負け犬の遠吠え
ちょっと前のベストセラー。今年の初めに家内が読んでいたが、面白そうだったので、自分でも今回読んでみた。
女性作家のエッセー集は、家内の好きな林真理子とかを一時読んでいたが、最近はご無沙汰である。
この本はカバーがピンク色で、筆者のようなおじさんが表紙カバーむき出しで読んでいると、ちょっと恥ずかしい。
若干抵抗があったが、読んでみたら断然面白い。
負け犬とは狭義では『未婚、子なし、30代以上の女性』だそうで、離婚して今は独身、シングルマザーなども広義の負け犬に入る。
「でも○○さんみたいに、美人で仕事もバリバリやっている人は、結婚していなくても負け犬ではないのでは?」という名誉白人みたいな例外は本書では認めないと。
「既婚子持ち女に勝とうなどと思わず、とりあえず負けましたと自らの弱さを認めた犬の様に腹を見せて置いた方が、生きやすいのではなかろうか」という処世術と見て貰っても良いと。
以下羅列となるが、印象に残ったポイントをあげる。この本の魅力が垣間見えると思う。
余はいかにして負け犬となりし乎(か)
言うまでもなく夏目漱石の『吾輩は猫である』の出だしをもじった章題。
男であれ、仕事であれ二つの選択肢があった場合、右はまっとうで安心、でもあまり面白みはない道、左はあぶなっかしいけどスリリング、そしてアメイジングな道。
この中で、右側を選ぶことができるのが勝ち犬、左を選ぶのが負け犬であると。
それにしても「負け犬」はともかく、筆者には「勝ち犬」という言葉は今ひとつ抵抗がある。
筆者はティーンエージャーの子供がいるので、塾とか学校の説明会とかで「勝ち犬」軍団に囲まれることも多い。こういった会合は家内もいまひとつとけ込めないので、筆者を行かせるのかもしれない。
たしかに国民の再生産に貢献しているという意味では、勝ち犬なのかもしれないが、大勢集まってくっちゃべっている集団に取り囲まれると、結婚/子持ちで勝ち負けが決まるという訳でもないと思うのだが…。
負け犬からすると勝ち犬はどこかで、恥を捨てた人に見えると。
結婚という目的を達成するために、手練手管を使って男に取り入ろうとする人を見ていると、いたたまれない気分になってしまうと。それが負け犬が負け犬でいるゆえんであると。
これを含羞(がんしゅう;恥を知ること)という言葉で表現している。うまいことを言うものだ。言い得て妙である。
負け犬と年齢
先輩負け犬に言われたことがある。
「そうやって『子供なんかいらない』とか堂々と言っていられるのはね、30代前半だからなのよ。30代後半になったらきっと、違う気分になると思う」と。
子供を産むリミットが近づいてきていると。
オスの負け犬でありながら全てを超越している寅さんに悲壮感や哀愁がなく、メスの負け犬には哀愁があるのはこれが理由なのだろう。
負け犬と少子化ー『低方婚』とオスの負け犬
伝統的に日本の男性はじぶんよりある意味で『下』の女性を結婚相手に選ぶという『低方婚』を好むから、『高』女性が余るのと、オスの負け犬が増えていることが原因だと。
オスの負け犬は次の5タイプがいる:
1.オタ夫 あまり生身の女性に興味のない人
2.ダレ夫 女性に興味はあるけど、責任を負うのは嫌な人
3.ジョヒ夫 女性に興味はあるけど、負け犬には興味のない人(男尊女卑)
4.ブス夫 女性に興味はあるけど、全くモテない人
5.ダメ夫 女性に興味はあるけど、単にダメな人(酒乱、ギャンブル、仕事しないなど)
いずれもメスの負け犬の伴侶としては不適であり、それゆえ少子化の進行が止まらないと。
負け犬と年金論争
森喜朗前首相が「年金はそもそも子供をたくさん生んだ人にご苦労様、として渡すべきものであって、子供をつくらない女性が歳をとったからといって税金で面倒見ろというのはおかしい」という発言を平成15年にしたそうだ。
この発言に対して当然の事ながら、「何言ってるんだバカ」、「こっちはたんと税金払ってるんだ」という非難が寄せられた。
それに対してテレビで「子を産まない人たちは贅沢三昧の生活をしているのに、子育てで苦労している私達と同じ年金をもらうのはいかがなものか」という発言をしている主婦がいたという。
この論争でどちらかの肩を持つつもりはないが、結婚や子供の有無で年金金額が変わること自体がおかしい様に思う。
負け犬と家族
ある40代の負け犬は「うちの母親が最近『私はあなたを看取ってから死にたい』ってよく言うのよ」「うちの母親は結婚もせず、子供も産まない私が、不憫でならないのね。私が一人で死ぬというのが可哀相でたまらないんですって」
逆縁は悲しいものだが、この母親の気持ちは分かるような気がする。
負け犬と女の幸せ
相手を完膚無きまでに打ちのめす「それを言っちゃあおしまいよ」的なフレーズは、「あの人は女として幸せじゃない感じがするよねー」だと。
緒方貞子さんのような人の存在のせいで、「日本で一番優秀で、忙しいキャリアウーマンですら、結婚して子供も産んでいるのにだ。しもじもの女が、『仕事が忙しくて結婚なんてする暇ありませんでした』などと言うのは言い訳だ。単に魅力がないだけだ」という空気が濃厚になってきたと。
負け犬の先達
向田邦子的ないい女系の独身女。もうひとりはあまりにも一芸に秀でつつも結婚しない孤高の人系の長谷川町子系の独身女。
負け犬と孤独
二つのタイプがある。孤独に強いというより、孤独がすきであるが故に、結婚せず負け犬となったタイプと、孤独に弱いあまり、男性とつきあってもベッタリしすぎて暑苦しくおもわれて負け犬になったタイプ。
負け犬と敗北
負け犬界のヒエラルキーがあると言う。結婚歴ありが上、恋人有りが上、しかし不倫は下、過去にモテた経験ありが上、蜘蛛の巣城のお姫様タイプの負け犬を見下ろしつつ、「よかった私はあんなんじゃなくて」と胸をなで下ろすのだと。
「私は貧乏な主婦だけど、でもとりあえず現時点で結婚はしている。負け犬ではないのだ」というところを心のよりどころにして頑張っている人もいるので、負け犬も存在価値があるのかもしれないと思うと。
負け犬がシンパシーを寄せる最後の大物サーヤ
本ではこう書いてあったが、でももう負け犬ではないもんね。サーヤおめでとう!
最後に負け犬に成らないための十箇条:
1.不倫をしない
2.「…っすよ」と言わない
3.腕を組まない
4.女性誌を読む
5.ナチュラルストッキングを愛用する
6.一人旅はしない
7.同性に嫌われることを恐れない
8.名字で呼ばれないようにする
9.「大丈夫」って言わない。
10.長期的視野のもとで物事を考える
負け犬になってしまってからの十箇条:
1.悲惨すぎない先輩負け犬の友達を持つ
2.崇拝者をキープ
3.セックス経験を喧伝しない
4.落ち込んだときの対処法を開発する
5.外見はそこそこキープ
6.特定の負け犬とだけツルまない
7.産んでいない子の歳は数えない
8.体を鍛える
9.愛玩的欲求を放出させる
10.突き抜ける
これを読んであなたはどう感じるだろうか?
この本のあらすじを紹介することで、一度収まった論争に火をつけてしまう様な気もするが、ともかく読んで面白い本だ。
いままでなんとなく縁遠かった未婚女性に親しみを覚える。
一生懸命生きることと結婚や子育てとは直接関係ない。
負け犬なんかじゃないよ。一生懸命生きよう!
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