2008年10月19日

マネーの未来、あるいは恐慌という錬金術 明快でわかりやすい

マネーの未来、あるいは恐慌という錬金術──連鎖崩壊時代の「実践・資産透視学」マネーの未来、あるいは恐慌という錬金術──連鎖崩壊時代の「実践・資産透視学」
著者:松藤 民輔
販売元:講談社
発売日:2008-07-11
おすすめ度:3.5
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このブログで紹介した「無法バブルマネー終わりの始まり」の著者で金鉱山オーナーの松藤民輔さんの2008年7月発刊の近著。

無法バブルマネー終わりの始まり──「金融大転換」時代を生き抜く実践経済学無法バブルマネー終わりの始まり──「金融大転換」時代を生き抜く実践経済学
著者:松藤 民輔
販売元:講談社
発売日:2008-01-16
おすすめ度:4.5
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前著に引き続き、サブプライム問題に端を発した今回の金融危機を分析し、「日本人にとって、金融恐慌は60年に一度のビッグチャンス!」と語る。

「ひょっとして恐慌が来るかもしれない」ではない。次の理由で既に恐慌なのだと松藤さんは語る。

1.サブプライム問題はまだ片づいていない
2.金融機関の倒産はこれからが本番
3.ドルの転落
4.原油高、資源高、食料高のトリレンマが始まる
5.「有事のドル」の伝説崩壊

しかしむしろいまこそ千載一遇のチャンスなのだ。投資に臆病で、これまで利殖運用の世界と縁がなかった人には、現在進行中の金融恐慌は人生で1回の「ビッグチャンス」なのだと。

松藤さんは金鉱山のオーナーなので、金に期待する。

金価格は1980年の高値875ドルを超えて、今年前半のピーク1,000ドルを挟んで上下しているが、金融恐慌が本格的に始まれば2,000ドルの壁を越えていくに違いないと語る。直近の10月17日の金相場は785ドルだ。

gold price






出典:三菱マテリアルGOLDPARK

金相場が本当に松藤さんの予想通り行くのかわからないところである。


よくできた目次

松藤さんの本の目次はそれぞれの章が10ほどの節にわかれており、目次を読めば内容が推測できる。

作者の頭の中がよく整理されていることが一目でわかる優れた目次なので、ちょっと長くなるがそれぞれの節まで紹介しておく。

第1章 動き出した「悪魔のシナリオ」
    神の怒りに触れた人々
    バブルの顔はどれもよく似ている
    底なしの住宅価格
    売れない車と凍りつく個人消費
    急上昇する「原油価格」と「失業率」
    始まった自治体の連鎖財政破綻
    密かに進行する恐慌化10のプロセス
    「悪夢のシナリオ」は止まらない
    賞味期限切れの欧米中心型金融システム
    ドルの未来
    アメリカは滅び、ドルは強くなる
    「M」が示すマネーの暗号

第2章 USBとベアー・スターンズの転落
    「証券化」という錬金術
    UBSオスペル会長の末路
    「ローカル銀行」の栄光と挫折
    サブプライム誕生の秘密
    バブルは、すべてを失って初めて気づく
    「死に体」ベアー・スターンズの異例すぎる救済
    どこかで聞いたセリフ
    エリートを待ち続ける訴訟の嵐
    「120兆円」に向かって積みあがる損失
    「質は日本のバブル崩壊によく似ている」
    バブル処理コストは「15年200兆円」
    「有事のドル」から「有事の金」へ

第3章 宴の最中に始まった「中国パッシング」
    中国の急減速
    アメリカに依存しすぎた中国経済
    失敗だらけの中国の巨額投資
    中国パッシングが始まった
    「脱中国」の動きは止まらない
    中国の外堀を埋める東南アジア
    毒餃子事件とチャイナリスク
    中国政府が隠す「不都合な真実」
    資源を盗掘し続ける無法国家
    四川大地震は人災か?
    地下資源を狙ったチベット弾圧
    中国投資熱はとっくの昔に冷めている

第4章 絶望のドバイ
    原油価格はドル相場と逆相関に動く
    利下げ、ドル安、原油高のドミノ倒し
    原油価格高騰の真犯人
    中東の出資は「追証」!?
    世界最大の国富ファンドは日本にある
    アブダビ投資庁の9割が外国人職員
    原油価格高騰が招く食料インフレ
    次世代エネルギー開発のチャンス
    日本企業から続々生まれる代替エネルギー
    石油がほとんどいらないエコ住宅
    公開実験に成功した夢の「固体核融合」

第5章 恐慌の錬金術ー2025年までは金と金鉱株の独歩高
    ドル神話の終わり、金神話の始まり
    幻想の中の通貨
    資産としての価値、商品としての価値
    NYダウ暴落と金暴騰
    チャートが示す流動性危機の予兆
    未来のポジション
    金融恐慌化の金ETFのメリット
    金はますます足りなくなる
    日本に眠る巨大な都市鉱山
    古い投資法、新しい投資法
    ローリスク・ハイリターンの分散投資
    天井知らずの金価格
    金の理論値は2、289ドル
    金投資の有望性と留意点

グリーンスパンの言葉を引用して始まる。「アメリカのこの金融危機は、第2次大戦以来最悪という評価を将来受けるだろう。」

グリーンスパンの回顧録は大変参考になり、既に何回も読んだので、近々紹介する。

英語の原著のペーパーバック版には最近の金融危機についてのエピローグが追加されたので、英語のオーディオブックに加えて、英語のペーパーバックまで買ってしまった。このエピローグの日本語訳は追加で出版されている。

The Age of Turbulence: Adventures in a New WorldThe Age of Turbulence: Adventures in a New World
著者:Alan Greenspan
販売元:Penguin USA (P)
発売日:2008-09-09
おすすめ度:5.0
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波乱の時代 特別版―サブプライム問題を語る波乱の時代 特別版―サブプライム問題を語る
著者:アラン グリーンスパン
販売元:日本経済新聞出版社
発売日:2008-10
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今回の金融恐慌の本質は:

1,儲かればなにをやってもかまわないという文化
2.膨大なボーナスを得るためには、どんな仕組みでもつくってしまうというゲーム感覚に似た文化
3.自分だけ成功すればいい、というエリート特有の鼻持ちならない文化

松藤さんは神の怒りに触れた人々だと呼ぶ、つまり「行き過ぎの資本主義=モラルハザード」がそのベースに横たわっているのだ。

松藤さんは現状をコンパクトにまとめているので、その文を紹介しておこう。

「本来なら、たんなる住宅ローンの延滞率上昇に過ぎなかったトラブルが、「証券化」という核爆弾を積んでいたおかげで連鎖反応をくり返し、住宅不況、金融不況、ドル暴落(ドル独歩安)、株価暴落、原油高騰、金高騰、穀物高騰、不況、物価高....そして、経済破綻から本格的な世界恐慌を引き起こす、というのが現在の実情なのである」

まさに現状をよく言い表していると思う。

サブプライムローンをプライムローンと混ぜて証券化し、モノライン(金融保証会社)が保証を与えて高い格付けの商品とするというCDO(債務担保証券)は魔法の杖だった。

この魔法の杖が消えて、モノラインが実質破綻したので、モノラインが保証していた自治体などの債券が急落しているという。

筆者が住んでいたピッツバーグにある肝臓移植手術では世界トップのピッツバーグ大学医療センターが発行している債券の金利も、2008年2月より3.5%から17%に跳ね上がってしまったという。

ニューヨークの有料橋/トンネルやフェリーなどを運営しているニューヨーク・ニュージャージーポートオーソリティの債券金利も4%から20%に跳ね上がった。

それだけ金利を上げないと資金が調達できない非常事態になってきているのだ。

証券業務では5位にすぎないベアー・スターンズだが、証券化ビジネスではトップで、10兆ドルにものぼるスワップ取引の契約相手になっていたのだという。だからFRBが乗り出してベアー・スターンズをJPモーガンに救済させたのだ。

いざ破綻すればCDOなど世界中のデリバティブに次々波及して、本当にアメリカ発の金融恐慌の引き金を引いてしまうからだ。

この本に「巨大すぎるデリバティブの規模」として、世界の店頭デリバティブの想定元本合計の4京9300兆円(国際決済銀行=BIS調査)と、世界の株式市場7,200兆円、世界の債券市場5,500兆円などを対比した図が載っている。

いかにデリバティブ市場が巨大で、なぜベアー・スターズを救済したのかよくわかる。


金融機関の損失の全体規模

ゴールドマンサックスのエコノミストは金融機関の抱える損失を最大1兆2千億ドルと2008年4月に予想していたという。バーナンキの当初の予想1,000億ドル、ドイツ連銀の予想4,000億ドルをさらに上回る金額だ。

日本のバブル処理コストは投入された公的資金11兆円、無税償却で39兆円、景気浮揚策として130兆円、ゼロ金利政策で国民に入るべき金利が削られた部分を加えて15年で200兆円だったと松藤さんは推定している。

今回の世界金融危機の処理コストはどれだけになるか予想が付かないが、いずれにせよバーナンキの当初予想の1,000億ドル程度の額でないことは確かだと松藤さんは語る。

筆者も記憶があるが、日本のバブル崩壊当時でも全体の損失額は結局誰にもわからず、時がたつにつれだんだん損失が巨大化していった。それと同じことが起こるのだろう。


中国の不都合な真実

中国の「不都合な真実」として公害やチャイナリスクと呼ばれる食物・玩具・日用品汚染、砂漠化、原油輸入の増大、原発を15−20倍に増設する計画などを指摘している。

チベットについては、少数民族の女性は漢民族の男性との結婚は認められているが、その逆は認められていないという。チベットには仕事がないので適齢期の女性は都会に出て働き、漢民族の男性と結婚して都会に住むしか選択肢がなくなり、チベット人男性の結婚相手はいなくなり、壮大な民族浄化計画が進んでいると松藤さんは語る。


絶望のドバイ

原油価格高騰の犯人は年金資金だと松藤さんは語る。アメリカの大手年金資金が積極的に商品相場をポートフォリオに織り込んでおり、2003年比20倍の規模になっている。

たとえばカルパースは運用資産の8%を商品で運用しているという。

世界最大の国富ファンドは日本の旧年金福祉事業団だ。現GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)その運用規模は150兆円だが、運用益は3.5%にとどまるという。


日本の技術力という現代の黄金

日本のメタンハイドレートなど、次世代エネルギー開発のチャンスだ。日本が得意な代替エネルギーもおおいに期待される。電気自動車、ハイブリッド車に使われるリチウムイオン電池、水素エネルギー、燃料電池、北海道大学の水野忠彦教授が理論を確立した常温固体核融合などが紹介されている。

松藤さんの持論は金だ。CPI調整したリアル・ゴールド・チャートで見ると金は1,000ドルでもまだ安い。3倍ほどの上昇余地はあると語る。

gold price







金ETFが良いという。そして金の理論値は2,289ドル/オンスだという。

金については松藤さんの前著「無法バブルマネー終わりの始まり」のあらすじで筆者の私見を書いたが、筆者自身は金に大きな期待を寄せるのは疑問に思う。

この本で松藤さんは逆オイルショックは早く来ると予測している。実際松藤さんの予測どおり、原油相場はピークの半値となった。

一方穀物相場は暴落し、予想は外れている。

最後にブラジルのOGX Petroleoという新興石油会社を紹介している。

単に海底油田にボーリングを打つ権利を持つだけの会社が昨年マーケットのピークでIPOして株価は最高1,385リアルまで上がったが、現在は340リアルまで下落している。(1リアルは50円弱だ)

まさに2000年のインターネットバブル崩壊をほうふつとさせる事例だ。


日本の新興国株投信のマイナス50%などという運用成績は、時代を読み間違えた人々の運用なのだと松藤さんは語る。

いろいろ本が出て、新興国投資とか豪州ドルやニュージーランドドルのFXが話題になる頃はピークは過ぎていて、参入した素人はプロの餌食になるという典型例のような話だ。

逆にこれだけいろいろなものが暴落したら、新しく投資するリスクは少ないともいえる。松藤さんが言うように、現在進行中の金融恐慌は人生で1回の「ビッグチャンス」なのではないかと思う。

筆者の持論は、近未来はわからないが、10年先の未来なら大体誰でも予測ができるというものだ。松藤さんの言うように「時代はどこを見ているのか、僕らはどこに行こうとするのか考え」て、投資するチャンスだと思う。


松藤さんの言うように金が良いのかどうかわからないが、現状を分析する上で、大変参考になる本だった。

簡単に読めるので、まずは本を手にとってみることをおすすめする。


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Posted by yaori at 00:22│Comments(0)TrackBack(0) ビジネス | 投資

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