2006年06月02日

ドコモが銀行を追い抜く日 ケータイクレジットの潜在力

ドコモが銀行を追い抜く日


消費生活評論家の岩田昭男氏の最新作。PHPの1、000円ペーパーバックスの第2弾だ。

最近のおサイフケータイを中心に、電子マネー、ケータイクレジット、金融業界の動きがわかりやすくまとめられており、クレジットカード業界の内情や儲けのしくみなどが紹介されているので興味深い。

2006年11月からケータイのナンバーポータビリティ制度が始まると、ドコモはAUや、インターネットや固定電話も入れた総合的な料金でなぐり込みを仕掛けると見られているソフトバンクにシェアーを浸食されるおそれがある。

そのドコモがユーザーを引き留める方策として打ち出しているのが、おサイフケータイで財布の中のものをすべてケータイに取り込み、ドコモのケータイをなくてはならないものにする戦略だ。

日本の個人消費は年間300兆円といわれており、そのうち60兆円が鉄道、コンビニ、スーパー、ファミレスなどをふくむ少額決済市場と言われている。

クレジットカード市場は27兆円といわれており、個人消費市場の9%を占めるだけだが、これが2010年までには欧米並みの20数パーセントに近づくと予想されており、その増加分だけでも45兆円の巨大市場がある。

ドコモのねらいは60兆円の少額決済市場と2010年には70兆円を超えると予想されているクレジット市場の両方である。


通信業者はVISAの最大のライバル

岩田氏は1993年にVISA INTERNATIONALのCEOにインタビューしたことがあるそうだが、その時にVISA CEOは「最大のライバルはMaster Cardではなく、通信事業者だ」と語っていたそうだ。

まさにその時のVISA CEOの危惧が、ドコモのクレジットカード参入で現実化したのだ。

ドコモは元々電話料金を直接あるいは間接で利用者から徴収しており、ユーザーの数は延べ5,000万人にものぼる。日本最大の金融機関の郵便貯金並みの口座数があるのと同じだ。

のべ5,000万人の利用者に与信枠を設定しているので、i-Mode利用料金と同じ感覚で、クレジット利用金額を携帯電話料金と一緒に引き落とすのは現在のサービスの延長線であり、すぐにできることである。

この本の出版後の事実だが、4月末にはじめたDCMX Miniという中学生以上であれば月1万円までケータイをクレジットカードとして使えるサービスは、開始1ヶ月でなんと15万人のユーザーを集め、クレジットカード業界に衝撃を与えている。

必要に応じてVISAのプラスティックカードが発行できるDCMXは5月末から募集が開始されるが、これはまさにケータイ電話機が本体で、クレジットカードが付属品である。


ドコモのケータイクレジット進出の理由

ドコモがおサイフケータイに乗り出したきっかけは、Felicaを組み込めばケータイをかざすだけで決済ができる様になると、2001年にJR東日本のモバイルスイカ推進責任者の椎橋Suica部長から呼びかけがあったためだ。

ドコモのおサイフケータイ推進者で、名付け親はiモードで有名な、夏野剛マルチメディアサービス部長で、夏野氏はこのJRの呼びかけに応じ、数年掛けてJAVAを使ったモバイル端末を開発し、2004年におサイフケータイとしてサービスを開始した。

今やドコモのおサイフケータイは1,000万台を越え、数年内にはドコモの5,000万台のケータイすべてがおサイフケータイとなる予定だ。


ドコモのケータイクレジットの収益構造

おサイフケータイのプラットフォームを提供するだけでは収益が上がらないため、ドコモはクレジットカード事業に力ずくで進出する道を選んだ。

三井住友カードに980億円出資し、34%のシェアーを取得する他、金額は少ないが10億円で、UCカードの18%の株も取得している。さらにローソンには90億円出資して、来年4月までにローソン全店舗にiDの読み取り端末を設置させる。

岩田氏によると、クレジットカードの収益は2.5−3%だが、発行者(イシュアー)が2/3、加盟店開拓者(アクワイアラー)が1/3、VISAやMasterなどのブランドが0.2%の取り分となる。

ブランドになってもうまみはないので、ドコモは発行者となる一方、加盟店開拓は三井住友カードの力を借りることにしたのだ。

ドコモがクレジット事業に進出したので、ライバルのAUは三菱UFJ銀行と合弁で新銀行を設立すると新聞がスクープした。

銀行に進出するといっても融資をやらないとうまみはないので、単にクレジット決済とか、決済代行では収益はしれているが、ドコモに対抗する姿勢を示すことが重要なのかもしれない。

ケータイ電話でスピーディにコンビニなどの支払いができるという便利さが浸透するようだと、少額決済の分野はケータイ電話と相性がよいので、かなり広まるかもしれない。

少額決済市場とクレジットカード市場の両方にくさびを打ち込んだドコモ。どれだけ伸びるのか、はたしてナンバーポータビリティ開始後、他社に流れる客を引き留めることができるのか注目したい。


電子マネーの乱立

電子マネーはドコモも出資しているEdy、JR東日本のSuica、そして新顔はドコモのiD、JCBのQuicpay、UFJニコスのSmartplusといろいろ出ており、加盟店獲得合戦を繰り広げている。

それぞれの携帯電話決済サービスの特徴はBCNランキングというサイトに比較表があるので、参照願いたい。

このままで行くと互換性のない読み取り端末が多数、店頭に並びそうだが、三井住友カードのインフラを利用したドコモのiDが、読み取り端末数としては圧倒する勢いだ。

他社の加盟店数がせいぜい数千にとどまるに対して、ドコモのiDは現時点で既に2万5千。Edyが4年掛けて築き上げた加盟店数をわずか半年で抜きさる勢いで、2007年度末には10万店を越える見込みだ。

使えるところが増えれば、当然ユーザーも増えてくるはずで、ドコモの金に糸目を付けない戦略がまずは勝利する可能性が強い。

そうなればまさにこの本のタイトルのように「ドコモが銀行を追い抜く」ことが現実となる。


余談 電子マネーは本当に普及するか 筆者の意見

岩田昭男さんは電子マネーあるいはケータイクレジットの勝者予想については明言は避けているが、筆者は結局ユーザーがどれだけ魅力と感じるかがカギだと思っている。

いくらケータイで支払えるから便利といっても、財布を持ち歩かないで外出する人はまずいないので、決め手はクレジットカードあるいは電子マネー自体の魅力ではないか。

EdyがAmPmなどで人気があるのは、ケータイで決済できるという利便性もあるが、Edyチャージするとポイントがつくので、現金よりお得という点も大きい。

Edy客の方が単価が3割高く、来店頻度が2割高いといっても、それが、Edy発行主体のビットワレット社の収益には直接結びつかない様だ。

Edyはマーケティング重視のツールではあるが、それが機能するためには、Edyをつかうことにより、割引になるとかのメリットを出す必要があるだろう。

仙台にあるスーパーアサノはお客ランク方式を発案して、月1万円のEdy使用なら翌月1%引き、5万円なら5%引きという形で、販売促進につなげている。

導入に手間とコストが掛かる自社ポイントの代わりにEdyを導入して、レジの効率化と売上促進につなげていることは注目に値する。

トヨタのQuicpay導入も注目だ。トヨタグループを挙げてJCBのQuicpayの加盟店拡大営業をしているので、ガソリンスタンドなどでQuicpayが使える日も近いかもしれない。

ただしQuicpayは1回の利用上限が2万円なので、上限はカードと同じのiDやSmartplusとは差があり、少額決済向け専用だ。

いろいろな種類が乱立してくるが、読み取り端末がドコモ中心にある程度統一化される可能性もある。そうなるとなおさら、どの電子マネーあるいはケータイクレジットが有利なのかで消費者の選択は決まってくるだろう。


クレジットカード業界も3大金融グループに再編

VISAインターナショナルが、日本だけのローカル規格のFelicaを認め、UFJニコスのSmartplusをVISAの認定規格としてサポートすることを発表した。

日本のVISAのフランチャイズの盟主が三井住友銀行グループから三菱UFJグループに代わったことを如実に示す出来事だ。

銀行グループではみずほは、UCカードとクレディセゾンの提携を進め、コスト競争力をつける一方、電子マネーはSuica, おサイフケータイはドコモのiD、さらにQuicpayにも参加しており、等距離外交という感じだ。

クレジット業界の順位も従来の1位 JCB、2位 三井住友、3位 クレディセゾン、4位ニコスから、三菱UFJの誕生、セゾン・UCの統合により1位 UFJニコス、2位 クレディセゾン、3位 三井住友、 4位 JCBという順位になると岩田氏は予想する。

おサイフケータイ、クレジットカード、電子マネーというトピックを通して三大銀行グループに再編された日本の金融業界の事情がわかる。


わかりやすく参考になる本である。一読をおすすめする。


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Posted by yaori at 19:31│Comments(0) ビジネス | 岩田昭男