2008年04月24日

不動産は値下がりする リクルート創始者江副さんの警鐘

不動産は値下がりする!―「見極める目」が求められる時代 (中公新書ラクレ 252)


リクルート創始者江副浩正さんの近著。前回紹介した「リクルートのDNA}なら江副さんにまさに書いて欲しい本だが、この本は不動産価格の見通しについての本であり、なぜ江副さんがこの本を今書いたのか、本を読むまでよくわからなかった。

リクルートは以前リクルートコスモス(現コスモスイニシア)という不動産開発会社を持っていて、首都圏のマンションや岩手県の安比高原スキー場などのリゾート開発の実績もあり、江副さんはリクルートコスモスの会長だった。

しかしリクルート事件でリクルートの社長を退任し、最近は江副育英会や東京オペラシティのサポーターなどの活動がメインで、不動産ビジネスからも引退しているのだと思っていた。

江副さんは72歳になっているはずだが、この本を読むと東京や全国の不動産開発についても最新の動きをつかんでいることがわかり、依然として現役投資家と言って良いと思う。

現在の不動産の需給状況を冷静に分析して、日本全体が少子高齢化に向かっているにもかかわらず、首都圏を中心に不動産の供給はさらに増えるので、金利が今後上昇していくと不動産の価格は下がると警鐘を鳴らしていて参考になる。

最後に「書くことは私自身の勉強になる」と記されているのは実感で、この本を書いた理由だろうが、いわば元バブル紳士の江副さんの「同じ間違いは繰り返すな」という遺言の様に思える。



不動産供給の増える理由

現在は都心の不動産価格は上昇している。

日本の国土は狭く、土地は限りある資産で、不動産を持っていた方がインフレに強いという発想(信仰)があるが、土地は埋め立て、法改正などで生産、再生産されており、規制緩和による容積率拡大により首都圏や近畿圏を中心に膨大な土地、床が供給されるのだと江副さんは語る。

だから首都圏を中心に不動産の供給が増えるので、バブルは崩壊すると江副さんは予想する。


1.規制緩和による容積率や建坪率の増加

都心部では30階を超える高層オフィスビル、50階を超えるタワーマンションが増加し、住宅地では敷地一杯に広がったマンションが増えた。南軽井沢では規制緩和で、引退した団塊世代が買えるこぶりの別荘が建てられるようになった。

規制緩和による土地供給増加はバカにならないものがある。


2.地方自治体が埋め立て地を造成

江副さんは神戸市出身だが、神戸市は六甲山を削って海を埋め立て、ポートアイランド、六甲アイランドなどを造成した。

東京臨海部でも有明、青海など臨海副都心を抱える江東区は50年間で面積が1.8倍、品川区、大田区も1.4倍に増えている。千葉県浦安市は面積で約4倍、人口は約9倍になった。

すべてが埋め立て地の幕張新都心を抱える千葉市だけで、32平方キロメートルも増えている。これは中央区の面積の3倍以上の土地の増加だ。

横浜のみなとみらい21でも、三菱重工横浜造船所の跡地と埋め立て地で土地が増えている。

品川地区のJR操車場跡は、興和不動産の佐藤悟一氏が「異常な高値」で落札したと言われたが、現在の地価は興和が落札した時の2倍以上になっているという。


3.オフィスの建て替えと新規開発

オフィスの建て替えや新規開発は丸の内、六本木、汐留、品川、大崎、霞ヶ関など目白押しで、さらに日比谷地区の古いビルが再開発予備軍として控えている。

姉歯元建築士による耐震偽装事件で建築基準法が改正され、昭和56年度までに建てられた旧耐震構造のビルは、建て替えるか耐震改修が義務づけられている。一方、国と地方自治体が13.2%を補助するので、いわばアメとムチによる立て替え促進である。

東京23区のビルの4割以上は旧耐震構造なので、銀座地区などでは立て替えブームが起こっており、立て替えられれば倍以上のオフィス床面積が供給されることになろう。

都心回帰をうまくつかんだ中央区
この都心回帰の流れをうまくつかんだのが中央区だ。中央区の面積は10平方キロメートルと東京23区のなかでは台東区に次いで狭い。

人口も昭和30年(1955年)の17万人から、平成7年(1995年)には6万4千人まで減ったが、「都心居住」のまちづくりで、銀座、日本橋〜築地、月島・勝どき・晴海と3つのゾーニングを設定し、容積率を1100%まで拡大し、平成18年には念願の10万人を超えた。

現在6期めの区長の矢田美英氏は中央区生まれの共同通信社出身で、従来の慣行に捕らわれない自由な発想の持ち主だったことが中央区の画期的な改革を可能としたのだろうと江副さんは語る。

築地市場跡地の再開発も計画されている。


4.大学の持っている土地の有効利用

中央大学は駿河台地区から東京の八王子に移転した。他にも郊外に移転した大学・学部もあるなかで、東洋大学などはむしろ都心回帰してきた。学生の都心指向は強い様だ。

東大の小宮山総長は大胆な東大改革を行おうとしている。

仮に駒場からすべて本郷の農学部や柏キャンパスなどに移転し、駒場のキャンパス10万坪を再開発すると六本木ヒルズ地区の2倍の面積の再開発が行えることになると江副さんは語る。

これによる地価は3,000億円と推定され、毎年200億円程度の収入が得られる可能性があると試算する。

さらに東大は小石川植物園周辺、千葉の検見川運動場、中野の附属中学・高校、田無の実験林なども持っており、資産の有効利用で国からの助成金の減少分を賄うこともできる可能性がある。

旧帝大系はみんな広大な土地を持っており、首都圏の千葉大学、埼玉大学、横浜国立大学なども同様だ。これらの土地を有効利用すると、将来は地価下落の要因になる。


5.生産緑地法の改正による農地の宅地化

首都圏で農地の宅地化が最も進んだ地区は、埼京線の戸田公園から大宮にかけてだ。平成3年(1991年)に改正された生産緑地法により、農家が申請すれば宅地に転用して売却も可能となったので、一挙に農地から宅地への転換が進んだ。

東京都だけでも昭和40年(1965年)には28%だった農地比率が、平成7年(1995年)には10%を切っている。それまで練馬大根や江戸川区の小松菜などを生産していた農地が宅地に転換されたのだ。

農地の固定資産税・都市計画税は(固都税)は宅地の100分の1で、相続税も営農の意思表示さえすれば納税しなくてよかった。このため千葉、東京、埼玉、神奈川の首都圏の市街化区域内農地とされる農地は平成7年の時点で205平方キロもあった。

ところがバブルによる地価高騰対策として、市街化地域内農地に対する宅地並み課税の声が高まり、「宅地化すべき農地」と「生産緑地(保全すべき農地)」とに区分されることになった。

首都圏の205平方キロの内、「宅地化すべき農地」は66%とされ、これが宅地や商業地として供給されたのだ。

バブル時代に大前研一氏が「平成維新の会」をつくり、農地の宅地並み課税により土地供給の増加を訴えていたことを思い出す。これが政策として実現していることがわかる。

また首都圏には工業専用地区が201平方キロあり、これも工場の移転や閉鎖とともに、時間を掛けて宅地や商業地に転換されてくる。

これらの土地供給圧力は膨大なものがある。

江副さんは私見として、バブルの時に導入され、バブル崩壊後凍結されたままの地価税を復活せよと語る。料率は路線価の1000分の3程度であり企業の負担は軽微だろうと。


江副さんの結論:金利の上昇は地価の下落に直結する

次が日本の人口動態調査だ。

人口動態調査







江副さんは、少子高齢化により平成17年度から日本の人口がほとんど増えていないこと、晩婚化・非婚化が進んでいることより不動産の需要は増えず、エリアによる格差が拡大すると予想している。

また住宅ローン金利も近く上昇し、不動産価格は下落すると予想し、これを結論としている。


バブル時代は一世を風靡した江副さんだが、今回はバブル崩壊再来というダメージが日本経済に起こらないために、この本を出版して警鐘を鳴らしている。

首都圏の不動産供給のマクロの動向がわかり、大変参考になる。不動産購入を考えている人に限らず、是非一度手にとって眼を通して頂きたい本である。


参考になれば次クリックと右のアンケートお願いします。


人気ブログバナー







Posted by yaori at 12:53│Comments(0)TrackBack(0) ビジネス | 江副浩正

この記事へのトラックバックURL