2005年11月15日

アマゾン・ドット・コムの光と影 数少ないアマゾンに関する本

潜入ルポ アマゾン・ドット・コムの光と影―躍進するIT企業・階層化する労働現場


このブログでは楽天、ライブドア、ソフトバンク、サイバーエージェント、インデックスなど日本のIT業界を代表する経営者や会社を取り上げてきたので、次はアマゾンだろうと思っていろいろ本を調べてみた。

この本は2005年2月の文芸春秋に掲載されたレポートを本にまとめたもの。

著者の横田増生(ますお)さんは、元物流業界紙編集長だが、アマゾンの配送センターの現場で5ヶ月間時給900円のアルバイトとして働くという体当たり的取材を通しての異色のレポートである。


アマゾンの秘密主義

アマゾンの秘密主義や、元従業員に対する守秘義務は有名で、そのせいかアマゾンに関する本はほとんどない。

日本人が書いた本としては、この本と次回ご紹介する"アマゾンの秘密"程度しかなく、どちらも情報量としては残念ながら不足で、断片的な情報しか集まらないのが現実だ。

外国の翻訳書でも2000年前後のものばかりで、最近の本は日本のこの2冊程度しかないのだ。


アマゾンジャパンの売上高

まずは誰もが知りたいのはアマゾンジャパンの売上高だろう。

アマゾンジャパンの書籍とCD等の音楽、エレクトロニクス等をあわせた売上高は一切発表されていないが、横田さんが配送センターで働いた時の噂では2003年で500億円を超えたと推定している。

もちろんアルバイト仲間が聞きかじった情報ということなので、たしかな情報ではないが、横田さんは書籍200億円(和書170億円、洋書30億円)、CDやDVDなどが250億円、家電その他が50億円と推定している。

2004年はアマゾンワールドワイドの売上高が70億ドル(8,100億円)で、国際部門の売上が31億ドル(3,600億円)と発表している。アマゾンジャパンが「日本は5カ国ある国際部門でトップではないが、近い将来トップになるだろう」とコメントしていることから、少なくとも国際部門売上高を5等分した720億円以上の売上高はあるはずである。

日本の書籍小売りではトップの紀伊国屋丸善が売上高1,000億円規模である。

アマゾンジャパンの訪問者は2004年は前年の153%と順調に拡大しているので、たぶん2005年にはトップ2社と肩を並べる1,000億円程度の売上規模となると予想される(書籍のみでなくCD・DVDや家電なども含む)。


ネットによる書籍販売ではアマゾンジャパンが他を圧倒


NetRatings2004Ranking

インターネット視聴率調査会社のネットレイテイングスがホームページにて公開している情報だと、アマゾンは2004年の日本の訪問者トップ10の中にランク入りしており、12百万人の訪問者があるのに対して、2位の7andY.jp(旧ESブックス)は別サイトのyahoo! booksを合わせても3百万人強である。


7andY


その他のBK1,楽天ブックスなどは2位の7andYの半分以下の訪問者にとどまっており、ネット書店ではアマゾンジャパンの一人勝ち状態である。


1、500円以上送料無料

日本のネット書店で送料無料サービスを定着させたのは、アマゾンジャパンである。再販制度のために本の値引きができない日本で、送料を無料にすることで実質的な値下げをしているのである。

アマゾンの物流は日通が一手に請け負っている。この本でインタビューに応じた元日通役員によると、日通が受け取るのはアマゾンが1,500円以下の注文の配送料として決めている1件300円程度の様である。

1,500円以上の注文ではアマゾンが自腹を切って、送料を負担している。一件1,500円であれば赤字になるかもしれないが、アマゾンの注文の平均単価が3,000円以上だから送料をコスト負担しても採算が取れるのである。


インターネット注文のバックヤードは人海戦術

アマゾンはIT業界を代表する企業だが、注文はインターネットのみですべて自動的に注文確認や支払い確認等ができる。しかし本の配送はこの本でも取り上げられているように、数百人のアルバイトを使った人海戦術である。

アマゾンの配送センターは千葉県のJR京葉線市川塩浜駅からバスで行く工場や倉庫が立ち並ぶ地域にある。約100万点の書籍をストックしており、アルバイトが人海戦術で注文された本を棚やパレットからカートにピッキングして、オーダー毎にまとめて、梱包に回すのである。

本はサイズがまちまちで自動化が難しいので、このように最先端のネット企業でありながら、裏方(バックヤード)は人手によるハンドピッキングなのだ。

英語でチェリーピッカーというと、山積みになっているサクランボからいいものを選り分けるという意味から、いいとこ取りを意味するのだが、アマゾンの事業はチェリーピッカーならぬ、ブックピッカーで成り立っているのである。

ひところYahoo!(?)の宣伝で、インターネットである言葉を検索すると、向こう側で数十人の社員が待機していて、それっということであちこちに散って調べて回答を返すというコマーシャルがあったが、それを思い出させる。

アマゾンのスクリーンの向こう側は数百人のアルバイトが働く巨大な倉庫なのだ。

ここに集められたアルバイトは時給900円程度で、実働8時間。交通費は支給されないので、基本的に近くに住む人ばかりが働く。


アルバイトによるハンドピッキング

巨大なアマゾン配送センターの1階ではまず本の受け入れ検査(レシービング)が行われる。40台のコンピューター端末を使ってバーコードを読み取り、図書館などで見かける本専用のライブラリーカートに載せて、2階のピッキングゾーンに送る。

棚積みする時に本のバーコードを読み取り、次に棚についているバーコードを読み取り、置いた場所をホストコンピューターに記録する。

注文があったら、コンピューターが最短距離でピッキングできる様に作業指示書を打ち出すので、バラバラに本が棚に入れられていても問題ないのだ。

顧客からの注文はシアトルにあるホストコンピューター経由物流センターに入っきて、1枚140冊ほどのピッキング作業指示書がプリントされる。それをもとにアルバイトがカートにハンドピックする。

積み終わったカートは1階に下ろされ、出荷検査、梱包を経て発送される。

アルバイトには3冊/分のノルマが課せられるが、はじめは1〜1.5冊/分、手慣れても2〜2.5冊/分がせいぜいであると。

アマゾンに注文すると在庫があれば大体2日程度で届くが、これはすべて人手でピッキング、発送されているのだ。


アマゾンの優れた需要予測

アマゾンを利用している人はご存じと思うが、アマゾンのサイトはクッキー情報でパソコンを認識し(ユーザーの個人情報はわからない)、アマゾンのホームページを開くと、パーソナルメッセージが立ち上がり、おすすめ商品が表示される。

これがいわゆるリコメンドで、その人の購買特性を分析して、アマゾンがおすすめ商品情報をその人専用のホームページに表示するのである。

このおすすめ商品は的はずれであるという人も多いが、筆者が感心するのはアマゾンで或る商品に興味があり、それをクリックしたり、購入した時に、「あわせて買いたい」とか「この本を買った人はこんな本も買っています」と表示されるリコメンドである。

こちらはその商品、本と同じ傾向、ジャンルのものが多く、たしかにあわせて買いたくなるものが多い。

1,500円以上なら送料が無料となったり、家電製品では5,000円以上買うとギフト券がもらえるなどの特典があるので、このリコメンドは大変有益だと思う。

これはアマゾン独自の購買特性分析によるものであり、アマゾンの最大の強みだ。

ハリーポッターシリーズの様に、全世界で数百万部売れる本は、リアルの本屋では時として仕入れすぎてしまうことがよくあるようだが、アマゾンは顧客データ分析による需要予測の精度が高く、予約すれば発売当日に届くことをウリにしていながらも、過剰な在庫を抱えてしまうことはほとんどない様だ。


出版界の黒船アマゾン

アマゾンが日本に進出した2000年には、日本の書籍取次大手のトーハンと日販はアマゾンが再販制度を切り崩すことを懸念して取引をしなかったので、アマゾンは仕方なく第3位の大阪屋と取引を開始した。

しかし取次業界の1,2位と3位との差は大きく、日販とトーハンが売上高6,000〜7,000億円で2社合計で業界の7割を押さえているのに対して、アマゾンが使った大阪屋はせいぜい1,000億円で、その他大勢の部類である。

アマゾンが仕入れ力を強化し、品揃えを充実させるためには、どうしても日販かトーハンとの取引が必要だったので、アマゾンは2003年に日販と提携して、24時間以内に発送できる本を大幅に増やすことができた。

取次にとっても、当初本を安売りするのではないかと思われたアマゾンが、再販制度をむしろ利用して、定価販売で日本に参入してシェアーを拡大したことはむしろ歓迎だったようだ。


インタビュー記事も参考になる

この本では、日通元役員とか、日経新聞がやっているネット書店のBK1社長、アマゾンと直接取引をしたほぼ日刊イトイ新聞の糸井重里事務所、アマゾン仕様の英語学習ソフトを開発した『えいご漬け』のソフトハウス、出版業界の業界紙記者、ネット業界に強い証券アナリストなどとのインタビューも載せられている。

筆者自身のアルバイト体験談とこれらの核心情報満載のインタビューが、ややアンバランスな形でこの本を構成しているが、直接取材ができないアマゾン相手ではこのような構成がせいぜいなのかもしれない。


目指すは『小さな書店』

アマゾンの創始者のジェフ・ベゾスが目指したのは顔見知りの店員のいる『小さな書店』だそうだ。

筆者も経験がある。中学生・高校生の時に通っていた鵠沼海岸の大木書店(だったかな)のおやじさんは、買った本を覚えていて、「この本も良いよ」とリコメンドしてくれたものだ。

『小さな書店』コンセプトをITを使って実現しようとしているアマゾンの努力と完成度の高いサービス、そして自らを守るための秘密主義に改めて感心した。


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Posted by yaori at 00:29│Comments(0)TrackBack(0) インターネット | ビジネス

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