2009年03月29日

脳と仮想 茂木健一郎さんの”代表作” 不思議な本だ

脳と仮想 (新潮文庫)脳と仮想 (新潮文庫)
著者:茂木 健一郎
販売元:新潮社
発売日:2007-03
おすすめ度:4.0
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売れっ子脳科学者茂木健一郎さんが自身の代表作と語る本。2004年の発刊だ。

「脳を活かす仕事術」に紹介されていたので読んでみた。

哲学書の雰囲気を持つ本で、読んでいるとインスピレーションがわいてくる不思議な本だ。

筆者が茂木さんが出演するテレビ番組を見たのは、NHKのプロフェッショナル仕事の流儀と、日テレの”世界一受けたい授業”だったと思うが、そのときはたしか”ノーベル賞に一番近い脳科学者”という紹介文句だった。

その紹介が正しいのかどうかわからないが、この本は茂木さんの”代表作”といっても、脳科学書ではない。

普通、ビジネス本を読む時には、著者の意見に同感できるか、新しい知識を得られないと良い本とは思わない。

しかし、この本はそのどちらでもない。しいて言えば読者を仮想に誘って(いざなって)くれる本である。

その意味で文学書に近い。

本の帯に”島田雅彦氏、絶賛「文学的、あまりに文学的な脳科学者!彼に倣い、自分の脳を仮想で満たせば、退屈死しなくて済む。ありがたい。」という推薦の言葉が書いてあるが、まさにこの本の本質を衝いていると思う。

茂木さんの”脳を活かす”シリーズでは、目次が大変充実していて、目次だけをたどっても、大体本の内容が推測できるほどだが、この本の目次はわずかに次の通りだ。

序章 サンタクロースは存在するか

第1章 小林秀雄と心脳問題

第2章 仮想の切実さ

第3章 生きること、仮想すること

第4章 安全基地としての現実

第5章 新たな仮想の世界を探求すること

第6章 他者という仮想

第7章 思い出せない記憶

第8章 仮想の系譜

第9章 魂の問題


これでは目次を見ても何のことか、内容がわからないと思う。


筆者は茂木さんの本の愛読者だが、茂木さんの最大の問題点はテーマとしている”クオリア”という言葉を、しろうとが理解できるレベルまで説明しきれていないことだと思う。

たぶん茂木さんは”クオリア”という言葉が日常化するように、意識して繰り返し使っているのだと思うが、この本を読んでも、いまだに筆者は”クオリア”というものをちゃんと理解できたかどうか自信がない。

”人間の経験のうち、計量できないものを”クオリア”(感覚質)と呼ぶ”、”数量化できない微妙な物質の質感”

…よくわからない。

”赤い色の感覚、水の冷たさの感じ、そこはかとない不安。たおやかな予感。私たちの心の中には、数量化することのできない、微妙で切実なクオリアが満ちている。私たちの経験が様々なクオリアにみちたものとしてあるということは、この世界に関するもっとも明白な事実である”

…さらにわからなくなる。

”感覚質”というのが適切な訳なのかわからないが、こちらの方がまだイメージがわくような気がする。


”クオリア”の理解はあまり進まなかったが、仮想にいざなってくれるという意味で楽しめる本だ。



この本で取り上げられているテーマ

この本では次のようなテーマが取り上げられている。

・サンタクロースは存在するか?

・死んだ人が蛍になって戻ってくる。

・小林秀雄の講演「信ずることと考えること」

・夏目漱石の「三四郎」に出てくる広田先生の”日本より脳の中の方が広い”発言

・ワグナーの「ローエングリン」、「ニーベルングの指環」、「トリスタンとイゾル
デ」などの楽劇

・夏目漱石の「それから」の最後の代助が”門野さん、僕はちょっと職業を探して来る”と言って出て、世の中が真赤になって回転する情景。

・芸術作品による心の傷

・柳田国男の自伝に出てくる「ツバイ・キンダー・システム」(どの家も男女一人ずつの子供しかいない)の深い意味(飢餓予防のための間引き?)

・漱石が好んだという「父母未生以前の本来の面目は何か」という禅宗の公案(「門」で宗助が鎌倉の禅寺に修行に入ったときに投げかけられる公案)

門 (新潮文庫)門 (新潮文庫)
著者:夏目 漱石
販売元:新潮社
発売日:1948-11
おすすめ度:4.0
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・言葉を使うということ自体が、過去の膨大な人類の体験の総体に思いをはせる行為である

・脱出マジックのイリュージョン

・デカルトの”われ思う。ゆえにわれあり”という真理。

・小津安二郎の「東京物語」

・アポロ11号のアームストロング船長の月面散歩


茂木さんが繰り返し見る夢

茂木さんが子供の頃から繰り返し見る夢があるという。

”私は、大地に立ち、上に広がる星空を見上げている。星空は普通より遙かに大きい星がきらめいて、流れと渦や、歯車もある。そんな中を巨大な汽車が銀河の横を走っていく。その全てが、心の中でものすごいリアリティで迫ってきて、私はその夢を見るといつも「うわ−っ」と叫びたくなる。”(筆者編集。原文は続きを読むに掲載)。

この文を読んでピーンと来た。実は筆者は小学校低学年まで「夜恐症」だったことを思い出した。

小学校高学年になると直ったが、寝ていると時々、視界全部に水玉模様の様なものが現れ、水玉がどんどん大きくなって真っ暗闇になり何にも見えなくなり、思わず泣き叫んでしまうということが時々あった。

気がついてみると、まわりに人が集まって、大人に抱かれていた。

そんな完全に忘れていた幼い頃の記憶までよみがえってきた。

脳科学書でも、哲学書でも、文学書でもないが、何かを感じさせる本である。

茂木さんが自分の”代表作”と呼ぶのもわかるような気がする。


是非一度読んで、不思議な読後感を味わってみることをおすすめする。


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”子供の頃から繰り返し見る夢がある。

私は、大地に立ち、上に広がる星空を見上げている。
その星空は、現実の星空ではない。現実の星空よりも、はるかに多くの星たちが輝いている。

しかも、その一つ一つが大きい。黒々としたコーヒーに白いミルクをこぼしたように、美しいコントラストの流れと渦が生じている場所もある。


不思議なことに、巨大な歯車がいくつか集まって、ぐるぐると回っているところもある。

現実の天の川よりも遙かに白い、目に染み入るような銀河が、まるで生きているかのように流れている場所もある。

そのような光景の中を、巨大な汽車が走っていく。汽車は透明なようで、不透明なようで、歯車の間を、白い渦の間を、銀河の横を走っていく。

その全てが、私の心の中でものすごいリアリティで迫ってきて、私はその夢を見るといつも「うわ−っ」と叫びたくなる”という。

Posted by yaori at 00:00│Comments(0)TrackBack(0) 趣味・生活に役立つ情報 | 茂木健一郎

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