2008年10月13日

葡萄酒か、さもなくば銃弾を 手嶋龍一さんの人物評伝

2008年10月13日再掲:

10月12日米国が北朝鮮に対してのテロ支援国家指定を解除した。

まさにブッシュ政権末期のドタバタで、なんとか自分の功績としてアピールできるものを作ろうとしているライス国務長官とヒル国務次官補のなせるわざと言わざるを得ない。

核実験をやろうと準備している国に、テロ支援国家指定を解除してどうなるのか?

米国や他の国から援助を取り付けて、国力を回復し、準備を万全にして時期をずらして核実験を実施するというだけのことになるのではないか?

本質がわからずに「理解を示している」麻生首相も、ブッシュ大統領から電話をもらってうれしくて、そう言ってしまったのではないかと思えるが、本気でそう言っているならノー天気なものだ。

筆者は必ずしも北朝鮮懐柔策に反対するものではないが、それにしても核実験実行するぞと恫喝されてテロ支援国家指定を解くとは、まともな人間のなせる技ではない。

このあたりの事情を鋭く洞察している手嶋龍一さんの本のあらすじを再掲する。



2008年10月6日初掲:

葡萄酒か、さもなくば銃弾を葡萄酒か、さもなくば銃弾を
著者:手嶋 龍一
販売元:講談社
発売日:2008-04-25
おすすめ度:3.0
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インテリジェンス小説という新しい分野を開いた元NHK手嶋龍一さんの人物評伝。

登場人物は次の通りだ。ほとんどが手嶋さんが直接間接に知っている人ばかりで、手嶋さんの広い交友範囲をあらわしている。

I 遙かなりホワイトハウス
  大統領への永い道……バラク・フセイン・オバマ
  二人のファーストレディ……ヒラリー・ローダム・クリントン
  敗れざる者……ビル・ブラッドレー(元上院議員)
  ベトナムから還ってきた男……ジョン・マケイン

II 政治の中の生と死
  赤い曳光弾……ヘルムート・コール(元ドイツ首相)
  手術室のジョーク……ロナルド・レーガン
  ハイアニス・ポートの孤高……ジョン・F・ケネディ
  三十年の平和……ヘンリー・キッシンジャー

III 姿なき交渉者たち
  帰りなんいざ……戴秉国(中国国務委員)
  昼行灯のひと……谷内正太郎(ヤチ。元外務事務次官)
  テヘランに在りし者……斉藤邦彦(元外務事務次官)
  雪渓の単独行……林貞行(元外務事務次官)
  ふたりのマツナガ……松永信雄(元外務事務次官)とスパーク・マツナガ(元上院議員)

IV 外交という戦場
  冷や飯のひと……麻生太郎
  ツルゲーネフの森……ハンス=デートリッヒ・ゲンシャー(元ドイツ外相)
  少数派の叡智……ヨシュカ・フィッシャー(元ドイツ外相)
  知られざる人……近藤元次(元農水相)
  北の凍土と向き合いし者 宋旻淳(韓国元外交通商相)

V 日米同盟の光と影
  冷たい戦争の意志……ジョン・フォスター・ダレス(米元国務長官)
  矜持なき者の挫折……クリストファー・ヒル(米国務次官補)
  プレスリー同盟……小泉純一郎
  裏切りの季節……コンドリーザ・ライス(米国務長官)
  イラクへの道……ドナルド・ラムズフェルド(元国防長官)

VI 超大国に抗いし者
  隠れゴーリスト……小沢一郎
  「ブッシュの戦争」の抵抗者……ドミニク・ド・ヴィルパン(元フランス首相)
  昨日の理念……安倍晋三
  日米同盟の遠心力……福田康夫

エピローグ  
  月下美人……若泉敬(政治学者。沖縄問題の特使)

なかには、余り聞いたことのない名前もあるが、外務省高官だったり、若泉さんは沖縄返還交渉の時の福田赳夫首相の対米密使だ。

それぞれの特徴を捉えたエピソードを紹介しており、読み物として面白い。

たとえばバラク・オバマ氏は、2004年の民主党大会の演説がメジャーデビューだったし、ヒラリー・クリントンは弁護士時代はヒラリー・ローダムで通していたが、ビルがアーカンサス州知事再選に失敗すると名前をヒラリー・クリントンに変えた。



ジャックリーン・ケネディはJFKの女遍歴に耐えかね、離婚を何度か言い出すが、そのたびにケネディ家の家長であるジョセフに金で丸め込まれていたという。ジョセフの執念が実り、JFKはカトリックで最初の大統領となるが、暗殺されてしまう。ケネディ暗殺は謎のままである。


キッシンジャーの功績

キッシンジャーは国務副長官時代に歴史に残る声明を発表している。ソ連と中国がアムール川のダマンスキー島の領有権を巡って一触即発の状態だった1969年に、「ソ連が国際政治の均衡を崩すような挙に出て、中国に対する核攻撃に打って出るようなことがあれば、ニクソン政権はこれを座視しない」というものだ。

これが米中接近の引き金にもなる。

ニクソン訪中の前に周恩来とキッシンジャーが交渉していた時に「上海コミュニケ」の中の、いわゆる「台湾条項」のワーディングは固まった。

台湾条項の第1項は「アメリカ政府は、台湾海峡をはさむ両岸の中国人が、それぞれ中国は一つだと述べていることを事実としてacknowledgeする。」このacknowledgeという言葉は周恩来のサジェスチョンによるものだと。

第2項は「アメリカ政府は、台湾海峡問題の平和的解決を希求する」。これはアメリカが有事には、軍事力で台湾の防衛に駆けつけるとは一切書いていない。実際に1996年に中国が台湾海峡向けに4発のミサイルを発射したときに、アメリカは空母2隻を台湾海峡に派遣した。

しかし文言としては、曖昧さを残すことで、台湾側の自重も求めた。後に「戦略的曖昧性」と呼ばれている。

これが台湾海峡に熱い紛争が起こるのを防止してきたのだ。

こういった歴史の証人たちに直接インタビューして取材している手嶋さんの幅広い情報収集力には敬服する。

手嶋さんの友人の韓国の宋旻淳元外交通商相や、普段あまり聞くことのない外務省の歴代の外務事務次官の話も面白い。

軽妙な読み物に仕立てているが、手嶋さんは主張すべきところは主張している。


北方領土問題は日ロ関係のトゲ

たとえば北方領土問題は、死せるダレス元国務長官が打った日ロ関係のトゲ、冷戦の残渣であり、これがために日ロ交渉は全く進展していない。「領土問題は日本丸というタンカーの船底に張り付いてしまった貝殻のような存在」だと。

「対中、対米外交に新たな地平を切り拓くためにも、北方領土のくびきから日本外交自らを解き放つべきときが到来している」と手嶋さんは語っている。


ライス国務長官とヒル国務次官補

北朝鮮との外交で、独断専行でポイントを稼ごうとして失敗している米国のクリストファー・ヒル国務次官補と、他に成果がないので北朝鮮外交を自分の実績としたいコンドリーサ・ライス国務長官には手厳しい。

北朝鮮の旧式の核施設を廃棄させるが、まだ数個保有していると思われるプルトニウム核爆弾や、ウラン濃縮設備については、全く手つかずのままだ。

「国際社会はまだ、野心の外交官クリストファー・ヒルが犯しつつある失策の恐ろしさに十分気づいていない」と警告している。

「ライスとヒルは、東アジアのポスト冷戦史に、野心に溺れて同盟国を裏切った外交官としてその名を刻まれることになるだろう」と。


小沢一郎と「国連至上主義」

小沢一郎については、ひそやかな対米自立論者として、「自衛隊が国連待機軍として国連の要請に応じて出動し、国連の指揮下にはいることは、何ら憲法に違反しない」という1993年の「日本改造計画」を引用している。

日本改造計画日本改造計画
著者:小沢 一郎
販売元:講談社
発売日:1993-06
おすすめ度:4.5
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アメリカは小沢一郎をフランスの故ド・ゴール大統領の様に、対米自立を模索する「隠れゴーリスト」と見ているという。

1990年の湾岸戦争の時に、当時の自民党幹事長の小沢一郎は自衛隊の派遣を当時の首相の海部俊樹にせまっている。結局それは実現せず、日本は130億ドルという巨額の資金を提供したのに、軍事的支援はゼロだったので、戦後のクウェートのThank-you Listにも載らず、屈辱を味わった。


条約官僚というモンスター

日本の憲法や国際条約解釈を独占しているモンスターのような「条約官僚」という存在も指摘している。

福田前首相は昨年末の小沢一郎との密談の時に、条約官僚に「小沢が提案する国連の集団安全保障に飛び移って構わない」と言われたという話を紹介している(手嶋さんの本にはこう書いてあるが、真偽のほどは筆者はわからない)。

党首会談の合意文書など、どう書かれていようとも、国際法の知見を利用して再解釈してみせるという自信のほどを見せつけたものだと。

「日本の政治指導部が真に立ち向かうべき相手は、法衣をまとっていない大審問官たちなのである」と手嶋さんは指摘している。

現在の条約・憲法解釈についての力学がわかって参考になる。


自民党の面々には冷ややか

麻生新首相を「冷や飯の人」と呼んでいるが、なぜそう呼ぶのか全くそれにあたる説明がない。吉田茂の孫として、冷や飯という訳でもないと思うが、よくわからないところだ。

麻生さん以外にも小泉元首相、安倍元首相、福田前首相は好意的には取り上げられていない。小泉=ブッシュ関係をプレスリー同盟と呼んでいる。


これからの政権交代議論や現在の世界情勢を考える上で、参考になるインサイト(洞察)である。

面白く簡単に読めるおすすめの本である。


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Posted by yaori at 10:40│Comments(0)TrackBack(0) 政治・外交 | 手嶋龍一

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