2020年06月16日

【再掲】ジム・ロジャースの中国の時代 20年先まで見据えた投資

2020年6月16日再掲:

中田敦彦さんのYouTube大学でジム・ロジャースの近著「危機の時代」を紹介していたので、2008年に出版された「ジム・ロジャーズ中国の時代」のあらすじを再掲する(リンクは見直して、ところどころに注をつけた)。








20年以上前に中国の時代が来ると予測し、シンガポールに移住したジム・ロジャース。2008年の本なので、予想が当たっていない部分もあるが、21世紀は中国の世紀だと、中国のポテンシャルを的確に見抜いた先見性に驚く。


2008年10月31日初掲:

ジム・ロジャーズ中国の時代ジム・ロジャーズ中国の時代
著者:ジム ロジャーズ
販売元:日本経済新聞出版社
発売日:2008-06-14
おすすめ度:4.0
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前回紹介した橘玲さんの「黄金の扉を開ける賢者の海外投資術」でもしばしば登場したクオンタム・ファンドでジョージ・ソロスのパートナーだったジム・ロジャースの中国投資ガイドブック。「私は20年先まで見据えている」と本の帯に書いてある。

ジム・ロジャースは1988年にクオンタム・ファンドをやめ、バイクで世界一周しながら、自分の目で投資機会を見つけ、早くからいろいろな国で投資しているので、アドベンチャーキャピタリストと呼ばれている。

筆者が最初に中国に出張したのは1983年だが、ジム・ロジャースが中国に最初に行ったのは1984年とのことで、当時の状況を思い出させる。

ジム・ロジャースが最初にバイクで中国を横断したのは1988年だが、一番時間が掛かったのは、上海からカラコルム高速道路?まで3,000キロを走破することではなく、必要な許可を中国政府から取ることだったという。

筆者も記憶があるが、当時は完全な中央集権体制で、地方政府の高官は中央の官庁から派遣された役人ばかりだった。

お金も中国人が使う人民元と、外国人用の外貨兌換券の2種類があり、ホテルやレストランの料金はすべてダブルスタンダード、レストランは外国人とつきそいの中国人の食事場所が分かれていた。

中国人料金は大体外国人料金の1/10から1/30程度だったと思う。ホテルの電話はすべて盗聴されており、日本に電話して交渉戦略を打ち合わせしたりすると、すべて中国側につつ抜けになるということで、事前に暗号のような合言葉を決めて中国との交渉に臨んだものだ。

中国国内は大都市中心の外国人解放区と地方の非解放区とに分かれており、非解放区は基本的に外国人が入ることが禁止されていた。筆者は浙江省杭州から車で6時間程度の横山という場所にある工場を訪問したが、途中のいくつもの町で役場に立ち寄り、通行許可を取ってからでないと進めないという有様だった。

ちなみに杭州の近くには、揚子江が逆流するので有名な銭塘江がある。アマゾンのポロロッカと同じ現象だ。

浙江省には杭州の西湖はじめ観光名所・旧跡が多いので、いまは浙江省杭州市の日本語ホームページもあるが、1983年には杭州には外国人用のホテルが2軒しかなかったし、朝食にパンを頼んだらカステラのようなボロボロくずれるパンが出てきた。

ちなみに1983年はビジネスでの出張だが、中国側が気を使ってくれて西湖観光や、仏教の天台宗の総本山の天台山国清寺、高級ウーロン茶で有名な龍井茶の龍泉を訪問し、宴会は西湖のほとりの楼外楼(赤坂の本店は無くなり、今は新橋と新宿に店があるようだ)で「乞食鳥」を食べた。

初めて「乞食鳥」を食べたので、その調理法にびっくりした。

観光客などほとんどいなかった時代なので、当時出来たばかりの花園飯店(記憶不確か)の食堂で、中国側の通訳やホテルの従業員らと食事のあと一緒に歌を歌って宴会をした。「北国の春」が、中国ではやっていたのに驚かされた記憶がある。



話が横道にそれたが、いずれにせよジム・ロジャースが1988年から中国に注目して、実際に投資していたことには脱帽する。(1988年に中国の株を買ったことは、「商品の時代」に書いてあった)

大投資家ジム・ロジャーズが語る商品の時代大投資家ジム・ロジャーズが語る商品の時代
著者:ジム・ロジャーズ
販売元:日本経済新聞社
発売日:2005-06-23
おすすめ度:4.5
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この本は23年間、24万キロを掛けて書いた本と言うこともできると、ジム・ロジャースは語る。まさに実践派投資家である。


21世紀は(またもや)中国の世紀

21世紀は中国が中心になって世界を牛耳るので、子どもや孫には中国語を習わせておきなさいとアドバイスしている。2003年に生まれた娘のハッピーには、中国人の乳母をつけたので、北京語がしゃべれるという。

1970年までは「メイドインジャパン」といえば、安っぽくて品質の悪いものだったが、日本が大きく変わったのは今日中国に見られるのと同じ勤労意欲と高い貯蓄率、大企業と政府の利害の一致、技術革新の組み合わせだ。中国は日本の国土の25倍で、日本がもう失ったかもしれないハングリー精神とやる気に満ちているという。

次代のGM,マイクロソフト、AT&Tが現れるかもしれないとジムは語る。

この本では注目される業界と代表銘柄が紹介されているが、ジム・ロジャース自身がどこに投資しているかは書いていない。

この本を書いている2007年の段階で、中国株が上昇していたので、ジムはソフトランディングを予想しているが、もしもバブルが膨れ上がったら、しばらくは注意したほうが良いと警鐘も鳴らしている。その場合には、市況が底入れした段階で動けるように準備しておこうと呼びかける。

現在の中国株の市況動向から言って、底値はまだ見えないと思うが、10年、20年後の世界を考えると中国は「買い」だろうと筆者も思う。ジムが言う様に、準備をして長期保有株を仕込むのには良いタイミングではないかと思う。

shanghai stockmarket







注:上記は2008年時点でのチャートだ。ここ10年の上海総合指数のチャートはこちら。もちろん株価が何百倍にもなった企業もあると思うが、上海総合指数としては低迷していると言った方が良いだろう。

原著はもちろん英語なので、この本でジムはアメリカなど世界の一般投資家に中国への投資を呼びかけており、中国株の歴史的背景や、中国のカントリーリスクなどにも触れている。




ちなみに上に挙げたペーパーバック版は2008年12月に発売予定なので、たぶん最近の状況を踏まえて改訂されるのだと思う。


中国のリスク

1.侵略者としての中国
中国はICBMを40発程度持っていると見られるが、それは米・ロの保有する核兵器の4%程度で、抑止力的なものだ。朝鮮戦争やベトナムとの中越紛争までは中国は拡張主義者と見られていたが、一人っ子政策で子どもが一人しかいない今、親が喜んで戦場に送るだろうかとジムは疑問視する。

台湾問題についても、ビッグマックを売っている国同士では戦争したことがないという「マクドナルド要因」を取り上げる。中国は軍事費に国家予算の7%(実際はその3倍と見られている)を使って、軍備の近代化を進めているが、台湾とは経済面で不可分の関係にあるので(大前研一氏は「霜降り状態」と表現している)、国民党政府となってむしろ両国は強固な結びつきになるのではないかと語っている。

2.環境問題
「僕たちは敵に出くわした。それは僕たちだった」という言葉をジムは紹介し、中国の深刻な環境汚染について説明している。

筆者は知らなかったが、石炭に多くを依存している中国の温暖化ガス排出量は今やアメリカを抜き、世界一にならんとしている。カリフォルニアの曇った空に舞う粒子の1/4は中国から飛んできたものだという。

中国と世界のエネルギーバランスを対比して紹介しておく。いかに中国が温暖化ガス排出量の多い石炭に依存しているかがよくわかる。

energy balance Chinaenergy balance world

注:上記は2008年当時のチャートだが、2018年のエネルギーバランスも依然として石炭(と石油)中心で変わっていない。この辺が弱点と言えば弱点だ。

ジム・ロジャースが懸念しているのは、中国が将来砂漠化してしまうのではないかということだ。インドも中国にも増して水不足はひどいという。ジムは両国をバイクで旅して、水不足のためかつては栄えた町がゴーストタウンと化しているのをいくつも見たという。

世界で最も汚染のひどい都市20のうち16は中国にある。化学汚染によって土壌の良い土地は減少し、森林は砂漠化し、工業地帯に住む子どもの8割は鉛中毒に冒されている。工場排水の80%は下水処理がされておらず、2012年には揚子江は生き物の住めない川になる恐れがある。中国は人口当たりの水の量が世界で下から13番目だといわれている。

ジムは中国の水問題を解決するために、ロシアのバイカル湖の水が使われることを予想している。バイカル湖の周辺をバイクで走ったときに、バイカル湖が米国の5大湖をあわせたよりも多くの水量を持ち、世界の淡水の20%を占める世界最大の淡水湖で、一時は中華帝国の領土の一部だったこともあるという。

次がロシアの極東の地図だ。バイカル湖と中国の間には山脈があり、モンゴルがある。距離も相当あるので、はたしてジムの言っているようになるかどうかは筆者は疑問に思う。

Russland





中国政府や民間企業が上水道・下水道・下水処理のために多くの投資をすることが見込まれ、この関連の業界もビジネスチャンスが増えるだろうと予想している。

バロンズ誌は、中国の問題点として、さらに人口の高齢化と蔓延する汚職をあげているが、ジムは何億といる地方の人が今後何十年も高齢化する人口を補っていき、汚職はいわゆるアジアンタイガーには共通する問題だと整理している。


業界寸評と銘柄紹介

ジムは中国の現状を様々な角度から分析し、関連する業界の中国あるいは台湾又は世界の主要企業のここ3年の業績、上場市場と株価コードを紹介している。紹介している業界の切り口は次のようなものだ。

1.戦時によし、平時によし − 航空宇宙産業と台湾プラステックなど台湾企業

2.流体利益 − 公害対策企業とシンガポール企業、欧米企業など

3.この世では誰もが知っている − 保険・年金、石炭、タイヤ、アルミ、通信

4.現代中国の5大革新者 − 分衆伝媒(デジタルサイネージ)、百度(検索エンジン)、中国徳信(通信)、無錫尚徳太陽能電力(サンテック、太陽電池。2013年に経営破綻し、2014年に順風光電に吸収された)、アリババ(BtoB電子商取引)

5.うまい汁を啜る − 電力会社、石炭会社、石炭掘削機

6.イケ株、石油 − ペトロチャイナなどの石油会社

7.中国の風に吹かれて − アレヴァ(フランス企業、中国発の原発を建設),ユーセック(ウラン生産)、BHP(鉱山会社)、再生可能エネルギー会社など

注:ユーセックは米国企業で、2014年に経営破綻している。

8.アスファルトの上に立つ − 高速道路会社、港湾運営会社、建設業者

9.自動操縦 − 自動車会社、自動車部品メーカー

10.出発進行 − 鉄道会社、鉄道建設、船会社

11.船乗り計画 − 携程旅行網(旅行会社)、芸龍旅行網、空港会社、航空会社

12.全室煌々と − 上海錦江国際酒店(ホテル150軒のチェーン。1983年には上海で唯一の高級ホテルだった)、地方の旅行会社

13.空の飛び方 − 航空会社、空港会社

14.人民公社よ、さようなら、コンバインよ、こんにちは。− 食品会社

15.ジューシーな果実を − 飲料メーカー

16.タネ銭 − 食肉加工、種メーカー、農業機械

17.ファーストフード − 砂糖メーカー、牛乳メーカー

18.人民のスピリッツ − ワインメーカー、ビールメーカー

19.緑の大地 − 有機野菜、肥料

20.金を生む処方箋 − 超音波検査機、バイオ、医療サービス

21.中国の未来を保障する − 保険会社

22.宿題を少々 − 新東方教育科技集団(外国大学の入試英語教育)、通信教育、職業学校

23.建設的批判 − 不動産開発会社

24.エマージング中国 − ハイテク、宇宙・航空、インターネット(2006年末で、中国のインターネット人口は1億4千万人(そのうち76%は高速回線)、ブロガーは8千万人、中国語ウェブサイトは84万)、映画、スポーツ、クレジットカード、携帯電話(利用者5億人!)、ケーブル・テレビ(利用者1億4千万人)、出版、小売・ファッション。

1999年に中国にはスーパーマーケットは1軒しかなかったが、2003年には6万軒に増えたという。


最後にジム・ロジャースは、人民元に対する投資も比較的優れた安全な方法であると語っている。今後20年の間に、ドルに対して300−500%上昇すると予測している。次は人民元の対ドル相場推移だ。

CNY_USD





注:最近の人民元の対ドル相場はこちら。人民元に関しては、ジム・ロジャースの予言は当たっていない。

筆者が現在も使っている米国のインターネット専門銀行everbank(注:現在はTIAABankとなっている。ネット専用銀行の老舗で、いまだに健在だ)の多通貨投資サービスの人民元口座開設を紹介している。ちなみに筆者は知らなかったが、everbankは人民元以外でもいろいろな国の通貨で預金ができる。


やはり足で稼いだ情報は貴重だ。BRICS、特に将来のソニー、ホンダをさがすべく中国株投資を考えている人には是非一読をおすすめする。


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Posted by yaori at 22:02│Comments(0) 中田敦彦 | 投資