2010年10月10日

日本は原子爆弾をつくれるのか NHKスクープドキュメントに関連して

2010年10月10日追記:

NHKのスクープドキュメント「”核”を求めた日本ー被爆国の知られざる真実」が10月3日からNHK総合テレビやBSで放映された。

それのきっかけとなるニュースがYouTubeに掲載されている。



またNHKオンデマンドで有料で配信されている。

NHK核を求めた日本





1964年の中国の核実験成功やインドの核兵器を持とうという動きをにらんで、当時の佐藤栄作政権は、日本の核保有を真剣に検討していたことが報道されている。

当時の内閣調査室で1968年9月に「日本の各政策に関する基礎的研究」というレポートが作成されている。

日本の核政策に関する基礎的研究






日本の核政策に関する基礎的研究結論






NHKの画面から結論の部分を読み取ると次の通りだ(一部画面からは読み取れない部分は筆者推測)。

「結び 要するに、単にプルトニウム原爆を少数製造することは可能であり、また比較的容易である。しかし、近い将来有効な核戦力を創設するというのであれば、前述のような多くの困難が横たわっている。

日本の核戦力創設能力の検討に当たっては、技術的、財政的、人的・組織的条件だけから結論を導き出すことは不可能であり、さらに戦略的、国民心理的、外交的側面について十分に検討することが必要である。」

この研究結果を受け、佐藤栄作首相は米国の核の傘の下に入ることをきめ、訪米時に当時のジョンソン大統領に「日本防衛が核攻撃を含む攻撃に遭った時でも、日本を防衛する」との言質を取っている。

このときのマクナマラ国防長官との面談時に、佐藤首相は「日本の安全確保のために核を持たないことははっきり決意しているのだ。米国の核の傘の下で安全を確保する。」と語っている。

その2ヶ月後、核兵器の絶滅を目ざす、持たない、つくらない、持ち込ませないという非核3原則を表明する。佐藤元総理はこの非核3原則で、1974年のノーベル平和賞を受賞した。

佐藤元首相は非核3原則を世界各国に広めようとノーベル賞受賞スピーチで、そのように呼びかけようと原稿を作成するが、直前にアメリカのキッシンジャー国務長官がアメリカの核戦略を縛るような発言に不快感を示したため、授賞式では非核3原則には触れられなかった。

米国の核の傘の下に入った日本は、唯一の核被爆国にもかかわらず、核軍縮を求める国連決議の大半に反対か棄権している。「日米安保条約で核の傘で守って貰っているのだから、相手(米国)が嫌だということが分かっている決議には、反対か棄権することはしょうがない。」という立場を貫いている。

先月の国連総会での菅直人首相の「唯一の被爆国である日本は、『核兵器のない世界』」の実現に向けて具体的に行動する道義的責任を有している」という言葉が空虚に響く。

ドイツはヨーロッパ各国と連携し、ヨーロッパに配備されている米国の核兵器を撤去するように働きかけているという。

考えさせられるNHKの番組だった。

この番組をよりよく理解するために、米国在住の日本人科学者が書いた「日本は原子爆弾をつくれるのか」を再掲する。


2009年2月20日初掲:

日本は原子爆弾をつくれるのか (PHP新書)日本は原子爆弾をつくれるのか (PHP新書)
著者:山田 克哉
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原子爆弾や量子力学についてブルーバックスなどで入門書をいくつも書いているロサンジェルス・ピアース大学物理学教授の山田克哉さんの本。

タイトルに惹かれて読んでみた。

この本はアマゾンのなか見検索に対応しているので、是非目次をチェックしてみてほしい。それぞれの項のタイトルまで読めば大体この本の内容が推測できると思う。

量子力学の基本から始めて、1938年ナチス時代のドイツで核分裂が発見され、ヒットラーが原子爆弾を開発することを恐れたアメリカがマンハッタン計画を立ち上げ、延べ45万人を投入して3年間で原子爆弾をつくりあげたこと。原子力発電技術と原子爆弾製造技術は全く異なるが、日本の技術をもってすれば3年から5年程度で原爆は作れる可能性があることなどを説明している。

しかし核武装についての国民のコンセンサスが得られないだろうし、たとえ原爆製造能力はあっても、日本は決して原爆製造をすべきでないと結んでいる。


放射能と放射線

原爆が怖いのは、爆発したときの衝撃波と超高熱もあるが、放射能放射線による人体への影響が長期間にわたって続くことだ。

放射線は放射性物質が放つもので、次の4種類がある。

1.アルファ線
  ウランなどがアルファ崩壊するとエネルギーとともに、ヘリウム原子の核と同じ2個の陽子と2個の中性子が核から吐き出される。これがアルファ線で電荷(プラス)も質量もある。

  アルファ線は物質や人体を構成している原子と激しい電気反応を起こす。人体に当たると皮膚で激しく反応し、呼吸器から吸い込まれると肺の細胞を壊し肺がんを誘発する。

2.ベータ線
  核がベータ崩壊すると中性子が陽子に変わり、電子が核外に飛び出す。これがベータ線で、マイナス電荷をもつ。質量はアルファ粒子の1/7000。

  ベータ線が人体に入ると原子から電子を弾き飛ばすので細胞が機能を失い、場合によっては細胞は死滅する。大量のベータ線が頭にあたると髪の付け根の細胞が死滅し、髪が簡単に抜けてしまう。

3.ガンマ線
  核がアルファ崩壊、ベータ崩壊を起こした後、エネルギーの高いガンマ光子と呼ばれる粒子が核から吐き出される。これがガンマ崩壊で、放出されるのがガンマ線だ。電磁波なので電荷も質量もない。
  
  ガンマ線も電子を吹き飛ばし、ベータ線のように細胞を死滅させることがある。

4.中性子線
  核から中性子が時間をかけて飛び出すもの。電荷はないが質量はある。

  中性子は核に吸収されやすく、中性子過剰になった核はベータ崩壊を起こし、元素自体が放射性物質に変化してしまう。


原子爆弾の構造

原爆には広島型(砲弾型ウラン爆弾)と長崎型(爆縮型プルトニウム爆弾)の2種類がある。

広島型はリトルボーイと呼ばれ、砲弾(ガン・バレル)型ウラン爆弾で、二つに分けたウラン塊を爆着させることで、臨界を起こし、核分裂を起こさせる。課題は核分裂の持続時間がせいぜい100万分の1秒程度と短く、多くの核が分裂しないまま爆発してしまうことだ。

リトルボーイの爆弾の重さは4トン、使われた濃縮ウラン(86%)は20Kgだ(Wikipediaでは約60Kgとなっている。どちらが正しいのか不明)。

Little_boy





出展:Wikipedia

一方長崎型プルトニウム爆弾はファットマンと呼ばれる球状の爆縮型で、真ん中がポロニウムとベリリウムでできた中性子発生体。次に直径4.2Cm,重さ6.2Kgのプルトニウム、まわりを厚さ7Cmのウランで固めている。

それをさらに燃焼速度の異なる二種類の爆薬でつくられた爆縮レンズで取り囲み、爆薬の衝撃波でプルトニウムの臨界をつくり核分裂を起こすのだ。

Fat_man





出展:Wikipedia


Implosion_Nuclear_weapon






出展:Wikipedia

次の図はアニメーションになっていて、爆縮する過程を示しているので、クリックしてみてほしい。

Implosion_bomb_animated








出展:Wikipedia

砲弾型より爆縮型の方が核分裂効率が高く、少ないプルトニウムあるいはウラン量で爆弾ができるので、こちらが主流だ。

爆縮レンズは2種類の爆薬を組み合わせた複雑な構造をしているが、これが可能となったのはフォン・ノイマンの数学的計算によるものだという。

アメリカは1956年に小型原爆の開発に成功し、スワンと名付けている。これは第三の原爆とも呼べるもので、英語でBoosted fission weaponと呼ばれている。重水素(D)と三重水素(T)のD−Tガスをプルトニウム球の中心に入れた構造のものだ。

D−T型原爆がもっとも効率が良く分裂比率が30%、長崎型で14%、広島型は1.4%だという。

その他の核兵器としては、核融合反応を用いた水爆、中性子爆弾(建造物に影響は少ないが、生物の細胞を破壊する)、コバルト爆弾(放射能汚染がひどい)、そして劣化ウラン弾がある。

湾岸戦争でも使われた劣化ウラン弾は、ウラン濃縮で残るウラン238を砲弾につかったもので、鉛の倍の比重があり貫通量が高く、敵の装甲を貫通するときに1200度の高熱を発するので、敵戦車の乗員を焼死させ、さらにウランが放射性微粒子となって空中に飛散するので、肺がんや白血病の原因となる。


原爆研究のはじまり

ナチス政権下の1938年にベルリンのカイザー・ウィルヘルム研究所で、オットー・ハーンリーぜ・マイトナーがウラン235のみに起こる中性子による核分裂を発見、この事実が一躍世界に知られた。当時世界では超ウラン元素の研究を至るところで行っており、日本でも理化学研究所が研究していた。

ハーンは戦争中の1944年にノーベル化学賞を受賞している。一方マイトナーはナチスの迫害をさけるためにスウェーデンに行っていたため、オットーハーンのみがノーベル賞を受けた。

核分裂が起こると、発生するエネルギーは化学反応の100万倍以上で、数百万度の温度になる。連鎖的に核分裂を起こさせると(臨界)巨大なエネルギーが生まれることがわかった。科学者達の頭に爆弾というアイデアが浮かんだのだ。

戦争に突入したこともあり、各国はそれぞれ独自に核爆弾の研究を始めた。日本でも陸軍は理化学研究所の仁科芳雄博士に原爆の研究を依頼し、二号研究という名前で、熱拡散法によるウラン濃縮技術を研究した。

海軍も「F研究」の名称で、有名な物理学者を集め、こちらは遠心分離法によるウラン濃縮を研究したが、結局ウラン濃縮には成功しなかった。

この過程でサイクロトロンを戦争中に完成させていたが、敗戦後占領軍がサイクロトロンを東京湾に投棄させた。

ドイツの敗戦直前の1945年3月にドイツを出たU−234号にドイツから日本に供与されたMe262ジェット戦闘機、ジェットエンジン、光学ガラス、航空機の設計図と装置類、そして酸化ウラン560Kgが積まれていたが、日本へ向かう途中にドイツが降伏し、艦長は投降を決定、乗船していた日本の技術将校二人は自決した。

Messerschmitt_Me_262




出展:Wikipedia

この話は「深海の使者」という小説になっている。

深海の使者 (文春文庫)深海の使者 (文春文庫)
著者:吉村 昭
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マンハッタン計画

アメリカはナチスが原爆をつくることをおそれ、当時の金で20億ドルという巨費を費やして延べ45万人(うち科学者10万人)を動員して、原子爆弾の製造を1942年に始め、わずか3年間で原子爆弾を完成させた。これがマンハッタン計画だ。

マンハッタン計画では次の三カ所の研究所が新設された。

1.クリントン研究所(現オークリッジ国立研究所) テネシー州 
  ウラン濃縮のため、K−25と呼ばれた巨大なガス拡散法によるウラン濃縮工場で製造した濃縮ウランを、Y−12と呼ばれた電磁法(カルトロン)によるウラン濃縮工場にかけてようやく濃縮度90%近くの濃縮ウラン235を製造した。ここにはX−10と呼ばれた原子炉と熱拡散によるウラン濃縮装置も建設された。

その濃縮ウランはロスアラモス研究所に運ばれて、リトルボーイが完成した。リトルボーイは実験することなしに広島に投下された。

2.ハンフォード研究所 ワシントン州
  原子炉(黒鉛炉)によるプルトニウム239生産工場。ここのプルトニウム摘出装置は現在の核燃料再処理工場の原型である。

3.ロスアラモス国立研究所 ニューメキシコ州
  前述の爆縮機構を含む原子爆弾の起爆装置と本体を製造

ファットマンは、ハンフォード研究所の原子炉でプルトニウム239が製造され、ロスアラモス研究所で2個の爆弾がつくられ、1個で実験して威力を確認後、残る1個が長崎に投下された。

筆者の山田さんはテネシー大学の原子力工学科に留学したので、マンハッタン計画に使われたテネシー州のオークリッジ国立研究所に一年間通ったそうだが、その巨大さに驚いたという。

コードネームX−10もY−12も東大本郷キャンパスの3倍程度で、K−25に至っては本郷の10倍という広さで、研究所というより大工場を思わせたという。

アポロ計画もすごいが、ゼロから3年で原爆を完成させたマンハッタン計画は、ヒットラーが原爆を開発する前に完成させるという切迫感に迫られたプロジェクトだった。


原爆用のウラン製造

ウランは自然界に存在するものの、原子爆弾に使える放射性物質のウラン235はウラン鉱の0.7%のみで、残りの99.3%は安定したウラン238だ。この天然ウラン精鉱(次の写真のイエローケーキと呼ばれる)をフッ素化合物とし、6フッ化ウランとしてガス化する。

LEUPowder






出展:Wikipedia

そのガスを加熱かつ1分間に10万回転という超高速回転するシリンダーに入れ、ウラン238を外側に飛ばし、ウラン235と分ける。

ウラン235もウラン238も同じ元素で単に原子量が違うアイソトープなので、技術的に分離することが非常に難しい。

すこしずつウラン235の濃度を高めていって、原爆用の濃度90%程度のウラン235をつくるには、7、000台もの遠心分離機を通すことが必要だ。だからマンハッタン計画で使われたテネシー州のオークリッジ研究所は、研究所というよりは巨大工場みたいだという。


原爆用のプルトニウム製造

プルトニウムは自然界には存在しないので、原子炉をつかって作り出す必要がある。

原子炉のタイプには軽水炉(普通の水を中性子の減速剤につかうので、燃料のウラン235はロスを補うために3−5%に濃縮する)、重水炉(高価な重水を使うので、減速ロスがないので天然ウランが使える)、黒鉛炉(減速剤として黒鉛を使用。天然ウランが使える)の3タイプがある。

日本の原子力発電所はすべて軽水炉タイプで、このタイプの原子炉の使用済み核燃料棒は再処理され、ウランとプルトニウムに分離されるが、軽水炉の核燃料再処理で取り出されるプルトニウムは「原子炉級プルトニウム」と呼ばれているプルトニウムアイソトープの混合体だ。

プルトニウム238から242までの多種が含まれており、原爆に使われるプルトニウム239は60%、残りが238,240,241,242のプルトニウムであり、プルトニウム239の純度は低く原子爆弾の原料には使えない。

またプルトニウム240が曲者で、自然に未熟爆発を起こし熱を発生させるので、非常に扱いにくい放射性物質である。

高速増殖炉は、核燃料再処理で得られたプルトニウム239とウラン238を混合させた燃料棒が使われ、プルトニウム239が核分裂して飛び出した中性子でウラン238がプルトニウム239に変わる。

入れたプルトニム239が1.3倍になって帰ってくるというまさにネーミングの通り「文殊(もんじゅ)の知恵」の様な技術だが、日本では1994年に運転を開始した1年後にナトリウム漏れ事故があり、それ以来停止している。

新しい技術として、日本ではプル・サーマル原子炉の建設計画があるが、住民の反対が強くなかなか前に進まないままである。


日本は原爆をつくれるのか?

日本にはこれまでの軽水炉での核燃料再処理で得た原子炉級プルトニウムが内外にあわせて44トンあると言われているが、問題はプルトニウム240による未熟爆発で、そのままでは原子爆弾には使えない。

アメリカエネルギー省は1962年に原子炉級プルトニウムを使って長崎型原爆と同規模の原爆を作ったと発表しているが、真相は不明のままである。

原子爆弾級のプルトニウムはプルトニウム239が90%以上で、これを作るには黒鉛炉か重水炉の使用済み核燃料を再処理するか、高速増殖炉でプルトニウム239を生産するかだが、日本のもんじゅは停止したままだ。

現在の核保有国アメリカ、ロシア、中国、フランス、イギリスでは黒鉛炉で兵器級プルトニウムを生産している。上記5カ国以外にインド、パキスタンが核保有国となり、イスラエルは核保有の噂が絶えず、最近では北朝鮮が核実験を行ったが、いずれも黒鉛炉を持っている。

さらに原爆ができても運搬手段がなくては意味がないので、ミサイル制御技術も欠かせないが、日本の宇宙ロケット開発技術をつぎ込めば、弾道ミサイルを開発することは可能だろう。

山田さんは日本が核軍備に走ることを絶対反対という立場ながらも、原子爆弾をつくるシミュレーションを行っている。

必要な設備は:

1.ウラン濃縮装置
  特に理化学研究所で長年研究してきた赤外線レーザー法濃縮技術を使うと、ウラン235の濃縮は比較的小規模な設備で非常に効率よくできる可能性があるという。ウラン235に赤外線レーザーの波長をあわせれば、電荷を帯びて集合して電極に塊となってたまる。このプロセスを繰り返して濃縮ウランを製造するのだ。

2.兵器級プルトニウム生産原子炉
  高速増殖炉か黒鉛炉または兵器用重水炉。

3.核再処理設備


この本で説明されている要素技術を組み合わせれば、原爆一個つくるだけなら3年、たぶん5年程度で日本は原子爆弾の製造とミサイルによる運搬手段の核軍備が可能であろうと。

しかし世界で唯一の被爆国である日本で核武装をすることなど、到底国民感情が許すとは思えないし、山田さんも日本の核軍備には絶対反対だという。


原爆の基礎的なことがわかって、参考になる。一部の右翼政治家の日本が核武装する気になれば、すぐに数千発の原子爆弾をつくれるという発言が科学的根拠に基づいていないことがわかった。

科学、原子爆弾の知識を手軽につけるには適当な本である。まずはアマゾンのなか見検索で目次を読み、書店で一度手にとってパラパラっと読むことをおすすめする。


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Posted by yaori at 03:16│Comments(0)TrackBack(0)ノンフィクション | 自衛隊・安全保障

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