2007年06月28日

インテリジェンス 武器なき戦争 佐藤優氏と手嶋龍一氏の放談集

インテリジェンス 武器なき戦争 (幻冬舎新書)
インテリジェンス 武器なき戦争 (幻冬舎新書)


一躍売れっ子ノンフィクションライターになった外務省分析官佐藤優氏(現在起訴休職中)と、「ウルトラ・ダラー」がベストセラーになった元NHKワシントン総局長の手嶋龍一氏の放談集。

ウルトラ・ダラー (新潮文庫 て 1-5)
ウルトラ・ダラー (新潮文庫 て 1-5)


お互い本当の手の内を明かさない、化かし合いという感じだ。

なかには超一級のインテリジェンス(秘密情報)もあるのだろうが、どこまで信じて良いのかよくわからないところがある。

そもそも本当のインテリジェンスに携わる人間は表舞台には出てこないはずだ。インテリジェンスにかかわったことがある、あるいはインテリジェンスにかなり近いところにいた二人というところだろう。

ニュースソースがわからないように二重三重の仕掛けをしているというから、意図してこうした話をしているのだろうが、話半分の放談といった感じだ。

世の中には嘘の様な本当と本当の様な嘘があると。本当の話と思えるものもある。いくつか紹介しよう。


アメリカがイラク戦争を仕掛けた理由

アメリカがイラク戦争を仕掛けた理由は、一つはフセインが大量破壊兵器を隠していること、もう一つはイラクがアルカイダと組んでテロを仕掛けていることだった。

イラクがウランを入手したという情報はイタリアの情報機関からもたらされた情報だったが、ガセネタだった。

もう一つのアルカイダ情報もガセネタだ。イラクは基本的に民族国家をめざし、アルカイダはイスラム社会大団結を目指す。元々相容れないものを、開戦の理由の一つに取り上げたのだ。

これはいわゆるネオコンの差し金だという。ネオコンは自由主義世界革命を目指す為に、アルカイダを理由にフセイン政権を打倒したのだ。


日本がつかんだ世界初の重大情報

佐藤さんの前著「国家の罠」にも登場する東郷和彦元外務省欧亜局長がモスクワ駐在の時につかんだ情報の一つが当時のソ連のアンドロポフ書記長死去のニュースだ。

日本は当時科学アカデミーのなかに、ヒューミント(人的情報ソース)が居て、彼から入手した情報だったが、そのうちソ連に情報ソースを抑えられてしまう。

また東郷氏も外務省内の嫉妬をかってしまい、ロシアスクールながら、課長になるまでロシア課での勤務はなかった。

もう一つの日本初のビッグニュースは湾岸戦争の時に、イラクがイランに大量に空軍機を飛来させた事件だ。

当時のテヘラン大使の斎藤邦彦さんが報じたものだ。斎藤大使は情報源のたしかさを知っていたので、ウラが取れなくても東京に打電した。さらにイランがどう出るのかも的確に予想していた。

これらは日本の数少ないスクープなのだろうが、それにしても他国より数時間先んじたという程度のものばかりで、「だから何だ」という気がする。

インテリジェンスではこういう一つ一つに積み上げが重要なのだろうが、佐藤さんはじめ外交関係者からおしかりを受けるかもしれないが、お寒い感じを覚えてしまう。


大韓航空機撃墜事件は日本のインテリジェンスの脆弱性を示す

筆者は大韓航空機撃墜事件では日本政府は情報収集力を世界に見せたと思っていたが、この本では事実は逆であり、当時の後藤田官房長官がマスコミを抱き込んでつくらせた神話だと言う。

むしろ日本のインテリジェンス能力の脆弱性を明らかにした例だと。

日本の陸上自衛隊の稚内施設はアメリカのものを引き継いだので、基地にはアメリカ軍の将校も同居しており、アメリカ軍の下請けと化していたのだという。

アメリカ側が会話のテープを入手し、撃墜の事実を発表するというので、日本側はメンツ丸つぶれになることを避けるためにアメリカより30分前に発表した。しかもパイロットの会話を含む情報の内容まで詳しく公開してしまったので、これが後で大きなダメージとなる。

ソ連は日本側が傍受の事実をつかんだので、周波数を変更し、かつパイロットの通信を平文から符号に変えてしまった。たとえば「攻撃する」は「634」とかと言い換え、しかもそれを毎日変えるのだ。もう解読はほとんど不可能となってしまった。

しかし日本政府は後藤田官房長官の指示で、あたかも日本の手柄の様に発表し、ノンフィクション作家の取材に備え、あらゆる関係者と口裏合わせを行い、情報操作が行われたのだと。


手嶋説 北朝鮮は核の運搬手段を持っている?

手嶋さんは小説にも書いたウクライナ製の巡航ミサイルX55がイランと中国に6基ずつ流れ、それが北朝鮮に渡った可能性が高いと語る。

北朝鮮は既にプルトニウム型の原子爆弾の実験を行っており、数個の核弾頭を持っている可能性がある。しかし問題は運搬手段で、北朝鮮製のミサイルでは信頼性が低く、核弾頭は運べない。

それを解決するのがウクライナ製の巡航ミサイルなのだと。

これは手嶋説だが、あながち間違いではないかもしれない。数個の核弾頭と巡航ミサイルを手にしたので、北朝鮮はやっと6ヶ国協議で原子炉稼働停止に応じてきたのかもしれないと勘ぐってしまう。


イスラエルで生まれた「悪魔の弁護人」制度

このブログで紹介した「戦略の本質」で1973年の第4次中東戦争でのアラブ側の優れた戦略が紹介されているのでご覧頂きたいが、イスラエルでは第4次中東戦争での苦戦をきっかけに、悪魔の弁護人という制度を設けた。

これは1973年のヨム・キプルというユダヤ教の重要な祝日にアラブが攻めてきたことに端を発する。秘密警察モサドがアラブが国境付近に終結いていると警告を発していながらも、当時の首相ゴルダ・メイヤは軍事情報部(アマン)のアラブは動かないという情報を信じて、総動員体制を取らなかった。

その結果戦略を練りに練ったアラブが攻めてきて、対応の遅れたイスラエルは大打撃を受けてしまった。最終的にはアラブ軍を追い出すことができたが、国家を存亡の危機に陥れた責任を取ってゴルダ・メイヤ首相は辞任。

悪魔の弁護人とは中世の魔女裁判の時の魔女の弁護人のことであり、首相にあがってきたレポートをともかく難癖つける役割である。それによって首相は多面的な判断ができるようになるのだ。


1996年の台湾海峡危機では李登輝は核心をつく内部情報を得ていた

1996年中国は台湾に届く射程距離のミサイルと4発発射。台湾も応戦体制に入り、クリントン大統領は空母ニミッツ他2個の空母機動部隊を台湾海峡に送り込んだ。

しかし当時の李登輝総統は中国が打ったミサイルは空砲だったということを知っており、中国の脅しに屈しなかった。これは手嶋さんが李登輝本人より聞いた話だと。

中国は李登輝が空砲だったことを確信していたことを不審に思い、政治局の周辺にいたモグラを徹底的に調べ上げ、3年後工作員を捕まえ処刑した。

もしこの情報が間違っていれば、台湾は中国との武力衝突という大変な国難に巻き込まれた危険性があった。李登輝はそのことを知りながら、すべて責任を負うつもりで行動した。

このようにリーダーはインテリジェンスの情報が誤れば、すべて責任を負うという覚悟がないといけないと手嶋さんは語る。

その意味で、民主党の前原誠司元党首のガセメール事件は、自らが防衛問題の専門家と称していながらも、お粗末な結果となった。前原氏には資質がないので、二度とインテリジェンスや安全保障にはかかわらない方がよいと佐藤氏は言う。


杉原千畝の命のビザ

日本版シンドラーのリストとして、今や有名になった杉原千畝元リトアニア領事代理だが、鈴木宗男議員は杉原氏の名誉回復を積極的に推進した。

それは鈴木宗男氏が、30年以上前の青嵐会時代から、イスラエルとの連絡係を勤めていたので、ユダヤ人ネットワークがどういうものか知っており、杉原千畝の名誉回復を図れば、その先どういう効果が見込めるのかを読んでいたのだと佐藤氏は語る。

アメリカには命のビザで命拾いをした人がまだ居る。たとえばシカゴ商品取引所の元会長もその一人だ。

最近バルト三国他を訪問した天皇皇后両陛下もリトアニアの杉原千畝記念碑に献花されていたが、これは日本にとって有効なユダヤカードである。

かつては日本にもインテリジェンスを教える学校もあった。それが対中国情報の東亜同文書院であり、対ソ連情報のハルピン学院である。これらが語学と文化に深い理解がある学生を輩出していた。

杉原千畝はハルピン学院出身で、最初の奥さんはロシア人で、本人もロシア正教徒と、それくらいロシアに通じていたのだ。


多くのエピソードが紹介されており、真偽のほどは不明だが、読み物としても面白い。おすすめの一冊である。


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Posted by yaori at 22:13│Comments(0)TrackBack(0) 手嶋龍一 | 佐藤優

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