2007年03月24日

北方領土 特命交渉 鈴木宗男と佐藤優の対談集

北方領土「特命交渉」


筆者が最近注目している佐藤優(まさる)元外務省主任分析官と、佐藤氏が師事する鈴木宗男新党大地代表の対談集。

北方領土問題解決の為に努力してきた鈴木・佐藤コンビが、現在の日ロ外交の膠着状態を嘆いてのいわば告発本である。

この本に登場する日ロの政治家はもちろん、外務省幹部までが写真入りで紹介されているので、こんな人が交渉しているのかと、イメージがわいて面白い。


1998年の川奈会談の橋本秘密提案

まずは1998年のエリツィン大統領・橋本首相の川奈会談の重要性から始まる。会談の中で、橋本総理が出した秘密提案が北方領土問題解決に向け大きく前進させる内容だった。

この内容は公表されていないが、鈴木宗男氏は橋本総理の特命を受けていたので、この内容を知らされていたのだと。

橋本提案にエリツィン大統領は「リュウからとても興味深い提案があった、私は楽観的だ」と語るほど、北方領土問題は解決に近づいていた。

しかし、会談の席で同席したヤストロジェムスキー報道官が口を挟み、日本側が今一歩踏み込めなかったことで、歴史的合意にはならなかった。


日ロ中のパワーゲーム

1990年代末のロシアは旧ワルシャワ条約機構国が続々NATOに加盟し、アメリカ・ヨーロッパの西側諸国から圧迫されていたので、日本の橋本首相の親ロシア政策に敏感に反応したのだ。

橋本首相は、中国の台頭を予想し、中国と適切なゲームのルールを持つためにもロシアカードを対中牽制に用いることが必要だと考えていた。見事な戦略である。

橋本首相は、消費税増税後、参議院選で自民党が敗北した責任を取って首相を退任したが、その後を継いだ小渕首相も対ロ交渉には力を入れていた。

また森首相もロシア外交は得意だった。ところが小泉内閣となり、田中外相の登場で外務省は機能停止に追い込まれ、ロシア外交は全くの手詰まりで、これが中国、韓国、北朝鮮に対する外交にも大きく影響していると佐藤氏・鈴木氏は指摘する。


北方領土問題はスターリン主義の残滓

鈴木氏は、歴史を振り返った時、ロシアの国民を日ソ中立条約を破って日本に侵攻してきたならず者だとは考えてはいけないと語る。

それはスターリンという恐ろしい独裁者がいた共産主義国だったからであり、ロシア国民もスターリン主義の犠牲者なのであると。

ソ連とロシアでは外交は連続しておらず、日ロの問題はスターリン主義の残滓であるという認識をエリツィン大統領も持っていた。

鈴木氏はエリツィン大統領の側近のブルブリス国務長官(現連邦院議員)と親しくなり、ブルブリス氏は北方四島返還は、スターリン主義の残滓と決別しようとしているロシアの国益にも適うと語ったという。


島は返還寸前だった

そんな布石作りの後に川奈会談が行われた訳で、これがこの本の帯でいう「島は返還寸前だった」という理由だ。

これには伏線があり、1992年にロシア外務次官のクナッゼが北方領土問題解決のために秘密提案を出している。内容は明らかにされていないが、ロシア側が譲歩した提案だった。しかし日本側はロシアの経済が弱いから弱腰の交渉をしてきたと、高飛車に出て結局チャンスを逸してしまう。

佐藤氏は経済が良くても悪くても領土問題を前進させる知恵をだすのが、外務省の仕事で、電力やハコモノ援助で引きつけるとか、北方領土をアイヌ民族の土地とするとか、知恵を絞る必要があると語る。外務官僚の頭が弱いことが問題だと語る。

その後、小泉首相以降、日本側は「日ロ外交の最大の問題はスターリン主義の残滓だ」ということを発言しなくなり、根元的歴史認識が欠落し、それゆえ正しい外交戦略をとることができないのだと佐藤氏は分析する。

そして鈴木氏や当時の外務省の東郷氏や丹羽氏などロシアスクールは2+2返還論を曲解されて、「二島返還論の売国奴」としてパージされてしまう。


日本独自の外交政策

対ロシア外交を有利に展開するために、日本は独自の情報ルートを持って、英米とは異なる立場を取ってきた。その具体例がチェチェン問題だ。

チェチェン問題はロシアの内政問題とすることで、人権問題として取り上げようとする英米とは一線を画し、ロシアの対テロリズムの戦いを助けようというものだ。

ところが小渕内閣で、外務大臣が高村氏から人権派の河野洋平氏に代わったときに、外務省は米英と協調して、チェチェン問題を人権問題としてとらえようとした。

そのとき鈴木氏が、外務省の総合政策局長だった竹内行夫氏(後の外務次官)を厳しく問いただした経緯がある。これを竹内氏は根に持って、その後、鈴木氏追放を画策することになる。


鈴木氏の特命交渉

森総理はロシアとの関係が深いことから、プーチン大統領との関係つくりに積極的で、鈴木氏にプーチン大統領と一番近い人間を探し当てるように特命する。

但しこの特命については、森総理は外務省では秘密が守れないとして、一部の幹部を除いては外務省には極秘としてくれという条件だったという。

そこで鈴木氏はセルゲイ・イワノフ国防相が側近中の側近であることをつきとめ、正規の外務省ルートとは別の、鈴木ーイワノフというチャンネルができる。

これが外務省でつんぼ桟敷に置かれていた一派による鈴木追放の動きにつながる。


手詰まりの対ロシア外交

2005年11月のプーチン訪日で、北方領土問題に関する合意文書ができなかったことで、今後手ぶらで訪日しても良いのだという前例ができていまった。

プーチン訪日を担当した外務省の首脳はみんな田がつく名前なので、鈴木氏は悪のサンタの歴史的大失態と呼んでいる。

2000年前後に平和条約締結に向けて動いていた日ロ関係は、今や有効な打開策もなく、みずからイニシアティブを取って解決しようとするリーダーも不在で、手詰まりとなっている。

しかしこの本で指摘されている様に、日本が独自の外交戦略を持ち、日ロ中韓のパワーバランスのなかで、日ロ関係を良好なものに保てば、必ずや中韓のみならず、米国ともわたりあえる外交ポジションを保つことは可能だろう。

また対北朝鮮交渉にも、日ロ関係の改善は大きな影響があるだろう。

そんなダイナミックな外交こそ、日本がめざすべきものではないか。

そんなことを考えさせられる本だった。一読をおすすめする。


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Posted by yaori at 03:05│Comments(0)TrackBack(0) 佐藤優 | 自衛隊・安全保障

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