2008年03月11日

されど成長 日経新聞の警鐘

されど成長


日経新聞の一面左上の枠特集記事として2006年10月から1年間にわたって続いた「成長を考える」企画の加筆修正版。

日経は、小泉政権の「構造改革路線」の反動として、格差是正、格差の背景にある成長至上主義に対する反発が起こりやすいムードになっていると指摘する。

日経でも1990年代から2000年入社以降の若い記者には、いまさら成長は無理ではないかというあきらめの反応も強かったという。

そんな中で取材陣で議論を重ね、どんなに苦しくともパイを広げる経済成長をあきらめず、市場重視の思想と規制緩和・構造改革を積極的に支持し深化させるべきだという共通認識をもつようになったという。

だからこの本のタイトルは「されど成長」となった。


よくまとまった目次

目次は次のようになっている。ちょっと長くなるが、相当程度本書の内容がわかるようになっているので引用する。

第1章 なにがおこっているのか
  1.新しい流れをつかめ 
    世界は変わり始めた 市場、そして経済的自由主義へ どこを変えるのか 歴史に学べ 「大きく強すぎる政府」を避けよ
    BOX 1 「数字が語る日本」 「成長目指すべき」8割 日本の底力に強い期待
  2.競争恐るるに足らず 
    変人の革命 規律より自由 悪ガキを使いこなす アニマルスピリット
  3.ITは染み渡る
    ルビーの奇跡 汎用化から使いこなしへ 広がるオープン化 供給のボトルネック 生身のつながりも一役 知恵のストックを生かす
  4.「働き方」は進化する
    欲張りズム ハケン部長 共同体の終焉 氷河期から売れっ子へ 要素価格均等化定理
    BOX 2 労働分配率 日本、米、独などを上回る
  5.プロシューマ台頭    
  6.大学改造
    企業に院生派遣 競争原理の導入
    補論 「成長がない世界とは」
第2章 格差論争への処方箋
  1.「痛み」を直視し、「果実」へ動く
    若者の保護急増 改革が格差の主因か 働く方が損 格差バブル論 オランダの教訓
  2.自立あっての再配分
    民族大移動 コンパクトシティ政策 トリクルダウン? 自助努力あってこそ 自然との共存目指して 格差より格差感? 共同体は戻らない
  3.「産業」化効用あり
    患者は空を飛んでいく 成長産業 株式会社の効用 脱皮する農業 なお残る壁 「ハイテク」の原石
    BOX 3 「国民皆保険制度」高齢化で公費負担重く
  4.「気風快発」で乗り越える
    くたびれる働き盛り コースの予言〜ヒトの外部化という現実 リストラを超えて
  5.「勝者は常ならず」こそ市場
    消費者からのチェック トヨタの冒険 何が分かれ道だったのか
第3章 阻むもの
  1.内弁慶ハイテクの憂鬱
    幻の「iPod」 電機産業=ゼネコン説 モトローラの教訓
  2.インフラ途上国
    遅れてきた24時間化 幻のゲートウェイ構想 もつれ合う糸
  3.共同体幻想論
    リスク恐怖症 寄らば大樹 失敗続きのベンチャー市場 挑戦者群像
  4.反市場の心理学
    「村上」チルドレン 銀行システムの崩壊 ハゲタカを超えよ
    BOX 4 「ファンド」巨大化、強まる規制論
第4章 糧になるものは
  1.新・産業中間層
    遅れてきた淘汰 ナンバーワンよりオンリーワン 産業下克上の時代
  2.種は身近に眠る
    誰でも匠 暗黙知から形式知へ 斜陽にチャンス
  3.「公」は最前線
    日本恐るるに足らず 制度競争力 市場と生きる 政府のあり方とは
  4.サービス構造改革論
    原初的市場としての闇市 効率優先は悪なのか? 市場によるチェック ヒトの再配置 新サービス業へ
  5.経済の基礎に金融あり
    家計潤す配当金 企業の成長促す財務 財テク2.0 金融国際化は周回遅れ
    補論 海外に学ぶ (チリ、エストニア、スゥエーデン)
第5章 何を変えればいいのか
  1.「安定」は衰退を生む
    寡占に挑む 今は昔の花形産業
  2.制約限界論を打破せよ
    知られざる試算 共存への地道な努力 地域を引っ張る外国人
  3.異端を受容せよ
    港町にファンド 大樹の終わり IT革命か泡沫か
  4.二兎を追え
    手を打たなければ消える 郷愁を超えて 脱イエ社会
解説 市場による正義は可能か
   「成長」という言葉 循環する格差 市場という価値 新しい社会思想の構築に向けて

歴史的に見た各国の成長率

歴史的に見た各国の成長率が載っている。これでいくと過去100−130年では日本が世界で最も成長した国だ。

日本の一人当たりGDPは1890年の1,256ドルが2000年には26,460ドルになり、平均成長率は年率2.81%だ。

日本に次ぐのがブラジルで、1900年の650ドルが2000年の7,320ドルになり、成長率は2.45%。

主要国ではアメリカは、1870年の3,347ドルが2000年には34,260ドルになり、成長率は1.81%。

中国は1900年の598ドルが2000年で3,940ドル。成長率は1.9%。

インドは1900年は中国とほぼ同じ564ドルだったのが、2000年では2,390ドル。成長率は1.45%だ。

人口が増え経済が成長すれば、雇用は増え税収も伸び、国の財政規模も拡大する。逆に人口が減少し成長がないと、少子化で財政余力は低下し、社会保障も維持困難になってくる。


21世紀の見通し

数年前に出されたゴールドマンサックスの21世紀の見通しが引用されている。

GS見通し







出典:Goldman Sachs Dreaming with BRICS

これによると、中国は2015年頃にGDPで日本、2040年頃には米国を抜き世界最大の経済国になる。日本は2030年すぎにインドにも抜かれ、2050年時点では、中国は日本のGDPの6.7倍、インドも日本のGDPの4.2倍になるとGSは予測している。

人口増加、経済成長と通貨価値のアップが、トリプルパンチで効いてくるので、加速度的に中国やインドの経済は成長し、日本やドイツなどの低成長国はどんどん置いておかれる。

少子化に悩む日本がこれに対抗するためには、経済成長を続けるしかなく、それには生産性アップしかない。


日本のアルゼンチン化

筆者が研修生で2年間過ごしたアルゼンチンのことが書かれている。失われた10年の間に「日本のアルゼンチン化」と言われたこともあるからだ。

20世紀初頭に世界第8位の経済規模を誇ったアルゼンチンは、工業化の波に乗り遅れ、成長率が低下し、経済危機、累積債務と問題を抱えていた。

筆者はブエノスアイレスでマンションの一部屋を間借りしていたが、オーナーは同じ電話番号を50年間持っていると言っていた。

つまり50年前(1930年頃)日本では電話が珍しかった頃、ブエノスアイレスでは一般家庭に電話が通じていたのだ。

しかしその電話も50年間ほとんど進歩していなかったので、筆者がブエノスにいた頃は、雨が降ると地中埋没してある電話線が古くて漏電し、とたんに電話がつながりにくくなった。

国内の長距離電話より、衛星通信の国際電話の方がすぐつながり、音質も良いという時代だった。

そのアルゼンチンも今は上記のようなことはなくなったが、世界で3番目に地下鉄を建設したブエノスアイレスの町に、アルゼンチンよりずっと遅く地下鉄を入れた日本の銀座線の古い車両が輸出されて使われているというのは、まさに歴史の皮肉と言えると思う。


新規性のあるトピックス

カゴメが野菜工場をつくろうと、福島県に工場用地の転用許可を申請したら、福島県から差し止め通知をくらい、これをなんとかクリアしたら、今度は街宣車が来たという。規制や守旧勢力の抵抗で、日本の農業の生産性アップも道が遠い。

しかし中には革新的な人もいる。

愛媛県の河内晩柑生産者みかん職人武田屋は、日本で初めての農業ファンドを使って、ダイレクトセールの販路を伸ばし、6年間で売上を4倍にしたという。

きっかけは6年前、豊作の年に当時唯一の売り先だった農協が流通価格の下落を防ぐとして、武田さんに丹精込めてつくった無農薬の河内晩柑を投げ捨てさせるということが起こった。武田さんは悔し涙を流したという。

「お客のためにおいしくて安全な商品をつくるという経営努力が、きちんと報われるような農家に生まれ変わりたい」と思い、武田さんは直販を拡大したという。

三洋電機のオーディオ部門のトップだった黒崎氏は、1997年にアップルのスティーブン・ジョッブスに会って、iPodの原型でネットで音楽コンテンツを配信するビジネス案を披露したところ、帰国して社内の反対に会い、「なにわ版iPod」はお蔵入りしたという。

井植会長は「音楽?コンテンツ?あきまへん。これからは情報システムでっせ。」と言っていたという。

港湾、空港など交通インフラの世界では「途上国日本、先進国アジア」が現実だ。

多くの識者のインタビューが取り上げられているが、中田横浜市長の話が面白い。

節約中心の「余儀ない改革」から、地域をより良くする「創造的改革」にシフトしていく。特に成長が著しいアジアから企業や金融投資、観光客を取り込むために、羽田空港の国際線の大幅増発を国に要望し、情報分野に強いインド人の子弟のための学校をつくるのだと。


毎日のようにトピックスを提供している日経新聞の連載シリーズだから、いちいち取り上げているときりがないので、この辺にしておく。

筆者も毎日読んでいる日経新聞だが、あらためてこの本を読むと、覚えていないトピックばかりだ。

加筆訂正もあるとは思うが、あらためて自分の記憶力がいいかげんなのに驚く。

決して新聞の連載シリーズをまとめたものとバカにせず、まずは書店で手にとって、目次がよくできているので、目次を見て戴きたい。

「されど成長」という本のタイトルのようなシリアスな提言としては力不足の感が否めないが、読み物として適当な本である。


参考になれば次クリックお願いします。


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Posted by yaori at 00:38│Comments(1)TrackBack(0) ビジネス 

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この記事へのコメント
4
目次を見れば話の流れが分かるという意味で、同感です。取材班の力こぶが入りすぎのところはあるけれど、今の時代、これぐらい言わないと、ね。本屋で手にとって、まえがきとあとがき、それに小林慶一郎氏の「解説」を読むと、本書が目指す方向が良く分かるし、決して「市場主義者の強者の論理」ではないことが分かるはずだと思います。
Posted by JOHN LENNON at 2008年03月22日 12:44