2008年09月29日

Suicaが世界を変える Suicaの立役者JR椎橋さんの本

Suicaが世界を変える JR東日本が起こす生活革命Suicaが世界を変える JR東日本が起こす生活革命
著者:椎橋 章夫
販売元:東京新聞出版局
発売日:2008-05-16
おすすめ度:4.5
クチコミを見る


SuicaをJR東日本の多角化の一つの柱にまで育て上げたIT-Suica事業本部副本部長の椎橋さんの本。

筆者は経産省の企業ポイント研究会のメンバーだったこともあり、ポイント・電子マネーについてはいろいろな本を読んで研究しているが、以前から椎橋さんの名前はSuicaの立役者として有名だった。

この本を読むと元々ICカード乗車券による自動改札機向けに開発されていたSuicaが苦節10年を経て、現在のSuica2,500万枚、PASMO1,000万枚と大躍進したプロセスがよくわかる。

NHKのプロジェクトXでも第181回、「執念のICカード 16年目の逆転劇 (JR東日本「スイカ」)」という題で放送されている。

椎橋さんは子どもの頃からの鉄道マニアで、乗り鉄(乗りつぶし鉄道マニア)だという。機械工学科を卒業して、1976年に国鉄に入社、いきなり230人の部下を抱える車両メインテナンス基地の大船工場の職場長となった。

その後1987年に上野機械区に配属され、改札機も担当する。ちょうどこのころ次世代の出改札システムとしてICカードの検討が始まった。JR総研の三木さんがリーダーだった。

当時自動改札機の導入に際して磁気カード式とICカードの両方が検討されたが、結局ICカードは開発途上の技術とされ、既に関西の私鉄で実用化されていた磁気カード式が1990年に採用された。

磁気カード式改札機といっても、海外のものは切符挿入が一方向で、裏表逆は不可というものだが、日本の場合、切符がいかなる向きと表裏で入れられても読み込めるという代物だ。ちょっとやりすぎの様な気もするが、さすが日本の技術は細かい。

これはICカードを開発していたJR総研三木さんと、ソニーの日下部さんには痛手だったが、当時のソニー社長の大賀さんは「あきらめるな。挑戦しろ」と支援してくれたという。

その後1992年末に香港のオクトパスカードの国際入札案件が持ち込まれ、香港という小さな規模での実用化が決まる。

香港の地下鉄の路線は少なく、また料金も定期券がなく、ゾーン別の運賃で、日本よりはだいぶ技術的な要求は低かった

非接触ICカードではバッテリーをどうするかとか、電波の届く距離とか、電磁波の領域とか、券面の定期券印刷はどうするか等、様々な技術的問題をクリアーしていったが、どうしても解決できなかったのが、処理時間の短縮だ。

ICカードは改札端末、駅サーバーがあり、そこでローカル処理をして、一日に一回センターサーバーにデータをバッチで吸い上げる形だが、改札を抜ける時間がICカードを「かざす」形だとどうしても短縮できなかった。

磁気カードはベルトコンベアで改札機の中を回る時間が0.7秒あったが、ICカードを「かざす」ことだと0.2秒の人もいたという。

そこで発想を変えて、「かざす」でなく「タッチアンドゴー」の「ふれる」にして、読み取り面を13度傾けたデザインにしたところ、歩行速度も減速し、短い反応距離で処理時間も改善された。

これでスイカのタッチアンドゴーが生まれたのだ。

カード読み取り技術面と並んで、日本特有の非常に難しい問題が、複雑な運賃と、定期券の問題だ。経路によって違う運賃をどうするか、キセルを防ぐにはどうするか、定期券による乗り越し精算をどうするか等、様々な課題があったが、システムソフトウェアを開発することでこれらの問題も乗り越えた。

細かいところでは12月31日の終夜運転の運賃精算なども頭をひねる問題だ。

1997年にICカードプロジェクトが2人で設置され、1年後に6名の体制となり、その間JR東日本社内の役員フリーディスカッションで検討してもらうなどの地道な努力をした。

そして磁気カードシステムが更新時期を迎えた10年目に、ICカードに切り替えると130億円余計に費用がかかるが、それは磁気カード改札機の場合のメインテナンスコスト削減で元が取れるとして役員会に提案し、了承を得た。

磁気カード式改札機は切符の噛み込みトラブルが多く、メインテナンスコストもバカにならなかったのだ。

Suica導入のメリットして出されたのは次の5点だ。

1.サービスアップ
2.システムチェンジ(駅業務の合理化となる)
3.コストダウン(メインテナンスコスト削減)
4.セキュリティアップ
5.ニューサービスの可能性

椎橋さんは、役員会で三重の円を描いて説明したという。真ん中の円は鉄道事業、中間の円は駅ナカ・グループ事業、そして一番外の円が他業種との提携拡大だ。

広告代理店のコンペを行い、スイカというネーミングと、さかざきちはるさんのペンギンのマスコットキャラクターを採用した。

チャージ機能、定期券の券面リライト機能、自動精算機能、オートチャージ機能、クレジットカード機能、電子マネー機能、ポイント機能など、様々な特性が加わり、多機能なICカード乗車券としてSuicaが2001年11月18日にスタートした。

スイカは改札機の端末、駅サーバー、セントラルサーバーの3重構造であり、最悪センターサーバーが止まっても3日間は改札端末だけで稼働できる。またICカードには20件のデータが入る。スイカシステムは、こういった何重にもセーフティ対策の施された「自律分散システム」だった。

椎橋さんは、会社業務のかたわら社会人として東工大の大学院で研究し、「異種統合型情報サービスシステムにおける自律分散アシュアランス技術の研究」で博士号を取られている。すごいがんばりだ。

スイカを導入する際には、海外から国際調達協定違反だとクレイムがついたこともあったという。

関東の地下鉄・私鉄各社は2000年にパスネットを始めたばかりだったが、スイカの成功を目の当たりにしてPASMOへの切り替えを決めた。

こうしてスイカ2,500万枚+PASMO1,000万枚、合計3,500万枚の世界最大の交通ICカードシステムが誕生した。さらに旧国鉄各社ともスイカ技術で再度結ばれることになった。

スイカ導入により本業のJRの利用もアップした。

スイカ電子マネーは自動販売機、キオスクや、飲食店などで使えるようになり、2008年4月末で、全国でスイカ電子マネーが使える箇所は5万ヶ所、端末は9万台だという。

ケータイに載せたモバイルスイカも登場した。NTTにはかなり早い段階で申し入れたが、なかなか動かず、結局企画部長だった夏野さんの一声で決まったという。2008年4月でモバイルスイカ会員は100万人を突破したという。

筆者はポイントマニアなので、モバイルスイカサービスがスタートした2006年1月28日早朝にダウンロードして使い始めた。ケータイで改札を通り抜けると、みんなが「カッコイイ」と、うらやましそうに見ているのが印象的だった。

JR東日本のスイカ部はIT・Suica事業本部となった。スイカはこれからも限りない進化を目指すという。

最後に椎橋さんは、日本の鉄道が世界を変えたこととして、1.新幹線、2.民営化を挙げ、3番目にスイカが来る日を目指して挑戦を続けると記している。


技術的な説明もあって、スイカ導入と日本の乗車賃精算システムの複雑さがよくわかった。日本で実用化できれば、海外どこでも出て行けるはずだ。さらなる飛躍を期待したい。

スイカを広めた立役者が自ら書いており、NHKのプロジェクトXの様に苦労話をドラマティックにフォーカスしているわけではないが、楽しく読めて参考になる本だ。


参考になれば次クリック投票お願いします。





Posted by yaori at 13:03│Comments(1)TrackBack(0) ビジネス | 趣味・生活に役立つ情報

この記事へのトラックバックURL

この記事へのコメント
とにかく最近、カード類が増えてしかたなかったので、徐々に減らしていこうと、スイカをやめてPASMOにしたところです。。。
Posted by 小林 at 2008年09月29日 16:13