2009年01月20日

祝 大統領就任! 「合衆国再生」 オバマ版メイキング・オブ・プレジデント

2009年1月20日再掲:


本日深夜(日本時間1月21日01:30〜02:00頃)オバマ新大統領が就任演説を行う。

NHK総合とBS-1でも01:10から放送されるので、オバマ氏の2つの著作のあらすじを再掲して筆者からの就任祝いとしたい。



2008年11月5日再掲

南北戦争?を思わせるような大統領選挙の開票途中結果だが、オバマ氏の勝利が確実となった。途中結果はロイターのサイトが逐次報告している。

Presidential election preliminary results






出典:ロイター大統領選挙特集

ちなみに、次が2000年のブッシュ対ゴアの最終勝ち負けだ。かなり傾向は似ている。

2000 electipn




予想通りバラク・オバマ氏が米国大統領選挙を制した。当選を祝して、オバマ氏の「合衆国再生」のあらすじを再掲する。オバマ氏の政策の基本的な考え方がわかるので、参考にしてほしい。

対話重視、メインストリート(ウォールストリートに対する一般市民の意味)重視、国際協調重視、国民皆保険重視のオバマ氏の手腕に期待するところ大である。

オバマ氏のもう一つの本で、自身の生い立ちからシカゴでのコミュニティ・オーガナイザーとしての生活まで、そして実父に対する複雑な思いを書いた自伝的小説「マイ・ドリーム」のあらすじも、興味あれば参考にしてほしい。



2008年10月22日初掲

合衆国再生―大いなる希望を抱いて合衆国再生―大いなる希望を抱いて
著者:バラク・オバマ
販売元:ダイヤモンド社
発売日:2007-12-14
おすすめ度:4.5
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11月の選挙で米国大統領として当選がほぼ確実なバラク・オバマ氏の自伝と政策論。

原題は"The Audacity of Hope"であり、2006年11月に出版されている。"Audacity"とは「大胆さ」という意味で、日本語訳では「大いなる希望を抱いて」となっている様に、大統領選挙を意識した本である。

政界への最初の挑戦のイリノイ州議会上院議員(1997年)、2000年の下院議員選挙での惨敗、2004年の上院議員選挙での圧勝、オバマ氏を一躍有名にした2004年民主党党大会でのキーノートスピーチ、そして大統領選挙挑戦までの一連の活動をオバマ氏自身が語っている。

400ページ強の本だが、政治活動の現実や主要政策についての自分の考えをオバマ氏が淡々と語っているので思わず引き込まれる。


メイキングオブプレジデント

オバマ氏はハーバード・ロー・レビューという法律家向け専門誌で、はじめての黒人編集長となって注目されたそうだが、文才もあり読みやすい内容でアメリカで200万部以上売れているという理由がわかる。

大統領になって打ち出す政策は、この本に書かれているアウトラインとは若干異なるかもしれないが、オバマ氏自身が書いたオバマ氏の基本的な考え方がわかる重要な本だ。

自身の生い立ちからシカゴでのコミュニティ・オーガナイザーとしての生活まで、そして実父に対する複雑な思いを書いた自伝的小説「マイ・ドリーム」のあらすじを以前紹介したが、この本はシカゴでのコミュニティー・オーガナイザー活動以降のオバマ氏の経験が取り上げられている。

マイ・ドリーム―バラク・オバマ自伝マイ・ドリーム―バラク・オバマ自伝
著者:バラク・オバマ
販売元:ダイヤモンド社
発売日:2007-12-14
おすすめ度:4.5
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筆者が「メイキング・オブ・プレジデント」と呼ぶとおり、政治活動の裏側や徒手空拳で政治活動を始めたオバマ氏が活動資金に苦労する台所事情などが率直に描かれていて読み物としても面白い。

親や祖父の地盤を引き継いで世襲政治屋となっている日本の多くの政治家に、オバマ氏の爪の垢を煎じて飲ませたいくらいだ。


ヒラリー・クリントンの力

恵まれない家庭環境から這い上がって大統領になった先人は、たとえばビル・クリントンがいるが、結婚相手のヒラリー・ローダムが名家の出身のバリバリの弁護士で、ビルが大統領になれたのはヒラリーの貢献が大きい。

以前紹介した手嶋龍一さんの「葡萄酒か、さもなくば銃弾を」に紹介されていたが、ビル・クリントンがアーカンソーに戻ったときに、ガソリンスタンドを経営している友人のことを取り上げて、「あの人でなく、大統領になった自分と結婚してよかっただろう」とヒラリーに言ったところ、ヒラリーは「私があの人と結婚していれば、あの人が大統領になったはずよ」と切り返したという。

ヒラリーが旧姓ローダムのままでバリバリの弁護士として活躍し、ビルがアーカンソー知事をやっていた時代に、クリントン夫妻としてつくった実業界の友人も多かった。

ビルは文無しからのスタートだが、クリントン夫妻としてはそれなりに政治資金と支援者に恵まれていた。金脈のひとつはホワイトウォーター疑惑を招いている。


オバマは本当に徒手空拳

オバマ夫妻も弁護士同士の結婚という意味ではクリントン夫妻と同じだが、オバマ氏はハーバードロースクール卒業後、シカゴの市民権専門の小さな弁護士事務所勤務、奥さんのミシェルは結婚後すぐに弁護士をやめ、シカゴ市の企画部や市民活団体に勤め、二人ともお金には縁がなかった。

地方議会のイリノイ州議会上院議員選挙では10万ドル以上必要なかったので問題なかったが、合衆国上院議員選挙では選挙顧問にテレビコマーシャルなどを入れて最低1,500万ドルが必要と言われ、知り合いに頼んで金策したが25万ドルしか集まらなかったという。

対抗馬がゴールドマン・サックスに自分の会社を5億ドルで売った実業家で、湯水のように選挙資金を投入してテレビコマーシャルを打ったが、オバマ氏は沈黙したままだった。

それでも選挙直前にインターネットでの小口献金が急増したことと、対抗馬が元妻との離婚スキャンダルで自滅したこともあり、2004年の上院議員選挙では圧勝できたのだ。


オバマを支える小口ネット献金

オバマ氏の特徴は、企業献金に頼らないインターネットを通じた小口献金中心の資金集めだ。企業の政治活動委員会(PAC)から敬遠されていたので、それしかなかったという。

2008年10月16日の日経IT PROエクスポでの大前研一氏の講演で、大前氏はオバマの勝因はインターネットであり、オバマはネットで(大前氏は"Notebook"と言っていたが、"Facebook"の間違いではないかと思う)80万人の支持を得て、ヒラリーは30万人、マケインはそもそもネットのことを知らなかったと言っていた。

大前氏の数字とは異なるが、現在のFacebookの政治家コーナーではオバマ支持者220万人、マケイン支持者60万人、ヒラリー17万人となっており、ネットではオバマ支持者がマケイン支持者を圧倒している。

Facebook






ネットでの草の根運動がオバマ氏の最大の支持基盤となっており、これは今までの大統領候補にはなかったことだ。まさにインターネットが生んだ21世紀の大統領といえるだろう。

オバマ氏は今年47歳。JFKが大統領になった43歳よりは年上だが、JFKのような何不自由ない名家に生まれた訳ではない、資産ゼロの庶民からの大統領という意味では異例の若さだと思う。

この本の目次は次の通りだ:

プロローグ
第1章 二大政党制の弊害
第2章 共存するための価値観
第3章 憲法の真の力
第4章 政治の真実
第5章 再生のための政策
第6章 宗教問題
第7章 人種間のカベ
第8章 アメリカの対外政策
第9章 家庭と生活
エピローグ


短い政治経験

この本を読むとオバマ氏の政治経験が短いことがわかる。

オバマ氏がイリノイ州議会上院議員になったのが11年前の1997年。連邦上院議員には2004年になったばかりで、1期目の上院議員である。

しかし議員在任年月だけでオバマ氏の政治活動を判断してはいけない。

日本の小泉チルドレンの様に、当選しても何をやっているのか消息がわからない議員と違って、オバマ氏は州議員時代でも死刑事件の取調べと自白にビデオ録画を課す法案などを成立させている。

上院でもテッド・ケネディ、ジョン・マケインの党派を超えた包括的移民制度改革法案で不法労働者の採用を難しくする修正条項を共同で起草している。

これはアメリカ人労働者より低い賃金で出稼ぎ労働者を雇うことを禁止するものだ。

また後述の「ハイブリッド車・医療費交換法案」も起草している。

田中角栄は自分で30本もの議員立法をつくったというが、田中角栄と同じことをアメリカの議員はしているのだ。


「共感」を強調

民主党らしく大企業には厳しい。従業員の給与が増えていない中で、CEOの報酬だけが高騰していることは市場の要請ではなく、強欲を恥じない文化のせいであると批判する。

「共感」という感覚がもっとあれば、CEOが従業員の医療保険を削りながら、自分に何千万ドルのボーナスを出すなんてありえないと語る。ウォルマートのリー・スコットCEOたちのことを指しているのだ。

どんなに意見が食い違っていても、オバマ氏はジョージ・W.ブッシュの目を通して世界を見ようと努力する義務があると語る。「共感」とはそういうことなのだとオバマ氏は呼びかける。


ロバート・バード上院議員のアドバイス


憲政の権化のような91歳のウェストバージニア州選出のロバート・バード上院議員の話も面白い。

オバマ氏が上院議員になって挨拶に行くと、バード議員は「規則と先例を学びなさい」と言ったという。「憲法と聖書、私に必要な文書はそれだけだ」。

そして最後にバード氏が若い頃KKKに加盟していたことを「若気の至り」として自ら告白したという。

バード氏は炭坑の多い全米でも最貧州の一つのウェストバージニア出身だ。労働組合を支援し、鉄鋼の輸入規制など保護主義的な法律をつくったことで知られているこわもての名物上院議員だ。


政治家の変質

政治家はなぜ変質してしまうのかという点については、会員議員の選挙区は与党の手で勝手に選挙区割りを決められ、与党支持者が過半数いる地域を割り当てるようにしているのだという。

もはや有権者が代表を選んでいるのではなく、代表者が投票者を選んでいるのだと。

地元にべったりで思い切った挑戦をしない。それゆえ下院議員の再選率は96%となっている。

だから有権者は国会は嫌いだが、自分たちの議員は好きだという世論調査結果になるのだと。


フラット化する世界

オバマ氏はこのブログでも紹介した「コラムニストで作家のトーマス・フリードマンが言うように、世界はまちがいなく日に日にフラット化していく」が、グローバル化への対処方法はあると語る。

フラット化する世界 [増補改訂版] (上)フラット化する世界 [増補改訂版] (上)
著者:トーマス フリードマン
販売元:日本経済新聞出版社
発売日:2008-01-19
おすすめ度:4.5
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「アメリカが競争力を高めるために必要とされるむずかしい対策に国が取り組まず、市場に政府が果たすべき適切な役割について新しい合意が築かれていない現状が問題なのだ」と語り、アレクサンダー・ハミルトン以来のアメリカ版資本主義の発展と政府との関係の歴史を簡単にまとめている。

アメリカの競争力を高めるために、教育と科学技術とエネルギー的独立の3分野への投資が必要だと語る。これがオバマ氏の政策の基本となる。「フラット化する世界」のフリードマン氏の主張と同じで、まさに現在のアメリカに必要なものである。

ルービン元財務長官からは「保護貿易主義的な努力はすべて逆効果だ。それだけでなく、彼らの子どもの暮らしをいっそう悪化させることになる」と言われたそうだが、オバマ氏は組合には好意的だ。


バフェットの税率はセクレタリーよりも低い!?

オマハで質素な暮らしをしている世界一の大富豪ウォレン・バフェットと面談した時に、なぜバフェットの実効税率が平均的アメリカ人よりも低いのか?といわれた話を紹介している。

バフェットの様に配当とキャピタルゲインが主な収入の場合には、15%しか課税されないのだ。一方社会保障も入れたセクレタリーの給与はその倍近い税率で課税される。

バフェットがとりわけ心配していたのはブッシュ大統領が推し進めようとしている相続税廃止だという。

彼は相続税を廃止すれば、富裕層の貴族政治化を促すと考えており、「2000年のオリンピックに優勝した選手の子どもたちだけで2020年のオリンピック代表を決めるようなものだ」と言っていたという。

相続税は人口の0.5%にしか影響しないが、国庫に1兆ドルの収入をもたらすという。


様々な問題について持論展開

宗教問題(人工中絶、同性婚)、人種間のカベ、外交政策、教育、エネルギー政策の転換、自由貿易、世界経済、社会保障、低所得層を救うアイデア、医療保険制度、財源、格差社会の是正、ワーキングプア問題等について自説を展開している。

オバマ氏を一躍有名にした2004年の民主党大会の「黒人のアメリカも、白人のアメリカも、ラテン系のアメリカも、アジア系のアメリカもない。ただアメリカ合衆国があるだけなのだ」という発言をもとに、黒人、特に黒人の若者への偏見、人種間の格差(白人の平均資産が8万8千ドルに対し、黒人の平均資産6千ドル、ラテン系8千ドル)などについて語っている。



外交問題

イラク問題については、当初より戦争後の占領体制を考えない戦争には反対してきたが、オバマ氏みずからがバグダッドに行き、現地の情勢を知った今は、性急には撤退できないと考えていると。

有権者の一人から「あんたはイラク戦争に反対したにもかかわらず、まだ部隊の完全撤退を求めて声をあげていない」と言われ、「あまりに急激な撤退はあの国に全面的な内戦をもらたらし、中東全域に紛争を拡大させる可能性がある」と説明したという。

いずれにせよアメリカの外交政策には理念がないと断じて、次のような質問を投げかけている。

なぜイラクには侵攻し、北朝鮮やビルマにはしないのか?

なぜボスニアには干渉し、ダルフールにはしないのか?

イランにおける目的は何なのか?政権の交代なのか、核保有能力を解体することか、核拡散防止なのか、3つすべてなのか?

自国民を恐怖におとしいれている独裁的な政権が存在するところなら、どこでも力を行使するのか?

その場合、経済は自由化しはじめているが、政治は自由化されていない中国のような国々はどう扱うのか?


防衛力とエネルギー問題

軍事力については、第三次世界大戦を視野に確立されている防衛費と戦力構造には、戦略的な意味がほとんどないことをそろそろ認識すべきだと語っている。

ブッシュ政権を初めとする共和党政権を強力にバックアップしていた軍事産業には聞きたくない話だろう。

さらにブッシュ政権のエネルギー政策は、大手石油会社への補助金と掘削の拡大に注がれてきたが、セルロースからのエタノールなどの代替燃料開発を進め、エネルギー効率を上げる等、ケネディ時代のニューフロンティア政策のような政策を打ち出すべきだと主張する。

オバマ氏はロシアにエネルギーを依存しているウクライナを訪問し、輸入石油に依存している国の脆弱性を感じ、アメリカは別の選択肢を持つべきだと主張する。

オバマ氏自身が起草した「ハイブリッド車・医療費交換法案」は、退職者への医療費に対して政府が補助金を払う代わりに、ビッグスリーはハイブリッド車などの燃費効率の良い車の開発に投資するというものだ。

北朝鮮やイランのような「ならずもの国家」の脅威を管理し、中国のような潜在的ライバルの挑戦を受けられるだけの優勢な戦力を維持する必要は認めているが、単独行動でなく、国連の強化による他国との協調的な行動を取ることを主張している。

この路線は日本の民主党の国連重視外交と同じ方向性の様に見える。超大国アメリカの指導者としては、今までなかった斬新な考え方だ。


家庭生活

アメリカの初婚の5割は離婚に至っているという。

この30年間でアメリカ人男性の平均収入の伸びはインフレ調整後で1%を切っており、住居、医療、教育費をまかなえなくなっているのだと。

共稼ぎで増えた収入は、ほとんど全部が子どもの教育費、授業料や良質な公立学校がある地域に住むための住居費と、母親が通勤に使うもう一台の車や託児所の費用に使われているという。女性の社会進出は、家計を支えるための必要にせまられてのものだ。

最後に奥さんミシェルと、二人の娘、マリア、サーシャを紹介し、時々はワシントンのモール(中心地区)のジョッギングで、建国の父たちに思いをはせていると語り、「私の心はこの国への愛に満ちている」と結んでいる。


47歳で上院議員1期目のオバマ氏だが、大統領になっても、アメリカ国民のためにしっかりとした政治を行っていくことだろう。

そんな好印象を受ける良い本だった。

11月の大統領選挙の前後に是非一読をおすすめする。



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Posted by yaori at 18:29│Comments(0)TrackBack(0)政治・外交 | バラク・オバマ

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