Posted by yaori at 21:35Comments(0)TrackBack(0)

2016年04月03日

日本型モノづくりの敗北 ”日本の技術力は高い”のか?



大学のクラブの先輩から勧められて読んでみた。

零戦がサブタイトルに入っているが、もっぱら半導体産業と電機メーカーの話だ。

電機メーカーの話は、シャープの経営危機について湯之上さんが参加したテレビ討論が湯之上さんのHPでリンク付きで紹介されているので、これを読むとこの本の論点がわかる。

この本と同じような話は失敗学の権威・畑中洋太郎さんが「技術大国幻想の終わり」で書いているが、この本のほうが現場の元技術者の告発本だけに説得力がある。



著者の湯之上(ゆのがみ)さんは、元日立製作所の半導体研究者で、日立からDRAM製造のエルピーダ(現マイクロン・ジャパン、もともと日立、NECのDRAM製造部門を統合した会社。のちに三菱電機のDRAM部門も買収)に出向した。

そのあとは超LSI開発コンソーシアムのセリートに出向、日立を退職して、いったん半導体エネルギー研究所に務めた後は、同志社大学のフェローとして半導体産業の社会科学を研究し、2010年に微細加工研究所を設立してみずから所長となっている。

湯之上さんはもともと微細加工技術の専門家で、日立でも微細加工技術を研究し、日立とNECがDRAM生産部門を統合して設立したエルピーダにエッチンググループの課長として赴任した。

エルピーダでは当初は日立・NECのたすき掛け人事だったが、技術開発の考え方が日立とNECでは大きく異なり、製造設備の互換性もなかったので、そのうちに「ほとんどNEC」になり、湯之上さんは課長を降格され、部下も仕事も取り上げられて追い出された。

日立ではいったん出向すると、本社のキャリアパスに戻ることはほとんどないので、3度の早期退職勧告を受け退職した。

しかし、転職がなかなか決まらず、早期退職申し込み期限を1週間過ぎて退職したため、自己都合退職となり、早期退職金の約2,500万円はもらえず、退職金は100万円のみだったと。

この話を2回も書いているので、よほど悔しかったのかもしれないが、もし本当に知っていて期限をミスったのであれば、筆者に言わせればこの人は「極楽とんぼ」か「技術者バカ」だ。

たとえば失業保険だって、会社都合なら退職の翌日から支給されるが、自己都合であれば、なかなか認められない。単に退職金だけの話ではない。扶養家族もいるのだと思うが、会社都合と自己都合の違いがわかっていて、自己都合退職したのだろうか?

自己都合とせざるをえない、なにか事情があったのではないかと勘ぐってしまう。

そんな印象を持ったので、この本のところどころに、エルピーダに問題点を指摘したら、出入り禁止になったり、ルネサス(日立、NEC,三菱電機の超LSI製造部門を統合した会社)の幹部から、講演や執筆活動をやめろと言われた話がでてくるが、どこまでが本当なのか信憑性を疑ってしまう。

ともあれ、日本の半導体、電機メーカーの凋落の原因分析としては、この本の指摘していることは正しいと思う。

今までは筆者も韓国の半導体メーカーの成功は、日本の半導体製造機器メーカーから最新鋭の機械を購入して大量生産しているからだと思っていた。

つまり、日本のメーカーの工場は古く、生産機械も旧式なので、そんな設備で少量生産していては韓国の最新鋭機械による大量生産に勝てないものだと思っていた。

ところが、この本を読んでみると、そんなに簡単な話ではないことがわかった。

半導体製造技術は次の3つの技術のすり合わせだ。

1.要素技術(成膜技術、微細加工技術、洗浄技術、検査技術などの製造基礎技術)

2.インテグレーション技術(要素技術を組み合わせて、半導体をシリコンウエハーの上に形成するための500ほどの工程フローを構築する技術)

3.量産技術(構築した工程フローを量産工場に移管して大量生産する技術)

機械を買っただけではダメで、要素技術をすり合わせるインテグレーション技術と量産技術が必要なのだ。

特に、DRAM製造工程の30%を占める洗浄工程は重要で、洗浄液が秘伝のタレのようにメーカーごと、工場ごとに違っている。そのため、エルピーダはNECの開発センターで構築されたDRAM工程フローを日立の量産工場では移管できず、エルピーダが急速にシェアを失った原因となったという。

湯之上さんによると、日立は新しい技術開発に熱心で、NECは均一な製品を作る(そして歩留まり100%を目指す)ことに最重点を置いているが、いずれも低コストで生産することが最重点ではない。

一方、三菱電機は、日立やNECに比べて安くつくる技術は高い。

エルピーダも、日立が新技術の開発を行い、三菱がインテグレーション技術を担当し、NECが生産工場の生産技術に専念すれば成功しただろうが、”ほとんどNEC”となってしまったので、「こてこて」の工程フローで生産コストは下がらなかったという。

これに対して、韓国のサムスンは歩留まりは80%程度でよいので、ともかく安く量産し、スループットを上げることに最重点を置いている。

日本の半導体メーカーは1980年代にDRAM(メモリ)で世界で80%のシェアを持っていたが、当時の主なDRAMの販売先はメインフレームコンピュータや、電話交換機などだった。当時は25年保証のメモリなどが要求されていた。

日本は過剰技術で過剰品質をつくっているが、安く作る技術力は低いのだ。

ところが、1990年代に入り、コンピュータ業界にパラダイムシフトが起こり、メインフレームからPCが主流になったとき、メモリは25年も持つ必要はなく、安いメモリが要求された。

日本の半導体メーカーは「イノベーションのジレンマ」に陥ったのだ。




サムスンは開発から量産まで一つのチームが担当するチーム交代制の組織となっており、日本のように研究所、開発センター、量産工場で士農工商のようなヒエラルキーはないという。

たとえばA〜Eのチームが回路幅100ナノメートルの量産品から、95〜80ナノメートルの次世代DRAMを試作し、95NMが量産化されれば、100NMの量産チームは今度は75NMの開発に着手するという具合だ。

また多くのマーケッターを抱えるのもサムスンの特徴だ。作ったものを売るのではなく、売れるものを作るという発想だから、市場を熟知したマーケッターを多く抱えるのだ。

ちなみにこの本の「サムスン電子の驚くべき情報収集力」というコラムも面白い。湯之上さんのセリート在勤中の論文をサムスンの100人規模の日本人顧問団が入手していたのだという。

ルネサスはマイコンの世界シェア1位(30%)で、自動車用のマイコン製造では断トツだ。

東日本大震災でルネサスの常陸那珂工場が被災した時も、自動車メーカーなどが2,500人の応援部隊を出して、復旧作業を助けた。

インベストメントファンドのKKRが買収直前まで行ったが、経産省の荒井勝喜情報通信機器課長(当時)の画策により、政府系ファンドの産業革新機構、トヨタ自動車、日産自動車などの官民コンソーシアムが阻止した。

ルネサスは自動車産業の食物連鎖の中に組み込まれており、下請けという存在から抜け出せず、利益も上げられていない。KKRが経営すれば、ルネサスが生まれ変わるチャンスだったのに、経産省はそれをぶち壊したと湯之上さんは語っている。

この本の最後では、苦境に陥っているインテルのことを書いている。

2010年台湾のTSMCのCEOモリス・チャンは、日本の半導体メーカーは規模も小さく、生産効率が悪いから今後ファブレス化せざるをえないだろう、20年後に残っている総合半導体メーカーはインテルとサムスンだけだろうと予測した。

ところがインテルの総合半導体メーカーとしての生き残りもが怪しくなってきた。スマホ向けプロセッサーがないのだ。

アップルがiPhone向けCPUをインテルに打診したとき、インテルのオッテリーニCEOは、iPhoneの市場規模を実際の100分の一と予想して断った。

それを受注したのがサムスンだ。サムスンのGalaxyにはiPhoneのCPU生産で得られたノウハウが生かされている。

この本の最後に主要製造装置のメーカー別シェア(2011年)を紹介している。筆者はいままで半導体製造装置ではニコンはじめ日本メーカーが圧倒的シェアだと思っていたが、露光装置はいまやオランダのASMLがトップで8割近いシェアを持っている。

日本の生産装置は一台一台の「機差」が大きいいが、ASMLの露光装置は「機差」が極めて小さく、工程ごとに専用機化する必要はなく、稼働率が高いのだという。

まさに盛者必衰の世界だ。

若干、「ホントかな?」という情報もあるが、読みやすく、よくまとまっている。

一読をお勧めする。


参考になれば投票ボタンをクリック願いたい。



  
Posted by yaori at 19:14Comments(0)TrackBack(0)