2010年08月16日

日中GDP逆転 ゴールドマン・サックスの伝説のBRICSレポート再掲

2010年8月16日再掲

本日2010年4−6月で中国のGDPが日本のGDPを超えたことが、日経新聞等で報道された。

このままだと2010年通年でも中国のGDPが日本を上回り、中国が世界第2位の経済大国となるのが確実と思われる。

まさにゴールドマン・サックスのBRICSレポート改訂版が予想したとおりのGDP成長になっている。

現在の情勢を考えるにあたって、BRICSという言葉を作り出したゴールドマン・サックスの伝説のBRICSレポートの2007年の改訂版(英語)のあらすじを再度掲載する。


2008年8月6日初掲:

BRICs and beyond revised








本というと書店で買うものと通常は思うが、今回は企業のホームページからダウンロードできる本の紹介だ。投資銀行のゴールドマン・サックスは経済レポートをホームページで公開しており、だれでもダウンロードできる。

このブログでも紹介した「フラット化する世界」や、「日本は没落する」で引用されているBRICs諸国の躍進を予測した2003年10月の伝説的レポート"Dreaming with BRICs:The Path to 2050"も収録されている。

ゴールドマン・サックスのホームページ(英語版)"Ideas"というセクションがある。ここにBRICs関係のレポートや、経済成長、環境とエネルギーなどの分野のレポートが掲載されている。

英語のホームページにはBRICs研究の責任者のジム・オニールが、今最も面白いのはブラジルであると語っている2008年2月のインタビューが日本語字幕付きで公開されており、参考になる。

今回紹介する"BRICs and beyond"は全部で270ページ余りなので、読むのに決心が要るが、2003年に出された"Dreaming with BRICs"は全部で20ページ強、付録を除くと本文は17ページなので、まずはこのレポートを読むことをおすすめする。

英語のレポートを読むのは慣れていないと大変ではあるが、やはり日本語と英語では情報量が違う。時々はゴールドマン・サックスのホームページなどをチェックすることも参考になると思う。

日本のゴールドマン・サックス・アセット・マネジメント社のホームページにもBRICsに関する情報が多く載せられているが、もっぱら投資環境情報で、マクロ経済についてのまとまったレポートは英語のレポートを読むしかない様だ。

投資運用ではモーガンスタンレーのMSCIコクサイインデックスファンドが世界的な指標となっているが、モーガンスタンレーのホームページでも市場環境のレポートが公表されている。

今回紹介するゴールドマン・サックスの2007年12月の"BRICs and beyond"レポートは、各国にいるアナリストがそれぞれの国について2006年から2007年にかけて書いたものを編集して一冊の本としている。

その中にはこれもゴールドマン・サックスが2005年に作った言葉であるN−11("Next eleven")の韓国、フィリピン、ベトナム、インドネシア、バングラデシュ、パキスタン、イラン、エジプト、ナイジェリア、トルコ、メキシコというBRICsに次ぐグループの国々のレポートの改訂版も含まれている。

左が2003年10月の"Dreaming with BRICs"で紹介されていた有名な図だ。車のアイコンはいつの時点でBRICsの国が、G7の国を抜くかを示している。これが、2007年3月の"The N-11: More than an Acronym"で見直しされており、それが右の図だ。BRICs諸国の成長はさらに早まることが予測されている。

BRICs original estimateBRICs revised estimate

今回の改訂で、BRICs合計のGDPがG7を上回るのは当初予測の2040年より早まり、2032年と改訂され、中国が米国のGDPを上回るのも当初予測の2035年から2027年と改訂されている。

中国が日本のGDPを上回るのも、当初の2016年から、2010年に改訂されている。

次がこのレポートの140ページに掲載されている2007年に改訂された2025年の世界のGDP上位国と2050年のGDP上位国の予測だ。

この図でわかるとおり、2050年には日本はG7の中でこそ米国に次ぐ2番目だが、全世界ベースでは中国はもとより、インド、ブラジル、メキシコ、ロシア、果てはインドネシアにまで追い抜かれ世界8位になると予測されている。

World in 2050












2050年の世界のランキングとGDP予測は次の通りとなる。(括弧内は2006年のGDPと2050/2006比率)

1位 中国     70.1兆ドル (2.7兆ドル、26倍)
2位 米国     38.5兆ドル (13.2兆ドル、2.9倍)
3位 インド    38.2兆ドル (0.9兆ドル、42倍)
4位 ブラジル   11.4兆ドル (1.1兆ドル、10倍)
5位 メキシコ    9.3兆ドル (0.8兆ドル、11.6倍)
6位 ロシア     8.6兆ドル (1.0兆ドル、8.6倍)
7位 インドネシア  7兆ドル   (0.4兆ドル、17.5倍)
8位 日本      6.7兆ドル (4.3兆ドル、1.6倍)
9位 英国      5.2兆ドル (2.3兆ドル、2.3倍)
10位 ドイツ    5兆ドル   (2.9兆ドル、1.7倍)
11位 ナイジェリア 4.6兆ドル (0.1兆ドル、46倍)


成長の要因

その国の経済成長を支える要因としては、この本では次を挙げている。

1.マクロな安定度
2.法の統治等の仕組みとしての安全度
3.経済の開放度
4.教育

ここでも「フラット化する世界」と同様、教育の重要性が大きく考慮されている。

これらを数値化したのが、ゴールドマン・サックスで2005年に導入されたGES(Growth Environment Scores)で、これによって国の成長環境を判定している。このGESの判定要素は次の13の指標で、それぞれ0から10の評点となっている。

1.インフレーション
2.政府の財政赤字(対GDP比率)
3.対外債務(対GDP比率)
4.投資率(対GDP比率)
5.経済の開放度
6.電話普及率
7.パソコン普及率
8.インターネット普及率
9.中等教育の年限
10.平均寿命
11.政治の安定度
12.法の支配
13.汚職


次が2006年のGESによる各国の成長環境の評価だ。1位から4位はスウェーデン、スイス、ルクセンブルグ、シンガポールである。

GES 2006









このレポートの意味するもの

この270ページにもわたるレポートを読んでいていくつかキーワードがあると感じた。

それは、次の通りだ。

1.各国の高度成長を維持するためには人口増加が必須となること
2.成長を維持するために教育水準の向上が欠かせないこと
3.政治の安定が必須条件であること
4.通貨の上昇が見込まれていること


通貨の上昇が成長の要因

ゴールドマンのレポートでは、国の成長率を維持する理由の2/3はその国の生産性向上率、1/3は通貨の上昇だ。実際、30年間でBRICs通貨は対ドルで300%上昇すると予測されている。

将来の予測にはドル相場がどうなるのかも大きな要因だ。

中国、湾岸諸国がドルペッグを維持するかどうかが鍵である。

日本もそうだが、これらの国は外貨準備の大半がドルなので、ドルが他の通貨に対して下落を続けても容易にはドルから切り替えることはできず、手詰まりの状態となる。

この安全弁が崩壊すると、それこそドルの大暴落につながる可能性があるのだ。


マクロでの比較

この本ではBRICs及びN−11についてそれぞれの国のアナリストが、それぞれの国の強み、弱みを整理しており、いわば鳥瞰図的に理解できる。

マクロ経済レポートでもあり、個別企業についての説明はほとんど皆無なので、個別の企業の活動については他の本を読む必要がある。その意味で、この本と「フラット化する世界」は良いコンビネーションだと思う。

"BRICs and beyond"の国別のレポートでも言われているが、各国のアナリストたちはゴールドマン・サックスの本社アナリストたちよりも自国の成長について強気であり、特に中国とインドについては、今回の見直しよりもさらに成長が早まると見ているそうだ。


ずば抜けている中国の底力

BRICs4ヶ国、そしてN−11の国につきいわば同じ土俵で評価しているが、やはり中国の底力がずば抜けているという印象を強くする。

将来の成長を阻む要因となっている一人っ子政策や人々の移動を阻む戸籍制度の「戸口」制度は、いずれ見直される可能性が高い。

9年制の義務教育と一人っ子政策の結果、国民の教育熱は高く、より高度な教育を受ける比率が高まり、大学進学率は10年前の5%弱から、現在は20%に上昇しており、2020年には40%に上昇することが見込まれる。

高等教育を受けた親を持つ子供は、大学に行くのが当然と考えるので、そうなると教育水準は上がり、さらに「戸口」の改革により若年労働力が都市部に入ってくると労働プールにも3千万人単位での若年労働力が生まれる。

加えて世銀の勧告等で一人っ子政策が緩和されると、人口ピラミッドも是正され、将来の成長力にもつながる。

日本の大学入試センター試験の志願者数は過去のピークで60万人、現在は約54万人となっているが、中国の同等の試験である「高考」の志願者は1,000万人を超えている。

中国の大学生に占める工学部系の比率は60%。仮に1学年で1,000万人とすると、600万人のエンジニアが毎年卒業する。それに対して日本の工学部志望者は年間27万人、実に1/25である。これでは全く勝負にならない。


成長率の加速が見込まれるインド

インドは古くは1500年頃までは世界のGDPの約3割を占める世界最大の経済国だった。1500年頃に中国が世界最大の経済国となったが、中国も1800年前後に産業革命の起こったヨーロッパに抜かれる。

world 1to2000



ゴールドマン・サックスのレポートは、中国とインドが2050年頃には世界1・2位になると予測しているが、18世紀以前の世界ランキングに戻ることになるわけだ。

インドは黄金の四辺形ハイウェイが完成し、インフラは今後も改善され、成長率も加8%から2010年までには10%超まで加速し、それから10%近い成長が継続することが見込まれる。

農業から工業やサービス業への労働人口のシフトが起こるので、成長率が底上げされることになる。インドには世界で最も成長の早い30都市のうち10都市がある。都市人口が増えると建設や電力などの需要が急速に増加する。

ゴールドマン・サックスのレポートにはないが、インド南部はモンスーンという自然の脅威があり、モンスーン期間中は船での輸送はできないので、インドは交通のハブにはなりえない。

平均教育年限が5.1年という国民の教育レベル、会社を閉鎖するのに10年掛かると言われている非効率な政府手続き、カースト制、女性労働力の未活用という問題がある。

100人以上の会社では事実上解雇ができないという話もある。

これも書かれていないが、宗教上牛あるいは豚は食料にできないし、食料生産に適していない気候や風土ゆえ、人口が増えると飢餓人口も増えるおそれがある。

教育も私立大学は厳しく規制されており、高学歴者を多く生み出す体制とはなっていない。

このようにインドには人的資源という意味では大きな問題があると筆者は感じるが、このゴールドマン・サックスのレポートでは、これらのネガティブな面はサラッと触れられているだけである。


ロシアの問題は法の支配

ロシアは最近税法、労働法、土地所有法を相次ぎ制定しているが、基本的に法の支配がない。

シェル、三井物産、三菱商事が参加していたサハリンIIの過半数の株式をロシア政府の圧力でガスプロムがいわば強奪したことが良い例だ。

報道メディアも支配下に置いたプーチン院政の間は安定することが見込まれ、2012年にはプーチンが大統領として復帰する可能性も取りざたされている。

政治的には安定しようが、外資にとっては法の支配がないと、安心して投資はできない。

プーチン時代は平均年率6.8%成長し、インフレも9%程度に落ち着いた。

しかし単にエネルギー価格が上がって外貨準備が増え、石油代金変動勘定が増えるだけという状態なので、投資なき成長という状態だ。

また現在の人口の142百万人が2050年には109百万人に減少すると見込まれ、GDP成長率も今後低下することが見込まれることはネガティブ要因である。


成長が加速するブラジル

ブラジルは昨年から鉄鉱石や大豆などの一次産品の価格上昇とエネルギーの自給を達成したことにより、成長率は年率5%程度にアップしている。

一応の産業インフラはできあがっているだけに、他のBRICs諸国ほどは高い成長性が見込めないが、それでも従来の成長率2−3%よりは高い。

今後はリアル高、高金利の中で民間部門の投資が増加できるかどうかが鍵である。

筆者は1978年から1980年までアルゼンチンに駐在していたことから、ブラジルとは30年のつきあいだが、国としての先見性という点で昔からすごい国だと思っていた。

何もない高原に首都ブラジリアを建設したり、30年以上前からエタノール混合燃料車を走らせていたり、セラードと呼ばれる農業用地の大規模開発による大豆の増産、鉄鉱石や一次産品の生産拡大などその計画性、先見性は旧共産国をはるかに上回るものがある。

政治的には安定しているが、インフレ率を低く抑えられているのは、通貨の切り上げによる効果が大きく、逆に工業製品は高金利と通貨高により競争力を失っている。

ブラジルはインフレこそ5%前後に収まったが、依然として企業向け貸し出し金利は約30%も高く、いわゆるリアルキャリートレードで、外国からの短期投資資金が流入し、リアル高を支えている。

ブラジルについては、鈴木孝憲さんの本のあらすじを近々紹介するので、これを参照して欲しい。


世界のエネルギー事情

IEAの統計のページに各国の種類別のエネルギー供給がパイチャートになっているので、比較してみると面白い。

左が全世界の種類別のエネルギー供給、右がアメリカのエネルギー供給だ。ほぼ似通っている。

energy balance worldenergy balance USA

次の左が日本で、同じような傾向だ。それに比べて右のブラジルは全く異なる。

energy balance Japanenergy balance Brazil

再生可能エネルギーの比率が高いことがわかる。深海油田開発技術を生かして、石油も今や自給できるので、自国で生産できる石油と水力、エタノール、木炭などの再生可能エネルギーが主体である。

左のロシアは天然ガスの世界最大の生産国なので、天然ガスの比率が高い。同じ南米でも右のアルゼンチンはブラジルと異なりロシアに近い。天然ガス産出国だからだろう。

energy balance Russiaenergy balance Argentina

中国は世界最大の石炭生産国なので、石炭の比率が圧倒的に高い。石炭はCO2排出量も多く、中国の環境問題は地球環境に悪影響を及ぼす可能性もある。中国に比較的似ているのがインドのエネルギー事情だ。インドも世界第3位の石炭生産国なので、石炭の比率が高い。

energy balance Chinaenergy balance India

インドはバイオマス発電大国で、全土に2,000近く小規模のバイオマス発電所があるという。キャッサバ、サトウキビかすが主な燃料だ。インドでは牛糞も古くから燃料として使われてきたので、牛糞も燃料となっているのだろう。鶏や動物の糞は今や最先端のバイオマス燃料だ。


中国の問題

中国の問題は、政治的安定がいつまで続くかという点と、環境問題だ。上記のように中国のエネルギー源は石炭で、石炭はCO2排出量も、また排煙をちゃんと処理しないと酸性雨の原因となる亜硫酸ガスなどの排出も多い。

なんといっても中国と日本は同じ経済圏にあるので、中国の環境問題は日本の重大関心事であり、人類生存の問題でもある。

その意味で、小宮山東大総長が「課題先進国日本」と呼ぶ様に、日本の環境技術が中国、ひいては世界の環境を保全し、そして日本も栄えるというそんな未来図を考えさせられた。


英文を270ページも読むのはかなり大変なので、まずは20ページのBRICsレポートを読むことをおすすめする。

昨年中国がドイツを抜いて世界第3位の経済大国になったが、これはまさに2003年のBRICsレポートが予測していたのとぴったり一致している。

BRICs original estimate






好むと好まざるとにかかわらず、これからもこのレポートで予測されたシナリオに近い形で現実となっていくだろう。その意味では必読のレポートだと思う。


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Posted by yaori at 18:45│Comments(0)TrackBack(0) ビジネス | Financial Intelligence

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