2009年04月12日

さらばアメリカ 大前研一氏のMixed feeling

さらばアメリカさらばアメリカ
著者:大前 研一
販売元:小学館
発売日:2009-02-07
おすすめ度:4.0
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ブッシュ前政権末期の秩序のない経済運営やモラルハザードを様々な角度で批判しながらも、ケネディ・クリントンをしのぐ演説のうまいバラク・オバマ大統領による「第2のアポロ計画」に期待する大前研一氏の複雑な心境(Mixed feeling)を書いた本。


四権分立のブッシュ政権末期

大前さんはブッシュ政権末期のポールソン財務長官時代のアメリカは、建国以来例のない「四権分立」となっていたと語る。

選挙で選ばれた訳でもないポールソン財務長官が、「金融安定化法」なる打ち出の小槌を編み出し、不良債権買い取りを目的としていた7,000億ドルもの資金を金融機関への資本注入に使った。

さらに個人的な好き嫌いで、ベア・スターンズを救済しながらも、長年のライバルのリーマンを破綻させ、以前の上司のルービン元財務長官のいるシティを助けるという超法規的措置を議会の承認もなく決めてしまった。

オバマ政権の経済運営にも大前さんの見方は悲観的だという。

ガイトナー新財務長官は、ポールソン前財務長官、バーナンキFRB議長とともに”経済失敗三銃士”と呼ばれていた人物で、このうち二人が経済運営の主役として残っている。

ガイトナー財務長官は1988年に日本の米国大使館に駐在していたことから「日本の轍は踏まない」が口癖だが、同じ穴のムジナが後釜にすわるという情実以外の何物でもない人事を見る限り、新政権の経済政策には大きな期待は持てないと大前さんは手厳しい。

シティの救済は損失の九割を国民負担というやり方だし、GMとフォードはダブルノックアウトになる恐れがあり、クレジットカード社会崩壊の危険もある。

さらに第二のサブプライム問題となりうるFHA(米連邦住宅局)保証ローンの焦げ付きという危険性も浮上しており、モラルハザードのオンパレードで、アメリカの”失われた10年”の始まりだと大前さんは語る。


寛容なアメリカは過去のこと

第二次世界大戦後のアメリカは正義と自由の味方の「善玉」で、外国人に寛容な国だった。

ところが9.11以降”ホームランド・セキュリティ”という名の下に石油と防衛産業に強いテキサスマフィアの意向で国が動いた。

彼らの利権を守るため産油国防衛には強い関心を示すが、日本や韓国・台湾の防衛の優先順位は低下しており、米軍の規模も除々に縮小されている。

アメリカジャーナリズムも9.11以来政治的に政府寄りに変質し、もはや世界の支持を失っているという。


それでもアメリカに期待する

アメリカの恐慌回避策として、大前さんはアメリカの大学の競争力に期待している。

大前さんはMITで原子力の研究で博士号を取っており、昔の寛大で親切なアメリカに世話になったという思いがあるという。

実際アメリカの高等教育の競争力は依然として世界トップで、大学の評価では世界のトップ100のうち60をアメリカの大学が占める。

アメリカの競争力の源泉は大学で、世界中から優れた人材を集め、かつ卒業後アメリカで雇用するという他の国にはない産学共同体制ができている。

もう一つの期待はアメリカのIT産業の競争力で、特にGoogleとGoogleが買収したYouTubeに注目しているという。

Googleは楽天などの出店料を取る”間接出会い系”ビジネスモデルでなく、出店料のない”直接出会い系”なのでありとあらゆる分野の買い手と売り手を結びつける可能性を持っているという。

そしてGoogleの検索とYouTubeの映像を組み合わせれば”サイバーコンシェルジュ”として”右脳型賞品”まで売れる様々なビジネスが展開できると予測している。

オバマ政権が打ち出すべき指標として次を上げている。

1.すべてのアメリカ人よ、今の2倍働け  
  オバマ政権は貧者優遇を実現するだろうが、働かざる者食うべからずの大原則を確認しないと、単に人気取りに終わってしまう。

2.「地球破壊者との戦争」こそ”新たな冷戦”  
  すでに”グリーン・ニューディール政策”などをぶち上げているが、ケネディ大統領のアポロ計画のように環境問題との戦いを本格的に推し進めていけば地球規模の連帯ともつながり、世界と共存できるアメリカへ転換できるだろう。

オバマ大統領には期待も込めて次を復活の条件としてアドバイスしたいと語る。

1.世界に対して謝る ー イラク侵攻と金融危機を謝る

2.世界の一員となる ー 国連に代わる新世界構想が必要

3.戦争と決別する ー アメリカ版憲法第九条を提唱する


日本の選択肢:「属国か独立か」

大前さんは日本の選択肢は2つしかないと語る。それはアメリカの属国になるかならないかだけだと。それ以外のオプションは次の三つだ。

1.中国との関係強化

2.EUとの協調

3.ASEANとの協調

アメリカは、これからEUとの「アトランティックの戦い」(ドルとユーロの世界の基準通貨をめぐっての戦い)を続けなければ、ドルを基準通貨としてきた今までの経済の基盤が崩れてしまう。だからEUとは基準通貨を巡って戦わなければならない。

その戦いにアメリカは疲れてくるだろうから、日本はEU,ASEAN,中国の順で関係を強化し10〜20年の長期戦略を進めていけば、20年後にはアメリカとの関係もイコールパートナーに近づいていくだろうと。

これが大前さんの日本「独立」のシナリオである。

本書のタイトルは「さらばアメリカ」だが、英語のサブタイトルは"So long America! until you come back to yourself"となっている。

オバマのアメリカにケネディのアポロ計画なみのリーダーシップを期待しながらも、ビッグ3救済や金融、雇用の問題に足を取られると地球規模の問題に着手すらできないことになる。

いつもの大前さんの鋭い切り口がない様な印象があるので、その意味でこのあらすじのタイトルは「大前研一氏のMixed feeling」としたが、複雑な思いを込めてのオバマ大統領への期待は誰しも持っているところだろう。

筆者もこのブログでオバマ氏の著作を紹介し、オバマ氏には大統領になる前から大きな期待を持っている。

是非ケネディの様な暗殺という悲劇が起こらずに、大きな仕事をやり遂げてほしいものだ。



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Posted by yaori at 02:19│Comments(0)TrackBack(0) バラク・オバマ | 大前研一

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