2008年12月05日

ロシア・ショック 大前研一氏の新著 日本にとって極めて重要な国ロシア

ロシア・ショックロシア・ショック
著者:大前 研一
販売元:講談社
発売日:2008-11-11
おすすめ度:4.5
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日本人よ、今こそロシアとの新しい関係を構築せよ!と呼びかける大前研一氏の最新作。

グラフ等も多く資料としてもすぐれており、世界金融危機発生後の10月頃に書き終えた本なので内容も最新だ。

読んだ本しか買わない筆者が買った今年6冊目の本だ。

前回紹介したように発刊前に図書館で予約したので、2008年11月11日の発売の本を11月16日に手に入れ、先週読み終えた。

いま日本が最も注目すべき国はどこかと聞かれれば、大前氏は悩むことなくロシアと答えるという。これからの世界の潮流のなかで、最もインパクトを持って台頭してくるのがロシアであり、そして実は日本と最も相性が良く、関係を大事にしていかなければならない国がロシアなのだと。


大前さんのロシア原体験

ロシアは日本の面積の45倍、時差は11時間ある。人口は日本よりやや多い1億4千万人だが減少しつつある。

大前さんはMITの学生生活の最後の年、1970年にソ連時代のロシアを訪問して、それ以来40年間ロシアの変貌を見てきたという。

大前さんの最初の訪問では、ビザを持っていたにもかかわらず、シェレメチェボ国際空港の係員に空港から外にでることを禁じられ、まるで収容所のようなターミナルに閉じこめられたという。

空手のふりを見せ、係員と交渉してJALのチケットをアエロフロートのチケットに代えることで(これで係員はドルが入る)、モスクワの町に行くことができ、リムジンに案内係付きでモスクワを観光したという。

暗殺されたアンナ・ポリトコフスカヤの「ロシアン・ダイアリー」のあらすじで書いたが、筆者も1993−4年にロシアを訪問したので、シェレメチェボ国際空港はよく覚えている。

今はさすがに変わっているのではないかと思うが、そのころはシェレメチェボ国際空港をはじめ、ほとんどのロシアの空港は右ウィングと左ウィングに分かれていた。

片方が外国人とCIS国民向け、もう片方がインド(?)、キューバやアフリカなどの同盟国からの出稼ぎ労働者向けだったと思う。どちらも人でごった返していたが、出稼ぎ労働者ウィングはターミナルで寝起きしている人も多く、まるで家畜小屋だと言われていた。

そして中央部が「代議員ホール」と呼ばれる特権階級しか利用できないところで、日本企業の駐在員・出張者はそこを利用できていた。

当時は飛行機はターミナルには直づけはせず、ターミナルから飛行機までバスか歩きで行ったので、こんな風にターミナルが分けれていたのだ。

大前さんはたぶん出稼ぎウィングに押し込められたのだと思う。


ロシアは日本の最良のパートナー

ソ連が崩壊して、ロシア国民はどん底を経験したが、プーチン政権での最近の劇的な経済の復活、社会の変化には目を見張るばかりだ。

ロシアは生産量・埋蔵量ともに世界第1位の天然ガスと、世界2位の生産量の石油があり、外貨準備は潤沢で経済成長が著しい。なにより教育水準がBRICsのなかではずば抜けて高く、ITや先端技術の人材も豊富である。

エネルギー資源がなく、人材も不足している日本にとってロシアは最良のパートナーである。

柔道家のプーチンの日本好きは有名だが、一般のロシア人でも無条件に日本のことが好きだという。日本の製品があれば最優先で買い、オタク文化まで愛してくれるという。これほど無条件に日本の事を好きなのは、世界の中でロシアとインド、そしてトルコぐらいのものだと大前氏は語る。

ロシアは日本にとって極めて重要な国なのだ。


プーチンのロシア

ゴルバチョフのソ連時代からエリツィンのロシア時代まで経済成長率はずっとマイナスで、エリツィン大統領初年度の1992年には最悪のマイナス15%を記録した。

ところがプーチンが大統領代行になった1999年からプラス成長に転じ、大体6%前後の成長を続けてきた。

一つの要因は、それまで12〜30%の累進課税で年収5,000ドル以上は30%の税率だったため脱税や地下経済が盛んだったが、税率をすべて13%のフラットタックスにすることで、アングラマネーが表に出てきた。2001年、2002年には個人所得はそれぞれ約25%増加し、国家財政は好転した。

1999年に1バレル10ドル程度に下落していた原油価格が、2000年代を通じて上昇したことも大きい。原油高が経済を押し上げ、ロシアは債務国から債権国に転じ、外貨準備は急増し2008年7月末で中国、日本に次ぐ世界第3位の約6,000億ドルになっている。

プーチンは2期目になると年金改革を行い、年金額を徐々に上げたので高齢者の人気も高まり、2007年には支持率は92%という驚異的なものとなった。プーチンの後を継いだメドベージェフもプーチン人気を受け継ぎ、今年5月に政権が誕生したときの支持率は70%強だった。

支持率が高い最大の要因は、プーチンが強いロシアを復活させたからだ。

プーチンは自分でジェット戦闘機を操縦して地方に行き、柔道では5段の猛者だ。YouTubeにプーチンが山下泰裕氏と一緒に撮った柔道のプロモーションビデオが載っているので紹介しておく。



2007年グアテマラで開かれたIOC総会で、プーチンは冬季オリンピック開催をソチに招致するために流ちょうな英語とフランス語で演説を行い、冬ソナで有名な平昌(ピョンチャン)を押すライバルの韓国のノムヒョン大統領の演説とは雲泥の差だったという。

YouTubeにも収録されているが、説得力ある英語の演説はたいしたものだ。



プーチンはまだ56歳と若いので、側近のメドベージェフに4年間大統領をつとめさせた後に、再度大統領として登場し2012年から2020年まで大統領となると大前さんは予測している。


高学歴人材が最大の資産

ソ連の残した最大の遺産が人材だ。ロシアの大学以上の進学率は72%で、ブラジルや中国の20%台とは圧倒的な差がある。

人口はインドの1/8だが、ロシアはインドと同じ毎年20万人の大卒IT技術者を輩出している。

道徳教育の質も高い。松下幸之助の「道をひらく」には、ソ連の「生徒守則」に「年上のものを尊敬せよ。親のいうことをきき、手助けをし、弟妹のめんどうをみよ」と書かれていることを紹介している。

道をひらく道をひらく
著者:松下 幸之助
販売元:PHP研究所
発売日:1968-05
おすすめ度:5.0
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こういった一般国民に対する道徳教育の面では他のBRICs諸国とは比較にならないほど、ロシアがすぐれているのではないかと思う。

モスクワで1,500人の宇宙工学のエンジニアを雇用するボーイングや、ロシア各地で3,000人のエンジニアを雇用するインテルの話を紹介している。

インテルについては面白い話を紹介している。インド人のプログラマーは、「まず、スペックを見せてくれ」という。ロシア人のプログラマーは、「どこが問題なのか?何を解決してもらいたいのか?」と聞くという。彼らは元々プログラマーではない。科学者なのだ。

この本ではロシア地場のレクソフトルクソフト(Luxoft)とか、データアート、ベラルーシのIBAなどのロシアIT企業を紹介している。

勿論アメリカと競った宇宙技術や軍事技術は世界トップクラスであり、他のBRICs諸国とは比較にならない。だからボーイングも進出してきたのだ。


ロシア型格差社会

ロシアの一人当たりGDPは2007年で9,000ドル程度だが、地域格差が大きく、自然条件は厳しいが油田のあるネネツは52,000ドルと高い。上位は油田やガス田地帯だが、資源のない地方は平均以下だ。

所得格差も大きく、2006年で人口の93%が年収1,200ドル以下。一方年収約15億ドルを超える人が60人いて、かれらだけで国全体のGDPの16%を占めている。

ロシアの資産家はフォーブスのビリオネアランキングに87人ランキング入りしており、アメリカに次ぐ数だという。

アルミ世界最大手のUCルサールのデリバスカ氏、イギリスのサッカーチームチェルシーのオーナーの石油王アブラモビッチ氏、鉄鋼王セベルスターリのモルダショフ氏、金融・小売コングロマリットのアルファグループのフリードマン氏などが有名だ。

ロシアで格差が広がったのは、国営企業民営化で12歳以上の全国民に1万ルーブル相当の国営企業の株券バウチャーが配布されたが、ほとんどの人は意味がわからずバウチャーを売り払った。それを大量に買い集めた人がオリガルヒと呼ばれる大富豪になったのだ。

ロシア人の平均寿命は59歳と短いこともあり、お金があれば貯蓄でなく消費にまわす傾向が強く、消費ブームが起こっている。嗜好もかわりつつあり、いまやアル中を生み出すウォッカではなく、ビールが人気なのだという。


無条件に日本が好きなロシア人

ロシアでは寿司が評判になり、モスクワでは市内に600軒もの日本料理屋があるという。プーチンも週に1回は寿司屋に行くという。

意識調査によるとロシア人の74%は日本が好きと答えており、日本人の82%のロシアに親しみを感じないと答えているのと好対照だ。

反日感情の強い中国の21%は別にしても、他のBRICsのブラジルの68%、インドの60%に比べても高い。

ロシアのPR会社の社長は、「現在のロシア社会で、日本ほど魅力的なブランドの国はない」と言い切る。「日本はまだこのことに気が付いていない」と。

ユニクロが最近モスクワ進出を発表したが、このことにユニクロの柳井さんは気が付いたのだろう。

ソ連時代からアメリカ嫌いが染みついているロシア人は、日本製品がアメリカ市場を席巻したり、アメリカの企業を買収したりしているのをみて、日本はスゴイと敬意を持つようになっているという。


日本企業のロシア進出

日本のロシアに対する直接投資は2007年末でわずか3億ドルに過ぎないが、電化製品など売れて売れてしょうがない状態で、各社ものすごく儲かっているという。

ロシアで一番大きなビジネスをしているのはJTで、ロシアのタバコ市場の34%のシェアを持ち、大きな利益を上げているという。

自動車メーカーもロシア市場向けの販売を伸ばしており、三菱自動車はセクシーカーという評判で、ロシア市場で人気が高い。トヨタとニッサンはサンクトペテルブルグの周辺で工場を稼働中だ。

トヨタのサンクトペテルブルグ進出は同市出身のプーチンの肝いりと言われているが、トヨタ元会長の奥田碩さんはたしか柔道六段で、山下泰裕氏と対談本を出しているほどなので柔道がとりもった仲かもしれない。

武士道とともに生きる武士道とともに生きる
著者:奥田 碩
販売元:角川書店
発売日:2005-04-25
おすすめ度:3.0
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日本のロシアに対する最大の投資はサハリンIサハリンIIの石油・天然ガスプロジェクトだが、日本ではロシア政府の横やりで権益を奪われたというマスコミ報道だった。

ところが大前さんが話を聞いた当事者の一社の三菱商事の担当者は冷静で、「とんでもないことをやられている」と思われるだろうが、事業会社の株式譲渡はノーマルでフェアなビジネスだと語っている。

もともとホストカントリーの事情変更で、ガスプロムが入ってくることは予想していた。ガスプロムが過半数の51%を握ったが、その評価を下すのはまだ早いと語っている。

たしかに株を売った三菱商事や三井物産からの、恨みつらみというのは筆者が記憶するかぎりなかったと思う。

日本側としては株を適正価格で売却し、プロジェクトのリスクを取り除き、ガスの引き取り権は失わずにすんだ「うまい話」の範疇に入るのだと大前さんは説明している。


ロシア進出の十大心得

この本で大前さんは、インシアード大学のスタニスラフ・ジェクシューニア教授が、外資30社のトップにインタビューした結果のロシア版「十戒」を紹介している。

1.ロシア人とともに、ロシアのために働く(ロシアはアジアでもヨーロッパでもない)
2.ロシアのルールを尊重しつつも、自分の流儀を忘れない
3.政府や各種行政機関との関係を構築し、人脈作りに励む
4.核心に対しては断固たる態度で、枝葉末節には柔軟に対応する
5.窮地に活路を見出す術を学べ
6.腐敗は生活の一部。うまく対処する術を身につけよ
7.権威主義ではなく、本物のリーダーシップを発揮すべき
8.権限委譲は難しいが重要。それゆえ段階的に実施すべし
9.海外企業の個性が強調されたワンカンパニーを確立すべし
10.早期警戒管理体制を敷く

大前さんは、中国は全体主義、共産主義の国であり、これからは矛盾があちこちに出てくるリスクがあるが、ロシアは資本主義国であり、一度地獄を味わっているので逆に強いと評価している。

経済面では中国は地方分権だが、ロシアは依然として中央集権で官僚制度が温存され許認可など昔のままという問題がある。また原油価格がピークの1/3になったこともあり、一本調子でロシア経済が伸びていくかどうかはわからないが、共産中国対資本主義ロシアというのが21世紀の構図である。


21世紀のパラダイム変換

中国とロシアは永年ウスリー川の国境問題をかかえ、一時は流血の衝突があったが、2008年7月に4,300キロにおよぶ国境を確定している。

ロシアは欧州ロシア、中央部のシベリア、極東の3地区に大きく分けられるが、極東は開発が遅れ、人口も660万人しかいない。隣の中国の東北3省だけで人口は1億人いるので、潜在的に中国に対して恐怖心を持っているという。

そんな状況なので、日本もここで北方四島をめぐるトゲを抜いて、メドベージェフ大統領に点を稼がせ、資源国ロシアと工業国日本の互恵関係をつくることを大前さんは提案する。

旧ソ連諸国や東欧諸国は、様々な事情でロシア離れをしており、EUやNATOに接近をしている。大前さんは、この流れがさらに進み、プーチンの第二期政権?の終わる2020年にはロシアもEUに加盟しているのではないかと予想する。

ジェトロのEUでの意識調査によると、EUの人たちの65%はEUに入るのはロシアがトルコより先と考えているという。

通貨ユーロが強くなっているが、ユーロ導入にあたっては厳しい規律があり、財政赤字はGDPの3%以下、政府債務残高はGDPの」60%以下。物価上昇率と金利変動も一定以下が求められている。輪転機を回せば済むドルや円とは規律が違うからユーロは強くなるのだという。


日ロ関係の未来図

最後に「日ロ関係の未来図」として、大前さんは長谷川毅氏の「暗闘」という第二次世界大戦で日本が降伏に至るまでの過程を描いた作品を紹介し、トルーマンとスターリンの駆け引きで、北海道を南北に分割せよとのスターリンの要求を退ける案としてアメリカが北方領土の領有を認めたという説を紹介している。

暗闘―スターリン、トルーマンと日本降伏暗闘―スターリン、トルーマンと日本降伏
著者:長谷川 毅
販売元:中央公論新社
発売日:2006-02
おすすめ度:5.0
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この本には興味を持ったので、近々読んであらすじを紹介する。

北方領土は日本固有の領土と言っても、戦後処理でソ連領となったわけでもあり、いまさら間宮林蔵を持ち出しても話は進まない。

実はロシアにとってみれば北方領土四島はそれほど重要ではない。しかし返すためにはインセンティブが必要なので、ロシア国民を納得させる理屈を考えて、物事を進めるべきだと提案する。

1997年の橋本龍太郎・エリツィン会談では、ロシア側は二島先行返還、二島継続協議という案を示したが、これはまさに佐藤優ラスプーチンの外交成果だった。

ロシアは外貨準備が積み上がり、ロシアのSWF(政府系ファンド)である「安定化基金」は世界最大規模のアブダビを抜いて百兆円以上にもならんとしている。もはや少し金を出せば手放すといった「鈴木宗男的発想」はまったく通用しなくなっている。

むしろロシアのあり余る金を使って、日本がアジア諸国と一緒に経済開発を技術的に手伝う、ロシアの原子力発電所建設やシベリア鉄道高速化などで手助けすることが感謝されると大前さんは語る。

大前さんは以前からロシア沿海州と日本の日本海側で地域経済圏をつくれとか、斬新な提案をしているが、この本では日ロ賢人会議で検討するとか、怒る人がいることを承知で、国連信託統治領のような方法を考える手もあるのではないかと語る。

旧島民の気持ちも理解できるが、北方領土が返ってきても、利権の巣窟となり、不要な護岸工事や道路工事が相次いで、納税者の立場からいえば返ってこなかった方が良かったという事態にもなりかねないと大前さんは危惧する。

大前さんが提案するのは、日ロが平和協定を結び、極東やシベリアを共同で開発することだ。サハリンの天然ガス以外でも森林・地下資源・観光資源を開発する。たとえばカムチャッカは最高の釣りレジャー地区となるだろうという。

これからの十数年で世界が体験する「ロシア・ショック」は極めて大きく、日本にとって最大のチャンスにもピンチにもなりうる。

今のロシアは日本人が抱いている冷戦時代のイメージから大きく変化している。いずれロシアとEUが一体となり、世界の極となろうとしている。こうした時代に日本だけが、北方領土問題にこだわり続けていいはずがないと大前さんは語る。


データも最新で大変参考になる。冒頭に書いたとおり筆者が今年読んでから買った6冊目の本だ。是非一読をおすすめする。


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Posted by yaori at 00:03│Comments(0)TrackBack(0)ビジネス | 大前研一

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