2008年08月13日

ブラジル 巨大経済の真実 環境保護と高成長が両立するブラジル

ブラジル巨大経済の真実


ブラジル東銀の元頭取で東京外語のポルトガル語学科出身、ブラジルバイーア大学にも留学経験のあるブラジルの専門家、鈴木孝憲さんのブラジルの現状レポート。

鈴木さんは現在も在ブラジルでコンサルタントとして活躍しており、1995年にはブラジル政府より南十字勲章を叙勲している。


BRICsの中でも今最も面白い

BRICs諸国の中では成長率が低かったブラジルの成長率が、昨年から5%超に上昇してきた。

ゴールドマン・サックスのBRICs研究の責任者のジム・オニールも、今最も面白いのはブラジルであると語っている

BRICsを含め、新興国の株式市場が大幅に下落する中で、ブラジルの株式市場が上昇を続けていたので、注目を集めていることも一因だ。今は2008年5月20日に過去最高を記録した後に下落しているが、それでも他のBRICs諸国よりは下落幅は少ない。

新興市場も含め、世界の株式市場の動向はブルームバーグのサイトでチェックできるので、興味のある人は参照して欲しい。

この本では、ブラジルとのビジネス経験が40年を超える鈴木さんが、ブラジルの成長は単に一次産品価格高騰によるウィンドフォールプロフィットではなく、長期計画に基づいて実施された過去の様々な施策が現在のブラジルの成長を支えていることを明らかにしている。


この本の構成

この本の構成は次のようになっている。

序 章 真の大国に向けて歩き始めたブラジル
第1章 巨大なポテンシャリティ
第2章 いまなぜブラジルか
第3章 大転換に直面する産業界
第4章 あふれるビジネス・チャンス
第5章 著しく改善したカントリー・リスク
第6章 ブラジル経済の問題点
第7章 始まった好循環、しかし、構造改革は?
第8章 安定度高いブラジルの政治
終 章 今後の展望

筆者は1978年から80年までアルゼンチンに駐在していたので、ブラジルとは30年以上のつきあいだ。その後米国に2回にわけて合計9年間駐在したが、ブラジルからいろいろなものを米国に輸入していたので、米国駐在中は毎年のようにブラジルを訪問していた。

最後にブラジルを訪問したのは2000年だが、ここ数年のブラジルの変わりようには驚く。

ブラジルのサンパウロと言っても、あまりイメージわかないだろうが、実はマンハッタンも上回る20階建てのビルが5,000棟以上という、世界最大の摩天楼都市である。

Sao Paulo






筆者が住んでいたアルゼンチンのブエノスアイレスでもそうだったが、地震がない南米の大都市は、簡単な鉄筋コンクリート構造でどんどん高いビルを建てている。万が一地震があったら大被害を受けるのではないかと思うが、地盤が固いので問題ないようだ。地震のあるチリはこうはいかないだろう。


過去があるから現在のブラジルがある

ブラジルは1970年代に驚異の高成長時代を遂げた後は、インフレと通貨不安定による経済不振に低成長を続けてきたが、ここへきて資源高、穀物高、環境に優しい再生可能なエネルギーソース、そしてなによりも地球の30%の酸素を供給する国として、いっそう注目を集めている。工業化も進んでおり、自動車生産、鉄鋼生産、発電量等の指標でも世界の10位内には入っている工業国である。

資源も豊かである、鉄鉱石やアルミなどの金属資源に加え、石油もついに自給を達成し、水力・エタノール・木炭などの再生可能エネルギー45%、化石燃料55%という世界でも最も再生可能エネルギー比率の高い国である。ちなみに日本の再生可能エネルギー比率は3.2%、米国は4.7%でブラジルが桁違いに高いことがわかる。

(正確に言うと人口30万人のアイスランドが地熱56%、水力17%の合計73%で世界1だが、大国ではブラジルが圧倒的に再生可能エネルギーの比率が高い)

energy balance Brazilenergy balance Iceland

鈴木さんはブラジルを世界一恵まれた国と評しているが、単に天然資源や肥沃な土地に恵まれていたから現在のブラジルがあるのではない。長期的な国家戦略に基づく計画が実行されて現在のブラジルになっているのだ。


金属資源

鉄鉱石やアルミなどの金属資源の鉱山は約30年前に開発が始まったものが中心で、壮大な計画を元に、鉱山や精錬所のみならず、鉄道や港湾建設に巨額の投資を行い、世界最大規模の鉱山を計画的に建設したものである。


農業生産

食料生産についても、大豆は市況が乱高下するコーヒーの代用作物として生産が始まった。1975年からの日伯経済協力によるセラード(閉ざされた土地=未開の土地という意味)開発により、ブラジルは20年間でほぼゼロから米国に次ぐ世界第2位の大豆生産国となり、とうとう輸出量では米国を上回り、主に中国に輸出している。

地球の酸素の1/3をまかなっているというアマゾンの森林は農地に転換できないが、これは国土の23%である。

ブラジルのアグロ・インダストリーはさらなるポテンシャルがある。国土面積ではブラジルは日本の23倍、米国は25倍、中国は26倍だが、ブラジルには砂漠、山岳地帯、寒冷地帯がなく、農業生産に適している。米国・中国は農地をこれ以上増やせないが、ブラジルではまだ余地がある。

東北部を貫くサンフランシスコ河の灌漑が政府により進められてきており、これにより今やブラジルは高級フルーツやワイン用のぶどうも生産できるようになった。ぶどうは年3回収穫でき、ブラジルのマンゴーは日本向けに初輸出されたという。

それでも、いまだに灌漑比率は5%に留まっているので、逆に増産ポテンシャルがある。

重要なのは、米国や日本など先進国が農産物に膨大な補助金を与えているのに対して、ブラジルは補助金ゼロで世界最大の輸出国となっている点だ。OECDの発表する統計に各国の農業補助金の現状がレポートされている。

ブラジルもエタノール生産を維持するために、さとうきび生産に補助金を出していた時期もあるので、先進国ばかり責められないと思うが、最近のWTOの農産物についての交渉が決裂したのも、先進国の農業補助金に対してブラジル、インドなどが強硬に反対したことが理由だ。

ブラジルは砂糖、コーヒー、たばこ、オレンジジュース、牛肉、バイオエタノール、大豆で世界1の輸出国で、鶏肉では世界2位、綿花、豚肉、トウモロコシでは世界4位の輸出国だ。

ブラジルは農産物の増産余地はまだ大きく、しかもコスト競争力があるので、これから増大する世界の人口をまかなう台所としてさらに重要性は増すだろう。


エネルギー自給

石油についても30年にもわたるエタノールによる石油代替と、何十年も掛かって開発した自前の水深5,000メートルでも開発のできる深海海底掘削技術により、悲願の自給率100%を達成した。

1973年の第一次石油ショックで大打撃を受けたブラジルは1975年からサトウキビを原料とするバイオエタノールの生産(プロ・アルコール計画)をスタートさせ、アルコール車の実用では30年以上の実績がある世界一の先進国となった。

エタノールは再生可能エネルギーでカーボンニュートラルなので、地球温暖化防止の観点から米国もトウモロコシからのバイオエタノールの生産を急増させているが、米国のトウモロコシ生産には多額の農業補助金が支給されている。

ブラジルの方がコストが安く、トウモロコシの様に燃料を生産すると飼料向け生産が減るという相反関係もないので、増産が可能である。現在350工場あるが、さらに100工場の新設計画がある。

豊富な河川の水量を利用した水力発電や、7年で成木として再生できるユーカリを使っての木炭も重要な再生可能エネルギー源である。


第3次ブラジル進出ブーム

鈴木さんは1995年頃から第3次ブラジル進出ブームが起きているという。

第1次は1950年代で、フォルクスワーゲンや日本企業ではウジミナス製鉄所、イシブラス造船所(既に撤退)などだ。次に1980年代の中南米の高度成長期に日本からの進出企業は500社を超え、「草木もなびくブラジル投資時代」があった。カラジャス鉄鉱山、アマゾン・アルミ、ツバロン製鉄所、セニブラ紙パルプなどが日本企業が参加した代表例だ。

第3次ブームの特徴は、本国での経済成長が見込めないので、外資系企業がブラジルに生き残りをかけて進出するパターンが目立つことだ。スペインのテレフォニカや、香港の中国返還で本店を香港からロンドンに移したHSBC(香港上海銀行)がその例だ。

多くの企業がブラジル市場を大きな収益の柱にしようと考えて、積極的にブラジル投資を拡大している。ブラジルの魅力は市場が大きいこと、コストが安いこと、労働力の質が良いこと、欧米市場に近いこと、政治的に安定しており、法の統治が見込めることだ。

今やブラジルの500大企業のうち、約200社が外資系である。この本では各国の進出企業名、売上高と主な活動内容がわかり、参考になる。

ブラジルの道路の民営化は国際入札の上、スペイン企業が受注している。これからもブラジルのインフラ改善で、外資系企業の活動が拡大するだろう。


日本企業のブラジル進出

日本企業も第3次ブームとして投資を拡大している。トヨタ、ホンダは10万台を目標に4輪車を生産している。

日本企業としてブラジル投資に最も熱心なのは三井物産で、三井物産の槍田(うつだ)松瑩社長は2008年の財界人の新年会後のマスコミインタビューで、「今年のキーワードはブラジル」と答えているほどだという。

2000年までの三井物産の歴代の社長は鉄鋼原料出身者が多く、ブラジルをよく知っていた。

槍田さんの前任で、北方領土向けディーゼル発電入札不正での責任を取って2002年に辞任した清水さんは鉄鋼原料の出身ではないが、東京外語のポルトガル語学科出身である。

三井物産のブラジル関連事業としては、次の通りだ:
仝機校っていたブラジルの鉄鉱山の株との交換で世界的資源会社Valeの株式を15%取得
鉄道車両のリース
ガス配給会社買収
ぅ撻肇蹈屮薀校渦爾寮侈精製所の近代化プロジェクトに参加
ゥ丱ぅエタノールパイプライン建設でペトロブラスと合意
Ε撻肇蹈屮薀垢肇丱ぅエタノールの40工場建設検討
日本向けの穀物安定供給をめざしてブラジルの大農場の株式取得
┘魁璽辧次肥料も別会社をつくって進出。

その他の企業進出としては、味の素のレジン工場建設、新日鐵、住友金属/住友商事などの製鉄所建設がある。


安定している政治情勢

1993年には2,500%に達したインフレも現在は3−5%にコントロールされている。

中国による一次産品の大量買い付け、いわゆる「中国ファクター」により貿易黒字は拡大し、為替相場も安定している。

他のBRICs諸国と比べても、民族・宗教の問題がないこと、政治的にも安定していること、法制度の整備が進んでいること、銀行の不良債権問題はほぼ解決されていることから、カントリーリスクは著しく改善している。

ブラジルは工業化の進んだ中進国であり、インフラはある程度整っている、ブラジルの問題点としては税金が高いこと、財政赤字が続いていることだ。

ルーラ大統領は、大学を出ていない唯一のブラジル大統領として今までとは異なった貧困層重視の政策を打ち出している。

たとえば貧困層1,100万世帯が毎月60ドル程度の生活補助を受けられるようにしたり、最低賃金を月240ドル程度に引き上げたりして、貧困層重視の政策を打ち出しているので人気が高い。

大きな政府を目指すルーラ政権の元で、公務員は増加し、最低賃金引き上げ、貧困者補助で支出は増加している。これがため、中央銀行の基準金利こそ12%程度だが、銀行の企業向け貸出金利は30〜40%と高い。それゆえヘッジファンドのリアルキャリートレードが急増し、リアル高を招き、工業製品の競争力は低下している。


ブラジルを親日国とする日系人の活躍

今年はブラジル移民100周年の年で、様々な記念イベントが予定されているが、日本とブラジルとは経済面でも関係が深く、前述のアマゾン・アルミ、ツバロン製鉄所、セニブラ紙パルプ、カラジャス鉄鉱山、セラード開発などが代表例である。

たとえばブラジルは日本以外で世界で唯一日本のハイビジョン方式を採用した国である。

日系人も知事や国会議員、政府高官など社会的に成功した人が多い。

鈴木さんは日系人の活躍による日本とブラジルの良い関係があるので、日本企業ももっとブラジルに目を向けるべきであり、現地事情に詳しい人材をもっと増やすべきであると結んでいる。


先見性は世界でも一番

筆者はブラジルとは30年のつきあいだが、国としての先見性という意味では、昔からすごい国だと思っていた。

何もない高原に今や人口200万人の首都ブラジリアを建設したり、石油を代替するために30年以上前からエタノール混合燃料車を走らせていたり、その計画性、先見性は旧共産国をはるかに上回るものがある。

筆者はアルゼンチン駐在経験者なので、サッカーではアルゼンチンを応援するが、人口はブラジルの約2億人に対して、アルゼンチンは昔よりはだいぶ増えたがそれでも4千万人と桁違いだ。

次のエネルギー供給グラフを見ると、昔から石油や天然ガス資源に恵まれ、そして穀物と肉の輸出で常に安定的に外貨が稼げるので、たいして努力しなかったアルゼンチンと、石油を持たざる国として石油ショックでひどい眼にあい、脱石油を国策として取り組んできたブラジルとでは、大きな差があることがわかる。

energy balance Brazilenergy balance Argentina


アルゼンチンの伝統的輸出品である牛肉についても、昔はブラジル産の牛肉は固いので人気がなく、アルゼンチンから輸入していたが、今やアルゼンチンは牛肉の輸出を一時的に制限しており、ブラジルが世界一の輸出国となった。なんという変化だろう。

ブラジルほど自国の天然資源を生かして国の大きな枠組みをうまく作っている国は少ないのではないかと思う。

人口も土地の広さで世界第5位、人口は1億8千万人で世界第5位、人種問題・民族問題のない明るい国民性、親日度からも日本にとって今後とも重要になってくる国であることは間違いがない。

地球環境を保全しながらも、高度成長が可能な先見性に富んだ国、それがブラジルである。やはり南米の雄は唯一ブラジルであると思う。

ブラジルの現状がよくわかるおすすめの本である。


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Posted by yaori at 12:57│Comments(0) ビジネス | 政治・外交