一新力 ~自分をALL CLEARする勇気ありますか?
一新塾に参加している友人に送って貰った本を読んでみた。
大前研一氏はマッキンゼーを退社して、1992年に平成維新の会を結成して政治活動を開始。『大統領と同様の強大な権限がある東京都知事』選挙に打って出たが、あえなく落選。
平成維新
今で言う政策マニフェストを用意して、都民の良識に訴えたが、全く泣かず飛ばずで、たしか5位くらいだったような記憶がある。
筆者も実は大前氏に一票を投じたのだが、日本で超一流のインテリの大前氏をもってしても、外での選挙活動を一切せずに自宅に引きこもっていたタレントの青島幸男に敗れたことで衝撃を受け、あらためて日本の政治を変えることは難しいと感じた記憶がある。
大前氏は都知事選落選を機に政治活動は一切やめ、その体験を『敗戦記』に書いてオールクリアした。
大前研一 敗戦記
大前氏自身の政治活動はその時に終わったが、平成維新の会で集まった問題意識を持った人々が勝手連的に作り上げたのが、一新塾とアタッカーズビジネススクールだ。
一新塾は市民活動の為の政策学校、アタッカーズビジネススクールはビジネススクールという違いはあるが、それぞれユニークな活動をしている。
一新塾は東京三田の30坪弱のスペースにパイプいす80脚を置いて、平日夜に週1回、土日に月1回、講義とディスカッション、小グループ活動などを行っている。事務局長の森嶋伸夫さんが世話役だ。
合宿研修もあり、入会金は3万円、受講料は17万円(分割払いあり)で、学習塾よりずっと安い。
2002年より株式会社からNPOに組織替えした。
塾生は本科60名、地方在住者向けの通信科が40名で、一期約100名の塾生を、17期まで輩出し、卒塾生は2,600人を越え、地方議員54名、国会議員4名、市長2名を輩出している。
この本では一新塾の様々な活動が紹介されている。
超一流の講師陣
一新塾の講師リストはスゴイ。一新塾のホームページに過去や今年の講師の紹介がある。
青山貞一さんや片岡勝さんの一新塾の代表理事をはじめ、松沢神奈川県知事、上田埼玉県知事、片山善博鳥取県知事、台湾総督府顧問金美齢さん、楽天取締役の小林正忠氏、精神科医の和田秀樹氏、自民党の河野太郎氏、社民党の福島みずほ氏、一新塾出身の国会議員、市長、市民活動家等々様々な分野で活躍している人を選りすぐっている。
しかし一新塾は教室で様々な人の講義を聞くためだけの塾ではない。『生活者主権』をめざす『主体的市民』として(1)政策提言、(2)社会起業、(3)市民プロジェクトのチーム活動に参加し、現場での活動を重んじている。
講義は週一回だが、それ以外の平日の夜とか土日はチーム活動で塾生が集まり、活発な議論がなされている。
創設者の大前研一氏も講師として登場したことはあるが、アタッカーズビジネススクールの様に、学期の最初と最後に講義するということはなく、大前さんは一新塾ではあくまでも創始者としての関わり合いだ。
市民プロジェクト・社会起業のインキュベートの場
この本では多くの市民プロジェクトがレポートされている。そのいくつかを紹介する。
既に何年か続いているものとしては、元々大前さんが提唱し平成維新の会が推進した道州制の実現を目指す道州制ドットコム、投票所でもらえる選挙済証を商店街の割引クーポンとして受け入れ投票率向上をめざす選挙セール、経営不振で廃業が相次ぐ年金を使って建設されたグリーンピアなどのハコモノを再生するプロジェクトなどがある。
新しいプロジェクトとしては、日本に住む外国人労働者との共生を研究する外国人・多文化共生プロジェクトや、病気の子供も預かる病児保育プロジェクト、生活の安定しない芸術家を助ける芸術家のくすり箱プロジェクトなども紹介されている。
外国人・多文化共生プロジェクトは、少子高齢化時代に突入し、予想される深刻な労働力不足のため外国人労働者の受け入れ拡大が叫ばれている今の日本にとって、非常にタイムリーで、意義あるプロジェクトだと思う。
日本には200万人もの外国人労働者が住んでおり、彼らとの共生は必要だが、相互の交流・理解不足のために、先日の広島の履歴詐称ペルー人の女子児童殺害事件などが起きると、言葉の問題、生活習慣の違いなどから外国人全体に対する偏見や誤解が生まれやすい現状だと思う。
このプロジェクトでは、中南米系の労働者が多い群馬県太田市、静岡県富士市など1年間で10箇所余りの自治体を訪問、市役所や、学校などを訪問し、まさに『現場主義』で調査を行い、『ゼロベース思考』で白紙の段階から議論を始め、神奈川県、埼玉県などに政策提言を行っている。
芸術家のくすり箱プロジェクトとは、収入が安定しない芸術家の健康をサポートしようというものだ。
たしか大前さんの『質問する力』に、クラシック音楽の演奏でメシを食える人は日本でも数えるほどしかいないと書いてあったが、芸術で安定的に収入を得られる人はほんの一握りだ。
ほとんどが不安定な収入とアルバイトで暮らしており、ケガや病気でもしたら生活に困窮してしまう。
そんな芸術家たちを助けようというプロジェクトだ。
オールクリアからの始まり
一新塾に参加している人たち、特にビジネスマンは、筆者の友人もそうだが、それまでの経歴をオールクリアして、この活動に一市民として参加する人が多い様だ。
より良き社会にする為に、これからの人生を有効に使おうと決心した一新塾の人たちには頭が下がる思いだ。
楽天の三木谷さんも、「なにができたら成功だと思いますか」と聞かれて、「フェアな社会ができること」と答えたと、どこかで読んだ記憶があるが、ビジネスを通じてでも、あるいは市民活動を通じてでも、より良き社会にすることは可能だと思う。
筆者は当面ビジネスのキャリアを続けるつもりだが、いずれは一新塾の様な魅力あるチームに加わりたいと感じた。
大前さんが平成維新の会を立ち上げ、都知事選に出馬したが、あえなく落選し、一度は地面に落ちた花から種が成長して、だんだんに花開いてきた様な気がする。
是非これからも『主体的市民』として、世界に誇れるユニークなNPO活動を続けていって欲しいものだ。
ちなみに、この本については、欲を言えばもう少し一般の人にもわかりやすく編集上の配慮をして貰えば、さらに良い本になると思う。
たとえば左ページの上に2002年12月からの講師名、講演タイトル、日付が記されており、その数100を超え、講師陣の充実ぶりがよくわかるが、ここに書いてあるのは過去の講義記録だという旨の説明が、筆者には見つけられなかったので、てっきり普通の本の様に、そのページの章題が記されているものと思っていた。
再度読み直して、はじめてここに書かれているのは講義記録だということに気が付いた。
すごい講義記録だが、気が付かなくてはなにもならない。
ともあれ多くの人の活動や講義を紹介しており、その意気込みとエネルギーには感服する。
一新塾の多彩な活動がわかる好著である。
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