息子たちと私―子供あっての親
筆者は息子と電話で話すのが好きだ。電話の口調というか、声のトーンというか、話していて楽しいという感じが伝わってくる。
カーネギーの本の人に好かれる方法の有名なくだりを思い出す。"he will almost jump out of his skin to show you how much he likes you." "with leaps of joy and barks of sheer ecstasy."
これは人の話ではない。犬と彼の子供の頃の愛犬チッピーの話だが、カーネギーは無条件の愛の例として使っている。
犬と同列にしたら息子も怒るだろうが、無条件の愛、好かれているという感じは、この犬の例が一番直感的にわかると思う。
石原慎太郎さんの『息子たちと私』も、石原さんの子息に対する無条件の愛がよくわかる。
石原慎太郎さんといえば、昔は『スパルタ教育』というベストセラーを出して物議をかましたことがあるので、息子には厳しいスパルタ教育をしている様な印象があったが、この本を読むと石原さんの深い子息愛が感じられる。
石原さんの息子への愛の原点
石原さんの息子への愛の原点は、石原さんの父親が会社で会議中に昏睡状態となって、そのまま帰らぬ人となった時だと。
会社に行って冷たくなった父親の遺体にふれたときに、自分と父の関わりは決してこれで終わったのではないと信じていたと。
石原さんは長男が生まれて『ああ、これでまた確かに環が一つ繋がったな』と強く感じたそうだ。
筆者も子供が産まれて、これで次代につなげるという人間として最低限の貢献はできたとを感じたものだ。
酒と教育
石原さんの最近のエッセーは『老いてこそ人生』とか『弟』を読んだが、自然体で、いわゆる昔のタカ派のイメージは薄れている。
しかしそれでもホテルオークラのメインバーで『大丈夫か』と念を押して頼んだドライマティーニがひどい出来だったので、突っ返すという様な『教育』をしている。
酒は文化であり、日本を代表するホテルで相手が外国人であれば恥をかくのはホテルではなくて、東京であり日本であるからだと。
この件は、後日談があり、たまたま居合わせたどこかの商事会社の社長が見て、石原は都知事になって人前で些細なことでホテルの従業員を叱りつけていたが、慢心は禁物だなどと批判していたという話を後から聞きつけ、石原さんは酒は文化であり、それがわからない手合いのレベルはしれていると人づてに伝えたそうだ。
石原さんは実は先輩
石原さんは実は高校、しかも同じサッカー部の先輩なのだが、石原さん自身の言葉によると受験校にいやけがさして登校拒否の様になり、1年間休学したそうで、あまり母校に良い思い出はない様だ。
そのせいか、子息は全員幼稚舎から慶応に入れている。全員姓名判断を受けての命名の長男の伸晃(のぶてる)さんは政治家、次男の良純さんは俳優(と気象予報士)、三男の宏高さんは昨年代議士となり、四男の延啓(のぶひろ)さんは画家となって、全員所帯持ちとなり、いまや石原さんには6人の孫がいる。
目次
この本の目次は次の通りだ:
1.存在の環
2.幼稚な親
3.子供たちの災難
4.兄と弟の関わり
5.似たもの同士
6.息子たちの仕事と人生
7.どういう生き方をするのか
8.スポーツに関するわが家のDNA
9.酒はわが家の伝統
10.酒という教育
11.海に関するわが家の系譜
12.叱る、諭される
13.子供の性
14.息子との旅
15.息子の結婚と新しい家族たち
印象に残るストーリー
いくつか印象に残るストーリーがある。
良純さんがホノルルマラソンに出て、残りあと何キロかという地点で突風に帽子を吹き飛ばされ、拾おうとしたが、今まで走ってきた脚を一瞬とはいえ急に止めたら痙攣が起こりそうで、暑さも激しく痙攣も怖いので、しばらくその場で脚踏みしながらついに思い切って立ち止まり、帽子を拾って走り出したという話だ。
この話を聞いて石原さんは感動したと。含蓄のある話だが、たとえ良純さんがいつか人生で突発事に巻き込まれても、彼は少なくとも他の男たちよりはそれに耐えられるに違いない。その理解こそが父親と息子のいうにいわれぬ根源的な関わりというものなのだと思うと。
子供の性
筆者も思春期の息子を持つ身であり、実はひそかに期待していた『子供の性』という章は、石原ファミリーの性教育がわかるのではないかと思っていたが、あまり詳しくはない。
やはり幼稚舎から慶応に入れると、ませた連中がいて、自然とわかる様になるのかもしれない。筆者の場合は、自分で考えるしかなさそうだ。
筆者の友人の六本木の婦人科の赤枝クリニックの赤枝先生も登場する。都の条例改正の時に、最近の性風俗の話を石原さんにレクチャーしたようだが、年輩者相手なら安心だと援助交際のアルバイトを娘にすすめる母親がいるとか驚かされる話だ。
サッと読め、石原さんの深い愛に共感できる良い本だった。
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