鈴木敏文の「本当のようなウソを見抜く!」-セブンーイレブン流「脱常識の仕事術」
鈴木さん本人が書いた
商売の原点と
商売の創造の2部作は以前紹介したが、この本はセブンイレブンウォッチャーのジャーナリストが鈴木さんとのインタビューをまとめたものである。
鈴木さんが書いた本にはなかった鈴木さんの経歴も参考になる。
鈴木さんはもともとジャーナリスト志望だったが、入社予定の出版社が採用取りやめとなり、その紹介で書籍取り次ぎ最大手のトーハンに入社した。
トーハンでは出版科学研究所に配属となり3年間調査・研究にあけくれ、統計学と心理学の重要さを知る。
その後トーハン本社の広報部に転勤となり、従来無料で出していた新刊ニュースを読み物も加えた有料誌として、発行部数を5千部から13万部に増やして成果を上げた。仮説と検証で成功したわけだ。
30歳でヨーカ堂に入社し、人事や業務開発担当役員となった39歳の時に、コンビニ事業を知り、新聞広告等で集めた新規採用者中心に15名の素人集団でセブンイレブン・ジャパンをスタートした。
セブンイレブンはハーバードビジネススクールのケーススタディでも取り上げられ、2004年4月に鈴木さんはハーバードで特別講義を行った。
「
消費は経済学でなく、心理学で考えなければならない」、「
買い手市場の時代の最大の競争相手は変化する顧客のニーズに他ならない」。鈴木さんの言うことはハーバードでもどこでも常に変わらない。
セブンイレブンのの単品管理(商品ごとに売れ筋と死に筋を的確に把握し、発注精度を高める)は『
タンピンカンリ』としてトヨタの『
カンバン』方式同様に英語になった日本語である。
さて本書のタイトルとなっている
本当のようなウソの例だが:
多様化の時代というウソ。むしろ逆で日本ほど画一化の国はない。この商品が良いとなると、みんなその商品に集中する。そうした商品が出ては消えるため、一定の時間帯で見ると多様化に見える。
しかし実際には特定の商品にみんなこぞって飛びつくことの繰り返しで、
富士山型の商品投入では機会ロスと廃棄ロスをまねくので、一気に投入し、一気に引き上げる
茶筒型(円筒型)の投入が必要である。これがタンピンカンリで、最終的な目的は顧客ロイヤリティの向上である。
お客のためにというウソ。『お客のために』という言葉を禁止。
お客の立場に立って考えるべきで、お客は素人、自分たちは商売の専門家という考え方を捨てる。ためにと立場になるとは同じように見えて大きく違う。
『安くしなければ売れない』というウソ。売り手の勝手なきめつけ。マクドナルドの価格戦略の迷走を思い出す。
店に対する顧客の期待度はどんどん高まっていく。イチローの様に常に観客の期待を上回ることを目指す。セブンイレブンではチャーハンにも1年半をかける。(そういわれるとセブンイレブンのチャーハンを食べたくなった)
ケータイや旅行などサービスへの支出が増えたので、財への支出が減ったというウソ。多くの消費者は新たに欲しいものが見つからないだけである。
不景気で消費者は家計の収入が減ったため、支出を切りつめているというウソ。世帯の月平均可処分所得を調べてみると、バブル崩壊後も伸び続け、一番高かったのは1996−97年だった。実は新しい質の良い商品が提供できなかたので、消費者の購買意欲を掘り起こせずにいたのである
顧客は『今ないもの』については聞かれても答えられない。明日の顧客は何を求めるのか。顧客に聞くのではなく、自分で
仮説を立て、それを
検証する。これが鈴木経営学におけるもっとも基本的な仕事だ。
仮説づくりは「どうしてなのか?」と疑問を発することから始まる。アルバイトも正社員もない。仮説を立てない人は仕事をする気がないのと同じである。
鈴木語録から参考になる一言をあげると:
つじつま合わせをしようとするのが人間の心理。
部下とは上司に対し常に自己正当化を図る存在である。
ものわかりの良い上司を演じても業績には結びつかない。なぜ結果が出なかったのか、徹底的に追及する上司でないと会社は傾く。筆者も反省するところ大である。
情報は一本釣りでなく、はえなわ式で収集する。関心のフック(釣り針)を多く持てば情報は自ずとかかってくる。
仕事をするときに重要なのは自分で自分自身を常に客観的にみることである。
このような意識の持ち方はメタ認知と呼ばれ、これを実践しているのがイチローであると著者は指摘する。
イチローはあるべき姿のセルフイメージをしっかり持っており、実際の動きとのズレに常に改善が重ねられる。
7月17日にNHKで野茂の特集をやっていたが、まさに野茂も同じだ。タンパベイのチームメートからもマッスルメモリーと呼ばれていたが、常に求めるイメージを抱き、現実の自分と常にチェックして向上を目指すのだ。
実名入りで紹介されている逸話や実例も参考になる。
セブンイレブンの強さを支える
対話力の例として、OFC(オペレーション・フィールド・カウンセラー)とオーナーが協力してコンビニでの試食を始めた例、廃棄ロスを減らすために縮小均衡に陥ってしまった惣菜販売をむしろ大量に展示して成功した例が実名入りであげられている。
札幌の『すみれ』に始まるセブンイレブンの有名店ラーメンシリーズの話も面白い。メーカーは日清食品だった。やっぱりね。
鈴木さん自身の本の様な説得力はないが、印象に残るストーリーがいくつもある参考になる本である。
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