2008年09月02日

「現場」学者中国を行く 一橋大学 関満博教授の中国定点観測

「現場」学者 中国を行く「現場」学者 中国を行く
著者:関 満博
販売元:日本経済新聞社
発売日:2003-04
おすすめ度:4.0
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関満博 一橋大学教授の20年にわたる中国定点観測レポート。

先日関教授の講演を聞く機会があり、非常に参考になったので読んでみた。

筆者が中国に始めて行ったのは1983年で、それ以来中国訪問は7回程度、最近では2002年だ。

中国に行ったのは1983年が最初だが、中国とのビジネスは1976年から手がけていた。

中国の会社(五金公司)とは電報で連絡を取っていたと言うと、いまどき戦前の話かと思われるかもしれないが、当時は中国地方企業との唯一の通信手段は電報だった。

関教授が中国に初めて行ったのは1987年で、それ以来70回以上訪中し、1,000社以上の企業を訪問したという。

同じような時期に中国訪問を始めたので、昔の中国の印象も大体同じで、納得できる点が多い。関教授は、なにせ70回以上も訪中し、1,000社以上の企業を訪問しているので、現場の動きをよくつかんでいる。

関教授は他にも600ページ弱の「メイドインチャイナ」など、中国進出関係の大作を何冊も出しているので、こちらも現在図書館で借りて読んでいるところだ。

メイド・イン・チャイナ―中堅・中小企業の中国進出メイド・イン・チャイナ―中堅・中小企業の中国進出
著者:経営労働協会
販売元:新評論
発売日:2007-12
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この本のタイトルにあるように、「現場」学者という面では、右に出る人はいないのではないかと思う。


この本の構成

アマゾンのなか見検索には対応していないので、ちょっと長くなるが目次を紹介しておく。

プロローグ 中国は「世界」そのもの

第1章 中国経済の見えないルール
 1. 「自転車理論」、「ライター理論」、「エレベーター理論」で理解する
 2. 見えないルール ー 過剰人口と戸籍制度
 3. 「単位」に縛られる人生

第2章 中央無視の「広東型委託加工」
 1. あなたは東莞に行ったことがありますか?
 2. リスクを排除した最強のビジネスモデル
 3. 低賃金を支える無尽蔵の出稼ぎ労働者
 4. 日中の架け橋 ー 深圳テクノセンター

第3章 未曾有の世界都市に向かう上海経済圏
 1. 上海消費市場の向かうところ
 2. 閔行、漕河瓠虹橋の実験から、浦東新区開発へ
 3. 台湾企業が集結する上海の郊外都市

第4章 日韓企業が主役の北東アジア経済圏
 1. 日本企業が集積する大連
 2. 地場企業と韓国企業が目立つ青島
 3. 日韓企業が伯仲する天津
 4. 北東アジアの交差点 ー 瀋陽、丹東

第5章 知られざる中国内陸産業の実態
 1. 「三線建設」が内陸を工業化した
 2. 内陸で戸惑う日本企業
 3. ハイテク部門と私営企業の意外な発展

第6章 日本企業は何に直面しているか
 1. 日系家電・バイク企業の撤退
 2. 日本企業が一番コストが高いのはなぜか
 3. 現地化著しい韓国企業
 4. 中国に定着する日本人

第7章 中国企業はどこに向かうのか
 1. 中国における「企業」とは何か
 2. 変わらない国営企業の実態
 3. 「郷鎮企業」とは何か
 4. 民営化され、消滅する郷鎮企業
 5. 中国企業の将来を読む

第8章 中国ハイテク産業化の担い手
 1. 北京シリコンバレーの実験
 2. 東北大学の輝き ー 瀋陽
 3. 日本と中国の新たな芽

エピローグ グローバルとローカルに新たな可能性を

それぞれのサブタイトルに、さらに細かい見出しが掲載されており、目次を読んだだけで内容が推測できる優れた目次である。

2003年4月発刊で5年前の本だが、内容は全然陳腐化していない。中国の経済発展の本質と地域別の特徴を鋭く分析している大変参考になる本である。

関教授も大前研一さんが「チャイナインパクト」で指摘した、「メガリージョン」として中国をいくつかの地域に分けて理解するという議論に賛同し、さらに「先進国的な部分」と「後進国的な部分」が混在しているという見方を加えている。


中抜きされた中国の世代構成

中国は1966年から10年間の文化大革命で、前後をふくめた15年間は十分な教育がなされなかった。だから現在45歳から60歳の世代は中抜きされ、支配階級の60歳以上から、一挙に次の世代は45歳以下に若返っているのである。(この本は5年前の本なので、本文で記載されている年齢に5歳足した)

たしかに筆者も中国の人とつきあって、急に若返りが進み、ダイナミックに資本主義的に行動する人が増えたと感じている。

その理由を、関教授は45歳以下の人たちは「物心ついたときから市場経済」世代で、工場で働く20−25歳以下の人たちは「生まれたときから市場経済」世代だからであると説明する。

日本人には中国に対する微妙な感情があり、中国が成功しては困るという感情があるが、このような「縮み志向」は日本の可能性をつみ取ってしまう。「中国の成功は、わが国の成功、ひいては東アジアの安定につながる」という大きな視野を持って、新たな歴史をつくることに積極的に協力し、共通の基盤を形成しながら、そのエネルギーをもらうべきだと関教授は語る。


中国経済を理解するための7つの視点

中国経済を理解するための次のような7つの視点が紹介されている。

1.独特な社会主義 ー 基本は変わっていない
2.組織構造の基本 ー フルセット主義
3.過剰人口が背景 ー 戸籍、単位、档案(とうあん、個人の公的履歴書)
4.共産党の存在  ー そのメリットの範囲の改革
5.地域による特殊性ー 経験が他地域で通用しない
6.中国の人々    ー 45歳を境に価値観が違う(これも原文に+5歳した)
7.日本人の心    ー ねじれた思いをどう乗り超えるか

ちなみに次が中国の行政地図である。

China Map






出典: Wikipedia


中国を理解するための三つの理論

初めに関教授は日本人が理解しにくい中国の仕組みを次の3つの理論を挙げて説明している。

1.「自転車理論」
  中国の自転車は乗るとすぐにどこかが壊れる。そのせいかそこら中に自転車修理屋がある。直してもまた壊れ、1年くらい修理を重ねるとやっと「完成車」になる。中国の製品はだいたいこうしたものであると。法律や制度にもこの「自転車理論」が当てはまるのだと。

2.「ライター理論」
  中国で売れるのは、格安の100円ライターと外国製の数万円のライターで、中途半端なものは売れない。日本企業の合弁会社の製品はこうした中途半端なものが多く、家電にしてもオートバイにしても結局中国国産の品質が向上してくるとシェアを失うのである。

3.「エレベーター理論」
  中国に日本のビデオメーカーが鳴り物入りで進出したが、結果はさっぱりだった。中国ではVCD(Video-CD)が普及し、さらにDVDに向かっている。FAXも同様でさっぱり普及せず、eメールに変わった。日本では一歩一歩階段を登るような形で進歩していくが、中国はエレベーターに乗っているように、いくつかの段階をパスして日本を追いかけてくるのだ。


中国特有の三つの制度

中国の実情を理解するために重要なのは、次の3つの制度だ。

1.一人っ子政策 
  1970年代末から厳しく実行され、現在20代の若者ならば兄弟はいない。一人っ子政策は、大学進学率向上には役立っているが、このままいくと30年後は超高齢社会となってしまう。

2.戸籍制度
  中国には戸口(戸籍)制度があるため、人々は自由に移動できない。農村戸口の人が都市戸口に移る最大のチャンスは大学に合格することだ。広東省などは、暫定戸口を発給することで、内陸の安くて豊富な労働力を大量に導入している。

3.「単位」に縛られる人生
  人民公社や国営企業のある町は、昔はすべて人民公社や工場で完結した社会をつくっていた。国家の年金はなく、国営企業が年金を負担し、教育、医療費、住宅提供などの福利厚生のすべてを負担していたのである。中国の国民のすべてが都市では国営企業、農村部では人民公社の「単位」に属することになっていたが、人民公社がすたれたため、農民には年金も福祉もなくなっている。

その「単位」での履歴書が档案(とうあん)だ。档案は本人は見ることができず、「単位」が保管している。


あなたは東莞に行ったことがありますか?

関教授は講演会の初めに、「あなたは東莞に行ったことがありますか?」と聞くという。筆者が参加した講演会でもそうだった。全体的な傾向として大体1割前後なので、「今どき東莞を見ないでよくやれていますね」と脅すと、講演がスムーズに進むという。

珠江デルタ







香港から深圳、そして広州に至る途中の東莞市はOA機器、電子電器パーツや自動車部品の製造業の中心として、大変な発展を遂げており、戸籍人口150万人の東莞市に500万人以上の出稼ぎ労働者がいるという。

出稼ぎ労働者の大半は農村出身の若い女性で、一部屋に2段ベッド6−8台が置かれた寮で集団生活をして、お金を貯めて数年で出身地に帰るのだ。

東莞には台湾企業が4,000社以上進出し、日本企業も多く進出している。


広東型委託加工

広東省では、「広東型委託加工」という仕組みがあり、土地、建物、従業員は中国側が提供し、外資は生産設備を導入する。工場の管理も外資が行うが、中国には直接投資していないので、中国では法人税は発生しないというしくみだ。

中国の中央政府はこの形の委託加工を認めないとの指令を出したが、広東省は中央の意向を無視して続けている。

製品は本来輸出100%だが、広東省型の場合中国国内ユーザー向け販売も「転廠」ということで認められている。

筆者も25年前に中国で委託加工(中国側は「合作」と呼んでいた)をやった経験がある。フィリピンの原料を中国の中国浙江省に持ち込み、電気炉で製品に加工して、日本に持ち込む方式だ。

当時外人には非開放地域にあった浙江省の横山工場では、筆者の訪問の歓迎宴に備えるために数日前にスッポンを捕まえて飼っていてくれた。素朴なホスピタリティに感激するのと、アルコール度50%を超す強烈な汾酒(山東省産の白酒ということだった)の乾杯攻撃には、本当にまいった思い出がある。

この本では「深圳テクノセンター」という日系企業向けのインキュベーション工業団地のことが紹介されている。筆者の先輩がそこで働いていたので、筆者も2002年に訪問したことがある。


地域別の特色

詳しく紹介しているときりがないが、上記の目次のように上海、大連、青島、天津、などについてそれぞれの地域の特色が簡潔に述べられていて参考になる。大前さんが「チャイナインパクト」で「メガリージョン」と呼んでいる通りだ。

中国の内陸部についての「三線建設」というのは、1964年に毛沢東が打ち出した防衛線のことで、これに基づいて軍需工場などを沿岸部から内陸部への移設した。防衛上沿岸部が第一線、四川、貴州、雲南を中心とする西南地域から甘粛省などの西北部を結ぶ線を第三線と呼び、その間の地域を第二線と呼ぶ。

四川省の重慶などの奥まったところに軍需工場が建設され、沿岸から1,000キロ程度離れているので、日本軍の爆撃機の航続距離では届かなかったという。

日本企業では四川大地震で有名になったヤマハの他、スズキ、いすずなどが進出している。

ちょうど8月30日に四川省で再度大地震が起こったが、筆者も震源地四川省攀枝花(ハンシカ)市の鉄鋼メーカーを訪問したことがある。四川省の山奥で、駅からかなり離れたところにある工場の町に高層マンションや流しのタクシーがあったので、驚いた記憶がある。

内陸にも重工業で栄えた都市があり、特に四川省は四川サイエンスパークと呼ばれる核開発の拠点があると言われている。

参考になるトピックが満載だ。

たとえばホンダは最大のコピーメーカーである海南島の新大州というメーカーに資本参加するという離れ業を演じている。コピーでも品質は良いということを認めた形だ。

「スタバではグランデを買え!」でも紹介されていた100円ショップの仕入れ元の集積地、浙江省の義烏市の常設見本市の「中国小商品城」や、中国のシリコンバレーの北京や東北大学のソフト開発も紹介されている。

非常に盛りだくさんで、参考になる事例と解説が満載である。中国と取引がある人には是非おすすめできる本だ。


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Posted by yaori at 00:11│Comments(0)TrackBack(0) ビジネス | 中国

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