2007年03月04日

ケータイの未来 夏野剛 ドコモの戦略がよくわかる

ケータイの未来ケータイの未来
著者:夏野 剛
ダイヤモンド社(2006-11-17)
販売元:Amazon.co.jp
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ドコモの戦略を陣頭指揮する夏野剛氏の近著。

夏野氏と一緒にi-modeを立ち上げた松永真理さんの「iモード事件」は楽しく読めたが、松永さんはiモードを立ち上げてすぐにドコモを去り、夏野さんが実質総責任者としてドコモのマルチメディア戦略を作り上げてきた。

iモード事件 (角川文庫)iモード事件 (角川文庫)
著者:松永 真理
角川書店(2001-07)
販売元:Amazon.co.jp
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この本を読むと、夏野氏が携帯電話の生活インフラ化を目指して、おサイフケータイにこだわり、積極的に仕掛けてきたかがよくわかる。

本の半分がおサイフケータイ関係の話であり、それ以外の半分はドコモで働いて感じた点などだ。

ドコモは昨年10月末のナンバーポータビリティ導入以降、徐々にシェアーを失い、KDDIがシェアーを延ばしている。

しかし、夏野氏は瞬間風速的にはドコモはシェアーを落としているが、ドコモが過半数を占め、それ以外を二社が分け合うという競争構造自体は、今後もあまり変化はないだろうと語る。


「ケータイの未来2020」

最初に「ケータイの未来2020」というミニ小説で始まる。

ケータイが生活インフラとして、なくてはならないものになっている将来の姿を描いた未来小説だ。

腕時計一体型や、口紅、名刺入れ、ペンなどの様々な形状で、スターウォーズでR2−D2が投射するレイア姫の様なバーチャルディスプレイ(但し3次元でなく、2次元)を持つ。

入力が必要な時は、バーチャル・キーボードが投射され、指の動きをセンサーが感じとるのだ。

鍵がわり、外出時のナビ、乗車券、指紋認証などは当たり前、お天気や、ニュースは情報は常時表示され、スケジューラーにもなる。


おサイフケータイはiモード以来の転換点

夏野氏は「生活をもっと便利に、豊かにしたい」という思いで、松永真理さんに招かれて、ドコモのiモードプロジェクトに参加した。

ドコモにくる直前は、「社長失格」の板倉雄一郎さんがつくったハイパーネットの副社長として、会社倒産の修羅場をくぐった経験がある。

社長失格―ぼくの会社がつぶれた理由社長失格―ぼくの会社がつぶれた理由
著者:板倉 雄一郎
日経BP社(1998-11)
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iモードは松永真理さんが打ち出した「コンシェルジュ」というコンセプトのもとで推進されたことは有名だ。

おサイフケータイは松永さんの後を継いだ夏野さんが、「生活インフラ」というコンセプトのもとに2004年から推進したものだ。

JR東日本が携帯電話の中にSuica機能を取り込めないかと、呼びかけてきたことがきっかけで、ソニーのFeliCa技術を採用して、おサイフケータイを展開することを決めた。

勝ち馬に乗る、という理由でFeliCa技術に決めたという。

iモードの誕生は、「いつまでも音声通信に頼っていては先がない」という1997年当時の大星公二社長の危機感が発端になっている。

社長の命を受け榎啓一さん(現在NTTドコモ東海社長)が、松永さんや、夏野さんを引き込み、スタートさせたのがiモードだ。

iモードは、今やオランダ、イスラエル、ロシア、英国、アイルランドなど世界69ヶ国で利用可能となっている。


DCMXが夏野氏のドコモ入社の理由

DCMXとはよくわからないネーミングだが、DoCoMoーXの略だ。

DCMXはドコモが始めたクレジットサービスで、ドコモ自身のクレジット事業DCMX、中学生でも使えるDCMX miniと、クレジットカード会社に供与するiDがある。

DCMXとは通信サービスと決済サービスの融合で、夏野さんはこれを実現するために着々と準備を重ねてきた。Javaを採用、おサイフケータイを導入し、三井住友カードに出資したのもすべてDCMXに向けた礎であると語る。

ドコモがクレジットカード事業に乗り出す理由は、日本のクレジットカード産業は急速に伸びている産業であるからだ。

1999年は19兆円だった市場規模が、2005年には29兆円になった。それでも300兆円といわれる個人消費に占める割合は10%以下である。

米国の24%まで行くかどうかはともかく、まだまだ伸びしろは大きい。

さらに少額決済市場は60兆円といわれ、クレジットカードはほとんど使われていないので、ドコモのDCMXやiDの可能性は大きい。

クレジットカードにはドコモ自身で参入を考えていたそうだが、ある人より「村の掟」があると言われ、「村の先住民」の三井住友カードへの出資参加による参入に変えたのだと。

夏野さんの提案に、当時の三井住友銀行頭取の西川善文さん(現日本郵便会社社長)は、モバイルクレジットのメリットを瞬時に理解し、ドコモとの提携を即決してくれたという。

橋渡しをしたのは、現楽天副社長の国重惇史さんだ。


1500万人にクレジットを与えるドコモのDCMX

DCMXはプラスティックカードも発行できる通常のクレジット。

そしてDCMXミニは、滞納のないドコモユーザーなら月一万円まで、すぐに使えて電話料金と一緒に返済ができるドコモの消費者向けクレジット事業だ。

中学生から1万円まで借りられるので、おサイフケータイ保有者1500万人にクレジットを与える巨大な金融事業なのだ。

DCMXはエンブレムのデザイン、サウンド、リーダー・ライターのデザインなど細かいところまで凝り、かっこいいサービスとなることをねらっているのだと。

リーダー・ライターは2006年度内に15万台設置する予定になっている。

最近コンビニや100円ショップなど、いろいろなところでiDが使えるところが増えてきている。

おサイフケータイでどれだけ収入は見込めるのかという点は、次のように語っている。

iモードでもドコモの収入はアプリあたり月額数十円だったが、ちりも積もれば山となるで、iモードは今ではドコモの大きな収益となっている。

これと同じシナリオをクレジットカード事業でも目指したいと。


この本の残り半分がケータイクレジット以外で、このうち印象深い点をいくつか紹介する。


事務系、技術系という言い訳

夏野さんはトップの出身学部や分野は、事業の成功にはほとんど意味がないと語る。そういえばNTTの社長は技術系とか、次は事務系だとか下馬評があがる。

IT革命の最大の功績は、技術の詳細な内容がわからなくともビジネスモデルを構築できるようになったことだと。

50歳を過ぎた役員が、三十年も前に卒業した学部が文系か理系かと言っているのは、仕事や責任を回避しているとしか思えないので、周囲を含め、こうした甘えは絶つべきであると。

理系・文系のこだわりは、一種の日本流ワークシェアリングではないかと夏野さんは一刀両断している。

               
淘汰が必至のモバイル・コンテンツ業界

従来コンテンツホルダーは、モバイル向けは専業のベンチャー企業に任せていたが、儲かるとわかるとわかると、モバイル向け事業に自ら乗り出してきた。

コンテンツを持たないいわゆるコンテンツ・アグリゲーターのモバイル専業ベンチャーは、経営基盤が脆弱で、成長余地は以前と比べて小さくなっていると。

夏野さん自身は、フル・ブラウザーはさほど影響力が大きくないと考えているが、フル・ブラウザー脅威論も出ているので、モバイル専業ベンチャーは、事業規模を実力に見合った大きさにして、無理が生じないようにしてもらいたいと語っている。


携帯端末メーカーの世界競争

携帯端末メーカーが世界で勝負するには、技術力、営業・マーケティング力、政治力の3つが必要であると。

日本の端末は画面の精緻度や、ソフトの安定性、端末の機能性などで、海外端末の数歩先を行っているが、営業・マーケティング力は海外メーカーが数段上手だ。

これまでは日本の通信規格が独自規格で、鎖国状態だった。

第三世代となり、ドコモがW−CDMA、KDDIがCDMA2000となり、世界共通規格となったので、日本メーカーが外に出て行くことも、外から海外メーカーが参入することもやりやすくなった。

日本のメーカーは、携帯電話事業者に売り切りで販売し、在庫リスクもなかった。そのため自身の営業力がついていない。

ところが欧米メーカーは消費材として世界で電話機を売ってきたので、営業力が違うと。

また世界での規格会議などでも、日本は現場に近い技術者などが参加しているが、欧米のメーカーは標準化のプロが参加しているので、政治力が違うのだと。


サムスンの強さ

世界で強い例として、サムスンを夏野さんは挙げている。

強さの秘訣の一つは経営トップが持つ強いリーダーシップで、即断即決であると。

夏野さんは、サムスン電子のテレコミュニケーションネットワークビジネス社の李基泰(Kae Tee Lee)さんと懇意にしているが、海外端末を増やそうとサムスンと交渉を始めた席で、夏野さんが説明を終えると、李社長が社員にすぐやれと指示したのには驚いたと。

今ではサムスンが海外iモード機の販売No. 1で、技術力もある上に、全社員は英語か日本語を第二外国語として習得しているので、世界のどこの市場にも食い込んでいける営業力をつけていると。


最後に夏野さんは、「ケータイの未来は無限に広がり、ケータイの最大の強みは、人間の体にもっとも近いハイテク製品であることだ」と語っている。

ドコモのマルチメディア戦略の責任者が、自ら語る近未来のドコモで、読みやすく大変参考になる。是非一読をおすすめする。


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Posted by yaori at 00:10│Comments(0)TrackBack(0) インターネット | 夏野剛

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