2009年03月06日

世界認識のための情報術 外務省のラスプーチン佐藤優氏のエッセー集

世界認識のための情報術世界認識のための情報術
著者:佐藤 優
販売元:金曜日
発売日:2008-07
おすすめ度:4.0
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このブログでも「国家の罠」など数冊を紹介している別名「外務省のラスプーチン」こと佐藤優さんの「週刊金曜日」の「飛耳長目」(ひじちょうもく)というコラムを集めた本。

飛耳長目とは「物事の観察に鋭敏で、見聞が広く精通していること。観察力や情報の収集力があり、物事に通じていることの形容」だそうで(goo辞書)、佐藤さんはインテリジェンスと同じ意味だという。

「週刊金曜日」とはスポンサーに頼らないマスコミを目指して、佐藤優氏や本多勝一、佐高信、落合恵子、石坂啓などが寄稿する政治・経済・社会問題を扱う硬派雑誌で、社長は辛口評論家の佐高信さんだ。

週刊金曜日






佐藤さんは「右派で国家主義者」と自分を称しているが、言っていることはそれほど偏向しているとは思わない。

この本では31のコラムをまとめている。参考になったものをいくつか紹介しておこう。


●佐藤さんが外交官になったきっかけ

佐藤さんは同志社大学神学部大学院出身。大学ではチェコのヨセフ・フロマートカの神学を研究したので、プラハ大学に留学してチェコ語を勉強しようと外務省にノンキャリとして入省した。

なぜ私は生きているか―J・L・フロマートカ自伝
著者:J.L. フロマートカ
販売元:新教出版社
発売日:2007-07
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実際にはロシア語ということになり、一瞬外務省を辞めようと思ったが、ロシア語の場合、最初の1年はロンドンなので、英語を覚えて、その後モスクワからチェコには旅行で行けば良いと思い直して、ロシア語研修を受けたという。

外交官を起訴休職中の今は、執筆活動に精を出す傍ら「フォーラム神保町」というメディア関係者のための勉強会にも参加しているという。

forum jinboucho






●外務省の病巣

佐藤氏の上司に元欧亜局長で外交のサラブレッド東郷和彦テンプル大学ジャパン教授がいる。

東郷氏は外務省が鈴木宗男を田中真紀子追い落としに使った後に、鈴木宗男を切ろうとしたとき、一連の不祥事の責任をとって辞任しろと当時の飯村官房長に言われて断る。

飯村氏は「東郷さん、あなたは切腹でなく、打ち首を望んでいるんだね」と東郷氏に言い、そのとき東郷さんの中でなにかが崩れていったという。

佐藤さんが靖国問題等で日本になにかと注文をつける中国に対して、日米同盟を基本にロシア・カードをうまく使って中国を牽制すべきだと言うと、東郷さんは、「日本が中国に対して51%譲る気構えをもつことだ」と語ったという。

東郷さんは外務省のサラブレッドだが、「東郷茂徳は、豊臣秀吉の朝鮮侵攻時に連行された朝鮮人の末裔だ。茂徳の先代までは朴と名乗っていた。もちろん差別も蔑視もあった。それでも外務大臣になった。茂徳にも僕にも日本人になっていくというのは終わりのない問題なのだ。日本の国のために捨て石になりたい。」と語ったという。

「佐藤君には沖縄の血が入っているよね。日本人(大和人)になっていくということで、佐藤君と僕には他の外務省員とは違う何かがあったんだと思うんだよ。」と語ったという。

この発言は佐藤さんの国家主義的言説の奥にある闇を見事に衝いてきたと。

なかなかおもしろい話だ。


●北朝鮮の「弱者の恫喝」

北朝鮮は2006年11月に核実験を行い、核爆弾を保有していると発表した。北朝鮮からイランやアフガニスタンなどのテロ組織に核技術やミサイルが流れる可能性が出てきた。

6カ国会議における北朝鮮は、ミュンヘン会議におけるナチスに似ていると佐藤氏は語る。ナチスとの違いは北朝鮮は領土拡張要求はないことと、核兵器という大量破壊兵器を持っている可能性があることの2点だ。

北朝鮮の原子炉は兵器用プルトニウムをつくりやすい黒鉛型なので、北朝鮮が原子炉を爆破でもすると、近隣の中国・ロシア・韓国・日本は死の灰に汚染されるおそれがある。

これが「弱者の恫喝」だ。


●プーチンのロシア

ロシアでは選挙改革が行われ、2007年12月のロシアの下院選挙から1人区が廃止され、全国区の政党を選ぶ選挙のみとなった。同時に少数党乱立を防ぐということで、投票率7%以下の政党には議席が与えられなくなった(それまでは5%)。

実際に選挙が行われるとプーチンの統一ロシアが64%、次にロシア連邦共産党12%、三位はジリノフスキーのロシア自民党で8%、第4位は公正なロシアで8%弱。それ以外は7%を切っていた。

プーチンはジリノフスキーの自民党を金で手なずけているという。

佐藤さんは当初メドベージェフの4年間をはさんで、前後8年ずつ合計20年のプーチン王朝が続くと見ていた。しかしプーチンは早くからメドベージェフを後継者として帝王学を学ばせていたことを考えると、2012年の再登板はないと思えてきたという。

ロシア首相の主な役割は内政で、首相として経済を担当し利権を握り、ロシア経済を立て直す。そしてロシアの「国体」を強化しロシア中興の祖として歴史に名を残せるならば、2012年に再出馬する必要はないと考えているのではないかと。

イデオロギー的にプーチン・メドベージェフは一体なので、2016年まではプーチン・メドベージェフ体制が続き、2016年の選挙までには、後継者を捜すだろう。そして後継者候補としては、アルカジー・ドブロコビッチ大統領補佐官などを想定していると佐藤さんは語る。

コラムの寄せ集めなので、それほど新しい情報はないが、普通本では書かないような東郷さんや佐藤さんの出自や佐藤さんが外務省職員に応募した理由などもわかり、佐藤さんの考え方を理解するために参考となる本である。


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Posted by yaori at 00:10│Comments(0)TrackBack(0) 政治・外交 | 佐藤優

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