
行動派学長、東大総長小宮山教授への55問。
小宮山さんの「課題先進国日本」を読んで好印象を受けたので、この本も読んでみた。
この本は2007年3月の発刊で、「課題先進国日本」が2007年9月なので、ほぼ同時期のものといえる。
News Weekの世界大学ランキングでは東大は16位だった。東大より上はアメリカの大学とイギリスのケンブリッジ、オックスフォードのみだった。上位30位に入っている非アングロサクソンの大学はカナダの大学一校と、東大、京大、スイス連邦工科大学チューリッヒ校、ローザンヌ校だけだった。
独仏の大学は一校も入っていない。独仏の不振の原因は、研究機関と教育機関を分けてしまったからではないかと指摘されているという。
日本は世界の「課題先進国」として、もっと世界に対して情報発信すべきであり、東大は世界の知の頂点として世界の課題解決に役立つ大学を目指すべきであると。
ちなみに小宮山さんの父親、叔父も東大、弟も東大、息子も娘も東大という東大一家で、それゆえ東大に対する愛校心が人一倍強いのだと。
この本は次の5部構成となっている。
1.東大にしかできないことがある
2.東大がニッポンを変える
3.東大だってお金が欲しい
4.(番外編)東大総長の胸のウチ
5.特別対談 小宮山宏 VS 梅田望夫
55の質問
全体で55項目の質問に小宮山総長が答える形となっている。たとえばこんな具合だが、質問の構成が網羅的でないので、正直これを読んで東大のことがわかる人は少ないと思う。
あきらかに東大を目指す高校生向けの本ではない。ビジネスマンの読者をねらった本だ。
・東大に新しい学部をつくるとしたらどんな学部ですか…ビジネススクール
・東大に就職部をつくったのはなぜですか…学生には正しい情報が伝わっていない
(東大でも留学生や、博士号取得者の就職は難しい)
・早慶やハーバードよりも東大のいいところはどこですか…「総合力」では世界一だ
(特に工学部などの実学が強い ちなみに小宮山さんは化学工学が専門だ)
・東大では、世界トップレベルの研究が行われていますか…1/3は世界トップ
(固体触媒光化学の藤嶋昭名誉教授、化学チップの北森武彦教授、固体物性物理学の十倉好紀教授など、思いつくままに40名以上の名前が挙げられると)
・東大には海外から優秀な教授を引き抜く力がありますか…東大にはあるが、問題は日本のインフラ
(問題は住居や子女教育なので、東大は大規模なインターナショナル・ゲストハウスを建築予定だ)
・ビル・ゲイツを客員教授に呼ぶならばどう口説きますか…口説かなくても来てくれる
(小宮山さんはオラクルのラリー・エリソンと親しいが、彼の自宅は京都の桂離宮をそっくり模した建物で、宮大工を多いときは60人も呼んだそうだ。サンのスコット・マクナリーは昨年東大で講義した)
・40年前と比べて、東大生の学力は落ちたと思いますか…学問自体が複雑化していることも考えるべき
ところで東大の女子学生比率は、40年前の理科一類では0.3%だったのが、現在は20%になっているという。
・ドラゴン桜の様に、もともと成績が悪くても受験テクニックで東大に合格できますか…燃え尽きていなければ、テクニックでもOK
・お金持ちの家庭でないと、東大に入れないのでしょうか…親の年収データは、正確なのか見極めるべき
(自営業の年収捕捉率に問題があるのではないか)
・どうすれば世界における日本の地位が上がりますか…コンセプト先行型でいこう
(例えば2005年のサミットでの小泉首相の「日本は3Rを推進します」発言は評価できると。3RとはReduce, Reuse, Recycleだ)
・若い世代の活字離れを食い止めるにはどうしたらいいと思いますか…ネットの情報だけでは、頭がバラバラになってしまう
・学者が社外取締役を兼務するのは、望ましいですか…どんどんやればいい
(東大の50歳くらいの教授の年収は1,100万円くらいであると。社外取締役になって稼いで、自分の研究に投資してほしいと)
・経営者になる自信はありますか…利益を第一に考えたことがないから、自信がない
・経営者で、東大教授にスカウトしたい人はいますか…若者が好きな人なら歓迎
(伊藤忠の丹羽宇一郎さんは物事を原理的に考える人なので、学者に向いている。ウェブ進化論の梅田望夫さんもいいと思うと)
・自分の研究ばかりで学生の教育をしない教員はいてもいいのですか…研究成果があってこそ、良い教育ができる
・もっと給料をもらうべきだと思っていますか…この激務なら二倍は欲しいところ
(小宮山さんの年収は2,480万円だと)
・協業してみたい!と思う経営者がいますか…大構想「アジアの水田」に賛成してくれる人、求む
(燃料としてコメを使うと石油の40%のカロリーだが、石油より安い。日本の技術でベトナムでコメを三期作するとか、ヤシ油を使ったバイオマスとか。アジアの水田は「金のなる木」だという。)
・これまで一番感銘を受けた本は何ですか…「坊ちゃん」(この答えに正直筆者は???だ)
梅田望夫氏との対談も面白い
最後の梅田望夫氏との対談も面白い。一般的な話題が多いが、特に印象に残ったのは、梅田さんは1975年以降生まれの日本人はすごく違うという。たとえばMixiの笠原さんとか、はてなの近藤さんだ。
帰国子女も増えて、語学力のある人が増えてきた。
彼らは15,16歳でバブルがはじけ、大学に入ってパソコンを使い出したが、大学に入ったときはバブル後のひどい時期で、卒業した時期に金融危機があり、自分たちはどうやって生きていくか真剣に考えているという。
卒業して1−2割が外資系やベンチャー企業という、旧来の「日本株式会社」でないところに就職した。旧世代よりよっぽどグローバルなメンタリティを持っているので、彼らを応援してやれば、日本は必ず良くなると。
さらに梅田さんはその次の世代は1991ー93年頃生まれになるだろうと。今の中学生の年代だ。彼らは生まれたときから世界一のITインフラの中で生きてきていると。
最後に東大教授になりたくないかと聞かれ、梅田さんはこう答えている
「そういって頂けるのは大変光栄です。先生からそういわれたら、1,000人中999人が『ありがとうございます』って受けるわけですよね。でも、僕は残りの一人になりたい。組織に属さないで、これだけ大きな事ができるっていうのを、身をもって示したいんです。
大学で教えることはすごく大事だと思いますが、同じエネルギーがあったら、僕はネットの向こうにいる不特定多数に向かって、自分が考えていることを語り続けたい。東大で僕の授業を受ける100人は、優秀かもしれないけど、本当に僕の話を聞きたい順に上から100人ではないでしょう。
ネットでは、何かを本気でやっていると、志を同じくした人たちがマグネットみたいにつながってくるんです。そっちのほうが面白いですね。」
梅田さんのブログには毎日15,000人がアクセスするという。さすが梅田さん、ネットの面白みをマグネットにたとえるのは、秀逸だ。
ひとことで言うと「読者愛」なのだろう。筆者も同じ思いだ。それゆえこのブログを三年弱も続けることができているのだと思う。
ビジネスマン向けのミクロ的東大紹介として読むと、参考になる本だ。
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