2008年11月27日

知られざる巨大市場 ラテンアメリカ ラテンアメリカ4ヶ国の現状がよくわかる

知られざる巨大市場ラテンアメリカ知られざる巨大市場ラテンアメリカ
著者:山口 伊佐美
販売元:日経BP企画
発売日:2008-10-15
おすすめ度:1.0
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ブログで本を紹介するというキャンペーンに応募して、この本を読んでみた。

本の紹介をブログで書いて貰って口コミで広めようというのはいわゆるバイラルマーケティングの一種であり、新しい試みである。

10月下旬に本が届き、ライブドアブログの共通テーマページがつくられている。

筆者はこのブログにも書いている通り1978年から1980年までアルゼンチンに駐在していた。スペイン語は完璧にできるし、ポルトガル語もスペイン語とのチャンポンで会話はできるので、ラテンアメリカではほぼオールマイティだ。

アメリカに2度駐在していた時にブラジルから原料を輸入していたので、毎年訪問していた。

アルゼンチンはビジネスという面ではあまりチャンスがなかったが、友人も多く、機会があれば訪問していた。最後に訪問したのは1998年だった。チリメキシコも訪問したことがある。

以前「ブラジル巨大経済の真実」ゴールドマンサックスの"BRICs and beyond"を紹介したが、筆者はいわばラテンアメリカ・シンパなので、この様なラテンアメリカを紹介する本が評判になることは大歓迎だ。


この本の目次

この本の目次は次の通りだ。

第1章 資源価格高騰で成長する経済圏

第2章 今、ブラジルが熱い!

第3章 アメリカ依存から世界の輸出拠点へ(メキシコ)

第4章 二人の女性大統領が安定成長へ導く(チリとアルゼンチン)

第5章 巨大市場の争奪戦(先行する欧州企業。自動車産業、スーパーマーケット、通信業界の個別業界展望)

終章  世界が必要としているラテンアメリカ


最初にラテンアメリカ全体の地図と中南米やカリブ海諸国まで含めた33ヶ国の首都と現在(5億7千万人)と2050年の推計人口(約8億人)、人口増加率(平均1.3%)、都市人口の割合(平均78%)がまとめられていて参考になる。

ラテンアメリカ全体だと5億7千万人と現在のEUの人口の5億人と匹敵する規模となる。たしかに巨大市場である。

小学校のクラスで世界の国と首都を覚えるコンテストをやったこともあり、筆者はもとから世界の国と首都には自信があった。加えてアルゼンチン2年と米国に9年駐在していたので当然すべてのラテンアメリカの国を知っていると思ったが、カリブ海の国は初めて名前を聞く国もあった。

たとえばセントクリストファー・ネーヴィスという国の首都はパセテールだという。またセントルシアの首都はカストリーズという町だ。全然知らなかった。

さらにドミニカ国(首都ロゾー)とドミニカ共和国(首都サントドミンゴ)の両方があるとは知らなかった。

筆者は世界40余りの国を出張や旅行で訪問したことがあるが、中米・南米33ヶ国のうち訪問したことがあるのは11ヶ国だった。

南米は日本からは最も遠い地域なので、親しみが薄いかもしれないが、日本との関係という意味では、多くの移民の人の功績もあり親日国が多い。ブラジルの日系人は政治経済面で存在感があり、アルゼンチン・チリともに親日国だ。

アルゼンチンは日露戦争の時に、イギリスの口利きでイタリアに発注していた戦艦2隻を日本に譲った。これが日進春日の両戦艦でともに日本海海戦で活躍した。アルゼンチンの人はこのことを覚えていて、日本人がタンゴ好きということもあって、親日派が多い。


なぜ、今ラテンアメリカなのか?

この本では「なぜ、今ラテンアメリカなのか」という命題から始め、ラテンアメリカの豊富な地下資源と食料資源を紹介し、ラテンアメリカの潜在力を強調している。

2007年5月に南米の12ヶ国の首脳が集まって「南米諸国連合(UNASUR)」の設立で合意し、2007年12月には南米銀行の設立にも合意している。ラテンアメリカ共通の問題である通貨危機、対外債務危機の再発を防止する意図である。

それまでバラバラだったラテンアメリカはこのように近年結束を固めている。ベネズエラのチャベス大統領など、反米の首脳も出現し、もはやアメリカの裏庭という感じではなくなりつつある。


ブラジルの実力

このブログを読まれる人は、ブラジルには世界第3位の飛行機メーカーがあることをご存じだろうか?世界の中型機市場ではブラジルのエンブラエルがナンバーワンであり、JALもエンブラエル機導入を決めている。

ブラジルというとコーヒーとか最近は原油生産が注目されているが、ITも進歩しており電子投票の普及、完全に電子化された世界第3位の株式市場であるBOVESPAがある。

また今や日本食ブームでサンパウロの日本料理屋は600店を超え、ブラジル名物のシュラスケリア(焼肉店)を上回ったという。

ブラジルは鉄鉱石の世界最大の生産国で、三井物産が1000億円を投資したヴァーレが世界ナンバーワンだ。もっとも三井物産の鉄鉱石ビジネスは永年オーストラリアがメインで、ブラジルに投資したのは比較的最近の約20年ほど前である。

CAEMIという資源会社に投資し、それが合併で今のヴァーレとなり、さらに株を買い増したものだ。

ヴァーレは昔はリオドセという国策会社だったが、現在は民営化され、多額の税金を国に払っているという。

食料では有名なコーヒーに加え、最近では鶏肉も世界ナンバーワンだ。ちなみにコーヒー生産・輸出の第2位はベトナムで、筆者はてっきりコロンビアだと思っていた。

ブラジルは対外債務増大で1980年代に経済危機に陥ったが、現在は純債権国となっている。国債の格付けでもS&PがBBB+で投資適格となり完全復活を遂げた。(ちなみにS&Pの格付けでは、ラテンアメリカではチリがAA,メキシコがA+で、ブラジルのBBB+は第3位である)

弱点だった石油も2007年に自給率100%を達成し、最先端の海底油田掘削技術を生かして最近では大型の海底油田が続々と発見されている。

ほとんどの油田がリオデジャネイロの沖合の海底にある。ブラジルの原油を独占するペトロブラスは原油埋蔵量ではエクソン・モービル、BPに次ぐ三位グループである。

この本では著者の山口さんがヴァーレやペトロブラスのIR担当に直接面談しているので、参考になる。

かつてはハイパーインフレで有名だったが、インフレ率も2006年、2007年は3−4%に留まっている。天然資源だけでなく、製造業も大きく、自動車産業は2007年には世界第7位の約3百万台を生産している。


メキシコ

ラテンアメリカとは南米+メキシコという意味で使っている言葉だが、メキシコ(北米)と南米では相当状況が異なる。

「フラット化する世界」で紹介されていた通り、アメリカから製造業が大挙してメキシコに移ってきた時代が終わり、今や中国とメキシコが競合となり中国が勝ちつつある。

フラット化する世界 [増補改訂版] (上)フラット化する世界 [増補改訂版] (上)
著者:トーマス フリードマン
販売元:日本経済新聞出版社
発売日:2008-01-19
おすすめ度:4.5
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アメリカの貿易相手国としては中国が長年1位だったカナダを抜きトップで、長年2位だったメキシコは第3位になっている。

メキシコも対米依存度を下げ、他の市場を開拓する必要性を感じ、日本はじめ44ヶ国とFTAを結んでいる。しかし輸入は増えているが、今のところ輸出の90%はアメリカ向けで、輸出に関してはFTAの目立った効果は出ていないという。

メキシコは2006年3月に大統領が交代し、ハーバード大学出身のカルデロン大統領が就任した。就任1年で60%という高い支持率を背景に、長年の問題だった1.年金改革、2.税制改正、3.選挙法改正の3大改革をおこなった豪腕である。

メキシコの原油生産は世界第6位で、石油が主要産業であることは間違いないが、自動車生産も約2百万台でカラーテレビとともに主要輸出品となっている。

日系企業のなかでメキシコで存在感があるのは日産だ。筆者が会社に入った頃から日産はメキシコで生産していたので、現地生産はたぶん30年以上になると思う。2007年にはメキシコでの生産台数は50万台とGMを抑えて第1位となった。


南米の優等生チリ

チリは南米の優等生だ。人口は1,800万人と少ないが、一人当たりのGDPは約1万ドルで、ここ5年で倍になっている。成長率は4−5%、財政収支も数年連続で黒字で2007年は8.7%の歳入超過となっている。

サンティアゴの地下鉄ではICカードが導入されているという。

チリでの産業では銅、ワイン、サーモン養殖などが有名だ。

チリは医者出身で女性のミシェル・バチェレが大統領だ。バチェレ大統領のお父さんは拷問で殺されている。

ジェトロの話だと、チリはブラジルより10年先を行っているという。

チリはアジアとの結びつきを深めており、自動車は日本車や韓国車が多い。FTA(Free Trade Agreement)があるので、無関税で輸入できるからだ。

元々南米にはいなかったサーモンの養殖も、チリのフィヨルド地形に目を付けた日本政府のODAで始まったのが最初で、それを国際入札でニッスイが引き継いだ。筆者の三菱商事の友人も水産部出身で、チリに駐在していた。

日本にもスモークサーモンなどが輸出されているが、主要輸出先はヨーロッパだという。

チリは太平洋側には便利だが、大西洋側に出るにはアンデス山脈を越えなければならない。そこでアンデス山脈をつらぬくトンネル建設構想もあるという。


アルゼンチン

筆者が昔2年間住んでいたアルゼンチンブエノスアイレスは、今やビル建設ラッシュだという。

アルゼンチンというと対外債務でデフォルトを行い、高い失業率という印象がある。たしかに1999年から2002年まではマイナス成長が続いたが、経済成長率は、2003年からここ5年連続で8%を超えており、2007年のは8.7%だ。

輸出も拡大しており、2007年は100億ドル以上の貿易黒字を記録している。大統領は前大統領の妻クリスティーナ・キルチネル大統領だ。ヒラリークリントンは大統領になれず、オバマ政権で国務長官に就任しそうだが、アルゼンチンでは夫婦で交代して大統領というのがペロン政権でも実績があり、今回も実現している。

アルゼンチンというと畜産や農業国というイメージが強いが、自動車産業も年間50万台を生産している。石油も自給でき、天然ガスも有望視されている。

2002年以来主要農産物には輸出税が課せられており大豆、小麦、トウモロコシ、油脂などの税金が引き上げられている。アルゼンチンが力を入れているのがピーナッツであり、2007年には世界第2位の生産国になった。

日本企業では本田、トヨタ、片岡物産(ワイン)、NECのソフトウェア開発センターなどがある。

アルゼンチンは20世紀前半は世界でも最も裕福な国の一つだった。両方の大戦中に終盤まで中立を保って両陣営に食料を売って外貨を稼いだので、第2次世界大戦後も大変裕福な国だった。

たとえば筆者が下宿していたアパートのオーナーは、同じ電話番号を50年間使い続けていると言っていた。

日本で言うと昭和の初め頃から一般家庭に電話が普及していたのだが、それが全く更新されなかったので、雨が降ると電話が繋がらないという状態だった。

国内の長距離電話をかけるよりも、国際電話をかけた方がつながるという笑い話のような状態が続いていたが、それを改善したのが1980年代にNECが入れた電話交換機ネットワークだ。

地下鉄も世界でロンドン・パリに次いで3番目に建設されたが、それが更新されなかったので、筆者がいた当時は全く路線が広がっていなかった。その後日本の東京メトロの中古地下鉄車両を輸入したり、路線を拡大したりしている。

筆者の好きな国だが、経済面ではブラジルとは大きな差が付いてしまった。せめてサッカーではブラジルに勝って欲しいと思っているが、「名選手必ずしも名監督ならず」のことわざ通りマラドーナ監督には一抹の不安がある。

余談になるが、最初にマラドーナのアルヘンティーノ・ジュニアーズ時代のプレイをテレビで見たときは衝撃を受けた。

当時18歳だったが、ドリブルでタックルされてもボールを持ち続け、最後はゴールしてしまうというテクニックに、思わず一緒にテレビを見ていた同じ下宿のアルゼンチン人の友人に「こいつは誰だ?」と聞いたものだ。

1986年のメキシコワールドカップ対イングランド戦のマラドーナの伝説の6人抜きのゴールがYouTubeに収録されている。




著者の山口伊佐美さんが働くブラックロックジャパンはファンドマネージャーで、たぶんラテンアメリカ関係のファンドを立ち上げるための資料として、この本を出版したのだと思う。

たしかに山口さんが言うように、中間層が多い、国内需要が大きい、国家財政の健全化、インフレ抑制で投資適格になっている、未開発の資源、世界の供給源となっている農産物、優秀な人材等の面で、ラテンアメリカはこれから益々注目されると思う。

ラテンアメリカ通の筆者として欲を言わせてもらえば、貧者に住んでいる家の占有権を認めたエルナンド・デ・ソトの改革と金属相場上昇で、2006年の株価上昇率で世界第1位になったペルーの現状も紹介して欲しかった。

また世界最大級の天然ガス田が発見され、石油も生産しているのでOPECに入るという話もあるボリビア、反米チャベス政権のベネズエラなどの現状も書いて欲しかったが、この辺の国は投資対象にはならないという整理なのだと思う。

良い取材に基づいたしっかりした内容で、ラテンアメリカの現状が頭にスッと入る。是非多くの人に読んで貰いたい本である。


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Posted by yaori at 01:36│Comments(0) ビジネス | 経済