
著者:江畑 謙介
販売元:青春出版社
発売日:2008-09-02
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テレビにもよく登場する軍事評論家江畑謙介さんの本。
来週北朝鮮が人工衛星打ち上げロケット(テポドン?)を発射すると発表しているが、テポドンが発射されたらミサイルで迎撃する可能性もあるので読んでみた。
この本では最新の軍事技術や武器の多くが写真入りで紹介されていて参考になる。
様々な角度から日本の軍事力を分析すると、軍事費の面では世界第3位かもしれないが、戦闘機や戦車、イージス艦など正面装備は世界トップクラスのものを装備していても、本当の戦闘能力、国としての脅威に対処する戦略という意味で日本には大きな問題があることがわかる。
国家の安全保障上の義務は、予想される脅威に備えることだが、日本は予想される脅威に準備をしていない点が多い。
たとえば北朝鮮の脅威は弾道ミサイルだが、日本は1993年のノドン発射自体も米軍から教えてもらって初めてわかったありさまで、1998年のテポドン発射まで日本の体制に大きな変わりはない。
米国からパトリオットミサイルと軍艦から発射するスタンダードSM−3ミサイルを整備して、今度は北朝鮮の弾道ミサイルは迎撃できると言っているが、はたしてそれができるのか。
弾道ミサイルの発射を監視し、早期発見する軍事衛星網はすべて米国に頼っている。2008年に宇宙基本法が成立したので、日本も早期警戒衛星を持つ道が開けたが、江畑さんは衛星でなくともたとえば無人飛行船でも早期警戒はできると語る。
巡航ミサイル防衛もできていない。

トマホーク巡航ミサイル
出展:Wikipedia
北朝鮮がウクライナから巡航ミサイルを買って、核攻撃能力を備えたというのが、手嶋龍一さんの「ウルトラダラー」のストーリーだが、日本は超低空で飛行する巡航ミサイルの迎撃体制はない。

著者:手嶋 龍一
販売元:新潮社
発売日:2007-11
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防衛庁は巡航ミサイル探知能力に優れるF−22導入を進めたい考えだが、巡航ミサイルを探知するために超高価でしかも米国が販売を許可しないF−22導入を考えるのは誤りだと江畑さんは指摘する。

出展:Wikipedia
早期警戒機や、早期探知気球など安価なソリューションが他にある。
日本には長距離地上攻撃能力も対地精密攻撃能力もない。北朝鮮の基地を叩こうといっても、どだい無理な相談なのである。
総合作戦能力もない。帝国陸軍、帝国海軍の連携の悪さを引きずり、陸上自衛隊のヘリコプターを船内に収納できる護衛艦はない。
専守防衛に反するとして、パワープロジェクション能力(短時間に兵員を投入できる能力)を整備していない。だから国際的な人道活動や平和維持軍などにも迅速に対応できない。
サイバー戦の準備も後手だ。2008年3月に自衛隊に「指揮通信システム隊」を発足させ、サイバー戦の準備を始めたが、中国などのサイバー攻撃に十分な防御ができるのかは疑問だ。
このような日本の軍事力の問題点がわかりやすく指摘されている。
最新の軍事技術
江畑さんが解説する最新の軍事技術で特筆すべきものを紹介しておく。
●飛躍的に上がった爆弾必中率
爆弾のCEP(半数必中率)はレーザー誘導と衛星誘導(GPS)の導入により飛躍的に向上している。たとえば1999年のユーゴ空爆ではGPS誘導爆弾のJDAMのCEPは実質3−4メートルになっているという。
これだけ必中率が上がると大型の爆弾を使用する必要はなく、小型の爆弾で良い。
●無人兵器の発達
ラスベガスの基地から誘導されてアフガニスタンやイラクで活躍しているプレデターは、トム・フリードマンの「フラット化する世界」でも紹介されていたが、これの改良型がリーバー、スカイ・ウォリアーだ。プレデターはヘルファイアーミサイルを搭載しており、リーバー、スカイ・ウォリアーは大型化され、ミサイルと爆弾まで搭載できる。

プレデター
出展:Wikipedia

リーパー(死に神の意味)
出展:Wikipedia
短距離空対地ミサイルの代表がヘルファイアーで、誘導装置も初期のレーザー誘導型から、ミサイル先端部分の誘導装置を交換すれば赤外線誘導型、ミリ波レーダーを使った画像認識誘導型にもできる。

ヘルファイアーミサイル
出展: Wikipedia
ヘルファイアーはイギリスで改良され、プリムストーンミサイルになった。射程が7キロから12キロに伸び、弾頭はタンデム型(2段型)で、爆発反応装甲(ERA)に対する破壊力が増大している。次の写真の戦車に煉瓦のように積まれているものがERAだ。
先端の弾頭で戦車のERAを爆発させ、防御能力を減衰させてから2段目の弾頭ば戦車の装甲を貫通して爆発するのだ。

爆発反応装甲(ERA)
出展: Wikipedia
ブリムストーンミサイルは目標の自動発見、捕捉、攻撃能力を持つので、ファイア・アンド・フォゲットの攻撃が可能で、敵のフレア(赤外線妨害弾)やチャフ(レーダー妨害材)がある環境でも的確に目標を捉え、攻撃できる能力が増している。

ブリムストーンミサイル
出展: Wikipedia
複数の目標にも1発ずつ個別に攻撃できるような誘導装置のアルゴリズムが開発され、一つの目標に複数のミサイルが命中するという無駄がなくなった。同志討ち防止や、家のような動かない目標は攻撃しないとか、水面上の船のような大きい目標のみ狙うとかといった設定もできる。
このような自律誘導型のミサイルを多数発射されると、地上部隊はよほど遠方から攻撃機を察知しないと、一方的にやられるままになるおそれがある。
●低コストで戦力アップーロケット弾のミサイル化
第2次世界大戦から使われてきたロケット弾も弾頭部にフィン付きのレーザー誘導装置やGSP誘導装置を取り付けると安価な精密誘導型ロケット弾になる。
自衛隊も持っているMLRS(多連装ロケット弾システム)の先端の弾頭を取り替えるだけで、小型精密ミサイルになり、射程が70キロと長いので”70キロ狙撃銃”に変身できるのだ。

ハイドラ・ロケット弾
出展: Wikipedia
このように手持ちのロケット弾を精密ミサイルに安価に転換する武器が開発され、米軍が大量発注している。
●対レーダー兵器・無人兵器のない日本
日本の自衛隊ではARM(対レーダー攻撃ミサイル)ももっておらず、敵のレーダーを攻撃する兵器を持っていない。これでは危なくて航空機は戦場には近づけない。
これを見ても自衛隊は戦闘機や戦車、ミサイルなどの正面装備の調達には積極的だが、本当に有効な武器の調達には積極的でないと言わざるを得ない。
プレデターなどの無人兵器を展開するには、米国の様な陸軍・海軍・空軍が一体となった統合防御システムを構築する必要があり、これには多額の費用がかかることは間違いない。
しかし米国のソフトをライセンス導入するにしても、これらは日本企業で構築可能であり、今のような不況時にはF−22などに一機数百億円使うよりは、無人機による偵察・防衛システムを構築する方が景気対策にもなり、コスト的にも実効性の高い防御システムではないかと思う。
遠隔操作で操縦する操縦士の育成も必要だが、無人機の操縦士はジェットパイロットの様に身体も頑強である必要はないので、育成のコストも全然違うと思う。(もっとも無人機のパイロットは長時間勤務でメンタル面では結構つらいらしい)
●サイバー戦争も現実化
1999年のユーゴ空爆では、実際には存在しないNATO軍機が到来するような偽の情報を米空軍はユーゴの防空システムに送り込み、別の方向から航空部隊を進入させたという。
この種のサイバー攻撃は、2007年のイスラエル軍がシリアの北朝鮮型黒鉛原子炉を爆撃する作戦でも、シリアの防空システムを無力化する手段の一つとして利用されたという。
2007年4月にはエストニアがサイバー攻撃にさらされ、約3週間政府機能や、銀行、携帯電話などのインフラが停止した。エストニアはE-stoninaと名乗るほど、国家としてIT化を進め、電子政府化でペーパーレスになっており、国政選挙にもネット投票が導入されているほど先進的だが、そのネットワークの脆弱部分が攻撃されてしまったという。
最新の軍事技術が写真入りで紹介されており、軍事予算が削減されている環境下で、各国とも低コストで有効な軍事力を備えるため、開発にしのぎを削っていることがよくわかる。
日本の自衛隊も安価で実効性の高い軍備を保有する必要があるのではないか。
日本の軍事力について考えさせられる本である。是非一度手にとってページをめくってみることをおすすめする。
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